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微分積分学第一・演習 F クラス(3440 ユニット)講義 担当:柴田 将敬(理学院数学系) 2020 1Q このスライドでは、赤い部分は強調を表し、マゼンタの部分は訂正した箇所を表します。

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微分積分学第一・演習 Fクラス(34∼40ユニット)講義

担当:柴田 将敬(理学院数学系)

2020年 1Q

このスライドでは、赤い部分は強調を表し、マゼンタの部分は訂正した箇所を表します。

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微分積分学第一・演習 Fクラス(34∼40ユニット)講義第 1回(5/5 :火 10:45–12:25)

担当:柴田 将敬(理学院数学系)

本日のテーマ

授業の概要

写像と関数

初等関数

連続関数

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第 0節 授業の概要

第 0 節 授業の概要 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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自己紹介 4/385

担当者の自己紹介

氏名:柴田(しばた)将敬(まさたか)

所属: 東京工業大学 理学院 数学系 助教

webサイト: http://www.math.titech.ac.jp/~shibata/ メールアドレス: shibata[あっと]math.titech.ac.jp

よろしくお願いします。

第 0 節 授業の概要 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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概要 5/385

概要

微分積分学を学ぶ授業で、講義(週 2回)と演習(週 1回)のセットです。 講義(柴田が担当)は火曜 3,4限と木曜 1,2限。 演習(長町先生が担当)は月曜 3,4限。 クラス(ここは F クラス)はユニット番号で決まっています。 このクラスは教職認定クラスのため、教職免許希望者もクラス変更の必要はありません。

必修であり、時間割の関係で再履修しにくいので注意。

成績は、講義・演習で行われる小テスト・レポート・試験などの結果の総合です。

しかしながら、今回はコロナ対応のため、教室での小テストや試験は行われない予定です。

再履修の場合、状況によって、講義と演習で別クラスを履修するなどが可能です。詳しくは

https://www.titech.ac.jp/enrolled/life/undergraduate_timetables.htmlの「再履修の申告について」を参照のこと。

第 0 節 授業の概要 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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講義の webサイト 6/385

http://www.math.titech.ac.jp/~shibata/lecture/1Q_F/

私の氏名(柴田将敬)で google検索してもたどりつけます。

講義で使用したスライドや、配布したプリントの PDF ファイルが参照できます。必要に応じて利用してください。

第 0 節 授業の概要 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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この講義・演習の目標 7/385

高校で学んだ数学・特に 1変数関数の微分積分を思い出す。 偏微分が扱えるようになる。特に合成関数の偏導関数の公式を理解する。

重積分が扱えるようになる。

第 0 節 授業の概要 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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講義の進め方 8/385

火・木の柴田が担当する講義の部分は、次の流れで行う予定です。

ただし、変更の可能性もあります。

講義の情報(zoomのリンク・講義で使うスライド)は、 OCWiのメールで案内(出来れば前日中) 講義は zoom上でスライドを解説する形で講義 その他: レポート課題を出題するので、各自取り組んで、締め切りまでに提出

zoomに接続できる環境が用意できない学生でも、最低限、教科書・スライドを参照して勉強し、レポート課題を提出することで、受講することが出来ます。

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レポート課題 9/385

レポート課題

毎回(?)レポート課題を出します。

所定の用紙に手書きしたものを PDF ファイルで、 OCW-i経由で提出すること。 印刷→書き込み→スキャンでも、タブレットなどを用いて PDF ファイルに書き込んで提出でも構いません。

締め切りは、講義の日の 23:50 まで。 解答は、途中経過もわかるように、そして、用紙におさまるようにまとめること。

補足 0.1手書きのレポートをスマホのカメラで撮影して PDF ファイルを作成するために、いろいろなソフトがありますが、 CamScanner というソフト(Android, iOS)は、学生・教職員は教育機関のメールアドレスで登録ことで、無料で正式版にアップグレードできます。

第 0 節 授業の概要 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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数学相談室 10/385

数学相談室

数学系では、全学の一年生と数学系の学部生を対象に、数学相談室を開いています。そこでは、たとえ

授業と直接の関係が無くても、数学に関する質問・疑問や相談などに、 数学系の修士課程・博士課程

の先輩や教務補佐員が答えてくれます。

学習の一助として利用して下さい。

例年は本館の講義室で開催されていますが、前期は zoomによる開催になります。

詳しくは下記を参照してください。

http://www.math.titech.ac.jp/~jimu/Syllabus/R02(2020)/questiontime.html

第 0 節 授業の概要 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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高校までと大学以降の教科書の違い 11/385

高校までは、とてつもない労力と時間をかけて整備された教科書や学習指導要領によって、数学用

語・記号も統一され(例外はあるかも)ていました。

しかしながら、それらは、日本における高校までの教育をスムーズにやるために統一されているだけで

あって、世界的な標準でもないし、より複雑なものを記述しようとするときや、分野によっては、別の用語

や記号がふさわしい・便利なことがあります。

結果として、流儀によって、また、分野によって、数学用語・記号の定義が異なる場合があります。

また、高校までの教科書は丁寧に書かれ、非常に多くの人数に使われることによって、記述ミスのよう

な間違いはほとんどありません。しかし、それらと比較すると、大学以降で使う教科書・参考書は、多くの

記述ミスなどを含んでいます。

きちんと考えれば、ミスがあっても気づいたり修正できるところが数学の良いところです。本に書かれた

ことを鵜呑みにするのではなく、おかしいなと思ったら、他の本等と比較したり、誰かに質問したりしま

しょう。

第 0 節 授業の概要 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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教科書・参考書 12/385

教科書

• 吹田信之・新保経彦 共著「理工系の微分積分学」学術図書出版

この講義・演習の教科書です。数学用語の定義や定理など理論的なことは、この教科書に基づきます。

例外はあります。

参考書

•三宅敏恒 著「入門微分積分」培風館

この講義・演習の参考書です。

上記の教科書の例や問となっている問題・参考書の各節末にある問題が解ける程度の理解が、だい

たい、単位取得の最低条件になります。

教科書や参考書がなくても大丈夫か?

上記の教科書と参考書が両方無くても、講義を受講することは可能です。私の説明がおかしいな?と

思ったときに比較することが出来るし、教科書があった方が便利だと思います。

第 0 節 授業の概要 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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参考資料 13/385

微分積分の教科書は非常に多く出版されています。各自・自分の好きなものを選んで勉強してかまい

ません。私の好みでいくつか挙げておきます。

その他の参考書

ヤン・ブレジナ 柳田英二 共著「Introduction to Calculus in English -英語で学ぶ微分積分学-」裳華房

日本の標準的な微分積分の教科書の英語版。日本の高校までの数学を前提にしているので、単

に洋書の微分積分学の本を読むより、読みやすいはず。

杉浦光夫 著 「解析入門 I ・ II」東大出版会微分積分だけでなく、続く発展的な話題も扱っています。

金子晃 著「数理系のための基礎と応用 微分積分 I ・ II」サイエンス社ちょっと変わった雰囲気の本で、話題もちょっと変わっていておもしろいかもしれません。

赤攝也 著「微分学」「積分学」「実数論講義」日本評論社

三部作。微分積分学の理論構成に興味がある人向け。

第 0 節 授業の概要 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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参考資料 14/385

web上で入手できるもの http://www.math.titech.ac.jp/~lecture2020/index.html東工大数学教室で作ったビデオ教材です。

数学系の教員 3名で一変数の微分積分、多変数の微分、多変数の積分を講義しています。 https://www.gakushuin.ac.jp/~881791/mathbook/index.html学習院大学の田崎晴明先生による、物理を学ぶための大学レベルの数学の教科書です。

とても丁寧に解説されていると思います。

http://www.las.osakafu-u.ac.jp/~yamaguti/jugyo/jugyo.html大阪府立大学の山口睦先生の授業関係の web ページです。「微積分学 I ・ II の演習問題」の PDF ファイルに、演習問題が大量にあります。

他にもいろいろあります。ちなみに、微分積分学は、英語では calculusなので、「calculus textbook」とかで検索すれば、いろいろ出てきます。

第 0 節 授業の概要 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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第 1節 写像と関数

目標

写像・関数に関する基本的な用語をまとめておく。

第 1 節 写像と関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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記号 16/385

この講義では、次のような記号を使います。

R :実数全体の集合。 Z :整数全体の集合。 N = 1,2,3, . . . :自然数全体の集合。 Q :有理数全体の集合。 C :複素数全体の集合。 ∅ :空集合。 φ (ギリシャ語のファイ)とは違います。

≤ : ≦ と同じ。黒板では ⩽ とも書く。

≥ : ≧ と同じ。黒板では ⩾ とも書く。

∀ :「全ての」「任意の」「for all」「for any」の意味。 ∃ :「ある~が存在して」「there exists」の意味。

第 1 節 写像と関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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写像・関数 17/385

定義 1.1 (写像・関数)A, B を集合とする。Aのそれぞれの元 xについて、それをB の元に対応させる 1つの規則が定まっているとき、その対応を写像という。Aは定義域と呼ばれる。

さらに、B が「数」であるときは、写像という代わりに関数ともいう。B が実数であるとき、実数値関数、B が複素数であるとき、複素数値関数、B がベクトルであるとき、ベクトル値関数などという。

補足 1.2 f ∶ A→ B と書いたら、 f が(定義域)AからB への写像であることを意味する。

xが f(x)に対応する写像であるとき、 x↦ f(x) と書くことがある。 この講義では定義域Aが空集合である場合は考えない。

写像: map, 定義域: domain, 関数: function, 実数値: real valued, 複素数値: complex valued, ベクトル値: vector valued

第 1 節 写像と関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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写像・関数 18/385

例 1.3x ∈ Rに対して f(x) = x2

で定まる実数値関数 f ∶ R → R.

例 1.4x ∈ [0,1]に対して f(x) = x2

で定まる実数値関数 f ∶ [0,1] → R.

例 1.5x ∈ Cに対して f(x) = x2

で定まる複素数値関数 f ∶ C → C.

例 1.6(x, y) ∈ R2

に対して f(x, y) = x2 + y2で定まる実数値関数 f ∶ R → R.

第 1 節 写像と関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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単射(1対 1) 19/385

定義 1.7 (単射)写像 f ∶ A→ B で次の性質を満たすものを考える。

∀x,∀y ∈ Aに対して、 x /= y ならば f(x) /= f(y)が成り立つ。

このとき、写像 f は単射(1対 1)である。という。

例 1.8f ∶ [0,1] → R, x↦ x

2は単射。

例 1.9f ∶ [−1,1] → R, x↦ x

2は単射でない。例えば、 f(−1) = 1 = f(1)になっている。

単射: injective, 1 対 1 : one-to-one

第 1 節 写像と関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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値域 20/385

定義 1.10値域写像 f ∶ A→ B に対して、

f(A) ∶= f(x);x ∈ A

を f の値域という。

A ∶= B というのは、B でAを定義するという意味。

例 1.11f ∶ [−2,1] → R, x↦ x

2の値域は [0,4].

値域: range

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逆写像(逆関数) 21/385

定義 1.12 (逆写像)写像 f ∶ A→ B は単射とする。このとき、任意の y ∈ f(A)に対して、 f(x) = y となる x ∈ Aがただ一つ存在する。この対応 y ↦ xで定まる写像(定義域は f(A) となる)を f の逆写像といい、f−1と表す。

例 1.13f ∶ [0,2] → R, x↦ x

2の値域は [0,4]で、 f は単射。

逆写像は f−1 ∶ [0,4] → [0,2], y ↦

√y. (x↦

√x と書いても同じ意味。)

逆写像: inverse map, 逆関数: inverse function

第 1 節 写像と関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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グラフ 22/385

定義 1.14 (グラフ)写像 f ∶ A→ B に対して、

(x, y) ∈ A ×B;x ∈ A,y ∈ B,y = f(x)

を f のグラフという。

補足 1.15 f ∶ A→ B のグラフは、A ×B = (x, y);x ∈ A,y ∈ Bの部分集合になっている。 A,B が R (またはその部分集合)の場合は、グラフは図示しやすい。

グラフ: graph

第 1 節 写像と関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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グラフ 23/385

例 1.16f ∶ [0,2] → R, x↦ x

2のグラフを図示すると、下図の青い部分。

Ox

y

y = x2

1

1

第 1 節 写像と関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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区間 24/385

定義 1.17 (区間)−∞ < a < b < ∞ とする。次のものを Rの区間と呼ぶ。区間の端の点 a, bは端点という。

(a, b) ∶= x ∈ R;a < x < b. [a, b) ∶= x ∈ R;a ≤ x < b. (a, b] ∶= x ∈ R;a < x ≤ b. [a, b] ∶= x ∈ R;a ≤ x ≤ b, [a,a] ∶= a. (−∞, b) ∶= x ∈ R;x < b. (−∞, b] ∶= x ∈ R;x ≤ b. (a,∞) ∶= x ∈ R;a < x. [a,∞) ∶= x ∈ R;a ≤ x. (−∞,∞) = R.

区間: interval, 端点: endpoint

第 1 節 写像と関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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区間 25/385

定義 1.18 (有界集合)Rの部分集合A /= ∅を考える。

あるM > 0が存在して、各 x ∈ Aに対して ∣x∣ ≤M が成り立つ

とする。

このようなAは有界であるという。有界でないものは、非有界である、と呼ばれる。

例 1.19Nは Rの非有界集合。

例 1.20[−1,1] ∪ [2,3)は Rの有界集合。

有界: bounded, 非有界: unbounded

第 1 節 写像と関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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区間 26/385

定義 1.21 (開区間)区間 I に対して次が成り立つとする。このとき、 I を開区間という。

任意の x ∈ I について、 δ = δ(x) > 0を小さくとれば (x − δ, x + δ) ⊂ I が成り立つ。

定義 1.22 (閉区間)区間 I に対して次が成り立つとする。このとき、 I を閉区間という。

任意の実数列 ann∈N について、 an ∈ I (∀n ∈ N)かつ limn→∞ an = a ∈ R ならばa ∈ I が成り立つ。

例 1.23(0,1)は開区間、 [0,1]は閉区間。

開区間: open interval, 閉区間: closed interval

第 1 節 写像と関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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区間 27/385

まとめると次のようになる。

区間 有界か? 開か?・閉か?

(a, b) 有界 開

[a, b) 有界

(a, b] 有界

[a, b], [a,a] 有界 閉

(−∞, b) 非有界 開

(−∞, b] 非有界 閉

(a,∞) 非有界 開

[a,∞) 非有界 閉

(−∞,∞) 非有界 開かつ閉

有界開区間とは (a, b)のことで、有界閉区間とは [a, b] (or [a,a])のことである。

補足 1.24教科書では、開区間とは (a, b)のことで、閉区間とは [a, b]のことである。つまり、教科書の開区間は有界開区間のことで、閉区間は有界閉区間のことである。

第 1 節 写像と関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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第 2節 初等関数

目標

三角関数・指数関数など、高校までで学ぶ関数についてまとめた後、逆三角関数を導入する。

第 2 節 初等関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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多項式関数 29/385

定義 2.1 (多項式関数)` ∈ N ∪ 0, a0, . . . , a` ∈ R とする。

x ∈ Rに対して、多項式 f(x) = anxn +⋯+ a1x + a0 で定まる関数 f ∶ R → Rを多項式関数と呼ぶ。

補足 2.2 定義域を R より狭いものに制限して考えることもある。 多項式関数のことも多項式と呼ぶことも多い。ただし、精確ではない。

多項式関数: polynomial function

第 2 節 初等関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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有理関数 30/385

定義 2.3f, g を多項式関数、 I を Rの部分集合、 g(x) /= 0 (x ∈ I) とする。

h(x) ∶= f(x)g(x) で定まる I 上の関数 hを、有理関数という。

補足 2.4 g は多項式関数なので、 g の零点全体 Z ∶= x ∈ R; g(x) = 0は、有限集合となる。そして、 h = f/g は、 R \Z = x ∈ R; g(x) /= 0で定義される。

例 2.5x

1 + x2 ,1

1 − x2 , 1 + x + x2, etc.

有理関数: rational function

第 2 節 初等関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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指数関数 31/385

定義 2.6 (指数関数)指数関数とは、次の性質を満たすものである。

ex= expxは R上で定義され、正値、単調増加。

ex= limn→∞

(1 +xn)

n

, 特に、 e = limn→∞

(1 +1n)

n

. (極限)

ex+y

= exey, e0

= 1. (指数法則)

d

dxex= e

x. (導関数は自分自身)

補足 2.7 a > 0, a /= 1 とする。より一般に、 ax = exp(x loga) も指数関数と呼ばれる。

指数関数: exponential function

第 2 節 初等関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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対数関数 32/385

定義 2.8 (対数関数)対数関数とは、次の性質を満たすものである。

logxは (0,∞)上で定義され、単調増加。 logx (定義域は (0,∞))と ex (定義域は R)は互いに逆関数になっている。 logxy = logx + log y, log

xy = logx − log y, log 1 = 0.

y logx = logxy (x > 0, y ∈ R).

d

dxlogx =

1x .

補足 2.9

a > 0, a /= 1 とする。より一般に、 loga x =logxloga も対数関数と呼ばれる。

対数関数: logarithmic function

第 2 節 初等関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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三角関数 33/385

三角関数についての性質をまとめておく。これらが全てではないが、この程度は思い出しておくこと。

図のように、円 x2 + y2

= 1上の点を P とする。弧AP の「長さ」を θ とするとき、 P の座標は(cosθ, sin θ)である。

sin θ, cosθ は R上で定義され、 2π周期、連続。

tan θ =sin θcosθ は π/2 + nπ (n ∈ Z)以外で定義され、 π周期、連続。

y

xO

x2 + y2 = 1

θ

P = (cos θ, sin θ)

A

三角関数: trigonometric function, 正弦: sine, 余弦: cosine, 正接: tangent

第 2 節 初等関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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三角関数 34/385

三角関数同士の関係

sin2θ + cos2

θ = 1, tan θ =sin θcosθ , 1 + tan2

θ =1

cos2 θ.

2倍角に関するものsin 2θ = 2 sin θ cosθ,cos 2θ = cos2

θ − sin2θ = 1 − 2 sin2

θ = cos2θ − 1,

sin2θ =

1 − cos 2θ2 , cos2

θ =1 + cos 2θ

2 ,

加法定理

sin(α ± β) = sinα cosβ ± cosα sinβ,cos(α ± β) = cosα cosβ ∓ sinα sinβ,

tan(α ± β) = tanα ± tanβ1 ∓ tanα tanβ .

第 2 節 初等関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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三角関数 35/385

積と和に関するもの

2 sinα cosβ = sin(α + β) + sin(α − β),2 cosα sinβ = sin(α + β) − sin(α − β),2 cosα cosβ = cos(α + β) + cos(α − β),2 sinα sinβ = − cos(α + β) + cos(α − β).

極限

limθ→0

sin θθ

=d

dθsin θ

»»»»»»»»θ=0= cos 0 = 1.

導関数

d

dθsin θ = cosθ = sin(θ + π/4),

d

dθcosθ = − sin θ = cos(θ + π/4),

d

dθtan θ =

1cos2 θ

.

第 2 節 初等関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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三角関数の逆数(逆関数ではない) 36/385

sin, cos, tanの逆数として定義される三角関数もしばしば使われる。これらの三角関数に関する種々の公式もあるが、ここでは扱わない。

本や論文で使われることもあるので、そういうものがあるということは覚えておくべき。

cosecant function

cscθ = cosecθ =1

sin θ .

secant function

secθ =1

cosθ .

cotangent function

cotθ =1

tan θ .

第 2 節 初等関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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逆三角関数 37/385

三角関数の逆関数も応用上よく出てくるので、ここで定義しておきたい。しかしながら、 sinxは R上で単射でないので、一工夫しないと逆関数は定義できない。

定義 2.10 (逆三角関数)

sin ∶ [−π2 ,π

2 ] → Rの逆関数を sin−1で表す。逆正弦関数と呼び、 arcsin とも表す。

cos ∶ [0, π] → Rの逆関数を cos−1で表す。逆余弦関数と呼び、 arccos とも表す。

tan ∶ (−π2 ,π

2 ) → Rの逆関数を tan−1で表す。逆正接関数と呼び、 arctan とも表す。

補足 2.11 教科書の説明は少し異なるが、最終的に定まるものは同じ。

定義域を変えると、逆関数は別なものになってしまう。状況によっては、別な定義が便利だったりす

るので、逆三角関数の定義が異なることがあるので注意。この講義では、上記の定義域で定めた

逆三角関数のみを考える。

逆**関数: inverse ** function, arcsin: arcsine, arccos: arccosine, arctan: arctangent

第 2 節 初等関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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双曲線関数 38/385

coshx ∶=ex + e−x

2 , sinhx ∶=ex − e−x

2 , tanhx ∶=sinhxcoshx

は、双曲線関数と呼ばれる。(sinhは hyperbolic sine, coshは hyperbolic cosine, tanhはhyperbolic tangent.)すぐにわかるように、 cosh2

x − sinh2x = 1であり、 (cosh t, sinh t)は双曲線 x

2 − y2= 1の

x > 0の部分をパラメータ表示したものになっている。((cos t, sin t)が円 x2 + y2

= 1をパラメータ表示したものであることと似ている。)

Ox

coshx

1

1O

x

sinhx

1

1O

x

tanhx

1

1

第 2 節 初等関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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逆双曲線関数 39/385

sinhxは (−∞,∞)上で単調増加、連続、値域は (−∞,∞).coshxは [0,∞)上で単調増加、連続、値域は [1,∞).tanhxは (−∞,∞)上で単調増加、連続、値域は (−1,1).

となっている。(注: coshについては単調増加になるよう定義域を制限している。)このことから、それぞれの逆関数が存在し、次のようになる。

sinh−1x ∶= arsinhx ∶= log(x +

√x2 + 1) :

(−∞,∞)上で単調増加、連続、値域は (−∞,∞).

cosh−1x ∶= arcoshx ∶= log(x +

√x2 − 1) :

[1,∞)上で単調増加、連続、値域は [0,∞).

tanh−1x ∶= artanhx ∶=

12 log

1 + x1 − x

:

(−1,1)上で単調増加、連続、値域は (−∞,∞).

なお、 arsinhは、「area hyperbolic sine」とか「inverse hyperbolic sine」とか読む。 arは areaに由来するので、 arcsinhなどと書かれることも多いが、これは誤記。

第 2 節 初等関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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第 3節 連続関数

目標

連続関数に関連する用語の定義・性質をまとめておく。

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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実数の性質・連続性 41/385

長い歴史とともに数の概念は整備されてきた。端的にいって、個数を表すことができる自然数から出発

し、量を表すことができ、四則演算も出来る有理数、そして、極限がうまく扱えるように拡張されたもの

が実数である。

実数とは?

実数全体 Rは Qを含む集合で、実数については次が満たされる。 四則演算が出来る。(教科書 p.3の (A)) 大小関係がある。(教科書 p.3の (B)) 実数の性質(連続性)を満たす。(教科書 p.4の (C))

実数の性質は、極限の概念と深く結びついており、例えば、中間値の定理や平均値の定理も、実数の

性質から導かれるもの(ある意味で同値なもの)になっている。それらをきちんと学ぶためには、 ε論法などによる極限の概念の厳密な扱いが必要になる。

この講義では高校までで学んだように、極限をいくぶんいい加減に扱い、 ε論法を用いたより厳密な扱いはしない。従って、実数の性質と結びついた定理は、証明しない。

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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数列の極限 42/385

数列の極限に関しては、改めて説明はしない。最低限の用語・定理については、教科書 §2 (I)を参照のこと。

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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関数の極限 43/385

定義 3.1 (関数の極限)I を Rの開区間、 a ∈ I, f ∶ I → Rを考える。ただし、 f は aでは定義されていなくても良い。

あるA ∈ Rが存在して、 x /= aが aに限りなく近づくとき、 f(x)がAに限りなく近づく。

このとき、「x→ aのとき f(x)は収束する」という。また、Aを x→ aのときの f(x)の極限といい、limx→a f(x) = A と表す。

xが aに近づくとき、 f(x)がいくらでも大きくなる。

となっているときは、「f(x)は∞に発散する」といい、 limx→a f(x) = ∞ と表す。limx→a f(x) = −∞ も同様に定める。

補足 3.2収束しないことを、発散するという。つまり、発散することは、∞ (または −∞)に発散することを意味しない。

収束する: converge, 発散する: diverge

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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関数の極限 44/385

補足 3.3a ∈ R, f ∶ (a,∞) → Rに対して、 limx→∞ f(x)なども同様に考える。

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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連続関数 45/385

定義 3.4I ⊂ Rを開区間、 f ∶ I → R, a ∈ I とする。

limx→a f(x) = f(a)のとき、 f は aで連続である、という。

補足

書き換えると、 limx→a f(x) = f(a) ⇔ limx→a f(x) = f(limx→a x) ということなので、連続性というのは、 lim と f の順序交換が出来るということに対応していることがわかる。

定理 3.5I ⊂ Rを開区間、 f, g ∶ I → R, a ∈ I, f, g は aで連続、 c ∈ R とする。

このとき、次の関数は、 aで連続である。

f(x) + g(x), f(x) − g(x), cf(x), f(x)g(x),f(x)/g(x) (ただし g(a) /= 0 とする), maxf(x), g(x), minf(x), g(x), ∣f(x)∣.

連続: continuous

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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連続関数 46/385

定理 3.6I, J ⊂ Rを開区間、 f ∶ I → J , a ∈ I, f は aで連続、 g は f(a)で連続とする。このとき、 x↦ g(f(x))で定まる合成関数 g f ∶ I → Rは、 aで連続。

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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連続関数 47/385

定理 3.7I を開区間(開区間の和でも良い)、 f ∶ I → R とする。

任意の a ∈ I に対して、 f が aで連続である

とき、 f は I 上で連続という。

このような f を I 上の連続関数という。

例 3.8a0, . . . , an ∈ R とする。x ∈ Rに対して f(x) = anxn +⋯+ a1x+ a0 で定まる f ∶ R → Rは、 R上の連続関数となる。

連続関数: continuous function

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片側極限 48/385

定義 3.9 (片側極限)a, b ∈ R, a < b, f ∶ (a, b→ R)を考える。xが aに右から近づくときの f(x)の極限を f の aにおける右極限という。その極限値は

limx→a+

f(x), limx→a+0

f(x), limxa

f(x) limx↓a

f(x)

などと表す。左極限も同様に定める。

定義 3.10 (右連続・左連続)a, b ∈ R, a < b, f ∶ [a, b) → Rを考える。

limx→a+ f(x) = f(a)であるとき、 f は aで右連続であるという。左連続も同様に定める。

右極限: limit from the right, 右連続: right continuous

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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片側極限 49/385

例 3.11

定義 3.12 (閉区間での連続性)a, b ∈ R, a < b, f ∶ [a, b] → Rを考える。

f が (a, b)上連続、 aで右連続、 bで左連続であるとき、 f は [a, b]上で連続であるという。他の区間((a, b]など)での連続性も同様に定める。

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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中間値の定理 50/385

定理 3.13 (中間値の定理)a, b ∈ R, a < b, f ∶ [a, b] → R, f(a) /= f(b) とする。`を f(a) と f(b)の間の実数とすると、 f(c) = ` となる c ∈ (a, b)が存在する。

中間値の定理: intermediate value theorem

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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中間値の定理の応用:二分法 51/385

I を Rの区間、 f ∶ I → Rを連続関数とする。このとき、 f(x) = 0 となる xを探す(方程式f(x) = 0の解 xを一つみつける)問題を考える。

a, b ∈ I で f(a) < 0 < f(b) となっていると仮定する。さらに、 a < b として一般性を失わない。

中間値の定理より、 f(x) = 0 となる x ∈ (a, b)が存在する。その証明と考えれば、次のように近似値を求めることが出来る。

まず、 f (a + b2 )を計算する。

f (a + b2 ) = 0なら、

a + b2 が求める解。作業終了。

f (a + b2 ) > 0なら、 (a, a + b

2 )上に解がある。

f (a + b2 ) < 0なら、 (a + b

2 , b)上に解がある。

この作業を n回繰り返すと、少なくとも、幅b − a2n の区間内に解があることがわかる。

この方法は二分法などと言われる。

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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最大値・最小値 52/385

定義 3.14 (最大値・最小値)A /= ∅を Rの部分集合、 f ∶ A→ R とする。

ある c ∈ Aが存在して、任意の x ∈ Aに対して f(x) ≤ f(c)が成り立つ

とき、 f(c)を f のA上での最大値といい、 cを最大点という。最小値・最小点も同様に定める。

定理 3.15 (最大・最小の存在)a, b ∈ R, a < b, f ∶ [a, b] → R, f は [a, b]上で連続とする。このとき、 f は [a, b]上で最大値・最小値を持つ。

最大値: maximum value, 最小値: minimum value, 最大点: maximum point, 最小点: minimum point

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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単調関数 53/385

定義 3.16I を Rの区間とし、 f ∶ I → Rを考える。

∀x, y ∈ I, x < y ⇒ f(x) < f(y)が成り立つとき、 f は I 上で単調増加であるという。∀x, y ∈ I, x < y ⇒ f(x) ≤ f(y)が成り立つとき、 f は I 上で非減少であるという。∀x, y ∈ I, x < y ⇒ f(x) > f(y)が成り立つとき、 f は I 上で単調減少であるという。∀x, y ∈ I, x < y ⇒ f(x) ≥ f(y)が成り立つとき、 f は I 上で非増加であるという。これらを総称して、 f は I 上で単調であるという。

補足 3.17単調増加・非減少・単調減少・非増加を、それぞれ、狭義単調増加・広義単調増加・狭義単調減少・広

義単調減少ということもある。

単調増加: increasing, 非減少: non-decreasing, 単調減少: decreasing, 非増加: non-increasing, 単調: monotone,狭義単調増加: strictly increasing, 狭義単調減少: strictly decreasing

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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逆関数 54/385

定理 3.18 (逆関数の存在・連続性)a, b ∈ R, a < b, f ∶ [a, b] → Rは単調増加な連続関数とする。

このとき、 f の逆関数 f−1 ∶ [f(a), f(b)] → [a, b]が存在し、 f は [a, b]上で連続である。

要は、連続で単調増加(または単調減少)な関数の逆関数は、やはり連続となる。

補足 3.19 上の定理と同様に、単調減少な連続関数についても、逆関数が存在する。

より一般の区間に対しても、同様の定理が成り立つ。

単調増加・単調減少な関数であれば単射となるので、もちろん逆関数は存在する。しかし、逆関

数の定義域が区間になるとは限らない。

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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質問・答え 55/385

講義の終わり、質疑応答の時間にあった質問と回答です。

必ず PDFで課題提出しなければならないですか?PDF作成が困難なので画像で提出したいです。

⟶課題は PDFで提出です。どうがんばっても不可能な場合は、柴田までメールで提出してください。

レポート課題の提出ファイル名の指定はありますか?

⟶課題のファイル名は学籍番号で。

講義に使った資料は公開されますか?

⟶講義のスライドなどは、 OCW-i と私の講義の webサイトに公開されます。 集合の Rや Zや Qの手書きの書き方を教えてください。

⟶ p.16に書き込みました。 レポートの 1-3の説明はどの程度の説明をすればいいですか?

