2009 大学評価の検証アンケート からみる...

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大学評価の検証アンケート からみる 評価の効果・影響と課題 隆之 (大学評価・学位授与機構) 本報告におけるアンケート調査は、齊藤貴浩(大阪大学)、金性希、齋藤聖子(大学評価・学位授与機 構)との共同研究によります。 本報告の内容は発表者の個人的見解であり、所属機関を代表するものではありません。 大学評価担当者集会2009

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大学評価の検証アンケートからみる

評価の効果・影響と課題

林 隆之

(大学評価・学位授与機構)

※ 本報告におけるアンケート調査は、齊藤貴浩(大阪大学)、金性希、齋藤聖子(大学評価・学位授与機

構)との共同研究によります。※ 本報告の内容は発表者の個人的見解であり、所属機関を代表するものではありません。

大学評価担当者集会2009

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報告内容

2004年から導入された認証評価、法人評価が、おおむね終了しつつある段階。

評価機関としての関心=評価が何らかの効果をもたらすことができたのか? その場合に何が作用したのか?→評価システムの改善へ

認証評価(H17-19年度)、国立大学法人評価(H20年

度)終了後に大学・評価者へアンケートを実施 その中から効果・影響に関係する部分を報告

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1.認証評価の検証アンケートから見えること

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自己評価段階での効果

評価結果を受けての効果

評価により得られた効果の認識(大学)

4

1:全くそう思わない~3:どちらとも言えない~5:強くそう思う

③組織的運営の重要性が教職員に浸透

①教育研究活動の全般的な把握

④各教員の教育や研究に取組む意識向上

②教育研究活動の今後の課題把握

⑤教育研究活動等の改善促進

⑦全学マネジメントの改善促進

⑧個性的な取組の促進

⑨自己評価の重要性の浸透

⑩教職員に評価報告書の内容が浸透する

⑮他機関の評価報告書から優れた取組を参考にする

⑫教育研究の質が保証される

⑬学生(志願者含)の理解と支持が得られる

⑭広く社会の理解と支持が得られる

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大学から報告された改善事例 大学の目的を各所に提示・記載して周知。 授業科目ごとの到達目標と成績評価方法・基準をシラバスに明示。

教員の必要数を下回っていた専修で教員を採用

入学定員充足率を向上させる措置(改組、留学生への経済支援、定員の見直し)

シラバスの入力必須化、内容を詳細化

統一的な成績評価基準を定め履修案内等へ明示。成績評価に関する申立てを制度化。

附属図書館の開館時間を延長。

授業評価結果を全教員にフィードバック。学生に公表。改善が得られない場合に学長から勧告。

FD部門に専任教員配置。FDの効果を検証。学長から教員に参加を要請。 卒業生・就職先からの意見聴取の取り組み強化

→ 基準に適合しない内容の修正は確かにされている(質の保証)。それ以上の改善やイノベーションが誘引される構造ではない。 大学自身が自ら目的・戦略・計画を形成しチェックしていく体制が別になければ、発展は

しない。

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何が改善に寄与したか?(統計分析)

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χ2(104)=127.139 p>.05 GFI=.898 AGFI=.850 RMSEA=.043 ※( )付係数以外は全て有意、 N=121

機構の評価結果による現状把握

自己評価書の満足

自己評価による意識変化

問6_1③

自己評価による現状把握 問6_1②

問6_1①

問6_2②

問6_2①

機構の評価による

改善促進

問6_2⑦

問6_2⑤

機構の評価報告書の満足

問5_1①

問5_1②問2_1④

問2_1⑤

問6_1⑨

機構の評価結果による意識変化

問6_2③問6_2⑨

自己評価による改善促進

問6_1⑤

問6_1⑧

問5_1⑨

.82

.55

.39

.79

.88.86

.53

.50

.85

.92

.36

.80

.78

(.12)

