平成28年度 住宅におけるiot/ビッグデータ利活用...

82
平成 28 年度エネルギー使用合理化促進基盤整備委託費 (住生活ビッグデータを活用した省エネ等サービス事業創出に向けた課題検討に関する調査) 経済産業省 平成 28 年度 住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 平成 29 年 3 月

Upload: others

Post on 08-Jun-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

平成 28 年度エネルギー使用合理化促進基盤整備委託費

(住生活ビッグデータを活用した省エネ等サービス事業創出に向けた課題検討に関する調査)

経済産業省

平成 28 年度

住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会

報 告 書

平成 29 年 3 月

Page 2: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

目 次

1.背景・目的 .................................................................. 1

1.1 検討の目的 ............................................................. 1

1.2 住宅市場の現状 .......................................................... 1

1.2.1 住宅市場の中長期的な動向 ............................................ 1

1.2.2 IoT 社会の到来 ...................................................... 2

1.2.3 住宅分野における IoT の可能性 ........................................ 4

1.3 検討内容 ............................................................... 5

2.防災・緊急時対応サービスに関するケーススタディ ............................... 8

2.1 防災・緊急時対応サービスの社会的意義 .................................... 8

2.1.1 災害時の情報伝達の重要性 ............................................ 8

2.1.2 住宅メーカーによる災害時対応 ....................................... 10

2.1.3 住宅の IoT 化によって実現する防災・緊急時対応サービス ............... 10

2.2 防災・緊急時対応サービスの概要 ......................................... 12

2.2.1 サービスの全体像 ................................................... 12

2.2.2 災害時に確実に適切な情報を提供する災害情報提供サービス ............. 13

2.2.3 災害時の安否確認サービス ........................................... 15

2.2.4 災害時の顧客対応サービス ........................................... 17

2.2.5 防災・緊急時対応サービスがもたらすメリット ......................... 19

2.3 防災・緊急時対応サービスに関する課題等 ................................. 20

2.3.1 災害時に確実に適切な情報を提供するサービスに関する想定される

課題と解決策 ....................................................... 22

2.3.2 災害時の安否確認サービスに関する想定される課題と解決策 ............. 25

2.3.3 災害時の顧客対応サービスに関する想定される課題と解決策 ............. 28

2.3.4 防災・緊急時対応サービスに関する想定される全体的な課題と解決策 ..... 30

2.4 防災・緊急時対応サービスに関するケーススタディのまとめ ................. 32

2.4.1 ケーススタディの結果について ....................................... 32

2.4.2 今後取り組むべき方向性について ..................................... 32

2.4.3 防災・緊急時対応サービスに関する先進事例<参考> ................... 34

3.高齢者生活支援サービスに関するケーススタディ ............................... 38

3.1 高齢者生活支援サービスの社会的意義 ..................................... 38

3.1.1 高齢化の現状と将来像 ............................................... 38

3.1.2 社会保障費等の増大 ................................................. 38

3.1.3 健康寿命延伸の必要性 ............................................... 40

3.1.4 住宅を中心とした健康づくりの重要性 ................................. 41

3.1.5 高齢者世帯の見守り力等の低下 ....................................... 43

3.1.6 住宅の IoT 化によって実現する高齢者生活支援サービス ................. 45

Page 3: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

3.2 高齢者生活支援サービスの概要 ........................................... 46

3.2.1 サービスの全体像 ................................................... 46

3.2.2 想定されるサービスの内容について ................................... 47

3.2.3 高齢者生活支援サービスがもたらすメリット ........................... 50

3.3 高齢者生活支援サービスに関する課題等 ................................... 51

3.3.1 高齢者生活支援サービスを提供するために必要なデータ ................. 56

3.3.2 データの取得方法(生体情報) ....................................... 56

3.3.3 データの取得方法(生活情報) ....................................... 57

3.3.4 データの取得方法(環境情報) ....................................... 58

3.3.5 住宅内で必要となるデータの取得環境の創造 ........................... 58

3.3.6 取得すべきデータの整理 ............................................. 58

3.3.7 サービスのコスト負担 ............................................... 58

3.3.8 サービスの実用化 ................................................... 59

3.4 高齢者生活支援サービスに関するケーススタディのまとめ ................... 60

3.4.1 ケーススタディの結果について ....................................... 60

3.4.2 今後取り組むべき方向性について ..................................... 61

4. 住宅における IoT/ビッグデータ利活用による住生活サービスの実現に向けて ..... 63

4.1 サービスの実現に向けた課題 ............................................. 63

4.1.1 HEMS の活用 ........................................................ 63

4.1.2 データフォーマットの統一、家庭内機器のネットワーク化及び

クラウド間連携 ..................................................... 64

4.1.3 事業化に向けたコスト負担 ........................................... 65

4.2 事業スキームのあり方 ................................................... 65

4.3 まとめ ................................................................ 67

参考 1 自治体等における IoT 活用事例について .................................. 69

参考 1.1 浦和美園 E-フォレスト

(さいたま市、一般社団法人美園タウンマネジメント) .................. 69

参考 1.2 みんなの未来区 BONJONO ボン・ジョーノ

(北九州市、一般社団法人城野ひとまちネット) ........................ 70

参考 1.3 エネルギー地産池消都市

(福岡県みやま市、みやまスマートエネルギー株式会社) ................ 71

参考 2 住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会

開催状況及び委員名簿 .................................................. 73

参考 3 住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会

防災・緊急時対応サービス WG 開催状況及び委員名簿 ....................... 76

参考 4 住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会

高齢者生活支援サービス WG 開催状況及び委員名簿 ......................... 78

Page 4: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

1

1.背景・目的

1.1 検討の目的

IoT(Internet of Things)技術や AI(Artificial Intelligence)の進展を背景に、我が

国の製造業を取り巻く大きな環境変化が予想される中、住宅産業においても、IoT 技術や

HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)等から得られるビッグデータ※

(以下、「住生活ビッグデータ」という。)の利活用によるサービスの創出を行うことは、

住宅の省エネ化を促進するとともに、新たなビジネスモデルによる関連企業の競争力強

化を実現する好機となる。

国内の新築住宅市場は、中長期的に縮小することが見込まれており、HEMS 等を備え

たスマートホームの供給やそこから得られる住生活ビッグデータを活用した住生活サー

ビスの提供等、新たなビジネスモデルの創出による住宅産業の成長促進が求められてい

る。

このため、住生活ビッグデータの取得や共有方法等に関する共通の仕組み(インター

オペラビリティ)を整備し、住生活サービスの提供を促すオープン・イノベーション・

プラットフォームを住宅関連事業者が主体となって形成することが必要である。

こうした中、IoT・ビッグデータ・AI 等による変革に的確に対応するため、平成 27 年

8 月、経済産業省産業構造審議会に「新産業構造部会」が設置され、官民が共有できるビ

ジョン(新産業構造ビジョン)策定に向けた議論が開始された。各業界においても経営

課題・政策課題について議論が行われ、住宅産業においては、住宅メーカー毎に蓄積し

ているHEMS等で取得したデータを利活用した魅力的な住生活サービスの創造を促進す

ることが必要との認識を、住宅メーカーの経営トップと共有した。これを受け、平成 28

年 1 月には、有識者、住宅メーカー及び建材・住宅設備メーカーからなる「住宅におけ

る IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会」を設置し、住生活ビッグデータの利活

用のあり方や住生活サービスを創出するための環境整備に向けた検討を行った。

平成 28 年度については、引き続き「住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関

する検討会」を開催し、平成 27 年度の議論を踏まえながら、住生活ビッグデータを活用

したサービス提供に係るケーススタディを行い、サービス提供を実現する上での課題抽

出や事業スキームのあり方について検討を行った。

1.2 住宅市場の現状

1.2.1 住宅市場の中長期的な動向

少子高齢化による人口・世帯数の減少、住宅の長寿命化の進展等によって、新築住宅

市場は今後も減少傾向が続くと見られており、住宅産業は新築住宅市場に過度に依存し

ない産業構造への変革が強く求められている。

※ HEMS 及び付属センサー等から取得できる住宅内の電力等のエネルギー使用状況、環境情報(気温、風

速、雨量、日射量等)、太陽光発電量、蓄電量等のほか、住宅内で取得できる生体情報、生活情報等。

Page 5: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

2

こうした中、大手住宅メーカーを中心として、既存住宅流通やリフォームといった既

存住宅を対象とした事業(住宅ストック事業)の拡大に向けた取組が活発化してきてい

る。

また、新たな住宅ストック事業として大きな可能性を秘めているのが住生活サービス

事業である。現在、多くの大手住宅メーカーは、過去に供給した住宅に居住する顧客に

対し、リフォームや住み替えといった需要の獲得を進めている。こうした事業展開に加

えて、今後は住生活に関する様々なサービスを提供することで、新たな需要を開拓する

ことが考えられる。その際、住宅メーカーが様々な分野の事業者と連携し、多様な住生

活サービスが提供可能な体制を構築することで、住宅を場とした新たなビジネスモデル

の創出が期待される。

1.2.2 IoT 社会の到来

現在、世界中に IoT 化の波が押し寄せようとしている。コンピューターやスマートフ

ォン等のデジタルデバイスだけでなく、様々なモノがインターネットにつながり、それ

とともに膨大なビッグデータが生まれようとしている。IoT 社会の到来によって、多種多

様なビッグデータが生成され、さらに AI 等を活用することで、今までの産業構造とは一

線を画すビジネス領域が誕生すると考えられており、各国が IoT 分野における取組を加

速させている。

日本では、平成 27 年 5 月に、経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会情報経済

小委員会において、「CPS によるデータ駆動社会の到来を見据えた変革」と題した中間

とりまとめを発表し、データ駆動社会の実現に向けた提言を行っている。本中間とりま

とめでは、インターネットにつながる機器の台数は平成 2013 年の 30 億台から 2020 年

には 250 億台にまで増加すると試算している(図表 1)。また、世界で流通する情報量も

2015 年の約 8.6 ゼタバイトから 2020 年には約 40 ゼタバイトにまで急増すると予測して

いる(図表 2)。

図表1 IoT でつながる機器の台数推移 図表2 世界流通するデータ量

また、IoT 技術や AI によって、これまで不可能であったデジタルデータの収集、解析、

出典:経済産業省 産業構造審議会

商務流通情報分科会情報経済小委員会

中間とりまとめ(平成 27 年 5月)

30 億台

250 億台

8.6ZB

40ZB

出典:経済産業省 産業構造審議会

商務流通情報分科会情報経済小委員会

中間とりまとめ(平成 27 年 5月)

Page 6: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

3

解析結果の実世界へのフィードバックが可能となり、実世界とサイバー空間との相互連

関(CPS:Cyber Physical System)が生まれると指摘している。そして、CPS の誕生に

よってデータが付加価値を獲得して現実世界を動かすデータ駆動社会が到来するとして

いる(図表 3)。

図表3 データ駆動社会について

出典:産業構造審議会商務流通情報分科会情報経済小委員会 中間とりまとめ(平成 27 年 5 月)

平成 27 年 10 月には、「「日本再興戦略」改訂 2015-未来への投資・生産性革命-」(平

成 27 年 6 月 30 日閣議決定)により「IoT 推進コンソーシアム」が設立され、産官学が

連携した IoT に関する技術開発や新規ビジネの創出を促すための体制がスタートしてい

る。また、同コンソーシアムの下に「IoT 推進ラボ」を設置して個別の IoT プロジェクト

を発掘・選定し、企業連携・資金・規制の面から支援するための取組を行っている(図

表 4)。

Page 7: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

4

図表4 IoT 推進コンソーシアム

1.2.3 住宅分野における IoT の可能性

IoT 技術、AI 等の技術革新がもたらす「第 4 次産業革命」を通じた産業・就業構造、

経済社会システムの変革は、個々の人の働き方や生活様式を一変させる可能性が高く、

これまで対応しきれなかった「社会的・構造的課題=全く新たなニーズ」への対応が期

待される。住宅分野については、家庭内の生活関連データが統合的に利活用されること

により幅広いサービスが生まれる可能性がある。

平成 28 年 6 月に閣議決定された「日本再興戦略 2016-第 4 次産業革命に向けて-」

や平成 28 年 3 月に閣議決定された「住生活基本計画」の中でも、IoT 住宅の実現によっ

て新たな生活産業を育成することに言及されている(図表 5)。

出典:IoT 推進ラボ ホームページ

Page 8: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

5

図表5 IoT 住宅の実現に向けて

日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて-(平成28年6月2日)抜粋

第2 具体的施策

Ⅰ 新たな有望成長市場の創出、ローカルアベノミクスの深化等

9.既存住宅流通・リフォーム市場を中心とした住宅市場の活性化

(2)新たに講ずべき具体的施策

ⅱ)次世代住宅の普及促進

多様な居住ニーズに対応するとともに、IoT 技術等の新技術に関連する住生活産業の

成長を図るため、IoT 住宅、健康住宅、セキュリティ住宅等の先進的な次世代住宅につ

いて、本年度中を目途に、関係省庁や住宅関連メーカー等と連携し、先進事例の収集等

を通じた次世代住宅の備えるべき機能やその将来像の検討、海外市場も視野に入れた普

及に向け、関連機器等の規格の導入促進の在り方等も含め、様々な課題抽出等を行う。

住生活基本計画(平成28年3月18日)抜粋

第2 目標と基本的な施策

目標7 強い経済の実現に貢献する住生活産業の成長

(4)生活の利便性の向上と新たな市場創出のため、子育て世帯・高齢者世帯等幅広い

世帯のニーズに応える住生活関連の新たなビジネス※市場の創出・拡大を促進するとと

もに、住生活産業の海外展開を支援する等、わが国の住生活産業の成長を促進

※家事代行、暮らしのトラブル駆けつけ、防犯・セキュリティ技術、保管クリーニング、

粗大ゴミ搬出、家具移動、食事宅配、ICT 対応型住宅、遠隔健康管理、IoT 住宅、ロボ

ット技術等

1.3 検討内容

平成 27 年度の「住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会」では、

今後の IoT 社会の到来を見据えて、住宅分野において先行してデータ取得環境が整いつ

つある HEMS を中心として、HEMS データをめぐる現状や課題と今後のサービス実現

に向けた検討を行った。

その結果、多くの住宅メーカーにおいて、HEMS データが蓄積されつつあるものの、

新たなビジネス創出につながるようなサービスの開発には至っていないことが明らかと

なった。また、データ量の増加に伴うサーバーコストの負担も重くなってきており、そ

のコストを賄うためにも、居住者に価値を認められるような HEMS データの活用・サー

ビスの提供が必要であるという課題認識を共有した。しかしながら、付加価値のあるサ

ービスの提供のためには、HEMS データ以外の住生活データを取得する必要があるが、

「どういったサービスを提供できるかが分からないので、どういったデータを取得すれ

ば良いのか分からない」、「どういったデータを取得できるのかが分からないので、どう

いったサービスを提供できるのか分からない」という「鶏と卵」の議論に陥ってしまい、

取組が進展しないという課題が挙げられた。

そこで、本検討会においては、HEMS 等によって住生活データを取得・蓄積し、その

データの活用手法を考えるという従来のアプローチではなく、まずはユーザーメリット

Page 9: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

6

を創出できるサービスを検討し、そのサービスを実現するためのデータを抽出すること

で、住生活サービスを実現するというアプローチにより、ケーススタディによる検討を

行うこととした(図表 6)。

図表6 ケーススタディの考え方

平成 27 年度の検討会においては、ケーススタディとなり得るサービス分野として考え

られるテーマを図表 7 のとおり整理した。本検討会においては、このうち非競争領域と

考えられる防災・緊急時対応サービス分野と、競争領域と考えられる高齢者等の見守り

サービス分野についてワーキンググループを設置し、それぞれのサービスを実現するた

めの課題等を検討した。検討体制は図表 8 のとおりである。

Page 10: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

7

図表7 ケーススタディとなり得るサービス分野の例

非競争領域

防災・緊急時対応 サービス分野

自治体等の防災情報等とも連携し、HEMSを通じて防災情報等を提供するサービス。また、災害時にHEMSデータを活用し安否確認を行うと同時に、インフラの被害状況をいち早く把握するための仕組みを構築。さらに、被災住戸での救助作業に先立ち、建物や家族構成等の情報を提供できるようにする。

住環境の異常感知 サービス分野

HEMSデータ、さらには各種センサーを介して取得したデータを活用し、住宅に設置された設備機器の故障等をいち早く感知するサービス。また、設備機器等の使用状況をデータから解析し、メンテナンスや交換時期等を居住者に知らせる。さらに、ZEH等のポテンシャルを充分に活用できていないこと等を感知し、居住者にゼロエネに向けたアドバイスを行う。

