木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

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A THESIS FOR MASTER DEGREE ' :, Ar{ S t udy o f Da t a-Ba s e for Archi t ectura 1 Design in J a p a n e s e Wo o d nrra (,onstruction

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1987年度,修士論文,加藤能治

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Page 1: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

A THESIS

FOR

MASTER DEGREE

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Archi t ectura 1 Designin

J a p a n e s e Wo o dnrra(,onstruction

Page 2: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

はじめに

近年,木材の耐燃性や集成材の構造材としての強度

が評価され,木造で高層や大空間など様々な表現が可

能となりつつあり,わが国の伝統的構法も新たな対応

を迫られている。在来構法により建築を設計するには,

さまざまな要因が加わり,特に架構に関しては未だ定

式化されていないので、ケースにより手法が異なる。

こうした木造軸組構法による建築設計のために,従来

のCADシステムに加え新たな,架構方式の決定が課

題となっている。

卒業論文以来,設計援助を目的としたエキスパー ト

・システムを構築し,設計者にとって使いやすいシス

テムの有り方を考えてきた。具体的には,木造軸組構

法による建築を設計する際に,適当な部材断面を提供

するシステムを開発し,構造法の知識をいかに設計に

利用できるように整理するかを考察した。

木造の軸組構法は複雑な断面寸法にも対応でき,ま

た架構そのものがデザインと直接的に関わりをもつ。

そして, これらの建築の設計に際しては,木材の部材

寸法などが建築基準法等の法規で規定されているわけ

ではない。施工時に現場で柔軟な対応ができる反面,

設計条件を左右する事柄が多 く,適応部材を一律に決

定できない。設計の初心者にとって分かりにくいのも,

木造軸組構法の特色の一つである。これは,在来構法

の設計 ◆施工に関する知識が経験的に獲得されてきた

からであろう。

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Page 3: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

序章

1章 建築設計を支援するコンピュータ・システ■

1-1。 従来の建築設計データ 0ベース

1-2 建築設計支援エキスパート・システム

2章 知識データ 0ベースの構築

2-1.建築設計知識整理の必要

2-2。 木造軸組構法の知識整理

2-3。 建築設計・教育支援システムの試作

3章 試作システムの有効性

おわりに

参考文献

システムの内容

研究目的

研究概要

研究背景 1.木造による空間構成

2.木造住宅設計のコンピュータ利用

Page 4: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

研究目的

 1

木造軸組構法を例として,建築設計上の知識を整理し,

ェキスパー ト◆システムの知識ベースと,データ・ベー

スとの統合環境により,建築設計に際してデータや知識

の効率的運用を図る。本研究では,設計初心者に対する

CAlシステムを試作することによって,設計者にとっ

て使いやすい設計援助システムを考える上で,知識デー

タ 。ベースの有効性を示すことが目的である

Page 5: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

研究概要

序 2

近年,再評価されている木造建築のなかでも軸組構法

に注目し,現状の問題点とコンピュータ利用による建築

設計の可能性を明らかにする。一方,建築設計を支援す

るコンピュータ システムにおいて,従来の建築データ

0ベースを概観し,エキスパー ト・システムが建築設計

支援に有効であることを,い くつかの実例を通して示す。

コンピユ~夕 °システムの中でも,データ 0ベースや知

識ベースが重要であり,建築知識の整理が必要である。

そこで,建築設計のための木造軸組構法の知識整理を行

い,建築設計 e教育支援システムを試作する。ここにお

ぃて,ェキスパート・システムにおける知識ベースと従

来型のデータ・ベースを統合した知識データ 0ベースを

提案する。そして,こ のシステムを例証に木造軸組構法

を建築設計の対象とした際の設計支援システムとして知

識データ・ベースの概念が有効であることを明らかにす

る。

Page 6: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

研究背景

 

1。 木造による空間構成

(1)木造軸組構法

わが国の家屋は,古来から柱と梁や桁などの横架材を組み合わせて作る木造の架構式の

構法が用いられてきた。こうした木造軸組構法の家屋は,開放的で通風が良 く,わが国の

気候風土に最適な構法として古くから活用され,今日の木造建築の主流を占めている。建

築の設計に大きな影響を与える自然条件としては,気温,湿度,降雨 0積雪,風,日 照,

日射などの気候条件である。わが国の気候は概して,夏に雨が多く湿度の高い高温多湿型

である。木材は吸湿性に富み,多湿の時期には湿気を吸収するなど湿度を調節する機能も

あった。

しかし,深雪・寒冷地方と多湿・温暖地方では,気候が著しく異なり,住居の形態や間

取りにも特長がみられる。.地域的な多様性と共に,歴史的な多様性も見逃せない。今日の

木造軸組構法は,地盤に定着した基礎に土台を横たえたり,筋かいで壁に水平力に対する

ようにしたり,洋風構法の手法が取り入れられ, 日本古来の伝統的構法との折衷によって

成立している。すなわち,明治以前の伝統的架構式構法と現在の木造軸組構法との間にも

相違がある。

また,戦後ツーバイフォーなどのフレーム構法が輸入され,現在に到るまで多 くの住宅

が建設され,ま た近年,集成材を用いた大空間の試みが注目されている。木造軸組構法の

多様性のみならず,木造建築は様々な手法と可能性をもち,建築基準法の改正に伴い今後

ますます多様な表現が可能となるであろう。

木造軸組構法は複雑な断面構成にも対応できることに加え,架構そのものがデザインと

直接的に関わりをもつ。そこで,構造法を理解することは設計を進めていく上で欠くこと

のできない大切なことである。しかし,今日の高等専門教育では構造法と設計製図との科

目が分化しており,学生や設計初心者にとって木造軸組構法の設計は困難である。

Page 7: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

(2)近年の木造建築

大規模な木造建築については,戦後わが国では優良大経木が少なくなったことや,鉄骨

構造やRC構造などがめざましく進歩し,ま た都市防災が重視されてきたことなどにより

,それらの設計・施工に関心をよせる建築家や技術者は少なかった。しかし,最近の木材

産業界の不況対策の一環として農林水産省が公共施設に極力木材を使用するように要請し

たことや,業界が需要拡大に努力したことなどがあいまって,関係省庁では建築の木造化

に対して行政指導や各種の助成を行うようになり, これにならって地方自治体で木造建築

に強い関心を寄せ始めている。

林野庁の「モデル木造施設建設事業」には,昭和61年度分で13の市町村などが事業実施

計画を提出し, 9施設が指定を受けた。これらは,大断面の米マツ集成材や小径材・間伐

材で架構をつくるなど,木材利用の新しい提案がなされているも文部省では,木造校舎の

補助を引き上げる措置をとっており,61年度に完成した木造校舎は32校 16513mユ 。木材

の利用状況の傾向は内装主導型である。このほか,建設省は総合技術開発プロジェクトの

中で「新木造建設技術の開発」として,大スバン・大空間の建物の手法を検討している。

(3)木構造の分類

さて, このような木造建築の新しい動きの中で,木造軸組構法はどのように位置づけら

れるのであろうか。現在,在来構法を中心に木材を用いた建築構造方式は「木構造」と呼

ばれている。しかし, ツーバイフォー構法やプレハブ構法が先に述べたように新しい展開

を見せると木構造の内容が多様なものになる。そこで,杉山英男氏 (東京理科大)はこれ

らを「木質構造」として表 1の ように分類している。在来構法とは建築基準法施工令の第

3章第 3節の「木造」に規定されている性質を持つものであり,和風伝統構法と軸組構法

また木骨組積造 0木組土蔵造などに分類される。枠組壁構法とは,今日ツーバイフォー構

Page 8: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

法と呼ばれるものであり,構造方式としてはプレハブ加工による壁式と,壁と軸組を併用

したものがある。

これらの木質構造のうち今日でも建築需要が多く,施工業者の数が最も多いのが軸組構

法である。そこで,本研究では建築設計データ :ベースを考える例としてわが国の木造軸

組構法をとりあげる。

表 1 木質構造の分類 (杉山英男) _

彗榊鎌 ilil :藉呼事簿露■肇J詳響

在来構法

和風伝統構法神社,寺院

数寄屋,茶室,住宅

式組

プレカット

同上

多うtヽ

多い

鷺程{13折衷住宅・事務所 。学校等 軸組(+壁)式 同_L 多 tヽ

木倉庫等 軸組+壁 同上 多 t`

枠 組 壁 工 法

(ツ ーバイフオーエ法)

