平成30年度 微生物学 実習書 1019 - oita university- 5 - (例)左:菌a 右:菌b)...

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- 1 - 平成 30 年度 微生物学 実習書 細菌学実習編 実習 1~5 平成 30 年 10/18(木), 10/19(金), 11/1(木), 11/7(水) 【微生物学実習を行う上での注意点】 今後の実習では病原微生物を取り扱うので以下のことを守ること 1. 実習室内では飲食・飲水絶対禁止 2. 白衣着用のこと(白衣を着用していないものは入室を認めない) 3. 長髪の者は後ろに束ねること(バーナーの火が髪に引火する危険あり) 4. 菌による汚染がある場合はその場を動かず、必ず教員を呼ぶこと 5. 退室の際は備え付けの消毒液で必ず手指を洗うこと 6. 実習内容(各手技の意義、撮像、実習で学習した病原微生物に関する各論的事項 および考察)は各自が充分学習し理解しておくこと。実習の結果(細菌の画像な ど)は携帯、スマホ、タブレット等で撮像し、指定した Google Forms(Deep mail に送信)にアップし提出することをもってレポートとする。 実習の概略 10/18(木) 1-3 限(9:00-12:00) 全員 10/19(金) 1-3 限(B 組 9:00-12:00 ) 4-6 限(A 組 13:00-16:00) 11/1(木) 1-3 限(A 組 9:00-12:00) 4-6 限(B 組 13:00-16:00) 11/7(水) 1-3 限(B 組 9:00-12:00) 4-6 限(A 組 13:00-16:00) 実習 1 (グラム染色法) 実習 3-1 (スワブを血寒へ塗布) 実習 2 (病原細菌の観察) 実習 3-2 (コロニー観察、グラム染色、 ブドウ球菌の増菌) 観察・撮像 実習 3-3 (ブドウ球菌の性状確認、薬剤 感受性試験の準備) 実習 4 (抗酸菌染色) 実習 3-4 (薬剤感受性、耐性の確認) 実習 5 (臨床検体の観察)

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Page 1: 平成30年度 微生物学 実習書 1019 - Oita University- 5 - (例)左:菌A 右:菌B) 1.2 以降は上記1.2から1.5のグラム染色の手順どおり行う。 2 以上、観察された菌を観察・撮像(Webレポートへのアップ)

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平成 30 年度 微生物学 実習書

細菌学実習編

実習 1~5

平成 30 年 10/18(木), 10/19(金), 11/1(木), 11/7(水)

【微生物学実習を行う上での注意点】

今後の実習では病原微生物を取り扱うので以下のことを守ること

1. 実習室内では飲食・飲水絶対禁止

2. 白衣着用のこと(白衣を着用していないものは入室を認めない)

3. 長髪の者は後ろに束ねること(バーナーの火が髪に引火する危険あり)

4. 菌による汚染がある場合はその場を動かず、必ず教員を呼ぶこと

5. 退室の際は備え付けの消毒液で必ず手指を洗うこと

6. 実習内容(各手技の意義、撮像、実習で学習した病原微生物に関する各論的事項

および考察)は各自が充分学習し理解しておくこと。実習の結果(細菌の画像な

ど)は携帯、スマホ、タブレット等で撮像し、指定した Google Forms(Deep

mail に送信)にアップし提出することをもってレポートとする。

実習の概略

10/18(木)

1-3 限(9:00-12:00)

全員

10/19(金)

1-3 限(B 組 9:00-12:00 )

4-6 限(A 組 13:00-16:00)

11/1(木)

1-3 限(A 組 9:00-12:00)

4-6 限(B 組 13:00-16:00)

11/7(水)

1-3 限(B 組 9:00-12:00)

4-6 限(A 組 13:00-16:00)

実習 1 (グラム染色法)

実習 3-1 (スワブを血寒へ塗布)

実習 2 (病原細菌の観察) 実習 3-2 (コロニー観察、グラム染色、

ブドウ球菌の増菌)

観察・撮像 実習 3-3

(ブドウ球菌の性状確認、薬剤

感受性試験の準備)

実習 4 (抗酸菌染色)

実習 3-4 (薬剤感受性、耐性の確認)

実習 5 (臨床検体の観察)

Page 2: 平成30年度 微生物学 実習書 1019 - Oita University- 5 - (例)左:菌A 右:菌B) 1.2 以降は上記1.2から1.5のグラム染色の手順どおり行う。 2 以上、観察された菌を観察・撮像(Webレポートへのアップ)

