2004年度フレンドシップ事業「夢化学21」の実施 …...(2004)...

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はじめに 奈良教育大学学校教育教員養成課程には必修科目と して総合演習が設置されている。その中にフレンドシッ プ事業「夢化学21」があり、これは受講生が主体となっ て企画・立案・運営を行い、小中学生を対象に理科教 室を開催するものである。2004年度の夢化学21では、 日常の学校では体験できないような実験を小中学生に 体験してもらい、科学の面白さや楽しさを伝えること、 そして長い間世間でも騒がれている理科離れを防ぐこ とを目的として企画・立案を行った。さらに、受講生 は何もないところから考えていくことの苦労や楽しさ を体感しながら実践的なノウハウを身につけること、 小中学生に科学の楽しさを伝えるために必要となる自 らが科学を楽しむ姿勢を持ち得ながら、現在学校現場 から求められているような教員の資質を身につけると ともに、将来の自分の教師像を描きながら、自らの目 標を見据えることを目的として行った。 2004年度に開催した夢化学21 概要 受講生:14名 主催:奈良教育大学 共催:日本化学会近畿支部、夢化学21実行委員会、 化学工学会関西支部、奈良県教育委員会、 奈良市教育委員会 対象学年:小学校高学年から中学3年生 募集定員:100名 申込人数:小学生…92名、中学生…36名 (理科部門…88名 工作部門…40名) 保護者・引率教員…49名 計177名 開催日時:2004年7月24日(土) 9:00~16:00 実験内容:水で火をつけよう、入浴剤を作ろう 電球を作ろう 開催場所:奈良教育大学 化学第一実験室、生物大実験室 地学大実験室 など 2004年度の特色 14名の受講生から構成された夢化学21にスタッフを 263 2004年度フレンドシップ事業「夢化学21」の実施報告とその分析 梶原篤 、大西郁子 奈良教育大学理科教育講座、 兵庫教育大学大学院学校教育研究科) Results and Discussion on "Friendship" Education Program at Nara University of Education in 2004 Atsushi KAJIWARA and Ikuko OHNISHI (Nara University of Education and Hyogo University of Teacher Education) 要旨:奈良教育大学では総合演習としてフレンドシップ事業「夢化学21」を単位化している。2004年度は単位化して 4年目で、理科専攻の学生と数学専攻の学生が受講し、活動を行った。例年通り4月から7月までの前期講義期間4ヶ 月間を利用し準備を行い、近隣の小中学生を対象に理科教室を開催した。2004年度の特色としては実施に当って、事 務的な作業をする学生と実験準備をする学生の仕事を分け、それぞれ得意とする作業に従事した。本稿では、2004年 度の活動内容の報告、活動実施後のアンケート結果の分析について述べ、この理科教室の目的である、「大学の施設 を利用し、普段の小中学校では体験できない実験を通して、科学の面白さや楽しさを感じてもらうこと、及び深刻化 しつつある理科離れを防ぐこと」や「受講生が、企画・立案・運営を学生主体で行うことにより、ゼロから作り出す 苦労や楽しさを体感し、より実践的なノウハウを身につけることで、現在学校教育に求められている教員の資質を身 につけ、科学を楽しむ姿勢をもつこと」がどの程度達成できたのか、できなかったのかを検証し、さらに教育大学に おける教育実践活動のあり方について提言する。 キーワード:フレンドシップ事業、夢化学21、教育実践活動、スクールサポート活動

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Page 1: 2004年度フレンドシップ事業「夢化学21」の実施 …...(2004) 平成16年度フレンドシップ事業報告書 奈良教育大学 8)梶原、中尾、佐貫、宮田(2005)「フレンドシップ

