2004年 第5巻第1号(通巻13号) issn...

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巻頭言� 歴史は繰り返す............................................................................... p.2� 大阪府立母子保健総合医療センター 総長� 大阪大学名誉教授 岡田 正� NST/ASSESSMENT NETWORK消化器疾患と慢性腎不全の専門病院に適合した� NSTを確立, チーム医療の充実により� 治療成績が向上.............................................................................. p.3─7医療法人永仁会 永仁会病院 院長 宮下 英士 ほかREVIEW DISEASE-SPECIFICα- リノレン酸投与と血中脂肪酸プロフィールの� 関連についての検討.................................................................... p.8─10� 医療法人厚生会 渡辺病院 内科・副院長 渡辺 拓 ほかNUTRITION SUPPORT REVIEW寒天を利用した固形化経腸栄養剤の知識と実践......... p.11─15� ふきあげ内科胃腸科クリニック 院長 蟹江 治郎� NUTRITION CASE REPORTプルモケア ® が奏効した肺気腫の1例................................ p.16─17� 新都市医療研究会「君津会」 南大和病院 内科部長 廣瀬 直人� グルセルナ ® が奏効した症例................................................... p.18─19� 医療法人修仁会 新生クリニック 院長 平 通也� 在宅患者に対する経腸栄養..................................................... p.20─22� 医療法人鉄蕉会 亀田総合病院在宅医療部 部長 小野沢 滋� 監修� 大阪府立母子保健総合医療センター 総長� 大阪大学名誉教授� 岡田 正� 2004年 第5巻第1号(通巻13号) ISSN 1345-7497

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Page 1: 2004年 第5巻第1号(通巻13号) ISSN 1345-7497products.abbott.co.jp/medical/library/NSJ/NSJ-13.pdf写真5 NST全体のランチタイムミーティング <消化器科・糖尿病科>

巻頭言�歴史は繰り返す............................................................................... p.2�大阪府立母子保健総合医療センター 総長�大阪大学名誉教授 岡田 正�NST/ASSESSMENT NETWORK�消化器疾患と慢性腎不全の専門病院に適合した�NSTを確立, チーム医療の充実により�治療成績が向上.............................................................................. p.3─7�医療法人永仁会 永仁会病院 院長 宮下 英士 ほか�REVIEW DISEASE-SPECIFIC�α-リノレン酸投与と血中脂肪酸プロフィールの�関連についての検討.................................................................... p.8─10�医療法人厚生会 渡辺病院 内科・副院長 渡辺 拓 ほか�NUTRITION SUPPORT REVIEW�寒天を利用した固形化経腸栄養剤の知識と実践......... p.11─15�ふきあげ内科胃腸科クリニック 院長 蟹江 治郎�NUTRITION CASE REPORT�プルモケア®が奏効した肺気腫の1例................................ p.16─17�新都市医療研究会「君津会」 南大和病院 内科部長 廣瀬 直人�

グルセルナ®が奏効した症例................................................... p.18─19�医療法人修仁会 新生クリニック 院長 平 通也�

在宅患者に対する経腸栄養..................................................... p.20─22�医療法人鉄蕉会 亀田総合病院在宅医療部 部長 小野沢 滋�

監修�大阪府立母子保健総合医療センター 総長�大阪大学名誉教授�

岡田 正�

2004年 第5巻第1号(通巻13号) ISSN 1345-7497

Page 2: 2004年 第5巻第1号(通巻13号) ISSN 1345-7497products.abbott.co.jp/medical/library/NSJ/NSJ-13.pdf写真5 NST全体のランチタイムミーティング <消化器科・糖尿病科>

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巻 頭 言

今回のNST施設訪問は,宮城県古川市の永仁会病院である。本病院は,消

化器及び腎疾患(慢性腎不全)に特化したベッド数150床弱の中規模病院で,栄

養管理の必要とされる疾患を多く扱っており,栄養管理の充実が直ちに跳ね返

って来る事が期待される病院である。

一般に,NSTが成立する条件として,栄養治療に堪能且つ理解を持った医

師及び熱意を持った優秀な管理栄養士の存在が必須と思われるが,当施設では

それらが整い,ちょうど2年目に実現を見たものである。NSTの活動方針と

して,全入院患者を対象に栄養スクリーニングを実施し,NSTランチミーテ

ィング,3ヵ月毎のまとめの会の励行を掲げ,栄養ケア・マネジメントがシス

テム化されて行われているのは賞賛に価する。次回の報告では,是非共スクリ

ーニングの結果或いは詳細な栄養評価の結果などの生なま

のデータをお示し頂きた

い。

最近,PNI(prognostic nutritional index)なる語がよく用いられているが,

米国ペンシルヴァニア大学Buzbyら(1980)の提唱したものとすれば,身体測定

値等これはアメリカ人を対象としたものであり,またRTP(rapid turnover

proteins)にしても,トランスフェリンなど鋭敏な指標は安全性に欠けるとい

う特性があり,この事を考慮しておく必要がある。

蟹江治郎氏による「寒天を利用した固形化経腸栄養剤の知識と実践」は,胃

食道逆流症(gastro-esophageal reflux disease;GERD)に対する栄養法として

興味深い。氏はこの他PEG(percutaneous endoscopic gastrostomy)における

栄養剤リーク,また下痢に対しても効果ありと述べている。以上の有用性は限

られた病態において効果を発揮する可能性がある。しかし一方では,

elemental diet(ED)が開発された当時,高熱量栄養液をわずか1mm径のチュ

ーブを通じて腸管内に持続投与する事により必要栄養量のすべてを投与可能と

なり,多くの難治性病態に治癒がもたらされた事実を今一度思い起こして頂き

たい。まさに「歴史は繰り返す」である。吸収効率,栄養改善度からの臨床検

討を是非共お願いしたいところである。また,これに関する読者からの御意見

をお伺いしたい。

大阪府立母子保健総合医療センター総長大阪大学名誉教授

岡田  正

歴史は繰り返す

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Nutrition Support Journal 13

NST/ASSESSMENTNETWORK

NST/ASSESSMENTNETWORK

消化器疾患と慢性腎不全の専門病院に適合したNSTを確立,チーム医療の充実により治療成績が向上

医療法人永仁会 永仁会病院 院長 宮下 英士医療法人永仁会 永仁会病院NST Chairman 鈴木 祥郎医療法人永仁会 永仁会病院NST Director 松永 智仁

医療法人永仁会病院が宮城県内のみならず東北地

区においていち早くNSTを発足し維持できたのは,

鈴鹿中央総合病院や尾鷲総合病院においてNSTを設

立・運営してきた実績のある東口得志先生(藤田総

合保健衛生大学外科学・緩和ケア講座教授)が提唱

する“ボトムアップ&トップダウン”の条件が見事

に揃っていたからだと思われる。

宮下英士院長(写真2)は永野病院(永仁会病院の

前身)の時代より,「当院が専門としている消化器疾

患も慢性腎不全も“食”と関連が深い疾患。栄養学

的見地からチーム医療を充実しよう」と考え,1995

年頃より管理栄養士の増員を図っていた。1999年,

現在の地に病院を新築・移転し永仁会病院と名称を

変更したのと同時に,栄養管理科は,管理栄養士の

活動フィールドを透析室,外来,病棟へと拡大し患

者と直接対面できるようになった。

以後,管理栄養士らは,栄養ケアを必要とする患

者を対象に,①身長・体重・体脂肪率だけではなく,

上腕周囲長・上腕三頭筋皮下脂肪厚から上腕筋囲を

算出,②安静時代謝(Resting Energy Expend-

iture;REE)を測定,③入院患者食事摂取量調査は

給食委託業者のシステム協力を得て,毎日の摂取量

を算出した。さらに2000年には,多周波インピーダ

医療法人永仁会 永仁会病院(写真1)は,宮城県古川市にある消化器疾患(胃・腸・肝膵胆・肛門疾患など)と

慢性腎不全(保存期,血液透析,腹膜透析)の診断と治療を行う専門病院。その歴史は,1959年,古川市に開

設された永野外科医院にさかのぼる。以来,たとえば1975年に県北地区の民間病院として初めて人工透析を開

始するなど,常に当該医療圏内の先駆的役割を担ってきた病院である。

NST(Nutrition Support Team)もその1例で,2002年2月15日,宮城県内のみならず東北地区のすべて

の国公私立病院の中で初めて発足させた。その後,約1年半の間に,消化器疾患と慢性腎不全に特化した病院に

おけるNSTのあり方を構築し,栄養管理を基盤に治療成績を向上させている。今回は,永仁会病院における

NST発足までの歩みと,その活動をレポートする。

写真2 宮下英士院長1974年東北大学医学部卒業。1976年東北大学第一外科学教室入局,1987年同講師を経て,1988年7月に永野病院院長に就任。1999年1月より現職。専門分野は消化器外科,主な研究内容は膵疾患の外科的治療。

写真1 医療法人永仁会 永仁会病院消化器疾患と慢性腎不全に特化したベッド数80床(うち個室60床),血液透析ベッド数64床の専門病院。2002年度実績で外来患者約53,000名/年,入退院患者約1,200名/年,平均在院日数14.4日,全身麻酔下手術260件/年。2003年10月現在で血液透析患者は195名,CAPD患者は20名。

