学習コミュニティをつくる平和教育

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CIPEマニュアル.txt - 1 / 56 - 学習コミュニティをつくる平和教育 CIPEマニュアル Tony Jenkins Emma Groetzinger Tiffany Hunter Woo Kwon Betty Reardon 翻 訳 浅川 和也 協 力 榎本 泰子 ハーグアピール平和教育地球キャンペーン GCPEJ はじめに このCIPEのための小冊子は、これまで25 年以上にわたってなされてきた平和教 育国際研究集会(IIPE)に集う人びとによる成果である。国際平和教育国際研究集 会(IIPE)は協働でなされる学習コミュニティであり、いわば共同体ともいえる。 これまでIIPEのつながりのなかで編みあげられたさまざまな思いや考え、視点が本 書には詰められている。IIPEは世界の平和教育関係者が集い、知りあい、学びあ い、考えをひろげるよい機会であり、共同体としての意識を形成する場ともなって きた。CIPE(コミュニティ平和教育研究集会)という構想はIIPEという共同の場か ら生まれた。あらたに平和教育を推進し、発展させるCIPEというこの動きをはじめ ることができたのは、これまでのIIPEの参加者一人ひとりのたまものであり、感謝 にたえない。この冊子の出版に際しては、米国平和協会からの助成を得た。また Biosophical Instituteほか、たくさんの個人による寄付によって刊行できたことに 謝辞を述べる。 原稿を寄せていただいた大学院生ならび研修生であったEmmaGroetzinger,

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学習コミュニティをつくる平和教育CIPEマニュアル

Tony JenkinsEmma GroetzingerTiffany HunterWoo KwonBetty Reardon著

翻 訳浅川 和也

協 力榎本 泰子

ハーグアピール平和教育地球キャンペーンGCPEJ

はじめに

 このCIPEのための小冊子は、これまで25 年以上にわたってなされてきた平和教育国際研究集会(IIPE)に集う人びとによる成果である。国際平和教育国際研究集会(IIPE)は協働でなされる学習コミュニティであり、いわば共同体ともいえる。これまでIIPEのつながりのなかで編みあげられたさまざまな思いや考え、視点が本書には詰められている。IIPEは世界の平和教育関係者が集い、知りあい、学びあい、考えをひろげるよい機会であり、共同体としての意識を形成する場ともなってきた。CIPE(コミュニティ平和教育研究集会)という構想はIIPEという共同の場から生まれた。あらたに平和教育を推進し、発展させるCIPEというこの動きをはじめることができたのは、これまでのIIPEの参加者一人ひとりのたまものであり、感謝にたえない。この冊子の出版に際しては、米国平和協会からの助成を得た。またBiosophical Instituteほか、たくさんの個人による寄付によって刊行できたことに謝辞を述べる。 原稿を寄せていただいた大学院生ならび研修生であったEmmaGroetzinger,

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Tiffany Hunter および Woo Kwon ほかのみなさんに感謝を申しあげたい。この編纂の過程をとおして学ぶべきことがたくさんあった。平和教育の実践やコミュニティでの学習の経験をもちよったCIPEのグローバル・コーディネーター(国際運営委員)らからも多くを学んだ。また、David Rice, Matt Wimsatt, および Robyn Woodの方々には実務的な労をになっていただいたことに、あわせて感謝したい。 また、Janet Gerson and Betty Reardonの二人には、とくに謝辞をもうしあげたい。リアドンおよびガーソン氏は、つねによきリーダーであり、IIPEに多大な貢献をされ、CIPEは、この二人のちからがなければ、実現できなかったにちがいない、あらためて感謝したい。 目次

はじめに目的とねらい

第1章 CIPEへの歴史的背景̶世界的な平和教育のコミュニティとしてのIIPEのなりたちとこれまで

第2章 平和教育を学ぶ学習コミュニティ    CIPEとは何か/CIPEの実施の規準と準備

第3章 はじまり    地球規模の平和教育の共同体への参加

第4章 共同での学びに参加する    熟考する学習コミュニティ

第5章 平和教育概論    包括的ならびにホリスティックな見方 / 多様であり意味のある形態と内容

第6章 計画と立案    平和教育の計画と立案の際の考え方

第7章 準備と手順    物的・人的・財政的資源と支援

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第8章 典型事例    IIPEのこれまでの実践    共同体の当事者意識をたかめる    共同体の指針をつくる    活動を継続するには    典型事例:共同体としての条件をつくる    平和教育の技能と力量

資料    参加者事前アンケート    参加者事後評価    実施者による事後評価    財政計画ワークシート

執筆者/寄稿者

はじめに

要点 本書のねらいと使い方

問い

暴力とは何か、どう定義したらよいか。 さまざまな形態の暴力は、どのように関連しているか。 地域でのあらゆる暴力の形態をあきらかにし、暴力をべつのかたちに転換するために、どのように教育をすすめたらよいか。 地域のニーズにおうじた教育をデザインし、構想するにあたり、より大きな目標のもとにどのように平和教育に組み入れるか。 自分の地域で(学習コミュニティとして)実際に平和教育の実践をどのように、はじめたらよいか、あるいはいっそう進展させるためにはどうしたらよいか。

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 この本は平和教育のための学習コミュニティを運営するための手引きとして構想された。平和教育をフォーマル(学校)教育やノンフォーマル(学校外)教育の場で、また草の根で推進しようとする指導者にとって参考になるようにつくられた。またよりひろく社会のあらゆるレベルでの暴力をなくすための教育にも役立つものと意図されている。とくに平和教育国際研究集会(IIPE)の実績から構想されたCIPEという平和教育のとりくみを地域の学習コミュニティではじめることを念頭においた。 この一冊で平和教育のとりくみをはじめるのに事足りるというわけではない。本書はいわばワークブックであり、さまざまな状況で、あらゆる面から平和教育を構想し、実際に実践し、応用することができるようになることをねらっている。各章のはじめや要所に、学ぶ内容に関する問いがおかれ、それらを手がかりに内容を深める構成になっている。問いによる探求によって平和教育をみずからの課題としてとらえることができるであろう。指導者や運営をになう担当者として、対処すべき局面や想定される事柄など、具体的に知っておくべきこともとりあげられている。平和教育の講座やワークショップ、会議、あるいはプロジェクトを計画することは、さまざまな「学習の様式」を学ぶことそのものである。イベントなどのとりくみでは計画の段階で、実施に際してよりも、多くを学んでいるということは実感からもいえるであろう。 教育活動の計画においても、その準備自体が意味のある「学習の様式」でなされることが重要である。地球規模の問題と地域の問題は相互に関連したシステムとなっている。現代社会が直面する想像を絶するほど複雑な問題にたいしては総合的に考え、対処していかなければならない。平和の文化をはぐくみ、戦争システムを転換させ、平和の文化を発展させるためには教育の方法と内容が統合されることが求められる。なおかつ平和教育のあり方はたえず問い直され、平和教育の目的も、時期と場所におうじて最新の地域の課題に見合うよう、たえずくり返し検討されなければならない。 本書の各章のはじめにある問いは地域における課題や状況をあきらかにする手がかりとなる。また同時に、実際に地域において変化への可能性を追求することで平和教育の大きな目標である社会変革につながる、ということを指導者が考えられるように意図されている。 平和教育は社会を変えるための教育であるといわれる。しかし、社会変革とはたどり着くべき目的地ではなく、たえずともに協力してはたらき、追求され、継承される過程であると考えられる。地域において多様性やさまざまな差異があるなかで、それらをだしあい、尊重することにより、コミュニティをベースにする共同体としての学習を促進する。共通の理解と目的にむかって多様な参加をうみだしてい

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くプロセスが学習であり、それにより、もうひとつの(オルタナティブな)共同体がつくられていくのである。 この冊子で述べられている考えや原理は、社会を変える、変革を促進するための学習コミュニティを組織するための原則でもある。また学習コミュニティの特徴である協同学習や共感、相互理解が根ざす価値や原理についても本書に示されている。どのように共同体が形成され、どのような学習のプロセスでともに成長し、変化がもたらされるのかを学ぶことも本書の重要なねらいの1つである。 旧知の仲間やあたらしい仲間の皆さんの参加を歓迎したい。CIPEは、皆とともに、追究し、考え、わかちあい、創造し、喜びを共有する、ひらかれた場である。これらはすべて、変革のための教育に不可欠な要素である。CIPEにおいてわたしたちは、たがいに関わりあいながら、平和の文化をきずき、暴力を転換するという目標にむかって、努力し、挑み、屈することなく、あたらしい考えや知識、可能性を求めることができるのである。

変化あるいは変革 平和教育は「変化」あるいは、「変革」を目標としている。平和教育は、そのとりくみをつうじて変化ないし変革をすすめるのであり、平和教育の成果として、変化や変革がもたらされるとくりかえしこの本で述べられている。しかし、ここでいう変化は、これまでのことをすべて捨てて、ちがえてしまうわけではない。ベティ・リアドンは変化は考え方や世界観、価値、行動、関係、社会構造に影響する深いものであり、変容としてとらえている。普段は電灯がつかなくなったら、あたりまえのように電球をとりかえる。しかし変革というのは、ただ電球をとりかえるのではなく、電気に頼っていた生活から、電球ではなく太陽の光をあかりとしてとりいれるようにするのである。この変化は電灯、つまり電力への依存をなくすことなのである。

学習の様式 わたくしたちはいかに学ぶのか、ということに注目する。学習とは本来何か、というところに立ち戻ると、学習は単に新しい情報や技能を得ることのみならず、それ以上のこととして考えることができる。わたくしたちは、学習によって、あたらしい情報を、これまでの知識や経験と、統合することができるようになるのである。学習と変化は、この意味で、相互に関連する概念であり、統合のひとつの過程である。しかし、学習のありようは、人それぞれであり、ある場合には一瞬にしてその人にとって世界が一変してしまう啓示ともいえるほどの大きな変化かもしれないし、あるいは同じような経験でも、ごくわずかな変化であったりする。この学習と変化の連関を理解しておくことは平和教育者にとって欠かせない。どのように学

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ぶかということは、学ぶ内容と同じように重要だということが、学習の様式を重視する理由である。

この本の構成第1章と2章では、これまでのIIPEの歴史とCIPEの背景について述べる。第3章は、世界の平和教育をすすめるさまざまな団体とのネットワークに関する情報と国際的な連携をすすめるための手だてについてである。第4章と第5章には、CIPEという学習コミュニティで平和教育をすすめる基盤づくりのおおまかな原則が示されている。第6章と7章は、平和教育を計画する際の重要な概念と、学習コミュニティという共同体での平和教育を計画する具体的な運営についてである。第8章は、平和教育の技能と力量をたかめる研修の手がかりとなる事例である。学習コミュニティをつくるために活用できるであろう。最後に、計画するために役立つであろう資料やアンケート、評価、財政についてのワークシートを所収した。 第1章 CIPEへの歴史的背景̶世界的な平和教育のコミュニティとしてのIIPEのなりたちとこれまで

要点 CIEPEのもとになったIIPEの理念や運営の仕方を知る。と同時に世界的なつながりをもつ地球規模の学習コミュニティである IIPE(平和教育国際集会)について、またCIPEがどのようにできたのかを理解する。

問いどのように自分の地域の問題を地球的規模の問題と関連づけるのか。

IIPEとは何か、 IIPEと CIPE のねらいとすすめ方はどのように異なるのか。  平和教育国際研究集会(IIPE)は1982年にはじまった。以来毎年、世界のさまざまな場所で開催されている。最初のIIPEはコロンビア大学テイーチャーズ・カレッジでおこなわれ、ベテイ・A・リアドン、ウイラード・ジェイコブソン、およびダグラス・スローン教授らによって教育省の協力のもとに開催された。IIPEは世界中から教育者と専門家がつどい、仲間とともに仲間から学ぶ、多様な文化からなる協働で学ぶ機会であり、批判的で、参加型ですすめる平和教育の短期間の学習コミュニティの1つの典型である。この集会は平和教育者のネットワーキングをすすめ、仲

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間をつくるよい機会であり、これまでもさまざまな共同研究プロジェクトにとりくんだり、地域や近隣諸国、世界規模での平和教育のとりくみを生みだしてきた。国際平和ビューローは2005年度のユネスコ平和教育賞にIIPEを推薦するにあたり、IIPEを「おそらく平和教育を多くの教育者にひろめる、もっとも有力な非政府組織であろう」と評した。 IIPEの社会的な目的は平和教育の理論を発展させ、実践および政策提言をすすめることである。CIPEもIIPEも同様の目的をもっている。ただしCIPEでは、CIPEが開催される地域では何が必要されているのか、どのような変化がその地域で求められているかが検討される。まず、地域の切実な課題は何か、それにたいしてどのような教育をすすめたらよいかを検討するのである。ます、IIPEがとりくむ3つの目的を次にあげる。

1)平和教育の本質を発展させるために、日々、進歩する要素をとりこみ、あたらしい、また現実的な意味のあるテーマに関して探求する。

2)NGOや大学ほか諸機関などによる、より効果的な国際的連携によって、平和教育の理論と実践に関する専門知識の交流をすすめる。また関係者にとって相互の益になる教育改革のとりくみを推進する。