競争領域

高齢者などの見守り サービス分野

HEMSデータ等から高齢者や子供等の異常を感知し、遠隔地へその情報を送信するサービス。地域の医療機関や介護施設、さらにはセキュリティサービス等を提供する企業との連携も視野に入れながら、安心な居住環境を創造する。

より安価な電力供給 サービス分野

HEMSデータを電力事業者に提供し、デマンドレスポンスやダイナミックプライシング等を活用しながら、より安価で、省エネに貢献する電力を供給するサービス。これにより、住宅の付加価値向上を図るとともに、消費者のライフスタイルを省エネ型へと誘導する。

出典:経済産業省 平成 27 年度住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会報告書(平成 28 年 3月)

図表8 検討体制

Page 11: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

8

2.防災・緊急時対応サービスに関するケーススタディ

2.1 防災・緊急時対応サービスの社会的意義

2.1.1 災害時の情報伝達の重要性

近年、東日本大震災や熊本地震等頻発する大地震や、土砂災害、河川の氾濫等により

甚大な被害が発生し、社会全体で災害対応意識が高まっているところである。

今後、首都圏直下型地震や南海トラフ巨大地震等の発生が予想されており、こうした

巨大地震が発生した場合、大きな被害が発生することが想定されることから、住宅分野

でもさらなる災害対策が強く求められている。また、土砂災害や河川の氾濫等について

は、地震と比較すると事前に災害リスクを把握しやすく、避難勧告等の情報を適切に伝

えることで被害の拡大を抑えることが可能である。

東日本大震災では、防災行政無線等からの避難情報の取得が遅れたことにより、住民

が津波被害に遭った事例が数多く報告されている。また、熊本地震では、1 回目の前震後

に避難所から自宅に戻った後、本震によって自宅が倒壊し被害に遭った事例もあり、あ

らためて災害時の情報伝達の重要性が浮き彫りになった。

「平成 23 年東日本大震災における避難行動等に関する面接調査(住民)」(内閣府・消

防庁・気象庁)によると、防災行政無線をはっきりと聞きとることができた人は岩手県、

宮城県では約半数であり、そのうち約 70~80%の人が避難を判断している(図表 9)。

図表9 避難情報に対する意識について

出典:内閣府・消防庁・気象庁 東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会

第7回会合資料(平成 23 年東日本大震災における避難行動等に関する面接調査(住民))(平成 23 年 8 月)

また、「津波から地域を守るために必要なこと【 も重要なもの】」として、「津波情報

や避難に関する情報等が、停電時であっても確実に伝わるようにする」を挙げた回答者

Page 12: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

9

は約 20%で、「沿岸で大きな揺れを感じたら、1 秒でも早く高いところへ避難する」に次

いで多い(図表 10)。

図表10 津波から地域を守るために必要なこと【最も重要なもの】

出典:内閣府・消防庁・気象庁 東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会

第7回会合資料(平成 23 年東日本大震災における避難行動等に関する面接調査(住民))(平成 23 年 8 月)

「災害時における情報通信の在り方に関する調査」(総務省)によると、東日本大震災時

の災害情報を取得するための各種メディアについては、震災発生時には AM ラジオの評

価が も高い。次いで FM ラジオが続く一方で、携帯電話、携帯メール、地上波放送は

震災直後から 4 月末にかけて評価が高まりラジオの評価を超えており、状況に応じて様々

なメディアを活用しながら情報を取得していることが分かる。

加えて、被災地以外で利用されたメディアの評価を見ると、首都圏の住民にとっては

テレビ、ニュースサイト、新聞、ラジオ等のマスメディアが大きな役割を果たしている

ことが分かる(図表 11)。

災害時の情報取得手段が多様化する中、今後は ICT の発達によって携帯電話やスマー

トフォン等の携帯端末を活用して情報を取得することが重要になると予想されるが、こ

こで問題になるのが、高齢者や障がい者等への情報伝達手段である。

こうした中で、住宅が災害情報や避難情報を受け取り、その情報を住宅内にある様々

3%

2%

1%

4%

2%

6%

6%

1%

2%

3%

20%

51%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%

わ か ら な い

そ の 他

津波や地震の研究推進と科学的な検証を行い、

地 域 防 災 に 活 用 す る

津 波 に 危 険 な 地 域 住 民 を 収 容 で き る

避 難 タ ワ ー 等 の 避 難 施 設 の 設 置

津 波 に 対 応 し た 避 難 所 の 所 在 が

分 か る よ う に 看 板 な ど を 設 置 す る

防 潮 堤 等 の 防 災 施 設 を 強 化 整 備 す る

津 波 に 危 険 な 所 を 分 か り や す く 明 示 し 、

そ こ に 住 ま な い よ う に す る

学 校 等 の 防 災 教 育 を 推 進 す る

津 波 の 避 難 訓 練 や 研 修 会 を 促 進 す る

津 波 警 報 や 津 波 の 高 さ の 予 測 精 度 を 高 める

津 波 情 報 や 避 難 に 関 す る 情 報 等 が 、

停 電 時 で あ っ て も 確 実 に 伝 わ る よ う に する

沿 岸 で 大 き な 揺 れ を 感 じ た ら 、

1 秒 で も 早 く 高 い と こ ろ へ 避 難 す る

Page 13: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

10

なデバイスや家電、設備機器等を活用して在宅中の高齢者等に確実に伝達することが可

能になれば、災害時の情報格差の解消や適切な避難行動を促すことにつながる。

図表11 震災時利用メディアの評価(東日本大震災)

出典:総務省 災害時における情報通信の在り方に関する調査(平成 24 年 3月)

2.1.2 住宅メーカーによる災害時対応

住宅メーカー各社では、災害等の緊急時に顧客の安否確認や建物被害状況の確認作業

等を実施するケースが多い。こうした非常時対応サービスの基本的なスキームは下記の

とおりであり、こうした作業を迅速に実施することで顧客からの高評価を得ている。

①自社で設定した震度以上の揺れが発生したエリアを特定

②特定したエリア内の顧客データを抽出

③顧客データをもとに電話等による安否確認作業を実施

④電話での安否確認情報や対象エリアの被害情報等を参考にしながら、訪問による被

害状況確認や支援物資を届ける作業等を実施

しかし、巨大地震の発生等によって、こうした安否確認や建物被害状況確認の対象エ

リアが拡大すると、より多くの労力が必要となるため、作業の効率化等が求められてい

る。また、住宅メーカーが把握した安否情報や建物の被害状況に関する情報を自治体等

の公的な機関と共有することで、被災後の支援活動等を効率化できる。

2.1.3 住宅の IoT 化によって実現する防災・緊急時対応サービス

平成 27 年度の「住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会」では、

HEMS 等を活用した防災・緊急時対応サービス分野について、平常時、災害発生時、災

Page 14: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

11

害発生後に分けて、考えられる具体的なサービスを検討した(図表 12)。

こうしたサービスの中から、前述した災害時の情報伝達の重要性等を考慮し、防災・

緊急時対応サービスワーキンググループにおいては、災害時の情報提供サービスについ

てケーススタディを行い、サービスを実現するための課題等を抽出した。加えて、災害

後に住宅メーカーや公的な機関の救援活動の効率化を促すために、安否確認サービスと

建物の被害状況を遠隔地で確認できる構造ヘルスモニタリングサービスについてもケー

ススタディを行い、サービスを実現するための課題等を抽出した。

なお、ケーススタディを実施した防災・緊急時対応サービスの社会的な必要性等は図

表 13 の通りである。

図表12 防災・緊急時対応サービス分野の具体的なサービス例

平常時

居住者の

防災意識の向上

HEMS 等を通じた防災情報の提供

自治体等と連携し HEMS 等を用いた防災訓練の実施

災害時への備え

(対策)の徹底

避難所検索サービス等の提供による避難経路の確認

非常食の賞味期限を管理しながらローリングストック式の備蓄を促す

災害時の行動計画をまとめた防災ノートの作成とクラウド上への保存

災害

発生時

被害状況確認

電力使用状況を基にした第一次安否確認作業

電力、ガス、水道等の使用状況等を基にしたインフラ被害状況の確認

スマートキー等を活用した入退室データの確認による家族の安否確認

クラウド上の防災ノートの確認

救出のために必要となる情報の自治体等への提供

機器の

コントロール

創蓄連携による電源の確保(HEMS で最適制御を実施)

ガス機器等の自動運転停止

避難誘導

足元灯等の自動点灯(夜間の場合)

周辺の被災状況や津波警報等の提供

近隣の避難所や津波避難ビルまでの経路情報の配信

災害

発生後 エネルギー供給

創蓄連携による電源の確保(再掲)

自治体等からの情報の配信

出典:経済産業省 平成 27 年度住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会報告書(平成 28 年 3月)

Page 15: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

12

図表13 ケーススタディを実施する防災・緊急時対応サービスの社会的意義

2.2 防災・緊急時対応サービスの概要

2.2.1 サービスの全体像

図表 14 は、今回ケーススタディを実施した防災・緊急時対応サービスの全体像である。

「災害時に確実に適切な情報を提供する災害情報提供サービス」、「災害時の安否確認サ

ービス」、「災害時の顧客対応サービス」(構造ヘルスモニタリングシステムを活用した建

物被害状況の確認)という 3 つのサービス構成となっている。

Page 16: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

13

図表14 防災・緊急時対応サービスの例

2.2.2 災害時に確実に適切な情報を提供する災害情報提供サービス

図表 15 は、「災害時に確実に適切な情報を提供する災害情報提供サービス」について

まとめたものである。

このサービスでは、災害情報共有システム「L アラート」を活用することを前提として

検討を行った。

Page 17: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

14

図表15 災害時に確実に適切な情報を提供する災害情報提供サービス

「L アラート」とは、市町村や都道府県、関係省庁、ライフライン事業者等が統一フォ

ーマットで災害情報等を登録し、その情報をテレビ事業者やラジオ事業者、インターネ

ット事業者、携帯電話事業者等の情報伝達者を通じて国民に伝える仕組みである(図表

16)。平成 23 年 6 月に一般財団法人マルチメディア振興センターがサーバーを運用する

「公共情報コモンズ」という名称でスタートし、平成 26 年 8 月から「災害情報共有シス

テム(L アラート)」という名称に変更されている。

総務省を中心として普及促進に向けた取組も行われており、平成 28 年 6 月には L アラ

ートのサービス利用者が 1,000 団体を突破し、情報伝達者も 600 団体を超えている。ま

た、平成 28 年 8 月 1 日時点で 41 の都道府県が運用しているほか、全国 59 のガス事業者

によるガス供給停止状況の配信も開始されている。

Page 18: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

15

図表16 L アラートの概要

出典:総務省 災害情報共有システム(L アラート)概念図

今後、L アラートの普及が進むことで、様々な情報伝達者から災害情報等が発信される

ことが予想されるが、高齢者や障がい者等も含めて、確実かつ適切に災害情報等を伝え

る仕組みづくりの推進が重要になる。

そこで、今回のケーススタディでは、L アラートの仕組み等を活用し、災害時に確実に

適切な情報を提供する災害情報提供サービスについて検討した。具体的には、図表 15 に

あるように、情報伝達者を介して提供される災害情報等を、HEMS を介して住宅が受け

取り、住宅内の家電や設備機器と HEMS を連携させることで、高齢者や障がい者等も含

めて災害情報等を確実かつ適切に伝えるサービスの仕組みについてケーススタディを行

った。HEMS が防災情報等を受信すると、例えば、インターフォンのアナウンス機能等

を活用して情報を居住者に伝える仕組みや、夜間に災害が発生した場合に照明や足元灯

等が自動点灯し、防災情報等プッシュ型で知らせるサービスについて検討した。また、

テレビ等で避難所までの経路をプッシュ型で表示することも検討した。

2.2.3 災害時の安否確認サービス

図表 17 は、「災害時の安否確認サービス」についてまとめたものである。

Page 19: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

16

図表17 災害時の安否確認サービス

このサービスでは、安否情報サービスの J-anpi を活用することを前提として検討を行

った。J-anpi は、災害発生時に通信事業者が提供する災害伝言板の安否情報に加え、報

道機関や各自治体、企業等が収集した安否情報をまとめて確認できる共同サイトである

(図表 18)。NHK と NTT グループを中心として実現へ向けた取組が進められ、平成 24

年 10 月からサービスを提供している(運営は NTT レゾナント株式会社)。

従来、災害時等に安否情報を確認したい場合、災害伝言板や各企業、団体等が運営す

る安否確認サイト等に各々アクセスする必要があったが、J-anpi を活用することにより、

名前や電話番号等を検索キーとして複数のサイトを横断的に検索することが可能となっ

た。

この J-anpi 等を活用することで、離れて暮らす家族や住宅メーカー、自治体等がいち

早く被災者の安否を確認することができる。

そこで、今回のケーススタディでは、J-anpi 等を活用した災害時の安否確認サービス

について検討した。具体的には、図表 17 にあるように、L アラートに登録された避難勧

告等の情報を情報伝達者経由で HEMS を通じて居住者に知らせ、実際に避難した場合は

HEMS 画面等を通じて、自宅から避難したという情報を発信し、その情報を J-anpi や離

れて暮らす家族や、住宅メーカー、自治体等に自動で送信する仕組みについてケースス

タディを行った。

加えて、HEMS を活用して避難情報を発信すると、一定時間が過ぎた後に自動で施錠

が行われることで、避難中のセキュリティ確保や災害後の通電火災等の 2 次災害抑制に

つなげることについても検討した。

Page 20: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

17

図表18 安否情報をまとめて検索できる J-anpi

出典:J-anpi ホームページ

2.2.4 災害時の顧客対応サービス

図表 19 は、ケーススタディを実施した「災害時の顧客対応サービス」についてまとめ

たものである。

Page 21: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

18

図表19 災害時の顧客対応サービス

このサービスは、建物の被害に関する 1 次情報を遠隔地から把握できる構造ヘルスモ

ニタリングシステムを活用することを前提として検討を行った。

構造ヘルスモニタリングシステムとは、建物内に設置したセンサーによって、地震後

にビルの揺れ具合や破損状況等に関する情報を収集し、建物の被災状況を迅速に把握す

るためのシステムである。今回のケーススタディでは、ワーキンググループの委員であ

る株式会社 NTT ファシリティーズの「揺れモニ」(図表 20)とミサワホーム株式会社の

「GAINET」(図表 21)という構造ヘルスモニタリングシステムを参考にした。

図表20 「揺れモニ」システムの概要(機器構成)

出典:株式会社 NTT ファシリティーズ 資料

Page 22: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

19

図表21 「GAINET」システムの概要

出典:ミサワホーム株式会社 資料

構造ヘルスモニタリングシステムを活用することで、住宅メーカーは遠隔地から住宅

の被災度を確認して訪問点検の優先順位を決めることができ、災害後の顧客対応サービ

スの効率化につながる。加えて、自治体等と情報を共有することで、被災状況をより詳

細に把握することができ、その後の復旧・支援作業の効率化にもつながる。さらに、建

物被災状況(危険度)を居住者にいち早く知らせることで、余震等により建物が倒壊し、

被害を受けるという事態を抑制することも可能になる。

そこで、今回のケーススタディでは、戸建住宅において構造ヘルスモニタリングシス

テムを活用した災害時の顧客対応サービスについて検討した。具体的には、構造ヘルス

モニタリングシステムにより、遠隔地から建物被災状況を判定し、危険度が高い場合、

そのことを HEMS 経由で知らせ、災害後も居住者へ避難を促す仕組みについてケースス

タディを行った。

加えて、建物被災状況の判定結果を住宅メーカーや自治体等が共有し、被災後の復旧・

支援作業の効率化を図ることについても検討した。

2.2.5 防災・緊急時対応サービスがもたらすメリット

図表 22 は、ケーススタディを実施した防災・緊急対応サービスについて、想定される

メリットをまとめたものである。

Page 23: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

20

図表22 防災・緊急時対応サービスがもたらすメリット

サービス利用者にとってのメリットとしては、災害時のリスクの軽減や家族の安否確認

の迅速化等が挙げられる。また、サービス提供事業者にとっても、防災・緊急時対応に関

する新たなサービスの開発等につながる可能性がある。一方、住宅メーカーのメリットと

しては、自社で販売する住宅の防災性能を主にソフト面から向上させることで新たな付加

価値を創出できるほか、顧客に対する災害後の安否確認や建物の被害状況の確認、各種支

援といった作業の効率化、自社での新たなサービス開発の可能性の拡大等が考えられる。

また、自治体等と連携しサービスを提供することで、地域レベルでの防災能力が強化

され、ひいては当該地域の価値向上に貢献する。

2.3 防災・緊急時対応サービスに関する課題等

防災・緊急時対応サービスワーキンググループでは、ケーススタディの実施にあたり、

想定されるサービスの全体像(図表 14)を基にし、課題やサービスを実現するための新

たなアイデアを抽出した。図表 23 は、主な課題等をまとめたものである。この課題等を

中心として議論を行い、より実現可能性が高いサービス像について検討した。

Page 24: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

図表23 防災・緊急時対応サービスを実現するための主な課題等

災害時に確実に適切な情報を提供する

災害情報提供サービス

情報提供の仕組みについて

災害時にしか使用しないシステムであるため、災害時に確実かつ適切に作動するための保証をどうするのか。

災害時に停電や通信障害が発生した際に対応できるのか。

情報を伝達するデバイスを常に ON 状態にしておくとなると待機電力の問題が発生する。

高齢者や障がい者等にも情報が伝わるようなシステムが必要。

情報の精度をどのように担保するのか(更新情報等も含めて)。

エリアごとの避難情報等をピンポイントで伝え、適切な避難行動に誘導できるのか。

情報を伝える端末(デバイス)につ

いて

高齢者等には専用のシンプルなデバイスを提供した方がよいのではないか(ただし、コスト的な問題あり)。

スマートメーターを情報伝達に使えないのか。

FAX やドローンでの情報配布も検討してみてはどうか。

事業化等について

誰がコスト負担を行うのか(⇒行政コストとして負担してもらうために自治体等との連携も必要ではないか)。

スマートフォンの類似サービスで十分ではないか。住宅経由で情報を提供する優位性はあるのか。

ランニングコストの回収はどうするのか。

誰がシステム設定を行うのか(新築段階では通信環境が整っていないケースが多い)。

マルチベンダー化を進めることはできるのか(住宅メーカーが同じメーカーの機器を採用することは現実的に不可能ではないか)。

災害時の安否確認

サービス

在/不在を判断する仕組みにつ

いて

HEMS データ等を活用して安否情報を確認するためのアルゴリズムの開発(平常時と非常時では不在検出のためのアルゴリズムも変わるのではないか)。

スマートロックから得られる情報の信頼性。家にいるのか、一時的に帰宅しているのかの判断はできるのか。

J-anpi との連携について 住宅メーカーのセンターサーバーと J-anpi のサーバーが情報をやり取りするためのアプリケーション間インターフェースの開発が必要。

