6章 テレワークに関する 社内ルール作り - mlit47 6...

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47 6 6 章 テレワークに関する 社内ルール作り ★この章では、テレワークを導入するにあたっての社内ルール作りの進め方を説明し ています。 ★テレワーカーの労働条件についてどのように設定するのが自分の企業にあっている かを、項目ごとに検討してください。 (1) テレワーク導入にあたって必要な社内ルールとは ポイント ☆テレワーク導入にあたって既存の就業規則を変更する必要があるかどう かを検討する ☆テレワークに関わる労働条件でルールを決める必要がある項目を洗い出 し、就業規則に盛り込むか別個の規程を作成するかを検討する ☆テレワーク勤務規程は就業規則の一部とされる ☆テレワーク勤務規程を作成・変更したときは所轄労働基準監督署への届 出が必要となる まず、テレワーク導入にあたっての社内ルールとは、テレワークに従事するテレワー カーに対する就業条件等の決まりごとの全てを言います。 図表 6-1 テレワーク勤務規程の位置づけ 給与規程 退職金規程 旅費規程 テレワーク勤務規程は就業規則の一部とされる。 附属の規程も就業規則の一部 その他の規程 就業規則 ○○○○株式会社 テレワーク 勤務規程 事業場外勤務型 共同施設利用型 在宅勤務型

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Page 1: 6章 テレワークに関する 社内ルール作り - MLIT47 6 社内ルール作りテレワークに関する 6章 テレワークに関する 社内ルール作り この章では、テレワークを導入するにあたっての社内ルール作りの進め方を説明し

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6テレワークに関する

社内ルール作り

6 章 テレワークに関する 社内ルール作り

★この章では、テレワークを導入するにあたっての社内ルール作りの進め方を説明しています。★テレワーカーの労働条件についてどのように設定するのが自分の企業にあっているかを、項目ごとに検討してください。

(1) テレワーク導入にあたって必要な社内ルールとは

ポイント☆テレワーク導入にあたって既存の就業規則を変更する必要があるかどうかを検討する☆テレワークに関わる労働条件でルールを決める必要がある項目を洗い出し、就業規則に盛り込むか別個の規程を作成するかを検討する☆テレワーク勤務規程は就業規則の一部とされる☆テレワーク勤務規程を作成・変更したときは所轄労働基準監督署への届出が必要となる

まず、テレワーク導入にあたっての社内ルールとは、テレワークに従事するテレワーカーに対する就業条件等の決まりごとの全てを言います。

図表 6-1 テレワーク勤務規程の位置づけ

6.テレワークに関する社内ルール作り

����テレワークに��る社内ルール��

★この章では、テレワークを導入するにあたっての社内ルール作りの進め方を説明

しています。

★テレワーカーの労働条件についてどのように設定するのが自分の企業にあってい

るかを、項目ごとに検討してください。

(1)テレワーク導入にあたって必要な社内ルールとは

ポイント ☆テレワーク導入にあたって既存の就業規則を変更する必要が

あるかどうかを検討する ☆テレワークに関わる労働条件でルールを決める必要な項目を

洗い出し、就業規則に盛り込むか別個の規程を作成するかを

検討する

まず、テレワーク導入にあたっての社内ルールとは、テレワークに従事するテレワー

カーに対する就業条件等の決まりごとの全てを言います。 したがって、就業規則は本章でいう社内ルールの一つということになりますが、就業

形態によっては別個の規程(例えば「在宅勤務規程」や「モバイル勤務規程」等)を作

成した方が適切な場合があります。 テレワーク勤務規程を作成する場合の就業規則との位置づけは次のようになります。

図 6-1 テレワーク勤務規程の位置づけ

給与規程

退職金規程

旅費規程

テレワーク勤務規程は就業規則の一部とされる。

附属の規程も就業規則の一部

その他の規程

就業規則

○○○○株式会社 テレワーク

勤務規程

事業場外勤務型

共同施設利用型

在宅勤務型

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

したがって、就業規則は本章でいう社内ルールの一つということになりますが、就業形態によっては別個の規程(例えば「在宅勤務規程」や「モバイル勤務規程」等)を作成した方が適切な場合があります。テレワーク勤務規程を作成する場合の就業規則との位置づけは図表 6-1のようになります。テレワーク勤務規程のように別個の規程を定めた場合、当該規程も就業規則の一部と

されます。

(社内ルール作りの注意点)すべてのテレワーク形態における労働時間制度について言えますが、テレワーク勤務時

においても通常勤務時と同じ労働時間制度である場合は、新たな労働時間制度をルール化する必要はなく既存の就業規則を適用することになります。なお、勤務管理については、一般的にテレワーク勤務以外の従業員と異なった勤務管理(メール報告・日報報告等)をすることになりますからルール化が必要になります。テレワーク導入にあたって必要なルールは画一的なものでなく、導入企業におけるテレワークの形態によっても異なり、特に実施頻度によるところが大きいと言えます。テレワーク勤務の実施頻度により、異なる通勤手当支給基準を設けるか否かもルール

見直しの際に考える点です。導入にあたっては、テレワークの実施頻度やテレワーカーに対する影響の程度を検討

しながら対応していくことになります。後述の図表6-2に示す検証項目を参考にして下さい。在宅勤務を導入する場合にあっては、「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入

及び実施のためのガイドライン」(以下「在宅勤務ガイドライン」という。)で示されている注意点を考慮し、検討する必要があります。なお、在宅勤務ガイドラインで就業規則の作成・変更や協定の締結届け出が必要な場合として次の項目が挙げられています。