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【目的】

1. グラム染色法の手技を身につける(到達目標)

2. グラム染色法を利用して細菌の形態を観察する

3. 身の回りに多くの(常在)細菌が存在することについて理解する

4. ヒトと共に存在し、感染症の原因ともなる病原細菌を検体の中から培養する

5. 培養した菌を分離し、その性質を知る(到達目標)

6. 臨床検体を用いてグラム染色により原因細菌を推定する(到達目標)

<グラム染色法による細菌の観察>

【背景】

1 細菌は微細・透明な生命体であり、それを観察するには適切な染色をし、顕微鏡下で観察しな

ければならない。医学生が細菌を観察しなければならない大きな理由は、患者検体中の細菌を

観察することにより、疾患の原因になっている病原細菌の推測をし、治療のための抗菌薬を適

切(!)に処方することにある 。したがってグラム染色は感染症患者における診断および治療薬

選択の有用な情報源となる。(日本感染症学会治療ガイドライン)

2 人の体腔は細菌で満たされている(常在細菌またはミクロビオータ microbiota)。

3 グラム染色では細菌を染色性、形態から以下のようにおおまかに分類できる。

3.1 グラム染色性

グラム陽性菌(Gram positive) グラム陰性菌(Gram negative)

3.2 形態

球菌(coccus, cocci (pl)) 桿菌(rod or baccilus baccili (pl))

3.3 グラム染色性と形態から細菌は以下の 4 つに大別できる。

グラム陽性球菌(Gram positive coccus: GPC)

グラム陽性桿菌(Gram positive rod: GPR)

グラム陰性球菌(Gram negative coccus: GNC)

グラム陰性桿菌(Gram negative rod: GNR)

3.4 上記 4 つの分類法に加えて、細菌の分裂様式(ブドウの房型、レンサ型、双球型など)

や桿菌の場合はその大きさも細菌の推測に大きな情報源となる。

Page 3: 平成30年度 微生物学 実習書 1019 - Oita University- 5 - (例)左:菌A 右:菌B) 1.2 以降は上記1.2から1.5のグラム染色の手順どおり行う。 2 以上、観察された菌を観察・撮像(Webレポートへのアップ)

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実習 1−1(細菌の染色法と観察) 10 月18 日(木) 1-3 限(全員)

【実習に用いる材料】

1 染色材料

1.1 歯垢

1.2 納豆、ヨーグルト

2−1 グラム染色用器具

グラム染色液 1 セット/班(2 セット/テーブル):

A 液(内容:ビクトリアブルーと媒染用のヨウ素溶液を含む)、B 液(内容:エタノール液)、

C 液(内容:フクシン液) スライドガラス(10 枚/班)、爪楊枝(10 本/班)、白金耳(ルー

プ大と小 1 本/班)、ライター(1個/班)

2-2 芽胞染色用染色液

3 グラム染色観察用機材

光学顕微鏡、油浸オイル(1 本/班)、レンズクリーナーペーパー

【操作および手順】

以下の操作はテーブル 1~12 を 2 つに分け、A 班、B 班として行うこと。

1 歯垢の染色

1.1 検体の塗布:スライドガラス上に水道水を白金耳(ループ径 大)に取り、ガラス鉛筆

で描いた円の中に一滴たらす。そこに爪楊枝で採取した歯垢を充分に懸濁させ、スライ

ドガラス上の円内に大きく塗り広げる。(前もってよく口をゆすいでおくと良い) (ガラ

ス鉛筆で〇を描く、やや大きめに○をしてよく広げた方が乾燥が早い)。

1.2 自然乾燥させる(液量があまり多いと乾燥に時間がかかる)

1.3 バーナーの火炎上を 3~4 回通す(火炎固定)。加熱しすぎると菌体が壊れるので注意。

1.4 グラム染色

イ.A 液を検体上にたっぷり(!)滴下し、約 1 分間染色する。

ロ.スライドグラスを水道水で穏やかに水洗する。(以下、水洗の際は手指が汚れるので

スライドグラスクリップで把持して行う)

ハ.水をよく切った後、B 液をたっぷり(!)注ぎ、30 秒~1 分程度脱色する。

二.水道水で再び水洗。

ホ.C 液をたっぷり(!)検体に滴下し、約 1 分間染色する。

へ.水道水で穏やかに水洗し、キムワイプなどで軽く叩くようにして水気を取

る(裏面は拭いても構わない)、またはドライヤーなどで遠くから乾燥させる。

1.5 観察・撮像(Web レポートへのアップ)