セキュリティの問題について 在/不在情報を把握できるようになった場合のセキュリティをどのように確保するのか。

居住者から個人情報収集の承認を得ることが必要になるのではないか。

災害時の顧客

対応サービス

危険度判定性の信頼性について

確実に信頼性が確保された危険度判定を行うことができるのか。

センサーの設置場所や住宅の構造等によって判定結果が変わるのではないか。

停電時や通信が止まった時にも正常に稼働できるのか。

被災状況の確認方法について ドローンで航空写真を撮影し GIS データと重ね合わせて被害状況を確認できないのか。

住民自ら被災状況を簡単なチェックと写真等で送信できる仕組みは構築できないのか。

その他 街ぐるみで近所の安全を確認して報告できる仕組みは実現できないのか。

21

Page 25: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

22

2.3.1 災害時に確実に適切な情報を提供するサービスに関する想定される課題と

解決策

図表 23 で挙げられた課題を考慮しながら、防災・緊急時対応サービスワーキンググル

ープにおいてケーススタディを実施した結果、災害時に確実に適切な情報を提供するサ

ービスに関して、想定される課題を図表 24 に、その課題に対して想定される解決策を図

表 25 にまとめた。

災害時に確実に適切な情報を提供するサービスを実現する上での課題として、第一に、

どのような情報を居住者に発信すべきなのかということが挙げられる(課題番号 1)。こ

の点については、災害情報、ライフライン等の被害・復旧状況、避難勧告、避難所開設

状況、救援物資等供給情報等の防災情報が必要になる。こうした情報については、前述

したように L アラートに登録された情報を活用することができ、情報伝達者経由で住宅

内に設置した HEMS に情報を伝えることが可能である。

第二の課題として、居住者に伝える情報量が過度に多くなると、かえって混乱を招く

恐れがあることが考えられる(課題番号 2)。しかし、L アラートを活用している情報伝

達者の多くは、全ての情報をプッシュ型で通知するのではなく、ある程度のフィルタリ

ングを行いながら情報を発信しているため、より重要な情報だけを HEMS 経由で居住者

に伝えることは可能である。加えて、あらかじめ居住地等の情報を登録しておくことで、

地域を限定した情報だけをプッシュ型で通知することもできる。

第三の課題として、HEMS とスマートフォンの役割分担の問題が挙げられる(課題番

号 3)。今回のケーススタディの実施にあたっては、防災・緊急時対応サービスワーキン

ググループの委員でもあるNTTレゾナント株式会社を情報伝達者と想定して検討を行っ

た。NTT レゾナント株式会社では、「goo 防災アプリ」として様々な防災情報をスマート

フォン等を通じて提供するサービスを展開している。こうしたスマートフォン等向けの

サービスと HEMS を連携させることで、より容易に HEMS 経由で防災情報等を伝達す

る仕組みを構築できる。これによって、スマートフォンだけで完結するのではなく、住

宅内の家電や設備機器、さらには建物の危険度判定の結果等と連動したサービスも提供

できるようになり、災害時に高齢者や障がい者等にも情報を伝えることが可能になる。

また、HEMS のインターフェイスにタブレット機器を活用することで、居住者が家の

中だけでなく、例えば避難所でも様々な情報を取得することが可能になる。ただし、

HEMS とスマートフォンの役割分担という点では、HEMS は住宅内での情報伝達の手段

として機能を発揮し、屋外に避難した後はスマートフォンが主な情報伝達デバイスとな

るのが現実的である。

第四の課題である高齢者や障がい者等まで含めた情報伝達の手段については、前述し

たように緊急性が高い災害情報を HEMS が取得すると、住宅内の照明やアナウンス機能

を備えたインターフォン等が連動し、視覚や聴覚等に訴えるような手法で情報を伝える

ことが有効である(課題番号 4)。その場合、どのように照明等の設備と HEMS を連携さ

せるのかが問題となるが、現在、スマートフォンや HEMS からエアコンや照明等を制御

するための通信プロトコルであるエコーネットライト規格に準拠した照明等が開発され

ており、そのような設備を住宅に設置することで連携が可能となる。

第五の課題であるどのようにして居住者を避難行動に誘導するのかという点について

Page 26: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

23

は、近隣の避難所や避難経路等の情報を住宅内のテレビやインターフォン等のデバイス

を活用し、プッシュ型で通知することが可能である(課題番号 5)。ただし、被災状況に

よっては、 寄りの避難所に避難する方がリスクが高い場合、避難所までの経路に通行

できない道路がある場合も想定される。こうした問題に対して、被災状況を考慮した避

難所までの誘導マップを開発しようという動きもあるが、誘導マップの信頼性の確保等

検討すべき課題が残されている。

図表24 災害時に確実に適切な情報を提供するサービスに関する課題

Page 27: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

24

図表25 災害時に確実に適切な情報を提供するサービスに関する想定される課題と考えられる解決策

は、すぐには実現できないが技術開発の進展等によって将来的には実現できる可能性があるもの。 課題番号 課 題 考えられる解決策 さらなる課題 考えられる解決策

1 どのような情報を居住者に発信すべきなのか

防災情報(災害情報、ライフライン等の被害・復旧情報等)

どのようにして情報を取得するのか。 L アラートを活用している情報伝達者経由で取得できるのではないか。 避難等に関する情報(避難勧告、避難所開設状況、救

援物資等供給情報等)

2 居住者に伝える情報量が過度に多くなると、かえって混乱が生じるのではないか

L アラートを活用している情報伝達者は、L アラートに提供される情報をそのまま伝えるのではなく、ある程度のフィルタリングを行い、緊急性が高い情報はプッシュ型で通知し、緊急性が少ない情報については掲示板のようなもので情報を伝えている。こうした情報伝達者の情報フィルタリング機能を活用することで、居住者に伝える情報を取捨選択できるのではないか。

居住地等の情報をあらかじめ登録しておくことで、地域を限定した情報をプッシュ型で通知することも可能であり、こうした機能を活用してはどうか。

3 HEMS とスマートフォンの役割分担をどう考えるのか

住宅内の設備を利用した情報発信や建物の被災度判定と連動したサービス等を考えると、HEMS を活用する方が有効と考えられる機能があるのではないか。

HEMS のインターフェイスにタブレット機器を活用することで、居住者が家の中でも外でも情報を取得できるのではないか。

4 高齢者や障がい者等まで含めて、どのようにして確実に情報を伝えるのか

緊急性が高い防災情報を HEMS が取得すると、住宅内の照明やアナウンス機能を備えたインターフォン等が連動し、視覚や聴覚等に訴えるような手法で情報を伝える仕組みを構築することが有効ではないか。

照明等の設備と HEMS をどのように連携させるのか。

エコーネットライト規格に準拠した照明等を設置することで連携は可能ではないか。

5 どのようにして居住者を避難行動に誘導するのか

近隣の避難所や避難経路等の情報を住宅内の様々なデバイス(テレビやインターフォン等)を活用し、プッシュ型で情報を通知できないか。

被災状況によっては、近隣の避難所ではなく、他の避難所に避難した方が適切な場合がある。また、道路の被災により通知された避難経路が通れない場合もある。

被災状況を考慮した避難所までの誘導マップを開発しようという取組もあるが、信頼性の確保等検討すべき課題があるのではないか。

24

Page 28: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

25

2.3.2 災害時の安否確認サービスに関する想定される課題と解決策

災害時の安否確認サービスに関して想定される課題を図表 26 に、その課題に対して想

定される解決策を図表 27 にまとめた。

このサービスに関しては、まず避難情報(在/不在情報)をどのように把握するのか

という課題がある(課題番号 6)。将来的には、HEMS の電力使用データや人感センサー、

スマートロックの入退室データ等を活用して在/不在を分析することが考えられ、実際、

熊本地震の際に HEMS のデータを活用して在/不在情報を把握したという事例もある。

また、在/不在情報については、災害時の安否確認だけでなく、宅配事業者等にとっ

ても重要な情報となる。このように、平常時に活用できる機器からの情報を災害時に活

用するという観点からのアプローチも検討する必要がある。

しかし、現時点でより実現可能性が高い手法としては、避難勧告等の情報を HEMS が

受け取ると、避難したか否かを居住者がプッシュ型で通知する機能を HEMS に付与する

というものが考えられる。しかし、この手法では家族全体での在/不在情報は把握でき

るが、個人レベルでの情報は把握できないという問題が生じる。この点については、ま

ずは住宅内に人が居るのか、それとも誰も居ないのかを把握することを目的に HEMS の

機能追加等を行い、個人レベルの情報についてはむしろスマートフォン等を活用した方

が現実的である。

避難情報(在/不在情報)をどのように外部に発信するのかという課題もある(課題

番号 7)。この課題については、居住者がプッシュ型で避難情報を登録すると、自動で

J-anpi に情報が登録され、他の機関に集められた安否情報とともに横断的に離れて暮ら

す家族等が安否検索できる仕組みを構築することが考えられる。また、HEMS に自動メ

ール機能を付与し、あらかじめ登録した家族等に避難した旨を知らせることも可能であ

る。

こうした避難情報を外部に発信する場合、安全性を確保する必要が生じるが、例えば

J-anpi では安否情報の 2 次利用ができない仕組みが構築されているほか、災害後、一定

期間を過ぎると情報は消去される仕組みになっている。

避難後に不在となった住宅のセキュリティや2次災害の問題については(課題番号8)、

HEMS で「避難モード(不在モード)」にすると、自動で施錠等が行われるシステムを開

発することで解決できる可能性がある。また、災害後の通電火災等の 2 次災害等が発生

する懸念もあるが、HEMS を利用して「避難モード(不在モード)」が解除されるまでは

通電制御を行う機能を付与することで解決できる。

避難後の安否情報をどのようにして把握するのかという課題については(課題番号 9)、

外部に持ち出せるタブレット等のデバイスをHEMSのインターフェイスとして活用して

避難後の安否情報を発信することが想定できるが、今回のケーススタディでは、まずは

住宅内に限定し、安否情報を発信する方法を検討した。

Page 29: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

26

図表26 災害時の安否確認サービスに関する課題

Page 30: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

27

図表27 災害時の安否確認サービスに関する想定される課題と考えられる解決策

は、すぐには実現できないが技術開発の進展等によって将来的には実現できる可能性があるもの。

課題番号 課 題 考えられる解決策 さらなる課題 考えられる解決策

6 避難情報(在/不在情報)をどのように把握するのか

例えば、自治体からの避難勧告が出された場合、HEMS経由で居住者に伝えると同時に、避難したか否かを居住者がプッシュ型で通知する機能を備えたシステムを構築することが考えられないか。

家族全体での在/不在情報は把握できるが、個人レベルでの情報は把握できない。

住宅から発信する情報としては、住宅内に人が居るのか・居ないのかを判断することを主目的として、個人に関する避難情報などはスマートフォン等を活用した方が現実的ではないか。

HEMS の電力使用データや人感センサー、スマートロックの入退室データ等を活用して在/不在を分析できないか。 宅配サービス等平常時に活用できる機器から得られる情報も活用できないか。

7 避難情報(在/不在情報)をどのように外部に発信するのか

居住者が避難したか・否かの情報を登録すると、J-anpiに自動で情報が登録され、他の機関に集められた安否情報とともに横断的に検索できる仕組みを構築できないか。

在/不在情報を外部に発信する際の安全性の確保はどうするのか。

J-anpi については、安否情報の2次利用ができない仕組みを構築しているほか、災害後、一定の期間を過ぎると情報は消去される仕組みになっている。

HEMS に自動メール機能を付与し、あらかじめ登録した家族(離れて暮らす家族等)のスマートフォン等に避難したことを知らせることはできないか。

8 避難後に不在となった住宅のセキュリティや 2 次災害の問題をどのように解消するのか

HEMS で「避難モード(不在モード)」にすると、自動で施錠等が行われるシステムを開発できないか。

災害後の通電火災等の 2 次災害を防止するために、HEMS を利用して「避難モード(不在モード)」が解除されるまでは通電制御を行うことが考えられるのではないか。

9 避難後の安否情報をどのようにして把握するのか

外部に持ち出せるタブレット等のデバイスを HEMS のインターフェイスとして活用し、避難後はそのタブレットを活用した安否情報を発信するといった取組は想定できるが、まずは住宅内に限って安否情報を発信することから考える方が現実的ではないか。

