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「より良い班活動というのは具体的にはどういうものですか?」
本年度も親会社の新入社員導入研修に参加して新入社員から受けた質問の中で最も印象に残った質問である。
本欄で何回か紹介しているが、毎年 4 月の最初の 2 週間、弊社グループの新入社員導入研修で
「クラス担任」として彼らが社会人としての基礎の基礎を身につけるお手伝いをしている。今年は 7名からなる「班」が 5 つ、計 35 名が筆者の受け持ちクラス。ビジネスマナーや文書作成など、クラス単位で行う講義の講師を務めることもあるが、
「何かを教える」ということよりも、講義や毎朝のクラス朝礼や日誌へのコメントなどを通じて彼らと対話し、「会社」という集団生活のルールや、研修で学ぶことの意義について問いかけて彼らの振り返りを促し、理解度を高めることが担任の大きな役割だと思っている。
さて、研修期間の中間地点あたりで、朝礼とは別に時間を設けて班活動の振り返りを目的に行っ
た「クラスワーク」のときに受けたのが冒頭の質問だ。班でのディスカッションのテーマとして提示したのは、「今後の班としての活動をより良くするために、(1)目指したい班の状態(2)その状態を実現するための班の行動指針 を話し合う」というもの。時間割、発表要領などをひととおり説明し、「何か質問は?」と投げかけると、早速手が挙がって冒頭の質問が出た。この種の振り返りディスカッションは毎年行っているのだが、こうした質問が出たのは初めてだったので、いささか面食らった。
念のために言うと、研修も半ばにさしかかり、彼らは既に班単位の活動を数々体験している。研修所での生活ルール順守の相互チェック、翌日の講義に向けた予習、講義録の作成、ビジネスマナーの演習、さらに結果の優劣を争うコミュニケーションゲームも班ごとに行っており、既にメンバーの人となりやそれぞれの強み弱み、諸活動の中でうまくいっている部分といっていない部分もそろそろ見えてきている時期だ。翌週には「ワー
2016 年度新入社員研修を振り返る—「答えを求める」新人にどう対応するか—
Point❶ 「最短距離・最小の労力で成果を出す」ことを志向する新入社員たちにありがちで、筆者も適切に
対応できなかった質問を紹介する。❷ こうした質問は、彼らと違った環境で育った上司・指導員に当惑やいら立ちを感じさせがちだが、「違
い」として冷静に受け止めて指導することが必要。
小西 明子(こにし あきこ)人材開発部長東レ(株)人事部で総合職採用、新入社員教育に長く従事するほか、総務部で役員秘書業務、
(財)東レ科学振興会で理科教育賞運営、勤労部で労務管理を担当。2009 年 6 月から現職。
人材/人材育成の視点
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キングシミュレーション」という、研修で学んだ内容を総動員する総合演習も班単位で行うことになっており、それも視野に入れて班の活動の効果を高めてほしいという意図で課しているディスカッションだ。彼らなりにこれまでの反省を踏まえて、今後の班活動をどのようにしたいというイメージはあるはずだという前提に立って、毎年このような機会を設けている。正直言ってここで「良い活動とはどういうものか」という根本的な質問は想定していなかった。
想定外の質問に情けないことに鼻白んでしまい、「研修を受けている自分たちに何が求められているか、それに向けて何が達成できればより良い活動といえるかも含めて、目指したい状態を考えてほしい」というようなことを多分しどろもどろに答え、その場はなんとか事なきを得たが、果たしてあの対応で良かったのかどうか、自信がない。今思えば、一瞬何を聞かれているかの意図が理解できず、相当混乱していたのではないかと思う。質問の出た班のディスカッションの出だしにそれとなく耳を傾けてみたところ、「班活動には成果を求められているのか、それともメンバー同士が絆を強めることの方が重要なのか」というような話が出ていたようで、彼らとしては「会社として求めることの優先順位を明確にして効率的に議論したい」という発想に基づく質問だったように思えた。
本来「素朴な質問」は推奨されるべきだし、別の講義では講師として「目的をよく理解した上で仕事に取り組みなさい」という指導も与えており、視点を変えればこの質問もその文脈においては称賛されるべきものなのかもしれない。けれど、やはりこの質問はある意味「堂々たるカンニング」の類いではなかろうかと思ってしまう自分がいた。求められていることに直結する行動目標を最短距離で導き出すために、限りなく「正解」に近づくことができる情報を引き出すための質問では
ないか、と。その後の彼らの議論の中身をみると、そこまで確信犯的なものだったとも思えないし、もちろん質問した本人を責めるつもりはない。むしろ、過去にも多くの新入社員が同じ疑問を持ちながらこのディスカッションに取り組んでいたのではないか、今回たまたま一人が実際に手を挙げたにすぎないのではないかという気さえする。あのとき筆者はとっさに「これは答えを引き出そうとする質問ではないか?」「それは自分たちで考えるべきことではないのか?」と感じ、感情のスイッチが入って鼻白んでしまった。けれど、いわゆる
「タスク」と呼ばれるような仕事であれば相手の求めるゴールをあらかじめ知った上で最短距離で処理するのが標準、という世界で育ってきた世代の彼らにとっては、あの質問はごく普通のものだったのだろう。
新入社員を指導する上で、上司・指導員として「それは自分で考えなさい」をどのタイミングで、どのレベルの仕事に対して言うかは悩みどころだろう。現実問題としていつまでも手取り足取りではいられないし、上司としては「自分で考え抜かないと本当の力はつかない」という思いは根強くある中で、時に正解を求める・最短距離を目指すタイプの質問を繰り出してくる新人に対して、いたずらに感情のスイッチを入れることなく冷静に対応する心の準備が必要かもしれない。
あのとき筆者が取るべきだった行動にも正解はないのかもしれないが、もしあの場に戻れるとしたら、「ディスカッションは正解を出すためのタスクではない。これまで協力してやってきて、これからも一人ひとりが達成感を得られるような成果を挙げるために、思いを込めて『ありたい姿』を描いてほしい」と伝えたい。必ずしも正解が存在しない、最短距離でたどりつくことがベストとは限らない実社会に飛び立っていくということを彼らに十分認識させるのが、あの場における筆者の任務だったのではないかと思う。
2016 年度新入社員研修を振り返る