8 グランドカノニカル・アンサンブルと相平8.2 ゆらぎ...
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8 グランドカノニカル・アンサンブルと相平衡
今までは粒子数が一定の系を考えてきたが,ここでは粒子の出
入りのある系を考える.粒子の出入りについて平衡になっている系
を記述するのはグランドカノニカル・アンサンブルである.エネル
ギーの定まらないカノニカル・アンサンブルを考えることでエネル
ギー一定のミクロカノニカル・アンサンブルよりいろいろな計算が
自由にできたのと同様に,粒子数の定まった系での分配関数の計算
が困難な場合でもグランドカノニカル・アンサンブルを使うと計算
可能になる場合がある.さらに,二つの相の平衡や化学反応など,
注目する系の粒子数が変化する場合には必須の記述法である.
8.1 グランドカノニカル・アンサンブルとグランドポテンシャル
[粒子の出入りと自由エネルギー最小の熱力学的条件]
温度一定の閉じた熱平衡系を二つに分けて考えよう.自由エネ
ルギーが最低になる条件は
F = F1(T, V1, N1) + F2(T, V2, N2) (1)
だから,体積変化に対して自由エネルギーが最小になる条件は
∂F
∂V1
∣∣∣∣∣T,V,N,N1
=∂F1(T, V1, N1)
∂V1+∂F2(T, V2, N2)
∂V1
=∂F1
∂V1
∣∣∣∣∣T,N1
− ∂F2
∂V2
∣∣∣∣∣T,N2
= 0 (2)
つまり
P1(T,N) = P2(T,N) (3)
粒子数変化に対して自由エネルギーが最小になる条件は
∂F
∂N1
∣∣∣∣∣T,V,N,V1
=∂F1(T, V1, N1)
∂N1+∂F2(T, V2, N2)
∂N1
=∂F1
∂N1
∣∣∣∣∣T,V1
− ∂F2
∂N2
∣∣∣∣∣T,V2
= 0 (4)
つまり
µ1(T, V ) = µ2(T, V ) (5)
39
熱平衡では開いた (粒子の出入りがある)部分系の化学ポテンシャ
ルが等しい.
化学ポテンシャルを
µ ≡ ∂F (T, V,N)
∂N
∣∣∣∣∣T,V
(6)
で定義する.G(T, P,N) = F (T, V (T, P,N), N) + PV (T, P,N)だ
から
∂G(T, P,N)
∂N
∣∣∣∣∣T,P
=∂F (T, V,N)
∂N
∣∣∣∣∣T,V
+∂V (T, P,N)
∂N
∣∣∣∣∣T,P
∂F (T, V,N)
∂V
∣∣∣∣∣T,N
+P∂V (T, P,N)
∂N
∣∣∣∣∣T,P
=∂F (T, V,N)
∂N
∣∣∣∣∣T,V
= µ (7)
同様にして
µ =∂U
∂N
∣∣∣∣∣S,V
=∂H
∂N
∣∣∣∣∣S,P
=∂F
∂N
∣∣∣∣∣T,V
=∂G
∂N
∣∣∣∣∣T,P
=G
N(8)
が導かれる.こうして,体積一定の開いた系の熱平衡状態は,温度
と化学ポテンシャルによって指定される.
[グランドカノニカル・アンサンブル]< 241 − 243 >
カノニカル・アンサンブルを使ってエネルギーの出入りの平衡
分布を導いたのと同様にして,粒子数の出入りについて平衡にある
系の分布を導く.大きな熱-粒子浴 (heat bath, particle reservoir)の
中の体積一定の部分系を考える.
E = ER + ES は一定であり,ER ES が満たされているとす
る.またN = NR + NS は一定であり,NR NS が満たされてい
るとする.統計力学の基本仮説に従うと,系 Sが粒子数NS,エネ
ルギーEiの微視的な状態 iにいる確率 pi,NSは iを指定したときの
熱浴の可能な状態数に比例する.