1.はじめに

 奈良教育大学学校教育教員養成課程には必修科目と

して総合演習が設置されている。その中にフレンドシッ

プ事業「夢化学21」があり、これは受講生が主体となっ

て企画・立案・運営を行い、小中学生を対象に理科教

室を開催するものである。2004年度の夢化学21では、

日常の学校では体験できないような実験を小中学生に

体験してもらい、科学の面白さや楽しさを伝えること、

そして長い間世間でも騒がれている理科離れを防ぐこ

とを目的として企画・立案を行った。さらに、受講生

は何もないところから考えていくことの苦労や楽しさ

を体感しながら実践的なノウハウを身につけること、

小中学生に科学の楽しさを伝えるために必要となる自

らが科学を楽しむ姿勢を持ち得ながら、現在学校現場

から求められているような教員の資質を身につけると

ともに、将来の自分の教師像を描きながら、自らの目

標を見据えることを目的として行った。

2.2004年度に開催した夢化学21

概要

 受講生:14名

 主催:奈良教育大学

 共催:日本化学会近畿支部、夢化学21実行委員会、 

 化学工学会関西支部、奈良県教育委員会、

    奈良市教育委員会

 対象学年:小学校高学年から中学3年生

 募集定員:100名

 申込人数:小学生…92名、中学生…36名     

 (理科部門…88名 工作部門…40名)

 保護者・引率教員…49名  計177名

 開催日時:2004年7月24日(土) 9:00~16:00

 実験内容:水で火をつけよう、入浴剤を作ろう  

 電球を作ろう

 開催場所:奈良教育大学            

 化学第一実験室、生物大実験室    

 地学大実験室 など

2004年度の特色

 14名の受講生から構成された夢化学21にスタッフを

2004年度フレンドシップ事業「夢化学21」の実施報告とその分析

263

2004年度フレンドシップ事業「夢化学21」の実施報告とその分析

梶原篤1、大西郁子2

(1奈良教育大学理科教育講座、2兵庫教育大学大学院学校教育研究科)

Results and Discussion on "Friendship" Education Program at Nara University of Education in 2004

Atsushi KAJIWARA and Ikuko OHNISHI

(Nara University of Education and Hyogo University of Teacher Education)

要旨:奈良教育大学では総合演習としてフレンドシップ事業「夢化学21」を単位化している。2004年度は単位化して

4年目で、理科専攻の学生と数学専攻の学生が受講し、活動を行った。例年通り4月から7月までの前期講義期間4ヶ

月間を利用し準備を行い、近隣の小中学生を対象に理科教室を開催した。2004年度の特色としては実施に当って、事

務的な作業をする学生と実験準備をする学生の仕事を分け、それぞれ得意とする作業に従事した。本稿では、2004年

度の活動内容の報告、活動実施後のアンケート結果の分析について述べ、この理科教室の目的である、「大学の施設

を利用し、普段の小中学校では体験できない実験を通して、科学の面白さや楽しさを感じてもらうこと、及び深刻化

しつつある理科離れを防ぐこと」や「受講生が、企画・立案・運営を学生主体で行うことにより、ゼロから作り出す

苦労や楽しさを体感し、より実践的なノウハウを身につけることで、現在学校教育に求められている教員の資質を身

につけ、科学を楽しむ姿勢をもつこと」がどの程度達成できたのか、できなかったのかを検証し、さらに教育大学に

おける教育実践活動のあり方について提言する。

キーワード:フレンドシップ事業、夢化学21、教育実践活動、スクールサポート活動

Page 2: 2004年度フレンドシップ事業「夢化学21」の実施 …...(2004) 平成16年度フレンドシップ事業報告書 奈良教育大学 8)梶原、中尾、佐貫、宮田(2005)「フレンドシップ