① 労働時間「在宅勤務についてみなし労働時間制が適用される場合は、在宅勤務を行う労働者は就業規則等で定められた所定労働時間により勤務したものとみなされることとなる。業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合は、当該必要とされる時間労働したものとみなされ、労使の書面による協定があるときには、協定で定める時間を通常必要とされる時間とし、当該協定を労働基準監督署長へ届け出ることになる(労働基準法第 38条の 2)。」

② 業績評価等の取扱い「在宅勤務を行う労働者について、通常の労働者と異なる賃金制度等を定める場合には、当該事項について就業規則を作成・変更し、届け出なければならないこととされている(労働基準法第 89条第 2号)。」

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

③ 通信費及び情報通信機器の費用「在宅勤務に係る通信費や情報通信機器等の費用負担については、通常の勤務と異なり、在宅勤務を行う労働者がその負担を負うことがあり得ることから、労使のどちらが行うか、また、事業主が負担する場合における限度額、さらに労働者が請求する場合の請求方法等については、あらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則等において定めておくことが望ましい。特に、労働者に情報通信機器等、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合には、当該事項について就業規則に規定しなければならないこととされている(労働基準法第 89条第 5号)。」

④ 社内教育等の取扱い「在宅勤務を行う労働者について、社内教育や研修制度に関する定めをする場合には、当該事項について就業規則に規定しなければならないこととされている(労働基準法第 89条第 7号)。」

図表 6-2 テレワーク勤務に必要な社内ルールづくり検証項目チェックリスト

検証項目 内    容 チェック

就 業 場 所 の 明 示 在宅勤務の場合は就業場所を「自宅」と書面で明示しなければならない。「テレワーク勤務辞令」等の作成 □

テレワーク勤務の適性業務に慣れていない新入社員や自己管理能力の低い従業員にはテレワーク勤務を許可しないような一定の基準を取り決め「テレワーク実施申請書」等で執務環境やテレワークの頻度を申請させる

業務連絡・報告の方法始業・終業時の連絡方法や日常業務の進捗や報告方法等をルール化する必要があり、又テレワーカーへ指示する業務連絡の方法についてもルール化する必要がある。(メールや文書で行うことが望ましい)

労 働 時 間 既存の就業規則が導入するテレワーク勤務に適応できるか※変更する場合は「就業規則・諸規程改定」を参照 □

人 事 評 価 制 度 既存の賃金制度で不利益が生じないか □

手 当テレワーク勤務の実施頻度等による別の通勤手当支給基準を設ける必要があるかどうか。通信費や水道光熱費等の負担に代わる「在宅勤務手当」等を設ける必要があるかどうか

服 務 規 律 既存の就業規則でテレワーク勤務時の服務規律が保てるかどうか □

情報セキュリティ情報(文書・電子データ)の持ち出しルールが既存の規定で対応できるか、又、在宅勤務の場合の自宅環境やモバイル勤務の場合のノートパソコンの取扱いルールが必要か

労 働 災 害 在宅勤務時における「私的な行為」は業務上災害にならないことから外出時の注意事項や自宅以外の場所での勤務を認めるかどうか □

健 康 管 理長時間労働や健康上悪影響のある不規則な勤務を防止するためのルールが必要かどうか、又、VDT作業、腰痛防止等健康管理のため通常従業員以外の健康管理措置(産業医、保健師等の健康相談)が必要か

教 育 ・ 研 修 OJT の機会が少なくなることから教育・研修に不利益が生じないか □緊 急 時 の 対 応 災害時の行動(避難場所等)や会社からの緊急連絡の方法、パソコン

等の不具合時の対応等 □

費 用 負 担 の 清 算 消耗品(文具、紙等)、宅配便等を利用した場合の費用の清算方法 □

回 覧 物・ 定 期 会 議社内通知や回覧物が正しく情報が伝わるか重要度・緊急度をランク付けし予め通知ルールを決めておく。又、健康状態のチェックや疎外感を感じさせないため定期会議を開催するルール化も効果的である

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

(2) 社内ルール作りの手順

ポイント☆導入するテレワークの形態に関して定めるべき事項について、既存の就業規則のままで対応できるかどうかを検証

テレワークの導入にあたって主な社内ルールの改訂などの流れを下記図に示しました。

図表 6-3 社内ルールのフロー図

6.テレワークに関する社内ルール作り

(2)社内ルール作りの手順

ポイント ☆導入するテレワークの形態に関し定めるべき事項について、

既存の就業規則のままで対応できるかどうかを検証

テレワークの導入にあたって主な社内ルールの改訂などの流れを下記図に示しまし

た。 図表 6-3 社内ルールのフロー図

導入するテレワークの形態

既存の就業規則で対応可能か検証

※改正の必要なし ※改正が必要

テレワーク勤務規程等の作成または就

業規則の変更案作り

全社員への説明と要望の集約

導入に向けて問題点の改善

労働者代表の意見聴取(意見書) (協定が必要な場合は労使協定の締結)

就業規則を従業員に周知

所轄労働基準監督署長へ届出

テレワーク対象者への労働条件の明示

テレワークの実施

※テレワーク対象者に事前に説明と同意を求め

るのが望ましい。

※テレワーク対象者以外にも制度そのものの理

解や協力が必要であるので全社員に説明する

のが望ましい。

外勤型テレワーク

内勤型テレワーク

通勤困難型テレワークなど

※就業規則を新規で作成される場合は「※改

正が必要」の矢印に準じてください。

※所轄労働基準監督署に適宜相談するのが

よいでしょう。

 