宅住 壁(+軸組)式壁式 :

無 加 工

プ レハ プ

をF' tヽ

比較的少ない

プレハブ構法

軸組式パネル式

モデュラー式

校倉造

集成材構造

住宅

住宅

住宅

住宅

住宅・ 体育館・教会

軸組式

壁式

壁式

壁式

ラーメン,アーチ式

同上

同上

同上

同上

同上

比較的少ない

少ない

非常に少ない

多い

比較的少ない

Page 9: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

(4)軸組構法の問題点

①構造上の安全性

木造家屋の基準に関しては,建築基準法の木構造の規定や住宅金融公庫の仕様がある。

しかし, これらに適合したからといって必ずしも安全とは言えない。様々な建築構造の中

で,木構造だけが構造計算も構造図も要求されず,矩計図と伏図と仕様書だけで建てるこ

とができる。しかし,多 くの建築家は木構造の力学の教育を受けておらず,大工まかせな

のが実情である。そして,大工も構造力学を教えられていない。ここに迷信とも言うべき

誤解が生まれる。

すなわち,「柱を少し大くすれば丈夫になる」とか「通し柱を沢山使ったから上等だ」

とか「小屋梁に大い材を使ったから問題ない」といった,部材断面を大きくしたら安全で

あるという思い込みである。しかし,通 し柱など少し太くしたところで反対に危険性をま

すことになる。筋違いなども,仕回の不完全なままで太くしても効果はなく,かえって地

震で一瞬に家屋倒壊を引き起こす原因にもなりかねない。

こうした,部材断面を大きく取れば安全であるとの考えは,明治以前の和風伝統構法に

は適応できた。これらは貫通仕口によるラーメン構造であり,柱の寸法の3乗に比例して

耐力が増すのである。しかし,今日の軸組構法は筋違いというトラスによって補強された

壁式構法を併用するもので,継手・仕回の使用を誤れば部材を大くしても危険である。

②施工技能者の不足

軸組構法は現場の施工度の割合が高く,その生産には大工や各種の職人などの技能者に

たよるところがおおきい。しかし,産業構造の変化や社会の高学歴化ιこ伴い, これら技能

者への就業は減少している。こうした事態に対して一部の施工業者の中には木造技術者要

請学校を設立するものもあり,在来構法の継承を図っている。建築家の側も,大工や職人

に任せきりにせずに,軸組構法の知識を設計に活用するシステムが必要である。

Page 10: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

2.木造住宅設計のコンピュータ利用

(1)住宅産業でのコンピュータの利用

社団法人日本木造住宅産業協会の調査によると,住宅産業に於けるコンピュータの利用

分野は図 1の ように,管理・営業部門での利用が最も多 く,積算見積がそれにつぐ。この

点が木造軸組構法が他の建設業とことなる点で,設計や計画段階での利用は多くなかった

ものであった。一方, CADシ ステムの導入による効果は図 2に表されている。これは,

CADシステムを導入している業者にはその効果を,導入を検討している業者には何を期

待するかをたずねたものである。設計業務の省力化に対する期待も効果も高いことがあき

らかである。しかし, CADの導入に伴い,設計者とは別に専属のオペレータが必要にな

ったり1も ある。

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省力化

図面品質の向上

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標準化の促進

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1瞥屯作業からの解放

その他

20 15 10卜概算積算

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拝算計画

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構造計算

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透視図作成

施工図作成

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Page 11: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

(2)木造軸組構法用のCAD

近年,設計 0製図を支援するCADを始めとして建築用のソフトウエアが広 く市販され

ており,木造軸組構法に敵したシステムも充実しつつある。表 2は住宅用CADと して広

く市販されているのもの一部である。現在のCADは製図を主な分野とするが,木造住宅

建築に関しては受注獲得のための見積や顧客へのプレゼンテーションが重要である。そこ

で,住宅用CADには積算や透視図を自動的に生成・処理するシステムが多い。図面情報

は平面図から入力し,立面の情報を平面の属性情報として持つ。こうしたシステムは工務

店などの住宅産業にとっては便利なものであるが,設計事務所や建築家にとっては設計に

利用するには制限があり,使いにくいものである。

表 2 住宅用パソコンCAD一覧

名 対 応 機 種 価格 メーカー・ 販売うt 販売実績 l■業種別

AlD PC-9801 VM′ M′E 日本統計センター 二務店 。設11・l'騎prI ■ 1:

CAE― HOME N5200t7~ル 07 日本電気 工務店 0設計事務所 あらゆる工法

CADMAC PC-980:シ リーズ システムマック 工務店・ 不動産業 4来

コスモキャド85 IBM 5560 1000 37.tr-rvl: 工務店・設計事務所 在来

Free hand PC 9801シ リーズ エフ企画 工務店 冶i来

HOUSE パナファコム C-280 日本電子計算 住宅・ 不動産業 al来・2X4・ プレハブ

,\r7 ,{- l.,l- PC-9801シ リーズ 綿半エレク トロニクス

工務店・設計1`務所 在来02X40パネル

HUMAN SYSTEM パナファコム C-280 600ユニットシステム研究

大手也所Fメ

ーカ在来・2× 4・ プレハプ

パナファコムトータルシステム パナファコム C-380 パナファコムrJ:来・ コンクリー ト系・ パネル

PartnerProject 2 OPERATE 7000 リース サンワファースト 工務店 在来

PLAN 700 Z TechnO―PRO 700 内田洋行 工務店 0設計J「務所 在来

SUN CAD FM Iご β 550 プラネックス技研 工務店・ 建材店 在来

ス…パーCAD PC-98 XAモデル 2 日本建設コンピュータ

在来・2X4・ 鉄筋・ 鉄骨

TAKUMI-80 r-8∞ モデル 50 システムコンピュータ 麒

3 D INTERIA VIS10N PC-9801 VM テクノビジョン インテリア設計事務所

インテリア

技 PC-9801 VM 2 ロコシステム 麒

W∞ DS 日立 B16′ EXノMX 茨城日立情報 工務店・ 建材店 在来

評価項目について

・ 対応機種:CADの動作するパソコンの機種

・ 価格 :ソ フ ト.ハー ド共のシステム価格 (単位 :万円)

・ 販売実績 :現在の販売が多い業種

・ 建築種別 :そ の CAD力く適応できる建築 (在来 :木造軸組在来工法 )

Page 12: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

第 1章

建築設計を支援するコンピュータ 0シ ステム

1-1。 従来の建築データ・ベース ・

(1)データ・ベースとは

(2)建築関連のデータ・ベース

(3)CADの データ 0ベース

1-2。 建築設計支援エキスパー ト・システム

(1)エ キスパー ト◆システムとは

(2)建設業界でのエキスパー ト・ システム

(3)エキスパート・ システムの分類

(4)エキスパート0システムの使用例

Page 13: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

1-1.従 来の建築データ・ベース

 

 

(1)データ・ベースとは

データ 0ベースとは,いわば人間の頭脳の記憶を頭脳の外へ他人がわかる形で取り出す

ものだといえる。どんな素晴らしい記憶が一故人の頭の中に存在していたとしても,それ

が一個人の頭の中に止まる限り,それを共同利用することができない。データ・ベースを

利用する人の第一の目的は,対象とする世界の情報を組織的に表現しておいて,更にそれ

らに対する情報の追加,加工,検索を行おうとするものである。

データ・ベースの特質の一つとして,それが広範囲な対象を扱った時に高度な使い方が

出来るということがある。例えば建築の設計を行おうとした時には多 くの代替案が有り得

る。同じ機能を果たす建築物であっても,その構造や仕上材は何種類も考えられる。建築

の置かれた環境や,構造,材料,設備に依存してあるいはそれらに逆に影響を与えるもの

として異なった工法がある。これら代替案の採用のときには,設計者は材料の価格や工法

のコストや期間,施工業者の経験の度合いなどが気になるところである。こうして,設計

をよりよくしようとすればするほど,周辺のデータが必要になり,局所的な技術データで

は満足出来なくなる。

今までのデータ 0ベースは事務処理の分野での経験が多く蓄積されているが,必ずしも

科学技術特に建築での応用例にそれらがそのままの形で適用可能ではない。個々の分野ご

とに特有の問題を最も適当な形で解決していく必要がある。また,最近ではデータ・ベー

スの考え方を用いて,非常に大きい記憶を組織的に取り出し,それを共有しようとする試

みが始められている。これは,データ・ベースを蓄えるコンピュータ相互間のデータ通信

の発展により可能になったことで,ア メリカでは既に様々な分野のデータ・ベースが完備

して,データ・ベース・サービスが企業ベースで行われている。

では,次に建築の分野でのデータ・ベースを見てみよう。

Page 14: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

 

(2)建築関連のデータ・ベース

建築分野においては,情報検索システムの重要性に対する認識が遅れていたいたため,

他の分野のようなデータ 0ベースの蓄積を行う機会を失ってきた。しかし,建築分野に於

ける重要性は先に見たように設計作業からも要求される。建築分野で確立されているデー

タ 。ベースとしては,以下のものがあげられよう。

「 KWADIRS」 :建築関係文献および建築物諸元情報を持つ建築設計・研究情報検

索システム.東大をセンターとし,データ件数 1万 3千件.

