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  • 抄 録 集

  • 1.卵円孔早期閉鎖が原因と考えられた重度肺高血症の 2 例

    佐藤早苗、田中靖彦、中野玲二、長澤真由美、古田千佐子、伴由布子、中澤祐介、野上勝司、浅沼賀洋 佐藤慶介、後藤孝匡、広瀬 彬 静岡県立こども病院 新生児科 【はじめに】

    卵円孔早期閉鎖(PCFO)は多様な病態を呈することで知られる。今回重度肺高血圧の原因が PCFO と推測された

    症例を経験したので報告する。

    【症例 1】

    在胎 41 週 3 日、胎児心拍低下、回旋異常のため緊急帝王切開で出生した。体重 3092g、Apgar Score8 点(8 点値)、

    9点(5分値)。出生後チアノーゼと哺乳不良があり、酸素投与されたが改善なく日齢2に当院へ搬送された。入院時、

    心エコーにて右房および右室の著明な拡大と左房拡大、左室拡張障害、左室軽度低形成を認めた。卵円孔は本

    来の二次孔前方に 0.9mm と極わずかに開存していた。日齢 3 に SpO2 上下肢差が出現し、動脈管での右左短絡

    が増加、重度肺高血圧(PH)と判断しNOを投与した。その後SpO2上下肢差はなくなったが、左室拡張障害が進行

    したため人工呼吸器管理、鎮静、ドブタミン、フロセミド、酸素投与を開始した。心機能は徐々に改善し、日齢 8 に

    NOを、日齢9にドブタミンを漸減中止した。PHも改善傾向を認め日齢26に酸素を、日齢28にフロセミドを中止し、

    日齢 43 に退院した。

    【症例 2】

    在胎 37 週 5 日、体重 2550g、Apgar Score6 点(8 点値)、6 点(5 分値)、双胎のため近医にて予定帝王切開で出生。

    出生後心エコーにて卵円孔閉鎖、右心系の著明な拡大、両方向性短絡の動脈管、三尖弁逆流が認められた。人

    工呼吸器管理、鎮静にて治療開始されたが、生後 8 時間で動脈管が閉鎖し、血圧低下、心機能低下が見られオ

    ルプリノン、ドパミン、ドブタミン投与され当院へ搬送された。入院後は両心室の収縮不全、PH に対しオルプリノン、

    ドブタミン、NO 投与継続した。日齢 3 に NO 中止、日齢 9 にオルプリノン、日齢 10 にドブタミン中止した。心機能増

    悪なく日齢 18 に退院した。

    【考察】

    両症例とも PCFO による PH が疑われたが症例1では出生時の所見なくあくまで推測の域を出ない。症例 2 では

    PCFO に加え、動脈管が閉鎖したことで右心不全が進行したと考えられる。左室機能低下に関しては右室肥大に

    よる ventricular crosstalk と考える。

  • 2.急性期に右心系循環を保持し救命し得た新生児心筋梗塞の 1 例

    日根幸太郎 1) 2)、与田仁志 1)、萩原佐江子 1)、水書教雄 1)、荒井博子 1)、川瀬泰浩 1)、菅波佑介 3)、近藤 敦 3)

    1)東邦大学医療センター大森病院新生児科、2)日本大学医学部小児科学系小児科学分野 3)東京医科大学病院小児科 【緒言】

    新生児心筋梗塞は過去の報告例をみても非常に稀でありかつ死亡例も多く、救命できた児では ECMO など体外

    循環が必要であった症例も認める。原因としては、母体側要因として血栓閉塞性疾患の合併、胎児側要因として

    胎児仮死、新生児仮死などの低酸素による虚血、または血栓閉塞症などがある。

    【症例】

    在胎 39 週 2 日、Apgar スコア 9(1 分) 9(5 分)、3310g(AFD)で前医にて出生した男児。生後 40 分から急激な循環

    不全による重度の代謝性アシドーシスを認めたため当院に児搬送された。入院時心エコー検査では構造異常を認

    めないが、著明な左心機能不全による LOS であり、lipoPGE1 を使用して PDA を介し右心系で全身循環を保持し、

    他にも DOA, DOB, AD, NTG, PDE-3 阻害剤, hANP 静注や NO 吸入などを行い管理した。ECG では V1, V2 の

    ST 低下、V3-V6 で ST 上昇を認め、一時 wide QRS を呈した。血液検査では逸脱酵素や心筋マーカーの異常高値

    を認め心筋梗塞と診断した。治療開始後は時間をかけて徐々に LV 機能改善を認め、PDA 依存性でなくなった。

    左心機能は回復しても EF 50%程度であったため慢性心不全に対して carvedilol, digoxin の内服を開始した。日齢

    22 に超音波検査で LV 内の血栓を認めたため ASA, dipyridamole を併用し、その後血栓は退縮した。心筋梗塞の

    原因検索中であるが、明らかな原因は不明である。全身状態改善し、頭部 MRI で異常所見を認めず日齢 61 に退

    院した。

    【考察】

    新生児心筋梗塞の報告例は少なく死亡率も高い。lipoPGE1 投与で右心系で全身循環を保持することで救命し

    得た。周産期における新生児心原性ショックの原因として CHD 以外にも心筋虚血や血栓閉塞などによる心筋梗塞

    も鑑別する必要があると考えられた。

  • 3.肺高血圧改善後も両心室心筋・心内膜肥厚が遷延した胎児動脈管早期閉鎖の 1 例

    美野陽一、今本 彩、野口雄史、坂田晋史、藤本正伸、金子祥子、松下博亮、山田祐子、三浦真澄、船田裕昭

    神崎 晋

    鳥取大学医学部 周産期・小児医学分野

    母体は 21 歳、0 経妊 0 経産。妊娠中に非ステロイド抗炎症剤やプロスタグランディン阻害剤などの服薬歴はなかっ

    た。妊娠 27 週頃より切迫早産にて入院管理されていた。児は在胎 39 週 4 日、体重 2865g、Apgar Score 8 点/9

    点、経膣分娩にて出生となった。出生後より酸素投与下でも SpO2:80%と酸素化の不良を認め前医紹介となった。

    呻吟や努力呼吸などは認めず、心エコー検査では明らかな心奇形はなく、高度三尖弁逆流と推定肺動脈圧

    50mmHg の肺高血圧(PH)所見を認めたため治療目的に当院搬送入院となった。入院時心エコー検査では右心

    室心筋肥大(RVH)を伴う右心系の拡大あり、PH 所見が強いものの動脈管血流が全く認められないことより胎児動

    脈管早期閉鎖(PCDA)に伴う新生児遷延性肺高血圧症と診断した。人工呼吸管理、完全鎮静、一酸化窒素(NO)

    吸入療法を行った。PH 改善傾向に乏しく Nitroglycerin、PDE-Ⅲ阻害剤、Sildenafil を併用し、日齢 8 に NO 終了で

    きた。その後も PH 再燃なく日齢 25 に退院となった。生後1~2 ヶ月の心エコー検査では PH を認めず、rapid PH

    score は 0 点であったが late PH score は 5 点と高値を示しており、RVH は残存していた。左室は生後 1 ヶ月までは

    心内膜肥厚が強く収縮・拡張能障害を認めたため、心筋緻密化障害や心内膜線維弾性症も疑われたが、生後 2

    ヶ月以後には左室心内膜肥厚は軽減傾向となり収縮・拡張能も改善した。心内膜肥厚所見が可逆性に変化して

    いることから、左室においても PCDA による影響が考えられた。両心室の心筋・心内膜変化が生後遷延して残存し

    ており、胎内での PCDA による肺血流変化が長期に渡って

    いた可能性が考えられた。

  • 4.胎児 wide QRS 頻脈による心不全が疑われた 1例

    廣田篤史、押谷知明、釣澤智沙、竹田知洋、久枝義也、天方秀輔、中尾厚、土屋恵司

    日本赤十字社医療センター新生児科

    【症例】

    家族歴,妊娠経過に異常なし.妊娠 35 週 3 日に胎動の低下を主訴に来院.産科外来での胎児心拍数モニタリン

    グで心拍数 170bpm,基線細変動乏しく,一過性頻脈と一過性徐脈はなく,胎児頻脈と胎動減少の精査のため入

    院.入院後のモニタリングでも同様の所見が続いた.胎児エコー検査で左心収縮の低下と僧房弁逆流,三尖弁逆

    流および卵円孔の開口不良があり,M モードでは心房と心室の接合は 1:1.胎児心不全と診断し同日緊急帝王切

    開により在胎 35 週 5 日,体重 2560g,APGAR 10 (1 分) / 10 (5 分)で出生.NICU 入院時エコー検査では,左心収

    縮の低下と僧房逆流および三尖弁逆流が同様にあり,卵円孔での左右シャントを認めた.左室低形成や僧房弁形

    態異常および大動脈弓低形成の所見はなく,他心構築異常も認めなかった.入院後,循環不全は進行し容量負

    荷や循環作動薬への反応は不良.生後 14 時間後に突然心拍数が 180bpm から 150bpm へ低下した直後から循環

    動態は安定し以後は悪化する事なく退院した.後方視的にモニター心電図をみると単形性 wide QRS,RR 間隔一

    定,約 180bpm で出生時から持続しており,wide QRS 頻脈による胎児期からの心不全と考えた。

    【考案】

    胎児頻脈性不整脈では心拍数 170bpm でも心不全に陥る可能性が示唆された.胎児エコーで卵円孔狭小化所見

    があり,卵円孔狭小化から心不全に陥り頻脈性不整脈が誘発された可能性もある.しかし出生後の洞調律への回

    復直後から循環が安定したため,頻脈から左心不全に陥り左房圧が上昇し開口制限となり卵円孔狭小化所見とな

    ったと考えた.