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

図表 6-4 一般の就業規則とテレワーク勤務規程との関係図

6.テレワークに関する社内ルール作り

図表 6-4 一般の就業規則とテレワーク勤務規程との関係図

上記図の就業規則は東京労働局ホームページ掲載のモデル就業規則を参考にしてい

ます。 テレワークを導入する際にまずテレワークの規程を新しく別個に作成することをお

考えになると思いますが、就業規則の一部であるテレワーク勤務規程は就業規則を補完

するに止まるものですので、就業規則に定められた規定以外でテレワークに必要と思わ

れる規定を「テレワーク勤務規程」として作成すれば良いのです。しかしながら、ある

程度テレワーク勤務規程に集約する方が判り易いといったこともありますので、この点

は個々の事業場のご判断となります。 上記図は、就業規則に既に規定されている条文とテレワーク導入時に別個に労働条件

を定めることが望まれる規定項目を示しています。 以下に在宅勤務ガイドラインを踏まえ就業規則等に定める内容を整理しました。

第 1 章(総 則)

第 2 章(採用及び異動)

第 3 章(服務規律)

第 4 章(労働時間、休憩及び休日)

第 5 章(休暇等)

第 6 章(賃 金)

第 7 章(定年、退職及び解雇)

第 8 章(退職金)

第 9 章(安全衛生及び災害補償)

第 10 章(教育訓練)

第 11 章(表彰及び懲戒)

※東京労働局ホームページより

情報セキュリティに関する規程

一般の就業規則

就業場所等の労働条件の明示

テレワーク時の服務(ルール)

テレワーク時の労働時間制

目標管理制度等の評価制度(推奨)

テレワーク勤務者に対する安全衛生・健康

テレワーク勤務者に対する教育・研修

テレワーク時の情報セキュリティ(推奨)

テレワーク時の通信費等の費用負担

テレワーク勤務者の対象範囲、業務の種類

テレワーク勤務者の選定基準

テレワーク申請書等の様式

テレワーク勤務規程

上記図の就業規則は東京労働局ホームページ掲載のモデル就業規則を参考にしています。テレワークを導入する際に、まずテレワークの規程を新しく別個に作成することをお

考えになると思いますが、就業規則の一部であるテレワーク勤務規程は就業規則を補完するに止まるものですので、就業規則に定められた規定以外でテレワークに必要と思われる規定を「テレワーク勤務規程」として作成すれば良いのです。上記図表 6-4は、就業規則に既に規定されている条文とテレワーク導入時に別個に労働

条件を定めることが望まれる規定項目を示しています。以下に在宅勤務ガイドラインを踏まえ就業規則等に定める内容を整理しました。

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

図表 6-5 テレワーク勤務にかかる就業規則・諸規程改定項目一覧

項 目 内        容

労 働 時 間

在宅勤務であっても通常の労働時間制の適用が可能であり事業場(職場)と同じ

勤務体系で在宅勤務を実施する場合は、就業規則の変更は不要です

テレワーク勤務が、就業規則に規定されていない勤務体系(例えばフレックスタ

イム制)を適用する場合や在宅勤務時のみなし労働時間制を適用する場合におい

て、就業規則に事業場外みなし労働時間制の規定がないときは、その規定を追加

しなければなりません

※在宅勤務時のみなし労働時間制が適用されるには一定のルールがあるので注意

が必要です

給与・手当

人事評価制度を新設あるいは改定したり、通勤手当を変更する場合や在宅勤務手

当を新設する時、又は、業務内容の変更による給与の変更を行う場合には就業規

則(賃金規程)に追加しなければなりません。

安 全 衛 生(作業環境)

在宅勤務の場合には、自宅の作業環境が安全衛生法上適した作業環境である事

を義務づけるため、一定の基準等を定める場合には、就業規則にその内容を追加

しなければなりません。

安 全 衛 生

(健康診断)

常時型在宅勤務の場合は健康管理について自己に委ねることが多くなることか

ら、導入時や定期的に一般の健康診断とは別に健康診断を実施したり、産業医に

よる健康相談を義務づけたりする場合には、就業規則にその内容を追加しなけれ

ばなりません。

安 全 衛 生(作業管理)

VDT 作業にかかるガイドラインに示されているように「連続作業」等や腰痛防

止の健康体操などを示す場合で新たに「VDT作業管理規程」等を作成する場合

には、就業規則にその内容を追加しなければなりません。

服 務 規 律(セキュリティ)

