30巻03号 p040 044 特集10 - jst

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BEMS BEMS BOFD BEMS FM FM BEMS 4 はじめに 建物にかかわるコストをライフサイクルにわたり適正 に管理するためには, 管理レベルに見合う必要な情報を, 長期間にわたり収集・蓄積し,分析・評価し,建物の運 用状況を把握し改善することが重要である。近年では, ライフスタイルの変化に伴い, 居住者が建物に求める要 求が多種多様化し, 短期間で激しく変化するようになっ た。建物やシステム,管理レベルも,その変化にフレキ シブルに対応できることが求められており, そのために はビルマネジメントシステム(BMS)を構築し,その支 援を受けることは有効な施策の一つであるといえる。 4 BMS の目的とエネルギー管理 BMS の目的は, ビルの管理コストを低減し, かつ管 理業務を高品質化することにある。 これまでビルの維持 管理は,各種点検,警報や故障の管理,請求書発行のた めの計量を行う業務などが中心であったが, 近年では地 球環境保護に対する意識の向上や, 改正省エネ法への対 応から, ライフサイクルにわたり建物のエネルギー消費 を削減することが必要になってきた。特に,ビルのライ フサイクルエネルギーの大部分を運用フェーズが占めて いること,中~小規模ビルにおいて,ビル管理,特にエネ ルギー管理に対する関心がこれまで薄かったことを考慮す ると, 小規模ビルを含むビル群の運用フェーズにおける エネルギーマネジメントが注目されてきているといえる。 ビルのライフサイクルエネルギーマネジメント 建物のライフサイクルマネジメントサイクル 知見・ノウハウの蓄積と情報提供 特集 情報化グローバル化社会における電気設備の方向性 +* ビルマネジメントシステム Building Management System わた なべ たけし キーワードBEMSLCEM,エネルギー管理,シミュレーション NTT ファシリティーズ研究開発本部環境・エネルギー部門 +31* . 月生まれ,岐阜県出身。+33/ 年名古屋大学大学院工学 研究科建築学専攻修了。同年NTT ファシリティーズ入社。現職。 電気設備学会誌 ,*+* - 40 220

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Page 1: 30巻03号 P040 044 特集10 - JST