  • 5.ニトログリセリン投与時の NIRS でみた脳血流の変化

    宮田昌史、長谷有紗、内田英利、藤野正之、帽田仁子

    藤田保健衛生大学医学部小児科

    【はじめに】

    早産児にみられる後負荷不整合による心機能障害に対して血管拡張薬が用いられている。これにより心ポンプ機

    能を改善し、脳循環障害による IVH を減らす効果が期待されている。しかし、血管拡張薬投与の脳循環への影響

    を評価した報告は少ない。

    【目的】

    ニトログリセリン(NTG)投与による脳循環動態の変化を近赤外線分光法(NIRS)で評価する。

    【方法】

    VLBWI 6 例に対して、心エコーで、ESWS(g/㎠)>45 または ESWS の上昇傾向を伴って mVcfc(circ./s)

  • 6.当院 NICU における血管拡張薬の使用経験

    増本健一、内山 温、中西秀彦、戸津五月、首里京子、今井 憲、杉田依里、大野秀子、吾郷真子、末永英世

    岡村朋香、張淑敏、楠田聡

    東京女子医科大学母子総合医療センター 新生児医学科

    【目的】

    従来、新生児領域では新生児遷延性肺高血圧(PPHN)や、新生児仮死後の心不全などに対し血管拡張薬が使

    用されてきたが、近年、早産児における出生後の後負荷不整合に対して血管拡張薬が使用されるようになり、その

    有効性が報告されている。今回、当院 NICU での急性期循環管理における血管拡張薬の使用経験について報告

    する。

    【方法】

    2010 年 1 月~2013 年 12 月に当院 NICU に入院となった新生児 1393 例中、急性期に血管拡張薬を使用した

    25 例の使用薬剤、対象疾患、合併症について検討した。

    【結果】

    使用した血管拡張薬はニトログリセリン 5 例、PDEⅢ阻害薬 23 例で、3 例は 2 剤を併用していた。血管拡張薬の対

    象疾患は、新生児仮死・PPHN4 例、双胎間輸血症候群(受血児)2 例、早産児の後負荷不整合 12 例、先天性心

    疾患 3 例、先天性完全房室ブロック 1 例、横隔膜へルニア 2 例、腹壁破裂 1 例で、このうち 6 例(横隔膜へルニア

    2 例、PPHN3 例、先天性心疾患 1 例)は NO 吸入療法を併用した。対象疾患のうち、早産児の後負荷不整合 12

    例中、脳室内出血(IVH)を 9 例(1・2度 6 例、3 度以上 3 例)、血管拡張薬使用後の血圧低下を 3 例に認め、死亡

    退院は 1 例であった。その他の対象疾患では、血管拡張薬による副作用は認めなかったが、2 例が死亡退院とな

    った(18 トリソミー1 例、横隔膜へルニア 1 例)。

    【考察】

    IVH 予防目的に、早産児の後負荷不整合に対して血管拡張薬を使用したが、効果は得られなかった。当院では

    人工呼吸管理が必要な全ての早産児に HFO による呼吸管理を導入しているが、そのメカニズムから CMV と比較

    して高い平均気道内圧の設定が必要となるため、血管拡張薬を使用した場合に循環動態に与える影響が大きくな

    ると推察された。HFO 使用中の早産児に血管拡張薬を使用する際には、循環動態に与える影響を考慮し適応を

    決定する必要がある。

  • 7.超低出生体重児に対する血管拡張薬の基礎研究と臨床研究を振り返り

    豊島勝昭 1)4)、齋藤朋子 2)、滝元 良 1)、猪谷泰史 1)、門間和夫 4)

    1)神奈川県立こども医療センター新生児科、2)新潟大学医歯学総合病院小児科、3)東北大学病院産婦人科

    4)東京女子医科大学循環器小児科

    【背景】

    心エコーを基に血管拡張薬などの減負荷療法を併用した循環管理が超低出生体重児(ELBW)の予後改善につな

    がる可能性を報告した (JFMA 2013)。この報告の血管拡張薬に関する臨床データや基礎研究の知見を報告す

    る。

    【基礎研究における動脈管拡作用】

    胎仔・新生仔ラット全身急速法を用いて作用機序の異なる血管拡張薬について動脈管(DA)拡張作用について

    検討してきた。様々な血管拡張薬に DA 拡張作用があり、在胎期間が短いほどにより少量で DA 拡張効果があるこ

    とを証明した。早産児ほどに低い腎機能やインドメタシンの副作用のために血中濃度が高まる可能性があり、小児

    期や成人期と異なる至適投与量があると考える。

    【臨床における ELBW への減負荷療法】

    最も多く使用したのはニトログリセリン(NTG)であり、2000 年から 2014 年5月に入院した ELBW496 名中の 147 名

    (29.6%)に使用した。

    2010 年出生の ELBW53 名の検討では NTG は平均生後 35 時間,収縮期血圧 52±6.9mmHg、収縮期末期左室

    壁応力(ESWS)47±12.4g/cm2 で開始し、最大投与量は 1.1μg/kg/分(0.3-4)だった。ESWS は NTG 投与後 3 時

    間で 33.2±11.2g/cm2 と低下し、血圧上昇による心ポンプ不全に有効性を認めた。NTG 群(20 名)と NTG 未投与

    群(33名)の比較では重症IVH:5%、0%、消化管穿孔:10%,3%、晩期循環不全:5%、6%、PVL:0%、3%、未熟児

    網膜症:10%、23%、DA 結紮術:10%、32%であった。

    在胎 23 週(36 名)に限定して長期予後の検討をした。 NTG 投与群(31%)の修正 1.5、歴 3、6 歳の発達(知能)指

    数は 68±17、77±16、80±20,NTG 未投与群(69%)で 75±20、77±24、80±9 であった。

    【結論】早産児における血管拡張薬は、動脈管開存症への影響が少なく心負荷軽減を発揮する至適投与量の設

    定が大切であるが早産児の合併症予防につながる可能性がある。適応と評価方法、至適な投与薬と投与量の設

    定などの検討などを引き続き多施設で考えていけることを期待する。

  • 8.新生児における血管拡張剤

    田中靖彦

    静岡県立こども病院総合周産期母子医療センター 新生児科

    血管拡張剤は動静脈の双方に作用し前負荷と後負荷を軽減する。成人および小児循環器領域では心不全治療

    として重要な位置を占めてきた。早産児においては、豊島らが Stress-Velocity 関係に基づいた循環管理を推奨し、

    血管拡張剤がひろく使用されるようになった。血管拡張剤としては亜硝酸剤、PDE-III 阻害剤、カルペリチドなどが

    NICU で使用されているが、それぞれの特徴を認識したうえでの使い分けが必要である。さらにカテコラミンも強心

    作用の他に血管に対する拡張、収縮作用があり、「昇圧剤」ではなく「循環作動薬」としてとらえることが望ましい。し

    かし新生児におけるこれらの薬剤の RCT はなく、本シンポジウムにおいて各施設の使用経験に基づいた討論を行

    う。基調講演では、NICU 循環管理における血管拡張剤の位置づけ、それぞれの薬剤の特徴、当院での使用の現

    状について述べる。

  • 9.電気的心臓計測法を用いた新生児の循環評価

    大橋 敦 1,2)、峰 研治 1)、中島純一 1)、平林雅人 1)、神田枝里子 1)、山内壮作 1)、辻章志 1)、金子一成 1,2)

    関西医科大学小児科学講座 1)、同地域周産期医療人育成講座 2)

    はじめに

    新生児の心機能評価には心臓超音波検査(UCG)法が最もよく行われるが、近年、大動脈血中の電気抵抗の変

    化率を測定することで心機能を評価できる電気的心臓計測(EC)法が開発された。そこで、新生児を対象とした EC

    法による心機能評価の有用性について検討した。

    目的

    EC 法を用いた新生児の循環評価の有用性を証明する。

    対象

    2013 年 7 月〜2014 年 2 月に関西医科大学附属枚方病院 NICU に入院となった先天性心疾患(未熟児動脈管

    開存を除く)を有しない新生児。

    方法

    1.心拍出量(CO)と 1 回拍出量(SV)を EC 法(Aesculon®, Osypka medical)と UCG 法(Xario™, 東芝メディカル

    システムズ)で同時に測定し、相関性、測定値のばらつき(CV)、手法間比較(Bland-Altman 法)について検

    討する。

    2.従来報告されている基準値と EC 法の測定値と比較する。

    結果

    1.対象は 13 例(男児 7 例、女児 6 例)。在胎週数 35.0 週(32.2-37.0 週)、出生体重 2,026g (1,748-2,676g)

    (中央値と四分位範囲)。

    2.CO、SV ともに EC 法と UCG 法の相関性は良好であった(CO: y=0.89x+0.06 r2=0.72 p

  • 10.双胎間輸血症候群の診断基準を満たさない大児における急性期循環障害の予測

    小谷 牧1)、田村 誠1)、湯口沙矢香1)、砂田真理子1)、林 藍1)、古川奈央子1)、木下大介1)、短田浩一1)、

    木原美奈子1)、西村 陽1)、豊島勝昭2)

    1)京都第一赤十字病院 新生児科、2)神奈川県立こども医療センター 新生児科

    【背景】

    双胎間輸血症候群(TTTS)は、一般的に羊水量の差を指標に診断されるが、この診断基準を満たさない多胎大児

    にも TTTS 受血児に類似した循環障害を呈する症例を経験する。循環障害発症例では予後不良の症例もあり、生

    後の診断、新生児管理が重要である。

    【目的】

    周産期情報から、大児の TTTS 様循環障害(品胎 FFTS 含む)を予測できる因子を探る。

    【方法】

    2010 年から 2014 年に出生した MD 双胎、MT・DT 品胎のうち、大児の TTTS 様循環障害を発症した 10 組につい

    て、羊水量差(最大羊水深度 MVP の差)、体重差(discordant rate:DR)、大児の羊水量(MVP)、胎児三徴(CTAR

    ≧35%、房室弁逆流、心筋肥厚)、大児の臍帯血ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値を、診療録から後方視的に検討