.81

.68

.85

.84

.33

.36

.97

.79

.37

.66

.25

.69

.68 .75

.77d2

d3d4

d6 d8

d5

d1

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何が自己評価に寄与したか

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χ2(123)=136.881 p>.10 GFI=.897 AGFI=.857 RMSEA=.031※ 全ての係数は有意、 N=121

機構の有効な対応

.40

.74

d12

評価基準および観点の適切さ

問1① 問1② 問1③

機構の評価報告書の満足

問5_1①

問5_1②

自己評価書の満足問2_1④

問2_1⑤

説明・研修会の満足

問4①

問4⑤

訪問調査の適切さ 問2_2④

問2_2③

訪問調査前の

提示内容の適切さ

問2_2① 問2_2②

.84 .77

問4⑨

問4⑧

.33

問2_2⑤

問4②

問5_1⑨

.52

.72

.77

.33.54

.85

.75

.50

.40

.73

.61

.40

.50.42

.80.63

.80

.82

.77

.97

.83

.77

.57

d13

d7

d9

d8

d11

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アンケート結果から得られること

改善の促進には自己評価過程が強く影響

現状・課題把握は自己評価により中心的に行われるものであり、第三者評価者によってはじめて指摘されることは多くない。

評価基準が適切であることが、自己評価の出来に影響。

大学は、高等専門学校、法科大学院に比べて、「満足出来る自己評価書ができた」回答割合が高く、「評価の作業負担」が低い傾向。(評価の専門部署化の効果?)

教員の意識変化は起こりにくい(評価の専門部署化の弊害?)。

第三者評価結果は追加的に改善効果に影響

外部からの指摘が一つの圧力やインセンティブとして機能しうる

大学は、高等専門学校・法科大学院に比べて「第三者評価結果によって新しい視点が得られた」回答が低い。

大学は高専、法科大学院に比べれば、自己評価体制構築が進んでいる。それによって、第三者評価の効果が逓減する可能性?→評価システムも常に変化をして費用対効果を高める必要

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評価の内部浸透段階の仮説

対象校での評価の内部化の程度

第1段階 第2段階 第3段階自己評価を通じて教育・研究を改善する体制が存在せず、組織として機能していない。

内部で常設の評価体制が設置される。

評価が日常的な改善体制と一体化する。

第三者評価の位置づけ

第三者評価を受けなければならないことが、教育・研究について組織的に考える初めての機会。

第三者評価は、内部での自己評価や教育改善を駆動させるための一つの外圧。

日常的に教育・研究活動の確認や修正が行われており、第三者評価への対応は、その総括や対外報告。

第三者評価シ ス テ ム のあり方

評価基準として教育・研究の運営で考慮すべき項目が詳細に示されていることが必要。自己評価作業が不慣れで十分ではないため、第三者としての評価者が長所・短所を詳細に指摘する必要がある。

評価や改善を進める一つの指針として評価基準が詳細に定められている必要はあるが、全ての内容を根拠をもとに詳細に確認して第三者評価を行う必要はない。内部質保証体制が機能していることを評価することにより、その構築を促進することに重点が置かれる。

全体的な状況については、大学内部の質保 証 機 能 の 評 価 によって質保証を行う。大学自身が詳細な評価を行いたい高度な課題を設定し、専門知識を有する外部評価者によるコンサルテーション的な第三者評価を実施する必要。

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参考:内部質保証体制とはどのようなものか?

『欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン』第1 部:高等教育機関の内部質保証に関する欧州基準とガイドライン 1.1 質保証の方針と手続:高等教育機関は,教育プログラムと学位の質と水準

を保証するための方針、手続を有し、質の継続的向上のための戦略を策定・実施すべき。

1.2 教育プログラムと学位の認証・監視・定期的レビュー:高等教育機関は,

自らの教育プログラムと学位に対する認証・定期的レビュー・監視の正式なメカニズムを有するべき。

1.3 学生の成績評価:学生に対する成績評価においては,規準・規則・手続が公表され,それらが一貫して適用されるべき。

1.4 教員の質保証:高等教育機関は,学生の教育を行うスタッフが適切な資格と能力を持つことを確認する方法を有するべき。

1.5 学習資源と学生支援:高等教育機関は,提供する各教育プログラムにおいて,学生の学習支援に利用できる資源が十分で適したものとなるようにすべき。

1.6 情報システム:高等教育機関は,学習やその他の活動のプログラムを効果的に管理するため,関連情報を収集・分析・利用すべき。

1.7 公開情報:高等教育機関は,自らが提供する教育プログラムと学位に関し,最新で偏りがなく客観的な定量的・定性的情報を定期的に公開すべき。 10

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2.国立大学法人評価の検証アンケートからみえること

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法人評価の目的の重点

評価の目的が多数存在。何を重視したか?(5段階回答の平均)

→評価者のほうが「改善のために評価を行った」と回答

中期目標の達成度評価

学部・研究科の現況分析

大学 評価者大学

(教育)大学

(研究)評価者

(N=88) (N=117) (N=779) (N=595) (N=147)

a) 教育・研究活動の改善を促進 4.0  4.2  4.1  3.9  4.1 b) 資金配分への反映を念頭に、実績をアピールする/厳正に評価を行う

4.2  3.4  3.9  4.0  3.1 

c) 現況を社会へ示し、大学等への理解と支援を得る

4.0  3.9  3.8  3.7  3.6 

d) 評価作業を効率的に行う 3.7  3.1  3.5  3.5  3.1 

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評価目的による回答傾向(現況分析:教育)改善を

より重視した学部・研究科

(N=280)

資金配分をより重視した学部・研究科

(N=185)全体的に、適正に評価された。 3.54 3.28a.教育・学習の成果を重視するようになった。 3.75 3.48b.教育活動の質保証体制が構築された。 3.43 3.23c.教育内容の体系性が意識されるようになった 3.58 3.30d.特色ある取り組みが促進された。 3.56 3.60e.学生のニーズを踏まえた教育が行われるようになった

3.49 3.32

f.教育活動の今後の課題を把握できた。 3.88 3.51g.教職員の間で教育活動についての組織的な方向性が共有された。 3.33 3.06

h.学部長・研究科長等のリーダーシップが高まった。

3.15 2.99

i.社会に対し大学等の教育活動を説明することの重要さが浸透した 3.53 3.31

j.大学等間の競争意識が生まれた。 2.86 3.08k.部局間の競争意識が高まった。 2.64 2.83l.全体的にみて教育活動の改善に寄与した。 3.71 3.40

評価方法に関しても、改善重視の学部・研究科は、適切な字数制限の中で目的や課題を明確にしたという意見が多い。 13

※このほかに改善と資金配分を同程度に重視した学部・研究科がある(N=314)が、ここで

は説明を簡単にするために省略する。回答結果は左2つの中間が多い。

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評価目的の重視の仕方によって、評価方法の適切性、評価結果の妥当性、評価による効果の認識は異なる。

今回の評価方法では、改善を重視した学部・研究科のほうが、相対的に評価が有効であったと考えている。

一つの方法で、複数の目的を満たす評価が可能か?

自由記述では、大学自身が自己評価可能な能力の限界も指摘。

他大学の参照情報がなく、自己分析できない

多様な分野の教員がいると、「研究成果の質」を学内で判断できない

自己評価を支援する方策?14

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まとめ

自己評価が適切に行われている大学ほど、大学評価の効果も得られている。評価を有効にするには、大学の自己評価能力・内部質保証体制の構築が求められる。

ただし、個々の大学で分析可能な範囲には限界も。大学横断的な分析機能の存在が必要。

第三者評価機関や大学の評価担当者のコンソーシアムによる方法論開発・インフラ情報開発が今後求められる。

評価制度のあり方自体についても、コンソーシアムや評価機関からの提言が必要では?

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