BEMS

BEMS BOFDBEMSFM

FM

BEMS

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14 はじめに

建物にかかわるコストをライフサイクルにわたり適正

に管理するためには,管理レベルに見合う必要な情報を,

長期間にわたり収集・蓄積し,分析・評価し,建物の運

用状況を把握し改善することが重要である。近年では,

ライフスタイルの変化に伴い,居住者が建物に求める要

求が多種多様化し,短期間で激しく変化するようになっ

た。建物やシステム,管理レベルも,その変化にフレキ

シブルに対応できることが求められており,そのために

はビルマネジメントシステム(BMS)を構築し,その支

援を受けることは有効な施策の一つであるといえる。

24 BMSの目的とエネルギー管理

BMSの目的は,ビルの管理コストを低減し,かつ管

理業務を高品質化することにある。これまでビルの維持

管理は,各種点検,警報や故障の管理,請求書発行のた

めの計量を行う業務などが中心であったが,近年では地

球環境保護に対する意識の向上や,改正省エネ法への対

応から,ライフサイクルにわたり建物のエネルギー消費

を削減することが必要になってきた。特に,ビルのライ

フサイクルエネルギーの大部分を運用フェーズが占めて

いること,中~小規模ビルにおいて,ビル管理,特にエネ

ルギー管理に対する関心がこれまで薄かったことを考慮す

ると,小規模ビルを含むビル群の運用フェーズにおける

エネルギーマネジメントが注目されてきているといえる。

ビルのライフサイクルエネルギーマネジメント

図�1 建物のライフサイクルマネジメントサイクル

図�2 知見・ノウハウの蓄積と情報提供

特集 情報化・グローバル化社会における電気設備の方向性 +*

ビルマネジメントシステムBuilding Management System

渡 邊 剛わた なべ たけし

キーワード:BEMS,LCEM,エネルギー管理,シミュレーション

*�NTTファシリティーズ研究開発本部環境・エネルギー部門+31*年 .月生まれ,岐阜県出身。+33/年名古屋大学大学院工学

研究科建築学専攻修了。同年�NTTファシリティーズ入社。現職。

電気設備学会誌 ,*+*年 -月� 40 �220

Page 2: 30巻03号 P040 044 特集10 - JST

200V

Exaquantum

OPC

CIMX

Big Fix

GW

GW

SavicBEMS

EHP

BACnet/WS oBIX

oBIX

CSV

CSV

WANWeb

ILON

GW

BACnet/WS

BACnet/WS

BACnet/I P

GHP

PCBX-Office

Live E

N-MAST

EHP

LONWORKS

LonMarkJapan Cisco

HDPLC

HDPLC

HDPLC

DU

DU

DU

100V

CIMX

CT

空調制御�

(LCEM)を適切に実施するためには,企画~運用に至

る各フェーズで,建物に関する情報収集と評価を行い,

建物を最適化するマネジメントサイクル(図�1)を成立させ,そこから得られた知見やノウハウを蓄積・分類し,

その成果を技術者や関連部門へ情報提供できること(図�2)が重要である。これらを効率的に実施することは重

要であり,情報をまとめて管理でき,専門技術者を集中

的に配置できる遠隔支援型の管理は有効な施策の一つで

あるといえる。遠隔管理の利点を下記に示す。

�高スキルの専門技術者を集中的に配置できる。�複数の建物データを共有し比較評価できる。�評価レベルを高均一化できる。�管理方法やノウハウを一元管理と継承ができる。

