日本結晶学会誌44,246-254(2002) 実 験 室 - jst

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実 験 室

日本 結 晶 学 会 誌44,246-254(2002)

RlETAN徹 底 活用 ガ イ ド(1)入 出 力 ファイル

物質 ・材料研究機構 物質研究所 泉 富士夫

Fujio IZUMI: A Guide to Full Utilization of RIETAN, Input and Output Files

RIETAN-2000/2001T are connected with several related programs via a variety of text

files for cooperative crystallographic computation and visualization. Contents of input and out-

put files of RIETAN are explained for its full utilization. The knowhow of measuring reliable

powder diffraction data recorded in *.int and parts of data in the user-input file, are de-scribed particularly in detail.

1.は じ め に

多 目 的 パ タ ー ン ブ イ ッテ ィ ン グ ・シ ス テ ムRIETAN-

20001)-4)は3年 以 上 の長 きに わ た って 苦 闘 し続 け た 末 よ う

や く完 成 し,2000年8月 に フ リー ソ フ トウ ェ ア と して リ

リー ス し ま した.5)こ れ で 一 件 落 着 か と思 い きや,バ グ退

治,Mac OSとWindows用 の 使 い勝 手 の よい ス ク リ プ トの

作 成 ホ ー ム ペ ー ジ5)の 充 実,解 説2)4)の 執 筆RIETAN-

2000の 利 用 を念 頭 に置 い た 粉 末X線 回 折 に 関 す る 書 籍6)

の 出 版,そ の 本 を テ キ ス トと した 講 習 会 の 開 催 な ど に忙 殺

さ れ る こ と に な りま した.配 布 開 始 か ら2年 の 歳 月 が 流

れ,や っ と一 段 落 つ い た 一 とい う感 じで す.RIETAN-2

000を利 用 して 得 た 成 果 を報 告 した 論 文 の 数 は す で に50を

超 え,増 加 の 一 途 を た どっ て い ます.

さ らに,2001年 初 頭 に は,パ ル ス 中性 子 源KENSの 飛

行 時 間(time-of-flight:TOF)型 粉 末 中性 子 回折 装 置Vega

とSirius用 に 最 適 化 し た リ ー トベ ル ト解 析 プ ロ グ ラ ム

RIETAN-2001Tが 出 現 しま した.7)RIETAN-2000に お け る

改 良 点 をRIETAN-96T8)に 取 り入 れ た マ イ ナ ー チ ェ ン ジ

版 で す.RIETAN.2000に 比 べ る と機 能 が 限 定 され て い ま

す が,両 装 置 で 測 定 した 回 折 デ ー タに 広 く適 用 され て お

り,多 くの 研 究 成 果 に 貢 献 し て い ま す.以 下,RIETAN-

200012001Tに 共 通 す る事 項 を述 べ る と きはRIETANと だ

け記 す と約 束 して お き ま し ょ う.

最 近 の朗 報 は,OpenGLを 駆 使 した 結 晶 構 造 と電 子 ・核

密 度 分 布 の 三 次 元 可 視 化 シ ス テ ムVENUSをRIETANの

周 辺 ソ フ ト と して 完 成 させ,2002年6月 にWeb9)上 で 公

開 した こ とで す.で きた て の ほ や ほ や の ベ ー タ版 で す が,

頻 繁 な 更 新 を 通 じ急 激 に安 定 度 が 向 上 しつ つ あ り ま す.

VENUSは2つ の 独 立 した プ ロ グ ラ ムVICSとVENDか ら

な っ て お り,VICSは 結 晶構 造 を,VENDは 電 子 ・核 密 度 を

扱 い ます.い ず れ も貧 弱 なPC環 境 に優 しい プ ロ グ ラ ムで

あ る うえ,RIETANの ユ ー ザ ー 入 力 フ ァ イ ル*.insや 最 大エ

ン トロ ピー 法(Maximum-Entropy Method: MEM)プ ロ グ

ラムMEED10)で 計算 した電子 ・核密度のファイル*.denを

直接読み書 きで きます.つ まり,結 晶構造に加 え,MPF

(MEM-based Pattern Fitting)法2)-4)により決定 した電子 ・

核密度を迅速かつ視覚に訴える形で表現する道具が手に入

ったことになります.高 機能 ・高速性 ・使い勝手の良 さ,

scalabilityを兼ね備 えた強力なフリーソフ トウェアはほか

に見当た りませんから,RIETANの ユーザーばか りでなく

結晶質固体の研究 ・教育に携わる人々へのこのうえない贈

り物 として拍手喝采されるはずです.RIETANは 無味乾燥

な数値データを大量に吐 き出すだけの地味な存在です.華

麗かつ俊敏な三次元グラフィックソフ トという頼もしい援

軍の到来は,錦 上花を添えることになるで しょう.

さらに,MEEDに 換わる独自の高速MEM解 析 ソフト11)

も完成途上にあることを予告 しておきます.ハ イエンドの

パソコンで十分動 くようにするつ もりです.MPF法 によ

る結晶構造精密化のルーチ ンワー ク化に威力 を発揮する

にちがいありません.

周辺 ソフ トが勢揃いし,RIETAN-2000が 十分枯れきっ

た現時点で,あ らためて初学者向きにRIETANの 活用法

を説 き,そ の普及を計 るのは有意義だと思われます.そ こ

で,RIETANと 周辺 ソフ トに関す る記事を3回 にわた り

本誌に連載 します.限 られた誌面になにもかも詰め込むの

は無理ですから,実際に解析を進めてい くうえでキーポイ

ントとなること,これまで説明不足だったことに重点を置

いて解説 していきます.RIETANを 用いてリー トベル ト解

析に取 り組む際 肝 に命 じておくべ きこと,知 ってお くと

便利 なノウハウを伝授 しましょう.RIETANに ついては,

すでに解説 ・単行本 ・Webな どで繰 り返 し紹介 して きま

した.出 し惜 しみ している情報やソフ トなど,ま ったくあ

りません.し か し情報があちこちに散在 しているために,

見過 ごされてきたことも多いのではないで しょうか.そ こ

で,自 他の文献に加えWebのURLも 多数引用 しますので,

ぜ ひ参照 してください.

