平成29年度経済産業省委託 平成29年度化学物質安...

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平成29年度経済産業省委託 平成29年度化学物質安全対策 (新規2成分混合系作動媒体 R1123+R1234yf の熱物性評価に関する調査研究) 調査報告書 平成30年3月 国立大学法人 九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所

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平成29年度経済産業省委託

平成29年度化学物質安全対策

(新規2成分混合系作動媒体R1123+R1234yf の熱物性評価に関する調査研究)

調査報告書

平成30年3月

国立大学法人 九州大学

カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所

目次

1 目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

2 実施体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

3 調査内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

3.1 調査対象混合冷媒および関連する新冷媒に関する情報収集 ・・・3

3.2 臨界定数の測定に関する調査研究 ・・・・・・・・・・・・・・5

3.3 PVTx性質の測定に関する調査研究 ・・・・・・・・・・・・・・8

3.4 気液平衡性質の測定に関する調査研究 ・・・・・・・・・・・・12

3.5 状態方程式の評価に関する調査 ・・・・・・・・・・・・・・14

3.6 冷凍空調システム性能の評価に関する調査研究・・・・・・・・・16

4 調査結果の公表 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

5 今後の展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

1

1 目的

現在では日本のほとんど全ての家庭にあると考えても良い冷蔵庫や家庭用ルームエ

アコン,街中だけでなく今では人がいない場所においても稼働し続けている自動販売

機,数分歩けば見つけることができそうなほどに身近にある店舗となってしまったコ

ンビニエンスストアやスーパーマーケットにあるショーケース,さらには、オフィ

ス,工場,イベント施設,そして自動車車内の冷暖房に用いる冷凍空調機器は,我々

の生活にはもはや欠かせない必需品となっていることはいうまでもない.そして 近

では,地球温暖化防止対策で二酸化炭素の排出量を削減する為,化石燃料を使わずに

熱を得るヒートポンプも注目されている.これら冷凍空調機器やヒートポンプを動か

す上で,高温の熱源を低温に運ぶことにより外界の温度を下げ,一方,低温の熱源を

高温に引き上げることで,外界の温度を温める,相反する熱移動の作業を同時に行う

ために必要不可欠なものが、作動媒体となる冷媒である.

この冷媒は,かつてはフロンガスと呼ばれるハロゲン化炭化水素がその大半を占め

ていた.しかしながら,CFC(クロロフルオロカーボン)やHCFC(ハイドロフルオロ

クロロカーボン)と呼ばれたフロンガス(初期のものは特定フロンとも言われてい

た)は,オゾン層破壊や地球温暖化への影響が大きい化学物質として世間から目の敵

とされ,モントリオール議定書や京都議定書で世界的な規制が進み,CFCに関して

は,1995 年末で全廃になっている.さらに 近では,オゾン層破壊対策として開発さ

れた,塩素原子を含まない代替フロンとも言われる HFC(ハイドロフルオロカーボン)

類も,キガリ改定により再現対象物質に掲げられ,全く新たに,オゾン破壊係数ODP

値と地球温暖化係数 GWP値の小さい新規化学品の開発が急務とされている.

新規に開発される物質を産業界で安全に利用し,管理するためには,温度や圧力,

密度など基本的かつ高精度の熱物性情報の入手は製品の設計・製作,さらには品質改

良のための研究においても必要不可欠である.特に,製品開発の段階では,伝熱性能

や熱交換性能の評価情報も重要な情報となる.従って,新製品を開発したら,早急に

基礎的な熱物性を解明することが 優先事項となる.本研究では,近年,日本国内で

開発された新冷媒 R1123を成分物質の一つとし,もう一つの成分物質として,今後自

動車用エアコンの冷媒としての利用が期待されているHFO(ハイドロフルオロオレフ

ィン)系冷媒R1234yf から構成される2成分混合系作動流体R1123+R1234yfに着目

し,基本となる熱物性評価手法を調査研究し,新規物質を開発・管理する上で も重

要となる情報の標準化,データの共有化に寄与することを目的とした.なお,R1123

に関しては,現時点でASHRAE34の名称認可が得られていないので,正式には

HFO1123と呼ぶことが正しいと思われるが,本報告書では,混合物表記の関係もあ

り,R1123の名称も使用させていただくことをお断りしておく.

2

2 実施体制

2.1 調査実施者

東 之弘(調査代表者,九州大学カーボンニュートラル・エネルギ国際研究所

附属次世代冷媒物性評価研究センター 教授)

担当:臨界点・飽和密度・PVTx 性質の評価.

小山 繁(調査分担者,九州大学大学院総合理工学研究院環境理工学部門 教授)

担当:冷凍空調システム性能の評価

宮崎隆彦(調査分担者,九州大学大学院総合理工学研究院環境理工学部門 教授)

担当:冷凍空調システム性能の評価

迫田直也(調査分担者,九州大学大学院工学研究院機械工学部門 准教授)

担当:気液平衡性質の評価

赤坂 亮(調査分担者,九州産業大学理工学部機械工学科 教授)

担当:状態方程式の評価

2.2調査協力者

福島正人(旭硝子株式会社AGC化学品カンパニー開発部千葉研究所主任研究員)

