3d図形の描画法 - kcg · 2017. 9. 14. · 表示させたものである。...

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NAIS Journal 34 3D 図形の描画法 Drawing of 3D Figures 作花 一志(京都情報大学院大学) Kazushi Sakka(The Kyoto College of Graduate Studies for Informatics) Abstract Drawing methods of 3D figures are discussed by using gnuplot and R programming. Some applications for regression analysis, differential equations and planetary orbits are presented. 1.はじめに 3 次元図形は想像するのも描くことも困難だが PC で描くには次の 3 つの方法がある。 ・ブラウザで z f (x,y) Google 検索 gnulot R プログラミング 1 の方法は最も簡単ですぐに実行できるが関数形 がz=で与えられた場合だけである。第 2 3 方法ではシステムをインストールして簡単なプログ ラムコードを書いて実行することになるが関数形 が媒介変数や極座標で表示されている場合また数値 で与えられる 3 次元ベクトルも描くことができる。 2.gnuplot で描く 3D 図形 gnuplot は古くからよく使われるグラフ描画用の フリーソフトである。描画オプションが非常に豊富 2015 年に Ver5.0 が公開された。またプログラ ミング機能は不十分であるが増えつつある。z = x 2 y 2 を描くには ugv ztcpig ]/32<32_ ugv {tcpig ]/32<32_ ugv rcngvvg fghkpgf*3 $dnwg$.4 $itggp$.5 $tgf$+ ugv ro5f ugv kuqucorngu 52 wpugv uwthceg urnqv z,,4/{,,4 3D 描画には splot を用いる。最後の行の命令だけ でもグラフは描ける(図 1)が他の行を加えるとカ ラフルな図を描くことができる(図 2)。第 1 行第 2 行は xy の描画範囲の定義 , 3 行はカラーパレッ トの定義4 行はカラー描画の指定を表している。 5 行第 6 行は細かいオプション指定でそれぞ れサンプル解像度 , 網目表示なしを指示する。 図 1 z = x 2 -y 2 図 2 z = x 2 -y 2 400 300 -20 -20 -15 -15 -10 -10 -5 -5 0 0 5 5 10 10 15 15 20 20 200 100 0 -100 -200 -300 -400 x ** 2-y ** 2

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Page 1: 3D図形の描画法 - KCG · 2017. 9. 14. · 表示させたものである。 3.Rで描く3D図形 3-1 関数のプロット RD で3 グラフィックの方法はいくつかあるが,

NAIS Journal34

3D 図形の描画法Drawing of 3D Figures

作花 一志(京都情報大学院大学)Kazushi Sakka(The Kyoto College of Graduate Studies for Informatics)

Abstract Drawing methods of 3D figures are discussed by using gnuplot and R programming. Some applications for regression analysis, differential equations and planetary orbits are presented.

1.はじめに

 3次元図形は想像するのも描くことも困難だがPCで描くには次の 3つの方法がある。 ・ブラウザで z= f (x,y)を Google検索 ・gnulot ・Rプログラミング第 1の方法は最も簡単ですぐに実行できるが関数形がz=で与えられた場合だけである。第 2第 3の方法ではシステムをインストールして簡単なプログラムコードを書いて実行することになるが,関数形が媒介変数や極座標で表示されている場合また数値で与えられる 3次元ベクトルも描くことができる。

2.gnuplot で描く 3D図形

 gnuplotは古くからよく使われるグラフ描画用のフリーソフトである。描画オプションが非常に豊富で 2015年に Ver5.0が公開された。またプログラミング機能は不十分であるが,増えつつある。z = x2-y2を描くには

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3D図形の描画法

作花一志 京都情報大学院大学

Abstract

Drawing methods of 3D figures are discussed by using gnuplot and R programming . Some applications for regression analysis ,differential equations and planetary orbits are presented.