3)IIPEでは、平和教育に関するリソースを共有し、理論を発展させ、協力して教育実践をすすめる。

 地球的課題にたいして平和教育が何ができるか、その展望をもつために世界各地での経験を最大限いかすことができるよう地域での協働をはたらきかける。そのため、地域で活動する組織や参加者の実質的な参加を得られることが望ましい。開催地域からの参加者が半数以上あるように計画されるべきである。 IIPEは毎年異なる大学やNGOなどの組織の協力によって開催される。平均65人ほどの参加者により、1週間にわたる集中プログラムがなされる。創設以来、IIPEは、これまで、カナダとコスタリカ、エルサルバドル、ギリシャ、インド、日本、レバノン、オランダ、フィリピン、韓国、スペイン(バスク)、トルコ、米国の12カ国におよぶさまざまな国で開催されてきた。 IIPEは参加者が平和を実現するために、平和に関する課題や平和にとって何が障害になっているかを把握するための理念と方法を学ぶようにすすめられる。より重要なのはそれらの課題にとりくむことためのクリテイカル・シンキング(批判的思考力)や探究、省察といった技能や能力を身につけることである。また現実的にもう一つの別(オルタナティブ)なあり方を構想すること、そしてそれらを実現する

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ための方策を実行できるようになることもねらいとしている。IIPEは参加者によって、相互に、ともにつくりあげられる。それは学習者が学習コミュニティという共同体で学ぶというパウロ・フレイレの思想と実践のながれをくむものである。 IIPEをあらわすキーワードは「参加者」と「参加型」である。「参加者」と「参加型」という2つの言葉はIIPE の特徴を示している。IIPEでは他の研修や行事とちがい、発表者も参加者であり、参加者は双方向に学びあうことができるように平等に関わる。IIPEは世界のさまざまな地域の多様な平和教育者と活動家の知識と経験に導かれ、人権および女性の権利の実現にむけて、これまでの経験とさまざまな事例から学び、脱軍事化と紛争解決にむけるとりくみをすすめる。 IIPEのプログラムはIIPEのあらゆる場で参加者が相互に学ぶことができるような仕組みになっている。はじめのオリエンエーション、全体会、ワークショップ、セミナー、現地訪問、およびふりかえりグループといういずれの要素もIIPEにおいて、それぞれ機能を果たしている。 オリエンテーションではIIPEのねらいとすすめ方が示される。また学習コミュニティを皆でつくっていくために、たがいに知り合うきっかけをつくる。オリエンテーションとともに全体会でもIIPEが学習コミュニティとなるよう、皆がたがいに知り合う場となるよう配慮する。全体会ではワークショップで皆が共通に理論的な基盤を得られるようパネル(シンポジュウム)がもたれる。いずれのIIPEでも地域への現地訪問が企画され、地域の実状と、その土地の人たちが直面する正義と平和に関する問題にふれるよい機会になる。ふりかえりグループは、学習コミュニティができていくさまを経験する大切な時間である。ふりかえりグループは参加者同士が、その日の成果をわかちあう基盤であり、ふりかえりグループは、学んだことを吟味し、安易に成果に甘んじないで、さらに発展させる場である。またIIPEで学んだあらたな知識と経験をそれぞれの参加者の仕事と個人の生活に結びつけて考えを深める機会でもある。(6章「典型事例」IIPEでなされてきた実践を参照) IIPEの歴史と理念の詳細は、IIPEのウェブサイトを参照のこと。  www.tc.edu/PeaceEd/IIPE. 第2章 平和教育を学ぶ学習コミュニティCIPEとはなにか。その仕組みと準備

学習の目的 学習コミュニティとは何か、その理念と実践。 共同体が効果的に社会を変えるために、どのようなどのような役割があるのか。 CIPEという共同体の運動の地球規模の目的と目標をあきらかにする。

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問いCIPEの基盤となる原則は何か、それらは自分たちの現状にたいしてどのような意義があるか。

平和や安全保障、教育といった意見のわかれる政策論争のような論議は地域とどのような関わりがあるのか。

地球規模の社会と地域はどのように関係しているのだろうか。

 CIPEという学習コミュニティ・共同体に根ざして平和教育をすすめるという考えは、2005年に学校(フォーマル)教育、また学校外(ノンフォーマル)教育、またさまざまな教育にたずさわる人びとおよび研究者によって着想された。紛争予防や安全保障、民主的な市民社会への関与、人権・社会正義・生態系のバランスを実現するための担い手の育成において、教育の果たす役割は重要であり、その可能性は大きいとの思いからであった。個人の発達にとって、また共同体として社会や政治、経済にたいして、教育が「質のある」変化をもたらすことは、おおくの研究者によってこれまで実証されてきた。ユネスコの「万人のための教育」が掲げる目標や、市民社会による人権教育の規範、ハーグアピール平和教育地球キャンペーンのカリキュラムなど、その成果はさまざまな世界的な動きに見ることができる。教育関係機関の専門家には、社会の発展のために教育はきわめて重要であり、社会を変えるためには教育のあり方を変える必要があるということは、あきらかである。そのための指針として、教員養成や研修、ノンフォーマルな場での教育活動にたずさわるトレーナーにとって「平和・人権・民主主義教育に関する総合的行動要綱」(1995)は、基本であり、普遍的なものである。教育を変えていくためには、指導者の育成や教員養成・研修が重要であり、とくに教師や社会教育の指導者を指導する立場にある人びとが専門的な力量を身につけていくことが不可欠である。 暴力や安全保障、平和といった議論がわかれる重要な課題についての話しあいは、草の根からはとおいところで、現場の教育者の意見を聞くことなしに、政治家などによってなされるのがつねである。しかし、地方においても、地球規模のいずれにおいても公平な意志決定のためには教育者の関与が必要かつ不可欠である。草の根の組織や教育関係者の役目は重要であるが、紛争地域や開発途上国において、充分な時間や財源、物的・人的資源を得ることができないでおり、必要な知識や適切な研修の機会を得ることができないでいる。学ぶ機会も限られ、地域や分野をこえて国内や国外の同じような状況の人たちと経験を共有したり、研鑽をしたりする機会も少ない。今日、さまざまな課題にとりくむ最前線にある教育者同士が、真剣に継続的な対話をすすめる機会をつくることが急務である。それにより教育者が地

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球規模で市民社会とつながり他の教育者を研鑽し、世界の多くの市民は効果的に市民の参加のための教育を通じて、権利を得ていくことができるのである。 地域でIIPEのようなとりくみをすすめたらよいという考えがIIPEの参加者の多くによって、長年にわたり、あたためられてきた。IIPEの内容や方法とも、関係各方面へのニーズにこたえるものであり、近年、よりひろいあらゆる分野の人たちがIIPEに参加するようになってきた。そうしてIIPEで学びたいという期待もひろがっている。現在、IIPEのネットワークには、世界のほぼすべての地域から、学校教育やノンフォーマルの場で教育にたずさわる平和教育の実践者の参加がある。しかし、現状ではIIPEは地域での活動のとりくみを充分に促進するネットワークにはなっていない。今後、地域のニーズを反映し、実行性のある国際的な平和教育の活動やトレーニングプログラムをIIPEで実施していくよう期待されている。これまでIIPEのような国際的なプログラムは参加費が割高だったり、旅費もかさみ、また言語の障壁も少なからずあり、参加したくとも誰でも参加できるというものではなかったこともあり、IIPEの経験の蓄積は、あまり地域にひろがらなかったといえよう。 このようなIIPEをCIPEはもとにしていて、IIPEからCIPEは発展したものといえる。CIPE では地域の課題にとりくむ。これまでIIPEを開催したことのある組織や、IIPEに参加したことのある者が中心となり、IIPEのコーディネーターの協力と支援を得て、1日から3日にわたる短期間のIIPEの簡易版のような集まりを地域で開催することが構想されている。それぞれのCIPEは独自のプログラムをもち、地域の課題にたいして、地域の人びとや団体の協力を得て地域の言語をもちいて運営されることが期待されている。

CIPEの目的

平和教育にたいして地域での支持を得る 世界にはたくさんの平和教育の実践者がいる。しかし平和教育を実践する教育関係者が、たがいの活動を知らず、相互に助けあうことができない現状がある。IIPEは世界各地からの参加者が一堂に会し、連帯する機会になっている。CIPEは同様に地域において教育関係者がつどう場になるであろう。

たがいによい実践を学ぶ IIPEは理論と実践を生みだす場である。現場で日々実践する教育者こそ卓越した専門家である。IIPEという学習コミュニティは、そのような仲間とともに仲間から学ぶ場である。

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地域の今の状況と課題をあきらかにする 毎年、IIPEでは開催される地域における平和への課題や困難となることがとりあげられている。それぞれの地域には、固有の文化と歴史があり、かならずしもIIPEでこれまでとりあげたものがすべてにあてはまるとは限らない。CIPEによって地域において教育による変革をすすめるために、もっとも適切で、時宜にかなった課題をあきらかにすることができると思われる。

学校や地域でコミュニティ・ベースの平和教育のとりくみがすすめられるよう支援する IIPEには世界各地から、平和教育のプログラムやとりくみをはじめるための支援の要請がたくさん寄せられる。しかし、ニューヨークから支援するというよりも、地域で共同してすすめる方がよい場合が多い。地域でのとりくみに、これまでのIIPEや国際的なつながりの成果を、CIPEに反映することができるようにとりくむ。

地域や国および地球規模での政策への関与をすすめる 社会を変えること、つまり社会変容をすすめるには、社会のあらゆる分野の人びとの参加が効果的に得られるようすすめる施策が求められる。政策決定にかかわる人びとや権力者へのはたらきかけのみでは不十分である。教育改革における重要な担い手であり、当事者である学校などフォーマルな教育にかかわる教育関係者およびノンフォーマルな教育の指導者が、そのプロセスにかかわる必要がある。ともにちからをあわせることにより、平和教育の必要性と可能性を示すことができるであろう。

平和教育の研究とあたらしい展開の可能性を追究する 世界にあるさまざまな平和教育の多様な実践や理論は相互にあまり知られていない。また平和教育の成功事例を共有することさえもなされていない。CIPEのネットワークをひろげることで、世界の平和活動にかかわる人びとの連携が可能になる。他方、CIPEは実践や理論および成功事例を共有する機会にもなる。

IIPEとCIPEのちがい IIPEは世界各地の平和教育者からなる短期間の学習コミュニティであり、他方CIPEは地域で計画され、継続的に顔をあわせ、たがいに協働してとりくむ恒常的な学習の場である。

CIPEの組織 南米・コロンビアのボゴタではFundacion Escuelas De Paz(平和教育財団)と

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いうNGOによってCIPEを展開する計画がある。これまでこのNGOによるイベントに参加したことのある学校の教師によびかけて、小さな集まりをはじめた。まず、定期的な学習会をもち、CIPEとして地域や学校で平和教育の活動に着手するよう地域で教師の仲間ととりくみはじめている。 このボゴタでのCIPEのプログラムでは、午前に関係者によるワークショップがなされ、午後は誰でも参加できるような2部構成になっている。平和教育や平和運動に関わる教員や関係者へのワークショップを午前中におこない、そこでは参加者が自分は何をしているのかをだしあい、平和教育の理論と実践を学び、発展させ、また平和教育をすすめるための組織づくりを担うための力量をたかめることをねらいにしている。さらに午後は学習コミュニティという共同体の活動をひろげることをねらいとしている。一般によびかけたオープンな集まりとして、地域や国際的に活動する人びとも連携して運営できるよう、実践や経験をよりひろく共有する。

CIPE実施のための規準と指針

要点 CIPEの組織としくみ

問いCIPEにどうしたら参加できるか。

CIPEの実施機関となる際の目安は何か。

平和教育のネットワークや共同をすすめる組織に参加するには、ほかにどのような機会があるか。

 CIPEは地域での展開を第一に考えているが、地域に根ざしつつ、教育によって社会を変えるという大きな運動を担うという展望をもっている。CIPEは独立した自律的な学習コミュニティであるが、たがいに学びあい、助けあうことにより、学習そして教育によって地域にどのような暴力があるのか見いだし、転換するという目標をもっている。地域でのそうした目標は、それぞれの地域の状況において、社会が抱える暴力の問題と連関させて考えることで、より大きな視野でとらえることができる。CIPEが一時限りで、特別な場であったとしても、継続的に地域で支えあい、たがいに学びあうことで、一貫した基盤をきずくことができる。CIPEはIIPEでのよりよい成果をもちより、熟成する機会になる。CIPEは地域での協働によって、直接的なまた間接的なあらゆる形態の暴力を減らし、なくすよう、社会を変えていくこ

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とにとりくむのである。 CIPEはまだ途上にあり、試行の段階にある。はじめの何年かは、CIPEのプログラムをよく検証しながら、それぞれの CIPEの実践から学ぶことが必要である。あまり数が多いと、検討するのが困難なので、当初、数をかぎっていくつかのCIPEの試行例を検証する。これまでIIPEを実施した組織やほかの事業を実施した経験をもつ団体が関連する組織と共同してCIPEは運営される。今後、事務局による評価がなされ、整った実施要領も用意される。 CIPEを実施したいという要望すべてに組織的におうじることはできないので、同様のとりくみを独自にすすめることを要請したい。これらのとりくみは IIPEという地球規模で、地域をむすぶネットワークで共有することができる。

評価と報告 CIPEの実施にあたり、参加者に事前・事後アンケートをおこなうことが要請される。また実施者による事後評価をおこない、それらを国際IIPE事務局およびCIPEネットワークに報告する。これらの評価の書式は資料として巻末に所収されている。 CIPEへの評価および評価は、社会のさまざまな場で、長期的にも、またどのような直接的な成果が得られたのかを見定めるためにも有用である。さまざまな原理や方法、実践を評価し、平和教育に関する研究を発展させ、今後のとりくみや研究の分野を模索することにつながるものである。 第3章 地球規模の平和教育の共同体への参加