「 CORNET」 :建設材料,建築作品文献をはじめ7種のデータ・ベースのサービス

を展開。 (株)建設情報センターによる商業ベースのサービス

このほか公的なデータ・ベースとしては,ま だ構想段階であるが (財)建設情報総合セ

ンター (仮称)構想があり,情報公開の一貫として建設省のもつ各種の情報をネットワー

,キ ングし,さ らに一般の活用に提供しようというものである。また,サービス形態は異な

るが, 日本建築センター・建築情報研究所や大阪府建築士会 ◆建築情報センターなどの活

動も見逃せない。海外のものは「 DlALOG社 」を通じて各種の分野のデータ・ベース

にアクセス可能であるが,建築分野に限定されたデータ・ベースはまだ見当たらない。し

かし,小規模なデータ・ベースについては研究機関単位では既に実働しているようである。

ところで, これらネットワークを活用したデータ・ベースは検索に手間がかかり,要領

よく適当なデータを引き出すためには,ある程度の熟練を必要とする。したがって,設計

者が設計の途中でデータを必要としても,即座にデータ 0ベースにアクセスして必要な情

報を得ることは困難である。

Page 15: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

 

(3)CADの データ 。ベース

先のネットワーク型のデータ・ベースに対してパソナル・ユーズ向けのデータ ◆ベース

がある。建築関連のデータ・ベースとしては住宅産業の顧客管理や標準仕様表などがあげ

られるが,設計分野でもCADを支えるデータ・ベースが不可欠である。CADシステム

が扱うデータ量は比較的多量であり,そのデータを論理的な構造に従って蓄えたものがC

ADのデータ・ベースである。ここで重要なことは,数値 。文字 。図形・形状といったさ

まざまなデータの種類がどのような関係で整理されておさめられているかということであ

る。こうした観点から, CADのデータ 。ベースは次の二種類に大別できる。

D rtt i n gの ために :建築CADでは作図ようとして各部位や部分詳細図を事前に用

意したり,完成図面を蓄える。

DocumentatiOnの ため :計画のデータを設備や構造の解析や見積・仕様書

. 作成に利用するなど設計業務の幅広い領域をサポ

ートするため,設計対象そのものをモデル化して

い'3。

前者は単に図形要素タイプとその座標値による二次元データにより表現されるのに対し,

後者は各種の評価・解析のために建物としての意味あいを持たせなくてはならない。

ところで,近年の住宅CADに は通信回線により材木店の在庫価格データ・ベースをア

クセクして,積算や仕様書作成をおこなうものがあり,今後プレカットエ法によるCAM

の実現とともに住宅産業でのCADデータ・ベースの方向として注目に値する。ところが,

設計分野でのデータ・ベースの活用となると,ま だ先の二つの機能を除いては充分開発さ

れておらず,真にCADを Designツ ールとして利用するに到っていない。そこで,

次節ではAl手法による設計援助システムを紹介し,こ れらの有効性を示す。

Page 16: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

1

1-2。 建築設計支援エキスパー トシステム 5

(1)エ キスパート・システムとは

専門家システムとも言い,ある特定部門の問題を解決する際に,その分野の専門知識を

もって解決に導くコンピュータ 0システムである。近年注目されているAI(人工知能)

利用の一つの形態と言える。エキスパー ト・システムが効力を発揮するのは,問題となる

対象が構造化されていない経験則であったり,状況が変化し対応が定式化できない事柄で

ある場合である。木造軸組構法の建築設計も, これらに合まれる。

ェキスパー ト・システムは図 1-1のように,

0知識ベース :構造法や設計の専門知識を蓄える

0推論エンジン:知識を利用して推論を行う

・ューザーインターフェイス :設計者とのやりとり

の三つの部分から成り立っている。いわば,知識ベースは従来のコンピュータ・システム

のデータ・ベースに相当し,推論機構がプログラムに相当する。こうした観点からデータ

・ベースの延長上にエキスパー ト0シ ステムの知識ベースは捉えることができる。

汎用的な

推論機構

ユ ーザ・ イ ンターフェイス

図 1‐ l:在 来構法エキスパー ト 0シ ステムのモデル

Page 17: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

 

(2)建設業界でのエキスパー ト0シ ステム

さまざまな産業の中でも建設業は,エキスパー ト0シ ステムに対する取り組みがもっと

も盛んな業界である。表 1-1は建設関係各社が発表しているエキスパート0シ ステムの

一部分である。建築や土木工学の基礎的知識や,知識の使用方法が比較的明快なものや,

既にTQC活動などにより文書化さているテーマを対象としている。このほか, CADや

マッピング 0シ ステムなどの入力処理として画像認識や,さ らに施エロボットの知能化と

いった研究も検討されている。現時点でも,エ キスパー ト・システム構築技術の学習や問

題点抽出に重点が置かれ,実用段階に達しているものは少ない。

表卜1 建築・土木分野のエキスパートシステム開発事例

企 奥 名 ロ■

天 杯 屈

ム 一二一 一に求める。一一一

り一』離鴻一磁陣・麒戦離”一

由島建設

フジタエ案

同組

東急建設不動建設

積水化字T菫

建晨現場での事故発生の可能性を予測し、注意を促

三主シ基テ4,トンネル躍廟崎の水の出方などを撮綸するシステム

_豊望ェ法の選定システム

‖固安定工法の選定システム

自分の位置.土質などを考慮し.シールド躍89楓 が最適コースを建むようジャゥキを制御する。センサーデータを基に、最適濃度、内圧になるよう臓口田

"な

どを目"す

る。PC建 方の工種に合わせ、建方タレーン管理やar‖

発注を効率良く■めるシステム.

ジョプ実行中のエラー凛口を追求し.肝 薇魚を提示するシステム.

のワロの保讚工法を提出するシステム

_撃 餃栞の軽8勝断ンステム土地開発関係法令のコンサルテーション・システム土質をセンサ…でロペ、砂抗遣成の施工颯械を開

"アレハプ住宅の餞:十支田。

Page 18: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

(3)エ キスパート・システムの分類

ェキスパー ト0シ ステムは対象とする問題によって次の 3つに分類できる。

①分析型 :与えられたデータを分析し,その結果に基づいて原因を推定するシステム。

解析システム,診断システム,予想システムなどに性格上分けられる。

②問題解決型 :与えられた条件を満たすような対象のモデルを生成するシステム。解が

複数存在するので,最適なモデルを評価する機能も必要で,分析型より

さらに複雑なシステムになる。その性格によって計画型システムと設計

型システムに分けられる。

③制御型 :連続的に送られてくるデータを解釈し,異常を検出した場合は予想される結

結果を診断し,適切と考えられる対策やその理由を示して異常を警告したり

制御動作を実行する。

現在,建設業界が取り組んでいるエキスパー ト0シ ステムは, コンクリー トひびわれな

どの診断 。原因の推定システムや山留工法・杭工法・防水工法などの各種工法の選定シス

テムといった大部分が分析型システムである。しかも,現時点ではエキスパー ト システ

ム構築技術の習得や適応上の問題点抽出に重点が置かれ,実用レベルに達しているのは少

ない。問題解決型システムについては,企画段階での土地利用企画提案システムをはじめ

知的レイアウ ト システムゃプレハブ住宅の設計支援エキスパー ト・システムなどが発表

されているが,グ ラフイック インターフエイスの問題もあり,ま だ実用化されたものは

少ない。建築設計に求められている設計型システムは研究レベルに上まっている。そこで,

次節では,試作した設計型エキスパー ト・システムの利用例を紹介する。

Page 19: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

 

