2. 真空技術. vacuum...7 2. 真空技術 2.1 真空の基礎概念 (1)...

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7 2. 真空技術 2.1 真空の基礎概念 (1) デバイスプロセスと真空技術 多くの要素デバイスプロセスは真空という環境条件下で行なわれる。例えばデバイ スの基板材料精製の際には、不純物を排除し酸化を防止するために真空が必要である。 またシリコンウェーハの熱酸化では、ウェーハを収容する石英管内部を先ず真空にし てから清浄な酸素、水蒸気等を供給する。微細加工のリアクテイブイオンエッチング では、真空容器内部にシリコンウェーハを配置してグロー放電によりプラズマを発生 してラジカルとイオンをウェーハに入尃する。イオンインプランテーション・ドーピ ングでは、イオンの形成・加速は真空装置中で行なわれる。また半導体・絶縁性・導 電性の各種薄膜を作製するための CVD PVD のプロセスは大体真空下で行なわれる。 このように真空技術はデバイスプロセスにおける共通的基盤の一つである。 (2) 真空の 2 つの概念 真空の「空」とは空虚、無という意味であり、日本語でも中国語でも真空とは「ほ んとに何も無い」ということになる。英語の vacuum、ドイツ語の Vakuum、フランス 語の vide、ロシア語のбакуум等はいずれもラテン語の bacuus から出ておりその 意味も empty つまり「無」とか「空(くう、から)」という意味である。紀元前 4 世紀か 3 世紀のギリシャの哲学者デモクリストは、世界は原子(アトモス)と空虚な空間(ノン)から構成されると考えた。前者は不生、不滅、不変化の物質であり後者が哲学的 真空である。これに対してアリストテレスは「自然は真空を忌む」と述べて真空は実 在しないと主張した。以後紀元前 3 世紀から 16 世紀までその説が信奉され、実在せ ぬ真空は長い間、思考研究の対象とならなかった。 ところが 17 世紀にまずイタリアの実験家達が何も無い空間である「真空」を実際 に作ったと考えた。後述するように現代科学からみると彼らの作った「真空」は物質 が全く存在しない空間ではなく、大気に比べれば極めて希薄ではあるがなお多数のガ ス分子の飛び交う空間である。しかしこれが今日の「真空」の始まりである。それで は何も無いという意味の「真空」は実在する概念であろうか。今日の相対論的量子力 学によると、宇宙は素粒子という物質と、光というエネルギーの流れと、真空という 空間により構成されるという。そこでは真空はエネルギーレベルが 0 の状態の空間あ るいは場として認識される。空間とか場は物質とは異なるが、実在する概念である。 以上をまとめると「真空」には宇宙の構成要素としての場と気体の密度・圧力が大 気圧より低い空間との 2 つの異なる意味がある。日本工業規格 JIS Z8126 には「真空と 1 気圧よりも低い圧力状態の気体で充たされた空間のことである」と規定している。 我々がデバイスプロセスにおいて扱う真空は、まさにここに規定される後者の「真空」 である。

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    2. 真空技術

    2.1 真空の基礎概念

    (1) デバイスプロセスと真空技術

    多くの要素デバイスプロセスは真空という環境条件下で行なわれる。例えばデバイ

    スの基板材料精製の際には、不純物を排除し酸化を防止するために真空が必要である。

    またシリコンウェーハの熱酸化では、ウェーハを収容する石英管内部を先ず真空にし

    てから清浄な酸素、水蒸気等を供給する。微細加工のリアクテイブイオンエッチング

    では、真空容器内部にシリコンウェーハを配置してグロー放電によりプラズマを発生

    してラジカルとイオンをウェーハに入尃する。イオンインプランテーション・ドーピ

    ングでは、イオンの形成・加速は真空装置中で行なわれる。また半導体・絶縁性・導

    電性の各種薄膜を作製するための CVD や PVD のプロセスは大体真空下で行なわれる。

    このように真空技術はデバイスプロセスにおける共通的基盤の一つである。

    (2) 真空の 2 つの概念

    真空の「空」とは空虚、無という意味であり、日本語でも中国語でも真空とは「ほ

    んとに何も無い」ということになる。英語の vacuum、ドイツ語の Vakuum、フランス

    語の vide、ロシア語のбакуум等はいずれもラテン語の bacuus から出ておりその

    意味も empty つまり「無」とか「空(くう、から)」という意味である。紀元前 4 世紀か

    ら 3 世紀のギリシャの哲学者デモクリストは、世界は原子(アトモス)と空虚な空間(ケ

    ノン)から構成されると考えた。前者は不生、不滅、不変化の物質であり後者が哲学的

    真空である。これに対してアリストテレスは「自然は真空を忌む」と述べて真空は実

    在しないと主張した。以後紀元前 3 世紀から 16 世紀までその説が信奉され、実在せ

    ぬ真空は長い間、思考研究の対象とならなかった。

    ところが 17 世紀にまずイタリアの実験家達が何も無い空間である「真空」を実際

    に作ったと考えた。後述するように現代科学からみると彼らの作った「真空」は物質

    が全く存在しない空間ではなく、大気に比べれば極めて希薄ではあるがなお多数のガ

    ス分子の飛び交う空間である。しかしこれが今日の「真空」の始まりである。それで

    は何も無いという意味の「真空」は実在する概念であろうか。今日の相対論的量子力

    学によると、宇宙は素粒子という物質と、光というエネルギーの流れと、真空という

    空間により構成されるという。そこでは真空はエネルギーレベルが 0 の状態の空間あ

    るいは場として認識される。空間とか場は物質とは異なるが、実在する概念である。

    以上をまとめると「真空」には宇宙の構成要素としての場と気体の密度・圧力が大

    気圧より低い空間との 2 つの異なる意味がある。日本工業規格 JIS Z8126 には「真空と

    は 1気圧よりも低い圧力状態の気体で充たされた空間のことである」と規定している。

    我々がデバイスプロセスにおいて扱う真空は、まさにここに規定される後者の「真空」

    である。

  • 8

    (3) 17 世紀の真空確認実験と気体圧力法則

    表 2-1 に 17 世紀の真空確認の実験と

    気体圧力の法則化の歴史をまとめて示

    す。17 世紀における真空の発見は気圧

    概念と結びついて行なわれた。そして

    一方では真空を実現するための真空ポ

    ンプが作られ、真空実験に使われ、一

    方では気圧に関する考察から密閉容器

    内の流体としての気体の認識と法則化

    が行なわれた。

    ガリレオ・ガリレイは当時井戸掘り

    職人の常識であったポンプで汲

    み上げることのできる水の高さ

    の限度が約 10メートルであるこ

    とから考察して、気圧と水柱の

    高さが均衡すると考えた。図 2-1

    は最初に真空を作ったイタリア

    人のガスパロ・ベルチの実験装

    置を示す。鉛管 AB の長さは約

    35 フィート(約 10.7m)である。装

    置全体に水を入れてからコック

    G, D, B を閉め、次に最下端のコ

    ック B を開くと水面は L の高さ

    に下がり、上部容器 N の中が真

    空になった。水柱の高さは約 10m

    である。容器内のベルを鳴らす

    と音がしたが、今ではそれは空

    気の振動ではなくベルの支持棒

    を伝わった振動であると考えら

    れている。

    図 2-2 はトリチェリーの真空

    実験を示す。ベルチの水柱に対

    してトリチェリーは水銀を使用

    した。図では上部真空空間容積

    と水銀柱の高さは関係ないと書

    かれている。

    図 2-3 は 1960 年前後に行なわ

    れたオットー・フォン・ゲーリッ

    表 2-1 17 世紀の真空確認実験と

    気体圧力の法則化

    1640 ガスパロ・ベルチの真空の実験

    1644 トリチェリーの真空の実験

    1645 オットー・フォン・ゲーリケの真空ポン

    プ、マルデブルクの半球の実験

    1653 パスカルの原理(密閉容器内流体圧力

    一定の法則)

    1660, 1676, 1787, 1801

    ボイル・シャルルの法則(pv =νRT )