担当:試料提供,分析,安全性評価

3

3 調査内容

3.1 調査対象混合冷媒および関連する新冷媒に関する情報収集 本研究で調査対象とした冷媒は,特に室内用ルームエアコンなどの中小型空調機器

用冷媒として,現在広く使用されている HFC 系混合冷媒 R410A (50wt% R32 + 50wt% R125の2成分系混合冷媒) の代替冷媒として期待される2成分系混合冷媒 R1123 + R1234yfである. R410Aは,当初 HCFC22(R22)の代替冷媒として登場し, 燃焼性の問題から R32 単体での使用に懸念があった新規冷媒の分野で,不燃性冷媒である R125を混合し,さらに疑似共沸混合冷媒として,温度勾配が小さく,組成変動が小さいというメリットで,若干の高圧冷媒ではあったが,技術開発を進めて現在の位置を

占めている.室内用エアコンだけなく,ビル用マルチエアコンなどにも広く利用され

ているが,その使用量も多く, 近になって,GWP の値が 2090 と大きいために,地球温暖化に寄与する影響が大きいと考えられており,HFC 冷媒規制を主とするキガリ改正において規制冷媒の一つとして位置付けられている.

R410A自体が, R22 の代替冷媒であり,当時の代替冷媒開発の総力を挙げて見出した新冷媒であるために,その代替冷媒を純物質の中から探し出すことは容易ではない.そのため,国内外の冷媒メーカーが R410Aの代替冷媒として提案する冷媒のほとんどが混合冷媒となっている. 近提案され,ASHRAE Standard 34登録が承認された混合冷媒の一部を表 1にまとめた.

表1 ASHRAE Standard 34 で登録されている混合冷媒の例

冷媒名 組成 組成比(mass%) GWP ASHRAE Safety 区分

R444B R32/152a/1234ze(E) 41.5/10.0/48.5 295 A2L R445A R744/134a/1234ze(E) 6.0/9.0/85.0 134 A2L R446A R32/1234ze(E)/600 68.0/29.0/3.0 461 A2L R447A R32/125/1234ze(E) 68.0/3.5/28.5 583 A2L R447B R32/125/1234ze(E) 68.0/8.0/24.0 740 A2L R450A R134a/1234ze(E) 42.0/58.0 604 A1 R451A R1234yf/134a 89.8/10.2 149 A2L R451B R1234yf/134a 88.8/11.2 164 A2L R452B R32/125/1234yf 67.0/7.0/26.0 698 A2L R454A R32/1234yf 35.0/65.0 239 A2L R454B R32/1234yf 68.9/31.1 466 A2L R454C R32/1234yf 21.5/78.5 148 A2L R455A R744/32/1234yf 3.0/21.5/75.5 148 A2L R456A R32/134a/1234ze(E) 6.0/45.0/49.0 687 A1 R457A R32/1234yf/152a 18.0/70.0/12.0 139 A2L R459A R32/1234yf/1234ze(E) 68.0/26.0/8.0 460 A2L R459B R32/1234yf/1234ze(E) 21.0/69.0/10.0 145 A2L R513A R1234yf/134a 56.0/44.0 631 A1 R513B R1234yf/134a 58.5/41.5 596 A1 R514A R1336mzz(Z)/1130(E) 74.7/25.3 7 B1 R515A R1234ze(E)/227ea 88.0/12.0 392 A1 R516A R1234yf/134a/152a 77.5/8.5/14.0 142 A2L

4

表 1には,標準沸点の値を考慮して, R410A代替冷媒になりうる混合冷媒を, GWP値が 750以下の中から全部で 22種類選びだした. ASHRAEで示している安全評価区分は, A, B, C で毒性の影響を少ない順に示し,数字の 1,2,3 では燃焼性を弱い順に表している. (例えば, A1 は毒性もなく,不燃性である事を示し, A3 であれば,毒性はないが,可燃性であることになる) も理想的な分類に属する A1 冷媒は,22種類中5冷媒しかない.また,22種類の混合冷媒において,混合冷媒を構成する成分物質そのものが限られていることもわかる.表1には,同じ混合物で組成が異

なる混合冷媒も含まれているが,使われている成分物質の冷媒は,多いものから

R32(13種類/全 22種類), R1234yf (13種類/全 22種類), R1234ze(E)(10種類/全 22種類), R134a(8種類/全 22種類), R125(3種類/全 22種類), R152a(3種類/全 22種類), R744(2種類/全 22種類)となっている.このことからも,成分物質候補冷媒はすでに出尽くされたことを物語っている.そのため,今までにない純物質の登場に対する期待は大きく,

特に近年,期待されているのが,日本で開発された,新規純冷媒 R1123になるわけである.

R1123 は,旭硝子株式会社が新たに開発し,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO)の研究プロジェクトとして,日本発信の新冷媒の開発を目指し,産学官で研究を進めている新規冷媒である.九州大学もこのプロジェクトに参画

しており,平成 28年度から 29年度にかけて, R1123 および R1123 + R32 混合系に関しての熱物性評価を進めてきた. 終的には, R1123 + R32 + R1234yf の3成分系混合冷媒も対象と考えているが,3成分系混合冷媒の熱物性を解明するためには,3

組の2成分系混合冷媒,すなわち, R32+R1234yf混合冷媒, R32 + R1123 混合冷媒, R1123+R1234yf混合冷媒の,3種類の2成分系混合冷媒の熱物性の解明が必須となる.本研究では,R32+R1234yf混合冷媒および R32 + R1123 混合冷媒は既にプロジェクトで研究を進めていたので,新たに R1123 + R1234yf混合冷媒の基礎的な熱物性情報を早期に収集し,その特性を明らかにするために本研究を実施した.将来的には,熱

伝導率や粘度,表面張力や音速などの熱物性情報を付加したうえで,既に測定された

2成分系混合冷媒の情報をあわせて,3成分系混合冷媒の熱物性評価に発展させてい

く予定である. なお,本研究で使用した成分冷媒 R1123 および R1234yfは,旭硝子株式会社製の高純度試料であり,その純度は R1123 が 99.93%, R1234yf が 99.91%である.

