平成20年度 神戸大学 大学院理学研究科 化学専攻 入 …氏名 無機化学-2...
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無機化学-表紙
この表紙の裏面を下書き用紙として使いなさい。
平成 31 年度 神戸大学大学院理学研究科 化学専攻 入学試験問題
無機化学
試験時間 12:30-14:30(120 分)
問題[Ⅰ]〜 問題[Ⅳ]に解答しなさい。
表紙を除いて 6 ページあります。
各ページに氏名(用紙上端)と受験番号(用紙下端)を記入しなさい。
受験番号を誤って記入すると採点の対象とならないことがあります。
氏名 無機化学-1
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 無機化学-1
M M+– + +–
[Ⅰ]以下の問いに答えなさい。
問1.第 4周期の金属について,+2価イオンの水和熱を右下図に示す。
(1) 原子番号の増加に伴い,水和熱が全体的
に上昇する傾向にある理由を答えなさい。
(2) 水和熱の変化に二つの山が見られ,Mn2+で極小値をとる理由を答えなさい。
問2.COや CN–を配位子とする金属錯体について以下の問いに答えなさい。
(1)配位子の結合性の軌道から中心金属 Mの軌道へ電子を供与する結合は, CO の場合,以下
のように描くことができる。
逆供与では,中心金属 M の d軌道から配位子の反結合性の軌道へ電子が供与される。電子の流れ,
軌道の形や位相がわかるように,逆供与について説明した下図を完成させなさい。
2400
2500
2600
2700
2800
2900
3000
3100
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10水和熱
[kJ
mol–
1]
Cr Mn Fe Co Ni Cu Ca V Zn Sc Ti
M M
M M+ + +–
氏名 無機化学-2
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 無機化学-2
(2)[M(CN)6]3–でも,中心金属の軌道から配位子の反結合性軌道への逆供与が起こる。Cr3+,Mn3+,
Fe3+,Co3+を中心金属イオンとする錯体を比較した場合,金属-炭素原子間距離はこの順でどのよう
に変化するかを,理由もあわせて答えなさい。
(3)[Fe(CN)6]3–と[Fe(CN)6]
4–で,最も振動数の高い C-N 伸縮振動の波数は,それぞれ 2135 cm–1と 2098
cm–1である。この違いを逆供与の考えを用いて説明しなさい。
[Ⅱ]Oh対称性を持つ,六配位の 3d金属錯体の電子スペクトルについて考える。この金属錯体の電
子スペクトルを説明するために,この系のハミルトン演算子を考える。この系のハミルトン演算子は,
四つの項からなる。
�̂� = (1) + (2) + (3) + (4)
ここで,第 1 項は,一電子ハミルトン演算子の和である。以下の問いに答えなさい。
問1.第 1項の一電子ハミルトン演算子とは,どのようなエネルギーを表すかを説明しなさい。
氏名 無機化学-3
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 無機化学-3
問2.水溶液中の[Ti(OH2)6]3+の可視域に観測される吸収スペクトルを説明するためには,第 1項と第
2項が必要である。第 2項は,どのような相互作用エネルギーを表すかを答えなさい。
問3.水溶液中の[Cr(NH3)6]3+の可視域に観測される二つの吸収帯を説明するためには,第 1項,第 2
項,および第 3 項が必要である。第 3項は,どのような相互作用エネルギーを表すかを答えなさい。
問4.水溶液中の[Cr(NH3)6]3+の 650 nm付近に観測される強度の非常に弱い吸収帯(2Eg ← 4A2g)を説明
するためには,第 1項から第 4項まで必要である。第 4項は,(A)と(B)の間の相互作用エネルギーを表す。
(A)と(B)を答えなさい。
(A) (B)
問5.電荷移動吸収には配位子の軌道から中心金属の軌道への遷移と中心金属の軌道から配位子の軌
道への遷移とがある。
(1) 電荷移動吸収帯は,溶媒和発色(ソルバトクロミズム)を示す。その理由を答えなさい。
氏名 無機化学-4
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 無機化学-4
(2) [CrCl(NH3)5]2+の最低エネルギーの電荷移動吸収帯は,[Cr(NH3)6]
3+のそれより長波長側に存在する。
その理由を答えなさい。
[Ⅲ]以下の(a)〜(d)に注意して,表を完成させなさい。
(a) 窒素原子が複数ある場合は,平均値を答えること。
(b) 窒素原子を黒丸,酸素原子を白丸で描くこと。
(c) 4 個以上の原子からなる分子の場合,平面形であれば平面形,そうでなければ非平面と記入する
こと。3個以下の原子からなる場合は,-と記入すること。
(d) 常磁性気体の場合は〇,そうでない場合は×を記入すること。
窒素原子の酸化数(a)
化学式 名称 構造(気相)(b) 平面形(c) 常磁性気体(d)
NO 一酸化窒素
―
一酸化二窒素
二酸化窒素
四酸化二窒素
氏名 無機化学-5