    図 2-1 ベルチの実験:AB の

    約 35 フィートの水柱、ベル

    M の鳴る音が聞こえた

    図 2-2 トリチェリーの

    実験:水銀柱高さは上

    部空間容積と無関係

    図 2-3 オットー・フォン・ゲーリッケの水封式真空ポ

    ンプの実験

  • 9

    ケの水封式真空ポンプの実験を示す。木製の樽に水を入れて封止状態にして、人力に

    より往復運動するピストン型ポンプを用いて水を抜出して真空を作ろうとした。ピス

    トンは糸で包んだ木を用い、弁には皮を使用し、水は気密封止液体となる。

    図 2-4 はマグデブルグ市長ゲーリッケがドイツのレーゲンスブルクで行なった公開

    実験を描いた図である。直径約 40cm の銅製半球二個を間に皮にオイルを浸して封止

    して水封式真空ポンプで排気した後に、両側からそれぞれ 8 頭の馬で引き合ってやっ

    と離すことができた。

    これらの真空に関する実験からパスカルは地上の高度により水銀柱の高さが異な

    ることを調べて気圧の概念を確立し、一方で流体に関するパスカルの原理を発見した。

    さらにこれから発展して密閉された容器内の圧力と容積の相関性が認識されて、最終

    的にはボイルシャルルの法則として数式化された。

    (4) 19 世紀後半から 20 世紀前半の真空技術の発展

    真空実験と法則化の蓄積を経て 19 世紀後半から真空の工業的応用と実用的真空ポ

    ンプの開発が始った。ゲーリッケの水封式真空ポンプは自動化され現在でも一部で使

    図 2-4 ゲーリッケのマグデブルクの半球実験:直径約 40cm の銅製半球二個から成る真空封止球

    を 8 頭の馬二組で反対方向に牽引して真空を破ることができた。計算すると約 1 トンの力が必要。

  • 10

    われているが、更に効率のよい水銀柱ポンプ、水銀回転ポンプ、油回転ポンプ、水銀

    拡散ポンプ、油拡散ポンプが開発され広く使われるようになった。またエジソンが真

    空中でフィラメントを通電加熱する白熱電球を発明し、それは真空の最初の工業的応

    用となった。従来のガス灯にかわり電球照明を使うために、発電による電力供給が行

    なわれるようになり 19 世紀後半は電気の時代に入った。20 世紀には電球から発展し

    た真空管が作られ、やがてそれはラジオ放送の送受信のための心臓部品として工業的

    に大量に生産されるようになった。表 2-2 には真空工業技術の歴史的発展を示す。

    (5) 真空の単位とグレード

    真空を示すためには歴史的に様々な単位

    が用いられてきた。真空の概念は元来大気圧

    と関連して理解されたので、大気圧を基準と

    して考えられる。現在では真空は、単位面積

    当たりに気体分子の与える力、即ち圧力とし

    て定量的に扱われる。圧力は MKS 単位では

    Pa(パスカル)が使われる。その外に真空を定

    量的に示す単位としては気圧、気圧表示単位

    である bar, mbar(バール、ミリ・バール)があ

    り、相当する水銀柱の高さをしめす mmHg、

    Torr(ミリメートル・Hg、トール)等が使われる。表 2-3 にそれらをまとめて示す。

    表 2-2 19 世紀後半から 20 世紀前半の真空技術工業化の歴史

    1850 ガイスラーとテプラーの水銀柱真空ポンプ

    1879 エジソンの炭素フィラメント白熱電球

    1881 ニューヨークに火力発電所、電灯事業開始

    1902 フレミングの 2 極真空管

    1905 ゲーデの手回し式水銀回転ポンプ

    1907 フォレストの 3 極真空管

    1910 レイボルトーヘラウス社のモーター式油回転ポンプ

    1915 ゲーデの水銀拡散ポンプ

    1916 ラングミュアの水銀凝縮拡散ポンプ

    1916 バックレーの電離真空計

    1920 ラジオ放送開始(真空管エレクトロニクス時代の幕開け)

    1930 ローレンスとリビングストンのサイクロトロン(大型加速器時代の開始)

    1936 ヒックマンの油拡散ポンプ

    1950 ベヤードとアルパートの極高真空電離真空計

    表 2-3 真空の単位

    MKS 単位 Pa(パスカル、≡N/m2)

    cgs 単位 dyne/cm2

    気圧単位 気圧、mbar(ミリバール)

    慣用単位 Torr(トール、≡mmHg)

    1 気圧 = 760 Torr = 760 mmHg = 1.01×105 Pa

    = 1010 hPa = 1.01×106 dyne/cm2 =

    = 1010 mbar

  • 11

    真空のレベルあるいはグレードは表 2-4 に

    示すように 5 段階に分けられる。真空を扱う

    場合には圧力を非常に厳密に示すよりもまず

    大変大雑把な段階を考えねばならない。実用

    的にどの程度の真空環境下でプロセスを行う

    べきか考え、あるいは実際に扱っている真空

    状態がどの程度であるのか知るための指標と

    される。

    (6) 地表高度と真空

    地球表面は 1 気圧であ

    るが、高度が高くなるほ

    ど気圧は低くなる。富士

    山頂はある意味では真空

    と言える。表 2-5 には地表

    高度と圧力の関係をまと

    めて示す。

    (7) 気体分子運動論

    大気圧空間には莫大な数の気体分子が飛び交っており、真空中でもその数は大変多

    い。後に再び述べるが、大気圧ではその数は 1cm3 の中に 1019 個であり、月の表面のよ

    うな極高真空空間でもその数は 1cm3 中に 103個もある。空間における気体分子の数量、

    速度と圧力や温度の関係は気体分子運動論により与えられる。気体の圧力 p と温度 T

    及び単位体積当り分子数 n は次式により示される。

    p = nkT ・・・・・・(2.1)

    p = NRT ・・・・・・(2.1)’

    但し k はボルツマン常数である(1.38×10-23[J/K])。MKS 単位では p は[Pa], n は[m-3], T は[K]

    である。(2.1)’式は(2.1)式における n の代わりにモル密度 N、k の代わりに気体常数 R を

    用いる表示方法である。アボガドロ数を NA( = 6.022×1023 mol-1 )とすると N = n/ NA、R = k

    NA である。実際に数値計算をする場合には、自分がどちらの式を使っているのか認識

    しておかねばとんでもない桁違いをするから注意が必要である。一方温度が与えられ

    た気体分子の統計的な速度 v を与える分布関数 f(v)はこれを研究した物理学者の名前

    をつけてマクスウェル・ボルツマン分布則(Maxwell-Boltzman velocity distribution function)と

    呼び、次式のように示される。

    表 2-4 真空のグレード

    グレード 圧力範囲 典型例

    低真空 105~102 Pa 蛍光灯

    中真空 102~10-1Pa 電球

    高真空 10-1~10-6Pa 真空装置

    超高真空 10-6~10-9Pa 加速器

    極高真空 10-9Pa 以下 月面

    表 2-5 地表高度と真空

    (地球半径 6,400km)

    地表 0 m 1 気圧(105 Pa)

    富士山頂 3,775 m 0.63 気圧(6.4×104 Pa)

    チョモランマ 8,848 m 0.31 気圧(3.1×104 Pa)

    ジェット航空路 ~10 km 0.26 気圧(2.6×104 Pa)

    電離層(D, E) 100 km 10-2 Pa

    電離層(F) 300 km 10-5 Pa

    静止人工衛星 3.6×104 km 10-9 ~ 10-11 Pa

    月 3.8×105 km 10-10 ~ 10-11 Pa

  • 12

    f(v) =[ 4/(π)1/2](m/2kT)3/2v2exp(-mv2/2kT) ・・・・・・(2.2)

    f(v) =[ 4/(π)1/2](M/2RT)3/2v2exp(-Mv2/2RT) ・・・・・・(2.2)’

    但し m は気体分子の質量である。MKS 単位では v は[m/sec], m は[kg]である。(2.2)’式は(2.2)

    式の m をモル分子量 M( = m NA [g])に置換え、またボルツマン常数の代わりにガス常数

    を使う。(2.2)式から最大確率速度 vp は df(v)/dv = 0 から求められ、平均自乗速度 vr は

    (1/2)mvr2 = (3/2)kT から求められ、平均速度 va は va = ∫vf(v)dv から求められてそれぞれ次

    のように示される。

    vp = (2kT/m)1/2 ・・・・・・(2.3)

    vr = (3kT/m)1/2 ・・・・・・(2.4)

    va = (8kT/πm)1/2 ・・・・・・(2.5)

    (2.3)~(2.5)式もボルツマン常数 k の代りにガス常数 R を使い、分子質量 m の代りにモル

    分子量 M を使って(2.1)’, (2.2)’と同様な表示できる。しかし以下にはそれらは省略する。

    図 2-5 にマクスウェル・ボルツマン速度分布関数 f(v)と最大確率速度 vp、平均速度 va、

    平均自乗速度 vr をそれぞれ示す。また窒素分子(N2)と水素分子(H2)の速度分布を比較し

    て示す。水素は窒素より大変軽いので同じ温度でも、速度はずっと大きい。また室温

    における窒素や酸素等の気体分子の速度は音速(350 m/sec)よりいくらか大きいと覚え

    ておくとよい。

    空間を飛び交う気体分子が別の分子と一度衝突するまでに走行する平均的距離を

    平均自由行程(mean free path)と呼ぶ。分子の直径を d, 空間における分子密度を n とす

    ると平均自由行程λは次式で与えられる。

    図 2-5 マクスウェルボルツマン速度分布関数

    と最大確率速度 vp、平均速度 va、平均自乗速

    度 vr

    図 2-6 窒素分子(N2)と水素分子(H2)の速度分布の

    比較(それぞれ異なる 2つの温度に対してマクス

    ウェルボルツマン則から計算した)

  • 13

    λ = 1/(πd2n) ・・・・・・(2.6)

    上式においてπd2 は粒子衝突の断面積と呼ばれ、しばしばギリシャ文字σを使いσ

    =πd2 として表される。衝突断面積は衝突確率を計算するための概念であり、2.4(4)「電

    離真空計」でも使う概念であり、さらに 3.3(2)「電子と気体分子の衝突と電離」でも

    述べられる概念であるが、ここでは結論だけ示し詳しい説明は省略する。半径 r1 と r2

    の異なる種類の分子がある場合に 2 つの異なる分子衝突を考える場合には、(2.6)式の

    d の代りに(r1 + r2)を用いればよい。MKS 単位では d は[m], n は[m-3], λは[m]の単位である。

    空間を飛び交う気体分子は真空装置を構成する内壁面に入尃して散乱され再び空

    間に戻る。気体分子が壁面に単位面積当たり単位時間当たり入尃する頻度νは次式で

    与えられる。

    ν = (1/4)nva・・・・・・(2.7)

    但し n は気体分子の空間密度であり、また va は(2.5)式で与えられる平均速度である。

    この式は真空容器内壁面に限らず容器内部に物体がある場合の表面入尃頻度の表示

    式でもある。

    気体分子運動論のまとめとして、ガス分子の密度、平均自由行程、面入尃頻度を大

    気圧と典型的な真空中の値を比較して表 2-6 にまとめておこう。これらは表示式(2.1),

    (2.6),(2.7)により得られる。平均自由行程と面入尃頻度を計算するために必要な分子質

    量と直径には、大気中の主成分である窒素分子や酸素分子の質量と直径を用いた。表

    中の n, λ, νは大気圧、高真空、極高真空の象徴的な重要な値である。この中で大気

    圧におけるガス分子密度はロシュミット数(Loschmidt number )と呼ばれる。一方固体平

    面を全面的に覆い尽くす一原子の層を単原子層(あるいは 1 ラングミュア, Langmuir)と

    呼ぶ。もし入尃した原子が表面に付着して再放出しない場合には、高真空でも 1 秒間

    で清浄表面が単原子層により被覆されるが、極高真空の場合にはそれが 1 年間もかか

    ることがわかる。

    表 2-6 ガス分子の密度、平均自由行程、面入尃密度の典型的な値

    (常温、平均自由行程と面入尃密度計算には窒素、酸素等の質量と分子径を使用)