既存の就業規則の服務規律では資料の持ち帰りルールや漏洩防止のための情報管

理の方法が不十分で、その内容を追加・変更したり、新たにテレワーク勤務規程

等を作成したりする場合には、就業規則にその内容を追加しなければなりません。

費 用 負 担

パソコン本体やその周辺機器を貸与するか個人所有のものを使用するのか、又、

通信回線費用や水道光熱費の費用負担をさせる場合には、就業規則にその内容を

追加しなければなりません

教 育 訓

練・ 研 修

OJT の機会が少なくなる等のことから在宅勤務者を対象とした特別の教育・研

修を実施する場合には、就業規則にその内容を追加しなければなりません

福 利 厚 生在宅勤務者は企業内の福利厚生施設を利用する機会が少なくなること等のことか

ら、代償措置を講ずる場合には、就業規則にその内容を追加しなければなりません

なお、具体的な規定内容の作成にあたっては、「テレワーク勤務規程作成の手引き」 (社団法人日本テレワーク協会)を参考にして下さい。

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

(3) テレワークと労働時間制

ポイント☆テレワークであってもすべての労働時間制度が採用しうる☆在宅勤務においては、一定要件のもとで事業場外みなし労働が適用できる

図表 6-6 労働時間制度概要

労   働   時   間   制

通 常 の 労 働 時 間 制1 日 8時間、1週 40時間の法定労働時間以内の所定

労働時間とするもの

みなし働時間制

事業場外のみなし労働時間制

事業場外で労働を行ったときで労働時間を算定し難い

ときは所定労働時間または労使協定で定めた時間働い

たとみなす制度

専 門 業 務 型 裁 量 労 働 制

業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を

大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務(新商

品、新技術の研究開発の業務等専門業務)の中から対

象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務

に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いた

ものとみなす制度

企 画 業 務 型 裁 量 労 働 制

企業の事業運営に関し「企画」「立案」「調査」「分析」

を行う労働者の 1日の労働時間を、その実労働時間

にかかわらず、労使の委員で定めた時間を労働したも

のとみなす制度

変形労働時間制

1 か月単位の変形労働時間制

就業規則その他これに準ずるものにより、1か月以内

の期間を平均し 1週当たりの労働時間が法定労働時

間を超えない定めをした場合に、特定の週または特定

の日に法定労働時間を超えて労働させることができる

制度

1 年単位の変形労働時間制

1 箇月を超え 1年以内の期間を平均して 1週当たり

の労働時間が 40時間を超えないことを条件として業

務の繁閑に応じ労働時間を配分することを認める制度

フ レ ッ ク ス タ イ ム 制

始業・終業時刻の決定をゆだねられた労働者について、

清算期間(1箇月以内)を平均し 1週当たりの労働時

間を 40時間以内とする制度

1 週 単 位 の 非 定 型的 変 形 労 働 時 間 制

30 人未満の小売業、旅館業、料理店、飲食店のみ可

能な制度

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

(テレワークと労働時間制度)テレワークの労働時間管理は適用する労働時間制度によって異なります。導入するテレワークと労働時間制の関係は次のとおりです。

〈テレワーク就業形態と労働時間制〉

図表 6-7 労働時間制度ごとに適用するテレワーク就業形態の例

直行直帰型勤務在宅勤務

事業場外労働制

直行直帰型勤務

立ち寄りオフィス型勤務

顧客先オフィス勤務

在宅勤務

フレックスタイム制

直行直帰型勤務

立ち寄りオフィス型勤務

顧客先オフィス勤務

在宅勤務

通常の労働時間管理

労働時間制度による分類(就業形態別労働時間制度利用例)

〈通常の労働時間制〉導入するテレワークに通常勤務と同様の労働時間制度を適用するのであれば、労働時

間については就業規則を変更することなくテレワークの導入が可能です。

〈事業場外みなし労働時間制〉事業場外みなし労働時間制には要件があり、テレワーク就業形態の実態によっては適

用できない場合がありますので注意が必要です。(在宅勤務時の事業場外みなし労働時間制の適用は次項以降を参照して下さい。)

「フレックタイム制」や「専門業務型裁量労働時間制」等はテレワークの場合も通常勤務と同様にこれらの労働時間制度を適用することができますが、適用要件や対象業務に制限がありますので注意が必要です。

〈フレックスタイム制〉フレックスタイム制はすべてのテレワーク就業形態に対応できますが、始業・終業時刻をテレワーカーの自主決定に委ねる必要があることから場合によっては導入できない場合があります。

〈専門業務型裁量労働制〉テレワーク就業形態にかかわらず導入できる労働時間制に専門業務型裁量労働制があ

りますが、対象業務が限定されています。

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

導入するテレワークが在宅勤務の場合の労働時間制は次のようになります。

図表 6-8 在宅勤務時における労働時間制

6.テレワークに関する社内ルール作り

導入するテレワークが在宅勤務の場合の労働時間制は次のようになります。

図表 6-8 在宅勤務時における労働時間制

通常の

労働時間制

フレックス

タイム制

専門業務型

裁量労働時間制

1か月単位の

変形労働時間

1年単位の

変形労働時間制

始業・終業時刻の

自由裁量

対象業務に限

原則、全ての労働時間制が適用できる ※適用要件のある法制度はその要件による

在宅勤務時

の事業場外

みなし労働

時間制

専門業務型の裁量労働時間制の対象業務でかつ適

用要件を満たせば専門業務型裁量労働時間制によ

る在宅勤務は可能である

このような場合は事業場外みなし労働時間が適用される

情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態に置くこととされていない

業務が、私生活を営む自宅で行われる

勤務時間帯と日常生活時間帯が混在せざるを得ない働き方

労働時間が算定し難い

業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていない

事業場外みなし労働時間制

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

図表 6-9 在宅勤務時の事業場外みなし労働時間制に関する改正通達

6.テレワークに関する社内ルール作り

図表 6-9 在宅勤務時の事業場外みなし労働時間制に関する改正通達

(1)当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われていること

(2)当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこと

とされていないこと

(3)当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと

「基発第0305001号平成16年3月5日

改正 基発第0728002号平成20年7月28日

「情報通信機器」とは、一般的にはパソコンが該当すると考えられるが、労働者の個

人所有による携帯電話端末等が該当する場合もあるものであり、業務の実態に応じて判断

されるものであること。

「使用者の指示により常時」とは、労働者が自分の意思で通信可能な状態を切断すること

が使用者から認められていない状態の意味であること。

「通信可能な状態」とは、使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて電子メール、電

子掲示板等により随時具体的指示を行うことが可能であり、かつ、使用者から具体的指示

があった場合に労働者がそれに即応しなければならない状態(即ち、具体的な指示に備え

て手待ち状態で待機しているか、又は待機しつつ実作業を行っている状態)の意味であり、

これ以外の状態、例えば、単に回線が接続されているだけで労働者が情報通信機器から離

れることが自由である場合等は「通信可能な状態」に当たらないものであること。

「具体的な指示に基づいて行われる」には、例えば、当該業務の目的、目標、期限等の基

本的事項を指示することや、これらの基本的事項について所要の変更の指示をすることは

含まれないものであること。

また、自宅内に仕事を専用とする個室を設けているか否かにかかわらず、みなし労働時

間制の適用要件に該当すれば、当該制度が適用されるものである。

常時回線が接続されていてもパソコンから離れることが自由

常時回線接続

期限の変更

事業場外みなし労働 時間制が適用される例

在宅勤務について「事業場外みなし労働時間制」が適用される要件

情報通信機器を活用した在宅勤務に関する労働基準法第38条の2の適用について(抄)

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

図表 6-10 在宅勤務時のみなし労働時間制に関する改正通達の解説図

6.テレワークに関する社内ルール作り

図表 6-10 在宅勤務時のみなし労働時間制に関する改正通達の解説図

1.「情報通信機器」とは?

