(95) (96) - hitotsubashi university

97
第四号 2020 幎 6 月 刊行に寄せお山本和圊 (1) 【䞀橋ロヌレビュヌ第䞉号】掲茉論文に関するお詫びず蚂正(2) 論文 日本の少幎叞法の珟状ず少幎法適甚幎霢の匕き䞋げ䌊藀倏䜳 (4) 独立行政委員䌚の䞭立性ず独立性黒野将倧(28) コンプラむアンス・プログラムず法人凊眰吉田開(62) ゚ッセむ・コラム 刑事匁護の倉化をみる埌藀昭(81) コラム「囜際人暩法ず匁護士」小川哲史(89) 線集埌蚘(95) 執筆者・線集委員䞀芧(96)

Upload: others

Post on 11-Feb-2022

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: (95) (96) - Hitotsubashi University

第四号 2020 幎 6 月

刊行に寄せお山本和圊 (1)

【䞀橋ロヌレビュヌ第䞉号】掲茉論文に関するお詫びず蚂正(2)

論文

日本の少幎叞法の珟状ず少幎法適甚幎霢の匕き䞋げ䌊藀倏䜳 (4)

独立行政委員䌚の䞭立性ず独立性黒野将倧(28)

コンプラむアンス・プログラムず法人凊眰吉田開(62)

゚ッセむ・コラム

刑事匁護の倉化をみる埌藀昭(81)

コラム「囜際人暩法ず匁護士」小川哲史(89)

線集埌蚘(95)

執筆者・線集委員䞀芧(96)

Page 2: (95) (96) - Hitotsubashi University

1

第号の刊行に寄せお

この床䞀橋ロヌレビュヌ第号が刊行される運びずなりたした。

本号には修了生の論文に加えおわれわれの法科倧孊院の初代法科倧孊院長ずしお本孊

の教育に倧きく貢献された埌藀昭先生の゚ッセむ刑事匁護の倉化を芋る修了生の小

川哲史さんによる実務掻動の報告―囜際人暩法ず匁護士―が掲茉されおいたす。このロヌ

レビュヌが孊生の研究発衚の堎ずしおのみならず本孊の研究者や修了生の成果それ

はずりもなおさず本孊の教育の根源的な力や成果を瀺すものでもありたすを発信する媒

䜓ずなる可胜性を感じおおりたす。

今埌ずも継続刊行に向けおみなさたのお力添えをお願い申し䞊げたす。

なお、本号の刊行に぀いおは、䜆芋亮教授、角田矎穂子教授、線集委員である石井みよさ

ん、䌊藀倏䜳さん、吉田開さんのご尜力がありたした。蚘しお感謝したす。

2020幎6月

山本和圊

(䞀橋倧孊法科倧孊院長)

Page 3: (95) (96) - Hitotsubashi University

2

【䞀橋ロヌレビュヌ第䞉号】掲茉論文に関するお詫びず蚂正

2019 幎 3 月 13 日に発刊いたしたした『䞀橋ロヌレビュヌ第䞉号』

抌田育矎さん執筆論文『株䞻総䌚決議取消蚎蚟における䞊蚎匷制ず圓事者の地䜍―片面的

察䞖効ある類䌌必芁的共同蚎蚟の䞀䟋ずしお―』(P56~P83)にお線集委員の確認䞍足によ

り誀りがございたした。

執筆者の抌田育矎様読者の皆様ならびに関係者の皆様にご迷惑をおかけいたしたしたこ

ずを謹んでお詫び申し䞊げたす。

䞋蚘の通り蚂正させおいただきたす。

・58 頁蚻 5

(誀) Hellwing,Lehrbuch →(æ­£) Hellwig,Lehrbuch

・67 頁 2 行目~3 行目

(誀)改行抜け →(æ­£)䞀行挿入

・72 頁蚻 61

(誀)

前 掲 èš»   ④ 高 橋 論 文 50 頁 匕 甹 郚 分 。 Lent,Die notwendige und die besondere

Streigenossenschaft,Jherings Jahrbucher 90(1942)S.80ff.参照。なお小山説はこの Lent 説ずほが同様の

Schumann,Das Versaumen von Rechtsbehelfsfristemn duech einzelne notwendige Streiggenossen,ZZP

76(1963)S.381ff.に倚くを䟝っおいるようである。

↓

(æ­£)

前 掲 èš»   ④ 高 橋 論 文 50 頁 匕 甹 郚 分 。 Lent,Die notwendige und die besondere

Streitgenossenschaft,Jherings JahrbÃŒcher 90(1942)S.80ff.参照。なお小山説はこの Lent 説ずほが同様の

Schumann,Das VersÀumen von Rechtsbehelfsfristen durch einzelne notwendige Streitgenossen,ZZP

76(1963)S.381ff.に倚くを䟝っおいるようである。

Page 4: (95) (96) - Hitotsubashi University

3

・79 頁 Ⅲ31b「沿革的な芋地から、株䞻代衚蚎蚟ず䜏民蚎蚟以倖の蚎蚟では䞊蚎人の地

䜍を匷制するべきずする芋解」ず蚘茉された節䞭、以䞋の郚分。

(誀)

我が囜の䜏民蚎蚟ず株䞻代衚蚎蚟が゚クむティヌ䞊の救枈ずしお発展した玍皎者蚎蚟

taxpayers 枈ずしお発展し株䞻代衚蚎蚟shareholders お発展した玍皎者蚎蚟䜍を匷

制するべにそれぞれ期限を有するこず米囜の株䞻代衚蚎蚟が䌚瀟の暩利を蚎求する点で

集団だ衚蚎蚟class actionず区別されるものの共通の利害を有する倚数の者のうち人

が他の者を代衚しお蚎え埗るずいう点で共通の発想に基づくこず等から代衚蚎蚟ずしお

の性質を有する䜏民蚎蚟・株䞻代衚蚎蚟のみに劥圓する刀䟋法理であっおこのような沿革

䞊の背景を持たない株䞻総䌚決議取消蚎蚟には刀䟋の射皋は及ばないずする。

↓

(æ­£)

我が囜の䜏民蚎蚟ず株䞻代衚蚎蚟が゚クむティヌ䞊の救枈ずしお発展した玍皎者蚎蚟

taxpayers’ suit)株䞻代衚蚎蚟shareholders’ derivative suit)にそれぞれ起原を有

するこず米囜の株䞻代衚蚎蚟が䌚瀟の暩利を蚎求する点で集合団䜓蚎蚟class action)

ず区別されるものの共通の利害を有する倚数の者のうち 1 人が他の者を代衚しお蚎え埗る

ずいう点で共通の発想に基づくこず等から代衚蚎蚟ずしおの性質を有する䜏民蚎蚟・株䞻

代衚蚎蚟のみに劥圓する刀䟋法理であっおこのような沿革䞊の背景を持たない株䞻総䌚

決議取消蚎蚟には刀䟋の射皋は及ばないずする。

・81 頁 7 行目8 行目

(誀)改行抜け →(æ­£)䞀行挿入

正しい論文は䞀橋ロヌレビュヌ第䞉号からダりンロヌドしおいただけたす。

今埌このようなこずのないよう现心の泚意を払う所存でございたす。

今埌ずも『䞀橋ロヌレビュヌ』をどうぞよろしくお願い申し䞊げたす。

䞀橋ロヌレビュヌ線集委員䞀同

Page 5: (95) (96) - Hitotsubashi University

4

日本の少幎叞法の珟状ず少幎法適甚幎霢の匕き䞋げ

䞀橋倧孊法科倧孊院修了2019 幎 3 月䌊藀倏䜳

目次

Ⅰ はじめに

Ⅱ 少幎法の抂芁

Ⅲ 少幎法改正の抂芁

Ⅳ 適甚幎霢匕き䞋げの怜蚎

â…€ 適甚幎霢匕き䞋げに察する賛吊

Ⅵ おわりに

Ⅰ はじめに

平成 27(2015)幎 6 月「公職遞挙法等の䞀郚を改正する法埋」が成立・公垃され平成 28

幎 6 月 19 日斜行遞挙暩幎霢がこれたでの 20 歳以䞊から 18 歳以䞊に匕き䞋げられた。

同法は附則第 11 条においお民法明治 29 幎法埋第 89 号少幎法昭和 23 幎法埋第

168 号その他の法什の芏定に぀いおも怜蚎の䞊必芁な法制䞊の措眮を講ずるよう定めお

いる。これを受け法務省は民法の成幎幎霢を 18 歳ぞ匕き䞋げるこずを内容ずする民法改

正案を囜䌚ぞ提出し平成 30(2018)幎 6 月「民法の成幎幎霢を 20 歳から 18 歳に匕き䞋

げるこず等を内容ずする民法の䞀郚を改正する法埋」が成立什和 2 幎 4 月 1 日から斜行

した。

少幎幎霢の 18 歳未満ぞの匕き䞋げに぀いおは法務省は法務倧臣の諮問に先立っお「若

幎者に察する刑事法制の圚り方に関する勉匷䌚」を立ち䞊げ法分野の実務経隓者や研究者

のほか瀟䌚犏祉教育医療等の関係分野の実務経隓者や研究者犯眪被害者報道関

係者等からのヒアリングを実斜するなど調査及び怜蚎を行っおいる。これは法務省刑事局

矯正局及び保護局が法務倧臣の指瀺により公職遞挙法等の䞀郚を改正する法埋附則第 11

条の趣旚及び成幎幎霢に぀いおの怜蚎状況を螏たえ少幎法の適甚察象幎霢を含む若幎者

に察する刑事法制の圚り方党般に぀いお怜蚎を行うために実斜された。同勉匷䌚の結果を

螏たえ法務倧臣は平成 29(2017)幎 2 月少幎法の適甚幎霢を 18 歳未満に匕き䞋げるこ

ず等に぀いお法制審議䌚に諮問した。珟圚この諮問を受け法制審議䌚の「少幎法・刑

事法少幎幎霢・犯眪者凊遇関係郚䌚」においお怜蚎が行われおいる。

本皿は少幎法の適甚幎霢匕き䞋げをめぐる議論に぀いお賛成・反察䞡方の意芋を玹介

し論点の敎理を行い考察するものである。

Page 6: (95) (96) - Hitotsubashi University

5

Ⅱ 少幎法の抂芁

1 少幎法ずは

(1) 旧少幎法の特城ず少幎法制定の経緯

「同じ眪を犯した者でも犯眪者の幎霢や環境を考慮しおその者にもっずもふさわしい

凊遇手段を講じるこずが具䜓的正矩に適うものである」1ずいう考えから少幎法は 20 侖简

前半に生たれた。

䟋えばスりェヌデンの児童犏祉の先駆者゚レン・ケむは 1899 幎に「20 䞖玀は児童の䞖

玀である」2ず著曞「児童の䞖玀」の䞭で宣蚀したのであるがちょうどこの幎にアメリカ

のむリノむ州シカゎにおいお䞖界で初めお少幎裁刀所が誕生した。これず同時に制定され

た少幎法は「『扶助を芁する少幎攟任されおいる少幎および非行のある少幎の取扱ず制

埡を芏制する法埋』ずしお制定され保護凊分の内容を教育ず犏祉であるずしアメリカに

おける少幎裁刀所運動のその埌の指暙」3ずなった。

たた今日の少幎法制においおもっずも進歩した法制を実斜しおいるずいわれるデンマ

ヌクの少幎法は 1905 幎にむギリスは 1908 幎に「児童法」を制定し次いで 1912 幎に

フランスベルギヌさらに 1918 幎にはスペむンにおいおも少幎裁刀所法が制定された。

このような少幎法の成立の動きは「アメリカの法孊者ロスコヌ・パりンドが『少幎法の制

定はマグナカルタが眲名されお以来の叞法領域における最倧の進展である』ず衚珟しおい

るように少幎法の制定は䌝統的な叞法(Individualized Justice)の原則を宣明」〔原文ママ〕

4した点で革新的な内容を持぀ものであった。

我が囜においお少幎を成人ず区別しお凊遇する斜策が法制化したのは1900 幎の感化法

の制定にはじたる。それ以前は明治 5 幎の監獄制によっおいたがここでは未成幎ずいえ

ども成人ず等しく扱われ凊眰の察象ずしお懲治監に収容されおいた。しかし1880 幎制

定の旧刑法では16 歳未満の者ず16 歳以䞊の者および 16 歳以䞊 20 歳未満で初犯の者

ず再犯以䞊の者ずを区別しお監房を異にし非行が広たるこずを予防するに至った。その埌

1890 幎の改正を経お 1900 幎の感化法の制定に至るが「極めお消極的な恀救じゅっきゅ

う芏則きそく5に察しおさえ党然改正の意思なき政府圓局が䜕故進んで感化法を

1 菊田幞䞀(1979)「珟代少幎法論(侀)」『法埋論叢』第 52 号 4 頁 2 Ellen Karolina Sofia Key (1979)小野寺信・小野寺癟合子翻蚳『児童の䞖玀』冚山房癟科文庫 3 菊田幞䞀(2013)『抂説 少幎法』明石曞店 17 頁 4 菊田・前掲泚(3) 16 頁 5 身寄りがなく高霢幌少疟病障害により生産掻動に埓事できない極貧の者に米を絊䞎するずいう

内容。血瞁的な助け合いの粟神を基本ずしそれに頌るこずができない者を限定的に救枈する制床。珟

圚の生掻保護。

Page 7: (95) (96) - Hitotsubashi University

6

制定するに至ったか」6が極めお重芁である。吉田(1971)によればその理由は二぀ある7。

第䞀に我が囜においおも産業革呜の進行に䌎う蟲村経枈の砎壊ず疲匊人口の郜垂集

䞭によるスラムの圢成ず道埳の䜎䞋および児童の劎働の䞀般化により非行児童および少

幎の問題を含めお児童保護の問題が瀟䌚問題化したこずが指摘されおいる。ずりわけ明治

時代においおは維新埌の急激な瀟䌚の倉革・囜策ずしお匷行された殖産興業ずいう囜家的

産業革呜ず富囜匷兵政策は教育制床だけでは芆いきれない児童問題を孕んでいた。特に日

枅戊争がもたらした囜民の経枈的窮乏化は貧児や浮浪児非行児童の増加を招いた。このよ

うな事態を受けお児童の収容方法を工倫するずいった児童に察する政策は児童に察する

教育ずいうよりむしろ治安悪化の防止を目的に行われた偎面がある。

第二に懲治堎における応報刑䞻矩による刑眰懲治の凊遇の効果があがらないこずが発

芚し感化事業の必芁性を説く人が倚く衚れたこずも理由ずしお挙げられる8。それず同時

に民間による感化事業が開始されたこずも倧きく圱響した。そこで「感化法」が 1900 幎

に制定されここにいわゆる「䞍良少幎」に察する懲眰䞻矩思想に代わっお「教育保護の

思想」が実珟した。しかしそれでも埓来の懲治監制床は改められず実際の少幎保護は埓

来の懲治堎で䟝然ずしお行われおいた。本栌的な感化院時代が始たったのは1908 幎の第

䞀次感化法改正以降においおでありこの時懲治堎留眮に関する芏定は削陀され新刑法 41

条は「14 歳ニ満タサル者ノ行為ハ之ヲ眰セス」ず定めた。その埌䞍良少幎の増加に察し

この感化法を手ぬるいずしお感化法䞭の芪暩の問題は叞法凊分たるべきだずの意芋が出

お来た。それを受けお1922 幎叞法省はこれたで審議しおきた結果を少幎審刀法案以

䞋「旧少幎法」ず衚蚘ずしお公衚した。

柀登(1994)によれば旧少幎法の䞻な特城は以䞋の四぀である9。

① 少幎の刑事事件に぀いおは刑眰をもっお臚むが教育改善の点より刑法刑事手続

きおよび行刑に倚くの特則を蚭ける。

② 刑眰はやむをえない堎合のみずし原則ずしお保護凊分優先にし九皮類蚓戒孊

校長蚓戒曞面誓玄保護者匕枡保護団䜓委蚗保護叞芳察感化院送臎矯正院

送臎および病院送臎の保護凊分を蚭眮する。

③ 保護凊分は眪を犯した少幎だけではなく眪を犯すおそれのある少幎も察象ずする。

④ 埓来の感化法䞋では保護凊分は玔然たる行政凊分であったが叞法的機胜ずケヌス・

ワヌク的機胜を兌ねた少幎審刀所を叞法機関のなかに蚭ける。

旧少幎法の制定により埓来感化法のもずで保護されおいた少幎の䞀郚は少幎法の保護

6 菊田・前掲泚(3) 24 頁 7 吉田久䞀(1971)『昭和瀟䌚事業史』ミネルノァ曞房 20 頁-21 頁 8 菊田幞䞀 (1974)『少幎救護-法理ず実際-』成文堂 5 頁-6 頁 9 柀登俊雄 (2011)『少幎法入門[第五版]』有斐閣ブックス 246 頁

Page 8: (95) (96) - Hitotsubashi University

7

凊分を受けるこずずなったが犯眪少幎ず虞犯少幎10を陀くその他の保護を芁する少幎は埓

来どおり感化法により保護された。぀たり非行を行った未成幎に察する法埋には圓時

旧少幎法ず感化法の二぀が存圚しおいたのである。さらに1930 幎頃より䞖界的䞍況ず感

化院収容児童の増加に察凊するため感化法改正運動が展開され1933 幎に少幎教護法が

公垃された。同法は埓来の感化院を少幎教護院ず呌ぶこずずし教護院内に少幎鑑別所を蚭

け収容保護のほかに芳察保護および委蚗保護の制床を加えるこずずなった。その結果少

幎保護凊分ずの差はなくなり察象者の幎霢を「14 歳未満の者」ずする新たな取扱い区分

が蚭けられた。これは改正埌の珟行少幎法の幎霢区分にも適甚されおいるが旧少幎法ず感

化法の二本立お制床の運営は困難を極めたため感化事業および少幎保護立法の䞀元化を

求める運動が掻発化しおいった。

敗戊を契機ずしお少幎保護事業は倧きな転機を迎え叞法省は GHQ の指導のもずで少幎

法の制定に着手し旧少幎法矯正院法は新少幎法新少幎院法犯眪者予防曎生法などに

匕き継がれるこずずなった。珟行少幎法は 1948 幎に公垃され新憲法䞋におけるアメリカ

の匷い圱響力のもずで米囜暙準少幎裁刀所法を暡範ずしお制定された。それは旧少幎法の

䞀郚改正ではなく党くの新立法であった。

(2) 少幎法の目的

少幎法は「少幎の健党な育成を期し非行のある少幎に察しお性栌の矯正及び環境の調

敎に関する保護凊分を行うずずもに正念の刑事事件に぀いお特別の措眮を講ずるこず」を

その目的ずしお掲げおいる少幎法第 1 条。刑事蚎蚟法昭和 23 幎法埋第 131 号が「公

共の犏祉の維持ず個人の基本的人暩の保障ずを党うし぀぀事案の真盞を明らかにし刑眰

法什を適正䞔぀迅速に適甚実珟するこず」を目的ずしおいるのに察し刑事蚎蚟法第 1 条

少幎法では少幎自身に関わる事柄に関心が向けられおいる11。それず察立しうる「公共の

犏祉の維持」ずいった事柄に぀いお盎接的な蚀及がみられないこずが倧きな特城である。

2 少幎法の特城

新少幎法珟行少幎法の特城は以䞋の通りである12。

① 少幎に察する保護凊分の決定は裁刀所がこれをするものずしそのための機関ずしお

埓来の行政機関であった少幎審刀所に代わり家庭裁刀所を新しく蚭眮する。

② 旧少幎法では怜察官が起蚎するか吊かを決定し公蚎を提起せず保護凊分を必芁ずす

10 犯眪を犯しおはいないが少幎法で芏定する䞀定の䞍良行状がありその性栌たたは環境に照らしお将

来眪を犯す虞(おそ)れがある 20 歳未満の少幎。 11 歊内謙治(2015)『少幎法講矩』日本評論瀟 8 頁 12 柀登・前掲泚(9) 247 頁

Page 9: (95) (96) - Hitotsubashi University

8

る者のみを少幎審刀所で審刀したのに察し家庭裁刀所が先議暩を持぀保護凊分先

議䞻矩の導入)。

③ 少幎の幎霢を埓来の 18 歳から 20 歳たで匕き䞊げる。

④ 旧少幎法においおは九皮類の保護凊分であったがこれを新法では(ⅰ)保護芳察

(ⅱ)教護院珟・児童自立支揎斜蚭・逊護斜蚭珟・児童逊護斜蚭(ⅲ) 少幎院送

臎の䞉皮類に限定する。

â‘€ 少幎事件の調査に家庭裁刀所調査官制床を蚭け心身鑑別のための少幎鑑別所を蚭立

する。

⑥ 少幎審刀所においお認められおいなかった䞍服申立制床ずしおの抗告暩を認める。

⑩ 少幎の犏祉を害する成人の刑事事件に察する裁刀暩に぀いお特別の措眮を講ずる13。

以䞊が新少幎法の䞻な特城でありこれらが少幎法の基本構造の倧きな転換点ずなった。

次にその䞭で最も倧きな倉革である家庭裁刀所の蚭立ず憲法ずの関係に蚀及する。

本来少幎の保護凊分は行政凊分であり少幎審刀所で凊分するこずに問題はない。しか

し新憲法が䞉暩分立を根幹ずした結果叞法省ず裁刀所は分離するにいたった。そのため

少幎審刀所は叞法省管蜄ずなったが保護凊分は行政凊分であるから裁刀所に移るこずは

新憲法䞊からは圓然のこずずされた。しかし保護凊分は行政凊分であるから裁刀所ぞ移る

こずは䞉暩分立の原則からみおも必ずしも圓然ずは蚀えないずの批刀がある。

その䞀方で少幎に察する保護凊分はいわゆる刑事凊分ずは異なるものであり本来は叞

法的刀断になじたないものである。それにも関わらず少幎の扱いは感化法䞋における行政

凊分ずしおの保護凊分から叞法的機胜を備えた少幎審刀所ぞそしおさらに家庭裁刀所ぞ

ず埐々に叞法的扱いに近づいおいる。぀たり新少幎法の扱う保護凊分は身䜓の拘束を䌎

う少幎院送臎決定暩を有する以䞊実質的に刑眰ず異なるものではないずいうこずを認め

ざるを埗ない。それず同時に「他方ではひろい意味での保安凊分の䞀皮ずしおの保護凊分

であるずの芋方を捚お切れないずいう矛盟を有しおいる」14ずいうこずも認識しなければな

らない。蚀い換えれば「日本の少幎保護法制は旧西ドむツず同じく二本建お制を採甚

しおおりアメリカの瀟䌚政策的色圩の匷いものず異なる」15ず考えられる。この根底には

前述したように少幎審刀所・少幎裁刀所ず児童盞談所の措眮ずいう少幎を扱う機関の二元

的機構が倧きく圱響しおいる。菊田(2013)は「ほんらい刑務所を管蜄する法務省が少幎院

をも管蜄したずころに少幎法のも぀矛盟が結果した」16ず指摘しおいるがこのような芋方

13 少幎法 37 条珟圚は削陀されおいる。その理由ずしおは䞀人の被告人の刑事事件が地方裁刀所ず家

庭裁刀所に分属する結果ずしお刑が重すぎる䟋軜すぎる䟋重い刑の事件が二重起蚎ずなる䟋など

が発生したためだず考えられおいる。 14 菊田・前掲泚(3) 30 頁 15 円井正倫(1970)『非行少幎に察する保護凊分ず刑事凊分-家庭裁刀所の諞問題(例)-』法曹界 46 頁 16 菊田・前掲泚(3) 30 頁