NSTの原型ができるまで

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ンス法による身体構成成分の測定を開始した。

一方,腎センターではセンター長である石崎允先

生の指導のもと,保存期から維持透析期までの慢性

腎不全における栄養療法の重要性を認識し,以前よ

り管理栄養士が臨床の現場に積極的に参加し臨床栄

養管理を行っていた。透析療法は医師,看護師,臨

床工学技士,管理栄養士からなるチームで行ってい

く必要があるためチーム医療の素地はすでに出来上

がっていたのであった。このように,管理栄養士が

栄養アセスメントを現場で行っていたことから

「2001年頃には既にNSTの原型が出来上がっていた

ように思う」と宮下院長は述べる。

NST発足の契機は,宮下院長が参加した「第1回

日本健康・栄養システム学会」において,日本静脈

経腸栄養学会の小越章平理事長(当時)がNSTの重要

性を述べた基調講演「栄養管理になぜチームワーク

が必要か」を聴いたことにあった。学会に参加する

までNSTという言葉を知らなかった宮下院長だった

が,チーム医療の真髄をそこにみたかのような感銘

を受けたと話す。その後院長は,翌2002年1月の第

17回日本静脈経腸栄養学会(熊本)にNST設立にあた

りキーマンとなりそうな職員を参加させた。そして,

この学会参加を機に栄養管理に開眼したのが,現在

NSTのChairmanを務める消化器外科医の鈴木祥郎

先生(写真3)である。学会から戻った鈴木先生は,

「永仁会病院にNSTを立ち上げる!」と院長や他の

医師,看護部長に伝え,Directorを腎センター医師

松永智仁先生(写真4)にも依頼し,ついに同年2月

15日に「永仁会病院NST」の設立をみた。

鈴木先生は,「この病院でしかできないことをす

るのだ!」と,①全患者を対象にスクリーニングを

行うこと,②毎週金曜日にNSTランチタイムミーテ

ィング(写真5)を開催すること,③NSTスモールミ

ーティング,ラウンドで実際の患者に接すること,

④3ヵ月ごとに業務の確認と見直しをするための

「NSTまとめの会」を実施することなどを決めた。

NSTの構成・組織は,持ち寄りパーティ方式(Pot-

luck Party Method;PPM)で成り立っている。ただ

し,消化器手術前後の急性期症例が大半を占める消

化器科と,ほぼ全例が慢性疾患である腎センターを

分け,相容れない疾患をいずれもサポートするため

の工夫が行われている。栄養スクリーニング項目

(図1),栄養アセスメント,NST診療記録などは,

各診療科の対象疾患に適合するよう若干異なるもの

を使用し,スモールミーティング,ラウンドも別々

に開催することとした。

同院の消化器科でのNST活動(図2)はこうだ。ま

ず,外来患者全例に対して,身長・体重から算出し4

NST立ち上げとそのシステム

写真3 鈴木祥郎先生1981年北海道大学医学部卒業。1984年東北大学第一外科学教室入局,1988年公立志津川病院 外科科長,1990年仙台徳洲会病院 外科部長を経て,1997年4月永野病院 外科部長。1999年1月より永仁会病院外科部長。専門分野は消化器外科,主な研究内容は intestinal adap-tation。

写真4 松永智仁先生1991年山形大学医学部卒業。1991年山形大学医学部第一内科入局,1999年済生会山形済生病院を経て,2001年10月より永仁会病院腎センター勤務。専門分野は慢性腎不全と透析。

写真5 NST全体のランチタイムミーティング

<消化器科・糖尿病科>�

1項目以上�

BMI�アルブミン�%AMC�浮腫あり�体重減少率5%/月以上�

●�

●�

●�

●�

●�

18.5未満�3.5g/dL以下�80%以下� 2項目当てはまること�

1項目以上�

アルブミン�nPCR

●�

●�

アルブミン�または�●�

3.3g/dL未満�0.7g/kg/day以下�

3.0g/dL以下�

<血液透析>�

図1 栄養スクリーニング項目(2003年4月1日現在)

消化器科でのNST活動

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たBMIなどにより栄養スクリーニン

グを行う。栄養スクリーニングで低

栄養と判定された患者および消化器

術前術後などの栄養ケアを必要とす

る患者に対して,NSTが栄養ケア

を行う。栄養アセスメントは,先述

した管理栄養士によるアセスメント

項目のほか,看護師による主観的包

括的評価(subjective global assess-

ment of nutrition status;SGA)や,

褥瘡や嚥下に関するアセスメントを

実施する。

栄養アセスメントの結果から,個々に対応した栄

養ケアプランを作成する。消化器科においては,日

常の診療時およびNSTスモールミーティングで「ダ

イエットオーダー」が記載され,栄養投与方法や栄

養投与量を明確にする。栄養ケアを実施した結果,

窒素バランスや安静時代謝量,食事摂取量や身体構

成成分の変化などについてモニタリングし,栄養状

態の改善状況を観察する。静脈栄養は薬剤師が,食

事と経腸栄養は管理栄養士がエネルギー量と窒素量

を算出し,看護師が窒素バランス記入表(表1)に記

録している。これらは,NSTの重要な資料として活

用される。栄養状態の改善が得られない場合には,

栄養ケアプランの変更を行う。これらの栄養ケアマ

ネジメント(Nutrition Care and Management;

NCM)は,外来から病棟へ,退院すればまた外来へ

と申し送られ,継続した栄養ケアが実施できるよう

システム化されている。

例を挙げると,消化管再建術を予定している患者

は,外来で栄養アセスメント(図3)を実施し,予後

判定指数(PNI)を算出する。PNIで高リスクまたは

中等度リスクと判定された場合は,早急に栄養療法

を開始する。具体的には,半消化態経腸栄養剤の飲

用を含めた食事指導や入院患者であれば静脈栄養を

併用し,術前の栄養状態改善を図り,術後早期経腸

栄養の対象となる。入院中の経過はすべてNST診療

録に記録され,外来NSTに引き継がれる。

一方,腎センターにおけるNST活動は以下の通り

である。入院患者においては消化器科と同様にNST

スモールラウンドとSGAを実施している。SGAや

AMCの計測は看護師が施行することとし,栄養療

法の重要性をできるだけ職員全員が理解できるよう

栄養スクリーニング�NST

栄養アセスメント�

栄養ケアプラン�

モニタリング�

評 価�

管理栄養士による教育�

身体構成成分,上腕三頭筋皮下脂肪厚,上腕筋囲,�REE測定,食事摂取状況調査(管理栄養士)�窒素バランス,SGA,褥瘡,環境要因(看護師)�

栄養ケアの方針決定(主治医,NST,管理栄養士)�個別・集団栄養指導,調理実習,�献立変更,経腸栄養剤の選択(管理栄養士)�食事介助,静脈・経腸栄養管理(看護師)�

アセスメント項目�(日常診療,看護,栄養指導,NST)�

在院日数,治療効果,システムの評価など�(NSTまとめの会,学会活動)�

経過観察�

栄養ケアの必要な患者� 低栄養� 過剰栄養� 標 準�

図2 NCMにおけるNSTの位置付けと活動

表1 窒素バランス記入表

腎センターでのNST活動

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に心がけているという。またNSTスモールラウンド

では看護師,管理栄養士とともにスクリーニング項

目に該当した患者を回り,問題点の整理が行われて

いる。SGAシートは当初DetskyのSGAシートに修

正を加え使用していたが,看護師を中心に現在さら

に検討中とのことである。

外来患者に対しては,当初NST活動の対象とする

か否かが問題となっていた。この理由について松永

先生は,「慢性腎不全は患者の特徴として低栄養状

態をきたしやすいこと,急性疾患と違い慢性である

こと,入院と違い外来通院で比較的状態は安定して

いるため効果がすぐみえてこないことなどがあり,

うまく活動を軌道に乗せることができるかといった

危惧があったからだ」と説明する。

そこで腎センターの取り組みは,数回にわたり透

析スタッフを中心に勉強会を行い,栄養療法の重要

性を再認識することから開始された。腎センター看

護師を中心にSGAを定期的に行い,そして外来透析

患者に対してもNSTスモールラウンド(写真6)を実

施することとし,ラウンドの度に図4のようなコメ

ントを入れ,患者に説明することで患者自身も栄養

について関心をもてるように心がけたという。

腎センター看護師長 阿部年子さんは,「以前より

栄養の評価スケールとしてたん白異化率(protein

catabolic rate;PCR)を指標としていたが,看護師

間では周知されておらず,NST導入により認識が共

有されるようになった」と述べる。さらに「SGAや

栄養アセスメントから栄養状態の評価が低い症例

は,週1回の透析室カンファランスにおいて改善策

の検討を図り,NSTスモールラウンドに活かしてい

る。今後もチーム医療の質を高め患者様が充実した

生きがいのある透析ライフを送れるようにしたい」

と意気込みをみせている。

臨床工学技士の及川一彦さんは「我々もAD(As-

sistant Director),Core StaffとしてNSTに参加して

いる。透析療法において質の良い透析療法を維持し

ていくことが大切であり,そのための透析効率の測

定,身体計測値,検査データの管理を以前より行っ

ていた。今後も適正透析条件への変更など技士の立

場からできる栄養的サポートを検討し,患者様の栄

養状態の改善に努めたい」と抱負を述べている。

腎センターを担当している管理栄養士の瀬戸由美

さんは「病棟,外来を問わず,栄養アセスメントに

おいてどうしても食事摂取量が目標に達しない患者

様には,栄養ケアプランの1つとしてその患者様に

合った経腸栄養剤を勧めている。また透析室のカン

ファランスで検討した上で透析中に栄養改善を目的

とした点滴の併用( Intradialytic Parenteral

Nutrition;IDPN)も積極的に行っている。また,慢

図3 栄養アセスメントシート(女性用)

