3.6 torres strait and great barrier reef, australia ·...

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3.6 Torres Strait and Great Barrier R 三門茂子・井原僚子・岡本美紀 1.概要 東京海洋大学研究練習船海鷹丸は第 12 次航 海(水産専攻科遠洋航海)において、Australia 近海の REEFREP 対象区域(Torres Strait および Great Barrier Reef)を航行したので、同海域 航行時の概略を報告する。 1.1 REEFREP について Torres Strait(141°45 E~144°00 E の間)およ Great Barrier Reef 水域(22°00 S 以北)が対 象水域である。この範囲内には 39 の通報ポイン トがあり、通報地点通過時、入出域時、入出港時 と通報パターンによって 3 種類に分けられる。 REEFREP 対象船舶は以下のとおりである。 全長 50m以上の全船舶 大きさに関わらず INF Code が適用される石 油タンカー、ケミカル運搬船、液化ガス運 搬船 曳航または押航に従事している船舶が曳航 船、押航船または被曳航船、被押航船の場 合、上記の②または、③に規定の船舶の曳 航の長さ、押航船の船首から曳航物体の後 尾まで寸法が 150m 以上の船舶 1.2 REEF パイロット Great Barrier Reef は世界最大の珊瑚礁で、世 界遺産にも指定されている。しかし、同 Reef 内 は船舶の主要航路である。そこで、IMO はこの自 然を保護するために、同水域の水先人の乗船を勧 告した。政府公認の免状を所有するパイロット乗 船が義務づけられている船舶は以下のとおりで ある。 全長 70m 以上の全船舶 大きさに関わらず載貨状態にある油タンカ ー、ケミカルおよび液化ガス運搬船 本船では 1月 2日 15:25(SMT)に Torres Strait の東 Booby Point にてパイロットが乗船し、1 月 3 日 18:40(SMT)に Cape York 沖で下船した。 fig3.6- 1 パイロット J.Edgcome-Lucas 氏とパイ fig3.6- 2 パイロット使用料の領収書 2.通報ポイントについて REEFREP 内には 39 の通報ポイントがあり、 船はそのうち 12 箇所で通報を行った (cf.table3.6-1、 fig3.6-9) 。1 月 2 日に AUSREP 域内に入り、14:03 に最初の通報を行った。そ れ以降の通報地点と通報内容、使用チャンネル は以下のとおりである。 fig3.6- 3 通報ポイント(海図より)

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Page 1: 3.6 Torres Strait and Great Barrier Reef, Australia · REEFREP内には39の通報ポイントがあり、本 船はそのうち12箇所で通報を行った (cf.table3.6-1、fig3.6-9)。1月2日にAUSREP

3.6 Torres Strait and Great Barrier Reef, Australia

三門茂子・井原僚子・岡本美紀

1.概要

東京海洋大学研究練習船海鷹丸は第 12 次航

海(水産専攻科遠洋航海)において、Australia

近海の REEFREP 対象区域(Torres Strait および

Great Barrier Reef)を航行したので、同海域

航行時の概略を報告する。

1.1 REEFREP について

Torres Strait(141°45’E~144°00’E の間)およ

び Great Barrier Reef 水域(22°00’S 以北)が対

象水域である。この範囲内には 39 の通報ポイン

トがあり、通報地点通過時、入出域時、入出港時

と通報パターンによって 3 種類に分けられる。

REEFREP 対象船舶は以下のとおりである。

① 全長 50m以上の全船舶

② 大きさに関わらずINF Codeが適用される石

油タンカー、ケミカル運搬船、液化ガス運

搬船

③ 曳航または押航に従事している船舶が曳航

船、押航船または被曳航船、被押航船の場

合、上記の②または、③に規定の船舶の曳

航の長さ、押航船の船首から曳航物体の後

尾まで寸法が 150m 以上の船舶

1.2 REEF パイロット

Great Barrier Reef は世界最大の珊瑚礁で、世

界遺産にも指定されている。しかし、同 Reef 内

は船舶の主要航路である。そこで、IMO はこの自

然を保護するために、同水域の水先人の乗船を勧

告した。政府公認の免状を所有するパイロット乗

船が義務づけられている船舶は以下のとおりで

ある。

① 全長 70m 以上の全船舶

② 大きさに関わらず載貨状態にある油タンカ

ー、ケミカルおよび液化ガス運搬船

本船では 1月 2日 15:25(SMT)に Torres Strait

の東 Booby Point にてパイロットが乗船し、1 月

3日 18:40(SMT)に Cape York 沖で下船した。

fig3.6- 1 パイロット J.Edgcome-Lucas 氏とパイロットボート

fig3.6- 2 パイロット使用料の領収書

2.通報ポイントについて

REEFREP 内には 39 の通報ポイントがあり、本

船 は そ の う ち 12 箇 所 で 通 報 を 行 っ た

(cf.table3.6-1、fig3.6-9)。1月2日にAUSREP

域内に入り、14:03 に最初の通報を行った。そ

れ以降の通報地点と通報内容、使用チャンネル

は以下のとおりである。

fig3.6- 3 通報ポイント(海図より)

Page 2: 3.6 Torres Strait and Great Barrier Reef, Australia · REEFREP内には39の通報ポイントがあり、本 船はそのうち12箇所で通報を行った (cf.table3.6-1、fig3.6-9)。1月2日にAUSREP

table3.6- 1 通報内容と航行状況

Time Report point/event

(D)Booby

(10-37.54S 141-50.87E) ch19

1/2

14:03

船名、コールサイン、現在位置、ETA、

コンディション、船速の指定

15:25 パイロット乗船

15:30 コンテナ船(反航)