    した。各項目について、臍帯血 BNP を測定しえた MD 双胎の循環障害非発症例 14 組と比較した。循環障害とは、

    生後血圧、尿量異常を認め、容量注入療法を要したものとした。

    【結果】

    循環障害を発症した 10 組は在胎週数 32.1±2.3 週、体重 1798±459g。10 組中 4 組(大児羊水過多 2 組、腹水 1

    組、胸水1組)は出生前にTTTSが疑われていたが、診断基準は満たさなかった。発症10組、非発症14組のうち、

    大児の MVP8 ㎝以上は、

    発症例で 20%、非発症例で 0%。MVP 差 2 ㎝以上は 50%、14%。DR20%以上は 70%、21%。胎児三徴の 2 項目以上は

    20%、21%。発症例 2 組は体重差、羊水量差すべて認めなかった。大児臍帯血 BNP は、発症例 122~5443pg/ml(中

    央値 920)、非発症例 10~204 pg/ml(中央値 84)であった。

    【考察】

    出生前に TTTS 関連疾患が疑われていない場合、生後循環障害に対する治療の開始が遅れる可能性がある。臍

    帯血 BNP 高値例では生後循環障害を発症する可能性が高く、TTTS 様循環障害発症予測として、臍帯血 BNP 測

    定は有用と考えられる。

  • 11.乳幼児・小児期の BNP、NT-pro BNP 連関からみた、新生児期 BNP、NT-pro BNP 評価への展望

    藤沼澄江、増谷 聡、栗嶋クララ、先崎秀明

    埼玉医科大学総合医療センター新生児科、小児循環器科

    【背景】ナトリウム利尿ペプチド(BNP、NT-pro BNP(NT))は採血で簡単に評価できる心不全指標である。採血量も

    少量となり、新生児期の測定頻度も増している。しかし両者が実際に何を意味するのか、どのように使いわけ、評価

    を行えばよいかは明確でない。乳児期以降の心臓カテーテル症例を対象に、拡張指標・腎機能を考慮に入れて

    両者の関係(NT/BNP)を検討し、新生児期評価について考察する。

    【方法】対象は 433 名(5.3±4.9 years)の心臓カテーテル症例で、BNP、NT、CysC、PCWP を同時に評価した症例

    で、log NT/BNP と他の因子の関係を、単変量・多変量で解析した。

    【結果】log NT/BNP は、PCWP (r = −0.12)、log CysC (r = 0.57) 、log BSA(r = -0.79)と相関した。多変量解析でも、

    PCWP (・・= −0.10), log CysC (・・= 0.22),log BSA (・・= −0.66)は log NT/BNP の独立した決定因子であった(all

    P

  • 12.Individualized treatment with cyclooxygenase inhibitors using serial B-type natriuretic

    peptide measurement for symptomatic patent ductus arteriosus in preterm infants

    Byung Min Choi, MD, PhD

    Department of Pediatrics, College of Medicine, Korea University, Seoul

    Abstract:

    Many aspects of the management of patent ductus arteriosus (PDA) have been and are continuously debated, such

    as the best drug, dose and timing of pharmacological approach with cyclooxygenase inhibitors. Three doses of

    ibuprofen or indomethacin traditionally have been given with regular interval. But the ductal closure were observed

    by the time the second dose is given, so some investigators have used echocardiographic evaluation to reduce the

    drug exposure in preterm infants with PDA.

    Plasma B-type natriuretic peptide (BNP) is emerging as a marker of hemodynamically significant PDA with good

    sensitivity and specificity and has been found to decrease in response to PDA closure. Therefore, we have

    considered that BNP levels can be used as a guide for the treatment of PDA and BNP guided therapy can reduce

    the number of cyclooxygenase inhibitors doses.

    Our study was performed to determine the usefulness of individualized medical treatment, using serial measurement

    of BNP, to limit unnecessary drug exposure without increasing the incidences of PDA reopening and short-term

    morbidity related symptomatic PDA.

    This session will attempt to review the current available, often conflicting data and to present our recent data on

    these issues in preterm infants.

  • 13.出生時に高 IL-6 血症を呈する早産児の循環管理からみた臨床像

    中尾 厚、平澤絢香、釣澤智沙、堤範音、一木邦彦、竹田知洋、久枝義也、廣田篤史、土屋恵司、川上 義

    日本赤十字社医療センター 新生児科

    FIRS(fetal inflammatory response syndrome)は胎児内での高サイトカイン血症を伴う全身性炎症が、臓器を傷害

    し新生児期の罹病を増加させるとする概念である。

    IL-6 は代表的な炎症性サイトカインの1つである。高 IL-6 血症は新生児領域において敗血症等の感染症や、慢

    性肺疾患等の呼吸器系合併症、脳室周囲白質軟化症等の神経系合併症さらには予後データとの関連を述べた

    報告が数多くある一方で、循環状態との関連性を主軸に置いた報告はきわめて少ない。

    当科では NICU に入院した児は原則全例で臍帯血 IL-6 を測定している。今回我々は、臍帯血 IL-6 が高値を呈し

    た児(特に超早産児)における①循環不全を中心とした早期新生児期の臨床像、②循環不全からの脱却に要した

    治療、③高 IL-6 血症を呈さなかった対照群との差異の有無、を検討したため報告する。ステロイドの使用など個々

    の症例に合わせたテーラーメード型医療の一環となれば幸いである。

  • 14.当院における FIRS に対する取り組み

    池上 等

    高槻病院 新生児科

    【緒言】

    FIRS(Fetal Inflammatory Response Syndrome)とは、胎児が何らか原因で炎症に陥り、様々な臓器障害を呈するこ

    とによって、生命発達予後に悪影響を与える状態である。FIRS の主因は子宮内感染と考えられており、多くは妊娠

    の若い週数で発症する。胎児が FIRS に至った場合には、妊娠の termination が必要なことから、FIRS の定義の誤

    りは、人為的な早産児を作成することに繋がる可能性がある。

    【FIRS の循環への影響】

    胎児心機能への影響が報告されており、左心拡張能低下や cardiac output の低下が示唆されている。また出生後

    の低血圧やそれによる大脳白質障害への関連も報告されている。

    【当院での取り組み】

    1.FIRS の現代の医療水準に見合った定義を作成する。

    現在まで臍帯血 IL-6 を測定した ELBW200 名近くの予後に基づいて、従来の基準ではなく、IL-6>55 pg/dL をも

    って FIRS と定義している。

    2.出生前に FIRS を予測し、可能な限り適切な娩出時期を模索する。

    出生前の母体臨床情報から FIRS score、CAM score を作成。それらの score を用いて娩出時期決定の一助にし

    ている。

    3.出生後 FIRS であったと考えられる ELBW に対しては、r-TM の投与を検討する。また出生後の循環の不安定さ

    に対して、早期の低血圧に対しては HC、高血圧に対しては血管拡張剤を適切に使用する。

  • 15.未熟児 PDA 外科的加療後に横隔膜拳上を呈した ELBW の 4 例

    川戸 仁、松本 弘

    総合病院 国保旭中央病院 新生児科

    【はじめに】

    未熟児 PDA に対する外科的加療後に時々術後合併症と思われる症状に遭遇する。当科は他施設に外科的治療

    を依頼しているが、2007 年 1 月より 2014 年 4 月までの 7 年 4 か月で外科的加療を行った 20 例のうち、術後合併

    症と思われる症例をのべ 7 例(横隔神経麻痺 4 例、喉頭狭窄 2 例、心嚢液貯留 1 例)経験した。今回は最も多かっ

    た横隔膜拳上を呈した 4 例を提示する。

    【症例】

    症例 1;在胎 23 週 3 日、642g。インドメサシン 3 クール投与後日齢 23 に ligation。

    術直後より左横隔膜拳上を呈し、自然経過で改善を認め日齢 104(38 週 2 日)で

    抜管するも吸気性喘鳴強く日齢 108 に再挿管。気管支ファイバーにて左声帯麻痺+

    下咽頭軟化症の診断。エピネフリン、デキサメサゾン定時吸入施行しながら日齢

    209(53 週 2 日)抜管。吸気性喘鳴は残存するも徐々に症状改善し日齢 273

    (62 週)退院。

    症例 2;在胎 23 週 6 日、628g。インドメサシン 2 クール投与、MAP 輸血後

    日齢17にligation。術直後より左横隔膜拳上を呈し、透視下で動きが改善していること確認し日齢78(35週)抜管。

    日齢 94DPAP 中止、日齢 116 酸素中止。

    日齢 172(47 週)退院。

    症例 3;在胎 25 週 3 日、704g。インドメサシン 3 クール投与後日齢 24 に ligation。

    術直後より左横隔膜拳上を呈し、その後透視下で改善していること確認し

    日齢 100(39 週 5 日)抜管。在宅酸素にて日齢 218(56 週)退院。

    症例4;在胎 22 週 3 日、611g。インドメサシン 2 クール投与後日齢 7 に ligation。

    術直後より左横隔膜拳上を呈し、自然経過で改善を認め日齢 107(37 週 5 日)

