障害児支援における記録用紙「ヒトマト」導入の効果ー子ども、支援員双方への「援助・援護・教授」機能に着目してー...
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2013.3.22 当事者主体の学びについて@立命館大学
石幡愛(NPO法人クリエイティブサポートレッツ / 東京大学教育学研究科)
田中保帆(NPO法人クリエイティブサポートレッツ)
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障害児支援における支援員の学び
• 障害児支援は、障害児に対するサービス(対人援助)であると同時に、支援者同士の学び(支援者支援)の場でもある。
• 学びの支援に関する対人援助学の枠組みは、支援者支援にも適用できるのでは?
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援助・援護・教授
望月(2007)
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今できる選択肢を用意する。一旦基準を緩める。
選択肢や基準を社会に向けて主張する。
援助設定をした上で、必要な行動を教える。
リサーチクエスチョン
• 障害児支援は、障害児に対する「援助・援護・教授」であると同時に、支援員に対する「援助・援護・教授」でもある。
• 支援者の学びを支える環境のひとつとして、振り返りと記録のためのツール「ヒトマト」に着目。
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「ヒトマト」は、支援員の支援行動に対して、どのような役割を果たしているのだろうか?
実践場所の概要(2012.4時点)
• 障害福祉施設アルス・ノヴァ(静岡県浜松市)の放課後等デイサービス
• 支援員:正職員4名、準職員3名
• 利用者:知的・精神・発達障害の小中高校生
• 施設の方針
– 「診断名」ではなく「個人」から始まる支援
– 問題行動の読み替えによる価値の転換
– 時として、社会の既存の価値観や規範に捕われない支援
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データと収集方法
• 記録用紙「ヒトマト」の使い方(4〜6月, 他随時/観察)
• 対象児Aに対する支援員の見立てと関わり方の変化(4〜11月/ヒトマトの記述、支援の産物などの資料収集)
• 支援全般に関する支援員の意識や効力感の変化(6月, 他随時/インタビュー)
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支援員プロフィール(2012.4時点)
支援員B(29歳,男性)
•勤続2年
•精神保健福祉士
•専門:社会福祉
•他施設勤務経験あり
•Aくん担当者(2012年3月~8月)
支援員D(25歳,男性)
•勤続1年8ヶ月
•保育士
•専門:保育
支援員C(28歳,男性)
•勤続1年6ヶ月
•専門:工業デザイン
支援員E(23歳,女性)
•勤続1年
•保育士
•専門:芸術教育
•Aくん担当者(2012年9月~現在)
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ヒトマトリックス(通称:ヒトマト)
真ん中に名前が書かれたA4の紙
出来事や思ったことを書く
支援員ごとにペンの色が決まっている
誰かが書いたことに
他の人が情報やコメントを加える
日付を記入
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ヒトマト導入の経緯
時期 出来事
2011年春 • 利用者一人につき支援員一人が様子を記録• 問題行動などを口頭で共有⇒振り返りがつまらない。積み重ね感がない。一方で、雑談で共有されるエピソードは豊か。
2011年夏 ドキュメント展「佐藤は見た!!!!!」開催• 福祉施設の日常のエピソードを発信• 各支援員の目線で「面白いこと」を展示
2011年秋冬 「佐藤は見た!!!!!」の経験を踏まえて、日々の支援と記録の方法を見直すための議論。
2012年4月 ヒトマト導入
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ヒトマトを用いた振り返りの様子
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事例:Aくんのプロフィール(2012.4時点)
• 特別支援学校に通う12歳男児
• 自閉症
• 2010年6月から当施設を利用
• 外国出身で、スペイン語(家庭)・日本語(学校、施設)を理解
• 音声による発話もあるが、発音がうまくできず聞き取ることが難しい
• 2011年4月頃~支援員Eとジェスチャーで会話をはじめる
• 2012年4月当初は他害(他の人の目を突く、叩く)が問題視されていた
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ヒトマトの使い方:振り返り
• 子どもと職員一人一人に1日1枚のシート
• どんなことをしていたか、それを見てどう思ったかなどを職員全員で記入
• 個人のバインダーで保管
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ヒトマトの使い方:漉し作業
• それぞれの子どもの担当者が、たまったシートを見返して、その子の特徴や今後の目標を書き出していく
• 支援員のヒトマトの漉し作業は今のところやっていない
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ヒトマトの使い方:漉し作業
• 漉し作業で出てきた、その子の特徴、今後の目標などの中から、特にみんなで共有すべきことを付箋に書いて、壁に貼る
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ヒトマトの使い方:トピック立て
• 雑多な情報がある程度集まった段階で導入
• 担当者が特に気になることを明示して情報収集
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支援→振り返り
トピック立て
雑多な記録
支援→振り返り
トピック立て
雑多な記録
支援→振返
雑多な記録
支援→振返
雑多な記録
支援→振返
雑多な記録
ヒトマトの使い方の相関図
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漉し作業 漉し作業
場合によっては数回繰り返す
場合によっては数回繰り返す
何に対する援助・援護・教授?