5

3.2臨界定数の測定に関する調査研究

3.2.1 気液共存曲線測定装置臨界点近傍の飽和蒸気密度および飽和液体密度(総称して気液共存曲線とも言われ

る)を決定し,メニスカスの消滅位置および臨界タンパク光の着色の様子から,臨界

温度と臨界密度を決定する本測定装置を図1に示した.測定装置本体は,試料を初期

充填して供給する試料供給容器,試料を膨張させて密度を変化させるための膨張容

器,試料のメニスカスの消滅の様子を直接肉眼で観察するためにガラス窓が付いてい

る試料容器から構成される.これら3つの容器は,純水を用いて室温状態における内

容積が測定されており,その内容積は測定温度によって熱膨張の補正が行われて利用

される.3つの容器は高圧弁を介して接続されており,容器内部を攪拌させるために

ラックアンドピニオン機構を利用した揺動台に設置され,シリコンオイルを伝熱媒体

とした恒温槽内に設置される.まず試料供給容器に充填された試料は,残り2つの容

器を利用した2種類の膨張方法により, 終的にはメニスカスの消滅を観察する試料

容器の密度を,新たな充填なしに変えることができるようになっている. 温度測定には,ITS-90に準拠した 25Ω標準白金抵抗測温体(Chino: R800-2)と交流測温ブリッジ(ASL: 700)を使用した.さらに別の 25Ω標準白金抵抗測温体を恒温槽内に設置し,恒温槽内の温度分布をもう1台の交流測温ブリッジ(ASL: 700)で計測しながら 300W と 1.5kW の2つのヒーターおよび PID コントローラーで温度制御した.この結果,温度安定時の恒温槽内の温度のばらつきは 大でも± 5 mK 以内に抑えることができ,本測定の温度測定不確かさは,白金抵抗測温体自体が持つ不確かさ 1mK も考慮した上で 10mK以内と見積もった.密度測定値は,試料初期充填質量の値と,測定温度において熱膨張補正した容器の内容積の値から算出した.容器内容積の決定精度,質量測

定の不確かさと熱膨張による影響が膨張回数に制限を設け,本研究では密度測定の不確

かさが 大でも 0.2 % を超えないようにした.残念ながら,本装置には圧力測定系が装備されていない.そのため,この装置では臨界圧力の測定までは発展できないが,次節

に示す PvTx測定装置を併用することで臨界圧力も決定できるようになっている.

図1 飽和密度および臨界定数測定装置

D2

D1

E

F G

H I J

O

L

M

N

K

P

A:試料供給容器, B:膨張容器, C:試料容器, D1, D2:交流測温ブリッジ, E:デジタルマルチメータ, F:出力調整装置, G:PID 温度コントローラ, H:揺動装置, I, J:25Ω 標準白金抵抗測温体, K:攪拌器, L: 300Wヒータ, M:1.5kW ヒータ, N:電圧調整器, O:コンピュータ, P:真空ポンプ

6

3.2.2 気液共存曲線の測定結果 本研究で得られた臨界点近傍の飽和蒸気密度と飽和液体密度の測定結果を表2およ

び図2に示す.本研究では,4回の混合冷媒試料の作製により,測定結果の再現性を

確認しながら,密度 251.0 kg m-3 から 900.3 kg m-3, 温度 327.052 K から 350.592 K の範囲で,計15点の実測値を得た.4回の充填による組成の値は, R1123 の組成比で,49.96 mass%, 50.00 mass%, 49.99 mass%, 49.94 mass%である.測定点 15点をメニスカスの消滅する位置から判断して,251.0 kg m-3から 505.4 kg m-3のデータが飽和蒸気密

度の実測値, 518.9 kg m-3から 900.3 kg m-3のデータが飽和液体密度の実測値と判断し

た.また,表2においてアステリスクを付した4点では,臨界タンパク光による着色

が確認されて,この密度範囲内に臨界点(臨界密度)が存在することは明白となっ

た.図2には,温度–密度線図上に,それぞれの成分物質に関して調査代表者がすでに報告している成分物質である R1123(四角印)および R1234yf(四角印に十字)の実測値ともに,本研究で得られた混合冷媒の実測値(丸印)をプロットした.また,四

角に×印で示したプロットは,次節で説明する PVTx 線図上における等容線の折れ曲がりから決定した飽和点であり,図中の曲線は,調査分担者の赤坂らが作成した成分物

質の状態式を,REFPROP 9.1 を用いて計算した気液共存曲線を示している.実線で示した曲線が,密度 600 kg m-3 付近で不連続となっているが,これは状態式に原因があると言うより, REFPROP 9.1 の計算上の問題であると考えている.メニスカスの消滅の観察から決定した飽和密度の値と,PVTx 測定から決定した飽和密度の値は,混合冷媒にも関わらず,一貫性がある連続性を示している.臨界点近傍でデータにばらつき

が生じているが,混合冷媒の気液共存曲線頂上部の挙動は,一般的には非常に特異性

が強いので,一概に判断できない.しかしながら,低密度側で高い飽和温度を示して

いる事は,過去の経験からも妥当である.気液共存曲線を算出した実線の計算結果

は,本実測値は本混合冷媒の熱力学性質を非常に再現性良く計算しているものと判断

できる.