    環境 圧力 ガス分子密度 平均自由行程 面入尃頻度

    大気圧 105 Pa 2.7×1025 m-3

    2.7×1019 cm-3

    7×10-8 m

    ~1000 Å

    3×1027 m-2sec-1

    高真空 10-4 Pa 2.7×1016 m-3

    2.7×107 cm-3

    7×10 m 1019 m-2sec-1

    単分子層 sec-1

    月表面 10-11 Pa 2.7×109 m-3

    2.7×103 cm-3

    7×108 m

    (月の衛星軌道直径)

    1012 m-2sec-1

    単分子層 year-1

  • 14

    2.2 .気体の流れと排気

    (1) 気体の流れ:分子流、粘性流、層流、乱流

    真空容器内部の気体分子を排気するためには、自然の状態で等方的に運動する気体

    分子にある方行の流れを与えなければならない。ここでは先ず気体の流れについて述

    べる。気体の流れは液体等と同じく流体として扱うことができるが、液体流体が一般

    には非圧縮性であるのに気体は可圧縮性である点が大きな違いである。

    気体の流れは先ず粘性流(viscous flow)と分子流(molecular flow)に二分できる。粘性流は

    空間における気体分子同士の衝突が頻繁に発生し、分子間の相互作用である粘性

    (viscousity)が現れる。粘性流は圧力の高い状況で起こり、また気体の流れる系の寸法に

    比べて気体分子の平均自由行程は極めて短い。これに対して圧力が低く、空間におけ

    る気体分子同士の衝突は殆ど起こらず、気体の流れる寸法に比べて気体分子の平均自

    由行程が非常に長い場合の流れは分子流と呼ばれる。粘性流と分子流の中間は中間流

    (medium flow)と呼ばれる。

    粘性流は更に乱流(turbulent flow)と層流(laminar flow)に二分される。流速が小さい場合

    には場所を特定するとその場所における流体の速度は時間的に変動せず一定であり、

    流体の境界である完璧に沿い平行な流線が形成されるが、これを層流と呼ぶ。一方同

    じ物質の流体でも速度が大きくなると流体速度は時間的空間的に不規則な変動をし

    て、流線は完璧に平行ではなくかつ渦巻きを作りながら流れるが、これを乱流と呼ぶ。

    流れが乱流となるか層流となるかはレイノルズ数 Re(Reynolds number)の値によって判

    別できる。レイノルズ数は流体の圧力 p, 平均流速 v, 流れの管径 D, 流体の粘性係数

    ηにより表示され、Re = pvD/ηの関係がある。Re<1,200 の場合は層流であり、Re>2,300

    の場合には乱流となり、その間は中間的である。液体の乱流と層流は流体中にインク

    などを混入させて容易に目で確認でき、また気体の激しい乱流は煙やミストを混入さ

    せて目で確認することができる。

    図 2-7 に粘性流と分子流のイメージを比較して示す。また図 2-8 に乱流と層流のイ

    メージを比較して示す。図 2-9 に層流と乱流にインクを注した様子を示す。

    図 2-7 粘性流と分子流の比較

    図 2-8 乱流と層流における流線

    レイノルズ数:Re = pvD/η

  • 15

    (2) 気体の流量とコンダクタンス

    配管の断面を単位時間に通過する気

    体の量を流量 Q と呼ぶ。気体の量は気

    体の圧力 p と容積 V の積で示すので、Q

    は時間Δt の間に流れる気体量Δ(pV)に

    よって次のように示される。

    Q = Δ(pV) / Δt ・・・・・・(2.8)

    流量はある場所を単位時間に通過す

    る気体の量であるが、またある容器に

    単位時間に流れ込む気体の量であり、

    ある容器から短時間に流れ出る気体の

    量でもあり、さらに真空ポンプによっ

    て単位時間に排気される気体の量であ

    る。流量の MKS 単位は[Pa m3/sec]である

    が実用単位として[Pa m3/h], [Pa ℓ/sec]等

    も使われる。

    途中にバルブのついた 1 本の配管で

    結ばれた 2 つの真空容器について考え

    てみよう。バルブを閉じた状態でそれ

    ぞれの圧力 p1 と p2 に設定して、その後

    バルブを開くと気体は圧力の高い方か

    ら低い方に流れ、その流量は圧力差に

    比例するから次式で表示できる。

    Q = C (p1 – p2) ・・・・・・ (2.9)

    比例係数 C を配管のコンダクタンスと定義する。コンダクタンスは配管の気体の流

    れ易さを意味する。(2.9)式は Q を電流、p を電圧に置き換えると抵抗を通して流れる

    電流と電圧の関係式と同じである。

    真空容器に真空ポンプを接続して排気する時の排気流量を導管で接続する場合に

    ついて考えよう。ポンプの圧力は真空容器の圧力 p に比べて十分小さいとすると(2.9)

    式において p1 を p で置換え、コンダクタンス C の代わりに新たな比例常数 S を用い

    て容器から排気される気体流量を次のように示すことができる。

    Q = Sp ・・・・・・ (2.10)

    図 2-9 乱流(左)と層流(右)に注入したインク

    図 2-11 コンダクタンスと排気スピード

    Q = C (p1 – p2), Q = Sp

    図 2-10 気体の流量

  • 16

    S をポンプの排気速度と定義する。排

    気速度はコンダクタンスと同じ単位

    であり、MKS 単位では[m3/sec]であるが、

    実用単位として[ℓ/sec ]がよく使われ

    る。

    コンダクタンスの単位は上述のよう

    に圧力に依存しないが、コンダクタン

    ス自体は同じ導管でも分子流の場合と

    粘性流の場合では異なり、粘性流でも

    圧力によってその値は異なる。図 2-12

    に円筒導管の圧力依存性を示す。

    導管のコンダクタンスは管が太いほ

    ど大きく、短いほど大きいことは直感

    的にわかる。以下にコンダクタンスの

    表示式をまとめておく。導間の長さが 0

    の場合の極限は面に開いた穴であるが、

    それはオリフィスと呼ばれる。分子流

    におけるオリフィスのコンダクタンス

    は気体分子の面積当り入尃頻度とオリ

    フィス面積の積である。オリフィスの

    面積を A とするとそのコンダクタンス C は(2.7)式から次のように与えられる。

    C = (1/4)vaA = [8kT/(2πm)]1/2A ・・・・・・ (2.11)

    C = 11.6A [ℓ/sec ], A:cm2, 20℃の空気 ・・・・・・ (2.12)

    粘性流領域における円筒導管のコンダクタンスは、導管直径を D、長さを L、平均

    圧力を p*、粘性係数をηとすると次のように与えられる。

    C = [πD4/(128ηL)]p* [ℓ/sec], D:cm, L:cm, p*:Pa, η:poise, ・・・・・・ (2.13)

    分子流領域における円筒導管のコンダクタンスは次式で与えられる。

    C = [ D3/(6L) ][ 2πkT/m ]1/2 ・・・・・・ (2.14)

    C = 12.1D3/L [ℓ/sec], D:cm, L:cm, 20℃の空気 ・・・・・・ (2.15)

    実際の真空装置では真空容器は様々な値のコンダクタンスを持つ導管を組み合わ

    せて排気される。コンダクタンス C1, C2 の導管を直列接続した場合の合成コンダクタ

    ンス C は次式で与えられる。

    図 2-12 円筒導管コンダクタンスの圧力依存

    性:分子流は圧力依存性がなく粘性流はある

    直径D

    長さ L

    図 2-13 面積 A のオリフィス(左)と

    直径 D、長さ L の円筒導管(右)

  • 17

    1/C = 1/C1 + 1/C2 ・・・・・・ (2.16)

    コンダクタンスC1, C2の導管を並列接続し

    た場合の合成コンダクタンス C は次式で与

    えられる。

    C = C1 + C2 ・・・・・・(2.17)

    真空容器にコンダクタンス C の導管を介

    して排気速度 S0 の真空ポンプを接続した時

    の、真空容器の実効排気速度 S は次式で与

    えられる。

    1/S = 1/S0 + 1/C ・・・・・・(2.18)

    先に示した(2.10)式の S は、実際には C》

    S0の時の実効排気速度であることがわかる。

    (3) 排気特性

    図 2-15 に示すように容積 V の真空容器を

    実効排気速度 S の排気系で排気する時に容

    器内圧力 p が時間的にどのように変化する

    か考えてみよう。真空容器から微小時間Δt

    の間に排気される気体量 QΔt は容器の気体減尐量 VΔp に等しく、また排気量 pSΔt

    に等しいから次の微分方程式が成り立つ。

    -Vdp(t)/dt = Q(t) = Sp(t) ・・・・・・ (2.19)

    S が一定であると仮定すると方程式の解は次のようになる。

    p(t) = p0exp( -t/τ), ・・・・・・ (2.20)

    τ = V/S ・・・・・・ (2.21)

    ここで p0 は t = 0 のときの圧力であり、τは排気の時定数と呼ばれる。この式は真

    空容器に最初に封止された気体が排気されるときの圧力変化を示す。しかし実際の真

    空容器には排気最中に新たな気体が発生する。それらの主要原因は真空容器壁表面に

    吸着していた分子が脱離する「ガス放出」、容器壁を外部から通過して侵入する「透

    過」、封止不十分なために外部から侵入する「リーク」に分類できる。このほかにプ

    図 2-15 真空排気系

    図 2-14 合成コンダクタンスと実効排気

    速度:(上)直列接続コンダクタンス 1/C =

    1/C1 + 1/C2, (中)並列接続コンダクタンス

    C = C1 + C2, (下)実効排気速度 1/S = 1/S0 +

    1/C

  • 18

    ロセス最中に化学反応等によりガスの発生

    を伴う場合もある。これらの湧き出しガス量

    を Q*とすると(2.19)式の代りに次の式を使わ

    ねばならない。

    -Vdp(t)/dt + Q* = Sp(t) ・・・・・・ (2.22)