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 無機化学-5
[Ⅳ]次の文章を読み,以下の問いに答えなさい。解答は解答欄に記すこと。ただし X,Y,Z はそ
れぞれ異なる配位子である。
八面体構造をもつ金属錯体は,中心金属原子またはイオン(M)が六つの配位子に囲まれており,
配位子の組み合わせによって様々な幾何異性体が考えられる。例えば,下図に示すように,化学式
[MX3Y3]の錯体では,( イ )異性体および( ロ )異性体が存在する。化学式[MX2Y4]の錯体で
は(ハ)trans-[MX2Y4]および(ニ)cis-[MX2Y4]が存在する。(ホ)化学式[MX2Y2Z2]の錯体の場合には,鏡像異性
体があるものと鏡像異性体がないものに分けられる。
(イ)-[MX3Y3] (ロ)-[MX3Y3]
六つの配位子が全て同じ金属錯体であっても,必ずしも Oh構造になるとは限らない。例えば,六
配位の銅(II)の(ヘ)dn錯体では,正方ひずみが起こり( ト )構造を示すことが知られている。これ
は,(チ)( ト )構造の方がエネルギー的に有利であるためである。
問1.( イ )および( ロ )にあてはまる語句を答えなさい。
問2.( イ )異性体および( ロ )異性体が属する点群を答えなさい。
問3.上図にならい,下線部(ハ)および(ニ)の構造を図示しなさい。
問4.上図にならい,下線部(ホ)について,考えられる異性体を全て図示しなさい。鏡像異性体が
あるものとないものとに分けること。
問5.下線部(へ)について,n に入る数字を答えなさい。
問6.( ト )にあてはまる点群を答えなさい。
問7.構造が変化したときの d軌道が持つエネルギーの変化に着目し,なぜ下線部(チ)のようになる
のか説明しなさい。
氏名 無機化学-6
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 無機化学-6
解答欄
問1 (イ) (ロ)
問2 (イ) (ロ)
問3 (ハ)
(ニ)
問4
鏡像異性体があるもの
鏡像異性体がないもの
問5 問6
問7
物理化学-表紙
この表紙の裏面を下書き用紙として使いなさい。
平成 31年度 神戸大学大学院理学研究科 化学専攻 入学試験問題
物理化学
試験時間 12:30-14:30(120分)
問題[I]~問題[III]に解答しなさい。
表紙を除いて 4ページあります。
各ページに氏名(用紙上端)と受験番号(用紙下端)を記入しなさい。
受験番号を誤って記入すると採点の対象とならないことがあります。
必要ならば以下の数値を使いなさい。
気体定数 R = 8.31 J K–1 mol–1
ボルツマン定数 kB = 1.38 × 10–23 J K–1
プランク定数 h = 6.63 × 10–34 J s
光速 c = 3.00 × 108 m s–1
アボガドロ定数 NA = 6.02 × 1023 mol–1
電子の質量 me = 9.11 × 10–31 kg
陽子の質量 mp = 1.67 × 10–27 kg
電気素量 e = 1.60 × 10–19 C
氏名 物理化学-1
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 物理化学-1
[Ⅰ]体積可変のシリンダー内に 1 molの理想気体を閉じ込め,恒温槽により絶対温度 Thに保った。
この熱エンジンについて,以下 1から 4の操作を順に行った。下の問いに答えなさい。解答だけでな
く求める過程も説明しなさい。必要なら気体定数を Rとし,モル定積熱容量を CVとして用いなさい。
1. 温度 Thでの等温可逆膨張 (体積 VA ⇒ VB)
2. 温度 Thから Tcへの断熱可逆膨張 (体積 VB ⇒ VC)
3. 温度 Tcでの等温可逆圧縮 (体積 VC ⇒ VD)
4. 温度 Tcから Thへの断熱可逆圧縮 (体積 VD ⇒ VA)
問1. 操作 1によって系に入った熱 qhを式で表しなさい。
問2. 操作 2による系への仕事 w2を式で表しなさい。
問3. 操作 2による膨張について,以下の関係式が成立することを証明しなさい。
(𝑇c𝑇h)
𝐶𝑉𝑅=𝑉B𝑉C
氏名 物理化学-2
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 物理化学-2
問4. 操作 1から操作 4の一連の操作後のエントロピー変化S について,各操作後のエントロピ
ー変化を求めることにより,S = 0 となることを証明しなさい。
問5. 操作 1 から操作 4 の一連の過程で外部に取り出した仕事(w)を求め,熱エンジン効率を式
で表しなさい。
氏名 物理化学-3
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 物理化学-3
[II]A ⇌ B で表される理想気体の化学平衡について考える。A および B の物質量の初期条件をそ
れぞれ nA0 = 1 mol, nB0 = 0 molとし,一定温度 T = 298 K,一定体積 Vの密閉容器内で反応を開始させ
た。ここで,圧力 1 barの時の純物質 A および B の化学ポテンシャルをそれぞれ,𝜇A⊖, 𝜇B
⊖とする。
以下の問いに答えなさい。必要なら気体定数を Rとして用いなさい。