    抜管。日齢 118DPAP 中止、日齢 145 酸素中止。日齢 164(46 週)退院。

    【まとめ】

    結果的に 4 例とも予定日に向けて自然経過での改善を認め、その後の呼吸状態へは寄与しなかった。超早産児

    に対するインドメサシン予防投与開始後、外科的加療対象例は年々減少してきているが、術後合併症の心臓外科

    医へのフィードバックを含め、起きうる可能性についての家族への情報提供は今後も必要であると考えらえた。

  • 16.循環不全、難治性浮腫に対する治療に苦慮し生後 1 カ月以内で死亡した超早産児の 2 例

    朝田裕貴、田中えみ、大久保沙紀、松村寿子、原田明佳、大西 聡、田中裕子、市場博幸

    大阪市立総合医療センター 新生児科

    【緒言】

    超早産児は未熟性や併発疾患により容易に循環不全に陥る。循環不全に対しては循環作動薬(Cardiac Agonists,

    CA)、容量負荷やステロイド(Hydrocortison, HDC)などが用いられるが反応性や適切な投与について言及した文献

    は少ない。今回我々は出生後数日から生じた循環不全に対し、頻回の HDC 投与や容量負荷にも拘わらず血管透

    過性の亢進が軽快せず死亡に至った超早産児の 2 例を経験したので報告する。

    【症例 1】

    在胎週数 22 週 3 日、出生体重 526g、Apgar スコア 4/6。NICU 入室後より CA を使用しフェンタニルによる鎮静も

    開始。インドメタシン 0.1mg/kg の投与を行い動脈管は閉鎖。生後数日は平均血圧 25mmHg 前後で管理を続けた。

    呼吸障害の進行により日齢 8 から NO 10ppm で開始した。日齢 13 に血圧低下と尿量減少を認め容量負荷、HDC

    増量(2mg/kg/day に 8mg/kg 追加)、CA の増量を行い元の血圧に一旦は改善したもののその後から徐々に血管透

    過性が亢進し、全身の浮腫が増悪。最終 6mg/kg/day まで増量した HDC に対する反応性も乏しくなった。日齢 21

    からフロセミド持続投与、日齢 23 からベタメタゾン 0.5mg/kg 投与、カルペリチド 0.01μg/kg/min、日齢 24 からグリ

    セオール 5ml×3 回の投与を行ったが尿量の改善なく日齢 24 から無尿。日齢 27 に永眠。

    【症例 2】

    在胎週数 24 週 6 日、出生体重 635g、Apgar スコア 1/6。NICU 入室後より CA を使用。インドメタシン 0.1mg/kg の

    投与で動脈管は閉鎖。しかし動脈管閉鎖に伴い血圧上昇と心収縮能低下を認め、後負荷不整合に伴う循環不全

    と診断。CA 減量とフロセミドを投与し、一旦は改善したが徐々に血圧維持が困難となり血管透過性亢進に伴う浮

    腫が増悪。日齢 11 より HDC6mg/kg/day に増量。連日容量負荷、HDC の頻回の追加投与を行ったが一時的な改

    善に留まり、日齢 19 からアドレナリン持続静注を開始したが血圧上昇の反応は一時的で同日永眠。

  • 17.超低出生体重児に対するインドメタシン投与方法変更前後の短期予後比較

    熊谷 健、利光充彦、比嘉明日美、津野嘉伸、上田美奈、奥谷貴弘

    和歌山県立医科大学附属病院総合周産期母子医療センターNICU

    【はじめに】

    当院は以前から超低出生体重児の入院時に、動脈管の早期閉鎖目的でインドメタシン 0.1mg/kg を 6 時間かけて

    予防投与していた。しかし頭蓋内出血症例が多く、インドメタシン早期投与が悪影響を与えている可能性を考慮し、

    平成 24 年 12 月から投与方法を変更した。生後 12 時間以降に心エコー評価し、主治医が必要と判断した時点で

    インドメタシン 0.1-0.2mg/kg を 2 時間で投与することにした。変更前後で短期予後を比較した。

    【方法】

    平成 24 年 1 月~11 月までの前期群、平成 24 年 12 月~平成 25 年 3 月までの後期群に分けて、頭蓋内出血の

    有無、日齢7での動脈管開存の有無、日齢7までのインドメタシン総投与量、投与回数、結紮術の有無を検討し

    た。

    【結果】

    前期群 13 例、後期群 6 例で在胎週数、出生体重に差はなかった。頭蓋内出血は前期群:後期群=7 例:1 例、イ

    ンドメタシン総投与量(mg/kg)は前期群:後期群=0.14±0.12:0.25±0.22、平均投与回数は前期群:後期群=1.2

    回:1.5 回、結紮術は前期群:後期群=2 例:1 例で、いずれも有意差はなかった。

    【考察】

    インドメタシンの総投与量と投与回数が増加したものの、結紮術症例は増加しておらず、頭蓋内出血症例はやや

    減少した印象である。検討期間が短いため有意差はみられないが、今後も頭蓋内出血症例の減少に向けて取り組

    む予定である。

  • 18.超低出生体重児の動脈管開存: 外科的結紮術は長期予後を悪化させるか?

    伊藤智子、松田直、臼田治夫、渡邉真平、秋山志津子、北西龍太、埴田卓志

    東北大学病院 総合周産期母子医療センター 新生児室

    【はじめに】

    超低出生体重児の血行動態上有意な動脈管開存(hsPDA)がインドメタシン投与に不応性であると判断したら,自

    然閉鎖を期待して待機することなく速やかに外科的結紮術(SL)を実施するという治療方針に対して,SL が長期予

    後を悪化させる可能性が指摘されている.そこで,hsPDA に対する SL がその長期予後に影響するかどうかを解析

    した。

    【対象と方法】

    当院に入院した超低出生体重児の内,出産予定日が 2007 年 6 月から 2011 年 3 月で(115 名),修正 3 歳 0 ヶ月

    時に新版 K 式発達評価を実施され(72 名),除外例 1 名を除いた 71 名を解析に用いた.対象をその治療方法に

    よって,自然閉鎖群(12 名),インドメタシン群 (36 名),SL 群(23 名)の 3 群に分け,hsPDA 重症度指標と発達指

    数(DQ)を含む 28 の臨床因子を用いて 3 群間で統計学的に比較した.さらに,3 歳時の DQ が 70 以上群(56 名)