    簡単なために Q*が一定であると仮定する

    と解は次のようになる。

    p(t) = ( p0 – Q*/S )exp( -t/τ) + Q*/S ・・・・・・ (2.23)

    (2.20)式では排気時間をかければ圧力は無

    限に小さくなる。しかし実際には湧き出しが

    あるために長時間排気しても圧力は有限な

    値よりも下げることができず、その値を到達

    圧力と呼ぶ。到達圧力は湧き出しの量 Q*と

    排気速度 S の均衡で決る。現代技術レベル

    ではリーク、透過の湧き出し量は非常に小さく抑制できる。一方真空容器内壁面から

    のガス放出量は、比較的尐ないが長期間に渡り継続し無視できない。しかし排気を継

    続すると表面に吸着している分子も排気されて徐々に減尐するために放出量 Q*も時

    間的に減尐する。図 2-17 はそのような真空系の排気特性曲線を示す。

    (4) 高真空を得るために

    真空を使うプロセスでは高真空が必要とされることが多い。プロセス圧力が高真空

    レベルではない場合でも、プロセス雰囲気中の不純物ガスを尐なく維持することが大

    切であり、そのためには高真空のバックグラウンドが必要である。

    高真空を得るためには(2.23)式からわかるように、第一に排気速度 S を大きくしな

    ければならない。それは大きな排気速度の真空ポンプを用いて、実効排気速度が小さ

    くならぬような排気配管をすることである。

    第二はガスの湧き出し量 Q*を小さくすることである。どれほど大きな実効排気速

    度があっても、大きなリークがあっては無駄な排気になる。まずリークや透過を抑え

    ねばならない。次に真空容器壁面からのガス放出を抑制しなければならない。そのた

    めには適切な真空材料を用い、適切な処理を行なって真空容器を構成するように注意

    を払う。排気初期段階では、真空容器の温度を上げて表面吸着分子を予め放出させる。

    図 2-16 実際の真空容器におけるガスの

    発生要因(リーク、透過、ガス放出)

    図 2-17 実際の排気特性曲線

    透過やリークが尐ない場合には容器壁

    面からのガス放出がゆっくり減尐する

  • 19

    2.3 真空ポンプ

    (1) 2 種類の真空装置構成と

    ポンプの組合せ

    真空容器を排気した後に

    その中に気体を流し込まな

    いで使う装置を閉じた真空

    系(closed vacuum system)とよ

    ぶ。図 2-18 は後に述べる薄

    膜作成用真空蒸着装置の構

    成例であり、この型の真空

    系である。閉じた真空系は

    到達圧力まで排気してその

    まま装置を使用する。(2.23)

    式で示したように、閉じた

    系の到達圧力は真空容器壁

    からのガス放出、と透過、

    リークにより与えられる。

    真空容器を排気した後に

    外部からガスを供給しなが

    ら容器内で作業を行なうよ

    うな真空装置をガス供給系

    を備えた真空装置(open flow

    vacuum system)と呼ぶ。図

    2-19 はシリコンの熱酸化処

    理処理や後に述べる薄膜作

    成用CVD装置の構成例であ

    る。ガス供給系を備えた真

    空装置では真空容器壁面か

    らのガス放出と透過、リー

    ク量に比べてずっと多い流

    量のガスを供給しながら、

    容器内を比較的高い圧力に保って作業を行なう。

    2 種類の装置で使用する真空ポンプは、それぞれの作業圧力、ガス流量、排気ガス

    の種類等に合わせて異なる種類が使われる。閉じた真空装置の場合にはガス負荷能力

    は比較的小さくても高真空の到達圧圧力を充たすことが望まれる。ガス供給系の真空

    装置では当然大きなガス負荷能力が必要とされる。また高真空に到る途中までは主ポ

    ンプとは別に補助排気用ポンプを使用したり、高真空ポンプと補助ポンプを直列接続

    して同時に運転したりする。

    図 2-18 閉じた真空装置構成例

    図 2-19 ガス供給系を備えた真空装置構成例

  • 20

    (2) 各種真空ポンプと適応圧力

    真空ポンプはその動作原理から次の 4 方式に分類できる。

    ① 容積移送方式:気体を圧縮してある空間に閉じ込めて真空容器外部に移送して排

    気するが、バケツで水を汲み出すのにちょっと似ている。水は一旦バケツに入れ

    たら逃げ出さないが、気体が空間から逃げ出さぬような封止と移送の組合せが工

    夫されている。

    ② 運動量授与方式:気体分子の運動方行性を制御して気体分子全体の流れを作り出

    して排気する。高速度の回転翼により気体分子に運動量を与える方法と、分子や

    原子を気体分子に衝突させて運動量を与える方法とがある。

    ③ 物理吸着方式:低温固体表面に気体分子を吸着して排気する。吸着した気体分子

    を固体表面に長時間捕捉するために、気体分子より尐しだけ大きな径の孔が多数

    備えられたアルミナやグラファイトの微粒子が同時に使われる。

    ④ 化学吸着方式:気体分子を化学反応により固体化して排気する。固体金属と気体

    分子との組合せで起こる酸化、窒化、炭化等の化学反応を利用する。

    表 2-7 に各種真空ポンプを方式別に分類して、適応圧力範囲と共にまとめて示す。

    作動液を使うポンプは W(湿式、wet)、使わないポンプは D(乾式、dry)で区別する。W

    の真空ポンプを使って排気すると、真空容器に作動液構成分子が残留ガス成分として

    残り問題視されることがある。

    以下にはデバイスプロセスでよく使われる代表的な真空ポンプ 4 種類を説明する。

    それらは油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ、油拡散ポンプ、クライオポンプである。

    表 2-7 方式別真空ポンプとその適応圧力・作動液有(W)無(D)

    W

    D

    スパッタイオンポンプ

    チタンサブリメーションポンプ

    バルクゲッターポンプ

    クライオポンプ

    ソープションポンプ

    冷却トラップ

    水銀拡散ポンプ

    油拡散ポンプ

    ターボ分子ポンプ

    ねじ溝ポンプ

    ターボポンプ

    ルーツブロアーポンプ

    機械的ドライポンプ

    油回転ポンプ

    低真空 中真空 高真空 超高真空

    D

    D

    D

    D

    D

    D

    W

    W

    D

    D

    D

    D

    D

    W

    化学吸着方式

    物理吸着方式

    運動量授与

    方式

    容積移送方式

    適用圧力レンジポンプ名称ポンプ方式

    非機械式ポンプ

    機械式ポンプ

  • 21

    (3) 油回転ポンプ(oil-sealed rotary pump)

    図 2-20 に容積移送方式真空ポンプの代

    表例である回転翼型油回転ポンプの動作

    原理を示す。円筒容器ポンプの内部には

    回転子と摺動翼が設けられている。摺動

    翼はバネでポンプ容器壁面に押さえつけ

    られ、翼とポンプ容器の間は鉱物油の形

    成する油膜により封止状態を維持しなが

    ら翼が回転する。矢印の方行に回転する

    に従い真空容器内の気体はポンプの吸入

    口からポンプに入り次第に圧縮され突出

    弁を経由して排気される。排気速度は回

    転子の回転速度とポンプ容器の吸入空洞

    容積で決まり、空洞容積は 1~10 リットル

    程度、回転速度は 400~1000 rpm 程度、排気速度は 100~3000 l/min 程度である。油回転ポ

    ンプは大気圧から主として低真空乃至中真空に適応する。到達圧力を決めるのは気体

    の圧縮比とシールの能力である。高真空の到達圧力を充たすためには、図 2-21 に示

    すように二段式の直列接続構成を使う。図 2-22 に回転翼型油回転ポンプの外観写真

    を示す。

    油回転ポンプには油膜と円筒ポンプ容器の組合せによる構造の回転翼型と別の種

    類もある。また油膜の真空封止を用いずに吸入空洞と気体圧縮放出を行なう種類もあ

    る。それらはドライポンプ(mechanical dry pump)やルーツポンプ(roots-blower pump, roots

    booster pump )であるが、円筒型よりも複雑な回転子を用いて排気を行なう。油分子に

    よる真空室の汚染を嫌うプロセス用の装置でよく使われる。構造の説明は省略する。

    図 2-20 回転翼型油回転ポンプの動作原理

    図 2-22 回転翼型油回転ポンプの外観写真

    (左)回転子・摺動翼を収納するポンプ容器、

    (右)回転子に直結するモーター

    図 2-21 二段式回転翼型油回転ポンプの構成

  • 22

    (4) ターボ分子ポンプ(turbomolecular pump)