問1. dG = Vdp – SdTという基本式にもとづいて,一定温度条件下の気体 A の化学ポテンシャル
A(p)の圧力 p に対する依存性が,以下の式で表されることを示しなさい。ここで,G, Sは
気体のギブズエネルギー,エントロピーをそれぞれ表し,p の単位は bar で表すものとす
る。
𝜇A(𝑝) = 𝜇A⊖ + 𝑅𝑇 ln 𝑝
問2. A から B への反応進行度をとしたときの混合気体のギブズエネルギーをの関数として
表し,平衡定数 K の自然対数 ln 𝐾を 𝜇A⊖ および,𝜇B
⊖を用いて表す式を導きなさい。
氏名 物理化学-4
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 物理化学-4
[III]平衡反応 A + B ⇌ Cについて考える。298 Kで初期濃度[A]0 = [B]0 = 0.100 mol L−1,[C]0 = 0 mol
L−1の条件で反応させたところ,平衡状態では [C] = 0.0600 mol L−1となった。この反応はエンタルピ
ー変化 ΔH = –33.0 kJ mol−1の発熱反応である。ここで,活量係数は 1とする。
問1. 298 Kでの平衡定数 K を有効数字 3桁で求めなさい。
問2. 323 Kでの平衡定数 K’を有効数字 3桁で求めなさい。ΔH は一定とする。
問3. 323 Kで[A]0 = [B]0 = 0.100 mol L−1, [C]0 = 0 mol L−1の条件で反応させたとき,平衡状態での
[C]を有効数字 3桁で求めなさい。
問4. C が生成物 P を与える場合,P の生成速度は Aと B の濃度を含む速度式で表されることを
示しなさい。ここで,中間体 C には定常状態近似が適用でき,また,P が生成する速度は
非常に遅く,前駆平衡は維持されるものとする。
有機化学-表紙
この表紙の裏面を下書き用紙として使いなさい。
平成 31年度 神戸大学大学院理学研究科 化学専攻 入学試験問題
有機化学
試験時間 12:30-14:30(120分)
問題[Ⅰ]~問題[Ⅲ]に解答しなさい。
表紙を除いて 5ページあります。
各ページに氏名(用紙上端)と受験番号(用紙下端)を記入しなさい。
受験番号を誤って記入すると採点の対象とならないことがあります。
氏名 有機化学-1
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 有機化学-1
[I] 以下の反応式の空欄 A~Xに適切な基質,反応剤,中間体または生成物を構造式で答えなさい。
反応剤については,必要な化学種を全て記すこと。立体異性体が生じる場合は立体化学もはっきりと
書くこと。ただし,Me = CH3,Et = CH2CH3,n-Bu = (CH2)3CH3,t-Bu = C(CH3)3,Ph = フェニ
ル基とする。化合物 Xの 1H NMR スペクトルは CDCl3溶媒中の化学シフト(単位 ppm)を示して
いる。また,1H NMR データには,カップリングの形状(s = singlet(一重線), d = doublet(二重
線), m = multiplet(多重線)),プロトンの数が順に示されている。
氏名 有機化学-2
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 有機化学-2
氏名 有機化学-3
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 有機化学-3
解答欄
A B C D
E F G H
I J K L
M N O P
Q R S T
U V W X
氏名 有機化学-4
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 有機化学-4
[II] 下に示した構造を持つ酒石酸(2,3-ジヒドロキシブタン二酸)に関して以下の問(1)~(4)に答え
なさい。答えは解答欄に書くこと。
(1) 酒石酸には三種類の立体異性体が存在する。それらをすべて Fischer 投影式で書き,すべての不
斉中心炭素に R もしくは S を表記しなさい。
(2) メソ体(メソ化合物)はどれか。Fischer 投影式で書きなさい。
(3) メソ体(メソ化合物)以外の二つの立体異性体の関係を何と呼ぶか。
(4) Sharpless と香月は 1980 年に,tert-ブチルヒドロペルオキシド[(CH3)3COOH],チタン(IV)テト
ライソプロポキシド Ti[OCH(CH3)2]4,(+)-あるいは(-)-酒石酸ジエチルとからなる Sharpless 反
応剤を開発し,アリルアルコールの不斉エポキシ化反応が高選択的に進行することを見出した。
得られるエポキシドの立体化学は経験則により以下に示したものが得られる。
以下のスキームで得られる生成物 A および B の構造を立体化学がはっきりとわかるように書き
なさい。
解答欄
(1)
氏名 有機化学-5
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 有機化学-5
(2)
(3)
(4)
A B
[III] ハロゲン化アリルは求核剤と SN2 反応を起こす(式 1)。ただし, SN2’反応と呼ばれる別の位
置での置換が起こることも知られている(式 2)。この式 1 と式 2 では生成物が同じになるため, SN2