(4‐)エ キスパー ト0シ ステムの利用例

エキスパート0シ ステムの論機構に汎用性を持たせ,い ろいろな用途に知識ベースを構

築できるシェル (エ キスパー ト0システム構築ツール)が安価で扱えるようになった。そ

こで, これを利用して木造軸組構法に関する知識をいくつか整理して,構造方式や部材を

選定するプロトタイプを試作した。エキスパート・ システムは設計者との対話で問題を解

決に導く。具体的な問題として,「設計の初心者が三階床組にどんな構造法でどんな断面

の部材を用いるべきか」を支援する内容を取り上げる。システムからは設計者に部屋の種

類や大きさなどについて、いくつかの質問が出される。設計者はシステムからの質問に答

えることによって、設計条件をシステムに知らせる。システムは知識ベースに蓄えられた

知識に基づき、与えられた条件を判断し適当な回答を設計者に返す。これまでのエキスパ

ー ト0シ ステムでは,コ ンピュータと設計者との対話は,文字や文章を介してであった。

しかし,設計業務の上では図面出力が求められるであろう。現在のエキスパー ト0シ ステ

ムでは,建築図面を出力できるものが市販されていないので,図面を画面上に描 くシステ

ムを開発した。木造軸組構法の構造法と部材断面を選択し,結果を軸組図として出力する

システムである。図 1-2はコンサルテーション結果の一つの例である。

この例では,スケールー日盛りが半間 (3尺)を示している。階下に大きな部屋をとっ

ているので,三階の梁背が高 くなっている。上方,階下の大きな部屋においては天丼を高

くしたいという意匠的な要求が生じ,二階床組の大梁の梁下と天丼との関係が問題となる。

図面の出力により, こういった問題をエキスパー ト0シ ステムでチェックできるようにな

る。

!‐ 2:エキス″―卜・システ件Q輌

Page 20: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

10

9

このように,軸組構法とAI(人工知能)で は一見馴1染みにくいように見えるが,両者

の結びつきは設計業務にも応用しうる。そのためには軸組構法の設計・施工に関する知識

を整理する必要がある。建築用語の標準化や構造法の基準の設定といった作業も不可欠で

あろう。そこで,次章では木造軸組構法の構造法の知識を建築設計に生かすために,実際

に知識整理を試みて,エキスパー ト・システムを構築した概略を述べる。

キスパー

システム

|1組工法1,CADシステ

さ下てしカ

周  錢

1  核

さ下て

0 

 

しカ

”  以

¨

2当

 

 

m m

m m

m mm m 中

”2000300040005000ヵ

”00.00.00.00・00m「

〕102736一54一

●5当

3  

  

 

 

 

 

 

 

 

lE:*iSR|daoL*b"f.r.o ltfrlf* q^4& l!E t a (lRoN-oBt

l.o E*Er0 {5.90100 l05mmtEB0.80 ,J.Ett l0 5 l2 0.3 3 0nm*EEf a

o.8o nlLBl0S I 20'330mm*QEf0.60 E*Lttl 05 I 20*300mmttrEf0.60 rr.nBl 05 lZOt300mmt&El6)(精諄)(施工)(oLc)

図:― 牛設計l'助システム

口 |´ 3:エ ヤスrt・_ト ダスァ4o力「オ=″

J

Page 21: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

第 2章2

 

 

2-1.

(1)

(2)

(3)

(4)

― ゛

プ ベースの構築― 夕・

建築設計知識整理の必要性

設計データ ◆ベースの不足

設計知識ベースの要求

建築の知識表現

建築の知識表現のために

木造軸組構法の知識整理

木造軸組構法の建築設計過程

継手・仕口とは

継手・仕回の知識整理

知識データ・ベースとは

建築設計 0教育支援システムの試作

知識データ・ベースに基づくCAl

軸組構法継手・仕口CAI

木造住宅架構設計CAl

2-2。

(1)

(2)

(3)

(4)

2-3.

(1)

(2)

(3)

Page 22: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

2-1.建 築設計知識整理の必要性

 

 

(1)設計データ・ベースの不足

建築の創造にあたり,構造や設備・環境さらに材料・施工の研究成果を応用することは

不可欠である。しかし,建築関連の技術的な研究は多岐にわたり,その対象とする分野も

人間工学のスケールから都市工学のスケールに到るまで様々であり, とうてい一人の建築

家のカバーできるものではない。そこで,最近の研究動向を調べようとしても,建築学会

の大会学術講演会でさえ,3600題 (昭和62年度)あまりが発表され,日を通すのも容易で

ない。

こうした状況に応じてKWADIRSや CORNETと いった建築データ・ベースが要

求されるのであるが, これらは 1章 1節で述べたように建築家が設計の途上に参照できる

システムには程遠い。実際に設計の際に参照される資料は,最近の技術的な トビックスで

あれば建築関連の専門雑誌であっり,技術的な基本事項であったら建築資料集成や建築工

事標準仕様書といった手元の資料である。建築データ・ベースにおいては, これら文献の

情報を電子化すなわちデニタ・ベース化し,設計の途上に活用できるような機能が求めら

れる。

図 2-1は建築業界に期待される情報サービスについて,木造住宅産業協会の会員業者

とその他ツーバイフォーやプレハプの協会の会員業者に対しておこなったアンケー ト調査

の結果である。建材カタログなどのように常に最新の情報が必要でありながら,それらが

整理できない対象が挙げられている。設計にあたっても,直接設計に反映できるデータ 0

ベースがあれ ば便利であ る。

―建築げヂク情報

…け

…その他α醒勤静寝)

051015205303540

Page 23: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

 

(2)設計知識ベースの要求

建築設計にあたってはデータ・ベースから得られた情報がそのまま適応できることは少

ない。得られた情報を取捨選択し必要な情報を各種の設計条件と照合し,計画を練り上げ

ていく。建築設計では,情報の活用に人間の判断と創造力が介在するため,建築データ・

ベースの発展は遅れてきたと思われる。

このように人間の知的な働きをコンピュータで実現しようというのが,近年注目されて

いるAl(人工知能)の目的であり, 1章 2節で述べたエキスパート・システムはその一

分野である。先にも述べたように各種工法の選定や構造の破壊などの原因診断とtlっ た施

工の技術的な規則や現場の経験則を対象とする分析型エキスパート・システムが試作され

ている。しかし,設計に関わるエキスパート・システムは建築基準法に基づく法規コンサ

レテーションといった側面的な支援に止まり,建築設計の創造的行為そのものをサポート

するシステムは未だ研究段階にある。

こうした研究の一例として,建設省建築研究所の位寄和久氏らによる和風木造住宅の部

材構成に関する知識ベースとして,床脇の設計知識を表現したものがある。これは和風伝

統的構法の「木割」の注釈書として知られる『匠明』の知識をPrologと いうコンピュータ

言語で表したものである。図2-2はその知識表現の構造の一部である。

ここでは,「 isa:~ は~である,apo:~ は

~の一部である」といった宣言型の知識と,「~

は~の手続きによって決定される」のような手続

型知識に設計知識を分けてモデル化している。

では,建築設計知識をエキスパート0シ ステム

の知識ベースに利用するにはどのような表現方法

があるのか次に述べる。

Twaritsuke

t_

ゾ i……よ庁L蕊mぃゎ

irみ床_置瞬●→

図キ2t童言型知識表現の構造 (部分)

Page 24: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

 

(3)建築の知識表現

AI(人工知能)に関する研究は古く1960年代から行われているが,人間の知識をいか

に表現するかについては明確かっ合理的なモデルが確立されていない。そこで,建築の知

識を表現するのに用いられている代表的な 3つの知識表現の枠組みについて述べる。

①プロダクション・ルール

IF (条件部) THEN (結 論部)