pi,NS∝ ΩR(ER, NR) = ΩR(E − Ei, N −NS) (9)
熱浴のエントロピーを展開すると
kB ln ΩR(E − Ei, N −NS) ≈ kB ln ΩR(E,N)
−kB∂ lnΩR(E,N)
∂EEi − kB
∂ ln ΩR(E,N)
∂NNS + · · ·
= kB ln ΩR(E,N) − 1
TR
Ei +µR
TR
NS + · · · (10)
40
これから
pi,NS∝ exp
(− Ei
kBTR+µRNS
kBTR
)(11)
となっていることがわかる.確率の規格化条件を考えて
グランドカノニカル分布 (grand canonical distribution): 系が粒子数N,エネルギーEiの微視的な状態 iにいる確率は
pgc i,N =e−β(E
(N)i −µN)
∞∑N=0
∞∑i=0
e−β(E(N)i −µN)
≡ e−β(E(N)i −µN)
Z(β, µ)(12)
古典力学では
ρgc(pν , qν , N) =exp [−β(H(N)(pν , qν) − µN)]
∞∑N=0
1
N !
∫d3Np d3Nq
(2πh)3Nexp [−β(H(N)(pν , qν) − µN)]
(13)
ここで粒子数がN である確率が
pgc N =∑
i
pgc i,N =eβµNZN
Z (14)
と書けることに注意しよう.
[最尤分布としてのグランドカノニカル・アンサンブル]< 243, 244 >
グランドカノニカル分布はエネルギーの平均値と粒子数の平均
値を指定したときの最も実現可能性の高い分布である.(証明はカ
ノニカル分布のとき 6.1と同様)
[グランドカノニカル分配関数とグランドカノニカル・ポテンシャ
ル]< 244 − 248 >
大 (グランドカノニカル)分配関数 (grand canonical partition
function)は次のように定義される.
Z(β, V, µ) =∞∑
N=0
∞∑i=0
e−β(E(N)i −µN) (15)
=∞∑
N=0
eβµN∞∑i=0
e−βE(N)i
=∞∑
N=0
eβµNZ(β, V,N) ≡∞∑
N=0
zNZ(β, V,N) (16)
41
z = eβµN を逃散能 (fugacity)とよぶ.この式はZ(β, V, µ)の zでの
Taylor展開の形をしている.
大分配関数からグランド (カノニカル)・ポテンシャル (grand po-
tential, grand canonical potential)を定義する.
Φ(β, V, µ) ≡ −kBT lnZ(β, V, µ) (17)
つまり
e−βΦ =∞∑
N=0
∞∑i=0
e−β(E(N)i −µN) (18)
エントロピーは分布関数の対数の平均値
S = 〈−kB ln ρ〉= −kB
∑N,i
pgc i,N ln pgc i,N
=∑N,i
pgc i,N (kBβ(Ei − µN) + kB lnZ)
= kBβ〈E〉 − kBβµ〈N〉 + kB lnZ (19)
他方,熱力学でヘルムホルツ自由エネルギーF (T, V,N)をルジャン
ドル変換Φ = F − µN して作った,T,V,N を自然な変数とする
熱力学ポテンシャルΦは
Φ(T, V, µ) = F − µN = F −G = U − TS − µN (20)
であるから,このΦは (17)と同じでものある.このことから
Φ = −PV (21)
(17)を各独立変数で微分すると
∂Φ
∂T
∣∣∣∣∣V,µ
= −kB lnZ +1
T
∞∑N=0
∞∑i=0
(µN − E(N)i )e−β(E
(N)i −µN)
∞∑N=0
∞∑i=0
e−β(E(N)i −µN)
= −kB lnZ +1
T(µ〈N〉 − 〈E〉) = −S (22)
同様にして
∂Φ
∂V
∣∣∣∣∣T,µ
=⟨∂E∂V
⟩= −P (23)
∂Φ
∂µ
∣∣∣∣∣T,V
= −〈N〉 (24)
42
これらが次の熱力学の関係式に対応する.
dΦ = −SdT − PdV −Ndµ (25)
[グランドカノニカル分布での理想気体]< 247, 248 >
大分配関数は 6.2の (31)を使って
Z(β, V, µ) =∞∑
N=0
eβµNZ(β, V,N)
=∞∑
N=0
eβµN 1
N !
(V
λ3T
)N
=∞∑
N=0
1
N !
(eβµV
λ3T
)N
= exp
(eβµV
λ3T
)(26)
ただし λT =√
2πh2/mkBT は T のみの関数である.これから
Φ(β, V, µ) = − 1
β
(eβµV
λ3T
)(27)
独立変数で微分して
N = −∂Φ∂µ
=eβµV
λ3T
(28)
P = −∂Φ∂V
=1
β
eβµ
λ3T
(29)
S = −∂Φ∂T
=eβµV
λ3T
(5
2kB − µ
T
)(30)
問題: この三つの式は何を表しているか?