⟶ 勉強していない自分が見て理解できる程度には説明しましょう。

p.37補足「この講義では、上記の定義域で定めた 逆三角関数のみを考える」とは課題にも適用されるという扱いでいいですか?

⟶ はい。それで良いです。

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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質問・答え 56/385

:=ってどういう意味ですか?⟶ 右辺で左辺を定義するという意味です。 p.20に追加しました。

2Q対面式授業開始後も授業形式はスライドですか?それとも板書ですか?⟶ 対面式授業が再開されたら、黒板も使います。(私が担当するものでは。もちろんコロナの状

況によります。)

p.21の逆写像についてです。単射であることと同時に全射であることも必要ではないでしょうか?⟶ 全射という用語を導入せずに説明したのですが、知っている人向けに説明すると、

f ∶ A→ B があれば、 f は自動的にAから f(A)への全射になります。なので、 f が単射なら、 f ∶ A→ f(A)は全単射になり、逆写像が存在します。

間違いがわかった部分は訂正版として OCWiに上がりますか?⟶ はい。訂正版は OCW-iにのせます。

p.54 補足で、最後のスライドの逆関数の定義域が区間になるとは限らないってどういう意味ですか?

⟶ 例えば、単調増加関数(単射となる)が、連続ではない(ジャンプがある)場合、値域が区間に

なりません。

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 1 回

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微分積分学第一・演習 Fクラス(34∼40ユニット)講義第 2回(5/7 :木 8:50–10:30)

担当:柴田 将敬(理学院数学系)

本日のテーマ

微分

積分

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前回の補足(初等関数) 58/385

n乗根 n√x

n ∈ N とする。

[0,∞)上の実数値関数 x↦ n√xは、

f(x) = xn (x ≥ 0)の逆関数として定義される関数である。

第 3 節 連続関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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第 4節 微分

目標

微分に関する基本的な事柄をまとめておく。

第 4 節 微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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微分法の意義 60/385

微分法の第一の目的は

グラフy = f(x)に接線を引くことである。そのために、微分係数を求めるわけであるが、その計算法が微分法である。

そして、そこで用いられる技術には、次のような応用がある。

グラフ y = f(x)の形を調べる(増減表など) f(x)の近似を求める 面積の計算(微積分学の基本定理が重要)

微分方程式

第 4 節 微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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接線 61/385

接線とは何か?きちんと定義しようとすると実は面倒である。

接線の素朴な定義

開区間 I で定義された関数 y = f(x)のグラフをC とする。一次関数 y = ax + bのグラフ ` (直線)が次をみたすとき、 `をC の x = aにおける接線という。

C と `の共通部分は一点 P = (a, f(a))のみ。 (x = aの近くでは)C は `の上(or 下)側にある。

Ox

yC

`

P

Ox

yC`

P

Ox

yy = x

3

Ox

y y = ∣x∣

これだと、 y = x3の原点における接線が存在しないことになる。また、 y = ∣x∣の原点における接線

が多数存在する。ではどうするか?それは後で述べる。

第 4 節 微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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微分 62/385

定義 4.1 (微分)I を開区間、 x ∈ I とする。 I 上で定義された関数 f = f(x)が x ∈ I で微分可能であるとは、次の極限が存在することである。

limh→0

f(x + h) − f(x)h

.

この極限値を f の xにおける微分係数と呼び、

df

dx(x), f

′(x)

などと表す。

補足 4.2定義から明らかであるが、 f が xで微分可能となるためには、 f が xで連続でなければならない。

微分可能: differentiable, 微分係数: derivative, differential coefficient

第 4 節 微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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一次近似 63/385

I を Rの開区間、 a ∈ I, f ∶ I → R, f は aで微分可能とする。このとき、

R(x) ∶= f(x)−f(a)x−a

− f ′(a) if x /= a,0 if x = a

とおくと、

f(x) = f(a) + f ′(a)(x − a) +R(x)(x − a), limx→aR(x) = 0

となる。これは、

f(x) − (f(a) + f ′(a)(x − a)) = R(x)(x − a)

で、 xが aに近い時、右辺は ∣x − a∣ と比べてもさらに小さいことを意味している。下線部を f の aにおける一次近似と呼ぶ。

自習課題

上記の f(x)に対して、 f(x) = α(x − a) + β + (x − a)R(x), limx→a R(x) = 0 が成り立つα,β ∈ R と関数 Rがあるとする。

このとき α = f′(a)かつ β = f(a) となることを示せ。

第 4 節 微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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接線の定義 64/385

前ページの自習課題より、ある意味、 xが aに近いときは、 f(x)を近似する一次関数でベストなものが、 f(a) + f ′(a)(x − a) となっている。この意味で、 y = f(x)の x = aにおける接線は、 y = f

′(a)(x − a) + f(a)がふさわしい。

定義 4.3 (接線)I を Rの開区間、 a ∈ I, f ∶ I → R, f は aで微分可能とする。

y = f′(a)(x − a) + f(a)

で定まる直線を、 y = f(x)の x = aにおける接線という。

結局、接線を求めることは、微分係数を求めることに帰着された。

接線: tangent line, tangent

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導関数 65/385

定義 4.4 (導関数)I を開区間、 f ∶ I → R, f は任意の x ∈ I で微分可能とする。

このとき、 x↦ f′(x) として定まる関数 f

′ ∶ I → Rを f の導関数という。

また、 f から f の導関数を求めることを、 f を微分する、という。

定理 4.5I: Rの開区間、 f, g ∶ I → Rは I 上で微分可能、 c ∈ R とする。

このとき、 cf , f ± g, fg, f/g は I 上で微分可能で、

(cf)′ = cf ′, (f ± g)′ = f ′

± g′, (fg)′ = f ′

g + fg′, (fg )

=f′g − fg′

g2

が成り立つ。ただし f/g については、 g /= 0 とする。

導関数: derivative

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微分 66/385

定理 4.6 (合成関数の微分)I, J は開区間、 g は I 上の関数で x0 で微分可能、 f は J 上の関数で、 y0 = g(x0) ∈ J で微分可能とする。このとき、合成関数 f(g(x))は x0 で微分可能で、

(f(g(x)))′ »»»»»»x=x0

= f′(g(x0))g′(x0)

となる。

補足 4.7 つまり、上の設定で、 g は I 上で微分可能、 f は J 上で微分可能、 g の値域 g(I)はg(I) ⊂ J を満たす(合成関数が定義できる)なら、

(f(g(x)))′= f

′(g(x))g′(x) (x ∈ I).

定理の主張からわかるように、微分(導関数を求めること)と代入は順序が交換出来ない。合成関

数や変数変換を使うときは、それらの順序が明確になるように記号を使わないと、混乱の元に

なる。

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微分の記号の使い方 67/385

合成関数の微分の公式からわかるように、微分するという操作と代入するという操作は入れ替えられ

ない。なので、そこが明確になるように記述しないと、混乱を招く。よく使われる使い方をまとめておく。

I を Rの開区間、 f ∶ I → Rは微分可能とする。変数は x とする。df

dx, f ′は f の導関数(変数 xを略したもの)を表す。

df

dx(a), f ′(a)は f の導関数の x = aでの値を表す。言い換えれば、導関数(変数は x)に x = aを

代入したものを表す。

これは x = aにおける微分係数に他ならない。

ddxや ( )′ は、微分するという操作を表す。従って、 d

dx(⋆) = (⋆)′ は ⋆を xで微分した関数を表す。

∣x=a は(xの関数に) x = aを代入するという操作を表す。従って、 (⋆) ∣x=a は、 ⋆に x = aを代入したものを表す。

例えば、 f(x) ∣x=a= f(a) となる。

特に、代入・合成関数が出てくるような計算では、各自気を付けて記述すること。

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逆関数の微分 68/385

定理 4.8 (逆関数の導関数)I :開区間、 f ∶ I ⟶ Rは単調増加(or 単調減少)で微分可能な関数、 f ′(x) /= 0 (∀x ∈ I) とする。

このとき、逆関数 x = f−1(y)は J = f(I)で微分可能で、

(f−1)′ (y) = 1f ′(x) =

1f ′(f−1(y)) が成立する。

逆関数が微分可能であることを示すのは面倒。

y ∈ J に対して x = f−1(y) とおくと f(x) = y, x = f

−1(f(x))である。これを xで微分すると、合成関数の微分法より、

d

dxx =1 =

d

dx(f−1(f(x))) = (f−1)′ (f(x))f ′(x)

が従う。これを見れば、 f′(x) /= 0が必要になることも推測できる。

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逆関数の微分 69/385

逆関数の微分の公式を使えば(合成関数の微分の公式を使っても同じことだが)、次のように逆関数

の導関数が求まる。

(arcsinx)′ = 1√1 − x2

(x ∈ (−1,1)), (arccosx)′ = −1√1 − x2

(x ∈ (−1,1)),

(arctanx)′ = 11 + x2 (x ∈ R),

(arsinhx)′ = 1√x2 + 1

(x ∈ R), (arcoshx)′ = 1√x2 − 1

(x ∈ (1,∞)),

(artanhx)′ = 11 − x2 (x ∈ (−1,1))

自習課題

上の式を確かめよ。

補足 4.9

arsinhx = log(x +√x2 + 1), arcoshx = log(x +

√x2 + 1), artanhx =

12 log

1 + x1 − x

であった。

第 4 節 微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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原始関数 70/385

定義 4.10 (原始関数)開区間 I 上で定義された関数 f , F に対して、 I 上で F

′(x) = f(x)が成り立つとき、 F を f の原始関数と呼ぶ。

補足 4.11実は、開区間 I 上で定義された関数 f , F , Gに対して、 I 上で F

′(x) = G′(x) = f(x)が成り立つとき、 F −Gは I 上で定数関数となることが示せる。

このことから、二つの原始関数があっても、それは定数の差を除いて一致することがわかる。

原始関数: primitive function, antiderivative

第 4 節 微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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平均値の定理 71/385

定理 4.12 (平均値の定理(教科書 p.44定理 3))f は有界閉区間 [a, b]で連続、 (a, b)で微分可能とする。

このときf(b) − f(a)

b − a= f

′(c) 満たす c ∈ (a, b)が存在する。

Ox

y y = f(x)

a bc

傾き f′(c) = f(b)−f(a)

b−a

補足 4.13上記の cは f だけでなく、 aや bにも依存して定まる。従って、 aや bを動かすような状況だと、 cはaや bに応じて変化してしまう。

このことを忘れると、しばしば間違いを引き起こすので注意。間違いを回避するため、 c = c(a, b) のように表して、 cが a と bに依存することを強調することがある。

第 4 節 微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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第 5節 積分

目標

積分に関する基本的な事柄をまとめておく。

第 5 節 積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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積分法の意義 73/385

積分法の第一の目的は

面積を求める

ことである。

そして、高校では、原始関数を用いて定積分が定義された。原始関数が具体的に求まるなら、その定義

でも良い気がする。しかしながら、この定義の仕方だと、例えば、

与えられた関数(例えば f(x) = e−x2

)の原始関数は本当にあるのか?

といった問には答えられない。

第 5 節 積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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面積 74/385

土地の「広さ」を客観的な数量として表すことは、昔々からの課題であった。

昔の解決策

毎年とれる作物の量で土地の広さを表せば良い。

年によって、また耕作する人によっても、作物の量が変わるので、もう少しきちっとしたい。というわけで、

「面積」の概念が整備された。

面積(素朴な定義)

面積とは次の性質を満たすものである。以下、A,B は R2の(有界な)部分集合とする。

Aの面積 ∣A∣は 0以上の実数。合同なものの面積は同じ。 ∣A ∪B∣ = ∣A∣ + ∣B∣ − ∣A ∩B∣. A ⊂ B なら ∣A∣ ≤ ∣B∣. Aが直線や曲線や点なら ∣A∣ = 0. 長方形 [a, b] × [c, d]の面積は (b − a)(d − c).

ここでは上記の性質を全て満たすものがあるかどうかは問わない。

三角形に分割すれば、多角形の面積は求まる。

第 5 節 積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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面積 75/385

円の面積(アルキメデス、紀元前 3世紀)半径 1の円の面積は π となる。これは、

円の内接多角形の面積 ≤円の面積 ≤外接多角形の面積

を用いて示された。近似値も計算された。

なお、半径 1の円の円周の長さが 2π (直径 1の円の円周の長さが π)というのが π の定義。

第 5 節 積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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面積 76/385

放物線の面積(アルキメデス、紀元前 3世紀)

Ox

y

y = x2

S

x

y

T

上図の斜線部分の面積を S, T とすると、 S =43T が成り立つ。

これは, S の内部を三角形で分割し、 S = T +14T +

142T +⋯+

14nT +⋯

となることを用いた。

何にせよ、曲線で囲まれた部分の面積を求めると、極限の概念があらわれる。そして、計算はとても

面倒。

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定積分 77/385

面積を求めるために、面積の定義をはっきりさせたい。それが定積分の定義となる。都合により、ここで

は詳しい定義には立ち入らない。

定義 5.1 (定積分の定義(?))−∞ < a < b < ∞, f は I = [a, b]上で定義された有界な関数とする。高校で学んだ区分求積法のように、 y = f(x)を棒グラフで近似し、棒グラフの面積の極限として、 fの I 上での定積分(直線 x = a, 直線 x = b, x軸 y = 0 と f のグラフ y = f(x)で囲まれた部分の符号付面積)を定め、それを ∫b

af(x)dx と表す。

f によっては、定積分は極限であるから、上手く定義できないことがあるが、定積分 ∫baf(x)dxが定

まるとき、 f は I 上で積分可能であるという。

∫a

bf(x)dx ∶= −∫

b

af(x)dx, ∫

c

cf(x)dx ∶= 0 (cは任意)とする。

定理 5.2 (定積分の存在)

連続関数は積分可能である。つまり、 f が [a, b]上で連続ならば、定積分 ∫b

af(x)dxが存在する。

定積分: definite integral, 積分可能: integrable

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定積分の性質 78/385

定積分の性質を列挙する。以下、 −∞ < a < b < ∞, f, g ∶ [a, b] → Rは連続関数とする。

区間加法性

α,β, γ ∈ [a, b]に対して、 ∫β

αf(x)dx + ∫

γ

βf(x)dx = ∫

γ

αf(x)dx となる。

[a, b]上で f(x) ≤ g(x)なら、 ∫b

af(x)dx ≤ ∫

b

ag(x)dx となる。

特に、»»»»»»»»∫b

af(x)dx

»»»»»»»»≤ ∫

b

a∣f(x)∣dx となる。

積分の線形性

k ∈ Rに対して、

∫b

af(x) ± g(x)dx = ∫

b

af(x)dx ± ∫

b

ag(x)dx (複合同順)、

∫b

akf(x)dx = k∫

b

af(x)dx となる。

実は、 f , gが連続でなくても、定積分が可能であれば成立する。

第 5 節 積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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不定積分 79/385

定義 5.3 (不定積分)I :区間, f ∶ I → Rは I 上で積分可能, c ∈ I とする。

このとき、 x↦ ∫x

cf(t)dtで定まる xの関数を、 f の不定積分と呼ぶ。

c, d ∈ I とし、二つの不定積分

F (x) = ∫x

cf(t)dt, G(x) = ∫

x

df(t)dtを考えると、

F (x) −G(x) = ∫d

cf(t)dt となり、右辺は定数関数である。

より一般に、 ∫x

cf(t)dt +定数 の形で表される関数も不定積分と呼び、 ∫ f(x)dx とも書く。

f の不定積分 F を用いると、定積分の性質(区間加法性)より、次が成立する。

∫b

af(x)dx = F (b) − F (a).

不定積分: indefinite integral

第 5 節 積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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原始関数と不定積分 80/385

定積分は極限を用いて定義されるので、具体的な関数 f に対して計算するのも容易ではない。

ここで、関数 f について、原始関数と不定積分を思い出しておく。

原始関数

F′(x) = f(x) となる F (x)のこと。

不定積分

F (x) = ∫x

cf(x)dxで定まる F (x)のこと。 ∫

b

af(x)dx = F (b) − F (a) となる。

個々の具体的な関数、例えば f(x) = xn とかの定積分は、以前から計算されていたが、不定積分と原始関数が一致する(微分積分学の基本定理)ことを見抜いて微分積分学として整備したのが、

Newtonや Libnitzである。

第 5 節 積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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微分積分学の基本定理 81/385

定理 5.4 (微分積分学の基本定理)I を開区間、 f を I 上の連続関数とする。

c ∈ I とする。このとき、不定積分 F (x) = ∫x

cf(t)dtは原始関数となる。

つまり、 F′(x) = f(x) (x ∈ I)が成立する。(特に、連続関数は原始関数を持つ)

F を f の I 上での原始関数とする。

a, b ∈ I に対して、 ∫b

af(x)dx = F (b) − F (a)が成立する。

f は I 上で微分可能で f′は I 上で連続とする。 a, b ∈ I に対して、

f(b) − f(a) = ∫b

af′(t)dtが成立する。

補足 5.5このように、 f を連続関数とすると、 f の不定積分と原始関数は同じものになる。なので、区別をしないことが多い。

第 5 節 積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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原始関数をどのように求めるか? 82/385

(x3)′ = 3x2となることから、 3x2

の原始関数は x3であることが分かる。このように、具体的な関数

の微分をあらかじめ計算しておくことで、原始関数のリスト(例えば教科書 p.74)が作れる。また、高校で学んだ置換積分や部分積分(次のページも参照)なども利用することで、具体的な関数の

原始関数は、「発見的」に求めることが出来る。

しかし、初等関数(三角関数や指数関数や多項式の逆関数や四則演算や合成で表される関数)で、原

始関数が初等関数でない例も多い。このような背景ともからんで、与えられた初等関数の原始関数を

求める決まった手順というのはない(実はある程度手順があることが知られているが、それはとても高

度で複雑)。

原始関数が初等関数でない例

ex

2

= exp(x2), sinxx ,

1√1 − x4

,1

logx など。

補足 5.6

原始関数が初等関数で表せなくても、連続関数の原始関数は存在し、 ∫ ex

2

dxのように数式で表

すことはできるし、その性質を調べることも出来る。

初等関数で表せれば、初等関数の既知の性質が使えてとても便利だから、まずは初等関数で表すこと

を目指すというわけである。

第 5 節 積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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置換積分 83/385

定理 5.7 (置換積分)I, J を開区間、 f ∶ I → Rは連続、 φ ∶ J → Rは可微分で φ

′は連続とする。

さらに、 [a, b] ⊂ I, [α,β] ⊂ J , φ(α) = a, φ(β) = b, φ([α,β]) ⊂ I とする。このとき、∫b

af(x)dx = ∫

β

αf(φ(t))φ′(t)dtが成立する。

左辺から右辺を計算することもあれば、右辺から左辺を計算することもある。

定理 5.8 (部分積分)I を開区間、 f, f

′,G, g = G

′ ∶ I → Rは連続とする。 a, b ∈ I に対して

∫b

af(x)g(x)dx = [f(x)G(x)]

b

a

− ∫b

af′(x)G(x)dxが成立する。

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原始関数の表 84/385

よく出てくる関数の原始関数。 xの範囲は代表的な開区間を用いた。

関数 原始関数 xの範囲 条件・補足

xa 1

a+1xa+1 R a /= −1. a < 0のときは、 x > 0 とする。

1x

logx (0,∞)

ex

ex R

sinx − cosx R

cosx sinx R1

cos2 xtanx (−π

2 ,π2 )

ax a

x

loga R a > 0, a /= 1.

coshx sinhx R

sinhx coshx R1

cosh2 xtanhx R

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原始関数の表 85/385

逆関数の導関数の計算結果から、次もわかる。

関数 原始関数 xの範囲 条件・補足

1√1−x2 arcsinx, −arccosx (−1,1)

11+x2 arctanx R

1√x2+1

arsinhx = log(x +√x2 + 1) R

1√x2−1

arcoshx = log(x +√x2 − 1) (1,∞)

11−x2 artanhx =

12 log 1+x

1−x (−1,1)

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連絡事項 86/385

レポート提出期限の変更

本日のレポートの提出期限は、 5/8 (金) 17:00 とします。 今後、講義のレポートの提出期限は、翌日 17:00 とするつもりです。

第 5 節 積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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質問・答え 87/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

原始関数と不定積分の区別がつく具体的な例はあるか

⟶ f(x) ∶= −1 if x ≤ 0,1 if x > 0

とすると、 F (x) = ∣x∣が不定積分になります。しかし、

F (x) = ∣x∣は原点で微分可能ではないので、原始関数にはなっていません。 スライドの 68ページの下にある合成関数の微分の式ですが、これが 1 =から始まっているのはなぜですか?

⟶ x = f−1(f(x))を xで微分したときの左辺が d

dxx = 1です。

前回の質問なんですけど、実数全体が閉区間かつ開区間とはどういうことですか

⟶ 開集合や閉集合の自然な定義をすると、自動的に、開集合でも閉集合でもあるような集合

が生まれてしまいます。実数全体と空集合がそういうものになります。

→の左に縦棒がついたような記号の説明をもう一度お願いしたいです

⟶ ↦ですね。関数・写像に対して、元の対応を表す時にこの記号を使います。 x↦ n√xは、 x

が n√xに対応するという意味です。

(f ∶ [0,∞) → R, x↦ n√xに対して) f ∶ [0,∞) → [0,∞)だとだめですか?

⟶ f ∶ [0,∞) → [0,∞)でも良いです。

第 5 節 積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 2 回

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微分積分学第一・演習 Fクラス(34∼40ユニット)講義第 3回(5/12 :火 10:45–12:25)

担当:柴田 将敬(理学院数学系)

本日のテーマ

積分の計算法

広義積分

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第 6節 積分の計算法

目標

有理関数の積分など、具体的な計算法が良く知られているものを学ぶ。

第 6 節 積分の計算法 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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原始関数が逆三角関数・逆双曲線関数となるもの 90/385

この講義では、原始関数・不定積分を表すとき、積分定数は略す。

∫ dx√1 − x2

dx = arcsinx.

arcsinxの導関数を知っていれば、上式が成立することは明らか。しかし、次のように計算することも出来る。

−1 < x < 1 として、 ∫x

0

dt√1 − t2

を計算する。

t = siny (y = arcsin t) とおくと、 dt = cosy dy, t 0 → xy 0 → arcsinx となる。

従って、

∫x

0

dt√1 − t2

= ∫arcsinx

0

cosy∣ cosy∣dy = ∫

arcsinx

0dy = arcsinx

を得る。

ここで、仮定より arcsinx ∈ (−π/2, π/2)なので、 cosy > 0 となることを用いた。

第 6 節 積分の計算法 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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原始関数が逆三角関数・逆双曲線関数となるもの 91/385

(あたりまえであるが)同じ考え方で次の計算が出来る。

xの範囲 置換

∫x

0

dt√1 − t2

= arcsinx (−1,1) t = siny (y = arcsin t)

∫x

0

dt

1 + t2= arctanx (−∞,∞) t = tany (y = arctan t)

∫x

0

dt√1 + t2

= arsinhx = log(x +√x2 + 1) (−∞,∞) t = sinhy (y = arsinh t)

∫x

1

dt√t2 − 1

= arcoshx = log(x +√x2 − 1) (1,∞) t = coshy (y = arcosh t)

第 6 節 積分の計算法 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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1/xの積分 92/385

∫ dxx = log ∣x∣ (x /= 0)は正しいか?

次は正しい。

事実

(0,∞)上で、 1/xの原始関数と不定積分は一致し、それは logx = log ∣x∣である。 (−∞,0)上で、 1/xの原始関数と不定積分は一致し、それは log(−x) = log ∣x∣である。

だから、このように解釈すれば良い。しかし、次のことに気をつけなければならない。

(−∞,0) ∪ (0,∞)で不定積分が定義されているわけではない。

例えば、積分の定義を考えると、関数が有界でないので、 ∫x−1 1/t dtは x > 0では定義されていない。

第 6 節 積分の計算法 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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1/xの積分 93/385

∫ dxx = log ∣x∣ (x /= 0)は正しいか?

次のような疑問を持つ人もいるかもしれない。

(−∞,0) ∪ (0,∞)上では (log ∣x∣)′ = 1x だから、 ∫

b

a

dxx = log ∣b∣ − log ∣a∣

(a, b /= 0) とすれば良いのではないか?

つまり、 aから bの定積分を原始関数の差 log b − loga として定義すれば良いのではないか?a, b > 0 または a, b < 0ならばもちろん正しい。

しかし、 c ∈ Rに対して F (x) = c + log ∣x∣ if x > 0,log ∣x∣ if x < 0

とすると、

(−∞,0) ∪ (0,∞)上で F′(x) = 1/x. つまり、この F (x) も、 (−∞,0) ∪ (0,∞)では 1/xの原

始関数と呼ぶべきものになっている。

だからといって ∫1

−1

1x dx = F (1) − F (−1) = cでは積分値が定まらない。

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1/xの積分 94/385

結論

定義域が区間でない場合は要注意。

I が区間でなければ、不定積分は定義できない。さらに、 f の原始関数(I 上で F′= f となるもの)を

考えても、 2つの原始関数 F , Gを考えたとき、 F −Gがある定数となるとは限らないので、原始関数の差として定積分を定義しようとしても上手くいかない。

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漸化式 95/385

部分積分などで、漸化式を作って積分が計算できることもある。(教科書 p.77など)

例 6.1

n ∈ N とし、 ∫ dx

(1 + x2)n を計算する。

In = ∫ dx

(1 + x2)n とおく。部分積分すると、

In = ∫ (x)′ dx(1 + x2)n =

x

(1 + x2)n + 2n∫ x2dx

(1 + x2)n+1 =x

(1 + x2)n + 2n∫ x2 + 1 − 1dx(1 + x2)n+1

=x

(1 + x2)n + 2n(In − In+1)

となる。従って、漸化式

In+1 =2n − 1

2n In +x

2n(1 + x2)n (n ∈ N)

を得る。 I1 = arctanxだから、 I2, I3 と順に求めることが出来る。

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漸化式 96/385

n ∈ N とする。

自習課題

In = ∫ sinn xdxに対して In = −1n sinn−1

x cosx +n − 1n In−2 (n ≥ 2)を示せ。

自習課題

In = ∫ cosn xdxに対して In =1n cosn−1

x sinx +n − 1n In−2 (n ≥ 2)を示せ。

自習課題

In = ∫ tann xdxに対して In =1

n − 1 tann−1x − In−2 (n ≥ 2)を示せ。

自習課題

x ∈ (0,∞) とする。In = ∫ (logx)n dxに対して In = x(logx)n − nIn−1 を示せ。

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有理関数の積分 97/385

f(x), g(x)を xの多項式として、 有理関数の積分

∫ f(x)g(x) dx

を考える。これは、(g(x)の因数分解を使えば)不定積分が具体的に計算できることが知られているので、それを紹介する。

まず、

部分分数分解

f(x)g(x) =多項式 +

a

(x + b)mの形の項の和 +Cx +D

(x2 +Ax +B)nの形の項の和

と変形できる(部分分数分解については、後でもう少し詳しく述べる)。

ここで a, b,A,B,C,D ∈ R, m,n ∈ Nは定数で、 x2 +Ax +B = 0は実数の根を持たない。つまり、判別式A

2 − 4B < 0である。

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有理関数の積分 98/385

有理関数の積分は、部分分数分解によって、

多項式、b

(x + a)m ,Cx +D

(x2 +Ax +B)n (ただしA2 − 4B < 0)

の積分に帰着されることがわかった。 (m,n ∈ N, a, b,A,B,C,D ∈ R.)

∫ 1(x + a)m dx =

⎧⎪⎪⎪⎨⎪⎪⎪⎩

log ∣x + a∣ if m = 1,1

(1 −m)(x + a)m−1 if m ≥ 2,

であるから、あとは ∫ Cx +D

(x2 +Ax +B)n dxが計算できれば良い。

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有理関数の積分 99/385

そして、

Cx +D

(x2 +Ax +B)n =C

22x +A

(x2 +Ax +B)n +D −AC/2

(x2 +Ax +B)n

となっていて、

∫ 2x +A

(x2 +Ax +B)n dx = ∫ (x2 +Ax +B)′

(x2 +Ax +B)n dx

=

⎧⎪⎪⎪⎨⎪⎪⎪⎩

log(x2+Ax +B) if n = 1,

1(1 − n)(x2 +Ax +B)n−1 if n ≥ 2,

となるので、あとは ∫ 1(x2 +Ax +B)n dxが計算できれば良いことがわかる。

第 6 節 積分の計算法 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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有理関数の積分 100/385

∫ 1(x2 +Ax +B)n dxを計算したい。

平方完成すると、

x2+Ax +B = (x +

A

2 )2+ (B −

A2

4 ) = (B −A

2

4 )⎛⎜⎝( x +A/2√B −A2/4

)2

+ 1⎞⎟⎠

である。考えているのは(実数の範囲では)因数分解できない 2次式、つまり、A2 − 4B < 0であったことに注意して、E ∶=

√B −A2/4, t = (x +A/2)/E とおくと、

∫ 1(x2 +Ax +B)n dx = ∫ 1

E2n−1(t2 + 1)n dt

となる。結局、 ∫ 1(t2 + 1)n dtが計算できればよく、これは、漸化式を使えば計算できるのであった。

以上より、有理関数は、部分分数分解すれば、(非常に面倒かもしれないが)計算できることがわかる。

第 6 節 積分の計算法 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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部分分数分解 101/385

例:x

8 + 3x7 + 17x6 + 30x5 + 30x4 + 42x3 − 4x2 − 19x − 20x7 + x6 + x5 + x4 − x3 − x2 − x − 1

= x + 2 +3

x + 1 +4

(x + 1)2 +5

x − 1 +6x + 7x2 + 1

+8x + 9

(x2 + 1)2 .