今回は,RIETANの 入出力 ファイルに関係する事柄に焦

246 日本 結 晶 学 会 誌 第44巻 第4号(2002)

Page 2: 日本結晶学会誌44,246-254(2002) 実 験 室 - JST

RIETAN徹 底 活 用 ガ イ ド(1)入 出 力 フ ァ イ ル

点を絞って話 を進めてい きます.RIETANは 実 に多 くのフ

ァイルを処理 しますから,そ れぞれのファイルについての

知識 を仕入れておけば,ス ムーズにRIETANを 使いこな

すのに役立つで しょう.

2.入 出カ フ ァイル

RIETAN-2000が 入 出 力 す る主 な フ ァ イ ル を以 下 に列 挙

し ます(ワ イ ル ドカー ド‘*'は 共 通 の サ ン プ ル 名,ピ リ オ

ドの後 ろ の3文 字 が 拡 張 子).

●入力* .ins:ユ ー ザ ー 入力 フ ァイ ル(標 準 入 力)

* .int:粉 末X線 ・中性 子 回折 デ ー タ

* .bkg:バ ッ ク グラ ウ ン ドをお お まか に表 現 す る た め の 数値

デ ー タ

* .ffe:原 子 間距 離 と結 合 角 に非 線 形 抑 制 条件 を課 す た め に

ORFFE12)が 作 成 す る フ ァイル

* .fba:MPF法 に よる解 析 用 にMEM解 析 プ ロ グラ ムが 作 成

す る フ ァイ ル

* .ffi: Le Bail解 析4),13)によ り求 め た‘観測'積 分 強度|Fo|2(算

出法 につ いて は文献4を 参照)な どを収め た フ ァイル

●出力

* .pat:リ ー トベ ル ト解 析 パ ター ンあ るい は シ ミュ レー シ ョン

で求 め たパ ター ンをプ ロ ッ トす るた めの デー タ

* .hkl:フ ー リエ ・D合 成用 デー タ(VEND9)で 処理 す る こ と

に よ り非 対 称 単位 内の 電子 ・核 密 度分 布 が 求 まる)

* .xyz:原 子 間 距 離 と結 合 角 な ど を 計 算 す る プ ロ グ ラ ム

ORFFE用 入力 フ ァ イル

* .mem:MEM解 析 用 デ ー タ

* .ffo:Le Bail解 析 で推 定 した‘観 測'積 分 強 度|Fo|2な ど を

収 め た フ ァイル(後 述 の よ うに,*.ffiは 逐 次Le Bail解

析 の た め に*.ffoを 改 名 した もの)

*.lst:RIETANに よる計 算 結 果(標 準 出力)

すべ て テ キ ス トフ ァ イ ルで あ り,共 通 の フ ォ ル ダ(デ ィ レ

ク トリ)に 置 き ます.こ れ ら の う ち,す で に文 献6で 述 べ

た もの につ い て は説 明 の 重 複 を避 け る こ とに し ます.*.ins

の作 成 は8章 全 体,*.xyzを 作 成 す る た め に*.ins中 で 入力

す べ きデ ー タ は8.5.23,*.ffeを 用 い た 抑 制 条 件 の 付 加 は

6.6と8.5.23に 詳 述 しま した.ま た電 子 ・核 密 度 の 決 定 は

3回 目 の 記 事 で 扱 い ます か ら,*.fba,*.hkl,*.memに つ い

て も言 及 しませ ん.

注 意 を喚 起 して お き た い の は,い ず れ の フ ァ イルで も最

終 行 で必 ず 改 行 しな け れ ば な らな い こ とで す.こ れ を怠 る

と,得 体 の知 れ な い エ ラ ー に苦 しむ 羽 目 に陥 る で し ょ う.

3.粉 末回折データ測定時の留意点

まず解析以前の問題 として,*.intに記録する強度データ

について述べてお きます.雑 に測定 したデータからは正 し

い構造情報は絶対引 き出せ ませんから,1・分注意を払って

測定 して ください.

リー トベル ト解析の主目的はもちろん構造パラメーター

(分率座標,占 有率,原 子変位パラメーターなど)の精密化

です.構 造パラメーターに関する情報は積分強度(回 折プ

ロファイルとバ ックグラウンドに囲まれた部分の面積)に

含まれています.測 定 しようとしている試料に結晶子サイ

ズが数10μmを 超すような粗大結晶が含まれている場合

や,板 状や針状の結晶を扱 う場合には,無 数の結晶子が完

全 に無秩序に配向 しているという粉末回折の前提条件が

くずれて しまいます.粗 大結晶はデバイーシェラー環中に

スポッ トを与えます し,選 択配向が顕著な場合,劈 開面や

針の伸長方向に平行な回折面の強度が強まります.粗 大結

晶の効果はもとより,選択配向も理論式 による厳密な補正

はほとんど不可能です.ビ ームの平行 性が極度に高い放射

光を用い,平 板試料からの回折強度 を測定する場合,選 択

配向はとりわけ深刻 とな ります.

一般に結晶子サ イズが3μm程 度にまで微細化す ると

選択配向はほとんど観察 されな くなります.そ のために

は,ア セ トン,エ タノール,ヘ キサ ンのような有機溶媒に

浸漬 しながら試料を十分粉砕 します.し か し,粒 成長 した

試料 をメカノケ ミカルな変化を起こさずに,こ の程度のサ

イズまで徹底的に粉砕するのは困難なことが多いです.粉

砕中に回折プロファイルが広がってしまうようだったら,

赤信号です.ど うしても微細化が不完全なままに留まると

きは,粒 成長を抑えるよう合成条件 を変更したらどうで し

ょうか.

