200806 予知連報告書 ver20080609b.graffle...火山灰構成粒子...
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気象庁提供の火山灰試料について,(1)水溶性付着成分量の測定,(2)エックス線回折,(3)色の測定,(4)粒度分析,(5)実体顕微鏡及び反射電子像の観察,(6)ガラス化学組成分析を行なった.また,噴火の経緯・モデル・活動推移を整理した.いくつかの分析作業は現在進行中であり,本報告の分析結果及び解釈は暫定的なものである.
結論1)ガラス・斑晶組成は1970年代以降の南岳山頂火口(以後,山頂火口)のものと系統的な変化は認められず,桜島の深部マグマ供給系に変化がない事を支持する.
2)一方,山頂火口火山灰と比較して,2008年火山灰は構成粒子のガラス片の割合が多いため,浅部の噴火過程(脱ガス~破砕)には違いがあることが推定される.
3)火山灰の色・変質鉱物量比・水溶性付着成分量には時間変化が認められ,昭和火口活動開始後の浅部での変質の進行と,その後の噴火に伴う変質帯の除去(火道の形成)を示すと考えられる.
桜島昭和火口噴出物の構成物・付着成分分析(2008年2~5月)
火映
地震・微動回数/日
SO2放出量(×100t/日
)空振計 島内最大値(Pa)
7月以降 昭和火口周辺の白色付着物が顕在化
6月 昭和火口再噴火
10
20
30
40
50
60
70
802月下 噴気活動活発化
白色付着物・噴気量の増加
‘93から‘06.3
の間に表面温度上昇
‘08_1 月 2 月 3月 4月 5月‘07‘06‘05
自然硫黄
黄鉄鉱
カオリナイト
石膏類
明礬類
黄鉄鉱
2/52/3 4/3 4/8 4/11 5/7
水面
浮遊物
水中混濁物
07/5/2306/6/14分析試料の噴火日
マグマ分離ガス -浅層水反応域の拡大 浅所まで硫酸酸性変質域が到達 マグマ性ガス -水反応の抑制
4/28
火道系の確立
b*/a* 値
地震回数 ( 日 )微動回数 ( 日 )
昭和火口 - 空振 島内最大値 (Pa)南岳火口 - 空振 島内最大値 (Pa)
昭和火口 - 爆発を伴わない噴火SO2 放出量 (1 日当たり:平均値 )
XRD分析結果
色相 -.04 .07 .05 .04.05 .30.26
5/8.30
5/15
.30
4/6 4/9 4/30 5/22
桜島(昭和火口)平成火山活動の活動推移と噴出物まとめ
データの出典はいづれも気象庁火山監視・情報センター
監視カメラ画像は,気象庁および大隅河川国道事務所.キャプチャー by TY.
6/1
XRDピーク相対強度極めて高い中程度極わずか確認できず試料の状態により測定できず
(2回目)
産総研・地質調査総合センター第110回火山噴火予知連絡会
桜島
火山灰水溶性付着成分
0
1000
2000
3000
4000
5000
06 07 08
Year (yy)
Cl (mg/kg Ash)
0
10000
20000
30000
40000
50000
SO
4 (mg/kg
Cl
SO4
Cl (m
g/k
g A
sh) S
O4 (m
g/k
g A
sh)
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
06 07 08
Year (yy)
Cl/SO
4 mole
Cl/SO4
Cl/S
O4 m
ol ra
tio
図1
図2
2008年2月-5月に昭和火口から放出された火山灰の硫酸イオン付着量は,特に活動初期に多く,時間と供に減少している.火口浅部で生成された変質物の混入量の減少を反映していると考えられる.この傾向は2007年5-6月に見られた傾向と同様である(107回予知連東工大・京大資料).
2006-2008年桜島火山灰の水溶性塩化物イオン,硫酸イオン付着量変化(mg/kg).試料は4月28日のものを除き,昭和火口から放出された火山灰.4月28日は山頂火口由来と昭和火口由来火山灰の混合物.試料採取:鹿児島地方気象台
2006-2008年桜島火山灰の水溶性塩化物イオンと硫酸イオン付着量モル比変化.試料は4月28日のものを除き,昭和火口から放出された火山灰.4月28日は山頂火口由来と昭和火口由来火山灰の混合物.試料採取:鹿児島地方気象台.
