どろろ
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映画「どろろ」の感想。TRANSCRIPT
二〇〇七年二月一日
どろろ
手塚治虫さん原作の映画「どろろ」観てきました。
原作の漫画やアニメは見たことがないので、特別に思い入れ
があったわけではないのですが、命の大切さを描いた物語とい
うところにひかれて、ぜひ観に行きたいと思っていたのです。
最近はあまりテレビを見ていないので、世の中の様子には疎
くなっているのですが、それでも、インターネットで配信され
るニュース記事のタイトルなどを見ていると、毎日のように残
虐な事件が起きているようですね。バラバラ殺人や幼児虐待、
いじめや自殺……。このような事件は、何も今に始まったこと
ではありませんが、最近は特に深刻化しているような気もしま
す。命
の大切さというものに対する認識がどこかゆがんでしまっ
ていて、平気で人を傷つけたり、生き物を殺したりしてしまい
ます。そういったことへの罪悪感すら抱けなくなっています。
たいていの人は、「自分はそんなことは絶対にしないから大
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丈夫」と思っているかもしれません。しかし、そう思った時点
で、あなたは単に「傍観者」になって現実から逃げているだけ
なのです。本当に危険なのはあなた自身だという現実には、な
かなか向き合うことはできません。
毎日どこかで悲惨な事件が起きていることを知っていても、
まるでテレビドラマやハリウッド映画でも見ているかのような
錯覚を起こし、「しょせんは他人ごと」としか思えない。そう
いった、私たち一人ひとりの認識の甘さも事態を深刻化させて
いる要因のひとつではないでしょうか。
そして、ほんの些細なことがきっかけで、その手で命を奪っ
ていたりするのです。気がついたときにはもう手遅れで、後悔
することしかできません。
そういったことを憂いていたときに、ちょうど「どろろ」と
いう映画が公開されることを知り、このタイミングで作られた
この映画に興味を持ったというわけです。
公開は先月27日でしたが、週末ということもあり、初日から
観に行っても人が多くて大変だろうなぁという気もして、今日
まで待ちました。今日はたいていの映画館では「映画の日」と
いうことで、通常は1700円のところを1000円で観るこ
とができます。しかも平日なので人は少ないはず。一番最初の
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上映時間に間に合うよう、朝早くに家を出ました。
映画館は、以前「ダ・ヴィンチ・コード」を観に行った「岡
谷スカラ座」です。それ以来だとすると、もう半年以上も映画
を観に行ってなかったことになります。予想通り、中はがらが
らでほとんど人はいませんでした。ポップコーンを買ってき
て、映画館のほぼ中央の座席を確保。ポップコーンをポリポリ
と食べていると、昔ロスに住んでいたころ、毎週のように友達
と映画館に通って、バターたっぷりのポップコーンを食べなが
ら映画を観ていたことを思い出します。あのころは、映画館に
行くのがごくありふれた日常の出来事だったのに……。
さて、映画の感想ですが、「どろろ」は2時間以上もある大
作であるにもかかわらず、最初から最後まで飽きることなく楽
しませてもらいました。ニュージーランドでロケをしたという
ことで、背景の美しさにも期待していたのですが、その辺はほ
んの数カット、いいなぁと思う場面があった程度でした。ま
あ、背景を見せる映画ではないので、このくらいのほうがバラ
ンスが取れていて良かったのではとも思います。時代劇という
と、水戸黄門だとか子連れ狼だとかをイメージしてしまうもの
ですが、ロケ地のおかげで、そういったイメージとはまったく
異質な空間を作り出すことには成功していたと思います。
思っていたほどおどろおどろしい雰囲気はなく、残虐な場面
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も少なく(ショッキングな場面はいくつかありますが)、子供
が見ても大丈夫なレベルだったと思います。
他の人のレビューなどを見てみると、CGなどで表現する妖
怪の技術レベルが低すぎてがっかりしたというような意見をた
びたび見かけるのですが、こういった表現は、これくらいのほ
うがちょうどよかったのではとも思います。リアルすぎると残
虐になりすぎるとか、そういうことではなくて、こういうマン
ガ的なところがあるから映画は楽しめると思うのです。そもそ
も手塚治虫さんの原作自体が漫画であるわけで、その漫画とし