Page 10: (95) (96) - Hitotsubashi University

9

に察しおは批刀的な立堎もある17。それは少幎法の状況が「刑事法的なものず埌芋的なも

のずの結合叞法的な機胜ず犏祉的な機胜ずの劥協調和の䞭に芋出される」18ずする考え方

にたち「『叞法による犏祉』から『叞法における犏祉』ぞさらに進んで䞡者を止揚統合し

た『叞法犏祉』こそ䞡者のあるべき姿ずいうべきであろう」19ずいう考え方に基づいおいる。

珟行少幎法は前述の通り保護・教育䞻矩を宣蚀しおおり少幎保護手続ず刑事手続の

遞別を家裁が行う家裁先議䞻矩・家裁䞭心䞻矩がずられこれを党暩送臎によっお担保しお

いる。たた科孊調査を充実させる趣旚で家裁調査官制床少幎鑑別所を぀くり詊隓芳

察制床を蚭けこずに加え刑の枛軜や資栌制限の緩和・陀倖なども取り入れお瀟䌚埩垰を促

進する犏祉法的な色圩の匷い制床を構築しおきた。これらに鑑みるず珟行少幎法には犏祉

的機胜はわずかに残存しおいるにすぎないずいう菊田の指摘は適切ではない。

しかし日本の少幎法が成立圓初想定しおいた「保護理念」を少幎法の䞭心に眮き続ける

こずは極めお困難な状況にある。次章で述べる少幎法改正の流れからも分かるように床重

なる少幎法の改正は「山圢マット死事件」や「酒鬌薔薇事件」をはじめずする重倧事件が議

論のきっかけずなっおきた。たた埌述する政府実斜の「少幎非行に関する䞖論調査」にお

いおも成幎ず同様の犯眪を犯したにもかかわらず取り扱いに差があるこずぞの「䞍公平

感」を解消できるずしお䞀連の改正や適甚幎霢匕き䞋げによる「厳眰化」に察しお賛成の

声は倚く日本には根匷い「厳眰化思想」が存圚しおいるずいっおよい。これは少幎法が

定める掚知報道の犁止(少幎法第 61 条)が適切ではないずしおむンタヌネット䞊で少幎の

氏名・䜏所など個人情報を暎露する「私刑」が暪行しおいるこずからも掚枬できる。

今日の日本における少幎法制の最倧の課題はいかにしお「叞法犏祉」を維持拡倧するか

ずいうものである。しかし少幎の未熟さや可塑性少幎が犯眪を犯しおしたう背景に朜む

貧困や芪による虐埅などの環境に぀いおの議論が囜民の間で深たらないたた重倧な少幎

事件の発生ず厳眰を求める䞖論に半ば埌抌しされる圢で少幎法の改正は行われおきたずい

える。このこずからも4 床の改正を経た珟行少幎法が犏祉法的な偎面を䞻たる目的ずしお

重きを眮いおいるかは疑問が残るずいわざるをえない。

以䞊を螏たえお考えるず珟行少幎法には成立圓初から犏祉法的な偎面は僅かにしか残

存しおいないずする菊田の䞻匵は適切ではないが床重なる改正を経お適甚幎霢匕き䞋げ

を少幎法改正の集倧成ずするかのような議論が進められおいる今菊田が圓初から指摘し

おきた少幎法の「悲芳的な運呜」20はいよいよ珟実のものずなろうしおいるのではないか。

17 兌頭吉垂(1973)「少幎保護における叞法機関ず犏祉機関」『刑法雑誌』19 å·» 3・4 号 138 頁 18 森田宗䞀(1960)『少幎保護の基瀎理念』立花曞房 5 頁 19 兌頭・前掲泚(17) 172 頁 20 菊田・前掲泚(3) 30 頁

Page 11: (95) (96) - Hitotsubashi University

10

Ⅲ 少幎法改正の抂芁

1 少幎法改正の背景

新少幎法が旧少幎法ず倧きく異なる点は怜察官が埓来少幎事件に぀いお有しおいた暩

限が倧きく制限された点である。旧法では犯眪の嫌疑を受けた者が 18 歳未満の堎合た

ず怜察官が公蚎を提起するかどうかを決定し公蚎提起の必芁がないず認めた堎合でしか

も保護凊分が盞圓ず刀断したずきに限り事件を少幎審刀所に送臎するこずになっおいた。

しかし新少幎法で「少幎に察する保護凊分の決定は裁刀所がこれをするものずしそのた

めの機関ずしお埓来の行政機関であった少幎審刀所に代わり家庭裁刀所を新しく蚭眮する」

ずいう「裁刀所先議」の考え方が明蚘され怜察官の暩限が倧きく制限された。これに察し

お法務行政に絶倧な暩力を持぀怜察庁の芁請により法制審議䌚は新少幎法の運甚の圚り

方新少幎法の改正の是非に぀いお 7 幎にわたっお審議を行った。そしお1997 幎 6 月 29

日法制審議䌚は新少幎法の基本構造を倉えない範囲内で改善される必芁のある事項を

指摘するずいう内容の「䞭間報告」をたずめお法務倧臣に答申した。

この「䞭間答申」は 4 ぀の柱から構成されおいる。

第䞀に少幎の暩利保障の匷化および䞀定の限床内における怜察官関䞎の䞡面から珟行

少幎審刀手続きの改善を図るこず第二に18 歳以䞊の幎長少幎青幎の事件に぀いお

は少幎審刀の手続き䞊 18 歳未満の䞭間・幎少少幎14 歳18 æ­³)ずはある皋床異なる特

別な扱いをするこず第䞉に䞀定の限床内で捜査機関による䞍送臎を認めるこずそしお

第四に保護凊分の倚様化および匟力化を図る事である。

その埌1998 幎に法制審議䌚によっお「少幎審刀の事実認定手続き適正化」を目的ず

しお法務倧臣に答申が行われた。

この動きず共に2000 幎の少幎法改正の倧きな芁因ずなった少幎による二぀の事件があ

る。それは「山圢マット死事件」ず「神戞・小孊生連続殺傷事件」である。

前者は山圢県新庄垂の䞭孊生児玉有平君圓時 13 歳の遺䜓が圌の通う䞭孊校の䜓

育通の甚具宀でマットに頭からさかさたに埋たっおいる状態で発芋されたずいうもので

ある。この事件により少幎法がもずより事実認定を最優先しおいないずいう臎呜的な欠陥

があるずいうこずが突き付けられた。なぜなら成人の刑事裁刀であれば地裁で生じた事実

関係の争いは最終的に最高裁で䞀぀に集玄されるがこの事件は少幎たちが党員 16 歳未

満であったため怜察官送臎を行うこずが出来ず刑事裁刀の流れに乗せるこずが出来なか

った。そのためこの事件の少幎審刀では自癜の信甚性やアリバむの有無が争点になっお

いたが怜察官が存圚しない審刀のもずで裁刀官が正確な事実認定をするこずは困難を極

めその埌の民事蚎蚟で結論が二転䞉転する事態ずなった。その結果非行事実の認定が難

しい事件に぀いおは怜察官に審刀関䞎させるのが適圓ずする提蚀が裁刀官偎からも出お

Page 12: (95) (96) - Hitotsubashi University

11

くるようになった21。

埌者は「酒鬌薔薇聖斗」を名乗る䞭孊䞉幎の少幎が起こした事件で神戞家裁は少幎に

成人の反瀟䌚性パヌ゜ナリティ障害に盞圓する行為障害があるずいう粟神鑑定の結果等を

考慮しお少幎に医療少幎院送臎を蚀枡した。この事件によっおそれたでにも䜕床も蚀わ

れおきた少幎法改正論議が䞀気に再燃するこずになった。なぜならこの少幎は犯行時に刑

法䞊では刑事責任を問える 14 歳であり圓時行われた粟神鑑定においお完党な責任胜力が

認められおいたにもかかわらず、圓時の少幎法は逆送可胜幎霢を行為時 16 歳以䞊ずしおい

たため、制床䞊逆送が出来なかったからである。そのためこの少幎は凶悪な犯眪を犯した

にも関わらず刑事眰を科すこずが出来なかったこずから少幎法は珟圚の少幎犯眪の状況

にそぐわないので幎霢匕き䞋げ等の刑眰匷化を芖野に入れた少幎法改正を怜蚎するべき

だずいうような意芋が倚く唱えられるようになった。

2 平成 12(2000)幎改正

(1) 改正の流れ

自由民䞻党を䞭心に䞊蚘のような議論を経お少幎法の刑眰適甚範囲を拡倧する改正の

必芁性が匷く䞻匵され議員立法ずしお囜䌚に提出するこずが図られた。この議員立法提案

の䞭に1999 幎に廃案になった「少幎法等の䞀郚を改正する法埋案」第䞀次の内容を取

り蟌む方向で怜蚎が進められその結果第二次の「少幎法等の䞀郚を改正する法埋案」が

2000 幎 9 月 29 日議員立法ずしお囜䌚に䞊皋された。そしお同幎 11 月 28 日䞡院でこ

の法案は可決され成立した。

(2) 改正内容

このようにしお成立した「平成 12(2000)幎改正法」は前述したように刑眰適甚範囲

を拡倧する方向の改正ず審刀手続きを改善する方向の改正の 2 ぀の面を含んでいる。

第䞀の改正点は刑眰的甚範囲を拡倧する方向の改正すなわち少幎法における幎霢区

分の芋盎しである。平成 12(2000)幎の改正では少幎法の適甚幎霢を 20 歳未満から 18 æ­³

未満に匕き䞋げるこずは芋送られ刑眰適甚幎霢を 16 歳以䞊から 14 歳以䞊(41 条)に匕き

䞋げるに止めた。おそらく少幎法適甚幎霢の䞊限の匕き䞋げは成人幎霢を 20 歳から 18

歳に匕き䞋げる法制床党䜓の芋盎しず連動する問題であるこずから審議に時間がかかる

こずが懞念され芋送られたず考えられる。刑眰適甚幎霢の匕き䞋げは14 歳・15 歳の幎

少少幎の犯眪事件も怜察官に送臎し刑眰を科すこずができるようにするこずだがその刑

眰ずしおは懲圹たたは犁錮が想定されおいる。それを螏たえるず珟圚の少幎刑務所の凊遇

21 南山倧孊法埋孊研究䌚(2001)『改正少幎法に぀いお』7 頁

Page 13: (95) (96) - Hitotsubashi University

12

䜓制からみお「矩務教育幎霢の少幎に十分な教科教育を斜すこずは困難でありか぀刑務

䜜業を匷化できるかの問題もあり刑の執行には皮々の困難が䌎う」22こずになる。そこで

平成 12(2000)幎改正法は懲圹たたは犁錮の蚀枡しを受けた少幎を 16 歳に達するたで少幎

院に収容しお「矯正教育」を受けさせるこずができるようにした。

第二の改正点は重倧事件を犯した少幎に察する凊遇の圚り方を芋盎そうずするもので

ある。改正埌は16 歳以䞊の少幎が故意の犯眪行為によっお被害者を死亡させた事件に぀

いおは原則ずしお怜察官に送臎する23こずが裁刀官に矩務付けられた。さらに18 歳未満

の少幎の無期刑は10 幎以䞊 15 幎以䞋の有期刑に軜枛されるずいうこれたでの芏定を改

めその刀断を裁刀官に委ねた。たた死刑を軜枛しお無期刑にした際24の仮釈攟可胜期間

を成人䞊みに䌞ばすなど刑眰匷化の意図が明確に衚明されおいる。

3 平成 19(2007)幎改正

(1) 改正の背景

「平成 12(2000)幎改正法」に関する囜䌚の審議は柀登(2011)によれば改正点の重倧さ

を考慮するず十分審議されたずは思えない点もかなりある25ずいう。このこずを考慮しお

「平成 12(2000)幎改正法」は斜行から 5 幎埌の芋盎しを附則に明蚘した。実際の平成

17(2005)幎の答申では「少幎の保護手続きに係る調査手続きの敎備に぀いお」ず題しお以䞋

の 3 点が答申された。

① 觊法少幎・虞犯少幎に係る事件の調査

② 14 歳未満の少幎の保護凊分の芋盎し

③ 保護芳察における指導を䞀局効果的にするための措眮

以䞊が答申の䞻な内容であるがこの 3 ぀の基本項目は平成 15(2003)幎 12 月青少幎

育成掚進本郚が䜜成し公衚した「青少幎育成斜策倧綱」の䞭で芋盎しの必芁性が指摘され

おいたものである。この答申は条文化され「少幎法等の䞀郚を改正する法埋案」ずしお平

成 17(2005)幎 3 月 1 日に囜䌚に䞊皋された。しかしこの答申の内容は「すべお実務䞊の

必芁性から芁請されたものであり理論的な怜蚎が埌回しになった」26ず蚀われおおり今

埌の少幎法の圚り方に関しおの課題が浮き圫りになった。その課題ずは14 歳未満の非行

22 柀登・前掲泚(9) 253 頁 23 少幎法 20 条䜆し曞きにおいお䟋倖が蚭けられおいる。

「  (äž­ç•¥)ただし調査の結果犯行の動機及び態様犯行埌の情況少幎の性栌幎霢行状及び

環境その他の事情を考慮し刑事凊分以倖の措眮を盞圓ず認めるずきはこの限りでない。」 24 眪を犯すずき 18 歳未満に満たない者に察しおは死刑をもっお断ずべきずきは無期刑を科する(51

条 2 項)。 25 柀登・前掲泚(9) 255 頁 26 柀登・前掲泚(9) 257 頁

Page 14: (95) (96) - Hitotsubashi University

13

少幎に察する児童盞談所先議および犏祉機関による凊遇優先の建前は維持されたものの

その実質を確保するためには倚倧な努力が必芁だずいう珟実的な課題である。

(2) 改正内容

䞊蚘の平成 17(2005)幎に出された答申は平成 17(2005)幎 3 月 1 日に囜䌚に提出された

が衆議院の解散で廃案ずなり平成 19(2007)幎 5 月に衆議院での修正を経お成立した。

これによる改正点は以䞋の 4 点である。

① 「觊法少幎」の事件に察する譊察の調査暩を認める。

② 家庭裁刀所は決定時 14 歳未満の少幎に係る事件に぀いおは特に必芁ず認める堎

合に限り少幎院送臎の保護凊分をするこずができる。

③ 家庭裁刀所は保護芳察の凊分を受けたものがその保護凊分によっおは本人の改善

および構成を図るこずができないず認められるずきは決定をもっお児童自立支揎

斜蚭等送臎たたは少幎院送臎の保護凊分をしなければならない。

④ 家庭裁刀所は䞀定の重倧犯眪に係る犯眪少幎たたは觊法少幎の事件の審刀に぀い

お必芁があるず認められるずきは匁護士である付添人を付けるこずが出来る。

柀登(2011)によればこの「平成 19(2007)幎改正法」により觊法少幎の事件に察する譊

察の調査暩が法定された䞊に必芁に応じお抌収捜玢などの匷制調査を行う暩限が法定さ

れたこずに関しお危機感が広がっおいる27ずいう。たた調査の結果觊法行為の重倧性

やその他の理由で家庭裁刀所の審刀に付すのが適圓だず譊察が刀断したずきはその事件

を児童盞談所長に「通告」ではなく「送臎」するものずし送臎を受けた児童盞談所は原

則ずしおその觊法事件を家庭裁刀所に送臎すべきものずされこの点が特に問題芖されお

いる。1948 幎に誕生した新少幎法は培底した「裁刀所先議」の芋地から觊法少幎14

歳以䞋で刑法に抵觊する犯眪を犯した少幎に関しおもたず家裁に送臎させた埌家裁から

の送臎を受けお児童盞談所が関䞎するシステムになっおいたが1949 幎改正によっお「児

童犏祉機関先議」に転換し觊法少幎はたず児童盞談所に送臎され家庭裁刀所は児童盞談

所から送臎をうけないかぎり觊法事件には関䞎できないずいう「児童犏祉優先」が確立さ

れた。これに察しお「平成 19(2007)幎改正法」が目指した「児童盞談所の家庭裁刀所ぞの

原則送臎の矩務化」はこの「児童犏祉機関先議」にもずづく「児童犏祉優先」の原則に関

しお重倧事件ずいう限定付きで実質的な「裁刀所先議」の方向ぞ再転換したものであっ

た。このこずによりこれたで珟行少幎法の基本原理であった 14 歳未満の非行に察する「児

童犏祉先議」の厩壊が危惧されおいる。しかし珟実の問題ずしお14 歳未満の非行少幎

に察する児童犏祉機関の凊遇胜力は人的・物的䞡面においお十分ずいえずかなりの郚分

を叞法機関に委ねざるを埗ない郚分もある。よっお「叞法ず犏祉ずの乖離を防ぐためには

27 柀登・前掲泚(9) 260 頁

Page 15: (95) (96) - Hitotsubashi University

14

児童犏祉機関の凊遇胜力の倧幅な増匷が䞍可欠」28であるず考えられる。぀たり少幎院の

収容幎霢匕き䞋げは長厎事件29・䜐䞖保事件30の少幎・少女のように「非行の䜎幎霢化」

が殺人ずいう重倧犯眪に぀いお顕圚化し関連する法敎備がただちに必芁ずなったこずで

(äž­ç•¥)䟋倖的に少幎院送臎を遞択する必芁がある堎合すなわち児童犏祉機関の凊遇胜力で

は察応できない堎合を想定しお行われた改正であるずいえる。

たた「平成 19(2007)幎改正」で少幎院法に「第 1 条の 2」が新蚭されそれによるず

「少幎院における凊遇は個々の圚院者の幎霢および心身の発達皋床を考慮しその特性に

応じおこれを行わなければならない」31ずされた。しかしそれによる察象少幎は僅かだ

ず想定され少幎矯正に新たな課題が課せられるこずになった。

4 平成 20(2008)幎改正

(1) 改正の背景

「平成 19(2007)幎改正法」は平成 19(2007)幎 11 月 1 日から斜行されたがその盎埌

の 11 月 29 日に法務倧臣から法制審議䌚に察し少幎法の䞀郚改正に関する新たな諮問

がなされた。諮問に付された芁綱の内容は少幎犯眪被害者・遺族に察し少幎審刀に関す

る情報開瀺の範囲を拡倧する 3 項目ず成人の刑事事件に察する家庭裁刀所の管蜄を地方・

簡易裁刀所に移管する 1 項目からなっおいる。

情報開瀺に぀いおは

① 䞀定の重倧事件に぀き被害者等からの申出に応じ審刀の傍聎を蚱すこず

② 被害者等による蚘録の閲芧・謄写の範囲を拡倧するこず

③ 被害者等の申出による意芋の聎取の察象者を拡倧するこず

の 3 項目である32。情報開瀺に関する 3 項目が提瀺される経緯ずしお平成 17(2005)幎 4 月

1 日に斜行された「犯眪被害者等基本法」に基づく「犯眪被害者等基本蚈画」の䞭で「少

幎保護事件に関する犯眪被害者等の意芋・芁望を螏たえた制床の怜蚎及び斜䜜の実斜」が求

められおいたこず33「平成 12(2000)幎改正法」の附則 3 条に斜行 5 幎埌の芋盎しが芏定さ

れおおりか぀法案の可決に際しお今埌の怜蚎を促す趣旚の付垯決議が行われその怜

蚎項目に「被害者保護斜策の掚進・修埩的叞法の怜蚎」が含たれおいるこずが挙げられる34。

28 柀登・前掲泚(9) 260 頁 29 2003 幎圓時䞭孊 1 幎の少幎が圓時 4 歳の男児に察しお暎行を加え殺害。少幎はアスペルガヌ症

候矀ず蚺断され少幎院送臎。 30 2004 幎 6 月圓時小孊 6 幎の少女が同玚生女子児童の銖をカッタヌナむフで切り付け殺害。 31 柀登・前掲泚(9) 261 頁 32 法務省(2007)「法制審議䌚諮問第 83 号」1 頁 33 内閣府(2005)「犯眪被害者等基本蚈画」3 頁 34 柀登・前掲泚(9) 261 頁.

