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平成30年度 教育論文 <研究主題> 薩摩川内市立黒木小学校 教諭 重 可奈子 子供が主体的に取り組む道徳科の研究 ~「考え,議論する道徳」の授業の充実を目指して~

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Page 1: 平成30年 教育論文 <研究主題> · 6 研究の内容 (1) 視点1「道徳科の授業において子供たちが主体的に取り組むための指導方法の工夫」

平成30年度

教育論文

<研究主題>

薩摩川内市立黒木小学校

教諭 重 可奈子

子供が主体的に取り組む道徳科の研究

~「考え,議論する道徳」の授業の充実を目指して~

Page 2: 平成30年 教育論文 <研究主題> · 6 研究の内容 (1) 視点1「道徳科の授業において子供たちが主体的に取り組むための指導方法の工夫」

薩摩川内市立黒木小学校 教諭 重 可奈子

目 次

1 研究主題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

2 研究主題について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

(1) 「主体的」とは

(2) 「考え,議論する道徳」とは

3 研究主題設定の理由・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

(1) 本校の子供の実態から

(2) 本校の研究主題から

4 研究の仮説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

5 研究の視点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

6 研究の内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

(1) 視点1「道徳科の授業において子供たちが主体的に取り組むための指導方法の工夫」

(2) 視点2「道徳科の授業での考え,議論する場の設定」

7 授業の実際・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

(1) 主題名・教材名

(2) ねらい

(3) 指導に当たって(研究内容との関連)

(4) 授業の実際と実践の成果

8 研究の成果と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

9 終わりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

【参考文献・参考資料】

・ 小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 特別の教科 道徳編 (文部科学省)

・ 鹿児島県総合教育センター 指導資料 道徳 31・32 号

・ 道徳教育の充実に向けて(平成 30 年 3 月 鹿児島県教育委員会)

・ 短期研修講座 「考え,議論する」道徳科の授業作り講座資料(鹿児島県総合教育センター平成 30 年)

・ 「鹿児島の道徳教育」リーフレット 特別の教科道徳に向けて(平成 27・28・30 年度版 鹿児島県教育委員会)

・ 道徳教育 NO.721 723 724 (明治図書 平成 30 年)

・ 板書例と展開がわかる教科書教材を使った考え・議論する道徳の授業 80・6 年(喜楽研 平成 30 年)