左辺のような有理関数が与えられたときに、右辺のように変形することを部分分数分解(部分分数展

開)という。左辺の積分を計算するときに、右辺のように分解すれば、積分が計算できる。

より一般に、有理関数(多項式を多項式で割ったもの)は、多項式や、 b/(x + a)m,(Cx +D)/(x2 +Ax +B)n の形の項の和で表すことができる。例を題材に部分分数分解のやり方を見ておく。

部分分数分解: Partial fraction decomposition

第 6 節 積分の計算法 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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部分分数分解 102/385

Step 1まず、分子 f(x)を分母 g(x)で割った商をQ(x), 余りをR(x) とすると、f(x)g(x) = Q(x) + R(x)

g(x)

を得る。ここで、「R(x)の次数」 < 「g(x)の次数」となる。例だと、

f(x)g(x) = (x + 2) + 14x6 + 27x5 + 29x4 + 45x3 − x2 − 16x − 18

x7 + x6 + x5 + x4 − x3 − x2 − x − 1

となる。

第 6 節 積分の計算法 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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部分分数分解 103/385

Step 2分母を(複素数を使わずに)因数分解する。

g(x) = (x + 1)2(x − 1) (x2 + 1)2

(実係数の)多項式は、 1次式と、(判別式が負となる) 2次式の積で表される。(代数学の基本定理)

補足 6.2代数学の基本定理を証明することはそれなりに大変。しかも、因数分解できるといっても、根号などを

用いて具体的に表示されるとは限らない。

第 6 節 積分の計算法 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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部分分数分解 104/385

Step 3 方程式を立てる。g(x)が (x + a)m という因数を持つなら、(m − 1)次式(x + a)m =

b1x + a +

b2

(x + a)2 + ⋅ ⋅ ⋅ +bm

(x + a)m

という式が右辺に出てくる可能性がある。また、 g(x)が (x2 +Ax +B)n という因数を持つなら、(2n − 1)次式

(x2 +Ax +B)n =C1x +D1

(x2 +Ax +B) +C2x +D2

(x2 +Ax +B)2 + ⋅ ⋅ ⋅ +Cnx +Dn

(x2 +Ax +B)n

という式が右辺に出てくる可能性がある。上記の biやCi, Di を未知数として方程式を立てればよい。例だと、

14x6 + 27x5 + 29x4 + 45x3 − x2 − 16x − 18(x + 1)2(x − 1) (x2 + 1)2

=A

x + 1 +B

(x + 1)2 +C

x − 1 +Dx +E

x2 + 1+Fx +G

(x2 + 1)2

となり、A,B, . . . ,Gが未知数となる。

第 6 節 積分の計算法 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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部分分数分解 105/385

Step 4 (最後) 方程式を解く。

14x6 + 27x5 + 29x4 + 45x3 − x2 − 16x − 18(x + 1)2(x − 1) (x2 + 1)2

=A

x + 1 +B

(x + 1)2 +C

x − 1 +Dx +E

x2 + 1+Fx +G

(x2 + 1)2

分母を両辺に掛けると、

14x6 + 27x5 + 29x4 + 45x3 − x2 − 16x − 18= A(x + 1)(x − 1)(x2 + 1)2 +B(x − 1)(x2 + 1)2 +C(x + 1)2(x2 + 1)2

+(Dx +E)(x + 1)2(x − 1)(x2 + 1) + (Fx +G)(x + 1)2(x − 1)

6次式で未知数が 7個だから、方程式が解けそうな気がする。(実際解ける。)あとはがんばるのみ。展開して係数比較して連立方程式を解けば良いが、もう少しだけ工夫すると良い。

第 6 節 積分の計算法 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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部分分数分解 106/385

14x6 + 27x5 + 29x4 + 45x3 − x2 − 16x − 18= A(x + 1)(x − 1)(x2 + 1)2 +B(x − 1)(x2 + 1)2

+C(x + 1)2(x2 + 1)2

+(Dx +E)(x + 1)2(x − 1)(x2 + 1) + (Fx +G)(x + 1)2(x − 1)

この式は任意の xについて成立している(はず)なので、 xに具体的な値を入れて良い。例えば、x = 1 とすると、14 + 27 + 29 + 45 − 1 − 16 − 18 = 16C

となり、C = 5がわかる。同様に、 x = −1を代入すると、B = 4もわかる。C とBがわかったので、これらを用いて整理すると、

9x6 + 13x5 + 18x4 + 17x3 − 8x2 − 30x − 19= A(x + 1)(x − 1)(x2 + 1)2

+(Dx +E)(x + 1)2(x − 1)(x2 + 1) + (Fx +G)(x + 1)2(x − 1)

となる。右辺を見ると、 (x − 1)(x + 1)を因数に持つことがわかるので、両辺を (x − 1)(x + 1)で割ってみる。

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部分分数分解 107/385

9x4 + 13x3 + 27x2 + 30x + 19= A(x2 + 1)2 + (Dx +E)(x + 1)(x2 + 1) + (Fx +G)(x + 1)

を得る。 x = −1を代入するとA = 3がわかり、これを整理すると、

6x4 + 13x3 + 21x2 + 30x + 16= (Dx +E)(x + 1)(x2 + 1) + (Fx +G)(x + 1)

がわかり、 (x + 1)で割ると、

6x3 + 7x2 + 14x + 16 = (Dx +E)(x2 + 1) + (Fx +G)

を得る。このぐらい簡単になれば、展開して係数比較しても良いし、最高次の係数を見ればD = 6が分かって整理して、などとやっても良い。

また、左辺を x2 + 1で割ると商がDx +E で余りが Fx +G となることから、割り算を計算しても

良い。

結局D = 6, E = 7, F = 8, G = 9を得る。

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部分分数分解 108/385

まとめ

部分分数分解の係数を決めるためには、

分母を払って、多項式の恒等式として両辺を比較すると良い。

さらに、全て展開して係数を比較し、得られた連立方程式を解けば、展開が決定できる。ただし、

計算は面倒かもしれない。

具体的な値を代入してみる、最高次の係数を比較する、など、工夫して計算すると良い。

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√が出てくる積分 109/385

R(X,Y )はX,Y を変数とする有理関数(X,Y の多項式をX,Y の多項式で割ったもの)とする。同様にR(X,Y,Z)なども考える。a ∈ Rを定数とし、 ∫ R(x,

√x + a)dx といった形の積分を考える。

t =√x + a (x = t

2 − a) とおくと、∫ R(x,

√x + a)dx = ∫ R(t2 − a, t)2t dt となる。

つまり、有理関数の積分に帰着される。

例(追加)

R(X,Y ) = XY + 3X2 + 1 + Y

の場合を考えると、 ∫ x√x + a + 3

x2 + 1 +√x + a

dx = ∫ R(x,√x + a)dx =

∫ R(t2 − a, t)2t dt = ∫ (t2 − a)t + 3(t2 − a)2 + 1 + t

× 2t dt となる。

右辺は tの有理関数の積分。

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√が出てくる積分 110/385

自習課題

a ∈ R, x ∈ (a,∞) とする。∫ x√

x + adx =

23(x − 2a)

√x + aを示せ。

発展的話題

より一般的に、 n乗根が出てくるような場合で、置換で有理関数に帰着される例が知られている。例えば、教科書 p. 81を参照。

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三角関数が出てくる積分 111/385

t = tanx とおくと、 sin2x =

t2

1 + t2, cos2

x =1

1 + t2, dx =

dt

1 + t2

となる。従って、

∫ R(sin2x, cos2

x, tanx)dx = ∫ R( t2

1 + t2,

11 + t2

, t) dt

1 + t2

となって、 sin2x, cos2

x, tanxが出てくる積分は、有理関数の積分に帰着できる。

例 6.3a, b > 0, x ∈ (−π/2, π/2) とする。

∫ dx

a sin2 x + b cos2 x=

1√ab

arctan(√a

btanx).

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三角関数が出てくる積分 112/385

t = tanx

2 とおくと、

sinx =2t

1 + t2, cosx =

1 − t2

1 + t2, dx =

2dt1 + t2

となる。従って、

∫ R(sinx, cosx)dx = ∫ R( 2t1 + t2

,1 − t2

1 + t2,) 2dt

1 + t2

となって、 sinx, cosxが出てくる積分は、有理関数の積分に帰着できる。

例 6.4

x ∈ (−π/2, π/2) とする。このとき、 ∫ dx

sinx = log (tanx

2 ) となる。

第 6 節 積分の計算法 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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三角関数が出てくる積分 113/385

補足 6.5先ほどの sin2

x, cos2x, tanxが出てくる場合であっても、上記の方法は使える。

ただ、 t = tanxで計算できるなら、たいてい、その方が簡単になる。

実際、 t = tanx

2 とおくのは、 s = x/2, t = tan s と二段階の置換をしていることになるが、s = x/2 とおくことで、

sinx = sin 2s = 2 sin s cos s = 2 tan s cos2s, cosx = cos 2s = cos2

s − sin2s,

dx = 2ds

とすることで、 sin2s, cos2

s, tan sが出てくる積分に帰着してから t = tan sで置換しているのである。

初めから t = tanx と置換できるならその方が簡単。

第 6 節 積分の計算法 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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第 7節 広義積分

目標

非有界区間での積分や非有界関数の積分を学ぶ。

第 7 節 広義積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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広義積分 115/385

定積分を定義するとき、関数を棒グラフで近似する都合上、関数は有界を仮定していた。また、区間も

有界閉区間で考えていた。しかし、非有界な区間での定積分や非有界な関数の定積分も便利に使い

たい。そのために、広義積分を導入する。

定義 7.1 (広義積分)−∞ < a < b < ∞ とし、 f ∶ [a, b) → Rは連続関数とする。

極限

lim

ε→0+∫b−ε

af(x)dx が存在するとき、この極限値をやはり ∫

b

af(x)dxで表す。この積分は

広義積分と呼ばれる。また、この極限が存在するとき、 f は [a, b)で広義積分可能とか広義積分が存在するという。

f ∶ (a, b] → Rを連続関数とするときも、同様に

b

af(x)dx ∶= lim

ε→0+∫b

a+εf(x)dx と定める。

広義積分: improper integral

第 7 節 広義積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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広義積分 116/385

補足 7.2f ∶ [a, b] → Rが連続関数であれば、

∫b

af(x)dx = lim

ε→0+∫b−ε

af(x)dx = lim

ε→0+∫b

a+εf(x)dx

となっている。つまり、広義積分は通常の定積分と一致する。つまり、広義積分は通常の積分の拡張に

なっている。

補足 7.3ここでは、 f は連続関数であることを仮定しているが、 f が積分可能であれば、同様に定義できる。詳しくは教科書第 4章 §3 (p.113)を参照。

第 7 節 広義積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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広義積分 117/385

より一般の集合での広義積分を考えるときは、片側開区間 (a, b], [a, b)の和に分解して定義する。定義 7.4−∞ < a < b < ∞, f ∶ (a, b) → Rが連続であるとする。

このときは、 c ∈ (a, b)を一つ選んで、次のように定める。

∫b

af(x)dx ∶= ∫

c

af(x)dx + ∫

b

cf(x)dx =

limε→0+

∫c

a+εf(x)dx + lim

ε→0+∫b−ε

cf(x)dx.

補足 7.5

f の原始関数を F とすると、

b

af(x)dx = lim

ε→0+F (a + ε) + lim

ε→0+F (b − ε)である。

つまり、 c ∈ (a, b)の選び方は積分値に影響を与えない。

lim

ε→0+∫c

a+εf(x)dx + lim

ε→0+∫b−ε

cf(x)dx と

lim

ε→0+∫b−ε

a+εf(x)dx は意味が違う。

第 7 節 広義積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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広義積分 118/385

定義 7.6−∞ < a < c < b < ∞, f ∶ [a, c) ∪ (c, b] → Rが連続であるとする。

このときは、

∫b

af(x)dx ∶= ∫

c

af(x)dx+∫

b

cf(x)dx = lim

ε→0+∫c−ε

af(x)dx+ lim

ε→0+∫b

c+εf(x)dx

とする。

補足 7.7

lim

ε→0+∫c−ε

af(x)dx + lim

ε→0+∫b

c+εf(x)dx と

lim

ε→0+(∫

c−ε

af(x)dx + ∫

b

c+εf(x)dx)

は意味が違う。

例(追加)

limε→0+

∫−ε

−1

dxx + lim

ε→0+∫

1

ε

dxx = ∞−∞ =?だが、 lim

ε→0+(∫

−ε

−1

dxx + ∫

1

ε

dxx ) = lim

ε→0+= 0.

第 7 節 広義積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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広義積分 119/385

定義 7.8 (非有界区間での広義積分)a ∈ R, f ∶ [a,∞) → Rは連続関数とする。

次のように広義積分を定める。

∫∞

af(x)dx ∶= lim

t→∞∫t

af(x)dx.

f ∶ (−∞, a] → Rに対しても同様。

∫a

−∞f(x)dx ∶= lim

t→−∞∫a

tf(x)dx.

第 7 節 広義積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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広義積分 120/385

例 7.9

∫1

0

1√xdx = lim

ε→0+∫

1

ε

1√xdx = 2.

0 < ε < 1 として計算すると、

∫1

ε

1√xdx = [2

√x]

1

ε= 2 − 2

√ε→ 2 (ε→ 0+)

となる。従って、広義積分は 2である。

第 7 節 広義積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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広義積分 121/385

例 7.10

∫∞

−∞

11 + x2 dx = π.

広義積分の定義に従って、

∫∞

−∞

dx

1 + x2 = ∫0

−∞

dx

1 + x2 + ∫∞

0

dx

1 + x2 = lima→−∞

∫0

a

dx

1 + x2 + limb→∞

∫b

0

dx

1 + x2

となるが、極限をまとめて、

∫∞

−∞

dx

1 + x2 = lima→−∞b→∞

∫b

a

dx

1 + x2

と表すこともできる。(補足 2.5 も参照。)計算すれば、

∫b

a

dx

1 + x2 = [arctanx]b

a= arctan b − arctana→

π

2 − (−π2 ) = π (a→ −∞, b→ ∞)

となる。

第 7 節 広義積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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質問・答え 122/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

極限が収束しない場合、広義積分は定義されますか?

⟶ 定義されません。極限が収束するときだけ、それを広義積分といいます。

ただ、広義積分と(積分の)極限はほぼ同じ意味で使います。なので、「広義積分が収束する」と

か「広義積分が発散する」いいます。また、極限が∞や −∞のときは、広義積分が∞に発散するとか −∞に発散するとかいいます。

テストやレポートでも積分定数を省略してもいいのですか?

⟶ 私が担当するテスト・レポートでは省略してかまいません。

部分分数分解について質問があります。講義で扱った例題の step4において、虚数単位を代入することはできますか

⟶ できます。多項式の恒等式として係数比較をすれば良いので、複素数の多項式とみなしても

かまいません。

(なぜそのようにして良いのか?というと、実係数の多項式 f(x), g(x)があって、任意の x ∈ Rに対して f(x) = g(x)なら、係数は全て一致。そして、 x ∈ C としても f(x) = g(x)が成り立つ。という事実に基づきます。)

第 7 節 広義積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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質問・答え 123/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

最初のえっくすぶんのいちの計算結果がcになるところをところをもう一回いってもらってもいいで

すか?

⟶ p.93, p.94に説明を加えました。 R(X,Y )はどういう計算式になりますか?

⟶ p.109に例を書き加えました。 補足 7.5、 7.7にある式の意味の違いをもう一度説明していただきたいです。

⟶ p.118に例を書き加えました。

第 7 節 広義積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 3 回

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微分積分学第一・演習 Fクラス(34∼40ユニット)講義第 4回(5/14 :木 8:50–10:30)

担当:柴田 将敬(理学院数学系)

本日のテーマ

広義積分(続き)

多変数関数(極限、連続性)

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広義積分の収束・発散 125/385

広義積分は極限で定義された。極限が具体的に求まる場合は計算すれば良いが、具体的に計算でき

なくても、広義積分が存在することははっきりさせたい。そのために使える判定法を紹介する。

定理 7.11−∞ < a < b ≤ ∞, f, g ∶ [a, b) → Rは連続とする。(b = ∞でも良いことに注意。)

(i) [a, b)上で ∣f(x)∣ ≤ g(x)が成立する。

(ii) 広義積分 ∫b

ag(x)dxが存在する。

(i) と (ii)が成立するとき、広義積分 ∫b

af(x)dxは存在する。

同様に、 −∞ ≤ a < b < ∞, f, g ∶ (a, b] → Rは連続とする。(i) (a, b]上で ∣f(x)∣ ≤ g(x)が成立する。

(ii) 広義積分 ∫b

ag(x)dxが存在する。

(i) と (ii)が成立するとき、広義積分 ∫b

af(x)dxは存在する。

第 7 節 広義積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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広義積分の収束・発散 126/385

例 7.12

広義積分 ∫∞

0e−x2

dxは存在する。

「広義積分 ∫∞

0e−x2

dxは存在する⇔ 広義積分 ∫∞

1e−x2

dxは存在する」となっていることを用

いる。

まず、 ∣e−x2

∣ ≤ e−x (x ∈ [1,∞)) が成り立つ。次に、

∫∞

1e−xdx = [−e−x]

0= 0 + e

−1

となっていて、広義積分 ∫∞

1 e−xdxは存在する。

定理 7.11を使えば、 ∫∞

1e−x2

dxは存在することが従う。

なお、上の計算で、 [−e−x]∞

0は limt→∞[−e−x]

t

0の意味。

第 7 節 広義積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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広義積分の収束・発散 127/385

同様の考え方で、広義積分が発散することを示すこともできる。

定理 7.13−∞ < a < b ≤ ∞, f, g ∶ [a, b) → Rは連続とする。(b = ∞でも良いことに注意。)

(i) [a, b)上で 0 ≤ g(x) ≤ f(x)が成立する。

(ii) 広義積分 ∫b

ag(x)dx = ∞である。

(i) と (ii)が成立するとき、広義積分 ∫b

af(x)dx = ∞が成り立つ。

同様に、 −∞ ≤ a < b < ∞, f, g ∶ (a, b] → Rは連続とする。(i) (a, b]上で 0 ≤ g(x) ≤ f(x)が成立する。

(ii) 広義積分 ∫b

ag(x)dx = ∞である。

(i) と (ii)が成立するとき、広義積分 ∫b

af(x)dx = ∞である。

第 7 節 広義積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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広義積分の収束・発散 128/385

例 7.14

広義積分 ∫∞

2

dx

logx = ∞.

まず、

x > 1において、 x > logx > 0, つまり、1x <

1logx

である。また、計算すれば、

∫∞

2

dxx = [logx]

2= ∞

となる。定理 7.13を使えば、 ∫∞

2

dx

logx = ∞が従う。

第 7 節 広義積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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広義積分の収束・発散 129/385

補足 7.15要は、収束・発散が分かっている関数と比較することで、収束・発散を示せる。

(本質的に、はさみうちの原理である。)

比較に使う関数は簡単な方が分かりやすい。例えば、

a > 0, p ∈ R とする。

p > 1なら ∫∞

a

dx

xpは収束。 p ≤ 1なら ∫

a

dx

xp= ∞.

a > 0, p ∈ R とする。

p < 1なら ∫a

0

dx

xpは収束。 p ≥ 1なら ∫

a

0

dx

xp= ∞.

第 7 節 広義積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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第 8節 多変数関数

目標

多変数関数の連続性について学ぶ。

第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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多変数関数 131/385

定義 8.1多変数関数 n ∈ N, D を Rn の空でない部分集合とする。Dの点を Rの点に対応させる写像 f ∶D → Rをn変数関数と呼ぶ。

例 8.2東経 x度、北緯 y度における現在の標高を f(x, y) メートルとする。 (x, y)が動く範囲(定義域)は適当に定めれば、 f は 2変数関数である。

例 8.3ある 100名の生徒の身長を x1, . . . , x100 メートルとすれば、その平均の身長は

(x1 + ⋅ ⋅ ⋅ + x100)/100 メートルである。

(x1, . . . , x100) ↦ (x1 + ⋅ ⋅ ⋅ + x100)/100は 100変数関数。

多変数関数: multivariable function, 一変数関数: singlevariable function, n 変数関数: n-variable function

第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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距離 132/385

定義 8.4 (ノルム)Rn の点 x = (x1, . . . , xn)に対して、

∣x∣ ∶=√x2

1 +⋯+ x2n=

√x ⋅ x (⋅は内積)

とおく。このように定まる ∣ ∣を(Euclid)ノルムという。

ノルムは、 Rn 上で定義された n変数関数になっている。

定義 8.5 (距離)Rn の 2点 x = (x1, . . . , xn), y = (y1, . . . , yn)の(Euclid)距離を

d(x, y) ∶= ∣x − y∣ =√(x1 − y1)2 +⋯+ (xn − yn)2

で表す。

Euclid ノルム: Euclidean norm, Euclid 距離: Euclidean distance

第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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三角不等式 133/385

x, y, z ∈ Rn に対して、

∣x + y∣ ≤ ∣x∣ + ∣y∣ や ∣x − y∣ ≤ ∣x − z∣ + ∣z − y∣

が成り立つ。これは三角不等式と呼ばれる。

計算すれば、

(∣x∣ + ∣y∣)2 − ∣x + y∣2= ∣x∣2 + ∣y∣2 + 2∣x∣ ∣y∣ − (x + y) ⋅ (x + y) = 2(∣x∣ ∣y∣ − x ⋅ y)

となる。ここで、内積の性質(Schwarzの不等式とも呼ばれる)より∣x∣ ∣y∣ ≥ x ⋅ y

であるから、三角不等式が成立することがわかる。

三角不等式: triangle inequality

第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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開球・閉球 134/385

定義 8.6 (開球・閉球)a ∈ Rn, r > 0 とする。Br(a) ∶= x ∈ Rn; ∣x − a∣ < rを a中心半径 rの開球、

Br(a) ∶= x ∈ Rn; ∣x − a∣ ≤ rを a中心半径 rの閉球、という。

原点を中心とするときは、 aを略して、Br やBr などと書くこともある。

n = 2のときは、開円盤、閉円盤ともいう。

開球: open ball, 閉球: closed ball, 開円盤: open disk, 閉円盤: closed disk

第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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開集合・閉集合 135/385

定義 8.7 (開集合)Aを Rn の部分集合とする。

任意の x ∈ Aに対して、 ε = ε(x) > 0を十分小さくすれば、Bε(x) ⊂ A となる。

このとき、Aを開集合という。

補足 8.8 開球は開集合となる。

開集合の定義を言い換えると、「Aは境界を含まない」となる。

例(追加)

A = (0,1) × (0,1) ∪ (0,0)は R2の開集合ではない。

なぜなら、 (0,0)中心半径 εの開円盤Bε を考えると、Bε ⊂ A とはならない。(どんなに小さな εでもAからはみ出す。)

開集合: open set

第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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開集合・閉集合 136/385

定義 8.9 (閉集合)Aを Rn の部分集合とする。

Rn \Aが開集合である。

このとき、Aを閉集合という。

補足 8.10 閉球は閉集合となる。

閉集合の定義を言い換えると、「Aは境界をすべて含む」となる。

閉集合: closed set

第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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開集合・閉集合 137/385

参考までに、教科書第 6章 §1の定義をまとめておく。(開集合・閉集合の定義は先ほどと同じになる)

定義: 補集合

A ⊂ Rn に対して、Ac ∶= x ∈ Rn;x /∈ AをAの補集合という。

定義: 内点

A ⊂ Rn, (x, y) ∈ Rn とする。

ε = ε(x, y) > 0が存在して、Bε(x, y) ⊂ Aが成り立つ。

このとき、 (x, y)をAの内点という。

定義: 外点

A ⊂ Rn, (x, y) ∈ Rn とする。

ある ε = ε(x, y) > 0が存在して、Bε(x, y) ∩A = ∅ (⇔ Bε(x, y) ⊂ Ac)が成り立つ。

このとき、 (x, y)をAの外点という。

第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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開集合・閉集合 138/385

定義: 境界点

A ⊂ Rn, (x, y) ∈ Rn に対して、 (x, y)がAの内点でも外点でもないとき、 (x, y)をAの境界点という。

任意の ε > 0に対して、Bε(x, y) ∩A /= ∅かつBε(x, y) ∩Ac /= ∅ となっている。

定義: 開集合

A ⊂ Rn に対して、Aのすべての点がAの内点であるとき、Aを開集合という。

定義: 閉集合

A ⊂ Rn に対して、Ac が開集合であるとき、Aを閉集合という。

定義: 境界

A ⊂ Rn に対して、Aの境界点全体を、Aの境界という。 ∂Aで表す。

補集合: complement, 内点: interior point, 外点: exterior point, 境界点: boundary point, 境界: boundary

第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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開集合・閉集合 139/385

開集合・閉集合の性質

次が成立する。

A,B が開集合なら、A ∪B やA ∩B も開集合。可算個の開集合の和も開集合。

A,B が閉集合なら、A ∪B やA ∩B も閉集合。可算個の閉集合の共通部分も閉集合。

∅や Rn は開集合でも閉集合でもある。(そのような集合はこれだけ。) Rn 上の連続関数 f と c ∈ Rに対して、 x ∈ Rn;f(x) > cは開集合。 Rn 上の連続関数 f と c ∈ Rに対して、 x ∈ Rn;f(x) ≥ cは閉集合。

第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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領域 140/385

定義 8.11 (連結)Rn の部分集合Aが次を満たすとき、Aは連結(より詳しくは弧状連結)であるという。

任意の P,Q ∈ Aに対して、 P とQを結ぶ「曲線」で、Aに含まれるものが存在する。

補足 8.12 「曲線」の部分は、折れ線、つまり、線分をつなげたもの、におきかえて良い。

要は、「つながっている」集合を連結な集合と呼ぶ。

Rの部分集合で連結なものは、区間に他ならない。

定義 8.13 (領域)連結な開集合のことを領域という。

連結: connected, 領域: domain (定義域も domain なので、区別するときは、定義域のことを domain of definition とかいう。)

第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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点列 141/385

ここまでは、一般に Rn の設定で述べたが、以後、簡単のため、 n = 2、つまり、 R2の場合だけ述べ

る。(Rn の場合でも考え方は同じ。)

定義 8.14 (点列の収束)数列と同様に、平面 R2

上の点列 (xn, yn)∞n=1 を考える。ある点 (x∞, y∞) ∈ R2が存在して、

limn→∞ ∣(xn, yn) − (x∞, y∞)∣ = 0

となっているとき、 (xn, yn)∞n=1 は (x∞, y∞)に収束するという。 limn→∞(xn, yn) = (x∞, y∞) とか (xn, yn) → (x∞, y∞) as n→ ∞ などと表す。

補足 8.15すぐにわかるように、

∣xn − x∞∣, ∣yn − y∞∣ ≤ ∣(xn, yn) − (x∞, y∞)∣ ≤ ∣xn − x∞∣ + ∣yn − y∞∣

となっているので、 n→ ∞のとき、「xn → x∞ かつ yn → y∞」と「(xn, yn) → (x∞, y∞)」は同値である。(はさみうちの原理)

第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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極限 142/385

定義 8.16 (関数の極限)U を R2

の開集合、 (a, b) ∈ U、 f は U \ (a, b)上で定義される実数値関数、A ∈ R とする。

(x, y)が (a, b)に限りなく近づくとき、 f(x, y)がAに限りなく近づく。

より詳しくは、

任意の点列 (xn, yn)∞n=1 ⊂ U \ (a, b)で limn→∞(xn, yn) = (a, b)を満たすものに対して、 limn→∞ f(xn, yn) = Aが成り立つ。

とする。このとき、「(x, y)が (a, b)に収束するとき f(x, y)はAに収束する」などといい、 lim(x,y)→(a,b) f(x, y) = A とか f(x, y) → A as (x, y) → (a, b) などと表す。

補足 8.17教科書では、 U を開集合に限らないより一般の集合とした場合の定義が述べてある(p.158)。

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極限 143/385

(a, b)中心の極座標を用いて、 (x, y) = (a + r cosθ, b + r sin θ) と表す。(r ≥ 0, θ ∈ R)このようにすると、 ∣(x, y) − (a, b)∣ = r だから、(x, y) → (a, b)は、 r → 0+ と言い換えることが出来る。

例 8.18 (教科書 p.159例 1)f(x, y) = xy√

x2 + y2のとき、 lim

(x,y)→(0,0)f(x, y) =?.

計算すると、

∣f(r cosθ, r sin θ)∣ = ∣r cosθ sin θ∣ ≤ r → 0 (r → 0+)

となる。これは、 θが例えどのように r に依存して変化しようと、 r → 0ならば、f(r cosθ, r sin θ) → 0 となっていることを意味している。(はさみうちの原理)

同じことであるが、 (x, y) → (0,0)なら、 (x, y)がどのように動こうと、 f(x, y)が 0に限りなく近づくことがわかる。従って、 lim(x,y)→(0,0) f(x, y) = 0である。

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極限 144/385

例 8.19 (教科書 p.159問 8 (2))

f(x, y) = x2y

x4 + y2 のとき、 lim(x,y)→(0,0)

f(x, y) =?

f(r cosθ, r sin θ) = r cos2 sin θr2 cos4 θ + sin2 θ

であるから、 θ を固定すると、

sin θ = 0なら、 f(r cosθ, r sin θ) = 0 → 0 (r → 0+),

sin θ /= 0なら、 f(r cosθ, r sin θ) → 00 + sin2 θ

= 0 (r → 0+)

となる。つまり、 (x, y)を直線的に (0,0)に近づけるとき、どの方向から近づけても、 f(x, y) → 0 となっている。

次へ続く。

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極限 145/385

さて、別な近づけ方として、 (t, t2)で t→ 0を考える。もちろん (t, t2) → (0,0) (t→ 0) となっている。このとき、

f(t, t2) = t4

t4 + t4=

12 →

12 (t→ 0)

となっている。

結局、 (x, y)を (0,0)に近づける近づけ方によって極限値が変わってしまう。これは、lim(x,y)→(0,0) f(x, y)が存在しないことを意味する。

参考まで、

Mathematicaで描いたグラフを載せておく。原点の近くでは f を描き切れないが、

y = x2に沿って値が 1/2,

y = −x2に沿って値が −1/2

になっていることが見て取れる。

第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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極限 146/385

補足 8.20定義を考えれば分かることであるが、

limx→a limy→b f(x, y) = limx→a (limy→b f(x, y)). limy→b limx→a f(x, y) = limy→b (limx→a f(x, y)). lim(x,y)→(a,b) f(x, y).は全て意味が違う。(例えば f(x, y) = y2/(x2 + y2), a = b = 0.)従って、どれかが収束してどれかが収束しないとか、収束するけど極限値が異なるとかいうことも起

こる。

これは二つの極限の順序交換が出来るとは限らないことを意味し、(偏)微分や積分も極限の一種で

あるから、それらの順序交換がいつでも出来るわけではないことを示唆している。

もちろん、 f が良い条件を満たす(例えば f が (a, b)の近くで連続とか)ならば、全て収束し、極限値は一致する。

第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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連続性 147/385

定義 8.21 (連続性)U を R2

の開集合、 f ∶ U → R とする。

lim(x,y)→(a,b) f(x, y) = f(a, b)である

とき、 f(x, y)は (a, b)で連続であるという。

定義 8.22 (連続関数)U を R2

の開集合、 f ∶ U → R, (a, b) ∈ U とする。

任意の (a, b) ∈ U に対して lim(x,y)→(a,b) f(x, y) = f(a, b)である

とき、 f(x, y)は U 上で連続であるという。また、このような f を U 上の連続関数という。

第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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連続性 148/385

補足 8.23連続関数の和・差・積・商が連続とか、連続関数の合成関数(1変数関数と多変数関数の合成なども含む)は連続とかは、 1変数の場合と同様に成り立つ。

具体的な関数の連続性については、次が分かっていれば(後は関数の和・差・積・商・合成を考えれば

良いので)十分だろう。

Rの区間 I 上で定義された連続関数 f(x)を考える。2変数関数 g(x, y) ∶= f(x)は I × R ∶= (x, y);x ∈ I, y ∈ Rで連続である。2変数関数 h(x, y) ∶= f(y)は R × I ∶= (x, y);x ∈ R, y ∈ Iで連続である。

例 8.24f(x, y) = sinxは R2

で連続、 f(x, y) = logxは (0,∞) × Rで連続。

第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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連続性(このページは講義ではパス) 149/385

一般の集合Aに関して、A上で定義された関数の連続性を定義するためには、境界での連続性を考えなければならない。 1変数関数の場合、区間の端点での右・左連続性を考えれば良かったが、多変数関数ではそうはいかないので、定義は少し面倒となる。

この講義では、教科書の定義よりも少し条件の厳しい(適用できる関数が減る可能性がある)次の定

義を採用する。

定義 8.25 (連続関数(一般の場合))Aを Rn の部分集合、B はAを含む開集合。 f ∶ B → Rが連続関数であるとき、f をA上の連続関数という。

例 8.26f が (−1,1) × (−1,1)上の連続関数であれば、 f は [a, b] × [c, d]上の連続関数。ただし、−1 < a < b < 1, −1 < c < d < 1.

