34 - toppan.co.jp · 僕たちのプロダクトをきっかけ...

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視点を変え、 モノと空間と環境を考える 『キッチンの積み木』(2010) CREATOR'S FILE 1 more trees 使使20 photo / 太田拓実 Takumi Ota biz.toppan.co.jp/gainfo クリエーターズファイル 第2話 問いを立て、解決していく 幅広い分野で独創的なクリエイティブを繰り広げるトラフ建築設計事務所の鈴野浩一氏のインタ ビュー。第2話では彼らのモノ作りの極意とも呼べるような方法論について、貴重なお話しをお聞き した。 ©2012 TOPPAN/GAC GAinfo. / CREATOR'S FILE vol.68 Mar.21, 2012 vol.68 Mar.21, 2012 34 No. 鈴野 浩一 SUZUNO KOICHI

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Page 1: 34 - toppan.co.jp · 僕たちのプロダクトをきっかけ え方が変わるものはいいなと思っています。 ... クトデザイナーの方が進めているプロジェクト

視点を変え、モノと空間と環境を考える

『キッチンの積み木』(2010)

CREATOR'S FILE

1

―視点をずらすという意味では、『キッチンの積

み木』もそういう考えから生まれた代表的なもの

ですよね?

 

そうですね。これは「m

ore trees

」という森林

保全団体から、間伐材を使ったプロダクト制作を

依頼された時に生まれたものです。僕には子ども

がいるんですが、夜遅くに家に帰ってくるとダイ

ニングテーブルの上に積み木がバラバラと置かれ

ていました。その様子を見て、塩こしょうの容器

やしょう油差しなどがある風景が、建築的になっ

たら面白いかなと思ったことがアイデアのきっか

けでした。

 

そこで、ダイニングテーブルを敷地として捉

え、見てみることにしました。そうすると、キッ

チンツールって、デザインがバラバラで統一感が

ないことに気付きました。だからといってデザイ

ンをきっちり合わせるというのも面白くない。モ

ノは色々と豊かなほうが楽しいという気持ちがあ

り、その時に積み木というモチーフが挙がりまし

た。カタチや色はバラバラだけど、木という素材

感やサイズが揃っているので、統一感も豊かさも

両立できるかなと思いました。ダイニングテーブ

ルの上なのに積み木で遊んでる感じや、塩の家と

かつま楊枝の家みたいに街として見える感じが面

白いのではないかと。

 

プレゼント用にしたいという条件もあったの

で、結婚式の引き出物としてプレゼントして「子

どもはまだ早いです」と言われたら、実はただの

積み木ではなく、開けてみたら今日から使える新

婚さんツールになっているみたいなストーリーを

考えたりもしました。

 

これはパッケージされている時には穴などが一

切見えていないので、パッと見は本当に子どもの

オモチャの積み木にしか見えないんですが、実は

そうじゃないという面白さがあるんですね。ダイ

ニングテーブルの風景が変われば、毎日の風景も

変わり、キッチンの積み木をきっかけに会話が生

まれたりして、コミュニケーションツールにもな

るんじゃないかなと考えています。これもカタチ

と機能の組み合わせをいろいろ考え、スタディを

重ねました。延べで

20個は作ったんじゃないか

な。穴の空いた三角の積み木はパスタメジャーに

なっているんですよ。

photo / 太田拓実 Takumi Ota

b i z . t o p p a n . c o . j p / g a i n f o

クリエーターズファイル

第 2 話 「問いを立て、解決していく」幅広い分野で独創的なクリエイティブを繰り広げるトラフ建築設計事務所の鈴野浩一氏のインタビュー。第2話では彼らのモノ作りの極意とも呼べるような方法論について、貴重なお話しをお聞きした。

© 2 0 12 T O P PA N / G A CG A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 6 8 M a r. 2 1 , 2 0 12

vol.68 Mar.21, 2012

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No.鈴 野 浩 一S U Z U N O K O I C H I

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『ガリバーテーブル』(2011)

2

―『空気の器』ではワークショップも積極的に実

施されたと伺っています。『キッチンの積み木』

も、そのものだけで完結するのではなく、その後

のコミュニケーションなど、後に繋がることを意

識されているのでしょうか?