. はじめに

3 次元図形は想像するのも描くことも困難だが PCで描くには次の 3 つの方法がある。 ・ブラウザで z=f(x,y)をGoogle 検索 ・gnulot ・R プログラミング

第1の方法は最も簡単ですぐに実行できるが関数形が

z=で与えられた場合だけである。第 2 第 3 の方法で

はシステムをインストールして簡単なプログラムコ

ードを書いて実行することになるが,関数形が媒介変

数や極座標で表示されている場合また数値で与えら

れる 3 次元ベクトルも描くことができる。 2. で描く3 図形

gnuplot は古くからよく使われるグラフ描画用のフ

リーソフトである。描画オプションが非常に豊富で

2015 年にVer5.0 が公開された。またプログラミング

機能は不十分であるが,増えつつある。z=x2-y2 を描

くには

3D 描画には splot を用いる。最後の行の命令だけでも

グラフは描ける(図 1)が他の行を加えるとカラフル

な図を描くことができる(図 2)。第 1 行第 2 行は x,y

の描画範囲の定義,第3行はカラーパレットの定義, 第4 行はカラー描画の指定を表している。第 5 行第 6 行

は細かいオプション指定で,それぞれサンプル解像度,網目表示なしを

図2 z=x2-y2

図1 z=x2-y2

3D描画には splotを用いる。最後の行の命令だけでもグラフは描ける(図 1)が他の行を加えるとカラフルな図を描くことができる(図 2)。第 1行第2行はx,yの描画範囲の定義 ,第3行はカラーパレットの定義,第 4行はカラー描画の指定を表している。第 5行第 6行は細かいオプション指定で,それぞれサンプル解像度 ,網目表示なしを指示する。

図 1 z = x2 - y2

図 2 z = x2 - y2

図1 z=x2-y2

400300

-20

-20

-15-15

-10 -10-5 -50

0

5

5

10

10

15

15

20

20

200100 0-100-200-300-400

x**2-y**2

Page 2: 3D図形の描画法 - KCG · 2017. 9. 14. · 表示させたものである。 3.Rで描く3D図形 3-1 関数のプロット RD で3 グラフィックの方法はいくつかあるが,

35NAIS Journal

サイクロイド面を表示するには媒介変数(u,v)宣言をして x = u- sin(u) y = v z = - 1 + cos(u)をプロットする。

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サイクロイド面を表示するには媒介変数(u,v)宣言

をして

x=u-sin(u) y=v z=-1+cos(u) をプロットする。

これは有名な最速降下曲面で 寺院の屋根などに使わ

れている。頂上に降った雨がこの曲面に沿って移動す

るとき要する時間は最も短い。

splot "テキストファイル.txt" using 1:2:4 という命令でテキストファイルの第 1 列,第 2 列,第

4 列の数値を x,y,z として表示することができる。他の

プログラミング言語で求めた数値をマトリックスと

して算出しデータファイルにすることが多い。図4は

渦状銀河NGC2403のスペクトルをmakalliを用いて

輝度のデータファイルを作り 3D 表示させたものであ

る。

3. で描く3 図形

関数のプロット

R で 3D グラフィックの方法はいくつかあるが,こ

こでは rgl ライブラリ,persp3d 関数を使って鳥瞰図

を描いてみよう。曲面は前述の関数 z=x2-y2である。

図 3 サイクロイド面

図 4 テキストファイルより

図 5 z=x2-y2

-4

-4

-3 -2-2-1 0 0

1 2

2

3 4

46

-6

0-0.4-0.8-1.2-1.6-2

-0.2

0-0.2-0.4-0.6-0.8-1-1.2-1.4-1.6-1.8-2

-0.6-1-1.6-1.8

(u-sin(u)),v,-1+cos(u)

図 3 サイクロイド面

 これは有名な最速降下曲面で ,寺院の屋根などに使われている。頂上に降った雨がこの曲面に沿って移動するとき要する時間は最も短い。 splot "テキストファイル .txt" using 1:2:4という命令でテキストファイルの第 1列,第 2列,

第 4列の数値を x,y,zとして表示することができる。他のプログラミング言語で求めた数値をマトリックスとして算出しデータファイルにすることが多い。図 4は渦状銀河 NGC2403のスペクトルをmakalliを用いて輝度のデータファイルを作り 3D表示させたものである。

3.Rで描く 3D図形

3-1 関数のプロット Rで 3Dグラフィックの方法はいくつかあるが,

ここでは rglライブラリ,persp3d関数を使って鳥瞰図を描いてみよう。曲面は前述の関数 z = x2-y2

である。

 