反応と SN2’反応のどちらが起こったのかを生成物から区別することができない。そこで,ある求核
剤を使用した際に SN2 反応と SN2’反応のどちらが進行したかを区別できるような実験を想定し,答
えなさい。
分析化学-表紙
この表紙の裏面を下書き用紙として使いなさい。
平成 31年度 神戸大学大学院理学研究科 化学専攻 入学試験問題
分析化学
試験時間 12:30-14:30(120分)
問題[Ⅰ]~問題[Ⅲ]に解答しなさい。
表紙を除いて4ページあります。
各ページに氏名(用紙上端)と受験番号(用紙下端)を記入しなさい。
受験番号を誤って記入すると採点の対象とならないことがあります。
気体定数を R,絶対温度を T,ファラデー定数を Fとする。
容量モル濃度の単位はM = mol dm–3であり,溶液の温度は 25℃とする。
氏名 分析化学-1
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 分析化学-1
[Ⅰ] 以下の文章を読んで,問1と2に答えなさい。ただし,[ ] は括弧内の溶存種のモル濃度を表
す。すべての溶質の活量係数は 1とし,濃度を用いて計算してよい。なお,RT/F = 0.0257 Vである。
錯形成剤を含まない溶液中の銀イオンの電極反応と平衡電極電位は以下のように表される。
Ag+ + e– ⇌ Ag …①𝐸 = 𝐸° + !"!ln Ag! …②
ただし,𝐸°は標準電位で,標準水素電極(SHE)に対して+0.80 Vである。
しかし,溶液中にアンモニアが存在すると,Ag+ は NH3と 1 : 1錯体および 1 : 2錯体を生成する(そ
れぞれの錯体の全生成定数は,log10 β1 = 3.31,log10 β2 = 7.22)。このため,遊離した銀イオンの濃度
は,β1 および β2,銀イオンの全濃度(𝐶!"!),錯形成していない遊離のアンモニア濃度( NH! )を
用いて次式で与えられる。
Ag! =!!"!
𝐚 …③
したがって,平衡電極電位は,
𝐸 = 𝐸° − !"!ln 𝐚 + !"
!ln 𝐶!"! = 𝐸°!"" +
!"!ln 𝐶!"!…④
いま,溶液に加えた銀イオンに比べてアンモニアの濃度が十分に高く, NH! = 0.10 Mとする。こ
のとき,式④における見かけの標準電位(𝐸°!"")はb V vs. SHEとなり,錯形成剤を含ま
ない場合に比べて負に大きくシフトする。
問1.銀イオンと電子の電気化学ポテンシャル(𝜇!"!および𝜇!!)を表す式を示し,式②を導きなさい。
問2.空欄 a,bに当てはまる数式と数値を,下の解答欄に書き入れなさい。
a b
氏名 分析化学-2
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 分析化学-2
[Ⅱ]次の文章を読んで,以下の問1〜4に答えなさい。
水溶液中の無機塩の溶解度は,温度,pH,濃度(活量)などによって変化する。以下,難溶性塩の溶
解度が活量によってどのように影響を受けるかについて考える。
一般に,温度 T における化学種 i の化学ポテンシャル𝜇!は,i の標準化学ポテンシャル𝜇!!と活量𝑎!を用
いて,
(1)
と表すことができる。いま,難溶性塩であるAgClが以下の溶解平衡にある場合を考える。
AgCl(s) ⇌ Ag! + Cl! (2)
AgCl(s),Ag!,Cl!の化学ポテンシャルを,それぞれ,𝜇!"#$(!),𝜇!"+, 𝜇!"−とすると,(2)の平衡時には,
(3)
が成立する。純粋な固体の活量を1とし,式(1)をAgCl(s),Ag!,Cl!にそれぞれ適用すると,式(3)は,
= −𝑅𝑇ln(𝑎!"+𝑎!"−) (4)
と変形できる。式(4)の左辺は(2)の平衡反応の を表しているので,式(4)の右辺の𝑎!"+𝑎!"−
は,この平衡反応の平衡定数に対応する。この平衡定数は(熱力学的)溶解度積𝑲!"とよばれており,
𝑲!" = 𝑎!"+𝑎!"−で定義される。したがって,Ag!,Cl!の平均活量係数を𝛾±とすると,𝑲!"は,Ag!,Cl!のモ
ル濃度 Ag! , Cl! を用いて以下のように表せる。
𝑲!" = (5)
デバイ・ヒュッケルの理論によると,イオン強度 Iが 0.01から 0.1程度(1–1電解質)の溶液では,電
離によって生じた陽イオン,陰イオンの平均活量係数𝛾±は近似的に次式で表されることがわかっている。
log!" 𝛾± = −0.51 𝑧+𝑧− 𝐼
1+ 𝐼 (6)
ここで,𝑧!,𝑧!はそれぞれ陽イオン,陰イオンの電荷数である。式(5),(6)を用いると,溶液のイオン強
度の変化に伴う塩の溶解度の変化を定量的に見積もることができる。(次頁につづく)
A
B
C
D
E
氏名 分析化学-3
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 分析化学-3
問1.空欄 A~Eにあてはまる数式または語句を以下の解答欄に記入しなさい。
A B
C D
E
問2.純水に AgClを溶解させたときの AgClのモル溶解度を求めなさい。
ただし,𝑲!"(AgCl) = 1.7 × 10!!"とし,かつ,この溶液では平均活量係数𝛾±を 1としてよいとする。
問3.5.0 × 10!!M の硝酸ナトリウム水溶液の平均活量係数を,式(6)を用いて求めなさい。ただし,イ
オン強度は,𝐼 = !!