    と 70 未満群(15 名)に分けて同様に解析した。

    【結果】

    治療別の 3 群比較で SL 群に関連した因子(p-value)は,少ない small for gestational age(0.022),腎動脈血流速

    波形の resistance index 高値(0.000),長い hsPDA 暴露時間(0.000)であり,3 歳時 DQ とは関連しなかった.3 歳

    時DQ70未満に関連した因子は短い妊娠週数(0.016),小さい出生体重(0.032),1分後Apgar score低値(0.032),

    高頻度の網膜凝固術(0.045)ならびに在宅酸素療法(0.008)であり,hsPDA の治療法と重症度指標には関連しな

    かった。

    【結論】

    より重篤な hsPDA に対して SL が選択されていたにもかかわらず,その重症度と治療法は 3 歳時の DQ と関連しな

    かった.したがって,SL が予後悪化因子である可能性は否定的であると考えられた。

  • 19.新生児期早期に動脈管クリッピング術を施行後、多量の消化管出血を伴う消化管穿孔を来した

    超低出生体重児の一例

    上田和利、林 知宏、福嶋志穂、松尾康司、呉尚治、徳増裕宣、澤田真理子、久保田真通、高橋章二、渡部晋一

    脇研自

    倉敷中央病院 小児科

    【症例】

    在胎週数 24 週 1 日、出生体重 870g、Apgar score 5/6、二絨毛膜二羊膜双胎の第 2 子。

    出生時に RDS のため挿管、STA 投与し、人工呼吸管理を開始した。動脈管は左右シャントであったため、インドメ

    タシン 0.1mg/kg を 6 時間で予防投与し、日齢 1,2,3 にそれぞれ.1mg/kg,0.1mg/kg,0.2mg/kg を投与したが、動脈

    管は縮小しなかった。赤血球輸血15ml/kgを行いHb:16.9g/dL、Hct:50%まで貧血の改善を認めたが、動脈管に影

    響は及ぼさなかった。DOA/DOB 9/9γ、ハイドロコルチゾン 2mg/kg を行ったが、血圧 33/18mmHg と低迷した。日

    齢 2 より腎動脈と上腸間膜動脈(SMA)拡張期血流の途絶を認めた。アシドーシスはなく、乳酸値 1.2mmol/L と上

    昇なく、尿量 2.8ml/kg/h と維持できていた。経管栄養はビフィズス菌のみ投与した。手術待機中に前大脳動脈の

    拡張期血流が途絶したため二酸化炭素を貯留させる呼吸管理(PaCO2:50mmHg 台)を開始した。出生時より行って

    いた鎮静は日齢 3 より漸減していたが、日齢 4 に鎮静を再開し、動脈管 clipping 術を行った。術後、SMA の拡張期

    血流は順行性となり、血圧も安定した。日齢 6 に鎮静を中止、日齢 7 より母乳栄養を 0.5ml×4 回/日で開始した。

    日齢 9 より胎便排泄が認められたが、同日小腸穿孔を来した。術中所見で腹腔内に血性腹水 40ml、及び腹水中

    に胎便を認めた。トライツ靭帯より約 40cm の部位の腸間膜側に穿孔部位を認め、周囲は一部壊死していた。穿孔

    部位より 10cm 程の口側腸管の色調は不良であった。壊死腸管切除、及び人工肛門造設術を施行した。

    【考察】

    新生児期に症候化した動脈管に対して早期に外科的介入を行った。日齢 2 から 4 まで上腸間膜動脈拡張期血流

    の途絶の所見を認めており、一部の腸管の色調は悪く穿孔部周囲の腸管は壊死していたため動脈管による体血

    流低下が消化管穿孔の一因となった可能性が考えられた。腸管虚血を防ぐために鎮静期間を延長して酸素消費

    量を減らすこと、さらに早期に外科的介入を行うことなどがさらなる介入として考えられた。

  • 20.ピットフォール症例

    浅沼賀洋、水谷真一郎、佐藤早苗、後藤孝匡、廣瀬彬、野上勝司、伴由布子、中澤祐介、古田千左子

    長澤眞由美、中野玲二、田中靖彦

    静岡県立こども病院新生児科

    【主訴】

    チアノーゼ、肺動脈弁の順行性血流なし

    【情報収集および所見】

    症例:日齢 0、女児

    現病歴:妊娠経過中に特記すべき異常なし。在胎 38 週 2 日に経膣分娩で出生。出生体重 2802g、Apgar9/9 点。

    出生直後から SpO2 60%台のため前医へ搬送。気管挿管、100%酸素でもチアノーゼ改善せず。心エコーで肺動脈

    弁の順行性血流が確認できず当院へ遠隔診断依頼。肺動脈閉鎖(PAIVS)、PFO と診断。動脈管血流が少ないた

    め lipoPGE1 を開始し当院へ搬送となった。

    入院時エコー所見:肺動脈弁の順行性血流なし。PDA 狭窄所見あり、左右短絡。右室低形成なし。明らかな類同

    交通なし。三尖弁前尖の逸脱あり、三尖弁逆流(TR)著明。卵円孔は右左短絡。

    入院時レントゲン:CTR64%、肺血管陰影減少。右気胸あり。

    入院後経過:右気胸に対して胸腔ドレナージ施行。PGE1CD に変更、100ng/kg/min で点滴したが動脈管狭窄の

    ため肺血流維持できず緊急手術。

    想定した鑑別診断:PAIVS、三尖弁異形成、気胸

  • 21.出生後に心雑音、肺高血圧を生じた新生児

    吾郷真子、内山 温、中西秀彦、戸津五月、増本健一、首里京子、今井憲、杉田依里、大野秀子、末永英世

    岡村朋香、張淑敏、楠田 聡

    東京女子医科大学母子総合医療センター 新生児医学科

    【主訴】

    多呼吸、心雑音

    【搬送依頼内容】

    日齢 0、男児。在胎 40 週 4 日、体重 3238g、Apgar score 9 点(1 分)/10 点(5 分)、帝王切開で出生。生後 2 時間

    より多呼吸が出現、生後 4 時間より心雑音を聴取され、先天性心疾患の可能性も考えられたため、当院に搬送入

    院となった。母体は 33 歳、G1P1。今回の妊娠経過は問題なかったが、外陰部静脈瘤のため選択的帝王切開とな

    った。羊水混濁なし、前期破水なし。

    【当院来院時所見】

    生後約 10 時間。活気はあり。呼吸数 70/分、SpO2 97%(room air)で上下肢差なし。HR 134/分、BP 79/43mmHg。

    呼吸音異常なし、胸骨左縁第 4 肋間に Levine 2~3/6 の収縮期雑音を聴取した。肝 1 ㎝触知。外表奇形なし。足

    底採血 pH 7.329、pCO2 41.7mmHg、BE -3.9、HCO3 21.4mmol/L、CRP 陰性。胸部 X 線では CTR 68%、軽度の

    肺門部索状影を認めた。心エコーで構造異常は認めなかったが TR 4.3m/s、PDA・PFO はいずれも両方向性シャ

    ントであった。頭部エコーでは明らかな異常を認めず、ACA RI 0.79 であった。

    【想定した鑑別診断】

    ①新生児一過性多呼吸、②新生児遷延性肺高血圧症、③心筋炎、心筋症

  • 22.チアノーゼ発作を繰り返し、硬膜下血腫による新生児けいれんの診断にて搬送された一例

    田仲健一、山元芽衣、佐藤 歩、岩井正憲、三渕 浩

    熊本大学医学部附属病院総合周産期母子医療センター新生児部門

    ・収集情報および所見

    在胎 39 週 3 日、2810g、頭位経腟吸引分娩、Apgar score 7/8 点で出生した男児。生後繰り返す SpO2 の低下

    (75~90%)を主訴に前医 NICU に入院、酸素投与により日齢1に SpO2 90-95%に改善し酸素終了。しかしその後も

    断続的に SpO2 値の低下を認め、日齢 5 の頭部 CT にてテント下の硬膜下血腫を疑いの所見から、新生児けいれ

    んを疑われ同日当科に精査目的に紹介入院となった。心拍数 136 回/分、呼吸数 43 回/分、血圧 75/49mmHg。

    SpO2 は room air で 95%前後であったが、90%未満を断続的に認めた。SpO2 低下時に明らかな臨床的けいれん発

    作は認められなかった。aEEG は continuous pattern で、SpO2 低下時に明らかな痙攣波形は認められなかった。

    ルチーンの超音波検査で肝内静脈の拡張を認めた。

    ・想定した鑑別疾患

    硬膜下血腫、肺炎

  • 23.ピットフォール症例

    千葉洋夫

    仙台市立病院小児科

    ・主訴:チアノーゼ

    ・収集情報および所見

    在胎 40 週 5 日、出生体重 2925g で出生した男児。母体合併症に前期破水を認めたが、母体発熱、胎児心拍異常

    を認めることなく自然分娩で出生した。Apgar スコアは 1 分 8 点、5 分 9 点であった。

    日齢 1 の初回診察時に呼吸障害は認めず、肉眼的チアノーゼを認めなかった。しかし、パルスオキシメーターを装

    着したところ SpO2 値(上肢 98%、下肢 90%)の上下肢差を認め、当院小児科に入院となった。多呼吸、努力性呼吸、

    心雑音、肝腫大は認めず、レントゲン写真で CTR 48%であった。酸素投与で下肢の SpO2 は 100%となった。

    当初疑った疾患

    先天性心疾患

  • 24.先天性心疾患児に対する INVOS の使用経験

    川村直人 1)、二井光麿 2)、玉置祥子 1)、齋藤純一 1)、岸上 真 1)、柴崎淳 1)、豊島勝昭 1)、星野陸夫 1)、川滝元良 1)

    大山牧子 1)、猪谷泰史 1)

    1)神奈川県立こども医療センター新生児科、2)旭川厚生病院小児科

    【はじめに】

    肺血流増加型先天性心疾患の管理では、肺血流量制限により体血流量を適正化し、組織への酸素供給を維持す

    ることが重要である。SpO2 は動脈血液中の酸素化をモニタリングする上で有用な指標であるが、血行動態によって

    は必ずしも組織への酸素供給の程度を反映しない。無侵襲混合血酸素飽和度測定システム(INVOS)は経皮的に

    組織の局所酸素飽和度(rSO2)と血液量係数(BVI)を連続的にモニタリングすることが可能である。今回、我々は

    INVOS を用い、先天性心疾患児の脳、腎周囲、腸管周囲の rSO2 および BVI を経時的に測定した。

    【症例 1】

    多脾症候群、房室中隔欠損、左室低形成、両大血管右室起始。出生後の高肺血流に対し日齢 1 より窒素吸入療

    法を開始したところ、直後に腸管周囲のみ BVI の増加がみられたが、rSO2 に大きな変動はみられなかった。

    【症例 2】

    大動脈弓離断、心室中隔欠損、動脈管性ショック後。PGE1製剤を投与し動脈管開存を維持し、高肺血流対策のた

    めに鎮静、筋弛緩下で人工呼吸管理を行っていた。覚醒し体動や自発呼吸が増えると腎周囲および腸管周囲の

    rSO2 の低下が認められたが、SpO2 に大きな変動はなかった。鎮静薬剤増量で rSO2 の回復がみられた。

    【考察】

    INVOS を用いて脳以外に腸管・腎周囲の組織血流の連続的測定を試みた。腸管・腎血流を反映しているかは少

    数例での評価はできないが、これまで数値的評価が困難であった組織酸素供給をモニタリングする上で、rSO2 お

    よび BVI は有用な指標となる可能性があると考えられた。

  • 25.INVOSTMによる頭部と肝の局所酸素飽和度の測定

    鈴木啓二

    東海大学医学部専門診療学系小児科学

    【背景】

    INVOSTM は 730nm, 810nm, 2 波長の近赤外光により経皮的に局所組織の混合血酸素飽和度を測定しその変化を

    モニタする装置である。頭部以外に腎、筋などでの測定の報告もみられるが肝におけるそれはない。

    【目的】

    新生児において頭部と肝部を同時測定しその他の循環指標との関連性において検討すること

    【対象および方法】

    対象は 2012 年 11 月-2014 年 4 月に東海大学医学部付属病院 NICU に入院した病的新生児および低出生体重

    児で先天性心疾患を有しない 14 症例(在胎 27-40 週,出生体重 676-3705g,日齢 0-5)。頭部(前側頭部)と肝部

    (右肋骨弓部)に新生児用ニルセンサを貼付して 6 時間以上持続的に測定し頭部と肝部での局所酸素飽和度 rSO2

    値の平均値(rSO2-H, rSO2-L)を比較するとともに平均動脈圧(MBP)、動脈血酸素化ヘモグロビン濃度(O2Hb)、前

    大脳動脈抵抗係数(ACA-RI)との相関性を検討した。

    【結果

    】頭部,肝部とも 70-90%程度の値を示し両部位間に差はなく(日齢 1 で rSO2-H 79.4±2.2, rSO2-L 79.1±1.5)、両

    値は互いに正相関していた( r2=0.22, p

  • 26.超低出生体重児の慢性期呼吸管理中の SPO2低下時の循環動態の検討

    藤原信、福原里恵、羽田 聡、古川 亮、今井清香、片岡久子、玉田智子

    県立広島病院 新生児科

    【目的】

    超低出生体重児の人工呼吸管理中、体動後などに SpO2が低下を引き起こすエピソードは頻回に認められる。この

    エピソードの前後、SpO2 低下時の循環動態を明らかにする。

    【方法】

    非侵襲的連続心拍出量モニターAESCULON®の測定方法:心電図モニターで使用している電極を左こめかみ、左

    首側面、剣状突起と同じ高さの腋窩中線上、左大腿内側に固定した。1 拍毎の計測値を記録した。近赤外分光法

    を用いた組織酸素モニターNIRO-200®の測定方法: プローベを右側前頭部に弾性包帯を使用して固定し体位は

    仰臥位か左側臥位で測定した。1秒毎の計測値を記録した。SpO2 モニターも含めて 20 分間連続測定を行った。

    その間、SpO2 が 85%未満の時間が 10 秒以上あり、その前後 60 秒間は SpO2 が 85 以上であった期間を1エピソー

    ドとしてその間の各種計測値の経時的変化を検討した。

    【結果】

    在胎 24 週 3 日、出生体重 612g の児の日齢 51,57,58 の 6 エピソードと

    在胎 25 週 2 日、出生体重 775g の児の日齢 12 の1エピソードのデーターが得られた。分時拍出量、1 回拍出量は、

    SpO2 低下時前に低下し、その後は増加する傾向を認めた。CFOE((SpO2-TOI(組織酸素化指標))/SpO2)は、

    SpO2 低下時は低下しその後 60 秒は軽度上昇するが SpO2 低下前に比べ低値の傾向を認めた。nTHI(組織ヘモ

    グロビン指数)と心拍数には、一定の傾向を認めなかった。

    【考察】

    SpO2 低下時の循環動態を以下のように推測した。肺の虚脱などで換気不全になると肺血管抵抗が増加し心拍出

    量が減少する。換気改善に伴い肺血管抵抗が低下し肺血流は増加し心拍出量は増加する。SpO2 低下時には脳

    の酸素消費は減少すると推測され、脳血流量には一定の傾向は認めない。

  • 27.新生児期早期の左室拡張能の変化 2D speckle tracking 法による検討

    林 知宏、福嶋志穂、田窪翔子、上田和利、松尾康司、呉尚治、荻野佳代、徳増裕宣、澤田真理子、久保田真通

    高橋章仁、渡部晋一、脇 研自、新垣義夫

    倉敷中央病院小児科

    【背景】

    生後早期の新生児の左室心筋の拡張機能は未熟で、日齢と共に成熟すると報告

    されているが、詳細については不明な点が多い。

    【目的】

    心筋の能動的弛緩能に着目し、2D speckle tracking 法を用いて左室拡張能の出生後の変化について検討する。

    【対象】

    心奇形や合併症を有さない正期産・正期出生体重児の 17 例

    【方法】

    左室拡張能の指標として 2D speckle tracking 法を用いて四腔断面の左室を 6 分割した各分画の心内膜面の

    longitudinal diastolic max velocity(cm/sec)、及び従来の指標である僧帽弁血流 E/A をそれぞれ日齢 0 及び 3 で

    測定した。

    【結果】

    日齢 0 から 3 にかけて E/A 0.95±0.28→1.11±0.42 と有意に上昇を認めた。

    中隔領域(bassept -3.75±0.85→-3.86±0.65、midsept -2.64±0.72→-2.61±0.58、apsept -1.29±0.53→-1.19