要点 ことなったネットワークや組織である地球規模の平和教育の共同体へ参加の仕方を知る

問い平和教育のネットワークや共同体に参加するにはどのような機会があるだろうか

 平和教育の国内外のネットワークとしてCIPEとIIPE が連携している。CIPEを国際的にとりまとめるのが国際事務局 ( GCC)であり、CIPEとIIPEは国際事務局による支援をうける。地域に基盤を置いたCIPEの活動をつなげる役割がIIPEにある。世界のCIPEおよびIIPEをとりまとめ、リソースを共有する軸(ハブ)のような役目をはたす。平和教育の活動やリソースとして、地域でまた全国に知られている研究者や教育者、活動家と連携のもとにある。国際事務局は平和教育のとりくみを個人や団体がすすめることのできるよう支援し、地域や海外でどのような活動があるの

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か、情報を提供する窓口になる。CIPEのウェブはすでに活動しているメンバーの検索できるようになっている。さらに地域ごとの平和教育のオンライン・コミュニティに参加することでコミュニケーションを深めることができる。

平和教育地球キャンペーン( GCPE) 平和教育地球キャンペーン(GCPE)は 1999年の「ハーグ平和アピールを契機にはじめられた。ハーグ平和アピール平和教育地球キャンパーン」というのが正式名称である。学校や過程、地域において、暴力を平和の文化に転換することをすすめる国際的組織である。GCPEは、現在、コロンビア大学ティーチャーズカレッジ平和教育センターが連絡調整にあたっている。 平和教育地球キャンペーンには2つの目標がある。1つは平和教育が世界中のあらゆる教育課程に位置づくこと、そして地域ならびに家庭にも根づき生活の一部となるよう推進することである。もう1つはすべての教師が平和を教えることができるよう教師教育をすすめることである。

平和教育地球キャンペーンニュース 平和教育地球キャンペーンのネットワークにかかわる団体の活動やその進展に関するニュースレターが毎月だされている。各地でとりくまれたことの成果と課題や誰が何をしているか、行事ならびに学会などをはじめとする会合、研修、出版物、求人、緊急行動の呼びかけなどに関する情報が掲載されている。誰でも以下のウェブサイトから購読の登録ができる。

平和教育地球キャンペーンニュース:www.tc.edu/PeaceEd/newsletter.

平和教育オンライン・コミュニティ CIPEやIIPE、平和教育地球キャンペーンの活動をすすめるためにオンラインのコミュニティがもうけられている。平和教育オンライン・コミュニティは、CIPEのウェブサイトの一部で、インタラクティブにCIPEのメンバーがたがいに、地球規模で世界中のほかのメンバーとコミュニケーションをはかることができる。カレンダー形式で各地の活動や行事が掲載されている。集会などの報告もなされる。カリキュラムの事例や典型実践に関する論稿や記録などが蓄積され、また、オンラインでの論議の場も提供される。このウェブにより平和教育の世界的な動向や成果と、CIPEが連携することができる。平和教育オンライン・コミュニティはIIPEとCIPEに参加する人びと平和教育地球キャンペーンのメンバーの共同の場ともなる。以下のウェブサイトから平和教育に関心のある者なら誰でも参加することができる。

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平和教育オンラインコミュニティ:www.c-i-p-e.org/forum

IIPEやCIPEへの参加 IIPEという地球規模のネットワークや地域のCIPEに個人として、あるいはグループとして、つぎのようなやり方で、参加することができる。

地域において、これまですでにとりくまれているCIPEのイベントに参加する。 CIPEをとりまとめている世界事務局に連絡をして、地域でこれまでなされた平和教育のイベントや研修を問い合わせる。また、団体のネットワークやとりくみ、資料を手に入れる 平和教育オンライン・コミュニティに参加する。 平和教育地球キャンペーンに参加する。 CIPEとIIPEのコーディネーターに連絡する。 第4章 共同での学びに参加する熟考する学習コミュニティ

要点 共同体すなわちコミュニティの多用なあり方、役目への理解をふかめる。 共同体すなわちコミュニティで人びとが協働するための方法と実践を知る。

問い学習コミュニティを構成する主体は誰で、その要素は何か。またそれは誰によって、どのように定義されるのか。

健全な学習コミュニティという共同体に求められる条件や、そのために欠かせないことは何か。

ちがいや多様性を備える健全な共同体であるにはどのようなグループ活動があり、またそのためにどのような手法をもちいることができるのか。

自分が当事者として学習コミュニティの形成にかかわり、社会と関与するために、どのようなやり方ができるか、そのための学習をどのようにすすめることが可能か。

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 人びとは自分が関係する共同体に所属している。これらの共同体は人びとの必要にもとづき、どのような経験が価値あるものかを規定する。地理的な共同体では資源や自然環境、境界による利害もうまれる。しかし、グローバル化した世界では地理的なコミュニティは融合し、境界は急速に消失しつつある。そして、より大きな世界の感覚が生まれており、国家ではなしえなかった、あらたな平和的な人びとの関係がなりたつ可能性がある。グローバリゼーションという用語が、一般的になるずっと以前から、平和教育者や研究者は、地球のすべての生命が、かけがえのないバランスのうえに成り立っている生態学的(エコロジカル)な、つまり、あらゆるものが関連して生存しているという見方にもとづいて、グローバルな地球共同体の実現にむけた教育にとりくんできている。いずれにしろこの世界は、まるごとグローバル化し続けている。今ほど産業技術の発達により、障壁がとりはらわれた制限のない経済活動のすすむ時はかってなかった。他方で、人びとは地球をよりひとつのものとして、実感するようになってきたのも事実である。 IIPEとCIPEの実践は、共同体の価値と経験に根ざしている。いずれもたがいに学びあって、政治において、また何らかの行動によって、その可能性は現実化する。これまでのたいがいのフォーマルな教育では人びとは市民として、主体的で、批判力のある社会的な関与ができていない。社会に無関心で、人びとのちからが奪い取られているのは政治への関心の欠如のみならず、フォーマルなまた、ノンフォーマルな教育のいずれもが人びとが政治に参加することをさせなくしているところに原因がある。政治参加は社会のいとなみへの個人の関わりに根ざしている。個人の関わりは自分の共同体への意識をとおして形成される。地域のなかで、ほかの人とともに関わるなかで、知識や考えを社会と連関させ、社会を変えていくためのちからをつけることができるのである。 どのように共同体が形成され、活動がすすむのか、また共同体がどのように育っていくのかを追究することは、いづれのCIPEでも重要である。次にPatricia Calderwoods による4つの点をあげる。

1)集団の一員であるというアイデンティティの形成2)ちがいや多様性の理解3)どのように共同体の一員になるかを学ぶこと4)共同体を讃えること

 この本ではこれらの要素を踏まえることが共同体の形成と展開に関して役に立つと考える。 (Calderwood 2000, 23). グループ・アイデンティティの形成はさまざまである。グループ・アイデンティテ

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ィは、共通の関心を基盤とする多様な要因と条件から成りたっている。ベティ・リアドンは集団への所属意識は、一緒に何かする経験をとおして、一過性のものではなくなると述べている。 共同体において、その集団は知識を共有し課題について集団で考えを深め、変化への協同のとりくみが用意される。共通の課題のもとに、たがいに尊重し、傾聴することによって、また熱心な参加により学習コミュニティとなる。社会的な課題にともにかかわり、より大きな場にでていくことで、アイデンティティができていくのである。 共同体での活動できまって起こる失敗は、多様な人びとのちがいや個性を、団体のために犠牲にしてしまうことである。グループでは、ちがいや多様性から、おうおうにして対立や争がおこる。しかし、ちがいや多様性は、同時に、変化のために、それまでにないあたらしい考えや理解、可能性をつくりだすものでもある。ベティ・リアドンは、共同体の内部のちがいや多様性は、たがいの尊敬や理解、参加の促進という積極的な過程をへて、対立や争いをのりこえることができると説明する。そのようなグループ・プロセスの経験により、多様性を学ぶことができ、定着する。またその過程でグループの一員としての自覚が促される。集団を構成する人びとの一人ひとりの力と現実の生活での責任とリーダーシップのあり方は多用であることを考慮する。共同体を讃えることは、すべての人が共にあることを思い起し、すべての人が何らかの寄与を集団にしていることを実感することができる。 さまざまな文化や社会には、コミュニティでのよい関係やふるまいを身につけるための多様な学習のやり方がある。平和にすなわち安心して暮らすことやいのちを大切にすること、人権、共感、正義などという不可欠な価値にかなうように、のぞましい関係やふるまいを人びとは身につける。これらの価値は、相互に関連していて、その価値は、人びとや組織に作用している。また、たがいがかかわる際の価値に反映し、ちがいや共通性、対立に対象するうえでの指標にもなる。それらの価値について教えられることは多いものの、計画された学習で適切に示されることは少ない。また平和教育でも体系的に構想され、実践されていないのが実情である。 Jenkins(2006)によれば、平和教育センターは学習者が地域で生活するために、社会との関わりができるような学び方で教育実践をすすめている。その実践はさまざまな場で社会的に関与するために必要な知識や技能を得るという目的にかなう学習の原理にもとづいている。また、学習コミュニティができていくなかで、他者とかかわり深く学べるよう計画的にとりくまれる。同時に多様な場で総合的なやり方で社会に関与できるよう促進される。社会のさまざまな場で、さまざまな原理ややり方で実践できるように、みずからの経験から考えられるようにする。

学習者が現実と行動への可能性を省察するようにする

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 自分の価値とものの見方や、生活する社会の構造やシステムを問い直すようにすることは重要な手だてである。それは個人や集団のアイデンティティが社会においてどのように形成されるのかを理解する重要なステップである。このプロセスが、まさに「意識化」であり、社会への関与は実践と内省(ふりかえり)によってそだつのである。

教材によって今ある知識が検証され、学習者の批判的な関与を可能にする。 このとりくみによって学習者が知識を批判的に検討し、現実的なあらたな選択肢を考えることができるようになる。批判的な学びは、暗記ばかりをするこれまでの学習の対極にある。このような主体的な探究が、参加型学習の特徴である。

学習者同士が関わりあいをつくる 社会変革や変容をすすめる教育には、学習コミュニティのすべての人びとがかかわる。共通の問題をあきらかにするには、仲間とともに、仲間から学ぶ力量が必要である。そのような協働のための技能と実践が重視される。

社会との関与 平和教育は、社会において行動することのできる学習者すなわち市民としての力量を身につけることを目的にすすめられる。その際、イデオロギーを外から押しつけるのではなく社会的な行動をとおして学ぶようにとりくむ。そして人びとがより望ましい未来のために、現在なすべきことを、この社会で実行することができるようになることを目指すのである。

はぐくみあうコミュニティ CIPEでは、参加者が一堂に会した場で、あるいはワークショップで共同体は何であるかの理解を得られるようプログラムが組まれている。そのプログラムは「グループ・アイデンティティの形成、差異と多様性の理解、共同体の一員となるすべを学ぶこと、共同体を称賛すること」というCalderwoodによって示された4つの要素を、学習コミュニティができていくなかで体験するものである。

暴力と対立 暴力は、人が意図的におこなうものであり、避けることができ、防ぐことができる傷害である。暴力にはさまざまな形態がある。個人や集団の間で相手を傷つけるのが身体的な暴力であり、戦争による被害は典型である。他方、社会的・文化的規範や制度によってもたらされる危害は、「間接的」な暴力であり、目にみえにくいものである。特定の人びとのみに有利な経済政策は、間接的な暴力の一つといえ

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る。

 対立は、元来暴力的であるという誤った思い込みがある。ICCCR(協力紛争解決国際センター)によれば、対立は当然おこることであり、どのように対処するかで、破壊的にもなり建設的にもなるとする。また「対立は暴力的な結果を思い起こさせ、不安をつのらせる。対立からはおうおうにして、けんかやけんかへの仕返しとみなされる。しかし、現実には、対立は、自分自身や他者の関与を学ぶきわめて人間的な機会であり、社会的関係を変え、古い観念や行き詰まった関係や状況を打開する」とも説明されている。 第5章 平和教育概論多様であり意味のある内容と形態包括的ならびにホリスティックな見方

要点 平和教育の社会的な目的を深く理解する。 平和教育のすすめ方や内容と形態は多様であるとの意識をもつ。 社会を変えるための教育における包括的ならびにホリスティックな原理を知る。

問い 包括的平和教育を構成する価値や内容、すすめ方は何か。  教育の社会的な目的は何か。

 平和のために、どのような知識と技能が必要とされるのか。

 またその知識は見いだされ、学ばれるのか。

 学習される内容と学び方は関連があるのか、あるとすれば、どう関連しているのか。   平和教育の目的や目標は何か。平和教育は平和について教えることだとしばしば誤解されている。ガンジーやキング牧師など平和運動や指導者について研究もなされ、教える講座もある。歴史は暴力的な争いの連続としてとらえられているので、平和について教えるというのは、もちろん意味がある。しかし、平和について教えるのみならず、平和のために教えるということが重要である。平和のための教育

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は、あらゆる形態の暴力について、知り、屈せず、変革していくためのものである。世界の平和教育の研究者および実践者は、平和教育は平和についての教育また平和のための教育のいずれでもあるということでは、一致している。 平和のための教育は、あらゆる形態の暴力を知り、立ち向かい、対抗し、転換するためのものである。他方、平和のための教育は活動家のためのものであり、政治的なイデオロギーを押しつけるものだという偏見もある。しかし、いかなる教育の形態も押しつけをまぬがれることはできないのであって、平和教育も教育一般と同じである。あらゆる教育には社会的な目的がある。権力をもつ人びとが教育を計画するのに携わり、教育政策を立案し施行することによって社会に影響を与えようとする、それは革新であると同時に保守的でもある。西欧化は競争的な消費社会に必要な技能と知識を、学校教育をはじめとするフォーマルな教育をつうじて身につけさせるにつながる。それによる社会階層を固定化する機能を教育はもっているともいえるのである。 また、実際、教育は中立で、特定の価値によらないものということもおうおうにして言われる。しかし、次の質問への答えは、フォーマルな学習の実態は、けっしてそうでないことをあきらかにするように思われる。