粗大結晶が混入 しているかどうかについては,ω走査法14)

で手軽に調べることができます.ω 走査では,反 射kの ブ

ラッグ角θkを中心 とする適当なθ範囲内で試料面 を回転

させ,2α の位置に固定 した検出器で計数することにより

粒度分布を推定 します.ω 走査は特定の反射のデバ イー

図1Si標 準 試 料(SRM640b)の111反 射 に 対 す る ω 走 査

プ ロ フ ァ イ ル.(ω-scan profile for the 111 reflection

of a standard reference material 640b,Si.)

日本 結 晶 学 会 誌 第44巻 第4号(2002) 247

Page 3: 日本結晶学会誌44,246-254(2002) 実 験 室 - JST

泉 富士夫

シェラー環に沿って回折強度を収集することにほかな り

ません.粗大結晶からの反射がデバ イーシェラー環に含ま

れていると,ω走査で測定 されたプロファイルは滑らかで

なくな り,と ころどころ粗大結晶に起因する「ひげ」が生

えているような状態 となります(図1).

放射光による粉末回折では,キ ャピラリーに試料 を詰

め,回 転 させながら測定するデバイーシェラー型光学系を

採用することにより,粗大結晶や選択配向の効果を最小限

に留めることができます.た だし,回 折に寄与する結晶子

の数が少な くなるとい う両刃の刃的側面 もあります.

特性X線 を平板試料に入射 して回折強度 を測定するブ

ラッグーブレンターノ型光学系は,試料表面が平滑である

ことを前提 とするため,選 択配向が顕著になりがちです.

一方,粉 末中性子回折では,円 筒状のV試 料容器に力を加

えずに試料を注 ぎ込み,試 料を回折計に取 り付け終わるま

で衝撃を加えないよう留意 します.ま た,一 般に中性子は

試料により吸収 されに くいので,選 択配向が起こ りに くい

試料内部まで中性子 ビームが入 り込みます.し たがって選

択配向が どうしても軽減 できない場合は,粉 末中性子回折

に頼るというのも1つ の手です.

強度データ測定時に忘れがちなのが,ブ ラッグーブレン

ターノ型光学系における低角領域での試料照射幅の増大

です.最 低角で照射幅が試料の幅を超えたら,観 測強度が

その分,減 少 しますから,発 散スリットの発散角と照射幅

の関係(文 献6,6.2.3と7.2.2を 参照のこと)を 考慮 し,入

射X線 ビームが試料部からはみ出さないように気をつけ

てください.発 散角を自動調節する発散スリットの場合で

も同様です.

4.強 度 デ ー タ フ ァ イ ル*.intの フ ォ ー マ ッ ト

RIETAN-2000の 読 み込 め る強 度 デ ー タ フ ァ イ ル の フ ォ

ーマ ッ トの う ち,現 在 最 も よ く使 われ て い る の は,不 等 間

隔 の2θ で 測 定 した 強 度 デ ー タ も扱 え る 一 般 フ ォー マ ッ ト

で し ょう.こ の 形 式 で は,最 初 の 行 で‘GENERAL',2行 目

で デ ー タ点 数3行 目以 降 で2θ と回 折 強 度 を1組 ず つ 入 力

します:

GENERAL

5000

10.00 55

10.03 57

RIETANで は各反射の‘観測'積 分強度を拡張 シンプソ

ン則で高確度に求めるよう工夫をこらしています.Le Bail

解析やMPF法 における最重要のデータなのですか ら,精

度の向上を図るのは当然のことです.そ の結果,単一 反射

のプロファイル内で2回 以上間隔が変わることがあるよ

うな変則的な回折データの場合だけ,簡 略に計算するとい

う‘裏技'を 繰 り出さざるを得な くな りま した.例 えば,

原研のJRR-3M原 子炉 に設置 されている2台 の粉末中性

子回折装置HRPDとHERMESで 測定 したデータがそれに

該当 します.こ のような場合,一 般フォーマッ トのファイ

ルの1行 目を‘GENERAL$'と し,特 殊な強度データであ

ることをRIETAN-2000に 指示 してや ります.`観 測'積 分

強度の精度が落ちますか ら,局所的にステ ップ幅が何度 も

変わるような強度データを作 るのは避けるべ きです.

一般に角度分散型回折法では,高 角側に向かうにつれて

半値幅が増す とともに,回 折強度が減少 します.と きに

は,ス テップ幅と各回折点での測定時間を変化させて強度

デー タを測定 した くなることも多いで しょう.RIETAN-

2000は 一般 フォーマ ットを拡張 した完全可変フォーマ ッ

ト(Fully Variable Format: FVFMと 略す)で ステ ップ幅,

測定時間を変化させて測定 したデータを読み込めます.最

初の行に‘FVFM'と 記 し,各行 に2θ,回折強度,各 ステ ッ

プでの最短測定時間に対する倍数を記録 します:

FVFM

10.00 55 1.0

10.03 57 1.0

90.00 825 2.0

90.05 819 2.0

この場合,10° で10sの 間カウン トしたとすると,90°で

は20sカ ウントしたことになります.全 回折強度がスムー

ズにつながるように,実 測強度(カ ウント)をそれ らの倍

数で割って回折強度 とします.最 小二乗法における各ステ

ップの統計的重みは強度 と倍数から自動的に計算されます.

5.複 合バ ックグラウン ド関数計算用ファイル

*.bkgの 作成法

RIETAN-2000で は バ ッ ク グ ラ ウ ン ド ・パ ラ メー タ ー

bj間の 相 関 を で きる だ け 減 らす た め,ス テ ップiの 回折 角

2θiを-1~1の 間 に正 規 化 した9,を 横 座 標 とす る ル ジ ャ ン ド

ルの 直 交 多項 式

〓(1)

〓(2)

をバ ックグラウン ド関数yb(2の に採用 しています.こ こで

〓です.

