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3章 酵素と代謝

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3章 酵素と代謝

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代謝

同化 anabolism    生物において分子合成が行われる一連の化学反応

異化 catabolism   生物において分子を分解する一連の化学反応

両方の過程は常に段階的に起り、分子は代謝経路 metabolic pathway とよばれる連続した化学反応をへて、次々に変えられて行く。

代謝 metabolism

細胞を構成する無数の低分子化合物と様々な高分子は 細胞自身によって単純な前駆体物質から合成されなければならない

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酵素による化学反応の触媒作用

細胞の代謝に関係する多くの化学反応は自発的におこる

遅すぎて細胞にとっては使い物にならない

酵素 enzyme

=�タンパク質�

しばしば百万倍以上にも反応速度を速める

細胞内のほとんど全ての反応は酵素により触媒されている

ペルオキシソームに存在するカタラーゼ catalase は、最も効力のある酵素として知られている 過酸化水素の水と酸素への分解を108 倍加速させる

過酸化水素は、細胞内の化学反応の副産物として生じるが、 多数の分子に不可逆的損傷を引き起こすので、すみやかに排除されなければならない

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化学反応の平衡定数

S が P に変化すると、S 分子の濃度は減り 反応速度は減少する

[S]↓   [P]↑

平衡状態  正反応(S ⇨ P)速度と、逆反応(P ⇨ S)速度が等しくなる

S と P の相対濃度はつり合う

[S]     [P]

この平衡状態における反応物 S と反応生成物 P の濃度をもちいて、平衡定数は定義される

[S] に対する [P] の割合 Keq は、その反応が酵素で触媒されようがされまいが一定である

平衡定数

酵素は、この平衡に達するまでにかかる時間を短縮する

[S]      [P] P 濃度が増加すれば、逆反応速度が増加する

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酵素の特異性

酵素反応は高度に特異的である

一つの酵素は、通常一つの特異的分子のみを認識する

x

x

酵素A

基質 substrate

酵素B

酵素C

酵素特異性の分子的基礎

活性部位active siteとよばれる酵素の一領域の構造に依存している

酵素�

活性部位は酵素分子の表面やまたは裂け目に存在している = 親水性の部分に存在する

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酵素触媒作用の機構

S: 基質  substance P: 生成物 products

    反応を加速させるには、2通りの方法がある

1. 熱を加えてエネルギーを付加する方法 温度が10℃上がると、活性化される 分子の割合は2倍になる

2. 触媒を添加する方法 触媒は基質 S 分子に結合して、活性 化に必要なエネルギーを低下させる 酵素は触媒であり、活性化状態に入りやすくして反応を促進する

ただし、反応速度を速めるどんな方法も最終結果をかえることはない

自由エネルギー として放出される�

分子間の結合が弱い物質の分解

自発的に起こる反応�� S   ⇨    P  S ⇨    ⇨  P 自発的に起きにくい反応�

活性化状態 activated state まわりから十分なエネルギーを獲得

S*

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酵素触媒反応の速度

基質濃度が低い時 反応速度は基質濃度の増加に比例して

ほぼ直線的に上昇する

反応速度最大�Vmax

最終的にはある濃度以上では、

反応速度は飽和して一定の値 をとるようになる

しかし、それ以上に基質濃度が増加しても、 反応速度は上昇しなくなる

酵素�酵素� 酵素�

E + S ES E + P

酵素—基質複合体 E 酵素 S 基質

E 酵素 P 生成物

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ミハエリス-メンテン定数

Km値とは、酵素速度最大の 1/2 を与える基質濃度に 等しい値のことである

この式を場合分けして考えて行くと、 実にうまく酵素反応のグラフに一致する

i) [S] ≫ Kmの時 Km が無視できる程 基質濃度[S]が 高いので、式の Km を 0 とおくと、

   V = Vmax となる ii) [S] = Kmの時  式に Km = [S] を代入して、

            V = Vmax [S] / 2[S] となるので             V = 1/2 Vmax となる

ミハエリス-メンテンの式 酵素 E と基質 S が一旦、中間複合体 ES を作った後に それが分かれて生成物 P を生じるという Michaelis と Menten の説(1913)にもとづく 反応速度式

V = Vmax [S]

Km + [S]

多くの場合、ES複合体の解離定数 に等しい、言い換えると ES 複合体の結合の強さの尺度といえる

Km の値は、温度一定であれば、酵素に特定の値を示す カタラーゼ Km�=�25 mM グルコキナーゼ Km�=�10 mM

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代謝回転数

E + S ES E + P

酵素の代謝回転数� 酵素が活発に活動している状態 の時計測できる 基質濃度が十分に高い状態� Vmax

DNAポリメラーゼ   DNAを長くする酵素 代謝回転数が約 50

毎秒 50 個のデオキシヌクレオチドをDNA分子に付加している このペースを維持させる為には、細胞は材料であるデオキシヌクレオチドを 毎秒相当数だけ合成しなければならないことになる。