[T − P 分布とギブス自由エネルギー]< 248, 249 >
カノニカル分配関数Z(β, V,N)の V についてのLaplace変換を
導入することもできる.
Ξ(β, P,N) =∫ ∞
0dV e−βPVZ(β, V,N) (31)
=∫ ∞
0dV
∞∑i=0
e−β(Ei(V,N)+PV ) (32)
=∫ ∞
0dV
∫ ∞
0dE g(E, V,N)e−β(E+PV ) (33)
これに対応する熱力学ポテンシャルはGibbs自由エネルギーである.
G(T, P,N) = −kBT ln Ξ(β, P,N) (34)
43
8.2 ゆらぎ
[粒子数とエネルギーの最頻値]< 249, 250 >
グランドカノニカル・アンサンブルで系がある粒子数とエネル
ギーをとる確率密度は
pgc(E,N) =1
Z(β, V, µ)gN(E)e−β(E−µN) (35)
と書ける.gN(E)は粒子数がN の時の状態密度である.大分配関
数は
Z(β, V, µ) =∞∑
N=0
∞∑i=0
e−β(Ei−µN)
=∞∑
N=0
∫ ∞
0dE gN(E)e−β(E−µN) (36)
エネルギーの最頻値E∗は
∂pgc
∂E
∣∣∣∣∣E=E∗
= 0 (37)
の条件から1
gN(E)
∂gN (E)
∂E
∣∣∣∣∣E=E∗
=1
kBT(38)
つまり∂S
∂E
∣∣∣∣∣E=E∗
=1
T(39)
同様に粒子数の最頻値N∗は
∂pgc
∂N
∣∣∣∣∣N=N∗
= 0 (40)
の条件から1
gN(E)
∂gN (E)
∂N
∣∣∣∣∣N=N∗
= − µ
kBT(41)
つまり∂S
∂N
∣∣∣∣∣N=N∗
= −µ
T(42)
(39)と (42)の式はエネルギーと粒子数の最頻値がミクロカノニカ
ル分布のものと等しいことを示している (したがってカノニカル分
布のものとも等しい).
[粒子数のゆらぎ]< 250 − 252 >
44
粒子数の平均値は先に求めたように
〈N〉 =1
Z(β, V, µ)
∑N,i
Ne−β(Ei−µN)
=∂
∂µ(kBT lnZ)
∣∣∣∣∣T,V
= −∂Φ∂µ
∣∣∣∣∣T,V
(43)
粒子数のゆらぎは
〈N2〉 =1
Z(β, V, µ)
∑N,i
N2e−β(Ei−µN) =1
β2
1
Z∂2
∂µ2Z∣∣∣∣∣T,V
(44)
を使って
〈(∆N)2〉 = 〈N2〉 − (〈N〉)2
=1
β2
1
Z∂2
∂µ2Z∣∣∣∣∣T,V
− 1
β
1
Z∂
∂µZ∣∣∣∣∣T,V
2
=1
β2
∂2
∂µ2lnZ
= − 1
β
∂2Φ
∂µ2
∣∣∣∣∣T,V
(45)
= kBT∂N
∂µ
∣∣∣∣∣T,V
(46)
これを少し書きかえてみよう.
∂µ
∂N
∣∣∣∣∣T
= v∂P
∂N
∣∣∣∣∣T
(47)
の関係を使って圧縮率
κ = − 1
V
∂V
∂P
∣∣∣∣∣T,N
= −∂ lnV
∂P
∣∣∣∣∣T,N
= −∂ lnn−1
∂P
∣∣∣∣∣T
=1
N
∂N
∂P
∣∣∣∣∣T,V
=V
N2
∂N
∂µ
∣∣∣∣∣T,V
(48)
で書くと √〈(∆N)2〉N
=
√kBT
Vκ (49)
圧縮率は体系の大きさにはよらないから√〈(∆N)2〉N
∝ 1√V
V →∞→ 0 (50)
となって,体系が大きくなると粒子数のゆらぎは相対的に無視でき
ることがわかる.大きい系を考える限り,ミクロカノニカル分布,
カノニカル分布,グランドカノニカル分布のどれもがまったく同じ
結果を与えるので,計算に便利なアンサンブルを考えればよい.