放射光を用いたデバイーシェラー光学系で測定 したデ

ータの場合,試料 を封 じ込めるキャピラリーが複雑な形を

したバ ックグラウン ドを与えるため,式(1)だ けでは実測

バ ックグラウンドによくフィットしません.そ こでバック

グラウンドの概略の形を*.bkgに 数値データとして記録

248 日本結晶学会誌 第44巻 第4号(2002)

Page 4: 日本結晶学会誌44,246-254(2002) 実 験 室 - JST

RIETAN徹 底 活 用 ガ イ ド(1)入 出 力 フ ァ イ ル

し,こ れ らの デ ー タ を式(1)の 右 辺 に掛 け た形 の複 合 バ ッ

ク グ ラ ウ ン ド関 数 を計 算 します.15)*.bkg中 の デ ー タ点 数

は*.int中 の 強 度 デ ー タ と同 一 で す.リ ー トベ ル ト解 析 や

Le Bail解 析 で,式(1)中 の係 数bjを 精 密 化 す る こ とに よ

り,*.bkg中 の バ ッ ク グ ラ ウ ン ドレベ ル を微 調 整 します.

実 際 に は,わ れ わ れ はPowderXl6)と い うWindows用 ブ

リー ソ フ トウ ェ ア を用 い,次 の よ うな 操 作 で*.bkgに 記 録

す る デ ー タ を求 め て い ます.ま ず,一 般 フ ォー マ ッ トで 書

か れ た 回折 強 度 フ ァイ ル を作 成 し,拡 張 子 をxrdと します.

PowderXを 立 ち上 げ,File→ImportData→X-Yと い う メ

ニ ュー 項 目 を選 び,*.xrdを 読 み 込 み ます.次 に,メ ニ ュ ー

バ ー の 下 に 並 ん で い る10個 の ボ タ ン の う ち,左 か ら5番

目 の ボ タ ン(Subtract Background)を ク リ ッ ク し ま す.

Pickup Pointは150~300程 度,Repeating Timeは20~

50程 度 とす る の が 一 般 的 で す.Showボ タ ン を押 して バ

ッ ク グ ラ ウ ン ドを計 算 ・表 示 させ ます.バ ッ ク グ ラ ウ ン

ドの 見 積 も りが 適 切 か ど うか チ ェ ック す る た め に,左 か

ら3番 目のZoom Plotボ タ ン を押 し,拡 大 す べ き箇 所 を

ドラ ッグで 指 定 し ます(図2).見 終 わ っ た ら,Finishボ タ

ン を押 します.試 行 錯 誤 でPickup PointとRepeating Time

を変 え,満 足 の い く結 果 が 得 られ た ら,Backgroundウ ィ

ン ドウ内 でOKボ タ ンを押 し,File→Save Data→X-Yと

い う メ ニ ュ ー 項 目 を 選 び,バ ッ ク グ ラ ウ ン ドを差 し引 い

た 強 度 デ ー タを フ ァ イル と して 保 存 し ます.

引 き続 き,表 計 算 ソ フ トや グ ラ フ作 成 ソ フ トな ど を 用

い て,生 デ ー タか ら上 記 の操 作 で 求 め た デ ー タ(ブ ラ ッ グ

反射 強 度)を 引 い て バ ッ ク グ ラ ウ ン ド強 度 を求 め,ヘ ッ ダ

ー も何 も付 け ず に,ス ペ ー ス を 間 に置 き,2θ とバ ッ ク グ

ラ ウ ン ドの ペ ア を 各 行 に 並 べ た テ キ ス トを*.bkgに 保 存

し ます.換 言 す れ ば,*.bkgは 一 般 フ ォー マ ッ トの1行 目

と2行 目 を削 除 した よ うな 形 式 と な っ て い ます.

もちろん,PowderXを 使わずに同様 なデー タ処理を行

って*.bkgを 作成 しても構いません.こ のスペク トルでバ

ックグラウンドの形はほぼ表現できているので,式(1)に

おける次数Mは さほど大 きくせずに済みます.バ ックグ

ラウンドの標準偏差が大きくならないように注意 して,適

当なMの 値を決めてください.

6.入 力 フ ァ イ ル,*.ins

6.1異 常散乱因子の計算

放射光粉末回折では任意の波長が選べます.放 射光を利

用 して測定 したデータを解析する際には,入射 ビームの波

長に応 じた異常散乱因子の実数部 と虚数部が必要 とな り

ます.Cromer-Liberman法17)に より異常散乱因子を計算す

るフリーソフ トウェアCROMER18)が 配布されてい ます.

Kissel-Pratt補正 を施 してお り,確 度の高い値が得 られま

す.こ れを使えば,異 常散乱因子の波長依存性が数値デー

タとして得 られるだけでなく,グラフとして表示できます

ので,吸 収端近傍での異常散乱因子の急激な変化 を一目で

見渡せ ます.

6.2吸 収補正

放射光粉末X線 回折や粉末中性子回折では,キ ャピラ

リーに試料 を充填するデバ イーシェラー光学系が主流 と

なっています.こ の場合,円 筒状試料によるX線 ・中性子

の吸収 を補正 します.μR(μ:線 吸収係数,R:試 料の半

径)は ダイレクトビームを試料に入射 し,そ の透過率を計

測することによって求め ます.す なわち

〓(3)

lo:入 射ダイレクトビーム強度

I:強 度I0の ビームが厚み2R(キ ャピラリーの直径)の

物質を通過 した後の強度

図29,10-ジ オ キ ソア ン トラセ ン(Cl4H802)の 放 射 光 粉 末 回 折 デ ー タの バ ッ ク グ ラ ウ ン ド強 度 をPowderXで 見 積 も り,

拡大表示 している ところ. (Background intensities in synchrotron X-ray powder diffraction data of 9,0-

dioxoanthracene are estamated with PowderX and zoomed on the screen.)

日本結晶学会誌 第44巻 第4号(2002) 249

Page 5: 日本結晶学会誌44,246-254(2002) 実 験 室 - JST

泉 富士夫

という式でμRを 決定 します.も ちろん透過率が1番 低 く

なる2Rに 相当するところを通過 したビームで1を 測定 し

ます.*.insで は,こ うして求めたμ を入力 します.円 筒状

バナジウム試料セルを用いる中性子回折でも,同 様にオR

を決定するべ きです.