産総研・地質調査総合センター第110回火山噴火予知連絡会
桜島
エックス線回折結果 試料を水中に投入し,水面に浮遊した粒子(図3)と,水中に溶解および懸濁した粒子(図4)を回収しX線回折分析によって構成鉱物の同定を行った. 水面浮遊物においては,'08年2月噴出物では,硫黄が認められたが,4月以降の噴出物で消失した.水中溶解・懸濁物においては,[1]'06年および'07年噴出物では,変質鉱物の明瞭なピークは確認できなかった.[2]'08年2月の噴出物では,石膏類,明礬石類のピークが現れはじめ,[3]4月以降の噴出物では明瞭なピークが確認される様になった.
0 20 40 600
500
1000
1500
2000(cps)
(2θ)
S Py Py Py Py Py PyS
0
2000
20 40 60(2θ)0
91’ 082789’ 082588’ 061687’ 111383’ 0629
0
2000
4000
6000(cps) G Ba Al
PyBa
PlOpPl
Pl Ba BaPy
BaPy
Al BaPlKl
図 5. 水面浮遊粒子の XRDチャート
図 6. 水中溶解および懸濁物の XRDチャート
4000
S:自然硫黄 (S)Py:黄鉄鉱 (FeS2)
G:石膏 (CaSO4・2H2O)Ba:焼石膏 (CaSO4・0.5H2O)Al:Na- 明ばん石 (NaAl3(SO4)2(OH)6))Op:オパール (SiO2・xH2O)Pl:斜長石
Kl:カオリナイト (Al2Si2O5(OH)4)
ピーク位置記号
08’ 050708’ 041108’ 040808’ 020508’ 0203
08’ 050708’ 041108’ 0408
08’ 020508’ 0203
08’ 0403
07’ 052306’ 0614
昭和火口の噴出物
山頂火口の噴出物(83’~91’ )
08’ 051508’ 0508
08’ 0404
昭和火口の噴出物
図3
図4
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桜島
桜島火山灰の色
2008年2月火山灰は1981年~1991年の山頂火口の火山灰と異なる色変化傾向を示していたが,4月下旬に変化し,80年代の山頂火口の火山灰と同様の色変化傾向になった.色が異なっていた主な原因は,2月~4月初旬の火山灰の極細粒成分に黄色い単体硫黄が含まれていた為と考えられる.
解説:この図において原点は無色を示し,縦軸(b*)は正と負の数字がそれぞれ黄色と青色の強さを示し,横軸(a*)は正と負の数字がそれぞれ赤色と緑色の強さを示す.明度(L*)軸はa*, b*座標軸に直交するので上の図では表現されていない.白丸=1981年~1991年の山頂火口の火山灰,黒丸=2008年2月3日~4月11日の火山灰.黒三角=2008年4月28日以降の火山灰.破線で囲まれる領域は,火山灰中の鉄分の酸化に伴なう色変化傾向を示す.
図5 火山灰の色測定結果
c
1982, 1987
1991, 1986, 1984
1988
1992, 1990
1983, 1981
1989
加熱による色変化(三宅島00.8.18火山灰)
2008.2.3 13:30
2008.2.3 18:00
2008.2.5
三宅島2000.8.18 ash
2008.5.7
2008.4.282008.4.11
2008.4.3
2008.4.4
単体硫黄→→ (a*,b*)≒(3, 23)
a*軸「赤い」→
b*軸「黄色い」→
2008.5.8, 2008.5.15
2008.5.8
酸化硫黄
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桜島
粒度組成2008年火山灰の粒度組成は,2つの例を除けば,1981年~1991年の山頂火口の火山灰と同程度か更に細粒である.
図6 火山灰粒度組成
図の説明:横軸の数値は篩の開口径,縦軸はそれぞれの篩に残った試料重量の積算%である.横軸のうち「silt」は,水洗時に失なわれる超微粒子より粗粒かつ0.15mm以下の成分である.1981~1991年の山頂火口の火山灰は鹿児島地方気象台で採取され,2008年火山灰のうち上図に示した試料は全て桜島島内で採取されたものであり,2月3日(一回目)を除き,試料は降灰時に湿潤していない模様.火山灰の粒度組成は火口直下における破砕作用の違いを反映するが,噴火後の分級や天候条件によっても大きく左右されるから,他の情報とともに更に検討する必要がある.