• 子どもの行動
• 支援員の支援行動
– 支援員の子どもに対する見立てや関わり(対子ども行動)
– 子どもの様子や支援員の行動についての振り返り(振り返り行動)
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ヒトマトの機能
1. 子どもの行動の「援護」
• 子どもの良いところ、いまできることを見つけ、みんなに知らせる機能。
2. 支援員の対子ども行動の「援護」
3. 支援員の振り返り行動の「援助」
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Aに対する見立て
「攻撃的」から「通じる」へ
2012.4.4 2012.7.9
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Aの言語行動に関する記述
Aのタクトとイントラバーバルに関する記述の一日平均数※Aの言語行動そのものの指標ではなく、Aの言語行動に対する支援員の注目の指標である点に注意
Aのタクトとイントラバーバルに言及した支援員の一日平均人数※同左
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0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
1.4
1.6
4月 5月 6月 7月
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
1.4
4月 5月 6月 7月
「おしゃべり」「いろいろ教えてくれる」「語彙が増えた」との記述
Aに対する支援
手話辞典プロジェクト
•Aの話し相手を増やすため、彼の手話をイラストと文字で示した辞典を作成。
•そのプロセス自体が、彼のできること(手話によるコミュニケーション)を見つけ、共有し、分化強化する支援だった。
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ヒトマトの機能
1. 子どもの行動の「援護」
2. 支援員の対子ども行動の「援護」
• 支援員の良いところ、いまできることを見つけ、みんなに知らせる機能。
3. 支援員の振り返り行動の「援助」
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支援員どうしの「いいね!」
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見る、見せる、見られる(6月インタビュー)
• あの人はあの子に今こういうふうに関わっているんだなというのが共有できているので「やってるやってる」とか「これからどうなるんだろう」と期待して見ていられるようになった。(Cさん)
• 待つという支援をしたいときに、何もやっていないんじゃなくて、支援として待っているんだと、はっきり言えるようになったので、やりやすくなった。(Eさん)
• ヒトマトに書いたことに対して、他の人がコメントしてくれる。ちゃんと見られている安心感。去年とやってること自体は変わらないけれど、これでいいんだという自信を持てた。(Dさん)
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ヒトマトの機能
1. 子どもの行動の「援護」
2. 支援員の対子ども行動の「援護」
3. 支援員の振り返り行動の「援助」
• 支援員がいまできる方法で、振り返りができる状況を整える機能。
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いろんな使い方ができる
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書ける、読める、漉せる(6月インタビュー)
• 誰かに言いたいけど議題にあげるまでもないことが毎日ある。それを吐き出していい時間。(Cさん)
• 今までの記録は後で読み返さなかった。ヒトマトは、カラフルで見やすく内容も面白いので、後で読み返したくなる。
• 自分が見てなかった情報も集まる。漉すのは自分だけれど、独りよがりにならずにすむ。(Dさん)
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新しいことをやってみたくなる
• 「ヒトマト」の限界や難点が、新しい使い方を生み、改良されてきた。
– フィールドワークの手法をアナロジーとした「漉し作業」「トピック立て」
– 全員を時系列で並べるフォーマット
• 道具と結果が同時に生成され、それが連鎖する活動(Holzman, 2008)
• 支援員の振り返り行動の「教授」は、ここで起きている?
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ヒトマトが機能する環境
• ヒトマト導入と同時に3つの仕組みも導入
– 担当制:各職員の独特の視点や関わり方を肯定するための権限の配分
– 曜日固定制:来週の見通しを立たせるために利用者と支援員を曜日固定
– 記録物整理:写真、映像をいつでも見返せるように整理
• 目的に合わせて開発したツール
– 目的が異なれば機能するとは限らない
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