表 2 50mass% R1123 + 50mass% R1234yf の気液共存曲線データ

T / K ρ / kg m-3 T / K ρ / kg m-3 T / K ρ / kg m-3 251.0 343.438 371.1 350.592 596.1 348.742 266.4 344.576 469.7* 349.441 656.6 347.047 285.7 347.036 505.4* 349.455 710.9 344.417 317.5 350.160 518.9* 349.303 831.3 335.603 337.0 350.587 561.7* 348.940 900.3 327.052

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図2 R1123+R1234yfの気液共存曲線

3.2.3 臨界温度と臨界密度の決定結果混合冷媒の臨界温度Tc および臨界密度 rcは,純物質の臨界定数決定方法と全く同

じ手法で,本実測値のメニスカス消滅の観察結果を分析し,メニスカスの消滅位置と

臨界タンパク光の着色の様子から決定した.3.2.2項の表2のアステリスクの実測値

においてさらに詳細にメニスカスの消滅した位置および臨界タンパク光の気相側と液

相側の着色の強さの差を考慮し,

・メニスカスの消滅位置が容器の中央部分の高さとなること

・メニスカス消滅時における臨界タンパク光の着色の強さが液相側と気相側で

相違ないこと

・メニスカスの生成実験においても容器の中央部分の高さとなること

を判断基準として,50mass%R1123+50mass%R1234yfの臨界温度と臨界密度を以下の

ように決定した.

Tc = 349.40 ± 0.02 K, (1)

rc = 510 ± 3 kg m-3. (2)

なお,臨界圧力Pcに関しては,次節で説明する.

8

3.3 PVTx性質の測定に関する調査研究

3.3.1 PVTx性質測定装置PvTx性質の測定には,等容法に基づいて製作された測定装置を用いた.装置概要図を図3に示す.試料は, ステンレス製試料容器にあらかじめ密度と組成を設定して充填される.充填後の試料容器は,重錘式圧力計で校正された水晶発信式圧力センサ

(Paroscientific: 42K-101)と接続され,その後試料は,真空排気した配管を含む圧力センサ内に膨張される.試料容器と圧力センサから構成される装置主要部は,熱伝達媒体

のシリコンオイルが,PIDコントローラーによって 3mK以内の温度のばらつきで制御されている液体恒温槽内に設置される.温度測定は,25Ω標準白金抵抗測温体(Chino: R800-2)および交流測温ブリッジ(Tinsley: 5840)を使って行い,ITS-90に準拠して算出した.温度測定の不確かさは,温度計自体が持つ温度測定不確かさ 1mK と,測定中の恒温槽内のシリコンオイルの温度のばらつきを考慮して,3 mK以内であると見積もった.圧力は,上述の圧力センサで試料容器と同じ温度条件下で直接測定したので,圧

力センサ自体が持つ不確かさが 1kPa 以内,恒温槽内の温度のばらつきが与える圧力のばらつきも±0.3kPa 以内であり, 終的に圧力測定の不確かさは 2kPa 以内と見積もった.密度は,試料の初期充填質量と,R32 および R134aを基準物質に用いて温度依存性を考慮して測定した配管部を含む容器の内容積により決定した.密度測定の不

確かさは,初期充填質量測定の不確かさ 2mgと,測定前に行った内容積の決定精度に依存し, 終的に 0.15 % 以内と推定した.組成決定の不確かさは,主として充填試料質量の測定精度と,電子天秤自体の持つ不確かさに依存し,本研究では 0.02 mass%以内と推定した.

図3 PVTx性質測定装置

3.3.2 PVTx性質測定結果 本研究では, 50mass% R1123 + 50mass% R1234yf の PVTx性質の測定を,温度範囲 294.15 K から 410 K, 圧力範囲 1287 kPa から 8082 kPaで,7本の等容線にそって 2 2相域 35 点,1相域 50 点,計 85点の実測値を得た.実測値を表 3にまとめ,圧力と温度の関係を図4に表す PT線図上に示した.