写真6 腎センターでの回診外来透析患者を対象に,スモールラウンドを行っている。

図4 腎センター透析室のNST診療記録

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性疾患であるためにNSTの効果がすぐみえないこと

も多いが,栄養科ではNSTの活動に目標を決めて行

うようにしている」と話す。

しかし,ここに至るまでにはさまざまな混乱があ

ったのも事実である。最大の問題点は栄養管理の重

要性が認識されていないことにあった。また,栄養

アセスメントを行う上で,身体計測,蓄尿など業務

が増えたにもかかわらず,当初は職員の一部のみが

NSTメンバーとしてNST活動を行ったため,他の職

員の協力が得られずNSTメンバーの不満が看護部門

で続出した。特に窒素バランスの算出に対して院内

の抵抗が強く,NST崩壊の危機に晒されたこともあ

ったという。鈴木先生は「患者の水バランスをみる

のが当たり前であるように,窒素バランスは,日々

の栄養の動きがみえる重要な指標だ。急性期に対応

するNSTだからこそ,毎日の変化にすばやい対応が

要求されるのだ。これは管理栄養士が正確な食事調

査を行っている当院にしかできないことなんだ」と

強く訴え,職員への理解を求めた。看護部門も,

「NSTメンバーだけがやろうとするから苦労するの

だ。この作業をみんなで分担し,一人ひとりの負担

を減らそう」と,NST活動を日常業務に組み入れる

ことで対応し,この危機を乗り越えていった。

またNST発足当初は,カルテに身長・体重の記録

がされていない患者も少なくなかったため,腎セン

ター医師でありNST Directorを務める松永先生から

「栄養の基本である身長・体重の測定を怠った者か

ら罰金をとる!」という発言(脅し?)があったとい

う逸話もある。

同時に,全職員を対象とした定期的な栄養や輸液

の勉強会,NSTランチタイムミーティングでのミニ

レクチャー,第18回日本静脈経腸栄養学会への演題

発表,東北NSTセミナーへの参加などを通じて,少

しずつではあるが職員へ栄養療法の重要性が浸透し

ていった。

NST発足から1年半が過ぎ,NSTメンバー経験者

が増えていくにつれ,治療効果を向上させるために

は,栄養状態を良好に保つことが重要であると認識

する職員が増加してきた。「栄養状態の低下を最小

限に食い止めるため,できるだけ早い段階に,多く

の目で観察しよう」というChairman鈴木先生の意

向のもと,6期以降はすべての職員をNSTメンバー

とし,ADを支えるCore Staffを設置した形となり,

現在では放射線科,検査科のみならず,医事課,総

務課もそれぞれテーマをもち,NSTの一員として活

動している。NSTというよりはNSH(hospital)を目

指していくという考えであるそうだ。

現在,消化器科では,スクリーニング実施率

92.3%の実績を誇る。残り8%弱は,24時間以内に

退院や転院される方であるため,ほぼ全症例に実施

されているといえるであろう。また,NST発足後,

幽門側胃切除例に対して術翌日から経腸栄養を加え

良好な結果が得られている。早期経腸栄養実施群

(A群)で,静脈栄養単独群(B群)に比べて,術後1

週間以内にみられる著しい体重減少が抑制され(体

重減少率;A群98.1%,B群95.4%),平均在院日数が

短縮(A群;15.5日,B群;22.2日)されている。現在

は患者の栄養状態に応じた,術前・術後を通した栄

養パスを検討中であるという。

一方,腎センターでも,以前からの取り組みに

NSTを加えることで透析患者の生命予後を全国平均

より良好に保っている。透析患者の7年生存率では

全国平均で女性52.2%,男性49.8%に対して,当院で

は女性71.4%,男性58.9%となっている。保存期から

透析療法への移行も,栄養学的な面を合わせてみて

いくことで,よりスムーズになったという。

さらに2003年より褥瘡対策チームを発足,NST活

動での栄養サポートと合わせて褥瘡発生率を3.5%か

ら2.0%へと減少させている。このように,少しずつ

ではあるが着実に成果を出しつつあるといえよう。

最後に,栄養管理科科長 鎌田由香さんはこう話

してくれた。「NSTとは,患者様のためになるばか

りでなく,我々医療者にとっても従来の縦割りのセ

クショナリズムでは収まらない共通のタスクを通し

て相互理解を深め,チーム医療を実践することで

個々の技術,能力だけでなく,人間性をも磨くこと

ができるものであると実感しています」。今後も,

同院に最もふさわしいNSTのあり方を模索しながら

より高い治療成績を輩出し,全国の消化器疾患,慢

性腎不全患者を診療する施設のNSTモデルケースに

なることを期待したい。

NST活動の成果と今後の活動

現場の混乱の末,職員全員がメンバーに

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本邦では,進行癌や脳卒中後遺症,神経疾患などの基

礎疾患を有し,食事の経口摂取が困難または著しく低下

している症例が増加している。これら経口摂取困難な症

例の栄養管理は,医療上重要な問題となっている。この

ような症例には中心静脈栄養(total parenteral nu-

trition;TPN)による輸液管理,あるいは経鼻,胃瘻,

腸瘻など経管栄養が一般に行われている。経管栄養は,

投与経路がより生理的であり,bacterial translocation防

止の面からも有用性が指摘されている1)。しかし,経口

摂取された日常食とは異なり,投与された栄養素がその

まま血中に反映されるため,投与製剤の種類と量の差異

によって微量元素,ビタミンなどさまざまな栄養素の欠

乏が臨床的に指摘されている2)-4)。それら栄養素のなか

でもn-3系,n-6系の多価不飽和脂肪酸の量やバランス

は生体内の血小板凝集,アレルギー,炎症過程などに関

与するため重要であり,1971年にはグリーンランドのイ

ヌイットに関する疫学調査の結果が報告され5),動脈硬

化性疾患との関連で注目されている。すなわち,クジラ

やアザラシなどの海獣類や魚類から魚油を大量に摂取す

るイヌイットでは冠動脈心疾患の死亡率は低いという結

果が報告され,n-3系の多価不飽和脂肪酸が動脈硬化性

疾患の予防との関連で注目された。また,n-3系の必須

脂肪酸であるα-リノレン酸(18:3)は,生体内でエイコサペンタエン酸(EPA;20:5)やドコサヘキサエン

酸(DHA;22:6)などの魚油に変換されるといわれて

いるが不明な点が多い。そこで,経口摂取困難な症例に,

比較的多量のα-リノレン酸を含有している経管栄養食(K3S:キューピー)および,α-リノレン酸が豊富に含まれているシソ油そのものを経口投与し,血中脂肪酸プロ

フィールの変化について検討した。

患者本人または家族の同意のもと,次の例を対象とした。

①脳卒中後遺症により経口での食事摂取困難であり,

K3S以外の経管栄養食により栄養管理されてきた4例

(経管栄養群,77.5±7.1歳,経管栄養食の平均投与期

間:約7ヵ月),日常食摂取可能な高齢健常者13例(対照

群,80.2±6.0歳),および中心静脈栄養による輸液管理

を行っている13例(TPN群,80.6±8.7歳,中心静脈栄養

平均投与期間:約4ヵ月)を対象とした。このTPN群は

脂肪製剤を投与されていない症例である。

経管栄養群の経管栄養食をK3S 900mL/日に変更投与

(K3S群)し,約7ヵ月後に血中脂肪酸プロフィールを測

定し,TPN群,対照群と比較検討した。脂肪酸分析は

早朝空腹時に採血後,既報に準じて血漿1mLをFolch抽

出後,加水分解,メチル化を行い,ガスクロマトグラフ

REVIEWDISEASE-SPECIFIC

REVIEWDISEASE-SPECIFIC

α-リノレン酸投与と血中脂肪酸プロフィールの関連についての検討

α-リノレン酸は魚油の主成分であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)の前駆体であり,生体内でEPAやDHAに変換されるといわれているが,これについては不明な点が多い。今回の検討では,比較的大量のα-リノレン酸を投与し,血中脂肪酸プロフィールの変化について検討した。その結果,生体内でα-リノレン酸からEPA,DHAへの変換は確認できず,魚油欠乏患者では,魚油の代用としてα-リノレン酸のみを摂取するのではなく,魚油そのものの補充が必要であることが示唆された。

経管栄養 α-リノレン酸

魚油欠乏エイコサペンタエン酸 ドコサヘキサエン酸

はじめに

対象および方法

Summary

Key Words

医療法人厚生会 渡辺病院 内科・副院長 渡辺  拓

弘前大学医学部保健学科病因・病態検査学 教授 中村 光男

Nutrition Support Journal 13

8

Profile わたなべ たく 

’92年杏林大学医学部卒業,弘前大学医学部第三内科に入局。’99年医療法人厚生会渡辺病院(青森市)へ着任。’00年4月より現職。医学博士。内科認定医。専門は糖尿病,胃排出機能の簡易的測定法(13C-酢酸を用いた呼気13CO2分析),膵臓病,臨床栄養(脂肪酸,ビタミン,微量元素)。

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ィー法で分析した6)。

K3S群および経管栄養群に投与されていた経管栄養食

の100mL中の組成を表1に示す。K3Sの必須脂肪酸組成

ではα-リノレン酸の含有量が100mL中205.2mgと多いのが特徴である。

②脳卒中後遺症により経口での食事摂取困難であり,

経管栄養食により栄養管理されてきた3例(63.0±9.0歳)

を対象とした。通常の流動食〔ライフロン�PZ-Ⅱ800mL/

日(製造:日清キョーリン製薬,販売:日研化学)〕投与

中を前として,シソ油(α-リノレン酸約55%含有)を5g,10g,20gを各2週間流動食に追加投与し,シソ油追加

投与前と投与後とで血中脂肪酸プロフィールの変化につ

いて検討した。脂肪酸分析は早朝空腹時に採血後,①と

同様に脂肪酸分析を行った。

③健常者3例(20歳代)にシソ油20gを1週間投与し,

血中脂肪酸プロフィールについて測定した。脂肪酸分析

は早朝空腹時に採血後,①と同様に脂肪酸分析を行った。

1.各群間(経管栄養群,対照群,TPN群,K3S群)の血中脂肪酸プロフィールの比較

脂肪酸プロフィールの比較のまとめを表2に示す。

TPN群のα-リノレン酸百分率は,K3S群(0.45±0.20 vs.1.31±0.12%),対照群(0.45±0.20 vs. 0.91±0.29%)に比

し有意な低下が認められ,K3S群は対照群(1.31±0.12

vs. 0.91±0.29%)に比べα-リノレン酸百分率は有意に高値だった。

EPAは,対照群に比しK3S群(3.75±1.79 vs. 1.15±

0.47%)およびTPN群(3.75±1.79 vs. 1.00±0.67%)で有

意に低下していた。同様に,DHAも対照群に比しK3S

群(7.69±1.18 vs. 4.76±1.02%)およびTPN群(7.69±1.18

vs. 4.44±1.05%)で有意に低下していた。

2.シソ油(5,10,20g)投与後の血中脂肪酸の変化血中α-リノレン酸百分率はシソ油投与前1.4%であっ

たが,シソ油5g投与で2.2%,10g投与で4.3%,20g投

与で7.6%とシソ油投与量に比例し漸増した。しかし,

α-リノレン酸から内因的に合成されうるn-3系列のEPA,DHA百分率に有意な変化を認めなかった(図1)。

3.若年健常者におけるシソ油(20g)投与後の血中脂肪酸の変化

血中α-リノレン酸百分率はシソ油投与前0.4%であったが,シソ油20g投与で3.6%と有意に増加した。しかし,

EPA,DHA百分率はシソ油投与前後で有意な変化は認

められなかった(図2)。

K3S投与後,血中脂肪酸プロフィールは対照群,TPN

群に比し,α-リノレン酸など必須脂肪酸百分率の増加を認めた。この理由として,K3Sにはα-リノレン酸の含有量の多いシソ油が配合している結果と考えられた。しか

表1 各経管栄養食の組成の比較(100mL中)

(各製剤パンフレットより抜粋)