    図 2-23 に運動量授与式ポンプの代表例

    であるターボ分子ポンプの構成を示す。

    ポンプ容器は円筒形状をしており、その

    中心軸の周りに高速回転する多段のター

    ビン羽根が備えられている。図の上部は

    真空室側に接続され、下部左手前にある

    排気口は油回転ポンプなどの補助ポンプ

    に接続される。タービン羽根を回転する

    と軸に傾斜配置する羽根に気体分子が衝

    突して下方向の運動量が与えら、図の上

    部から下部に向けた気体の流れが生じる。

    これは水力発電機、火力発電に用いられ

    るタービンが水流、蒸気流の力を受けて

    回転するのと逆の動作であり、飛行機の

    ジェットエンジンの動作と似ている。

    図 2-24 はターボ分子ポンプの断面構造を示す。排気流量はポンプ容器の開口面積

    とタービン羽根の段数及び回転速度により決る。開口径は 10~50 cm 程度、回転速度

    は 10,000~90,000rpm 程度、排気速度は 100~30,000 ℓ/sec 程度である。到達圧力は 10-8Pa

    程度であり、それはポンプの前段と後段の気体分子の圧力比(圧縮比)で決る。圧縮比

    は気体分子の質量により異なり、窒素等の重い分子では 108 程度であるが、水素やヘ

    リウム等の軽い分子では 103~105 程度である。圧縮比を大きくするためには回転子(ロ

    図 2-23 ターボ分子ポンプの部分的切り欠き

    構成:中心軸の周りに高速回転する多段の

    タービン羽根が備えられている

    図 2-24 ターボ分子ポンプの断面構造

  • 23

    ーター)と静止羽根(ステーター)の間隙を狭くする必要があり、高精度の加工と組立調

    整が必要とされる。

    ターボ分子ポンプは高真空、超高真空領域でクライオポンプと共によく使われる。

    クライオポンプが気体を溜め込む方式のポンプであり、一定期間動作後には溜め込ん

    だ気体をポンプから放出して再生せねばならないのに対して長期間連続動作できる

    利点がある。ターボポンプは Al 製のタービン羽根がポンプ機能の生命であり、それ

    は 10-2Pa 以下の圧力で動作することを前提としている。もし比較的高い圧力で動作す

    ると、高速回転する羽根が多量の気体分子の負荷を受けて回転速度が低下し、また熱

    変形して危険である。比較的長期間の運転後に羽根の再調整が必要になる。クライオ

    ポンプの典型的な再生サイクルは約 1 週間~1 ヶ月であるが、ターボ分子ポンプの典

    型的な回転バランス調整サイクルは約 1~2 年程度である。

    (5) 油拡散ポンプ(oil diffusion pump)

    ターボ分子ポンプとは別な運動量授与

    方式の真空ポンプである油拡散ポンプの

    構造とその動作原理を図 2-25 に示す。ポン

    プ容器はほぼ円筒形をしており、外側低部

    に電熱器が取り付けられ、外側上半分には

    水冷管が巻きつけられている。ポンプ内部

    には金属製の同心円筒が設けられ、その上

    部には傘が付けられているが、形が煙突に

    似ているのでチムニーと呼ばれる。円筒下

    部はポンプ容器内低部に溜められた鉱物

    油に浸されており、所々に設けられた小さ

    な切り欠きを通して油は各円筒低部で往

    来自由である。電熱器でオイルを加熱して

    沸騰させると油蒸気が円筒に沿って上昇

    しその上部の細い下向きのノズルを経て

    噴出し、ポンプ容器の冷却された壁に入尃して液体となり下側に流れ落ちる。こうし

    て低部で油は沸騰して蒸発し、分子がチムニーに沿って上昇し、ノズルから下方向に

    噴出し壁に当り冷却されて液化し、流れ落ちポンプ容器内部を循環する。その途中で

    真空容器から拡散してポンプに飛込んできた気体分子に衝突する。気体分子は下向き

    の運動量を受けて全体として下降の気体の流れが生ずる。そしてポンプ容器の下部に

    設けられた排気口から油回転ポンプなどの補助ポンプにより排気される。図には油分

    子を黒丸で示し、気体分子を白丸で示し、それらの運動を矢印で示す。

    油分子と気体分子の衝突による運動量授受を有効に行なうためには、衝突は分子流

    領域で行なわねばならない。従って真空容器は予め補助ポンプで排気した状態で油拡

    散ポンプを動作させる。また電熱器を動作させてから蒸気の循環が始まるまでには約

    図 2-25 油拡散ポンプの動作原理

  • 24

    30 分時間がかかるので、それ

    までポンプと真空容器の間

    はバルブで真空的に切り離

    しておく。またポンプ上部に

    は水冷バッフルを設けて油

    蒸気が真空容器側に流れる

    のを防止し、更に真空容器と

    ポンプに間に液体窒素で冷

    却するトラップを設けて油

    分子を捕捉し真空容器側へ

    の侵入を抑制する。ポンプ作

    動液鉱物油の蒸気圧は低い

    が、しかしこのような対策を

    しても油分子のポンプ容器

    内部への拡散を皆無にする

    ことはできないので、油分子

    による汚染を問題視するプロセスでは油拡散ポンプの使用を避ける傾向が強い。

    しかし光学薄膜、装飾薄膜の作製プロセス等の比較的不純物による膜質劣化の尐な

    いプロセスでは、油拡散ポンプは大きな排気速度の非常に低価格な高真空ポンプとし

    て伝統的によく使われる。

    (6) クライオポンプ(cryopump)

    図 2-27 は物理吸着式ポンプの代表

    例であるクライオポンプの構造と動

    作原理を示す。円筒真空容器の内部に

    は、底部からヘリウムコンプレッサー

    に接続されたコールドヘッドが挿入

    されており、先端部には上向きの円筒

    形状冷却第 1 ステージと下向きの円

    筒形状冷却第 2 ステージが取り付け

    られている。ヘリウムコンプレッサー

    を動作させてコンプレッサー側で断

    熱圧縮、コールドヘッド側で断熱膨張

    して第 1 ステージの温度は約 80K に、

    第 2ステージの温度は約 20Kに維持す

    る。気体分子は真空容器からポンプ容

    器内に拡散して、図に示すようにその中の水分子は第 1 ステージに吸着して氷になり、

    窒素・酸素・アルゴン等は第 2 ステージに吸着して固体になる。また第 2 ステージの

    図 2-26 油拡散ポンプの外観:ポンプ容器外周上部には水冷

    管が巻きつけられ、低部には電熱器が組込まれている

    図 2-27 クライオポンプの構造と動作原理

  • 25

    内側に取り付けた炭素粒体は水素を吸着

    する。図には各ステージで吸着される分子

    を H2O, N2, Ar, H2 等の記号で示している。

    図 2-27 にクライオポンプの外観を示す。

    図にコンプレッサーは示されていない。

    クライオポンプは気体分子が低温固体

    表面に吸着して固体になる現象を排気に

    利用する。図 2-28 には各種気体の平衡蒸気

    圧曲線を示す。到達圧力はクライオポンプ

    の低温ステージの温度で決る。市販のポン

    プの低温ステージは 10~20K であるが、図

    に示される如く Ne, H2, He はこの温度では

    十分排気できない。幸いなことに Ne と He

    は大気中含有率が極めて小さいので、通常

    は大きな問題とならない。また H2 は分子

    寸法より尐し大きな微細孔を多数備えた

    炭素粒子を用いてその内部に吸着させ排

    気する。

    図 2-27 クライオポンプの外観写真

    図 2-28 各種気体の平衡蒸気圧曲線(縦軸の単位は Torr)

  • 26

    クライオポンプは真空容器内部の気体分子を吸蔵し第 1 ステージ、第 2 ステージの

    表面にはそれらが凍り固体となって蓄積する。蓄積した固体は熱伝導率が小さくその

    表面温度はステージの温度よりも次第に高くなり、排気速度も低下する。従って排気

    吸蔵した分子はある程度の量が蓄積したら、ポンプより放出して再生せねばならない。

    この問題については既にターボ分子ポンプの項で比較して説明した。

    2.4 真空計測

    (1) 真空全圧測定 3 方式と各種全圧真空計

    真空容器内には様々の種類の気体分子が含まれている。各気体分子の密度を ni( i =1,

    2, 3, ・・・)とするとそれぞれに対応する圧力 pi を考え、次のように示すことができる。

    pi = nikT ・・・・・・ (2.24)

    但し k はボルツマン常数、T は温度であるが異なる種類の気体分子であっても平衡状

    態では温度は同じである。これら異なる種類の気体分子に対応する圧力の総和を系の

    全圧 p と考えて、次のように示すことができる。

    p = ∑pi ・・・・・・ (2.25)

    ここではまず全圧の測定について考える。分圧については後に述べる。全圧の測定

    には次の 4 方式がある。

    ① 変位測定方式:圧力の力を受けて変形する物体の変位を測定して、その値を圧力

    に換算する。

    ② 粘性測定方式:気体の粘性に依存する力を測定して、その値を圧力に換算する。

    ③ 熱伝達測定方式:気体分子により奪われる熱量が気体分子の面入尃頻度に比例す

    ることを利用して、面入尃頻度が気体運動論の(2.7)式ν = (1/4)nva に従うことを利

    用して圧力に換算する。

    ④ 気体分子空間密度測定法式:気体分子を電離してそのイオン電流を測定し、空間

    密度と圧力の関係式(2.1) p = nkT に従い圧力に換算する。

    表 2-8 に各種全圧真空計を上記分類に従いまとめて示す。以下にデバイスプロセス

    でよく使うキャパシタンスマノメータ、熱電対真空計、三極電離真空計、BA 電離真

    空計について説明する。

  • 27

    (2) キャパシタンスマノメータ(隔膜真空計、diaphragm manometer, capacitance manometer)

    変位型真空計の中で U 字管マノメータ

    とマクラウド真空計はいずれも水銀柱の

    高さ測定する方式であり、利便性で劣る。

    またブルドン管は薄い金属管の圧力変形

    を直接目視するもので高精度ではない。こ

    れに対してキャパシタンスマノメータは

    高精度で利便性の優れた真空計である。

    図 2-29 にキャパシタンスマノメータ(隔

    膜真空計)の測定原理を示す。図の左側は

    標準圧力 pr で高真空に保たれており、右側

    が測定圧力 pmで真空容器に接続されおり、

    その間の薄い金属隔膜は圧力差に応じた

    変形をする。隔膜と固定電極との間の静電

    容量を測定することにより高精度で変位

    を検知できる。測定可能圧力範囲は 1 気圧

    から 10-3Pa 程度までである。

    (3) 熱電対真空計(thermocouple gauge)