事務班と実験班に分けて準備を行った。事務班の仕事

内容は、名簿・参加証の作成、会場手配、など実験以

外のことを行った。実験班の仕事内容は、実験の内容

を考え、授業の構成と工夫を凝らす、またレジュメ作

りなど実験にかかわること全般であった。当日は、参

加者を小学生2グループ、中学生1グループの計3グ

ループに分け、3つの実験内容を順番に体験できるよ

うにした。開催前日までにほぼ準備がおわり、心に余

裕を持って当日を迎えることができた。

2004年度新しく取り入れたこと、心掛けたこと

 7年目を迎えた夢化学21であり、今までの理科教室

の中でも、より完成度の高いものを作り上げたいとい

う思いから受講生が議論をして取り入れたことが以下

の各項である。

・ 白衣を着たときは必ず前をしめ、スタッフ全員の

服装をそろえる。

理由:過去に開催された夢化学21の保護者からのアン

ケート結果を振り返ってみると、「スタッフの服装が

だらしない」という意見があった。保護者の方は、企

画で展開される授業だけを見ているのではなく、企画

を運営する受講生がどのような格好でどのように行動

しているのかというところまでを対象に、意識して見

ていることが分かった。そこで、受講生として真剣に

取り組んでいる様子を示すため、白衣の着方、服装を

揃えた。また、服装がそろっていることは目印にもな

り、参加者はどの人が企画関係者であるかが見分けら

れると考えたからである。

・ 教える立場ではあるが「先生」と呼ばせない。

理由:企画を運営しているもののまだ半人前の学生で

あり、「先生」と呼ばれることに抵抗があり、また参

加者との距離を縮めたいということから「お兄さん・

お姉さん」と呼び合った。

・ レジュメの難しい漢字にはルビをうち、実験内容

に即したイラストをのせる。

理由:文字だけのレジュメで、小学生が科学の楽しさ

を感じるとは考えられなかった。なぜなら、小学生が

使う教科書は絵本のようにカラフルでイラストが多い。

出来る限り、普段の教科書に近づけてなじみやすいも

のに仕上げたかったので、イラストを入れた。しかし、

まだ習っていない漢字は使うことを避けずにいずれ習

うものであるためルビを振って使った。

・ 腕時計を着ける。

理由:大学生は腕時計よりも携帯電話を時計の代用品

としている。自分たちが企画し

た理科教室で、携帯電話に気を

とられながら進行しているよう

では、参加者に失礼ではないか

と考えたからである。

・ 子どもたちが着る白衣につ

けるロゴを、シルクスクリーンで行う。(右:そ

のときにつかったロゴ)

理由:例年、アイロンプリントを利用していたようで

あるが、2004年度は版画の要領でプリントできるシル

クスクリーンを活用した。ドライヤーで乾かすことで

すぐに仕上がり準備も簡単なので、コストも掛かから

ないので便利だと考えたからである。

参加者募集にあたって

 事前に作っておい

た夢化学21を宣伝す

るビラを9000枚印刷

した。参加者を確保

するために、前年度

のリピーターへの手

紙の郵送を行うとと

もに、近隣の小中学

校に協力していただい

た。受講生それぞれが近隣の小中学校29校に、電話を

かけて訪問することの許可をとり、実際に訪問先では

企画内容の説明をし、ビラ全校生徒分配布していただ

くことをお願いした。訪問してみると対応してくださ

る先生の様子もさまざまであった。丁寧に接してくだ

さる先生方もいらっしゃれば、厳しいお言葉をかけて

くださった先生もあった。しかし、ほとんどが快く受

け入れてくださり、また訪問した学生にとっても「社

会の厳しさ」を学ぶよい経験ができたと感じている。

準備にあたって

 当日までの準備は、とてもハードであった。週1回

の授業時間だけでは到底間に合わないという現状であっ

た。この1日のためにかけた時間は実際授業回数の4

~5倍の時間をかけている。また、実験班は実験が必

ず成功するようになるまで試行錯誤を重ねた。成功す

るようになると次は授業の見せ方、子どもたちの興味

のひき方等様々な工夫を凝らした。事務班も当日が近

づくにつれて、参加者の調整や書類作りに追われた。全

体としては、受講生のみで実験を通しで行うリハーサ

ルを4回、当日手伝ってくれるTAの学生を交えての

リハーサルを2回行い、当日を迎えた。

実験内容

実験のテーマは「身近にある化学」と決めた。内容は

以下の表の通りである。

梶原 篤・大西 郁子

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写真1 当日の様子

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2004年度フレンドシップ事業「夢化学21」の実施報告とその分析

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3.アンケート結果

  参加者にアンケートを実施した。以下に結果と考察を示す。(回答者数55名)

