2017 年 第32 回jscrs 学術総会 2 ·...

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2017 32 JSCRS 学術総会 インストラクションコース 2 世界の最新トレンドを知ろう!"What's New in 2017" オーガナイザー 宮田 和典(宮田眼科病院) 神谷 和孝(北里大学) 演者 琢也(慈恵医大・第三) 鈴木 久晴(日本医大・武蔵小杉) 平岡 孝浩(筑波大学) 洋斉(宮田眼科病院) 神谷 和孝(北里大学)

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Page 1: 2017 年 第32 回JSCRS 学術総会 2 · 遭遇することがあった。その悩みを解決するために登場したのが三焦点iol である。三焦点iol は回折構造を工夫することに

2017年 第 32回 JSCRS学術総会 インストラクションコース 2

『 世界の最新トレンドを知ろう!"What's New in 2017" 』

オーガナイザー 宮田 和典(宮田眼科病院)

神谷 和孝(北里大学)

演者 柴 琢也(慈恵医大・第三)

鈴木 久晴(日本医大・武蔵小杉)

平岡 孝浩(筑波大学)

森 洋斉(宮田眼科病院)

神谷 和孝(北里大学)

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Femtosecond laser-assisted cataract surgery

東京慈恵会医科大学 柴 琢也

フェムトセカンドレーザー

フェムト秒(1 フェムト秒=1秒/1000 兆分)単位の赤外線レーザー光を連続照射

ピーク出力 (W) = パルスエネルギー (J) / パルス幅 (sec)

機種

LenSX

(Alcon)

Catalys

(AMO)

LensAR

(LensAR)

Victus

(B+L)

Z8

(Zimmer)

角膜切開 ○ ○ ○ ○ ○

前嚢切開 ○ ○ ○ ○ ○

乱視矯正切開 ○ ○ ○ ○ ○

水晶体分割 ○ ○ ○ ○ ○

フラップ作製 ○ ○ ○

角膜移植 ○

利点

1. 角膜切開

自己閉鎖率↑、創口強度↑

2. 前嚢切開

マニュアルでは不可能な中心性、正円性、予測性、再現性

IOL の傾斜↓、高次収差↓、屈折度数誤差↓

3. 乱視矯正切開

角膜実質のみを切開可能、予測性↑、安定性↑

4. 水晶体処理

超音波発振量↓、黄斑浮腫↓、角膜浮腫↓、フレア値↓

問題点

費用、結膜下出血、手術時間、前嚢切開縁強度低下の可能性

難症例に対する優位性

チン小帯脆弱例、進行した白内障(過熟白内障、硬い核)

適応外になる可能性のある症例

角膜混濁例、散瞳不良例、狭眼裂症例

三焦点眼内レンズ(IOL)・AccommodatingIOL

日本医科大学武蔵小杉病院 鈴木久晴

1)三焦点 IOL

多焦点 IOL は白内障手術治療と伴に老視治療としても脚光を浴び、日本でも数年前に先

進医療として認められてから、一般的になりつつある。しかし、現在日本で認可を受けてい

る多焦点 IOL は二焦点がメインであり、どうしても中間距離の見え方に不満を持つ患者に

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遭遇することがあった。その悩みを解決するために登場したのが三焦点 IOL