一般的にはパソコン 個人所有の携帯電話端末

が該当する場合もある

業務の実態によって判断

2.「使用者の指示により常時」とは?

(労働者の意思による)

通信可能な状態の切断禁止

「通信可能な状態」とは?

手待ち又は待機

しつつ実作業

具体的な指示に備えて手待ちで待機しているか、 又は期待しつつ実作業を行っている状態でない

ならば「通信可能な状態」にならない

自由

単に回線が接続されているだけでパソコンの前から離れることは自由

随時

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

6.テレワークに関する社内ルール作り

(4)労働時間管理

ポイント ☆客観的に把握できる方法によらなければならないが、テレ

ワーク時には電話連絡やメール送信によるケースが多い ☆事業場外みなし労働時間制や専門業務型裁量労働制によるみ

なし労働時間制による場合でも日報等により勤務状況を把握

することが必要

(通常の労働時間制の場合) テレワーカーに通常の労働時間制を適用する場合も、テレワークを行っていない従業

員と同じように労働時間管理を行うこととなります。 常時型テレワークの労働時間管理は、ほとんどの時間を事業場外で働くことから、事

業場に備えてあるタイムカードの打刻や出勤簿の押印ができないので、勤務日報の作成

や始業時刻や終業時刻に上司に電子メールやファックスを送信、あるいは電話等で報告

させるのがよいでしょう。また、在宅勤務では、通常、始業の際にオフィスのサーバー

にログインし、就業時にログオフすることから、ログイン・ログオフの時間を自動的に

3.「具体的な指示に基づいて行われる」とは?

業務の目的、目標、期限

等の基本的事項の指示

基本的事項について所要の変更の指示

「具体的な指示に基づいて行われる」には含まれない

4.自宅内の作業用「個室」

自宅内に作業用個室が設けられていてもみなし労

働時間制に該当するか否かの判断には影響しない

(4) 労働時間管理

ポイント☆客観的に把握できる方法によらなければならないが、テレワーク時には電話連絡やメール送信によるケースが多い☆事業場外みなし労働時間制や専門業務型裁量労働制によるみなし労働時間制による場合でも日報等により勤務状況を把握することが必要

(通常の労働時間制の場合)テレワーカーに通常の労働時間制を適用する場合も、テレワークを行っていない従業

員と同じように労働時間管理を行うこととなります。常時型テレワークの労働時間管理は、ほとんどの時間を事業場外で働くことから、事業場に備えてあるタイムカードの打刻や出勤簿の押印ができないので、勤務日報の作成や始業時刻や終業時刻に上司に電子メールやファックスを送信、あるいは電話等で報告させるのがよいでしょう。また、在宅勤務では、通常、始業の際にオフィスのサーバーにログインし、就業時にログオフすることから、ログイン・ログオフの時間を自動的に記録して労働時間管理を行うことも可能です。随時型テレワークのテレワーカーの労働時間管理は、基本的にはタイムカード等で管

理し、テレワークを行う時にテレワーク勤務届等を提出する方法が考えられます。

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

テレワークでも、時間外労働が行われた場合は、時間外労働に対する賃金と法定時間外労働に対する割増賃金、深夜労働に対する深夜割増賃金を支払わなければなりません。また、時間外労働・休日労働をさせる場合には、労働者代表と労使協定を締結し、労働基準法の定めによる「時間外・休日労働に関する協定届」(三六協定)を所轄労働基準監督署長へ届出なければなりません。

(みなし労働時間制の場合)みなし労働時間制を適用する場合、モバイル勤務や在宅勤務、サテライトオフィス勤務等においても、労働時間の把握が必要となります。みなし労働時間制を適用している人の労働時間を把握するのは、一見矛盾するようですが、業務に必要な労働時間の実態に照らし、みなし労働時間の設定が適正であるかを確認する必要があり、また、過重な長時間労働を行わないように管理する責務があります。それはみなし労働時間制を適用する場合であっても深夜労働・休日労働に対する割増賃金の支払いが必要であるなど、適正な労働時間管理を行う責務が事業主にあるからです。また、専門業務型裁量労働制により労働するテレワーカーには、労働時間の配分をその

従業員にゆだねることから、深夜時間に勤務したり、勤務時間帯そのものが夜型の勤務になりがちとなることを防止する必要があります。これは使用者に健康・福祉確保措置を講ずる義務があるからです。事業場外みなし労働時間制により仕事をするテレワーカーについても同様に、使用者の指揮監督が及ばないことから前述と同様の配慮をすることが望ましいでしょう。

図表 6-11 在宅勤務時の労働時間の管理

労 働 時 間 制 時 間 管 理

通 常 の 労 働 時 間 制 必 要

在 宅 勤 務 時 の 事 業 場 外み な し 労 働 時 間 制 深夜労働、休日労働の把握・健康確保のために必要

専 門 業 務 型 裁 量 労 働 制 深夜労働、休日労働の把握・健康確保のために必要

1 か 月単位の変形労働時間制 必 要

1 年 単 位 の 変 形 労 働 時 間 制 必 要

フ レ ッ ク ス タ イ ム 制 必 要

みなし労働時間制が適用される場合であっても「深夜労働」「休日労働」に対する割増賃金の支払いが必要(労働基準法第 37条)