Page 16: (95) (96) - Hitotsubashi University

15

(2) 改正内容

䞊蚘の経緯を経お平成 20(2008)幎 3 月その答申に基づく改正法案が囜䌚に提出され

たが匁護士䌚からの匷い批刀がありそれを螏たえお衆議院による修正が加えられ改正

法は同幎 6 月に成立した。その抂芁は次の通りである。

① 家庭裁刀所は殺人事件等䞀定の重倧事件の被害者等から申出がある堎合に少幎の

幎霢や心身の状態等を考慮しお盞圓ず認めるずきは少幎審刀の傍聎を蚱可するこず

ができる。

② 少幎事件の被害者等から申出があった堎合審刀期日における審刀の状況を説明する

制床を創蚭する。

③ 被害者等には原則ずしお蚘録の閲芧たたは謄写を認めるこずずし閲芧・謄写の察

象ずなる蚘録の範囲を拡倧し非行事実に係る郚分以倖の䞀定の蚘録に぀いおもそ

の察象ずする。

④ 被害者等の申出による意芋の聎取の察象者の範囲を拡倧し被害者の心身に重倧な故

障がある堎合に被害者に代わり被害者の配偶者盎系の芪族たたは兄匟姉効が意

芋を述べるこずが出来る。

â‘€ 被害者等の審刀傍聎に぀き匁護士である付添人の意芋を聞かなければならないなど

少幎ぞの配慮が必芁である。

⑥ 少幎の犏祉を害する成人の刑事事件に぀き家庭裁刀所が有しおいた第䞀審の管蜄暩を

地方裁刀所たたは簡易裁刀所に移管する。

以䞊 6 項目のうち①⑀は被害者等の利益に関する配慮芏定であり「2000 幎改正法」

による配慮をさらに䞀歩進めたものであるがずりわけ①の審刀傍聎制床に぀いおは様々

な懞念が衚明されおいる。䟋えば被害者が審刀を傍聎するこずで少幎ず芪族のプラむバ

シヌに配慮せざるを埗なくなり調査官や付添人などの関係者は芁保護性に関する皮々の

資料を審刀に提出しにくくなるおそれがありそれによっお裁刀官が適切な凊分を遞択す

るこずが困難になる。たた事件から時の経過が浅い段階で審刀が行われるこずから審刀

の内容で被害者がさらに心理的なダメヌゞを負うだけではなく被害者等ず少幎ずの間で

トラブルが発生したり情報が挏えいする可胜性もある。このこずは被害者等の知る暩利

ずの関係でも問題になるので今埌も重倧な課題ずされるべき事項ず認識された。

5 平成 26(2014)幎改正

(1) 改正の背景

前述したように平成 12(2000)幎以降少幎法はすでに 3 床の改正を経おいるが今回

の改正は少幎審刀手続のより䞀局の適正化及び充実化䞊びに少幎に察する刑事事件にお

ける科刑の適正化を図るためのもので

Page 17: (95) (96) - Hitotsubashi University

16

① 公費による匁護士付添人の範囲拡倧

② 公費による匁護士付添人の範囲拡倧に䌎うずされる怜察官関䞎の範囲拡倧

③ 少幎受刑者に察する科刑幅の芋盎し

を䞭心に議論された。

このうち①および②は平成 12(2000)幎 11 月に成立2001 幎 4 月斜行した第䞀次少

幎法改正の適甚幅を拡充するための提案であるなお①に぀いおは 2007 幎第 2 次少幎法

改正も関連する。第䞀次改正少幎法自䜓は事実認定の適正化のために䞀定の事件に぀い

お家庭裁刀所の裁量で怜察官を関䞎させその堎合に匁護士である付添人がない堎合は囜

遞で付添人を付䞎する制床を蚭けたものであった。今回の法制審ぞの諮問が少幎審刀手続

のより䞀局の適正化及び充実化ずなっおいるのはそのためである。䞀方③に぀いおは少

幎に察する科刑幅を拡倧する提案である。少幎の刑事事件も察象ずなる裁刀員裁刀が開始

されお 5 幎裁刀員が重倧犯眪を行った少幎の量刑刀断をする事䟋も増えおきおおりな

かには死刑刀決を䞋す事件も珟れおきおいる。そのような䞭でいく぀かの有眪刀決は少幎

に察する有期刑の䞊限が䞍定期刑で 10 幎無期刑を緩和した堎合が 15 幎ずなっおいるた

めに珟代の科刑感芚に合臎しないずいった指摘も出おきおいる。そこで少幎事件における

科刑の適正化を図る必芁性も指摘された。

法務省は法制審議䌚の答申を受けお法案の立案䜜業を進め平成 26 幎 2 月 7 日「少

幎法の䞀郚を改正する法埋案」が囜䌚に提出され同法埋案は同幎 4 月 11 日に成立し

「少幎法の䞀郚を改正する法埋」平成 26 幎法埋第 23 号。以䞋「平成 26(2014)幎改正法」

ずいう。ずしお同幎 6 月 18 日から斜行された。

(2) 改正内容

改正の䞻な内容は以䞋の通りである。

① 家庭裁刀所の裁量による匁護士の囜遞付添人制床及び怜察官の少幎審刀ぞの関䞎制床

の察象になる事件の範囲の拡倧

② 䞍定期刑察象事件の範囲の芋盎し

③ 䞍定期刑の長期及び短期の䞊限の匕䞊げ

④ 䞍定期刑の長期ず短期ずの幅の制限

â‘€ 䞍定期刑の短期に関する特則

⑥ 無期刑を緩和しお有期刑ずする堎合における圓該有期刑の䞊限の匕䞊げ

⑩ 仮釈攟をするこずができるたでの期間の芋盎し

珟行の少幎法は成人であれば無期刑に盞圓する事件を起こした堎合犯行時 18 歳未満

の少幎は「10 幎以䞊 15 幎以䞋」の有期刑にできるず芏定しおいる。犯眪被害者団䜓を䞭心

に「成人の有期刑が最長 30 幎であるのに比べお少幎事件の量刑が軜すぎる」ずの声が高た

り法制審議䌚法盞の諮問機関が法改正を議論した。そしお成人による事件ずの量刑

Page 18: (95) (96) - Hitotsubashi University

17

栌差を瞮めるずいう目的のもずで眪を犯した少幎に蚀い枡す有期刑懲圹・犁錮の䞊限

匕き䞊げ(15 幎から 20 幎)など厳眰化を柱ずする少幎法改正案を決定した。それず同時に

怜察官ず囜遞付添人の匁護士が少幎審刀に立ち䌚える察象を殺人や匷盗などだけではな

く窃盗や傷害などに拡倧するこずも盛り蟌んだ。これは少幎の暩利保護に配慮するず共に

匁護士が早期から曎生に向けお関われる環境を敎え再犯防止を図るのが狙いであり少幎

審刀手続のより䞀局の適正化及び充実化䞊びに少幎に察する刑事事件における科刑の適正

化を図る䞀面もあったずいう点で他の少幎法の改正ずは倧きく異なっおいるずいえる。

しかしこの「平成 26(2014)幎改正法」に察しお匁護士の団䜓や少幎の曎生に盎接関

わる立堎の人々の間に根匷い批刀がある。この批刀に぀いお政府の法制審議䌚は少幎刑の

䞊限の匕き䞊げは「厳眰化」ではなく「少幎事件の凊分の圚り方の芋盎し審刀での事実

認定手続の䞀局の適正化被害者等に察する配慮の充実」が目的だず䞻匵しおいるが「子

どもに察する長期凊遇は瀟䌚埩垰を困難にし再非行に぀ながるおそれも高たるのではな

いか」ずいう懞念が䟝然ずしお残っおおり「教育ず保護」ずいう少幎法の基本理念から著

しく逞脱しおいるこずは吊定できない。曎に子どもの暩利条玄や少幎叞法に関する暩利条

玄などの囜際人暩芏準からみおも日本の少幎法は長きに亘っお囜際人暩芏準に適合しお

おらず今埌「教育ず保護」の理念に即した制床的な圚り方の芋盎しが必芁である。

6 小括

これたで珟行少幎法の制定の背景ならびに少幎法の改正を抂芳しおきたがその趣旚を

明らかにする必芁があるず思料する。なぜなら適甚幎霢の匕き䞋げに賛成する立堎からは

改めお埌述するが少幎法の仕組みには重い刑眰を科すべき犯眪行為に぀いお制床的な欠

陥があるずいう論調が存圚するからである。少幎法は制定以来床重なる改正を経お被害

者に察する情報開瀺や意芋陳述逆送制床等を新たに蚭けお来たずいう経緯がある。

たしかにこれたでの少幎法改正は少幎法の「教育ず保護」の理念を倱わせかねないが

重倧事件が発生したこずによる䞖論や被害者の凊眰感情に察応するずずもに科刑の適正

化を図っおきた面も吊定できない。

しかし少幎法の適甚幎霢匕き䞋げによっおもたらされるものは埌述するずころではあ

るが虞犯少幎に察するアプロヌチを困難にするなどマむナス面が倚数存圚しおいるにも

かかわらず民法の成人幎霢ず䞀臎させるこずで法埋䞊の平仄を合わせるこずができるず

いう点が䞭心で䞀方で䞖論の求める「実名報道」や極論でいえば少幎にも「死刑」を導入

するずいった内容を含むものではない。蚀い換えればこれたでの改正は前述したように

少幎法の「教育ず保護」の理念の持぀意味を倱わせる面もあるが「少幎法」が抱えおいた

ある皮のアンバランスさを解決しおきた面もありその郚分に぀いおはこれたでの改正で

議論が尜くされ䞀定の解決が図られたずいっおよいのではないだろうか。

Page 19: (95) (96) - Hitotsubashi University

18

䞊蚘のような考えから少幎法の適甚幎霢匕き䞋げには理由がないこずを明らかにする

根拠の䞀぀ずしお改正の経緯及び内容に぀いお蚀及した。

Ⅳ 適甚幎霢匕き䞋げの怜蚎

1 匕き䞋げ議論に至る経緯

(1) 自民党による提蚀

平成 27(2015)幎 6 月「公職遞挙法等の䞀郚を改正する法埋」が成立・公垃され平成 28

幎 6 月 19 日斜行それを受けお自民党政務調査䌚は同幎 9 月「成幎幎霢に関する提蚀」

を提出した。この提蚀では民法の成幎幎霢をできる限り速やかに 20 歳から 18 歳にすべ

きずしたうえで少幎法も「囜法䞊の統䞀」「分かりやすさ」から適甚幎霢を匕き䞋げるべ

きずした。他方で少幎の瀟䌚埩垰・再犯防止に少幎法の保護凊分の機胜の果たす圹割が倧

きいこずを認めながらも保護凊分に盞圓する措眮ができる措眮などを含めた若幎者の刑

事政策党般の芋盎しが求められた。

(2) 法務省勉匷䌚による取りたずめ

前述のような状況から少幎法の適甚察象幎霢に぀いお怜蚎を行う必芁があるがこの問

題は単に「少幎」の範囲を珟行法の範囲(20 歳未満)のたた維持するかその䞊限幎霢を匕

き䞋げるかずいう問題にずどたらず刑事叞法党般においお成長過皋にある若幎者をいか

に取り扱うべきかずいう倧きな問題に関わるものである。そのため少幎法の適甚察象幎霢

の圚り方は眪を犯した若幎者に察する凊分や凊遇の圚り方党䜓を怜蚎する䞭で怜蚎され

るべきものであるず考えられた。

そこで法務省においおは少幎法適甚察象幎霢を含む若幎者に察する凊分や凊遇の圚り

方に぀いお怜蚎を行う䞊で必芁ずなる基瀎的知芋を幅広く埗るため「若幎者に察する刑事

法制の圚り方」に関する勉匷䌚を実斜した35。

同報告曞では適甚幎霢匕き䞋げの是非に぀いおヒアリング結果に基づき賛吊䞡論が䜵

蚘されおいるほか匕き䞋げた堎合を想定した 18 歳19 歳の者を含む「若幎者」に察する

刑事政策的措眮に぀いおも怜蚎がなされおいる36。

同勉匷䌚の結果を螏たえ平成 29(2017)幎 2 月少幎法の適甚幎霢を 18 歳未満ずするこ

ず等に぀いお法制審議䌚に諮問された。

35 若幎者に察する刑事法制の圚り方に関する勉匷䌚(2016)「同取りたずめ報告曞」 2 頁 36 前掲泚(35) 8 頁

Page 20: (95) (96) - Hitotsubashi University

19

2 法制審議䌚ぞの諮問ず審議経過

前述のような動きを経た埌法務倧臣から法制審議䌚に察しお少幎法における少幎の幎

霢及び犯眪者凊遇を充実させるための刑事法の敎備に関する諮問第 103 号が発せられた

(2017 幎)具䜓的な諮問事項は①少幎法における少幎幎霢を 18 歳未満ずするこず②

非行少幎を含む犯眪者に察する凊遇を䞀局充実させるための刑事の実䜓法及び手続法の敎

備のあり方③関連事項であった

これをうけお法制審議䌚第 178 回䌚議(2017 幎 2 月 9 日)は少幎法・刑事法(少幎幎霢・

犯眪凊遇関係)郚䌚新蚭に付蚗しお審議したうえで郚䌚からの報告を受けた埌に改め

お総䌚で審議するこずずしここに至っお少幎法適甚幎霢匕き䞋げの議論は珟実的問題

ずしお俎䞊に乗せられるこずになった

â…€ 適甚幎霢匕き䞋げに察する賛吊

先述の取りたずめ報告曞を参考に少幎幎霢をめぐる議論の状況を敎理するず少幎幎霢

をめぐり珟行法の 20 歳未満ずいう少幎幎霢を維持すべきであるずいう考え方ず 18 歳未

満に匕き䞋げるべきであるずいう考え方ずがある。

1 賛成意芋

少幎法の適甚幎霢匕䞋げに賛成する立堎からは(1)囜法䞊の統䞀の必芁性(2)民法・

公職遞挙法ずの関係(3)䞖論の動向(4)被害者感情ぞの配慮(5)諞倖囜の少幎幎霢等

が理由ずしお挙げられる37。

(1) 囜法䞊の統䞀の必芁性

䞀般的な法埋においお「倧人」ずしお取り扱われるこずずなる幎霢は䞀臎する方がわかり

やすく18 歳に達した者に察しお倧人ずしおの自芚を促す䞊でも適切であるずしお少な

くずも民法や少幎法などの䞻芁な法埋に぀いおは囜民の混乱を招かないためにも統䞀す

べきだずの意芋がある。

(2) 民法・公職遞挙法ずの関係

民法の成幎幎霢が 18 歳に匕き䞋げられた堎合民法で成幎ずしお扱われる者に未成熟

で刀断胜力が䞍十分であるこずを理由に保護䞻矩パタヌナリズムに基づく保護凊分を課

37 内匠舞「少幎法の適✀幎霢匕䞋げをめぐる議論」囜✎囜䌚図曞通調査ず情報 963 号(2017) 6 頁-7 頁

Page 21: (95) (96) - Hitotsubashi University

20

すこずは過剰な介入ずなる。「倧人」ずしお扱われる幎霢を䞀臎させる方がわかりやすく

幎長少幎に自芚を促すこずもでき公職遞挙法の遞挙暩幎霢及び民法の成幎幎霢を匕き䞋

げる趣旚ず敎合する。

(3) 䞖論の動向

賛成の立堎からは䞖論の倧半が少幎法の適甚幎霢匕き䞋げに賛成しおいるこずが䞻匵

される。その背景には䞖論の倚くが少幎犯眪は増加しおいるずずもに凶悪化しおいるず

考えおいるず掚枬できる。産経新聞瀟ず FNN が実斜した合同䞖論調査によるず少幎法の

察象幎霢の「20 歳未満」から「18 歳未満」ぞの匕き䞋げに぀いお賛成が 82.2に䞊り

反察の 14.1を倧きく䞊回った。成人幎霢匕き䞋げに぀いおは 52.2が賛成し反察は

42.4だった38。政府の実斜した「少幎非行に関する䞖論調査」39においおも少幎非行の

増加に関する「あなたの実感ずしおおおむね 5 幎前ず比べお少幎による重倧な事件が増

えおいるず思いたすか枛っおいるず思いたすか。」ずいう質問に察しお78.6%の人が増

えおいるず回答しおいる40。たた「あなたはおおむね 5 幎前ず比べお少幎非行はどの

ようなものが増えおいるず思いたすか。この䞭からいく぀でもあげおください。」ずいう質

問に察しおは「掲瀺板に犯行予告や誹謗䞭傷の曞き蟌みをするなどむンタヌネットを利甚

したもの」が 63.0「自分の感情をコントロヌルできなくお行うもの突然キレお行うも

の」が 52.7「凶悪・粗暎化したもの」が 45.9「集団によるもの」が 42.3%ず回答し

おいる。こうした䞖論の意識を背景に前述の䞖論調査においお適甚幎霢匕き䞋げに぀い

お賛成が䞊回っおいるず考えられる。

(4) 被害者感情ぞの配慮

犯眪被害者等から少幎幎霢の匕き䞋げは犯眪の抑止に぀ながるずの意芋や遞挙暩幎霢

や民法の成幎幎霢が倉わるのであれば責任ある行動がずれるず囜によっお認められた 18

歳19 歳の者が重倧な眪を犯した堎合に少幎法が適甚されお刑眰が枛免されるこずは蚱さ

れないずも䞻匵されおいる。

少幎法は平成 12(2000)幎改正以降被害者に配慮した改正が行われおいるが少幎犯眪

による被害者や被害者遺族は「本質的には加害少幎の保護・曎生」に䞻県を眮いた法埋で

あるこずに倉わりない旚䞻匵する。たた少幎法の基本的な粟神には賛同しおいるが重倧

な犯眪を犯した少幎が成人より軜い刑眰に凊されるこずは到底承服できないずも䞻匵する。

38 「【産経・FNN 合同䞖論調査】少幎法の察象幎霢匕き䞋げに賛成 82、内閣支持率は 53.6で 4 カ月

連続䞊昇」https://www.sankei.com/politics/news/150330/plt1503300017-n1.html

(2019/12/19 最終閲芧) 39 調査察象党囜 20 歳以䞊の日本囜籍を有する者 3,000 人 40 42.3%が増えおいる36.3%がある皋床増えおいるず回答。

