2017 12 月~2018 1 ルノー工場跡地再生をみて ~...
TRANSCRIPT
2018年2月光成美紀
パリ視察旅行報告会(2017年12月~2018年1月)
ルノー工場跡地再生をみて~産業跡地に関するフランスの環境汚染の規制と欧州の動向~
“the La Seine Musical”セーガン・アイランド
THE LA SEINE MUSICAL
� 2017年4月にオープンしたパリ郊外セーガン島にある多目的音楽ホール(クラッシックのコンサートホールは1,150人着席、立席にすると最大6,000人収容できる)。
� 日本人の建築家(坂茂氏)とJean de Gastines氏による設計デザインで、太陽光パネルのついた円形の部分が回転する構造になっている。
3
SEGUIN ISLAND(セーガン・アイランド)の歴史(1/2)
� 12世紀半ばまでサン・ヴィクトール修道院に属していて、その地域にふんだんにあった柳細工等が行われていた。
� 17世紀には、ヴェルサイユへの新ルートとして新たなルートが建設され、1684年にセーガン島をかける橋が建設された。これによって王室の宮廷と都市の移動が速くできるようになった。.
� セーガン島の名称は、アルマンド・セーガン( Armand Seguin)( 1767-1835), なめし皮の化学者で事業家1801年までなめし皮工場で約400人の職人が働いていた。
� ルノーの創設者が1919年に土地を購入し、工場を建設・稼働。発電施設をもち、一時はフランス最大の工場として3万人の労働者が働いていた。第二次大戦中はトラック製造工場として使われていた。
� 第二次大戦後、ドイツやイギリスに対してフランスは産業の近代化が遅れていたが、このセーガン島のルノー工場は、フランス経済近代化の目印的なものとなった。
4出所:http://www.otbb.org/en/lile-seguin-a-boulogne-billancourt/
SEGUIN ISLAND(セーガン・アイランド)の歴史(2/2)
5
� 1990年代に製造を中止し、建物解体(アスベストの除去)や土地の汚染対策等を行い、2005年に工場解体が完了。
� その後、現在の再生計画が検討され、現在の音楽ホールが計画・開発された。
出所:http://www.otbb.org/en/lile-seguin-a-boulogne-billancourt/UK DEFRA “SP1004 International Processes forIdentification and Remediation of Contaminated Land”(2013) 他
� 欧州では、1980年前後からオランダやドイツなどで土壌汚染の法制化は進められていたが、フランスでは、明確な法整備されていなかった。
� その後、フランスでは、1993年に、環境保護政策の一環として、地方自治体に「国家土壌汚染対策・浄化政策」の通知を発行。1996年、1999年にも通知を更新した。
*フランスには環境ビジネスの世界的企業グループがあり、土壌調査や浄化ビジネスは進んでいる。� 土壌汚染及び汚染地について、2007年に
ガイドラインが発行され、2014年に法制化され、様々な規定も更新等されている。
� アスベストは、1996年の通知から、全てのアスベストについて、製造、使用、輸出入が禁止されている。
フランスの土壌汚染/アスベスト規制
フランスの土壌汚染の規制欧州の産業跡地の法政策と概要等
(参考)フランスの土壌汚染規制の概要
≪≪≪≪汚染責任者汚染責任者汚染責任者汚染責任者≫≫≫≫� 汚染原因者:下記のいずれかの施設のうちの直近のオペレーター
� 環境債務指令(2004/35/EC)のAppendix IIIの活動のいずれかに該当� 分類された施設� 原子力施設
� その他の理由で汚染原因となったもの、廃棄物所有者等の不備によるもの� 補完的な位置づけとして・・・上記の汚染原因者がいない場合、土地所有者� *責任者が見つからず、また企業等が倒産している場合には、フランス政府がADEMEを通じて浄化する。
≪≪≪≪調査等の義務調査等の義務調査等の義務調査等の義務≫≫≫≫� 施設の閉鎖時には、調査を実施し、当局に届け出ると共に、健康への被害がないことを確認しなければならない。
健康への影響が懸念される場合には、浄化措置等が求められる。� 健康への被害がある場合には、欧州環境債務指令(ELD)に伴い、2008年に法制化された(2008-757)
に沿い、刑事罰が課される可能性がある。� ただし、2007年4月30日以前に発生した汚染には適用されない。
� 欧州産業排出物指令(IED)に沿い、施設操業に有害物質を使用する際には、ベースラインレポートを作成しなければならない。(Decree 2013-372)
7
• 2007200720072007年年年年2222月:汚染土地に関するガイドライン発行月:汚染土地に関するガイドライン発行月:汚染土地に関するガイドライン発行月:汚染土地に関するガイドライン発行(エコロジー持続可能な開発及びエネルギー省、 MEDDE)
• これまでフランスでは法律が明記されていなかったが、実務的には汚染サイトの調査や浄化は実施されていた。2014年に法律として整備され、2015年に省令や規則等が整備された。
• 2014201420142014年年年年3333月(月(月(月(No.2014No.2014No.2014No.2014----366)366)366)366) 法制化法制化法制化法制化→→→→2015201520152015年省令等により施行年省令等により施行年省令等により施行年省令等により施行土壌汚染又は土壌汚染のリスクがある場合、管轄する当局は確認すると共に、責任者は自身の負担で必要な対策を講じなければならない。
欧州の産業施設等における環境汚染の規制・政策等