 

その通りです。僕たちのプロダクトをきっかけ

に色々なコミュニケーションが生まれたらいいな

と思いますね。一方的なものって押しつけになっ

てしまうけれど、余白があるもの、人によって捉

え方が変わるものはいいなと思っています。

 

去年の夏から秋にかけて六本木の東京ミッド

タウンで開催された「Tokyo M

idtown D

ESIGN

TOU

CH

」というデザインのイベントに『ガリバー

テーブル』という作品を出展しました。これは敷

地の起伏に合わせて脚の長さを変えた長さ

50メー

トルのテーブルなんですが、地面からの高さに

よって人とテーブルの関係性が変わっていくんで

す。子ども達は遊具として捉えて遊んでいたりす

るし、ベンチとして腰掛けて休憩している人もい

れば、テーブルとしてお弁当を広げている人もい

たり、さまざまな人が各々で使い方を見出してい

る風景を見るのがとても楽しかったです。

 

昔から公園が好きなんですよね。遊具が与えら

れている公園より、ドラえもんに出てくるよう

な、ただ土管が置いてあるような公園のほうがさ

らに好きですね。代々木公園のように、色々なと

ころで色々なことが行われ、それを受け入れる

キャパシティや奥の深さ、奥行きのある風景を作

りたいですね。建築をはじめ、モノそのものを見

せたいわけではないんです。なるべく最小限のこ

photo / 吉次史成 Fuminari Yoshitsugu

第 2 話鈴 野 浩 一no.34

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『木のポケット』(2011)

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とで色々な人の行動やそれらを含んだ風景がいか

に変わるか、最大限の効果を生み出すかというよ

うなことに興味があるんです。

―『木のポケット』についてお聞かせください。

視点をずらすというか、目の錯覚までも楽しめる

ような不思議なものになっていると思います。

『木のポケット』は酒井俊彦さんというプロダ

クトデザイナーの方が進めているプロジェクト

「少しいいこと+プロダクト」のために制作した

ものです。使われなくなった自動車用のシートレ

ザーや、除伐材などを有効活用しようというもの

で、僕たちが依頼された時の条件は木を使うこと

と、iPhone置きを作ることの2つでした。

そもそもそういうものが必要なのかどうかという

検討から始めました。僕自身も使用していて、i

Phoneをどこに置いたかわからなくなってし

まうこともあり、あると便利だと実感しました。

 

最初は普通に入れられる箱を作ってみたのです

が、スタディを重ねていく中で、どんどんiPh

oneに合わせて薄くなっていきました。二次元

と三次元の中間みたいなことをやろうとしたので

す。何度やっても倒れてしまい、角度を変えてい

くつも模型作って実験を繰り返して、

50個くらい

作ったら、結局はただの箱に行き着いてしまい、

もうダメだと思いました。目指すカタチでは、下

に重りを入れないと自立しないとわかったので中

に空間を作り、重りを入れ込もうとしましたが、

体積の関係であまり彫り込めず苦戦しました。酒

井さんからは影ができるのだからその影のカタチ

の鉄板を付け、支えたらとまで言われたんです

が、自立しないのは建築家としては恥ずかしいこ

とですから、そこにはこだわりましたね。

 

座ざ

彫ぼ

り部分にiPhoneを差し込むことで、

iPhone自体を重りとすることを思いつき、

安定し自立するようにできました。木目の方向も

意図的に入れ子細工のようになるようにして、二

次元の重なりで三次元らしさを強調するようにし

ています。見る角度によっても風景が変わる、面

白いプロダクトになったのではないかと思ってい

ます。

―建築、プロダクト、その他の分野も含めて、仕

事を進めていく上で、どのようなことに気をつけ

ていますか?

「問いを立てる」ということです。クライアン

トからの依頼内容というのは、大切な条件のひと

つですが、絶対ではないと思っています。クライ

アントも自分の想像以上のものが見たいからこそ

僕たちのようなプロに頼もうとしている。そこ

で、僕たちは「問いを立てる」ということに大半

の時間を使っています。ここで大事なのはクライ

アントの言っていることは問いでないというこ

と。あくまで問いを設定する上での条件のひとつ

なんです。

 

良い問いを立てるには、条件をとことん出すこ

とが大事ですね。そして、その中で矛盾している

条件も含めて探していきます。例えば、敷地いっ

ぱいに家を建てたいけれど、車を停めるスペース

も欲しいとか、すごく狭い敷地なんだけど広く使

いたいとか、そういう矛盾した条件をアイデアや

デザインでどちらも一挙に解決できるのが良い解

答になるわけです。

 

問いを作り、考えていかないと、カタチのため

のカタチ、デザインのためのデザインになってし

まうと思うんです。それでは何かを解決するため

のデザインにならないし、結局長続きしない、永

く愛されるモノにはならないと思うんです。その

プロジェクトで本質的なこととは何か、このプロ

ジェクトだからこそできることは何なのかという

ことを追求していけば、自ずと解答は面白く、且

つ、唯一のモノという意味でもユニークになるは

ずです。

 