 誰が教わっているのか。 何が教えられているのか。 何を、誰が教えるかを決めるのは誰か。 どのように教えられるのか。 どのように評価されるか。 どのような価値が、学習の中核とされているか。

包括的平和教育 平和教育の内容と方法の2つの側面に注目し、それらを統合する包括的平和教育を平和教育センターは提唱している。

いかに知るか、また何を知っているかが、知識を生活の場で、どのように使い、生かすかに、大きく影響する。

 目的と内容とすすめ方のあいだには重要な関係がある。教育をつらぬく原理というべきものである。いかに知るかという過程に注目することが大切であり、どのように学ぶかは、何を学ぶかということと同じように意義深い。このように学習過程を重視するということが、主体的かつ批判的に学ぶ人を育てるために、重要だとい

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うことが浮かびあがってくる。

ベティ・リアドンは包括的平和教育について次のように述べている。「世界に核がひろがる時代に、世界中のすべての人に重大な責任がある。その責任を教える総合的な原理に包括的平和教育はもとづいている。連関するあらゆる分野の知識をとりあげ、教育のすべての段階でまたあらゆる学習の場で、生涯にわたってひきつづきなされるものである」(Reardon 1988, 74)。

 包括的な教育へのとりくみは、教育の社会的な目的と価値を問うところから、はじまった。内容と方法は、教育の社会的な目的にあうように定められる。ベティ・リアドンは、地球的な責任は、教育の社会的な目的のもとに学習のあらゆる段階と場でなされ、あらゆる段階と領域の内容からなるものであると、同時にどのように学ぶかという点でも、主体的で持続的で型にはまらない方法をとる。あらゆる段階と領域の内容とするということが、重要であり、包括的平和教育の意義深いところである。社会の複雑な現実や紛争・対立を理解し、それらにとりくむために、あらゆる分野や領域の知見を平和教育はとりいれる。 あらゆる教育において、教え込みを避けるということは、至難のわざであるが、克服すべき課題である。平和教育も例外ではない。しかし、内容と方法を一致させ、社会的な目的と教育的価値をつらぬく包括的なやり方をとることで、イデオロギーの刷り込みをのがれることができる。平和教育は、民主主義や非暴力、共同体、協同、社会正義という価値にもとづいている。と同時に、ちがいと多様性を、大切にし、学習者個々の自立を認め、優先するという考え方をとる。一貫性をもって平和教育のこれらの価値は、批判的な、内省的な学習様式によって実現される。このような学習者中心の手法によって、指導者によって教えられるのではなく、本来、学習者が内にもつ価値がおのずと学習者自身によってはぐくまれる。これはプロセス重視の学習であり、批判的思考力や分析、内省による。何を考えるべきかということのみならず、いかに考えるかということに注目する。平和教育者は、ひとつの意見のみを教えることにならないように、注意しなければならない。学習者が社会的また政治的に社会に積極的に関与することができるよう、適切な技能と知識を身につけることが重要なのである。課題にどうとりくむか、自分で選択できるようになることが求められる。

ホリスティックなものの見方をはぐくむ 人びとには個人のまた対人関係および世界や社会にひろがる複雑な経験のひろがりがあり、平和をはばむ問題は、多様で相互にからみあっていると平和教育ではとらえている。それゆえ平和教育には、これというきまりきったやり方はなく、多角

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的な考え方や学び方によって体験をとおして平和教育の実践はすすめられなければならない。あらゆることが連関しているというホリスティックな考え方によって、平和教育は、人間が経験する社会組織のあらゆる分野と段階において、それらを統合する基本的な関連性をあきらかにしようとする。ホリスティックなものの見方によって、直接的また間接的な暴力と、それらの連関を見いだすことができるようになるのである。そして、すべての暴力をなくすために必要な、価値観や実践、そのための条件をあきらかにしていくことが平和教育によって可能になる。ベティ・リアドンによれば、ホーリズム(全体的にものごとをとらえる考え方)は、包括的な平和教育のひとつの要素である。

「統合的かつホリスティックな教育の最も重要な要素は、全人的であり、地球的秩序とともにとらえることであり、教育のいとなみの中核である。この教育は、あらゆる地球のはたらきと、これまで述べた地球の生態をはじめとするさまざまなつながりに気づき、主体的かつ意識的に行動できるようになることでもある」(Reardon 1988, 74-75)

「段階的ではなく一足飛びに、直接、個人がより大きな状況と結びつく、ホーリズムというすべてのものがつながっているというグローバルな意識を表現すること」(Aspeslagh and Burns 1996, 11)そのために、ホーリズムの視点は重要である。平和教育は、平和を実現するために包括的で、相互に関連させてすすめる。暴力や対立の複雑で全体に作用する性質を理解するのに、小さな世界と大きな世界が融合しているという考え方が重要である。地域でおこる対立・紛争や、また暴力的現象はきまって大きな社会問題と関連している。

平和教育の内容と方法 平和教育の内容と方法は、一体であって、社会的意味をもち、状況からきりはなすことはできない。イスラエルの平和教育者であるDan Bar-Talは、「その社会がもつ課題によって平和教育のあり方がきまる。平和教育は、社会のニーズや目標、問題に関与し、機能するものでなければならない。これらはどの社会でも平和を実現するための重要な要件である」と述べている。暴力と平和のさまざまな問題を社会的とのつながりで理解することができるようになることは、平和教育者にとって大切なことである。各地の CIPEは、その地域の文化と状況にあう内容と方法について、地域の教育者が学び、問題をともに考える機会を提供する。 CIPEは地域との関係をきわめて重視する地球規模の平和教育のプログラムである。世界はさまざまであり、不公正のあるなかで、平和教育は文化的・平和的な基盤を求めつつ、多角的な見方や複雑性をおびる。CIPEは人間の多様性と尊厳のもと

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に平和に生活するために不可欠な学習と、暴力を克服するためにすべきことに積極的にとりくむ。そうした目標を掲げ、平和をはばむ問題と平和への障害は何かということについて学習する。その際、学習のプロセスすなわち過程を重視し、批判的かつ、協力的な探究する場を構想する。どのように学習するか、その方法や過程が重要であり、あらたな知識をうみだし、たがいに異なる意見を出し合う場をつくる。平和への問題と障害にたいして、すべて解決策を提供するのが平和教育者の役割ではない。学習者が適切なやり方で、問題や障害に対処し、変化への技能と力量を高めることができるよう力量をたかめることが第一である。

IIPEでの蓄積から 世界でなされている多彩な平和教育を集める余裕はないので、これまでのIIPEの参加者によって実践された事例をここで紹介する。いずれも平和の文化を学ぶための試みである。これらの事例を、みずからの経験にてらしあわせて、各々の状況にあうように、どのようにすすめるか、身につけるべき技能は何か、実践を検討していくことがのぞまれる。

 非暴力という考え方や実践的原理および応用可能な技能に関して経験ゆたかな実践者から、指導者が研修を受けて、ワークショップや話し合いの機会をつくる。

 地域や地球規模での問題や紛争と、CIPEでの関連する課題について、よりひろい見地から展望や意見を聞き、現実的な解決のための多角的な考えを参加型で深める。

 人権に関する倫理的原則や国際的基準など、国際的な人権運動に関わる活動家や教育者から、人権のさまざまな側面や、世界のさまざまな地域での社会的な倫理に関する状況について知る機会をつくる。

 世界のあらゆる社会にたいする地球規模の多大な影響について、現実のグローバリズムや異文化間協力のあるべき姿をみきわめることにより、暴力や不正義による問題を考察することに役立つ。

 学習者中心の教え方によって、多様性をおもんじる価値と学習コミュニティが形成される。平和教育者に大きな影響をあたえたパウロ・フレイレによる内省し行動するという様式は、参加型学習といわれ、生きる場としての意識を得ることになる。それは、一般的な教育あるいは型にはめるような教育のやり方では到達し得ないものである。

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 平和の文化のための教育は、さまざまな領域や教科によって、すすめられる。平和教育の学際的なあり方は提案のみならず実践すべきものである。

 教育へのあたらしい考えを知ることは、すぐれた方法を知ること同様に意味がある。ワークショップに参加する体験をつうじて、実際にあたらしい技能とやり方を身につけるようにする。

 仲間がつながり、たすけあい、はげましあうことができるよう、メーリングリストやCIPEのウェブサイトでのコミュニケーションや対話をすすめる。また共同で事業にとりむなど、あたらしい教育への考え方に、つねにふれることができるよう、ネットワークを保持することにつとめる。

必ずとりあげるべき内容 平和教育の内容として具体的な地域の暴力の状況についてとりあげる。次のリストは、国際的な専門家の提言にもとづいて、平和教育を促進するための内容として、あげられたものである(Brenes 2003)。平和教育の内容である普遍的な価値を理解するために、実践するためのフレームワークとして、活用されたい。

人権、義務および責任世界人権宣言や地球憲章といった文書から、平和を達成するために必要な行動への一人ひとりの責任を理解する。

軍縮今日の安全保障体制における軍備の役割を分析し、武器や軍事に依存する安全保障にとってかわる、もうひとつのべつのあり方を求める。

非暴力と紛争転換これまでの非暴力の思想においても、またあたらしい非暴力と紛争転換の考え方や実践でも、非暴力によって変化がおこることを、あきらかにする。

世界規模の市民文化、シティズンシップおよび連帯これらの価値は世界規模のつながりが、国家によらない関係を見いだし、地球規模の共同体を形成し、市民社会による運動と提言をおこなう。

回復と和解

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構造的な変化および関係を変えるのに、紛争や対立および暴力の根本の原因を認め、和解し、修復することが必要である。

精神性内面的また個人的な平和へのいとなみとともに、その土地、古来からの先住民がもつ価値や知恵の再評価をすすめる。

エコロジカルな持続性および環境正義社会および生態系の平和が、相互にかかわりあっていることを理解し、エコロジカルな思考を重視する。戦争の代償や損失を理解するうえでエコロジカルな持続性および環境正義に注目する。

経済的、社会的正義グローバリゼーションや開発によって、貧困や貧富や資源配分における格差がひろがることの意味を理解する。

ジェンダーと軍事化、ジェンダーの正義平和にとって、不可欠な概念である。安全保障の意思決定の場から女性が疎外されることは、父権制と軍事主義が不可分であることを理解するために重要である。

教育の軍事化戦争の準備が教育によってなされたり、教育が戦争システムを維持するはたらきをしている。教育が軍事に加担する役割についてあきらかにする。

教育原理 教育原理は教育技術や実践と区別して考えられない。教えるという専門性に関する研究が教育学であり、教育実践をすすめるのに教師にとって役立つものである。教育学は人間と学習のかかわりに関連することがらへの思索から、教師も学習者であるとみなされ、教育学は学習者どうしの学習を促進させる活動であるとの理解にいたる。

力量と技能および実践 学習者が学習をつうじて、はぐくみ、ちからを得ることを可能にする個人の資質が力量である。力量は、平和教育によって学ぶ価値に貫かれ、芯が通った学習と行動を可能にする基盤となる。平和教育はこれらの力量からはぐくまれる行動に大きく関わっている。目標とする技能が、この基盤に裏づけられ、日々のふるまいや行

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動がなされるように平和教育はとりくまれる。ただし、学習者が身につける力量は、かならずしも同じものではなく、すべての人が同じ資質を得ることを前提にするものでもない。人によって、身につける力量には、幅がある。 技能は他に伝えることができる行動のあらわれであり、鍛練によって熟達する。技能の育成は学習者がどれだけ練習するかにかかっている。 現在の資質、そこから目標とする行動によって教育実践の内容が決まる。目標とする内容と学習の目標に関連するよう意図的に計画することが、成果につながる。

CIPEのウェブでは、参加者が平和教育のすすめ方や内容について、投稿し、共有し、対話をすることができる。自分の経験から学んだことを、皆のものにできるよう活用がのぞまれる。 www.c-i-p-e.org. 第6章 計画と立案 平和教育の計画と立案の際の考え方

要点 平和教育の計画にあたって配慮すべきこと、必要なものの手配や援助をどのように得たらよいか、また平和教育の計画や準備にあたって必要なことを知る

問い平和教育の社会的な目的は何か。

平和教育は意図的に構想するべきか。そうであれば、どのようにするべきか。

平和教育の目標と、学習の目的と目標は何か。それらは誰によって、どのように決められるのか。

 平和教育を構想するにあたって、社会と教育制度・組織・機関そして実際の教育現場の3つの要素を考慮するべきである。教育実践は現場でなされるが、平和教育の目的は社会を変えることであり、社会を変えるためには、教育にかかわる他の2つの要素も考慮されなければならない。フォーマルな教育制度は社会秩序を保持するためのものであり、権力を隅々にいきわたせることを目的としている。一般の教育実践は、そのような「正統的」な目的のもとにある。しかし、そうした教育制度のもとづく目標と実践を変えていかなければ、社会を変革するという平和教育の社

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会的な目的とはたすことができない。平和教育者は、社会を変えるために平和教育の社会的な目的を追求する。CIPEの目的は、わたくしたちが仲間とともに、平和のための教育を実践し、展開することを促進することにある。