子供が主体的に取り組む道徳科の研究

~「考え,議論する道徳」の授業の充実を目指して~

~算数科における数学的な思考力・表現力を高める活動の充実を通して~

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1 研究主題

2 研究主題について

(1) 「主体的」とは

「主体的」とは,よりよく生きるために,答えが一つではない道徳的な課題を自分自身の問

題として捉え,それに向き合いながら考え,判断し,行動・実践しようとする姿と捉える。教師

の一方的な押しつけや単なる生活体験の話合いに終始するのではなく,子供自身が道徳的価値を

理解し,自分との関わりで考えたり,多様な感じ方や考え方に接したりする学習を通して,自己

の生き方についての考えを深めていくことにつながる。

(2) 「考え,議論する道徳」とは

「考える道徳」とは,自分自身を見つめ直したり,人物に共感したり,自分との関わりで気

持ちを想像したりすることで道徳的価値を考えたり,多面的・多角的に考えたりできる授業の

ことである(主体的な学び)。「議論する道徳」とは,多様な考え方,感じ方と出会い,交流す

る授業のことである(対話的な学び)。このような「考え・議論する道徳」の授業を展開するこ

とが,道徳性を養うことにつながる。

3 研究主題の設定の理由

(1) 本校の子供の実態から

本校の子供たちは,素直で活発で,様々な行事にも意欲的に取り組んでいる。さらに少人数の

ため,様々な教育活動で子供一人一人の表現の機会を多くもつことができるとともに,授業に

おいても子供全員の考えを聞くことが可能である。各教科等の話合い活動で,「自分の考えを伝

えたい」,「分かってもらいたい」という気持ちが強く,意欲的に発表したり,ペア学習で活発

に意見を出し合ったりする場面が見られる。しかし,自分の考えを発表するだけで話合いが終

わることが多く,比較・検討したり,考えを更に深めたりするまでには至っていない。

そこで,子供たちの思考がより深まるような教師の発問や場の設定を工夫することで,「考え,

議論する道徳」の授業をより充実させることができるのではないかと考えた。さらに,「考え,

議論する道徳」の授業が展開できれば,子供たちの学習意欲も高まり,より主体的に取り組むこ

とが期待できる。

(2) 本校の研究主題から

本校は本年度から道徳科の研究を行っている。教科化を受けて,これまでの道徳の授業方法

からの脱却,新しい道徳に向けての授業改善を根底に,「考え,議論する道徳」の在り方につい

ての研究を深めてきた。「考え,議論する道徳」の授業を展開するための手立てについて,授業

を通した実践を行ってきた。その中で,主体的に学ぶための手立てを工夫し,考え,議論する

場を設定することで,「道徳性」の育成につながるのではないかと考えた。

子供が主体的に取り組む道徳科の研究

~「考え,議論する道徳」の授業の充実を目指して~

~算数科における数学的な思考力・表現力を高める活動の充実を通して~

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<本校の研究主題・研究構想>

4 研究の仮説

5 研究の視点

【仮説1】 道徳科の授業において,指導方法を工夫改善し,主体的に学ぶための手立てをとれば,道徳的

価値をより理解することができるのではないか。

豊かな心と確かな学力を身に付け,道徳性を備えた黒木っ子の育成

~「考え,議論する道徳教育」の在り方を目指して~

黒木魂に満ちた黒木っ子の育成

明るい子……礼儀正しく,思いやりがあり,仲よく助け合う子。

考える子……よく考え,めあてを持って進んで勉強する子。

がんばる子……健康で根気強く,責任を持って,積極的にがんばる子。

・ 少人数学級における学び方を理解し,問題意識を持って考えることができる子供【主体的な学び】

・ 自分の考えや思いを伝え,相手の考えを理解するとともに,自分と異なる意見と向かい合い議論

できる子供【対話的な学び】

・ 道徳的価値を実現するための問題状況を把握し,実践しようとする意欲をもち,実践できる子供

【深い学び】

<主体的に学ぶための手立て>

① 導入や資料提示,板書の工夫

② ワークシート等の活用

③ 授業のねらいに迫るめあての設定や発問

の工夫

④ 登場人物への自我関与中心の学習

<考え,議論する場の設定>

① ペアやグループでの話合い活動の充実

② 話合いにおける課題(発問)の在り方

③ 少人数における1単位時間の学習過程や学習

形態の工夫

【仮説2】 道徳科の授業において,考え,議論する場を設定し充実させることで,自己を見つめ,自己の生

き方についての考えを深めることができるのではないか。

道徳科の授業において,指導方法を工夫改善し,考え,議論する場を設定すれば,自己を見

つめ,自己の生き方についての考えをより深め,主体的に学習に取り組むことができるのではな

いか。

視点1:道徳科の授業において子供たちが主体的に取り組むための指導方法の工夫

視点2:道徳科の授業での考え,議論する場の設定

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6 研究の内容