𝐶!! 𝑧!!(𝐶!は化学種 iのモル濃度,𝑧!は電荷数)で定義されるものとする。
問4.5.0 × 10!!Mの硝酸ナトリウム水溶液中の塩化銀のモル溶解度を求めなさい。また,純水中の場合
(問2)と比較して溶解度が何%変化したか(増加または減少したか)を答えなさい。
氏名 分析化学-4
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 分析化学-4
[Ⅲ] 以下の問1〜3に答えなさい。すべての溶質の活量係数は 1とし,濃度を用いて計算してよい。
問1. 0.10 Mの酢酸溶液 50 cm3に 0.20 Mの水酸化ナトリウム溶液 10 cm3を加えた溶液の pHを求めなさ
い。ただし,酢酸の酸解離指数 pKaを 4.77とする。
問2.クロロホルムと塩酸との二相系において,オキシン(HQ;右下に構造式を示す)の分配比 Dが 1.0
となる塩酸の pHを求めなさい。ただし,HQの分配定数を log10 KD = 2.86,H2Q+ および HQの pKa
を,それぞれ pKa1 = 5.00および pKa2 = 9.70とする。
問3.ICP発光分光法について,以下の用語をすべて用いて説明しなさい。
高周波誘導コイル,アルゴン,プラズマ,原子化,分光器,原子吸光法
量子化学-表紙
この表紙の裏面を下書き用紙として使いなさい。
平成 31 年度 神戸大学大学院理学研究科 化学専攻 入学試験問題
量子化学
試験時間 12:30-14:30(120 分)
問題[I]~問題[III]に解答しなさい。
表紙を除いて 5 ページあります。
各ページに氏名(用紙上端)と受験番号(用紙下端)を記入しなさい。
受験番号を誤って記入すると採点の対象とならないことがあります。
必要ならば以下の数値を使いなさい。
ボルツマン定数 23 1B 1.38 10 J Kk
プランク定数 346.63 10 J sh
光速 8 13.00 10 m sc
真空の誘電率 12 2 1 10 8.85 10 C J m
電子の質量 31e 9.11 10 kgm
陽子の質量 27p 1.67 10 kgm
電気素量 191.60 10 Ce
必要な場合は以下の式を使いなさい。
2
0d
4a xe x
a
10
!dn a x
n
nx e xa
( nは正の整数)
22
10
1 3 5 2 1d
2
n a x
n n
nx e x
aa
( nは正の整数)
22 1
10
!d2
n a x
n
nx e xa
( nは正の整数)
(ただし, 0n の場合は, ! 1n として上の式を使いなさい。)
0 0sin sin d cos cos d
2
a anm
n x m x n x m x ax xa a a a
0sin cos d 0
a n x m x xa a (m と nは整数)
氏名 量子化学-1
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 量子化学-1
[Ⅰ]原子に関する以下の問いに答えなさい。
問1.以下の文章に関して,問①と問②に答えなさい。
水素原子の波動関数は,原子核を原点とした球面極座標系で考えた場合,角度成分(𝜃,𝜙)と動径成分
(𝑟)に変数分離形で表すことができる。ただし,𝜃は z軸からの傾きを表し( 1 )~( 2 )の間で変化する。
また,𝜙は ,x y平面内で回転角を表し( 3 )~( 4 )の間で変化する。このときの角度成分の関数は( A )
で表され,( A )はさらに( B )と( C )の積で表される。一方,動径成分は( D )と( E )を含んだ形で
表される。外部からの摂動が無い場合の水素原子のエネルギー準位は,主量子数 n,角運動量量子数
,磁気量子数mで指定される。主量子数が nであった場合に角運動量量子数 の最小値と最大値は
それぞれ( 5 )と( 6 )で,磁気量子数mの最小値と最大値はそれぞれ( 7 )と( 8 )となる。角運動量
量子数や磁気量子数の値が異なっても,主量子数の値が同じであればそれらの準位は同じエネルギー
を持ち,その様な状況を( 9 )と呼ぶ。水素原子が光を吸収する場合の角運動量量子数に関する選択則
としては = ( 10 ) となる。量子数( , ,n m)が指定された水素原子の持つエネルギーは( F ),角運動
量の大きさは( G ),角運動量の z軸への射影成分の大きさは( H )でそれぞれ表される。
問① 空欄( 1 )~( 10 )に当てはまる適当な数字・記号・語句を解答欄に記入しなさい。
解答欄
(1) (2) (3) (4) (5)
(6) (7) (8) (9) (10)
問② 空欄(A)~(H)に当てはまる適当な語句や式を下記の選択肢(ア)~(ヌ)から選んで,解答欄に記
号で答えなさい。なお,同じ語句を何回使っても構わない。ただし, は / 2h を表す。
(ア)ガウス関数, (イ)ベッセル関数, (ウ)モース関数, (エ)ラゲールの陪多項式,
(オ)ルジャンドル陪多項式, (カ)エルミート多項式, (キ)球面調和関数, (ク)双曲線関数,
(ケ)指数関数, (コ)対数関数, (サ)2e
2 208