社会的な目的:暴力の文化を変える 世界規模での社会秩序という暴力は、個々の社会に影響し、さまざまな形をとってあらわれる。もちろん地域でそのあらわれ方はことなるが、社会のあらゆる段階で暴力を転換することを追求し、平和と非暴力の文化が結実される。 いかなる社会でも、その社会の人びとにたいして社会的な目的をもって教育がなされている。教育政策によってさだめられる教育の目標を社会変革のためのものに変える。平和の文化を実現するための社会的な目的は、あらゆる形の暴力を否定し、暴力を英雄視することをやめ、暴力を減らし、究極的にはなくすことを目指している。CIPEでは暴力は相互に関連する総体としての暴力の文化の問題によっておこるとみなされている。地域では、さまざまな暴力の形態があり、おのおののCIPEはそれぞれことなった社会的な目的がある。CIPEであつかう課題や、制度や教育を展開するうえでの社会的な目的において、それぞれ地域や学習者がおかれている状況での暴力の実態にあわせる必要がある。

教育の目的、何を優先するのか 教育の目標は政府や行政機関ならびに民間団体によって、社会的な目的にしたがって国民を教育するようさだめられる。人びとがその社会を支え、まちがいなく社会に適合して生活するために、それらの目標は体制によって支持されるカリキュラムによって、指導され学ばれるのである。学校をとおして知識や技能、価値を伝達することに目標がおかれていて、多くの場合、知識の伝達が問題にされる。知識の伝達による教育は、人びとが社会の主流派の地位を得ることに重きがおかれている。しかし、平和教育で提唱される教育の目的は、平和のために、さまざまな課題をあきらかにし、批判的内省や実行性のある社会的行動につながる力量をそだてるカリキュラムや実践にもとづいている。市民が暴力をなくすために行動し、個人や社会、また政治行動において暴力によらないことがあたり前になる世の中を目指すのである。

カリキュラムの目標:教授学習課程と内容を構想する 教育行政や教育内容に関する当該部署の関係者によって学習目標はつくられる。学習者が知識として何を知り、できるようになるか(知識内容と能力)を、見定め、価値づけられて実際の教育条件のもとに、適切で最善なものとして計画される。これらの目標は、社会的な目的にあうものであり、学習者の能力をたかめるも

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のとされる。カリキュラムおよび単元の全体の基盤にもとずいて、さまざまな領域の目標が構成される。

学習目標:学習経験および授業のデザイン 課題に関する知識や見合った技能が身につくように、どのように学習をすすめるか、指導者は授業を構想する。教室や学習の場でやりとりをとおして特定の知識や技能が得られることを目標としてカリキュラムがつくられる。学習者が知識を学び、技能を身につけるのにしたがい、さらなる目標がおかれるようになる。よりひろい知識や技能が学ぶべき目的であり、特定の知識と技能からなるのが目標である。批判的分析への技能と知識の活用がなされる。学習の目的はいくつもの学習目標からなり、目標を達成していくことで目的にかなった成果につながる。学習目標とともに、どのように学ぶのかも重要である。学び方はCIPEの中核でありCIPEにおける不可欠な学習の基盤である。学習の目標にたいして、どのような方法をとるかも決められる。 社会的な目的や教育の目的、カリキュラムの目標、学習の目的の全般において整合性があり、関連づけて平和教育の計画はなされる。そのプロセスは、より大きなところから細かなにところにむかってなされ、平和教育の目的が達成されるように、また、ホリスティックなものの見方によって、意識的なとりくみがなされるように一貫して構想される。 第7章 準備と手順物的・人的・財政的資源と支援

要点 典型例から、平和教育を構想し、準備する際に重要なことをあきらかにする。

問い自分の住んでいる、または働いている地域におけるニーズは何かあきらかにするための方法を見定める。

自分の地域や対象とする学習者のニーズにあうように平和教育を構想するには、どうしたらよいか。

平和教育のとりくみの効果を評価するには、どのような評価方法をもちいればよいか。

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 平和教育のとりくみを構想するにあたって、多角的に考えを追究するために、次に7つのステップをあげる。これらのステップはIIPEを何年にもわたって運営してきた経験からみちびきだされたものである。必ずしもこの順序でなくてもよいが、自分の計画にそくして応用し得るものである。

目的を考える これまで、教育の社会的な目的を明確にすることが大切であると述べてきた。そうした教育の社会的な目的を基盤として、平和教育は意図的に計画される。

問い何を問題あるいは課題としてとりあげるのか。

個人におけるまた社会や文化、経済にどのような変化あるいは転換を望むのか、またどのようになしとげるのか。

それらの変革を教育はどう促進できるのか。

学んだことを社会全般に、また地域にどのように生かし、関与するのか。

ニーズ診断 学習コミュニティを形成するプロセスにおいて欠かせないのが、ニーズ診断である。教育の目的と目標は学習者のニーズにあうものでなければならない。学習者にとってその学習が意義あるものであり、自分と関係があるとの当事者意識をもてるものであるとの理解をはかる。また地域の人びとの参加のもとにニーズをあきらかにするようとりくむ。 計画の立案にあたり、計画する側の先入観や思い込みが、バイアスとなり、ニーズ診断に影響してしまうことをわきまえておく必要がある。そのためで自分の先入観も知っておくようにする。自分が学習者であるということもふまえ、ニーズを把握する際、自分のバイアスに影響があることを知るのは、たがいのニーズを協同で学ぶことへの一歩である。「典型事例」を参照。

問い自分の地域や学習コミュニティにおける、全般的な平和学習へのニーズは何か。いかにして、このような平和教育へのニーズをあきらかにできるだろうか。

メンバーの一人ひとりのニーズは何か。

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CIPEや、他のコミュニティでの学習によって一般的な教育と教師教育とのちがいがあるだろうか。

暴力が地域でどのように起こっているか、その原因と状況は何か。

リソースの評価 なにもないところから学習コミュニティを、はじめるのは、たやすいものではなく、とても時間がかかる。CIPEを計画するのにあたり、これまで同じ課題に関して活動したことのある団体やグループをみつけるとよい。それらの団体は地域に基盤をもち、とりくむ課題もさまざまであり、同時にさまざまな支援が得られるであろう。相互に地域にはたらきかけ、会合の場所や助成についても得ることができるかもしれない。また、重要な課題についての論議やネットワーキングをとおして、知識や考え、よりひろい地域での合意を得ることもできるであろう。このように、すでに地域にある団体とともに活動することは、何もないところから学習コミュニティを組織するよりやりやすい。このような資源を見いだすことは、また、経費を節約し、必要なものごとをまかなうのに重要な手だてである。ステップ5では、資材と支援に関する項目があり、必要なものを用立て、さまざまな形での支援を得る方策について検討する。財政計画を検討するためのワークシートを資料としてつけてある。

どこでCIPEを実施するか、どのような施設・設備が必要か。

ともに準備にとりくむ仲間をどのように見つけるか。

参加者は何人くらいを想定し、どのように呼びかけるか。

これまで同じような関心のもとに活動をしている地域の団体や個人をあたる。

地域にどのようなリーダーや知識人がいるか、学習コミュニティをつくるうえでたすけを得られる人がいるか。

行政や、教会、非営利団体など、地域の団体で、有効なパートナーとなるところはどこか。

ほかに誰か、同じようことを、すでに着手している人はいないか探してみる。

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達成可能な学習の目的と目標を定める  適切な目的と妥当な目標を設定することは、健全な学習コミュニティにとって不可欠なことである。ニーズ診断の一部としてこれらを想定することにより、適切な目標と目的を示すことができる。CIPEなどの参加者と想定した目標を共有するのもまた重要なことである。個人や集団が、学習の目的や目標を意識することで、また、一人ひとりが目的を達成したという成就感を得ることにつながる。

地域のニーズとリソースを把握し、適切な達成可能な目標を策定する。

どのような力量をはぐくむのか、どのような知識や技能を身につけるのか構想する。

あらかじめ想定された目的や目標にもとづいて、人びとは何を学ぶべきで、できるようになればよいのか。

現在、対象となる人びとは、すでに何を知っていて、どのような技能を身につけているのか、あらかじめ、あきらかにする。

学習にあたって何が必要なのかも考慮する。

学習をデザインする 学習者があらかじめもっている知識と技能および経験を考慮して、実践する学習の内容と方法を構想する。さもないと見込んだ成果が得られず、また学習の方法も学習者にとって意味をなさないものになってしまうであろう。

問いこれまでその地域でとりくまれた教育の経験は何かあるか。

参加者がこれまでに慣れ親しんでいる学び方があるか、あるいは反発をされるであろうやり方について、あらかじめ知っておくようにする。

実施する場所での適切な方法や参加可能な人数はどうか。

学習コミュニティという共同体をつくるのにどのようなやり方があるか。

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多くの人の参加を得るための方策があるかどうか。評価 平和教育はプロセス重視であり、目標を達成するには長い期間がかかると思われるので、プロジェクトの実施の成否を早急に判定するのは難しい。事実、評価に関する質の高い有用な研究が少なく、平和教育のプロジェクトやプログラムの効果を測定する指標を欠いているとの助成団体や研究者、政策を決める人びとからの批判がある。教育者の集団としてまた教育改革の担い手として、平和教育を計画するにあたり、評価の仕方をあらかじめ念頭にいれておくことは大切なことである。このような準備によって、社会的な目的や教育目標につらぬかれた確実なとりくみとして、すすめることができる。

問い当初想定した学習の目的と目標にどのていど到達することができたか。

何がうまくいって、何がうまくいかなかったのか。うまくいかなかった場合には、どのように改善したらよいか。

集団的に合意した共同の目標を達成するなかで、どうしたらCIPEを継続的な学習コミュニティにしていくことができるか。

ふりかえり 専門的な行動力と能力を検証するのに、ふりかえりは、個人にとっても学習コミュニティそのものにとって重要である。ふりかえりは、教師や指導者にとって、省察し、内省し、経験から学ぶプロセスとして重要な力量である。

問い今、自分のいるところからどこを目指すのか。

CIPEでの経験から組織者として、何を学んだのか、CIPEのどのようなやり方は効果があったのか。

その経験から、さらに引続き、どのように学ぶようにしているのか。

次回はどのように改善するのか。

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研究をすすめるために CIPEでは、平和教育へのとりくみをすすめるという目的のもとに、より研究を発展させるためにも、その時点で、適切な評価ができるように、評価について準備段階から用意しておくようにする。CIPEでは統一の様式での評価をおこなうことが求められる。平和教育のすすめ方や実践への期待が世界中でたかまるなかで、さまざまな状況での平和教育へのとりくみがあり、どのような条件で成果が得られるかを示す評価が必要である。評価のツールによって自分たちの教育的とりくみが、地域にどのような効果をもたらすかを知ることができる。付録に所収されたCIPEの目的と目標に関する事前・事後の参加者への質問紙を活用されたい。付録にはCIPEの主催者による評価用紙も所収されている。オンライン・コミュニティで、将来の研究に貢献できるようとりくみを共有されることが期待されている。

資料の入手と支援 / 学習目的 / 助成申請 / 資金調達

問い助成を求める際に、説得力のある申請書にする内容として何をもりこんだらよいか。

CIPEの実施やほかの平和へのとりくみをすすめるにあたり、どのていどの経費がかかるのか、財政措置をどうしたらよいか検討する。

 CIPEの目標のひとつは、自立し、社会変革をすすめる平和教育者として、あるいはファシリテーターとして力量をつけていくことにある。そのためにたがいに参加者とともに参加者から学ぶという、協力的な学習コミュニティとしての場が大切である。 参加者は無料で参加できるのが理想的である。CIPEの活動にとって財源は重要である。CIPEやほかの同様なイベントを運営するのに、知恵をだしあって創造的な工夫をし、費用のかからないやり方ができるであろう。地域での開催には、地域の人的、物的資源を活用し、経費を最小限におさえる。地域をひろげると、財政的にもかさむことが予想される。助成など、またほかの協力を得られる団体や人たちを見つけることも組織者にとって必要な仕事である。

助成 助成に関する情報を機敏に入手することは経験が必要である。助成を得るにあたって、申請書を書くには労力がいるが、何度も書くことによって上達するようになる。

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1 まず地元をあたる。地町村などの行政機関や、企業、学校、教会、団体などによる助成があるかどうかさがしてみる。地域に直接関わる活動であれば、地元の助成団体は、「投資」をする可能性が大である。

2 都道府県などが、とくに現在とりくんでいる課題や事業があるか、図書館や資料センター、インターネットなどで情報をしらべる。効果の面から、地域を限定して支援する団体も多い。

3 政府機関やより一般的な団体による助成も追求する。行政や規模の大きな団体は、より広範な課題をあつかっていて、申請件数も多いので、受諾率は低くなる。また大きな団体への申請では審査に時間がかかる。一方、助成の規模は大きく、助成の期間も長期にわたる傾向がある。

申請書をつくる財政支援や助成申請にあたって、いくつか、こころがけることがある。

1)調査研究をおこなうこと。 助成団体の特色や対象分野についてよく調べることが肝心である。助成を申請しようとしている団体の関心をつかみ、助成対象にあわせた申請内容にする。

2)申請規準にしたがった申請書かどうか。 たいがいの場合、助成を申請する際の手順が示されている。多くの場合、事前に申請する団体の概要紹介や活動についての簡単な文書の提出が求められる。それで団体の方針と合致すれば、後に正式な申請書の提出となる場合も多い。申請にあたってわからないことは事前に問い合わせる。助成団体の基準にあうプログラムへの申請が望まれる。

3)明快で簡潔な申請書を書くことが重要である。 専門的な用語や、特定の分野でしかも用いられないような言葉づかいをさけ、平易な書き方をこころがける。

4)予期される成果や、想定される効果を記述する。 助成にあたって、助成団体は、実際の効果を期待している。当該プロジェクトによる達成目標を明確にし、その成果を具体的に記述する。そして、その成果をどのようにあきらかにし、評価するかも明確にしておいくとよい。一過性でなく当事者