というルールに寄って表現される。図 2-3は一例であり,ルール 3で は三階廊下の床組

の構造方式は根太床とするべきことが示され,ルール26で は胴差のスバンが二間で梁が

掛かる場合には胴差の断面寸法として 120mmX 330mmが適当であることが示されている。

このように,条件部は条件節の連なりからなり,AND,ORな どの論理演算子で条件節が連結

される。結論部は代入や手続き呼び出しから成る。プロダクション・システムは比較的小

さな問題に関する知識の表現に適しており,

知識の記述方法が理解しやすく簡単にかける

といった利点がある。しかし,知識の追加・

修正の際の整合性の見通しがルール数が増え

るほど分かりにくくなり,技術革新が早い分

野には適さない。したがって,先に示した例

に見られるように,木造軸組構法の適応部材

の選定といった技術が確立されている分野の

勘や経験則への応用が適当である。

RULE NuMBER: 3

lF:THE FL00R OF CORRI DOR

T HEll:THE FL00R′ S C013TRUCT10N IS iヽ ECJAYUKA

NOT:鳳BARI(FL00R EEAM) lS いItECE=SARY

RULE NLMBER: 26

:F:SPAN OF THE 00uZASI(61 RDER) IS 3`00‐ 4000

and THE BEAM LOADED T0 00U2ASI? YES

′THEN: `

DOUZAS: 120 X 330 - ProbabLli ty= :0/10

92-l i Jogy''4;zry .tL-il- q flJ

Page 25: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

 

②意味ネットワーク

プロダクション◆システムでは,対象とする問題が大きくなった場合にはルールの数が

多 くないり,知 i哉の構造化が求められる。しかし,問題の階層性を考慮したルールの嗜J■

が困難であるため, この場合は意味ネットワークが適当である。意味ネットワークでは知

識を,ノ ードという概念事象とリンクという関係で表す。例えば,

机 isa家具

では机と家具のノードが iSa(is a:~ は~である)の リンクによって結ばれ,〃 tは上1立

1既念である家具の属性 (性質)を全て継承していることを示している。

③フレーム・システム

フレーム理論は認知工学の成果から発展したものであり,人間の記憶や認識の心理学的

モデルを体系化したものである。フレーム表現では同種の知識を一つの枠組みとして捉え

ることにより,知識の維持嗜Jやデータの抽象化・効率化にも役立つ。フレームによる知

識表現は次のようなデータ構造になっている。

。フレーム名 :主題を表す

・スロット:属性 (構成部分)を表す

。ファセット:ス ロツトの内容を示す

。スロットの値

建築での夕1で は,部屋を一つのフレームと考えれば,床

や天丼や壁などの構成要素がスロットになり,壁をみる

と材質やllll造法を示すのがファセットで,それらの1直を

示すデータなどから成り立っている。

Page 26: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

 

(4)建築の知識表現のために

建築設計を支援するデータ・ベースあるいはエキスパー ト◆システムの知識ベースの間

題は,建築の知識がいかに論理的に分類整理されるかにある。しかし,建築設計において

は,法規など一部の分野を除いては知識の構造化や階層化がなされておらず,設計の知識

が論理的な構造に整理できるかといった問題がある。建築家の思考には論理的な過程も多

数含まれているが,設計の創造的局面においては直観的なひらめきや雰囲気をつかみとる

場合が多い。建築家や施主の趣味や好み,癖などは論理的に捉えられないように,現在の

知識表現は直観的ひらめきを表現できない。たしかに,建築計画の研究ではこれらの問題

を具体例に即して計量的に扱おうとするものもあるが,それらを総合的に論理モデルとし

て矛盾の無いように再編成し,データ・ベース化するのは困難である。建築設計の思考過

程が論理で提えられないので,論理を越える知識の枠組みが必要になる。その一例が先に

述べた 3つの知識表現である。建築の知識表現はこれらの枠組みに乗って成されるべきで

ある.

Page 27: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

2-2.本 造軸組構法の知識整理

(1)木造軸組構法の建築設計過程

木造軸組構法の建築設計は建築家のみならず,大工 ◆棟梁の手によってもなされている。

これら両者の設計過程には設計案の表現において相違が見られる。両者とも要求された空

間を想起し,案を具体的な形に表現するまでは空間の構成を二次元の立体として考えてい

る。建築家においては,その案を具体的に表現するために用いる手段は平面図をはじめ立

面図,矩計図,透視図などの二次元の設計図面である。施工業者はこれらの図面から空間

を構成する各部を造り,設計者の意図した空間を再構成する。一方,大工 0棟梁は自身が

施工者であり,自分が思い描いた空間を実現するための手法を自らの手に持っている。そ

のため,設計図面は法的に要求される最小のものは用意するが, 自ら架構構成に必要な木

材に墨付けし,職人を用いて建方その他の工事を指揮出来る。建築家の用いる設計図面に

よる設計意図の伝達はあまり必要ではない。これら両者の設計過程の特色は,それぞれ

・空間→平面系列の図面表現 :建築家

0空間→空間系列の意志疎通 :大工・棟梁

ということができる。住宅産業の手による建て売り住宅など, これらに分類できないもの

もあるが,住み手となる施主が明確である注文建築の設計においては,こ うした相違が顕

著である。

このうちどちらの手法が優れているとは一概に断定できないが,設計者と施工者の情報

伝達の面では後者の方においては設計意図の誤解が少なく,前者の手法に勝るものがある。

そこで,建築家が「空間→空間系列の意志疎通」の設計手法の長所を取り入れるにはデー

タ・ベースやエキスパー ト・システムの援用が考えられる。従来,大工・棟梁が体験的に

獲得してきた経験則を集積し,それら整理されてたデータ群を設計上に活用し, さらに大

工・棟梁が頭の中に構成していた架構のイメージをCGで表現できる可能性がある。

Page 28: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

 

前述のような設計援助システムを実現するためには,木造軸組構法に関する構造法や施

工のデータ・ベースやそれらを如何に設計に利用するかといった知識を蓄える知識ベース

が必要である。そのため,構造法や施工に関する資料・文献を整理しデータ・ベースを作

成するとともに,設計に際してのそれらデータの運用方法・規則を知識ベースに置き換え

る必要がある。本研究では木造軸組構法の空間構成として特に架構を題材に取り上げ, こ

の方式の提案が設計者にとって有効な設計補助になることをしめす。まずは,構造材の接

合に注目し,架構方式決定の法員Jを見出す作業を述べる。

表 2-1:設 計過程の空間表現の相違

建築家 大工 0棟梁 設計者+コ ンピュータ

空間構成を考える

設計図を用いて

設計意図を伝達する

経験則をもって

空間を想起する

データ・ベースを利用

モデルを作成する

空間を再構成する

Page 29: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

 

(2)継手 ◆仕口とは

木造軸組構法において,構成部材の接合部を「継手・仕口」と呼ぶ。近年は大きな木材

の伐採が困難で,流通段階では全て長さが決まった定尺という材木が一般である。そこで,

施工現場では材の長さが足りない場合は,材木を継ぎ足す必要がある。こうした部材の接

合部を「継手」と呼ぶ。それに対して材木どうしがある角度をもって接合するとき,その

接合部は「仕口」と呼ぶ。

木造軸組構法の施工に関する資料では「 JASSll木 工事仕様書」 (日 本建築学会)

が一般的であろう。しかし,こ れには構法・施工の仕様として,継手・仕日の記載が殆ど

を占めている。したがって,木造軸組構法の知識は継手・仕口に集約されていると言って

も過言ではない。序章で述べたように,継手・仕口に関する知識を持たずに木造軸組構法

建築設計を行うことは危険ですらある。

架構を構成する部材が持つ情報 (名称.使用部位,使用目的など)によって複数の部材

どうしが集まる継手 0仕口が決定され,独特な架構を作りあげる。したがって,木造軸組

構法の知識としてまず,継手 0仕口に関する情報を記述すれば良い。継手・仕口を解析す

ることによって,その構成する部材群の作る架構を推定したり,設計図を生成することも

可能になるのである。この点に関しては次節に述べるので, ここでは継手・仕日の整理に

ついて具体的に紹介する。

要するに,木造軸組構法の架構設計の知識を整理するには,継手・仕口を構成する部材

に関する情報を整理することが不可欠である。

Page 30: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

2

10

(3)継手 ◆仕日の知識整理

一般的な住宅建築を対象とするには,継手・仕口についての膨大な資料のうち,「 JA

SSll木 工事仕様書」が適当である。これには,各部位 (軸組,小屋組,床組など)→

各部材 (土台,柱,小屋梁など)別に継手 0仕回の情報が並んでいる。これらを設計プロ

セスに合致するように抜き出し,表 2-2のように整理する。そしてこれをデータ 。ベー

スとして活用するために,表 2-3のような形でデータ・ファイルを作成する。さらに,

設計上にこれらのデータを運用する知識をエキスパート・システムの知識ベースとして構

築する。

上32-2:継手・仕口分類整理表 ・

; 工 法 部材の名称 (別称 ,注釈) 継手・ 仕口選択ルール ,そ の01 継手・ 仕口選択ルール ,そ の02

土台 (柱同角以上)