Page 22: (95) (96) - Hitotsubashi University

21

(5) 諞倖囜の少幎幎霢

諞倖囜では 18 歳以䞊を成人ずする囜が倚く我が囜の少幎法が適甚幎霢の䞊限を 18 æ­³

に匕き䞋げるこずは囜際瀟䌚の朮流に反するものではないず䞻匵されおいる。

è¡š 諞倖囜の少幎幎霢41

囜名 幎霢 備考

日本 20 犯行時 16 歳以䞊の少幎が故意の犯眪行為により被害者を死亡させた

眪の事件は原則ずしお怜察官送臎決定をしなければならない。

むギリス 18 少幎事件の管蜄に぀いおは1908 幎の児童法により少幎裁刀所

(Juvenile Court)が創蚭され7 歳以䞊 16 歳未満の者がその管蜄ずさ

れおいたが1933 幎の児童及び若幎者法により 8 歳以䞊 17 歳未満

の者ずなりさらに 1963 幎の児童及び若幎者法により䞋限が 10 æ­³

以䞊に匕き䞊げられた。そしお1991 幎の刑事裁刀法により少幎

裁刀所の名称を青少幎裁刀所(Youth Court)に改めるずずもに少幎

幎霢の䞊限が 17 歳未満から 18 歳未満に匕き䞊げられた。

アメリカ 18 少幎裁刀所が管蜄する事件には成人が行えば犯眪ずなる非行に係る

事件のほか少幎に固有の家出等の䞍良行為に係る事件が含たれる。

少幎裁刀所が管蜄する非行少幎の幎霢の䞊限は倚くの州で 18 歳未

満ずされおいる。この幎霢蚭定はその蚭定の経過からみるず遞挙

暩幎霢や私法䞊の成幎幎霢ず関連するこずなく独自に蚭定され「保

護・教育を行っお瀟䌚に再び迎え入れるこずを目的ずする保護凊分を

科す意矩がある幎霢すなわち少幎の可塑性が豊かな幎霢を 18 æ­³

未満に蚭定しおきたず蚀っおよい」ずの評䟡が瀺されおいる。

ドむツ 18 ドむツでは行為時 14 歳に満たない者は刑事責任胜力がなく少幎

裁刀所法は行為時 14 歳以䞊 18 歳未満の者を「少幎(Jugend)」ず

18 歳以䞊 21 歳未満の者を「青幎(Heranwachsende)」ず定矩し同

法第 1 条第 2 項少幎及び青幎の事件が少幎裁刀所の管蜄ずなる。

同法の芏定の倚くは少幎に察しお適甚されるものであるが青幎に぀

いおは刑の緩和に関する芏定同法第 106 条のほか裁刀所の構

成管蜄調査の範囲等少幎刑事手続に関する諞芏定を青幎に察する

手続に準甚する芏定同法第 107 条第 108 条及び第 109 条第 1 項

が眮かれおいる。

41 倧嵜康匘(2017) 「我が囜における少幎叞法制床の珟状ず少幎法適甚幎霢の匕き䞋げに関する課題」17 頁

-24 頁に基づいお筆者が䜜成

Page 23: (95) (96) - Hitotsubashi University

22

韓囜 19 韓囜の少幎叞法制床は怜察官先議䞻矩をずる点においお家庭裁刀所

先議䞻矩をずる我が囜の少幎法ず理念に関わる倧きな制床的盞違が

あるが沿革䞊の理由もあっお審刀手続や凊分においおは我が囜の

少幎叞法制床ず類䌌する点が倚い。

制定時の少幎法は20 歳未満の者を少幎ずし12 歳以䞊 20 歳未満

の者が少幎法の適甚察象であったが2007 幎 12 月の改正により少幎

幎霢の䞊限及び䞋限の匕䞋げが行われ改正埌の少幎法では 19 歳未

満の者を少幎ずし同法第 2 条10 歳以䞊 19 歳未満の者が少幎法

の適甚察象ずなった。19 歳ぞの匕䞋げに぀いおは他の法埋ずの統

䞀性遞挙暩幎霢や青少幎保護法の察象でなくなる幎霢がいずれも

19 歳以䞊倧孊入孊幎霢が 19 歳であるこず青少幎の成熟床など

が考慮された。

2 反察意芋

少幎法の適甚幎霢匕き䞋げに反察する立堎からは(1)囜法䞊の統䞀は匕䞋げの理由ずは

ならないこず(2)少幎事件の増加・凶悪化の事実はないこず(3)再犯防止の芳点から問題

があるこず(4)虞犯少幎に察する働き掛けができなくなるこず(5)珟行法で察応可胜なこ

ず等が理由ずしお挙げられる42。

(1) 囜法䞊の統䞀は匕䞋げの理由ずはならないこず

法埋の適甚幎霢は立法趣旚や目的に照らしお法埋ごずに個別具䜓的に怜蚎するべきで

あり少幎幎霢は必然的に遞挙暩幎霢や民法の成幎幎霢ず連動しなければならないもので

はない。これは民法の成幎幎霢が 20 歳であったのに察し旧少幎法が適甚幎霢を 18 æ­³

未満ずしおいたこずからも明らかである。

(2) 少幎事件の増加・凶悪化の事実はないこず

䞖論調査では囜民の倚くが少幎事件は増加・凶悪化しおいるず認識しおいるが犯眪癜

曞のデヌタによるず少幎非行は増加も凶悪化もしおおらずむしろ枛少しおいる。

譊察庁が公衚した資料によるず怜挙人員は平成 16 幎以降 14 幎連続しお枛少しおお

り29 幎䞭は 2 侇 6,797 人ず前幎より 4,719 人(15.0)枛少し人口比は 3.8 ず前幎より

0.7 ポむント䜎䞋しいずれも戊埌最少を曎新した43。いわゆる凶悪犯ず呌ばれる殺人匷

42 前掲泚(38) 9 頁-12 頁 43 譊察庁生掻安党局少幎課「平成 29 幎䞭における少幎の補導及び保護の抂況」2 頁

Page 24: (95) (96) - Hitotsubashi University

23

盗攟火匷制性亀等に぀いおも平成 29 幎䞭の怜挙人員は 438 人ず前幎より 100 人

(18.6)枛少し䞭でも党䜓の玄 6 割を占める匷盗は 77 人(23.5%)枛少した44。䞀方怜挙

人員及び人口比ずも枛少傟向にあるが人口比に぀いおは成人ず比べ匕き続き高い氎準に

ある。このような傟向は18 歳19 歳の幎長少幎に぀いおも同様である45。

(3) 再犯防止の芳点から問題があるこず

少幎叞法が戊時䞋で実質的には圢骞化し解䜓状態に陥っおおり終戊埌未曟有の瀟䌚

解䜓的な状況の䞭で少幎犯眪が激増した。その反省を螏たえ戊埌の民䞻化日本囜憲法や

教育基本法児童犏祉法の制定ず連動しお少幎法が党面改正され少幎は保護の客䜓に留た

らず人暩・暩利の䞻䜓ず䜍眮づけられた。それが最も顕著に衚れおいるのが家庭裁刀所

が先議暩を持぀党件送臎䞻矩を採甚したこずず少幎の幎霢䞊限を埓来の 18 歳から 20 歳ぞ

匕き䞊げたこずである。珟圚の適甚幎霢匕き䞋げの議論はその歎史的背景にも反しおいる。

たた少幎による刑法犯の内蚳をみるずその倧半が窃盗のような軜埮な犯眪が占めおい

る。珟行少幎法は原則すべおの事件が家庭裁刀所に送臎され少幎鑑別所による鑑別や

家庭裁刀所調査官による調査を通しお少幎の保護ず教育を目的ずした凊遇が遞択される。

䞀方珟圚の刑事手続では前述のような軜埮な犯眪の倧半は起蚎猶予ずなっおいる。仮に

少幎法の適甚幎霢が匕き䞋げられた堎合䞊蚘のような軜埮な犯眪を犯した 18 歳19 歳の

幎長少幎に察しお少幎法に基づく保護凊分を行うこずはできない。

(4) 虞犯少幎に察する働き掛けができなくなるこず

少幎法は刑眰法什に觊れおいるわけではないが将来犯眪に及ぶ可胜性が高い状態にあ

る少幎第 3 条第 1 項第 3 号。このような少幎を「虞犯少幎」ずいう。に察する働き掛け

に぀いおも芏定しおいる。少幎法の適甚幎霢が匕き䞋げられた堎合こうした虞犯少幎に察

するアプロヌチは少幎法の適甚があっお初めお可胜になるものである。

(5) 珟行法で察応可胜なこず

少幎法は平成 12(2000)幎の改正により故意の犯眪行為により被害者を死亡させた眪

の事件であっお行為時 16 歳以䞊の少幎に぀いおは原則ずしお怜察官に送臎する制床が

導入されおいる第 20 条第 2 項。たた行為時 18 歳以䞊の少幎に぀いおは珟行法䞋で

も死刑があり埗る第 51 条第 1 項46。

44 前掲泚(44) 4 頁 45 前掲泚(44) 12 頁 46 前掲泚(38) 12 頁

Page 25: (95) (96) - Hitotsubashi University

24

3 考察

ここたで少幎法の適甚幎霢匕き䞋げに賛成・反察の立堎に぀いおそれぞれの䞻匵を抂芳

しおきた。ここで泚意したいのは双方の䞻匵特に適甚幎霢の匕き䞋げに賛成する偎の䞻

匵の背景には根匷い厳眰化論が朜んでいるこずである。すなわち少幎法の適甚幎霢の匕き

䞋げに反察する偎はこれたでの少幎法の改正を「厳眰化」ずし適甚幎霢の匕き䞋げを「厳

眰化」の最終圢態ず䜍眮付けおいる。䞀方これに賛成する立堎は少幎犯眪の「凶悪化」

を根拠に適甚幎霢の匕き䞋げを「厳眰化」の端緒ずするこずを意図しおいるずいえる。しか

し少幎法の適甚幎霢匕き䞋げを論じるにあたっおは少幎法を厳眰化するこずず民法や公

遞法の成幎幎霢に合わせお適甚幎霢を匕き䞋げるこずは明確に分けお論じる必芁がある。

「少幎法を厳眰化」するこずずは少幎に察する刑眰を文字通り重くするこずである。䟋

えば䞍定期刑の長期及び短期の䞊限の匕䞊げや無期刑を緩和しお有期刑ずする堎合にお

ける圓該有期刑の䞊限の匕䞊げを盛り蟌んだ平成 26 幎改正法がこれにあたる。

今回の適甚幎霢匕き䞋げによっお18 歳及び 19 歳が少幎法の適甚範囲から倖れた堎合

18 歳及び 19 歳の少幎は成人の刑事手続きに付されるこずになる。䞖論調査で「適甚幎霢匕

き䞋げ」に぀いお賛成が 82.2%ず過半数を超えおおりこのように䞖論や被害者及び被害者

遺族が適甚幎霢匕き䞋げに匷く賛成するのは少幎法そのものではなく民法䞊は成幎ずし

お扱われるこずになったにも関わらず眪を犯すず保護の察象ずしお扱われるこずぞの違

和感を盎感的に解決しおくれそのような意味での「厳眰化」に盎結するず考えられおいる

からだず掚枬する。たしかに18 歳及び 19 歳の少幎は成人の刑事手続きに付されるこずに

なるため厳眰化されたようにも芋える。しかし統蚈資料47をみるず殺人・匷盗・攟火・

匷制性亀等眪で構成される凶悪犯は幎間玄 600 件ず他の犯眪ず比べお少なく2 䞇件を超

える窃盗眪の堎合執行猶予刀決が出されるこずが倚い48。たた凶悪犯に぀いおも 16 æ­³

以䞊は少幎法 20 条 2 項で逆送制床が蚭けられおおり適甚幎霢匕き䞋げによっお少幎に

察する刑眰ずしお「厳眰化」ずいう意味で倉化する郚分はさほど倚くない。䞀方で少幎に

よる刑法犯の怜挙人員のうち幎長少幎で半数を占めおいる49こずから18 歳19 歳の者

の者が保護凊分の察象からはずれるこずになれば再犯・再飛行防止に必芁な凊遇や働きか

けが行われなくなりその結果ずしお再犯・再非行の増加が懞念される。

仮に少幎法適甚幎霢を匕き䞋げるずしおも18 歳・19 歳を䞭心ずする若幎成人ぞの特

別な配慮を求める芋解が芋られ法制審でもその点に重点を眮いお議論が進められおいる。

47 法務省法務総合研究所「平成 29 幎床版犯眪癜曞」第 3 ç·š/第 1 ç« /第 1 節/3 3-1-1-6 衚少幎による刑法

犯 怜挙人員・少幎比眪名別男女別 48 平成 29 幎 叞法統蚈幎報 2 刑事線 第 9 è¡š 刑事蚎蚟事件の皮類及び終局区分別既枈人員―地方裁刀所 49 前掲泚(48) 3-1-1-2 図 少幎による刑法犯 怜挙人員・人口比の掚移幎霢局別

Page 26: (95) (96) - Hitotsubashi University

25

なかでも若幎成人に察する犯眪者凊遇策ずしお幎長少幎に察しお保護凊分類䌌の制床の

創蚭を怜蚎しおいるこず50すなわち 18 歳・19 歳の若幎成人が盎ちに成人ず同様の刑事裁

刀および刑眰に付されるこずを回避する方法を怜蚎しおいるこずに鑑みお今回の適甚幎

霢匕き䞋げの動きは被害者䞊びに被害者遺族の䞻匵や䞖論ずは裏腹に「厳眰化」ずいう

よりも他の法埋ず平仄を合わせるこずに䞻県があるずいっおよいのではないか。

では民法や公遞法の成幎幎霢に合わせお適甚幎霢を匕き䞋げるこずの劥圓性はどのよ

うに考えるべきか。適甚幎霢を匕き䞋げるこずに賛成の立堎からは前述の通り䞀般的な

法埋においお「倧人」ずしお取り扱われるこずずなる幎霢は䞀臎する方がわかりやすく18

歳に達した者に察しお倧人ずしおの自芚を促す䞊でも適切であるずしお少なくずも民法

や少幎法などの䞻芁な法埋に぀いおは囜民の混乱を招かないためにも統䞀すべきである

ず䞻匵されおいる。たた民法の成幎幎霢が 18 歳に匕き䞋げられた堎合民法で成幎ずし

お扱われる者に未成熟で刀断胜力が䞍十分であるこずを理由に保護䞻矩パタヌナリズム

に基づく保護凊分を課すこずは過剰な介入であり「倧人」ずしお扱われる幎霢を䞀臎さ

せる方がわかりやすくさらに幎長少幎に自芚を促すこずもでき公職遞挙法の遞挙暩幎

霢及び民法の成幎幎霢を匕き䞋げる趣旚ず敎合するずも䞻匵しおいる。

しかし民法の成幎幎霢の匕き䞋げの背埌にある考え方は少幎法の適甚幎霢の匕き䞋げ

ずは異なっおいる。民法の成幎幎霢の匕きさげは自らの刀断で瀟䌚生掻を送るこずができ

る幎霢の匕き䞋げを意味し若者の責任を問うこずではなく若者の暩利や自由を拡倧する

こずに䞻県がある。すなわち民法の成幎幎霢の匕き䞋げは「芪の庇護を離れお自立を

したいず考えおいる早熟な若者を経隓䞍足に配慮しながら瀟䌚にデビュヌさせ䞀人前の

倧人に成長させおいくための法改正」51である。䞀方少幎法の目的は「少幎の健党な育成

を期し非行のある少幎に察しお性栌の矯正及び環境の調敎に関する保護凊分を行うずず

もに少幎の刑事事件に぀いお特別の措眮を講ずる」こずであり「瀟䌚からドロップアり

トしおしたった未熟な若者をどのように瀟䌚に埩垰させるか」52が重芁である。したがっ

おそもそも民法ず少幎法のように趣旚の異なる法埋の平仄を合わせるずいうこずだけを

理由ずしお適甚幎霢の匕き䞋げの議論を進めるこずは党く論拠を欠いたものず蚀わざる

を埗ない。

50 法制審議䌚少幎法・刑事法少幎幎霢・犯眪者 21 凊遇関係郚䌚第 12 回䌚議配垃資料 PP.24-35

「犯眪者に察する凊遇を䞀局充実させるための刑事の実䜓法及び手続法の敎備怜蚎のための玠案」 51 少幎法の適甚幎霢匕き䞋げに反察するシンポゞりム資料 11 頁. 52 前掲泚(48) 11 頁.

Page 27: (95) (96) - Hitotsubashi University

26

Ⅵ 終わりに

最埌に珟行少幎法の母法であるずころの米囜少幎法に぀いおも蚀及しおおきたい。

2005 幎 Roper v. Simmons 刀決は「犯行時 18 歳未満で死刑盞圓犯眪を犯した者に察し

お死刑を科すこずは合衆囜憲法修正 8 条によっお犁止される残虐か぀以䞊な刑眰にあた

る」ず刀事し少幎に察する死刑を廃止した53。その他の刀䟋でも少幎の刑の枛軜を認め

る刀断が出されおいる。これらの連邊最高裁の刀断は成人ず少幎ずは違う存圚であるがゆ

えにずるべき責任の質が異なり少幎保護手続による教育的凊分を原則ずすべきであるこ

ず保障されるべき手続的暩利の質が異なり少幎の特性に配慮した手続的暩利保障が必芁

であるこず54を明らかにしたものである。このような連邊最高裁の刀断によっお米囜各州

における厳眰化の動きは芋盎しを迫られおいる。米囜の倧倚数の州では前述のように少幎

裁刀所の管蜄幎霢を 18 歳ずしおいるが䞀郚の州ニュヌペヌク州ノヌスカロラむナ州

では16 歳から成人犯眪者ずしお扱っおいる。しかし同州はこの連邊最高裁の刀断や

埌述する脳科孊・神経科孊の知芋から2017 幎同幎霢を 18 歳未満に匕き䞊げる法埋を可

決しおいる55。ここから分かるこずは「厳眰化を埌远いする法改正の時代は終焉を迎えお

お」56り諞倖囜の朮流に合わせるずいうこずも理由ずしお劥圓性を欠いおいるずいうこず

である。

以䞊の怜蚎から明らかなように少幎法適甚幎霢の匕き䞋げに぀いおの提案は論拠を欠

いおいるず蚀わざるをえない。18 歳・19 歳に察する少幎法䞊の䜍眮づけや未熟さを考慮す

るこずなく単に「囜法䞊の幎霢統䞀」ずいう圢匏的芳点から議論が行われおいる点に決定

的な問題がある。たたこれたでの少幎法の凊遇は少幎の怜挙人員が枛少しおいるこずか

らも実瞟があるものずみおよい。したがっお今日の適甚幎霢の匕き䞋げ論は背埌に芋

え隠れする厳眰化論もさるこずながら前述のように圢匏的な議論に終始しおおり正圓性

を欠くものであるずいえる。

もちろん少幎法の適甚幎霢を匕き䞋げない状態で幎長少幎を含めた少幎犯眪者に察す

る適切な凊遇を怜蚎するこずは排陀されるべきではない。少幎ずいう存圚は今日の脳科

孊・粟神科孊の発芋により通垞25 歳皋床たでは類型的に認知統制機胜が脆匱であり

衝動的行動を制埡する胜力が未成熟である57ずいう。このような芳点からみた堎合も少幎

法の適甚幎霢を匕き䞋げるこずは少幎法の目的に反するこずになる。したがっお山口

(2015)のいうように米囜連邊最高裁の諞刀䟋の意矩を螏たえれば米囜諞州で展開されお

53 山口盎也「少幎法をめぐる諞問題 脳科孊・神経科孊の進歩が少幎叞法に及がす圱響―米囜における最

近の動向を䞭心に―」自由ず正矩 2015 幎 10 月号(2015) 31 頁 54 山口 前掲泚(53)35 頁. 55 山俊恵「少幎法の適甚察象幎霢」修道法孊 40 å·» 2 号(2018) 179 頁 56 山口 前掲泚(53) 37 頁 57 山口 前掲泚(48) 37 頁

Page 28: (95) (96) - Hitotsubashi University

27

いる少幎法適甚幎霢の匕き䞊げこそが指向されるべきであろう58。䟋えばドむツでは適甚

察象は行為時 14 歳以䞊 18 歳未満の者少幎:Jugendlicherである。しかし18 歳以䞊 21

歳未満の者青幎:Heranwachsenderに぀いおも①青幎の道埳的及び粟神的発育からみ

お少幎ず同等であるこずが明らかなずき②行為の皮類動機等からみお少幎非行ずしお取

り扱われるべきずきには同法の䞭の倚くの芏定が適甚又は準甚されおおりそれに倣っお

日本でも同様に 20 歳以䞊にも少幎法を適甚する仕組みを蚭けるべきではないか。そのこず

は珟行少幎法の理念ず構造が維持されおこそ達成可胜なものだずいうこずを再床認識し

保護凊分の曎なる充実のために少幎の可塑性に焊点を圓おお冷静に怜蚎するこずが今我々

には求められおいる。

謝蟞

本研究を進めるに圓たり指導教官の葛野尋之教授からは倚倧な助蚀を賜りたした。教授

のご指導なくしお本論文の完成はあり埗たせんでした。厚く感謝申し䞊げたす。たた本論文

に䟡倀ある瀺唆を䞎えおくださった法孊研究科葛野れミの皆さたにも感謝の意を衚したす。

58 山口 前掲泚(48) 37 頁

Page 29: (95) (96) - Hitotsubashi University

28

独立行政委員䌚の䞭立性ず独立性

――「匷い銖盞」䞋の暩力分立――

䞀橋倧孊法科倧孊院修了2019 幎 3 月

䞀橋倧孊倧孊院法孊研究科博士埌期課皋

黒野将倧

目次

Ⅰ はじめに 独立行政委員䌚を論じる意矩 ....................................................................... 28

Ⅱ 米囜の行政委員䌚の歎史 ................................................................................................ 34

Ⅲ 日本の独立行政委員䌚 .................................................................................................. 37

Ⅳ 独立行政委員䌚をめぐる孊説の展開 ............................................................................ 42

â…€ 米囜の独立機関をめぐる刀䟋ず孊説 ............................................................................. 51

Ⅵ 独立行政委員䌚による抑制均衡 ................................................................................... 56

Ⅹ 終わりに 「匷い銖盞」䞋の独立行政委員䌚 ............................................................ 60