45
8.3 相平衡とギブスの相律
[相平衡の条件]< 50, 51 >
相 (phase)とは,たがいに接触しあいながら相互に平衡を保っ
て同時に存在することの出来る物質の一様な状態のことを言う.ま
た,温度や圧力の変化によって同一物質であっても対称性が異なる
状態となることがある.この対称性を異にするそれぞれの状態も相
と呼ぶ.たとえば,常磁性相と強磁性相,結晶構造の異なる固体相
などである.
孤立系の中で 2相が平衡にある条件をもとめよう.U = U (1) +
U (2),V = V (1) + V (2),N = N (1) + N (2)は保存量だから,2相の
あいだでのこれらの量のやり取りでは片方の増分は他方の減少とな
る.これらの量の関数であるエントロピー最大の条件は
dS = dS(1) + dS(2)
=1
T (1)dU (1) +
P (1)
T (1)dV (1) − µ(1)
T (1)dN (1) +
1
T (2)dU (2)
+P (2)
T (2)dV (2) − µ(2)
T (2)dN (2)
=(
1
T (1)− 1
T (2)
)dU (1) +
(P (1)
T (1)− P (2)
T (2)
)dV (1)
−(µ(1)
T (1)− µ(2)
T (2)
)dN (1) = 0 (51)
である.これより
T (1) = T (2) (52)
P (1) = P (2) (53)
µ(1) = µ(2) (54)
2相が平衡にあるための条件は両相の温度,圧力,化学ポテンシャルが等しいことである.
µ(1)(T, P ) = µ(2)(T, P ) (55)
同様に 3相の平衡では,3相の化学ポテンシャルが等しいことが
必要である.
µ(1)(T, P ) = µ(2)(T, P ) = µ(3)(T, P ) (56)
46
この条件は,温度,圧力を変数にして描いた相図 (phase diagram)
の上の一点でしか成立し得ない.この点を 3重点 (triple-point)と
呼ぶ.
[単純な物質の相図 (状態図)]< 67, 68 >
気体-液体-固体の転移などの 1次相転移 (first order transition:
または不連続転移)では潜熱 (latent heat)∆Qを発生 (あるいは吸収)
する.両相で化学ポテンシャル,つまりギブス自由エネルギーは等
しいが,エントロピーと体積にはとびがある.
圧力一定の変化だから,出入りした熱量はエンタルピーの変化
に等しい.一粒子あたりで書くと
∆q|P = (h2 − h1)|P (57)
これと µ一定の条件から (一粒子あたりの量で書いて)
(ε2 − ε1) − T (s2 − s1) + P (v2 − v1) = (h2 − h1) − T (s2 − s1) = 0
つまり
∆q = T∆s = ∆h (58)
潜熱はエンタルピーの変化であり,相転移の起こる温度T とエント
ロピー変化の積に等しい.
[クラウジウス-クラペイロンの式]< 65 − 67 >
平衡条件
µ(1)(T, P ) = µ(2)(T, P ) (59)
より,相境界に沿って温度と圧力の微小変化を考えれば
−s(1)dT + v(1)dP = −s(2)dT + v(2)dP (60)
47
ただし s,vは 1粒子あたりのエントロピーと体積である.これか
ら相境界にそっての温度と圧力の変化についてクラウジウス-クラ
ペイロンの式 (Clausius-Clapeyron equation)が成立する.
dP
dT=s(1) − s(2)
v(1) − v(2)(61)
相図の相境界の傾きが両相のエントロピーと体積のとびに関係して
いる.
[ギブスの相律]< 63, 64 >
多成分系の相平衡には自由度に制限がつく.µは T と P と第 k
成分の i番目の相の相対濃度 c(i)k の関数である.K種類の粒子があ
り,P 個の相からなる平衡にある系は,(T , P , c(1)1 , · · ·, c(P )
K の(2 +KP )個の示強変数があるが,
∑k c
(i)k = 1の P 個の条件がある
ので)独立な示強変数は (2 + (K − 1)P )個.相平衡の条件
µ
(1)1 = µ
(2)1 = · · · = µ
(P )1
· · ·· · ·
µ(1)K = µ
(2)K = · · · = µ
(P )K
(62)
はK(P − 1)個の連立方程式なので,系の平衡状態は
2 + (K − 1)P −K(P − 1) = K + 2 − P (63)
個の示強変数で決まる.これはギブスの相律 (Gibbs’ phase rule)と
呼ばれる.
f = K + 2 − P (64)
を熱力学的自由度と呼ぶ.