34 BMSの構成とデータベースの構築

-4+ ITとの連携と標準化の動向

近年では,ITや IPネットワークの発展が著しく,ビ

ル設備の機器でもコンピュータを搭載し,IPネット

ワークへ接続できるようになった。それに伴い,これま

でメーカや機種,サービスにより異なっていた通信プロ

トコルの標準化が進んできた。技術的にはビルの内外を

問わず,共通のネットワークやデータベースの利用が可

能であり,今後は,その仕組みを活用したサービスが普

及すると考えられる。

プロトコル標準化の事例として,様々な機器やシステ

ムの情報を統合し ITによる省エネルギーを目指した

「グリーン東大工学部プロジェクト」(代表:江崎 浩

東京大学教授)がある+)。このプロジェクトでは,大学,

官庁・自治体,技術規格標準化団体,設計事務所,建設

会社,ソフトウエア・ハードウエアベンダ,SE,通信

業者など建物に関する各種団体や企業が参加し,データ

取得方法や表現形式の標準化や建物運用管理効率の向上,

省エネルギー実現のモデルケース確立に取り組んでいる。

現在は,東京大学工学部二号館をモデルケースとし,図

�3に示すように管理対象の設備機器をWebサービス

(BACnet/WS, oBIX(Open Building Information

Exchange))で接続し,監視制御する実験を行ってきた。

現在は,中国やメキシコなど世界各地との連携により標

準化活動を推進している。

-4, BMSの構成

一般にBMSでは,設置されているビル設備の情報は

収集管理しているが, IT装置やFMの情報,他ビルの

情報については別システムであるケースが多い。一方で,

これらを統括した報告書の作成やマネジメントを求めら

れる場合が多く,現状では図�4のようにビル管理者がデータを収集し,解析処理している場合が多い。そのた

め,作業効率が悪く,サービス品質もビル管理者のスキ

ルに依存する。

そこで,図�5に示すように,BMSをデータセンタ

に,各ビルに様々な代表的なプロトコルをWebサービ

図�3 東大工学部二号館のシステム構成

J. IEIE Jpn. Vol. -* No. - � 41 �221

Page 3: 30巻03号 P040 044 特集10 - JST

FM

IT

BMS

Web

BMS

G/W

IT

FM

BMS

②BMS

①BMS

BMS

BAS

BEMS

BMS

I/F

図�4 現在のビルマネジメント

図�5 将来のビルマネジメント

スに変換する「管理用ゲートウエイ(G/W)」を設置し,

一元的にデータを収集管理することで,ビルマネジメン

ト業務(エネルギー管理業務を含む)が大幅に効率化され

ると考えられる。また,FM情報などほかのデータベース

と連携し,データを解析処理するアプリケーションを

データセンタにて構築することで,ビル管理者のスキルに

依存しないマネジメント品質の高均一化を図ることも可

能である。また,BMSを IPネットワーク上に設置す

ることで,ビル管理者はどこからでも,サーバにアクセス

することができるため,利便性が向上すると考えられる。

-4- データベースの構築

当社では,Microsoft SQL Serverを用いてBMS用

のデータベース(DB)を構築した。今年度は,ビルに設

置された BEMSから生成される定時情報の CSVファ

イルをFTPでDBに取り込む方式とした。DBからは,

「ビル名」「階」「部屋」「空調エリア」「空調系統」など

からエネルギー管理に必要なデータを抽出できる構成と

した。来年度以降の開発で,リアルタイムデータを

Webサービスで収集する機能を開発し,追加する予定

である。

-4. データ解析

収集したデータは,図�6に示すように三つの利用方

図�6 BMSデータの利用

表�1 遠隔管理で提供する情報とメリットの例

法が考えられる。データの解析の目的に応じ,収集し

たデータの加工と解析方法を使い分けする必要がある。

特に�に示すようにリアルタイムデータを利用する場合は,システムが非定常な状態のデータを含むため注意が

必要である。

-4/ 現状の BMSで提供している情報

BMSから下記に示すような情報を管理者に提供して

いる。各情報は建物管理運営業務における建築設備にか

かわる業務を主にサポートすることを目的としており下

記のような効果を目指している。また,情報提供するこ

とによるメリットを表�1に示す。�光熱水費や設備保全費の維持管理費の削減

メニュー オーナ ビル管理者

設備台帳管理

資産管理(購入時期・耐用年数・数量の把握など)ができる。

機器の仕様 / 台数把握など膨大な情報を一元管理できる。故障時にも問合せ先が明確で迅速な対応が可能である。

トラブル対応,修繕履歴管理

入居者クレーム,機器故障の件数・修繕費のデータを設備更新判断の支援情報として利用できる。

類似発生のトラブルに対して,過去のトラブル対応方法の検索をすることでスムーズな対処ができる。

稼働実績管理

設備の運転時間や投入回数のデータを,設備更新判断の支援として利用できる。

稼働状況に応じた保守作業が可能となる。予防保全が可能となる。更新の判断材料となる。

警報データ管理

ビル全体の設備の運転状況が把握できる。

警報頻度を把握し,重点整備機器の判断や経年劣化の察知が可能になり機器メンテや更新計画立案を支援できる。

集中検針料金計算

課金業務の元データとなる。各テナントへの請求業務負担を大きく削減できる。計算ミスの低減。

自動収集,自動計算できるため,負担軽減となる。

電気設備学会誌 ,*+*年 -月� 42 �222

Page 4: 30巻03号 P040 044 特集10 - JST

検索→一覧�

機器詳細�

NTTファシリティーズ�本社�A�

P

(データセンタ)�

集約DB�集中管理�

※社内LAN利用�

本社集計後の�報告・情報提供�

環境DBへ提供�

電子�データ�

報告書�

報告書�

請求書�

請求書�

請求書�電子データ�

請求書電子データ�

各種集計・分析�

基本DB管理�(各種辞書,ベンチマーク値,料金単金等)�

データアップロード・�入力�

第二種エネルギー管理指定�工場における管理状況報告�

経済産業省へ�

NTTファシリティーズ県域担当�

NTTファシリティーズ�本社�

リアルタイムな�情報提供�

Webサーバ�

社内�LAN

社内�LAN

診断結果� 建物設備概要�

使用量トレンド� 使用量ベンチマーク�

省エネアイテム�

�設備点検作業や報告書作成業務の効率化�保守作業レベルや顧客満足度の向上(1) 設備台帳管理(図�7)�設備機器を設備体系別に分類し,保守管理上必要な情報や機器情報などをDB化する