1変数関数のときと同じように次の定理が成り立つ。

定理 8.27 (最大値・最小値の定理)E を R2

の有界閉集合とする。E 上の連続関数は最大値・最小値を持つ。

(有界集合: 十分おおきなM を考えれば、BM(0)に含まれるような集合)第 8 節 多変数関数 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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第 9節 偏微分

目標

偏微分や偏導関数に関する公式について学ぶ

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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偏微分 151/385

定義 9.1 (偏微分係数)U を R2

の開集合、 (a, b) ∈ U、 f = f(x, y)は U 上で定義された実数値関数とする。x↦ f(x, b)は xの 1変数関数であるから、 x = aでの微分可能性や微分係数を考えることが出来る。この考え方で、

fx(a, b) ∶=∂f

∂x(a, b) ∶= lim

h→0

f(a + h, b) − f(a, b)h

が存在するとき、 f は (a, b)で xに関して偏微分可能といい、 fx(a, b)を (a, b)での f の xに関する偏微分係数という。 y についても同様にして

fy(a, b) ∶=∂f

∂y(a, b) ∶= lim

h→0

f(a, b + h) − f(a, b)h

を定める。

偏微分係数: ?, 偏微分可能: partially differentiable

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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偏微分 152/385

定義 9.2 (偏導関数)U を R2

の開集合、 f = f(x, y)は U 上で定義された実数値関数、任意の (a, b) ∈ U において、f は (a, b)で xに関して偏微分可能であるとする。

このとき、 (a, b) ↦ fx(a, b) (文字を変えれば (x, y) ↦ fx(x, y))で定まる関数 fx ∶ U → Rを、f の xに関する偏導関数と呼ぶ。同様に、 fy も考える。

補足 9.3 2変数関数 f = f(x, y)について、 1番目の成分 xに関して偏微分したものが fx, 2番目の成分 y に関して偏微分したものが fy である。 fx(a, b)は fx の点 (a, b)での値を表す。なので、初めに、 f(s, t)を考えると宣言してあれば、その偏導関数は fs, ft となる。

fx(x, y)に x = t2を代入したら、 fx(t2, y)であって、 ft2(t2, y)などとは書かない。

定義からわかるように、具体的な関数に対して、偏導関数を求める(偏微分する)計算は、 1変数関数の微分の計算と全く同じ。どの変数に注目して微分するかというだけである。

偏導関数: partial derivative

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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偏微分 153/385

補足 9.4

fx は∂f

∂xと表すこともある。実は偏微分と微分は違う概念であるから、微分に使う記号(d とか

とか)を用いてはならない。これは、微分のときは成り立っていた演算規則が成り立たないことも背

景にある。

例えば、 z = f(x)のとき dzdx

=1dxdz

と表すことが出来たが、

z = f(x, y)に対して、 ∂z∂x

=1∂x∂z

は間違い。

2変数関数でも、微分(偏微分と区別するために全微分と呼んだりする)の概念はある。時間があれば、この講義では微分の概念も紹介する予定。 dや

′はそこで使われる。

例えば、 f′(x, y) と書いて (fx, fy)のことを指したりする。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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偏微分 154/385

例 9.5f(x, y) = xy (x > 0, y > 0)の偏導関数を求める。

一変数関数に関する公式(tを変数、 aを定数とする)

(ta)′ = ata−1や (at)′ = at loga

を用いて計算すれば、

∂xxy= yx

y−1,∂

∂yxy= x

y logx

となる。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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偏微分 155/385

例 9.6f(x, y) = arctan

yx (x /= 0)の偏導関数を求める。

計算すれば、

∂x(arctan

yx) =

∂∂x

(y/x)1 + (y/x)2 =

−y/x2

1 + (y/x)2 =−y

x2 + y2 ,

∂y(arctan

yx) =

∂∂y

(y/x)1 + (y/x)2 =

1/x1 + (y/x)2 =

x

x2 + y2

となる。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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質問・答え 156/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

偏微分の図形的なイメージというのはありますか??

⟶ xだけを動かしたグラフ(y を固定した断面) x↦ f(x, y)を(xで)微分したものが fxです。

極座標のやつで、近づけ方が 2通りあったら極限なしですか?⟶ はい。 2通りの近づけ方で極限値が異なるときは、極限なしです。

多変数関数の極限を具体的に計算するときには、極座標を使うのが定石ですか?

⟶ 極限が存在することを示す時は、定石と言ってよいです。極限が存在しないことを示すとき

は、とにかく 2つ例を作れば良いので、極座標にこだわる必要はありません。 p135がよくわかりません

⟶ 例を追加しました。境界(端の点)が一つでもAに入っていると、Aは開集合になりません。

閉球や開球で n=2のときに円盤とありましたが、 n=3が球状なのですか?また、 n=4のときはどうなりますか

⟶ n = 3だと、Br(0) = (x1, x2, x3) ∈ R3;√x2

1 + x22 + x2

3 < rなので、これは球(球の内部)です。 n = 4だと 4次元球と呼ぶべきものになります。

続きます。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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質問・答え 157/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

y =mxに沿った極限と、極座標の極限の違いはなんですか?⟶ 極座標を使っても、 θ を固定しなければ(r に応じて変化することも考えれば)、直線的な近づき方とは限りません。 y =mxに沿ったものだと、(方向はいろいろですが、)直線的な近づけ方のみです。

例題 8.19で f(t, t2) というようにおくのは許されるんですか?? x と y を結ぶつける関係ってなくないですか?それに二分の一ってなにを意味しているんですか??

⟶ ありとあらゆる近づき方で (x, y) → (0,0)を考えるので、自分で好きな近づけ方を考えてかまいません。この問題だと、 y = x

2に沿って (0,0)に近づけると、 f(x, y)が 1/2に近づくと

いうだけです。Mathematicaで描いたグラフも追加したので、参考にして下さい。 143 例 8.18で反例がないとわかるのはθを固定せずに極限が出るからということですか?

⟶ はい。

絶対値とノルムの違いは次元の違いでしょうか?

⟶ はい。用語の違いというか、絶対値の概念を一般化したものがノルムというか。

続きます。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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質問・答え 158/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

p125の講義積分の収束のところで、条件 (i)(ii)がなりたつとき講義積分は収束するといってよいのですか?振動する場合は考えなくていいのでしょうか?

⟶ 結論から言えば、大丈夫です。説明は次のページに追加しました。

近づけかたによって極限が変わってきてしまうのは何が原因なんですか?

⟶ 例 8.19の f(x, y)が (0,0)で連続でない(正確には、 f(0,0)の値を何にしても連続にすることが出来ない)ということです。グラフも参照して下さい。

153で y > 0が定義されているのは何故ですか? y < 0で不便性は生じますか⟶ 私が思考停止して第一象限だけ考えた結果ですね。条件を x > 0だけにしても大丈夫です。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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広義積分可能性について補足 159/385

きちんと定理を説明・証明しようとすると概念が不足しているので、雰囲気だけ説明します。

f, g ∶ [0,∞) → Rが連続とする。 t > 0に対して

∫∞

0f(x)dx = ∫

t

0f(x)dx + ∫

tf(x)dx

であるから、広義積分 ∫∞

0f(x)dxが存在するということは、

∫∞

tf(x)dx = ∫

0f(x)dx − ∫

t

0f(x)dx→ 0 as t→ ∞

と言い換えが出来る。

さて、定理の仮定を満たしているとき、 ∣f(x)∣ ≤ g(x)かつ g(x)が広義積分可能だから、»»»»»»»»∫

tf(x)dx

»»»»»»»»≤ ∫

t∣f(x)∣dx ≤ ∫

tg(x)dx→ 0 as t→ ∞.

はさみうちの原理より、 ∫∞

tf(x)dx→ 0 as t→ ∞ が従い、これは f が広義積分可能であること

の言い換えであった。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 4 回

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微分積分学第一・演習 Fクラス(34∼40ユニット)講義第 5回(5/19 :火 10:45–12:25)

担当:柴田 将敬(理学院数学系)

本日のテーマ

偏微分(続き)

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高階導関数(1変数関数) 161/385

定義 9.7 (高階導関数)I を Rの開区間、 f ∶ I → R, f = f(x) と f ′(x)は I 上で微分可能とする。このとき、 f

′(x)の導関数を f の2階導関数といい、

f′′(x), d

2f

dx2 (x)

で表す。同様に、 n ∈ Nに対して、 f のn階導関数を考え、

f(n)(x), d

nf

dxn(x)

で表す。

なお、′と括弧の使い分けは、見やすさによる。

通常使われるのは、 f′, f

′′, f

′′′= f

(3), f

(4), f

(5), . . . といった具合。

n 階導関数: derivative of order n, nth derivative

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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高階導関数(1変数関数) 162/385

定義 9.8 (Cn 級関数)I を Rの開区間、 f ∶ I → R, n ∈ N とする。

f が I 上で n階微分可能で、 n階導関数 f(n)(x)が I 上で連続であるとき、 f は I 上でC

n級

であるという。また、そのような f を I 上のCn級関数と呼ぶ。

また、 f が何階でも微分可能なとき、 f をC∞級関数とか、滑らかな関数とかいう。

補足 9.9 n階微分可能ということは、C

i級 (i = 1, . . . , n − 1)でなければならない。

連続関数のことを、C0級関数ということがある。

「滑らかな」というのが、「今考えている微分の計算が不都合なく出来るくらいに」という意味のと

きがある。例えば、 2階微分を考えているときはC2級を指す。

f が Cn級: f is of class Cn, なめらかな関数: smooth function

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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高階偏導関数 163/385

定義 9.10 (高階偏導関数)f が領域U 上で x偏微分可能であるとき、 fx はU 上の関数であり、さらに fx の x偏導関数や y偏導関数を考えることが出来る。それらは、 fxx, fxy などと表される。 fx や fy は1階偏導関数、それらの偏導関数

((fx)x =)fxx =∂

2f

∂x∂x=∂

2f

∂x2 , ((fx)y =)fxy = ( ∂∂y

∂f

∂x=) ∂

2f

∂y∂x,

((fy)x =)fyx = ( ∂∂x

∂f

∂y=) ∂

2f

∂x∂y, ((fy)y =)fyy =

∂2f

∂y∂y=∂

2f

∂y2

は2階偏導関数と呼ばれる。同様にして 3階偏導関数、 4階偏導関数など高階偏導関数を考えることが出来る。

補足

偏微分も極限であるから、以前述べたように、無条件で順序が交換できるわけではない。

なので、記号の使い方(x と y の順番)も意味がある。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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高階偏導関数 164/385

例 9.11 (教科書 p.162例 4)

f(x, y) =⎧⎪⎪⎪⎪⎨⎪⎪⎪⎪⎩

xy(x2 − y2)x2 + y2 =

x3y − xy3

x2 + y2 if (x, y) /= (0,0),

0 if (x, y) = (0,0)に対して、 fxy(0,0) =? fyx(0,0) =?

偏微分を計算すると、

fx(x, y) =x

4y + 4x2

y3 − y5

(x2 + y2)2 ((x, y) /= (0,0))

となる。従って、 x = 0 とすると、fx(0, y) = −y, (y /= 0)

である。上の式は y = 0で成り立つか分からないので、 fx(0,0)は定義に従って計算すると、

fx(0,0) = limx→0

f(x,0) − f(0,0)x − 0 = 0

を得る。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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高階偏導関数 165/385

まとめると、

fx(0, y) = −y, (∀y ∈ R)

であるので、 yで偏微分して、 fxy(0, y) = −1. y = 0 として

fxy(0,0) = −1

が従う。

一方、

fy(x, y) =x

5 + 4x3y

2 − xy4

(x2 + y2)2 ((x, y) /= (0,0))

となる。従って、 y = 0 とすると、fy(x,0) = x, (x /= 0)

である。 fy(0,0)は定義に従って計算すると、

fy(0,0) = limy→0

f(0, y) − f(0,0)y − 0 = 0

を得る。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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高階偏導関数 166/385

まとめると、

fy(x,0) = x, (∀x ∈ R)

であるので、 xで偏微分して、 fyx(x,0) = 1. x = 0 として

fyx(0,0) = 1.

結局、

fxy(0,0) = −1 /= 1 = fyx(0,0)

となっていることが分かる。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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高階偏導関数 167/385

定理 9.12 (Schwarzの定理(教科書 p.163定理 6))f = f(x, y)は開集合 U ⊂ R2

上で定義された関数、 (a, b) ∈ U とする。U 上で fx, fy, fxy が存在し、 fxy が (a, b)で連続ならば、 fy は (a, b)で x偏微分可能であり、 fyx(a, b) = fxy(a, b) が成り立つ。

f がC2級(fxy, fyx が連続)のとき、 fxy = fyx を示す。

簡単のため、 (a, b) = (0,0) として示す。(∗)= f(x, y) − f(x,0) − f(0, y) + f(0,0)

を考える。 g(x) = f(x, y) − f(x,0) とおくと、(∗)= g(x) − g(0) = g′(s)x

が成り立つ。ここで、平均値の定理を用いた。そして、 sは 0 と xの間の数。さらに、g′(s) = fx(s, y) − fx(s,0) = fxy(s, t)y

となる。ここで、平均値の定理を y ↦ fx(s, y)に対して用いた。 tは 0 と y の間の数。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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高階偏導関数 168/385

まとめると、

(∗)= fxy(s, t)xy

を得る。一方で、 h(y) = f(x, y) − f(0, y) とおく。すると、(∗)= h(y) − h(0) = h′(b)y

が成り立つ。ここで、平均値の定理を用いた。そして、 bは 0 と y の間の数。さらに、

h′(b) = fy(x, b) − fy(0, b) = fyx(a, b)y

となる。ここで、平均値の定理を x↦ fy(x, b)に対して用いた。 aは 0 と xの間の数。まとめると

fxy(s, t)xy =(∗)= fyx(a, b)xy

であるから、

fxy(s, t) = fyx(a, b)

を得る。 (x, y) → (0,0)のとき、 (s, t) → (0,0), (a, b) → (0,0)であって、 fxy と fyx は仮定より連続なので、結論が従う。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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高階偏導関数 169/385

定義 9.13 (Cn 級関数)開集合 U ⊂ R2

上で定義された関数 f を考える。 n ∈ Nに対して、 f の全ての(高々) n階導関数が存在し、それらが全て U 上連続であるとき、 f を U 上でC

n級であるという。

補足 9.14Schwarzの定理より、開集合 U ⊂ R2

上で定義されたC2関数 f = f(x, y)に対して、 fxy = fyx

が成り立つ。さらに、 f がCn級ならば、 n階の偏導関数は、偏微分の順序に依らない。

従って、 n階の偏導関数は、

∂nf

∂x`∂yn−`(0 ≤ ` ≤ n)

で表せる。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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高階偏導関数 170/385

例 9.15 (教科書 p.162例 4)

f(x, y) =⎧⎪⎪⎪⎪⎨⎪⎪⎪⎪⎩

xy(x2 − y2)x2 + y2 =

x3y − xy3

x2 + y2 if (x, y) /= (0,0),

0 if (x, y) = (0,0)はC

2級になっていない。

fxy(x, y) =(x2 − y2)(x4 + 10x2

y2 + y4)

(x2 + y2)3

のグラフをMathematicaで描いたもの

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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高階偏導関数 171/385

補足 9.16多項式関数、三角関数、指数関数、対数関数、それらの逆関数などは、定義されている開区間では

C∞級となることが知られている。

(ここでは端点での可微分性などは考えない)

微分可能な関数の和、差、積、商(分母が 0 とならない開区間で考える)、合成関数もまた微分可能であったから、C

∞級関数の和、差、積、商(分母が 0 とならない開区間で考える)、合成関数もまたC∞

級関数である。

多変数関数であっても、これらのC∞級関数で具体的に表された関数は、定義されている開集合上

ではC∞級関数となる。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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接平面 172/385

一変数関数のグラフ y = f(x)について、 x = aにおける接線(の傾き)を求めることが、微分法の目的であった。それは x = aにおける 1次近似

f(x) ∼ f(a) + f ′(a)(x − a) as x→ a

を求めることに他ならなかった。(∼は近似を表す)

このことを考えると、 2変数関数については、グラフ z = f(x, y)の接平面が求まって良いはずである。偏微分は、変数を 1つに制限した微分だったから、

f(x, b) ∼ f(a, b) + fx(a, b)(x − a) as x→ a,

f(a, y) ∼ f(a, b) + fy(a, b)(y − b) as y → b

といったことは分かる。しかし、これは、 f(x, y)を近似したものにはなっていない。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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接平面 173/385

平面の方程式

(a, b, c) /= (0,0,0), d ∈ Rに対して、

ax + by + cz = d

は平面の方程式と呼ばれる。これは、

(x, y, z) ∈ R;ax + by + cz = d

が R3内の平面を表すからである。ここで、 (a, b, c)は平面の法ベクトルになっている。

また、 (a, b, c)を通り、 (p, q, r)が法ベクトルであるような平面は

p(x − a) + q(y − b) + r(z − c) = (p, q, r) ⋅ (x − a, y − b, z − ck) = 0

と表せる。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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接平面 174/385

定義 9.17 (一次近似)U を R2

の開集合、 f(x, y)を U 上の関数、 (a, b) ∈ U とする。

f(x, y) = f(a, b) +A(x − a) +B(y − b) +R(x, y),

lim(x,y)→(a,b)

R(x, y)∣(x, y) − (a, b)∣ = 0

を満たすA,B ∈ R, R(x, y)が存在するとき、下線部を f の一次近似と呼ぶ。

発展的話題

上記のA,B, R(x, y)が存在する、つまり、とき、 f は (a, b)で全微分可能(微分可能)という。

補足 9.18 一次近似が存在することがわかれば(すなわち f が (a, b)で全微分可能ならば)、A = fx(a, b), B = fy(a, b) となることがわかる。

一変数関数では、 f(x) = f(a) + f ′(a)(x − a) +R(x), limx→aR(x)∣x−a∣ = 0であった。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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接平面 175/385

定義 9.19 (接平面)U を R2

の開集合、 f(x, y)を U 上の関数、 (a, b) ∈ U とする。さらに、 f の (a, b)における一次近似が存在すると仮定する。このとき、

z = f(a, b) + fx(a, b)(x − a) + fy(a, b)(y − b)

で定まる平面を、グラフ z = f(x, y)の (a, b)における接平面と呼ぶ。

定理 9.20 (接平面の存在(教科書 p.164定理 7 も参照))U を R2

の開集合、 f(x, y)を U 上のC1級関数、 (a, b) ∈ U とする。

このとき、 f は (a, b)で一次近似できる。つまり、 (a, b)における z = f(x, y)の接平面が存在する。

次のページで証明する。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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接平面 176/385

R(x, y) ∶= f(x, y) − (f(a, b) + fx(a, b)(x − a) + fy(a, b)(y − b))に対し、lim

(x,y)→(a,b)

R(x, y)∣(x, y) − (a, b)∣ = 0を示せば良い。

平均値の定理より、

f(x, y) − f(a, b) = f(x, y) − f(a, y) + f(a, y) − f(a, b)= fx(s, y)(x − a) + fy(a, t)(y − b)

が成り立つ。ここで、 sは x と aの間の数、 tは a と bの間の数である。これを用いると、

R(x, y)∣(x, y) − (a, b)∣= (fx(s, y) − fx(a, b))

x − a

∣(x, y) − (a, b)∣ + (fy(a, t) − fy(a, b))y − b

∣(x, y) − (a, b)∣

となっている。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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接平面 177/385

ここで、 f はC1級だったから、 fx と fy は (a, b)で連続であり、作り方から、 (x, y) → (a, b)のと

き、 (s, y) → (a, b), (a, t) → (a, b) となっている。従って、fx(s, y) − fx(a, b) → 0, fy(a, t) − fy(a, b) → 0 as (x, y) → (a, b)

がわかる。また、

∣x − a∣∣(x, y) − (a, b)∣ =

∣x − a∣√(x − a)2 + (y − b)2

≤∣x − a∣√(x − a)2

= 1

であり、同様に、

∣y − b∣∣(x, y) − (a, b)∣ ≤ 1

である。以上をまとめれば、

lim(x,y)→(a,b)

R(x, y)∣(x, y) − (a, b)∣ = 0

が従う。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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接平面 178/385

余談: 微分の記号

xにおける接線の傾きが f′(x)から決まるように、 2変数関数 f = f(x, y)の (x, y)における接平

面の「傾き」は、 fx(x, y) と fy(x, y)の両方で決まる。なので、偏導関数の組 (fx(x, y), fy(x, y)) (列ベクトルで表したり他の書き方をすることもある)をf′(x, y)やDf(x, y)などと表す。 x = (x1, x2) としておいて、

df

dxと表記することもある。

この意味でも、微分を表すのに使う記号 dや′と偏微分を表すのに使う記号 ∂ は明確に使い分ける

べきである。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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方向微分 179/385

定義 9.21 (方向微分)U を R2

の開集合、 f(x, y) ∶ U → R, (a, b) ∈ U , (s, t) /= (0,0) とする。

limh→0

f(a + sh, b + th) − f(a, b)h

を、 f の (a, b)における (s, t)に沿った方向微分と呼ぶ。

補足 9.22h↦ (a+sh, b+ th)は (a, b)を通り、 (s, t)方向に延びる直線を表し、そのパラメータが hである。F (h) ∶= f(a + sh, b + th) とすると、 F はその直線上での f の値を表している。

limh→0

f(a + sh, b + th) − f(a, b)h

= limh→0

F (h) − F (0)h

= F′(0)

であるから、 h = 0 (点 (a, b)に対応する)における F の傾きが方向微分に他ならない。

方向微分: directional derivative

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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方向微分 180/385

補足 9.23U を R2

の開集合、 f(x, y) ∶ U → R, (a, b) ∈ U , (s, t) /= (0,0) とする。さらに、 f は U 上でC

1級であると仮定する。

このとき、方向微分は

limh→0

f(a + sh, b + th) − f(a, b)h

= f′(a, b) ⋅ (s, t)

となる。ここで、 f′(a, b) = (fx(a, b), fy(a, b)))である。

これは、先ほどのR(x, y)の評価と同じようにして、証明出来る。(一次近似の式を (x, y) = (a + sh, b + th) とおいて適用することも出来る。)詳しい計算はパス。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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f′の意味 181/385

U を R2の開集合、 f(x, y) ∶ U → R, (a, b) ∈ U , さらに、 f はU 上でC1

級であると仮定する。

まず、 f′(a, b) = (0,0)だと、接平面が傾いていないことを意味するのは明らか。

f′(a, b) /= (0,0) とする。

方向微分において、 (cosθ, sin θ)に沿った方向微分は、F (θ) ∶= f ′(a, b) ⋅ (cosθ, sin θ)

である。このことから次がわかる。

F (θ)が最大になるのは、 f ′(a, b) と (cosθ, sin θ)が同じ向き、F (θ)が最小になるのは、 f ′(a, b) と (cosθ, sin θ)が反対向きの時である。さらに、最大値・最小値は ∣f ′(a, b)∣, −∣f ′(a, b)∣ となっている。

いいかえれば、斜面 z = f(x, y)の上をスキーで滑っていて、今の場所が (a, b)とすると、 −f ′(a, b)が一番斜面が急になっている方向で、その斜面の傾きの大きさを表すのが ∣f ′(a, b)∣になっている。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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質問・答え 182/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

方向微分の内積の式のところをイメージで理解することってできないですか??

⟶ 私にはあまり上手く説明できません。補足 9.23 とか f′の意味のところの記述とかを参考に

してください。方向微分の定義を見て、補足 9.23を証明したりして、考えてみて下さい。 (2,4)に沿った方向微分は (1,2)に沿った方向微分の 2倍になりますか?

⟶ はい。

レポート問題の exp とはなんですか?⟶ 指数関数です。 exp(x) = ex です。

二回微分での偏微分の交換が成り立っていない例を示す問題で、 fy(0,0)を求めた意味ってありますか?

⟶ 定義の仕方から、 f(x, y)は (0,0)以外では有理関数であって分母が 0でないので、C

∞級となっている一方で、 (0,0)では偏微分可能かどうかもわかりません。なので、偏微分を

定義に従って計算する必要があります。

方向微分の沿っているベクトルを 2倍にしたら値も 2倍になるのが不思議です。結局h→0にしてるのに。

⟶ 定義 9.21で (s, t)が二倍になると、ある意味、 f の変化も二倍になるので。うまく説明できませんが、定義式などみて考えてみて下さい。

第 9 節 偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 5 回

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微分積分学第一・演習 Fクラス(34∼40ユニット)講義第 6回(5/21 :木 8:50–10:30)

担当:柴田 将敬(理学院数学系)

本日のテーマ

合成関数の偏微分

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第 10節 合成関数の偏微分

目標

合成関数の偏微分について学ぶ

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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合成関数の偏微分 185/385

定理 10.1 ((教科書 p.165定理 8))I を Rの開区間、D を R2

の開集合、 f(t) ∶ I → RはC1級, g(x, y) ∶D → RはC1

級、

f(I) ⊂D とする。このとき、合成関数 f(g(x, y)) ∶D → RはC1

級で、

∂x(f(g(x, y))) = f

′(g(x, y))gx(x, y),∂

∂y(f(g(x, y))) = f ′(g(x, y))gy(x, y)

が成り立つ。

一変数の時の合成関数の微分の公式を、偏微分の言葉で書き下しただけなので、成立することは明

らか。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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合成関数の偏微分 186/385

定理 10.2 (連鎖公式(教科書 p.166定理 9))I を Rの開区間、D を R2

の開集合、 φ(t), ψ(t) ∶ I → RはC1級, f(x, y) ∶D → RはC1

級、 (φ(t), ψ(t)); t ∈ I ⊂D とする。

このとき、合成関数 g(t) ∶= f(φ(t), ψ(t)) ∶ I → RはC1級で、

g′(t) = fx(φ(t), ψ(t))φ′(t) + fy(φ(t), ψ(t))ψ′(t)

が成り立つ。

x = φ(t), y = ψ(t), z = g(t) = f(x, y) と思うと、 t↦ (x, y) ↦ z となっていて、

dz

dt=∂z

∂x

dx

dt+∂z

∂y

dy

dt

のように表せる。

証明は次のページ。

連鎖公式: chain rule

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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合成関数の偏微分 187/385

limt→α

f(φ(t), ψ(t)) − f(φ(α), ψ(α))t −α

を計算すれば良い。 a ∶= φ(α), b = ψ(α) とおく。まず、一次近似を使うと、f(x, y) = f(a, b) + fx(a, b)(x − a) + fy(a, b)(y − b) +R(x, y),φ(t) = φ(α) + φ′(α)(t −α) + r1(t),ψ(t) = ψ(α) +ψ′(α)(t −α) + r2(t)

と表せる。ここで、次が成立する。

lim(x,y)→(a,b)

R(x, y)∣(x − a, y − b)∣ = 0, lim

t→α

ri(t)t −α

= 0 (i = 1,2).

これらを使うと、

f(φ(t), ψ(t)) − f(φ(α), ψ(α))= fx(a, b)(φ(t) − a) + fy(a, b)(ψ(t) −α) +R(φ(t), ψ(t))= fx(a, b)(φ′(α)(t −α) + r1(t)) + fy(a, b)(ψ′(α)(t −α) + r2(t)) +R(φ(t), ψ(t))

を得る。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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合成関数の偏微分 188/385

t −αで割れば、

f(φ(t), ψ(t)) − f(φ(α), ψ(α))t −α

= fx(a, b) (φ′(α) + r1(t)t −α

) + fy(a, b) (ψ′(α) + r2(t)t −α

) +R(φ(t), ψ(t))

t −α

である。あとは t→ αを計算すれば良い。作り方から、

r1(t)t −α

→ 0,r2(t)t −α

→ 0 as t→ α

である。そして、

R(φ(t), ψ(t))t −α

=R(φ(t), ψ(t))

∣(φ(t) − a,ψ(t) − b)∣∣(φ(t) − a,ψ(t) − b)∣

t −α

であるが、 t→ αのとき、 (φ(t), ψ(t)) → (a, b)であるから、R(φ(t), ψ(t))

∣(φ(t) − a,ψ(t) − b)∣ → 0 as t→ α.