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サイクロイド面を表示するには媒介変数(u,v)宣言

をして

x=u-sin(u) y=v z=-1+cos(u) をプロットする。

これは有名な最速降下曲面で 寺院の屋根などに使わ

れている。頂上に降った雨がこの曲面に沿って移動す

るとき要する時間は最も短い。

splot "テキストファイル.txt" using 1:2:4 という命令でテキストファイルの第 1 列,第 2 列,第

4 列の数値を x,y,z として表示することができる。他の

プログラミング言語で求めた数値をマトリックスと

して算出しデータファイルにすることが多い。図4は

渦状銀河NGC2403のスペクトルをmakalliを用いて

輝度のデータファイルを作り 3D 表示させたものであ

る。

3. で描く3 図形

関数のプロット

R で 3D グラフィックの方法はいくつかあるが,こ

こでは rgl ライブラリ,persp3d 関数を使って鳥瞰図

を描いてみよう。曲面は前述の関数 z=x2-y2である。

図 3 サイクロイド面

図 4 テキストファイルより

図 5 z=x2-y2

-10

-10

-100

-5

-5

-50

0

0

0

5

5

50

10

10

100

y

z

図 5 z = x2 - y2

3.-2 重回帰分析 2次元の場合ベクトル x, yが与えられるとその点列に最もよくフィットする直線(回帰直線)が求まるように,3次元の場合は回帰平面が求まる。lm関数を用いて重回帰係数を求め persp3d(x, y, z)で鳥瞰図を描く。

3

3-2 重回帰分析

2 次元の場合ベクトル x,y が与えられるとその点列に

最もよくフィットする直線(回帰直線)が求まるよう

に,3 次元の場合は回帰平面が求まる。lm 関数を用い

て重回帰係数を求め persp3d(x,y,z)で鳥瞰図を描く。

黒点は与えられたデータ,赤点は予測値で最良近似平

面上にある。

3-3 連立微分方程式

線形連立微分方程式の解を一次変換・固有値の応用

として求める方法が に紹介されている。微積分と

線形代数との融合問題として特筆される。 dX/dt= 2X -Y-Z

dY/dt=-X+3Y dZ/dt=-X +3Z 未知数ベクトル 係数の行列

とすると

dv = v である。 A の固有値をλ1λ2λ3,それに対する固有ベクトルを

u1,u2,u3とする。 固有値は eigen(A)$values より,

固有ベクトルは eigen(A)$vectors より求まる。 一般解は c1,c2,c3を任意定数として v=c1u1exp(λ1t)+c2u2 exp(λ2t)+c3u3 exp(λ3t) であり初期値を X =1, Y =1,Z=-1とすると c1,c2,c3=(1/3, 1, 1/3)であるから

X=(2exp(t) +exp(4t))/3 Y=(exp(t)+3exp(3t)-exp(4t))/3

Z=(exp(t)-3exp(3t)-exp(4t))/3 ここで t をパラメータとして 0 から 2 までグラフを描

くと

図 最良近似平面

図 線形連立微分方程式

v’= の解

重回帰3元

重回帰係数

図 4 テキストファイルより

200190180

240230220210

240230220210200

20015010050250 300 350 400 450 0

51015202530

190180

"../data/2403-2D"using 1:2:4

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NAIS Journal36

 黒点は与えられたデータ,赤点は予測値で最良近似平面上にある。

3-3 連立微分方程式 線形連立微分方程式の解を一次変換・固有値の応用として求める方法が [1]に紹介されている。微積分と線形代数との融合問題として特筆される。

 dX/dt = 2X - Y- Z dY/dt =- X + 3Y dZ/dt =- X + 3Z 未知数ベクトル   係数の行列     X       2 -1 -1  v = Y   A = -1 3 0      Z      -1 0 3 とすると  dv/dt= Avである。

Aの固有値をλ1λ2λ3,それに対する固有ベクトルを u1,u2,u3とする。 固有値は eigen(A)$valuesより,固有ベクトルは eigen(A)$vectorsより求まる。一般解は c1,c2,c3を任意定数として

 v =c1u1exp(λ1t)+c2u2 exp(λ2t)+c3u3 exp(λ3t)

であり初期値を X =1,Y =1,Z =-1とすると(c1,c2,c3)= (1/3,1,1/3)であるから

 X=(2exp(t) + exp(4t))/3 Y=(exp(t) +3 exp(3t)- exp(4t))/3 Z=(exp(t)- 3exp(3t)- exp(4t))/3