�検索機能により,目的の機器抽出が容易となる(2) トラブル・修繕対応履歴

�点検,クレームなど日常で発生した設備のトラブル対応や部品交換 /修繕の情報を管理する

�過去に発生したトラブルの対処方法を呼び出し,その解決方法を呼び出すことが可能である

(3) 稼働実績管理・保全スケジュール管理(図�8)�定期点検の年間作業予定を管理し,登録された予定月を元に月間作業予定表を作成する

�作業実施後,作業完了情報を入力し作業状況,実績工数を管理する

(4) 集中検診

�メータを自動検針し料金を算出する

図�7 設備台帳管理

図�8 稼働実績管理・保全スケジュール管理

(5) 光熱水管理システム(図�9)�全国約 +万箇所の電気・水道・ガス・油の使用量・

使用料金を一元管理し建物の評価する

(6) 報告書の作成(図�+*�++�+,)

�設備概要,エネルギー使用量のトレンドやベンチマーク,診断結果などを記述する

�省エネルギー法の報告のための報告書を作成する(7) 数値解析シミュレーションによる解析

(図�+-�+.)

�シミュレーションにより収集データのベースラインを定量化し,フォルト検知や運転改善方法の検討を

実施

図�9 光熱水管理システム

図�+* 報告書の例�

図�++ 報告書の例�

J. IEIE Jpn. Vol. -* No. - � 43 �223

Page 5: 30巻03号 P040 044 特集10 - JST

0 8 16 0 8 16 0 8 16 0 8 16 0 8 160

10

20

30

40

50

9/10 9/11 9/12 9/13 9/14h

kWh

BMS

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 1000.000.200.400.600.801.001.201.40

BMS

CO

P

図�+, 報告書の例�

図�+- 数値解析シミュレーションの利用例�

図�+. 数値解析シミュレーションの利用例�

44 おわりに

BMSと ITとの連携は,今後も促進すると考えられ,

建物管理業務の高均一化が期待できる遠隔管理はより普

及すると考えられる。必要なデータを「収集管理するた

めの仕組み」は整備され,標準化が進むと考えられる。

今後は,収集されたデータを「解析」し「具体的な改

善施策」につなぐことができる仕組みを検討する必要が

あると考えられる。

参 考 文 献+) http://www4gutp4jp/index4html

,) Excelによる空調システムシミュレーション(LCEMツール

ver-利用解説),�公共建築協会:,**2

建築物等の雷保護 Q & A-JIS A .,*+ � ,**-対応-

IEIEJ�A�***+

JIS A .,*+は,多くの法令等に引用されている規格であ

り,,**-年 1月に改正された。その内容は,雷保護の設計,

施工等に関する国際的な技術動向も十分にふまえたものと

なっている。しかし,同規格に関し,これまで多くの質問が

寄せられていた。そこで,避雷設備に関する知見を有するメ

ンバによって,質問の多かった約 +**問を厳選し,平易に解

説した回答を作成したものであり, JIS A .,*+の具体的な

運用に当たっては必携の書である。

定 価 + ,/*円(本体価格 + +3*円),送料別体 裁 A /判 +/.ページ申込方法 本誌に綴込みの『学会出版物一覧・FAX注文書』に必要事項をご記入の上,下記へ FAXでお

申込みください。申 込 先 社団法人電気設備学会

〒++-�**-- 東京都文京区本郷 +�+,�/ TEL:*-�/2*/�--1/,FAX:*-�/2*/�-,0/

電気設備学会誌 ,*+*年 -月� 44 �224