わが国の放射光 ・中性子研究施設では,上 記のようにき

ちんと雌 を実測 している粉末回折装置 グループはほとん

どないようです.と いうより,ダ イレク トビームの透過率

を測れるようにさえしていないところがほとんどです.し

かし,X線 や中性子の吸収が大きい物質を扱 う場合,そ の

手間を惜 しむと,必然的に原子変位パラメーターが しわ寄

せ を受けることになります.デ バ イーワラー因子 と吸収因

子は互いによく似た指数関数の形をもつからです.た だ し

SPring-8な どで短波長のX線 を用い,し かも質量吸収係数

μ/ρの小 さい(原 子番号の小 さい)元 素だけからなる化合

物の強度デー タを測定するようなときは,事 実上 吸収補

正は必要あ りません.

6.3結 晶データ ・結晶格子の変換

冒頭で述べた結晶構造作画プログラムVICSは,読 み込

み可能なファイルフォーマッ トの多さにかけては突出 し

ています:

1.VICS独 自のファイル(出 力可)

2.RIETAN-2000/2001Tの ユーザー入力ファイル*.ins

(出力可)

3.CIF(Crystallographic Information File.出力可)

4. ICSD (Inorganic Crystal Structure Database)

5. ICSD-CRYSTIN

6. MINCRYST (Crystallographic Database for Minerals)

7. American Mineralogist Crystal Structure Database8

. CSSR (Crystal Structure Search and Retrieval)

9. FDATICSD

10. CrystalMakerテ キ ス トフ ァ イ ル

11.PDB (Protein Data Bank.出 力 可)

12. Chem3D

13. MDL molfile

14. XMol XYZ(出 力 可)

15. MOLDA

4,6,7の 無 機 化 合 物 ・鉱 物 結 晶 構 造 デ ー タベ ー スの ほ か,

金 属 ・金 属 問 化 合物 を収 録 す るCRYSTMET19)はCIFを,

有 機 ・有 機 金 属 化 合 物 を収 録 す るCambridge Structural

Database20)はCIFとPDBフ ァ イ ル を 出 力 で き ま す か ら,

主 要 結 晶 構 造 デ ー タベ ー ス の検 索 結 果 はす べ て*.insに 取

り込 め ます.残 念 なが ら,カ ル テ シ ア ン座 標 を採 用 して い

る11番 ・以 降 の フ ォー マ ッ トの 結 晶 デ ー タは,*.insで 再 利

用 す る わ け に い き ませ ん.

RIETANで は 文 献21の7章 に収 録 され て い るcell/origin

choiceを 与 え ます.例 え ばR3mの 菱 面 体 格 子 を採 用 す る

場 合 は,空 間 群 を‘A-166-2'(Vol.A,No.166,第2設 定)と

いうように指定 します.斜 方晶系の場合,

abc bac cab cba bca acb

とい う6つ の 異 な る 軸 設 定 が 存 在 し ます(文 献21,Table

4.3.1).こ れ らの うち文 献21の7章 に記 載 され て い るの は

abc設 定 だ け で す か ら,2番 以 降 の 設 定 番 号 は斜 方 晶 系 に

は存 在 しませ ん.例 え ば 高 温 超 伝 導体 の場 合,c軸 がCuO2

二 次 元 平 面 に垂 直 に な る よ う に セ ッ トす るの が 普 通 で す.

そ の慣 例 に従 え ば,YBa2Cu4O8はAmmm(cab設 定)と い う

空 間 群(No.65)に 属 す る こ と に な り ます か ら,abc設 定

に相 当 す る空 間 群Cmmmに お け る結 晶 軸 と分 率 座 標 に変

換 し,空 間群 を‘A-65-1'あ る い は‘A-65'と 入 力 しな い と,

RIETANに は 処 理 で き ませ ん.こ の ほ か,六 方 格 子 と菱 面

体 格 子 の 変 換 やb軸 ・c軸 を 主 軸 とす る 単 斜 格 子 の 変 換

な ど も よ く行 わ れ ます.

結 晶軸 ・原 点 の 変 更 に伴 う座 標 変 換 の よ う に面倒 で 間違

い やす い汚 れ仕 事 は,コ ン ピ ュ ー タに まか せ るべ きで し ょ

う.VICSのEdit Dataダ イ ア ロ グ ボ ッ ク ス 中 で “Update

parameters with current settings”をチ ェ ッ ク した 後,軸 設

定 の番 号 を変 え るだ けで,格 子 定 数 とすべ て の 分 率 座 標 を

瞬 時 に変換 して くれ ます(図3).そ の 後,Exportボ タ ンを

ク リ ッ ク し*.insと して 保 存 す れ ば,直 ち に 粉 末 回折 パ タ

ー ンの シ ミュ レー シ ョ ンや リ ー トベ ル ト解 析 へ と移 行 で

き ます.こ の よ う に,VICSに は種 々の デ ー タベ ー スや 文

献 か ら得 た結 晶 デ ー タか ら*.insを 作 成 す る 変換 ソ フ トと

して の 使 い 道 もあ り ます.

図3VICSのEdit Dataダ イア ロ グ ボ ッ クスでYBa2Cu4O8

の 空 間 群 をAmmm(cab)か らCmmm(abc)に 変 換

す る た め に軸 設 定 番 号 を変 え る.(ln the Edit Data

dialog box in VICS, the setting number is changed

to convert the space group of YBa2Cu4O8 from

Ammrn to Cmmm. )

250 日本 結 晶学 会 誌 第44巻 第4号(2002)

Page 6: 日本結晶学会誌44,246-254(2002) 実 験 室 - JST

RIETAN徹 底 活 用 ガ イ ド(1)入 出 力 フ ァ イ ル

6.4ピ ーク位置に関係するパラメーター

リー トベル ト解析や全回折パターン分解(Le Bail解 析

を含む)を順 調に収束 させるうえで最重要なことは,真 の

値 にで きるだけ近い格子定数を初期値 として入力するこ

とです.ピ ーク位置を規定する格子定数が真値から遠ざか

るにつれて,残 差二乗和が急激に増大するのは直感的に理

解できましょう.安定 ・確実な収束にとって致命傷になり

かねません.例 えば,か な り多 くの異種金属 をドープした

置換型固溶体の解析を行 う際,端 成分の格子定数をICSD

やCRYSTMETな どで調べ,そ れらを初期値にしたならば,

まず解が発散 して しまうで しょう.なんらかの手段で適切

な格子定数を求め,そ れらを初期値にするよう心がけてく

ださい.