(G)Alpha South

(10-37.62S 142-31.30E) ch19

17:12

船速、Co、通過報告、21:00 次通報

17:15 コンテナ船(反航)

19:30 灯台 Cairncross

20:53 運搬船(同航)

(I)Hannibal

(11-34.31S 142-58.24E) ch5

21:04

船速、Co、通過報告、0:05 次通報、周辺

船舶状況

21:11 20:53 の船舶に通信、自船が左舷側から

追い越す

21:58 漁船(反航)

22:27 灯台 Clerke I

22:51 灯台 Moody Reef

23:15 灯台 Inset Reef

23:15 灯台 Piper Reef

(J)Inset

(12-16S 143-16E) ch18

1/3

0:05

船速、Co、7:05:次通報、周辺船舶状況

0:15 灯台 EEL

0:24 灯台 midolo Reef

0:24 灯台 Restorain Rk

1:34 Radar Transfer Beacon(Fl 5s W, R)

1:53 chapman(F15s 18m 9M)

1:55 ブイ(Fl(R),Fl(G))

2:03 Racon(Fl(G))

2:24 Racon(Fl(3) 66s)

2:42 ブイ(Fl(G))

3:10 Temp Bcn (Fl(3) G Gs)

7:15 同航船

7:34 反航船

7:50 (L)Pipon

(14-08.24S 144-30.56E) ch5

船速、Co、12:20 次通報

8:50 インド船舶(反航)2隻

(M)Two Isles

(15-01.19S 145-23.52E) ch19

12:10

船速、Co、14:50 次報告

(O)Gubbins West

(15-43.12S 145-23.112E) ch19

14:50

18:40 パイロット下船予定、Cairns から

の出港状況

16:30 漁船(反航)

16:35 小型横切り船

(P)Grafton Passage

(16-23.22S 145-36.86E) ch20

17:01

下船時間、左舷から下船予定、周辺船舶

状況

17:13 漁船(反航)

17:35 コンテナ船(反航)

17:40 NAVIGATER NEPTUNE

18:41 パイロット下船

21:10 漁船(反航)

(Q)Barnard

(17-41.46S 146-15.79E) ch18

22:45

6:00 次通報、周辺船舶状況

(T)Bowling South

(19-14.90S 147-30.25E) ch19

1/4

6:02

船速、Co、周辺船舶状況

6:24 漁船2隻ドリフト

8:42 同航船

(X)Edward

(20-11.84S 149-14.20E) ch18

12:44

船速、Co、周辺船舶状況

(Z)High Peak

(21-53.56S 150-45.77E) ch18

21:03

船速、Co、12:00AusRep 次通報

3.航海状況

3.1 航路

航路は REEF パイロットが直接チャートに引

き、コースオーダーもパイロットが指示した。

Page 3: 3.6 Torres Strait and Great Barrier Reef, Australia · REEFREP内には39の通報ポイントがあり、本 船はそのうち12箇所で通報を行った (cf.table3.6-1、fig3.6-9)。1月2日にAUSREP

fig3.6- 4 コースラインを自ら引くパイロット

操舵は学生が行ったが、コースのずれは 1°

以内に指定された。パイロットはブリッジに常

在していたが、コースが一定時間以上変わらな

いときには、海図に“PCP(Please Call Pilot)”

と書き、その地点に着くまで休憩していた。

fig3.6- 5 海図に書かれた PCP

航路上での変針は主に灯台やブイを利用し、

レーダでそれらを確認することもできた。主要

な Reef および岬等には、方位によって灯色の

異なる灯台が設置されており、変針の際に利用

された。

fig3.6- 6 レーダに映し出されたレーコン

また、パイロット自ら小型の GPS を持参して

おり、それで自船の位置を確認することができ

た。

fig3.6- 7 パイロットが持参したパソコンと GPS アンテナ

3.2 船舶の輻輳状況

域内航行中は多くの船舶と行き会い、または

横切りの状態になった。その多くはタンカーや

貨物船であったが、島の近くを航行するとヨッ

トや小型ボートの姿も見られた。行き会うとき

にはパイロットが VHF で連絡を取り合い、互い

の針路の確認を行っていた。ちなみに、今回乗

船したパイロットは経験が長く、他船のパイロ

ットのほとんどは知人のようだった。出会う船

舶の情報は REEFREP 通報時や、インマルサット

によっても得ることができた。

fig3.6- 8 1 月 2 日 15:30 頃に行き会ったコンテナ船

3.3 潮流と水深

Torres Strait 通過時の最大流速は 7kt と言

われているが、今回通過した際は 2~3kt であ

り、船速は 20kt 前後にとどまった。Great

Barrier Reef 内は右舷側、または船首方向から

の潮流が平均で 0.4kt ほどで、穏やかだった。

しかし、Reef 内を出ると潮流は急に強くなり、

船首方向からのうねりも加わって、ピッチング

が激しくなった。また Reef 内の水深は全体的

に浅く、座礁を防ぐために航路を決める際には

十分な注意が必要となる。航行時は、海面の色

の変化で水深を知ることができるので、見張り

が重要になってくる。

Page 4: 3.6 Torres Strait and Great Barrier Reef, Australia · REEFREP内には39の通報ポイントがあり、本 船はそのうち12箇所で通報を行った (cf.table3.6-1、fig3.6-9)。1月2日にAUSREP

fig3.6- 9 Great Barrier Reef 周辺海図と通報ポイント