A: 試料容器,

B: 圧力センサ,

C: 恒温槽,

D: 25Ω 標準白金抵抗測温体,

E: 交流測温ブリッジ,

F: デジタルマルチメータ,

G: PID 温度コントローラ

H: 直流電源,

I: ヒータ(4機),,

J: 攪拌器(左右両面から),

V: 高圧バルブ

9

10

図4 R1123 + R1234yf混合冷媒の PVTx 性質実測値の分布

図4の PT 線図から,7本の等容線が密度の違いに対応して,順当に位置していることが確認できる.また,2相域を表すデータと,1相域を表すデータが,それぞれ

連続的に温度の変化に対する圧力変化を示しており,さらに2相域データと1相域デ

ータは不連続につながり,その不連続点が気液平衡状態を示すことも確認できた.図

4の等容線の挙動からも,低密度側の3本は飽和蒸気側の等容線、高密度側の3本は

今飽和液体側の等容線であると考えられ、さらに前節の結果に基づいて試料密度の調

整を行なった密度 510 kg m-3の等容線が,2相域から1相域の変化において,スムー

ズにかつ連続的に推移する挙動から、この密度付近に臨界密度が存在することの確証

がより強くなっている. なお、今回は初期充填組成の段階で, 50.0 mass% にそれぞれの成分物質がなるように調整をして行ったが,厳密には,この組成のデータはあく

まで1相域データのみに適用されるものである.しかし,2相域データの存在価値も

あらゆる意味では重要になるものと考えており,表3および図4ではあえてまとめ,

図示していることをことわっておく. 3.3.3 PVTx 性質の測定結果から決定した R1123 + R1234yf 混合系の飽和密度 気液共存状態を示す飽和密度(混合冷媒の場合は気液平衡点)は,前項のメニスカ

スの観察による決定法以外に,等容線の折れ曲がりからも決定可能である.本研究で

は,表3の PVTx 性質測定結果を図式的に判別し,折れ曲がり点を表4のように決定した.ただし,臨界密度に近づくにつれて,折れ曲がりの判別は非常にむずかしくな

り.折れ曲がりから決定する本方法は,臨界点近傍では極端に精度が低くなることは

避けられない.

表4 PVTx性質の測定結果から求めた気液共存曲線データ

ρ / kg m-3 T / K P / kPa ρ / kg m-3 T / K P / kPa 83 313.15 1682 703 345.0 3972

164 335.26 2909 800 338.1 3500 263 347.89 3841 905 325.0 2721

11

3.3.4 50mass% R1123+50mass% R1234yfの臨界圧力の決定 純物質の場合,臨界圧力を決定する方法として飽和蒸気圧曲線を臨界温度まで外挿

する方法がよく用いられる.しかし混合冷媒の場合は,飽和蒸気圧曲線ではなく,気

液平衡曲面(自由度が増えるため)になってしまうため,簡単に外挿できる相関式は

存在しない.従って,ある組成において臨界温度と臨界密度が決定している場合に限

って,臨界密度に充填した圧力容器を用い,臨界温度の温度で厳密に制御した混合冷

媒試料の圧力を直接測定する事が も信頼性が高いと考えられる.現時点で,この方

法で臨界温度,臨界圧力,臨界密度を決定できる装置は,本装置以外は存在しないと

考えている. 本研究では, 3.2.3 項で決定した臨界密度 510 kg m-3 に試料を充填し,臨界温度

349.40 K のときの圧力を測定して,臨界圧力を以下のように決定した.臨界圧力の不確かさに関しては,温度測定精度,密度決定制度を考慮したうえで,圧力測定精度と

ほぼ同じと考えて問題無いと判断し,決定している. Pc = 4212 ± 2 kPa. (3)

R1123 + R1234yf 混合系の臨界定数の実験データの報告は,世界で初めてであり,他の研究例と比較する事ができない.現在,冷媒の熱物性計算では,推算値ではある

が,米国商務省標準技術研究所 (NIST)から刊行されている REFPROP 9.1 が,ほとんど国際標準値として世界中で利用されている. REFPROP 9.1 に,本研究グループで作成した R1123 の状態式を組み込み,そこから計算される臨界定数の値を比較した. 臨界温度 本研究: 349.40 K, REFPROP 9.1 : 349.362 K 差は 0.04 K 臨界密度 本研究: 510 kg m-3 , REFPROP 9.1 : 535 kg m-3 差は 25 kg m-3 臨界圧力 本研究: 4212 kPa, REFPROP 9.1 : 4204 kPa 差は 8 kPa REFPROP 9.1 で計算される臨界定数の値は,臨界温度では 0.01 %, 臨界圧力は約 0.2 % とよく一致した結果となった. 比較的大きな偏差の臨界密度では 4.7 % であるが,臨界点の位置を REFPROP がある程度予測したことは,高い評価に値することである.

12

3.4 気液平衡性質の測定に関する調査研究 気液平衡性質は混合系の挙動を特徴づける上で必要不可欠な物性である.本研究で

は,図5に示す循環法を用いた気液平衡測定装置を用いて,R1123 + R1234yfの 2成分系混合冷媒の気液平衡性質を測定した.図6は平衡セルを中心とする主要部の詳細で

ある.平衡セル(内容積 265 cm3)は光学セルを通して,充填された試料のメニスカス

を観察することができる.循環法では,循環ポンプにより飽和蒸気を平衡セル上部か

ら抽出し,液相に戻すとともに,飽和液を平衡セル下部から抽出して気相に戻すこと

で攪拌を行っている.試料が定常になったところで,六方バルブを切り替えて,飽和

蒸気および飽和液を平衡セルから切り離してそれぞれ採取容器にサンプリングする.