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

(5) 給与・諸手当

ポイント☆テレワークでも業務内容や職種、勤務時間に変更がなければ給与(基本給)の見直しの必要はない☆通勤手当は、テレワークの実施頻度に応じて考える

テレワーク勤務によって、業務内容や職種が変更することがなくても、所定労働時間を変更するケース(育児を目的とした在宅勤務等)が見られます。給与の見直しを考えなければならないのは、現在の業務内容、職種等が変更になる場合と、業務内容や職種が同じでも所定労働時間が長くなったり、あるいは短くなったりする場合です。

(労働時間が変更になる場合)テレワーク勤務によって従前の所定労働時間が変更になる場合で所定労働時間が長く

なるにもかかわらず、賃金が以前のままでは労働条件の不利益変更となるので注意が必要です。所定労働時間が短くなった場合は、その短くなった時間に応じた給与を検討する必要

がありますが、制度的なもの(例えば「育児・介護休業規程」で短時間勤務制度の給与の取り決めがある場合)以外での労働条件の変更は労働契約法で「合意原則」となっていることを踏まえ検討する必要があります。

(諸手当について)常時型テレワークでは、事業場に通勤することが少ないことから、一定期間を基準とした定額の通勤手当は支給せず、会議や打合せ等で事業場に通勤する場合のみ往復に要する通勤費用の実額を支給するケースが見られます。随時型テレワークでは、テレワークの実施頻度を考え一定期間を基準とした定額の通

勤手当を支給するか、往復に要する通勤費用の実額を都度支給するかを比較して考えれば良いでしょう。また、在宅勤務やモバイルワークをする場合、自宅の電話や個人の携帯電話、パソコンを使用している場合が見受けられます。この場合、従業員との雇用契約がその負担に関する取扱を包括しているものであれば良いのですが、そうでない場合は会社の負担割合等について話し合う必要があります。自宅の電話の場合、自己使用分と業務使用分が請求明細などで区分可能であれば、その実額を精算することができますが、不明な場合は使用頻度等を考慮して従業員と話し合い、定額で手当として支給する場合も見られます。

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

(6) 人事評価制度

ポイント☆見えない場所で働くテレワーカーの人事評価は「人物評価」重視の評価システムから「仕事や業績評価」の成果主義重視の評価システムに移行することが望ましい

常時離れた場所で労働する常時型テレワーカーにおいては、テレワーカーに対する人事評価をどのように行うかが問題になります。テレワーカーに対する人事評価には、多くの場合目標管理制度に基づく成果主義が適用されています。目標管理制度は、営業担当部門のように売上高や顧客訪問件数といった成果が数値化

できる業務には適していますが、企画・開発など達成度を数値化することが困難な業務では、制度そのものが形骸化しがちであるといわれています。また、目標の設定がどうしても短期的になり、長期的なプロジェクト志向がなくなるといった点も指摘されています。しかし、こうした問題は、目標の設定や成果の報告の際に、評価者であるマネージャーと担当者の間で十分な時間をかけて面談するといったプロセスが十分に行われていないことや、評価する側のマネージャーに評価するためのスキルがないといったことに原因があると言われています。目標管理制度の問題点や解決策については、多数の著書が出ていますので、ここで詳しく論じることはしませんが、いずれにしても在宅勤務やモバイル勤務のようなテレワークを行う際には、部下が目の前にいない状態で評価する必要が生じてくるため、こうした状況でも適正な評価ができるような仕組みとマネージャーのスキルを向上させておくことが必要といえます。また、評価をするにあたっては、テレワーカーがその他の従業員と比べて、テレワークを行っているために不利な評価となるようなことがあってはなりません。もしそういうことが起こると、誰もテレワークをやろうとはしなくなるでしょう。テレワークを始める際やテレワークを始めて一定期間ごとに、マネージャーとテレワーカーとの間で、テレワークで行う業務の内容とその成果について共通の理解を持ち、マネージャーに対する報告の仕方などを決めておくことが重要です。

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

(7) 安全衛生と健康管理

ポイント☆環境作りをルール化することによりテレワーカーの作業環境を標準化する☆健康管理上の配慮をルール化する

労働安全衛生法第 3条では、「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。」とされています。テレワークのうち固定場所で働くことになる「立ち寄りオフィス勤務」「顧客先オフィ

ス勤務」「在宅勤務」「サテライトオフィス勤務」は作業環境に配慮が必要であり、法律に従った作業環境を整えなければなりません。ただし、「顧客先オフィス勤務」においては施設の管理権が使用者にないため、作業環境に問題がある場合は、顧客先と話し合って改善策等を検討していくことになります。一方、在宅勤務をする場合は、働く場所が従業員の自宅であるため、従業員のプライバシーに配慮しつつ、作業環境に関するルールを作り、これに従って作業環境を整えるようテレワーカーと話し合う必要があります。作業環境で考えなければならないものは、机、椅子、あるいは照明設備、空調設備等です。在宅勤務を行うテレワーカーはパソコンのディスプレイを見て仕事をすることが多いので、「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン(平 14.4.5基発第0405001号)」に留意する必要があります(資料編に概要を掲載しておりますので、100ページを参照してください)。労働安全衛生法では、常時使用する労働者に対して雇入時及び定期に健康診断を行わなければなりませんし、健康診断結果に基づく事後措置が義務付けられています。健康上の相談をする窓口を決めたり、保健師等による健康相談を実施することも良いでしょう。