イ.まず 100~400 倍でピントを合わせる。その後油浸オイルを検体に滴下しそ

Page 4: 平成30年度 微生物学 実習書 1019 - Oita University- 5 - (例)左:菌A 右:菌B) 1.2 以降は上記1.2から1.5のグラム染色の手順どおり行う。 2 以上、観察された菌を観察・撮像(Webレポートへのアップ)

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のままレボルバーを回し 100xの対物レンズにて 1,000 倍で鏡検する (油

浸オイルがついたままで対物レンズを戻して 400 倍以下の観察をしないこと)。

ロ.GPC、GPR、GNC、GNR のうちどれに相当するかを確認しながら観察された細菌

について観察・撮像しその特徴を理解する(Web レポートへアップ)。

2 納豆、ヨーグルトの染色、観察

2.1 検体の塗布

2.2 スライドガラス上に白金耳を用いて水道水を一滴たらし、そこに納豆の糸の部分または

ヨーグルトを白金耳(小)で少量すくいとり、スライドガラス上に塗り広げる。(たくさ

ん取る必要はない)

2.3 以後、上記 1.2 から 1.5 の手順どおり行う。観察・撮像(Web レポートへのアップ)

3 芽胞染色 <Schaeffer-Fulton の芽胞染色法>

納豆菌についてのみ行うこと

(1) 上記と同様に塗抹、乾燥、固定

(2) 5%マラカイトグリーン水溶液で 3~6 分加温染色後(*)、水洗 30 秒

(3) 0.5%サフラニン水溶液で 30 秒染色

(4) 水洗、乾燥、鏡検(芽胞がどのように確認されるか、グラム染色像の時と対比させ、観

察・撮像(Web レポートへのアップ)

*:スライドガラスの下からバーナーの火で遠火に熱を加える操作(流しで行うこと、ただし

バーナーは流しに置かずに、炎のみをかざすようにバーナーを手で持って操作すること)

実習2(グラム染色による病原細菌の観察) 10 月 19日(金) 1-3 限(B)

4-6 限(A)

典型的な病原細菌 6 菌種を固形培地に準備してあるので、グラム染色を行い以下のいずれの菌であ

るか観察、スケッチ。用意してあるのは、普通寒天培地(普通)に接種したもの4菌種、血液寒天培

地(血寒)に接種したもの2菌種である。

Staphylococcus aureus (普通) Streptococcus pyogenes (血寒)

Streptococcus pneumonia (血寒) Escherichia coli (普通)

Moraxella catarrhalis (普通) Klebsiella pneumoniae (普通)

【操作および手順】

1 培養菌の染色

1.1 検体の塗布

検体の塗布:固形培地から滅菌した白金耳(大)で水道水を 1 滴とりスライドグラス上にた

らし、その後固形培地から数コロニーを白金耳(小)で掻き取り塗りつける。お互いに交じ

り合わないように1枚のスライドガラスに 2 菌種塗る(ガラス鉛筆で〇を描く、やや大きめ

に○をしてよく広げた方がより乾燥が早い)。

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(例)左:菌 A 右:菌 B)

1.2 以降は上記 1.2 から 1.5 のグラム染色の手順どおり行う。

2 以上、観察された菌を観察・撮像(Web レポートへのアップ)

実習 1 の撮像(グラム染色、芽胞染色)は他の実習時間も利用して全員必ず行い、

観察・撮像し、レポートとしてアップし提出し、その特徴を把握しておくこと

<鼻腔・咽頭に常在する細菌の分離と病原細菌の観察>

【背景】

人間は他の動物と同様に数多くの微生物に囲まれて(または共生して)生活している。常在微生物

細菌叢(ミクロビオータ microbiota)はその種類によって多少の変動はあるものの、2 つに大別

される。すなわち定着菌と通過菌である。前者はその部位から完全に排除することは困難で、常に

一定の集団を形成している。一方後者は時間により変動する。人体における常在微生物細菌叢(ミ

クロビオータ microbiota)を知ることは、人間と病原体の存在する環境の相互作用を知る上で重

要である。常在微生物細菌叢(ミクロビオータ microbiota)は人体という生態系の中で以下に述

べる重要な役割を担っている。(参考 「失われてゆく、我々の内なる細菌」マーティン・J・ブレーザー著、 み

すず書房 2015 年 ISBN978-4-622-07910-1)

1) 宿主の抵抗力が減弱した際には病原菌となる

2) 病原微生物の定着・侵入を妨げる

3) 抗菌薬様物質を産生する

4) 病原微生物に対する宿主の免疫機能を活性化する

5) 生体に必要なビタミン K,ビタミン B12,サイアミン,リボフラビンなどを産生する

6) 常在するがために、また形態の類似性から病原菌としての診断の際に混乱をきたす (無

菌部位に細菌が存在したら起因菌と疑え!)