カーボニックアンヒドラーゼ CO2 + H20 → H2CO3

10-6 M 毎秒 0.6 M の炭酸 H2CO3 を作る

この速度定数は、0.6 M ÷ 10-6 M で計算される 従って毎秒酵素分子あたり 6x105 に等しい 

つまり、一個の酵素が、炭酸を 60 万分子、わずか1秒の間に作っている事になる 

代謝回転数  =  生成物濃度/秒 ÷ 酵素濃度

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チミジン1リン酸TMP 

チミジル酸シンターゼ

チミジル酸シンターゼ

thymidylate synthase

補酵素coenzyme

酵素の働きを調節するもの�

次にあげる8種の主要補酵素は、ビタミン類から合成される

  1.ニコチンアミド nicotinamide  ナイアシンアミドniacinamide、ビタミンB3、 NAD+の構成成分

  2.リボフラビン riboflavin     ビタミンB2、FAD分子の一部をなす   3.チアミン thiamine ビタミンB1

  4.パントテン酸 pantothenic acid ビタミンB5

  5.ピリドキサールリン酸 pyridoxal phosphate ビタミンB6

  6.ビオチン biotin ビタミンB7

  7.リポ酸 lipoic acid チオクト酸thioctic acid

8.ビタミンB12  vitamin B12   

これらビタミンのどれか一つかけても、ある酵素の反応が起らなくなり、ビタミン欠乏症となって現れる

• 酵素の多くは、補酵素 coenzyme を触媒作用に必要とする • 補酵素は有機分子でタンパク質よりも小さい

ビタミンである 葉酸 folic acid から合成

TMPはDNA中の4つのヌクレオチド の一つで、DNA合成には必須

哺乳類はこの葉酸を摂取しなければ、DNA合成ができない。 

テトラヒドロ葉酸 tetrahydrofolate = 多くの酵素反応でメチル基(CH3)の担体

THF dUTP デオキシウリジン1リン酸dUMP

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活性部位の調節

全ての酵素は、活性部位 active siteをもち、その活性部位には2つの機能がある 1. 特異的基質を結合させる 2. 結合した基質分子の化学反応を触媒する

�酵素タンパク質はポリペプチドが特別な 3次元形状に折たたまれない限り活性を示さない

特殊な裂け目や溝を形成        活性中心

全体表面積のわずか数パーセント�

のこり 97%以上の酵素活性に関係の無い部分は それぞれが持つ化学的性質(疎水性・親水性)により 酵素活性に重要な部分を空間的に安定な位置に固定

している

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酵素-基質相互作用

酵素と基質の関係は特異的であると云う言葉で表現されるが これはしばしば鍵と錠の関係にたとえられる

酵素基質は相補的な構造である 鍵に対する錠のように 決まった相手がいるということ

   酵素の3次元構造の“歪み”のエネルギーを利用して 基質分子の分解、即ち基質分子間の結合を切る確率をあげる

事になり、活性化エネルギーを低下させていると考える。

誘導適合 induced fit 仮説 その相補性は完全ではない むしろ基質が酵素へ結合することによって 活性部位の形がわずかに変形し より密接な相補性を生み出しているとする説

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酵素基質間の結合 酵素と基質の結合は弱い結合である。

イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合

または、 これらの組み合わせ

結合は分子の原子間を結合させる共有結合と比較する

と弱いものである

水素結合

ファンデルワールス結合

イオン結合

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酵素の阻害

代謝の調節� 酵素活性の阻害 inhibition

競合阻害剤�

基質�

競争�

×

競合阻害 competitive inhibition 阻害効果の程度は、基質と阻害剤の間での 酵素への結合力の差や濃度の差に依存�

構造変化�

× 非競合阻害剤�

不活性化�

非競合阻害剤�

非競合阻害 non-competitive inhibition 活性部位以外に結合して構造変化を起こす 酵素基質複合体に結合して不活性化する�

阻害

可逆 reversible 不可逆的 irreversible 

不可逆的な阻害 阻害分子(阻害剤 inhibitor)の酵素への結合力が非常に強い このため、永久に阻害してしまう

例)テングタケ属 Amanita の持つα-アマニチンは、RNAポリメラーゼを不可逆的に阻害する  転写不能

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フィードバック阻害による代謝調節

トレオニン ↓

α-ケト酪酸 ↓

α-アセトヒドロ酪酸 ↓

α,β-ジヒドロキシ-β-メチル吉草酸 ↓

α-ケト-β-メチル吉草酸 ↓

イソロイシン �

トレオニンデヒドラターゼ�

細胞内の酵素活性は、おおむねフィードバック機構により調節を受けている

阻害

負のフィードバック negative feedback

フィードバック阻害 feedback inhibition ある酵素反応の反応生成物が 上流の酵素に競争的にかつ可逆的に結合し 競合阻害をおこすような調節機構のこと 最終産物阻害 endproduct inhibition

×

構造変化�

アロステリック 阻害剤

=�負のエフェクター ��negative effector

アロステリック阻害 allosteric inhibiton 最終産物が酵素の活性部位とは 別の部位に結合する事で非競合 阻害を起こす事

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正のエフェクターによる代謝調節

グルコース

グルコース6-リン酸

フルクトース6-リン酸

フルクトース1,6-ビスリン酸

クエン酸�

リン酸基�

解糖系の活動によりグルコースから クエン酸が合成

細胞内にクエン酸が沢山貯まる

結果として、余剰のクエン酸は無駄になる事無くグルコースに合成され さらにグリコーゲンとしてあるいはデンプンとして細胞に貯蔵されることになる。 このように逆行する場合には、しかしながら、エネルギーを多く必要とする

細胞はグルコースを分解するが、逆にグルコースを合成することもできる

リン酸基�

フルクトースビスフォスファターゼ�

解糖系の逆行が始まる 活性化

正のフィードバック�

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酵素経路の連結

ほとんど全ての酵素的経路つまり代謝経路というものは、

一つまたはそれ以上の代謝経路と連結されている。

次の図に示したように、解糖系とクエン酸回路を軸として

約500の共通の代謝反応がある。

このように細胞は、数々の代謝を複雑に結び付けたま

るで精密な機械のようなものである。

その巧妙さには、全く持って感心させられる。

これがわずか髪の毛の直径(100μm)以下の箱の中

につまっているのである。