総カロリー(kcal) 100 100 100 100�たん白質(g)   3.7   3.2   4.0   5.0�脂 質(g)   3.6   3.2   3.0   2.8�糖 質(g)   13.2   14.6   14.25   13.8

主要脂肪酸組織(mg)�18:2(リノール酸)  817.2  662.0  621.0 711.0�18:3(α-リノレン酸)  205.2  144.0   57.0 153.0�20:5(EPA)   7.5�22:6(DHA) 28.0

K3S MAー7 サンエット®V ライフロン®PZーⅡ�

表2 脂肪酸プロフィールの比較

 , :P<0.05    ,  :P<0.01

対照群との比較�

16:0 16:1 18:0 18:1 18:2 18:3 20:3n-9 20:9n-3 20:4 20:5 22:5 22:6

TPN群との比較�

 経管栄養群�

 K3S群�

 TPN群�

16:0 16:1 18:0 18:1 18:2 18:3 20:3n-9 20:9n-3 20:4 20:5 22:5 22:6

 経管栄養群�

 K3S群�

結果

考察

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し,α-リノレン酸から内因性に合成されるn-3系のEPA,DHAは,TPN群と有意な差はみられなかった。すなわ

ち,血中α-リノレン酸分画は上昇したが,α-リノレン酸から内因的に合成されるといわれているEPAやDHA

の上昇は認められなかった。Mantziorisらは7),成人健

常者にα-リノレン酸(13.0±6.3g/日 vs. control 1.1±

0.6g/日)を約4週間投与しEPAが上昇すると報告してい

る。著者らの投与したK3Sのα-リノレン酸量は1日約1.85g(リノール酸/α-リノレン酸比=約3.98)までであり,この時点ではα-リノレン酸の投与量が少ないため,EPA,DHAの上昇に至らなかった可能性も考えられた。

そこで,α-リノレン酸含量豊富なシソ油そのものを短期間投与し血中脂肪酸プロフィールについて検討したが,

シソ油の追加投与後,血中α-リノレン酸の増加は認めたが,EPA,DHAの有意な増加は認められなかった。

しかし,この検討の対象は脳卒中後遺症により食事摂取

困難な症例であり,このような栄養不良状態患者では

α-リノレン酸からEPA,DHAへの変換障害が発生している可能性も考えられた。そこで,若年健常者にシソ油

20gを1週間投与し,血中脂肪酸プロフィールについて

測定したが同様の傾向が認められた。Ezakiらは8),α-リノレン酸(4.2±0.6g/日 vs. control 1.2±0.1g/日)を投与

したところEPA,DHAは3ヵ月では変化せず,10ヵ月

の投与で上昇すると報告している。著者らの投与した

α-リノレン酸の量は約4g/日から最大で約12.2g/日までであるが,投与期間がそれぞれ1,2週間と短いため

EPA,DHAの上昇には至らなかったものと考えられる。

すなわち,EPA,DHAを上昇させるためにはα-リノレン酸の投与量に加え,投与期間も重要と考えられた。

今回の検討ではα-リノレン酸含有食品を経口摂取させても,生体内でα-リノレン酸からEPA,DHAへの変

換は確認できなかった。α-リノレン酸投与量を増やしてもEPA,DHA百分率の増加は認められなかった。また,

若年健常者でも同様の傾向が認められた。すなわち,魚

油欠乏者にその前駆体であるα-リノレン酸含有食品を経口摂取させても,栄養状態(栄養不良状態の有無)にか

かわらずEPA,DHAへの変換は確認できなかったこと

から,魚油欠乏者では,魚油の代用としてα-リノレン酸のみを投与するのではなく,魚油そのものの補充が必

要であることが示唆された。

1)Sax HC, Illig KA, Ryan CK, et al : Low-dose enteral feedingis beneficial during total parenteral nutrition. Am J Surg171 : 587-590, 1996

2)丹藤雄介, 梶 麻子, 渡辺 拓, 他:高齢者における経静脈, 経腸, 経口栄養法の問題点;摂取カロリー, 各種ビタミン, 微量金属の動態からみた検討. 老年消病 9 : 45-50, 1997

3)津川信彦, 佐藤仁秀, 佐藤正昭, 他:老年者に対する胃瘻による経腸栄養療法の評価と問題点;血中微量元素について. 老年消病 7 : 155-159, 1995

4)津川信彦, 佐藤仁秀, 中村光男:胃瘻による経腸栄養療法の評価と問題点;血中微量元素に関する検討. 消化と呼吸 18 : 41-43, 1995

5)Bang HO, Dyerberg J, Niolsen AB : Plasm lipid andlipoprotein pattern in Greenlandic West-Coast Eskimos.Lancet 1 : 1143, 1971

6)渡辺 拓, 中村光男, 丹藤雄介, 他:食事中魚油摂取量からみた健常者の血中脂肪酸profileの変化と血中脂質. 消化と吸収19 : 30-33, 1996

7)Mantzioris E, James MJ, Gibson RA, et al : Differences existin the relationships between dietary linoleic and α-linolenicacids and their respective long-chain metabolites. Am J ClinNutr 61 : 320-324, 1995

8)Ezaki O, Takahashi M, Shigematu T, et al : Long-termeffects of dietaryα-linolenic acid from Perilla oil on serumfatty acids composition and on the risk factors of coronaryheart disease in Japanease elderly subjects. J Nutr SciVitaminol 45 : 759-772, 1999

10

文 献

12�10�8�6�4�2�0

α-リノレン酸�

(%)�P<0.05

前� 5g 10g 20g前� 5g 10g 20g 前�5g 10g 20g

3 �2.5�2 �1.5�1 �0.5�0 �

-0.5

EPA�

(%)�n.s.

10�8�6�4�2�0

DHA�

(%)�n.s.

図2 シソ油投与による血中脂肪酸の変化(2)

4 �3.5�3 �2.5�2 �1.5�1 �0.5�0

α-リノレン酸�

(%)� P<0.01

2 �1.8�1.6�1.4�1.2�1 �0.8�0.6�0.4�0.2�0

EPA

(%)� n.s.

前 後� 前 後�前 後�

6�5�4�3�2�1�0

DHA

(%)� n.s.

図1 シソ油投与による血中脂肪酸の変化(1)

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近年わが国では,国民の高齢化に伴い,脳血管障害や

痴呆により長期の経管栄養管理が必要になる症例が増加

しつつある。従来の経管栄養投与法における栄養剤は,

かつて広く行われていた経鼻胃管による滴下投与を可能

にするため,液体の形態を保つことが常識となっている。

しかしこの場合,流動性が高いため,噴門や幽門といっ

た生理的狭窄部位を容易に通過し,胃食道逆流や下痢の

原因となる。また,経皮内視鏡的胃瘻造設術(percuta-

neous endoscopic gastro-stomy;PEG)により栄養管理

を受ける症例においては,瘻孔からの栄養剤漏れ(栄養

剤リーク)の原因にもなる1)(図1)。

近年,経管栄養投与法はかつて主流であった経鼻胃管

を利用した経管栄養投与法から,PEGを利用した投与法

へと変化を遂げた。このPEGで使われる経管栄養チュー

ブは,経鼻胃管のチューブに比較して太く短いという相

違があり,結果としてあらかじめ固形化した栄養剤の注

入を可能にしている。本稿においては,新しい経管栄養

投与法である固形化経腸栄養剤の効果,調理法,投与法

を概説し,本法を実践しうるよう解説を行った。

1.固形化経腸栄養剤とは何か筆者は固形化経腸栄養剤の定義を,栄養剤をゲル化し

“重力に抗してその形態が変化しない”ものとしている。

ゲル化とは,液体が流動性を失い,多少の弾性と硬さを

もって固化することを意味する。しかし,固形化経腸栄

養剤においては,栄養剤を単純にゲル化しただけではな

く,液体である経管栄養剤でみられる問題点を軽減する

ための硬度をもったものとしている。

2.固形化経腸栄養剤の効果(図2)固形化経腸栄養剤は液体に比較して流動性が低下する

ことにより,噴門の通過性が低下して胃食道逆流が減少

する。筆者らの治験においても2),液体経管栄養剤投与

症例17例において10名に胃食道逆流を認めたが,それら

の症例を固形化経腸栄養剤に変更することにより,胃食

道逆流を4名にまで減少しえた(表1)。胃食道逆流が減

少すれば嚥下性肺炎の発生を減少しうる。また栄養剤注

入もボーラス一括注入が可能になり,注入時間が短縮す

ることにより,患者負担の軽減,介護負担の軽減,体位

交換の継続が得られるなどの恩恵がある3)。またボーラ

ス注入は,液体経腸栄養剤投与法で行う緩徐な注入に比

較して,胃壁の伸展が得られる。胃壁の伸展により,胃

蠕動を強く促すガストリンの分泌刺激が得られ,生理的

な胃蠕動を発生しうる可能性がある。また経腸栄養剤の

固形化により,噴門と同様,幽門や瘻孔の通過性も低下

する。これにより液体経腸栄養剤の注入に起因する下痢

や栄養剤リークも減少しうる4)。

NUTRITION SUPPORTREVIEW

NUTRITION SUPPORTREVIEW

寒天を利用した固形化経腸栄養剤の知識と実践

ふきあげ内科胃腸科クリニック 院長 蟹江 治郎

固形化経腸栄養剤の知識

はじめに

Nutrition Support Journal 13

胃食道逆流�

栄養剤リーク�

下痢�

嘔吐や嚥下性肺炎の原因となる�

瘻孔からの栄養剤の漏れ現象�

投与速度が速いと下痢を発症�

胃�

図1 液体栄養剤を使用した経管栄養管理における問題点

(文献1)より引用)

栄養剤固形化� 胃-食道逆流が減少�

瘻孔からの栄養剤リークの改善� (胃拡張による蠕動の促進?)�

嚥下性呼吸器感染症の減少� 一度に注入ができる�

座位保持が不要�

体位交換の継続�

介護者の負担が軽減�

褥瘡悪化の予防�

栄養剤胃内停滞時間延長� 下痢の予防�

図2 固形化経腸栄養剤の効果

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本項では日本老年医学会雑誌に報告を行った,固形化

経腸栄養剤開始後より液体経腸栄養剤の合併症が改善し

た1例について略説する5)。症例は85歳の女性。脳梗塞

後遺症のため嚥下困難をきたし,介護老人保健施設にて

PEGによる栄養管理を受けていた。入所後1年間は状態

が安定していたが,1年を経過した後から経腸栄養剤の

流涎に加え,栄養剤リーク,嘔吐,発熱,栄養剤注入時

の呼吸苦,肺炎を反復して認めた。固形化経腸栄養剤の

5月� 6月� 7月� 8月� 9月� 10月� 11月�

流 涎�

リーク�

嘔 吐�

発 熱�

呼吸困難�

肺 炎�

経腸栄養剤固形化�

固形化経腸栄養剤の投与以降は,胃食道逆流に伴う諸症状が改善した。�

12

図3 経腸栄養剤固形化の施行症例の経過(文献5)より引用)

