7.2. モデル地区における基本コンセプトの設定 7.2.1. 地域課 …...7-9 7.2....

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7-9 7.2. モデル地区における基本コンセプトの設定 7.2.1. 地域課題の整理 前節までに,モデル地区において基本コンセプトを構築するために必要な情報を収集したが,現 時点においてはどのような情報を活用すべきかの整理ができていない。今後,他のモデル地区での 検討を踏まえ,最低限どのような情報に着目する必要があるかを整理しておく必要がある。 本モデル地区においては,地域課題として,現況林分の病虫害の状況や植生環境といった「海岸 防災林の変遷やポテンシャル」,住民の利活用状況や配慮すべき環境といった「住民利活用・環境特 性」,津波浸水範囲やそこに含まれる保全対象を整理した「津波危険度の把握」等といった海岸防災 林の特性や海岸環境の変化により塩害防備機能が住民に求められていることや日常的な散策の場と しての活用,クロマツを中心とするものの広葉樹も活用したいなどといった「地域ニーズの把握」 4 項目について整理し,それらの情報を統括した上で地域課題を図 7.12 のとおり整理した。 7.12 地域課題の整理イメージ 病虫害被害の状況 住民の利活用状況 自然公園の指定 考慮すべき環境 津波浸水範囲(想定) 想定浸水域の保全対象 植生環境

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7.2. モデル地区における基本コンセプトの設定

7.2.1. 地域課題の整理

前節までに,モデル地区において基本コンセプトを構築するために必要な情報を収集したが,現

時点においてはどのような情報を活用すべきかの整理ができていない。今後,他のモデル地区での

検討を踏まえ,最低限どのような情報に着目する必要があるかを整理しておく必要がある。

本モデル地区においては,地域課題として,現況林分の病虫害の状況や植生環境といった「海岸

防災林の変遷やポテンシャル」,住民の利活用状況や配慮すべき環境といった「住民利活用・環境特

性」,津波浸水範囲やそこに含まれる保全対象を整理した「津波危険度の把握」等といった海岸防災

林の特性や海岸環境の変化により塩害防備機能が住民に求められていることや日常的な散策の場と

しての活用,クロマツを中心とするものの広葉樹も活用したいなどといった「地域ニーズの把握」

の 4 項目について整理し,それらの情報を統括した上で地域課題を図 7.12 のとおり整理した。

図 7.12 地域課題の整理イメージ

病虫害被害の状況

住民の利活用状況

自然公園の指定

考慮すべき環境

津波浸水範囲(想定)

想定浸水域の保全対象

植生環境

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情報の収集・分析の結果,静岡県モデル地区においては,①林帯の健全化(病虫害リスクの低減),