m enh
, (シ)2e
2 2208
m enh
, (ス)4e
2 2208
m enh
,
(セ) e 2 22 208
me n
h , (ソ) 1 , (タ) 1m m , (チ) 1 , (ツ) 1m m ,
(テ) 2, (ト) 2m , (ナ) , (ニ) m (ヌ) ( )m
解答欄
(A) (B) (C) (D)
(E) (F) (G) (H)
氏名 量子化学-2
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 量子化学-2
問2.多電子原子に関する以下の問①~⑤に答えなさい。ただし,原子核を座標原点として,相互作用はク
ーロン相互作用のみとする。
問① リチウム原子のハミルトニアンを書きなさい。用いる単位系は明記し,必要な変数やパラメータは各
自で定義してから使うこと。
問② リチウム原子の基底状態の電子配置と,その電子配置が持ちうる電子状態のLS結合における
項記号を全て書きなさい。
電子配置:
項記号:
問③ フッ素原子の基底状態の電子配置と,その電子配置が持ちうる電子状態のLS結合における項記号
を全て書きなさい。
電子配置:
基底状態の電子配置が持ちうる項記号:
問④ 上の問③で挙げた項記号の中で,フントの規則に基づいて考えた場合の基底状態の項記号を
理由と共に答えなさい。
基底状態の項記号:
理由:
問⑤ 1電子近似の下で多電子原子の波動関数を書く場合にスレーターの行列式が用いられる理由を説
明しなさい。
氏名 量子化学-3
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 量子化学-3
[Ⅱ] 右図のポテンシャルに閉じ込められた荷電粒子(電
荷: 0q ,質量:m )について,以下の問いに答えな
さい。なお,この粒子のエネルギー固有関数は次式
で表される。
1 cos ( 1,3,5, )2
( )1 sin ( 2,4,6, )
2
n
n x nL L
xn x n
L L
問1. この粒子に摂動として, x軸方向に一様な電場 E が掛かった場合の相互作用ポテンシャル ( )V x を
書きなさい。
( )V x
問2. この電場によって生じる各準位の1次のエネルギーシフト E を求めなさい。
問3. 基底状態にいた粒子が,この電場との1次の相互作用により励起状態に遷移する場合の選択則を
求めなさい。
氏名 量子化学-4
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 量子化学-4
[Ⅲ]ホルムアルデヒド(H2CO)分子に
ついて以下の問いに答えなさい。ここ
で,H2CO 分子の座標は右図のように
とり,面外方向を x軸とする。分子は
C2ʋ点群に属する。
問1. HOMOと LUMOの分子軌道の波動関数が次式で表されるとする。
MOHOMO 2p (C) 2p (O) 1s(H1) 1s(H2)
MOLUMO 2p (C) 2p (O)
0.18 0.85 0.35 0.35
0.73 0.68
y y
x x
このとき,それぞれの既約表現を答えなさい。
MOHOMO の既約表現 MO
LUMO の既約表現
問2.電子配置が右図で与えられる電子状態1と
電子状態2があるとき,電子状態1から電子状態
2への光収集遷移が許容かどうか,理由と共に答
えなさい。なお,どちらの電子状態も一重項状態で
ある。遷移が許容である場合は遷移モーメントの
方向についても答えなさい。
問3. 基準振動のうち,3つを図に示す。それぞれの既約表現を答えなさい。なお,図中の○+は面
外方向の運動を示す。
既約表現
LUMO
HOMO
…
…
…
…
電子状態1 電子状態2
氏名 量子化学-5
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 量子化学-5
問4.原子核の変位座標の可約表現の指標は右
表で与えられる。このとき,基準振動の既約表
現を求めて,どの既約表現が何個あるか示しな
さい。導出の過程も書きなさい。
問5.三つの回転軸 a, b, cは慣性モーメントの大きさが a b cI I I となるように設定される。
H2CO分子の a軸周りの慣性モーメントを各原子の質量, H C O, ,m m m と C-H 原子間距離 CHR およ
び C-O 原子間距離 COR を用いて表しなさい。導出の過程も書きなさい。ここで,∠HCH=120°と
する。
E C2 σ(zx) σ(yz)
χ(R) 12 -2 2 4
生物化学-表紙
この表紙の裏面を下書き用紙として使いなさい。
平成 31 年度 神戸大学 大学院理学研究科 化学専攻 入学試験問題
生物化学
試験時間 12:30-14:30(120 分)
問題[ I ]~問題[ III ]に解答しなさい。
表紙を除いて 6 ページあります。
各ページに氏名(用紙上端)と受験番号(用紙下端)を記入しなさい。
受験番号を誤って記入すると採点の対象とならないことがあります。
氏名 生物化学-1
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 生物化学-1