    図 2-30 は熱伝達真空計の測定原理を示す。測定球には通電加熱するフィラメントが

    設けられており、室温の気体分子は高熱フィラメントに入尃して熱を奪う。フィラメ

    ントから気体により奪われる熱量は、フィラメント入尃分子数に比例するがそれはま

    マグネトロン型電離真空計

    ペニング型電離真空計

    エクストラクタ型電離真空計

    BA型電離真空計

    三極管型電離真空計

    シュルツ型電離真空計④ガス分子空間密度測定方式

    (電離真空計)

    ピラニ真空計

    熱伝対真空計③熱伝達

    測定方式

    スピニングロータ真空計

    水晶振動摩擦真空計②粘性測

    定方式

    キャパシタンスマノメータ

    ブルドン管真空計

    マクラウド真空計

    U字管マノメータ①

    変位測定方式

    極高真空超高真空高真空中真空低真空

    適用圧力レンジ真空計名称計測方式

    マグネトロン型電離真空計

    ペニング型電離真空計

    エクストラクタ型電離真空計

    BA型電離真空計

    三極管型電離真空計

    シュルツ型電離真空計④ガス分子空間密度測定方式

    (電離真空計)

    ピラニ真空計

    熱伝対真空計③熱伝達

    測定方式

    スピニングロータ真空計

    水晶振動摩擦真空計②粘性測

    定方式

    キャパシタンスマノメータ

    ブルドン管真空計

    マクラウド真空計

    U字管マノメータ①

    変位測定方式

    極高真空超高真空高真空中真空低真空

    適用圧力レンジ真空計名称計測方式

    標準圧力 測定圧力

    固定電極

    prpr pm

    pm=prの時の金属

    ダイアフラム

    バッフル

    図 2-29 キャパシタンスマノメータの構造

    と動作原理:標準圧力 prと測定圧力 pm の圧

    力差がないときの薄い金属板隔膜(ダイアフ

    ラム)は実線であるが pm>pr の場合には破線

    の用に変形する。変位は固定電極とダイア

    フラムと間の静電容量で感知する。

    表 2-8 各種全圧真空計と適応圧力範囲

  • 28

    た圧力に比例する。この方式の真空計の適用圧力は、高温フィラメントから外部に放

    出される熱量の主要部が気体の熱伝達による範囲である。気体分子の入尃量が尐ない

    低圧力の場合には、気体による熱伝達量がフィラメントの端部からの熱伝導による放

    熱量と輻尃による放熱量とに近づき測定限界になる。測定可能圧力範囲は大気圧から

    10-1Pa 程度である。

    図 2-31 は熱電対真空計の構成を示す。フィラメントは低電力で加熱して、フィラメ

    ントの熱損失の圧力依存性をフィラメント温度の変化として測定する。

    (4) 三極型電離真空計(ionization gauge)

    図 2-32 に三極型電離真空計

    を示す。ガラス製の測定球内部

    には中心に熱フィラメントが

    配置され、それを包囲する螺旋

    状のグリッドと更にその外側

    を包囲する金属製円筒形状の

    イオンコレクタ電極が設けら

    れている。フィラメントに対し

    てグリッドに+150V 程度、イオ

    ンコレクターに-20V 程度の電

    位を与えると、フィラメントか

    ら放出される電子はグリッド

    に流入するが、その途中で真空中のガス分子と衝突して陽イオンを作る。陽イオンは

    イオンコレクターに流入する。電子電流を Ie、イオン電流を I+とするとイオンの発生

    量は電子の量と気体分子密度 n に比例するので、比例係数をσとすると次式が成り立

    つ。

    A

    V

    熱電対

    フィラメント

    測定球

    真空

    図 2-31 熱電対真空計の構成

    図 2-30 熱伝達型真空計の原理

    I+

    Ie

    図 2-32 三極型電離真空計の構造(左)と測定回路(右)

  • 29

    I+ =σnI e ・・・・・・ (2.26)

    n = p / kT であるから、(2.1)式から、電子

    電流を一定にすればイオン電流は圧力に

    比例すると言える。従って図の電気回路で

    I e を一定に保ちながら I+を測定して圧力を

    知ることができる。

    比例係数σは電離衝突段面積と呼ばれ

    る。2.1(7)の気体分子運動論では気体分子同

    士の衝突の平均自由行程と衝突の段面積

    について述べた。2 種類の気体分子が衝突

    する場合にそれぞれの分子の半径を r1, r2

    とするとσ = π( r1 + r2 )2 で示されると説

    明した。分子に対して電子の寸法は非常に

    小さいから、電子と分子の衝突では r2 = 0

    とすればよい。しかし電離衝突の確率は電

    子エネルギーによって変化する。図 2-33 に何種類かの気体分子に対する電離衝突段

    面積を電子エネルギーの関数として示す。いずれの分子でも電子エネルギーが約 100

    eV のときに最大となる。それ故、図 2-32 で説明したようにフィラメントとグリッド

    の間の電圧は 100~150 V に設定する。電離真空計の圧力とイオン電流の関係は直接

    (2.26)式の表示を使わずに、次のように示す。

    p = ( 1/S )・( I+/Ie ) ・・・・・・ (2.27)

    S は真空計の感度と呼ばれ、イオンコレクターのイオン収集効率をβとするとイオン

    化断面積σ、電子飛行距離 L を用いて次のように示される。

    S =βσL/(kT) ・・・・・・ (2.28)

    電離衝突断面積は気体分子の種類により異なるので、真空計の感度も気体の種類に

    より異なる。窒素ガスに対する感度 SN2 を基準にした他の気体に対する感度の比(相対

    感度)を r とすると、その気体の見かけの圧力 p*と真の圧力 p の関係は次のようになる。

    r = S/SN2 ・・・・・・ (2.29)

    p = p*/r ・・・・・・ (2.30)

    市販の電離真空計は窒素ガスに対する圧力を表示してある。しかし後に述べるよう

    に真空装置を排気するに従い容器内部の気体の組成は変化するので、表示圧力は必ず

    σ

    図 2-33 各種気体分子の電子衝撃による電

    離衝突断面積と電子エネルギーの関係:い

    ずれの分子も電子エネルギーが約 100eV の

    とき最大となる

  • 30

    しも正しい圧力を示す訳でない。図 2-33 から窒素と酸素の電離衝突断面積はほぼ同じ

    であるが、炭化水素ガスであるアセチレンはそれよりも大きく、また水素はそれより

    も小さいことがわかる。炭化水素ガスが主成分の真空の見かけの圧力は比較的大きく、

    一方水素が主成分の真空の見かけの圧力は比較的小さくなる。

    三極型電離真空計の適用圧力は中真空、高真空である。低真空では電子と気体分子

    との衝突の平均自由行程が小さすぎて、電子の加速が十分行なわれず気体分子が電離

    しない測定できない。一方超高真空ではグリッドに入尃する電子が軟 X 線を出して、

    イオンコレクタ電極から光電子が放出されるためにイオン電流の測定限界に達する。

    図 2-34 にそのメカニズムとコレクタ電流と圧力の関係をしめす。

    (5) BA 型電離真空計(Bayard-Alpert ionization gauge)

    図 2-35 は BA 型電離真空計の構造を示す。中心

    に細いイオンコレクター電極、その外周にグリッ

    ド、グリッドの外部にフィラメント電極を配置す

    るが、三極型電離真空計と逆の配置である。コレ

    クター表面積を小さいので軟 X 線照尃による光

    電子放出が抑制され、超高真空まで測定可能であ

    る。それでも軟 X 線による測定限界は生ずる。図

    2-36 に BA 型電離真空計と三極型電離真空計の軟

    X 線による圧力測定限界を比較して示す。図 2-37

    は BA 型電離真空計測定球の外観写真である。BA

    はその発明者 Bayard と Alpert の頭文字である。

    図 2-35 BA 型電離真空計の構造

    図 2-34 三極型電離真空計の軟 X 線効果による圧力測定限界:イオン電流を I+, グリッド入尃電

    子の出す軟 X 線がイオンコレクタを照尃することにより放出される光電子電流を IX とするとコ

    レクタ電流 IC は IC = I+ + IXである。I+が IXに近づくとコレクタ電流は圧力に比例しない。

  • 31

    表 2-9 に BA 型電離真空計

    における代表的気体の相対

    感度をまとめて示す。相対

    感度は真空計球の構造とフ

    ィラメント・グリッド間電

    圧によって若干異なる。

    (6) 真空分圧測定―質量分析計

    真空容器内には各種の気体分子が含まれているが、それらの分圧を測定することに

    より次のようなことが期待できる。

    ① 残留ガス分析によりリークと汚染源を特定する

    ② プロセスガス分析によりプロセス中の異常を発見する

    ③ プロセス最中のガス組成解析とプロセスメカニズムの解明をする

    気体分子の種類を区分するために質

    量分析計を使う。図 2-38 は質量分析計

    の機能ブロックを説明する。気体分子

    はイオン化室で電子衝撃により電離す

    る。次にイオンを加速して分析部を通

    過させ質量毎に区分する。最後に区分

    されたイオンを電流として検出する。

    質量区分方法は磁場偏向分離、電場中

    振動分離、飛行時間分離の 3 種類があ

    三極管型

    軟X線限界

    B-A型 軟X線限界

    IC

    I C

    図 2-36 電離真空計の軟 X 線圧力検出限界

    図 2-37 BA 型電離真空計測定球外観

    気体分子のイオン化

    イオン種の質量別分離

    質量別イオン量の測定

    イオン化室 分析部 検出部

    熱電子フィラメントイオン化衝突

    ①磁場偏向分離

    ②電場中振動分離

    ③飛行時間分離

    ①ファラデーカップ

    ②増倍管

    図 2-38 質量分析計の機能ブロック

    表 2-9 BA 型電離真空計の代表的気体分子に対する相対感度

    気体分子 相対感度 気体分子 相対感度

    水素(H2) 0.42 ~ 0.53 一酸化炭素(CO) 1.05 ~ 1.1

    ヘリウム(He) 0.18 酸素(O2) 0.8 ~ 0.9

    水(H2O) 0.9 アルゴン(Ar) 1.2

    ネオン(Ne) 0.24 水銀(Hg) 3.5

    窒素(N2) 1.00 アセトン

    (CH3COCH3)

