社会的資源としてのデータを活用した地域の環境コミュニケーション活性化―川崎市との共同研究から―...

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Page 1: 社会的資源としてのデータを活用した地域の環境コミュニケーション活性化―川崎市との共同研究から―

社会的資源としてのデータを活用した地域の環境コミュニケーション活性化―川崎市との共同研究から―

庄司昌彦 国際大学 GLOCOM  准教授/主任研究員菊地映輝 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 後期博士課程

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本報告の要旨• 筆者らと川崎市環境総合研究所は 2014 年度から「環境情報・写真データを用いたコミュニティ活性化支援に関する共同研究」を行っている。• 本共同研究では、川崎市の環境の推移等を示すデータ・写真・映像素材等を社会的資源として活用することで、多様な世代や人々とが環境コミュニケーションを活発化させる手法の確立に取組んでいる。• 本報告では 3 年計画の 2 年目が終了したところまでの研究概要と成果、今後の課題を報告する。

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問題の所在( 1)• 少子高齢化、単身世帯化、ライフスタイルの多様化等が進む

中では、地域コミュニティの運営に不可欠な住民相互のコミュニケーションの活発化は容易ではない。

• 本来であれば住民同士の協働で解決可能な地域課題が行政に持ち込まれる等、行政・社会的コストの増大等が懸念される。

• 地域コミュニティが衰退すれば、住民の身近な地域社会における環境保全等も立ち行かなくなることも予想される(庄司 2010 )。

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問題の所在( 2)• 川崎市は過去に大規模な公害を克服し、またその過程で

高い技術を蓄積。今日では環境先進都市の 1 つである。• しかし、少子高齢化・単身世帯化は川崎市にも訪れており

(川崎市まちづくり局市街地開発部住宅整備課編 2012 )、近い将来、コミュニティ衰退問題に直面する可能性が高い。

• 川崎市で公害に本格的に対策し始めた 1970 年代から約40 年が経過。公害の歴史や実情を知らない若者もいる。

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川崎市の環境をめぐる歴史年 主な出来事1924 年 2 町 1 村が合併し川崎市誕生。1946 年 金刺不二太郎が市長就任。1952 年 全国に先がけてバキュームカーを開発導入。1969 年 ゴミの毎日収集開始。1971 年 大気汚染による喘息発作で児童死亡。

金刺から伊藤三郎へと市長交代。1972 年 公害防止条例の制定1990 年 「ゴミ非常事態」を宣言2005 年 「川崎市一般廃棄物処理基本計画(かわさきチャレンジ・ 3R )」策定

公害問題60年代半ば- 80年代

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研究の目的• 川崎市の環境推移、環境や自然に関わる人々の努力や取組み、街の姿の変貌等を示すデータ・写真・映像素材等を社会的資源として活用。多様な世代・人々の環境コミュニケーションの実現・活発化を 3 年計画で行う。

⇒ 1 年目( 2014 年度):「過去」に重点。地域の昔の様子がわかる写真や映像素材を「発掘」し、それらを「活用」した環境コミュニケーションの実施。

⇒ 2 年目( 2015 年度):身近な地域の「現在」として路上ゴミ調査・データ「生成」とビジュアライゼーションを行い、それらを「活用」し、今後の地域社会のデザインに関する環境コミュニケーションに取組んだ。

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環境コミュニケーションとは在間敬子( 2010)による定義:• 狭義の環境コミュニケーション

– 環境問題、環境活動、環境対策等環境に関するメッセージを伝えたり伝えられたりする過程

• 広義の環境コミュニケーション– 受け手の環境配慮を促進しうる「社会心理としてのコミュニケーション」および相互行為を通じて社会の環境配慮を促進しうる「社会過程としてのコミュニケーション」

⇒ コミュニケーションを通じて人や企業、それらの総体としての社会が環境配慮を行うようになっていくことが含意されている。

本研究「地域社会における環境コミュニケーションを活発化させる試み」も、地域社会がコミュニケーションを通じより環境に配慮していくことを目指す。

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2014年度:「過去」データ資源の発掘と活用1. 身近な環境の歴史的変遷把握:

– 市保有の 1952~ 2007 年の「市政ニュース」映像( 4時間分以上)を「臨海部の歴史」「山間平地部の歴史」「公害の歴史」の 3 テーマで各 10分程度に再編集。– 映像が環境コミュニケーションを誘発する社会的資源として有効かを検討するため「ウォッチソン」を試行開催。十分に有効と結論づけた。

• ウォッチソン:ウォッチ+マラソンの造語。共同研究チームで映像を全て視聴し気づきや感想等を共有。– 中原図書館所蔵の市内アマチュア写真家(小串嘉男氏と倉形泰蔵氏)が撮影した