    ±0.39)では有意差は認めなかったが、側壁領域(apLat -1.41±0.44→-1.12±0.37、basLat -2.47±1.19→-1.45

    ±0.93)ではむしろ有意に低下していた。

    6 分画の平均は統計学的に有意ではなかったが、低下傾向にあった(-2.32±0.54→-2.02±0.43)。

    【考察】

    2D speckle tracking 法を用いて、生後早期における左室拡張能の評価を試みた。

    日齢 0 から 3 にかけて左室全体としての拡張能は良化していることが示唆されたが、長軸方向の diastolic max

    velocity はむしろ低下傾向にあった。何らかの代償機転により低下した可能性がある。心筋の未熟性により複雑な

    拡張様式を呈していると考えられ、更なる症例の蓄積・検討が必要である。

  • 28.チアノーゼ性心疾患を伴った脳低温療法 2 例の経験

    古田千左子、佐藤早苗、後藤孝匡、浅沼賀洋、野上勝司、伴由布子、中澤祐介、長澤眞由美、中野玲二

    田中靖彦

    静岡県立こども病院 新生児科

    【背景】

    新生児低酸素虚血性脳症(HIE)に対する神経学的予後改善のための脳低温療法(BHT)は広く施行されているが、

    合併奇形のある症例に対しての BHT 適応基準は明確ではない。BHT 施行中の徐脈・低血圧・遷延性肺高血圧と

    いった循環系合併症のため、心疾患合併例ではリスクも高まる。今回、チアノーゼ性心疾患を伴った HIE に対し

    BHT を施行した 2 例を経験したので報告する。

    【症例 1】

    在胎 41 週経膣分娩で出生、体重 2008g、Apgar score 0/3(1 分/5 分)、臍帯動脈血 pH6.9 BE-17。入院後、TOF

    と診断。生後 4 時間後に BHT 開始、8 時間後の心エコーにて右室流出路圧較差を認めず、VSD 右左優位の両方

    向短絡となっており、高度 PH と判断。NO 吸入療法開始し PH は急激に改善、日齢 7 BHT 終了まで NO 療法併

    用した。退院前頭部 MRI・脳波異常なく日齢 47 に退院。1 歳 TOF 根治術施行、PSR 軽度残存。発達は、始歩 2

    歳、3 歳時の有意語単語数個と精神運動発達遅延あり。

    【症例 2】

    胎児モニター異常、常位胎盤早期剥離のため緊急帝王切開にて出生、在胎 37 週、体重 2378g、Apgar score 4/5

    (1 分/5 分)、静脈血 pH6.9 BE-18。入院後に PAVSD と診断。 顔貌も併せて 22q11.2 欠失が疑われた(染色体検

    査にて確定)。PDA か MAPCA か判断困難なため当初は Lipo-PGE1 併用、漸減するも血管性状変化見られず

    MAPCA と判断し日齢 2 中止。吸引などの刺激によって SpO2・血圧低下がみられたが次第に消失。FiO2=0.21 呼

    吸器管理にて徐々に高肺血流となった。日齢 4BHT 終了。日齢 16 頭部 MRI・脳波異常なし。高肺血流による心不

    全のため、日齢 18〜57 に N2 吸入療法併用した。

    【まとめ】

    心疾患を伴った症例に対する BHT は、循環動態を適切に評価することにより施行は可能であった。

  • 29.低体温療法を施行した新生児仮死における近赤外線時間分解分光法による脳循環評価

    廣瀬あかね、近藤 敦、高見 剛、奈良昇乃助、石井宏樹、菅波佑介、春原大介、河島尚志

    東京医科大学 小児科

    【はじめに】

    近赤外線分光法(NIRS)で計測される脳内 Hb 酸素飽和度(SO2)は、新生児仮死予後不良例で生後 24 時間後か

    ら有意に上昇することが報告されている。また、近赤外線時間分解分光法(NIR-TRS 法)により計測できる脳血液

    量(CBV)は、低酸素虚血時の脳循環変化を鋭敏に反映することが動物実験により示された。我々は新生児仮死

    児において CBV が SO2 より早期に脳循環の変化を反映すること示し、NIR-TRS 法により複数の脳循環代謝指標を

    同時に測定することは予後予測評価や継続的な脳循環代謝評価に有用であることを報告した。今回、低体温療法

    (HT)を施行した新生児仮死予後不良 2 症例を提示し、HT 中での NIR-TRS 法の臨床的有用性を検討した。

    【症例 1】

    生後 40 週 3 日、出生体重 3394g、Aps 1(1)/3(5)/4(10)。生後 3 時間後より HT を開始した。生後 12 時間より CBV、

    SO2 は高値、脳組織酸素摂取率(FTOE)は低値を示した。日齢 16 に施行した頭部 MRI にて頭部 MRI にて視床・

    基底核等に広範囲に高信号域領域を認めた。

    【症例 2】

    在胎 38 週 6 日、出生体重 2928g、Aps 2(1)/4(5)/4(10)。生後 5 時間後より HT を開始した。生後 12 時間より CBV、

    SO2 は高値、FTOE は低値を示した。日齢 12 に施行した頭部 MRI にて脳幹・視床・基底核・海馬の広範囲に高信

    号領域を認めた。

    【考察】

    今回提示した予後不良 2 症例と、同様に HT を施行し予後良好であった 6 症例を比較すると、予後不良例は予後

    良好例と比較して、生後 12、24、48、72 時間で SO2 は高く、FTOE は低い傾向を示し、CBV は生後 3-6、12、24、

    48、72 時間で高い傾向を認めた。SO2 の上昇、FTOE の低下は遅発性エネルギー障害における脳酸素消費の減

    少によるものと考えられ、CBV の上昇は低酸素虚血による脳自動調節能の破綻により生じた脳組織内への血液の

    貯留によるものと推察された。NIR-TRS 法により複数の脳循環代謝指標を同時に計測し、異なった病態生理から

    脳循環代謝の評価を行うことは、HT 施行新生児仮死症例の急性期脳循環代謝評価においても有用であると考え

    られた。

  • 30.脳血流評価として上大静脈血流波形は有用か? 〜中大脳動脈血流と上大静脈血流の関係の検討

    廣瀬彰子、岩田幸子、原直子、津田兼之介、木下正啓、海野光昭、神田洋、前野泰樹、松石豊次郎、岩田欧介

    久留米大学病院 総合周産期母子医療センター新生児部門

    【背景】

    新生児管理において、循環動態、特に脳循環の理解は重要である。超音波ドプラ法による中大脳動脈(MCA)血流

    速度、特に mean velocity は、脳血流変化を正確に反映する指標として確立されているが、血管径の測定が困難な

    ため、脳血流量の絶対値評価は困難である。近年、非侵襲的脳血流評価として上大静脈(SVC)血流波形を用いた

    定量方法が報告され、ベッドサイドで用いられるようになっているが、その測定値には脳以外の上半身の血流を含

    まれるため、脳血流指標として使用するには,更なる Validation が必要である。

    【目的】

    SVC 血流量と MCA 血流速度の相関を検証し、その脳血流推定における有用性について検討する。

    【対象】

    当院 NICU に入院中に比較的安定期に入った児 43 名に、インフォームドコンセントの上、のべ 86 回の超音波計測

    を行った。検査時日齢 1-71(中央値 2)、体重 2.6±0.5Kg、修正週数 34-42 週(中央値 38 週)。

    【方法】

    超音波ドプラ法にて、MCA および SVC 血流波形を記録し、脳重量あたりの血流量(rSVC)と MCA mean velocity、

    ヘモグロビン濃度、心拍数との相関関係について検討を行った。

    【結果】

    rSVC は MCA mean velocity(r=0.41,p<0.0001)、心拍数(r=0.38, p<0.001)と強い正の相関を認めた。一方、ヘモ

    グロビン濃度とは負の相関を認めた(r=-0.31, p<0.01)。

    【考察】

    rSVC は以前から脳血流評価として用いられている MCA mean velocity と正の相関を認めることから、脳血流評価と

    して有用であると考える。また、ヘモグロビン濃度と負の相関を示し、ヘモグロビン濃度低下に伴い臓器血流量も増

    えると考えられ、このことからも脳血流を反映しているものと考えられる。

  • 31.近赤外線時間分解分光法による脳循環代謝評価

    〜興味深い経過を示した新生児仮死1例と重度貧血の 1 例〜

    近藤 敦、廣瀬あかね、高見 剛、奈良昇乃助、石井宏樹、菅波佑介、春原大介、河島尚志

    東京医科大学 小児科

    【はじめに】

    我々は近赤外線時間分解分光(NIR-TRS)法による新生児仮死の検討で、低酸素性虚血性脳症(HIE)例は脳組

    織血液量(CBV)が出生 3-6 時間後から生後 48 時間まで有意に高値を示すこと、脳内 Hb 酸素飽和度(SO2)は出生

    12 時間後から 72 時間まで有意に高値を示すこと、脳組織酸素摂取率(FTOE)は出生 12 時間後から 72 時間まで

    有意に低値を示すことを報告した。これらは脳自動調節能の破綻や遅発性エネルギー障害による二次性の脳障

    害を反映していると考えている。今回、興味深い NIR-TRS 法の経過と頭部 MRI 所見を示した新生児仮死例と重症

    母児間輸血症候群例を経験したので報告する。

    【症例 1】

    在胎 41 週、2882g、Aps4 点(1 分)7 点(5 分)、pH7.07、BE-20.6mmol/L、痙攣を認め生後3時間より低体温療法を

    開始した。CBV、SO2 は生後 3 時間で低値(1.74、56.3%)、生後 12 時間で高値(2.72、76.3%)を示し、生後 24 時間

    で正常範囲(2.35、70.8%)に、FTOE は生後 3 時間で高値(0.43)、生後 12 時間で低値(0.22)を示し、生後 24 時

    間で正常範囲(0.28)となった。退院時 MRI で右側の脳幹部に虚血による壊死を疑う所見を認めた。

    【症例 2】

    在胎 36 週、2388g、Aps9(1 分)9(5 分)、pH6.78、BE -22.9mmol/L、Hb2g/dl、生後 4 時間より濃厚赤血球の輸血を

    開始した。CBV は輸血開始前、著明に上昇(7.59)していたが輸血開始後に低下した。SO2 は低値(52.8%)であっ

    たが輸血後に上昇した。退院時 MRI で上衣下と脳実質内出血後の変化を疑う所見を認めた。

    【考察】

    両症例ともに典型的な HIE とは異なる MRI 所見と CBV、SO2、FTOE の経過を示した。症例 1 は出生時の低酸素

    虚血の程度は強いものであったが、二次性の脳障害の程度は軽度であったと推察された。症例2の輸血前のCBV