27

Page 31: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

28

2.3.3 災害時の顧客対応サービスに関する想定される課題と解決策

図表 28 は、災害時の顧客対応サービスに関する課題をまとめたものであり、図表 29

はそれぞれの課題に対して想定される解決策を検討した結果である。

災害時の顧客対応サービスは、大規模な建築物等で普及が進みつつある構造ヘルスモ

ニタリングシステムを戸建住宅にも導入し、遠隔から建物の被害状況を把握しようとい

うものだが、戸建住宅用の安価な構造ヘルスモニタリングシステムをどのようにして開

発するのかという課題がある(課題番号 10)。考えられる解決策としては、大量導入等を

前提としてコストダウンを図ることや、自治体等と連携して公的な補助を活用すること、

さらには、より安価かつ適切に建物の揺れや被害状況を把握するセンサー等を開発する

といったことが挙げられる。

また、建物の危険度診断についてどのような手法が適切なのかという課題もある(課

題番号 11)。建物の安全性の確認方法については、例えば震度計を 1 か所に設置し、建物

の構造情報を活用したシミュレーション結果を基に安全性を判定する手法がある。この

手法の場合、建物の構造情報等が必要となるため、構造情報が分からない住宅に適用す

るのが難しい面がある。一方、複数の震度計等を住宅内に設置し、実測値を基に安全性

を判定するという手法もあるが、この手法ではコスト増になる懸念がある。いずれにし

ても、戸建住宅用の構造ヘルスモニタリングシステムを実現していくためには、建物構

造や規模等に応じた建物被災度判定手法に関する更なる研究や技術開発等が求められる。

図表28 災害時の顧客対応サービスに関する課題

Page 32: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

29

図表29 災害時の顧客対応サービスに関する課題と考えられる解決策

は、すぐには実現できないが技術開発の進展等によって将来的には実現できる可能性があるもの。 課題番号 課 題 考えられる解決策 さらなる課題 考えられる解決策

10 戸建住宅用の安価な構造ヘルスモニタリングシステムをどのようにして開発するのか

大量導入等を前提としてコストダウンが図れるのではないか。

自治体等と連携し公的な補助を活用することを検討してみてはどうか。

より安価かつ、適切に建物の揺れや被災状況を把握できるセンサー等開発できないか。

11 建物の被災度判定についてどのような手法が適切か

震度計を 1 カ所に設置し、建物の構造情報を活用したシミュレーション結果を基に安全性を判定する。

建物の構造情報が分からない住宅に適用するのが難しい。 建物構造や規模等に応じた建物被災度判

定のための共通的な手法やルール等の検討が必要。 複数の震度計等を住宅内に設置し、実測値を基に安全性を

判定する。 コスト増になる懸念がある。

Page 33: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

30

2.3.4 防災・緊急時対応サービスに関する想定される全体的な課題と解決策

防災・緊急時対応サービスに関して、想定される全体的な課題と解決策を図表 30 にま

とめた。全体的な課題としては、誰がサービス提供のためのコストを負担するのかとい

う問題がある(課題番号 12)。考えられるコストとして、「災害時に確実に適切な情報を

提供するサービス」においては、災害情報を HEMS が受けるようにするための HEMS

改修コスト、エコーネットライト規格を搭載した設備の取替え・設置コスト、「災害時の

安否確認サービス」においては、避難したか否かの確認の仕組みを HEMS に追加するた

めの HEMS 改修コスト、「災害時の顧客対応サービス」においては、構造ヘルスモニタ

リングシステムの震度計等の機器設置及び運用コスト、また、全体的にはサービスを維

持管理するコスト等が挙げられる。これらのコストは、サービスを受ける居住者と、サ

ービスを提供する住宅・建材設備メーカー等が応分の負担をすることになるが、特に居

住者にとって平常時のメリットを実感しにくいため、商品として選択されにくいのでは

ないかという懸念がある。コスト負担を軽減させる解決策としては、自治体等と連携し

公的なインフラとしての普及を図る方法や、地震保険を提供する企業等と連携し、ユー

ザーのコスト負担に見合うようなインセンティブ(保険料の割引等)を創出したり、「災

害時の顧客対応サービス」で得られた建物の被害情報と住宅情報(平面図等)を消防署

や自衛隊等に積極的に開示することで、優先的に救助活動を行ってもらえる等のインセ

ンティブを創出することが考えられる。また、既存の HEMS に簡単に追加できる機能を

付与し HEMS を徐々に多機能化することでコスト負担を抑える方法も考えられる。

停電時や通信ができない場合の対応を考えておく必要もある(課題番号 13)。この点に

ついては、蓄電池や太陽光発電等との連携により非常時でも電源を供給できる体制を構

築するほか、災害に強い通信規格を採用することで問題を解消できるが、災害に強い通

信方式等については総務省等での議論も進んでおり、こうした議論の方向性を注視する

必要がある。

災害時のみ利用するシステムでは、有事の際に使いこなせないのではないかという課

題も考えられる(課題番号 14)。そのため、平常時に居住者の防災意識を高めるような情

報を提供することや、自治体や自治会等と連携した防災訓練に活用することを検討すべ

きである。実際に L アラートを活用した防災訓練も行われており、こうした取組と連携

し、居住者の防災意識を高めるツールとして活用することも可能である。

Page 34: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

31

図表30 防災・緊急時対応サービスに関する全体的な課題と考えられる解決策

は、すぐには実現できないが技術開発の進展等によって将来的には実現できる可能性があるもの。

課題番号 課 題 考えられる解決策 さらなる課題 考えられる解決策

12 誰がサービス提供のためのコストを負担するのか

自治体等との情報の共有化を図り、インフラとして普及を図ることでコスト負担を軽減できるのではないか。

例えば地震保険を提供する企業等と連携し、ユーザーのコスト負担に見合うようなインセンティブ(保険料の割引)を創出することは考えられないか。

既存の HEMS に簡単に追加できる機能を付与していくことで、HEMS の多機能化を図り、新規開発コストを抑制する方法を検討してはどうか。

13 停電時や通信ができない場合、どのような対応を図るのか

蓄電池や太陽光発電等との連携により、電源を確保できるのではないか。

災害に強い通信規格を使用して通信を行えないか。

14 災害時のみ利用するシステムでは、有事の際に使いこなせないのではないか

情報伝達者が、防災意識の向上につながる情報等を提供することで、平常時にも有益な情報を提供したらどうか。

自治体や自治会等と連携した防災訓練に活用することはできないか。 どのようにして情報を取得するのか。

自治体や自治会、タウンマネジメント事業者等と連携も検討すべきではないか。地域のコミュニティ情報を提供したらどうか。

居住者の HEMS 利用頻度を高めるために、防災以外の機能も含めて HEMSの多機能化を進めることを検討できないか。

31

Page 35: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

32

2.4 防災・緊急時対応サービスに関するケーススタディのまとめ

2.4.1 ケーススタディの結果について

今回ケーススタディを実施した防災・緊急時対応サービスについては、既に実用化さ

れているサービスもあり、現時点で実現可能なものと、実現に向けて今後の技術開発や

研究等が必要なものがある。

まず、「災害時に確実に適切な情報を提供するサービス」のうち、例えば、HEMS を経

由しプッシュ型で災害情報を伝達するサービスについては、L アラートの情報伝達者と

HEMS を活用したサービス(例:エネルギーの見える化)との連携により、HEMS から

の情報提供コンテンツの新メニューとして追加することは、現時点でも技術的に実現可

能である。また、今後、HEMS で制御可能な家電や設備機器が普及することによって、

こうした機器を活用したプッシュ型での情報伝達も可能となり、居住者の安全・安心の

確保だけでなく、高齢者人口が増加する中、非常に重要な防災対策になると考えられる。

また、「災害時の安否確認サービスについては、技術的には実現可能であるが、在/不

在情報の発信に係るセキュリティ確保の問題や J-anpi と HEMS のシステム連携に係る

技術的課題等について更なる検討が必要である。

「災害時の顧客対応サービス」のうち、構造ヘルスモニタリングシステムを活用して

建物被災状況を把握するサービスについては、戸建住宅に適した安価なシステムの開発

や危険度判定のための共通的な手法、ルール等の検討が求められる。

このように、技術的には将来を含め実現可能性があることから、住宅メーカー並びに

関連事業者は、実現可能な部分からサービス提供に向けた検討に着手し、住生活サービ

スの向上を図ることが必要と考えられる。

2.4.2 今後取り組むべき方向性について

前述のとおり、ケーススタディについて課題と対応策の整理を行ったが、サービスを

提供する際のコストを誰が負担するのかという点については、議論の余地が残された。

これは、消費者にとって、防災・緊急時対応というサービスが、被災時にしかサービス

の有効性を感じられない側面があり、サービスを提供する側にとってもこのサービス単

体では商品としての価値を十分に訴求できないことが想定される。

しかしながら、地震保険等との連携や、住宅の IoT 化の進展により創出される他のサ

ービス(見守り等)との連携を図ることにより、サービス全体の付加価値を上げること

が期待される。そのためには、住宅メーカー並びに関連事業者、サービス提供事業者が

協調して、IoT 技術・ビッグデータを活用した多様な住生活サービスが提供可能な住宅環

境(家庭内機器やサーバ間の連携、データフォーマットの統一等)を実証、整備してい

くことが求められる。

一方、防災・緊急時対応サービスが普及することで、地域の防災機能を大幅に向上さ

せることが可能になるとともに、国や自治体が緊急時対応の優先度を決める際の助けと

なることが考えられる。例えば、(一社)レジリエンスジャパン推進協議会では、国土強

靭化の目的のもとレジリエンス性を確保した住宅のあり方等を検討しているところであ

るが、こうした機関と住宅メーカー等が連携し、レジリエンスに対応した住宅の機能の

Page 36: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

33

一つとして地域の被災状況を共有する仕組みや、被災度を分析するツールについて検討

することが考えられる。

このように、防災・緊急時対応サービスの実現に向け、住宅メーカーは、まず比較的

容易に実現可能な機能やサービスに限定したHEMSの付加機能としての実現を目指した

取組を検討し、将来的には自治体等や関係機関と連携しながらナショナルストックとし

て住宅に備わった基本機能としての普及を図っていくことが求められる。(図表 31)。

図表31 防災・緊急時対応サービスの実現可能性

Page 37: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

34

2.4.3 防災・緊急時対応サービスに関する先進事例<参考>

【参考事例①】

東京理科大学

建築 IoT を利用した安全・安心な知能住宅の実現に向けた産学官連携プロジェクト

東京理科大学では、建物の耐震安全性の向上や自然災害からの迅速な復旧を実現する

ために、IoT 化された建物が日常的・非日常的の状態を自己検知するシステムの実用化に

向けた検証を実施している。

この研究で目指している具体的な実用化のイメージは、振動や温度差を常時活用する

エネルギーハーベスターと、低消費無線ネットワークシステムを活用した独自の IoT シ

ステムを用いることで、建物の骨組躯体や内外装材に異常感知機能を持たせ、安全・安

心に関わる状況(建物の危機感や違和感)を検知・認知し、現状や危険予知等を発信す

るというもの。

さらに、倒壊、または倒壊危機に瀕した建物を特定して都市のハザードマップを形成

し、震災後、建物・都市の復旧・復興を短縮化するための知能住宅のシステム確立を目

指している。

図表32 研究開発のイメージ図(知能住宅(仮))

出典:東京理科大学 資料

Page 38: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

35

【参考事例②】

一般財団法人日本気象協会、日本ユニシス株式会社

災害監視カメラサービス「サイカメラ ZERO」

「サイカメラ ZERO」は、一般財団法人日本気象協会と日本ユニシス株式会社が共同

で開発した災害監視カメラサービスである。通信機能を持つ IP カメラを設置することで、

河川の水位や冠水の可能性があるアンダーパス等を遠隔から監視できる。カメラ自体が

通信機能を持っているため、通信ケーブル等を敷設する必要がなく、電源さえ確保でき

ればどこでも設置可能である。また、サービス利用料はカメラのレンタル費や通信費、

保守メンテコスト等が含まれた月額料金システムになっており、初期費用が発生しない。

一般財団法人日本気象協会では、総合気象サービス(「MICOS Fit」)を通じて、自治

体を対象にそれぞれの地域のピンポイントな気象情報を提供している。このサービスと

「サイカメラ ZERO」を同時に提供することで、気象情報を参考にしながら河川の状況

等を遠隔で監視できるため、自治体の事務効率化が可能となる。

「MICOS Fit」と「サイカメラ ZERO」を既に導入している杉並区では、台風や集中

豪雨による水位上昇が顕著な善福寺川や神田川へカメラを設置し、その画像を区民にも

公開している。

今後、こうした情報を住宅にプッシュ型で通知する仕組みが構築されれば、河川の氾

濫や土砂災害等、局所的に被害が発生する自然災害の被害を抑制できる可能性がある。

図表33 災害監視サービス「サイカメラ ZERO」機能概要図

出典:日本ユニシス株式会社 資料

Page 39: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

36

【参考事例③】

FujisawaSST マネジメント株式会社、パナソニック株式会社

防災 PUSH テレビ

Fujisawa サスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)では、各住宅のスマート

テレビに情報端末を設置し、気象庁からの災害情報(大雨特別警報等の気象特別警報等)

を自動で配信・表示する「防災 PUSH テレビ」を導入している。

また、台風・暴風・竜巻等によって停電等のリスクがある場合は、Fujisawa SST マネ

ジメント株式会社が独自のアラートを配信するサービスを提供している。

さらに、非常時の安否確認、街のイベントの変更連絡、コミュニティ活動に関する投

票等にも活用している。

こうした仕組みと HEMS、さらには HEMS でコントロールできる家電機器や住宅設

備が連動することによって、今回のワーキンググループでケーススタディを実施した高

齢者等にも確実に災害・避難情報を伝えるサービスの実現可能性が高まる。

図表34 防災 PUSH テレビの概要

出典:パナソニック株式会社 資料

Page 40: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

37

【参考事例④】

大阪市、NTT レゾナント株式会社

大阪市防災アプリ

大阪市では、災害時における的確で迅速な避難を支援し、日頃から災害に対する意識

を啓発し、避難に関する防災知識の普及を図るスマートフォン専用アプリケーション「大

阪市防災アプリ」を無料で提供している。このアプリは、NTT レゾナント株式会社の goo

防災アプリをベースに開発したもの。

災害時に備えて、事前の情報収集、大雨対策、家具転倒防止対策、避難経路学習等の

啓発情報を提供しているほか、災害時には災害情報をはじめ、河川水位、雲の動き、さ

らには避難が必要な場合には浸水想定図、避難所の開設状況、避難時の注意点等の情報

を配信する。避難後には、避難確認、避難生活情報収集等の機能も利用できる。

さらに、河川氾濫や津波浸水等の災害ごとの避難場所を事前に選んだ避難計画を保存

しておき、災害発生時には家族や近所で支えてくれる人に現在地やどの避難先に向かう

か等の安否情報を簡単に 10 件まで一斉にメールで送れる機能も備えている。

こうしたアプリと住宅が連携することで、災害情報のプッシュ通知や安否確認情報の

発信等をより確実に行うことができる可能性がある。

図表35 大阪市防災アプリ

出典:大阪市 ニュースリリース

Page 41: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

38

3.高齢者生活支援サービスに関するケーススタディ

3.1 高齢者生活支援サービスの社会的意義

3.1.1 高齢化の現状と将来像

「平成 28 年版高齢社会白書」(内閣府)によると、わが国の平成 27 年 10 月 1 日現在

の総人口は 1 億 2,711 万人となっている。このうち 65 歳以上の高齢者人口は 3,392 万人

であり、総人口に占める割合(高齢化率)は 26.7%に達している。その後も、高齢者人

口は増加を続け、平成 37 年には 3,657 万人に、平成 54 年には 3,878 万人に達しピーク

を迎えると予測されている。これに伴い高齢化率も上昇し、平成37年には30.3%となり、

以降、総人口の約 3 割が高齢者という時代を迎えると予測されている(図表 36)。

図表36 高齢化の推移と将来推計

出典:内閣府 平成 28 年版高齢社会白書(平成 28 年 5 月)

注 1:2010 年までは総務省「国勢調査」、2015 年は総務省「人口推計(平成 27 年国勢調査人口速報集計による人口を

基準とした平成 27 年 10 月 1日現在確定値)」、2020 年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計

人口(平成 24 年 1 月推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果

注 2:1950 年~2010 年の総数は年齢不詳を含む。高齢化率の算出には分母から年齢不詳を除いている。

3.1.2 社会保障費等の増大

平成 25 年度の社会保障給付費(年金・医療・福祉その他を合わせた額)は 110.7 兆円

となっており、そのうち、高齢者関係給付費は 75.6 兆円であり、約 7 割を占めている(図

表 37)。

高齢者人口が増加する中、こうした傾向はさらに強まることが予想されており、厚生

労働省の試算によると、平成 37 年度には社会保障費に係る費用は 148.9 兆円にまで増加

Page 42: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

39

する見込みである(図表 38)。

図表37 社会保障給付費の推移

出典:内閣府 平成 28 年版高齢社会白書(平成 28 年 5 月)

注 1:国立社会保障・人口問題研究所「平成 25 年度社会保障費用統計」より

注 2:高齢者関係給付費とは、年金保険給付費、高齢者医療給付費、老人福祉サービス給付費及び高年齢雇用継続給付

費を合わせたもので昭和 48 年度から集計

注 3:高齢者医療給付費は、平成 19 年度までは旧老人保健制度からの医療給付額、平成 20 年度は後期高齢者医療制度

からの医療給付額及び旧老人保健制度からの平成 20 年 3月分の医療給付額等が含まれている。

Page 43: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

40

図表38 社会保障に係る費用の将来推計

出典:厚生労働省 社会保障に係る費用の将来推計について(平成 24 年 3 月)

注:上図の子ども・子育ては、保育所、幼稚園、延長保育、地域子育て支援拠点、一時預かり、子どものための現金

給付、育児休業給付、出産手当金、社会的養護、妊婦健診等を含めた計数である。

3.1.3 健康寿命延伸の必要性

「平成 28 年版高齢社会白書」(内閣府)によると、健康寿命とは「日常生活に制限が

ない期間」であり、平成 25 年時点で男性が 71.19 年、女性が 74.21 年となっている(図

表 39)。

しかしながら、平均寿命と比べると男性は 9 年、女性は 12 年と差があり、社会保障費

等の増大を抑制するためには、健康寿命の延伸を促すことが重要である。

加えて、高齢者にとっても、健康寿命が延びることでより豊かな老後を過ごすことが

でき、超高齢化社会における QOL(Quality of Life)の向上という点でも健康寿命の延

伸が重要になるといえる。

53.8 56.5 58.5 60.4

35.1 39.5

46.9 54.0

8.4 10.5

14.9 19.8

4.8 5.5

5.8

5.6

7.4 7.8

8.4

9.0

0.0

20.0

40.0

60.0

80.0

100.0

120.0

140.0

160.0

平成24年度 平成27年度 平成32年度 平成37年度

兆円

年金 医療 介護 子ども子育て その他

109.5 兆円 119.8 兆円

134.4 兆円

148.9 兆円

Page 44: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

41

図表39 健康寿命と平均寿命の推移

出典:内閣府 平成 28 年版高齢社会白書(平成 28 年 5 月)