    5

  • 32

    る。また検出部はイオン電流を直接測定するファラデーカップと、微小イオン電流を

    増幅して測定する増倍管の 2 種類がある。質量分析計はイオン化室から検出部までイ

    オンが飛行する途中で気体分子と衝突してはならない。平均自由行程が分析系の寸法

    よりも十分大きい圧力範囲、通常 10-3Pa 程度以下で使用する。分析しようとする真空

    室の圧力がこれよりも高い場合には、測定対象と分析系の間のコンダクタンスを小さ

    くして分析系を独立のポンプで排気する。

    [磁場偏向型質量分析計 ](magnetic-field

    deflective mass analyzer)

    図 2-39 は磁場偏向質量分離方法を示

    す。イオンは加速電極を経て、電磁石

    の磁極の間を走行し磁場中でローレン

    ツの力を受けて回転し、磁極の間を通

    過した後は直進して集イオン電極に到

    達する。イオンの質量を M、電荷を e、

    加速電圧を Va とすると、 磁場 B と回

    転半径 r との間には次式が成り立つ。

    r = (2MVa)1/2/B ・・・・・・ (2.31)

    こうして特定な質量と磁場の組合せの

    イオンを分離して測定できる。電磁石の磁場を走査すればそれに対応するイオン電流

    のスペクトル、即ち気体分子質量スペクトルが得られる。なお(2.31)式から M∝B2 で

    あり、磁場を走査する磁場偏向質量分析計の質量スペクトル間隔は質量数が大きくな

    るほど狭く分解能が悪くなる。

    [四重極質量分析計](quadru-pole mass filter)

    -Va

    図 2-39 磁場偏向質量分離

    イオンは加速電極を経て磁極の間で偏向された

    後に集イオン電極に到達する。磁場中の回転半

    径は r = (2MVa)1/2/B で与えられる。

    図 2-40 四重極質量分析計の

    構成(四重極に垂直な断面)

    振動しながら進行するイオンの軌跡

    図 2-41 四重極質量分析計の構成(四重極に平行な断面)と

    振動電界による質量分離の原理

  • 33

    図 2-40, 41 は電場中振動分離法の代表例

    である四重極質量分析計の構成と分離の

    様子を説明する。四重極は 4 本の金属円柱

    電極を配置して、対向する 2 対の電極間に

    直流電圧 U と高周波電圧 V0cosωt を重畳し

    て印加する。イオン化室を出て加速された

    イオンは、四重極に囲まれた空間を走行し

    ながら電場により進行方向に垂直な振動

    をする。振動の振幅が小さく安定している

    場合にはイオンは四重極の間の空間を通

    過するが、発振して大きい場合にイオンは

    四重極に衝突してコレクタに到達しない。

    イオンの質量 M に対して振動が発散しな

    い(U, V)の組合せは限定されたある関係を

    充たすことを利用して質量分離をする。

    図 2-42 は四重極質量分析計におけるイオンの振動が発散せず四重極空間を通過で

    きる条件を説明する。図では 3 つの異なる質量 M1, M2, M3(M1<M2<M3)のイオンに対す

    る安定振動条件を U, V の二次元平面上に三角形に近い実線で囲んで示す。この安定

    条件は四重極電界中における荷電粒子の運動を記述するマシュウ方程式により与え

    られるが、詳細説明は省略して結果のみ簡単に示す。安定領域の頂点を結ぶ直線は

    U/V = λ0 の直線であり、この関係を充たしながら U を走査すると質量 M1, M2, M3 のイ

    オン電流が無限小時間だけコレクタに入尃する。実用上は U/V = (λ0 –Δ)の条件で U

    を走査して有限の時間をかけてイオン電流を測定して質量スペクトルを得ることが

    できる。なおλ0 = 0.17 である。

    U/V = (λ0 –Δ)の条件を充たして走査する場合には図 2-42 の(a)の直線となる。このと

    き四重極質量分析計の質量スペクトルの間隔は質量数に依存せず一定となり、磁場偏

    向質量分析計のような分解能の質量依存性がない。

    [飛行時間型質量分析計](time of flight mass analyzer)

    飛行時間分離方式では、同じエネルギーのイオンでもその速度が質量により異なる

    ことを利用する。イオン化室から出て加速されたイオンビームは、チョッパを通過し

    て極めて短いパルス電流となり、イオンコレクターに到達して電流のスペクトルがそ

    のまま質量スペクトルに対応する。一定加速電圧 Va で一定の距離 L を飛行するイオ

    ン飛行時間 t と質量 M の関係は次式のように表される。

    t = L/v = L(M/2eVa)1/2 ・・・・・・ (2.32)

    イオンの飛行時間は質量の平方根に比例するので質量スペクトルの間隔は質量数

    M3に対する安定

    振動条件領域

    U = Vλ 01

    U = V(λ 01 –Δ )

    U/V = λ 02

    M2に対する安定

    振動条件領域

    M1に対する安定

    振動条件領域

    図 2-42 四重極質量分析計における異なる

    質量のイオン振動の安定条件と質量分離の

    原理:U/V =λ0 –Δを充たして U を走査する

    と質量スペクトルが得られる

  • 34

    が大きくなるに従い狭くなる。またそ

    の分解能は飛行距離とチョッパ及び電

    流の時間分解測定電気回路の性能によ

    って決る。

    [質量スペクトルの解釈と注意]

    質量スペクトルから真空装置内部気

    体の組成を推定するが、質量スペクト

    ルはそのままガス組成を示す訳ではな

    く次の 5 項目の注意が必要である。

    ① 気体分子のイオン化による分解:

    気体分子は電離衝突により分解し

    て親イオンの他に分解粒子イオン

    が発生する。例えばメタン CH4 の

    電離により発生するイオンは

    CH4+, CH3+, CH2+, CH+, C+, H2+, H+で

    あり、いずれも質量スペクトルに

    現れる。気体分子の質量スペクト

    ルは複数の質量ピークを示すが、

    それはクラッキングパタンと呼ば

    れる。図 2-43 にメタンのクラッキ

    ングパタンを示す。各種の気体分

    子の質量スペクトルの標準的デー

    タ が ASTM (American Society for

    Testing and Material) カードとして

    まとめられている。表 2-10 にその

    一例を示す。

    ② 2 価以上のイオンの発生:例えば

    アルゴンの電離により Ar+の他に

    Ar2+はかなり多く発生する。2 価イ

    オンは 1 価イオンの半分の質量の

    位置にスペクトルが現れる。

    ③ 同位体イオンの発生:同じ気体分

    子でも同位体原子を含む場合には

    異なる質量数の位置にスペクトル

    が現れる。例えば 1 価のアルゴン

    イオンでも 40Ar+, 38Ar+, 36Ar+の3種類

    図2-43 メタン(CH4)のクラッキングパタン

    表 2-10 代表的気体分子の質量スペクトル(ASTM

    カード、最大ピークを 100 にして規格化、-は

    微量を示す)

    M/e CH4 H2O N2 CO O2 Ar CO2

    1 3.2 -

    2 1.2 -

    12 2.3 3.5 5.9

    13 7.3

    14 15 8.0 1.4

    15 84 0.03

    16 100 - 1.4 9.23 10

    17 1.1 26.2

    18 100 0.08

    20 5.1

    22 0.56

    28 100 100 2.02 13

    29 0.59 1.2 0.18

    32 100

    36 0.32

    38 -

    40 100

    44 100

    45 1.1

  • 35

    の同位体がある。

    ④ 異なる気体分子の電離確率の相違:気体分子の種類により電離確率は異なるので、

    スペクトルの強度の比はそのまま気体分子構成比率とならない。これは電離真空

    計の相対感度で述べたことと同じである。

    ⑤ 感度の分析計構造依存性:上記①④は厳密に言えばイオン化室の構造とイオン化

    のための印過電圧等の動作条件により異なる。従って装置方式毎に校正が必要で

    ある。

    [真空装置の主要残留ガス成分]

    大気の組成は窒素 78%, 酸素 21%, アルゴン 0.9%, 二酸化炭素 0.03%である。水蒸気

    成分の割合は変動幅が大きいが、20℃における水の飽和蒸気圧は全体の 2.3%に相当

    するので無視できない。真空容器を排気すると、圧力低下に従いリークのない装置で

    は内部気体の組成は大気組成から次第に変化して大体次のようになる。

    ① 低真空(105 ~ 10-1 Pa):主成分は N2, O2, CO, H2O でありほぼ大気と同様の組成

    ② 中真空(10-1 ~ 10-4 Pa):主成分は H2O, CO, CO2

    ③ 高真空(10-4 ~ 10-6 Pa):主成分は H2O, CnHm, CO

    ④ 超高真空(10-6 ~ 10-8 Pa):主成分は CO, H2, CH4, CnHm

    真空容器内壁表面には相当多量の水分子が吸着しており、その吸着エネルギーは比

    較的大きいので真空容器が排気されるとゆっくり放出される。従って中真空、高真空

    では H2O が残留ガスの主成分となる。容器壁面の吸着水分子を放出させるために真

    O2 O2 O2

    図 2-44 真空装置の残留ガスマススペクトルパタン:(a)全圧 3.2×10-6Torr、比較的大きなリーク

    のある系、(b)全圧 5.6×10-9Torr、リークのない系、 (c)全圧 9×10-9Torr、微小リークのある系

  • 36

    空容器を加熱して脱離を促進せねばならない。水分子が十分排気されると超高真空が

    達成される。その主要気体成分 CO は真空容器金属材料に含まれている炭素と酸素が

    反応して放出される。また H2 は金属内部に固溶する H が放出されたもの、CnHm は水

    素と炭素が反応して形成されたものである。

    図 2-44 は真空装置の残留ガスマススペクトルパタンの一例を示す。リークのある

    装置(a)では大気成分の酸素ピーク(M/e = 32)が明確に観察される。M/e = 28 は窒素のピ

    ークであり同時に一酸化炭素のピークでもあるから、リーク判定基準には使いにくい。

    表 2-10 の各種気体のクラッキングパタンをみながら考慮する。

    2.5 ガス流量制御

    デバイスプロセスで使う

    真空装置はガスを供給しな

    がら作業を行うものが多い。

    それらのガス供給系を備え

    た真空系の構成については

    2.3(1)で触れた。装置に供給

    するガスの流量 Q、真空容

    器内の圧力 p、実効排気速

    度 S の関係は次式に従う。

    Q = Sp ・・・・・・ (2.10)