RIETAN-2000で 用いるピーク位置のシフ トに関係する

パラメーターは次のとお りです:

Thompson, Cox, Hastings22)の擬フォークト関数:Z,DS,Ts~

分割擬フォークト関数 分割 ピアソンVII関 数23):t0,t1,t2,t3

これらのパラメーターは格子定数 との相関が極めて強 く,

格子定数 とともに精密化するのはほとんど不可能です.厳

密 に言えば,格 子定数を高確度で決定するには,NISTの

SRM640c(Si粉 末)の ような回折角標準試料 を内部標準

として混ぜ,標 準試料の格子定数 を固定 した多相 リー ト

ベル ト解析 を行うべきです.と いっても,標 準試料はかな

り高価であ り,試 料が回収で きなくな り,多 相試料だと解

析精度が悪化することか ら,リ ー トベル ト解析のたびに

標準試料を混ぜて回折データを測定するのは現実的であ

りません.測 定試料 と同程度の線吸収係数をもつ物質と

標準試料を混合 して測定 した強度データから決定 したパ

ラメーターに固定するという妥協策 をとることをお奨め

します.た だし,測 定ごとに動 きやすい零点シフ トZあ る

いはt0は 常に精密化 したほうが よいか もしれません.も

ちろん,こ のような外部標準による測定は,回 折計の使用

状況や試料の種類などに応 じて臨機応変に行 う必要があ

ります.

6.5X線 回折における化学種の選定

講習会などでよ く受ける質問は,粉 末X線 回折 データ

の リー トベル ト解析で,ど の化学種を使 うべ きか,と いう

ことです.RIETAN-2000で は,4つ の指数関数 と定数項の

和で原子散乱因子.fを近似する式24)を 用い.asfdcと いう

テキス トファイルに格納 してある9つ の係数から任意の

sinθ/λにおける.fを計算 します.V,V2+,V3+,V5+に 対 して

計算 したfを 図4に プロットしました.酸 化状態の異なる

化学種の原子散乱因子に実質的な差が生 じるのは,sinθ/λ

が小 さい領域,言 い換えれば低角領域だけであることがわ

か ります.原 子核から遠 く離れた外殻電子はsinθ/λが小 さ

い ところのfに しか寄与 しない25)ためです.

低角領域の反射は占有率を精密に決定するのにとりわけ

重要であ り,低 角に反射が出現する不定比化合物では慎重

図4v,V2+,V3+,V5+の 原 子 散 乱 因 子 のsinθ/λ 依 存 性.

(The dependence of the atomic scattering factors

of V, V2+, V3+, and V5+onsinθ/λ)

に化学種を選ぶ必要があ ります.逆 に低角に反射が存在 し

ない化合物では,ど れを選んだところで解析結果には大差

ありません.酸 化物や硫化物は大なり小なり共有結合性を

もち,孤 立 した陽 ・陰イオンからなるわけではあ りません

から,形 式電荷にこだわることはないと思います.現 に,

O2-イ オンはasfdcか ら除外 されています.ど うして も02一

イオンのfを 使いたいときは,文献26を 参照 して ください.

6.6分 率 座 標

ラ フな値 を入 力 して は な ら な い の は,格 子 定 数 ば か りで

は あ り ませ ん.特 殊 位 置 の 分 率 座 標 の うち,1/6,1/3,2/3

の よ う な 割 り切 れ な い 数 が あ る 場 合 に は,そ れ ぞ れ

0.166667,0.333333,0.666667と い う よ うに,横 着 せ ず に6

桁 以 上 入 力 して くだ さ い.RIETANは 同価 位 置 同士 が 重 な

る か ど うか を判 定 して 構 造 因 子 の計 算 に必 要 な 同価 位 置

を選 ぶ ため,3桁 程 度 しか 入力 しな い と,重 な りの判 定 を

誤 る可 能性 が あ ります.

7.Le Bail解 析 用 中 間 フ ァ イ ル*.ffiと*.ffo

RIETAN-2000に よ るLe Bail解 析 で は,各 反射 の プ ロ フ

ァ イ ル を計 算 す る範 囲 を段 階 的 に広 げ て い か ね ば な り ま

せ ん.4).15)ブラ ッ グ反射 強 度 の計 算 値 が(ピ ー ク位 置 で の ブ

ラ ッ グ反射 強 度 の計 算 値)×PC以 上 とな る2θ 範 囲 内 で 計

算 す る と し ま し ょ う(PC: Profile Cutoff).回 折 装 置 と試

料 に依 存 し ますが 通常 はPCを16%程 度 の極 端 に 高 い 値

か ら0.2%程 度 に数 段 階 で 減 少 させ な が ら.Le Bail解 析

を繰 り返 し ます.各Le Bail解 析 終 了 後 に*.ffoと い う フ ァ

イルが 出 力 され ます(図5).*.ffoの 各行 に は 回折 指 数hkl,

半 値 全 幅,観 測 積 分 強 度|Fo|2,格 子 面 間 隔d,ピ ー ク位 置

2aプ ロ フ ァ イルの 面 積,相 対 プ ロ フ ァ イル面 積 が 書 か れ

て い ます.PCを 減 ら して次 のLe Bail解 析 に 移 行 す る 際

日本 結 晶 学 会 誌 第44巻 第4シ ナ(2002) 251

Page 7: 日本結晶学会誌44,246-254(2002) 実 験 室 - JST

泉 富士夫

図5Cimetidine(C10H16N6S)の 放 射 光 粉 末 回 折 デ ー タのLe Bail解 析 後 に 出 力 され た*.ffoフ ァ イ ル.(A*.ffo file

output after the Le Bail analysis of synchrotron X-ray powder diffraction data for Cimetidine.)

