2012.12.15 関西工学倫理研究会

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吉良貴之(法哲学)

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自己紹介 (1)

• 法哲学法哲学法哲学法哲学 専攻、ほか、関連する憲法学、政治哲学。

• 主な研究テーマとして、世代間正義論、法の時間論、

〈法と映画〉など。英米系が中心。

• なんとなく「時間時間時間時間」でつながったテーマに一貫して

取り組んでいます。

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自己紹介 (2)• 現在は、科学技術振興機構・社会技術開発センター委託研究

プロジェクト「不確実な科学的状況での法的意思決定」

(代表:中村多美子)に従事。

→ 2013 年 3月にて満了、現在、就職活動中… (-_-;)

• その関係で最近は〈法と科学技術〉とよばれる分野に

取り組み、科学技術社会論学会などに出入り。

o 先日の学会では科学技術社会論学会奨励賞を受賞。

o ワークショップ「世代間倫理と共同体」を主催し、

斉藤先生にそこでお声かけいただいた次第です。

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今日の話題

• 科学技術倫理に関係しそうな話題をいくつか取り上げ、

法哲学と工学倫理の発想の違いや共通点を考えます。

• というか正直、科学技術・工学倫理の議論は読んでいて

あまりよくわからないあまりよくわからないあまりよくわからないあまりよくわからないので、「なぜわからないのか」も

明らかにできればと思っています。

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話の流れと素材

1. 導入: 法哲学とはどういう学問か

2. イタリア・ラクイラ地震判決の「衝撃」

3. 世代間正義の問題設定

4. 原子力発電所事故と正義の時間的射程

5. 震災とプライバシー、そして「絆」

6. アーキテクチャ的支配と「自然」

こういった問題について、いろいろ考察します。

つねに法法法法////正義正義正義正義との関連を念頭に置きます。

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法哲学って?

• 法学部で開講されています。

• かなり実践的な社会問題から、「法」「正義」「権利」

といった法(的)概念の原理的探求まで、幅広いです。

• 最近はマイケル・サンデルの「白熱教室」が有名に。

倫理学、政治思想、社会学などと対象がかぶりますが、

1. つねに法制度法制度法制度法制度とのかかわりとのかかわりとのかかわりとのかかわりが頭の中にある、

2. (一応は) 法解釈法解釈法解釈法解釈ののののトレーニングトレーニングトレーニングトレーニングを受けている、

などの点で、発想や議論手法が少し異なってきます。

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ラクイラ地震判決

• 2009年1-4月にイタリア中部で発生した

一連の地震、とくに4月のM6.3の地震で

300人以上の死者が出た。

• 直前の「安全宣言安全宣言安全宣言安全宣言」のせいで被害が拡大

したとされ、行政委員会およびそれに

「助言助言助言助言」した地震学者らが過失致死罪で

起訴され、2012年10月、禁錮6年の実刑

判決がラクイラ地裁で出された。画像はwikipediaより。

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科学の不確実性

• 「地震予知の失敗」の責任が問われたわけではない。

→ というか、予知は基本的に不可能。

→ 科学の不確実性が典型的にあらわれる場面。

o配布『法と科学のハンドブック』をご参照。

• 「科学コミュニケーションの失敗」と捉える向きも

あるものの、どこまで適切か…?

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法律問題として

• イタリア刑事法の「過失」概念の問題なので、安易な

一般化は慎むべき。

→ 法制度法制度法制度法制度・・・・法実践法実践法実践法実践はははは各国各国各国各国ごとにごとにごとにごとに異異異異なるなるなるなることへの意識。

→ なぜか意外と忘れられがち。

• まだ地裁だし、どうせ控訴するし、という冷めた目も。

→ とはいっても地裁判決はわりと重要?

→ むしろ対比で浮かび上がる、日本日本日本日本のののの司法司法司法司法のののの安定性安定性安定性安定性。

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日本だとどうか?

• 刑事裁判は「ありえない」というのが従来の感覚。

• いや、むしろその常識が問い直されている?

→ 刑罰は社会的非難意識社会的非難意識社会的非難意識社会的非難意識にわりと左右される。

• 司法は正義の「最後の砦」として(消去法的に?)

期待されている気配。 ⇔科学者・工学者の信用失墜

• 最高裁勉強会の報道(2012年 8月31日)

• 東電幹部などへの捜査

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ここまでのまとめ (1)

• 科学技術にかかわる紛争には、さまざまなレベルでの

不確実性不確実性不確実性不確実性がつねにつきまとう。

• それでも誰かに責任責任責任責任を負わせる必要がある場合も。

【【【【問問問問いいいい (1) 】】】】

「法」は科学的不確実性(因果関係、予測可能性、etc.)を

1. いかにして統御統御統御統御し、

2. いかにして責任責任責任責任をををを分配分配分配分配するのか?