1937 年以降の 300枚以上の写真から川崎の過去の環境の様子が分かるものを抽出。小串嘉男氏撮影(川崎市立中原図書館所蔵)

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2014年度:「過去」データ資源の発掘と活用2. 体験・記憶を収集する対話的手法開発

– ワークショップを複数回開催。• 市職員、環境 NPO 、環総研 OB と過去の環境を示す写真や動画を視聴した上で体験談や気付きの聞き取りとディスカッションを実施。• プロジェクター&スクリーン: 3人 1 組で話し手、聞き手、記録者の役割を交代していくワークショップ手法。• 生活スタイルの変化や、地域に根ざした環境教育についての発見等が述べられた。

– 社会的資源のさらなる活用への意見• 「子どもに(略)『昔は公害だったが今は環境が良くなり街が発展した』(略)『今、行動すると未来はこんなに変わるかもしれない』と(略)伝えられる」• 「過去はネガティブなものではなく、最終的には公害を改善して良好な環境や、それを生み出すプロセス・文化を獲得した。これらは川崎の資産だ」

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2015年度:「現在」データ資源の作成と活用1. ゴミ拾い調査ワークショップの開催:

– 一般にゴミ拾い活動で定量的把握や分析には焦点が当たることは少ない。

– 市内主要駅前3ヶ所で、路上ゴミを拾い数量や種類、よく落ちている場所等のオープンデータを市民が作成し、考察するシビックサイエンス的調査ワークショップを開催。

– 計測には鳥類・昆虫類の個体数調査方法元にピリカ社が開発した手法を採用。

– 路上ゴミの最多は川崎駅前、最少は新百合ヶ丘駅前、鷺沼駅前は中間程度と判明。

– 川崎駅前はタバコ、鷺沼駅はガムの割合が高い等、ゴミの種類や割合に違いがあること、同じ駅でも場所(道)によってゴミの量に大きな差異があること、暗い場所や植栽等ゴミが捨てられやすい場所・建造物のデザインがあること等を参加者は発見。

Page 11: 社会的資源としてのデータを活用した地域の環境コミュニケーション活性化―川崎市との共同研究から―

2015年度:「現在」データ資源の作成と活用2. 動画からの画像解析による調査

(タカノメ調査)の実施:– 人力調査はコスト負担が課題– 路上の様子をビデオ撮影し、画像解析して自動的

にゴミの種類と量を把握するピリカ社の「タカノメ」システムによって、網羅的に路上ゴミの実態分析を実施

– ヒートマップによる可視化も行った。– 川崎駅前が他地域と比べ極めて路上ゴミが多いこ

と、中でも多いのは「仲見世通り」であることが判明した。 川崎駅前:たばこ以外のごみの

分布

Page 12: 社会的資源としてのデータを活用した地域の環境コミュニケーション活性化―川崎市との共同研究から―

2015年度:「現在」データ資源の作成と活用3. ワークショップ開催テーマ「ゴミ拾いとマチのデザイン」

– 参加者の多様性を高め、環境問題に関心を持つ以外の人々も交えて検討• 環境問題とは直接結びつかないテーマ設定• 若者向けを意識したデザインの広報素材作成• 意識的に地元企業や商店主等にも声をかけた

– 路上ゴミ減少に繋がる「空間」と「行動」のデザインをワールドカフェ形式で検討。• 冒頭で 2015 年度調査の結果を報告• 植栽等ゴミを呼込む場所のデザイン変更やファッショナブルなゴミ拾い活動等のアイデア

– 成果• 参加者の 9割以上が「本イベントは市内の路上ゴミ減少に役立つ」と評価。• 一部参加者から新たなまちづくり活動が創発するなど、想定以上の成果もあった。• 街のあり方に関心を持つ地元コミュニティと、環境問題に関心を持つコミュニティ等が交わり新たな活動が創発する可能性が確認された

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おわりに• 今後の課題

– 「過去」を表す(特に定量)データと、「現在」の身近な環境を表す写真・映像の活用が不十分。

– 人々がデータをより深く理解し実際の活動に結びつくようなコミュニケーション手法の定式化と、成否評価の指標開発も必要。

– 上記を 3 年目の研究で解決し、その手法を「川崎モデル」として定式化して市内外の普及を目指す。

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参考文献• 庄司昌彦,2010,「地域 SNS と環境保全活動」『環境情報科学』39(1),34-

39.• 川崎市まちづくり局市街地開発部住宅整備課編,2012,『川崎市の住宅事情

2011』川崎市まちづくり局市街地開発部住宅整備課.• 在間敬子,2010,「中小企業の環境経営に対する支援の現状と課題 : 地域社

会における環境コミュニケーションデザインに向けて」『社会・経済システム』31,45-58.