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4.アンケート結果の分析と考察

 2004年度の夢化学21への参加者はほとんどが小学生

で構成されていた。また、参加者のほとんどがこのよ

うなイベントが今後開催されれば参加したいと回答し

ていることから、この夢化学21は参加者に楽しんでも

らえたことが分かる。

 問3では面白かったものと勉強になったものを回答

してもらった。面白かった内容は「入浴剤をつくろう」

であると回答した参加者の割合が最も多く、勉強になっ

た内容では「水で火をつけよう」であると回答した参

加者の割合が多かった。「入浴剤をつくろう」では、

実際に入浴剤を作り、お土産としてもって帰ることが

出来た。この点が、参加者にとって水から作ることが

出来る面白さと、もって帰ることの出来るうれしさか

ら面白かったのではないかと考える。また、「水で火

をつけよう」では、参加者が思い描いている水が火を

消すという概念とは異なる意外性と内容への関心が学

びにつながったのではないかと考えられる。このよう

な質問をあげたのには理由がある。それは参加者が勉

強になったと思う内容は、理解できた面白さを兼ねて

いるのではないかと考えたからである。しかし、結果

は必ずしも勉強になった内容が面白いものであるとは

限らないというものであった。この結果から、楽しん

でいる様子であっても、子どもたちが楽しさから学ぶ

ものがあるとは必ずしも言えないことが分かった。将

来、教師になったとき、子どもたちが楽しんで取り組

む内容を並べるだけでは、学ぶべき内容が欠けてしま

う可能性があることを知り、勉強になる内容に面白さ

を加えることの大切さを受講生が理解したと期待する。

 問5の自由記述では、小中学生だけでなく、保護者

の方や引率教員の方からも回答を得た。どちらの回答

からも楽しんでもらえたことや説明を理解してもらえ

たことが分かる。このことから、夢化学21の目的であ

る、科学の面白さや楽しさを伝えること、及び長い間

世間でも騒がれている理科離れを防ぐことに貢献でき

たのではないかと捉えている。

5.今後の課題

 2004年に開催した夢化学21は14名の受講生で試行錯

誤しながらも、参加者の怪我もなく無事に終わること

ができた。しかし、いくつか課題を理解したので、そ

の課題について考察する。

・夢化学21の受講者増加について

 2004年は14名で夢化学21を行った。夢化学21への参

加者は小学生92名、中学生36名、保護者・引率教員49

名、計177名を14名の受講者で誘導を行った。つまり受

講生1人あたり参加者約9人の対応しながら授業を進め

ていくことになった。大学で行う実験なので、小中学

校で行っている実験よりも規模が大きい場合があるた

め1人あたりの負担が大きいと事故が起こる危険性も

高くなる。受講生1人の負担が少ない方が、配慮の行

き届き安全にかつ滞ることなく企画を行うことが出来

るようになる。この状況を改善するためには、参加者

を制限し少人数を対象に企画を行う、もしくは受講生

を増やすかである。しかし、夢化学21を楽しみ申し込

んでくれる参加者を制限してしまうのは、科学の面白

さを少数の人にしか伝えられなくなるという面でマイ

ナスである。そこで、受講生を増やすことがプラスの

効果をもたらすのではないかと考える。自主的に活動