注:平均寿命:平成 13・16・19・25 年は、厚生労働省「簡易生命表」、平成 22 年は「完全生命表」

健康寿命:平成 13・16・19・22 年は、厚生労働科学研究費補助金「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策

の費用対効果に関する研究」平成 25 年は厚生労働省が「国民生活基礎調査」を基に算出

3.1.4 住宅を中心とした健康づくりの重要性

「第 18 回社会保障審議会医療保険部会」(厚生労働省)資料によると、医療機関で死

亡する者の割合は年々増加する傾向にあり、昭和 51 年には自宅で死亡する者の割合を上

回り、さらに近年では 8 割を超える水準で推移している。この点が、社会保障費の増大

を招いている一因になっている(図表 40)。

これに対して、「平成 24 年度高齢者の健康に関する意識調査」(内閣府)によると、「治

る見込みがない病気になった場合、どこで 期を迎えたいか」という質問に対して、「自

宅」と回答した高齢者が も多い(図表 41)。

こうした結果から、高齢者の多くが、 期を病院ではなく自宅で迎えたいと考えてい

ることが分かる。健康寿命を延伸し、健康な状態で住み慣れた自宅で老後を過ごしなが

ら 期が迎えられるという状況を創造するためには、住宅を中心とした健康づくりが可

能な環境を整備することが求められる。

Page 45: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

42

図表40 医療機関における死亡割合の年次推移

出典:厚生労働省 第 18 回社会保障審議会医療保険部会資料(平成 17 年 8 月)

図表41 最期を迎えたい場所

出典:内閣府 平成 24 年度高齢者の健康に関する意識調査(平成 25 年 3月)

注:調査対象は、全国 55 歳以上の男女

27.7

54.6

0.7 0.4 4.1 4.5 1.16.9

29.9

54.9

0.3 0.7 4.2 3.11.7

5.2

27.2

53.7

0.6 0.4 4.7 5.3 1.2 6.9

27.6

56.3

0.9

0.2

2.8 3.70.6

7.8

0

10

20

30

40

50

60

病院などの

医療施設

自 宅 子どもの家 兄弟姉妹など

親族の家

高齢者向けの

ケア付き住宅

特別養護老人

ホームなどの

福祉施設

その他 わからない

(%)

総 数

55~59歳(計)

60~74歳(計)

75歳以上

Page 46: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

43

3.1.5 高齢者世帯の見守り力等の低下

「平成 28 年版高齢者社会白書」(内閣府)によると、65 歳以上の高齢者の子どもとの

同居率は、昭和 55 年に約 7 割であったが、平成 12 年には 5 割を割り込み、平成 26 年に

は 40.6%まで低下している(図表 42)。その一方で、一人暮らしまたは夫婦のみの高齢

者世帯は、ともに大幅に増加しており、昭和 55 年に 3 割弱であったものが、平成 26 年

には 55.4%にまで増加している。特に 65 歳以上の一人暮らしの高齢者の増加は顕著で、

昭和 55 年に男性約 19 万人、女性約 69 万人であったものが平成 22 年には男性約 139 万

人、女性約 341 万人にまで増加している(図表 43)。

図表42 家族形態別にみた 65 歳以上の高齢者の割合

出典:内閣府 平成 28 年版高齢社会白書(平成 28 年 5 月)

注 1:昭和 60 年以前は厚生省「厚生行政基礎調査」、昭和 61 年以降は厚生労働省「国民生活基礎調査」

注 2:平成 7年の数値は兵庫県を除いたもの、平成 23 年の数値は岩手県、宮城県及び福島県を除いたもの、平成 24 年

の数値は福島県を除いたものである。

Page 47: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

44

図表43 一人暮らしの高齢者の動向

出典:内閣府 平成 28 年版高齢社会白書(平成 28 年 5 月)

注 1:平成 22 年までは総務省「国勢調査」、平成 27 年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計

(平成 25(2013)年 1月推計)」、「日本の将来推計人口(平成 24(2012)年 1月推計)」

注 2:「一人暮らし」とは、上記の調査・推計における「単独世帯」のことを指す。

こうした状況の中、高齢者世帯に対する“見守り力”が低下しており、今後、住宅を中

心とした健康づくりを進める上での阻害要因になる可能性がある。また、介護への対応に

ついても、世帯の介護力が低下しているだけでなく、介護サービス等高齢者の生活を支援

する人材も不足する傾向にあり、介護・生活支援サービスの効率化が求められている(図

表 44)。

Page 48: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

45

図表44 介護関係従業員の過不足の状況

出典:厚生労働省 第 1 回福祉人材確保対策検討会資料(平成 26 年 6 月)

注:公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査」より

3.1.6 住宅の IoT 化によって実現する高齢者生活支援サービス

図表 45 は、高齢者生活支援サービスの社会的意義をまとめたものである。こうした社

会的背景を鑑み、高齢者生活支援サービスワーキンググループにおいては、住宅の IoT

化により、高齢者の健康寿命を延伸し、住み慣れた“我が家”で快適な生活を継続する

ための生活支援サービスについてケーススタディを行い、サービスを実現するための課

題等を抽出した。

Page 49: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

46

図表45 ケーススタディを実施する高齢者生活支援サービスの社会的意義

3.2 高齢者生活支援サービスの概要

3.2.1 サービスの全体像

図表 46 は、今回ケーススタディを実施した高齢者生活支援サービスの全体像である。

今回のケーススタディでは、株式会社やさしい手、株式会社タニタ(株式会社タニタヘ

ルスリンク)、クックパッド株式会社、オイシックス株式会社といった企業をサービス事

業者として想定し、サービスの実現可能性や課題等について検討を行った。

なお、ケーススタディにおいて具体的な課題を抽出しやすくするため、サービスを提

供する対象を、健康維持期から介護予防期にある健康な高齢者(65 歳~70 歳)夫婦のみ

の世帯と仮定した。

Page 50: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

47

図表46 高齢者生活支援サービスの例

3.2.2 想定されるサービスの内容について

それぞれの企業が提供するサービスの事業概要と、想定される住生活データを活用し

た高齢者生活支援サービスの内容について説明する。

在宅介護事業等を展開する株式会社やさしい手では、介護有資格者の専門相談員が定

期的に自宅を訪問して高齢者の状況やニーズを把握し、生活改善提案等のサービスを実

施している(図表 47)。住宅から高齢者の住生活データ(体重や血圧等の生体情報)が得

られれば、面談では分からない高齢者の生体情報の変化を把握することができ、本人が

認識していない健康状態の変化を深掘りすることで、より効果的に高齢者の健康増進を

促すことが可能となる。

また、既に利用者へ提供されている医療、介護、地域サービスとも連携し、介護保険対

象サービスと介護保険対象外サービスを組み合わせ、在宅生活継続に向けた生活改善提案

を行うことも考えられる。

Page 51: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

48

図表47 株式会社やさしい手による生活相談・見守り「在宅生活支援サービス」

出典:株式会社やさしい手 資料

株式会社タニタと株式会社タニタヘルスリンクでは、様々なバイタルデータ等を計測す

るデバイスの製造・販売を行っているだけでなく(図表 48)、高齢者の健康・生活情報に

基づき、独自に開発した「タニタ健康プログラム」を提案している。また、公的支援も受

けながら多くの自治体と連携し、地域における健康づくり、まちづくりを支援している。

さらに、一部の電力会社と連携し、歩いて健康になるという行為に対し電気料金を引き下

げるプランを構築している。従って、住宅内で高齢者のバイタルデータを取得するための

デバイスを提供する役割を担うだけでなく、バイタルデータに基づいた 適な健康プログ

ラムの提案や健康というテーマを絡めたまちづくり支援を行うことが考えられる。将来的

には健康プログラムの実施状況や高齢者の健康状態と連動させ、保険料の割引をはじめと

する様々な特典が得られる健康増進型保険の開発につながる可能性もある。

図表48 株式会社タニタ(株式会社タニタヘルスリンク)が製造・販売する計測器等

出典:株式会社タニタ 資料

Page 52: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

49

クックパッド株式会社では、月間 6,300 万人以上が利用し、平成 29 年 2 月時点の投稿

レシピ数は 259 万品以上の日本 大のレシピサービスを運営しており(図表 49)、今後

の機械学習や AI によるデータ活用の方向として、IoT 化によって得られる高齢者のバイ

タルデータ、家電のスマート化等によって得られる家庭にある食材や普段の食事の情報

等を参考にしながら、将来的には、より健康的なレシピの提案サービスや、継続的に食

事のデータを取得することで食事によりどのように健康状態が改善していったかを知ら

せるサービスを提供することが考えられる。

また、高齢者本人の料理を支援する以外にも株式会社やさしい手と連携し、高齢者そ

れぞれの好みや健康状態を考慮しながらヘルパーにレシピや献立を提案し、より質の高

い訪問介護を実現することも可能となる。

図表49 クックパッド株式会社が展開するレシピサービス

出典:クックパッド株式会社 資料(レシピ数は平成 28 年 12 月末時点)

株式会社オイシックスでは、インターネット等を通じて、一般消費者への特別栽培農産

物、無添加加工食品といった安全性に配慮した商品・食材の宅配事業を行っている。また、

社会進出等に伴う女性の多忙化を支援するために、主菜・副菜を 20 分で作ることができ

るレシピと食材をセットにした「Kit Oisix」というサービスを提供している(図表 50)。

前述のクックパッド株式会社、株式会社おいしい健康と株式会社オイシックスが連携する

ことで、健康に配慮したレシピと、高齢者でも無理なく楽しく料理ができる時短型の食材

宅配サービスや管理栄養士の作った弁当の配達サービスを提供することが考えられる。宅

Page 53: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

50

配にあたっては、冷蔵仕様の宅配ボックスを住宅に設置することで生鮮品の不在配達等が

可能となり、配送の効率化によるコスト削減につながる可能性がある。

また、株式会社オイシックスでは、いわゆる“買い物難民”を支援するために、移動

スーパーを展開する株式会社とくし丸を子会社化しており、日常的な買い物に困っている

高齢者単身世帯が多く暮らす地域において、健康的な食材を移動スーパーで届けることも

考えられる。

図表50 株式会社オイシックスが提供する食材宅配サービス

出典:株式会社オイシックス 資料

3.2.3 高齢者生活支援サービスがもたらすメリット

図表 51 は、ケーススタディを実施した高齢者生活支援サービスについて、想定される

メリットをまとめたものである。まず、サービス利用者にとっては、心身ともに健康的な

状態を保ちながら充実した老後を過ごすことができ、住み慣れた自宅での暮らしを維持で

きる。サービス提供事業者にとっては、高齢者を対象とした新たなヘルスケアビジネスの

展開の可能性が広がる。建材・住宅設備メーカーにとっては、サービスの提供を可能とす

る IoT 技術機能が組み込まれた新商品(例えば、キッチンやテーブルの上にカメラを組み

込み、食材を画像認識してレシピを提案する等)開発の可能性がある。住宅メーカーにと

っては、自社で提供する住宅の価値向上をはじめ、ストックのリフォーム需要の開拓、過

去に供給した住宅団地等の価値向上、さらにはヘルスケア事業分野への進出等も期待でき

る。

Page 54: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

51

図表51 高齢者生活支援サービスがもたらすメリット

3.3 高齢者生活支援サービスに関する課題等

高齢者生活支援サービスワーキンググループにおいてケーススタディを実施した結果、

高齢者生活支援サービスに関する想定される課題と考えられる解決策を図表 52のとおりま

とめた。

Page 55: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

図表52 高齢者生活支援サービスに関する想定される課題と考えられる解決策

は、すぐには実現できないが技術開発の進展等によって将来的には実現できる可能性があるもの。

課題

番号課 題 考えられる解決策 さらなる課題 考えられる解決策 さらなる課題 考えられる解決策

1 高齢者生活支援サービ

スを提供するためにど

のようなデータが必要に

なるのか

生体情報(体重、推定骨量、推定水分

量、体脂肪率、BMI、血圧、体温、血糖

値、尿糖値、下肢筋力の状況等)どの程度の頻度でデ

ータを計測する必要が

あるのか。

2 週間に1回程度。大きく値

が変化したことを把握するこ

とが重要。 必要とされる情報の精度はどの

程度か。 提供するサービス内容によって検討が必要。 生活情報(活動量、食事の状況、睡眠

の状況、排せつ量)適時計測

環境情報(温度、湿度、空気質) 常時計測

2 必要となるデータをどの

ように取得するのか(生

体情報)

データ データ取得機器

計測は居住者が自発

的に行わなければなら

ないため、必ずしも継

続的にデータを蓄積す

ることができない。

ウェアラブルな計測装置によ

り測定してはどうか。

直接肌に触れるウェアラブル端

末の場合、そもそも身につけて

もらえない、身につけても一度

外すと外したままになる等、必

ずしも継続的にデータを蓄積す

ることができないため、負担の

ない計測方法の検討が必要で

はないか。

日常生活の中で、特に意識することなく必要な生

体情報を取得するシステムは考えられないか。

例えば、洗面台に計測機器を組み込み、鏡のモニ

ターに健康状態等を表示することや、センサー付

きベッド上で就寝中に測定すること等が考えられ

る。その場合、個人認証の問題があるが、体重等

の大きく変化しない生体情報をもとに個人をある程

度特定することは可能ではないか。

また、これらの取得データは精緻である必要はな

く、平常値から外れた値を発見する程度であれば

十分であり、居住者の早期受診を促すことが期待

される。

血圧、血糖値については、現時点ではウェアラブ

ル端末にすることも難しいため、住宅団地内にあ

る公民館や病院等で計測し、そのデータを住宅内

で取得した他の生体情報と併せて活用できるので

はないか。

体重、推定骨量、

推定水分量、体脂

肪率、BMI 体組成計

体温 体温計

血圧 血圧計

血糖値 簡易型の血糖値計

測キット

尿糖値 尿糖計 住宅内のトイレに尿糖計を組

み込んではどうか。 法規制の問題(後述)。

診断まで求めるとなると医療機

関との連携が必須。

下肢筋力 下肢筋力計 機器が高価なため個

人購入は困難。計測の

ための専門スタッフが

必要な場合もある。

公民館等の共有施設に下肢

筋力計を設置して運動プロ

グラム等のサービスともに計

測機会を創出することが考

えられないか。

Page 56: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

は、すぐには実現できないが技術開発の進展等によって将来的には実現できる可能性があるもの。

課題

番号 課 題 考えられる解決策 さらなる課題 考えられる解決策 さらなる課題 考えられる解決策

3 必要となるデータをどの

ように取得するのか(生

活情報)

データ データ取得機器

計測は居住者が自発的に行

わなければならないため、必

ずしも継続的にデータを蓄積

することができない。

ウェアラブルな計測装置により測定

してはどうか。

例えば、非接触 IC カード技術を組

み込んだ装置で計測すれば、スマ

ホに装置をかざすだけで情報をサ

ーバーに自動で送ることが可能。

直接肌に触れるウェアラブル端

末の場合、そもそも身につけても

らえない、身につけても一度外す

と外したままになる等、必ずしも

継続的にデータを蓄積することが

できないのではないか。

負担のない計測方法の検討が必要

ではないか。また、活動量だけに頼

るのではなく、住宅内の部資材(例

えば窓やドアの開閉回数)等を活

用して居住者の活動状況を把握す

ることも検討すべきである。

活動量 活動量計

食事の状況 スマートフォン等を

活用し写真データと

して情報化可能。

食事の写真を撮影し続けるモ

チベーションを維持することが

難しい。また、スマートフォン

等の操作に不慣れな高齢者

も多い。

住宅や住宅設備機器に自動で食事

の写真を撮影する機能を付与する

ことはできないか。 写真だけではきめ細かい食事指

導はできないのではないか。

同じものを食べている頻度や食べ

合わせ等を把握しながら、行動変

容に繋がるような提案ができるた

め、写真撮影による食事データは

有益。

食材等のストック

状況

冷蔵庫やストックヤ

ード等にセンサー技

術等を活用し、食材

のストック状況を把

握できる仕組みを搭

載。

睡眠の状況 睡眠計

排せつ量

トイレに組み込んだ

センサー等 誰がトイレを使用したのかを

判断する仕組みが必要。

法規制の問題(後述)もある。

個人認証の問題については、スマ

ートフォンに温水洗浄便座の温度

設定等を記憶させておき、スマート

フォンを持ってトイレに行くと自動で

設定が変更されるといった技術を

活用することも可能。

また、限定された家族のみが使用

する場合、体重等から個人を特定

することが可能ではないか。

HEMS データを用い

て温水洗浄便座の

使用頻度等で推

定。

精度が高い情報を求められる

場合にどこまで対応できるか

が未知数。

誰がトイレを使用したのかを

判断する仕組みが必要。

水道等の使用量

等を分析し、生活

情報を推測

HEMS 精度が高い情報を求められる

場合にどこまで対応できるか

が未知数。

Page 57: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

は、すぐには実現できないが技術開発の進展等によって将来的には実現できる可能性があるもの。

課題

番号課 題 考えられる解決策 さらなる課題 考えられる解決策 さらなる課題 考えられる解決策

4 必要となるデータをどの

ように取得するのか(環

境情報)