生体内のミクロビオータ

1)皮膚 2)結膜 3)鼻、喉頭 4)口腔、歯周、扁桃、咽頭 5)腸管(大腸には 500~

600 種類の菌種が存在するといわれる) 6)泌尿生殖器(尿道、膣)

* 口腔内は 400 種以上の異なった微生物が成育するのに非常に適した環境である。新生児では生下時には

既に無菌ではなく、母親の膣内に存在するのと同様な種類の細菌が存在する。これらの細菌は生後 2~5

日で徐々に減少し、母親の口腔内に存在するのと同じ種類の細菌に取って代わられる。生後 12 時間以

内でα溶連菌が観察され、その後これが口腔咽頭内の主要な菌種となる。正常な喉頭には様々な種類の

グラム陰性、陽性の球菌、桿菌が存在する。これら正常の状態でも常在する細菌は時には上気道や呼吸

器感染症の原因細菌となる。例えば Haemophilus influenzae, Staphylococcus aureus,

Streptococcus pneumoniae, Streptococcus pyogenes, Moraxella catarrhalis など。

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今回主に対象とするのは以下の菌種である。

Staphylococcus 属菌 (S. aureus (MSSA, MRSA)

Streptococcus 属菌 (S. pyogenes, S. pneumonia)

Moraxella catarrhalis, Haemophilus influenzae

いずれも口腔~上咽頭に常在するが、時に病原菌ともなり様々な様態を呈するものである。

実習 3(生体内常在細菌の観察)

10 月18 日(木) 1-3 限(全員)

10 月 19 日(金) 1-3 限(B クラス)、4-6 限(A クラス)

実習 3-1 10 月 18 日(木) 鼻腔スワブの血液寒天培地への塗布

【実習に用いる材料】

・ 綿棒

・ 血液寒天培地 一人 1 枚

【操作および手順】

主な実習操作:グループの半数は鼻腔スワブ、残りは口腔スワブを採取し血液寒天培地に塗布する

こと。

鼻腔からのスワブの採取は各自で行う。なるべく綿棒を立てるようにして、鼻口から挿入し、粘

膜壁を軽く擦る。口腔スワブはペンライトで見ながら別の人に咽頭後壁から採取してもらう。

その後綿棒で得たサンプルはすぐに血液寒天培地の一箇所に(下図の1 )に塗布する。その

後火炎滅菌した白金耳を用いて綿棒で塗りつけたスワブの部分を(2~4)のように重ならないよ

うに全面に塗り広げる。塗布の仕方は右図を参考にすること(寒天上に強く押し付け過ぎないこと、

寒天が壊れる!)。

その後血液寒天培地を 37℃で一晩 5% CO2 インキュベーター内で培養する。

(シャーレの裏面に班名、氏名、鼻腔か口腔かを記載しておくこと)

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実習 3-2 10 月 19 日(金)コロニーのグラム染色による観察とブドウ球菌

の選択

【実習に用いる材料】

・ 10/18 の実習で塗布した血液寒天培地

・ 白金耳(ループ径 小)

・ 顕微鏡、油浸レンズ用オイル

・ スライドグラス

・ グラム染色キット

・ 普通寒天培地(1 人 1 枚使用)

・ マンニット食塩寒天培地(2人で 1 枚使用、平板培地を 2 分割して使用)

【操作および手順】

主な実習操作:1)コロニーの観察とそれらのグラム染色、顕微鏡での観察 2)特にブドウ球菌の増

菌操作

1) 血液寒天培地を観察し、出現したコロニーの数を半定量的に記載する(多い/少ない/無い)。併

せてコロニーの性状(大きさ、形、色調、溶血の有無)も観察し、記載する。

(参考 Staphylococcus 属:溶血がみられない、またはβ溶血を示す白色の比較的大きなコ

ロニーで特に鼻腔からのスワブで検出しやすい、Streptococcus 属:αまたはβ溶血を示す中

型のコロニー、Moraxella catarrhalis:溶血の無い中型のコロニーでベタッとした感じのコロ

ニー、Hemophilus influenzae:微細な小型のコロニー)