細粒成分に富む
山頂火口の火山灰と同程度の粒度
粗粒成分に富む
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桜島
火山灰構成粒子2008年火山灰の構成物(以下)の量比は,1981年~1991年の山頂火口のものとは異なり,淡褐色の火山ガラス片を比較的多く含有することが特徴である.・斜長石,輝石などの鉱物片・比較的新鮮な岩片・褐色~淡褐色の発泡またはブロック状火山ガラス片・変質岩片
1984年6月3日9時00分~4日9時00分の降灰
2008年4月4日13時ごろ採取した火山灰
図7:実体顕微鏡で撮影↑. 図8↓同じ構図の反射電子像 図9:実体顕微鏡で撮影↑. 図10↓同じ構図の反射電子像
解説:0.15~0.30mm粒子を実体顕微鏡および反射電子像で観察した.写真の横幅は約5mm.2008年火山灰の構成物の量比には経時変化があり,数日以上の休止後の最初の噴火活動で放出された火山灰(例:2/3(2回目), 4/3)には変質岩片が比較的多量に含まれるが.噴火が継続するにつれ変質岩片量は減少し発泡ガラス片は増加する.
同じ粒子
(鹿児島地方気象台) (桜島島内,有村展望台)
産総研・地質調査総合センター第110回火山噴火予知連絡会
桜島
火山灰構成粒子の化学組成
火山灰の構成粒子(斑晶,石基ガラス,斑晶ガラス包有物)の化学組成を分析したところ,2008年噴出物は,1984年~1991年の山頂火口の活動で放出された物とほぼ同じ組成であることがわかった(図11 = SiO2とTiO2の結果).鉄,マグネシウム,カルシウム,ナトリウム,カリウムに関しても,同様であった.
図11 斑晶・石基ガラス・斑晶ガラス包有物の化学組成
図の説明:横軸はSiO2,縦軸はTiO2濃度(ドライ,100%換算済).分析対象は1984~1991年の火山灰(青十字),2008年2月3日と5日の火山灰(赤十字),2008年4月3日と4日の火山灰(黄色三角).赤線で囲われた2つの領域は宇都・他(2005)による全岩化学組成データーであり,2000年前よりも若い噴出物と古い噴出物とで領域が異なる.1984~2008年火山灰のガラス化学組成は,このうち2000年前より若い噴出物の組成変化傾向を延長した位置に集中している.
<2ky
>2ky
斑晶ガラス包有物および石基ガラス
石基ガラスおよび変質部輝石
斜長石
SiO2 wt%
TiO2 wt%
2000年前より若い
2000年前より古い
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桜島
‘06/06,‘07/05 噴火
昭和火口付近に接近してきたマグマ と火山体浅層地下水系との作用に よる水蒸気爆発→放出物は昭和火口の充填物 (主に昭和時代の山頂火口噴出物 及び大正噴火噴出物)
非変質の火道周辺物質が主体
マグマ分離ガスは深部で反応で消費
Steam ground
昭和火口付近に接近してきたマグマ から分離した火山ガスにより,昭和 火口周辺に硫酸酸性環境を維持→石膏類,明礬石類,昇華硫黄を形成, 昭和火口の表層部の白色化が顕在化
‘07/05 噴火以後
熱水変質の進行
硫酸酸性環境での岩石変質作用
未変質部および昇華硫黄および石膏 を多く含む地表部が噴出(2/3 噴火)噴火の進行により噴出口が深化し, 明礬石の相対比が増加する(2/5 噴火).4月以降は,昭和火口周辺の熱水変質域 の放出が主体となる
‘08/02 噴火
昇華物を含む火口表層部,非変質の火道周辺物質及び熱水変質部
噴火進行と共に噴出物は熱水変質物が主体となる
‘08/04-5 噴火
H2SSO2
?マグマ循環
連結 ? 独立 ?比較的明瞭な火道系
H2OH2SSO2
昭和火口南岳火口
硫酸酸性環境の岩石変質作用
2008 年 5月末の桜島山頂部付近の模式図 ( 図 12)
昭和火道を再利用した,新たな脱ガス火道の形成火道安定化の経過段階として,06年 6月以降爆発現象が起こる
06年 5月末以降[平穏時]熱水対流の進行により,火道周辺に変質作用を及ぼす.[噴火]安定した熱水対流の一時的な破綻により(マグマ)水蒸気爆発を発生する
H2O火口底に露出したマグマ頂部
火映現象(火口内高温化)
‘08/05 月末以降 噴火
火道系の確立.火山ガス付与による熱水変質系の衰退→ 噴出物の高温化 爆発現象に対するマグマの関与が高まる
火山雷
火柱
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桜島