データ データ取得機器

温度、湿度、空気

住宅内外に設置し

た環境センサー

5

どのようにすれば住宅

内で必要となる生体情

報、生活情報、環境情

報を取得する環境を創

造できるのか

生体情報 住宅内に計測機器

やセンサーを組み

込むことで、サービ

ス利用者に負担を

かけることなく、継続

的にデータを計測・

取得できる可能性

がある。

住宅内の設備機器と計測機

器を一体化してしまうと技術

革新等によって機能が陳腐

化等を招く恐れもある。

医療機器となり得る測定機器

の製造については、薬事法等

の法制度による規制の対象

になる場合がある。

ソフトウェアを更新することでの機

能の高度化や追加を行えるような

仕組みやアップデートできるような

計測機能を備えた建材や設備を開

発できないか。

医療機器扱いになる計測機器につ

いては、法制度の問題をクリアする

ために、特区内での試験運用等を

経て実用化することも考えられる。

生活情報

環境情報 住宅内外に設置し

た環境センサー

6 取得すべきデータの数

が多くなってしまう

要介護のリスクや前兆を把握するため

に必要となるキーデータを研究、実証

によって明らかにし、そのデータのみを

取得できる仕組みを検討できないか。

7 誰がサービスのコストを

支払うのか サービスを利用する高齢者自身

元気な高齢者の場合、こうし

た健康サービスにコストをか

けない傾向が強い。

いつまでも健康で暮らすことの大切

さを訴求すると同時に、楽しさや生

きがいにつながるようなコンテンツ

を付加することはできないか。(例

えば、楽しみながらコミュニケーショ

ンも図れる健康プログラムの提供

や、健康に良くて美味しい料理を学

ぶ教室の開催、さらには自宅に居

ながら生涯学習等を受けられる環

境の整備等)。

離れて暮らす高齢者の子ども達

54

Page 58: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

は、すぐには実現できないが技術開発の進展等によって将来的には実現できる可能性があるもの。

課題

番号課 題 考えられる解決策 さらなる課題 考えられる解決策 さらなる課題 考えられる解決策

8 どのようにサービスを実

用化していくのか

新築時から、サービスを受けられるインフラ

を整えた住宅を販売。 居住者が高齢期に差し掛かった頃

にはサービスインフラが陳腐化して

いるのではないか。

新築時に HEMS を設置し、HEMS に

様々なデータが集まる仕組みだけを構

築しておき、必要に応じて居住者が

HEMS の機能を追加できるような仕組

みを構築できないか。

既存住宅を対象にサービスとともにインフラ

を整備するためのリフォームを提案すること

が有効ではないか。(例えば、初めに試行的

にリビングと脱衣室の温度差と血圧の変化を

一定期間計測し、その結果をもとに断熱改修

と HEMS を中心とした生活支援サービスが受

けられるインフラを提案。)

分譲地等の街単位でサービスインフラを導入

することで、サービス事業者にとってもコスト

メリットが得られるのではないか。

また、分譲地の一画に運動指導や健康相談

等が受けられる施設を整備し、コミュニティの

形成や地域の価値向上にもつながるような

仕組みを検討できないか。

データ項目が増加しても対応できるフォーマ

ットを住宅メーカー等で統一し、サービス提供

事業者が容易にデータを取得できる環境を

整備する。

コミュニケーションロボット等をインターフェイ

スとして活用することで、高齢者等が無理なく

サービスを利用できる環境を創造する。

生体情報や生活情報については、非常にパ

ーソナルな情報であり、こうした情報を個人

や住宅と紐付けする場合、セキュリティの確

保に最大限の配慮を払う必要がある。

55

Page 59: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

56

3.3.1 高齢者生活支援サービスを提供するために必要なデータ

サービスを実施するために必要となるデータは、大きく生体情報、生活情報、環境情

報の 3 つに分けられた。なお、必要とされる情報の精度は提供するサービス内容によっ

て異なるため、実際のサービス提供にあたっては、必要な情報の精度について検討が必

要である。

3.3.2 データの取得方法(生体情報)

サービスに必要となる生体情報のうち、体重、推定骨量、推定水分量、体脂肪率、BMI

は体組成計等の計測機器を活用することが想定される。こうした計測機器から得られた

データを一括管理することで、データを活用するサービス事業者にとっては有益な情報

となる。これらのデータを、例えば HEMS に集約することで、HEMS から得られる住

生活データの多様化につながることが考えられる。

また、体温は体温計、血圧は血圧計、血糖値は簡易型の血糖値計測キットを使用して

家庭で計測することができ、これらについても前述のとおり HEMS との連携を図ること

で、有益な住生活データとなることが考えられる。

ただし、計測機器を活用して生体情報を取得する場合、サービス利用者が自発的に計

測する必要があり、必ずしも継続的にデータを取得できないのではないかという課題が

ある。これについては、ウェアラブル端末等を活用して、データ計測の継続性を担保す

る方法があるが、特に高齢者の場合、ウェアラブル端末を常時装着することに対して抵

抗を感じるケースが多いと考えられる。加えて、端末によっては充電が必要なものもあ

り、充電を忘れることによりデータが計測できないという事態も想定される。

よって、日常生活の中で、特に意識することなく必要な生体情報を取得するシステム

の検討が求められる。例えば、ドアノブのように必ず触れる部分から生体情報を取得す

る仕組み、洗面台の前に立つと体重等が自動で計測され、鏡に組み込まれたモニター(ス

マートミラー等)に計測結果を表示する仕組み、センサー付ベッド上で就寝中に計測す

る仕組み、計測データを HEMS 経由でサービス事業者に発信する仕組み等、住宅設備に

計測機能を持たせることが考えられる。加えて、例えばドアや窓、カーテンの開閉状況

等の情報を活用することで、居住者の活動状況を把握できる可能性がある。なお、これ

らの取得データは必ずしも精緻である必要はなく、通常と異なる異常値を発見する程度

であれば十分であり、居住者の早期受診を促すことが期待される。

また、例えば洗面台等、複数人で使用している家庭ではデータを混同しないようにす

る必要がある。カメラ等を使用して個人を認証する方法も考えられるが、さらなる技術

開発が必要であるため、家族間であれば、体重等の大きく変化しない生体情報をもとに

個人を一定の精度で特定することも有効である。また、気候の違いや温度差等、どうい

う環境で測定したデータなのかという視点が欠けると健康状態を誤って判断してしまう

可能性がある。よって生体情報の取得時に、屋外や室内の環境、どのような行動をした

後なのか(入浴後なのか、排せつ後なのか等)といったデータを併せて取得することが

必要と考えられる。

血圧、血糖値については、ウェラブル端末や住宅内の家電、住宅設備と連携して計測

することが難しいため、住宅団地内の公民館や病院等で計測したデータを活用する方法

Page 60: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

57

が考えられる。

尿糖値は、トイレに尿糖計を組み込むことでデータを取得することは可能であるが、

法規制等の問題がある。

下肢筋力については、老化の状況等を把握するうえで非常に重要なデータとなるが、

下肢筋力計が高価であると同時に、専門知識を持ったスタッフが必要な場合もあるため、

個別の住宅内で計測するのではなく、公民館等の共有施設に設置し、運動プログラム提

供等のサービスと同時に計測機会を創出する方法が現実的である。

3.3.3 データの取得方法(生活情報)

生活情報の取得にあたっては、例えば活動量は活動量計で計測でき、ウェアラブル型

の活動量計も実用化されているが、やはり利用者の自発的な行為に委ねる部分が多い。

また、ウェアラブル端末に対する高齢者の抵抗感等を考慮すると、継続的にデータを取

得する手法を検討する必要がある。その解決策のひとつとして、住宅内に組み込んだセ

ンサー等で活動量を計測し、その情報をHEMS経由でサービス事業者に発信することで、

負担のない計測を実現することが考えられる。また、活動量計だけに頼るのではなく、

例えば、窓やドアの開閉回数等を活用して居住者の活動状況を把握することも検討すべ

きである。

食事の状況については、スマートフォン等を活用して食事の写真を撮影し、サービス

事業者に送信することで情報を取得することが可能だが、利用者が写真を撮影し続ける

モチベーションを維持することが課題となる。その解決策のひとつとして、例えば住宅

設備機器に自動で食事の写真を撮影する機能を持たせることで、利用者の負担を軽減し

つつ情報を取得することが考えられる。なお、食事の状況については、写真だけでは食

事に使われている油の量等が分からず、きめ細かい食事指導はできないが、同じものを

食べている頻度や食べ合わせ等を把握しながら、行動変容につながるような提案ができ

ることが重要で、その意味では、写真撮影による食事データは有益である。

また、食材のストック状況等の情報を把握することで、健康的なレシピ提案や食材の

宅配サービスに活用することが考えられる。ストック状況から同じ食材を買い続けてい

るということが分かれば、認知症予防の観点からも有効である。そのためには、冷蔵庫

やストックヤード等にセンサーを設置し、ストック状況を把握する方法が考えられるが、

今後のさらなる技術開発が必要である。

睡眠の状況については、既にシート型の睡眠計を寝具に設置するだけで睡眠状態を把

握できるデバイスが実用化されており、こうしたデバイスとHEMSを連携させることで、

他のデータとの集約化を図りながら情報を取得することが可能である。

排せつの状況については、トイレにセンサー等を組み込むことで情報を取得できる可

能性があるが、法規制や個人認証の問題がある。このうち個人認証の問題については、

スマートフォンに温水洗浄便座の温度設定等を記憶させておき、スマートフォンを持っ

てトイレに入ると自動で設定が変更されると同時に個人認証を行うことも考えられるが、

家族等特定の居住者だけが利用するため、体重等を基に簡便に個人認証を行うことも可

能である。加えて、HEMS データから得られた電力使用状況から温水洗浄便座の使用頻

度等を推定することで、トイレの使用回数を把握することも考えられるが、サービスを

Page 61: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

58

提供するうえで一定以上のデータ精度を必要とする場合、使用回数のデータだけでどこ

まで対応可能か検討の余地がある。

このほか、HEMS データを活用し、水道や電力の使用量から生活状況を推測すること

も考えられるが、活用の程度は求められるデータ精度によって変わってくる。

3.3.4 データの取得方法(環境情報)