採取容器内に採取された試料は,ガスクロマトグラフ(SHIMADZU, GC-2014)に送られ,各組成を決定する.平衡セルはシリコーンオイル(信越シリコーン, KF-96-20CS)を熱媒とする恒温槽内に設置され,100 Wの標準白金抵抗測温体(NETSUSHIN, NSR-LT40)と測温ブリッジ(ASL, F650)を用いて,ITS-90国際温度目盛に準拠した温度測定を行っている.試料の圧力は,平衡セルに接続され,恒温槽内に設置された水晶発

振式圧力センサ(Paroscientific, 42K-101)で測定している.恒温槽にはメインヒーター,サブヒーターと冷却用の外部循環恒温槽(Julabo, F32-HE)が備え付けられており,室温以下の測定も可能である.本測定における温度,圧力の測定不確かさはそれ

ぞれ 10 mK, 2 kPaである.

図5循環法を用いた気液平衡測定装置

図6平衡セルを中心とした装置主要部

A, equilibrium cell; B, pressure transducer; C, digital pressure indicator; D, thermometer bridge; E, standard platinum resistance thermometer; F, temperature controller; G, platinum resistance thermometer; H, main-electric heater; I, sub-electric heater; J, slide transformer; K, circulation bath; L, stirrer; M, turbo molecular pump; N, thermostatic bath; O, gas chromatograph; P, Q, personal computers; R, sample cylinder; S, hexagon valve; T, magnetic circulation pump

A

B

C

D

E

F

G

H

I

K

J

L

M

N

O

P

Q

R

S

S

T

T

13

図7に R1123 + R1234yfの気液平衡性質測定結果を x-y線図上に示す.測定は,273 K~313 Kの温度範囲にて実施した.図中の実線は本事業で決定した状態方程式(3.5 状態方程式に関する調査研究)からの計算値である.

図7R1123+R1234yf の気液平衡性質測定結果(x-y 線図) 低い温度側で実測値と状態式に差が生じているが,これは純冷媒 R1123 の状態式が低温側で改良が必要であると現在は判断している.

0 0.2 0.4 0.6 0.8 10

0.2

0.4

0.6

0.8

1 273 K

Mass fraction of R1123 in the liquid phase

Mas

s fr

actio

n of

R11

23 in

the

vapo

r pha

se

0 0.2 0.4 0.6 0.8 10

0.2

0.4

0.6

0.8

1 283 K

Mass fraction of R1123 in the liquid phaseM

ass

frac

tion

of R

1123

in th

e va

por p

hase

0 0.2 0.4 0.6 0.8 10

0.2

0.4

0.6

0.8

1 293 K

Mass fraction of R1123 in the liquid phase

Mas

s fr

actio

n of

R11

23 in

the

vapo

r pha

se

0 0.2 0.4 0.6 0.8 10

0.2

0.4

0.6

0.8

1 303 K

Mass fraction of R1123 in the liquid phase

Mas

s fr

actio

n of

R11

23 in

the

vapo

r pha

se

0 0.2 0.4 0.6 0.8 10

0.2

0.4

0.6

0.8

1 313 K

Mass fraction of R1123 in the liquid phase

Mas

s fr

actio

n of

R11

23 in

the

vapo

r pha

se

Present data Present EOS

14

3.5 状態方程式の評価に関する調査研究

本プロジェクトで測定した R1123 + R1234yf混合冷媒の PVTx性質,臨界定数および気液平衡性質に基づき,ヘルムホルツ自由エネルギーで表現される状態方程式を作成

した.この状態方程式は,Kunz and Wagnerが提案した混合モデル(KWモデル)を用いている.図8は KWモデルの概念を模式的に表したものである.

図8 Kunz and Wagner のヘルムホルツ自由エネルギー混合モデル

純成分 R1123 および R1234yf のヘルムホルツ自由エネルギーは,それぞれの純成分の状

態方程式で計算する.混合冷媒の理想気体部分は理想気体混合により決定し,残留部分(理

想気体と実在流体との差)を KW モデルで規定される混合則により計算する.

KW モデルに於いては,残留部分を計算する際に必要な混合系の温度および密度に対す

る無次元化パラメータ Tred およびρred を次式により決定する.

(4)

(5)

ここで,

(6)

および

(7)

である. および は混合パラメータであり,混合系の実測値に合わせて決定

される.本プロジェクトでは,bT = 1.0,gT = 1.0005,bv = 1.0およびgv = 1.011と決定し

た.KWモデルは,冷凍空調産業における標準的な冷媒熱物性計算ソフトウエアであるREFPROPでも採用されており,上記の混合パラメータを REFPROPに入力することにより,R1123 + R1234yf混合冷媒の熱物性値を簡便に計算できるようになる.図9はREFPROPで作成した 50mass% R1123+50mass% R1234yfの p-h線図である.

12,c22,c2

1,c2

red 1)1()1(2)1()( TxxxTxTxxT

TTT ú

û

ùêë

é+-

-+-+=

bgb

12,c22,c2

1,c2

red 1)1()1(2)1(

)(1 v

xxxvxvx

x vvv ú

û

ùêë

é+-

-+-+=

bgb

r

2,c1,c12,c TTT =

( )33/1 2,c3/11,c12,c 8

1 vvv +=

vTT bgb ,, vg

15

図950mass% R1123+50mass% R1234yf 混合冷媒の p-h 線図(REFPROP で作成)

なお,3.4 節で得られた気液平衡実測値にもとづいて決定した混合パラメータは,前

述した通り,図10に示した値である.