土台 (柱同角以上)

土台 (柱同角以上 )

土台 (柱 同角以上)

12:B :軒 げた (鼻もや) :継 ぎ手 :な し

13:B .:軒 げた (鼻もや) :継 ぎ手 :敷 げたあり

計会:計離17:A :通 しぬき :継 ぎ手

18:BC :通 しぬき :継 ぎ手

19:ABC:小 屋ば り (飛びば り) :継 ぎ手

里 理=理

型 工 製 雲 ≧ ___曇 堕:興

れ2-31継手ノャー化を数値化したもののり1

1 3 4. 5 9 10 :i 12

:

OtJ9000

11322

999000

1132

1

(ヽ

〔:

01135

6

001)9:)

01121

::4tt0l)

l:21

6000

1121

4 4 1o 0 99990 `' 00 0 0

11・12 1131 11:12 3

0 34510 00 0

1121 111:

0 4 13213 0 0

o 0 0o 0 0

111l ll::2 11324 3 5

1214 0 0o 0 0

`o 0 0:1●●2 ::會 l l121

Page 31: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

2

11

①データ・ベースの作成

データ 0フ ァイルの作成には,作表パッケージ・ソフト「MULTIPLAN」 を用いた。各継

手・仕口別に以下のようなデータ・フォーマットでファイルを作成した。表 2-3はその

例である。

内容 桁数

第 1行 :構法種類別 (A種, B種, C種)を表す数値 1

第 2行 :選択するさいの規則 1 4

第 3行 :選択するさいの規則 2 4

第 4行 :選択するさいの規則 3 4

第 5行 :選択の結果答えとなる継手・仕口名称 4

②知識ベースの構築

整理されたデータは,そのままでは一覧表でしかないので, これらのデータ 0ベースを

運用する知識をエキスパー ト0シ ステムの知識ベースに構築する。図 2-4は,その知識

ベースのルールの例である。部材が軸組に属し,胴差であり,継手について知りたい場合

は,「 ドライブBの "TUGITE"デ ィレクトリの "DOSASIoDAT"と いうデータ・ファイルか

ら情幸‖を取り出せ」という内容である。

S ルール 番号

tiIっ ぁ}撃 舌機手を構成す る椰材 tt次 のどれに属 しド}∬::1[11:!11:||

か つ 3)モ の機手 《軸組)を 構成す る椰材の名称はII島 れ議糟蔵hl.。。)

な:ら

ば 1)

2)3)

プ‥‥‥‥‥‥‥■‥‥状  る

椰敵敷敵敵敵政敵敵敵敵行  あ

外引引引引引引引引引引遣  で

90

 

 

 

 

ヽ 

 

 

 

し脱差

y=

ログ ラム [.l llp《 ●1)3:VTuC:TEり DOSAS:TR.DAT工 法 ,1,口

"11ル ール 111ル ール 112ル ール 1138L手 。仕口名 110工 法籠顛罰 2ル ール 12:ル ール 122ル ール 123

攪露it日 電Fi2_ルを入力した

こ とに決定

《籠 僣度 =。 1.00)

図 2-■:ルールの例

Page 32: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

2

12

(4)知識データ・ベースとは

現在のデータ 0ベースと知識ベースの位置づけは,ア プリケーションが未知か実現済か,

アプローチが新しいか従来の形かによって図2-5のように表すことができる。現在のA

lと はエキスパート0シ ステムの知識ベースを含むものであり,データ・ベースは現在の

情報処理の一分野である。知識データ 0ベースとは,こ の両者の間に有り,データ・ベー

スと知識ベースを統合した概念である。すなわち,データ・ベースに情報を投入し,知識

ベースにはそのデータの利用のしかたを入力し,それらを一つの知識の集合体として扱う

方式である。情報が大量に存在する場合や,様々な知識を同時に扱う場合には有効であ

る。先の軸組構法の知識整理を例にとれば,

JASSや 建築基準法の部分的な改訂があっ

たとしても,該当するデータ・ベースに更新

を行えば,知識ベースの変更は必要ない。

先に述べた整理方法での知識データ・ベース

のIllA念 は図2-6のように表すことができる。

実現済

興 2-5:

アプリケーション 未 知

コンピュータ言語既存の環境

i'tn'-2., ro*t;<-z,n (t E02づ :知 猜ルタイースの″多 2、

Page 33: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

2-3. 築設計

2

・教育支援 システム試作 13

(1)知識データ・ベースに基づ くCAI

従来の情報処理におけるデータ ◆ベースやエキスパート0シ ステムにおける知識ベース

では扱うことのできなかった建築設計行為のllll助 も,知識データ・ベースの構築より「空

間→空間系列の意志疎通」を可能にすることにより,実現の見通しができてきた。本研究

では,知的CADの 実証までには到 らないが,そ の前段階として建築設計のCAI

(Computer Assisted instruction)シ ステムを試作することにより,知 i哉データ ◆ベース

の有効性を示すことにする。

現在,高等専門教育において木造住宅の設計製図の演習は,.他の建築種別に先だって比

較的低学年に配当されている。設計製図と並行して構造法などの講義科目も履修すること

になっているが,現実には構造法の講義内容が直ちに設計製図に応用されるわけではない。

llt造法の基礎知識を理解できても,自 分の住宅の課題において如何にそれを消化して設計

に生かすかという点で問題があるようである。特に,床伏図などの構造伏図が要求される

課題においては,上台と大引の区別の付いていないものや,変形したプランで仕日の付け

られれそうもない図面が見られたりする。こうした事例は構造用教材などにたちかえり再

学習するなり,ス ケッチの段階で指導を受ければ間違うことはないのであるが,時間の制

約がある課題においては困難であろう。

そこで,設計製図におけるこうした問題に鑑み,ま た設計上の構法知識をに対する理解

を深めることを目的として,前節で述べた木造軸組構法の知識データ 0ベースを利用した

木造住宅設計CAlを試作した。軸組構法の設計知識を充分に持っていない設計の初心者

や建築の初学者が木造住宅を設計するときに,構造法の面で設計するものを補助し,そ の

過程を通して構法に対する理解も深めるシステムである。いかに,そ の実例を述べる。一

つは継手・仕口に関するCAIで あり, もう一つは架構設計のCAlである。

Page 34: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

2

14

2)軸組構法継手・仕口CAI

前節 2-2の (3)で述べたように,木造軸組構法の継手 0仕口について整理 して構築

た知識データ 0ベースを用いて, CAIシ ステムを試作した。木造軸組構法に不慣れな

計者が木造建築の架構を設計する場合,構造材の継手や仕口についてコンサルテーショ

ノを行うものである。データ・ベースを呼び出すまでのコンサルテーシヨンのフローは図

2-7の通りである。こうして推論の結果得られたデータ 0フ アイルをもとに,継手 ◆仕

コをCGで表現する。図 2-8はその一例であり,腰掛け蟻継ぎが表示されている。

継手 0仕口の分別を行う

どの部位に使われているかを決定

その部材名称を特定する

該当するデータフアイルを取り出す

図2-7:推論のフロー 図 2-8:継手・仕口の表現例

Page 35: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

2

15

ここにおいては知識データ・ベースは図 2-‐ 9の ように表すことができる。 JASSl

l木工事仕様書を元に作成したデータ・ベースの中から必要な継手・仕口のデータ・シー

トを抜き出すためにエキスパー ト・システムが働く。エキスパート0シ ステムでは構法設

計の知識からなる知識ベースに従って推論エンジンがデータ ◆ベースを起動する。

従来の建築データ・ベースでは,情報の検索はユーザすなわち設計者に委ねられていた

ので,思うように必要なデータを見つけることができなかった。また,エキスパー ト・シ

ステムにおいては,図形のデータを知識ベースとして蓄えることは可能ではあるがエキス

パー ト・システムの環境から図形の出力は困難であった。こられの問題点も,知識データ

◆ベースの構築により解決される。今回の試作システムでは知識データ・ベースは図 2-

10のように二つのモジュールに分かれる。構法知識とは」ASSllの 内容をデータ・

ベースにしたものであり,運用知識とは構法設計の知識ベースである。さらに,図形の出

力のためにCG情報を貯え,データ・ベースとした。これらにより,データ・べ~ス の側

面では情報の検索が容易になり,エキスパー ト・システムの側から見れば図形の出力が豊

ベース

富になった。

知識べ■ ス、

il性 綸

データ 0ベース 2

CG 情報

データ・ベース 1

構法 知識

知識ベース

運用 知識

図 2-9:知 識データ 0ベースの働き

図 2-10:知 識データ・ベースのデータ構造

Page 36: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

2

16

(3)木造住宅架構設計CAI

先の知識データ・ベースをさらに拡張して,継手・仕口のみならず木造住宅の架構を設

計するCAlシステムを考えた。継手・仕口の構成ルールから得られる部材接合を架構方

式の決定までひろげ,設計条件に応じて架構生成し表示するものである。設計者が簡単な

間取りを入力するとシステムは各部位の構造方式や部材の断面寸法を推論し,各種伏図を

はじめ架構の図を出力する。

このシステムでは先のシステムとはことなり,「 KEE」 (米インテリコープ社)と い

うエキスパー ト0シ ステム構築シェルを用いてオブジェクト志向の開発を試みた。先の継

手・仕口CAlでは知識ベースは全て「 IF ~ THEN ~ 」のプロダクション・

ルールであったが,架構全体の知識を乗せる

のには限界がある。そこで,まずフレーム・

システムを用いた知識ベースの構築が必要と

なる。

そのフレームの階層構造は図2-11の よ

うになっている。ここの知識ベースは 3つク

ラスから構成される。

・ JOINT.RULE:先 に述べた継手・

仕口に関するルールである。

・ SPACE8住 宅の空間構成の基本的な部

分について規定している。

・W00DEN.CONSTRUCT10N

:軸組構法の部位と構成部材の

情報が蓄えられている。

4

図 2--11:フ レームの階層構造

Page 37: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

2

17

こうしたフレームの階層構造による知識の記述の有利な点の一つは,あるクラスで述べ

た事実がその下のクラスに継承される点である。例えば「一階床組とは床に掛かる過重を

基礎を通じて地盤に伝える横架材の集合である」と記述すると,一階床組の構成要素であ

る。土台や大引などにこの性格が継承され,床過重を基礎に伝えるべき横架材という事実

が付加される。図 2-12は その内容の一部である。

先の継手・仕口CAlで は構法のデータ 。ベースは集表作成パ ッケージ 0ソ フ ト

「MULTIPLAN」 で作成し,知識ベースは「創玄」というエキスパー ト0シ ステム構築シェ

ルで構築し, CG表示は N88 BASIC でプログラムを起動させるというように,知識デー

タ・ベースの各データ 。モジュールは異なった環境で動くものであった。しかし,今回は

ォブジェクト志向プログラミングを採用することによって,こ れらが同一の環境で実現で

きることになった。つまり,設計者が手元で扱う状態に近付いたのである。

これらのシステムのCAlと しての使用例と,その有効性の検討は次章に述べる。

Page 38: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

作 シス テ ム の有 効 性

(1)試作システムの利用例

(2)知識データ 0ベースの有効性

Page 39: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

いくJ

 

 

 

り^ん

(1,試作システムの利用例

先の知識データ 。ベースをさらに拡張して,継手・仕日のみならず木造住宅の架構を設

十するCAIシ ステノ、を考えた。建築家以外の一般の人が住宅の設計を考えるときは,「呂|

反りという~種の平面図を1苗 くことが多い。建築学科の学生が設計製図の課題にあたると

きも,ま す平面からスケッチする傾向がみられ, この時点では木造の架構をどうするかと

′ヽった配慮はなされていない。そこで, このシステムにおいては~般の人が方1艮紙に畳の

瞑数を基準に住宅の間取りを考えるの同様,図 3-1のような入力画面 (lNPUT 「

Iノ AN)0こ 半1川 (3尺)単位で引いたグリッドを基準のモジュールとして先ず間取りをノ

カする。

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区 3-|:ハ カ山 威 の例

Page 40: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

システムではこの入力された間取りを読み取り各種の推論を実行する。推論の順序は以

下の通りである。

①木割値の設定 :ラ フに入力された画面情幸臓を軸組構法の寸法体系に合うように修正す

る。

②床組構法の決定 :各階のプランから先ず床組の構造方式や部材の寸法を決定する。

③軸組構法の決定 :各階の関係から軸組を決定する。

④屋根構法の提示 :家屋の形態から屋根の形態や構造方式を提示する。

⑤階l取 りの検討 :空間の連結から間取りの整合性をチェックする。

⑥架構の決定 :各部位の構造方式や各部材の断面寸法を決定し,画面に出力する。

従来のCADシ ステムでも平面図の入力から立面図をたちあげたり伏図を書いたりする

ものもあった。これらは立面情報を平面の属性情報としてもち,パ ッチ処理によって図面

を作成するものであった。構造図においても,積算に必要な木拾のための処理の一貫であ

り,架構を理解・伝達するためのものではなく,標準的な伏図を蓄えておき利用者に妥当

な図に修正させることを要求するのもであった。このシステムにおいてば,フ アイルのバ

ッチ処理を経ずに,ある時点で設計条件に応じた架構方式を提案でき, 」ASSll木 工

事仕様書にそった案を提示する。

図3-2のような住宅のプランを入力し,推論を起動させたものが図 3-3に見られる

画面である。ここでは一階間取りを入力した時点で,一階床伏図と共に二階建住宅の屋根

構法を含めた架構を推論し出力することができる。

Page 41: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

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Page 42: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

 

(2)知識データ・ベースの有効性

以上みたように,知識データ・ベースを構築することにより,従来の情報処理における

建築設計データ・ベースの不備を補い,エキスパー ト・システムの知識ベースの長所を取

り入れたCAlシステムが作成できた。今回の試作システムでは,木造軸組構法の架構に

しばり建築設計知識の整理と知識データ・ベースの構築を試みたが,現時点ではま建築教

育を受け始めたばかりの学生や一般の人向けの教育システムに止まっている。建築家が設

計の手段として利用できるシステムを構築するには,柔軟なプランにも適応出来るように

システムに学習機能を持たせたり,空間と架構の関係を知識として整理する必要があろう。

しかし, このような課題も知識データ・ベースの考えに則り知識を整理・拡張していくこ

とにより解決は可能である。

このシステムのもう一つの効果は,木造軸組構法の設計手法の伝承にある。従来,大工

や棟梁の設計過程と建築家の設計過程が異なることは2章 2節で述べた通りであるが,今

回施策したシステムにおいては,大工・棟梁の設計過程を再現することも可能である。例

えば,従来のCADで は一階の平面から小屋組さルに架構全体を処理することはできなか

ったが,大工・棟梁は間取りが決まった時点で屋根の形態や小屋組の構造を考えている。

先に示した例では,従来のCADと は異なり大工・棟梁と同様な設計思考を再現できるの

である。軸組構法のみならず和風伝統構法の設計技術の伝承にもこれらの手法はおうよう

しうると思われる。

Page 43: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

おわりに終

 