環境情報の取得にあたっては、住宅内外にセンサー等を設置することで、比較的容易

に取得することが可能である。こうして得た情報を HEMS に集約することで、例えば居

室と非居室の温度差を基にヒートショックを抑制するような暮らし方のアドバイスを行

うこともできる。

3.3.5 住宅内で必要となるデータの取得環境の創造

生体情報や生活情報の一部については、前述のとおり住宅内に計測機器やセンサーを

組み込むことで、サービス利用者に負担をかけることなく、継続的にデータを計測・取

得できる可能性がある。例えば、血圧計や体重計等の機能を便器に埋め込むことは技術

的に十分可能であると考えられるが、どこまでコストを抑えられるかが課題となる。し

かし、住宅内の設備機器と計測機器を一体化すると、技術革新への対応が遅れ、機能の

陳腐化等を招く恐れもある。これに対しては、ソフトウェアを更新することで機能の高

度化や追加を行えるような仕組みや、様々な機器を接続できるプラットフォームを住宅

側に設置することで解決できる可能性がある。また、それらの計測機器等の取扱は、サ

ービス利用者(特に高齢者)にとって、できるだけ簡単であることが必要である。

医療機器扱いになる計測機器については、法制度の問題をクリアするために、特区内

での試験運用等を経て実用化することも考えられる。

また、情報を取得するためのセンサー等のデバイスを適切な場所等に設置できる人材

が不足しており、こうした人材を育成していくことも今後の課題である。

3.3.6 取得すべきデータの整理

取得すべきデータの数については、要介護のリスクや前兆の把握に必要なキーデータ

を明らかにするための研究を進め、キーデータのみを取得できる環境を整備することで

解決できると考えられる。また、今後新たなデータを取得する前に、現在保有している

データを整理して有効活用することで、付加価値が創出できないかということも検討す

る必要がある。ただし、必要なデータは高齢者の病状等によっても大きく変わるため、

医療機関等の知見も必要である。

3.3.7 サービスのコスト負担

サービスのコストは、基本的にサービス利用者である高齢者、または離れて暮らす子

ども達等が負担することになるが、将来に備えた健康づくりに対して、コストを支払う利

用者は少ないのではないかという見方もある。そのため、サービス提供事業者は、いつま

でも健康で暮らすことの大切さを訴求すると同時に、楽しさや生きがいにつながるような

コンテンツ(例えば、楽しみながらコミュニケーションも図ることができる健康プログラ

Page 62: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

59

ムの提供や、健康に良くて美味しい料理を学ぶ教室の開催、さらには自宅に居ながら生涯

学習等を受けられる環境の整備)を付加することも今後の検討課題である。

3.3.8 サービスの実用化

サービスの実用化に向けては、新築時からサービスを受けられるインフラを備えた住

宅を提供することが考えられるが、居住者が高齢期に差し掛かった頃にはサービスイン

フラが陳腐化してしまうことも予想されるため、新築時にサービスインフラを整備する

よりも、リフォーム提案の一環としてサービスを実用化していく方がより実態に即して

いる。よって、新築時には、HEMS を介して生体情報、生活情報及び環境情報を取得で

きる仕組みのみを構築しておき、リフォーム時に HEMS の機能を追加できるようにして

おく等、住宅に組み込む範囲を考慮することが必要と考えられる。

既存住宅へのリフォーム提案については、サービスを提供するためのインフラ整備を

提案する「ヘルスケアリフォーム」を具体化することが考えられる。例えば、リフォー

ム提案の前に、試行的にリビングと脱衣室の温度差と血圧の変化を一定期間計測し、そ

の結果を基に断熱改修とHEMSを中心とした生活支援サービスが受けられるインフラを

セットで提案すること等が想定できる。

また、新たに開発する分譲地や高齢化が進む既存の住宅団地を対象に、サービスを提

供するためのインフラを導入することができれば、サービス提供事業者にとってもコス

トメリットが得られると考えられる。加えて、住宅団地の一角に健康づくりのための拠

点を整備することで、IoT 機器によるサービスだけでなく、運動指導や健康相談等人を介

したサービスが提供可能となり、コミュニティの活性化や地域の価値向上にもつながる。

近では、大型商業施設内に健康づくりのための施設を開設し、集客を図ると同時に

近隣住民の健康づくりに貢献しようという取組も始まっており、こうした取組を行って

いる民間事業者との連携も考えられる。

サービスを提供するためのインフラに関しては、情報の提供方法についても検討する

必要がある。例えば、サービス提供事業者が HEMS を経由して住宅から情報を取得する

際、住宅メーカーまたは建材・住宅設備メーカー毎にデータのフォーマットやプロトコ

ルが異なっており、サービス提供事業者にとってはそれぞれのフォーマットやプロトコ

ルに対応させるコストが発生している。今後、新しいサービスの創出等を見据えれば、

データ項目が増加しても対応できるフォーマットを住宅メーカー等が統一し、サービス

提供事業者が容易にデータを取得できる環境を整備する必要がある。

サービスの提供方法については、健康状態が悪いデータが可視化され、そのデータに

基づいた直接的なサービスの提案(例えば「血圧が高いのでこういう食事をとりましょ

う」等)は居住者の QOL を低下させてしまうことも考えられるため、データに基づいた

提案内容には配慮が求められる。また、HEMS 側が一方的に分析した結果のみを提供す

るのではなく、何らかのコミュニケーションを交えたサービスの提供も必要である。

サービス利用者とサービス提供事業者間のインターフェイスのあり方についても今後

の課題である。高齢者の場合、タッチパネル式のデバイス等に不慣れな場合が多い。

近では、音声認識ができるデバイスを住宅内に設置し、それをインターフェイスとして

使用し、サービスを提供しようという動きがある。こうした動きも踏まえながら、音声

Page 63: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

60

認識機能を備えた HEMS、あるいはコミュニケーションロボットをインターフェイスと

して活用することによって、高齢者等の利用を促進することも、今後検討が必要である。

情報に対するセキュリティの問題への配慮も必要である。生体情報や生活情報は非常

にパーソナルな情報であり、こうした情報を個人や住宅と紐付けする場合、セキュリテ

ィの確保に 大限の配慮を払うことが求められる。

3.4 高齢者生活支援サービスに関するケーススタディのまとめ

3.4.1 ケーススタディの結果について

今回ケーススタディを実施した結果、高齢者生活支援サービスについては、生体情報、

生活情報及び環境情報を住宅から取得できる環境が整えば、高齢者の健康寿命の延伸、

さらには高齢期のQOLの向上に資するようなサービスを提供できる可能性があることが

分かった。

しかし、サービス提供のためには、居住者に負担をかけることなく生体情報、生活情

報及び環境情報を取得する工夫が求められる。このうち、環境情報については、センサ

ー技術を活用することで、HEMS 経由でのデータ取得が比較的容易に可能となる。生体

情報と生活情報については、ウェアラブル端末等を活用し、そこで取得した情報を HEMS

に集約することが可能であるが、ウェアラブル端末を常時身に付けることに抵抗を感じ

る高齢者も多い。加えて、バッテリー切れの問題等から計測機能を適切に発揮できない

という事態も想定される。このため、生体情報や生活情報を全てウェアラブル端末で取

得するのではなく、それらの情報を HEMS で得られたエネルギーデータ等によって補完

するという仕組みも必要である。

よって、住宅の IoT 化を推進し、自宅で日常生活を送りながら居住者が意識すること

なく生体情報や生活情報を取得できる環境を整備することが必要と考えられるが、一方

で、住宅が長寿命化する中、センサー等のデバイスの機能が陳腐化することのないよう、

機能の更新、拡充への対応が必要である。

また、住宅から得られる様々なデータの中から、サービスを提供するために必要なキ

ーデータを明らかにし、必要 小限のデータを効率良く取得できるよう実証、研究を進

めることも必要である。

高齢者生活支援サービスの提供にあたっては、IoT 技術に頼るだけではなく、対面によ

るコミュニケーションの確保や地域、コミュニティとの連携も交えながら、楽しさや生

きがいを与えるような魅力的なサービスを実現し、利用者本人だけでなく、離れて暮ら

す家族等にも訴求することが重要である。加えて、音声認識やコミュニケーションロボ

ット等、高齢者が無理なくサービスを利用できる環境(ゼロユーザーインターフェイス)

を創造することも求められる。

これらの取組を進めることで、住宅自体が高齢者の暮らしを見守り、適切な生活支援

サービスを提供する「場」を創造していくことが重要である。

Page 64: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

61

3.4.2 今後取り組むべき方向性について

前述のとおり、ケーススタディによって課題と対応策の整理を行ったところであるが、

「場」の創造に向けて、住宅メーカー並びに関連事業者は、住宅から取得したデータを

サービス提供事業者が自由に使えるような環境を整備し、居住者にとって有益な住生活

サービスの参入を促す必要がある。

そのためには、まず、IoT 技術・住生活ビッグデータを活用した多様な生活支援サービ

スが提供可能な住宅環境(家庭内機器やサーバ間の連携、データフォーマットの統一等)

を実証、整備していくことが求められる。特に、高齢者の見守りや生活支援サービスに

おいては、例えば、生体情報や生活情報を計測するデバイスを住宅部材に一体化する等、

居住者に負担をかけることなく情報を取得する方法についても検討することが必要であ

る。

また、事業化を進めるにあたり、高齢者生活支援サービスは住宅メーカーにとってス

トックビジネスの活性化に貢献するツールになると考えられる。

既存住宅の場合、居住者が高齢期に差し掛かっている場合が多く、サービスに対する

潜在的ニーズは高い。例えば、「ヘルスケアリフォーム」と称して、ヒートショック対策

のための断熱改修や HEMS の設置とともに、HEMS と連動する生体情報、生活情報及

び環境情報を取得するためのデバイスを設置し、同時に高齢者生活支援サービスの提案

も行うことで、ハードとソフトが融合したリフォームメニューを提供することが可能と

なる。

また、住宅1戸単位ではなく、コミュニティ単位でのサービス提供も考えられる。住

宅メーカーが過去に開発した住宅団地の中には、現在高齢化が進んでいる地域も少なく

ない。このような地域を対象として、団地単位でヘルスケアリフォームと高齢者生活支

援サービスの導入を進めていくことで、住宅団地の再生、活性化を行うことが可能であ

る。

さらに、自治体、医療機関等とも連携しながら公民館や近隣の公共施設を活用し、下

肢筋力等住宅内では計測が難しい生体情報の計測や運動プログラムの提供を行政サービ

スの一環として行うことで、より充実したサービス提供が可能となるとともに地域の価

値向上につながる可能性がある(図表 53)。

このほか、高齢化が進む住宅団地内にサービス付き高齢者住宅等を設置し、そこでサ

ービスを提供するだけでなく、近隣住民を対象とした健康づくり等の拠点として活用す

ることも考えられる。これによって、住宅団地内で住替えを希望する高齢者等の移住を

促すことも可能になる。加えて、高齢者が住替えた後の住宅に子育て世帯の転入を促し、

例えば、高齢者が子育て世帯に料理を教えるといった CtoC 型のサービスを創出すること

ができれば、多世代が共生するコミュニティの活性化にもつながる。

Page 65: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

62

図表53 高齢化が進む住宅団地等での取組例

Page 66: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

63

4.住宅における IoT/ビッグデータ利活用による住生活サービスの実現に

向けて

4.1 サービスの実現に向けた課題

「防災・緊急時対応サービス」と「高齢者生活支援サービス」に関するケーススタディ

の結果から分かるとおり、住宅の IoT 化を推進し、住生活に関するデータを取得できる環

境を整備することで、多様なサービス創出が可能となる。しかしながら、サービスの実現

に向けては解決すべき課題も多く、以下の点について検討していく必要がある。

4.1.1 HEMS の活用

本検討会では、住宅においてインフラとしての環境が整いつつある HEMS 及び HEMS

から取得したデータの有効活用を前提として議論を行った。

HEMS は本来、エネルギーマネジメントシステムとして家庭内のエネルギー使用状況

を見える化し、機器を 適制御することを目的としている。しかし、家庭内機器のコン

トロールに活用するだけでなく、HEMS から取得したデータをもとにエネルギーの使用

状況等を分析することで、例えば、災害時に住宅内の電力融通等について復旧の効率化

を促す、高齢者の生活状況を見守るといったサービスに情報を利活用する可能性が考え

られ、エネルギー分野以外のサービスへの活用に期待が高まっているところである。

今後、魅力的なサービスを創出していくためには、住生活に関する様々なデータを取

得することが必要であり、現在、国内外の様々な企業が住環境・住生活に関するデータ

を取得するためのデバイスの提供を進めようとしている。こうした動きによって住宅の

IoT 化が進展することが期待される一方で、住生活データが機器や企業毎に個別散在的に

蓄積され、サービス提供事業者にとってデータを活用し難い状況を生み出すことが懸念

される。また、これらのデータは、何らかのホームゲートウェイに集約し組み合わせる

ことでビックデータとしての活用可能性が拡大する。このホームゲートウェイとしての

機能を HEMS が備えることで、エネルギーデータにとどまらない多種多様なデータの取

得及び提供が可能となり、HEMS の活用機会拡大につながると考えられる。

このように、住宅の IoT 化によって取得したデータを HEMS 経由で集約、または連携

させ利活用可能な環境を整備することで、サービス提供事業者は、住生活データと住宅

外のデータを融合したサービスの開発・提供を実現することが可能になる(図表 54)。

また、住宅の IoT 化に伴い、住宅内の機器や設備が HEMS やスマートフォン等から操

作可能となるが、これについても、HEMS にホームゲートウェイとしての機能を持たせ

ることで機器間の連携が図られ、一元的な操作が可能となる等、居住者にとっても利便

性が高まる。

このように住宅の IoT 化にあたっては、住宅の内外をつなぐホームゲートウェイとし

てのサービスインフラが不可欠であり、今後 HEMS はそういったサービスインフラとし

ての役割を担っていくべきである。

一方で、HEMS の普及率は全世帯の 1%弱にとどまっており、また、HEMS が設置さ

れていたとしても、ネットワークに接続する行為は居住者の任意であるという課題もあ

Page 67: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

64

る。前者の課題に対しては、政府目標として 2030 年までに全世帯へ HEMS を普及する

こととされており(長期エネルギー需給見通し)、大手住宅メーカーを中心として新築住

宅に HEMS を標準仕様とする動きが進んでいるほか、既存住宅については、低コストで

HEMS 機能が導入できるサービスが商品化される等、HEMS 機能に注目したビジネスが

生まれているところである。後者の課題に対しては、今後、魅力的なサービスが創出さ

れ、増加することで、居住者がネットワークに接続するインセンティブになると思われ

る。

図表54 HEMS を活用したサービスの開発・提供体制

4.1.2 データフォーマットの統一、家庭内機器のネットワーク化及びクラウド間連携

サービス提供事業者にとって、住宅メーカー毎にデータフォーマットが異なっていた

り、家庭内機器のネットワーク化が不十分であったりすることは、住生活ビッグデータ

を利活用したサービス創出の阻害要因となる。そのため、今後はデータフォーマットの

統一、家庭内機器のネットワーク化及びクラウド間連携を視野に入れながら、サービス

提供事業者が住生活ビッグデータにアクセスしやすい環境を構築していくことが必要で

ある。

この点については、今後の実証事業等を通じて、データの取得に必要な家庭内機器や

サーバー間の連携、データフォーマットの統一等について検討し、サービス創出に必要

となる事業環境整備を行っていくべきである。

Page 68: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

65

4.1.3 事業化に向けたコスト負担

住生活サービスを提供していくにあたり、サービス提供に係るコスト(クラウドの維

持管理等)負担が課題となる。これまでは、居住者がサービス使用料として負担するこ

とを念頭に検討が進められてきたが、サービスの必要性は訴求できても、受益者が魅力

的と感じなければ、普及が進まないという課題がある。

「防災・緊急時対応サービス」では、災害時には有効であるものの、平常時における

サービスのメリットを実感しにくいという課題が挙げられた。これについては、サービ

ス提供事業者が、例えば地震保険を提供する保険会社等別のサービス提供事業者と連携

し、保険料の割引等居住者のコスト負担に見合うようなインセンティブを創出したり、

在/不在情報を必要とする宅配事業者との連携によりコスト負担を軽減したりすること

が考えられる。

「高齢者生活支援サービス」では、住宅には設置が難しい生体情報計測機器があるこ

と、また、IoT 技術 の活用だけでなく対面によるコミュニケーションを交えたサービス

が望ましいことが分かったため、例えば、高齢化が進む住宅団地に拠点を設けて生体情

報計測器を設置し、対面でサービスを提供するほか、団地内の住宅に「ヘルスケアリフォ

ーム」と称して、断熱改修と共に IoT 機器の設置を行えば、IoT 機器の大量導入によるコ

ストダウンやコミュニティ単位でのサービス提供の効率化が可能となる。

「防災・緊急時対応サービス」に係る建物被害状況のデータを地域の消防署や自治会

等に積極的に公開すれば、効率的な救助活動につながる等コミュニティの防災機能を大

幅に向上させるため、コミュニティ単位でのサービスの導入によりコストダウンとなる

可能性がある。

また、今後、既存住宅流通におけるインスペクションに係る需要の増加により、イン

スペクター不足が懸念されるが、住宅にセンサーを設置しインスペクションの効率化を

図ることで、人材不足に対応することが期待される。

このように、サービスに係るコスト負担については、直接サービスを受ける居住者か

ら費用を徴収するという方法の他にも、データプラットフォームを利用するサービス提

供事業者も費用を分担する方法等、広く薄く受益者が費用負担する柔軟な選択肢を検討

する必要がある。

4.2 事業スキームのあり方

住宅の IoT 化を推進し、多様な住生活サービスを実現していくためには、住宅メーカー

をはじめとする住宅関連事業者とサービス提供事業者、デバイスメーカー、プラットフォ

ーマー等の出会いの場(=オープン・イノベーション・プラットフォーム)が必要である。

そこでは、住宅メーカーとサービス事業者等とのアライアンスの芽を育てていくことも期

待されるだけに、住宅メーカーが主導して異業種との交流を行うことが重要である。

また、住宅メーカーは、実現可能なところから住生活サービスの提供に着手することが

必要であり、そのためには、迅速に試作により概念検証(プルーフ・オブ・コンセプト)

ができるスタートアップ企業を関与させる等、試行錯誤的な取組(スモール・スタート)

Page 69: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

66

を通じた評価・検討により、機動的な戦略策定とアクションを容易にするような環境整備

が求められる。

なお、オープン・イノベーション・プラットフォームを通じて、サービスの開発・提供

を促していく場合、非競争領域と競争領域の境界線をどこに設定するのかという点が課題

となる。例えば、データフォーマットや家庭内の機器間連携については非競争領域として

実証事業等を通じて業界全体で検討を進め、実際のサービス開発・提供は競争領域として

各社が独自の取組を進めていくことが考えられる。ただし、前述したように、自治体や公

的機関との連携によりサービスの普及を図る場合は、非競争領域となる範囲が広くなる等、

サービスの種類によって非競争領域と競争領域の境界線は変動することが想定される。こ

のように境界線を見極めながらオープン・イノベーション・プラットフォームでの検討を

重ねることが重要である。

住宅が IoT 化され、様々な事業者が多様なサービスを提供する環境が整ってくる過程に

おいては、居住者のニーズを把握し適切なサービスを提案する能力が求められる。こうし

た能力を備えた事業者が登場することで、居住者の相談窓口となって各サービス提供事業

者の対応を促すということが可能になり、居住者にとって、よりサービスを利用しやすい

環境が整うことになる。

つまり、IoT 化された住宅においては、住宅内の機器とサービスを総括的にマネジメント

し、機器メーカーやサービス提供事業者と居住者を結びつける存在が非常に重要な役割を

担うと考えられる。住宅メーカーは、既に居住者から顔が見えているという優位性があり、

住宅メーカーがこの役割を担うことで、住宅の付加価値及び居住者の満足度を向上させる

だけでなく、例えばソフトとハード(住宅の IoT 化)が一体となったリフォーム提案等を

行うことが可能になる。さらに、蓄積された住生活ビックデータを活用した新たなビジネ

ス展開の可能性が広がるだけでなく、住宅メーカーが保有するディープデータ(住宅履歴、

建物の設計情報等)と結びつけたサービスの創出、提供も可能となる。

このように、住宅メーカーは、あらゆるサービスが提供される IoT 化された住宅という

“場”を総合的にマネジメントする「ローカル・インテグレータ」(図表 55)としての役割

を果たすことで、他産業とも連動したビッグデータビジネスという点で主導権を握る可能

性を有しており、今後の取組が期待される。

Page 70: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

67

図表55 ローカル・インテグレータの役割

4.3 まとめ

第 4 次産業革命とも呼ぶべき IoT や AI 等の技術革新がもたらす社会変化への対応として、

住宅分野においては、「スマートに暮らす」というニーズに対応する新たな付加価値の創造

が求められている。そのためには、的確にデータの利活用を行うことが付加価値の源泉と

なるが、住宅は、非常に多くの可能性を秘めたビッグデータへアクセス可能なタッチポイ

ントである。そのため、住宅業界だけでなく、国内外の様々な企業からの注目度は高く、

住宅から得たデータを活用したサービスを提供しようと考える企業は多い。そして、これ

らのデータを統合、集約するプラットフォームを抑えることで競争優位を築く企業が出現

する可能性も指摘されているところである。

こうした動きの中、住宅メーカーは居住者にとって顔の見える存在であり、住宅という

タッチポイントへアクセスしやすいという意味で優位性がある。しかし、海外の E コマー

ス関連企業等が住宅から情報を取得するためのデバイスの販売等に注力し始めており、非

常に短い期間で住宅メーカーの優位性が薄まる懸念が出てきている。

このため、住宅メーカーは、住宅の IoT 化と住生活サービスの開発に向けた取組のスピ

ードを加速させる必要があり、異業種やコミュニティとも連携しながら、住宅を“モノ”