GER 逆流範囲 噴門からの距離ID 年齢 性別 基礎疾患

液体 固形 液体 固形 液体 固形

58 82 F 痴呆 - -245 81 F 痴呆 - -261 90 F 痴呆 + + 7 6 13 13395 53 F 脳梗塞後遺症 - -467 87 F 痴呆 + - 4 13559 80 F 痴呆 + + 9 4 9 10560 82 M 痴呆 + + 4 4 13 13571 87 F 脳梗塞後遺症 + - 1 4576 84 M 脳梗塞後遺症 + - 12 15582 68 F 脳梗塞後遺症 + - 13 13583 82 F 痴呆 - -584 89 F 脳梗塞後遺症 - -588 91 F 脳梗塞後遺症 + - 1 2589 84 F 脳梗塞後遺症 + + 15 10 15 10594 87 F 痴呆 - -595 68 M 脳梗塞後遺症 - -596 64 M 脳出血後遺症 + - 5 8

表1 液体経腸栄養剤と固形化経腸栄養剤における胃食道逆流の頻度

GER:Gastro-esophageal reflux,胃食道逆流逆流範囲:CT上食道内に造影剤を認めたスライス数の合計噴門からの距離:CT上最も口側の造影剤の噴門からの距離(cm)

(文献2)より引用)

左:液体経腸栄養剤注入時。常に経腸栄養剤の流涎を認め,表情は苦悶様となっている。

右:固形化経腸栄養剤導入後。経腸栄養剤の流涎は消失し,表情は穏やかになり,体重も増加している。

図4 固形化経腸栄養導入前後の症例

3.固形化経腸栄養剤開始後より液体経腸栄養剤の合併症が改善した1例

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開始後は,多くの症状が開始直後より消失し,開始後2

週間ですべての症状が消失した(図3)。また液体経腸栄

養剤注入時に認められた苦悶様表情や不穏状態も,固形

化経腸栄養剤の投与後より認められなくなった(図4)。

4.固形化を行うための食品の選択筆者は経腸栄養剤の固形化を行うにあたり,栄養剤が

“重力に抗してその形態が変化しない”状態を可能にす

る固形化剤の選択を,表2の条件を勘案して行った。そ

れらの条件を最もよく満たす食品として,筆者は粉末寒

天を推奨している(表3)。さらに寒天は,食物繊維の健

康への好影響から特定保健用食品として認定されてお

り,WHO食品規格部会食品添加物専門家委員会でも1

日摂取許容量が“制限無し”と安全性が確認されている。

そのため現状では,経腸栄養の固形化剤として,寒天が

最も適当な選択肢と考えている。

1.固形化栄養剤調理の基本(図5)固形化経腸栄養剤の調理は,寒天を溶解した寒天溶液

を経腸栄養剤と混合した後に静置すれば完了し,文字ど

おりその調理は短時間で簡便に行うことができる。調理

の段取りとしては,まず加熱前の水に粉末寒天を混合す

る。その後,寒天の入った水を煮沸して寒天を溶解する。

その寒天溶液に人肌程度に加温した経腸栄養剤を混合

し,注入容器であるプラスチックシリンジに吸引し静置

して凝固すれば完成である。

2.使用する寒天の量と経腸栄養剤の硬さエンシュア�・Hおよびエンシュア・リキッド�を利用

した経腸栄養剤固形化の実際例を図6,7に示す。寒天

による固形化は,乳脂肪分の多い液体では水と水との結

び付けが弱くなることにより,固形化が行いにくいとさ

れるが,エンシュア�・Hとエンシュア・リキッド�の間

には顕著な差は認めなかった。いずれの製品においても,

希釈した後の経腸栄養剤の分量200mL程度に対し,粉末

寒天1gで良好な固形化が得られた。しかし,密閉した

容器内で凝固した場合は水分が蒸発しないので,今回の

治験で使用したカップのときより軟らかくなる場合があ

り,今回の結果はあくまで参考としての指標としていた

だきたい。

3.エンシュア�・Hを利用した調理法(図8)1)栄養剤を加温

寒天溶液と混合する経腸栄養剤は,あらかじめ人肌程

固形化経腸栄養剤の調理法

● 安価であること ● 体温で溶解しない● 入手が容易 ● 低カロリー● 調理が容易 ● 粘度を増さない● 硬度調節が容易 (粘度が増すと注入し難い)

表2 固形化剤として必要な条件

図6 エンシュア�・Hを利用した経腸栄養剤固形化

粉末寒天 ゼラチン 全 卵 トロミ剤

重力に抗し形態を保持 ○ ○ ○ ×

安  価 ○ ○ × ×

入手が容易 ○ ○ ○ ○

調理が容易 ○ ○ ○ ○

硬度調節が容易 ○ ○ × ×

低カロリー ○ ○ × ○

粘度を増さない ○ × △ ×

体温で溶解しない ○ × ○ ○

表3 固形化剤の比較

水と粉末寒天を混合し撹拌�

加熱して寒天を溶解�

人肌程度に加温した経腸栄養剤と混合�

容器に注入し撹拌�

静置保存し凝固�

図5 固形化経腸栄養剤の調理法の基本

(1)エンシュア�・H1缶+水200mL+粉末寒天0.5g多少の粘性をもってゲル化しているが,硬さはトロミ剤程度となっている。

(2)エンシュア�・H1缶+水200mL+粉末寒天1g軟らかいプリン程度の硬さとなっている。重力に抗して形態が保てず,固形化経腸栄養剤の定義を満たしていない。

(3)エンシュア�・H1缶+水200mL+粉末寒天2gプリン程度の硬さとなり,固形化経腸栄養剤の定義を満たしている。固形化経腸栄養剤として適切な硬度といえる。

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度に加温しておく必要がある。栄養剤は冷たい状態で寒

天溶液と混合すると,不均一に冷却されることにより固

形化も不均一になるため,注意を要する。

2)ボールなどにエンシュア�・Hを注ぐ

寒天溶液の調理に先立って,加温したエンシュア�・

Hをボールなどの容器に入れておく。寒天溶液との混合

は,経腸栄養剤が冷める前に行う。

3)水に寒天を入れ撹拌

粉末寒天は,まず水に入れて馴染ませる。加熱した後

の湯に粉末寒天を入れると,寒天は“ダマ”になり溶解

が困難になる。そのため必ず加熱前に混合する必要があ

る。

4)加熱して寒天を溶解

寒天は2分間の煮沸状態で撹拌して十分な溶解が得ら

れる。煮沸時間を守ることは重要であり,タイマーなど

で確認しながら行うとよい。

5)寒天溶液とエンシュア�・Hを混合

寒天溶液をエンシュア�・Hの入ったボールに注入する。

注入は撹拌しつつ行い,撹拌は注入後30秒ほど続ける。

6)シリンジに経腸栄養剤を吸引

あらかじめ準備したプラスチックシリンジに,混合し

た経腸栄養剤を吸引する。プラスチックシリンジは連用

すると動きが悪くなることがあるが,その際はゴムの部

分にオリーブ油などの食用油を塗るとよい。

7)口の部分をラップで封印

シリンジを横にしても栄養剤が漏れ出てこないよう,

口の部分にラップを巻き封印を行う。

8)静置して凝固

寒天は室温静置でも,十分に凝固が可能である。しか

し,調理から注入まで24時間以上間隔がある場合は,衛

生上の問題を避けるため冷蔵保存とするべきである6)。

1.栄養剤の注入方法固形化経腸栄養剤の注入は,いわゆるボーラス注入で

行い,数分程度かけて一括して行う。注入時の座位保持

は行っていない(図9)。1回の注入量は液体経腸栄養剤

の1回注入量と同量で開始し,通常は500mL程度を目安

にしている。注入後のフラッシュは少量の送気のみで行

い,薬剤の溶解液以外は液体の注入はしない。医療施設

などにおいて複数の症例に注入を行う際は,プラスチッ

クシリンジに名札をつけ,患者同士の取り違えを防止す

る(図10)。14

固形化経腸栄養剤の注入法

図7 エンシュア・リキッド�を利用した経腸栄養剤固形化

(1)エンシュア・リキッド�1缶+水200mL+粉末寒天0.5g多少の粘性を持ってゲル化し,トロミ剤程度の硬さに留まっている。

(2)エンシュア・リキッド�1缶+水200mL+粉末寒天1g柔らかめのプリン程度の硬さとなっている。辛うじて重力に抗し形態を保っているが,一部周囲が崩れかけている。

(3)エンシュア・リキッド�1缶+水200mL+粉末寒天2gプリン程度の硬さとなり,固形化経腸栄養剤の定義の範疇である。固形化経腸栄養剤として適切な硬度といえる。