    の著明な上昇は貧血に対する脳への血液の再分配によるものと考えられ、輸血後の SO2 の上昇は輸血により脳組

    織の酸素化が改善したことによるものと考えられた。NIR-TRS 法による経時的な計測は多様な脳循環代謝の特徴

    を反映するため、急性期の脳循環代謝評価に有用であると思われた。

  • 32.早期産児の aEEG 活動性と体血圧の関係

    柴崎 淳、岸上 真、山口直人、斎藤朋子、新関昌枝、本田 茜、石川 淑、池田智文、田仲健一、豊島勝昭

    神奈川県立こども医療センター 新生児科

    目的:早期産児の急性期管理において脳の機能を保持できる体血圧の下限についての確実な根拠はない。超低

    出生体重児を対象に aEEG で脳の電気生理学的活動性を測定、脳波と血圧の関係を日齢毎に検証し、脳機能を

    保つための血圧管理の指標について考える。

    対象と方法:2010 年 6 月〜2012 年 3 月に当院 NICU に入院し、観血的動脈圧測定と aEEG 測定を同時に 3 日間

    以上継続的に行うことが出来た超低出生体重児。aEEG は Olympic 社製 CFM6000,CFM-OBM で記録。aEEG 活

    動性を Hellstrom-Westas による分類で評価した。平均血圧を在胎数週未満、在胎週数未満〜30mmHg、30mmHg

    以上の 3 グループに分類、それぞれの血圧での aEEG 活動性を 30 分毎に評価し、血圧と aEEG 活動性の関連を

    検討する。

  • 33.当院における近赤外線時間分解分光法による脳循環評価の試み

    村瀬真紀 1)、後藤孝匡 1)2)、廣瀬 彬 1)2)、久保達也 1)、志賀清悟 1)3)、宮澤陽美 1)、山岸裕和 1)、小高 淳 1)、

    沼崎 啓 1)、郡司勇治 1)

    1)国際医療福祉大学病院小児科、2)静岡県立こども病院新生児未熟児科、3)昭和女子大学栄養学部

    【目的】

    近赤外線時間分解分光法(NIRS-TRS)を用い、早期新生児脳循環・体循環を統合的に評価すること。

    【方法】

    早期新生児 57 例(正期産児群 24 例、早産児群 33 例)を対象とし、NIRS-TRS による脳循環評価・頭部エコー・心

    エコー評価を同時施行した。脳循環評価は浜松ホトニクス社 TRS-21S を用い、前額部において、脳内組織酸素飽

    和度 rSO2、脳血液量 CBV、および脳組織酸素摂取率 FTOE を測定した。頭部エコー・心エコーは 日立アロカメ

    ディカル prosound α7 を使用した。

    【結果】

    1)対象の平均在胎週数は 36.9±2.9 週(29w6d~41w4d、中央値 36w5d)、出生体重は 2520±593g(1189~3818g、

    中央値 2534g)であった。対象に対して総計 166 回(正期産児群 55 回、早産児群 111 回)の TRS/エコー評価を施

    行、平均検査回数は 3.0±3.0、検査日齢は 0~45 日(中央値 2)であった。2)全測定の平均値は、rSO2:67.3±5.3%、

    CBV:1.95±0.38mL/100g、FTOE:0.32±0.05 であった。3)検査時期によって比較すると、正期産児群では、rSO2、

    CBV、FTOE すべてに有意な経時的変動を認めなかった。早産児群では CBV は経時的に有意な変動がなく、

    rSO2(p=0.018)、FTOE(p=0.026)は日齢が進むと有意な減少を認めた。4)早産児でもより週数の早い 34 週以下に

    限定すると、CBV はやはり全く変動がなかったが、rSO2(p=0.006)、FTOE(p=0.012)はより明確な経時的変動を認め、

    前者は生後増加して新生児後期に減少するパターンをとった。

    【結論】

    NIRS-TRS による脳内酸素飽和度/脳内血液量は、正期産児においては生後変動が無い。しかしながら過去の報

    告通り、脳内酸素飽和度は週数が未熟な程、出生後明確な経時的変化をみせる。この背景に早産児における生

    後の循環適応過程の特殊性が考えられた。

  • 34.なぜ左房容積か?

    増谷 聡

    埼玉医科大学総合医療センター 小児循環器科

    未熟児動脈管開存症で、肺出血は避けたい合併症です。それではなぜ肺出血は起こるのでしょうか?いろいろ

    理由はありますが、動脈管開存による肺血流増多を心臓が処理できなくなって、肺静脈圧上昇を伴う肺うっ血に至

    ると考えられます。

    次にこの “処理できない”ということを左心系から考えてみます。左房から左室に血液が入り(左室拡張)、左室

    から大動脈に血液を拍出します(左室収縮)。多量の血液が左房に還流しても、未熟心筋は拡がりにくいため、左

    室流入は困難になります。左房は拡大し、圧を上昇させ、流入を維持しようとします。それが肺血管レベルで破綻

    すると肺出血になります。

    ドプラー指標が拡張能評価に用いられます。しかし拡張能とは何か、ドプラー指標は何を意味しているか、難し

    い問題です。その点、左房の大きさは正直です。拡がりにくい心室が血液を受けきれない程度を、正直に教えてく

    れます。

    左房・大動脈径比(LA/Ao)が簡便な左房拡大の指標として、有用な情報を提供してきました。しかしこの指標は

    前後方向の計測のみで、計測する人、角度により大きく値が異なってきてしまいます。左房容積は、径でみる指標

    と比較して、大きいものを大きいときちんと評価できます。最近のエコーでは、簡単に左房容積を計測することがで

    きます。左房容積を測ってしまえば、よいのではないでしょうか?

    大事だとわかっているけれども捉えどころのなさそうな拡張能の基本についても、わか

    りやすくまとめてみます。

  • 35.NICU における左房容積の評価法と活用法

    豊島勝昭

    神奈川県立こども医療センター新生児科

    胎児循環の主心室は右室であり、新生児循環への移行により左室が主心室に変わる。肺循環の確立に伴う肺静

    脈還流血流増加に伴う前負荷増大、胎盤分離に伴う後負荷増大に直面しながら左室は新生児循環に適応してい

    く。在胎週数が少ない早産児ほど心筋成熟度が低く、拡張性、収縮性が乏しいため、生後の前負荷や後負荷の増

    大で心拡大、心ポンプ不全をきたしやすい。

    未熟児動脈管開存症(PDA)では、増加した肺血流量を左室に流入させるため、左房は圧が上昇し、拡大する。

    過度になると肺静脈還流障害から、肺うっ血や肺出血をきたしうる。我々は左房容積(LAV)が早産児における PDA

    評価に有用であるかを検討した(Circ J 2014)。

    超低出生体重児 53 名(在胎 26.3±2.6 週,出生体重 738±162g)を対象とした。生後 6,12,24,36,48,60 時間、及び

    動脈管結紮例では術直前と術後 24 時間時に心エコー検査を施行し、心室収縮末期に心尖部の四腔断面と二腔

    断面における左房面積と左房径から area-length 法により LAV を計測した。在胎 23 週, 400g 台の早産児でも計測

    可能であった。LAV は LA/Ao 以上に動脈管結紮術などが必要な左房拡大の評価に有効性が高かった。

    四腔断面と二腔断面から算出する左房容積と四腔断面のみから算出する左房容積は良好に相関した(R=0.93)。

    二腔断面による左房描出は手技習得が難しいため、四腔断面のみから求めた左房容積を体重で除した LAV(四

    腔断面)/体重を標準的指標として奨めたい。中央値(四分位範囲)は 0.59(0.43-0.75) ml/Kg、動脈管結紮術直前

    を予測するカットオフ値は 0.95 ml/Kg(AUC 0.98, 感度 100%, 特異度 92.2%)であった。今後症例数を増加させた

    検討が必要であり、測定法の簡便化や標準値設定を多施設共同で行っていきたい。

    本講演では、実際の左房容積測定方法とコツについてもわかりやすくお伝えしたい。左房容積が早産児の循環

    管理をよりよく改善するために本邦における普及するきっかけとなる講演を目指す。

  • 36.新生児循環管理と心エコー検査 ーどの指標が有用か、見直してみようー

    森 一博

    徳島県立中央病院小児科

  • 37.体重 600gの超低出生体重児では肺動脈絞扼術の時期はいつが適切か?

    松崎陽平

    慶應義塾大学小児科

    【症例提示】

    胎児超音波検査でファロー四徴症を指摘されていた児。母体 HELLP 症候群のため、母体適応で出生。在胎 28

    週 2 日、出生体重 604 g。出生後、気管挿管、サーファクタント1V 投与。NICU 入室後、血圧低下に対して

    DOA/DOB に加え、ハイドロコルチゾン 2.5 mg/kg/dose、低アルブミン血症に対してアルブミンを投与した。血圧は

    徐々に改善。出生後の心臓超音波検査では肺動脈狭窄はなく、VSD(Ⅱ型 径 3.1 mm)、PDA 径 2.4 mm、

    ASD/PFO 径 1.1 mm と診断された。日齢 1 にも動脈管開存を認め、インドメタシン 0.1 mg/kg/dose で開始。閉鎖

    傾向なく、日齢2より治療量として 0.2 mg/kg/dose へ増量した。日齢 3 にも同量を投与したが、PDA の閉鎖傾向は

    なく、腹壁の色調が暗紫色となり、腸ぜん動はあるものの、尿量の減少、胸部 X線でも肺うっ血と心拡大(CTR 62%)

    を認めたため、このまま PDA の閉鎖傾向がなければ、動脈管クリッピング術の適応と判断した。

    同日、心臓外科、小児循環器専門医とのカンファレンスを行い、動脈管クリッピング術を提案した。しかし、本症例

    は VSD も大きく、早ければ 1 か月後に肺動脈絞扼術が必要と考えられた。体重 600 g の児に 1 か月以内に動脈管

    クリッピング術と肺動脈絞扼術との 2 回の術式を行うことは危険であり、返って、日齢 4 の現在に正中切開により 2

    つの手術を同時に行うべきという意見が出た。

    【疑問点】

    超低出生体重児の早期での肺動脈絞扼術は報告が少なく、日齢 23 に肺動脈絞扼術と動脈管クリッピング術を同

    時施行した報告を認めるのみであった。Large VSD を持った超低出生体重児に動脈管開存による心不全を認めた

    際の治療方針では側開胸で動脈管クリッピング術のみとすべきか、2つの術式を同時に行うべきか、あるいはその

    時期など、ご教授頂ければと思います。

  • 38.急性期に MAPCA banding による血流制御を行い救命できた PAVSD、MAPCA を合併した超低出生体

    重児の 1 例

    長澤真由美 1)、廣瀬彬 1)、後藤孝匡 1)、浅沼賀洋 1)、野上勝司 1)、伴由布子 1)、中澤祐介 1)、

    古田千左子 1)、中野玲二 1)、田中靖彦 1)、新居正基 2)、坂本喜三郎 3)