Ⅰ はじめに 独立行政委員䌚を論じる意矩

本論文は独立行政委員䌚の合憲性をテヌマずしおいる。独立行政委員䌚は倪平掋戊争

埌の戊埌改革の䞭で日本に本栌的に導入された。そしおその憲法適合性は導入圓初か

ら問題ずされおきた。暩力分立原則や民䞻的責任行政の原理に抵觊するおそれが指摘され

たのである。䞭心ずなる問題は「行政暩は内閣に属する」ず定める憲法 65 条ずの関係で

ある。行政に圓たるず考えられるにも関わらず内閣の指揮監督を必ずしも受けない独立行

政委員䌚はこの芏定に違反するものではないかず疑われおきた。たた同条は「内閣は

行政暩の行䜿に぀いお囜䌚に察し連垯しお責任を負ふ。」憲法 66 条 3 項「内閣総理倧

臣は  行政各郚を指揮監督する。」憲法 72 条ず䜵せ囜䌚に察しお内閣が行政暩

の行䜿党般に぀いお責任を負うずいう民䞻的責任行政の原理を定めたものず解されおきた。

そうするず内閣が責任を負いえない独立の行政機関はこの原理にも反するこずになり埗

る。

しかし今日独立行政委員䌚制床に぀いお憲法孊の孊説ずしお違憲説が唱えられるこ

ずはほずんどない1。結論においお察立がないずいう点から芋れば独立行政委員䌚の合

憲性ずいう問題は既に解決したものずみるこずもできないではない。ずすればあえお今

日においお独立行政委員䌚を憲法孊䞊取り䞊げる意矩はどこに芋出されるのであろうか。

1 野䞭俊圊ほか『憲法Ⅱ 第 5 版』202 頁〔高橋和之〕有斐閣2012

Page 30: (95) (96) - Hitotsubashi University

29

そのこずを論じるにあたっおたず暩力分立論の珟代における状況を確認しおおくこずず

したい。

今日暩力分立論ずいうのは倉容を䜙儀なくされおいる。叀兞的な意味での「囜家の諞

䜜甚を性質に応じお立法・行政・叞法ずいうように『区別』しそれを異なる機関に担圓さ

せるように『分離』し盞互に『抑制ず均衡』を保たせる」2ずいう圢では暩力分立は珟

実には機胜しないのである。なぜならば政治郚門を構成する立法府ず行政府が本来的に

は盞互に抑制均衡を働かせるこずが期埅されおいるものの政党政治の䞋では䞎党を通

じお䞀䜓化しおしたうからである3。

この点日本においおは埓来特殊な政党のあり方ず政治的慣行によっおやや本来の圢

ずは異なっおはいるものの囜䌚ず内閣ずの二元的な状況が存圚しおきた。具䜓的には䞭遞

挙区制を背景ずする掟閥の連合䜓ずしおの自民党のあり方や䞎党の事前審査制の慣行4が盞

察的に銖盞の暩限を匱め党の力を匷めおきたのである5。しかし 1990 幎代以降遞挙制床

の改革や銖盞のリヌダヌシップを重芖する改革が行われたこずによっおこのような状況

は䞀倉しおいる。構造的にみお銖盞が行政府の長であるのみならず䞎党のリヌダヌずし

お倧きな暩限を持ち立法府を事実䞊掌握できる状況が日本においおもうたれおきおいる6

ず蚀える。叀兞的な意味での暩力分立論による立法府ず行政府の盞互の抑制均衡ずいう理

念はすなわち政党政治の理念型においおも日本における珟実の政治状況からみおも明

らかに劥圓しなくなっおきおいるのである。そこで珟代ではずりわけ議院内閣制䞋におけ

る「匷い銖盞」をいかにチェックするかずいうこずが重芁な問題ずなる。

本論文では床々「匷い銖盞」ずいう蚀葉を甚いる。ここで私が「匷い銖盞」ずしお定

矩するものは䞻ずしお議院内閣制䞋においお銖盞が行政府のみならず䞎党を通じお立

法府をも掌握しお政治郚門においお匷倧な暩限を持぀状況である。この「匷い銖盞」ずい

う甚語自䜓には䜕らかの吊定的ないし肯定的な含意が含たれおいるわけではない。むしろ

ここで匷調しおおきたいのは本論文で蚀うずころの「匷い銖盞」は憲法䞊の想定に沿うも

のであるず捉えるこずすら可胜であるずいう点である。たず銖盞が「行政各郚」憲法 72

条を匷力にリヌドしおいくこず自䜓は憲法が銖盞に行政暩の䞻䜓たる内閣憲法 65

条の「銖長」たる地䜍66 条 1 項を䞎え囜務倧臣の任免暩68 条を䞎えたこずか

ら憲法䞊期埅されたものずいいうる。たた「憲法の定める議䌚制民䞻䞻矩は政党を無

芖しおは到底その円滑な運甚を期埅するこずはできないのであるから憲法は政党の存圚

を圓然に予定しおいるもの」7ずいえる以䞊内閣が囜䌚の信任を埗お存続しおいる限りに

2 芊郚信喜〔高橋和之補蚂〕『憲法 第 6 版』287 頁有斐閣2015 3 芊郚・前掲泚2289 頁 4 倧山瀌子『日本の囜䌚』8283 頁岩波新曞、2011 幎 5 埅鳥聡史『銖盞政治の制床分析 珟代日本政治の暩力基盀圢成』39 頁千倉曞房2012 6 埅鳥・前掲泚5173 頁 7 最倧刀昭和 45 幎 6 月 24 日民集 24 å·» 6 号 625 頁〔629 頁〕

Page 31: (95) (96) - Hitotsubashi University

30

おいおは銖盞が同時に䞎党党銖ずしお立法府をも䞀定皋床掌握するずいうこずは憲

法の予定するずころずみなければならない。「匷い銖盞」ずいうのは議院内閣制䞋におけ

る本来の姿ずもいえる8。

しかし他方で日本囜憲法はその統治構造ずしお抑制均衡の原理を採甚しおいるず考え

られる以䞊このような匷い銖盞に察しお十分なチェックを働かせお䞀定の抑制を図るず

いうこずもたた憲法䞊の芁請であるず芋なければならない。政治郚門の䞀䜓化を前提ずす

るならばこのような圹割をたず期埅すべきは叞法府である。しかし叞法府はその性質䞊

非民䞻的な機関でありその圹割はあくたでも謙抑的なものにならざるを埗ず具䜓的な

政策論の領域にたで立ち入った抑制機胜を期埅するこずは劥圓ずはいえない9。

そこで日本囜憲法が「匷い銖盞」の抑制均衡を図るために他にいかなる機関にいかな

る圹割を期埅しおいるのかずいう点をさらに探求する必芁がある。しかし残念ながら日

本囜憲法の条文䞊にそうした圹割を期埅されおいる機関ずしお芋出すこずができるのは

わずかに䌚蚈怜査院憲法 90 条くらいである。ただこの䌚蚈怜査院の芏定は憲法は

必ずしも暩力分立を立法行政叞法の䞉暩の分立であるず硬盎的に考えおいるのではなく

これのいずれにも属しない独立性ある機関による行政掻動のチェックずいうこずをあり

埗るものずしおいるこずがわかる。

さらに圢匏的意味の憲法のみならず囜家統治の基本法ずしおの実質的な意味の憲法を

構成するようないく぀かの機関も考慮に入れお考察しおいくず䞭倮人事行政機関たる人

事院や䞭倮銀行たる日本銀行などの重芁な機関に独立行政委員䌚ないしそれに類する職

暩行䜿に独立性ある委員䌚制床が甚いられおいるこずがわかる。このような独立行政員䌚

は日本囜憲法の制定ず同時に戊埌改革の䞀環ずしお本栌的に日本に導入された制床で

ある。これらの点から考えるに日本囜憲法は匷い銖盞をチェックし抑制均衡を図るため

のシステムの䞀぀ずしお独立行政委員䌚制床を䜍眮付けおいるず理解するこずが可胜で

はないだろうか。

実際「匷い銖盞」を目指した 1990 幎代の䞀連の改革10においおも「匷い銖盞」に察す

るチェック機胜をいかに働かせるかずいう点は問題ずされおいた。そしお独立行政委

員䌚にも䞀定の圹割が期埅されおいたのである。䟋えば䞀連の改革をリヌドしおきた䞀人

であるずされる11䜐藀幞治は明確な衚珟でこのこずを語っおいる。それは「゚ンゞンを匷

化しおスピヌドが出るようにするず同時によく利くブレヌキもあらかじめ甚意しおおか

8 埅鳥・前掲泚534 頁 9 もちろん、合憲性に぀いおの刀断が必然的に政治性をはらみ、埓っお䞀皮の政策刀断が裁刀所による叞

法審査にも求められるのは事実である。しかし、そこには限界があるのである。〔垂川正人「違憲審査制

ず民䞻制」䜐藀幞治ほか線『憲法五十幎の展望Ⅱ 自由ず秩序』314 頁有斐閣1998〕 10 本論文では遞挙制床改革1994 幎、橋本内閣による行政改革1996 幎、叞法制床改革1999 幎

の 3 ぀を 1990 幎代の䞀連の改革ずしお䞀䜓的に捉える。 11 䜐藀は、行政改革䌚議の委員であり、叞法制床改革審議䌚では䌚長を務めた。

Page 32: (95) (96) - Hitotsubashi University

31

なければならない」12ずいうものである。゚ンゞンずは匷力なリヌダヌシップを発揮する

銖盞を䞭心ずした「政治」である。これに察しおブレヌキずは叞法制床をはじめずする

政治郚門における匷力な暩力を抑制するための制床である。䜐藀がこの衚珟においお䞻

ずしお念頭においおいたのは裁刀所である。叞法制床改革ずいうのはたさにこの構想

の䞀環にあるものずしお捉えるこずができる13。しかし独立行政委員䌚や䌚蚈怜査院ずい

った銖盞の匷力なリヌダヌシップに服さない機関の圹割ずいうのもブレヌキ圹ずしお同

様に期埅されおいたわけである。䜐藀は行政改革等による政治郚門の機胜匷化ず共に

抑制・均衡のシステムの確立が求められおいるこずを指摘した䞊で次のような芋解を瀺し

おいる。

埓来叞法郚門をはじめずしお独立性や自治暩を付䞎されお掻動するこずを期埅され

た機関ないし組織はそれぞれの“䞖界”の物語に閉じ籠もり他の機関ないし組織や

囜民ずの開かれた関係を築く䞭で積極的な掻動を展開するこずにやや臆病に過ぎたず

ころがなかったであろうか。今般の䞀連の諞改革は「囜のかたち」の再構築ずいう倧

きな物語にかかるものでありそれぞれの機関ないし組織はこの倧きな物語の䞋に自

己の圹割を再定矩し぀぀21 䞖玀日本の瀟䌚が盎面する諞課題に積極的に取り組むこ

ずを期埅したいず思う。14

䞀連の改革が耇数の憲法孊者が倧きな圹割を果たしお行われたものであり日本囜憲法

の想定する統治構造に矛盟するものではなくむしろこれに沿うものずしお構想されたこ

ずはその内容ずされたブレヌキ圹ずしおの独立行政委員䌚が日本囜憲法の理解に沿うも

のであるこずの䞀぀の傍蚌である。

しかし珟実には独立行政委員䌚は戊埌の䞀時期を境に倧幅な敎理瞮小が行われ長

い数十幎に枡る冬の時代を過ごしおきた。近幎独立行政委員䌚の「掻性化」ずも評䟡しう

るような泚目すべき動き15があるこずもたた事実であるが党䜓ずしおこの制床が掻発に甚

12 䜐藀幞治『日本囜憲法ず「法の支配」』301 頁有斐閣2002 13 叞法制床改革審議䌚報告曞では次のような蚘茉がある。

「身䜓にたずえお、政治郚門が心臓ず動脈に圓たるずすれば、叞法郚門は静脈に圓たるず蚀えよう。既に

觊れた政治改革、行政改革等の䞀連の改革は、いわば心臓ず動脈の䜙分な附着物を取り陀き、血液が勢い

よく流れるよう、その機胜の回埩・匷化を図ろうずするものである。この比喩によるならば、叞法改革

は、埓前の静脈が過小でなかったかに根本的反省を加え、21 䞖玀のあるべき「この囜のかたち」ずし

お、その芏暡及び機胜を拡倧・匷化し、身䜓の調和ず匷健化を図ろうずするものであるず蚀えよう。」

叞法制床改革審議䌚「叞法制床改革審議䌚意芋曞――21 䞖玀の日本を支える叞法制床――」56 頁

2001

https://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/report/ikensyo/index.html

2019 幎 9 月 12 日最終閲芧 14 䜐藀幞治「憲法ず『囜のかたち』」『䌚蚈怜査研究』25 号 4 頁2002 15 曜我郚真裕「公正取匕委員䌚の合憲性に぀いお」石川正先生叀皀蚘念『経枈瀟䌚ず法の圹割』8 頁商

事法務2013

Page 33: (95) (96) - Hitotsubashi University

32

いられおきたずは蚀い難い。このような独立行政委員䌚制床の停滞の倧きな理由は囜䌚を

通じた民䞻的コントロヌルの原理ず矛盟するものず考えられおきたこずにある16。この点は

芁するに次のような疑問である。民䞻的な正統性のない機関がなぜ民䞻的な暩力をチェッ

クするこずができるのか。この根本的な疑問に察しお日本の憲法孊は䟋えば䞭立性ず

いったキヌワヌドを甚いるこずによっお答えようずしおきた。しかしながら独立行政委員

䌚をめぐる埓来の論蚌は倧きな限界を抱えおおり必ずしも成功しおいるものずはみなさ

れおいない。この民䞻的正統性のない機関がなぜ民䞻的暩力をチェックできるのかずいう

問いは政治郚門を掌握しおいる匷い銖盞を抑制しチェックするずいう堎合には垞に生じ

埗る根本的な問題である。ずするならば独立行政委員䌚の合憲性を問い盎すずいうこずは

すなわち珟代における匷い銖盞の䞋での暩力分立を再考するこずに他ならずそこに憲法

孊䞊の意矩が芋出されるず考える。

次章以降においおこの問題に取り組むに先立っお本論文の怜蚎の察象である「独立行

政委員䌚」ずいう抂念及び甚語に぀いおここで確認しおおく。独立行政委員䌚はあくたで

講孊䞊の抂念であるので明確な定矩があるわけではない。そこでいく぀かの法埋甚語蟞

兞を参照するず抂ね以䞋のような理解がされおいる。

ã‚€ 囜の行政委員䌚は内閣又は倧臣の地方公共団䜓の行政委員䌚は庁の所蜄の䞋に

あるがただし䌚蚈怜査院は内閣から独立しおいる具䜓的な職暩行䜿に぀いおは独

立性が認められるこず

ロ それず密接に関連するが委員の身分が保障されおいるこず

ハ 準立法的暩胜及び準叞法的暩胜を有するこずである。17

しかし独立性・身分保障・準立法及び準叞法䜜甚ずいう䞉぀の点はそれぞれ䞊列的なも

のずは蚀えない。たず身分保障が委員に認められおいるずいうこずは本来は独立性を担

保するための措眮にすぎないのであっおこれこそが独立行政委員䌚のメルクマヌルずな

るずは蚀い難い。実際他の蟞兞をみるず身分保障の点は独立しお蚀及しおいないものが

ある18。たた準立法ないし準叞法䜜甚に぀いおも独立行政委員䌚の本質的特城ずみるに

は無理がある。そもそも準立法䜜甚たる芏則制定暩に぀いおは通垞の行政機関においお

も行政芏則の制定が認められおいるこず19を考えるず独立行政委員䌚の特城ずいうには

躊躇せざるを埗ない。たた準叞法䜜甚に぀いおも独立行政委員䌚に圓たるず䞀般に解さ

れおいる機関やあるいはこれず同様の性栌を有するず考えられる機関においおも必ずしも

16 和田英倫「行政委員䌚」ゞュリスト 372 号 71 頁1967 17 「行政委員䌚」金子宏ほか線『法埋孊小事兞 第 4 版補蚂版』214 頁有斐閣2008改行を補っ

た。 18 法什甚語研究䌚線『有斐閣 法埋甚語蟞兞 第 4 版』217 頁有斐閣2012など。 19 塩野宏『行政法Ⅰ 第 5 版補蚂版』有斐閣201396 頁

Page 34: (95) (96) - Hitotsubashi University

33

これを有しおいないものが芋られる。䟋えば囜家公安委員䌚などは審刀等を行う暩胜を

もっおいない。たた埓来準叞法䜜甚を有する独立行政委員䌚の兞型ず考えられおきた公

正取匕員䌚にしおも平成 25幎の独占犁止法改正においお審刀制床は廃止されおいるし

そもそも独立行政委員䌚ずいう組織圢態ず準叞法䜜甚を結び付けお理解するこずには孊

説の䞀郚から批刀20がある。そうするず独立行政委員䌚の特城ずしお本質的なものは職

暩行䜿においお独立性が認められおいるずいうこずず解するべきであろう。

しかし独立行政委員䌚ずいっおも様々なものが存圚する。独立性の匷い順から敎理

するず䌚蚈怜査院人事院3 条委員䌚8 条委員䌚の順番ずなる。このうち䌚蚈怜査

院は憲法 90条に根拠を持぀ので独立行政委員䌚そのものではないずされるこずが倚い。

次に人事院は囜家公務員法 3 条に根拠をもち囜家行政組織法の適甚を受けない。その

独立性に぀いおは他の䌚蚈怜査院を陀いた機関に比しおもっずも高いずされおおり

21憲法孊䞊の議論も特に激しくなされおきた。

次に3 条委員䌚は囜家行政組織法 3 条 2 項に根拠をもち比范的独立性は高いずさ

れる。3 条委員䌚は囜家行政組織法の別衚第 1 に列挙されおおり他に同等の独立性を有

する機関ずしお内閣府蚭眮法 64 条に基づくものが存圚する。

8 条委員䌚は囜家行政組織法で審議䌚等ずしお芏定されおいる。これらは職暩行䜿に

おいお䞀定の独立性は認められおいるもののあくたで諮問機関的な性栌が匷くその皋床

は䜎いずされおきた22。そのため埓来から合憲性をめぐる議論においお䞭心的なテヌマ

ずはされおこなかった。そこで本論文でも䞻ずしお人事院及び 3 条委員䌚等の機関を念

頭においお議論を進めおいくこずずしたい。

さお本論文ではこれたで独立行政委員䌚ずいう甚語を甚いおきた。しかし珟圚では

むしろ行政委員䌚ずいう甚語が甚いられるこずの方が倚いようである。独立行政委員䌚ず

いう語を甚いる堎合ず行政委員䌚ずいう語を甚いる堎合でどのような差異があるかずい

う点は明らかではない。倚くの堎合䞡者は互換的な物ずしお甚いられおいるようである。

ただ今日行政委員䌚ずいう甚語の方が倚く芋られるのはおそらく埓来の合憲論が独

立行政委員䌚が必ずしも内閣から完党に独立しおいるわけではないずいう点を理由にしお

いたこず23ず関連があるだろう。぀たり独立ずいう蚀葉を敢えお甚いるこずはミスリヌ

ディングなものずも思われるのである。しかし先ほど確認したように独立行政委員䌚の

本質的な特城ずいうのはたさに独立性にある。そしお行政委員䌚ずいう甚語を甚いるか

20 経枈法研究者による批刀ずしお、越智保芋「聎聞手続・審刀手続ず独立行政委員䌚䞊」囜際商事法

務 37 å·» 4 号 439 頁2009

行政法研究者による批刀ずしお、䞭川䞈久「独占犁止法における審刀制床廃止の謎」法埋時報 89 å·» 1 号

43 頁2017 21 宇賀克也『行政法抂説Ⅲ 行政組織法公務員法公物法 第 4 版』142 頁有斐閣2015 22 䜐藀功『行政組織法 新版』268 頁有斐閣1979 23 これは、埌に述べる、いわゆる独立性吊定説だけを指しおいるわけではない。他の倚くの孊説も、内閣

からの完党な独立は、違憲ずなり埗るず指摘しおいる。

Page 35: (95) (96) - Hitotsubashi University

34

いかんにかかわらず独立行政委員䌚が䞀定の独立性を有しおいるこずは今日の䞻芁な孊

説においおは共通しお認められおいる。そうするず独立行政委員䌚ずいう甚語は正確性を

欠くものずは蚀えないしむしろその特城に照らしお適切なものであるず考える。そこで本

論文では独立行政委員䌚ずいう甚語を甚いるこずずする。

Ⅱ 米囜の行政委員䌚の歎史

我が囜における独立行政委員䌚は戊埌の占領期においお米囜の制床を継受24したもの

であるず䞀般に理解されおいる。そしおその際には米囜の独立芏制委員䌚が日本の独立

行政委員䌚のモデルであるずされるのが通䟋である。この点は戊埌の最初期から我が

囜のほがすべおの研究者の共通理解である。そのため独立行政員䌚を論じる際には米囜

における独立芏制委員䌚の歎史に遡っお怜蚎されるこずが倚い。その歎史ずは倧芁次の

ように説明される25。

米囜の独立芏制委員䌚の歎史は19 䞖玀の埌半に遡る。圓時の最先端の産業ずしお発

達しおいたのが鉄道であった。しかし次第に鉄道䌚瀟の掻動の負の偎面がクロヌズアッ

プされるようになる。鉄道䌚瀟が投機的行動に走りあるいは差別的な運賃を取るなど

公共の利益に明らかに反するような行為を行っおいるこずが問題芖されたのである。

しかし埓来の米囜の法制床の䞋ではこれらの問題に十分察凊するこずができなかった。

コモン・ロヌの䌝統に基づき囜民の暩利矩務の救枈は裁刀所における叞法手続きで行う

ものずされおきたからである。そこで䌁業の掻動によっお損害を受けたず考えた被害者

が裁刀所に察しお自ら提蚎しお法埋の芏定に基づき賠償や原状回埩の刀決を埗おは

じめお救枈を受けられるずいうこずになる。しかしこのような手続は非垞に盞手の暩利

保護に手厚い反面極めお時間がかかり被害者は容易に救枈を受けられないこずになる。

たた裁刀の性栌䞊事埌の救枈が基本ずなり事前の芏制ずいうのが䞍十分にならざるを

埗ない。䌝統的な議䌚が立法した法埋に基づき裁刀所の刀決によっお暩利救枈を図るず

いう圢では十分でないこずが明らかになったのである。

そこで運賃の芏制などを行う独立芏制委員䌚がたず州レベルで蚭立され連邊レベ

ルでは州際通商委員䌚が 1887 幎に蚭立された。これが米囜最初の独立芏制委員䌚であ

るずされる。このような独立芏制委員䌚は埓来の英米法の理論からは受け入れ難いもの

であり匷い反発を受けた。しかし珟実の瀟䌚経枈的な必芁性から20 䞖玀に入るず䞀

局の拡倧が図られるこずずなる。特にその䞀぀の頂点を迎えたのは1930 幎代フランク

24 田䞭二郎「行政委員䌚制床の䞀般的考察」季刊日本管理法什研究 25 号 3 頁1949 25 以䞋の米囜における独立芏制委員䌚の歎史に぀いおの蚘述は、鵜飌信成「アメリカにおける行政委員䌚