特徴的な幾つかのコロニーを白金耳でスライドグラス上に採取しグラム染色を行う。コロニーか

ら得られた代表的な菌をグラム染色性と形態で大まかに分類する。コロニーから菌を採取するとき

には、白金耳(ループ径 小)を用いる(全て掻き取る必要はない、次の増菌用に残しておくこと)。

グラム染色の手技は前日の手技に準ずる。グラム染色の所見は以下の確認試験に進むための重要な

情報を提供する。

2)ブドウ球菌の観察とその後の確認のための増菌

特に鼻腔のスワブからはブドウ球菌が検出される可能性が高い。なかでも黄色ブドウ球菌 S.

白金耳で広げる 綿棒で塗り付ける

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aureus はヒトへの病原性の高い重要な細菌であるので、以後これを分離・同定する作業を進める。

グラム染色像と顕微鏡観察でブドウ球菌を疑わせるコロニーから滅菌した白金耳で少し掻き取り

(「釣菌」という)、普通寒天培地(今後これをプレート A と呼ぶ)とマンニット食塩培地(今後

これをプレート B と呼ぶ)上に塗布する。各テーブル A 班、B 班で 1 枚ずつ必ずプレートの裏面

に班名を記載すること。翌日までふ卵器で培養し教官が取り出し、冷蔵庫に 11/1 まで保管する。

実習 3-3 11 月 1 日(木) 4-6 限 黄色ブドウ球菌の確認

9:00-12:00(A クラス)、13:00-16:00(B クラス)

【実習に用いる材料】

・ 前日(10/19)の実習で塗布したブドウ球菌を疑い、増菌させた普通寒天培地(プレート A) と

マンニット食塩寒天培地(プレート B)

・ 各班ごとにプレート A の菌を液体培養に移した菌液(教官側で用意してある)

・ 普通寒天培地(1班 2 枚)

・ 抗菌薬ディスク 6 種類

・ 黄色ブドウ球菌用凝集試験キット(コアグラーゼテストキット)

・ 白金耳(各操作の前にはその都度必ず白金耳を火炎滅菌すること)

・ ピンセット

・ 黄色ブドウ球菌(疑)

【操作および手順】

3-1 耐塩性の確認(10/19 のマンニット食塩培地(プレート B)で確認のこと)

ブドウ球菌はそのほとんどが耐塩性である。マンニット食塩培地上に増殖したコロニーの周辺が黄

変していれば陽性(耐塩性あり)とする。(Web レポートへのアップ)

3-2 コアグラーゼテスト(Coagulase test):

黄色ブドウ球菌の代表的な産生毒素であるコアグラーゼの産生能を確認し、コアグラーゼ産生能

のあるブドウ球菌か非産生性のブドウ球菌(CNS: Coagulase-Negative Staphylococcus)を

判別する。(Web レポートへのアップ)

この操作は基本的には教官が前で行うので、釣菌のみ行う。

i) 生理食塩水液 1 滴(約 0.05mL)を反応板のリング内に滴下してもらう。白金耳で 10/20 のプ

レート A の Staph aureus と思われるコロニーからなるべく多く釣菌し、反応板の上の一端

に菌を塗り広げ、生理食塩水と徐々に混ぜながら菌塊の無い均一な状態にした後、反応板のリ

ング内に拡げる。

ii) PS ラテックス乳液から 1 滴(0.05mL)を滴下してもらい(教官が前で行う)、混和液が枠内を

回るように反応板を前後左右に 1 分間緩やかに動かす。

iii) 1 分以内に明らかな凝集が認められたものを陽性とし、凝集の無いものを陰性と判定する。

※コロニーの観察(正確に純培養されているか? さらに色調についても観察する)。

再度グラム染色を行い確認する。

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3-3 黄色ブドウ球菌(疑)の薬剤耐性の確認

1)薬剤ディスクを用いた抗菌薬感受性、耐性試験 (実習時間の後半で行う) 。

プレート A の菌を液体培養に移した菌液を綿棒に含ませて、新しい普通寒天培地 2 枚に丁寧に

塗り広げる。この状態をローン (芝生) と呼ぶ。次にプレートの裏から 1 枚を 3 等分に領域を分割

する(マジックペンで)。

しばらくプレートの蓋をしておおよそ菌液が浸透したら、ピンセットでディスクを取りローン上

に静かに載せ、軽く押し付ける(決して手で触れないこと!)。

実習 3-4 11/7(水)1-3 限(B クラス)、4-6 限(A クラス)