(1) 視点1「道徳科の授業において子供たちが主体的に取り組むための指導方法の工夫」

ア 子供が授業に入り込む導入や資料提示の工夫

道徳科の授業において,子供たちに主体的に学ぶ意欲をもたせるためには,導入時にいかに

主題に対する興味や関心を高め,ねらいの根底にある道徳的価値の理解を基に自己を重ねるこ

とができるかが必要である。そこで以下のような導入の工夫や資料提示の工夫を行った。

(ア) アンケートの活用

事前にとったアンケート結果を導入時に提示し,これまでの体験を想起させることによっ

て,子供自身が追求したくなるめあてを設定することができた。また,本時のめあての設定

だけでなく,終末時に自己を振り返る手立てとしても大変有効であった。

【「お別れ会」(相互理解・寛容)での導入のアンケート】

(イ) 教材への導入

道徳教材の中には,伝記やフィクション,伝統文化など,一度の教材提示だけでは内容を

理解することが難しいものもある。その場合,導入や日常生活において,ICT 機器を活用し

視覚的に提示したり実物を見せたりすることで,時代背景や登場人物の情報について共有を

図った。

イ 板書の工夫

板書は,子供の意欲を高めるものであり,思考を深める重要な機能を有している。教師の伝

えたい内容を示したり,学習の順序や構造を示したりするなど,機能は多様である。子供と共

に板書をつくり上げていくことが,子供自身の主体的な道徳学習への取組にもつながる。だか

らこそ,教材に合わせてどのような板書にするのかを,十分吟味することが必要である。

【登場人物の気持ちを心情曲線に表した板書「ひとみと厚」(友情,信頼)】

できた体験

できなかった

体験

価値の心構え

「相手の失敗や過ちを許すためにはどんな気持ちが大切か」とい

う問いに対して,「仕方ないと思う気持ち」「自分の気持ちを抑える」

という,トラブルを避けて自分が我慢をすればよいという謙虚さや

あきらめ等が読み取れる。そこで,「毎回自分が我慢して許すこと

で,気持ちよく生活できるだろうか」と問いかけることで,「2,

3回までだったら許せるけど,毎回は無理」「気持ちよく許せない」

という子供自身の思いを引き出し,「気持ちよく許すにはどんな心

や考え方が大切か」というめあてへとつながった。

【「こだわりのイナバウアー」(感謝)】

導入時に,羽生選手の迫力ある演技

の動画を視聴させ,イナバウアーがど

のような技か紹介するとともに,羽生

選手の魅力を実感させ,関心を高め

た。

【「古きよき心」(伝統と文化の

尊重・国や郷土を愛する態度)】

「小泉八雲」を紹介するため

に,授業の前の読書タイムで「耳

なし芳一」の読み聞かせを行い,

教材への興味をもたせた。

【「光をともした『魔法の薬』」(真理

の探究)】

ノーベル賞が,人類の進歩等に多

大な貢献をした人々に贈られる最

高の栄誉であることを理解するた

めに,全校朝会でノーベル賞につい

ての話を担任が行った。

子供と一緒に心情

曲線に表し,主人公

の気持ちの変化を可

視化できるようにし

た。また,心情円グ

ラフを活用すること

で,一目で気持ちの

変化を捉えやすくし

た。

Page 6: 平成30年 教育論文 <研究主題> · 6 研究の内容 (1) 視点1「道徳科の授業において子供たちが主体的に取り組むための指導方法の工夫」

【心のメーターを活用した板書「小川笙船」(よりよく生きる喜び)

ウ ワークシートの活用

道徳科の授業において,書く活動は大変重要な活動であると考えている。じっくりと考え文

章に表すことで,自分の考えを整理できるとともに新たな考えに気付くこともできる。道徳科

の授業では主にワークシートを活用した。ワークシートの利点は,主に教師側の意図に基づき,

子供の学びの方向性を焦点化させたり,学習活動のつながりを整えたりすることにある。ただ,

毎時間教材にあったワークシートを作成することはなかなか難しい。そこで,基本的なワーク

シートの定型を作成し,教材ごとに挿絵を入れたり,発問内容を入れたりするなどカスタマイ

ズして活用した。基本的な形式を決めておくことで,子供たちはどこに何を書けばよいのかが

分かり,自分から進んで書くことができていた。さらに,活用したワークシートは「道徳ファ

イル」に綴っていくことで,子供にとって自分の思考を振り返る手立てとなり,教師にとって

は子供の思考の深まりを見取ったり,評価をしたりする蓄積資料として有効であった。

毎時間のワークシート作成は確かに大変である。しかしそれ以上に,ワークシートを自身で

作成することは,教材研究を十分に深めることにもつながる。中心発問をどこにするか,どの

ような活動の流れにするか,どの部分をじっくり書かせたいかなど,教材とじっくり向き合う

時間として必要である。

【ワークシートの定型】

自分の立場(自分だったら

主人公のような行動ができる

か,できないか)を心のメー

ターに示させた。それぞれの

立場を明確にした交流となる

ため,説明する方も聞く方も

対話しやすかった。意見交流

の中で,自分の考えが変わっ

たときは違う立場に移動して

もよいとした。

① ②

① 中心発問や補助発問,話合い活動での

友達の考えや深まった自分の考え(「主体

的・対話的で深い学び」を目指した活動)