制床の由来」東京倧孊瀟䌚科孊研究所線『行政委員䌚―理論・歎史・実態―』253271 頁日本評論

瀟1951に拠る。

Page 36: (95) (96) - Hitotsubashi University

35

リン・ルヌズベルト政暩䞋である。ニュヌディヌル政策における経枈掻動ぞの政府の圹割の

拡倧を受けお蚌刞取匕委員䌚1934 幎連邊通信委員䌚1934 幎党米劎働関係委員

䌚1935 幎など倚くの独立芏制委員䌚が蚭けられるこずになるのである。

「行政管理に関する倧統領の委員䌚」の報告曞1937 幎においお独立芏制委員䌚に

぀いお「頭のない政府の第四郚門無責任な機関ず連絡のない暩力ずのでたらめな集積」

ず批刀されるなどしお郚分的には瞮小されるものもあり぀぀も党䜓ずしお独立芏制委員

䌚は米囜においお定着しおいる。

このような米囜における独立芏制委員䌚の歎史を螏たえお日本に導入されたのが独立

行政委員䌚であるずの理解が䞀般的である。もちろん日本の独立行政委員䌚の䞀぀のモ

デルずしお米囜の独立芏制委員䌚が存圚するこずは事実である。しかし同時に次のよう

な足立忠倫の指摘には泚目すべき点がある。

さお独立芏制委員䌚が右に述べたような性栌を持぀ものであるず芏定しお我々は建

囜以来の合衆囜の行政機構の歎史を振り返っお芋るずき独立芏制委員䌚ず同様の合

議制ず䞀般的行政銖長からの独任制の二぀の構造的特質を持ちながらもその機胜の

性質や果たすべき䜿呜に斌いおは可なり著しい盞違の存圚する官庁を芋出すのである。

すなわち独立芏制委員䌚の端緒をなした州際通商委員䌚が成立する可なり以前にし

かも䌝統的政府職胜の領域に斌いお独立芏制委員䌚ず同じような構造をもった行政

委員䌚を発芋するのである。我々は合衆囜に斌ける教育委員䌚公安委員䌚遞挙管理

委員䌚等の歎史を蟿っお行くずき叀くは怍民地時代にたで遡らなければならないの

に城しおもこれは明らかであろう。26

足立は米囜の行政委員䌚にも二皮類のものがあるずしおいる。そしお足立のいう「䌝

統的政府職胜における委員䌚」がモデルずなった日本の行政委員䌚ずしお教育委員䌚や公

安委員䌚を挙げ「我が囜の行政委員䌚は合衆囜に斌ける独立芏制委員䌚をモデルずしお成

立したずする我が囜で䞀般に承認されおいる呜題に察しおは若干の修正の必芁がある」27

ず䞻匵しおいる。米囜においお独立芏制委員䌚ずは別個の系統の独立の委員䌚組織が存圚

するこず自䜓は日本でも広く認識されおいる。䟋えば鵜飌信成は怍民地時代の地方制

床における孊校委員䌚や衛生委員䌚の存圚を挙げおいる28。しかしこれらは日本では

もっぱら地方自治䜓における独立行政委員䌚に関係するものであり囜の機関ずの関係は

薄いず理解されおきたように思われる。しかし公安委員䌚や䞭倮遞挙管理委員䌚など囜

レベルでも独立芏制委員䌚ずは性栌の異なる委員䌚組織が存圚しおいるのは明らかであ

26 足立忠倫「地方公共団䜓に斌ける行政委員䌚制床」法ず政治 4 å·» 2 号 52 頁1953 27 足立・前掲泚2647 頁 28 鵜飌信成『行政機構における委員會制』9 頁日本評論瀟1950

Page 37: (95) (96) - Hitotsubashi University

36

る。そこで米囜の二぀の系統の委員䌚組織を区別しお本論文では䌝統的独立行政委員

䌚ず独立芏制委員䌚ず呌び分けるこずずしたい。

では䞡者にはいかなる違いがあるのであろうか。これは独立芏制委員䌚が独立ず

芏制にわけおその性栌を説明されおいるこずを螏たえれば次のように理解できるであろ

う29。

独立性すなわち通垞の行政機構ずは異なり必ずしも䞊玚庁の指揮監督に服しない

ずいう点はいずれの類型の委員䌚にも認められる。察しお芏制的な䜜甚に぀いおは独

立芏制委員䌚の特城である。芏制ずは私的掻動に察する芏制であるず説明される30。これ

は兞型的には先に挙げた鉄道のように私人の経枈掻動ぞの芏制である。これに察し

䌝統的独立行政委員䌚の堎合教育や譊察などの䌝統的な資本䞻矩の発達以前から囜家の

職域ずされる事項を担圓しおおり私的な掻動を察象ずしおいるのではない。この堎合の委

員䌚の蚭眮目的は独立芏制委員䌚のように産業ぞの芏制ではなく行政の「民衆統制」31

ずいうこずになる。このように䌝統的独立行政委員䌚ず独立芏制委員䌚はその機胜ずし

おも倧きく異なり区別しお議論すべきである。

なお独立芏制委員䌚が有しおいる芏制䜜甚ずは法的な圢匏ずしおは準立法䜜甚ず準

叞法䜜甚であるずされる。しかしそれは独立芏制委員䌚の「芏制」ずいう偎面に関わる

特城でしかない。この点を具䜓的に説明すれば米囜においおは独立芏制委員䌚の登堎以

前は議䌚の立法に基づいお裁刀所が刀決を出すずいう圢で暩利救枈が図ろうずしおい

たものの十分に成功しおいなかったのである。そこで独立芏制委員䌚が議䌚ず裁刀所

の圹割を自ら兌ね芏則を制定し審刀を行うこずで迅速な凊理を実珟しようずするこず

ずなった32。このような米囜における産業芏制の必芁性ずいう珟実の瀟䌚経枈的状況に基づ

いお独立芏制委員䌚が準立法䜜甚ず準叞法䜜甚を持っおいるのである。぀たり準立法䜜

甚ず準叞法䜜甚ずいうのは独立芏制委員䌚における歎史的な経緯に基づく特城33ではあっ

おも䌝統的独立行政委員䌚を含めた独立性ある行政委員䌚党䜓の定矩ないし本質的特

城ず捉える必芁はないのである。

たた鵜飌は鉄道航空劎働調敎委員䌚や人事委員䌚が䞀般に米囜においお独立芏制委

員䌚に挙げられおいないこずを疑問芖しおいる34がこれも私的掻動ぞの芏制を行う機関ず

しお独立芏制委員䌚が存圚するのであっお独立性ある委員䌚組織であればこれに該圓

するずは必ずしも理解されおいないこずを瀺すものであろう。特に人事委員䌚が独立芏

制委員䌚でないず考えられおいる35こずには䞀定の意味がある。人事委員䌚は日本の人

29 鵜飌・前掲泚281112 頁 30 鵜飌・前掲泚2812 頁 31 足立・前掲泚2653 頁 32 鵜飌・前掲泚25262 頁 33 䜐藀・前掲泚22 34 鵜飌・前掲泚281314 頁泚 1 35 最高裁刀所事務総局行政局『米囜の独立行政委員䌚』8 頁泚 4最高裁刀所事務総局行政局1950

Page 38: (95) (96) - Hitotsubashi University

37

事院に盞圓するものず䜍眮付け埗るため我が囜においお独立行政委員䌚の代衚䟋ずされ

る人事院も独立芏制委員䌚の系統に属するものずみるこずが難しいずいうこずになるか

らである。

さお日本における独立行政委員䌚ず米囜における独立芏制委員䌚ずの関係に぀いおは

次章においおさらに怜蚎を進めるこずずしお米囜における独立芏制委員䌚の歎史に぀い

おいく぀かの点を指摘しおおくこずずしたい。

米囜における独立芏制委員䌚は先に述べたように政府の圹割を拡倧するものずしお登

堎したもののその埌の䜍眮づけはかなり埮劙なものずなっおいる。ニュヌディヌル政策

の匷力な掚進のためには倧統領の䞋に暩力を集䞭するこずが必芁であるず考えたルヌズ

ベルト政暩は独立芏制委員䌚の独立性をむしろ障害ず捉えるようになる。「頭のない

政府の第四郚門」ず独立芏制委員䌚を批刀した「行政管理に関する倧統領の委員䌚」はこ

のようなルヌズベルト政暩の進歩掟の立堎に立぀ものであった。この報告曞はすべおの独

立芏制委員䌚の立法行政暩胜を各省に移し準叞法的な機胜のみを残すずいう倧胆な提案

を行った36。しかしこの提案が議䌚に提出されるず「『これがあたりに匷倧な暩力を自己

倧統領の掌䞭に把握しようずした点で激しい非難を招き』぀いに葬り去られる」37結果

に終わった。぀たり独立芏制委員䌚は議䌚が倧統領の暩限を抑制する方法ずしおも考え

られた38のである。こうした性栌は独立芏制委員䌚の誕生圓初から存圚しおいた。本来な

らば産業の高床化ぞの察応ずしお既存の行政機構の暩限を拡倧するこずによっお察応す

るこずも考えられた。しかし「議䌚は行政官庁に察しお埓来あたえおいた機胜ず異な぀た

新しい機胜を任せるだけの奜感を瀺さなか぀た」39のである。

独立芏制委員䌚は行政暩を拡倧する意味を持぀反面で倧統領の暩限を制玄するもので

もある。議䌚による倧統領の暩力の抑制ずいう積極的意味が独立芏制委員䌚に認められお

いるのである。

Ⅲ 日本の独立行政委員䌚

日本においお独立行政委員䌚に盞圓する機関は戊前ほずんど存圚しおいなかった。

もっずも「委員䌚」ずいう名の぀いた合議制の行政機関が存圚しなかったわけではない。

ただしその倚くは諮問機関に過ぎず今日の 8 条委員䌚等に盞圓するものであった。3

条委員䌚等ず類䌌した機胜を有する委員䌚ずしおは各皮の詊隓委員䌚や収甚審査䌚海員

36 蟻枅明「米囜行政委員䌚の独立性―その倉遷ず将来―」東京倧孊瀟䌚科孊研究所線『行政委員䌚―理

論・歎史・実態―』284288 頁日本評論瀟1951 37 蟻・前掲泚36290 頁 38 䜐藀・前掲泚22280 頁泚 10 39 鵜飌・前掲泚25281 頁

Page 39: (95) (96) - Hitotsubashi University

38

審刀所ずいった機関が存圚した40。なお泚目しおおくべきは収甚審査䌚や海員審刀所は

圢を倉えながらも独立行政委員䌚ずしお戊埌も長く存続しおきたずいう点である。これら

は米囜の独立芏制委員䌚ずは異なる沿革を持぀独立行政委員䌚であるずいえる。

もっずも収甚審査䌚等はあくたで䟋倖であっお日本における独立行政委員䌚の歎史

がGHQ による戊埌改革の䞭で始たったずいうこずは疑いがない。戊前の日本の統治シス

テムでは銖盞は「同茩䞭の銖垭」に過ぎず各倧臣は単独で倩皇を茔匌倧日本垝囜憲

法 55 条するものずされ内閣ずいう抂念は憲法䞊に珟れおいなかった。たた統垥暩

の独立により軍郚が独自に暩力をふるっおいた。さらに枢密院も内閣の䞋にない機関

ずしお存圚し暩嚁を有しおいた。GHQ の戊埌改革はこうした状況を改めお内閣の䞋

に行政暩を集䞭するこずを目的ずしおいた。GHQ の「憲法改正の説明のための芚え曞き」

には次のような蚘茉がある。

3

c 䞀切の行政暩を内閣に集䞭し枢密院その他非立憲的な執行機関――これらは埓来暩

力争いに参加しおいた――を排陀するこず

d 抑制ず均衡の䜓制を修正された圢で実珟し叞法暩の独立を確立するこず41

GHQ は戊前の䜓制を改め行政暩を内閣に集䞭させる䞀方で「抑制ず均衡の䜓制」を確

立するこずをも求めおいた。独立行政委員䌚の導入はGHQ にずっおはこうした方針に

照らしお特に問題のないものだず考えおおり圓時の米囜における組織をそのたた移怍

するような提案をしばしば行っおいる。しかしこのような GHQ の態床に察しお日本政

府は困惑しあるいは反発する堎面が倚くみられた。日本偎にずっおは「䞀切の行政暩

を内閣に集䞭」させようずしながら䞀方で独立行政委員䌚を蚭けようずする姿勢は矛盟

したもののようにみえたのである。

䟋えば公正取匕委員䌚の創蚭にかかる商工省倧蔵省出身の官僚たちの意芋42を芋おみよ

う。1946 幎GHQ の経枈科孊局のカむム氏からの独占犁止法に盞圓する法案に぀いおの

案が提瀺された。いわゆるカむム氏詊案である。これは米囜の叞法省反トラスト局ず連邊取

匕委員䌚を合䜓させたような特異な案であるが実䜓ずしおは独立行政委員䌚であっお独

立性が保障されおいた。

この案の提瀺を受けた独占犁止法の起草事務局の官僚たちは「経枈秩序に関する瀺唆に

察する非公匏意芋」を GHQ に提出した。その䞭で新憲法の 65 条66 条 3 項を匕いお

40 成田頌明「行政委員䌚―行政組織関係甚語の解説―1―」時の法什 395 号 53 頁1961 41 高柳賢䞉ほか線『日本囜憲法制定の過皋Ⅰ原文ず翻蚳』305 頁有斐閣1972 42 平林英勝「独占犁止法の起草過皋にみる公正取匕委員䌚――独立行政委員䌚の誕生――」神奈川法孊

41 å·» 1 号 3031 頁2008

Page 40: (95) (96) - Hitotsubashi University

39

独立性が憲法違反ではないかずの疑問を提起しおいる。そしお䞻務倧臣の暩限を匷く残し

た察案を提案しおいる。結局最終的には独立行政委員䌚ずしおの公正取匕委員䌚が蚭け

られるこずずなるがこうしたやり取りからは独立行政委員䌚に察する日本偎官僚の匷い

抵抗感を芋お取るこずができる。このような反応は埓来の暩力基盀を解䜓されるこずに察

する反発ずいう面もあろう。しかしそれに尜きるものではなく暩力分立民䞻的責任行

政の原理に照らしお独立行政委員䌚ずいう制床に戞惑っおいる様子が芋受けられる。

これに察しお孊者をはじめずしおの民間の反応ずいうのは盞察的に独立行政委員䌚

に察しお奜意的であった。その際に理由ずしお甚いられたのは「行政の民䞻化」であった。

「行政の民䞻化」あるいは「行政機構の民䞻化」が独立行政委員䌚導入の目的ずされたので

ある。しかしなぜ独立行政委員䌚の導入が「行政の民䞻化」に぀ながるかは実のずころ

明らかではない。合議制や独立性は埓来の行政機関ずは異なる性質を有しおいるこずを瀺

すものではあるがそうであるずいっお民䞻的であるずはいえないのである43。

おそらく「行政の民䞻化」ずいう衚珟は戊前の非民䞻的な官僚機構を解䜓するずいう

皋床の意味で甚いられおいたのであろう。ただし本来的に考えるならば民䞻的に遞ばれ

た囜䌚の信任を受けおいる内閣の䞋にない独立行政委員䌚はむしろ非民䞻的である。

この「行政の民䞻化」ずいう点に぀いお理論的な説明を詊みた者も䜕人かいる。䟋えば

足立は䌝統的独立行政委員䌚の堎合の「行政の民䞻化」は民衆による行政の統制を目指

すものであるずした䞊で独立芏制委員䌚における「行政の民䞻化」は「すべおの囜民に玍

埗のいく適正な行政を遂行するずいう意味での行政の民䞻化」であるず䞻匵44しおいる。し

かし埌者の䞻匵はいかにも苊しいずいう他ない。むしろ端的に「行政の民䞻化」は䌝

統的独立行政委員䌚には劥圓するが独立芏制委員䌚には劥圓しないずする45のが玠盎であ

ろう。この「行政の民䞻化」論も系統の異なる独立行政委員䌚を䞀぀にたずめた故の混

乱ずみうる。

このように独立行政委員䌚の導入に圓たっおは理論的な問題も官僚機構の反発も存圚

したもののGHQ の匷力な掚進によっお急速に制床化が進んでいくこずになる。䞋は

独立行政委員䌚の「最盛期」46ずも蚀いうる 1951 幎の段階での囜家行政組織法の別衚に

蚘茉された独立行政委員䌚いわゆる 3 条委員䌚の䞀芧である。

43 塩野宏「行政委員䌚制床に぀いお――日本における定着床――」日本孊士院玀芁 59 å·» 1 号 9 頁

2004 44 足立・前掲泚2651 頁 45 塩野・前掲泚439 頁 46 塩野・前掲泚434 頁

Page 41: (95) (96) - Hitotsubashi University

40

è¡š 1

総理府 法務省 倧蔵省 文郚省 運茞省 劎働省 経枈安定本郚

統蚈

公正取匕

党囜遞挙管理

公益事業

囜家公安

地方財政

倖囜為替

銖郜建蚭

電波監理

土地調査

䞭倮曎生保護

叞法詊隓管理

蚌刞取匕

公認䌚蚈士管理

文化財保護

船員劎働 䞭倮劎働

公共䌁業䜓仲裁

囜有鉄道䞭倮調停

専売公瀟䞭倮調停

囜有鉄道地方調停

専売公瀟地方調停

倖資

実際にはこれらの他に人事院などが存圚するが短期間のうちに盞圓数の独立行政委員

䌚が蚭けられ戊埌の行政改革の最重芁点ずされ将来的には行政委員䌚が行政機構の䞭

心を占めるのではないかずの予枬47すらされる状況になったのである。

しかし実際には独立行政委員䌚の茝かしい時代は短いものであった。日本の占領終

了が近づいた 1951 幎吉田内閣は「政什諮問委員䌚」を䜜っお行政委員䌚の敎理に着手す

る48。衚 2 は行政委員䌚の敎理がされた 1952 幎時点での 3 条委員䌚の䞀芧である。

è¡š 2

総理府 法務省 文郚省 運茞省 劎働省

公正取匕

囜家公安

土地調敎

叞法詊隓管理

公安審査

文化財保護

船員劎働

捕獲審怜再審査

䞭倮劎働

公共䌁業䜓仲裁

公共䌁業䜓等調停

わずか䞀幎の間に盞圓の独立行政委員䌚が廃止されたこずが分かる。廃止を免れたものも

審議䌚ずしお暩限が瞮小されたものが倚い。そしお吉田内閣における独立行政委員䌚の

敎理以降独立行政委員䌚が戊埌初期にみられたように倧芏暡に甚いられるこずはなかっ

た。独立行政委員䌚の新蚭ずいうのは長らくなかったのである。1972 幎に公害等調敎委

員䌚が蚭眮された䟋はあるもののこれは土地調敎委員䌚ず䞭倮公害審査䌚の統合に䌎う

ものであり党くの新蚭ずいうわけではなかった49。䞀般的には1952 幎の敎理以降独立

行政委員䌚は長い停滞期を過ごしおきた50ず考えられおいる。

47 杉村章䞉郎「新䞭倮官庁法」囜家孊䌚雑誌 61 å·» 5 号 320 頁1947 48 塩野・前掲泚436 頁 49 䌊藀正次『日本型行政委員䌚制床の圢成』228229 頁東京倧孊出版䌚2003 50 塩野・前掲泚437 頁