図10R1123+R1234yf 混合冷媒の熱物性計算で用いる混合パラメータ

(REFPROP で使用)

16

3.6冷凍空調システム性能の評価に関する調査研究

3.6.1文献調査

HFOを含む混合冷媒のサイクル実験は,R513A(R134a+R1234yf = 44/56)1)や R450A(R134a+R1234ze(E) = 42/58)2)など,R134aの代替冷媒の研究がなされている. また,国内では,R1234ze(E)と R32の混合冷媒についてヒートポンプサイクルの性能が実験的に明らかにされている 3).R1123+R1234yf混合冷媒の熱物性が当初は明らかでなかったため,サイクル実験は実施されていない.R1123+R1234yf混合冷媒の可能性を検討する基礎資料として,R1123+R32混合冷媒と R1234yf+R32混合冷媒の実験的性能評価について以下に報告する.

3.6.2 実験装置および実験条件 図11に実験装置の概略を示す.本実験装置は熱源水流体に水を用いた蒸気圧縮式

ヒートポンプサイクルであり,冷媒ループと熱源ループから構成される. 表5に熱交換器の仕様を示す.凝縮器,蒸発器ともに対向流型二重管式であり,冷媒が流れる内

管は螺旋溝付管を,熱源水が流れる外管は平滑管を使用している.表6に圧縮機の仕

様を示す.圧縮機は R410A用のスクロール式であり,冷凍機油はポリオールエステル油である.

図 3.6.1 実験装置概略図

図11 実験装置概略図

17

表7に実験条件を示す.暖房条件では,凝縮器熱交換量(暖房負荷)に依らず,凝縮

器熱源水温度は入口 20℃で,出口 45℃とし,蒸発器熱源水温度は入口 15 ℃で,出口9 ℃としている.冷房条件では,蒸発器熱交換量(冷房負荷)に依らず,凝縮器熱源水温度は入口 30 ℃で,出口 45 ℃とし,蒸発器熱源水温度は入口 20 ℃で,出口 10 ℃としている.なお,いずれの実験条件おいても蒸発器出口冷媒過熱度は 4 Kで一定としている. 冷媒は,R32+R1123 = 42+58 mass%と R32+R1234yf = 42+58 mass%の 2種類を比較した.表8に使用した冷媒の,標準沸点,温度すべり,体積冷凍能力を示す.

表7 実験条件

熱源⽔温度 [ºC] 熱交換量[kW] 過熱度 [K] 凝縮器 蒸発器

暖房条件 20 → 45 15 → 9 1.6 to 2.6 4 (±1)

冷房条件 30 → 45 20 → 10 1.4 to 1.4

表8 本研究における試験冷媒の基本物性

GWP* [-]

NBP [ºC]

Temp.glide** [K]

Vol.capacity** [MJ/m3]

R32+R1123 : 42+58 mass% 285 -58.4 0.49 13.1 R32+R1234yf : 42+58 mass% 285 -48.6 4.3 9.1

*IPCC 5次レポートに基づく計算値 **バルク温度 20 ºCにおける計算値

表5 熱交換器仕様

外径[mm] 内径[mm] ⻑さ[mm] タイプ

凝縮器 および 蒸発器

外管 15.88 13.88 7200 平滑管

内管 9.53 7.53 7200 溝付管

表6 圧縮機仕様

圧縮機の形式 密閉型電動圧縮機

圧縮機構部の形式 スクロール

冷凍機油 ポリオールエステル 粘度グレード VG68

シリンダ容積[cm3] 11

18

3.6.3 実験結果 冷房条件の場合と暖房条件の場合の COPをそれぞれ図12および図13に示す.冷房条件の場合,実験した全ての熱負荷において,R32+R1234yf混合冷媒の COPがR32+R1123混合冷媒の COPを上回った.暖房条件では,高負荷条件において同程度のCOPとなっているものの,低負荷条件では R32+R1234yf混合冷媒の方が高い COPを示した.R32+R1123混合冷媒と R32+R1234yf混合冷媒のサイクルにおいて,各構成要素の不可逆損失を比較すると,蒸発器では R32+R1123混合冷媒の不可逆損失が小さく,凝縮器,膨張弁,圧縮機では R32+R1234yf混合冷媒の不可逆損失が小さい.蒸発器,凝縮器における両混合冷媒の顕著な違いは温度すべり(露点-沸点差)である.R1123は R32と沸点が近いため,擬似共沸混合冷媒に近い相変化過程となる.一方,R32+R1234yf混合冷媒には,数℃の温度すべりがある.蒸発器では,出口での過熱が必要なために熱媒と冷媒との温度差が逆に大きくなってしまい,R32+R1234yf混合冷媒の不可逆損失が大きくなったが,凝縮器では温度すべりの効果によって R32+1234yf 混合冷媒の不可逆損失が小さくなった.加えて,圧縮機・膨張弁での不可逆損失も

R32/R1234yf混合冷媒の方が小さいため,同混合冷媒の COPが高くなったと考えられる. 今回の試験結果は,熱媒として水を用いているため,熱媒側の温度変化が大きく,

温度すべりが不可逆損失低減に効果的であった.一方,一般の空調機のように空気を

熱源とする場合には空気側の温度変化が小さいため,温度すべりの小さい R32+R1123混合冷媒の不可逆損失が小さくなる可能性がある.