②平常時機能の高度な発揮(特に塩害対策として),③津波被害軽減機能の高度な発揮(他地域の影

響および浸水域の土地活用),④アカウミガメ等に対する環境配慮(地域において特に配慮すべき事

項),⑤日常的な利活用に対する配慮(聞き取り調査による要望)が地域の課題として整理された。

7.2.2. 基本コンセプトの設定

前項に整理したとおり,モデル地区の地域課題として 5 項目が抽出されたため,基本コンセプト

の構築においては,5 項目の課題を解消させる必要がある。したがって,本モデル地区における基

本コンセプトとしては,下記に示すとおりとした。

●基本コンセプト方針

(1) 平常時防災機能を向上させるための機能強化を図る

モデル地区は,ヒアリングにおいて塩害防備についての地域要望が高まっていることや松くい虫

被害等により非常に不健全な状態となった結果,塩害や風害等の被害が顕在化しているなど平常時

の防災機能が発揮されていない状況にある。そのため,まずは健全化を図った上で,地域に求めら

れている平常時の防災機能を満足させるため,下記に示す機能強化を実施する。

最内陸側林帯の連続性と林帯幅を確保する。

クロマツ林だけでなく広葉樹林を配置して病虫害へのリスクを軽減する。

クロマツ林については防除対策を実施できる施設整備(高密管理道等)をおこなう。

砂丘造成盛土を造成し,平常時防災機能の機能向上を図るとともに,効果範囲の拡大を図る。

(2) 津波被害軽減機能を向上させるための機能強化を図る

モデル地区は,複数の土堤が汀線に斜め方向に列状に並ぶ地形を呈している。海岸防災林は土堤

の上部を主として造成されているが,2 線堤以降が工場として活用されているなどすでに高度な土

地利用がなされている状況である。一方,想定される津波浸水範囲を見ると工場などで土地利用さ

れている箇所においても浸水する想定となっているため,海岸防災林に対して津波被害を軽減させ

る機能も求められる状況にある。そのため,下記に示す機能強化を実施し,津波被害軽減機能の向

上を目指す。

二段林化や高密度管理など、高度な林分管理を前提にした林帯造成をおこなう。

砂丘造成盛土の造成をおこない、津波に対する林帯の耐性向上をはかるとともに津波被害

軽減機能の向上を図る。

津波被害軽減機能と平常時防災機能の高度な発揮(特に塩害防備)を目指し, 自然公園とも調和する日常的に活用できる海岸防災林

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(3) アカウミガメが訪れる自然環境を維持する

モデル地区は,御前崎自然公園に指定されており,アカウミガメの産卵地やコアジサシの飛来地

として知られているため,これらの自然環境には特に配慮が必要となる。したがって,下記に留意

して事業計画案を策定することとする。

防潮施設は配置せず、自然の前浜を維持する。

(4) 林内の保健休養活動等の利活用はこれまでどおり実施できるよう配慮する

モデル地区には,森林公園があり日常の散策路などとして地域住民の方々に利活用されている。

ヒアリングからはイベントなどの大規模な活用は実施されていないが,日常的な利活用については

要望が高い状況にある。したがって,下記に留意して事業計画案を策定することとする。

保健休養活動の拠点区域については、立木密度や管理道密度などに配慮する。

以上に示した基本コンセプトを踏まえ,基本計画を策定することとした。

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7.3. モデル地区における基本計画(整備手法)の検討

基本計画では,基本コンセプトに基づき現況林況を評価し,整備タイプを検討した上で,具体的

なゾーニングや整備方針,計画等を検討することとなる。ここでは,前章に示した現況林分の健全

性の評価及び機能強化の必要性について,チェック項目ごとに現況およびそれに対応する整備方針

を整理した。整理結果を表 7.2 に示す。

表 7.2 現況林分の健全度評価と機能強化の必要性のチェック及び対応する整備方針案

チェック項

目 現況 整備方針案

現況林分の 脆弱性・特性

高木層が欠落し林帯として不健全。 松枯れが進行し,樹林帯が欠損して

いる箇所あり。 松くい虫被害後に常緑広葉樹侵入。 土堤背後に工場等が分布し林帯幅の

狭い箇所あり。

松くい虫被害箇所を整理し,健全な

林帯として改良する。 林帯幅の拡幅が可能な箇所は拡幅し

機能強化を図る。 松くい虫被害に対するリスク軽減の

ため広葉樹の活用を検討する。

必要機能の 発揮度

高木層が欠落し飛砂防備機能の発揮

度低い。 近年は,海岸侵食等に伴い塩害防備

機能の高度な発揮が求められてい

る。

塩害防備機能等,平常時の防災機能

を高めるため,林帯幅の拡幅,地形

効果の向上も含め検討する。 最後部の林帯幅拡幅を検討し,平面

的な連続性を高める。

津波浸水範

囲 地形条件 土地利用

全体的に 3m程度の浸水あり。 浸水域に工場などの土地利用されて