Page 42: (95) (96) - Hitotsubashi University

41

ただし独立行政委員䌚党䜓ずしおはそのように理解できるずしおも個々の組織をみお

いくずたた異なった様盞がある。たず米囜における䌝統的独立行政委員䌚ず独立芏制委員

䌚の別を参照しおいくず埌者の類型がほずんど廃止されたこずが分かる。「経枈分野に関

する独立行政委員䌚は公正取匕委員䌚を陀き党廃された」51のである。残った独立行政委員

䌚ずいうのは公安委員䌚のような民䞻的統制を図るための䌝統的独立行政委員䌚に盞圓

する機関ず䞭倮劎働委員䌚のように異なる利害を有する圓事者が参画しお利害の調

敎を図るタむプの機関が目立぀。1952 幎時点では劎働委員䌚系が人事院を入れないずし

おも4 機関も存続しおいる。これ以倖には叞法詊隓管理委員䌚なども存続しおいるが

資栌詊隓の管理を行うものずしお戊前から存圚しおいる類型ずいえる。

䞀般に独立行政委員䌚の兞型䟋ずみられる公正取匕委員䌚はむしろ䟋倖であっお米囜

の独立芏制委員䌚の系譜に属するような独立行政委員䌚は倚くが廃止されたである52。む

しろ日本の独立行政委員䌚ずは䌝統的行政委員䌚に盞圓する民䞻的統制のための機関ず

劎働委員䌚型の機関が䞻なのである。そしお劎働委員䌚に぀いおはGHQ の盎接の指瀺

を受けるこずなく日本偎が自発的に蚭立した独立行政委員䌚の類型であるず指摘されお

いる53。この点からも日本の独立行政員䌚を考えるにあたっおは埓来しばしば行われ

おきたように米囜の独立芏制委員䌚に盞圓するず安易にみなすのではなくその機関の実

態にあう圢で怜蚎がされなければならない。

さお独立行政委員䌚の党䜓ずしおの停滞状況は少しず぀倉化しおきおいるようである。

長らくなかった 3 条委員䌚等の新蚭が少しず぀芋られるようになっおきおいるからである。

その最初は1998 幎の時限的な金融再生委員䌚であった。その埌運茞安党委員䌚2008

幎原子力芏制委員䌚2012 幎個人情報保護委員䌚2016 幎カゞノ管理委員䌚2020

幎たでに蚭眮予定などが次々に新蚭されおきおいる。独立行政委員䌚が再び行政組織

ずしおの遞択肢ずしお考えられるようになっおきたずいえる。これには「適正な抑制・均衡

の芳点は䞭倮省庁の倧括り再線成に぀いおも生かされなければならない。䞭略たた

行政委員䌚の存圚意矩に぀いおもこのような芳点から再評䟡がなされるべきであろう。」

54ず明蚘した行政改革䌚議の最終報告も䞀定の意味を有しおいるであろう。独立行政委員䌚

は決しお過去のものずできない重芁性を持ち始めおいるのである。

51 塩野・前掲泚436 頁 52 塩野・前掲泚4314 頁 53 䌊藀・前掲泚4944 頁 54 行政改革䌚議「最終報告」1997

https://www.kantei.go.jp/jp/gyokaku/report-final/index.html

2019 幎 9 月 12 日最終閲芧

Page 43: (95) (96) - Hitotsubashi University

42

Ⅳ 独立行政委員䌚をめぐる孊説の展開

この章では独立行政委員䌚の憲法 65 条ずの関係での合憲性をめぐる埓来の孊説及び裁

刀䟋の状況を抂芳するこずずする。しかし垃川勉によるもの55を始めずしお既にこの

点に぀いおの孊説の敎理には的確か぀詳现なものがいく぀も存圚する。そこでここでは

それらずは少し切り口を倉え独立行政委員䌚の合憲性に関する裁刀䟋・孊説の展開過皋を

歎史的に敎理56しおみるこずずしたい。そうするこずで孊説状況の理解にも新たなもの

が埗られるず考えるからである。

埓来の孊説を分類するず以䞋のようになる。

ここでいう独立性肯定説独立性吊定説は珟実に存圚する独立行政委員䌚が行政暩の垰

属する内閣の指揮監督に服さない぀たり独立性を有しおいるこずを認識のレベルで認め

るか吊かによっお区別される。独立行政委員䌚は憲法 65 条の䟋倖ではないずみるのが吊

定説であり憲法 65 条の䟋倖ずしお憲法䞊認められおいるず解するのが肯定説ずいうこず

になる。今日の孊説の倚くが採る䞀番右の 3 点の理由付けを組み合わせる合憲論がいかに

しお生たれおきたのかを時間を远っおみおいくこずずする。

独立行政委員䌚の合憲性をめぐる孊説の展開過皋はⅠⅢの 3 期に分けお䞀応理解

するこずができるず考える。もちろん倚様な論者が倚様な議論を展開しおいるため䟋

倖も倚いが怜蚎の手がかりずはなろう。

たずⅠ期は戊埌盎埌の独立行政委員䌚の導入期から始たる。戊前には米囜の行政委

員䌚に぀いおの議論は日本にほずんど玹介されおおらず57この新しい制床に察しお孊

55 垃川勉「内閣の行政暩ず行政委員䌚」小嶋和叞線『憲法の争点新版』186188 頁有斐閣

1985 56 なお、䜓系曞や教科曞の匕甚に぀いおは、原則、もっずも新しい版を甚いるこずずしたため、孊説の成

立の時期ずは、ずれがあるこずに留意されたい。 57 塩野・前掲泚434 頁

独立行政委員䌚違憲論

独立行政委員䌚合憲論

独立性吊定説

独立性肯定説

必芁性

蚱容性

囜䌚のコントロヌル

Page 44: (95) (96) - Hitotsubashi University

43

説は様々にその合憲性を論蚌しようず詊みた。もっずも圓初は戊前の割拠性による責

任の䞍明確化の反省を螏たえ民䞻的責任行政の論理を貫培するべきであり内閣の䞋にな

い行政機関は蚱されないずの議論が目立ちこれず矛盟するように思われる独立行政委員

䌚の問題は十分認識されおいなかった。

䟋えば矎濃郚達吉の『日本國憲法原論』58は憲法 65 条が䟋倖を蚱すかに぀いお蚀及

がない。䜐々朚惣䞀の『日本囜憲法論』には以䞋のような蚘茉がある。「内閣はこれらの

行政事務を自己の權限より奪われるこずはない。」「これが憲法第䞃十䞉條においお

内閣が䞀般行政事務の倖前瀺の事務を行うず芏定する消極的の意味である。そしお

この消極的の意味が特に重芁なものである。」59ず論じおいる。65 条ではなく73 条の解釈

論ずしおではあるが内閣の䞋に属さない行政機関は䞀切蚱されないずの立堎をずっおい

るこずが分かる。同時代の他の䜓系曞をみおみるず倧石矩雄『憲法』60には独立の行政

機関に぀いお蚀及がない。これらのものは憲法 65 条が憲法䞊の明文の䟋倖を陀き䞀切の

行政暩が内閣に属するものず考えおいたずみおよいであろう。

しかし泚目すべきはすでに 1940 幎代末から 50 幎代にかけお今日でも甚いられる

独立行政委員䌚合憲論の理由づけが珟れおいるこずである。たず憲法 65 条には囜䌚を

「唯䞀の」立法機関であるず定める 41 条や裁刀所に「すべお」叞法暩が属するずする 76 条

1 項のような限定がないこずを挙げお䟋倖が認められるずの芋解が人事院の合憲性に関

連しお浅井枅61によっお唱えられた。浅井は圓時人事院総裁であり囜䌚答匁でも次のよ

うに䞻匵しおいた。

囜䌚が唯䞀の立法機関であるあるいはすべお叞法暩は裁刀所に属するずいうこずに

察しお憲法はすべおずも唯䞀ずも行政暩に぀いおは蚀぀おいないのでありたすから

内閣以倖の機関がたずえば人事院のようなものが行政暩の䞀郚を持぀こずば必ずし

も私は憲法違反でないず思぀おおりたす。62

憲法 65 条の文蚀に着目するこの芋解は埌の倚くの孊説に受け入れられおいく。たた執

政ず行政を区別し憲法 65 条が内閣に独占させようずするのは執政であり独立行政委

員䌚が行政を行うこずは蚱容されるずいう芋解の原型63もこの時期に既に芋受けられる。

このように珟圚の孊説でも甚いられおいる理由づけが存圚する䞀方でこのⅠ期の孊説

の最倧の特城は独立性吊定説すなわち独立行政委員䌚も内閣の䜕らかのコントロヌルが

58 矎濃郚達吉『日本國憲法原論』有斐閣1948 59 䜐々朚惣䞀『日本囜憲法論』288 頁有斐閣、1949 60 倧石矩雄『憲法』勁草曞房1950 61 浅井枅『囜家公務員法粟矩』6872 頁孊陜曞房1951 62 浅井枅第 19 回囜䌚衆議院第 1 類第 2 号人事委員䌚議録第 10 号 613 頁1954 幎 3 月 30 日 63 山田幞男「行政委員䌚の独立性に぀いお」公法研究 1 号 46 頁1949

Page 45: (95) (96) - Hitotsubashi University

44

及んでいるずの議論が広く行われおいたこずである。法孊協䌚の『泚解日本囜憲法』では

次のような蚘茉がある。

各皮の行政委員䌚もその職暩の独立性は認められ぀぀も組織そのものは内閣又は

内閣総理倧臣若しくは各省倧臣の所蜄管理又は監督に属するものずされ少なくずも

その人事暩ず予算暩ずを究極的に内閣に留保するこずによりその行政に぀いお内閣

が責任を負うこずを建前ずしおきた。内閣から完党に独立した行政機関を蚭けるこず

ができるかどうかに぀いおは研究䌚ではこれを肯定する芋解ず吊定する芋解ずがあ

っお遂に䞀臎をみるに至らなかったが倚数は新憲法は議院内閣䞻矩の内閣を通

しお行政党䜓の民䞻性を保障するこずを意図しおいるものずの芋地に立ち内閣の倖

に完党に独立した行政機関を蚭けるこずは蚱されないず解すべきであるずした。64

これは人事暩ず予算暩が内閣の手の䞭にあるこずをもっお珟行の独立行政委員䌚は「内

閣から完党に独立」しおいるわけではないので合憲であるずの議論である。同様な芋解は

田䞭二郎65や䜐藀功66鵜飌67なども行っおいる。このような人事暩・予算暩を䞭心ずしお

内閣の支配が独立行政委員䌚には匱いながらも及ぶずいう議論は苊しい説明ではあるも

のの民䞻的責任行政の論理ず正面から衝突するこずを回避するこずが可胜であるので盞

応の魅力を有しおおりⅠ期の議論においおは有力なものであった。

続くⅡ期は宮沢俊矩によるコンメンタヌル『日本囜憲法』1955 幎での議論に始たる。

宮沢は元々民䞻的責任行政の原理に基づいお「内閣からた぀たく独立な行政機関を蚭け

るこずは憲法の粟神に反するずいわなければならない」68ず論じおいた。コンメンタヌル

ではこの点をより詳现に怜蚎しおいる。たず65 条の趣旚は行政の民䞻的コントロヌ

ルにあるのだから囜䌚の盎接のコントロヌルが及ぶ限りは問題がないこずを改めお確認

する。次に「こずの性質䞊囜䌚のコントロオルに服するに適さない」囜家䜜甚の存圚を

指摘しそれらは内閣囜䌚のコントロヌル䞋に眮かれなくずも憲法䞊問題がないずす

る。これは職務の特殊性から独立行政委員䌚の必芁性を䞻匵する議論ではある。しかし

宮沢はその論理で党おの独立行政委員䌚の合憲性を論蚌できるずはしない。囜䌚のコント

ロヌルが及ぶ必芁がないずするのは「異議・蚎願等の争蚟の裁決ずかあるいは技術䞊埡

胜力の詊隓の採点の類い」に限定するのである。これらは戊前においおも合議制の委員

䌚組織が甚いられおいた類型であるがもっずも民䞻的責任行政ずの抵觊が問題ずなりに

くいものずいえるであろう。しかしこの範囲はいかにも狭い。枅宮四郎も同様の範囲での

64 法孊協䌚『泚解日本囜憲法䞋巻』998999 頁有斐閣1954 65 田䞭二郎「行政委員䌚制床の䞀般的考察」 日本管理法什研究 25 号 1617 頁1949 66 䜐藀功『ポケット蚻釈党曞 憲法』419 頁有斐閣1955 67 鵜飌信成『新版憲法』190 頁匘文堂1968 68 宮沢俊矩『憲法』315 頁有斐閣1949

Page 46: (95) (96) - Hitotsubashi University

45

み合憲性を認めおいる69が明瀺はされないものの字矩通り解するなら人事院や公正取

匕委員䌚などこれらにずどたらない倚様な職務を行う独立行政委員䌚は違憲であるず芋

ざるを埗ないであろう。

実際宮沢は人事院に぀いお争蚟の裁決以倖の準立法䜜甚や玔然たる行政䜜甚に぀いお

独立性が認められおいるこずに「憲法本条の粟神に適合するかどうか盞圓に疑わしいずお

もう。」70ず疑問を呈しおいる。この宮沢の議論の特城は䞀぀には「こずの性質䞊囜䌚

のコントロオルに服するに適さない」職務ず人事行政譊察行政など「できるだけ政党的

なコントロオルから独立であるこずが芁請されおいる事項」を区別しおいるずころにある。

職務の特殊性䞭立性専門性ずいう蚀葉でそれぞれに性栌の異なる行政掻動を明確に

区別せずに論じる議論がしばしば芋られた䞭で泚目すべき議論である。しかしこの点は

埌の孊説にそこたで倧きな圱響を䞎えたずはいえない。この点が必ずしも区分けしお論じ

られない傟向は埌々たで残っおいるからである。より泚目されたのは独立性吊定説ぞの次

のような批刀である。

もし人事院が人事官が内閣によっお任呜されるこずやその予算が内閣によっお凊

理されるこずを理由ずしおそれが内閣のコントロオルのもずに立぀ずいうこずがで

きるずすれば裁刀所すらもたた内閣のコントロオルのもずに立぀ずい぀おいえな

いこずはなくなるだろう。人事院が内閣のコントロオルの䞋にあり内閣が人事院の行

動に぀いお囜䌚に察しお責任を負うこずができる状態にあるずはずうおいいいえな

いずおもう。71

裁刀官は内閣によっお指名任呜憲法 6 条 2 項79 条 1 項80 条 1 項され裁刀所

の予算に぀いおも裁刀所法 83 条 1 項で独立しお蚈䞊すべきものずはされおいるものの内

閣の䜜成するもの憲法 73 条 5 号である。もし人事暩や予算暩だけで独立性が吊定さ

れるならば裁刀所が内閣の䞋にあるずいう奇劙な垰結をもたらしかねないず指摘したの

である。

この宮沢の批刀は十分な説埗力を有するものでこれ以降独立性吊定説がそれだけで

䞻匵されるこずは少なくなっおいく。さきほど匕いた䜐藀功の『ポケット蚻釈党曞 憲法』

の旧版ははしがきで宮沢のコンメンタヌルを参照できなかったこずを断っおいるが新版

では「もしも任呜暩や予算に関する暩限があれば足りるずするこずにのみ理由を求めよう

ずするならば裁刀所すらもたた内閣の統制の䞋に立぀ずもいいうるこずずなり」72ず宮沢

69 枅宮四郎『憲法Ⅰ 〔第 3 版〕』305 頁有斐閣1979 70 宮沢俊矩『日本囜憲法コンメンタヌル線 1』494 頁日本評論新瀟1955 71 宮沢・前掲泚70 72 䜐藀功『ポケット蚻釈党曞 憲法䞋〔新版〕』882 頁有斐閣1984

Page 47: (95) (96) - Hitotsubashi University

46

の議論を螏たえ囜䌚のコントロヌルず職務の特殊性に根拠を求める立堎に蚘述を改めお

いる。

Ⅱ期においおは玔然たる独立性吊定説は少なくなるが任呜暩に加えその期間が合理

的であれば内閣のコントロヌルが及ぶずする芋解73や反察に任呜暩さえあれば問題ない

ずいう芋解74も存圚した。しかし議論の䞭心は独立性肯定説を前提にした䟋倖を認め

るこずの合憲性の論蚌に移っおいった。そしおもっずも広く採甚された論拠は䞭立性

準叞法的性質専門技術性などの職務の特殊性から独立行政委員䌚の必芁性があるずいう

ものであった。このような立堎に立぀ものずしお林修䞉「䞭立的行政機関ず内閣の責任」

『ゞュリスト』216 号 8 頁1960田䞊穣治『新版日本囜憲法原論』261 頁青林曞院

1985䜐藀功 450 頁『日本囜憲法抂説〔党蚂五版〕』孊陜曞房1996山本浩䞉『憲法

〔改蚂版〕』207 頁評論瀟1989暋口陜䞀『憲法Ⅰ』300 頁青林曞院1998など

をあげるこずができる。

Ⅱ期の特城ずしお理解しうるのは人事暩ず予算暩を理由ずした独立性吊定説が支持を

倱う䞭で独立性肯定説に立った䞊で必芁性を䞭心に合憲性の論蚌が詊みられたこずにあ

る。しかしⅡ期ずその次のⅢ期を明確に時期的に区分するこずは困難である。ただ次

第に議論が深たるに぀れ独立性肯定説の理由づけずしお単䞀のもので説明するこずは困

難であるこずが明らかになっおいき耇数の理由づけを組み合わせるこずにより合憲性を

論蚌しようずする姿勢が顕著になっおきたずはいえる。もちろん耇数の理由づけを挙げる

ずいうこず自䜓は法孊䞊の論蚌においおむしろ通䟋ではある。しかしいずれかの理由だ

けでは䞍十分であるこずを前提にし぀぀これを耇数組み合わせるこずで論蚌を成功させ

ようずするずいうのはやや異䟋ずいえる。䌊藀正己は次のように論述しおいる。条文の

文蚀内閣の人事暩ず予算暩職務の特殊性を挙げ「以䞊の䞉぀の論拠はそれぞれ単独

では十分の合憲の理由ずなりにくいがその党䜓を総合しお考えるず独立行政委員䌚は違

憲ずする必芁はないず解される。」75たた芚道豊治は執政・行政の区別や職務の特殊性な

どを挙げ「これらの理由は盞補いかね合わせお考えられるべきものであるず思われる」76

ず論じおいる。抂ね1970 幎代頃からは独立性肯定説に立ちながら耇数の理由づけを䜵

甚するこずで党䜓ずしお合憲の結論を導こうずする傟向が匷たっおきたように思われる。

Ⅲ期の耇数理由の総合考慮による論蚌ずしおは䟋えば泚釈日本囜憲法の次のようなも

のがある。

行政委員䌚の合憲性はむすべおの行政を内閣のコントロヌルの䞋に眮くこずによ

73 山内䞀倫「憲法ず行政委員䌚」ゞュリスト 130 号 64 頁1957 74 平井孝「論点四䞉」田䞊穣治線『憲法の論点』274 頁法孊曞院1965 75 䌊藀正己『憲法』494495 頁匘文堂1982 76 芚道豊治『法埋孊党集 1 憲法』131 頁ミネルノァ曞房1973

Page 48: (95) (96) - Hitotsubashi University

47

っお民䞻的責任行政の原則を確立するずいう前提を維持しながらロ行政委員䌚の

職務の特殊性による独立性の皋床に応じお内閣の暩限ず責任が瞮小されるが最小限

床予算暩ず人事暩を内閣が保持しハ内閣のコントロヌルの䞍十分さを囜䌚のコン

トロヌルによっお補充するこずによっお根拠づけられるものず解されるのである。さ

らに職暩行䜿䞊の独立性を有する行政委員䌚の存圚は基本的には迅速か぀簡易な

手続きによる囜民の人暩保障の必芁性に応えるずいう憲法䞊の人暩保障の原則に正統

性が補匷されよう。77

人暩保障ぞの蚀及はやや特城的であるが䞍十分な点を他の理由によっお「補充」するず

いうのがⅢ期の基本的な発想であるように思われる。この意味で今日の䞻芁な䜓系曞な

いし教科曞類を参照するず独立行政委員䌚の合憲性に関する論蚌はかなりよく䌌おいる。

それぞれの論者によっお指摘する芁玠には埮劙に違いがあるものの耇数芁玠を挙げそ

れらが互いに補い合うこずで合憲ずの結論を導こうずしおいるのである。

このように耇数の理由づけを総合しお論蚌を行うのがⅢ期の特城ずいえよう。

さおここたで独立行政委員䌚の合憲性をめぐる孊説の展開を抂芳しおきた。Ⅰ期にお

いおは倚くの孊説が独立行政委員䌚合憲説に立ち぀぀もその論拠ずしおは倚様なものが

あり独立性吊定説も有力であった。しかし宮沢の人事暩ず予算暩のみで独立性を吊定す

るこずはできないずの批刀を受けお独立性吊定説は支持を倱っおいった。そしおⅡ期に

おいおは倚くの孊説が独立性吊定説の枠内にありながら様々な理由づけを挙げおいっ

た。しかし決定的な理論ずいうのは珟れず次第に耇数を組み合わせお合憲性を論蚌しよ

うずいうⅢ期の方向性に移行しおいったずいうものである。

もちろんこれはあくたでもごく倧たかな傟向でありこれによっおは説明できない議論

も数倚くあるずころである。ずりわけ独立行政委員䌚違憲論に぀いおは党くここたで

説明をしおいないのでここでその論理をたどっおいくこずずしたい。そもそも独立行政

委員䌚に察しお単に疑矩を挟むにずどたらずその違憲性を正面から論じた者はほずんど

いない。青朚䞀男の違憲論がほずんど唯䞀ずいえる。青朚は次のように䞻匵する。

内閣総理倧臣が行政各郚を指揮監督し党郚の行政暩の行䜿に぀いお囜䌚に察し責任

を負うずいう䞀連の芏定は囜䌚を通じお党行政を囜民のコントロヌルの䞋におくず

いう民䞻政治責任政治の原則を定めた憲法の根幹でありわれわれ改憲論者から芋お

も改正の䜙地のない完備した重芁芏定である。憲法尊重論者ずしおは特に重芖し寞毫

の違反も蚱さないずいう態床でなくおはならない。然るに公正取匕員䌚が独犁法の斜

行䞊内閣から独立しお職暩を行䜿するのはこの憲法の根幹に抵觊するずいうのがこ

77 暋口陜䞀ほか『泚釈日本囜憲法䞋』1026 頁〔䞭村睊男〕青林曞房1988

Page 49: (95) (96) - Hitotsubashi University

48

れから私が本論で述べようずする点である。78

たさに独立行政委員䌚の合憲性に぀いお圓初から問題ずなっおいた民䞻的責任行政の論

理ずの抵觊を問題ずしおいるのである。そしお青朚は宮沢の独立性吊定説ぞの批刀を揎甚

しお「任呜暩や予算暩を握っおいるずいう理由で公正取匕委員䌚を内閣の指揮監督䞋の機

関ずするならば最高裁刀所も内閣の指揮監督䞋の機関ずいうこずになる。」79ず議論を進

めおいる。ただし青朚は独立行政委員䌚党般に぀いお違憲論を䞻匵しおいるわけではな

い。公正取匕委員䌚のみを問題ずしおいたのである。青朚は宮沢の「異議・蚎願等の争蚟

の裁決ずかあるいは技術䞊埡胜力の詊隓の採点の類い」は合憲ずいえるずの論を匕いたう

えで次のようにいう。

私はこれに専門技術の事務を加えお独立性を認めお然るべきものは

準叞法の事務䟋えば公害等調敎員䌚

専門技術の事務䟋えば航空事故調査委員䌚

囜家詊隓の事務䟋えば人事院の公務員の資栌詊隓

の䞉者であるず考える。政治䞊の䞭立公正などはこれに該圓しないず解すべきこず前

述のずおりである。80

぀たり青朚の違憲論はその語気の匷さはずもかくずしお宮沢説にかなりの皋床たで

沿ったものであったずいえるであろう。青朚の違憲論は「こずの性質䞊囜䌚のコントロ

オルに服するに適さない」職務ず「できるだけ政党的なコントロオルから独立であるこずが

芁請されおいる事項」ずの間に合憲・違憲のラむンを匕くべきであるずいうものであった。

この青朚の違憲論は政府の政策を動かすこずはなくたた孊説にも圱響をほずんど䞎え

なかった。ただ果たしお青朚の論が十分な理由がないものであったかは明らかでない。「こ

ずの性質䞊囜䌚のコントロオルに服するに適さない」のみに独立行政委員䌚を限定すべ

きだずする立堎は理論的に培底しおいる点で匷みがある。孊説䞊も䟋えば尟吹善人

は独立行政委員䌚に぀いお「䞀郚を肯定できるずしおも詊隓の刀定・争蚟の裁定・譊

察の管理・遞挙の管理などのような分野に限定しない限りい぀たでもすっきりした解決は

埗られない。」81ず論じおいる。

次に独立行政委員䌚の合憲性に぀いおの叞法の刀断である。この点に最高裁刀䟋はなく

唯䞀の叞法刀断は犏井地裁の昭和 27 幎刀決である。この刀決は人事院芏則を適甚しお

78 青朚䞀男『公正取匕委員䌚違憲論その他の法埋論集』4445 頁第䞀法芏出版1976 79 青朚・前掲泚7875 頁 80 青朚・前掲泚7870 頁 81 尟吹善人『日本憲法 孊説ず刀䟋』127 頁朚鐞瀟1990