今回試作した木造軸組構法設計CAlは時間

が足りず,CAIシ ステムとしても甚だ不完全

なものになってしまった。今後に残された大き

な課題は以下の点に要約できよう。

・KEEなどのエキスパー ト◆システム構築シ

ェルでの図面出力

・建築設計における空間と架構との関係の記述

この研究を進めるに当たってはたくさんの人

に御協力を頂いた。KEEの使用に際して便宜

を図っていただいたCSKの大嶋政司氏をはじ

め使用法の指導を担当された木下氏や大森氏,

またエキスパー ト◆システム構築に協力してく

れた豊橋技術科学大学の河合君にはこの場を借

感謝の意を表したい。

そして修士論文全般を通じて御指導を賜った

渡辺仁史教授をはじめ,常に相談に応じて頂い

た大学院の渡辺俊さんぅ他色々な面で助けても

もらった研究室の皆さんには末筆ながら感謝す

ると共に,今後の研究の進展を期待する次第で

ある。

Page 44: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

参考文献

 2

書籍

上田篤,「 日本人とすまい』,1974,岩波新書

清家清,『 日本の木組』,1979,株交社

西和夫,穂積和夫,『 日本建築のかたち』,1983,彰国社「建築の絵本」

大庭孝雄,『木造住宅の設計法』,‐ 1985,学芸出版

三橋鎮,『絵とき伝統軸組構法の実技J,オーム社「建築士と実務」昭和62年 1月 ,4月 ,

10月 号付録

日本住宅産業協会技術開発委員会 ,調査統計委員会, r木造軸組構法におけるCAD/C

AMに関する調査報告書』,1985, 日本住宅産業協会

日本住宅産業協会技術開発委員会,『木造軸組構法におけるCAD/CAMシ ステムの比

較 0分析調査報告書』,1987,(社)日 本住宅産業協会

田中幸吉,『知識工学』,1984,朝倉書店

上野春樹,『知識工学入門』,1985,オーム社

Page 45: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

雑誌記事

長島政則,『 CADシステムとデータ・ベースJ,井上書店「アーキソフト」昭和59年12

大沢敏明,『住宅産業に押し寄せるCAD化の波』,「住宅金融月報」昭和61年 8月 号

杉本吉彦,『木造建築に関する最近の行政の動き』,オーム社「建築士と実務」昭和62年

2月 号

三雲正夫,下平杢作士,大崎康生,三橋英二,「 AIの概要 J・ ,建築学会「建築雑誌」 5

月号 (技術ノー ト=建築とAI一①)

遠藤泰夫,加藤准一,榊原克巳,高瀬啓元,塚谷秀範,「建築Alの現状と将来」,建築

学会「建築雑誌」 6月 号 (技術ノー ト=建築とAI一②

山田学,渡辺仁史,位寄和久,『建築Alの開発と基礎技術J,建築学会「建築雑誌」 7

月号 (技術ノート=建築とAI一③)

浜田宗男,『木造建築ブームと木材J,オーム「建築士と実務」,昭和62年 8月 号

後藤一雄,『木造合理化 在来軸組と2X4を融合「 SWF工法」のススメ』,日 経アー

キテクチュア 198712-14

Page 46: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

 

学会論文

湯本長伯,安東勝男

『建築設計 。研究情報検索システムKWADlRSの 展開と同種システムの社会的形態最

適化に関する考察』,1986年

日本建築学会第 8回電子計算機利用シンポジウム

青木義次

『Prologを ベースにした建築形態記述言語の試作』,1987年

日本建築学会大会学術講演 (近畿)

井口洋佑,高尾宣之,西沢一憲

『構法システムの解明MARKV』 ,1987年

日本建築学会大会学術講演 (近畿)

上村克郎,Jヽ西敏正,橘高義典,城間一郎

『建築構法表現に関する研究J,1987年

日本建築学会大会学術講演 (近畿)

渡辺定夫,山田学,出口敦,篠崎道彦

『伝統的木造建造物維持管理方法の研究』,1987年

日本建築学会大会学術講演 (近畿)

渡辺俊,渡辺仁史

『建築における人工知能の可能性と知識表現に関する考察』,1987年

日本建築学会第 9回電子計算機利用シンポジウム

位寄和久,中島高史

『PROLOGによる建築設計のための建築知識ベースー建築部材構成の知識表現とCADシス

テムヘの応用1,1987年

日本建築学会第 9回電子計算機利用シンポジウム

Page 47: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

システムの内容

 

未 ―豊卑由純lメ嘔り氏

イ生な係Lス響吉■き「`ハ

の情弁 |〕 拝いヽ にじェ:レ

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茉イゝ フリゴーフ′イ■

KEEの 場ヱ際

尾号この働りどもろ。

●フレームIl l知識表現

フレーム表現の手法を採用。専門知識やノウハウを簡単に、 しかも

均一に表現できます。 ´

●メソッド(LiS Pプ ログラム) .知識ベース中に手続き的知識をLISPで書 くことができるうえ、オ

ブジェクトす旨向型プログラミングによって個々の知識に固有の処理

を組み合わせた柔軟な問題解決を行うことができます。

●インヘリタンス機おし

知識ベースの中で、共通 した知識を関連するユニ ,ッ トに自動的に継

承させることができますから、簡単に知識ベースが構築できます。

●Te!!AndAsk機有七

自然言語に近いTellAndAsk機 能を使ってKEE上の知識ベースと

対話できますから、知識ベースの作成および知識ベース内の情報|;

索などが容易に行えます。

プロダクションルール〔IF(前提部)/THEN(結論部)/DO(実行部)′

石御言度〕を用いて経験的な知識を表現できるのはもちろん、これを椰

向き推論、後ろ向き推論いずれの形でも利用できます。

知識ベースヘのアクセスの トレースをはじめ、この機能を駆使 した

アクティブ 。ルール・ グラフにより、推論過程の追跡 も容易に行え

ます。

使tヽやすき、わかりやすさを徹底追求。

前向き、後ろ向きが自由自在。

推論過程の追跡も簡単。

翻協∠響レ《∬__ アクターlの贔颯=t,__ 彙兄奎田1の0●饉_ルール3

け?雪"認

である は不十分であ● ●●

Page 48: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

推論過程をすばやく確認。

推論途中ではWHYを、終了後にはHowを起動させることにより、推論のプロセスを確認できます。

…人…

●マウス、マルチウィンドゥ、ビットマップテ ィスプL―f

マウスとマルチウィンドゥを自在に駆使できる強力な対話型グラフ

ィック機能を装備、知識ベースのイ乍成 。修正ゃメソッドの起動など

が極めて簡単に行えます。また、高角榔 隻のビットマップディスプ

レイによって漁羊明なグラフィックを描 くことができます。

●アクティヴイメージ

シミュレーション用に31種類のアクティヴイメージを備えているう

え、アイコン(絵のメニュー)イ メージにより希望のグラフィックス

を作成することができます。画面上の値を変化させると知識ベース

の値も自動的に変化 しますから、希望モニターまたはデータ入力機

力ことしてi舌用できます。

充実したサポートサービス。

KE(知識工学者)に よるKEEト レーニングおよびコンサルティング

サービスなど、充実したKEサ ポー トサービスを受けることができ

ます。

ンヽ

マウスを駆イ吏してすばやく操作。

Page 49: 木造軸組構法における建築設計データベースに関する研究

外 〕たテムの力焼バ

エ)ト フじ―ム O FZ

―入の内なの一才,た 下l■ ヌ、す。

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‖ember Of: ELASSES in GENERICUN:TS‖embers: DODAl, H:UttlD00Al, OHBIKl, NEDAGAKE, YUKAZUKA,

ITICltlbET SlOt. I HEIGHT.OF.PAFTS fTI:M IF.YUKAGUftIII nhe r it anc er OVEBRIOE'VALUESI/alueCiass; INTEfiEFyal66-s: 90

lrlernber s'loi: KIND from lF.YUKAtiUMlI nhe r it ancer OVEFRIDE.VALUESIrcluesl HII{0HI

I'lernber sloL: ON from lF.YUKAtiUlultI nher it anc er OVERRIDE.VALUESCommenf., "0ll IITHITDH FART IS RIDED BY SIINE FART DF E0NSTRUCTION, "

I/cluesr KI$0

Jiler0ber slot: V,OR.H from lF.YUKAGUfdlI nhe r it ance: OVERRIDE'VALUES

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lT::NR:[‖ ;R00‖ IS HARIVUKA)))

(KUMIVUKA.RULE (IF {THE KI‖ D OF(THE WIBTH:OF=UNDER OF 7nO13M IS B10)

(KOBARI.RULE■ (IF (I‖[Nsll‖EoFOISTRUCT10N 口F ?R00M IS KUMIVUKA〕 〕)

YUKABttRI IS l)THE‖ (THE HEIGHT,OF,PARTS OF VUKABARI IS 150)))

(KOBARI=RULE2 (IF (THE SPAN OF ?YUKABARI IS l.5)THEN (THE HEIGH丁 ,OF,PARTS OF VUKABARI IS 180)))

(KOBARI=RULE3 (IF (THE SPAN OF ?VUKABARI IS 2)THE‖ (THE HE10HT,OF,PART8 0F YUKABARI IS 240)})

(KOBARI.RULE4 {IF (THE SPAN OF ?VUKABARI IS 2,5)

(KOBARItRULE5 (lF II「 : 1::i 甘「 I:IIt::ム

骨IRI: :; VUKABARI IS 150)))THE‖ fTHE 00NSTRUCT10‖ 口F ?R00M IS VUKABARI)〕 )

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