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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合成関数の偏微分 189/385

そして、一次近似をもう一度使うと、

»»»»»»»»∣(φ(t) − a,ψ(t) − b)∣

t −α

»»»»»»»»

2

= (φ′(α) + r1(t)t −α

)2

+(ψ′(α) + r2(t)t −α

)2

→ (φ′(α))2+(ψ′(α))2

as t→ α

を得る。つまり、左辺は有界である。以上をまとめると、

limt→α

f(φ(t), ψ(t)) − f(φ(α), ψ(α))t −α

= fx(a, b)φ′(α) + fy(a, b)ψ′(α)

となり、これが目標であった。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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合成関数の偏微分 190/385

補足 10.3同様に、 2変数関数 f(x, y) と 2変数関数 x(s, t), y(s, t)を合成したものの偏微分は、

∂s(f(x(s, t), y(s, t))) = f(x(s, t), y(s, t))xs(s, t) + fy(x(s, t), y(s, t))ys(s, t)

=∂f

∂x

∂x

∂s+∂f

∂y

∂y

∂s,

∂t(f(x(s, t), y(s, t))) = f(x(s, t), y(s, t))xt(s, t) + fy(x(s, t), y(s, t))yt(s, t)

=∂f

∂x

∂x

∂t+∂f

∂y

∂y

∂t

となる。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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合成関数の偏微分 191/385

補足 10.43変数関数 f(x, y, z) と 1変数関数 x(t), y(t), z(t)を合成したものの微分は

d

dt(f(x(t), y(t), z(t)))

= fx(x(t), y(t), z(t))x′(t) + fy(x(t), y(t), z(t))y′(t) + fz(x(t), y(t), z(t))z′(t)=∂f

∂x

dx

dt+∂f

∂y

dy

dt+∂f

∂z

dz

dt

となる。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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正斉次関数 192/385

合成関数の偏微分の応用として、斉次関数に関する Eularの公式を紹介する。

定義 10.5 (正斉次関数)f ∶ Rn → R, k ∈ R とする。

任意の x ∈ Rn と t > 0に対して f(tx) = tkf(x)が成り立つ

とき、 f は次数 kの正斉次関数である、という。

例 10.6a, b, c ∈ Rを定数とする。f(x, y) = ax2 + bxy + cy2

や f(x, y) =√x4 + y4 は次数 2の正斉次関数。

次数 k の正斉次関数: positively homogeneous function of degree k

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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正斉次関数 193/385

定理 10.7 (斉次式に関する Eularの公式)f ∶ Rn → R, k ∈ R, f は次数 kの正斉次関数, f は Rn \ 0でC

1級とする。このとき、

x ⋅ f′(x) = kf(x) (x /= 0)

が成り立つ。

n = 2のとき、 f = f(x, y) として証明する。仮定より、 f(tx, ty) = tkf(x, y)が任意の x, y ∈ R, t > 0で成立している。混乱を避けるために、文字を変更すると、

f(tX, tY ) = tkf(X,Y )

である。変数が t,X,Y の 3つあるが、両辺を tで偏微分すると、合成関数の微分法より、∂

∂tf(tX, tY ) = fx(tX, tY )X + fy(tX, tY )Y ,

∂t(tkf(x, y)) = kt

k−1f(X,Y )

である。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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正斉次関数 194/385

従って、

fx(tX, tY )X + fy(tX, tY )Y = ktk−1f(X,Y )

となり、 t = 1 として文字を変えれば、fx(x, y)x + fy(x, y)y = kf(x, y)

が任意の x, yで成り立つことが分かる。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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例題 195/385

C1級関数 f(x, y) ∶ R2

→ Rを考える。このとき、次の二つは同値。1. あるC1

級関数 g(t) ∶ R → Rが存在して、 f(x, y) = g(x + y) と表せる。2. R2

上で fx(x, y) = fy(x, y)が成り立つ。

「1⟹2」 1を仮定して計算すると、

fx(x, y) =∂

∂xg(x + y) = g′(x + y) ∂

∂x(x + y) = g′(x + y),

fy(x, y) =∂

∂yg(x + y) = g′(x + y) ∂

∂y(x + y) = g′(x + y)

となるから、 2が成立している。「2⟹1」変数変換 x = (s + t)/2, y = (s − t)/2を用いて、

F (s, t) ∶= f (s + t2 ,s − t

2 )

を考える。

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例題 196/385

合成関数の偏微分を計算すると、仮定 2 より、∂

∂tF (s, t) = fx (

s + t2 ,

s − t2 ) ∂

∂t(s + t2 ) + fy (

s + t2 ,

s − t2 ) ∂

∂t(s − t2 )

=12fx (

s + t2 ,

s − t2 ) −

12fx (

s + t2 ,

s − t2 ) = 0

を得る。このことから、任意の s, tに対して

F (s, t) = F (s,0)

が成り立つ。実際、 R上のC1級関数 h(t)に対して、平均値の定理より、

h(t) − h(0) = h′(θt)t

となる θ ∈ (0,1)が存在する。このことから、 h′(t) = 0 (∀t) であれば、 h(t) = h(0) (∀t) となることがわかる。そして、 sを固定して h(t) = F (s, t) として考えれば良い。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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例題 197/385

さて、 F (s,0)は sのみに依る関数であるから、 g(s) ∶= F (s,0) とおくと、 g は 1変数関数である。F がC

1級だったから、 g もC

1級である。以上をまとめると、

F (s, t) = F (s,0) = g(s) (∀s,∀t)

を得る。 (x, y) と (s, t)の関係を思い出すと、f(x, y) = F (x + y,x − y) = g(x + y)

となる。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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行列 198/385

行列については線形代数で学ぶ。しかし、微分積分学においても行列は顔をだす。なので、ここで行列

について簡単に学んでおく。

定義 10.8 (行列)m,n ∈ N とする。

縦にm行、横に n列、m×n個の数が長方形に並んだものを行列と呼ぶ。並んだ数を表したいときは、m × n行列と呼ぶ。例も参照。

例 10.9a, b, cなどは数を表す。

3 × 2行列:⎛⎜⎜⎝

a bc de f

⎞⎟⎟⎠

, 1 × 3行列: (a b c)

定義 10.10 (行ベクトル・列ベクトル)1 × n行列は、行ベクトル、 n × 1行列は、列ベクトルと呼ばれる。ここで nはベクトルのサイズと呼ばれる。

行列: matrix, サイズ: size

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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行列 199/385

定義 10.11 (行列の成分)m × n行列はm × n個の数が並んだものであるが、それぞれの数を成分と呼ぶ。i行目(1 ≤ i ≤m) j 列目(1 ≤ j ≤ n)の成分は (m,n)成分という。

例 10.12

2 × 2行列 (a bc d

)の (1,2)成分は b, (2,2)成分は d.

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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行列 200/385

定義 10.13 (行ベクトル・列ベクトル)1 × n行列は、行ベクトル、 n × 1行列は、列ベクトルと呼ばれる。ここで nはベクトルのサイズと呼ばれる。

m×n行列は、サイズが nの行ベクトルがm個縦に並んだものをみなせる。 i行目の行ベクトルとかj 列目の列ベクトルとかいう。列ベクトルについても同様。

例 10.14

2 × 2行列 (a bc d

)の 2行目の行ベクトルは (c d).

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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行列 201/385

定義 10.15 (行列の積)` ×m行列A とm × n行列B を考える。

このとき、Aの i番目の行ベクトル(サイズはm)とBの j番目の列ベクトル(サイズはm)は同じサイズである。

その内積を (i, j)成分とする新しい ` × n行列C を考える。これを行列A とB の積とする。このCをAB で表す。

例 10.16

(a bc d

) (xy) = (ax + by

cx + dy), (a b

c d) (x yz w

) = (ax + bz ay + bwcx + dz cy + dw

)

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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質問・答え 202/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

前回のレポート問題の(2)、(3)は、Cn級の論述なしに計算を進めても問題ないのですか?

⟶ はい。具体的な関数でC∞級がわかっている・容易にわかる場合、気にせず計算しましょう。

188ページ(講義中スライドで 189ページ)の最後が 0になるのがわかりません⟶ 有界なものと、極限が 0であるものの積は、極限が 0になります。数列で書くと、有界な数列ann∈N と極限が 0である数列 bnn∈N に対して、 limn→∞ anbn = 0 となります。証明するなら、有界性より、 −M ≤ an ≤M が成り立つようなM > 0がとれるので、−Mbn ≤ anbn ≤Mbn となっていて、極限をとってはさみうちの原理を用いれば良いです。

単なる興味なんですけど、 Eularの公式を問題を解くときに使うことってあったりするんですか??⟶ 私は論文で使ったことはあります。が、まあないでしょう。

ちょっと調べたところ、経済学・物理学・化学などで使われることがあるようです。

Tの一変数関数としたときに平均値の対偶が成り立つのにそこから sを変数としていいのはなぜですか

⟶ 講義中の説明はちょっと良くなかったかもしれません。少し整理したので、 pp.196–197 も参照して下さい。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 6 回

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微分積分学第一・演習 Fクラス(34∼40ユニット)講義第 7回(5/26 :火 10:45–12:25)

担当:柴田 将敬(理学院数学系)

本日のテーマ

合成関数の偏微分(続き)

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一次写像 204/385

定義 10.17 (一次写像)f ∶ Rm → Rn, x = (x1, . . . , xm), y = (y1, . . . , yn), f ∶ x↦ y とする。

f(0) = 0であり、かつ、各 yi が x1, . . . , xn の一次関数であるとき、 f は Rm から Rn への一次写像であるという。

例 10.18(x, y) ↦ (ax + by, cx + dy)で定まる R2

から R2への写像 f は一次写像。

(x, y) ↦ (ax+ by + 1, cx+ dy)で定まる R2から R2

への写像 f は、 f(0,0) = (1,0) となっているので、一次写像ではない。

(x, y) ↦ ax + byで定まる R2から Rへの写像 f は一次写像。

補足 10.19一次写像は、線形写像と呼ばれるものと同じものである。

しかしながら、定義の都合上、この講義では一次写像と呼ぶ。

気になる人は、線形写像の定義を確認のこと。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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一次写像 205/385

一次写像は、次のように、行列で使って表すことが出来る。

例 10.20 (行列を用いた一次写像の表示)

(x, y) ↦ (ax + by, cx + dy)で定まる R2から R2

への一次写像: (xy) ↦ (a b

c d) (xy).

(x, y) ↦ ax + byで定まる R2から Rへの一次写像: (x

y) ↦ (a b) (x

y).

補足 10.21結局、一次写像は、行列を使って表示されるのであった。逆に、例のように行列を用いて定まる写像は、

一次写像になっている。

なので、m × n行列と、 Rm から Rn への一次写像は同一視されることがある。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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一次変換 206/385

定義 10.22 (一次変換)Rn から Rn への一次写像は、一次変換と呼ばれる。

ここでは、 R2から R2

の一次変換で代表的なものを挙げておく。

例 10.23 (拡大・縮小)a > 0, b > 0 とする。(a 0

0 b)は、 x座標を a倍、 y座標を b倍する一次写像となる。

例 10.24 (鏡映変換)

(−1 00 1)は、 x座標を −1倍する。

つまり、 y軸中心に線対称な位置へ点を対応させる一次変換である。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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一次変換 207/385

例 10.25 (鏡映変換)

(1 00 −1)は、 y座標を −1倍する。

つまり、 x軸中心に線対称な位置へ点を対応させる一次変換である。

例 10.26 (回転)θ ∈ R とする。(cosθ − sin θ

sin θ cosθ )は、原点中心に、正の向きへ θ だけ回転させる一次変換である。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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一次変換 208/385

例 10.27 (変換の合成)Rn 上の一次変換の行列A, B を考える。(n × n行列である。)

行列Aでの変換を fA ∶ R2→ R2, 行列B での変換を fB ∶ R2

→ R2とする。

このとき、その合成 x↦ fB(fA(x))を表す行列はBAである。つまり、合成した変換の行列は行列の積になっている。

fA (xy) ↦ (ax + by

cx + dy) = (a b

c d) (xy), fB (s

y) ↦ (αs + βt, γs + δt) = (α β

γ δ) (sy)

に対して、合成変換を計算すれば、

fB (fA (xy)) = (α(ax + by) + β(cx + dy)

γ(ax + by) + δ(cx + dy)) = ((αa + βc)x + (αb + βd)y(γa + δc)x + (γb + δd)y ) =

(αa + βc αb + βdγa + δc γb + δd

) = (α βγ δ

) (a bc d

) (xy)

となっている。

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一次変換 209/385

補足 10.28 行列の積は、結合法則 (AB)C = A(BC)が成り立つ。なので、ABC などと書いて良い。 行列の積は、交換法則は成り立たない。つまり、AB /= BAとなることがある。変換の例で考えれば、横に 2倍拡大してから π/2回転するのと、 π/2回転してから横に 2倍拡大するのは異なる。

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一次変換 210/385

例 10.29R2上の一次変換で、 y = xを中心に線対称の位置へ移す変換は、

−π/4回転・ x軸中心の鏡映・ π/4回転を順に合成したものであるから、

(cos(π/4) − sin(π/4)sin(π/4) cos(π/4) ) (1 0

0 −1) (cos(−π/4) − sin(−π/4)sin(−π/4) cos(−π/4) ) = (0 1

1 0) となる。

行列の計算については、各自チェック。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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微分と行列 211/385

f(x, y)の (a, b)における一次近似は、f(x, y) ∼ f(a, b) + fx(a, b)(x − a) + fy(a, b)(y − b)

であった。変形すれば、

f(x, y) − f(a, b) ∼ (fx(a, b) fy(a, b)) (x − ay − b

) = f′(a, b) (x − a

y − b)

となっている。これは、

(a, b)の近くでは、

f(x, y)の変化量 ∼ (x, y)の変化量を一次写像 f′(a, b)で写したもの。

となっていることを意味する。

言い換えれば、

点 (a, b)において、 f(x, y) (の変化)は一次写像 f′(a, b)で近似される。ということになる。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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微分と行列 212/385

定義 10.30 (Jacobi行列)m,n ∈ N とする。 Rm 上で定義され、 Rn に値をとる写像 F (ベクトル値関数ということもある)を、

F (x) =⎛⎜⎜⎝

F1(x)⋮

Fn(x)

⎞⎟⎟⎠, x =

⎛⎜⎜⎝

x1⋮xm

⎞⎟⎟⎠

で表す。このとき、 Fi の xj 偏微分を並べた行列

( ∂F∂x1(x) ⋯ ∂F

∂xn(x)) =

⎛⎜⎜⎜⎜⎝

∂F1∂x1

(x) ⋯ ∂F1∂xm

(x)⋮ ⋱ ⋮

∂Fn

∂x1(x) ⋯ ∂Fn

∂xm(x)

⎞⎟⎟⎟⎟⎠

を、

F′(x), DF (x), dF

dx(x), dy

dx(y = F (x)で考えているとき)

などで表す。これは、各 xにおける、 F の微分係数に他ならない。Jacobi行列と呼ばれることもある。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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微分と行列 213/385

補足 10.31一次近似は

⎛⎜⎜⎝

F1(x) − F1(a)⋮

Fn(x) − Fn(F )

⎞⎟⎟⎠∼

⎛⎜⎜⎜⎜⎝

∂F1∂x1

(x) ⋯ ∂F1∂xm

(x)⋮ ⋱ ⋮

∂Fn

∂x1(x) ⋯ ∂Fn

∂xm(x)

⎞⎟⎟⎟⎟⎠

⎛⎜⎜⎝

x1 − a1⋮

xm − am

⎞⎟⎟⎠

となっているから、これは、

F (x) − F (a) ∼ F ′(a)(x − a), F (x) ∼ F (a) + F ′(a)(x − a)

のように表現できる。

補足 10.32

f (xy) = (ax + by

cx + dy) = (a b

c d) (xy)の Jacobi行列は(どの点でも) (a b

c d)である。

つまり、一次写像を表す行列と Jacobi行列は同じもの。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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微分と行列 214/385

x(t), y(t)を一変数関数とする。 g(t) = (x(t)y(t)) に対して、 t = aにおける一次近似は、

x(t) ∼ x(α) + x′(α)(t −α), y(t) ∼ y(α) + y′(α)(t −α)

であるが、これは、

g(t) − g(α) ∼ g′(α)(t −α)

と表せるのであった。

Rn の元は列ベクトルで表すことにすると、 2変数関数 f = f (xy)の (a

b)における一次近似は、

f (xy) ∼ f (a

b) + fx (

ab) (x − a) + fy (

ab) (y − b)

で、これは、

f (ab) − f (a

b) ∼ f

′ (ab) (x − ay − b

) ただし、 f′ (ab) = (fx (

ab) fy (

ab))

と表せる。

それでは、合成関数 h(t) = f(g(t))の一次近似はどうなっているのか?第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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微分と行列 215/385

合成関数 h(t) = f(g(t))の一次近似はどうなっているのか?h(t)の t = αにおける一次近似は、h(t) ∼ h(α) + h′(α)(t −α)

であったから、 h′(α)を合成関数の偏微分法を用いて計算すると、

f(g(t)) − f(g(α)) ∼ (fx (x(α)y(α))x

′(α) + fy (x(α)y(α))y

′(α)) (t −α)

となる。これは、

f(g(t)) − f(g(α)) ∼ f ′ (x(α)y(α)) g

′(α)(t −α)

であることを意味している。つまり、

合成関数 f(g(x))の αにおける微分係数は、一次写像(に対応する行列)である f ′(g(α)) とg′(α)の積になっている。

一次写像の合成は、対応する行列の積であったから、これはある意味当然である。

このことは、合成関数の微分が行列の積で表されることを示唆している。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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微分と行列 216/385

定理 10.33 (合成関数の微分)`,m,n ∈ N, f ∶ Rm → Rn, g ∶ R` → Rm を微分可能な写像とする。 y = g(x), z = f(y)で定まる合成写像に対して、

f(g(x))′ = f ′(y)g′(x) = f ′(g(x))g′(x)

が成り立つ。dz

dx=dz

dy

dy

dx

と表すこともある。

補足 10.34 関数の微分を行列を用いて表すことによって、あたかも一変数のときと同じ公式が得られる。

証明は、行列の積を計算して、各成分ごとに、合成関数の偏微分の公式(教科書 p.166 定理 9)を用いれば良い。

1変数の時と同じく、合成関数の微分の公式から逆関数の微分の公式が得られる。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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微分と行列 217/385

定義 10.35 (単位行列)

(1 00 1) ,

⎛⎜⎜⎝

1 0 00 1 00 0 1

⎞⎟⎟⎠など、 n × n行列で、 i行 i列の成分が 1で残りは 0になっている行列を

単位行列と呼び、 In で表す(En とか 1n を使うこともある)。

補足 10.36任意の n × n行列Aに対して、AIn = InA = Aが成り立つ。

定義 10.37 (行列の定数倍)行列A、数 cに対して、Aの各成分を c倍した行列を cA と表す。

例 10.38

λ (a bc d

) = (λa λbλc λd

).

単位行列: identity matrix, 逆行列: inverse matrix

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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微分と行列 218/385

定義 10.39 (逆行列)n × n行列Aに対して、AB = BA = In となる n × n行列があるとき、このB をAの逆行列と呼び、A

−1で表す。

例 10.40

(a bc d

) の逆行列は、 1ad − bc

( d −b−c a

).

なお、 ad − bc = 0のときは、逆行列を持たない。

A = (a bc d

)の逆行列がB =1

ad − bc( d −b−c a

) になっていることは、直接AB = BA = In を

計算して確かめれば良い。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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微分と行列 219/385

逆写像の微分

n ∈ N, D と U は Rn の開集合で、 f はD上で単射・C1級、 f(D) = U であるとする。

さらに、各 x ∈D に対して、 f′(x)は逆行列を持つと仮定する。

このとき、 y = f(x)の逆写像を f−1と表すと、

In = f′(x)(f−1)′(y)

が成り立つ。ここで、 In は n次の単位行列である。つまり、 f′と (f−1)′ は互いに逆行列になってい

る。これをdx

dy= (dy

dx)−1

と表すこともある。

補足

この仮定のもとでは、 f の逆写像の存在を示すことが出来る。それは、逆写像定理と呼ばれる。(教科書 p.258)

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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微分と行列 220/385

例 10.41極座標 x = r cosθ, y = r sin θ.

r > 0つまり (x, y) /= 0 とする。x, yが r, θの関数であると思えば、

F (rθ) = (x

y) = (x(r, θ)

y(r, θ)) = (r cosθ, r sin θ)

となる。逆写像は、 r, θが x, y の関数だと思えば、

F−1 (x

y) = (r

θ) = (r(x, y)

θ(x, y))

である。

計算すれば、

F′= (xr xθ

yr yθ) = (cosθ −r sin θ

sin θ r cosθ )

となる。

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微分と行列 221/385

逆写像の微分の公式、逆行列の表示、 F′の計算を合わせると、

(F −1)′ = (rx ryθx θy

) = (cosθ −r sin θsin θ r cosθ )

−1

=1r (r cosθ r sin θ

− sin θ cosθ )

となる。実際、例えば、 x > 0の部分では、 r =

√x2 + y2, θ = arctan(y/x) と表すことが出来、こ

れを用いて計算すると、

rx =x√

x2 + y2, ry =

y√x2 + y2

, θx =−y

x2 + y2 , θy =x

x2 + y2 ,

となっているから、これに x = r cosθ, y = r sin θ を代入すれば、

(F −1)′ = (rx ryθx θy

) = ( x/√x2 + y2 y/

√x2 + y2

−y/(x2 + y2) x/(x2 + y2)) =1r (r cosθ r sin θ

− sin θ cosθ )

である。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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質問・答え 222/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

~の記号ってどういう意味ですか?

⟶ 近似を表す記号です。A ∼ B はA とB が大体同じという意味です。ここでは、一次近似なので、考えている点の近くでは、Aに一番近い一次関数がB になるということです。

215ページで f′は行ベクトルになっていますか?

⟶ はい。 f′は行ベクトル、 g

′は列ベクトルになっています。

219ページ:もし f(D)がRnの部分集合にならなかったら(xの次元と f(x)の次元が一致し

なかったら) (f−1)′ はどうなりますか⟶ おおざっぱにいうと、 f(D)の次元がDの次元より小さいと、逆写像がありません。(像がつぶれてしまっている)。また、 f(D)がより大きな次元の Rm にはいっていると、 f(D)は Rm

の開集合にならないので、 y ∈ f(D)における f−1の微分とはそもそも何か?がわからなくなり

ます。

というわけで、ここでは考えません。

極座標表示の変換ってどういことですか??おなじいちじゃないんですか??

⟶ 極座標を使うということは、 (x, y)座標を使っていたものを、 (r, θ)座標を使ってで表すということです。 (x, y)座標で考えてた f(x, y)は、合成関数 f(x(r, θ), y(r, θ))を考えることによって、 (r, θ)の関数に変換されます。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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質問・答え 223/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

ヤコビ行列とヤコビアンは同じ意味ですか?

⟶ Jacobi行列の行列式というものを考えることがあります。それは Jacobi行列式と呼びます。そして、 Jacobi行列と Jacobi行列式の両方とも、(数学的には違う対象ですが)同じようにヤコビアン(Jacobian)と呼ばれます。教科書・文脈によります。

G って (x, y)を (r, θ)に変換するものですよね?その写像が (r, θ)であらわされているのが結構違和感があるんですけど、、、

⟶ 正確には、 r = r(x, y), θ = θ(x, y)なので、これを用いれば、 (x, y)で表されています。 ベクトル値関数と多変数関数の違いはなんですか?

⟶ 値がベクトルの時、ベクトル値関数と呼んでいて、変数が多数(2以上)であるとき多変数関数と呼んでいます。なんとなくの用語なので、厳密な定義はありません。

F とその変数 xがベクトルのときに F を xで微分するとヤコビ行列が得られるという認識であっていますか?

⟶ はい。それで良いと思います。 F と xがともに一変数のときに f′(x)をヤコビ行列と呼んで

も間違いではありませんが、やはり、(xにおける)微分係数とか接線の傾きですね。

多変数関数 f ∶ RN → Rのときは、ヤコビ行列は行ベクトルになるわけですが、これは、(xにおける)勾配ベクトルと呼ばれることが多いです。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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質問・答え 224/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

極座標への変換において、 θ = arctan(y/x)だと −π/2 < θ < π/2 となると思うのですが、その他の θの値を取るときは arctanの値域をいじるか定数項を足せばよいのですか?また、x = 0の場合を記述するときは分けて書くべきですか?⟶ きっちりやりたいときは、その通りです。

θ = arctan(y/x)は −π/2 < θ < π/2で y軸の右側、θ = arctan(y/x) + π だと、 1π/2 < θ < 3π/2で y軸の左側、θ = arctan(−x/y) + π/2は 0 < θ < πで x軸の上側、θ = arctan(−x/y) + 3π/2は π < θ < 2πで x軸の下側側、などが使えます。

レポート問題についてですが、ヤコビ行列をつかった解答方法でとくべきですか?

⟶ 自分の好きな方法でどうぞ。

第 10 節 合成関数の偏微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 7 回

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微分積分学第一・演習 Fクラス(34∼40ユニット)講義第 8回(5/28 :木 8:50–10:30)

担当:柴田 将敬(理学院数学系)

本日のテーマ

重積分と累次積分

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第 11節 重積分と累次積分

目標

重積分の意味と基本的な計算法について学ぶ

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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重積分とは? 227/385

一変数関数 f(x)の定積分 ∫baf(x)dx とは、 [a, b]上で、 x軸と y = f(x)のグラフに挟まれる

部分の符号付面積であった。

おなじように、多変数関数についても、重積分を定義する。

定義 11.1 (重積分の定義(?))R2上の有界集合A と有界な関数 f(x, y) ∶ A→ Rを考える。

A とグラフ z = f(x, y)に挟まれる部分の符号付き「体積」を f のA上での重積分といい、∬

Af(x, y)dxdy とか ∫

Af(x, y)dxdy とかで表す。

補足 11.2集合の体積を絶対値で表すと、

∬Af(x, y)dxdy =

»»»»»(x, y, z) ∈ R3; (x, y) ∈ A,0 ≤ z ≤ f(x, y)»»»»»−»»»»»(x, y, z) ∈ R3; (x, y) ∈ A,f(x, y) ≤ z ≤ 0»»»»»

となる。これが符号付体積の意味。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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重積分とは? 228/385

補足 11.3 理論的には、体積が先に定義されているわけではなく、重積分が定義され、それによって体積が

定義される。

一変数関数の場合は、有界閉区間 [a, b]上での連続関数の定積分を考えれば良かったが、 2変数関数では、定義域としては、さまざまなものを考えたい。そうすると、A としてどのような集合が許されるか?また、どのような関数ならば良いのか?の両方が問題となる。

重積分の定義をきちんとやるのは、大変なので、ここでは、面積の定義のやり方だけ紹介する。本質的

には定積分や重積分の定義も同じことをやっている。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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面積 229/385

定義 11.4 (面積)

Aを R2の有界な部分集合とする。

0に収束する正数列 (an)n∈N を取る。(例えば an = 1/2n。) R2

を一辺が an の正方形で分割する。

Aに含まれる正方形の面積を sn, A と共通部分を持つ正方形の面積を Sn とする。 limn→∞ sn = limn→∞ Sn であれば、その極限 S をAの面積とする。このとき、Aは面積確定である。という。

A A A

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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面積 230/385

注意

先の定義で定まる面積は、数列 (an)n∈N の取り方に依らない。例えば、 an = 1/2n としてもan = 1/n として面積は一致する。

s∞ = limn→∞ sn, S∞ = limn→∞ Sn とすると、 s∞ ≤ S∞. Aによっては、面積が定まらないこともある。つまり、 s∞ < S∞ となることがありうる。例えば、

A = (x, y);x, y ∈ [0,1] ∩Q とすると s∞ = 0, S∞ = 1 となる。 正方形ではなく、より一般の長方形に分ける定義もある。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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面積 231/385

定理 11.5 (面積に関する性質)A,B ⊂ R2

は有界集合とする。

Aが面積確定ならば、面積 ∣A∣は 0以上の実数。 Aが面積確定、B がA と合同ならば、B も面積確定で、 ∣A∣ = ∣B∣. A, B が面積確定なら、A ∪B, A ∩B, A \B も面積確定。さらに、

∣A ∪B∣ = ∣A∣ + ∣B∣ − ∣A ∩B∣が成り立つ。特に、A ⊂ B ならば ∣A∣ ≤ ∣B∣. Aが面積確定⇔ ∣∂A∣ = 0である(教科書 p.192例 1)。 点、C

1級曲線、連続関数(可積分関数で良い)のグラフ (x, y);y = f(x) として表される集

合の面積は 0. 有限個のC

1級の曲線をつなげたもので囲まれる有界集合は面積確定。

有界閉区間 [a, b]上の可積分関数 φ(x) ≤ ψ(x)を用いて

(x, y);a ≤ x ≤ b,φ(x) ≤ y ≤ ψ(x)

と表される集合は面積確定。さらに、その面積は ∫ba(ψ(x) − φ(x))dxに一致する。つまり、定

積分で定めた面積の拡張になっている。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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面積 232/385

補足 11.6ここで、C

1級曲線とは、 −∞ < a < b < ∞, [a, b]上のC1

級関数 x(t), y(t)を用いて、(x(t), y(t));a ≤ t ≤ b とパラメータ表示されるもの。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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重積分の性質 233/385

用語

有界集合A ⊂ R2上の有界関数 f ∶ A→ Rに対して、重積分∬

Af(x, y)dxdyが定まるとき、

f はA上で可積分である。という。

定義 11.7 (特性関数)

A ⊂ R2とする。 χA(x, y) ∶= 1 if (x, y) ∈ A,

0 if (x, y) /∈ Aで定まる χA ∶ R2

→ RをAの特性関数(定義関数)という。

定理 11.8A ⊂ R2

とする。

「Aが面積確定」と「χA がAを含む長方形 [a, b] × [c, d]上で可積分である」は同値。さらに、 ∣A∣ = ∬[a,b]×[c,d] χA(x, y)dxdy = ∬A dxdyが成り立つ。

特性関数: characteristic function

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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重積分の性質 234/385

定理 11.9 (連続関数の可積分性)Aは面積確定な R2

の部分集合、 f はA上の有界連続関数とする。

このとき、 f はA上で可積分である。

補足 11.10f がA上で連続とは、任意の (x, y) ∈ A と xn, ynn∈N ⊂ A で limn→∞(xn, yn) = (x, y) となるものに対して、 limn→∞ f(xn, yn) = f(x, y)が成り立つことである。f がAを含む開集合B で連続なら、 f はAで連続となっている。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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重積分の性質 235/385

定理 11.11 (重積分の性質)A,B は R2

の有界集合とする。また、 f, g は(考えている定義域で)有界な関数とする。

Aの面積が 0であれば、 f はA上可積分で、∬Af(x, y)dxdy = 0.

f , gがA上で可積分ならば、 af + bg (a, bは定数)はA上可積分で、

∬Aaf(x, y) + bg(x, y)dxdy = a∬

Af(x, y)dxdy + b∬

Ag(x, y)dxdy

が成り立つ。

f , gがA上で可積分ならば、 fg もA上で可積分。

f , gがA上で可積分で、 f(x, y) ≤ g(x, y) ((x, y) ∈ A)が成り立つならば、

∬Af(x, y)dxdy ≤ ∬

Ag(x, y)dxdy

が成り立つ。特に、»»»»»»»∬

Af(x, y)dxdy

»»»»»»»≤ ∬

A∣f(x, y)∣dxdy.

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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重積分の性質 236/385

定理 11.12 (重積分の性質)A,B は R2

の面積確定な有界集合、 f ∶ A∪B → Rは f ∶ A∪B → RはA上で可積分、B上で可積分とする。

このとき、 f はA ∪B, A ∩B 上で可積分で、

∬A∪B

f(x, y)dxdy +∬A∩B

f(x, y)dxdy = ∬Af(x, y)dxdy +∬

Bf(x, y)dxdy

が成り立つ。特に、 ∣A ∩B∣ = 0であれば、

∬A∪B

f(x, y)dxdy = ∬Af(x, y)dxdy +∬

Bf(x, y)dxdy

が成り立つ。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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累次積分 237/385

一変数関数の定積分を計算するときは、原始関数を見つければ良かった。

では、重積分を計算したいときは、どのようにすれば良いのか?それは、一変数関数の積分に帰着する

のである。

V = ∬[−1,1]×[−1,1]

x2+ y

2dxdy

を計算したい。

これは、 [−1,1] × [−1,1]上で、 xy平面と放物面 z = x

2 + y2にはさまれる部分の体積である。

体積は、断面積 ×厚さを足し合わせることによって求まるのであった。

つまり、 x = aにおける断面積を S(a) とすると、V = ∫

1

−1S(x)dx となることを意味する。

そして、断面積は、 S(x) = ∫1

−1x

2+ y

2dyで求まる。

あとは計算。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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累次積分 238/385

この考え方から、

∬[a,b]×[c,d]

f(x, y)dxdy = ∫b

a(∫

d

cf(x, y)dy)dx

となることがわかる。右辺のように 1変数関数の積分の繰り返しで表される積分を累次積分という。長方形でない集合上での重積分も扱いたい。

A = (x, y);a ≤ x ≤ b,φ(x) ≤ y ≤ ψ(x), −M ≤ φ(x) ≤ ψ(x) ≤M とする。

A上で f(x, y)を積分するということは、B ∶= [a, b] × [−M,M]上で f(x, y)χA(x, y)を積分することであるから、

∬Af(x, y)dxdy = ∬

Bf(x, y)χA(x, y)dxdy = ∫

b

a(∫

M

−Mf(x, y)χA(x, y)dy) dx

= ∫b

a(∫

ψ(x)

φ(x)f(x, y)dy) dx

となることがわかる。ここで、 xを固定すると、 yが [φ(x), ψ(x)]に含まれているかどうかでχA(x, y)の値が変化していることに注意する。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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累次積分 239/385

定理 11.13φ,ψ ∶ [a, b] → Rは連続関数で、 φ(x) ≤ ψ(x) (x ∈ [a, b])が成り立つとし、A = (x, y);a ≤ x ≤ b,φ(x) ≤ y ≤ ψ(x) とする。さらに、有界関数 f ∶ A→ Rは、Aの内部で連続とする。このとき、次が成立。

x↦ ∫ψ(x)

φ(x)f(x, y)dy は [a, b]上の連続関数。

∬Af(x, y)dxdy = ∫

b

a(∫

ψ(x)

φ(x)f(x, y)dy) dx.