として捉えるのではなく、暮らしという“コト”を提供する場として捉え、居住者のニー

ズに合わせた住生活サービスを提供することにより、住生活関連産業における新たな市場

を創出・拡大していくことが期待される。

Page 71: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

68

今回検討を行った住宅 IoT による住生活サービスの実現については、今後も技術発展が

見込まれる新しい分野であり、現時点では課題の洗い出し段階にあるといえる。今後も、「ス

マートな暮らしとは何か」、「居住者が IoT 技術によるベネフィットを享受できる社会とは

どのようなものか、その中で住宅の果たす役割は何か」という議論を続けていくことが必

要であるが、並行して、実現可能なところから取組を進めていくことが重要であり、住生

活ビッグデータを活用したサービス創出に向け、データフォーマットの統一や家庭内機器

のネットワーク化及びクラウド間連携等、実証事業を通じた事業環境整備を行っていく必

要がある。

Page 72: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

69

参考 1 自治体等における IoT 活用事例について

参考 1.1 浦和美園 E-フォレスト(さいたま市、一般社団法人美園タウンマネジメント)

さいたま市では、市の副都心エリア「みそのウイングシティ」の一角にある「浦和美園

E-フォレスト」という戸建分譲地において、低炭素かつ災害に強く、コミュニティを育む

先進的な環境タウンの実現に向けた支援を行っている。「みそのウイングシティ」は、さい

たま市が中心となって進めている埼玉高速鉄道の浦和美園駅を中心とした都市開発事業で、

対象となる街づくりの面積は 320ha となっている。

「浦和美園 E-フォレスト」は、100 戸からなるスマートホーム街区で、各住戸に HEMS を

配布し、そこから得たデータを共通プラットフォーム上に蓄積し、データを活用したサー

ビスの開発・提供を計画している。この共通プラットフォームは、さいたま市が「共通プ

ラットフォームさいたま版」として IBM と開発したもので、「浦和美園 E-フォレスト」で

導入した後は、さいたま市全域への展開も検討していきたいとしている。

サービスの開発・提供は、一般社団法人美園タウンマネジメント協会が中心となって行

い、慶應義塾大学の西宏章教授との連携も図りながら、データの活用手法等を検討してい

る。

共通プラットフォームには、家歴等のデータも蓄積する予定であり、新築時の平面図や

立面図等のデータだけでなく、BIM(Building Information Modeling)を住宅に採用して、

3D モデルを家歴データとして蓄積しようとしており、リフォームを行うとその 3D モデル

も更新されていくような仕組みを検討している。

また、「みその“健幸”度向上プロジェクト」として、自転車乗車時の活動量も計測でき

る活動量計を住民に配布し、活動量に応じた活動量ポイントを付与する取組を行っている。

このポイントは電子マネーWAON に交換可能で、近隣のイオンモール浦和美園店と提携し、

モール内等に設置したタッチポイントに対象カードをタッチすることでポイントが付与さ

れる仕組みとなっている

このように、HEMS のデータだけでなく、家歴情報等も含めて様々なデータを紐付ける

ことで、利用者がメリットを感じる住生活サービスを提供していくことを目指している。

Page 73: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

70

図表56 「共通プラットフォームさいたま版」の概要

出典:UDCMi(アーバンデザインセンターみその) ホームページ

参考 1.2 みんなの未来区 BONJONO ボン・ジョーノ

(北九州市、一般社団法人城野ひとまちネット)

北九州市では、JR 城野駅北側に位置する「みんなの未来区 BONJONO ボン・ジョーノ」

という約 550 戸(戸建住宅と集合住宅の合計)からなる街づくりを通じて、二酸化炭素を

大幅に削減し、子供から高齢者まで多様な世代が暮らしやすく、将来にわたって住み続け

られる持続可能な暮らしを実現しようとしている。

この街づくりは、平成 20 年に北九州市が「環境モデル都市」として認定され、城野地区

における低炭素モデル街区の形成がそのリーディングプロジェクトとして位置付けられた

ことから始まった。

平成 28 年 3 月に街びらきが行われており、すでに約 70 世帯が生活をスタートさせてい

る。街全体のマネジメントは、一般社団法人城野ひとまちネットが行っており、集会施設

「TETTE」を活用しながら、街区全体のマネジメントを行っている。具体的には、街区内

に設置した防犯カメラ等を活用したタウンセキュリティ、遊歩道や公園の維持管理、コミ

ュニティファーム(共同菜園)の活動支援等を行っている。

この街づくりでは、全住戸に HEMS を導入する計画になっており、一般社団法人城野ひ

とまちネットでは、HEMS データ等も活用しながら、病院等の施設や各住戸で使うエネル

ギー情報の収集・分析、省エネのアドバイス・啓発等を行う予定である。

また、各住戸に設置した HEMS のほか、地域エネルギーマネジメントシステム「CEMS」

(Community Energy Management System)を導入している。HEMS から同市八幡東区

の東田地区にある CEMS にデータを送り、地域全体でエネルギーの需要と供給の 適化を

Page 74: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

71

図ることを計画している。

将来的に HEMS データの活用も視野に入れ、住民ニーズに即した生活支援サービスの導

入も検討していく予定である。

図表57 「みんなの未来区 BONJONO ボン・ジョーノ」の CEMS の概要

出典:北九州市 資料

参考 1.3 エネルギー地産池消都市(福岡県みやま市、みやまスマートエネルギー株式会社)

みやま市と市内の事業者が共同で太陽光発電所(5MW)を設置し、平成 27 年 2 月に地

産地消都市の実現に向けて株式会社みやまエネルギー開発機構という発電会社を設立した。

また、平成 25 年 3 月にはみやまスマートエネルギー株式会社という電力を小売するため

の企業も設立。みやまスマートエネルギー株式会社では、太陽光発電所で発電した電力だ

けでなく、地域内の各家庭に設置された太陽光発電の余剰電力等を買取り、地域の事業者

や家庭に電力を供給している。

また、電力供給だけでなく、HEMS を活用した生活総合支援サービスも提供していこう

としている。既に、経済産業省の大規模 HEMS 情報基盤整備事業により約 2,000 世帯に

HEMS を配布しており、専用のタブレット端末を活用した電力使用量の見える化や地域情

報及び災害情報の提供のほか、HEMS データを活用した高齢者の見守りサービス等を展開

している。現在では、みやま市において HEMS 導入費用の 2 分の 1 を補助し、残りの 2 分

の 1 はみやまスマートエネルギー株式会社が電力契約を前提として負担しており、市民は

初期費用無しで HEMS を導入できる仕組みとなっている。みやま市では、今後全世帯に

HEMS を導入し、生活総合支援サービスを利用できる環境を整備していく予定である。

見守りサービスについては、見守りセンターで HEMS データを基にして居住者の異常を

検知するもので、異常を検知した場合、あらかじめ登録しておいた近所の住民や民生委員

に通報する。

Page 75: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

72

エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社、西日本電信電話株式会社九州事業本部、ドコ

モ・ヘルスケア株式会社、株式会社ティップネスと共同で、健康増進サービス「G.I.M☆TV

(ジムティービー) 元気・いっぱい・みやま」の実用化に向けた実証事業も行っている。

このサービスは、インターネットを活用したマルチロケーション型の運動教室をみやま市

内の公民館で実施するほか、各家庭のテレビを活用して毎日気楽に運動ができる仕組みを

提供するものである。また、日々の運動の成果や活動量(歩数、消費カロリー等)を計測

できるウェアラブル活動量計を活用し、テレビ画面で自分の健康状態や運動状況を見える

化し、運動継続のモチベーション高めるという取組も行っている。

さらに、「なんでもサポートすっ隊」として、清掃や電球交換等の日常の「困った」を解

決するサービスの提供も行っている。

みやまスマートエネルギー株式会社では、地域電力会社を中心として各家庭の様々なデ

ータを取得・活用しながら電力販売と生活総合支援サービスをセットで提供していくとい

うビジネスモデルを他の自治体へ導入することを支援している。

みやま市で構築したHEMS等も含めたデータ収集のための基盤を複数の自治体で共有す

ることで、地域電力会社を中心として、地域経済の活性化と住民の生活の質向上に向けた

仕組みをより効率的に実現できる可能性がある。

図表58 電力販売とセットで提供する“生活総合支援サービス”

出典:みやま市 資料

Page 76: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

73

参考 2 住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会

開催状況及び委員名簿

【第一回】平成 28 年 9 月 15 日(木)10:00〜12:00

・検討会設置の目的及び検討内容について

・意見交換

【第二回】平成 28 年 12 月 15 日(木)14:00~16:00

・防災・緊急時対応サービスワーキンググループからの報告

・高齢者生活支援サービスワーキンググループからの報告

・「オープン・イノベーション・プラットフォーム」実現に向けた

フリーディスカッション

[話題提供①] 「Domestic IoT における住関連産業の比較優位性」

東京大学生産技術研究所 野城 智也 教授

(住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 座長)

[話題提供②] 「HEMS データを活用した IoT への取り組み」

東日本電信電話株式会社 ビジネス開発本部 第三部門サービス基盤担当

秋和 洋 部長

[話題提供③] 「IoT がもたらす変化 技術を価値に変換するには」

花王株式会社 マーケティング開発部門デジタルビジネス・マネジメント室

永良 裕 室長

【第三回】平成 29 年 3 月 1 日(水)14:00~16:00

・住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報告書(案)

について

・意見交換

Page 77: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

74

住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 委員名簿

(敬称略)

氏 名 所 属

座 長 野城 智也 東京大学生産技術研究所 教授

委 員 吉田 元紀 一般社団法人住宅生産団体連合会 IoT 検討プロジェクト 座長

※防災・緊急時対応サービス WG 座長

委 員 嘉規 智織 株式会社住環境研究所 生涯健康脳住宅研究所 所長

※高齢者生活支援サービス WG 座長

委 員 渡辺 直哉 旭化成ホームズ株式会社 環境・渉外技術部 渉外技術室 課長

委 員 塩 将一 積水化学工業株式会社 住宅カンパニー 広報・渉外部

技術渉外グループ グループ長

委 員 雨宮 豊 積水ハウス株式会社 執行役員 技術業務部長

委 員 菅野 泰史

大和ハウス工業株式会社 本社技術本部総合技術研究所

フロンティア技術研究室 先端技術研究開発1グループ

主任研究員

委 員 小島 昌幸 トヨタホーム株式会社 内装・設備開発部

スマートウェルネス開発室 室長

委 員 永田 和寿 パナホーム株式会社 戸建住宅事業部 戸建建築設計部

スマート技術開発グループ チーフマネージャー

委 員 石塚 禎幸 ミサワホーム株式会社 商品開発部 施設デザイン課長

委 員 青山 雅幸 パナソニック株式会社 エコソリューションズ社 情報渉外部長

委 員 高田 巖 株式会社LIXIL Technology Research 本部 システム技術研究所

グループリーダー

Page 78: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

75

住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会

オブザーバー名簿

(敬称略)

氏 名 所 属

杉村 義文 株式会社 NTT ファシリティーズ グリーン IT ビルビジネス本部

システムエンジニアリング部 担当課長

三浦 長 NTT レゾナント株式会社 ビジネスプラットフォーム事業部

法人営業部門 担当課長

松本 浩平 オイシックス株式会社 執行役員 経営企画本部本部長

住 朋享 クックパッド株式会社 研究開発部

丹羽 隆史 株式会社タニタ CHO 兼執行役員ヘルスケア事業担当

金子 由美 日本アイ・ビー・エム株式会社 コグニティブ・ソリューションズ

IoT 事業開発 Cognitive Life/Home ビジネス開発リーダー

末次 一也 一般社団法人美園タウンマネジメント 事務局長

高橋 寛典 株式会社やさしい手 コンサルティング事業本部 執行役員

壁谷 英雄 一般社団法人プレハブ建築協会 業務第二部長

木寺 康 一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会 事務局参与

村上 慶裕 国土交通省 住宅局住宅生産課 住宅ストック活用・リフォーム推進官

小林 正孝 経済産業省 商務情報政策局情報経済課 課長補佐

川田 寿人 経済産業省 商務情報政策局情報通信機器課 軽電係長

Page 79: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

76

参考 3 住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会

防災・緊急時対応サービス WG 開催状況及び委員名簿

【第一回】平成 28 年 10 月 13 日(木) 14:00〜16:00

・防災・緊急時対応サービス WG について(WG 設置の経緯、目的、概要等)

・意見交換

【第二回】平成 29 年 10 月 27 日(木) 14:00〜16:00

・防災・緊急時対応サービスに係る課題等について

・意見交換

【第三回】平成 29 年 2 月 3 日(金) 14:00〜16:00

・第二回 住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会の報告

・防災・緊急時対応サービス WG 報告書案について

Page 80: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

77

住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会

防災・緊急時対応サービス WG 委員名簿

(敬称略)

氏 名 所 属

座 長 吉田 元紀 一般社団法人住宅生産団体連合会

IoT 検討プロジェクトチーム 座長

委 員 渡辺 直哉 旭化成ホームズ株式会社 環境・渉外技術部

渉外技術室 課長

委 員 太田 真人 積水化学工業株式会社 住宅カンパニー 商品企画部

環境快適グループ グループ長

委 員 上田 和己 積水ハウス株式会社 IT 業務部 部長

委 員 脇濱 直樹 大和ハウス工業株式会社 大阪都市開発部 企画部

企画グループ グループ長

委 員 小島 昌幸 トヨタホーム株式会社 内装・設備開発部

スマートウェルネス開発室 室長

委 員 益倉 一郎 パナホーム株式会社 戸建住宅事業部 戸建建築設計部

スマート技術開発グループ リーダー

委 員 石塚 禎幸 ミサワホーム株式会社 商品開発部 施設デザイン課 課長

委 員 磯崎 典夫 パナソニック株式会社 エコソリューションズ社

エナジーシステム事業部 新事業推進センター 所長

委 員 倉林 慶太 株式会社LIXIL LHTR&D センター

プロセス・IoT 推進室 IoT 推進グループ 主幹

委 員 杉村 義文 株式会社 NTT ファシリティーズ グリーン IT ビルビジネス本部

システムエンジニアリング部 建築担当 担当課長

委 員 三浦 長 NTT レゾナント株式会社 ビジネスプラットフォーム事業部

法人営業部門 担当課長

委 員 金子 由美 日本アイ・ビー・エム株式会社 コグニティブ・ソリューションズ

IoT 事業開発 Cognitive Life/Home ビジネス開発リーダー

委 員 末次 一也 一般社団法人美園タウンマネジメント 事務局長

委 員 木寺 康 一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会 事務局次長

Page 81: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

78

参考 4 住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会

高齢者生活支援サービス WG 開催状況及び委員名簿

【第一回】平成 28 年 11 月 9 日(水)10:00~12:00

・高齢者生活支援サービス WG について(WG 設置の経緯、目的、概要等)

・意見交換

【第二回】平成 28 年 11 月 21 日(月)14:00~16:00

・高齢者生活支援サービスの考え方について

・高齢者生活支援サービスをめぐる課題について

・意見交換

【第三回】平成 29 年 2 月 10 日(金) 14:00~16:00

・第二回 住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会の報告

・高齢者生活支援サービス WG 報告書案について

Page 82: 平成28年度 住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用 …...住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会 報 告 書 平成29年3月

79

住宅におけるIoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会

高齢者生活支援サービス WG 委員名簿

(敬称略)

氏 名 所 属

座 長 嘉規 智織 株式会社住環境研究所 生涯健康脳住宅研究所 所長

委 員 渡辺 直哉 旭化成ホームズ株式会社 環境・渉外技術部 渉外技術室 課長

委 員 岸 英恵 積水化学工業株式会社 住宅カンパニー 営業統括部

住生活サービスグループ

委 員 藤原 寛典 積水ハウス株式会社 技術部 課長

委 員 山本 浩 大和ハウス工業株式会社 総合技術研究所

フロンティア技術研究室 先端技術研究開発1グループ 研究員

委 員 小島 昌幸 トヨタホーム株式会社 内装・設備開発部

スマートウェルネス開発室 室長

委 員 神前 雅洋 パナホーム株式会社 戸建住宅事業部 戸建建築設計部

スマート技術開発グループ リーダー

委 員 相馬 康幸 ミサワホーム株式会社 情報システム部 システム企画課

委 員 磯崎 典夫 パナソニック株式会社 エナジーシステム事業部

新事業推進センター 所長

委 員 高田 巖 株式会社LIXIL Technology Research 本部

システム技術研究所 グループリーダー

委 員 松本 浩平 オイシックス株式会社 経営企画本部 本部長

委 員 住 朋享 クックパッド株式会社 研究開発部

委 員 丹羽 隆史 株式会社タニタ CHO 兼執行役員ヘルスケア事業担当

委 員 金子 由美 日本アイ・ビー・エム株式会社 コグニティブ・ソリューションズ IoT

事業開発 Cognitive Life/Home ビジネス開発リーダー

委 員 高橋 寛典 株式会社やさしい手 コンサルティング事業本部

取締役執行役員