〇 登場人物を自分に置き換えて考

え,自分なりに具体的にイメージで

きたか。

〇 他者と議論する中で,道徳的価値

の理解をさらに深めているか。

☆ 道徳的価値に関わる問題に対す

る判断の根拠やその時の心情を

様々な視点から捉え,考えようとし

ているか。

☆ 自分と違う立場や感じ方・考え方

を理解しようとしているか。

〇・・・道徳的価値の理解を自分自身との関

わりで深めているか。

☆・・・一面的な見方から多面的・多角的な見

方へと発展しているか。

② 価値の自覚化

〇 現在の自分自身を振り返り,自らの生活や考えを見直し

ているか。

〇 道徳的価値を実現することの難しさを自分事として捉

え,考えようとしているか。

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エ 振り返りカードの活用

道徳科の授業において,終末時に 1 単位時間を振り返る「振り返りカード」を活用した。3

段階の評価で子供自身も負担なく書くことができ,これまでの評価を一目で比べたり振り返っ

たりできる利点がある。さらに,学期末に振り返る「振り返りカード」も活用した。大まかな

まとまりを踏まえた評価につながるとともに,子供の変容を見取る手立てにもなった。また,

それぞれの評価において振り返る視点を4項目に絞り,共通したものを活用した。

【1単位時間の「振り返りカード」】 【学期ごとの「振り返りカード」】

(2) 視点2「道徳科の授業での考え,議論する場の設定」

ア 話合い活動の充実

これまでの自分の道徳の授業を振り返ると,教師と子供の1対1の応答が多かったように思

う。子供同士がきちんと話し合っておらず,一部の子供たちの発言だけを取り上げて,授業を

進めてしまうことが多かったのが現状である。新学習指導要領解説道徳編には,「話合いは,

児童相互の考えを深める中心的な学習活動であり,道徳科においても重要な役割を果たす。考

えを出し合う,まとめる,比較するなどの目的に応じて効果的に話合いが行われるよう工夫す

る。」と示され,話合い活動の重要性,そしてその工夫が求められている。子供全員が話し合

う場を設けて,主体的に授業に参加できるよう,工夫することが必要なのである。

道徳科の授業における発表や話合い活動に対する子供たちの意識は,以下のとおりである。

【実態調査1】(調査日:平成 30 年 11 月 9 日 調査人数:9人)

【質問①】 道徳の授業で,自分の考えや意見を発表することは好きか。

好き:6人 嫌い:3人

【好きな理由】・ 自分の考えがみんなに伝わるといい気分になるから。

・ 友達が「なるほど」と思ってくれたり,賛成したりしてくれるから。

・ 自分の考えを改めて知ることができるから。

【嫌いな理由】・ 自分の考えがなかなか思いつかないから。

・ 自分の考えがみんなと違うかもしれないから。

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【質問②】 道徳の授業で,話合いをすることは好きか。

好き:6人 嫌い:3人

【好きな理由】・ みんなの意見を聞くことができるし,みんながどんなことを考えているかが分かるから。

・ より考えが広がったり,自分にはない考えが出てきたりするから。

・ みんなの考えを知って,自分の考えをもう一度見直したり深めたりできるから。

【嫌いな理由】・ いい意見が出ないから。 ・ 一人で考えるのが好きだから。

・ 意見がなかなかまとまらないから。

【実態調査1】から,自分の意見を伝えることを好む子供が3分の2見られる。しかし,みん

なと違ったらどうしようという不安や恥ずかしさ,自分の考えがしっかりもてない等,自分の

意見を述べるのに消極的な子供も少なくないことも分かる。

また,話合い活動においては,考えの深まりや広がりを感じている子供が多い一方,話合い

を苦手としている子供もいることも事実である。さらに,自校独自の道徳的価値に対する意識

調査「道徳アンケート」では,以下のような結果となった。

【実態調査2】(調査日:平成 30 年 7 月)