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にとってプロジェクト後も根づく成果であるべきである。平和教育や教師研修のプロジェクトは、短期的には達成されず、長期的な成果を示すことができない場合が多い。そのような場合には、カリキュラムなどをつくって印刷物として刊行する。それを成果として提出することも考えられる。また、プロジェクトによる波及効果の可能性を具体的な提示できるとよい。

財政計画 財政を考えるにあたって、予想されるあらゆる支出を見極める必要がある。会議や材料、施設設備の使用、また人件費や交通費、食事、宿泊などの経費などの負担もある。寄付やボランティアを募り、経費を軽減する。予想される参加者の総数で割れば、一人あたりの経費が算出される。会計に関する計画をするための役立つ諸表が付録にあるので役立てていただきたい。

参考 助成に関する情報を得るために助成団体のデータベースを利用する。このデータベースでは国や課題、助成額、キーワード、内容によって検索することができる。有償会員になる必要があるが、学校法人や大学、機関が会員になっている場合が多いので、組織をつうじて、利用することができる。 http://foundationcenter.org

第8章 典型事例a) IIPEのこれまでの実践b) 共同体の当事者意識をたかめるc) コミュニティのルールと指針をつくるd) 活動を継続するにはe) 典型事例:共同体としての条件をつくるf) 平和教育の技能と力量

 この章ではこれまで実績のあるコミュニティ・ベースでの学習の実践にとりくむ事例を紹介する。ここで紹介するのは、これらを手本にしてほかでも同じようにしなければならないというものではない。またあらゆるCIPEの状況に応用できるわけではなく、いわば話しあいのためのたたき台である。自分たちでプログラムやアクティビティを実施し、その経験にもとづいて、問いかけつつ省察をしながらすすめるのが本来である。CIPEをすすめるうえで、どのように地域とかかわり、コミュニティでの学習をすすめ、その深い理解のもとに当事者が決めるべきである。典型事

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例のいくつかを試行することが奨励されるが、それにとらわれず、独自のとりくみができるとよい。CIPE のホームページでCIPEの実践について、他のCIPEの人びとに情報を提供し、ともに経験を共有することが期待されている。

a) IIPEでこれまでなされてきたこと 要点 IIPEの典型事例について学ぶ 典型事例のとりくみに学び、実践する

問い

大きな集団でのコミュニティ意識を形成するために、どのようなやり方が適しているか。

学習や経験のふりかえりを共同ですすめるためにどのようなやり方があるか。

 第1章でこれまでのIIPEの経過を示した。IIPEのプログラムは、それぞれねらいをもって学ぶよう構成されている。オリエンテーションと全体会(シンポジュウム)やワークショップ、セミナー、現地訪問、ふりかえりグループによる時間からなり、これらの場のそれぞれで、共同で、たがいに学ぶやり方を経験することをねらいとしている。IIPEでの重要なねらいは、参加者がたがいに学ぶことである。次に2つの事例を紹介する。

多人数のグループで意味ある学習を促進する。 IIPEでは毎日、テーマにもとづいて関連する課題に関する知見や実践を簡潔に紹介する複数の発言者からなる全体パネル(シンポジュウム)によってはじめられる。なんらかの場面で、さまざまなやり方で、できるだけ参加型になるよう力量のある進行役(ファシリテーター)によって全体会がすすめられる。IIPEの運営にかかわる人びとは、自分の仕事や活動の場で、そのやり方を応用することができるであろう。またIIPEの全体会のやり方は単なる質疑応答よりも、より実のあるすすめ方だということも経験できる。 それぞれの全体会は多くとも3人の発言者に15分から20分以内で、テーマに関する研究や実践についての話をあらかじめ準備しておくよう依頼する。パネリストは、原稿を読みあげるような講義ではなく、参加者とコミュニケーションをはかり、参加型ですすめるように報告の仕方を工夫する。パネル形式にそれぞれが話をした後に、進行役は、その後、どのように話し合いをすすめたらよいか方向を示す。以下、そのすすめ方である。

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 全体の場で、話題を提供する人もすべて学習コミュニティの仲間である。その日のテーマを深めることができるよう、パネルで示された知識や活動のなかから得たことを全体で共有する場をもうける。その日のはじまりに、全体で共有したことを、その日のさまざまな場面で、話題にしたり、深めるための手がかりにする。参加者のさまざまな経験と、それぞれの考えを共同の場にもちよることがなによりである。全体で話を聞いた後、グループで質問をだしあい、グループから聞きたい質問をとりまとめ、全体の場で質問をし、答えを得るというようにやりとりをする。グループおよび全体での場をつうじて、課題にたいする考えを深めるようにすすめる。パネリストの役割は話し合うための材料を提供することであって、専門家として参加者の疑問を解決することではない。パネリストは、また、参加者の質問に疑問を提示するかたちで、質問をすることもあるであろう。 話し合いの時間には、相互にやりとりがなされるように、また、多くの人ができるだけ参加できるようにすすめる。参加者は、席のむきをかえるなど工夫して、ちかくの3人か4人で少人数のグループになる。15分から20分くらい、グループで話し合う時間をとる。聞いた話をふりかえり、IIPEあるいはCIPEのテーマに関連する質問を出し合う。そして質問をグループで一つにまとめあげるようにする。全体で各グループからの質問を出しあう。だされた問題は、パネリストなど少数の専門家に依存するのはなく、学習コミュニティの全員で責任をもって追求される。これは共同体が成立するのに重要な段階である。 グループでの話し合いでは、すべての人が、自分のふりかえりについての内容や各々の考えを発言する機会があるように、順番に一巡する。ひとまわりしたら、とくにやり方をきめずに、意見をだしあう。発言の手がかりになりそうな問いを次にあげる。

 パネルで話されたことは自分にとってどのように関係があるか。 意外だったことは何か。 課題となることは何か。 皆にとって共通の考えとなるには何か。 もっと学ぶべきことは何があるか。

 限られた時間で有効に話し合いをすすめるには、グループごとで質問をまとめて受けつける。質問のみまとめて受けるのは、重複をさけると同時に、質問ごとに答えるのではなく、グループからの質問をすべて出しあうことで、それらを全体のものにするという意味がある。他のグループからだされた質問も皆のものになり、一体感が得られる。ここでだされたことは模造紙に書きだして会場に掲示しておき、随時、目にすることで、ときにおうじて考えをふりかえる機会にする。

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ふりかえりグループ:学習コミュニティの形成と意味の追求 IIPEでの「ふりかえりグループ」は8人から10人の少人数からなり、毎日、集まって、どのようなことを学んだか、また学んだことを自分の状況にどのようにいかしていくか、たがいに意見をだしあう。IIPEの期間のあいだ、同じふりかえりグループで、ふりかえりの機会をもち、最後の全体会の場で、グループごとに報告する。 ふりかえりグループは、参加をひきだし、話し合いを促進するようにすすめられる。皆で協力してすすめる学習の過程である。これによりばらばらだった考えがある形になる。CIPEおよびIIPEでは、知識や技能、実践をふりかえりながら学ぶというねらいがある。同じ共同体で学ぶという経験をとおして、集団的に、皆であらたな知識をつくりあげ、学ぶのである。このプロセスは、ふりかえりにより、総合的になされ、各セッションのテーマについて、それぞれの視点をつくることができる。各セッションは協同学習の典型ともいえるものであり、参加者がそれぞれが学んだことや意見、課題、疑問を皆と共有する機会であり、より大きな集団での対話に発展させることができる。ふりかえりグループでは、すべての参加者が、最大限、参加できるよう配慮される。参加者にとって、参加型学習が、なじみのない場合もあり、学習者が安心してとりくむことができるよう適切な協同学習の場となるよう、以下の手順を踏むとよい。 はじまって間もないふりかえりグループの時に、学習の目的について、意見をだしあうようにする。まず、その話し合いで何をとりあげるかも決める。その際、一人二回は、発言の機会があるようにする。順番に意見を述べるが、他の人はメモをとり、発言者にたいする意見があっても、意見を聞くのみにし、全員に発言の機会が2回まわるまでは、意見は、言わずにおくようにしてすすめる。全員が2度、発言をおえたら、ファシリテーターは意見をまとめ、のこり時間に何をはなしたらよいか皆にはかる。その日のテーマを話題にして、テーマと関連させて、ふりかえりをすすめる。

 1回目(ふりかえりのための質問、関連する、より深い理解のための質問を出し合う)今日、学んだことで、もっとも意義深かったことは何か。世の中や教育のあり方にとって、自分のものの見方や行動の変化をひきおこすものがあったであろうか。 2回目(はっきりさせ、ひろげ、追究するための質問) 難解なこと、不明確なことは何か。

 このような問いをもとにして、順に疑問を出しあった後、ファシリテーターは、まえむきで、ひらかれた話し合いをすすめる。そしてふりかえりグループですべきこ

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と、すなわちその日の学習の目的を決める。考えを深めるために何らかのグループ活動を展開することもできる。いずれにしろ、きまりきったやり方はなく、いつでも、どのようにでも変更も可能である。何度も経験するなかで、たがいに協力して、個人の力量をたかめることになる。そして、型にはまったやり方は、やがて必要なくなり、その場にあったやり方がとられるようになる。回を重ねると決まりきった問いかけは不要になり、参加が最大限引きだされるよう、適切なやり方をこころがける。グループですすめ方を決めるようになれば、「今日、何を学びましたか」というようなきまりきった問いかけは、もはや不要になる。そのために、すべての参加者が最大限生かされるようそれぞれのニーズや能力について、慎重に配慮する。

b) 共同体の当事者意識をたかめる 要点 CIPEへの共同体としての当事者意識について

問い CIPEの参加者の学習コミュニティへの当事者意識をどのようにたかめることができるか。

 学習コミュニティのメンバーとして主体的に責任を持って参加し、かかわるようになるには、どうすればよいだろうか。

 どのような活動によって人びとの集まりが共同体となるのであろうか。  共同体のメンバーが当事者意識をもつことが、コミュニティ・ベースの学習にとって欠かせない要素であり、その学習コミュニティが持続し、社会にはたらきかけるための鍵としての役割がある。プロジェクトや理念への当事者意識をもとことにより、人びとがそれぞれの責任を果たし、すすんで参加し、継続的に活動するようになる。学習コミュニティが共同体となることの正当性の根拠としては、学習者と指導者がいずれからも教え、学ぶという学習環境において学習効果があがることにある。参加者が自分がかかわった活動で成就感を得ることにより、当事者意識がつよくなり、より主体的にかかわるようになるのである。また、CIPEは、学習コミュニティの必要性と目標にかなうように、参加者が変化の担い手であることに気づき、意識を高めるよう運営される。

ニーズ診断 ニーズを診断するには、地域のメンバーによって、それぞれの課題をだしあうこ

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とからはじめる。このニーズの診断は、自分の地域がCIPEを実施することで何か得ることがあるかどうか、CIPEを歓迎するのかどうかを問う。仲間が、CIPEを必要するということであれば、そういう意見がだされるであろうし、当事者意識をもつこともできるであろう。必要性を見いだすニーズ診断のやり方には、以下のようにさまざまなである。

フォーラム地域において何が必要なのか、顔をあわせて話し合う場(パブリックミーティング)をつくる。その際、誰でも参加できるようにし、多様な、意見がだされるよう、配慮するが、参加した人の意見しか反映されないという問題がある。

フォーカスグループ代表として選ばれた5人から10人からなる小さなグループですすめられる。地域にはどのような課題があるか、詳細な検討をする。参加者の地域や経験、技能をひきだすように、問いかける。このやり方ですすめるには、熟達したファシリテーターが必要である。一時間ていどの話し合いが見込まれる。

情報提供者からの聞きとり地域の実力者であるリーダーへその地域の必要なことは何か、インタビューあるいは話しあうことにより、あきらかにする。

資料分析これまである統計データや報告書を活用する。警察からの報告書や学校、医療などから、その地域で必要なことは何か、あきらかにする。

実態調査地域に住む人びとに、個別訪問や電話で、インタビューをし、またe-mailや郵送で、人びとの考えを集約し、地域が必要とすることを把握する。

期待とフィードバック 何を期待しているかを参加者の声を集約する。そこで、地域や学習コミュニティにたいする考えや期待を、とくに話し合うようにする。フィードバックをとりあげて、やりとりを深めるようにする。CIPEの事前そして、途中、事後にひろく意見や、提案をだすことのできる場をつくるとよい。これは、事前・事後の評価の一部でもあり、CIPEを主催するファシリテーターやほかの参加者との場であるフォーラムといえる。

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 コミュニティ・ベースでの深い学習がなされるための一つの手だてとして、日誌を書くことがあげられる。日誌を書くことで、コミュニティ・ベースの学習の特徴であるふりかえりを経験する(Owens & Wang, 1996)。書かれたものを共有することは、CIPEのとりくみを形づくることになる。

責任を共有する 学習コミュニティの参加者に、明確な役割や仕事があるようにし、それにふさわしい大切な任務があるようにする。無理のない範囲で地域の組織への責任を担うようにするとよい。

ネットワーキング ネットワークをひろげることによって同じ課題にとりくむ同士が、ともに活動できるようになる。自分たちの意義を見いだし、活動をつづけるなかで、コミュニケーションをはかり、活動の意義を見いだし、たがいにたすけあい、協力する。自分の団体が、CIPEのネットワークをつうじて、ほかの団体と連携できるとよい。