ての面白さを、実写にしたからといって無理につぶしてしまう
必要はないでしょう。実写だからこそ、マンガ的な面白さをど
んどん取り入れていって欲しいと思うくらいです。もちろん、
リアルすぎて現実との区別がつかなくなるというのも、大変危
険なことだと思います。ファンタジーはファンタジーらしく描
くべきなのです。
主人公の百鬼丸に妻夫木聡さん。どろろに柴咲コウさん。最
初から最後まで、ほとんどこの2人だけで話が進んでゆきま
す。まるで二人舞台でも見ているような感じです。そういうシ
ンプルな構成なので、非常にわかりやすい映画でした。(関係
ないですが、「劇団ひとり」さんも出てたりして。)
男の私が見れば、普通は女優の柴咲コウさんに目が行ってし
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まうものですが、今回は、妻夫木聡さんがあまりにもかっこよ
くて、男の私でもほれぼれしながら見入ってしまいました。妻
夫木聡さんが出ている作品は今回初めて見たのですが、少なく
ともこの映画では非の打ち所のない最高の演技だったと思いま
す。やっぱり、ただのイケメンアイドルとは違いますね。
柴咲コウさんのほうは、「どろろ」を演じるという点では見
事だったとは思います。ただ、残念なことに、女性としての魅
力ゼロの役柄。それは仕方のないことなんですが、なんで柴咲
コウさんなのかなぁと、最後まで腑に落ちないまま終わってし
まいました。カワイイけれどブサイク(カワブサ?)でした。
悪役(百鬼丸の父)の醍醐影光役に中井貴一さん。貫禄のあ
る演技で、この映画をきりっと引き締めてくれました。百鬼丸
のような若者が父を乗り越え大きく成長していくというテーマ
(たくさんあるテーマのひとつですが)を描くには最高の配役
だったと思います。前半のシーンで、自分の子供を犠牲にして
でも野望を成し遂げようとする醍醐景光が描かれますが、それ
はまさに、現代のもっとも忌むべき悪を象徴したものといえる
でしょう。最後には、逆に自らを犠牲にして子を救うことにな
るわけですが、今の大人たちも、これからはそういった使命に
目覚めるべきなのです。
百鬼丸は自分の体の48ヶ所を魔物に奪われているので、死体
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から作った人工の体を持っています。最初に出来上がったのが
人工心臓。手足のみならず、目も耳も、声もすべて人工です。
まるでフランケンシュタインのような体なのですが、魔物を倒
すことで奪われた体のパーツをひとつずつ取り戻すことができ
ます。
人工の部分は魔法の力がかけられているのか、刺されてもす
ぐに傷がふさがってしまいます。心臓すら人工なので、ほとん
ど不死身です。一度、どろろに心臓を刺されたこともありまし
たが、もちろん平気でした。
喉を取り戻したときは初めて自分の声で喜びの叫びを上げ、
耳を取り戻して初めて聞いたどろろの声に「うるさい」とわめ
き、取り戻した腕を魔物に噛み付かれて血を流し、苦痛にうめ
く。目を取り戻して初めてこの世界の美しさ(ニュージーラン
ドの背景が映えます)を知る。体を取り戻すごとに、「なんだ
か世界が小さくなったようだ」と百鬼丸は言う。
でも、それが生きているということなんだと、百鬼丸が感じ
ていたように、観客もまた気づき始める。
心臓を突き刺しても死なない百鬼丸は、まさに、「命の大切
さ」を見失ってしまった現代の我々の感覚を象徴した存在で
す。そこには、生きる喜びなど感じられるはずもありません。
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世界はただ虚しいばかり。
今こそ、私たちも百鬼丸のように失ったものを取り戻し、
「命」というもの、「生きる」ということ、そして、「死」と
いうものに、真剣に向き合うべきなのです。
この映画の最後に百鬼丸が取り戻した体は「心臓」でした。
私はこれを見て救われたような気がしました。体のパーツはま
だ半分残っているので、これで最後というわけではないのです
が、心臓を取り戻したことで、ようやく生きた血の通う人間ら
しさを取り戻したような気がしたのです。
百鬼丸はもう不死身ではなくなってしまいました。刺しても
傷は消えないし、いつかは死ぬのです。でも、それが、人間ら
しく生きるということです。限りある命だからこそ、生きる喜
びもある。この映画を見て、ひとりでも多くの人にそういった
ことを感じてもらえればと思います。
必死に生きて何が悪い!
アポロ
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