【実態調査2】から,自己肯定感の低さが気になった。さらに学年ごとに見ると,その傾

向は学年が上がるにつれて高まっていることも分かった。そこで,授業の中で認め合う場を

充実させ,自己肯定感の向上も図るべきであると考えた。

以上の【実態調査1・2】から,話しやすい学級の雰囲気づくりに努め,自分の考えを伝

えることができたという成功体験を積み重ねることができるように,学習形態や指導過程の

工夫が必要だと考えた。

(ア) 少人数における学習形態の工夫

学習形態の工夫として,コの字型の座席で学習

している。コの字型で学習することにより,お互

いの顔を見ることができ,安心して自分の意見を

言ったり,相手の意見をじっくり聞いたりすることができ,話合いをしやすい形態になって

いる。さらに教師自身も机間指導がしやすく,子供一人一人の考えを把握しやすいという利

点がある。

(イ) ペアやグループでの話合い活動の充実

子供たち一人一人により多くの発言の機会をもたせるために,ペアやグループでの話合

い活動は効果的である。話合い活動をさせることで,子供一人一人が自分の考えをしっか

りともとうとする意識が高くなる。また,友達と考えを比較したり認めてもらったりする

ことで,自分の考えに自信がもてるようになり,全体での発表意欲にもつながる。さらに,

自分一人では気付かなかった考えを知ったり,話合いの中で自分の考えをより深めたりす

るなど,多面的・多角的な考えに気付くことにつながる。

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【話合い活動により深まった考え】 【考えを伝え合うときの視点】

【役割演技を活用したペア学習】

イ 「考え,議論する」ための話合いの発問の在り方

授業において発問は,子供が自分との関わりで道徳的価値を理解したり,自己を見つめたり,

物事を多面的・多角的に考えたりするための思考や話合いを深める上で重要である。子供たち

が十分「考え,議論する」ことができるよう,簡潔に答えが出る発問ではなく,様々な考えが

出やすい課題を設定することで,価値について多面的・多角的に考えることができる。

指導方法 「考え,議論する」ための発問(実践例)

読み物教材の登場人物への

自我関与が中心の学習

〇 教材「小川笙船」(よりよく生きる喜び)

もし自分が「小川笙船」であったら,同じ

ような行動ができるだろうか。

〇 教材「のりづけされた詩」(正直・誠実)

なぜ主人公は,先生に打ち明けたのだろうか。

心の中にどんな気持ちがあったのだろうか。

問題解決的な

学習

〇 教材「会話のゆくえ」(善悪の判断・自律・自由と責任)

メッセージのやり取りで,何が問題だったのだろうか。

このような結果にならないために,どうすればよかったのだろうか。

〇 教材「ひとみと厚」(友情・信頼)

「真の友情」とはどんな関係だろうか。

道徳的行為

に関する体

験的な学習

〇 教材「ある日,町の中で」(親切・思いやり)

(疑似体験的な活動を通して)自分がその場にいたら,どのような行動をとるだろ

うか。

一人で考えた時

は,「対他者」の考

えだけしかもてな

かったが,グルー

プでの話合いを通

して,「対社会」の

考えに気付くこと

ができていた。考

えの視野を広げ,

深めている。

考えを伝えるだけの交流にならないよ

う,聞く側に視点をもたせるようにした。

自分の考えと比較しながら聞くことがで

き,話す側もきちんと聞いてもらえたと

いう安心感にもつながった。

実際の問題場面を役割演技で再現す

ることにより,登場人物の葛藤などを

効果的に理解することができた。

金メダルを

手にする羽生

選手の写真

イ ナ バ ウ

ワーをする

羽生選手の

写真

Page 10: 平成30年 教育論文 <研究主題> · 6 研究の内容 (1) 視点1「道徳科の授業において子供たちが主体的に取り組むための指導方法の工夫」

7 授業の実際

(1) 主題名 あなたの立場と私の気持ち 内容項目 B-(11)相互理解・寛容

教材名 「お別れ会」(学研「みんなの道徳6年」)

(2) ねらい

物事を自分本位な見方で捉えてしまいがちであることに気付き,自分と異なる立場の意見でも,

謙虚に聞き,広い心で互いを認めようとする態度を育てる。

(3) 指導に当たって(研究内容との関連)