である。三焦点 IOL は回折構造を工夫することにより遠方・中間・近方に光

を振り分けている。2016 年にデンマーク・コペンハーゲンで行われた ESCRS

においては、多焦点 IOL の一般講演のセッション 2 つのうち1つにおいて、

17 演題中 11 演題が三焦点 IOL に関するものであり、その注目の高さを表し

ている。もう 1 つのセッションでは、焦点深度の拡大に着目した IOL に関す

るものであり、今後の多焦点 IOL の流れは、この二つを中心に進んでいくと思われる。三

焦点 IOL には先行して販売されていた PhysIOL 社の Fine Vison、Zeiss 社の AT LISA tri

839MP の二つが主に使用されていた。Fine Vision は加入度数が中間+1.75D、近方+3.5D、

光のエネルギー配分はアポダイズ構造を使用しているため瞳孔径によって変化し瞳孔径が

拡大するにつれ遠方に光が振り分けられるように設計されている。この IOL は二つの回折

構造を組み合わせてエネルギーロスを少なくすることにより、コントラスト感度はよい値を

示し患者満足度も高い。一方、Zeiss 社の AT LISA tri 839MP は中間+1.66D、近方+3.33D

で、光のエネルギー配分は一定である、中心から直径 4.34mmは三焦点ゾーンであるが、

それより周辺は二焦点ゾーンとなっている。Fine Vision がイエローなのに対し、クリアー

であるという違いもある。今回の講演では、Fine Vision に関して、日本医大武蔵小杉病院

の臨床データもお示しする。

また、2015 年には Alcon 社からの三焦点 IOL、Acrysof IQ Panoptix が発表され、ヨー

ロッパを中心に広まっている。この IOL は加入度数が中間+2.17D、近方+3.25D と加入度

数の二つが比較的近くに設定されており、焦点深度曲線では近方から中間においてあまり落

ち込みがなく良好なデータを示している。他にも、ヨーロッパにおいて Acriva Reviol

Tri-ED(VSY BIOTECHNOLOGY)、Alsafit Trifocal VF(ALSANZA)などの IOL も発表

されているため、最新知見をお示しする。

2)Accomodating IOL

Accommodating IOL はコンセプトにおいては理想的な IOL であるが、調節機能の維持は

水晶体嚢の線維化などによって困難であるため、あまり多くの種類は存在していないが、世

界にはいくつかの IOL が存在する。その中でも、Powervision 社の Fluid Vision は支持部

に満たされているシリコンオイルが近方時に毛様体の力により、二枚あるレンズの光学部の

間に流入し中央部が膨らむことによって屈折力を得るというコンセプトの IOL である。こ

の IOL は臨床治験が行われており、その取材結果をお示しする。

Extended Range of Vision IOL の光学特性

筑波大学 平岡孝浩

コペンハーゲンで開催されたESCRS 2016に参加した際に最も大きなトピックスとなって

いたものの一つが Extended Range of Vision IOL(TECNIS Symfony, AMO)である.その臨床

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結果について非常に promising な内容が報告されていたが,近々本邦でも発売となるため,

その光学特性について出来るだけ分かり易く解説する.

Extended Range of Vision IOL とは?

明視域(焦点深度)を広げるデザインが施された眼内レンズであり,従来の 2 重焦点や 3

重焦点の多焦点 IOL とは異なる新しいコンセプトで開発されている.

色収差と球面収差を同時に減らす技術の採用

回折デザインの工夫(独自のエシェレット回折)により焦点深度が約 1.5D に拡張するば

かりでなく,色収差の低減が図られている(アクロマティック テクノロジー).前面非球面

デザインにより単色光収差(球面収差)もほぼ 0 まで低減.詳細な回折デザインはブラック

ボックスだが,色収差の低減と球面収差の低減の両立のために,50 以上のデザインの試行

錯誤を経て到達したモデルでありバランスが非常によい.

光量ロスの低減

さらに強調すべき点として,光の損失率が他の多焦点レンズよりも大幅に抑えられており

8%のロスに留まっている.その結果,コントラストが高く維持され,夜間視も良好に保て

る.

低屈折率高アッベ数素材の使用

オプティブルーと同じ低屈折率高アッベ

数素材の使用により色収差がさらに少なく

なり網膜像がシャープとなる.レンズ前面

ではなく後面に施す回折デザイン(特許取得)も色収差を低減

する観点から非常に有効である.また青色光を透過させる素材

であるため低照度環境でも見易い.

高い QOV の実現

単焦点レンズと同等のコントラスト感度が得られるだけで

なく,グレアやハローなどの dysphotopsia も極めて少ないと報告されている.

臨床上の有用性

他の多焦点レンズと異なり,乱視眼(1.5D 程度まで)にも有用であり,特別な乱視矯正

を行わなくても良好な遠方視力が得られる.また焦点深度が広いため,レンズパワー計算が

多少ずれても大きなトラブルにならない.回折溝が以前のものより少なく中心のオプティカ

ルゾーンが広いため偏心にも強い.