図表 6-12 自宅の作業環境

6.テレワークに関する社内ルール作り

(7)安全衛生と健康管理

ポイント ☆環境作りをルール化することによりテレワーカーの作業環境

を標準化する ☆健康管理上の配慮をルール化する

労働安全衛生法第3条では、「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のた

めの最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場

における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。」とされています。

テレワークのうち固定場所で働くことになる、「立ち寄りオフィス勤務」「顧客先オ

フィス勤務」「在宅勤務」「サテライトオフィス勤務」は作業環境に配慮が必要であり、

法律に従った作業環境を整えなければなりません。ただし、「顧客先オフィス勤務」に

おいては施設の管理権が使用者にないため、

作業環境に問題がある場合は顧客先と話し

合って改善策等を検討していくことになり

ます。

一方、在宅勤務をする場合は、働く場所

が従業員の自宅であるため、従業員のプラ

イバシーに配慮しつつ、作業環境に関する

ルールを作り、これに従って作業環境を整

えるようテレワーカーと話し合う必要が

あります。

作業環境で考えなければならないもの

は、例えば机、椅子、あるいは照明設備、

照度等です。

在宅勤務を行うテレワーカーはパソコンのディスプレイを見て仕事をすることが多

いので、「VDT 作業における労働衛生管理のためのガイドライン(平 14.4.5 基発第

0405001 号)」に留意する必要があります(資料編に概要を掲載しておりますので、155

ページを参照してください)。

労働安全衛生法では、常時使用する労働者に対して雇入時及び定期に健康診断を行わ

なければなりませんし、健康診断結果に基づく事後措置が義務付けられています。健康

上の相談をする窓口を決めたり、保健師等による健康相談を実施することも良いでしょ

う。

図表6-12 自宅の作業環境

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

(8) 労働災害

ポイント☆私的行為中は業務上災害とならない☆災害防止の指導マニュアル等を作成し意識の高揚を図る

どのような形態のテレワークにおいても、テレワーカーが労働者である以上、通常の従業員と同様に労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という)の適用を受けます。業務上災害と認定されるためには「業務遂行性」と「業務起因性」の 2つの要件を満

たさなければなりません。業務遂行性とは、「労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態」を言います。また、業務起因性は、「業務または業務行為を含めて“労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態”に伴って危険が現実化したものと経験則上認められること」を言います。また、外勤型テレワーカーには通勤災害も考えられます。通勤災害は、労災保険法第

7条第 2項に「労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復することをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。」、同条第 3項に「労働者が、前項の往復の経路を逸脱し、又は同項の往復を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項の往復は、第1項第2号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。」とそれぞれ定められています。通勤災害と認められるためには、「通勤遂行性」と「通勤起因性」の 2つの要件を満たさなければなりません。通勤遂行性とは、「災害の発生時に労災保険法に規定される通勤を行っていること」をいい、通勤起因性とは、「災害が労災保険法に規定される通勤に通常伴う危険が具体化したもの」を言います。なお、在宅勤務中の災害(怪我や事故)についても、「業務遂行性」と「業務起因性」の 2つの要件を満たせば労災保険給付の対象になりますが、負傷や疾病が発生した具体的状況によって個別に適否が判断されますので、具体的な事例をあげて説明することは難しいですが、テレワーカーに業務上災害と通勤災害の認定要件について十分に理解させることが必要でしょう。

図表 6-13 在宅勤務時の労働災害

6.テレワークに関する社内ルール作り

(8)労働災害

ポイント ☆私的行為中は業務上災害とならない ☆災害防止の指導マニュアル等を作成し意識の高揚を図る

どのような形態のテレワークにおいても、テレワーカーが労働者である以上、通常の

就業者と同様に労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という)の適用を受けます。 業務上災害と認定されるためには「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件を満

たさなければなりません。業務遂行性とは、「労働者が労働契約に基づいて事業主の支

配下にある状態」を言います。また、業務起因性は、「業務または業務行為を含めて“労

働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態”に伴って危険が現実化したもの

と経験則上認められること」を言います。 また、外勤型テレワーカーには通勤災害も考えられます。通勤災害は、労災保険法第

7条第2項に「労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び

方法により往復することをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。」、同条第

3項に「労働者が、前項の往復の経路を逸脱し、又は同項の往復を中断した場合におい

ては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項の往復は、第一項第二号の通勤としない。

ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるも

のをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中

断の間を除き、この限りでない。」とそれぞれ定められています。 通勤災害と認められるためには、「通勤遂行性」と「通勤起因性」の2つの要件を満

たさなければなりません。通勤遂行性とは、「災害の発生時に労災保険法に規定される

通勤を行っていること」をいい、通勤起因性とは、「災害が労災保険法に規定される通

勤に通常伴う危険が具体化したもの」を 言います。 なお、在宅勤務中の災害(怪我や事故)

についても、「業務遂行性」と「業務起因

性」の2つの要件を満たせば労災保険給

付の対象になりますが、負傷や疾病が発

生した具体的状況によって個別に適否が

判断されますので、具体的な事例をあげ

て説明することは難しいですが、テレ

ワーカーに業務上災害と通勤災害の認定

要件について十分に理解させることが必

要でしょう。

自宅の間取り図を提出させ

る場合は、プライバシーに

注意する必要がある

私的行為が原因であるものは、業務上の災害とはならない

図表 6-13 在宅勤務時の労働災害

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

(9) 費用負担

ポイント☆テレワークに関わる費用負担区分については、導入当初から明確なルールを作成しておくことが必要

モバイル勤務や在宅勤務において、通信機器等の費用を企業が負担するのか、従業員が負担するのかについて事前に明確にしておく必要があります。労働基準法第 89条第 1項第 5号では、「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせ

る定めをする場合においては、これに関する事項を就業規則に定めなければならない。」とされていますので、必要に応じて就業規則の変更をしなければなりません。費用が発生するものとしては次のようなものが考えられます。① 機器の費用