1) 阻止円の確認

11 月 1 日に載せた抗菌ディスクの周囲の阻止円の幅を定規で正確に計測し、抗菌薬に

対する感受性、耐性を判定する。阻止円を撮像しレポートへアップすること。

表.コアグラーゼ産生能から見たブドウ球菌の種類

コアグラーゼ 種

陽性 S. aureus S. intermedius 陽性または陰性 S. delphini S. hyicus

陰性

S. arlettae S. auricularis S. capitis S. caprae S. carnosus S. caseolyticus S. chromogenes S. cohnii S. condiment S. epidermidis S. equorum S. felis S. gallinarum S. haemolyticus S. hominis S. lentus S. lugdunensis S. muscae S. mutans S. pasteuri S.piscifermentans S. saccharolyticus S. sciuri S. schleiferi S. simulans S. succinus S. vitulinus S. warneri S. xylosus

(R) ( I) (S) 精度管理

AMP 28mm 29mm 27-35mm

CTRX 13mm 14-20mm 21mm 22-28mm

KM 13mm 14-17mm 18mm 19-26mm

TC 14mm 15-18mm 19mm 24-30mm

NFLX 12mm 13-16mm 17mm 17-28mm

VCN 14mm 15mm-16mm 17mm 17-21mm 日本ベクトン・ディッキンソン

表 S.aureus センシ・ディスク感受性判定表

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実習 4 11 月 1 日(木) 1-3 限(A クラス)、4-6 限(B クラス)

【目的】Ziehl-Neelsen 染色による抗酸菌の染色

抗酸菌(結核菌、非定型抗酸菌)の細菌学的特徴とそれが引き起こす疾患を列挙でき、その代

表疾患である結核の原因、症候、診断、治療と予防を説明できることは必須の事項であるため、

本実習を行う。

【実習内容】

抗酸菌染色による患者喀痰からの抗酸菌の検出と観察

【実習に用いる材料】【操作および手順】

患者検体 各班1プレパラート[Z-N とマークあり]

抗酸菌染色液:石炭酸フクシン、3%塩酸アルコール、メチレンブルー、

<手順>喀痰検体塗布済みのスライドガラスを抗酸菌染色する。

抗酸菌染色による患者喀痰からの抗酸菌の検出と観察(実際の操作は(3)から)

(1)痰の膿性部分をとる

(2)スライドガラスに塗抹、乾燥、固定(ここまで教官が実施済み)

(3)Ziehl の石炭酸フクシン液を滴下

(4)ガスバーナーにて遠火でゆっくり加温染色(芽胞染色の時と同じ)(流しで行うこと、た

だしバーナーを流しに置かずに、手で持って操作すること)

(5)うっすら湯気が昇る程度、2~3 回繰り返す(途中で石炭酸フクシン液を追加)

(6)裏側から水洗

(7)3%塩酸アルコールで 1 分間脱色する

(8)裏側から水洗

(9)メチレンブルーで 1 分間対比染色

(10)裏側から水洗、乾燥、鏡検(油浸にて 1,000 倍で観察)、観察・撮像(Web レポート

へのアップ)

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<臨床検体を用いた細菌の観察>

実習 5 11 月 7 日(水) 1-3 限(B クラス)、4-6 限(A クラス)

【目的】

グラム染色法は、ベッドサイドで簡便かつ短時間に原因である細菌の絞り込みができ、

それに応じた抗菌薬の選択ができることが最大の強みである。

近年では、入院が必要な市中肺炎例などに対してはエンピリックセラピー(病原体が確

定する前に抗菌薬を用いた治療を開始すること)においてむやみに広域の抗菌薬を使わず、

できるだけターゲットを絞った抗菌薬選択(グラム染色に基づいた治療:pathogen-directed therapy)が望まれる。このためグラム染色法は医師となるべき者が、是非身に付けておく

べき検査法である。

【実習内容】

患者から得られた 4 症例の検体(あらかじめ火炎固定されたスライドが 2 枚)をグラ

ム染色し、観察・撮像し、Web レポートにアップし考察の材料にすること。観察された所

見から細菌学総論、各論で勉強した内容を元に考察すること。また原因菌と適切な抗菌薬

の選択などについてもグループ内でディスカッションしながら考察すること。