    ガス供給量を精密に制御

    するためにボンベと真空容

    器の間に質量流量制御器

    (MFC: mass flow controller)を

    挿入して、それを経由して

    ガスを供給する

    図 2-45にMFCの構成と外

    観を示す。また図 2-46 に流

    量測定・制御機構を示す。

    供給ガスの大部分はバイパ

    ス①を経由して装置に供給

    され、測定管②を経由して

    コンダクタンスの比で定ま

    る一定割合の流量が検知さ

    れる。流量検知のために測

    定管外周には 2 個のヒータ

    図 2-45 質量流量制御器 MFC の構成と外観

    1

    2

    3

    4

    図 2-46 流量測定・制御機構:①バイパス、②測定管、③流

    量制御ソレノイドバルブ、④流量検知と制御回路、A(上流),

    B(下流)ヒーター兼温度測定コイル

  • 37

    ー兼管壁温度測定用コイル A, B が備えられている。ガスが流れないときには上流側

    コイル A と下流側コイル B に接する管壁温度は等しいが、ガスが流れると上流は低

    く下流は高くなり微小温度差が生ずる。温度差は流量が大きいほど大きい。精密測定

    電子回路④で温度差を測定し、設定値を維持するようにフィードバック制御によりソ

    レノイドバルブ③の開口度を調整して流量を制御する。

    MFC は一気圧で使用し、供給ガスの流れは粘性流である。ガスと測定管の間の熱伝

    達はガスの比熱や粘性係数により異なる。通常の MFC の流量表示値は窒素ガスに対す

    るものであり、市販の MFC には様々な種類のガスに適用すべき換算係数説明書が添付

    されている。

    2.6 リークテスト

    適切な条件を設定して作業を行うためには、デバイスプロセスを開始する前段階で

    真空容器内部は高真空あるいは超高真空にしなければならない。2.2(4)で述べたように

    そのためには第 1 にリークを防がねばならない。市販の真空装置は新品で入手した直

    後はリークがなくても、使用している最中に何らかの原因でリークが発生する。軽度

    のリークは作業者が自分で発見して対策をすることができる。以下には簡単なリーク

    テストについて述べる。

    通常よく使われるリークテスト法は次の 6 種類である。この内①~③は比較的大き

    なリークがあり、排気しても真空容器内の圧力が正常な値まで下らない場合の初歩的

    な検査と対策である。④も手軽な検査法であるが定量的なリーク量を知ることができ

    る。⑤、⑥は本格的な検査法である。

    ① シール部増し締め:初歩的なリークはシール部分が十分機能しない場合が多い。O

    リングや金属ガスケット等のシール材を締め付けているボルトを締め直して到達

    圧力が改善するか否か調べる。

    ② スヌープ法:リークの可能性がある箇所に石鹸水を塗り真空容器内側に窒素ガス

    などを送り込み 1 気圧以上にする。リーク箇所から外部に出てくる窒素ガスによ

    り発砲が確認できる。

    ③ 真空系の圧力変化:リークの可能性のある箇所にアルコール等を尐量かける。も

    しリークがあれば真空容器内の圧力が上昇するのがわかる。

    ④ ビルドアップ法(封止圧力上昇特性):真空容器を高真空まで排気した後にバルブを

    閉じて容器内圧力の時間変化を調べる。長時間にわたり時間に比例した圧力上昇

    が認められればリークがあると見做す。通常一昼夜かけて容器内が 10-5 ~ 10-4Pa 程

    度の圧力から 10-2~1Pa 程度まで上昇するのを調べるとき有効である。

    ⑤ 質量分析計による残留ガス分析:2.4(6)参照

    ⑥ ヘリウムリークデイテクタ:ヘリウムガスを真空装置の外部から吹きかけて内部

    に入ったか否か専用の検出器で調べる。

  • 38

    (1) ビルドアップ法

    真空装置を到達圧力まで排気した後

    にバルブを閉じ排気を中止しすると、

    真空容器内の圧力は次第に上昇する。

    図 2-47 はその様子を示す。もしリーク

    があれば、リーク量を QL、圧力を p、

    容器容積を V、時間を t とすると次式が

    成り立つ。

    V( dp/ dt ) = QL ・・・・・・ (2.33)

    リーク量は一定であるから、高真空か

    ら低真空まで圧力上昇は直線的になる。

    しかしリークがなく真空容器内壁面か

    らのガス放出が圧力上昇の原因である

    とすれば、圧力上昇曲線は図のように

    飽和する。封止圧力上昇特性を調べる

    場合には、測定圧力範囲を広くせねば

    ならないので時間を両対数グラフ上で

    示すとよい。この場合リークであれば

    上昇特性は傾き角度は 45゜になる。

    (2) ヘリウムリークデイテクタ

    図 2-48 はヘリウムリークデイテクタに

    よるリークテストを示す。リークデイテ

    クタは He ガスのみを選択的に検出する

    簡易質量分析計である。配管を介して真

    空容器にリークデイテクタを接続して、

    油回転ポンプ等で排気する。He ボンベか

    らガスを吹付けると、リーク箇所から He

    が真空容器内部に入りリークデイテクタ

    に達して検出されるので、吹付け法と呼

    ぶ。単に吹付けるだけでなく、特定箇所

    をビニールの袋等で覆い He を吹付ける

    方法をフード法と呼ぶ。

    図 2-49 はスニッファ法と呼ぶヘリウム

    リークデイテクタによるリークテストを

    示す。比較的小さな寸法の真空容器の場

    図 2-49 He リークデイテクタ(スニッファ法)

    真空容器内にHeを加圧封入して外部に洩れ

    出すものを検出する

    図 2-48 He リークデイテクタ(吹付け法)

    真空容器外から He ガスを吹付けて内部に

    He があるか調べる

    図 2-47 真空装置の封止圧力上昇特性

    両対数グラフでプロットするとリークがあ

    る場合には傾き 45゜の直線となる

  • 39

    合には He を加圧封入して外部に洩れ出すものを吸引して検出することができる。

    リークデイテクタで He を使う利点は次の 5 項目である:

    ① He の空気中存在量は極めて微量である(約 5ppm)。

    ② 真空容器構成材料中にも He はない。

    ③ He 分子の直径は小さいので原因となる微小孔、割れ目等も容易に通過する。

    ④ He は化学的に安定で無害である。

    ⑤ He は真空装置壁面への付着確率が小さく、リークテストの履歴が残らない。

    注意しなければならないのは He は分子径が極めて小さく O リングやテフロン等の

    高分子材料を透過するので、長時間にわたりリークテストをした場合に微小リークと

    透過の区別ができなくなることである。従って He を使うリークテストはできるだけ

    短時間で済ませることが望ましい。

    2.7 真空技術の問題

    (1) 1 気圧の水銀柱が 760mm であり、それは 760Torr であることから、1 気圧の圧力が何

    Pa か計算せよ。この結果から 1Torr は何 Pa か、また 1Pa は何 Torr か換算せよ。

    (2) 300K、10ℓ、0.1Pa の真空容器内の酸素分子数を計算せよ。真空容器内部のガス組成

    は空気と同じと考える。(空気の組成及び必要な物理定数は理科年表・理化学辞典

    等から探すこと。以下の問題も同じ。)

    (3) ガス分子の基板表面入尃頻度の表示式を示しなさい。真空装置の酸素残留ガス分圧

    が 1Pa とすると、300K のときに基板表面に酸素の単分子層が形成される時間を上

    記表示式から求めよ。酸素分子量を 32, 入尃酸素分子の表面付着確率を 1 として、

    表面に吸着する酸素分子の直径を 3.6×10-10m(3.6Å)と仮定する。

    (4) 粘性流、分子流、層流、乱流を説明せよ。

    (5) 地球上の乾燥した大気の組成は窒素 78%, 酸素 21%, アルゴン 0.9%, 二酸化炭素

    0.03%である。これに加え実際には水蒸気が存在する。真空容器を排気して高真空

    まで圧力が低下すると水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素等が主要構成ガスに変わ

    る(テキスト図 2-44 のマススペクトル参照)。その理由を説明しなさい。

    (6) 吸着型ポンプで毒性ガス排気には使わない理由を考えなさい。

    (7) クライオポンプの1st パネルは H2O 排気が目的である。H2O の分圧を 10-10Pa とす

    るために1st パネル温度は何 K 以下とすべきか、その理由と共に説明せよ。テキ

    スト資料の平衡蒸気圧曲線の縦軸単位が Torr であるのに注意すること。

    (8) 熱伝達型真空計が超高真空領域では働かない理由を説明せよ。

    (9) 質量分析計の示す質量スペクトルがそのままでは真空系の分圧組成に相当しない

    理由を 3 つ説明しなさい。

  • 40

    (10) リークテストでヘリウムガスを使う理由を説明しなさい。

    (11) ガス供給系を備えた真空装置におけるガス供給流量、プロセスガス圧力、排気速

    度の関係式を示しなさい。これによりある特定のプロセス圧力を設定するために

    はガス流量と排気速度の様々な組合せが可能であることを説明し、できるだけガ

    ス供給量が多い方が好ましいプロセスの例とその理由を考えなさい。