テレワーク導入企業の事例では、パソコン本体や周辺機器、携帯電話、PHSなどについては会社から貸与しているケースが多く見られます。

② 通信回線費用モバイル勤務では携帯電話やノート型パソコンを会社から貸与し、無線 LAN等の通信費用も会社負担としているケースが多く見られます。一方在宅勤務においては、自宅に引くブロードバンド回線の工事費、基本料金、通信回線使用料等が発生します。回線そのものは自宅に引くため、テレワーカー自身が個人的にも使用することがあることから、負担は個人負担としている例も見られますが、会社が工事費を負担しているケースもあります。通信回線使用料については、個人の使用と業務使用との切り分けが困難なため一定額を会社負担としている例が多く見られます。会社が貸与する携帯電話、PHS等は基本的には全額会社負担としているところが多いようです。在宅勤務において自宅の電話で業務連絡を行う場合は、電話の使用明細から業務用に使用した通話分を会社が負担することも考えられます。

③ 文具、備品、宅配便等の費用文具消耗品については会社が購入した文具消耗品を使用することが多いでしょう。切手や宅配メール便等は事前に配布できるものはテレワーカーに渡しておき、会社宛の宅配便は着払いにするなどで対応ができます。やむを得ずテレワーカーが文具消耗品の購入や宅配メール便の料金を一時立て替えることも考えられますので、この際の精算方法等もルール化しておくことが必要です。

④ 水道光熱費自宅の電気、水道などの光熱費も実際には負担が生じますが、業務使用分との切り分けが困難なため、テレワーク勤務手当に含めて支払っている企業も見受けられます。

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

(10) 社員教育・研修

ポイント☆公平な教育・研修の機会の確保

社員教育は、従業員の能力アップや仕事の質を高めるために不可欠です。常時型テレワークのテレワーカーは OJT(On the Job Training)の機会が少なくなる可能性があることから、OJTに代わる教育をどのようにするかが課題になります。また企業はテレワーカーが社員教育や研修を受ける機会が少なくなることのないように配慮しなければなりません。テレワーカーの上司に対しても人事評価の方法や、テレワーカーの不満や苦情対応に

ついての教育が必要であり、テレワーカー以外の従業員についてもテレワークに対する理解を深めるためにテレワークに関する研修等が必要です。社内ルール作りの中でも軽視されがちな教育・訓練ではありますが、それまでの社員教育・研修プログラムを見直し、または新たな制度を取り入れ運営することが、テレワークを成功させるために重要となります。

OJTでは、業務遂行上の問題や課題を相談できるメンター(指導者・助言者)制度を取り入れ、電話や電子メールなどで在宅勤務者を支援する方法も良いでしょう。集合研修の代わりにその研修をビデオに撮影して自宅で見てもらう方法や、教育ビデ

オなどをイントラネットでいつでも見られるようにしておくという方法もあります。自己啓発では、通信教育などを利用する方法もあります。なお、テレワークのための教育研修の内容や運用については、第 8章「テレワーク導

入にあたっての教育研修」で詳しく説明していますので、そちらも参照してください。

(11) その他のルール作り

ポイント☆テレワークに対応した連絡体制を作成し、関係者に周知する☆緊急時対応等のマニュアル化および周知☆テレワーク対象者の選定

(連絡体制づくり)テレワークが実施されると、通常のオフィスでの従業員とテレワーカーの間、テレワー

カー間で、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションの機会が少なくなることが

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6.テレワークに関する社内ルール作り

6テレワークに関する

社内ルール作り

想定されます。そこで、コミュニケーション不足を解消する方法や、労務管理上必要な連絡や緊急時の連絡方法についてあらかじめ決めておく必要があります。社内ルールとしては、テレワークの実施頻度に応じた連絡体制を考えれば良いでしょ

う。具体的な項目としては、次のような項目があります。① 業務の開始・終了の報告

事業場外みなし労働時間制、裁量労働時間制を採用する場合においても、勤務日報を作成させ、定期的(例えば、週に 1回勤務日報を報告させる)に報告させます。これは、業務の進捗状況、適正な勤務状況であるかなどを直属の上司が把握しておくためです。

② 部署内の回覧書類常時テレワークを実施している場合は、社内通知や資料の回覧ができないことから、その重要性をあらかじめランク付けしておき、テレワーカーにその情報が正しく伝わるような配慮が必要です。安易な考えがテレワーカーの疎外感をまねく恐れがありますので注意が必要です。郵便、電子メール、ファックス、宅配便等を利用することになりますが、情報の重要度によっては、部外に情報が流れることを防止するために、その方法も決めておいたほうが良いでしょう。配送に関わる料金の精算方法等も同様です。

③ 連絡体制定期的連絡の時期とその方法や突発的な緊急事態の対応(お客様の対応、社内対応、災害時の対応)とその方法などを決めておいた方がよいでしょう。

④ 定例会議の開催部署内の連帯感、業務の進捗や問題点の解決のため定期的に会議を開催することも必要と思われます。

⑤ 技術的なトラブルの対応通信機器などの専門的な知識・技術を持ちアドバイスできる相談者の選定や機器故障時の対応とその方法を決めておいた方がよいでしょう。

(テレワーク勤務対象者の選定) 在宅勤務のうち頻度の多い常時在宅勤務の場合、従業員の自律が求められます。在宅勤務ガイドラインにおいても「勤務する時間帯や自らの健康に十分に注意を払いつつ、自律的に業務を遂行することが求められる。」と示されており、新入社員や自己管理能力の低い従業員は対象にしないような配慮が必要です。

なお、巻末の資料編(7)では、「テレワーク導入にあたっての各種様式例」を示して

います。ぜひご参照ください