に*.ffoを*.ffiと 改 名 して お け ば,こ の フ ァ イル 中 の|Fo|2

を|Fc|2の 初期 値 と して 読 み 込 む こ とが で き ます.拡 張 子

の 最 後 の 文 字 が そ れ ぞ れoutputとinputを 表 して い ます.

*.ffoは 粉 末 構 造 解 析 シ ス テ ムEXPO27)中 の 直 接 法 プ

ロ グ ラ ムSIRPOW28)で 直接 読 み 込 め る フ ォ ー マ ッ トを も

って い ます.EXPOはLe Bail解 析 プ ロ グ ラ ムEXTRA29)

を含 ん で い ます が,RIETAN-2000に 比 べ る と プ ロ フ ァ イ

ルの フ ィ ッ トと い う点 で 劣 っ て お り,正 しい近 似 構 造 が

SIRPOWで は 導 き出 せ な い こ と さ え あ り ます.4)そ うい う

場 合 は,RIETAN-2000とSIRPOWを*ffoを 介 して 連 携 さ

せ る と よ い で し ょ う.EXTRAにRIETAN.2000の 前 座 を

つ とめ させ る とい う手 もあ り ます.4)EXTRAは 全 自動 で

IF。12を 求 め て くれ ます か ら,こ れ ら をRIETAN-2000に

よ るLe Bail解 析 の 初 期 値 に 使 え ば,か な り小 さいPCを

出 発 点 と して も大 丈 夫 な はず です.

8.解 析 ・シ ミュ レーシ ョンパ ター ンプロ ッ ト用

フ ァイル,*.pat

リー トベ ル ト解析 やLe Bail解 析 で は,観 測 ・計 算 ・差

パ ター ン を適 宜,表 示 して 解 析 の 進 み 具 合 を チ ェ ッ ク し

ます.解 析 パ ター ン は,順 調 に収 束 しな い と き,そ の 原 因

を突 き止 め る の に 有 効 で す.ピ ー ク位 置 や プ ロ フ ァ イ ル

の 半 値 幅 は よ く合 っ て い る か,計 算 強 度 と実 測 強 度 が 大

幅 に 食 い 違 っ て い な い か ど うか,不 純 物 の 反 射 は 出 現 し

ない か,と い っ た こ とを 一 目で 認 識 で きます か ら,解 析 結

果 の リス トを眺 め る よ り よほ ど有 効 な こ とが 多 い で す.

RIETAN-2000はIgor Pro30)とgnuplot31)用 の 解 析 ・シ

ミュ レー シ ョンパ タ ー ンプ ロ ッ ト用 フ ァ イ ル*.patを 出力

し ます.*.patの 内 容 を 表 示 ・印 刷 す る に は 商 用 ソ フ ト

Igor Proが 圧 倒 的 に 便 利 か つ 高 機 能 で す が,学 生 が 個 人 的

に 開発 元 か ら直接 購 入 す る場 合($85)を 除 き,か な り高

価 だ と言 わ ざ る を得 ませ ん.gnuplotは 独 自の コ マ ン ドを

駆 使 しな け れ ば な らず,GUIに 慣 れ きっ た 方 々 に は 少 々

敷 居 が 高 い で し ょ う.し か し,さ ま ざ ま な グ ラ フ を プ ロ

ッ トで きる 汎 用 フ リー ソ フ トウ ェ ア な の で す か ら,尻 込

み し な い でぜ ひマ ス タ ー して ほ しい で す.gnuplotを 用 い

た*.patの 表 示 につ い て は,RIETAN-2000配 布 フ ァ イ ルの

readmeに 詳 述 してお き ま した.懇 切 丁 寧 なgnuplot入 門 サ

イ ト32)を 閲 覧 す る こ と もお 奨 め します.

筆 者 の 知 る 限 り8種 類 の*.patプ ロ ッ ト用 フ リー ソ フ

トウ ェ ア がWeb上 で 配 布 され て い ます.5)独 田 地 獄 斎 作

RIETVIEW33)は 高 速 が 売 り物 のWindowsプ ロ グ ラム で す

が*.patの ドラ ッ グ&ド ロ ッ プ,カ ー ソ ル 位 置 の リア ル

タ イム 表 示,グ ラ フの 部 分 的 拡 大(図6)も 可 能 で す.日 常

の 解析 で 手 軽 に使 うに は こ れ で 十 分 一 とい う印 象 を受 け

ま した.掘 り出 し物 と して 推 薦 し ます.

RIETANを 用 い て得 た 解 析 結 果 を報 告 す る 論 文 を眺 め

て しば しば残 念 に思 う の は,自 動 的 に プ ロ ッ トされ た図 が

無 造 作 に使 わ れ て い る こ とで す.例 え ば,残 差 曲線 がx軸

と接 触 しか ね な い ほ ど底 部 に置 か れ て い る 図 を よ く見 か

け ます.Igor Proの 場 合,Graph→Modify Trace Appearance

でTraceと してdeltaを 選 び,Offset… の チ ェ ッ クボ ック ス

を ダ ブ ル ク リ ッ ク し,Y Offsetを 適 当 な値 に変 え れ ば,残

差 曲線 がy軸 に 平 行 に移 動 し ます.残 差 曲 線 の 位 置 に応

じてy軸 の作 画 範 囲 の 下 限 も調 節 す る とい い で し ょ う.ピ

ー ク位 置 を表 す 短 い縦 棒 も同様 に シ フ トで き ます .こ の ほ

か,軸 の 目盛 フ ォ ン トの 大 き さ,セ ン タ ー シ ンボ ルの 大

き さ な ど を適 切 に設 定 す る こ とに よ り,ず っ と見 栄 え のす

る 図 が 出 来 上 が ります.も ち ろ ん*.ins中 のIgor Pro関 連

の 設 定 を適 切 に変 更 す る の で も結 構 で す が,そ の 場 合 は も

う1度RIETANを 走 らせ な け れ ば な りませ ん.

なおIgor Pro用 に は,reflection IPFと い う シ ン プ ル な マ

ク ロ も提 供 して い ます.各 反射 のhkl,4,2θ(TOF中 性 子 回

折 で は飛 行 時 間t)を ス クリー ン上 で調 べ る の に重 宝 します.