ア 視点1「道徳科の授業において子供たちが主体的に取り組むための指導方法の工夫」

〇 子供たちが本教材を自分のこととして主体的に考えられるよう,生活体験の関連付けを

図っていく。これまでに子供たちは,約束を破られたり,友達の失敗で嫌な思いをしたりし

て,「許せない」と感じた経験を有している。そのような経験をアンケート形式によって想

起させることで,問題意識をもち主体的に学習に取り組めるようにした。

〇 教材を範読する際,主人公の気持ちに着目しながら聞かせることで,子供たちが道徳的な

問題を発見し,主体的に解決しようとする意欲を引き出すようにした。

イ 視点2「道徳科の授業での考え,議論する場の設定」

〇 道徳的価値を「理解する」ことと「実践できる」ことは違う。子供たちが価値実現の困難

さを感じられるよう,心の二面性を自分の立場から考え,自分の考えはどちらに近いのかを

ネームプレートを使って心のメーターに表現させた。その際,友達と考えや思いを共有した

り,違う考えに接したりすることで,自己の考えを深めることができるよう,話合いの場の

設定をした。

〇 「自分だったら」「どうしてそうするのか」など,深める発問を投げかけることで,出て

きた考えや意見を多面的・多角的に吟味できるようにした。

(4) 授業の実際と実践の成果

指導過程 主な学習活動・教師の発問 教師の具体的な働きかけ

1 アンケート結果を知らせ,本時のめあてを設

定する。

相手の失敗や過ちを気持ちよく許すために

は,どのような心や考え方が必要だろうか。

・ 事前にとったアンケート結果を掲示し,友達の失

敗や過ちを許すことができなかった体験を想起さ

せ,本時のめあてにつなげるようにする。

2 教材文「お別れ会」を読んで,直美の気持ち

を中心に話し合う。

(1) 教材文の中で問題だと思う場面について

話し合う。

☆ よりよい人間関係を築くためには許すことは大切だが,それを実践することはなかなか困難

である相反する気持ちに迫ることで,めあてへの意識付けができた。

☆ 範読の前に,聞く視点を与えたことで,話合いの中心を押さえるまでの流れがスムーズにで

きた。

T:(範読前に主人公の二つの表情の挿絵

を見せて)主人公の直美さんはお話の最

後にはこんな表情になっています。直美

さんの気持ちが分かる部分にサイドラ

インを引きながら聞きましょう。

・ 事前に教材の条件・状況を予告して,

考えさせたい場面に子供たちが気付くよ

うにする。

・ 範読後,場面絵を示しながらサイドラ

イン部分と照らし合わせることで,問題

場面を焦点化し,道徳的な問題を発見し,

主体的に解決しようとする意欲を高める

ことができるようにする。

Page 11: 平成30年 教育論文 <研究主題> · 6 研究の内容 (1) 視点1「道徳科の授業において子供たちが主体的に取り組むための指導方法の工夫」

(2) 育子や幸子,小原さんに不満をぶつけて

いる直美の気持ちを考える。

(3) 自分が直美の立場であれば,「許せない」

か「許せる」かどちらの思いに近いかを考

え,その理由を伝え合う。

(4) 次の日,小原さんたちと接した直美はど

うすればよかったのかを話し合う。

(5) これまでの自分を振り返り,今後大切に

していきたい気持ちについて考える。

T:次の日,小原さんたちに不満をぶつけた直美

さんはどんな気持ちだっただろうか。

T:自分が直美だったら,友達を許せるでしょう

か。それとも許せないでしょうか。

・ 直美が家族でのド

ライブにとても行き

たいが,小原さんの

ことを思い,お別れ

会の約束を優先する

ことを決断したこと

を押さえる。

ワークシートに記入

直美の気持ちになって自分の立場をじっく

り考えさせる時間をとる。

黒板の心のメーターにネームプレートをはる

どちらの立場に近いか,自分の考えを可視化

する。

友達と考えを交流する

自分の立場を主張するだけでなく,自分とは異な

る立場があることにも気付けるようにする。

全体で考えを共有する

直美の「もやもやした気持ち」は,「許せな

い心」と「許せる心」という二つの気持ちで揺

れ動いていることを確認する。さらに,二つの

考えを併せもつ直美の心情を円グラフに表し,

心の変容を可視化する。

☆ 「心のメーター」「ネームプレート」を活用することで,子供一人一人がしっかりと自分の考え