� 産業排出物指令 (The Industrial Emission Directive, IED)� 大気汚染、水質汚染、土壌汚染、廃棄物など産業活動から生じる排出物を統括的に管
理する枠組み� 操業中の定期的なモニタリング義務(地下水5年毎、土壌10年毎)� 事前調査と事後調査義務(閉鎖時の原状回復義務)
� 環境債務指令 (The Environmental Liability Directive, ELD)� 環境汚染に対する浄化・対応義務� そのための財務的基盤確立の制度化� 各国で法制化→(閉鎖後の対策に向けた)準備金制度などが整備され、操業後の環境
汚染に対応できる経済的な基盤の確保が求められている。
8
(参考)欧州の産業施設の環境規制(主な欧州指令等)
9
大気水土壌土壌土壌土壌廃棄物
有害物質危険物等水(取水等)
試運転等
事業変更
環境影響評価(EIA)
操業時 閉鎖時
排出物
使用・取扱
事後後評価
• 許認可(Permit)・・・定期更新 ・閉鎖時の土壌調査等
• モニタリング義務・・・記録・定期報告モニタリング義務・・・記録・定期報告モニタリング義務・・・記録・定期報告モニタリング義務・・・記録・定期報告• 最良技術(Best Available Technology, BAT)
• 環境影響• ベースラインレポートベースラインレポートベースラインレポートベースラインレポート• 許認可(統合化)
産業排出物指令(Industrial Emission Directive, IED)
• 緊急時対応 SEVESOIII指令
EIA指令
� 製造工場等の環境規制では、施設の建設から閉鎖までの管理の流れが整備されてきている。
CLP規則(化学品及び混合物の分類・表示・梱包に関する規則)
REACH規則(化学品の登録・評価・認可及び制限に関する規則)
廃棄物I指令(汚染者責任・拡大生産者責任)
(Closure Requirements)• 閉鎖時の調査閉鎖時の調査閉鎖時の調査閉鎖時の調査• 必要に必要に必要に必要に応じた措置応じた措置応じた措置応じた措置
重大な環境汚染(人体・自然環境・生態系等) 環境債務指令(ELD)
エネルギー効率化指令(建物等の省エネ推進)・・・2020年までに90年比CO2 20%削減のためEU各国で法制化出所:各種資料より㈱FINEV作成
欧州の産業跡地(汚染懸念地)とその法政策
� 欧州全体では約250万カ所の汚染懸念地があり、そのうち34万カ所は深刻な汚染(浄化が必要)であると言われている。(参考)� 米国でも50-100万カ所の汚染懸念地があると想定。� 日本は約30万カ所の汚染懸念地があると試算。� 中国は全土の約16%に汚染があると試算されている。
� フランスにも最大約95万カ所の汚染懸念地があると言われており、約25万カ所が確認されている。
� (参考)欧州では、オランダ、ドイツ、ベルギー、デンマークなどで最も法制化が速く、市場も発展・成熟しており、次いで、オーストリア、フィンランド、スペイン、イギリス、フランス、イタリアなどで制度化が進んでいる。
10
出所:欧州環境庁 他https://www.eea.europa.eu/data-and-maps/indicators/progress-in-management-of-contaminated-sites-3/assessment
産業跡地の再利用推進の考え方と効果
� 使われなくなった土地を使えるようにすることで税収、雇用増、地域活性化など様々な効果が生まれ、土壌汚染の管理や自然環境の保全も進む。� 既存のインフラ(電気、ガス、水道、道路等)を活用でき、新規建設や維持管理コストが減る。
� 元の所有者は事業を廃止・変更→売却後の新たな所有者のほうが、その土地においてより具体的な事業計画を持っていて、資金を調達しやすい。
� 今後の土地利用者の一定の関与が、売主の安心にもつながり、売買が推進される。
� 補助金や政策支援に見合った経済効果がある。
� 土壌汚染対策は、将来の土地利用を踏まえて、できるだけコストを抑えながら安全を確保する。� 土壌の成分や性質は地域固有の自然環境であり、画一的な基準は適当ではない。
� 土壌の汚染の大部分は蓄積される。(大気や水と異なる)
11
日本国内における今後の法改正と関連法制・社会経済動向を踏まえた産業跡地の有効利用の重要性
12
2018 202120202019
2019201920192019年年年年4444月~月~月~月~(施行(施行(施行(施行))))改正土壌汚染対策法改正土壌汚染対策法改正土壌汚染対策法改正土壌汚染対策法
2020202020202020年年年年4444月~月~月~月~(施行)(施行)(施行)(施行)改正民法改正民法改正民法改正民法
土壌汚染地等の鑑定評価ガイドライン改訂の方向(予定)
東京オリンピック
� 産業施設の老朽化・インフラの維持管理� 中小工場の閉鎖・事業承継大量発生時期� 空き地・空き家・所有者不明土地等
高齢化社会、災害・気候・環境対応、財政・人手難
現在、日本では産業跡地の活性化政策(ブラウンフィールド政策)は特に実施されていない。
おわりに
� 今回の視察で、ルノー工場跡地の地域再生事例を見ることができ、とても貴重な体験ができた。
� アメリカではクリントン政権で始められたブラウンフィールド政策は20年間進められており、経済効果も高く、現在、トランプ政権下で、ブラウンフィールド法の改正案が出されており、諸団体に支持されて法制化される見込みが高いといわれている。� 汚染責任がない関係者への免責の拡充� 補助金の使途の多様化を認める� 補助金の確保等
� 日本では、土壌汚染の法制化がアメリカより20年遅かったために、産業跡地政策が行われていなかったが、今後の取組により国内の産業跡地・空き地等の再生・再利用や適切な保全等が進められることが期待される。
13