[ I ] タンパク質精製に関する以下の問いに答えなさい。
4 種類のタンパク質 A~D の混合試料溶液がある。各々のタンパク質のネイティブ状態での質量
および等電点 (pI) を下に示す。混合試料溶液は pH 7 の緩衝溶液となっている。
質量 (kDa) pI
タンパク質 A 150 10
タンパク質 B 15 9
タンパク質 C 30 6
タンパク質 D 15 4
問1. タンパク質濃度を決定する手法として,波長 280 nm付近での吸光度を測定する方法があるが,
なぜその波長が使われるのか説明しなさい。
問2. 混合試料溶液から,液体カラムクロマトグラフィーを用いてタンパク質 C と D を除きたい。
最適なカラムの種類を述べ,その理由と簡単な手順および予想される結果を説明しなさい。
カラムの種類:
理由と簡単な手順および予想される結果:
問3. 問2で得られたタンパク質 A と B を含む混合溶液から,タンパク質の立体構造を保持したま
まそれぞれのタンパク質を分離したい。適した手法を 1 つ挙げ,その理由と簡単な手順および
予想される結果を説明しなさい。
手法の名称:
理由と簡単な手順および予想される結果:
氏名 生物化学-2
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 生物化学-2
問4. 問3で分離したタンパク質 A について,2-メルカプトエタノールを添加せずに SDS ポリアク
リルアミドゲル電気泳動 (SDS-PAGE) を行ったところ,75 kDa の位置に 1 本のバンドが見ら
れた。次に 2-メルカプトエタノールを添加して SDS-PAGE を行ったところ,25 kDa と 50 kDa
の位置に 2 本のバンドが見られた。タンパク質 A のネイティブ状態における構造を予想し,説
明しなさい。
問5. 問3で分離したタンパク質 B から,構成成分の一部として 22 アミノ酸残基から成るポリペプチ
ドが単離された。このポリペプチドをブロモシアンあるいはエンドペプチダーゼの一種である
( X )で処理した。各断片のアミノ酸配列を解析した結果,以下のような配列が決定された。
ブロモシアン処理 ( X )処理
Trp-Arg-Cys-Phe Asn-Leu-Lys
Gln-Arg-Asn-Leu-Lys-Met Ala-His-Met-Gln-Arg
Phe-Ser-Lys-Pro-Gln-Gln-Met Pro-Gln-Gln-Met-Trp-Arg
Ala-His-Met Met-Ala-Met-Phe-Ser-Lys
1) ( X )に当てはまる語句を答えなさい。
2) 上記の断片化後のアミノ酸配列を相互に比較することで,もとのポリペプチドの N 末端のアミ
ノ酸残基を推測できる。3 文字表記でその名称を答えなさい。
3) ポリペプチドのアミノ酸配列を推測しなさい。ただし,上に示したもの以外に配列を決定でき
なかった断片が存在することに留意しなさい。
氏名 生物化学-3
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 生物化学-3
[ II ] ペプチドおよびタンパク質に関する以下の問いに答えなさい。
次の表は pH 7 における天然アミノ酸残基の残基質量,αへリックスをとる傾向 Pα,および水相か
らオクタノール相へ移動する際のΔGwater→octanol を示したものである。
アミノ酸
3文字表記
[1文字表記]
残基
質量
(Da)
P ΔGwater→octanol
(kJ mol–1)
アミノ酸
3文字表記
[1文字表記]
残基
質量
(Da)
P ΔGwater→octanol
(kJ mol–1)
Ala [A] 71.1 1.42 2.1 Leu [L] 113.2 1.21 – 5.2
Arg [R] 157.2 0.98 7.6 Lys [K] 129.2 1.16 11.7
Asn [N] 114.1 0.67 3.6 Met [M] 131.2 1.45 – 2.8
Asp [D] 114.1 1.01 15.2 Phe [F] 147.2 1.13 – 7.2
Cys [C] 103.1 0.70 – 0.1 Pro [P] 97.1 0.57 0.6
Gln [Q] 128.1 1.11 3.2 Ser [S] 87.1 0.77 1.9
Glu [E] 128.1 1.51 15.2 Thr [T] 101.1 0.83 1.0
Gly [G] 57.0 0.57 4.8 Trp [W] 186.2 1.08 – 8.7
His [H] 137.1 1.00 0.5 Tyr [Y] 163.2 0.69 – 3.0
Ile [I] 113.2 1.08 – 4.7 Val [V] 99.1 1.06 – 1.9
問1. ペプチド X を Ser-Glu-Ala とする。X の pH 7 における水溶液中での構造式を描きなさい。
問2. ペプチド X の等電点 (pI ) を計算式を示して小数点以下 1 桁で求めなさい。ただし,ペプチド