することを好む受講生が増えることで、参加者へ配慮

が行き届き、実験の規模も拡大でき、円滑に進行する

ことができるのではないだろうか。

 一方で、理科を専門とする学生だけでなく理科を専

門としない学生も大勢受講し、理科について考えたり、

梶原 篤・大西 郁子

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表1 取り入れた実験紹介

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授業を行ったりする機会へなることを希望する。はじ

め、理科教育について全く関心を示さなかった受講生

も理科を専門とする友人とともに活動していくうちに、

理科の面白さを理解し、実験を考える中で理科を専門

とする友人から学んでいた。また逆に、理科を専門と

する学生にとっては、何気なく行う実験手順や解説の

中にも、初心者のような他教科専門の学生にとっては

分からないことが多い。そのような2組が存在すると

き、授業の解説の改善点が分かったり、手順の工夫の

必要性に気づかされたりと、理科を専門とする学生と

専門としない学生のお互いが学ぶ機会ともなる。まし

てや、小学校教員を目指す学生であれば、このような

機会を有意義に生かしてはどうだろうか。夢化学21の

受講生が増えるように、夢化学21を受講した学生が、

自ら企画を行うことの良さや面白さを広めていくこと

が重要である。

・夢化学21を進めていく上での役割分担について

 2004年度は事務担当者と実験担当者に仕事内容を分

担した。これは、必ず成功させたいという願いが強く、

事務・実験をともにしっかりと形として残していきた

かったからである。分けたことによって実験担当は授

業を進めていく上での工夫やレジュメの作成に集中で

き、事務担当は書類の整理や部屋の確保など徹底して

支えてくることができた。しかし、事務担当は実験の

苦労や実際に授業する立場の経験がなかったことや、

実験担当は事務的な細かい仕事を経験できなかったと

いう欠点がある。折角の機会に両方を経験できるよう

にはじめの段階で考えるのも1つの手段である。

・実際の教育現場について

 この夢化学21の1日のために3カ月かけて準備し、

たくさんのことを想定しそのときの対応を考えていっ

た。しかし、実際の学校の教師は1つの授業にかける

ことのできる時間は限られていて、今回の夢化学21の

ような準備期間を設けてはできない。もっと短い時間

の中でどうすれば子どもたちの興味をひき、工夫を凝

らし、的を射た授業が展開できるのかを考えることが

求められている。

・フレンドシップ事業の充実発展とカリキュラム化に

ついて

 この「夢化学21」というのは総合演習のうちの1つ

で、全てが学生主体で行うフレンドシップ事業であっ

た。このような、教師を目指す学生が主体的に活動で

きる環境がもっと増えることを期待する。今回、「夢

化学21」を体験した受講生は多かれ少なかれ教師の裏

側の仕事を知り、知識を身につけることができた。中

には、面倒なことだと思う人もいるだろうが、やって

みると自分の責任を果たすためにいつの間にか自然と

必至になってしまうのがフレンドシップの効果の1つで

はないだろうか。(実際、「夢化学21」の受講生も最後

は全員が1つの企画を成功させるために必至になった。)