 プリンストン大学地域連携学習イニシアティブは地域の提携団体と連携して学生が教室で学んだことを団体活動で実践することを想定している。CIPEの参加者は、CIPEで学んだことを自分が活動している団体に報告し生かすことを期待されている。 CIPEのウエッブは、国際的ならびに地域のネットワーキングのよい機会となる。オンライン・コミュニティに加えて、会合やイベント、パーディなどもおこない、ネットワークをひろげる場となる。

共同体をつくる 参加者同士が知りあい、チームをつくるなかで共同体が形成される。他の人との壁がとりはらわれ、たがいに気持ちよく、ともに問題を解決し、共同体としてのアイデンティティを得ることで共同体が実現する。そのことにより、共同体の一員として、当事者意識ができていくのである。(共同体の形成の項参照)

共同事業 平和祈念や何らかの目的の行事を共同で主催したり、一緒に参加したりする。行事は人びとが集まる機会をつくるとともに、資金を調達するためにも、CIPEの参加者がともに事業を遂行することは、共同体としての事業の一つである。

C) コミュニティのルールと指針をつくる

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要点CIPEにおいて指針や運営の仕方を決め、学習コミュニティの雰囲気をつくるやり方を模索する

問い学習コミュニティが自らで組織のあり方を決めるにはどのようなやり方があるか。学習コミュニティはどのように機能するか。健全なコミュニティの形成のために、どのような意思決定がなされたらよいか。

 CIPEを構想し、展開するうえで配慮すべき要素のひとつとして、まず、地域や学習コミュニティという共同体がどのような原理や、やり方によって、動いているかをあきらかにすることから、はじめる。これは共同体とは何かをあきらかにし、自分がその共同体の当事者であるという意識を得ることである。学習コミュニティでの指針や雰囲気づくを構成メンバーすべてで担うようにする。

共同体とは チームづくりやグループ・ダイナミックスをつくるためのアクティビティをおこない、そのなかで共同体とは何かを体得する。それらのアクティビティは、ポジティブな価値をつくりだし、共同体とはどのようなものなのか、その規範や役割、また、学習コミュニティへの考え方や、目指すところがすべてのメンバーに受け入れられるようにすすめる。話し合いをどのようにすすめるか、ほかのメンバーとどのように人間関係をきずいたらよいか、自ら原則をつかみ、納得する内面化のプロセスは効果的である。 より積極的な意見交換のもとに、皆のじゅうぶんな参加のもとに、グループで何をすべきかという目標を、協同で、ミッションステートメントとして文章化する。こうして意思決定のプロセスにかかわることで、学習コミュニティにおいて、自分にはどのような役割があり、どうしたら全体のためになるかを知ることになる。「価値ある約束」という活動は、共同体でのアイデンティティをつくる典型例の一つである。 共同体での実践を促進するためのガイドラインである“Cultivating Community Practices” (Wegner, McDermott, Snyder, 2002)には、7つの原則があげられている。学習コミュニティの活動で「内発的なちからを引きだし、特色を発揮し、活力を生みだすこと」が当事者意識を喚起させるために重要である。

1 発展するための構想をもつ2 ものごとに内側と外側から見るものの見方をし、ひらかれた対話をつくる

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3 ことなった次元の参加をはぐくむ4 個人のそして皆のための居場所をつくる5 価値を重視する6 親しみやすさと、魅力を喚起する7 共同体としてのリズムをつくる

関係をつくるための指針 活力のあり、健全な学習コミュニティをつくるために、学習コミュニティの指針について共通理解を参加者がもつことが重要である。指針を理解することにより、前向きで、たがいを尊重する雰囲気ができ、また指針を生かすことで学びを深め、共有することができる。 ウクライナの教育プログムには、「指針」としてのガイドラインがあげられている。会議や研修などミーティングのはじまる前に、まず、この原則を確認する。そのたびごとに、あたらしいやり方でおこなうとよい。以前も参加した者もこれらの原則についてさらに考えを深めることができるであろう。口頭による提示や、話しあい、あるいは寸劇、または、絵画やイラストなど、造形的な手法をとるなど工夫をこらす。さまざまな言語によって、また多様な文化を反映したやり方をとる。次にこの原則を簡単に紹介する。・時間をまもるはじめとおわりの時間、セッションに遅刻しないようにたがいに配慮する。はじまりが遅れた時は、たがいが打ちとけるための関係をつくる時間や、ふりかえりの時間を割愛しなければならなくなる。ただし進行は、弾力的におこなう必要がある。・前向きな雰囲気をつくるたがいを尊重し、安心して、友好的な雰囲気で学ぶ・非難をしないフィードバックは建設的におこなう。批判的であるのは、考えにたいしてであって、その人を批判してはならはない。・簡潔に話す相手の話を傾聴するようにし、相手の話をさえぎることはつつしみ、一度に一つのことのみを話す。・自発的に参加する一所懸命、その場に集中して、ほかの人の参加促すようにする。・当事者になる固定したものの見方にとらわれて、一般化して、話すのではなく、自分のこととして考え、話し、ふるまう。・秘密を守る

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その場で、でたことは、きちんと許可を得ない限り、仲間といえども、外部にださない。・ちがいに意識的になるジェンダーや人種、民族、宗教、年齢、能力の差異にあらわれる権力関係に意識的になる。

 エンパワー教育プログラムの創始者であるOlena Suslovaは、この原則を集団的に皆のものにし、引き続き、より前向きなトーンをつくるために、次の点を提示している。・十分例を示しながら、考え、疑問、思考を具体的に示す。・相手の間違いを正す場合には、説教がましくならないようにする。・話しばかりでなく、イラスト、パントマイム、パフォーマンスなど創造的な方法を用いる。・あたらしい考えを、これまでのものに加えて比喩や関連する表現、同じような言葉を用いて示す。

CIPEの参加者の構成 学習コミュニティをどのように構成するかは、学習の場を構想し運営するにあたり重要な意味がある。CIPEの実施にあたって、さまざまな条件があり考慮すべき要素がある。 EURED (Human Rights and Peace Education in Europe、ヨーロッパ人権・平和教育)による教師研修プログラムは、次のように考慮すべきことをあげている。地域でのCIPEの実施においても有用である。 参加者 グループサイズは国際的に先駆的な研修をすすめているチームであっても、1チームに3人から4人の指導者にたいして、最大限、25人から30人の参加者でないと、グループで活動をすすめつつ、十分な内容理解が1人ひとりに得られないとしている。また、参加者の性別や国がさまざまであり、参加者の文化的背景が多様であることが、CIPEの内容をゆたかにするうえで重要である。

相互理解 参加者のそれまでの経験や知識、すなわち、個々の経験の度合いや知識の状況をあらかじめ把握し、計画にあたって考慮する。また、参加者の目的もつかんでおくとよい。国際的な場では、共通の言語にあたる外国語の運用力があるかないかでコミュニケーションに影響する。通訳が必要にならない程度の外国語の運用力が必要

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である。参加者の相互理解やコミュニケーションをはかるためにあらたな情報技術を活用する。

意思決定のプロセス CIPE の学習コミュニティでは、どのようにものごとを決めたらよいか、その決め方を決めることが重要である。ある人たちにとっては多数決で決めることが、もっとも民主的であるとされるであろう。しかし、他の参加者は皆が納得するまで、話しあいを続けるのがよいと思うかもしれない。そのような多様な状態を配慮する。ものごとを決めるのに、これまで、それぞれ異なる経験があるであろうし、それぞれのCIPEの学習コミュニティではどうするか、この場合、もっともよりよいやり方でなされるように、その決め方を決めるようにする。

D) 持続的な活動のために 要点 創造的で、長続きする学習コミュニティの要件をあきらかにする

問い地域でCIPEを継続的に実施するうえでの潜在的な障害は何か。

CIPEで参加者が自分の役割を主体的に決め、それらの役割を果たすには、どのような運営側のはたらきかけがあったらよいか。

CIPEでは参加者の役目について、参加者にどのような理解が‘なされているか

CIPEの使命や目的がはっきりとわかりやすく示され、理解されているか。

参加者が自分たちがどのように学習コミュニティに貢献したかをあきらかにするために、どのようなやり方がとられているか。

 CIPEの目標のひとつは、地域でなされている平和教育のとりくみを継続的に支援することである。CIPEが地域にかかわり、活動をつづけていくために、どのような障害が予想しておくことは役にたつ。問題がわかれば、ブレインストーミングをして、必要なやり方をだしあい、必要な支援の方策を講じることができる。地域とのかかわりをつづけることが、コミュニティ・ベースの学習をすすめる際に、とくに重要である。またメンバーが欠けることは学習コミュニティやプロジェクトにとって、皆が一体であるというアイデンティティ意識をそこなうことになる。メンバーが「燃え尽きてしまう」ことのないように、長続きする活動への参加に関して配慮

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すべきことを次にあげる。

コミュニティ・アイデンティティの保持 CIPEという学習コミュニティの使命と目的のたしかな理解が、メンバーが継続して活動できるかどうかにつながる。メンバーが関与して、CIPEの目的やすすめ方を決めたのであれば、学習コミュニティの組織の一員であるとの意識をもつことになるであろう。このようなプロセスは、コミュニティの一員であるというアイデンティティ意識の形成のうえで、重要な要素である。また、このようなコミュニティ・アイデンティティは、グループの活動を維持するためにも大切なはたらきをする。 コミュニティ・アイデンティティは、グループの歴史や伝統ができるとともに、つよめられる。継続的に会合をもつことや、メンバーが一緒に会食をするなど、さまざまな機会をとおしてグループの伝統はつくられる。学習コミュニティが共同体としてはたらくようになったとしても、時折、CIPEの目的や使命にかなた活動になっているか、ふりかえり、メンバーが活動にかかわった原点ともいえる気持ちをもちつづけることが大切である。

ニーズの理解 CIPEへの出席者のニーズや期待を知り、理解することは、継続的な参加する気持ちをもちつづけてとりくみをすすめるうえで重要な鍵となる。例えば、子育てや宗教、仕事でのことなど、コミュニティの実際的な課題をとりあげる。CIPEの実施にあたり、参加する個人やグループにとって意味のある課題(タスク)を組み入れる。あらかじめ参加者のニーズをつかむようにする。メンバーがもっている技術や、何ができるかを知っておくことは、ボランティア活動で「燃え尽きる」ことをふせぐために役にたつ。

 個人がグループに適切に関わり、プロジェクトに仲間ととともにかかわり、そのプロジェクトが成功することにより、関わった人びとは充実感を得る。この本の付録にあるアンケートを使って、どのような達成感が得られるかをあきらかにすることも欠かせない。活動にあたり、時におうじて状態をつかむために個人やグループの状態をつかむことも大切である。そうすることにより、プロジェクトのさなか、活動の途中でメンバーがやめることのないようにサポートをするために必要なかかわりや援助ができる。何か問題があった場合に、 グループリーダーに話を聞いたり、あらかじめつくっておいた2人組のバディを活用したり、あるいはインフォーマルな話しあいをもったり、それぞれのCIPEの学習コミュニティにおうじて、サポートをするために適切なやり方をこうじる。

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グロープ学習 学習コミュニティの基本は、学びあい、そして教えあう場であり、人びとと関わる関係をつくることである。技能をたかめ、知識を共有し、グループでたすけあうように、個人ではなく、グループに課題がかされる。グループが課題をなしとげるのに、グループとしての責任とともに、個人のグループへの関わりという責任もある。グループで課題にとりくむことで、集団が硬直化し、階層的な構造になるのをさけることができる。チームとして人がはたらく際に、責任はチーム全体の仕事にたいするものことになり、競争関係は消失する。 ベニンの保健ワーカーに関する最近の研究によると、民間の医師への調査で3分の2の医師が、成果を達成するのにチームのはたらきが重要だと回答したと、Mathauer and Imhoffの文献にある。ねたみが個人の仕事への意欲のさまたげになっていると50パーセントが回答した。チームでは自分の仕事とほかの人の仕事がともに達成される、つまりグループの成果は、個人ではなく、グループとして達成されたと、評価され、受けとめられることが重要である。この研究はグループでのとりくみの成果ならびにチームとしての意識の形成の関係を示している。チームでの成果への評価は、個人ではなく集団に課されるものである。

直接的参加 参加者が、プロジェクトのとりくみに、直にかかわる機会をつくることで、長つづきすることにつながる。グループのメンバーはさまざまなやり方で関わり、メンバーは自分のしたことの成果を知ることにより、やりがいをつよく感じるようになる。このような個人的な経験は意義ある変化をおこすための共同体として協働するちからを再確認する役割がある。CIPEのプロジェクトの成果にみずから関わる機会を得ることで、参加者がCIPEに積極的に活動するようになる。

認められること 個人やグループのはたらきが認められることは、共同体のメンバーのやる気を大いにひきだす手立てとなる。儀式などあらたまった形で、あるいはふだんから個人を認めるやり方は、昔からさまざまあり、グループや個人が価値あるものと認められ、コミュニティへのアイデンティティ意識ができる。 仕事が認められることや、自分の組織に誇りをもつことなど、仕事場での「ソフト」な要素が、職場に長続きするかに関係しているという最近の研究成果からあきらかである。これらの「ソフト」な要員は、金銭的な報酬よりも重要であるという(Prudden)。

e) 共同体づくりの事例

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要点 共同体の形成ためのさまざまな手法を知り、自分のものにして実際に体験し、応用する