図8 エンシュア�・Hを利用した固形化経腸栄養剤の調理

①栄養剤を加温 ⑤寒天溶液と栄養剤を混合

↓②ボールなどに栄養剤を注ぐ

↓③水に寒天を入れ撹拌

↓④加熱して寒天を溶解

↓⑥シリンジに経腸栄養剤を吸引

↓⑦口の部分をラップで封印

↓⑧静置して凝固

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固形化栄養剤の1回注入量は,液体栄養剤の1回注入

量を目安にしているが,症例の体型などによっては規定

の注入量に耐えられず,嘔気などをきたす事例がある。

このような場合は無理をせず注入を一時中断し,時間を

空けてから残量の注入を行う。仮に設定した注入量が耐

えられない場合は,1回注入量を減らし注入回数を増や

すことにより,1日の必要量を確保するようにする。ま

た投与時の温度が冷蔵状態にあると,温度刺激により下

痢などの原因となる場合がある。そのため栄養剤を冷蔵

保存している場合は,いったん室温に戻した後に注入す

ることが必要である。

1.固形化経腸栄養剤導入後に発生する“便秘”PEGの対象となる症例の多くは高齢や寝たきり状態で

あり,このような症例においては,もとより便秘状態の

ことが多い。液体経腸栄養剤の問題点の1つに下痢があ

るが,便秘状態の症例においては緩下剤として作用して

便通が改善することになる。このような症例に固形化経

腸栄養剤を導入すると,もとよりある便秘状態に回帰す

ることになる。そのため固形化経腸栄養剤の導入後は便

通変化に関して十分に観察を行うのみならず,導入前よ

り良好な排便コントロールを行っておく必要がある。

2.導入時の注意点固形化経腸栄養剤の存在や利点が十分に浸透していな

い現状においては,その導入にあたっては,患者本人,

家族,医師,看護師,薬剤師,栄養士のすべてが固形化

栄養剤への知識をもち,その意義を理解する必要がある。

一部署の理解が欠けても円滑な導入の妨げとなり,結果

的な負担は患者に降りかかることになる。仮に大規模医

療施設において,固形化経腸栄養剤の導入を検討中であ

るならば,導入に意欲的な部署が,他の部署への啓蒙に

十分努め,全部署の共通認識が得られた後に開始するこ

とが望ましいといえる。

人間は本来,栄養分の摂取を主として固形物の形態で

摂っている。しかしPEGなどの経管栄養症例においては,

経鼻胃管栄養以外の選択肢が乏しかった時代の慣習を引

き継ぎ,液体のみによる栄養投与を行っている。経管栄

養を受ける症例の多くは高齢などのリスクの高い症例が

多く,そのような症例に対して液体のみによる栄養補給

を強いるという非生理的栄養補給は,さまざまな合併症

の発症原因となっている。筆者は経管栄養投与法におけ

る“経管栄養剤=液体”という非常識な常識に問題を提

起すべく,寒天による経腸栄養剤の固形化法を報告した。

しかし現段階においてすべての経管栄養剤は液体であ

り,固形化経腸栄養剤の投与を実施する施設においては,

“経験したことのない調理”と“代用品を利用した投与”

という工程を避けることはできない。今後は多くの方に

本法を試していただき,問題提起と解決法の模索を続け

るのみならず,栄養剤に関わる製薬メーカーや寒天食品

メーカーの協力のもと,より簡便で安全な投与法を確立

していく必要があるものと考える。

1)蟹江治郎:PEG管理の新しいアプローチ①固形化経腸栄養剤の効果.胃瘻PEGハンドブック(第1版),東京,医学書院,117-122,2002

2)Kanie J, Suzuki Y, Akatsu H, et al:Prevention of gastro-esophageal reflux by an application of half-solid nutrients inpatients with percutaneous endoscopic gastrostomy feeding. J AmGeriatr Soc 52 : 466-467, 2004

3)藤田和枝:経管栄養剤固形化による利用者のQOLの向上.コミュニティーケア 10:53-55,2003

4)蟹江治郎,赤津裕康,各務千鶴子:経腸栄養剤固形化によるPEG後期合併症への対策.臨看 29:664-670,2003

5)蟹江治郎,各務千鶴子,山本孝之,他:固形化経腸栄養剤の投与により胃瘻栄養の慢性期合併症を改善し得た1例.日老医誌 39:448-451,2002

6)蟹江治郎,鈴木裕介,赤津裕康,他:固型化経腸栄養剤の実施における栄養剤の安定性と安全性の評価;調理によるビタミンの変化と細菌学的変化.静脈経腸栄養 19:65-69,2004

固形化経腸栄養剤の問題点と注意点

おわりに

文 献

図9 固形化経腸栄養剤の投与法 図10 プラスチックシリンジに名札をつけて取り違えを防止

2.注入時の注意

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NUTRITIONCASE REPORT

NUTRITIONCASE REPORT

Nutrition Support Journal 13

肺気腫は慢性の炎症性呼吸器疾患であり,呼吸困難を

主症状とする。安静時エネルギー消費量が増大している

ために消耗が著しく,患者の栄養状態は低下することが

多い。このため治療目的に,高カロリー,高たん白質の

栄養を摂取する必要がある。

実際,食事という労作のみでも息切れが出現すること

が多く,食事摂取量が不十分となることが問題となって

いる。今回,脂肪を主成分とする栄養補助としてプルモ

ケア�を併用し,栄養状態および臨床症状が改善し退院

した症例を経験したため報告する。

67歳,男性

既往歴:慢性副鼻腔炎にて手術歴あり。

現病歴:現在は肺気腫,および巨大肺 胞による呼吸困

難の治療目的に通院中。在宅酸素治療中(2L/分)。平

成15年4月上旬より38度程度の発熱出現し,呼吸困難増

悪したため来院した。来院時体温38度。両側呼吸音減弱。

胸部単純撮影および胸部CT所見より右中葉に肺炎が確

認された(図1)。

臨床検査値は白血球数9,300/μL,CRP30.48mg/dL,

血沈108mm/時であり,炎症反応は高値であった。

図1のCT所見のごとく右上葉に巨大な肺 胞が存在

し,両側の下葉は肺気腫性変化があった。また右中葉を

中心に浸潤影が確認され,大きな肺炎像が認められた。

採血上も炎症反応が非常に高く,重症な感染が考えられ

た。肺気腫という慢性呼吸疾患に加えて重症肺炎の合併

が認められたために,当初より強力なカルバペネム系の

抗菌薬を中心に使用した。肺炎は徐々に改善し,5月26

日にはCRP4.4mg/dLと下した。一方,肺気腫巨大肺

胞は変化なく,呼吸機能は低下したままであった。

臨床経過:入院当初より当院NSTにコンサルテーショ

ンし栄養評価をされていた。入院時4月12日安静時代謝

量1,055kcalであり,ストレスファクター1.2,活動係数

1.5とし,必要摂取量1,800kcalを目標とした。栄養評価

ではPNI(prognostic untritional index,予後判定指

数)=44と低栄養状態であった(表1)。入院後肺炎が軽

快した後も,巨大肺 胞内に胸水貯留が出現し,呼吸困

難,胸背部痛などにより食事摂取量が低下したままであ

った。経口摂取量は500kcal程度であり,1日1,200kcal

の中心静脈栄養を併用した。胸水コントロールされ胸痛

が軽減した後の7月1日の栄養評価でも,PNI=40.5と

まだ低栄養状態であった。臨床的に肺気腫および巨大

肺 胞は不可逆性である。在宅酸素療法中であり,退院

支援目的に再度NSTとカンファレンスを開いた。臨床

的には炎症,感染のコントロールを続けること,呼吸リ

ハビリテーションの徹底を行うこととなり,患者本人へ

の指導として現在の摂取量(1,500kcal)と必要摂取量

(1,800kcal)の計算結果を患者に説明した。しかし,現在

16

プルモケア�が奏効した肺気腫の1例

新都市医療研究会「君津会」南大和病院 内科部長 廣瀬 直人

図1 胸部単純X線写真およびCT所見

症例

はじめに

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以上の食事量を摂取することが困難と患者から訴えがあ

り,不足分の栄養補助にプルモケア�を開始した。1日

摂取量1缶(375kcal)を目標にし,最終的に経口による

1日摂取量が1,800~2,100kcalまでと増加した。約1ヵ

月後の8月3日のPNIは26.6と著明に改善した(表1,図

2)。このままプルモケア�を在宅にて継続する方針で8

月11日退院となった。

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary

disease;COPD)とは,気管支,細気管支,そして肺胞

に慢性炎症性病変が生じる疾患群の総称である。炎症や

肺胞の過膨張による気流閉塞のため,呼吸困難を起こす

と考えられている。そのうち肺気腫は,終末細気管支よ

り末梢の気腔が拡張し,肺胞壁の破壊を伴う病態と定義

されている1)。COPDの患者数は,2001年に発表された

大規模疫学調査研究の結果によると,約530万人と推定

された。また,COPDの有病率は40歳以上の8.5%となっ

ている。喫煙と因果関係があり,患者が喫煙者であった

場合は禁煙が治療のfirst choiceとなる。米国胸部医学会

の治療ガイドラインによると,治療としては酸素吸入,

気管支拡張薬の吸入や短期間の副腎皮質ステロイド剤の

内服がおもな治療となっている2)。しかし,最も望まし

い治療は喫煙の中止と考えられている。いずれの治療に

しても,原疾患は不可逆的な気道の損傷が存在するため

に,患者のQOLを大きく変えることにはなっていない

のが現状である。また栄養の面からは,患者の特徴とし

て栄養状態の悪化から体重が減少をきたしてくることが

多い。その理由は,慢性の呼吸困難のために横隔膜や肋

間筋以外に大胸筋,僧帽筋と巨大筋などの全身の筋を使

用して呼吸するためと考えられている。そして,代謝亢

進状態のために安静時エネルギー消費量が増加すること

によると考えられている。十分なエネルギー・たん白が

供給されなければ,筋肉量は異化亢進により減少し,呼

吸運動の低下を招く。低たん白は,免疫グロブリンとい

ったたん白の低下,リンパ球の活動,粘膜のバリヤー機

能を低下させ,気道感染の増悪をひき起こす。以上の病

態より,栄養は基本的に高エネルギー・高たん白とな

る3)。さらに,食事時間を短くし,回数を増やすなどの

工夫が必要になる。本症例も経鼻カテーテルによる酸素

吸入が施行されていることから,小分けした摂取が可能

な,食事行為による呼吸困難をひき起こしにくいプルモ

ケア�を併用した。NSTにコンサルテーションすること

により,臨床的な肺気腫の治療効果は医師より臨床所見

および炎症反応の数値の説明,理学療法士,看護師より

呼吸リハビリテーションの継続を促している。また栄養

については管理栄養士の指導により食事摂取量および体

重の増加による,プルモケア�の効果を患者本人が理解

し,退院後も継続されている。

1)日本呼吸器学会COPDガイドライン作成委員会 編:COPD診断と治療のためのガイドライン. 東京, メディカルレビュー社,1999

2)Global strategy for the diagnosis, management, andprevention of chronic obstructive pulmonary disease :National Heart, Lung, and Blood Institute and World HealthOrganization workshop report, 2001

