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モダリティ別画像診断の最新動向 2.MRIの進歩と臨床的有用性 5)脂肪抑制法 Dixon Imaging の応用 奥田 茂男 / 谷本 伸弘 / 栗林 幸夫 慶應義塾大学医学部放射線診断科 Vol.4 INNERVISION ( 27・8 ) 2012 51 脂肪抑制法は,脂肪組織あるいは成分 の検出・同定や,ガドリニウム造影剤に よる造影後に,背景としての脂肪信号を 消す目的で,重要な技術である。従来は 主に CHESS 法が用いられていたが,短 い TR を使うシーケンスにも組み込むこと ができるよう,SPECIAL 法(LAVA など) が登場した。Dixon 法で得られる水・脂 肪分離画像は古くから脂肪確認に用いら れていたが,これを取り入れた 3 D 撮像法 (LAVA-FLEX,IDEAL など)も開発され, 効果の確実な脂肪抑制法として利用さ れる機会が増えている。LAVA-FLEX, IDEAL には位相マッピングを利用した位 相ずれ補正が組み合わされており,特に, B 0 や B 1 不均一による周波数ムラを招き やすい 3 T 装置において,Dixon 法による 均一かつ強い脂肪信号抑制効果が期待で きる。 本稿では脂肪抑制法を概観し,婦人科 領域における Dixon 法の利用法について まとめた。なお,各メーカーにより脂肪抑 phase を利用して脂肪信号を抑制する。 Dixon が提案した原法では,180°RF パ ルスをずらしたスピンエコー法が採用さ れているが,その後は 2 つの異なる TE (dual echo)を用いたグラディエントエ コー法が主流である。 脂肪抑制法の変遷 臨床現場で利用されている脂肪抑制 法とシーケンスの組み合わせを表1,当 施設で主に婦人科領域で使用している パラメータを表2 にまとめた。 造 影 後の脂 肪 抑 制 T 1 W I(f a t - suppressed T1WI:FsT1WI)として はCHESS法(ChemSAT法)を利用し たFastSEあるいはFastSPGRが長年使 われてきた。CHESS 法ではすべての TR ごとにサチュレーションパルスを印加す るため,確実な脂肪信号抑制効果を得 ることができるが,パルスを入れるために は,ある程度の長さの TR を必要とする。 制法やシーケンスに対する呼称が異なるが, そのすべてを扱うことは本稿の範囲を超え るので,本稿では当施設で使用している GE 社の呼称に統一して記述する。他メー カーの同様な技術については,それぞれの 名称に読み替えていただきたい。 Dixon Imagingについて まず Dixon 法の原理を簡単に記載して おく 1) 。水プロトン(-OH)と脂肪プロト ン(-CH 2 -)との共鳴周波数は 3 . 5 ppm だけ異なる。この違いにより,スピン回 転速度には,1 . 5 T では 224 Hz,3 T で は 448 Hz の差が生じる。これが累積して, 1 . 5 T では 4 . 4 ms,3 T では 2 . 2 ms ごと に水と脂肪のプロトンには 1 回転の差を もって同一方向を向く。これが in-phase であり,その半分で水と脂肪プロトンが 半回転の差により反対方向を向くタイミ ングがout of phase(あるいはopposed p h a s e)である。D i x o n 法 は o u t o f 〈0913-8919/12/¥300/ 論文 /JCOPY〉 2D 3D 特 徴 CHESS(ChemSAT) SPGR,FastSPGR Spin Echo,FastSE SPGR,FastSPGR FastSE 毎 TR,サチュレーションパルスを印加する。 SPECIAL(SpecIR) FIESTA LAVA,FIESTA FastSPGR 撮像時間の延長は少ないが, B 0 の不均一影響を受けやすい。 Dixon(2-point) (該当なし) LAVA-FLEX B 0,B 1 の不均一に強い。 Dixon(3 -point)(IDEAL) FastSE FastSPGR 2 -point 法より安定するが,撮像時間が長くなる。 表 1 脂肪抑制法と組み合わせるシーケンス CHESS:CHEmical Shift Selective ChemSAT:Chemical SATuration SPECIAL:SPECtral Ir Attenuation of Lipid FastSE:Fast Spin Echo SPGR:SPoiled Gradient Recalled acquisition in the steady state 3 D GRE:3 D GRadient Echo FIESTA:Fast Imaging Employing STeady-state Acquisition LAVA:Liver Acquisition with Volume Acceleration IDEAL: Iterative Decomposition of water and fat with Echo Asymmetry and Least squares estimation

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モダリティ別画像診断の最新動向Ⅱ

2.MRIの進歩と臨床的有用性

5)脂肪抑制法─Dixon Imagingの応用

奥田 茂男/谷本 伸弘/栗林 幸夫 慶應義塾大学医学部放射線診断科

Vol.44Vol.