使用上の注意点

明視域が 1.5D 程度とやや狭く,近方のカバーが不十分である.近方視重視の患者は不満

を訴える可能性があり,マイクロモノビジョン法などで解決を図る.

眼内レンズ度数計算のアップデート

宮田眼科病院 森洋斉

通常の白内障眼の眼内レンズ(IOL)度数計算において、本邦では第 3世代理論式である

SRK/T 式が最も普及しており、その予測精度は高いことが知られている。自験例において、

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平均屈折誤差は 0.09 ±0.50D、屈折誤差 ±0.50D 以内の割合が 81.9%、±1.0D 以内の割合

が 97.0%と良好な結果が得られている。しかしながら、すべての症例で精度の高い結果が得

られるわけではない。SRK/T式は、術後の IOL位置(ELP)を角膜屈折力から予測している

ため、laser in situ keratomileusis(LASIK)、photorefractive keratectomy(PRK)に代

表される角膜屈折矯正術後眼や長眼軸長もしくは短眼軸長眼などでは大きな屈折誤差を生

じてしまう。近年、これらの症例に対する新しい計算式が開発されており、良好な成績が報

告されている。本講演では、昨年の ESCRSでの報告や最近の文献から得られた知見を紹介し、

IOL度数計算のアップデートを提供する。また、最近注目されている術中派面収差解析装置

ORA System についても紹介したい。

⑴ 角膜屈折矯正術後眼

LASIK や PRK後眼における IOL度数計算の予測精度に関しては、屈折矯正前のデータ

が存在しなくても、ASCRSの IOL calculator や光線追跡法(OKULIXなど)を使用するこ

とにより、通常の白内障眼と同等レベルと言っても過言ではないほど精度が向上してい

る。

⑵ 長・短眼軸長眼

ELP の予測に角膜屈折力を使用しない Barrett Universal Ⅱ式や Olsen式が、長・短

眼軸長眼において屈折誤差が少ないことが報告されている。ともに近軸光線追跡法を用

いており、術前の前房深度や水晶体厚データを要する。Barrett Universal Ⅱ式はオン

ライン上で計算可能であり、最新の Olsen式は有料ソフトウェア Phaco Optics®で計算

する。

角膜クロスリンキングアップデート 2017

~円錐角膜以外への新たな応用~

神谷 和孝(北里大)

角膜クロスリンキング(Corneal Cross-linking: CXL)は、角膜実質のコラーゲン線維間の架橋構造を

強めることにより、角膜全体の剛性を上げる治療である。角膜にリボフラビン(ビタミン B2)を点眼しな

がら 365nm の波長の紫外線を照射すると、角膜実質のコラーゲン線維が架橋(クロスリンキング)され、

結果として角膜全体剛性が上がり、角膜形状を保持することによって、円錐角膜や角膜拡張症の進行を

抑制できるようになった。

CXLの標準術式として、Seilerらが提唱したドレスデン法が広く知られている。この方法は、8mm径

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で角膜上皮を剥離した後、3mW/cm2のエネルギーで 370nm の長波長紫外線を 30 分間照射し、総エネ

ルギー5.4J/cm2とするものである。その他、近年高出力にて照射時間を短縮した Accelerated CXLや

角膜上皮を温存する Transepithelial CXL (Epi-on CXL)も使用されている。

これまで CXL は進行性の円錐角膜や角膜拡張症のみに使用されてきたが、新たな展開として、水疱性

角膜症に対する疼痛緩和、難治性角膜潰瘍に対する治療、PiXL に代表される屈折矯正手術などにも応用

されつつある。本講演では、これから CXL を始める先生方や導入を考えている先生方に役立つように、

CXLの最新レビューから新たな治療方法としての可能性まで言及し、2017年のアップデートとして情報

を共有したい。

①水疱性角膜症に対する CXL

水疱性角膜症の上皮びらんに対する疼痛緩和、角膜移植までの疼痛管理を目的として行う。

②感染性角膜炎に対する CXL

難治性角膜潰瘍に対して抗菌作用、角膜融解抑制、実質アポトーシスによる感染進行抑制などを目的と

して行う。

③屈折矯正手術としての CXL(PiXL, pattern-derived CXL)

局所的な角膜剛性を可変させることによって、近視矯正や乱視矯正を行う。