問い共同体の形成にあって、どのやり方をとったらよいかを決めるために、配慮すべき要素は何か。

 ことなった背景や学習経験をもつ人びとからなる対象にあわせて、ここで共同体づくりの手法をどのように応用するか。

 以下はCIPEでコミュニティ・ベースの学習をすすめるうえでその環境をととのえるために必要な力量や技能をそだてるための事例である。これらは、Calderwoodによって示されたコミュニティの要件にかなうものである。グループ・アイデンティティができ、ともにはたらき、ちがいや多様性に対処し、協働によって達成された成果を讚えるなかでコミュニティが形成される(第4章参照)。 学習コミュニティや団体の立ちあげの際は、まず技能を育成するのに使われるであろうし、共同体の結束をたかめるために、くり返し使われる。しかし、これらのほとんどは欧米の社会を背景にしたもので、学習の様式も限定されている。CIPEのニーズにあわせて応用され、共同体をつくるための力量を形成するやり方が、他にたくさんあると思われる。さまざまなCIPEの学習コミュニティのニーズにあわせて、よりひろく応用し実践されることが期待される。

ファシリテーターへの留意点 これらの事例は、グループ活動を実践した経験のあるファシリテーターによってなされるのが前提になっている。活動に安心して参加できるようにするためには、皆の合意を得ながらすすめる。また、ふりかえりのプロセスを大切にする。これらの事例は、これまでの体験学習の実践の成果にもとづいている。ふりかえりのプロセスは、基本的には次の3つのパートからなる。

・どんな活動にとりくんだか・どのようにしたか、学習コミュニティ(グループ)での状況はどうであったか・学んだことを実際の生活や団体、地域との関わりにいかすにはどうしたらよいか

 これらを皆で考え、だしあうようにする。より深い、ふりかえりのプロセスによって、活動の価値を無限に引きだすことになる。

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活動事例I. グループアイデンティティの形成のために活動1. きまりづくり目的:CIPEがどのような学習環境であるべきか、グループでの合意を形成する。用意するもの:ペン、鉛筆、マーカー、模造紙、カード指示:理想の学習コミュニティとはどのようなものか、静かに考えるように指示する。たとえば、皆の声が尊重して聞き入れられ、安心して学べるところ、あるいはことなった意見や合意できなことも前向きにとらえられる、など。

1)カードを配布する。CIPEをよい環境にするために重要だと思われる要素をあらわす単語やフレーズを一、二分で考え、カードに書くように指示する。

2)部屋を歩いて、相手をみつけて二人組になり、自己紹介をしながらカードを交換する。時間内に相手を変えて何度かおこなう。合図によって全員の顔を見ることのできるよう内側を向いて円になる。

3)最初の一人が自分が持っているカードに書かれていることを読みあげ、掲示された模造紙に単語やフレーズを書き入れる。次はそのカードを書いた人の番になり、持っているカードを読みあげる。そのように順に続ける。この模造紙を、CIPEの期間中、機会があるごとに目にすることのできるようにずっと掲示しておくようにする。

まとめ:後にふりかえることのできる成果物をまとめる。

活動2. ウエッブ目 的:学習コミュニティの姿を具体的に目に見えるようにして、あらわす活動である。それぞれの参加者のつながりを知る。用意するもの:毛糸玉あるいは玉になったヒモ

1)参加者は円になるように並ぶ

2)参加者にCIPEで自分はどのようなことができるのか、しばらく考える時間をとる。学習コミュニティにたいして、あるいは学習コミュニティが自分にたいしてどうなのかを考える。

3)それぞれの人が、何らかの応答をし、皆で共有する機会をもうける。

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4)最初に、発言する人が毛糸玉の端を持ち、自分の考えを述べる。次にその玉がわたされた人が発言する。それぞれが順に考えを述べる。毛糸玉があちこち渡され、クモの巣のようになる。

5)グループでの人と人のつながりの様子がみてとれる。最後の人が発言したら、このウエッブは、グループ全員の希望や期待をあらわしたものだと説明する。

6)コミュニティの絆としてそれぞれ毛糸を、短く切って、自分の手首にまくようにする。共同体のつながりをあらわした毛糸を身につけことで、ともに創造したコミュニティへの連帯感を感じることができる。

おわり:それぞれが毛糸あるいはヒモをはさみで、短く切りとって、持ち帰る。

この活動は、CIPEの最後に、コミュニティを讃える場面でおこなうこともできる。その場合には、CIPEで何を学んだかについて述べるようにする。

II コミュニティの多様性を知る活動1. 名前目的:グループの仲間の名前の背景や多様性を知る用意するもの:鉛筆/マーカー、紙/ホワイドボード

1)参加者は2人組になり、聞き手と話し手を決め、聞き手が相手の苗字や名前にまつわる話があるかどうか、聞き、それについて自分はどう思うか、それがもつ意味についても、たがいに話す。

2)全員でひとつの輪になる。

まとめ:それぞれ2人組の相手から学んだことを順に全体に話す。

活動2. おばあさん・おじいさん目的:おばあさんやおじいさんについて知ることによって地域での民族や出身の多様性を理解する。用意するもの:鉛筆やマーカー、紙、ホワイドボード準備:参加者は2人同士、ペアになる。全体の規模が小さければ、まるくなって座る。

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1)まず次の問いをなげかける。どこからおばあさんやおじいさんたちは来ましたか、おばあさんやおじいさんには、どのような民族的背景がありますか、そのことは自分にとってどのような意味がありますか、そのことは家族の歴史や慣習と関わりがありますか。

2)グループあるいは、ペアで1)の問いについて、話しあう時間をとる。このことは、グループのなかで多様性やちがいを見いだし、一人ひとり多様であり、ちがいを認めることができる。

3)参加者が全体で、ペアの相手やおたがいについて知ったことで、関心のあることは何か、と問う。

まとめ:社会は単一だと考え、アイデンティティはひとつだと思われがちだということに注目する。誰ひとつとして同じではなく、わたしたちのアイデンティティは多元的である。自分自身や、地域のコミュニティは、さまざまでゆたかな要素からなっていることに気づくことができる。

III コミュニティの一員となる。活動1. 人間の結び目目的:グループでのコミュニケーション能力を高め、コミュニティを形成する。実施する人数:8人から12人準備:立ちあがって円になる。それぞれ自分の右手で相手の右手をつなぐように、また、左手で左手をつないでいく。隣の人ではなく、また、両手を同じ人とはつながないようにする。

 手をつないだら、手を離さずに、元のような円になるように指示する。ゆっくりと、ケガのないように、たがいの意見も聞きながらすすめる。とけたら、一呼吸おいて、グループでそのプロセスについてふりかえる。

まとめ:おわった後、座って、グループで協力してどのようにすすめたかをふりかえる。なにが功を奏したか、うまくいかなかった理由は、グループ内でのコミュニケーションのやり方の強みと弱みを考える、このことから将来、自分たちがグループでの活動に前向きにとりくむためにどのようにしたらよいか、参考になることは何かを考える。同じように、話しをすることなく再度、とりくんでみる。

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活動2. トルティーヤ目的:コミュニケーション能力の向上、チームワークの形成用意するもの:シーツや毛布(人数によって大きさを調整する)準備:シーツや毛布を床におき、その上にすべてのメンバーがのる。

 トルティーヤ(薄いピザ生地のようなもの)に見立てたシーツや毛布に全員が乗る。シートのったままで、誰も足を床に足をつけることのないようにして裏返すようにする。時には、身体もささえあいながら、どのようにしたらよいか話しながらすすめる。

まとめ:裏返すことができたならば、グループごとに座り、グループのなかでどのように協力しあったか話し合う。よかったこと、そうでなかったこと。グループのなかでのコミュニケーションのあり方について、よりよいグループ活動をすすめるために役に立つことをあげる。

2つあるいはそれより多い数のグループでの競争にすることで盛りあがる。しかし、同じグループで何度かおこない、1回目より2回目の方がより短くすることができたか。何がそうさせたか。競争はコミュニケーションにどのように作用したか。

IV コミュニティを讃える活動1. 愛の壁目 的:CIPEの学習コミュニティにとって、誰もが価値があるということを示す。用意するもの:紙、鉛筆、マーカー、テープ準 備:すべての参加者は自分の名前をカードに書き、CIPEの期間中、掲示しておく。すべてのカードは、一カ所にまとめておいた方がよい。

1)参加者は感謝を言葉にあらわして書きこむことで、思い(あるいは、皆とわかちあいたいこと)を共有する。CIPEの期間の休憩時間ごとに、カードに書き込むようにする。たくさんの人のカードに簡潔に書くようする。書き手を匿名あるいは記名にするかは状況次第。

まとめ:CIPEのおわりに、壁にあるカードを持ち帰る。

活動2. 感謝目 的:それぞれがCIPEでかけがえのないことを得たとし、有意義であったとの感

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謝をあらわし、それをこころにきざむ。用意するもの:紙、ペン、鉛筆はじめに:皆が円になって座る。

1)参加者は、自分の名前をカードの真ん中に書き、そのまわりに円で囲む。参加者は、それぞれカードを右隣の人にわたす。

2)受けとったカードに書かれている人にたいして感謝の言葉を書き、右隣の人に感謝の言葉を言いながら渡す。自分のカードが戻ってくるまで続ける。

おわり:自分の名前のまわりに感謝の言葉がたくさん書かれたカードを受けとり、お土産として持ち帰る。

IV. 修了証書目 的:参加した人それぞれのCIPEでの働きにたいする感謝の気持ちをあらわす。用意するもの:修了証、封筒

はじめに:テーブルのまわりを囲むようにして、集まる。真ん中に、感謝状を入れた封筒を重ねて置いておく。

1)封筒には、CIPEに参加した皆の修了書が入っていて、順番に参加者から参加者にたがいに渡すというやり方ですすめる。

2)参加者は封筒に入った修了証を一通づつ受けとる。まず、はじめの人がそれをあけて、修了書にある名前の参加者に渡す。順にそのように続ける。

おわり:すべての修了証が渡されたら、CIPEのおわりにあたって、皆、喝采する。

f) 平和教育の技能と力量要点 平和教育のためのさまざまな技能と力量があることを知る。

問い平和教育の指導者に使用される共通の技能は何か

平和教育の指導者がはぐくむよりひろい力量は何か

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ベティ・リアドン2003年の「平和の文化へのジェンダーの視点」(Reardon 2003, 137-152)をもとに検討する。

内省的な学習 自らの専門的な仕事を診断する姿勢と能力を診断する内省的な学習が不可欠である。教育にたずさわる者にとって内省的な学習はすべての基本であり、意欲をもちつづけ、生涯にわたって教育にかかわり、同時に、学びつづける基盤となる。これらの技能は、たえずなされる内的な対話と、日誌など文字によって記録や反省的な探究をとおしてかたちづくられる。探究にあたり、つぎの問いが有用である。

・自分は学習者としてどのような質のやりとりをしているのか。・自分が設定した学習の目標を達成するために、教え・学ぶやりとりは、どのような効果があったのか。・学習者が学習の意義を見出し、達成感を得ることができたかを知るための指標は何か。・自分は、それぞれの学習者を大切にし、学習者がその場で何らかの役割を見出すことができるよう、敬意をもってかかわったであろうか。

はぐくみあう学習コミュニティ 学習コミュニティは協同学習によって実現される。もっとも、それらの環境は、たえず点検される必要がある。学習コミュニティは寛容で、たがいに尊重しあい、協同しする場であり、共通の利益と価値が認められ、やりとりをつうじて、ゆたかなコミュニケーション能力や、争いや対立を解決する基本的技能が身につくのである。

学習者へのケア 学習者の気持ちの状態や身体的によりよい状況にあるかを配慮することが、よりよい学びの場につながる。学習者が何らかの困難や違和感を申しでたり、要求できるよう学習を保障する。学習者の学習スタイルや資質、弱いところへの配慮が大切である。

ジェンダーおよび文化の多様性への意識 準備においても学習の場でも、実践をゆたかにし幅をひろげるために、ジェンダー感覚をたかめ、ジェンダーへの責任を意識することは指導者にとって重要である。女性と男性の学習スタイルや問題解決のやり方のちがいにおいて、よい面を認

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めることは、集団での学習の場をゆたかにし多角的な問題解決の方法を身につけることができ、他においても役立つことになる。

指導者の力量 これまで平和教育にかかわる指導者にとって基礎となる技能をあげた。以下のような、より幅のひろい力量を身につけるよう期待されている。

・自ら学習する力量を高めるようにたえず努力すること。・学習者の尊厳を尊重し、やりがいを見いだすように、自信をもって、学習者との関係をつくり、かかわりあうこと。・平和を阻害する状態は何か、平和を実現する可能性をあきらかにするための問いを見いだすこと。・学習者を児童・生徒・学生としてのみならず、一人の人間として、理解しかかわること。

参考Wegner, E., McDermott, R., and Snyder, W. 2002. Cultivating Communities of Practice: A Guide to Managing Knowledge. Boston: Harvard Business School Press. Available online at: http://hbswk.hbs.edu/archive/2855.html

The EURED Teacher Training Programme Peace Education: An Overview. Available online at: http://www.aspr.ac.at/eured/CurriculumEURED.pdf

Reward & recognition: article by Liz Prudden: http://edweb.sdsu.edu/people/ARossett/pie/Interventions/incentivesrewards_1.htm

Health worker motivation in Africa: the role of non-financial incentives and human resource management tools: Inke Mathauer and Ingo http://www.human-resources-health.com/content/4/1/24

Reardon, Betty. 2003. Education for a Culture of Peace in a Gender Perspective. Paris: UNESCO CIPEマニュアル

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平和教育を地域ですすめるには

著者 Tony Jenkins Emma Groetzinger Tiffany Hunter Woo Kwon Betty Reardon

翻 訳浅川 和也

協 力榎本 泰子

ハーグアピール平和教育地球キャンペーンGCPEJ