いる箇所あり(第 2 線堤以降)。 土堤以外は平坦な地形が内陸まで続

く。 第 1線堤と第 2線堤の区間は畑地等

(一部空き地)として利用されてい

るため活用可能。

津波被害軽減効果を発揮させるた

め,高密度化,林帯幅の拡幅,地形

効果の向上も含め検討する。 津波による幹折れを抑制するため樹

木浸水範囲の低減を図る。 津波後の機能発揮維持のため,湛水

危険範囲を極力少なくする。

環境特性 御前崎遠州灘県立自然公園に指定。 アカウミガメの産卵地。

アカウミガメの産卵に配慮し防潮堤

は造成しない。

住民の利活

森林公園は住民の散策などに利用。 ウォークラリー等も開催されてい

る。

森林公園等は,日常的な利活用に配

慮するゾ-ンとして散策路,密度の

見直しを行う。

表 7.2 から,モデル地区における整備タイプは林帯を健全に改良する「機能回復型」を踏まえた

上で,「機能強化型」として設定する。

整備タイプの「機能強化型」は,林帯の改良によって現況(回復させた健全な林帯の状況)より

機能を強化することを目指すため,下記に整理した整備方針にしたがって,ゾーニングおよび全体

計画図(平面図,断面図)の検討を行った。検討結果を次ページ以降に示す。なお,本業務におけ

る海岸防災林グランドデザインは,ここで整理した整備計画図(全体計画)に示した事業計画案の

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こととなる。

7.3.1. 整備方針のまとめ

(1) 整備タイプ

林帯を健全に改良後,「機能強化型」とする。

(2) 整備方針

全体的に林帯を改良し,健全な林帯として再構築する。

再構築には林帯前線はクロマツを活用し,2 線堤以降は松くい虫被害リスク軽減のため広

葉樹を活用する(クロマツ活用部分は,防除のための管理道を配置する:散策にも活用)。

最内陸側林帯は最低 50m 幅を確保し,極力連続性を保てるよう配置する。

第 1 線堤と第 2 線堤の空間を活用し,①平常時機能の向上,②津波被害の軽減,③津波に

よる林帯損失リスクの低減,④津波後の林帯枯損リスクの低減を目的とし砂丘造成盛土を

実施する(地形効果の向上)。

第 1 線堤より前の砂浜部は,アカウミガメ産卵などに配慮し,環境配慮ゾ-ンとして防潮

堤等の施設は造成しない。

住民の利活用が活発な森林公園等は住民の活用に配慮した林型(管理道の設置,樹種の検

討,密度の検討)として整備する。

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7.3.2. モデル地区のゾーニング

前項までの検討を踏まえ,モデル地区について林帯を健全にする「林帯健全化ゾ-ン」,機能を強化する「機能強化ゾ-ン」,住民の利活用に配慮する

「利活用配慮ゾ-ン」,アカウミガメの産卵に配慮する「環境配慮ゾ-ン」の 4 区分にゾーニングした。ゾーニング結果をに示す。

図 7.13 モデル地区のゾーニング結果

:林帯健全化ゾ-ン

:機能強化ゾ-ン

:利活用配慮ゾ-ン

:環境配慮ゾ-ン

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7.3.3. モデル地区の整備計画図(全体計画図)

前項に示したゾーニング結果及び整備方針に基づき,具体的な整備計画イメージを整理した全体計画平面図および断面図を以下に示すとおり作成した。

(1) 全体計画平面図

海岸防災林グランドデザインでは,林帯の健全化が前提となるため基本的にすべての範囲について林帯の健全化を図る。その上で,機能強化ゾ-ンと

して設定した第 1 線堤から第 2 線堤の空間は,林帯として拡幅するとともに砂丘造成盛土が可能な箇所については砂丘造成盛土を実施し,整備方針に示

した機能を強化することとした。また,林帯後部の機能強化ゾ-ンについては,林帯幅を極力拡幅し,最低限 50m程度を確保するとともに,平面的な

林帯の連続性を高めかつ大径木化を図ることにより,後背部の保全対象について平常時の防災機能を高めることとした。なお,第 2 線堤以降の林帯健全

化については,すでに侵入が見られる広葉樹を主体にすることにより病虫害のリスク軽減も図る計画とした。

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(2) 全体計画断面図

計画平面図を基に,各断面(No.1~No.3)における現況と整備後のイメージを以下に示す。

●No.1 断面

【現 況】

【計 画】

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●No.2 断面

【現 況】

【計 画】

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●No.3 断面

【現 況】

【計 画】

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