    1)静岡県立こども病院 新生児科、2)循環器科、3)心臓血管外科

    【症例】

    自然妊娠の DD 双胎、第Ⅰ子。妊娠 26 週に胎児心疾患(PAVSD,MAPCA)と診断された。切迫早産のため 27 週 4

    日、810g にて出生、Ap5/6。胎児診断と同様に PAVSD,MAPCA を認めた。中心肺動脈は存在し、MAPCA はエコ

    ー上 3 本確認できた。生後高肺血流(high flow)による心不全徴候を認め、生後 23 時間より N2 吸入療法を開始し

    たが high flow の改善を認めず、日齢 2 に右 IVH を発症、循環不全に陥った。内科的血流制御は限界と判断し、

    同日一番血流量の多い MAPCA の banding を施行した。術中より血圧上昇、尿量増加を認めたが、別の MAPCA

    を介した high flow を認め、日齢 4 には左 IVH2°を発症、日齢 8 に消化管穿孔、ショック状態となった。MAPCA の

    血流制御を行わなければ救命困難と判断し、日齢 9 に再度 MAPCA clipping を施行し、日齢 11 に人工肛門増設

    術施行をした。術後は心不全は改善した。難治性の乳び胸を発症したが、オクトレオチド、ステロイド投与等で改善。

    日齢 56 に人工呼吸器から離脱し、生後 4 か月に腸管再建術を施行した。MAPCA clipping 後は低肺血流で経過し、

    生後 7 か月(体重 3 ㎏)で UF+Rasteli 手術を施行した。満期での頭部 MRI 上は明らかな PVL を含めた異常は認め

    なかった。修正 4 か月での発達は月齢相当である。

    【考案】

    早産、低出生体重児の心疾患に対する外科的アプローチは増加しているが、本症例のように複雑心奇形を合併し

    た超低出生体重児である場合、姑息術であっても施行困難である場合が多い。今回の症例は内科的血流制御が

    困難と判断した時点で、できるだけ低侵襲で血流制御をできる方法としてMAPCAのbandingを選択した。術中から

    術後にかけて、新生児科ばかりでなく、循環器科、心臓血管外科が協力し、救命できた症例であった。

  • 39.新生児期に手術介入が必要であった 37 週未満出生の先天性心疾患(CHD)患者の臨床像

    三宅 啓 1) 、黒嵜健一 1)、阿部忠朗 1)、坂口平馬 1)、北野正尚 1)、帆足孝也 2)、鍵崎康治 2)、市川 肇 2)

    吉松 淳 3)、白石 公 1)

    1)国立循環器病研究センター 小児循環器科、2)小児心臓外科、3)周産期科

    【背景】

    CHD の新生児期手術介入では、早期産は死亡や術後合併症のリスクである。当院で新生児期に手術介入が必

    要であった 37 週未満出生の CHD の臨床像を検討。

    【対象・方法】

    2011 年 1 月 1 日から 2014 年 3 月 31 日の間に当院小児循環器集中治療室に入院した生後 28 日未満の患者全

    260 例中、初回入院時に手術介入を施行した 149 例、その内早期産例 23 例を対象とし、診療録より後方視的に検

    討。

    【結果】

    入院時日齢は中央値 0(範囲 0−23)日、出生週数は 35(32−36)週、出生体重は 2148(999-2982)g。全身合併症例

    は 6 例(26%:ダウン症候群2例、ターナー症候群1例、内蔵心房錯位症候群3例)。CHD は単心室 4 例、大動脈縮

    窄/離断 4 例、総動脈幹 2 例、純型肺動脈閉鎖 2 例、エブスタイン 2 例、先天性完全房室ブロック 3 例など。早産

    理由は胎児水腫進行 4 例(17%)、切迫胎児仮死 4 例(17%)など。動脈管依存例 12 例(52%)で、術前人工呼吸管

    理 11 例(48%)。低酸素濃度ガス吸入施行例 3 例(13%)。手術時日齢は 12(0−70)日、手術時体重は 2048

    (1034-3300)g。手術は姑息術 10 例(43%:肺動脈絞扼術 3 例、両側肺動脈絞扼術 2 例、体肺動脈短絡術 2 例)、

    修復手術 10 例(43%:大動脈再建術、総肺静脈還流異常の修復術、大血管動脈スイッチ術など)。ペースメーカー

    埋込術が 3 例。死亡例は 5 例(22%:心不全死 4 例、感染死 1 例)。術後合併症は 9 例(39%:消化管穿孔 2 例、

    脳梗塞 1 例、心筋梗塞 1 例、縦隔炎 1 例、完全房室ブロック 1 例など)。

    【総括】

    死亡例は、胎児水腫のエブスタイン、卵円孔閉鎖の左心低形成症候群、肺静脈狭窄の右側相同心など。術後合

    併症は高肺血流の症例に多かった。1000g 以下の例などは両

    側肺動脈絞扼術など、段階的に心内修復術を行うなどの工夫を行っている。

  • 40.出生後急速に改善を認めた胎児期左心系低形成の一例

    中島光一朗 1)、羽山陽介 1) 、黒嵜健一 1)、井門浩美 2)、阿部忠朗 1)、坂口平馬 1)、北野正尚 1)、白石 公 1)

    1) 国立循環器病研究センター、2)小児循環器科生理機能検査部

    【症例】

    母 29 歳、1 経妊1経産、基礎疾患なし。自然妊娠にて近医産婦人科で妊婦健診。在胎 29 週 0 日に単一臍帯動脈、

    心嚢液貯留を指摘され、当院へ紹介。在胎 29 週の胎児心エコーで大動脈縮窄を疑われた。大動脈峡部径は

    2.5mm で大動脈弓は逆行性血流であった。卵円孔は開存していたが、膜性開放ではなく心房中隔が厚く心房中

    隔欠損様であった。右心系に比して僧帽弁径、大動脈弁径、左室拡張末期径とも小さく左心系の低形成を認めた

    が、僧帽弁、大動脈弁に開放制限は認めなかった。子宮内発育遅延のため 37 週 5 日に入院、38 週 4 日に分娩

    誘発を施行し、同日に経腟分娩。出生体重 2326g,Apgar8 点 /8 点。出生直後の心エコーでは大動脈弓血流は逆

    行性であったが、10 分程で順行性のみとなった。大動脈弓径 3.2mm 、大動脈峡部径 2.2mm、僧帽弁径 6.4mm

    (正常値比 58%)、大動脈弁径 4.5mm(80%)、左室拡張末期径 13.9mm(84%)で左心系低形成が認められた。肺

    血流増加による左心系の発育が期待できると考え、経過観察の方針とした。日齢 4 に PDA 閉鎖を確認したが大動

    脈縮窄の顕在化はなく、日齢 16 で大動脈峡部径も 3.1mm へ拡大し、左室拡張末期径も 17.3mm(正常比 103%)と

    拡大がみられた。

    【考察】

    胎児期より左心系低形成と右心系拡大を来したが出生後急速に改善、原因となり得る器質疾患を認めなかったこ

    とより、卵円孔早期閉鎖に類する血行動態があったものと考えた。卵円孔早期閉鎖は胎児期に卵円孔が閉鎖する

    稀な病態で、卵円孔が早期閉鎖することにより右房から左房への血流が減少する。僧房弁・左室・大動脈を還流す

    る血液が減少し、左心系の発育が阻害されることが問題となる。本症例の病態について広く意見を伺いたい。

  • 41.動脈管結紮術後に CoA が顕在化し胸部大動脈への人工血管留置,バルーン拡張術に成功したが

    その後慢性腎不全に至った ELBWI の一例

    阪上美寿々1)、白石 淳1)、金川奈央2)、稲村 昇2)

    1)大阪府立母子保健総合医療センター 新生児科、2)小児循環器科

    【症例】

    母 25 歳,初産婦,自然妊娠成立,MD 双胎(TTTS なし)。

    妊娠 27 週 2 日、第 2 子(本児)の羊水腔減少を認め臍帯血流の途絶、逆流も認めたため、同日緊急帝王切開術

    施行。出生体重 530g、Apgar score 1 分 2 点、5 分 8 点で出生。PDA に対し、日齢 0-3 でインダシンの投与を行う

    も改善なく日齢 5 に動脈管結紮術を施行。その後徐々に尿量低下し日齢 7 から無尿となり、超音波検査上大動脈

    縮搾症(CoA)を疑う所見を認めたため、日齢 8 に外科的な介入の必要性も含め当院へ転院となった。

    【入院経過】

    転院後、超音波検査および CT にて動脈管閉鎖、CoA 確認.代謝性アシドーシス、電解質異常なくまずは内科的

    治療施行。しかし尿量増加なく、浮腫増強を認めたため内科的治療の限界であると判断。心臓血管外科、循環器

    科、新生児科でカンファレンスを行った。大動脈再建術は超低出生体重児(ELBWI)では不可能なため、バルーン

    拡張術の可能性を検討した。大腿動脈からのアプローチとも極めて困難であると判断し胸部大動脈に人工血管を

    留置しそこからのアプローチでのバルーン拡張術を試みる方針となった。しかしこれは前例がなく非常に高いリスク

    があることをご家族に説明し、了承を得、日齢 10 に上記を施行した。人工血管から、3Fr.のシースを介してバルー

    ンカテーテルを挿入することでほとんど出血なく施行でき、術前後で縮窄部前後の血圧差は約 30mmHg から 10

    mmHg へ改善を認めた。その後も明らかな狭窄の再燃を疑う所見は認めなかった。尿量は日齢 18 頃より

    2-3ml/kg/hr 程度確保できるようになったが浮腫は増悪し腎機能の明らかな改善は認めず全身管理に難渋してい

    る。

    【考察】

    ELBWI の CoA に対し、胸部大動脈への人工血管留置、バルーン拡張術に成功した貴重な症例であり報告する。