INNERVISION (27・8) 2012  51

 脂肪抑制法は,脂肪組織あるいは成分の検出・同定や,ガドリニウム造影剤による造影後に,背景としての脂肪信号を消す目的で,重要な技術である。従来は主に CHESS法が用いられていたが,短いTRを使うシーケンスにも組み込むことができるよう,SPECIAL法(LAVAなど)が登場した。Dixon法で得られる水・脂肪分離画像は古くから脂肪確認に用いられていたが,これを取り入れた3D撮像法(LAVA-FLEX,IDEALなど)も開発され,効果の確実な脂肪抑制法として利用される機会が増えている。LAVA-FLEX,IDEALには位相マッピングを利用した位相ずれ補正が組み合わされており,特に,B0やB1不均一による周波数ムラを招きやすい3T装置において,Dixon法による均一かつ強い脂肪信号抑制効果が期待できる。 本稿では脂肪抑制法を概観し,婦人科領域におけるDixon法の利用法についてまとめた。なお,各メーカーにより脂肪抑

phaseを利用して脂肪信号を抑制する。Dixonが提案した原法では,180°RFパルスをずらしたスピンエコー法が採用されているが,その後は2つの異なるTE(dual echo)を用いたグラディエントエコー法が主流である。

脂肪抑制法の変遷

 臨床現場で利用されている脂肪抑制法とシーケンスの組み合わせを表1,当施設で主に婦人科領域で使用しているパラメータを表2にまとめた。 造影後の脂肪抑制 T 1 W I(f a t -suppressed T1WI:FsT1WI)としてはCHESS法(ChemSAT法)を利用したFastSEあるいはFastSPGRが長年使われてきた。CHESS法ではすべてのTRごとにサチュレーションパルスを印加するため,確実な脂肪信号抑制効果を得ることができるが,パルスを入れるためには,ある程度の長さのTRを必要とする。

制法やシーケンスに対する呼称が異なるが,そのすべてを扱うことは本稿の範囲を超えるので,本稿では当施設で使用しているGE社の呼称に統一して記述する。他メーカーの同様な技術については,それぞれの名称に読み替えていただきたい。

Dixon Imagingについて

 まずDixon法の原理を簡単に記載しておく1)。水プロトン(-OH)と脂肪プロトン(-CH2 -)との共鳴周波数は3 . 5ppmだけ異なる。この違いにより,スピン回転速度には,1 . 5Tでは224Hz,3Tでは448Hzの差が生じる。これが累積して,1.5Tでは4 .4ms,3Tでは2 .2msごとに水と脂肪のプロトンには1回転の差をもって同一方向を向く。これがin-phaseであり,その半分で水と脂肪プロトンが半回転の差により反対方向を向くタイミングがout of phase(あるいはopposed pha s e)である。Dixon 法は out o f

〈0913-8919/12/¥300/ 論文 /JCOPY〉

2D 3D 特 徴

CHESS(ChemSAT) SPGR,FastSPGRSpin Echo,FastSE

SPGR,FastSPGRFastSE 毎TR,サチュレーションパルスを印加する。

SPECIAL(SpecIR) FIESTA LAVA,FIESTAFastSPGR

撮像時間の延長は少ないが,B0の不均一影響を受けやすい。

Dixon(2-point) (該当なし) LAVA-FLEX B0,B1の不均一に強い。

Dixon(3-point)(IDEAL) FastSE FastSPGR 2-point法より安定するが,撮像時間が長くなる。

表1 脂肪抑制法と組み合わせるシーケンス

CHESS:CHEmical Shift Selective ChemSAT:Chemical SATurationSPECIAL:SPECtral Ir Attenuation of Lipid FastSE:Fast Spin EchoSPGR:SPoiled Gradient Recalled acquisition in the steady state 3D GRE:3D GRadient EchoFIESTA:Fast Imaging Employing STeady-state Acquisition LAVA:Liver Acquisition with Volume AccelerationIDEAL: Iterative Decomposition of water and fat with Echo Asymmetry and Least squares estimation