48
この式は成分数Kを与えたときの可能な共存相の数を制限する.
f は零または正だから
P ≤ K + 2 (65)
でなければならない.単成分系K = 1なら P ≤ 3,つまり三つの
相の共存が可能である.P = 3のとき自由度 f = 0,つまり 3相の
共存は 3重点一点のみ.2相の共存 P = 2ならば f = 1で相図の境
界は線となる.2成分系K = 2ならばP ≤ 4となり 4相が相図の上
の一点で共存することがありうる (相図は 3次元).単成分系と同様
に,多成分系でも共存相での独立な変数の数が決められる.
分配関数と熱力学ポテンシャルの対応
S(E, V,N) = kB ln (g(E, V,N)∆E)
F (T, V,N) = −kBT lnZ(T, V,N)
G(T, P,N) = −kBT lnΞ(T, P,N)
Φ(T, V, µ) = −kBT lnZ(T, V, µ)
49
8.4 マクスウェルの規則
1次相転移での 2相共存の条件に簡単な幾何学的意味がつけられる.
ファンデルワールス状態方程式を例に説明する.
Figure 4: マクスウェルの規則
[ファンデルワールスの状態方程式とマクスウェルの規則]< 68−70 >
体積 b 程度の硬い芯 (hard core)と 2体の短距離引力を持つ粒
子系の状態方程式はファンデルワールスの方程式としてモデル化さ
れる. (P +
(N
V
)2
a
)(V −Nb) = NkBT (66)
これから温度と体積の関数として圧力P (T, V )が決まる.温度T を
固定したとき,相転移点で気相 V1から液相 V2まで P (T, V )に沿っ
ていけば
U2 − U1 = T (S2 − S1) −∫ V2
V1
P (T, V )dV
= ∆Q−NkBT lnV2 −Nb
V1 −Nb−N2a
(1
V2
− 1
V1
)(67)
共存線に沿っていけば
U2 − U1 = ∆Q− P (V2 − V1) (68)
両者は等しいはずである.このことはP (T, V )曲線と共存線に囲ま
れた二つの部分の面積が等しいことを意味する.この条件でPcoexist
を決めることができる.これをマクスウェルの規則 (Maxwell’s rule,
Maxwell construction)と呼ぶ.
50
等面積の条件は
µ2 − µ1 =∫ 2
1vdP = 0 (69)
からもすぐに得られる.
[ファンデルワールスの状態方程式の臨界点]< 70, 71 >
液体と気体の相境界 (phase boundary)が消失する臨界点 (critical
point)は図からわかるように
∂P
∂V
∣∣∣∣∣Tc,Vc
= 0∂2P
∂V 2
∣∣∣∣∣Tc,Vc
= 0 (70)
の条件で決まる.ファンデルワールスの状態方程式で計算すると
Vc = 3Nb Tc =8a
27kBbPc =
a
27b2(71)
が得られる.臨界点で次の量は物質によらず普遍的な値をとること
がわかる.PcVc
NkBTc=
3
8(72)
さらに体積の単位として Vc,温度の単位として Vc,圧力の単位と
して VCをとり,v = V/Vc,t = T/Tc,p = P/Pc,とするととると,
状態方程式は次の普遍的な形にかける.(p+
3
v2
)(3v − 1) = 8t (73)
Figure 5: ファンデルワールス気体の PV 図
51
記号対照表物理量 講義ノート グライナー ランダウ 久保演習 長岡温度 T T T T T圧力 P p P p p
エントロピー S S S S S化学ポテンシャル µ µ µ µ µ内部エネルギー U,E U E U E状態密度 g (= dΣ/dE) g (= dΣ/dE) dΓ/dE Ω Ω状態数 Ω Ω (dΓ/dE)dE W W分配関数 Z Z Z Z Z
ヘルムホルツ自由エネルギー F F F F F大分配関数 Z Z Ξ Ξ
グランドポテンシャル Φ Φ, φ Ω JT -P 分配関数 Ξ Ξ Y
ギブス自由エネルギー G G Φ G G
52