となり tをパラメータとして 0から 2までグラフを描いたものが図 7である。非線形の場合は数値的

の解くしかないが,解を 3Dで表示すると興味ある結果が得られる。初期値を X =1,Y =1,Z=1として

 dX/dt = a*X + Y*Z dY/dt = b* (Y- Z) dZ/dt =-X*Y + c*Y – Z

をさまざまなパラメータについて解いてみよう。解法は [2]に従って,ode関数を用い,tは 0から100までステップ 0.01で計算し,結果は 10000行4列のマトリクスに収めた。a = –4,b = –10,c = 25 の場合の解を図示すると

XY

Z

1010 0 -1020

20

10

0

-10

30 40

図 6 最良近似平面 図 7 線形連立微分方程式   v ’ = Av の解

z

y

x

-30

3.532.521.5

1

-20

-10

10 20155

⎤||⎦

⎤||⎦

⎡||⎣

⎡||⎣

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37NAIS Journal

a =-4 b =-10 c = 15の場合は

5 10 1515

10

5

2 Y

X

Z

4681012

20

a =-4 b =-10 c = 5の場合は

1

1

1

2

2

2

3

3

3

4

4

4

5

5

5

Y

Z

aの値を変化させても興味ある図が描かれる。a = – 8/3,b = –10,c = 28 の場合にはカオスで有名なローレンツのアトラクターが描かれる いずれも初期点は左端(1,1,1)であり,左方で収束する。

3-4 惑星の公転軌道 惑星はケプラーの法則に従い太陽を焦点とする楕円運動する。軌道の形状は軌道要素といわれる 6つのパラメータで決まる [3]。各軌道要素 a,e,i,Ω,ω,M は惑星ごとの定数(正確には 2体問題ではないので長期間にわたるときは変化を考慮しなければならない)である。楕円の長半径を a,離心率を e(0≦ e<1)とし,

楕円上の点はパラメータt(0≦t≦ 2π)を使って

 X= a*cos(t) Y= a*sin(t) √(1-e2)と書ける。        

―――

 これらを次式で太陽中心のxyz座標(日心黄道座標という)に変換する。

x = cosΩ -sinΩ 0 1 0 cosω -sinω X-aey = sinΩ  cosΩ 0 0 cos i sinω  cosω Yz = 0 0 1 0 sin i

⎛|⎝

⎛|⎝

⎛|⎝

⎛|⎝

⎛|⎝

⎛|⎝

⎛⎝

⎛⎝

⎛⎝

⎛⎝

 惑星は軌道面上で地球は黄道面上で公転し,両面が交わってできる角 i,Ω,ωは図 10の通りである。 プロットするには plot3d(x,y,z)を使えばよい。 さらにこの図を planetというフォルダーに収めてWebにアップロードするには

X

Y

Z

10 20 30 40

10

10

0

0

-10

-10

-20

-20

20

20

図 8  非線形連立微分方程式の解

S……太 陽P……惑 星A……近日点A……遠日点

A A

P

SOa

bE

P'

図 9 楕円軌道

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NAIS Journal38

 writeWebGL(dir="planet",width=700,height=500)

 8惑星の軌道面はすべて異なるが,実際にはそれらの iは 10°以下なのでほぼ同じ平面上で,同方向に公転している。ただし彗星ではほぼ垂直(i~ 90°)になったり,公転が逆方向(i> 90°)になることも珍しくない。図 11の扁平な楕円はハレー彗星の軌道である。 Rプログラミングではこのような計算結果を視覚的に表示する時に有効である。

y

z

太陽

近日点

春分点昇交点

軌道面

遠日点

黄道面

ω

i

図 10 日心黄道座標

-20

-20

-20

-40

-40

-10

0

0

xc

zc

yc0

10

20

2020

4040

図 11  8惑星とハレー彗星の公転軌道

 本研究は「国際化を考慮した社会的ネットワーキング指向の次世代 eラーニング基盤の開発(日本学術振興会科学研究費課題番号 16H03087,研究者代表・岡本敏雄氏)」の研究補助金のサポートの基で行われている。

【参考文献】[1]田島一郎「線形代数」共立出版 p174, 970[2]作花一志 NaisJ. Vol.10, p61, 2015[3]作花一志 中西久崇「天文学入門」オーム社 2001

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◆著者紹介

作花 一志 Kazushi Sakka

京都情報大学院大学教授。京都大学理学研究科宇宙物理学専攻修了,

京都大学理学博士 専門分野は古天文学,統計学。元京都大学理学部・総合人間学部講師,

元京都コンピュータ学院鴨川校校長,

元天文教育普及研究会編集委員長