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正義の時間的延長

• 科学技術の影響の時間的範囲がのびるにつれ、

それに応じた新しい倫理のあり方が求められるように。

→ 「責任という原理」[Jonas 1979]

→ 影響力影響力影響力影響力とととと責任責任責任責任のののの比例関係比例関係比例関係比例関係 cf. 応能説/利益説

【学説史】

• J. Rawls (1971) の「貯蓄原理 (saving principle)」

• D. Parfit (1984) の「厭わしき結論」「非同一性問題」

• 加藤尚武 (1991)の「応用倫理学」

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責任帰属の不確実性

技術(作られたモノ)と被害に時間的距離時間的距離時間的距離時間的距離がある場合…

1. 加害主体の不確実性

→ 「誰が」害をなしたといえるのか?

→ それは責任帰属対象と同じか、違うか?

2. 加害対象の不確実性

→ 「これから生まれてくる誰か」への加害?

→ Parfit的「非同一性問題」の毒牙

3. 加害内容の不確実性

→ そもそも将来世代にとって「害」とは?

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原発事故の場合

1.加害主体: 特定の個人? 東京電力という法人?

→ 原発事故原発事故原発事故原発事故のののの複合性複合性複合性複合性、、、、加害行為同定加害行為同定加害行為同定加害行為同定のののの困難困難困難困難

→ そして数十年、数百年先だとどうなるか

→ 「法的擬制法的擬制法的擬制法的擬制」としての責任主体

→ 責任内容: 事後的賠償/事前差止め

2. 加害対象: 現在の人々、将来世代、過去世代は…?

→ さらにその内部の多様性: 脱原発/脱貧困

→ 世界正義 (global justice) 問題としての「原発輸出」

3. 加害内容: 予防原則予防原則予防原則予防原則的対応の必要?

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責任分配としての法実践

• 原発賠償は無過失責任無過失責任無過失責任無過失責任 cf. 消費者契約法

→ 「便利だった」過失責任主義の修正

→ 法実践: 各種の不確実性不確実性不確実性不確実性をををを責任責任責任責任としてとしてとしてとして分配分配分配分配

• 責任分配は科学的な「正しさ」と調和するか?

→ 科学的不確実性の「埋め合わせ」としての法?

→ 民主政の近視性 cf. 「将来世代の投票権」

もろもろの不確実性や多様性を根こそぎにして(?)責任を分配する

あやうい営みとしての法実践、その手段としての法的擬制。

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ここまでのまとめ (2)• 科学技術の影響力の時間的延長は、それに応じた責任の

あり方を要請する。

• 原発など最先端の科学技術は「加害」の主体・対象・

内容にさまざまな不確実性をもたらす。

• 法法法法によるによるによるによる責任分配責任分配責任分配責任分配は擬制によってそれを「解消」する。

【問い (2)】

法による責任分配は科学の「埋め合わせ」か、

それともまた別の原理(正義? 民主政?)によるか?

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将来への責任意識

• 将来世代への責任を育むにあたっては、近視的な自己

利益からの何らかの跳躍が必要? ⇔民主政?

→ 自己利益最大化だけでどこまでいける?

→ 民主政は将来を扱うのに限界のある仕組み?

• 想像力の媒介 (medium)としてのネーションネーションネーションネーション意識意識意識意識

→ 震災後の「絆絆絆絆」

→ 将来をぼんやりと包み込む共同体の出現?

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震災とプライバシー

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http://suumo.jp/journal/2011/04/29/1005/

• 避難所でのプライバシー確保の試みの二面性

→ QOLの向上(特に若い女性)

→ 病人の発見の遅れ(老人)

• 「絆」の病理?

「皆さん私たちは家族です。衝立てはいらないですね」「衝立てはいらない。家族なのだから」

[武信・赤石編 2012]

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「絆」の工学的操作性

• 仕切りの高さによるプライバシー意識の変化の実証研究

→ プライバシーの工学的操作可能性

→ アーキテクチャアーキテクチャアーキテクチャアーキテクチャ的支配的支配的支配的支配のひとつ?

• 「絆」「ネーション」意識の工学的操作可能性の例

→ コミュニティ形成の「自発性」「自由」は幻想か?

→ 最終形態としての技術者の死と忘却

• 技術の時間的影響の二段階

1. 目に見える加害

2.設計意思も被支配意識も忘却された「技術」

→ 2をときに暴力的に明るみに出す「自然」の力

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ご清聴ありがとうございました。

常磐大学嘱託研究員(本務、~2013年 3月)

明治大学法科大学院ジェンダー法センター客員研究員

弁護士法人リブラ法律事務所学術研究員

吉良貴之(法哲学)

[email protected]

http://jj57010.web.fc2.com

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