をもつことができていた。また,自分の考えと比較しながら,考えの交流をすることができた。

T:このまま直美さんは,気持ちよく小原さんと

お別れ会ができるでしょうか。次の日,直美

さんはどうすればよかったと思いますか。

・ 再度アンケート結果を振り返り,これまで

の自分がどうだったか,これからの自分はど

うしたいかを考える手立てとする。

C:許せないときもあるけど,自分の気持ちをしっ

かり伝えて,相手に理解してもらえるようにし

たい。

C:今までは自分のことだけを考えて,友達に嫌な

思いをさせていたけど,今日学習したことを中

学校での生活に生かしていきたい。

・ めあてを振り返るとともに,アンケート結

果の「許すことができた体験」を示し,実生

活につなげていく。

☆ グループで話し合うことで,自分が気付かなかった考えに気付き,さらに考えを深めること

ができていた。

友達の考え

を聞いてどう

感じたか聞く

視点を示し,

考えの言い合

いにならない

ようにする。

一人→グループ→全体

・ 自分の考えをもたせてから,

グループで話合いをさせる。

・ 再度心情円グラフを示し,直

美の心の変化を可視化する。

Page 12: 平成30年 教育論文 <研究主題> · 6 研究の内容 (1) 視点1「道徳科の授業において子供たちが主体的に取り組むための指導方法の工夫」

(6) 相手の立場を考えて,広い心で許すこと

について教師の説話を聞く。

8 研究の成果と課題

視点1:「道徳科の授業において子供たちが主

体的に取り組むための指導方法の工夫」

視点2:「道徳科の授業での考え,議論する場

の設定」

〇 アンケートを導入時と終末時に活用する

ことにより,価値の自覚化を意識させること

につながった。

〇 範読を聞く視点を与えたり,場面設定を提

示してから読んだりするなどの工夫を行う

ことで,教材への導入がスムーズになった。

〇 ワークシートを活用することにより,子供

たちに考えさせたいことを焦点化すること

ができ,じっくりと考える時間を確保するこ

とができた。

〇 教具(心のメーターや心情円グラフなど)

の工夫は,子供たちの思考を可視化するのに

効果的であった。

〇 学習形態を工夫することで,活発な意見交

換をすることができた。

〇 「考え,議論する」ための発問を精選し,

設定することで,充実した話合い活動をする

ことができた。

〇 ペア学習やグループ学習など,様々な学び

の場を設定することで,一人一人が自分の考

えをもった上で,他者の考えを聞く場面を多

くもつことができた。

〇 聞き合いの視点をもたせることで,自分の

考えと比較しながら聞いたり,自分の考えを

客観的に見つめ,深めたりするのに効果的で

あった。

● 自己を見つめ,自分のこととして考えさせ

るため,価値の困難さに気付かせる手立てが

必要である。

● 葛藤場面を意図的に設定し,揺さぶりの発

問や切り返しの発問など,子供たち自身が

「自分だったら」と考えられるようにしてい

きたい。

● 1 単位時間の中で気持ちの変容を実感で

きる手立てが必要である。

● 少人数における多様な考えが出る手立て

や,終末時に価値の自覚化に迫れるような話

合いの工夫がまだまだ必要である。

● グループでの話合い時に,意見をまとめる

のか,まとめなくてもよいのか,事前の取り

決めが必要である。

● グループでの話合い時に,同じような考え

が出た際の深め方をどうするのか,教師側の

関わり方の研究が必要である。

9 終わりに

今回の研究を通して,「考え,議論する」道徳の難しさを改めて感じた。少人数においてどのよう

に話合い活動を充実させるのか,価値の自覚化に迫るにはどのような手立てをとればよいか,研究

を深めれば深めるほど「道徳」という教科の大切さを感じた。だからこそ,より深い教材研究の大

切さ,必要性を感じることができた。

今後も,子供たちが活発に意見交換を行い,よりよく「考え,議論する」力が高まるよう,子供

の心に響く道徳科の授業を目指してさらに研究を深めていきたい。

・ 子供たちの温かい言葉から救われた教師の

体験を話すことで,自分たちにも広い心で接

することができた体験を知り,温かな雰囲気

で学習が終われるようにする。