中の主鎖アミノ基,主鎖カルボキシ基,Glu 側鎖の pKa 値はそれぞれ,9.8,2.3,4.1 とする。
問3. ペプチド X の pH 7 における質量 (Da) を表の値を用いて小数点以下 1 桁で求めなさい。ま
た,ペプチド X を pH 7 の重水中に溶解し,25 ℃ において 1 分間静置したところ,質量が増
加していることがわかった。この理由を述べ,増加分の質量 (Da) を計算しなさい。
氏名 生物化学-4
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 生物化学-4
問4. 次のポリペプチド a)~d)のうち,pH 7 における水溶液で α へリックスを最も取りやすいのは
どれであると考えられるか,理由とともに示しなさい。
a) AEYDGSFEAGQVA b) TDEWNFPATKPSL
c) GKASVEMAVRNSQ d) WRAGNRKIVLRTY
問5. 問4で選んだペプチドを用い,問3と同様に重水に溶解する実験を行い質量測定を行ったとこ
ろ,質量の増加量が問3の考え方で予想した値に比べて小さかった。どの部位で増加量が抑え
られたかを含めてその理由を述べなさい。
問6. α へリックスが絡み合う会合体のらせん構造をコイルドコイルと呼ぶ。この構造をつくるポリ
ペプチドは約 7 残基が反復し,通常 1 番目と 4 番目は疎水残基である。疎水基はなぜこの位置
に来るのか説明しなさい。
問7. 表より疎水性の高い順にアミノ酸残基を 4 つ選び,その理由を説明しなさい。
問8. 安定性の向上を目指し,タンパク質内部の疎水性残基をより疎水性の高い残基に置換した所,
逆に不安定化した。考えられる理由を述べなさい。
氏名 生物化学-5
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 生物化学-5
[ III ] イオンなどの物質の生体膜輸送に関して,次の問いに答えなさい。
問1. 生体膜を介する物質の拡散は化学平衡に似ており,膜の内外を (in),(out) として表示すると,
A(out) A(in) という平衡が成り立つ。一般に,溶質Aの化学ポテンシャル AG は次式で表される。
]Aln['o
AA RTGG
ここで'o
AG は標準状態での化学ポテンシャル,Rは気体定数,Tは絶対温度,[A]は A のモル濃
度である。これにより膜の内外それぞれにおいて化学ポテンシャルが定義され,膜の両側の濃
度の違いにより化学ポテンシャル差 AG を生じることになる。膜の内側と外側での A のモル
濃度をそれぞれ[A](in),[A](out)として, AG を表す式を求めなさい。ただし,膜の外側の化学ポ
テンシャルを基準とすること。
問2. イオンが膜を隔てて分布すると,電位差 )out()in( ,すなわち膜電位 が生じる。
溶質 A がイオンだとすると,問1で求めた AG の式には,1 モルのイオン A を膜外から膜内
に膜電位に逆らって(あるいは膜電位に沿って)移動させるときの電気的仕事の項 FzA
を加えねばならない。ここで,zAは A の電荷,Fはファラデー定数である。このとき AG はイ
オン A に関する膜内外での電気化学ポテンシャル差となる。このとき, AG を表す式を求めな
さい。
問3. 問2で求めた式において,イオン A がプロトンであるとすると
FRTG )in()out(H pHpH30.2
となることを示しなさい。
氏名 生物化学-6
この線より下に氏名を書いてはいけません
受験番号 生物化学-6
問4. ミトコンドリア内膜では呼吸鎖電子伝達系により駆動されたプロトンポンプが機能している。
室温で肝臓ミトコンドリア内膜での pH 差を測定すると 0.80(内膜の外側が酸性)であった。
正常に機能しているミトコンドリアでは HG –20.5 kJ mol–1 程度に保たれていることが知
られている。この場合,ミトコンドリア内膜の内外での電位差はどの程度であると推定される
か,有効数字 2 桁で求めなさい。さらに,内膜の内外どちらが負か,答えなさい。必要に応じ
て R = 8.31×10–3 kJ K–1 mol–1,F = 96.5 kJ V–1 mol–1,T = 300 K を用いること。
問5. 問4で説明したようなプロトンによる電気化学ポテンシャル差を利用して,ATP 合成酵素
(F1Fo-ATPase) による ATP 合成が行なわれている。この際,F1部分では
ADP + Pi → ATP + H2O ('o
ΔG = +30.5 kJ mol–1)
の ATP 合成反応が起きていることになるが,問4で示された HG –20.5 kJ mol–1 程度の自由
エネルギーでは全く不充分である事がわかる。どのようにして克服しているのか説明しなさい。
問6. ジシクロヘキシルカルボジイミド (DCCD) は Asp 残基や Glu 残基と特異的に反応する試薬で
ある。この試薬を ATP 合成酵素 (F1Fo-ATPase) に反応させると, ATP 合成反応が阻害される事
がわかっている。どの様な分子機構で ATP 合成を阻害しているか説明しなさい。