どのようなことを問いにするのか、その問いが

photo / 林雅之 Masayuki Hayashi

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良いのか悪いのかどうか、それがとても重要です

し、その問いをちょっと視点をずらして、デザイ

ンやアイデアで解答したら一石五鳥くらいの解決

になっているというのが理想的だと思っていま

す。と、言葉にすると簡単なようですけど、毎回

毎回手探りですし、ほとんどの時間は辛くて大変

なんですけどね。アイデアを出してスタディを重

ね検証していくことの繰り返しの毎日です。

―今後のお仕事について教えてください。

『空気の器』は僕たちが積極的に色々なところ

で展覧会を仕掛けたりして、面白い展開を見せて

きていると思います。去年のクリスマスから今年

のお正月にかけて、伊勢丹のショーウィンドウや

館内のステージの展示を『空気の器』で装飾しま

した。特別に巨大な紅白のバージョンを制作し、

『空気の器』のバリエーションも増えています。

 

去年、「SHIBAURA 

HOUSE」で子

ども達とワークショップをやった時もすごく楽し

かったです。スタンプでオリジナルの『空気の

器』を作れるセットを用意したのですが、それが

発展して『紙のスタンプキット』というものも生

まれました。これはパッケージの中にTORAF

Uの文字が隠れているんですよ。デザインは一緒

にオフィスをシェアしてるデザイナーの方にお願

いしました。

 

それから、今の時代に即した新しい仏壇仏具を

考えていたり、ニトリやIKEAではなく、デザ

イナーズ家具でもない、新しい家具を作ろうとい

うプロジェクトも動いています。

左上・左下:ワークショップ in SHIBAURA HOUSE(2011)/右上:スパイラルでの展示風景(2010)/右下:新年ディスプレイ in ISETAN(2012)

photo / 吉次史成 Fuminari Yoshitsugu

第 2 話鈴 野 浩 一no.34

© 2 0 12 T O P PA N / G A CG A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 6 8 M a r. 2 1 , 2 0 12

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interview:2011. 12

C R E ATO R ' S F I L E vol.682012年3月21日発行

発行・企画・編集

凸版印刷株式会社情報コミュニケーション事業本部

グラフィック・アーツ・センター

〒112-8531東京都文京区水道1-3-3TEL.03-5840-4058http://biz.toppan.co.jp/gainfo

取材:榊原 奏音 東泉 沙也夏 齊藤 章弘

   野崎 優彦 肥田野 聖子

撮影:松浦 広明

文 :野崎 優彦

編集:榊原 奏音 野崎 優彦 

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『トラフの小さな都市計画』平凡社(2012)

第 2 話鈴 野 浩 一no.34

© 2 0 12 T O P PA N / G A CG A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 6 8 M a r. 2 1 , 2 0 12

 

かみの工作所とのコラボレーションも、トク

ショクシコウ展、ネンチャクシコウ展に続く第3

弾であるシャシンシコウ展が近々始まります。

―さまざまな領域の仕事を手掛けられています

が、今後手掛けてみたい分野はありますか? 

 

僕たちの核である建築の分野で言うと、将来的

には幼稚園などを手掛けてみたいですね。建築と

遊具、家具、ランドスケープが一体になったよう

な建物が作れたら面白いだろうなと思います。

―では最後に、4月に平凡社より刊行予定の家を

伝える本シリーズ『トラフの小さな都市計画』に

ついてひと言お願いします。

 

平凡社から出版される、家を伝えるシリーズ

『くうねるところにすむところ』の29冊目という

ことで、プロデューサーの真まかべともはる

壁智治さんからお

話をいただいたのがきっかけです。『くうねると

ころにすむところ』は、14歳くらいの子ども達

に向けて、著名な建築家がさまざまな切り口から

「家」を伝える絵本シリーズです。伊いとうとよお

東豊雄さん

や妹せじまかずよ

島和世さん、青木淳さんなど早々たるメン

バーが参加されています。中の絵も、文章も全て

手描きだったり、皆さんすごい力を入れられてい

るんですよ。

 

この絵本はクライアントの方などに渡すと一番

喜ばれるらしいです。専門用語も少なく、考え方

が柔らかく、伝わりやすからですかね。トラフら

しさが出せるといいなと思っています。 

 

この絵本を作りながら、改めて子どもの頃から

持っていた興味や好奇心は、今になっても変わら

ないことに気付きました。子どもの頃に持ってい

た興味や好奇心で街を見ると、建築の専門知識が

なくても発想次第で街がもっと楽しく見えてきた

り、豊かになると思うんです。街がミュージアム

になったり、植物園になったり。そんなきっかけ

を伝えられたらいいなと考えています。

 

共同作業が多い僕たちらしく、イラストもイラ

ストレーターさんにお願いしました。「トラフ

犬」というキャラクターが登場したり、自分たち

が思っている以上のものが見られるのが楽しかっ

たです。

 

僕たちも楽しんで作ることができたので、是非

皆さんにも楽しんで読んでもらえると嬉しいで

す。どうぞよろしくお願いします。