そこで、このような学生が自主的に活動できるフレン

ドシップ事業を必修科目に位置付け、教師を目指す学

生が必ず受講するような制度ができることを提案する。

即戦力を持った教員が1人でも多く出てくることが望ま

しいだろう。

6.まとめ

 企画終了後、参加者の保護者の方から一通の手紙を

いただいた。その方は現場の小学校の先生である。手

紙の内容によると、企画内容が非常に楽しめるもので

あったという意見と現在の小学校では小学生が泥を触

ることすら許されない状況になってしまったというこ

とが記されていた。手紙をいただいたことは8年間行っ

てきた夢化学21では初めてのことであり、手紙を受け

取った受講生たちは、自分たちが企画した夢化学21を

楽しんでもらえたという充実感とともに将来教員を目

指すわが身が置かれる状況が多くの制限をうけている

ということに危機感を抱いた。自分が描いている現場

よりももっと厳しいものが現実であろう。

 夢化学21を通して、企画を運営するノウハウ、授業

を構成するときの視点、教材を考えるときの視点など、

教師となったときに生かすべき点が多かったことを改

めて認識した。ここで体験したことを発展させ、多く

の制限がある中でも科学の面白さや楽しさを最大限に

伝えられる教師が今求められているのではなかろうか。

 この夢化学21は受講生に対して実践的なノウハウを

身につけ、自らが科学を楽しむ姿勢を持ち、現在学校

現場から求められているような教員の資質を身につけ

ることをも目的としている。この夢化学21を通して、

数学教育を専門としながらも理科教育に興味を示し、

その後理科の教員免許状を取得した受講生が出たこと

は一定の役割を果たしたと考えている。理科を専門と

しない学生が、このような機会を有効に活用し、今後

も続く夢化学21で、理科を専門とする学生だけでなく、

理科を専門としない学生も活躍してくれることを願っ

ている。

 受講生の中には夢化学21を体験し、理科教育実践活

動への興味だけでなく、子どもたちとの接し方につい

てもっと実地体験を通して学びたいと考える学生もで

てきた。地域の幼稚園・小学校・中学校で実施されて

いるスクールサポートへ参加する受講生も出てきて、

実際の教育現場で何かを学び取ろうとする意欲を示し

た。スクールサポートでは現職の先生方の授業の進め

方・まとめ方はもちろん、昼休みや休み時間に教師が

2004年度フレンドシップ事業「夢化学21」の実施報告とその分析

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自分の時間を削って行う生徒指導の風景を目の当たり

することもあり、このような体験は教師を目指す学生

にとって大切なものであると感じていた。教育実習で

は、日々の授業に追われ、教師についてしっかりと見

る時間も余裕もなく終わってしまい、現職の先生方の

様子から学べることが少なくない。だから、このよう

な夢化学21のような企画への参加や、自主的なスクー

ルサポートへの参加を視野にいれることが重要であろ

う。大学での講義の合間にスクールサポート活動を取

り入れることは、時間的な拘束も増えるが、決して無

駄な経験ではない。しかし子どもたちの将来を左右す

る教師という職業を選択するからこそ、現場の学校で

の活動を有効に活用してもらいたい。

以下に2004年度受講生の当時の所属を紹介する。

・有馬 美恵 (科学情報教育コース 物質情報専修)

・岩見 早代利 (理数・生活科学コース 数学専攻)

・大西 郁子 (理数・生活科学コース 数学専攻)

・相模 洋輔 (科学情報教育コース 物質情報専修)

・角 亜紀子 (理数・生活科学コース 理科専攻)

・田中 由紀 (理数・生活科学コース 理科専攻)

・谷川 貴美 (理数・生活科学コース 理科専攻)

・中北 ねり (理数・生活科学コース 理科専攻)

・中西 朝美 (理数・生活科学コース 理科専攻)

・林 真美 (理数・生活科学コース 理科専攻)

・宮腰 拓 (理数・生活科学コース 理科専攻)

・山中 聡恵 (理数・生活科学コース 数学専攻)

・山脇 郁子 (科学情報教育コース 物質情報専修)

・米田 力 (科学情報教育コース 物質情報専修)

謝辞 この受講生以外にも理科教育講座の先生方、近

隣の小中学校の先生方、OBやOG、後輩等、多くの方

のご協力を得、無事終了することができました。ここ

に記して感謝いたします。

7.参考文献

1)奈良教育大学フレンドシップ事業運営委員会編

(1998) 平成10年度フレンドシップ事業報告書 

奈良教育大学

2)奈良教育大学フレンドシップ事業運営委員会編

(1999) 平成11年度フレンドシップ事業報告書 

奈良教育大学

3)奈良教育大学フレンドシップ事業運営委員会編

(2000) 平成12年度フレンドシップ事業報告書 

奈良教育大学

4)奈良教育大学フレンドシップ事業運営委員会編

(2001) 平成13年度フレンドシップ事業報告書 

奈良教育大学

5)奈良教育大学フレンドシップ事業運営委員会編

(2002) 平成14年度フレンドシップ事業報告書 

奈良教育大学

6)奈良教育大学フレンドシップ事業運営委員会編

(2003) 平成15年度フレンドシップ事業報告書 

奈良教育大学

7)奈良教育大学フレンドシップ事業運営委員会編

(2004) 平成16年度フレンドシップ事業報告書 

奈良教育大学

8)梶原、中尾、佐貫、宮田(2005)「フレンドシップ

事業『夢化学』をもとにした中学校における理科

教育実践活動」奈良教育大学教育実践総合センター

研究紀要 No.14 pp.127-131

9)梶原、中尾、鈴木(2006)「フレンドシップ事業『夢

化学』をもとにした中学校でのスクールサポート

活動の成果と課題」奈良教育大学教育実践総合セ

ンター研究紀要 No.15 pp.161-166

梶原 篤・大西 郁子

268