3)石坂彰敏:COPD栄養指導の実際. 内科 93 : 82-87, 2004

17

文 献

考察

表1 臨床検査値

4月12日 7月1日 8月3日

総たん白(g/dL) 6.8 6.3 6.8

総コレステロール(mg/dL) 143 100 130

CRP(mg/dL) 30.48 1.43 0.36

血沈(mm/時) 108 54 50

体重(kg) 44 40.5 44

アルブミン(g/dL) 3.7 3.5 4.1

亜鉛(μg/dL) 69 71 71

トランスフェリン(mg/dL) 186 210 244

Braden Scale 18 18 18

FIMによるADL(126点満点) * 82 101

PNI(Buzby法) 44 40.5 26.6

60�

50�

40�

30�

20�

10�

0

110�

100�

90�

80�

70�

60�

0

PNI ADL

Apr-04 May-04 Jun-04 Jul-04 Aug-04

図2 PNIおよびADL値の変化

FIM:functional independence measureADL:activities of daily living*:全身状態不良にてリハビリテーション困難

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医療技術の目覚ましい進歩に伴い,今日ではわが国の

平均寿命は世界一となり,高齢者人口は著しく増加しつ

つある。また,人々の生活様式の西洋化に伴って,疾病

構造も従来の感染症を主体としたものから,高血圧・糖

尿病・高脂血症などのいわゆる生活習慣病へと大きく変

化している。このような状況のなかで,生活習慣病によ

る合併症として脳血管障害を発症したにもかかわらず救

命され,意識障害や麻痺,嚥下障害などの後遺症を抱え

たままでその後の生涯を送らねばならない症例が増加し

つつある。意識障害や嚥下障害で摂食不能となった症例

では,経腸栄養剤を用いた栄養管理が必要になるが,基

礎疾患として糖尿病などを有している場合には栄養管理

に難渋することが少なくない。特に長時間のベッドでの

臥床を余儀なくされるような重症例では,褥瘡の発生と

栄養管理が密接に関連し,また一旦発症した褥瘡を治癒

せしめるにはより多くの栄養量を必要とするために,栄

養管理はさらに困難になる場合が少なくない。われわれ

の施設では,糖尿病を基礎疾患として有する褥瘡の症例

に対してグルセルナ�を経腸栄養剤として用いて良好な

結果が得られているので,そのうちのいくつかを報告す

る。

症例166歳,男性。

主訴:仙骨部褥瘡

家族歴:特記すべきことなし。

既往歴:30年前より高血圧を指摘されていたが,治療は

受けていなかった。

現病歴:平成12年11月20日突然に意識レベルの低下

(JCS100)と右半身麻痺を認めるようになり救命救急セ

ンターに搬送された。CT検査により左前頭葉から側頭

葉にかけての脳内出血が確認された。同日,開頭による

血腫除去術が施行され救命された(術後JCS3)。12月1

日にはリハビリ病院に転医となり理学療法が開始され

た。12月15日再び意識レベルの低下を認め,このときに

測定された血糖値が1,220mg/dLであったことから糖尿

病性昏睡と診断された。本例では,このときはじめて糖

尿病の合併が明らかになった。インスリンの持続注入に

よる治療を受け,意識レベルは回復したが,この治療中

に仙骨部に褥瘡が発生した。その後,種々の保存的治療

が行われたがいずれも効を奏さず,時間経過とともに褥

瘡は次第に増大し直径10cmの大きさになった。この間

の栄養管理は嚥下障害が認められたため,経鼻経管栄養

がヒューマカート�(朝12単位,夕4単位)を併用して行

われた。3月22日褥瘡に対する手術目的で当院に転医と

なった。

臨床経過:入院時血液検査では血糖値が122mg/dL,

HbA1cが6.5%と糖尿病のコントロールは比較的良好で

あったので,周術期は経腸栄養剤をグルセルナ �

1,000mL/日として使用しヒューマカート�もそれまでと

同量で併用することにした。2日後に血糖値の日内変動

を測定したが,空腹時血糖は106mg/dL,食後2時間の

血糖値は130~160mg/dLと安定していた。3月26日に

仙骨部褥瘡に対して大臀筋々皮弁移植術を施行した。術

後1日目からは術前に行っていたのと同様に,グルセル

ナ�とヒューマカート�の併用による栄養管理を再開し

た。術後経過は順調で,空腹時血糖も術後早期の

180mg/dLをピークにして次第に低下し,術後14日目に

は97mg/dLとなり毎夕施行していたヒューマカート�の

皮下注を中止した。術後約1ヵ月を経過した4月22日に

PEGにより胃瘻造設を行った。その後も血糖値は良好に

推移し,毎朝皮下注射していたヒューマカート�の投与

量も漸減することができた。本例では胃瘻造設後から嚥

下訓練を開始した結果,次第に経口摂取量が増加してい

った。そこで,ヒューマカート�の投与量が8単位とな

った6月12日に,インスリンの投与を中止しグリベンク

ラミドとボグリボースの内服に切り替えたが,その後も

血糖値は安定していた。手術のために一旦中止していた

理学療法を再開し,車椅子に座れるようになったので9

月10日に退院し,その後は訪問診療でフォローしている。

NUTRITIONCASE REPORT

NUTRITIONCASE REPORT

18

グルセルナ�が奏効した症例

医療法人修仁会 新生クリニック 院長 平  通也

症例

はじめに

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76歳,女性。

主訴:仙骨部褥瘡

家族歴:特記すべきことなし。

既往歴:糖尿病(発症時期不明)

現病歴:平成9年に脳梗塞を発症して以来,入院生活を

続けていた。嚥下障害もあり平成13年には胃瘻が造設さ

れた。平成13年12月から在宅療養となり,かかりつけ医

の往診を受けていた。この頃すでに仙骨部に小さな褥瘡

を認めていたが,平成14年12月27日に誤嚥性肺炎を起こ

して近くの病院に入院した際に急速に増大し,大きさが

直径5cmで褥瘡の底部が仙骨に達するまでになった。

褥瘡に対する治療目的で,平成15年3月18日に当院に転

医となった。

臨床経過:入院時の空腹時血糖値は226mg/dL,HbA1c

は8.5%と糖尿病のコントロールは不良であった。また,

褥瘡には感染を伴っており肉芽形成が不良であった。こ

れらの理由から,本例では褥瘡の洗浄を励行すると同時

に,栄養管理はグルセルナ�を1,500mL/日とし,血糖の

コントロールは毎食前のレギュラーインスリンと夕食後

2時間目の中間型インスリンの皮下注射の併用によるイ

ンスリン強化療法で行った。この治療により当初高値を

示していた血糖値も次第に低下し,5月17日には空腹時

血糖値が134mg/dL,HbA1cが5.8%となり,6月19日に

は空腹時血糖値が106mg/dLにまで低下した。また,褥

瘡の感染についてもCRP定量値の変化でみてみると,入

院当初は14.1mg/dLであったものが5月17日には

5.8mg/dLに,さらに6月19日には3.7mg/dLにまで改善

するとともに,褥瘡部の肉芽組織の増生も旺盛になった。

本例では7月5日に大臀筋々皮弁移植術を施行したが,

術後に肺炎を併発し7月11日に死亡した。

近年,わが国の糖尿病患者数は急速に増加しつつある。

糖尿病は脳卒中の危険因子の1つであり,糖尿病を有す

る患者では脳梗塞を発症する危険率が倍化されることは

よく知られている1)。脳梗塞発症後に嚥下障害が原因で

摂食障害が残り,経腸栄養による栄養管理を余儀なくさ

れた場合に,糖尿病を有する例ではこれまでの流動タイ

プの経腸栄養剤を用いた場合には血糖のコントロールに

難渋することが多かった。そのうえ,褥瘡を合併する場

合には,高血糖状態が感染に対する抵抗を減弱させたり

創傷治癒を遅延させる結果,褥瘡が難治性となりやすく,

時には急速に悪化することもあって,血糖値はより厳密

にコントロールされることが要求されていた。

従来の流動タイプの経腸栄養剤を糖尿病の患者に投与

した場合には,投与直後の血糖値が急激に上昇すること

が問題とされてきたが,近年,高脂肪・低炭水化物調整

栄養食品としてグルセルナ�が登場した。グルセルナ�は

表1のごとく成分組成が脂質49.2%,糖質34.4%,たん

白質16.4%と糖質の一部を脂質に置換することによって

エネルギー量を確保しながらも,糖質の割合を抑えるこ

とによって投与時の急激な血糖値の上昇を防いでおり,

経腸栄養管理を必要とする糖尿病の患者に適した経腸栄

養剤であるといえる2)。実際にわれわれが使用した症例

においても,グルセルナ�を使用した場合には他の経腸

栄養剤を使用していたときに比較して血糖値とHbA1c

の両方に改善傾向が認められ,インスリンを併用してい

る場合には経時的にインスリンの投与量を減少させるこ

とができた。

グルセルナ�を経腸栄養剤として用いた場合のもう1

つの利点は,仙骨部に褥瘡を有する症例に用いた場合に

最も顕著であると考えられる。経腸栄養管理を行う場合

に約30%という高頻度で発症する合併症の1つが下痢で

ある。今日では下痢が褥瘡の発生や増悪と密接に関係し

ていることはよく知られている3)。グルセルナ�はその

浸透圧が300~305mOsm/Lと従来の流動タイプの経腸

栄養剤に比べて低浸透圧であるばかりか,大豆多糖類由

来の食物繊維を14g/L含有しており下痢を生じがたいと

いった特徴を有している。われわれの使用経験において

も,下痢の発症頻度は従来の経腸栄養剤に比べるときわ

めて低く,排便のコントロールは容易であった。

以上より,糖尿病を合併した症例の経腸栄養管理にお

いては,グルセルナ�を使用すれば従来の経腸栄養剤に

比較してより良い血糖コントロールが得られると考えら

れた。また,褥瘡を発生した症例にも,グルセルナ�を

単独あるいはインスリンの併用で用いれば,症例の栄養

不良状態をかなり改善できるものと考えられた。

1)高木 誠:糖尿病における脳血管障害発症のリスクファクターについての検討. 特に血糖コントロールの及ぼす影響について. 脳卒中 11 : 179-186, 1989

2)早川麻理子, 宮下由美, 桜井洋一, 他:低CHO, 高MUFA経腸栄養剤投与の糖質, 脂質代謝に対する短期的効果について;標準経腸栄養剤との比較. 静脈経腸栄養 16 : 118, 2001