図12COPcycleと熱負荷の関係 図13COPcycleと熱負荷の関係

(冷房条件の場合) (暖房条件の場合)

1) Mota-Babiloni et al., Experimental assessment of R134a and its lower GWP alternative R513A,

International Journal of Refrigeration, 74 (2017) 682-688. 2) Makhnatch et al., Experimental study of R450A drop-in performance in an R134a small capacity

refrigeration unit, International Journal of Refrigeration, 84 (2017) 26-35. 3) 福田,小山,混合冷媒を用いたヒートポンプサイクルの性能評価,日本冷凍空調学会論文集,28

(2011) 491-502.

1.4 1.6 1.8 2 2.2 2.4 2.6 2.84

4.5

5

5.5

6

COP c

,cyc

le[-

]

QEVA[kW]

Cooling Optimum charge amount

32/1123(42/58) 32/1234yf(42/58)

1.4 1.6 1.8 2 2.2 2.4 2.6 2.85

5.5

6

6.5

7

COP h

,cyc

le[-

]

QCOND[kW]

Heating Optimum charge amount

32/1123(42/58) 32/1234yf(42/58)

19

4 調査結果の公表

本調査研究に関係した成果公表は下記の2件である.なお,調査研究の成果は,国内

外の学会で発表したのち,欧文刊行雑誌に投稿する計画である.

(1)“R1123を成分物質にもつ2成分系混合冷媒の性質の測定 “ 迫田直也、Islam MD Amirul, 高田保之、東 之弘、 平成 29年度日本冷凍空調学会年次大会講演論文集, 玉川大学,東京(2017), E112.

【概要】 40 mass% R1123 + 60 mass% R32,60 mass% R1123 + 40 mass% R32,50 mass% R1123

+ 50 mass% R1234yfの 3種類の 2成分系混合冷媒について 294 K~430 K, 83 kg m-3~904 kg m-3, 8 MPaまでの範囲で PvTx性質を等容法により測定した.R1123 + R32の 2成分系については,状態方程式との比較を行い,状態方程式 から計算される密度は実測値と概ね 3 %以内で一致していた.

(2)“ R1123 を含む2成分系混合冷媒の気液平衡測定 “ 迫田直也,江世恒, 高田保之,東 之弘、 第 38回日本熱物性シンポジウム講演論文集, 産業技術総合研究所,つくば(2017), A223.

【概要】 R1123 + R32の2成分系混合冷媒の気液平衡を273 Kから313 Kの間の5温度に ついて測定を行った.測定した温度,組成において,既存の状態方程式から 露点圧力および沸点圧力を計算し,実験で得られた圧力との比較を行い, 評価した.

20

5 今後の展望

本研究では,地球環境への影響が少ない次世代冷媒として開発が続いている低 GWP冷媒から構成される新規2成分混合系作動媒体 R1123+R1234yfの熱物性評価に関する調査研究をおこなった.新規物質を産業界で安全に利用し,管理するために必要とな

る情報として,まず基本的熱物性値情報を取得し,それの結果に基づいて,状態式を

開発し,システム性能の推定まで試みた.限られた1年間という事で,まずは R1123 + R1234yf 混合冷媒の物性データの蓄積に重点をおいて進めた.熱力学性質の測定に関しては, 低限の情報を取得できたと考える.しかし,状態式の精度を高めるために

は,さらにデータの蓄積は必要であり,さらなる継続した研究が重要となるであろ

う.また対象とした R1123 + R1234yf 混合冷媒のシステム性能は,検討の途中段階であり,引き続いて実機性能評価を行う必要がある.しかしながら,完了できなかった

とはいえ,本混合冷媒の熱物性値情報の基盤整備は,国際標準レベルで構築できたも

のと考える.さらに, NIST REFPROP で計算ができる状態でまとめることができたことは,成果として大きな収穫であり,今後の研究および安全管理に十分役立つ情報が

提供できたと考える. 今後 GWP 値を,今まで以上に低くする新冷媒開発に取り組まなければならない.もし,今回対象とした混合冷媒が用いられるとすれば,温暖化対策はクリアできるこ

とになる.また,性能向上が期待できる, R32 を含む3成分系混合冷媒に取り組むとした場合も, R32 の存在比率を低減させることが一つの策として考えられる.ただし, 国産新規冷媒の R1123 の使用可能量には,安全性の面で制約が発生するので,解決の手法として第4の冷媒を添加するケース等も予想され,3成分系混合冷媒,4

成分系混合冷媒への関心の移行が進む可能性が高い.九州大学としては,3成分系混

合冷媒 R32+R1234yf+R1123 混合系が当座の第一候補となるものと考えているが,今後も引き続いて,多成分系混合冷媒に関して同様な調査研究を早急に進める予定であ

る.

なお, 後に, R1123 + R1234yf の熱物性計算が, NIST REFPROP で計算可能となったことを説明するためには,ソフトウエア画面を図14から図19に紹介する. REFPROP 上で本混合冷媒の熱物性計算が可能になった事は,本調査研究の大きな成果であり,熱物性国際標準値として情報提供をすることが,今後も新規冷媒の安全な利

用に大きく国際貢献できるものと確信している.

21

図14 REFPROP New version (beta 版) メイン画面

図15 対象物質選択メニュー (R1123, R1234yf が含まれている)

図16 物性値計算の一例 (R1123+R1234yf)

22

図17 R1123+R1234yf混合冷媒の P-T 曲面

図18 R1123+R1234yf混合冷媒の T-s 曲面

図19 R1123+R1234yf混合冷媒の T-x 曲面