補足 11.14右辺の累次積分は、括弧を省略したり、

∫b

adx∫

ψ(x)

φ(x)f(x, y)dy, ∫

b

adx∫

ψ(x)

φ(x)dyf(x, y)

のように記述することもある。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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累次積分 240/385

補足 11.15これまでの議論は、 xを固定した断面を考えて、 yで先に積分するようにしたが、 x と y を入れ替えて、 xで先に積分するようにしても良い。

例 11.16

∬Dx

2y dxdy, D ∶ 0 ≤ x ≤ 1,0 ≤ y ≤

√1 − x2.

D は半径 1の円の内側で、第一象限の部分である。

累次積分に直して計算すると、

∫1

0dx∫

√1−x2

0x

2y dy = ∫

1

0[x2y

2

2 ]y=

√1−x2

y=0dx = ∫

1

0x

2 (1 − x2)2 dx =

115

となる。

同じように、 xで先に積分するようにしても計算できる。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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質問・答え 241/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

238についてです。最初から χA を入れないで式を立ててはいけないのですか?⟶ 断面積を積分するということで定理 1.13の式が理解できるなら、それで OKです。 χA を経由しなくてもかまいません。

長方形の場合に帰着しようとしたら、 χA を使うのが良いというだけです。

238ページの χの扱いがよくわからないのですが、もう一度説明していただけますか?⟶ 同上

238ページでわざわざ特性関数と Bを使って書き直すのはなぜでしょう⟶ 同上

230ページの 3つ目の矢印についてもう一度解説していただきたいです⟶ A = (x, y) ∈ [0,1] × [0,1];x ∈ Q, y ∈ Qは正方形 [0,1]× [0,1]]の中で、 x座標も y座標もともに有理数となっているだけを集めてきたものです。このようにすると、 Sn の方は[0,1] × [0,1]を覆うしかないので、 Sn ≥ 1. また、どんなに小さく区切った正方形でも、Aに含まれるようにはできない(無理数の点がAからはみ出る)ので、 sn = 0 となります。結局、 s∞ = 0, S∞ = 1 となって、面積が確定しません。

レポート課題の Jacobi行列の逆行列で偏導関数が求まるってどういうことですか??前回の授業でやってるかもしれませんが、、、

⟶ 次のページで説明します。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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Jacobi行列で極座標の偏導関数を計算する。 242/385

一般に、∂r

∂x= 1 / ∂x

∂rは成り立たない。では、どのようにするのか?前回の講義スライドも参考に。

極座標 x = r cosθ, y = r sin θ を想定し、 x, y座標を r, θ座標に変換する状況を考える。

x, y は r, θの関数、 r, θ は x, y の関数であるから、

x = x(r(x, y), θ(x, y)), y = y(r(x, y), θ(x, y)) となっている。

左辺は、 f(x, y) = xや f(x, y) = y という (x, y)の関数、右辺は x(r, θ)や y(r, θ) と r(x, y),θ(x, y)を合成して出来る関数とみなして、 2つの式それぞれについて、 x偏微分や y偏微分を計算すると、

I 1 = xrrx + xθθx, 0 = xrry + xθθy, 0 = yrrx + yθθx, 1 = yrry + yθθy

がわかる。(極座標だと) xr, xθ, yr, yθ は具体的に計算できるから、 rx, ry, θx, θy の 4つが未知数である 4本の連立方程式を思ってこれを解けば、 rx, ry, θx, θy が求まる。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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Jacobi行列で極座標の偏導関数を計算する。 243/385

このことを行列の言葉で解釈しなおすと、 I は

(1 00 1) = (xr xθ

yr yθ) (rx ryθx θy

)

であり、右辺の一つ目は Jacobi行列 d(x,y)d(r,θ) , 右辺の二つ目は Jacobi行列 d(r,θ)

d(x,y) である。そして、左

辺は単位行列。つまり、d(r,θ)d(x,y) は、

d(x,y)d(r,θ) の逆行列であれば良い。

d(x,y)d(r,θ) が分かっているときに

d(r,θ)d(x,y) を求めるというのが考えている問題だった。

2 × 2行列の逆行列については公式があるので、それを利用すれば、 d(r,θ)d(x,y) が求まる。

なお、例えば

∂r

∂x= rx =

yθxryθ − xθyr

などとなっており、決して、右辺は 1 / ∂r∂xなどではない。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 8 回

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微分積分学第一・演習 Fクラス(34∼40ユニット)講義第 9回(6/2 :火 10:45–12:25)

担当:柴田 将敬(理学院数学系)

本日のテーマ

重積分と累次積分(続き)

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3重積分 245/385

定義 11.17 (3重積分)R3の集合 V , f ∶ V → Rに対して、 f の V 上の積分

∭Vf(x, y, z)dxdydz

を考えることが出来る。これを3重積分という。より一般に n重積分を考えることも出来る。(単に積分と呼ぶことも多い)。

重積分の性質と同様の性質が、 3重積分に対しても成り立つ。

定義 11.18 (体積)

R3の集合 V に対して、∭

Vdxdydz を V の体積という。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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3重積分 246/385

計算をするためには、やはり、累次積分に帰着すれば良い。例えば、

V ∶ a ≤ z ≤ b, (x, y) ∈ Vz (z を固定した断面が Vz)

となるような a, b, Vz を求めておいて、

∭Vf(x, y, z)dxdydz = ∫

b

adz∬

Vz

f(x, y, z)dxdy

として計算したり、

V ∶ (x, y) ∈D,φ(x, y) ≤ z ≤ ψ(x, y) (x, y を固定したとき zが動く範囲が φ,ψ)

となるようなD,φ,ψ を求めておいて

∭Vf(x, y, z)dxdydz = ∬

Ddxdy∫

ψ(x,y)

φ(x,y)f(x, y, z)dz

として計算できる。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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3重積分 247/385

例 11.19

∭Vdxdydz, V ∶ x2 + y2 + z2

≤ 1. (単位球の体積)

z の動く範囲を考えると、 −1 ≤ z ≤ 1で、 z を固定すると、 x2 + y2≤ 1 − z2

となる。

なので、積分は、

∫1

−1dx∫

x2+y2≤1−z2

dxdy

となる。重積分の部分を計算すれば、

∫x2+y2

≤1−z2dxdy = ∫

√1−z2

−√

1−z2dx∫

√1−z2−x2

−√

1−z2−x2dy = ∫

√1−z2

−√

1−z22√

1 − z2 − x2dy

= ∫a

−a2√a2 − x2 dx = [x

√a2 − x2 + a

2 arcsinxa]

x=a

x=−a= πa

2= π(1 − x

2)

となる。ここで、 a =

√1 − z2 とした。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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3重積分 248/385

従って、求める値は、

∫1

−1π(1 − x

2)dx =4π3

とわかる。

積分の仕方を変更して計算してみる。

(x, y)の動く範囲を考えると x2 + y2≤ 1で、 (x, y)を固定すると、

−√

1 − x2 − y2≤ z ≤

√1 − x2 − y2 であるから、積分は、

∫x2+y2

≤1dxdy∫

√1−x2−y2

−√

1−x2−y2dz = ∫

x2+y2≤1

2√

1 − x2 − y2 dxdy

となる。これを累次積分に直すと、

= ∫1

−1dx∫

√1−x2

−√

1−x22√

1 − x2 − y2 dy

となる。 z と xの文字が違うだけで、先ほどと同じ式なので、あとの計算は同じ。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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重積分の計算 249/385

定義 11.20Aを R2

の集合とする。

有界閉区間 [a, b]上の連続関数 φ,ψで、 [a, b]上 φ ≤ ψ を満たすものを用いて、

A = (x, y);a ≤ x ≤ b,φ(x) ≤ y ≤ ψ(x) (境界を含まなくてもよい)

と表されるとき、Aは縦に単純であるという。また、

A = (x, y);a ≤ y ≤ b,φ(y) ≤ x ≤ ψ(y) (境界を含まなくてもよい)

と表されるとき、Aは横に単純であるという。

補足 11.21本によって、「縦に単純な領域」という用語を使うことがあるが、これは、 vertically simple regionの和訳。

連結開集合を表す「領域」(domain)とは違うので、混乱しないように。

縦に単純: vertically simple, 横に単純: horizontally simple

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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重積分の計算 250/385

さて、重積分∬Af(x, y)dxdy を計算するときAが縦に単純だったり、横に単純だったりすれば、累

次積分に帰着できる。つまり、次のようにすれば良い。

重積分 ∬Af(x, y)dxdy の計算

(a) Aを縦か横に単純な部分A1, . . . ,A` に分割する。

∬Af(x, y)dxdy = ∬

A1

f(x, y)dxdy +⋯+∬A`

f(x, y)dxdy

(b) それぞれのAi 上での積分を累次積分に帰着して計算する。

どのように分割するのか、また、累次積分に帰着する部分をきちんと求めるためにも、Aを図示するのは重要な手続きとなる。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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重積分の計算 251/385

累次積分への帰着

Aが縦に単純とする。このとき、A = (x, y);a ≤ x ≤ b,φ(x) ≤ y ≤ ψ(x)のように表されるはずなので、(i) xの動く範囲 a, bを求める。

(ii) 各 x ∈ [a, b]を固定して、 y の動く範囲 φ(x), ψ(x)を求める。(iii) ∬

Af(x, y)dxdy = ∫b

adx ∫ψ(x)

φ(x) f(x, y)dy となる。

累次積分への帰着

Aが横に単純とする。このとき、A = (x, y);a ≤ y ≤ b,φ(y) ≤ x ≤ ψ(y)のように表されるはずなので、(i) y の動く範囲 a, bを求める。

(ii) 各 y ∈ [a, b]を固定して、 xの動く範囲 φ(y), ψ(y)を求める。(iii) ∬

Af(x, y)dxdy = ∫b

ady ∫ψ(y)

φ(y) f(x, y)dx となる。

あとは、累次積分を具体的に計算すれば良い。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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重積分の計算 252/385

例 11.22

∬Dy dxdy D ∶ x2 + y2

≤ 1, y ≤ x + 1, y ≥ 0.

図から見て取れるように、

xの動く範囲は −1 ≤ x ≤ 1で、 xを固定すると、y の動く範囲は、

0 ≤ y ≤ x + 1 (−1 ≤ x ≤ 0),0 ≤ y ≤

√1 − x2 (0 ≤ x ≤ 1)

となっている。

従って、累次積分にすると、

∫0

−1dx∫

x+1

0y dy + ∫

1

0dx∫

√1−x2

0y dy

となる。あとは計算すれば良い。 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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重積分の計算 253/385

∫0

−1dx∫

x+1

0y dy + ∫

1

0dx∫

√1−x2

0y dy

= ∫0

−1[1

2y2]y=x+1

y=0dx + ∫

1

0[1

2y2]y=

√1−x2

y=0dx

= ∫0

−1

12(x + 1)2

dx + ∫1

0

12(1 − x

2)dx =12 .

x, yの積分の順序を入れ替えて考えると、 yの動く範囲が 0 ≤ y ≤ 1で、 y を固定すると、 xの動く範囲は

y − 1 ≤ x ≤

√1 − y2

となる。なので、重積分を累次積分にすると、

∫1

0dy∫

√1−y2

y−1y dx = ∫

1

0(√

1 − y2−(y−1))y dy = [−13 (1 − y

2)3/2−

13y

3+

12y

2]1

0=

12 .

となる。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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重積分の計算 254/385

計算結果からわかるように、積分の順序によって、途中の計算は異なる。つまり、積分順序によって、計

算が楽になったり難しくなったりすることがある。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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累次積分の順序交換 255/385

重積分の計算において、累次積分は xで先に積分するものと、 yで先に積分するものの両方が使えた。この考え方を使えば、

累次積分(xで先に積分)⟷ 重積分⟷ 累次積分(yで先に積分)

というように変形できる。つまり、累次積分の順序が交換できる。

積分する範囲が長方形の場合は、

∫b

adx∫

d

cf(x, y)dy = ∬

[a,b]×[c,d]f(x, y)dxdy = ∫

d

cdy∫

b

af(x, y)dx

と簡単であるが、積分する範囲が縦に単純かつ横に単純であっても、

∫b

adx∫

ψ(x)

φ(x)f(x, y)dy = ∬

Af(x, y)dxdy = ∫

d

cdy∫

ψ(y)

φ(y)f(x, y)dx

であって、 a, b,φ,ψ と c, d, φ, ψ の関係は簡単ではない。

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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累次積分の順序交換 256/385

∫1

0dy∫

−y+1

y−1f(x, y)dxの積分順序を交換する。

累次積分に対応する積分範囲D は、

D ∶ 0 ≤ y ≤ 1, y − 1 ≤ x ≤ −y + 1

となり、図示すると右図のようになる。

図から見て取れるように、

xの動く範囲は −1 ≤ x ≤ 1で、 xを固定すると、y の動く範囲は、

0 ≤ y ≤ x + 1 (−1 ≤ x ≤ 0),0 ≤ y ≤ −x + 1 (0 ≤ x ≤ 1)

となっている。

従って、累次積分にすると、

∫0

−1dx∫

x+1

0f(x, y)dy + ∫

1

0dx∫

−x+1

0f(x, y)dy

となる。

-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

第 11 節 重積分と累次積分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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第 12節 積分の定義

目標

定積分や重積分の定義と Riemann和について紹介する。

第 12 節 積分の定義 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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Riemann和 258/385

有界閉区間 [a, b]上で関数 f ∶ [a, b] → Rの定積分を考えたい。そのための用語を導入する。

定義 12.1 (分割)[a, b]に対して、 n ∈ Nで、 I1, . . . , In は有界閉区間。

I1 ∪⋯∪ In = [a, b]. i /= j ならば Ii ∩ Ij は高々 1点(つまり、 Ii ∩ Ij の長さは 0)。となっているとき、 I1, . . . , In をまとめて∆で表し、区間 [a, b]の分割という。また、各区間 Ii の長さを ∣Ii∣で表し、 ∣I1∣, . . . , ∣In∣の最大値を ∣∆∣で表す。

補足 12.2 ありとあらゆる分割∆を考えるので、分割によって nは異なる。 ∣∆∣は分割の「細かさ」を表している。

第 12 節 積分の定義 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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Riemann和 259/385

定義 12.3 (Riemann和)分割∆ ∶ I1, . . . , In を一つ考え、 ξi ∈ Ii (i = 1, . . . , n) となる ξi = ξini=1 を考える。

このとき、

R[∆; ξi] ∶=n

∑i=1f(ξi)∣Ii∣

を∆ と ξiに対する f のRiemann和という。

補足 12.4 f(ξi)∣Ii∣ というのは、底辺が Ii, 高さが f(ξi)の長方形の符号付面積になっている。 つまり、符号付面積であるところの ∫b

af(x)dxをR[∆; ξi]で近似している。

第 12 節 積分の定義 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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定積分の定義 260/385

定義 12.5∣∆∣ → 0のとき Riemann和が、∆の取り方や ξiの取り方に関係なく(f, [a, b]だけに依存する)一つの値 J に収束するとき、

J を f の I 上での定積分といい、 ∫b

af(x)dxで表す。

このとき、 f は [a, b]上で可積分であるという。

これは、記号で表せば、

lim∣∆∣→0

R[∆, ξ] = ∫b

af(x)dx

ということである。

第 12 節 積分の定義 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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定積分の定義 261/385

発展的話題

定積分の定義

lim∣∆∣→0

R[∆, ξ] = ∫b

af(x)dx

を、より精確な表現(いわゆる ε-δ論法の考え方)で言い換えると、0に収束する数列 an∞n=1 があって、 ∣∆∣ ≤ an となる∆ と ξiに対しては

»»»»»»»»∫b

af(x)dx −R[∆, ξ]

»»»»»»»»≤

1n

が成り立つということである。

∣∆∣が小さくなると定積分の値に近づいていくというのが表現されているのがわかると思う。

第 12 節 積分の定義 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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重積分の定義 262/385

定義 12.6 (分割)長方形 I = [a, b] × [c, d]に対して、 n ∈ Nで、 I1, . . . , In は長方形。

I1 ∪⋯∪ In = I. i /= j ならば Ii ∩ Ij は ∅か 1点か線分(つまり、 Ii ∩ Ij の面積は 0)。となっているとき、 I1, . . . , In をまとめて∆で表し、 I の(長方形による)分割という。また、各区間 Ii の大きさを diam Ii で表し、 diam I1, . . . ,diam In の最大値を ∣∆∣で表す。

定義 12.7Rn の有界閉集合Aに対して、 x, yがA上を動くときの ∣x − y∣の最大値をAの直径といい、diamAで表す。

diamA ∶= max∣x − y∣;x, y ∈ A

である。

直径: diameter

第 12 節 積分の定義 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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重積分の定義 263/385

定義 12.8 (Riemann和)長方形 I = [a, b] × [c, d] と f ∶ I → Rを考える。

I の分割∆ ∶ I1, . . . , In と、 ξi = (xi, yi) ∈ Ii (i = 1, . . . , n) となる ξi = ξini=1 に対して、

R[∆; ξi] ∶=n

∑i=1f(ξi)∣Ii∣

を∆ と ξiに対する f のRiemann和という。ここで、 ∣Ii∣は Ii の面積である。

補足 12.9 f(ξi)∣Ii∣ というのは、底面が Ii, 高さが f(ξi)の直方体の符号付体積になっている。 つまり、符号付体積であるところの ∫

If(x, y)dxdy をR[∆; ξi]で近似している。

第 12 節 積分の定義 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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重積分の定義 264/385

定義 12.10 (重積分)長方形 I = [a, b] × [c, d] と f ∶ I → Rを考える。

∣∆∣ → 0のとき、 f の Riemann和が、∆の取り方や ξiの取り方に関係なく(f, I だけに依存する)一つの値 J に収束するとき、

J を f の I 上での重積分といい、∬If(x, y)dxdyで表す。

このとき、 f は I 上で可積分であるという。

補足 12.11一般の有界集合A ⊂ I ∶= [−M,M] × [−M,M]上の関数 f ∶ A→ Rに対しては、

f(x, y) = f(x, y) if (x, y) ∈ A,0 if (x, y) /∈ A

というようにした f を考えて、 f が I 上で可積分なときに、 f はA上で可積分といい、

∬Af(x, y)dxdy ∶= ∬

If(x, y)dxdy で重積分を定める。

第 12 節 積分の定義 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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重積分の定義 265/385

積分を定義するときは、長方形を細かい長方形で分割したのであるが、面積確定集合D とD上で可積分な f に対しては、より一般な分割をしても、分割を細かくしていけば、 Riemann和は積分値に収束する。

定理 12.12 (教科書 p.195 6)Aを R2

の面積確定な集合、 f はA上で可積分とする。 n ∈ Nで、 A1, . . . ,An は面積確定な閉集合。

A1 ∪⋯∪An = A. i /= j ならばAi ∩Aj の面積は 0。となっているとき、A1, . . . ,An をまとめて∆で表し、Aの(一般的な)分割という。diamA1, . . . ,diamAn の最大値を ∣∆∣で表す。このとき、Aの分割∆ と ξi ∈ Ai (i = 1, . . . , n)に対して、

lim∣∆∣→0

n

∑i=1f(ξi)∣Ai∣ = ∬

Af(x, y)dxdy

が成り立つ。

第 12 節 積分の定義 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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累次積分への帰着(発展的話題) 266/385

I = [a, b] × [c, d], f ∶→ Rを連続関数としたとき、

∬[a,b]×[c,d]

f(x, y)dxdy = ∫b

adx∫

d

cf(x, y)dy

の証明を紹介する。(教科書 p.197)

[a, b]を a = x0 < x1 < ⋅ ⋅ ⋅ < xm = bでm個に区切って、この分割を∆x とおく。

∣∆x∣ ≤ δ/2 となる程度に細かく区切る。次に、 [c, d]を c = y0 < y1 < ⋅ ⋅ ⋅ < yn = dで n個に区切って、この分割を∆y とおく。

∣∆y∣ ≤ δ/2 となる程度に細かく区切る。この段階で、 I = [a, b]× [c, d]がmn個の Iij = [xi−1, xi]× [yj−1, yj]に分割されたことになる。この分割を∆ とする。そして、作り方から、 xi − xi−1 ≤ δ/2, yj − yj−1 ≤ δ/2 となっているから、 diam Iij ≤ δが成り立っている。つまり、 ∣∆∣ < δ となっている。

次に ∫d

cf(x, y)dy を評価する。

第 12 節 積分の定義 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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累次積分への帰着(発展的話題) 267/385

xi−1 ≤ x ≤ xi に対して、

F (x) ∶= ∫d

cf(x, y)dy =

n

∑j=1

∫yj

yj−1

f(x, y)dy ≤

n

∑j=1

∫yj

yj−1

( maxy∈[yj−1,yj]

f(x, y)) dy

=

n

∑j=1

( maxy∈[yj−1,yj]

f(x, y)) (yj − yj−1) ≤n

∑j=1Mij(yj − yj−1)

が成り立つ。ここで、

Mij ∶= maxx∈[xi−1,xi],y∈[yj−1,yj]

f(x, y)

である。同様にして、

∫b

aF (x)dx =

m

∑i=1

∫xi

xi−1

F (x)dx ≤

m

∑i=1

∫xi

xi−1

n

∑j=1Mij(yj − yj−1)dx

=

m

∑i=1

n

∑j=1Mij(xi − xi−1)(yj − yj−1)

となる。

第 12 節 積分の定義 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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累次積分への帰着(発展的話題) 268/385

ここで、 f は連続であるので、Mij = f(ξij) となる ξij ∈ Iij = [xi−1, xi] × [yj−1, yj] がとれる。以上をまとめると、

∫b

adx∫

d

cf(x, y)dy = ∫

b

aF (x)dx ≤

m

∑i=1

n

∑j=1Mij(xi − xi−1)(yj − yj−1)

=

m

∑i=1

n

∑j=1f(ξij)∣Iij∣ = R(∆, ξij)

となる。 I の分割∆を細かくして(δ を小さくして)極限をとれば、

∫b

adx∫

d

cf(x, y)dy ≤ ∬

If(x, y)dxdy

を得る。同様にして反対の不等式

∫b

adx∫

d

cf(x, y)dy ≥ ∬

If(x, y)dxdy

も示せるので、結論が従う。

第 12 節 積分の定義 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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質問・答え 269/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

246ページのD ってどんな集合なんですか??⟶ D ∶= (x, y) ∈ R2;∃z ∈ R, (x, y, z) ∈ V とか。 V によっては、 z に関して単純になってないかもしれないので、その場合は、 V を分割しておく必要はあります。このD は、言い換えれば、 V の xy平面への直交射影です。

リーマン和の極限で定義されるからリーマン積分と呼ばれるのですか?

⟶ Riemann和、 Riemann積分ともに、 Riemannが導入したのでそのように呼ばれています。 3重積分に関してなのですが、被積分関数の f(x, y, z)が 1のときに、その 3重積分は体積を表す 、という認識で合っていますか?

⟶ 次の問とまとめて答えます。

第 12 節 積分の定義 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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質問・答え 270/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

例題で球の体積とありましたが求めている値は四次元という認識で大丈夫でしょうか?

⟶ 現代的な微分積分学において、Dの面積の定義が ∬Ddxdyで、 V の体積の定義が

∭Vdxdydzです。なので、例で計算したものは、球の体積の定義に基づく計算です。

また、定積分が表すものを感覚的にわかりやすく説明するために、 ∫baf(x)dxが符号付面積だ

と言ったり、 ∬Df(x, y)dxdy は符号付体積だと言ったりします。

しかし、∬Df(x, y)dxdy は 3符号付体積だけを表すわけではありません。積分が何を表すか

は、文脈や f に依ります。

たとえば、 2次元的な物体Dについて、 f(x, y)が (x, y)における密度(g/m2とか)を表して

いるとき、 ∬Df(x, y)dxdy はDの重さになります。

3次元的な物体 V について、 f(x, y, z)が (x, y, z)における密度を表しているとき、∭Vf(x, y, z)dxdydz は V の重さになります。

3重積分を使えば、 4次元的な物体で、グラフと座標平面に挟まれる部分の符号付体積を計算できますが、 3重積分は、 4次元的な物体の量しか表さないわけではありません。

第 12 節 積分の定義 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 9 回

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微分積分学第一・演習 Fクラス(34∼40ユニット)講義第 10回(6/4 :木 8:50–10:30)

担当:柴田 将敬(理学院数学系)

本日のテーマ

重積分の変数変換

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第 13節 重積分の変数変換

目標

重積分の変数変換について学ぶ。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 10 回

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行列式 273/385

定義 13.12 × 2行列Aに対して、

detA = det (a bc d

) ∶= ad − bc

をAの行列式と呼ぶ。

定理 13.2det(AB) = (detA)(detB)が成り立つ。

具体的に計算すれば示せる。

行列式: determinant

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 10 回

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行列式 274/385

定理 13.3Aが逆行列を持つための必要十分条件が detA /= 0になっている。

A = (a bc d

)が逆行列A−1を持つとする。このとき、定理 13.2 より、

(ad − bc)detA−1= detAdetA−1

= detAA−1= det I = det (1 0

0 1) = 1

である。従って、 ad − bc /= 0.

逆に、 ad − bc /= 0 とすると、1

ad − bc( d −b−c a

)

はAの逆行列である。つまり、逆行列が存在する。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 10 回

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行列式 275/385

定理 13.4R2のベクトル (a, b) と (c, d)の張る平行四辺形の面積は ∣ad− bc∣ となる。つまり、ベクトルを並べ

た行列の行列式の絶対値である。

X ∶= (a, b), Y ∶= (c, d) とおくと、X, Y が張る平行四辺形の面積 S は

S = ∣X∣ ∣Y ∣ sin θ

である。ここで、 θ はX と Y のなす角。計算すれば、内積の性質(X ⋅ Y = ∣X∣ ∣Y ∣ cosθ)より、

S2= ∣X∣2∣Y ∣2(1 − cos2

θ) = ∣X∣2∣Y ∣2 − (X ⋅ Y )2

となり、成分で直接計算すると、

∣X∣2∣Y ∣2 − (X ⋅ Y )2= ⋅ ⋅ ⋅ = (ad − bc)2

を得る。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 10 回

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変数変換 276/385

1変数の積分において、変数変換(置換積分)は次のようなものであった。

g をC1級で単調な関数とし、 x = g(t)で置換する。 tが cから dへ変化するとき、 xが aから b

へ変化するとする。

このとき、

∫b

af(x)dx = ∫

d

cf(g(t))g′(t)dt

が成り立つ。

これに対応することを、重積分でやるのが目的である。

1変数の時は、証明は不定積分と合成関数の微分法を用いれば良かった。重積分では、不定積分が使えないので、直接示す必要がある。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 10 回

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変数変換 277/385

定理 13.5変数変換 x = φ(u, v), y = ψ(u, v)によって、D とΩが面積 0の集合を除いて 1対 1で対応しているとき、次が成立する。

∬Df(x, y)dxdy = ∬

Ωf(φ(u, v), ψ(u, v))∣J(u, v)∣dudv.

ただし、以下を満たすとする。

D, Ωは単純な有界閉集合の有限和。 f はD上で連続。

Φ ∶ (u, v) ↦ (φ(u, v), ψ(u, v))はΩを含む領域でC1級。

J(u, v) ∶= ∂φ∂u

(u, v)∂ψ∂v

(u, v) − ∂φ∂v

(u, v)∂ψ∂u

(u, v). 面積 0の集合を除いて、Ω上で J(u, v) /= 0.

補足 13.6

J(u, v) = det Φ′= det (φu φv

ψu ψv)である。これは、ΦのJacobi行列式と呼ばれる。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 10 回

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変数変換 278/385

補足 13.7 要は、変数変換Φによって、D とΩが 1対 1に対応していれば、変数変換が出来る。 同じ部分を二回積分したり、余計な部分を積分したりしないために、 1対 1でΩ とDが対応していなければならない。

変数変換によって伸び縮みする効果が ∣J(u, v)∣になっている。1変数の場合と違って、絶対値が必要。(1変数の積分では向きを考えているので絶対値が不要。詳しくは教科書 p.203参照。)

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 10 回

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変数変換 279/385

例 13.8

∬D(x + y)2

e2x−y

dxdy D ∶ 0 ≤ 2x − y ≤ 1, 0 ≤ x + y ≤ 2.

D は右図。

s = 2x − y, t = x + y

とおくと、

x = (s + t)/3, y = (−s + 2t)/3

であり、この変換 Φ ∶ (s, t) ↦ (x, y) によって、 [0,1] ×[0,2] とDが 1対 1に対応していることがわかる。

J(s, t) = det (xs xtys yt

) = det ( 1/3 1/3−1/3 2/3) =

13

がわかる。 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 10 回

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変数変換 280/385

以上をまとめれば、

∬D(x + y)2

e2x−y

dxdy = ∫1

0ds∫

2

0

t2es

3 dt = ⋅ ⋅ ⋅ =8(e − 1)

9

を得る。

補足 13.9s = ax + by, t = cx + dy というのは、一次変換である。これは、 ad − bc /= 0のとき、単射であり、直線は直線に、平行四辺形は平行四辺形に写す。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 10 回

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極座標変換 281/385

極座標 x = x(r, θ) = r cosθ, y = y(r, θ) = r sin θ によって、Φ(r, θ) = (r cosθ, r sin θ)を定める。

U ∶= [0,∞) × [0,2π) とおく。このとき、

Φ ∶ R2→ R2

はC1級、Φ(U) = R2

、面積 0の集合を除けばU と R2は 1対 1で対応する。

J(r, θ) ∶= det Φ′(r, θ) = rであり、面積 0の集合を除けば U 上で J > 0.となっている。

従って、

Ω ⊂ U , Φ(Ω) =D, D とΩは有界で単純な閉集合。 f はD上で連続。

ならば、

∬Df(x, y)dxdy = ∬

Ωf(r cosθ, r sin θ)r drdθ

が成り立つ。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 10 回

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極座標変換 282/385

例 13.10

∬D(x2

+ y2)y dxdy, D ∶ x2 + y2

≤ 4, y ≥ x.

D は右図。極座標変換を用いると、

0 ≤ r ≤ 2,π

4 ≤ θ ≤5π4

と対応する。

(x, y) = (0,0) と対応する (r, θ) = (0, θ)を除けば 1対1で、これらは面積 0. また、そこでは J(r, θ) = r /= 0でもある。

結局、積分は

∫2

0dr∫

π/5

π/4r

4 sin θ dθ = ⋯ =32

√2

5 .-2 -1 0 1 2

-2

-1

0

1

2

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 10 回

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変数変換の証明 283/385

∬Df(x, y)dxdy = ∬

Ωf(x(u, v), y(u, v))∣J(u, v)∣dudv.