252 日本結晶学会誌 第44巻 第4号(2002)

Page 8: 日本結晶学会誌44,246-254(2002) 実 験 室 - JST

RIETAN徹 底 活 用 ガ イ ド(1)入 出 力 フ ァ イル

図6Cu3Fe4(PO4)6のX線 リ ー トベ ル ト解 析 パ タ ー ン をRIETVIEWで 表 示 し,グ ラ フ の 一 部 を 拡 大 し よ う と して い る

と こ ろ.(With RIETVIEW, X-ray Rietveld-analysis patterns for Cu3Fe4(PO4)6 are displayed and zoomed on the

screen.)不 純 物 相 はCu3(pO4)2とCu2p2O7.

9.結 晶構造作画用ファイル

ユ ー ザ ー 入 力 フ ァ イル*.insと 同 じ フ ォ ル ダ に結 晶 構 造

作 画 プ ロ グ ラ ムVICS9)形 式 の 入 力 フ ァ イ ル*.vcsと

CrystalMaker34)(Mac OS専 用)テ キ ス トフ ァ イル*.cmtを

置 く と,リ ー トベ ル ト解 析 後 にRIETANが そ れ らの フ ァ

イ ル 中 の 格 子 定 数 と分 率 座 標 の 部 分 を 自動 的 に最 新 値 に

更 新 し ます.便 宜 上,2節 で は 入 出 力 フ ァ イ ル の リ ス トか

ら省 きま した が,RIETANが そ の よ うな サ ー ビ ス を提 供 し

て い る こ と を覚 え て お くと得 を し ます.こ の 結 晶 デ ー タ

更 新 機 能 が 便 利 な の は,作 画 領 域,原 子 ・結 合 ・配 位 多 面

体 に 対 す る 設 定,結 晶 模 型 の 種 類 な ど を再 入 力 せ ず に済

む こ とで す.残 念 な が ら,CrystalMakerテ キ ス トフ ァ イ ル

は除 去 した原 子,縮 尺,模 型 の 向 きな どに 関 す る情 報 を含

ん で い ませ ん.つ ま り重 要 な情 報 の 一 部 を企 業 秘 密 と し

て バ イ ナ リ ー フ ァ イ ル 中 に 隠 蔽 して い る の で す.一 方,

VICSは 何 も隠 し立 て せ ず.完 全 に 同 じ画 像 を 再 現 して

くれ ます.フ リ ー ソ フ トウ ェ ア の 強 み は こ うい う と こ ろ

に も顕 在 して い ます.

10.CIFの 作 成

RIETAN-2000配 布 パ ッケ ー ジ はRIETANの 計 算 結 果 を

収 め た フ ァ イ ル(プ リ ン ター 出 力 に該 当)*.lstをCIF35)に

変換 す る ユ ー テ ィリテ ィーlst2cifを 含 んで い ます.多 相 試

料 も扱 え ます.CIFは 結 晶 デ ー タを記 録 す る た め の 由 緒 正

しい形 式 の フ ァ イル です か ら,さ まざ ま な 目 的 に使 え ます.

筆 者 の場 合,結 晶 構 造 の 作 画 プ ロ グ ラム(ATOMS,36)Crystal

Maker, Balls & Sticks,37) VICS)でCIFを 読 み 込 ませ た ほ

か,Acta Crystallgr.とJ. Solid State Chem.に 論 文 を投 稿 し

た 際,CIFを 提 出 す る よ う 求 め られ ま した.念 の た め に

CIFが 文 法 どお りに記 述 され て い るか ど うか をvcif38)で チ

ェ ッ ク し ま した が,規 則 違 反 を摘 発 され ず に済 み ま した.

VICSは*.insを 直接読み込めますが,VICS関 連でlst2cif

の出番がな くなる,と い うことはあ りません.*.insに は

格子定数や分率座標の標準偏差が含 まれていませんから,

原子間距離 結合角,ね じれ角を標準偏差つきで表示 させ

たい ときには,CIFが 必要です.こ れか らもおおいに活用

してほしいです.

11.む す び

このように入出力ファイルの数が増 したのは,周 辺プロ

グラムによるRIETANの 機能増強を計 ったためです.な

にもかも1つ のプログラムで片づけるというのは避け,フ

ァイルを介 してRIETANと の連携 を計 り,RIETANが あ

りきた りのパソコン上でも軽快に動 くよう努めています.

グラフ作成ソフ ト,ORFFE,MEM解 析プログラム,VICS,

VENDな どが提供する機能をRIETANに 詰め込んだとし

たら,ふ つうのパソコン上では,ほ とんど身動 きがとれな

いような肥満ソフ トになったことでしょう.こ れらの周辺

ソフ トを徹底的に活用することによりRIETANは 初めて

真価 を発揮する一 ということを心に刻み込んでおいて く

ださい.

文 献

1) F. Izumi and T. Ikeda: Mater. Sci. Forum 321-324, 198 (2000).

2) 泉 富 士 夫,池 田卓 史:日 本結 晶学 会誌42,516(2000).

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K. Oikawa: Mater. Sci. Forum 378-381, 59 (2001).

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5) http://homepage.mac.com/fujioizumi/rietan/angle_dispersive/angle

_dispersive.html

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日本結晶学会誌 第44巻 第4号(2002) 253

Page 9: 日本結晶学会誌44,246-254(2002) 実 験 室 - JST

泉 富士夫

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38) http://www.iucr.org/iucr-top/cif/software/vcif/

プ ロ フ ィー ル

泉 富士 夫Fujio IZUMI

物 質 ・材 料研 究機 構 物 質研 究所

Advanced Materials Laboratory, National Institute

for Materials Science

〒305-0044茨 城 県 つ くば市 並 木1-1

1-1 Namiki, Tsukuba, Ibaraki 305-0044, Japan

e-mail: IZUMI.Fujio@ nims.go.jp

254 日本結晶 学 会 誌 第44巻 第4号(2002)