3)馬庭芳朗, 谷村 弘, 梅本善哉, 他:経腸栄養法に関する全国アンケート調査. 外科と代謝・栄 27 : 331-340, 1993

19

文 献

表1 従来の流動タイプの経腸栄養剤とグルセルナ�の成分・性状比較

成分・性状 エンシュア・リキッド� グルセルナ�

エネルギー 250kcal 255kcal

たん白質 8.8g 10.4g

脂質 8.8g 13.9g

糖質 34.3g 20.0g

食物繊維 3.5g

浸透圧 約360mOsm/L 300~305mOsm/L

考察

症例2

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在宅医療の場では患者が高齢でさまざまな疾患を合併

し,痴呆症状を呈している場合が多く,しばしば,栄養

管理が大きな問題となる。特に,食欲低下や嚥下障害な

ど摂食量の低下を伴う問題が多くみられる。

今回は,特に痴呆のみられる高齢者に対する経腸栄養

の問題を,症例を呈示しながら考えてゆきたい。

79歳,女性。

診断名:脳血管性痴呆,MMSE(mini mental state

examination)0点。

初診までの経過と初診時所見:平成11年12月,在宅介護

支援センターより褥瘡,全身状態管理目的で当院在宅医

療部に依頼となる。平成10年末より寝たきり状態であっ

たとのこと。依頼時,意識障害JCSⅡ-20,不全左片麻痺

あり,CTにて高度な脳萎縮と虚血性変化を認める。仙

骨部にgradeⅣ,径5cmほどの褥瘡を認めポケットの形

成もみられたが,嚥下機能は保たれていた。

また,経口摂取量は約300kcal/日,血清アルブミン値

2.9g/dL,身長148cm体重28kgと羸痩と経口摂取量の著

明な低下を認め,高度の低栄養状態にあると考えられた。

家庭環境は,夫(75歳)との2人暮らし。夫の職業は漁

師で,献身的な介護者という印象である。

初診後,訪問栄養指導,訪問看護,訪問介護,訪問診

療を導入。褥瘡の処置,嚥下食の導入を行い,経口栄養

剤(エンシュア�・H)も併用し,経口摂取量は1,200kcal

を目標とした。

夫の協力もあり,徐々に経口摂取量は増加し,

1,100kcal程度を維持。褥瘡も完治し,意識状態も改善し,

時に発語がみられるようになった。その後も,経口摂取

量の増減はあるものの平均して1,100kcal前後を維持し,

血清アルブミン値3.6g/dL,体重も36kg程度で維持され

ていた。

2002年11月から経口摂取量が低下。1日摂取量800~

750kcal程度となる。むせも頻回にみられるようになり

嚥下障害が進行していると考えられた。夫と,経管栄養

の導入を話し合うが,「自然のままにしてほしい」との

意見で,経口摂取内容を工夫してゆくこととなる。その

後,6月には経口摂取量1日約500kcalまで低下。血清

アルブミン値は3.3g/dLと低下,体重も28.5kgまで低下

していった。夫は「もう,十分にみたから,無理なこと

はしたくない」との意見で依然として経管栄養の導入は

したくないとの考えであった。

しかし,7月に入り,頻回の熱発,夜間の喀痰排出困

難などの症状がみられるようになると,夫より,水分補

給の点滴をしてほしいとの希望がみられるようになり,

再度,夫と話し合いをし,7月28日に経鼻胃管による経

管栄養が開始された(胃瘻は拒否)。

Harris-Benedictの式によるBEEは1,020kcal,TEE

1,228kcal,たん白質48g/日(1.0g/IBW)と,これまでの

経過から,経管栄養は7 5 0 k c a l /日にて開始し,

1,125kcal/日まで徐々に増量した。その後,急速な体重

増加がみられたため,1,000kcalまで減量し,体重35kg

で維持され,2004年2月現在,喀痰排出困難,熱発など

の症状も消失,追視もみられるようになっている。夫は

「鼻の管を始めて本当によかった」と現在では話してい

る。

本症例のように高度痴呆を伴う患者に対し経管栄養を

開始すべきかどうかは現在,さまざまな議論がなされて

いる。多くは,倫理的な側面に注目した議論だが,1999

年,2000年にJAMAとN Engl J Medに相次いで,高度

痴呆患者に対する経管栄養は予後を改善しないという意

見論文が発表された。その後,いくつかの前向き研究が

なされ,特に昨年,Murphyらの嚥下障害を伴う高度痴

呆患者に対する論文(Arch Intern Med 163:1351-1353,

2003)が発表され,嚥下障害を伴う高度痴呆患者に対す

る胃瘻による経管栄養が予後を改善しないという根拠の

NUTRITIONCASE REPORT

NUTRITIONCASE REPORT

20

在宅患者に対する経腸栄養

医療法人鉄蕉会 亀田総合病院在宅医療部 部長 小野沢 滋

経過高度痴呆患者に対する経管栄養の是非

症例

はじめに

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1つとなっている。

しかし,胃瘻患者の予後については欧米と日本とで大

きな隔たりがあることが近年の日本の研究で明らかにな

りつつあり,また,著者らのデータでは,嚥下障害があ

り胃瘻を造設した場合,嚥下障害のない同様の疾患の患

者群に比較して予後が同等まで延長することが示唆され

ている。

このように,高度痴呆患者に対する胃瘻造設や経管栄

養が予後を延長するかどうかは議論の分かれるところで

あり,いまだ結論をみていないというのが現状であろう。

高度痴呆患者に対して,食事摂取量の低下や嚥下困難が

みられるからといって家族・本人の意志を無視して経管

栄養を開始することは疑問であるが,多くの論文での結

論のように科学的根拠をもって経管栄養を行わないこと

も同様に多くの問題を含んでいる。

痴呆高齢者の経管栄養の開始に当たっては,正確な情

報を患者家族に提示したうえで,十分な時間をかけて検

討することが重要である。また,経管栄養を導入する前

に,栄養士などとともに,嚥下食の導入など経口摂取量

を増加させる努力を最大限に行うべきである。本症例の

場合にも上記のように,経管栄養について,さまざまな

議論があることを夫に話したうえで,夫が経管栄養の導

入を決定するには約半年の時間が必要であった。

胃瘻の造設についても,胃瘻と経鼻胃管とを比較して

胃瘻が予後を延長するという明確な根拠はなく,患者が

胃瘻造設によってQOLの向上を享受できるのかどうか

を家族とよく検討する必要がある(図1)。

本例のように経管栄養を導入し,しかも経鼻胃管で行

っているような場合,家族はその場を離れることが難し

く,長時間拘束されることとなる。また,経管栄養とい

っても家族にとっては「おばあさん(おじいさん)の食

事」であり,家族によってはみそ汁やジュースなど,自

分たちが食べているものを経管で食べさせたいという希

望も少なくない。このような場合,経管栄養剤をエンシ

ュア�・Hなどのカロリー濃度の高い栄養剤に変更する

ことが多い。カロリー濃度の高い栄養剤を用いることに

より,基本的なカロリーはより少量の栄養剤で賄うこと

ができ,投与時間の短縮が図れると同時に,家族が作っ

た野菜ジュースやスープ,さらには微量栄養素を補うた

めの機能性食品などの補助栄養を投与時間を延長するこ

となく加えることが可能となる。

カロリー濃度の高い経管栄養剤は「濃いので下痢をし

やすい」という誤解を招きがちであるが,下痢は投与濃

度ではなく,投与速度に関係して起こることがよく知ら

れており,カロリー濃度の高いエンシュア�・Hなどに

下痢が多いということはない。しかしながら,栄養剤の

変更は家族に不安を抱かせることも多く,当在宅医療部

では図2に示すようなスケジュールで栄養剤の変更を行

っている。

以上,79歳の痴呆性高齢女性に対する経管栄養施行症

例を提示した。経管栄養の導入にあたっては家族に十分

21

在宅医療における経管栄養の工夫

まとめ

悪液質の状態に�ある�

NO

YES

YES

YES

YES

NO

PEGは行わない�

PEGを行うよい適応�

PEGは行うべきではないと�アドバイスする�

個々の症例において異なり,�本人,家族の判断に任せる�

永続的な植物状態に�ある�

嚥下障害以外の�合併症がない�

嚥下障害以外に�合併症がある�

患者は栄養を利用できない�

患者がQOLの向上を享受する�ことができない�

患者は明らかにPEGによって�利益を得ることができる�

患者がPEGによって利益を�得ることができるかどうか�は一概にいえず,QOLの低�下をきたすこともありうる�

NO

図1 胃瘻の倫理的側面からみた適応PEG:percutaneous endoscopic gastrostomy(経皮内視鏡的胃瘻造設術)

(文献1)より引用)

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な情報を与え,時間をかけて話し合うことが重要である。

また,導入後も家族の希望をよく聞いて,できるかぎり

その要望に添うような工夫をすることが肝要である。 1)Rabeneck L, McCullough LB, Wray NP : Ethically justified,clinically comprehensive guidelines for percutaneousendoscopic gastrostomy tube placement. Lancet 349 : 496-498, 1997

2)Murphy LM, Lipman TO : Percutaneous endoscopicgastrostomy does not prolong survival in patients withdementia. Arch Intern Med 163 : 1351-1353, 2003

3)小野沢滋:在宅医療の栄養管理における諸問題.日在宅医会誌 3:3-12, 2002

× 12 × 12 × 15 × 12

ENS

ENS

ENS ENS

ENS

ENS

ENS

ENS

ENS

ENS

ENS

ENS

ENS

ENS

ENS ENS

ENH

ENH

ENH

ENH

ENH

ENH

ENH

ENH

ENH

ENH

ENHENH

ENH ENS ENH

ENS

1000

4缶�↓�3缶�

1日�

朝� 昼� 夜� kcal mL

2日�

3日�

4日�

5日�

6日�

7日�

1000

1125 1000

1125 1000

1125 1000

1000 750

1000 750

1000 750

1125 750

ENS

ENS

ENS

ENS

ENS

ENS

ENS

ENS

ENS

ENS

ENS

ENS

ENSENS ENS

ENS

ENS

ENS

ENH

ENH

ENH

ENH

ENH

ENH

ENH

ENH

ENH

ENH

ENHENH

ENSENS

1250

5缶�↓�3缶�

1日�

朝� 昼� 夜� kcal mL

2日�

3日�

4日�

5日�

6日�

7日�

1250

1125 1000

1125 1000

1125 1000

1250 1000

1250 1000

1250 1000

1125 750

図2 栄養剤投与スケジュール例ENS:エンシュア・リキッド®(250kcal/250mL/缶)ENH:エンシュア®・H(375kcal/250mL/缶)

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文 献

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