の証明を考える。

簡単のため、Ω = [a, b] × [c, d]を仮定する。Ωの長方形分割を∆ ∶ I1, . . . , In

とする、Di = Φ(Ii) とおくと、∆′ ∶D1, . . . ,Dn

はDの一般的な分割になっている。また、 ∣∆∣ → 0のとき、 ∣∆′∣ → 0 となっている。

補足

ΦがC1級であること、Ωが有界であること、平均値の定理などから、 ∣∆∣ → 0のとき、 ∣∆′∣ → 0

が示せる。考え方は後で述べる ∣Di∣の計算と同じ。しかしながら、きちんと証明するのはちょっと面倒。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 10 回

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変数変換の証明 284/385

分割∆ と、 ξi ∈ Ii となるような ξiに対して、 ξ′i = Φ(ξi) ∈Di とすると、重積分の性質から、

lim∣∆′∣→0

n

∑i=1f(ξ′i)∣Di∣ = lim

∣∆′∣→0R(∆′

, ξi) = ∬Df(x, y)dxdy

となっている。

f(ξ′i)∣Di∣ = f(Φ(ξi))∣Φ(Ii)∣

であるから、

∣Φ(Ii)∣ ∼ ∣J(ξi)∣ ∣Ii∣ (∣∆∣が小さいと近似が良くなって等号へ近づく)

となっていれば、 ∣∆∣ → 0のときに、n

∑i=1f(ξ′i)∣Di∣ ∼

n

∑i=1f(Φ(ξi))∣J(ξi)∣ ∣Ii∣ → ∬

Ωf(Φ(u, v))∣J(u, v)∣dudv

となって、主張が従う。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 10 回

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変数変換の証明 285/385

以後、

∣Φ(Ii)∣ ∼ ∣J(ξi)∣ ∣Ii∣

を示す。 iを固定し、 Ii = [a,a + δ] × [b, b + ε] とおく。 ξi ∈ Ii であれば良かったから、ξi = (a, b) とする。単に ξ と書く。そして、 Ii の 4つの頂点をA = (a, b) = ξ, B = (a + δ, b), C = (a, b + ε), D = (a + δ, b + ε)

とおく。

Φ(A) = (x(a, b), y(a, b))

であるが、一次近似

x(a + δ, b) ∼ x(a, b) + xu(a, b)δ = x(ξ) + xu(ξ)δ, y(a + δ, b) ∼ y(ξ) + yu(ξ)δ

ゆえ、

Φ(B) ∼ (x(ξ) + xu(ξ)δ, y(ξ) + yu(ξ)δ) = Φ(A) + δ(xu(ξ), yu(ξ))

となることがわかる。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 10 回

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変数変換の証明 286/385

他の点についても、同様に一次近似を計算すると、

Φ(C) ∼ Φ(A) + ε(xv(ξ), yv(ξ))Φ(D) ∼ Φ(A) + δ(xu(ξ), yu(ξ)) + ε(xv(ξ), yv(ξ))

となっており、Di = Φ(Ii)は、 δ(xu(ξ), yu(ξ)) と ε(xv(ξ), yv(ξ))の張る平行四辺形で近似されることがわかる。このことと、平行四辺形の面積は行列式で計算できたことから、

∣Di∣ ∼»»»»»»»»det (δxu(ξ) εxv(ξ)

δyu(ξ) εyv(ξ))»»»»»»»»= δε∣det Φ′(ξ)∣ = ∣J(ξ)∣δε = ∣J(ξi)∣ ∣Ii∣

となることがわかる。ここで、 Ii の面積は δεであることに注意。これが欲しい評価であった。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 10 回

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質問・答え 287/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

スライド 277ページ: J(u, v) /= 0は、D とΩ とが一対一対応することと関係していますか⟶ 関係はあります。 J(a, b) /= 0は (a, b)の近くではΦが単射になっていることを意味します。

極座標表示で、 r0 > 0であれば、 J(r0, θ0) /= 0であるので、 (r, θ)が (r0, θ0)の近くだけを動くなら、単射です。しかし、 (r, θ) と (rθ + 2π)は同じ点に対応するので、 (r, θ)が大きな範囲を動くと、単射ではなくなります。

積分順序の交換をするときには、図などを用いて説明することが必要ですか?

⟶ 必要ではないです。しかし、図があると分かりやすいのは確かなので、図を書いた方が、自分

のミスも減るし、読者にとっても親切です。

極座標変換で J = r となるのは自明として良いですか?⟶ はい。覚えて使いましょう。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 10 回

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微分積分学第一・演習 Fクラス(34∼40ユニット)講義第 11回(6/9 :火 10:45–12:25)

担当:柴田 将敬(理学院数学系)

本日のテーマ

重積分の変数変換(続き)

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∫R e−x2

dxの計算 289/385

e−x2

は正規分布や熱方程式の基本解など、応用上しばしば現れる関数である一方、不定積分が具

体的な初等関数で表せない関数でもある。しかし、 R上での広義積分の値は具体的にわかる。これを紹介する。

∫∞

0e−x2

dx =

√π

2 .

R > 0に対して、

A(R) ∶= [0,R] × [0,R], B(R) ∶= (x, y);x ≥ 0, y ≥ 0, x2+ y

2≤ R

2

とおく。B(R) ⊂ A(R) ⊂ B(√

2R)であるから、

a(R) ∶= ∬A(R)

e−x2−y2

dxdy, b(R) ∶= ∬B(R)

e−x2−y2

dxdy

に対して、

b(R) ≤ a(R) ≤ b(√

2R)

が成り立っている。

注: この後の説明も含めて、より分かりやすくするために、講義と少し変えました。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 11 回

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∫R e−x2

dxの計算 290/385

a(R)を、累次積分に直して計算すると、

a(R) = ∫R

0dx∫

R

0e−x2

e−y2

dy = (∫R

0e−x2

dx) (∫R

0e−y2

dy) = (∫R

0e−x2

dx)2

となることがわかる。 b(R)を、極座標変換を用いて計算すると、

b(R) = ∫R

0dr∫

π/2

0e−r2

r dθ = ∫R

0

π

2 re−r2

dr = [−π4 e−r2

]R

0=π

4 (1 − e−R2

)

となる。 b(R) ≤ a(R) ≤ b(√

2R)であったので、

π

4 (1 − e−R2

) ≤ (∫R

0e−x2

dx)2

≤π

4 (1 − e−2R2

)

を得る。符号に注意すれば、√π

4 (1 − e−R2) ≤ ∫

R

0e−x2

dx ≤

√π

4 (1 − e−2R2)

である。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 11 回

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∫R e−x2

dxの計算 291/385

R → ∞ とすれば、はさみうちの原理より、 ∫∞

0 e−x2

dxは広義積分可能であって、

∫R

0e−x2

dx =

√π

2

が成り立つことがわかる。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 11 回

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∫R e−x2

dxの計算 292/385

補足 13.11広義重積分 limr→∞ ∬[0,R]×[0,R] f(x, y)dxdy は広義重積分 ∬[0,∞)×[0,∞) f(x, y)dxdy と呼ぶべきものである。

しかし、区間の場合は [0,R]でRを動かせばよかったが、重積分では、 [0,∞)× [0,∞)での積分を考えるにしても、

(x, y);x ≥ 0, y ≥ 0, x2 + y2≤ R

2でR → ∞. [0,R] × [0,R]でR → ∞. [0,R2] × [0,R]でR → ∞.など、いろんな積分範囲で考えて、同じ値に収束していないと困る。

例えば、 f(x, y)が非負連続関数なら、どのように考えても (∞かもしれないが)同じ値に収束する(つまり、広義積分が意味を持つ)ことが知られている。

広義積分について、詳しくは教科書 p.199を参照。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 11 回

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平行六面体の体積 293/385

3重積分でも変数変換を考えたい。重積分において、変数変換の拡大縮小率は、平行四辺形の面積であった。同様に 3重積分では、平行六面体の体積が出てくる。

定理 13.12ベクトル (a, b, c), (s, t, u), (x, y, z)が張る平行六面体の体積は、

∣atz + bux + csy − auy − bsz − ctx∣

で与えられる。

補足 13.13

det⎛⎜⎜⎝

a b cs t ux y z

⎞⎟⎟⎠∶= atz + bux + csy − auy − bsz − ctxは 3 × 3行列の行列式である。

これは、ベクトルの内積・外積を用いると、 ((a, b, c) × (s, t, u)) ⋅ (x, y, z)でもある。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 11 回

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平行六面体の体積 294/385

以下、

X ∶= (a, b, c), Y ∶= (s, t, u), Z ∶= (x, y, z) とおく。

ベクトルの外積

X × Y = (bu − ct, cs − au,at − bs)

は、X と Y に直交するベクトルであった。これは、内積を計算すればすぐに確認できる。

次を示す。

X × Y の大きさは、X と Y が張る平行四辺形の面積である。

求める面積は、X と Y のなす角を θ とすると、 S ∶= ∣X∣ ∣Y ∣ sin θである。 2次元で平行四辺形の面積を計算したときと同様に、

S2= ∣X∣2∣Y ∣2 − (X ⋅ Y )2

= (a2 + b2 + c2)(s2 + t2 + u2) − (as + bt + cu)2

= 計算 = (bu − ct)2 + (cs − au)2 + (at − bs)2= ∣X × Y ∣2

となる。従って、

∣S∣ = ∣X × Y ∣

を得る。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 11 回

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平行六面体の体積 295/385

X,Y が張る平面をH とおく。H から見て、 Z の高さを ` とすると、求める体積は

V ∶= ∣X × Y ∣ `

である。さて、H の単位法ベクトルを n とする。 Z を n方向のベクトルとH と平行な方向のベクトルv に分解すると、 n方向のベクトルの長さが高さに他ならないから、

Z = ±`n + v, v ⊥ n

である。一方、

Z = (Z ⋅ n)n + (Z − (Z ⋅ n)n)

と変形すると、 (Z − (Z ⋅ n)n) ⋅ n = 0 となっているから、` = ∣Z ⋅ n∣, v = Z − (Z ⋅ n)n

に他ならない。つまり、高さは ∣Z ⋅ n∣である。ここで、X × Y はH の法ベクトルであったから、n =X × Y /∣X × Y ∣ として良い。以上をまとめると、

V = ∣X × Y ∣»»»»»»»»X × Y

∣X × Y ∣ ⋅Z»»»»»»»»= ∣(X × Y ) ⋅Z∣

を得る。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 11 回

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3重積分の変数変換 296/385

定理 13.14D は R3

の有界領域で体積確定、 f(x, y, z) ∶D → Rは有界連続関数とする。変数変換x = x(s, t, u), y = y(s, t, u), z = z(s, t, u)によって、次が成立する。

∭Df(x, y, z)dxdydz

= ∭Ωf(x(s, t, u), y(s, t, u), z(s, t, u)))∣J(s, t, u)∣dsdtdu.

ただし、以下を満たすとする。

Φ ∶ (s, t, u) ↦ (x, y, z)はΩ上C1級、単射、Φ(Ω) =D.

Ωは体積確定な有界領域。 J(s, t, u) ∶= det Φ′. Ω上で J(s, t, u) /= 0, J(s, t, u)は有界。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 11 回

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空間極座標 297/385

定義 13.15x = r sin θ cosφ, y = r sin θ sinφ, z = r cosθによって、 (x, y, z)を (r, θ,φ)で表すとき、 (r, θ,φ)を空間極座標(球座標)という。通常、 r ≥ 0, 0 ≤ θ ≤ π, 0 ≤ φ < 2π とする。

補足 13.16 z軸上の点は、 (r, θ,φ)が一つに定まらない。それ以外では (r, θ,φ)がただ一つ定まる。 r を固定すると、球面を θ,φの座標を用いて表していることになる。

球面に似たような座標を使っている例として、緯度・経度がある。

極座標: polar coordinates, 球座標: spherical coordinates

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 11 回

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空間極座標 298/385

球面(左)を θφ平面(右)に対応させた図。θφ平面の原点は左上で、 θ軸は下向き、 φ軸は右向き。

例えば、 θ = 0は北極、 θ = π は南極である。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 11 回

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空間極座標 299/385

空間極座標では、 J(r, θ,φ) = r2 sin θである。 0 < θ < πであれば、 sin θ > 0 となっている。

補足 13.17R3を大体 1対 1で表せるということで、 r ≥ 0, 0 ≤ θ < 2π, 0 ≤ φ ≤ π を用いる人がいる。

この場合、 ∣J(r, θ,φ)∣ = r2∣ sin θ∣であって、絶対値を外して計算すると間違い。

Jacobi行列式は

J(r, θ,φ) = det⎛⎜⎜⎝

xr xθ xφyr yθ yφzr zθ zφ

⎞⎟⎟⎠=

⎛⎜⎜⎝

sin θ sinφ r cosθ sinφ r sin θ cosφsin θ cosφ r cosθ cosφ −r sin θ sinφ

cosθ −r sin θ 0

⎞⎟⎟⎠

=計算 = r2 sin θ

となっている。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 11 回

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空間極座標 300/385

例 13.18

∭Vdxdydz, V ∶ x2 + y2 + z2

≤ 1.

極座標で変数変換すると、

∫1

0dr∫

π

0dθ∫

0r

2 sin θ dφ = ∫1

0dr∫

π

02πr2 sin θ dθ = ∫

1

04πr2

dr =4π3

となる。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 11 回

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円柱座標 301/385

定義 13.19x = r cosθ, y = r sin θ, z = zによって、 (x, y, z)を (r, θ, z)で表すとき、 (r, θ, z)を円柱座標という。通常、 r ≥ 0, 0 ≤ θ < 2π とする。

補足 13.20 z軸上の点は、 (r, θ, z)が一つに定まらない。それ以外では (r, θ, z)がただ一つ定まる。 J(r, θ, z) = rであり、 z軸以外では J(r, θ, z) > 0 となっている。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 11 回

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質問・答え 302/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

重積分の変数変換で、なぜヤコビ行列式の絶対値が “倍率”のようなものになっているといえるのですか?

⟶ 前回の重積分の変数変換で、変換Φにより、長方形 Ii がΦ(Ii)に対応していて、一次近似をすると、Φ(Ii)の体積は平行四辺形の体積になっていることから、 ∣Φ(Ii)∣ ∼ ∣J∣ ∣Ii∣がわかり、それが最終的な公式に Jacobi行列式が現れる理由だったのでした。3重積分でも同様に、直方体 Ii に対応するΦ(Ii)の体積の一次近似が平行六面体の体積で、それを計算すると、 ∣Φ(Ii)∣ ∼ ∣J∣ ∣Ii∣が出てきます。

ガウス積分のところなんですが不等式使わずに直接計算したらだめでしょうか?

⟶ (∫∞

0e−x2

dx)2= ∬

[0,∞)×[0,∞)e−x2−y2

dxdy = ∫∞

0dr∫

π/2

0re

−r2

のように計算しても良いです。ただし、この計算を正当化しようとすると、次の 3つが必要です。 真ん中の広義重積分の意味をはっきりさせる。 広義重積分でも、これまで同様に累次積分に変形可能であることを確認する。 広義重積分でも、これまで同様に極座標変換できることを確認する。

第 13 節 重積分の変数変換 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 11 回

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微分積分学第一・演習 Fクラス(34∼40ユニット)講義第 12回(6/11 :木 8:50–10:30)

担当:柴田 将敬(理学院数学系)

本日のテーマ

重積分の応用

積分記号下の微分(発展的話題)

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第 14節 重積分の応用

目標

曲線の長さや曲面の面積について学ぶ。

第 14 節 重積分の応用 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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重心 305/385

R3内の集合として表される物体 V を考える。

ρ(x, y, z) ∶= limr→0+

(Br(x, y, z) ∩ V )の質量Br(x, y, z)の体積

を V の (x, y, z)における密度という。このとき、 V の質量は

M = ∭Vρ(x, y, z)dxdydz

で表される。そして、次で定義される (x, y, z)を重心という。

x =1M

∭Vxρ(x, y, z)dxdydz, y =

1M

∭Vyρ(x, y, z)dxdydz,

z =1M

∭Vzρ(x, y, z)dxdydz

物体が二次元的なもの(薄い板など)で、D ⊂ R2で表されるときは、 3重積分の代わりに重積分を

用いて、同様に、重心などが定義される。

第 14 節 重積分の応用 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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曲線の長さ 306/385

定義 14.1 (曲線の長さ)[a, b]を Rの有界閉区間とし、 [a, b]上のC1

級関数 x(t), y(t)に対して、「曲線」

C ∶= (x(t), y(t)); t ∈ [a, b]

を考える。

また、写像 t↦ (x(t), y(t))は、有限個の点を除いて、 [a, b]上で単射であるとする。このとき、

∫b

a

√(x′(t))2 + (y′(t))2 dt

をC の長さという。

長さ: length

第 14 節 重積分の応用 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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曲線の長さ 307/385

補足 14.2この定義が妥当な定義になっているかどうかは別途考慮しなければならない。例えば、

C は同じものなのに、パラメータが違うと長さが変化するようなことは無いか?

線分の長さなど、これまで定義されている長さと一致しているか?

パラメータに依存しないこと

定義の曲線を考える。

φ(s) ∶ [α,β] → [a, b]がC1級、単調増加、 φ(α) = a, φ(β) = b とする。

x(s) = x(φ(s)) y(s) = y(φ(s)) とおくと、C = (x(s), y(s)); s ∈ [α,β] となっている。このとき、

∫β

α

√(x′(s))2 + (y′(s))2 ds = ∫

b

a

√(x′(t))2 + (y′(t))2 dt

である。つまり、パラメータ sを用いても曲線の長さは同じになる。

第 14 節 重積分の応用 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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曲線の長さ 308/385

∫β

α

√(x′(s))2 + (y′(s))2 ds = ∫

b

a

√(x′(t))2 + (y′(t))2 dt

左辺を φを用いて表すと、合成関数の微分法より、

∫β

α

√(x′(φ(s)))2(φ′(s))2 + (y′(φ(s)))2(φ′(s))2 ds

となる。あとは、 φ(s) = t と置いて置換積分すれば、右辺と等しいことがわかる。

第 14 節 重積分の応用 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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曲線の長さ 309/385

例 14.3(a, b) と (c, d)を結ぶ線分の長さは

√(c − a)2 + (d − b)2 である。

線分は、 (x(t), y(t)) = (a + (c − a)t, b + (d − a)t)の、 tが 0から 1 まで動くときの像として表される。あとは、定義に従って計算すれば良い。

第 14 節 重積分の応用 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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曲線の長さ 310/385

例 14.40 ≤ θ ≤ 2π とする。(cos t, sin t); 0 ≤ t ≤ θ の長さは θである。

円弧は、 (x(t), y(t)) = (cos t, sin t)の、 tが 0から θ まで動くときの像として表される。あとは、定義に従って計算すれば良い。

第 14 節 重積分の応用 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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曲線の長さ 311/385

定義 14.5 (空間曲線の長さ)[a, b]を Rの有界閉区間とし、 [a, b]上のC1

級関数 x(t), y(t), z(t)に対して、「曲線」

C ∶= (x(t), y(t), z(t)) ∈ R3; t ∈ [a, b]

を考える。

また、写像 t↦ (x(t), y(t))は、有限個の点を除いて、 [a, b]上で単射であるとする。このとき、

∫b

a

√(x′(t))2 + (y′(t))2 + (z′(t))2 dt

をC の長さという。

第 14 節 重積分の応用 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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曲面の面積 312/385

定義 14.6D を R2

の単純な有界閉集合、D上のC1級関数 x(s, t), y(s, t), z(x, t)に対して、「曲面」

S ∶= (x(s, t), y(s, t), z(s, t)) ∈ R3; (s, t)∈D

の面積は

∬D

»»»»»»»∂Φ∂s

(s, t) × ∂Φ∂t

(s, t)»»»»»»»dsdt

で定義される。

ただし、Φ(s, t) = (x(s, t), y(s, t), z(s, t))であり、ΦはDの境界を除いて、D上で単射、 »»»»»

∂Φ∂s

(s, t) × ∂Φ∂t

(s, t)»»»»» /= 0 とする。

補足 14.7上記の定義はパラメータの取り方に依らないことなども知られている。

第 14 節 重積分の応用 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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曲面の面積 313/385

例 14.8R2の単純な有界閉集合D と、D上のC

1級関数 f(x, y)に対して、 z = f(x, y)のグラフの面

積は

∬D

√1 + (fx(x, y))2 + (fy(x, y))2 dxdy

となる。

求める曲面は、Φ(x, y) = (x, y, f(x, y))の、 (x, y)がD を動くときの像である。従って、

∣Φx × Φy∣2= 1 + (fx)2 + (fy)2

が示せれば良い。偏微分と外積を計算すれば、

Φx = (1,0, fx), Φy = (0,1, fy), Φx × Φy = (−fx,−fy,1)

となるので、

∣Φx × Φy∣2= (fx)2 + (fy)2 + 1

を得る。

第 14 節 重積分の応用 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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曲面の面積 314/385

例 14.9R3の単位球の表面積は 4π.

極座標を用いれば、球面は、D ∶ 0 ≤ θ ≤ π,0 ≤ φ ≤ 2π のΦ(θ,φ) = (sin θ cosφ, sin θ sinφ, cosθ) による像になっている。偏微分と外積を計算すれば、Φθ = (cosθ cosφ, cosθ sinφ,− sin θ), Φφ = (− sin θ sinφ, sin θ cosφ,0),Φθ × Φφ = (sin2

θ cosφ, sin2θ sinφ, sin θ cosθ)

となっているから、

∣Φθ × Φφ∣ = ∣ sin θ∣ = sin θ

である。重積分を計算すれば、

∫π

0dθ∫

0sin θ dφ = 4π

が分かる。

第 14 節 重積分の応用 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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回転体の面積・体積 315/385

Rの有界閉区間 [a, b] と [a, b]上のC1級関数 f を考える。

f は [a, b]上で f > 0を満たしているとき、 y = f(x)のグラフを x軸中心に回転させて出来る回転体の面積は

2π∫b

af(x)

√1 + (f ′(x))2 dx

体積は

∫b

aπf

2(x)dx

となる。(体積については f は連続で良い。)

第 14 節 重積分の応用 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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回転体の面積・体積 316/385

求める曲面は、D ∶ a ≤ x ≤ b,0 ≤ θ ≤ 2π のΦ(x, θ) = (x, f(x) cosθ, f(x) sin θ) による像になっている。偏微分と外積を計算すれば、

Φx = (1, f ′ cosθ, f ′ sin θ), Φθ = (0,−f sin θ, f cosθ),Φx× = (ff ′

,−f cosθ,−f sin θ)

となっているから、

∣Φx × Φθ∣ = ∣f∣√

1 + (f ′)2= f

√1 + (f ′)2

である。重積分を計算すれば、

∫b

adx∫

0f√

1 + (f ′)2 dθ = ∫b

a2πf

√1 + (f ′)2 dx

が分かる。 体積については略。

第 14 節 重積分の応用 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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レポート問題のヒント 317/385

円柱の共通部分 x2 + y2

≤ 1, y2 + z2≤ 1の図。

第 14 節 重積分の応用 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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第 15節 積分記号下の微分

目標

積分を用いて表されている関数の微分について紹介する。

第 15 節 積分記号下の微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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積分記号下の微分 319/385

二つの極限(微分や積分を含む)の順序を交換するというのは、応用上しばしば出てくるわりに、きちん

と正当化するのが面倒である。

Riemann積分において、その順序交換を正当化するための重要な概念が「一様収束」である。さらに、順序交換が出来ることを保証するための使いやすい条件を提供するためには、 Lebesgue積分が用いられる。

大雑把にいって、 Riemann積分可能な関数 fn の極限は Riemann積分可能とは限らないが、Lebesgue積分可能な関数の極限は Lebesgue積分可能であり、 Lebesgue積分の方が極限操作に強い。

例えば、Dirichlet関数は Riemann積分不可能だが、 Riemann積分可能な関数の極限になっている。

例 15.1 (Dirichlet関数)

f(x) = limn→∞

( limk→∞

cos2k(n!πx)) = 1 if x ∈ Q,0 otherwise.

第 15 節 積分記号下の微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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積分記号下の微分 320/385

なにはともあれ、積分と積分の順序交換は累次積分の順序交換で学んだ。極限と積分や極限と微分

の順序交換については、成立するべき式はわかりやすい。

極限と微分・積分の順序交換(詳しくは教科書 p.142)limn→∞ fn(x) = f(x) とする。適切な条件のもと、次が成立する。

limn→∞

∫b

afn(x)dx = ∫

b

alimn→∞

fn(x)dx = ∫b

af(x)dx, f

′(x) = limn→∞

f′n(x).

ここでは、微分と積分の順序交換(積分記号下の微分とも呼ばれる)について学ぶ。成立するべき式は

d

dt∫b

af(x, t)dx = ∫

b

a

∂tf(x, t)dx

である。

第 15 節 積分記号下の微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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積分記号下の微分 321/385

考え方は単純で、 F (t) = ∫baf(x, t)dx とおいて、導関数の定義に従って計算すると、

F′(t) = lim

h→0

F (t + h) − F (t)h

= limh→0

∫baf(x, t + h)dx − ∫b

af(x, t)dx

h

= limh→0

∫b

a

f(x, t + h) − f(x, t)h

dx

となる。ここで、極限と積分の順序交換が出来れば、

= ∫b

alimh→0

f(x, t + h) − f(x, t)h

dx = ∫b

aft(x, t)dx

がわかる。

第 15 節 積分記号下の微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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応用例: 熱方程式の解 322/385

未知関数 u(t, x) と与えられた関数 f(x)に対する偏微分方程式

ut(t, x) = uxx(t, x) for (t, x) ∈ (0,∞) × R,u(0, x) = f(x) for x ∈ R

は熱方程式と呼ばれる。

ここで、 u(t, x)は 1次元的な物体(真空中の針金など)の時刻 t場所 xにおける温度を表し、 f(x)は時刻 t = 0における初期状態を表す。

f が有界連続関数であるとき、熱方程式の解は

u(t, x) = ∫∞

−∞K(t, x − y)f(y)dy

で表される。ただし、 u(0, x) = f(x)は limt→0+ u(t, x) = f(x) と解釈する。ここで、

K(t, x) = 1√4πt

exp(−x2

4t )

は熱方程式の基本解と呼ばれる。

第 15 節 積分記号下の微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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応用例: 熱方程式の解 323/385

u(t, x)が解であることを確かめてみる。まず、直接計算すればわかるように、Kt =Kxx が成り立

つ。なので、

∂tK(t, x − y) =Kt(t, x − y) =Kx(t, x − y) = ∂

2

∂x2K(t, x − y)

となっている。なので、積分記号下の微分が出来るとすると(きっちりやるためには、これが可能かどう

かチェックしなければならない)、

ut =∂

∂t∫

−∞K(t, x − y)f(y)dy = ∫

−∞

∂tK(t, x − y)f(y)dy

= ∫∞

−∞

∂2

∂x2K(t, x − y)f(y)dy =∂

2

∂x2 ∫∞

−∞K(t, x − y)f(y)dy = uxx

となって、方程式を満たしていることがわかる。

第 15 節 積分記号下の微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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応用例: 熱方程式の解 324/385

また、初期条件については、 z = (y − x)/√

4t と変数変換すると、

u(t, x) = ∫∞

−∞

1√4πt

exp(−(x − y)2

4t )f(y)dy = ∫∞

−∞

1√πe−z2

f(x +√

4tz)dz

となっていることから、極限と積分の順序交換が出来れば、

limt→0+

u(t, x) = ∫∞

−∞limt→0+

1√πe−z2

f(x +√

4tz)dz = ∫∞

−∞

1√πe−z2

f(x)dz = f(x)

となることがわかる。 このように、極限と積分の順序交換や微分と積分の順序交換が出来ると、応用上も便利である。

第 15 節 積分記号下の微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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積分記号下の微分 325/385

定理 15.2 (積分記号下の微分)−∞ < a < b < ∞, −∞ < c < d < ∞ とし、 f(x, t)は [a, b] × [c, d]上で連続とする。

このとき、 F (t) = ∫b

af(x, t)dx は [c, d]上で連続である。

さらに、 ft が [a, b] × [c, d]上で連続であれば、次が成立する。

dF

dt(t) = d

dt∫b

af(x, t)dx = ∫

b

aft(x, t)dx (t ∈ [c, d]).

補足 15.3積分が広義積分であるときも、適当な条件下で成立する(教科書 p.249定理 2)。

第 15 節 積分記号下の微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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積分記号下の微分 326/385

微分積分学の基本定理を用いると、

f(x, t) = ∫t

cft(x, s)ds + f(x, c)

である。 ddt

∫baf(x, c)dx = 0に注意して計算すると、

d

dt∫b

af(x, t)dx =

d

dt∫b

a(∫

t

cft(x, s)ds + f(x, c))dx =

d

dt∫b

a(∫

t

cft(x, s)ds)dx

がわかる。 ft は連続であるから、累次積分の順序交換が出来て、(積分範囲が長方形であることにも注意)

=d

dt∫t

c(∫

b

aft(x, s)dx)ds = (∫

b

aft(x, s)dx)

»»»»»»»»s=t= ∫

b

aft(x, t)dx

を得る。ここで、再び微分積分学の基本定理を用いた。

第 15 節 積分記号下の微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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積分記号下の微分 327/385

第 15 節 積分記号下の微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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積分記号下の微分 328/385

より一般的な形は次のようになる。

定理 15.4 (積分記号下の微分)−∞ < a < b < ∞, −∞ < c < d < ∞ とし、 f(x, t), ft(x, t)は [a, b]× [c, d]上で連続とする。さらに、 φ,ψ は区間 I ⊂ [c, d]上でC

1級で、その値域は φ(I), ψ(I) ⊂ [c, d]を満たすとする。

このとき、 t ∈ I に対して、次が成立する。

d

dt∫ψ(t)

φ(t)f(x, t)dt = f(x,ψ(t))ψ′(t) − f(x,φ(t))φ′(t) + ∫

ψ(t)

φ(t)ft(x, t)dx.

証明のアイデア

F (u, v, t) ∶= ∫v

uf(x, t)dt として、合成関数の微分法や前定理を用いて、

d

dt(F (φ(t), ψ(t), t))

を計算すれば良い。

第 15 節 積分記号下の微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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応用例 329/385

例 15.5t ≥ 0に対して、

f(x) = (∫t

0e−x2

dx)2

, g(t) = ∫1

0

e−(1+x2)t2

1 + x2 dx とおく。

(i) t > 0で f′(t) + g′(t) = 0を示せ。

(ii) f(0) + g(0) = π/4を示せ。

(iii) ∫∞

0 e−x2

dx =√π/2を示せ。

なお、 f , g の連続性や limt→∞ g(t) = 0は用いて良い。

計算は各自確認。

第 15 節 積分記号下の微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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質問・答え 330/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

重心のイメージ的理解はできますか

⟶ 例えば、二次元的な物体(板状のもの)であれば、重心に糸を結びつけると、物体を傾けずに

ぶら下げることができます。私からはその程度。物理に関する本や webサイトを参考にしてみて下さい。

微積分学の基本定理ってどのようなやつですか?

⟶ スライドの p.81を参照して下さい。連続関数にとって、原始関数と不定積分が同じという定理です。

回転体の面積を求める際に使ったθはどこの角度ですか?

⟶ xを固定したとき、回転体は yz平面上の円を動くので、 yz平面で極座標(f(x) cosθ, f(x) sin θ)を使っています。

熱方程式の基本解は他の解と比べて何が基本なのですか

⟶ ある種、一番単純な初期条件に対する解になっているという意味で基本解と呼ばれている

のだと思います。ただ、その初期条件の関数は、 Diracの δ関数と呼ばれるものなので、少し理解しにくいものではあるのですが・・・。

ちなみに、 δ関数を Fourier変換すると、 1 という定数関数なので、まあ、これが単純だというのは納得できる、かも。

第 15 節 積分記号下の微分 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 12 回

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微分積分学第一・演習 Fクラス(34∼40ユニット)講義第 13回(6/16 :火 10:45–12:25)

担当:柴田 将敬(理学院数学系)

本日のテーマ

多変数関数の最大値・最小値(発展的話題)

Taylorの定理(発展的話題)

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第 16節 多変数関数の最大値・最小値

目標

多変数関数でどのように最大値・最小値を求めるかを考える。

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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最大値・最小値の求め方 333/385

与えられた関数の最大値や最小値を求めるというのは、微分積分学の基本的な応用の一つである。

最大値・最小値の求め方(1変数関数)f は有界閉区間 [a, b]上で定義された連続関数で、開区間 (a, b)で微分可能とする。このとき、 fが最大値・最小値をとる点は、端点と (a, b)上の f の臨界点に限られる。

これは、内部で最大値・最小値をとれば、そこは臨界点となることが理由である。

実際、 x0 ∈ (a, b)で最大値を取るなら、 h > 0に対してf(x0 + h) − f(x0)

h≤ 0,

f(x0 − h) − f(x0)−h

≥ 0

となる。 h→ 0 とすると、

f′(x0) ≤ 0, f

′(x0) ≥ 0,

なので、 x0 は臨界点。最小値のときも同様。

多変数関数でもこの状況は同じこととなる

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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最大値・最小値の求め方 334/385

定義 16.1 (臨界点)U は R2

の開集合、 f(x, y) ∶ U → RはC1級、 (a, b) ∈ U とする。

fx(a, b) = fy(a, b) = 0であるとき、 (a, b)を f の臨界点という。

定理 16.2U は R2

の開集合、 f(x, y) ∶ U → RはC1級、 (a, b) ∈ U とする。

f が (a, b)で最大値か最小値を取るなら、 (a, b)は f の臨界点となる。

証明:

(a, b)で最大値となるとき、 x↦ f(x, b)は x = aで最大値をとるから、 fx(a, b) = 0.同様に fy(a, b) = 0 もわかる。最小値を取るときも同様。

臨界点: critical point

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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最大値・最小値の求め方 335/385

最大値・最小値の求め方(2変数関数)f は有界閉集合D上で定義された連続関数で、その内部 U (Dの内点全体のこと)上で微分可能とする。このとき、 f がD上で最大値・最小値をとる点は、境界上の点か、U 上の臨界点に限られる。

この主張は正しいわけだが、 1変数の場合と異なり、境界と一言で言っても、それは有限個の点ではないので、一つ一つの点での値を具体的に代入して比較することが出来ない。なので、境界上での最大

値・最小値を求めるためには、もう一工夫が必要である。

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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最大値・最小値の求め方 336/385

例 16.3有界閉集合D ∶ x2 + y2

≤ 1上でC1級な関数 f (D を含む開集合上でC

1級な関数のこと)の

最大値・最小値を求めよ。

先に述べたように、次の手順で計算すれば良い。

U ∶ x2 + y2< 1上で f の臨界点を求め、そこでの値を具体的に計算する(最大値・最小値の

候補となる)。

境界 x2 + y2

= 1上で f の最大値・最小値を求める。

上記で求めた値を全て比較し、一番大きいものが最大値、一番小さいものが最小値。

では、境界上ではどのようにするか?

答えは簡単。

境界を具体的にパラメータで表せば良い。

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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最大値・最小値の求め方 337/385

実際、パラメータ tを用いて t↦ (cos t, sin t)を考えると、これは x2 + y2= 1全体を滑らかに動い

ている。

なので、 R上で定義された関数 g(t) ∶= f(cos t, sin t)の最大値・最小値は、 f の x2 + y2= 1

上での最大値・最小値に一致する。

従って、 gの臨界点を求めればそれで十分である。(さらに、周期性から、 t ∈ [0,2π)で十分である。)

境界での最大値・最小値の求め方

境界上の点をパラメータ tを用いて (x(t), y(t)) として表し、合成関数 g(t) ∶= f(x(t), y(t))の臨界点を求めれば良い。

具体的にパラメータで表せないときはどうしたら良いか?その時に使える方法が、 Lagrangeの乗数法である。

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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Lagrangeの乗数法 338/385

定理 16.4 (Lagrangeの乗数法(教科書 p.178定理 15))f , φを Rn 上のC1

級関数とする。

A ∶= x ∈ Rn;φ(x) = 0とし、A上で考えるとき f が a ∈ Aで最大値・最小値をとると仮定する。

このとき、 φ′(a) /= 0ならば、

f′(a) = λφ′(a)

をみたすような λ ∈ Rが存在する。

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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Lagrangeの乗数法 339/385

f , φを Rn 上のC1級関数とする。

A ∶= x ∈ Rn;φ(x) = 0 とし、A上で f の最大値・最小値を考える。

このとき、 a と λを未知数とする方程式

f′(a) = λφ′(a),φ(a) = 0

の解と、 aを未知数とする方程式

φ′(a) = 0,φ(a) = 0

の解が、最大値・最小値を取る点の候補となる。

補足 16.5最大値・最小値があれば、上記が候補の全てである。Aが有界でないときは、最大値や最小値が無いこともありうる。

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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Lagrangeの乗数法 340/385

簡単のため、 n = 2 として Langrangeの乗数法の証明をする。

定理 16.6 (Lagrangeの乗数法(教科書 p.178定理 15))f , φを R2

上のC1級関数とする。

A ∶= (x, y) ∈ R2;φ(x, y) = 0 とし、A上で考えるとき f が (a, b) ∈ Aで最大値・最小値をとると仮定する。

このとき、 (φx(a, b), φy(a, b)) /= (0,0)ならば、

(fx(a, b), fy(a, b)) = λ(φx(a, b), φy(a, b))

をみたすような λ ∈ Rが存在する。

Aが、 (a, b)の近くでは、パラメータを用いて (x(t), y(t))で表されており、(x(0), y(0)) = (a, b), (x′(0), y′(0)) /= (0,0)を満たすとして証明を始める。

補足 16.7そのようなパラメータ表示を持つための十分条件が φ

′(a, b) /= (0,0)である。そして、パラメータ表示が出来ことを保証する定理は、陰関数定理である。

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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Lagrangeの乗数法 341/385

証明: t↦ f(x(t), y(t))が t = 0で最大値・最小値を取ることから、d

dtf(x(t), y(t)) »»»»»»t=0

= fx(a, b)x′(0) + fy(a, b)y′(0) = 0

つまり、

f′(a, b) ⋅ (x′(0), y′(0)) = 0

であり、 f′(a, b)は (x′(0), y′(0)) と直交している。一方、 (x(t), y(t))はAのパラメータ表示だ

から、

φ(x(t), y(t)) ≡ 0

である。したがって、

ddtφ(x(t), y(t)) »»»»»»t=0

= 0

であり、上と同様に、

φ′(a, b) ⋅ (x′(0), y′(0)) = 0

を得る。

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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Lagrangeの乗数法 342/385

ここで φ′(a, b)や (x′(0), y′(0))は零ベクトルではないから、 f ′(a, b) と φ′(a, b)は平行であり、

f′(a, b) = λφ′(a, b)

となる λが存在する。

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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Lagrangeの乗数法 343/385

例 16.8α < β < γ とする。 φ(x, y, z) = x2 + y2 + z2 − 1 = 0上で、 f(x, y, z) = αx2 + βy2 + γz2

の最大値・最小値を求めよ。

(x, y, z)で f が最大値・最小値をとるとする。 Lagrangeの乗数法より、 (x, y, z)は

I φ′(x, y, z) = (0,0,0),φ(x, y, z) = 0,

を満たすか、ある λ ∈ Rに対して

II f′(x, y, z) = λφ′(x, y, z),φ(x, y, z) = 0,

を満たす。 I は、

III (2x,2y,2z) = (0,0,0), IV x2 + y2 + z2

= 1

の意味だから、 III より x = y = z = 0であり、 IV を満たさない。つまり、 I は解を持たない。

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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Lagrangeの乗数法 344/385

ある λ ∈ Rに対して、 II を満たすとする。このときは、

V αx = λx, VI βy = λy, VII γz = λz, IV x2 + y2 + z2

= 1,

が従う。 λ /= α,β, γ の場合、 V – VII より、 x = y = z = 0 となるが、これは IV を満たさない。つまり、 λは α,β, γ のいずれかに等しい。

λ = α とすると、 VI , VII より y = z = 0で、 IV より x = ±1 となる。これは II の解。λ = β, γ も同様にすると、結局、

(x, y, z, λ) = (±1,0,0, α), (0,±1,0, β), (0,0,±1, γ)

が解である。以上をまとめると、最大値・最小値を与える点の候補は、

(x, y, z) = (±1,0,0), (0,±1,0), (0,0,±1)

に限られる。値を比較すれば、

(±1,0,0)で最小値 α, (0,0,±1)で最大値 γ

を得る。

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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強圧的な場合 345/385

非有界な集合、例えば、 Rn 全体で定義された関数の最大値・最小値を求める問題を考える。

定義 16.9f ∶ Rn → Rを考える。

任意の c ∈ Rに対して、 x ∈ Rn;f(x) ≤ cが有界集合であるとき、 f は強圧的という。

補足 16.10lim∣x∣→∞ f(x) = ∞ ⇔ f は強圧的。

強圧的: coercive

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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強圧的な場合 346/385

定理 16.11f ∶ Rn → Rが強圧的、連続ならば、 f は Rn 上で最小値を持つ。さらに、 f がC

1級であれば、 f の臨界点が最小点の候補となる。

証明:

A ∶= x ∈ Rn;f(x) ≤ f(0)

は 0 ∈ Aなので空集合ではなく、 f が強圧的だから有界であり、 f が連続なので閉集合である。従って、A上で f は最小値mをとる。 f(x0) =m とすると、m ≤ f(0) となっている。ここで、

m ≤ f(x) (x ∈ A), m ≤ f(0) < f(x) (x /∈ A)

となっているから、mは Rn 上での f の最小値であることがわかる。

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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強圧的な場合 347/385

例 16.12R2上で f(x, y) = x4 − 4xy + y4

を考えると、最小値は −2

まず、強圧的となっていることを確認する。 ∣(x, y)∣ =√x2 + y2 → ∞であるとき、 f(x, y) → ∞ と

なっていることが分かれば良い。

相加相乗平均の関係 a + b ≥ 2√ab (a, b ≥ 0)を用いて、 f を下から評価する。

f(x, y) = x4 + 4 − 4xy + y4 + 4 − 8 ≥ 2√

4x4 + 2√

4y4 − 4xy − 8= 4x2 + 4y2 − 4xy − 8 = 2(x2 + y2) + 2(x − y)2 − 8≥ 2(x2 + y2) − 8

となるから、√x2 + y2 → ∞のとき、 f(x, y) → ∞ となることがわかる。従って、 f(x, y)は強圧的

である。

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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強圧的な場合 348/385

さて、 f は強圧的でC1級であるから、臨界点で最小値をとる。臨界点を求めると、

fx = 4(x3 − y) = 0, fy = 4(y3 − x) = 0

より、 x = 0ならば y = 0。x /= 0ならば

x = y3= x

9

となり、 x = ±1 = y を得る。従って、臨界点は

(0,0), (1,1), (−1,−1)

の 3点。 f の値はf(0,0) = 0, f(1,1) = f(−1,−1) = −2

であるから、最小値は 2.

第 16 節 多変数関数の最大値・最小値 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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第 17節 Taylorの定理(発展的話題)

目標

Taylorの定理により、関数を多項式で近似する方法を学ぶ。

第 17 節 Taylor の定理(発展的話題) 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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関数の近似 350/385

与えられた関数を、多項式などより分かりやすい関数で表す・近似するというのは、様々な状況で便利

である。

Fourier級数関数 f(x)を三角関数や多項式の和で近似したり無限和で表したりする。与えられた有界区間 [a, b]で、ある意味、平均的に誤差が小さくなるように近似する。いわゆる「Fourier解析」である。

多項式補完

与えられた (a0, b0), . . . , (an, bn)に対して、 f(ai) = bi (i = 0, . . . , n) となる n次多項式を求める。

「数値解析」の本で扱われる。

ここでは、 Taylorの定理による近似を紹介する。

第 17 節 Taylor の定理(発展的話題) 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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Taylorの定理 351/385

定理 17.1 (Taylorの定理)f は開区間 I 上で n ∈ N回微分可能で f

(n)は連続(つまり f は I 上でC

n級)とする。 a,x ∈ I

に対して、

f(x) = f(a) + f ′(a)(x − a) + f′′(a)2 (x − a)2

+⋯+f(n−1)(a)(n − 1)! (x − a)n−1

+Rn

が成り立つ。ここで、Rn = ∫x

a

f(n)(t)

(n − 1)!(x − t)n−1dtである。

補足 17.2 Rn は剰余項と呼ばれる。積分を使わない表示も良く知られている。(教科書 p.45定理 4) limx→a(Rn(x) − f (n)(a)/n!)/(x − a)n = 0である。

第 17 節 Taylor の定理(発展的話題) 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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関数の近似 352/385

Taylorの定理より、

2次近似

f(x) ∼ f(a) + f ′(a)(x − a) + f′′(a)2 (x − a)2 (x→ a)

のように、 aの近くで f を多項式で近似することが出来る。(次数が高くなれば、より良い近似になる。)

また、 limn→∞Rn(x) = 0が成り立つなら、

f(x) =∞

∑n=0

f(n)(a)n! (x − a)n

のように、関数を無限和で表すことも出来る。

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質問・答え 353/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

強圧的の図形的イメージはありますか?

⟶ ∣(x, y)∣が大きくなると f(x, y)はどんどん大きくなるという感じ。 強圧的な関数は変数を無限に飛ばして f が∞に発散するという認識で正しいでしょうか

⟶ 良いと思います。 lim∣x∣→∞ f(x) = ∞ と強圧的が同値です。

(p.347の説明で)ルートをつけるのには何か特別な意味があったりしますか?⟶

√x2 + y2

= ∣(x, y)∣ → ∞なのでルートをつけてます、ただ、 x2 + y2= ∣(x, y)∣2

→ ∞と√x2 + y2 → ∞は同値なので、 x2 + y2

→ ∞ として考えても同じです。

第 17 節 Taylor の定理(発展的話題) 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 13 回

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微分積分学第一・演習 Fクラス(34∼40ユニット)講義第 14回(6/18 :木 8:50–10:30)

担当:柴田 将敬(理学院数学系)

本日のテーマ

Taylorの定理(発展的話題)続き 不等式(発展的話題)

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Taylorの定理 355/385

定理 17.3 (Taylorの定理)f は開区間 I 上で n ∈ N回微分可能で f

(n)は連続(つまり f は I 上でC

n級)とする。 a,x ∈ I

に対して、

f(x) = f(a) + f ′(a)(x − a) + f′′(a)2 (x − a)2

+⋯+f(n−1)(a)(n − 1)! (x − a)n−1

+Rn

が成り立つ。ここで、Rn = ∫x

a

f(n)(t)

(n − 1)!(x − t)n−1dtである。

補足 17.4 Rn は剰余項と呼ばれる。積分を使わない表示も良く知られている。(教科書 p.45定理 4) limx→a(Rn(x) − f (n)(a)(x − a)n/n!)/(x − a)n = 0である。

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Taylorの定理 356/385

例 17.5α ∈ Rは定数とする。

ex= 1 + x +

x2

2! +⋯+xn

n! +Rn+1 (x ∈ R),

sinx = x −x

3

3! +x

5

5! −⋯+ (−1)n x2n+1

(2n + 1)! +R2n+2 (x ∈ R),

cosx = 1 −x

2

2! +x

4

4! −⋯+ (−1)n x2n

(2n)! +R2n+1 (x ∈ R),

11 − x

= 1 + x + x2+⋯+ x

n+Rn+1 (∣x∣ < 1),

log(1 + x) = x −x

2

2 +x

3

3 −⋯+ (−1)n−1xn

n +Rn+1 (∣x∣ < 1),

(1 + x)α = 1 +αx +α(α − 1)

2! x2+⋯+

α(α − 1)⋯(α − n + 1)n! +Rn+1 (∣x∣ < 1),

第 17 節 Taylor の定理(発展的話題) 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 14 回

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Taylorの定理 357/385

Taylorの定理を証明する。

f(x) = f(a) + f ′(a)(x − a) + f′′(a)2 (x − a)2

+⋯+f(n−1)(a)(n − 1)! (x − a)n−1

+Rn

Rn = ∫x

a

f(n)(t)

(n − 1)!(x − t)n−1dt

を示したい。 n = 1の場合は、微分積分学の基本定理より、

f(x) = f(a) + ∫x

af′(t)dt = f(a) +R1

となり、成立。

f がCn+1級で、 nで成立すると仮定すると、部分積分により、

Rn = [−(x − t)nn! f

(n)(t)]t=x

t=a

+ ∫x

a

f(n+1)(t)n! (x − t)n dt = (x − a)n

n! f(n)(a) +Rn+1.

従って、数学的帰納法により Taylorの定理が証明される。

第 17 節 Taylor の定理(発展的話題) 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 14 回

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Taylorの定理 358/385

f(n)が連続であるとき、 limx→a(Rn − f (n)(a)(x − a)n/n!)/(x − a)n = 0

を示す。

∫x

a

(x − t)n−1

(n − 1)! f(n)(a)dt = (x − a)n

n! f(n)(a)

である。また、

M(x) = maxa≤t≤x ∣f (n)(t) − f (n)(a)∣

とおくと、M(x) → 0 (x→ a)である。以上より、»»»»»»»»Rn −

(x − a)nn! f

(n)(a)»»»»»»»»≤

»»»»»»»»»∫x

a

∣x − t∣n−1

(n − 1)! M(x)dt»»»»»»»»»=

∣x − a∣nn! M(x)

となる。従って、

1∣x − a∣n

»»»»»»»»Rn −

(x − a)nn! f

(n)(a)»»»»»»»»≤M(x)n! → 0(x→ a).

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Taylorの定理 359/385

補足 17.6

前の結果から、Rn

(x − a)n−1 → 0 (x→ a) も示せる。

説明は略。

第 17 節 Taylor の定理(発展的話題) 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 14 回

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応用 360/385

例 17.7

limx→0

( 1x2 −

1sin2 x

) = −13 .

sinxに対して Taylorの定理や補足などを使えば、

sinx = x −x

3

6 +R4

となる。そして、R4/x3→ 0 (x→ 0)がわかる。あとは計算すれば、

1x2 −

1sin2 x

=sin2

x − x2

x2 sin2 x=

(x − x3/6 +R4)2 − x2

x2(x − x3/6 +R4)2

=−1/3 + x2/36 +R2

4/x4 + 2R4/x3 −R4/3x(1 − x2/6 +R4/x)2

となる。R4/x = x2R4/x3

→ 0, R4/x2= xR4/x3

→ 0であるから、極限をとれば、

−1/3 + x2/36 +R24/x4 + 2R4/x3 −R4/3x

(1 − x2/6 +R4/x)2 → −13 (x→ 0).

第 17 節 Taylor の定理(発展的話題) 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 14 回

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応用 361/385

例 17.8

∫x

0e−t2

dt =∞

∑n=0

(−1)nn!

x2n+1

2n + 1 .

exに対して Taylorの定理を使って、各 xを固定するとRn → 0 (n→ ∞)が示せるので、

ex=

∑n=0

xn

n! (x ∈ R)

となっている。 x = −t2 とおくと、

e−t2

=

∑n=0

(−1)nt2nn! (t ∈ R)

がわかる。これを使うと、

∫x

0e−t2

dt = ∫x

0

∑n=0

(−1)nt2nn! dt =

∑n=0

∫x

0

(−1)nt2nn! dt

がわかる。ここで、無限和と積分の順序交換は、級数の性質を使うと正当化できる。

第 17 節 Taylor の定理(発展的話題) 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 14 回

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応用 362/385

あとは計算すれば、

∑n=0

∫x

0

(−1)nt2nn! dt =

∑n=0

(−1)nn!

x2n+1

2n + 1

を得る。

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第 18節 不等式(発展的話題)

目標

相加相乗平均の関係など、代表的な不等式について学ぶ。

第 18 節 不等式(発展的話題) 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 14 回

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不等式 364/385

これまでの講義でもしばしば利用してきた。

不等式の主な利用法としては、

大まかな評価によって不要な情報をそぎ落とす。

最大値や最小値の証明に使う。

の二つがある。

ここでは、いくつかの有名な不等式を紹介する。

第 18 節 不等式(発展的話題) 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 14 回

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不等式 365/385

例 18.1»»»»»»»»»sinx − (x −

x3

6 )»»»»»»»»»≤

∣x∣5

5! .

このことから、 sinxは x − x3/6で近似され、誤差は高々 ∣x∣5/5!であることがわかる。

証明: Taylorの定理より

sinx − (x −x

3

6 ) = R5

であるから、

R5 = ∫x

0

(x − t)4

4! ( d5

dt5sin t) dt

を評価すれば良い。

第 18 節 不等式(発展的話題) 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 14 回

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不等式 366/385

»»»»»»»»»d

5

dt5sin t

»»»»»»»»»=

»»»»»»»»sin (t + 5π

2 )»»»»»»»»≤ 1

を用いて評価すれば、

∣R5∣ ≤»»»»»»»»»∫x

0

∣x − t∣4

4! dt»»»»»»»»»=

∣x∣5

5!

がわかる。

第 18 節 不等式(発展的話題) 微分積分学第一・演習 F クラス 講義 第 14 回

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不等式 367/385

例 18.2

f(x) = x +1x (x > 0)の最小値は 2.

相加相乗平均の関係より、

f(x) ≥ 2√x

1x = 2

となる。これは、 f の最小値が(あれば) 2以上であることを意味する。また、等号成立の条件は x = 1/xであるから、 x = 1 としてf(1) = 2

がわかる。これは、最小値が(あれば) 2以下であることを意味する。以上より、最小値が(あれば) 2であることがわかる。実際に f(1) = 2だから、 2は最小値である。

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不等式 368/385

補足 18.3問題と不等式の使い方によっては、最小値(最大値)が上手く求まるとは限らない。

例えば、

f(x) = x +2x + x

2+

1x2 (x > 0)

の場合、

f(x) ≥ 2√x

2x + 2

√x2 1x2 = 2

√2 + 2 = 4.82843...

がわかる。だから最小値が(あれば) 2√

2 + 2以上である。しかし、これは最小値にはなっていない。最小値は具体的には表しにくいが、数値的に求めると、

x = 1.09514...のとき f(x) = 4.95452... > 4.82843...

である。

このように、不等式による評価は、あくまで一方向の評価である。

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凸関数 369/385

定義 18.4Rの区間 I と f ∶ I → Rを考える。

f(tx + (1 − t)y) ≥ tf(x) + (1 − t)f(y) (x, y ∈ I, t ∈ [0,1])

が成り立つとき、 f は(下に)凸であるという。

f(tx + (1 − t)y) < tf(x) + (1 − t)f(y) (x, y ∈ I, x /= y, t ∈ (0,1))

が成り立つとき、 f は(下に)狭義凸であるという。

補足 18.5 狭義凸ならば凸である。

I 上で f′′(x) ≥ 0 (x ∈ I)ならば凸、 f ′′(x) > 0 (x ∈ I)ならば狭義凸となる。

凸であるためには、 f の連続性や微分可能性が無くても良い。

凸: covnex, 狭義凸: strictly convex

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凸関数 370/385

定理 18.6 (Jensenの不等式)I を Rの区間、 f ∶ I → Rは凸関数とする。x1, . . . xn ∈ I, α1, . . . , αn ∈ (0,1), α1 + ⋅ ⋅ ⋅ +αn = 1であるとき、

f (n

∑i=1αixi) ≤

n

∑i=1αif(xi)

が成り立つ。

さらに、 f が狭義凸で、等号が成立するならば、 x1 = ⋅ ⋅ ⋅ = xn である。

補足 18.7n = 2の時は、凸や狭義凸の定義からすぐに従う。

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凸関数 371/385

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凸関数 372/385

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Youngの不等式 373/385

定理 18.8 (Youngの不等式)p, q ∈ (1,∞), 1/p + 1/q = 1 とする。

a, b ≥ 0に対して

ab ≤ap

p +bq

q

が成り立つ。等号成立は ap= b

qのとき。

a, b > 0で確かめれば良い。f(x) = − logxは f ′′(x) = 1/x2

> 0であるので、 (0,∞)上で凸。Jensenの不等式を用いれば、f(tap + (1 − t)bq) ≤ tf(ap) + (1 − t)f(bq).

t = 1/p とおいて計算すれば良い。

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Youngの不等式 374/385

計算すると、

− log (1pa

p+

1qb

q) ≤ − log(ab)

となり、

ab ≤1pa

p+

1qb

q

を得る。

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相加平均・相乗平均 375/385

定義 18.9 (相加平均)n ∈ N, n ≥ 2, a1, . . . an ∈ Rに対して

a1 + ⋅ ⋅ ⋅ + ann

を a1, . . . , an の相加平均という。

定義 18.10 (相乗平均)n ∈ N, n ≥ 2, a1, . . . an ≥ 0に対して

n√a1 ⋅ ⋅ ⋅ an

を a1, . . . , an の相乗平均という。

相加平均: arithmetic mean, 相乗平均: geometric mean

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相加平均・相乗平均 376/385

定理 18.11 (AM-GM不等式)n ∈ N, n ≥ 2, a1, . . . an ≥ 0に対して

a1 + ⋅ ⋅ ⋅ + ann ≥ n

√a1 ⋅ ⋅ ⋅ an

が成り立つ。等号成立は a1 = ⋅ ⋅ ⋅ = an のとき。

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相加平均・相乗平均 377/385

f(x) = − logxは狭義凸である。 Jensenの不等式を使うと、

− log ( 1na1 + ⋅ ⋅ ⋅ +

1nan) ≤ −

1n loga1 − ⋅ ⋅ ⋅ −

1n logan

を得る。このことから、 AM-GM不等式が従う。

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累乗平均 378/385

定義 18.12n ∈ N, n ≥ 2, r /= 0, a1, . . . , an ≥ 0に対して、

Mr(a1, . . . , an) = (ar1 + ⋅ ⋅ ⋅ + arn

n )1/r

は累乗平均と呼ばれる。

補足 18.13r = 1は相加平均、 r = −1は調和平均である。

調和平均: harmonic mean

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累乗平均 379/385

定理 18.14 (AM-GM不等式の一般化)n ∈ N, n ≥ 2, −∞ ≤ r < s ≤ ∞, a1, . . . , an ≥ 0に対して、

Mr(a1, . . . , an) ≤Ms(a1, . . . , an)

が成り立つ。等号成立は a1 = ⋅ ⋅ ⋅ = an のとき。ただし、

M0(a1, . . . , an) = n√a1 ⋅ ⋅ ⋅ an,

M∞(a1, . . . , an) = maxa1 ⋅ ⋅ ⋅ an,M−∞(a1, . . . , an) = mina1 ⋅ ⋅ ⋅ an とする。

補足 18.15重みw1, . . . ,wn > 0を用いて平均を一般化した

Mr(a1, . . . , an) = (w1ar1 + ⋅ ⋅ ⋅ +wna

rn

w1 + ⋅ ⋅ ⋅ +wn)

1/r

を考えても、上記の不等式は成り立つ。

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Cauchy-Schwarzの不等式 380/385

定理 18.16 (Cauchy-Schwarzの不等式)n ∈ N, n ≥ 2, a1, . . . , an, b1, . . . , bn ∈ Rに対して、

(a1b1 + ⋅ ⋅ ⋅ + anbn) ≤√a2

1 + ⋅ ⋅ ⋅ + a2n

√b2

1 + ⋅ ⋅ ⋅ + b2n

が成り立つ。等号成立はベクトル (a1, . . . , an) と (b1, . . . , bn)が平行であるとき。

いろいろな証明が知られており、 2次方程式の判別式を使う証明が簡単で有名だが、違う証明を紹介する。

A =

√a2

1 + ⋅ ⋅ ⋅ + a2n, B =

√b2

1 + ⋅ ⋅ ⋅ + b2n

とおく。 AM-GM不等式より、

aiA

biB

≤12 ( a

2i

A2 +b

2i

B2)

が成り立つ。

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Cauchy-Schwarzの不等式 381/385

iに関して和をとると、

n

∑i=1

aiA

biB

n

∑i=1

12 ( a

2i

A2 +b

2i

B2) = 1

となっている。これを整理すれば、

n

∑i=1aibi ≤ AB

となる。

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おわりに 382/385

有名な不等式をいくつが挙げたが、他にも、 Bernoulliの不等式、 Hölderの不等式、Minkowskiの不等式、 Gronwallの不等式、 Sobolevの不等式、 rearrangement不等式、等周不等式・・・さらにはそれらの一般化などなど、簡単なものから複雑で難しいものまで、数学の様々な分野で様々な不等式が使

われている。

もちろん、ある関数の最大値・最小値を求めることは、その関数が満たす(ある意味で最良の)不等式を

作ることに他ならないのであった。

ここでは、最後に参考文献を二つ挙げて終わりにする。

大関清太 著「不等式 (数学のかんどころ 9)」共立出版

お手軽に教養+αの不等式について知りたい人向け。

次に挙げるのは、本格的に不等式の世界に触れてみたい(?)人向け。

Hardy, Littlewood, Pólya 著「Inequalities (Cambridge Mathematical Library) 2nd ed.」Cambridge University Press

ハーディ、リトルウッド、ポーヤ 著「不等式」丸善出版(日本語訳)

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授業評価アンケート 383/385

URLをチャットに書き込みます。各自回答して下さい。

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質問・答え 384/385

質疑応答で出た質問とその答えです。

後期の微積はどのような内容に触れるのですか?

⟶ 扱うべき内容は、後期のシラバス(下記)を見て下さい。前期はあまり触れられなかった理論

的な側面を学ぶことと、(多変数を含む) Taylorの定理・極値・級数を学ぶというのがおおざっぱな内容です。

第 1回: 実数の連続性,上限,下限第 2回: 数列の極限,単調列,コーシー列第 3回: 一変数関数の極限,連続性,最大値,中間値の定理第 4回: 微分,平均値の定理,不定形の極限第 5回: テイラーの定理,極値第 6回: 定積分第 7回: 平面上の点集合,点列第 8回: 多変数関数の極限,連続性第 9回: 多変数関数の微分,全微分と偏微分第 10回: 多変数のテイラーの定理,極値第 11回: 級数,絶対収束,条件収束第 12回: 関数列第 13回: 関数項級数,べき級数

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質問・答え 385/385

「広義凸」という言い方はしますか

⟶ 「狭義凸ではない」ということを強調するときは言うかもしれません。ただ、聞いた記憶はあま

りないです。英語だと、凸は convex, 狭義凸は strictly convex という使い分けがかなり浸透している気がします。

y = x も下に凸という解釈で大丈夫ですか?⟶ 良いです。 1次関数は凸関数になります。

期末レポートみたいなものはないですか

⟶ ありません。

調和平均はいつ使いますか、図形的意味はありますか

⟶ wikipediaの調和平均の項に解説があるので参照してみて下さい。

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