Page 50: (95) (96) - Hitotsubashi University

49

なされた免職凊分に぀いお人事院が憲法 65 条等に違反し「違憲の行政機関」であるた

め人事院芏則もたた無効であり凊分を取り消すように求めお原告が出蚎したずいう事件

である。刀決は憲法が「単に行政暩は内閣に属するず芏定しお立法暩や叞法暩の堎合

のように限定的な定め方をしおいないこずに城すれば行政暩に぀いおは憲法自身の芏定

によらなくおも法埋の定めるずころにより内閣以倖の機関にこれを行わせるこずを憲法が

認容しおいる」こず人事院の蚭眮目的が「憲法の根本原則である民䞻䞻矩に適合し又囜家

目的から考えお必芁である」82こずを挙げ人事院は合憲であるず刀断した。裁刀所は芁

するに 65 条の文蚀ず人事行政の特殊性を挙げお合憲性を導いたものず理解するこずが

できよう。これは倚くの孊説の採るずころず同様である。なお同刀決に察しお䌊藀

正己が単独では合憲の十分な理由ずはならないずしおも耇数を総合するこずで合憲ずの

自身の議論に近いものず評しおいるこず83は泚目に倀する。

政府の芋解も孊説ずの共通性がある。先に浅井の芋解を挙げたように初期にはもっぱ

ら 65 条の文蚀に着目した合憲論を展開するこずもあった。単䞀の理由づけが政府の圓初の

説明の仕方であったのである。その埌政府特に内閣法制局の芋解がどのようなものずな

ったかに぀いおは内閣が人事予算の暩限を有しおいる限りで合憲ずする独立性吊定説に

盞圓するような考え方に立っおいるずされるこずがある。実際に「内閣が人事及び財務等

を通じお䞀定の監督暩を行䜿するずいう条件が満たされる堎合には合憲であるず解しおき

おおるわけでありたす。」84ずの答匁がされるこずがある。しかし先ほどの青朚が宮沢の議

論などを参照し぀぀法制局を远及した際には次のような答匁もされおいる。

䞀口に行政ず申したしおも非垞に幅が広いし耇雑であり千差䞇別であっお特に公

正䞭立であるこずが匷く芁請される郚分ずいうものはあるわけなんでございたしお

囜家公安委員䌚譊察――譊察行政などはその兞型だろうず思うわけでありたす。そ

こでいたの独犁行政が政治性の圱響を排陀する必芁が特に匷く望たれるずいう評䟡

をわれわれはしおいるわけなんでございたしおそういう評䟡をしたからずいっおじ

ゃ憲法違反ができるのかずいうふうな埡議論でございたすけれども私たちはそうじ

ゃなくおそういう政治性を匷く排陀しなければならない行政分野に぀いおは憲法自

身が䞃十二条なり六十六条䞉項の䟋倖をみずから蚱しおおる。85

これは職務の特殊性に着目しお独立性の必芁性を䞻匵するものずみるこずができる。぀

たり政府の芋解も内閣の人事暩ず予算暩を基本ずし぀぀もそれに尜きるものではなく

82 犏井地刀昭和 27 幎 9 月 6 日行集 3 å·» 9 号 1823 頁〔1855 頁1856 頁〕 83 䌊藀・前掲泚49495 頁 84 阪田雅裕第 140 回囜䌚第 1 類第 5 号衆議院倧蔵委員䌚議録第 20 号 2 頁1997 幎 5 月 14 日 85 真田秀倫第 80 回囜䌚第 9 郚参議院商工委員䌚䌚議録第 10 号 32 頁1977 幎 5 月 19 日

Page 51: (95) (96) - Hitotsubashi University

50

職務の特殊性などの理由を実質的には組み合わせおいるものず理解できる。

これたでにみおきたこずから孊説も裁刀䟋も政府の芋解も倧きくいっおしたえば必

芁性蚱容性や囜䌚のコントロヌルなどの耇数の理由を組み合わせるこずによっお合憲性

を導くずいう論理に立぀ものが倚い。ではこのような理由付けは十分説埗的な論蚌ずな

っおいるずいっおよいのであろうか。

根本的な疑問は単独においおそれぞれに限界を抱えおいる論拠を耇数組み合わせるこ

ずによっおなぜ合憲性を論蚌し埗るのかずいうずころにある。各論拠がその効果ずし

おは小さいが内容においおは疑矩がないずいうならばずもかく各論拠はそれぞれに本

圓にそのように解しおよいのか問題を抱えおいるのである。このような論拠を集めおも党

䜓ずしお信頌に足る根拠たり埗るかは明らかでない。すべおを合わせるこずは「すべおの

匱みを持ち合わせるこずである」86からである。

個々の論拠を芋おもたず65 条の文蚀はそれ自䜓䞀応行政暩の垰属に䟋倖を認

めるものず解する䜙地はある。しかし72 条で総理倧臣が内閣を代衚しお「行政各郚指揮

監督する。」ず定められおいるこずずの関係は問題になる。たたそもそも「唯䞀」「すべ

お」の文蚀がないこずは内閣自身がすべおの行政掻動を行うわけではなく各省庁などに

ゆだねられる郚分が倧きいこずを螏たえた曞き振りであるずの解釈も十分できるため少

なくずもこの文蚀だけで合憲性に぀ながるずは蚀い難い。

たた執政ず行政を区別する芋方には魅力があるもののそもそも日本囜憲法の解釈ず

しおかかる区別をどこたで持ち蟌むこずができるかさらに仮に区別できるずしお独立

行政委員䌚の珟圚の職務が果たしお行政に尜きるものであるかは疑わしい87。むしろ公

取委の競争政策や囜家公安委員䌚が管理するずされる「譊察に関する制床の䌁画及び立案」

88などは執政に圓たりうる。他の理由に぀いおは準立法準叞法䜜甚が独立行政委員䌚の

特質であるずするこずが適切ではないこずはすでに述べた。職務の䞭立性や専門性に぀い

おは行政機関党䜓に求められるものであっお独立行政委員䌚の理由ずはなりえない。さ

らにそもそもそのような芳念自䜓が䟋えば原発事故における原子力専門家ぞの信頌

の倱墜などを考えるず珟代瀟䌚においおどこたで維持可胜なのか89が問題ずなる。職務の

特殊性に぀いおは「こずの性質䞊囜䌚のコントロオルに服するに適さない」ものに぀い

おはずもかくそれ以倖に拡匵するこずは十分な根拠があるものずは蚀えない。「政党䞭

立性」や「専門技術性」を理由ずする合憲論に察しお「珟行制床を肯定するこずになるだけ

で通説ずなっおいるず思われる」90ず評するものがあるがこの指摘には盎ちに吊定できな

86 阪本昌成『憲法 1 囜制クラシック【第二版】』206 頁有信堂高文堂2000 87 皲田陜䞀「内閣の行政暩ず独立行政委員䌚」『憲法刀䟋癟遞Ⅱ第二版』359 頁1988 88 譊察法 5 条 4 項 1 号 89 山䞋竜䞀「原子力法制床に求められる機胜ずは䜕か䞊」法埋時報 89 å·» 11 号 123 頁2017は

「今埌は、行政庁自らが専門技術的知芋を有しおいるずいうこず、あるいは行政庁の刀断過皋に専門集団

が関䞎しおいるこずだけで、それを信頌し、専門技術的裁量を認めるこずは難しい」ずする。 90 皲田・前掲泚87359 頁

Page 52: (95) (96) - Hitotsubashi University

51

いものがある。

結局のずころ独立行政委員䌚の合憲論には疑矩が残るのである。埓来の独立行政委員

䌚の独立性を認め぀぀䟋倖的に蚱容される範囲を蚭定しようずする議論は十分成功しお

いない。だからこそ耇数の理由を組み合わせるこずによる合憲論が䞭心ずなっおいるわけ

である。独立行政委員䌚の憲法䞊の䜍眮づけを憲法党䜓の構造を螏たえたたその実際の

機胜を考慮しお根本的に考え盎す必芁がある。次章以降では米囜での議論を参照し぀぀

暩力分立論の芳点から独立行政委員䌚の合憲性に぀いおの新たな論蚌を詊みおいく。

â…€ 米囜の独立機関をめぐる刀䟋ず孊説

本章では米囜における独立機関をめぐる刀䟋ず孊説を抂芳し日本の独立行政委員䌚の

合憲性に぀いお米囜の議論から孊びうる点はいかなるものかずいうこずを怜蚎する。なお

本章における米囜の論争に぀いおの内容は補充的に束井茂蚘『アメリカ憲法入門 第 8 版』

153164 頁有斐閣2018及び倧林啓吟『アメリカ憲法ず執行特暩』177180 頁成

文堂2008を参照した他は駒村圭吟『暩力分立の諞盞』第 1 章および第 2 章に䟝拠し

おいる。

さお前章前々章においお我が囜における独立行政委員䌚が䞀般にいわれおいるこ

ずずは異なっお米囜の独立芏制委員䌚の単玔な移怍ずはみるこずができないこずが明ら

かになった。しかしそれでも米囜における議論を参照するこずには十分な意矩がある。

たず歎史的事実ずしお独立行政委員䌚を行政の圚り方ずしお積極的に甚いるずいう発想

は米囜からもたらされたずいうこずは動かないし米囜での議論の蓄積は膚倧なもので

ある。日本における独立行政委員䌚の合憲論に決定的なものがないずすれば米囜における

議論を参照するのは自然なこずであり必芁なものずいえよう。

米囜においお独立行政委員䌚の合憲性に぀いおの議論は未だ決着したものずはなっおい

ない。刀䟋䞊も珟圚たで床々争われおいる91。連邊最高裁が最初にこの問題を取り扱

ったのは1935 幎の Humphrey’s Executor 察合衆囜事件である。この事件は独立芏制

委員䌚である連邊取匕委員䌚の委員を倧統領が解任したずころ解任された委員が解任を

争っお提蚎したずいう事件である。その理由は連邊取匕委員䌚法が委員の解任事由を

職務怠慢無胜力などの法定の事由に限定しおいるのに単に倧統領ずの政策の䞍䞀臎を理

由に解任がされたのは蚱されないずいうものであった。

これに察しお合衆囜政府はそもそも倧統領の委員の解任暩を制玄する連邊取匕委員䌚

法が違憲であっお解任暩は制限されないず反論した。このような䞻匵をしたのは1926

幎の Myers 察合衆囜事件ずいう先䟋が存圚したためである。この事件は倧統領の郵䟿局

91 以䞋、連邊最高裁の刀䟋に぀いおは明瀺のない限り、

駒村圭吟『暩力分立の諞盞』2449 頁5457 頁南窓瀟2000に基づく。

Page 53: (95) (96) - Hitotsubashi University

52

長の眷免が争われたものである。連邊最高裁は郵䟿局長の眷免事由を限定する連邊法が違

憲であるずした。合衆囜憲法 2 条第 1 節が「執行暩は合衆囜倧統領に属する。」ずし3

条 3 節が倧統領の矩務ずしおいる法埋の誠実な執行には公務員の任呜暩のみならず

解任暩を保持する必芁がある。そしお合衆囜憲法 2 条 2 節は倧統領の公務員の任呜に

぀き「䞊院の助蚀ず承認」を芁求しおいるがこのように倧統領の任免暩を制玄するには憲

法䞊の芏定がおかれなければならず同様の芏定がない以䞊解任暩は無制玄ず解するべき

であるずいうのが論拠であった。

しかし連邊最高裁はHumphrey’s Executor 察合衆囜事件では䞀転しお解任事由の

制限を合憲ずした。先の Myers 事件刀決の射皋を「玔然たる執行的公務員」に限定し独

立芏制委員䌚である連邊取匕委員䌚の委員の解任に぀いおは及ばないずしたのである。そ

しお今回は解任暩の制玄を認めるこずができる理由ずしお連邊取匕委員䌚には䞭立性

が求められるこずたた委員䌚の職務は政治的ないし執行的ではないこず求められる専

門性を獲埗するためには長期の任期が必芁であるこずなどを挙げた䞊で連邊取匕委員䌚

は立法暩ず叞法暩を行䜿する立法郚ず叞法郚の「代理機関」であるので倧統領の解任暩を認

めるべきではないずした。

1976 幎の Buckley 察 Valeo 事件においおは連邊遞挙管理委員䌚に぀いお倧統領の委

員の解任暩ではなく任呜暩が問題ずなった。連邊遞挙管理委員䌚の䞀郚の委員が䞊院仮議

長および䞋院議長の任呜ずされおいたこずが合衆囜憲法 3 条 2 節の倧統領の任呜暩を䟵

害するのではないかずされたのである。そしおたさに連邊最高裁はこの条項を根拠に違

憲であるずした。倧統領の解任暩の制玄は認められるずしおも任呜暩に぀いおは職務の

特殊性を理由ずしお制玄が認められるこずはないずしたのである。

1986 幎の Bowsher 察 Synar 刀決は独立芏制委員䌚ではなく米囜䌚蚈怜査院が問題

ずなった事件である。米囜においおは䌚蚈怜査院は「議䌚の代理人」であるず考えられお

おり䌚蚈怜査院長は議䌚の同意を経お倧統領が任呜するが解任に぀いおは連邊議䌚が

暩限を有し倧統領の解任暩は䞀切認められおいなかった。そしお1985 幎に制定された

均衡予算・緊急赀字統制法は䌚蚈怜査院長に察しお䞊限を超える連邊政府の赀字に぀い

お䞀定の削枛内容を決定し法的拘束力をもっお自動的に削枛させる暩限を付䞎するもの

であった。このような暩限をもっぱら議䌚の統制にのみ服する䌚蚈怜査院長に䞎えるこず

は倧統領の予算執行暩を䞍圓に䟵害するものずしお暩力分立原理に反するのではないか

ずいう点が問題ずなったのである。この点に぀いお合衆囜最高裁はかかる暩限はたさに

執行暩であり議䌚にのみ責任を負う怜査院長が執行暩を行䜿するこずは暩力分立原理に

照らしお蚱されないず刀断した。

1988 幎の Morrison 察 Olson 事件は独立怜察官制床の合憲性が問題ずなったものであ

る。独立怜察官 Morrison 召喚を受けた Olson が独立怜察官の根拠たる政府倫理法が違憲

であるため召喚に応じる矩務はないず䞻匵したのである。Olson からはいく぀もの違憲

Page 54: (95) (96) - Hitotsubashi University

53

の䞻匵がされたがここで重芁なのは公務員である独立怜察官に぀いお叞法長官の解任暩

が盞圓な事由のある堎合に限定されおいるこずの違憲性に぀いおの䞻匵である。

この䞻匵に察しお合衆囜最高裁は結論ずしおは合憲であるずの刀断を瀺したのである

がその理由づけは埓来の刀䟋ずは異なるものであった。同刀決はHumphrey’s Executor

察合衆囜事件以来の「玔然たる執行的公務員」ず立法的叞法的䜜甚を行う「行政」的公務員

の区別を明瀺的に砎棄し解任事由の制玄が倧統領の「執行暩」ないし「誠実執行矩務」を

阻害するものであるかずいう基準においお刀断するべきずしたのである。そしお独立怜察

官は倧統領の解任暩の制玄を認めるず「執行暩」等を害するほどの重芁性を有しないので

合憲であるずの結論を導いた。

Morrison 察 Olson 刀決は埓来の圢匏的根拠ず実質的根拠を䜵甚する論理から実質的根

拠のみをもっお正統化する論理ぞず転換をもたらした刀決であるず評䟡されおいる。もっ

ずもその埌も圢匏的根拠に基づくず考えられる刀䟋もみられるずいう。

このような米囜の刀䟋の傟向は衚局的には日本の独立行政委員䌚をめぐる議論ずよく

䌌おいる。専門性や䞭立性などの実質的根拠をもずに独立行政委員䌚の存圚を柔軟に認め

ようずする立堎やあるいは暩力分立を圢匏的厳栌にみお違憲ずの結論を導く立堎が芋

られるこずに加えそれらの䜿い分けがアドホックにみえ「支離滅裂」ずも評されるように

䞀定の説埗力ある議論枠組みが構築されおいないこず92にも日本における議論状況ず共通

性を芋いだせるかもしれない。

しかしここではむしろ米囜の刀䟋ず日本における議論状況ずの間での前提の違いに着

目したい。米囜における独立芏制機関をはじめずする独立性ある機関の合憲性に぀いおの

玛争ずいうのは倧統領の任呜暩解任暩の制限に぀いお䞻に生じおきおいる。そしお

その制限は誰によっおなされおいるかずいえば連邊議䌚によるものであるこずが明確に

意識されおいる。぀たり米囜の議論ずいうのは執行府ず立法府ずの間の暩限の衝突の問

題ずしお取り扱われおいるのである。日本の独立行政委員䌚の堎合はこのような意識は乏

しい。独立行政委員䌚の合憲性に぀いおの䞭栞的な疑矩ずいうのは囜民から囜䌚囜䌚か

ら内閣内閣から各行政機関ずいう責任の連鎖から倖れる機関が存圚するこずが民䞻䞻

矩の芳点から蚱されるかずいう点であったからである。内閣の指揮呜什暩が及ばずしたが

っお囜䌚のコントロヌルも十分及ばないこずが問題であるのであっお囜䌚の盎接のコン

トロヌル䞋にあるなら問題はないずいうのが埓来の日本の倚くの孊説が採るずころであ

った。この点の日米の前提の違いは重芁な意味を持぀ず考える。そこで連邊最高裁の刀

䟋の前提ずなっおいる思考に぀いお米囜の孊説を参照し぀぀さらに怜蚎するこずずした

い。

駒村の敎理93によれば米囜の独立芏制機関を始めずする独立の機関をめぐる孊説は①

92 駒村・前掲泚9168 頁 93 駒村・前掲泚9184 頁107 頁

Page 55: (95) (96) - Hitotsubashi University

54

独立機関違憲説②議䌚機関論③倧統領議䌚競合機関論の 3 ぀に倧別するこずができるず

いう。さらに駒村はこれらの他に「第四郚門」論を玹介しおいる。これは「既存の統治

機関から完党に独立した公正・䞭立な行政暩力郚門」であるずされる。たさに「頭のな

い第郚門」ずいう叀兞的な独立行政委員䌚批刀のむメヌゞに盞圓する議論ずいえようか。

しかし米囜における独立行政委員䌚の議論の際には実はこうした「第四郚門」論は既

に䞭心的なものではないずいう。以䞋でそれぞれの孊説をごく簡単に玹介する。

たず①独立機関違憲説は暩力分立原理の厳栌な適甚を求め独立機関を違憲ずする議

論である。執行暩が倧統領に垰属するずいう原則を匷調する。②の議䌚機関論は独立機関

の合憲性を認めるがその論理は柔軟な暩力分立芳を前提ずし぀぀連邊議䌚の䞀郚

congress of arm ずしお独立機関の存圚を認める。Humphrey’s Executor 察合衆囜事件が

この立堎に基づくものずしお理解されおいる。同刀決では「䞭立性」がその重芁な論拠

ずなったがそこでいう「䞭立性」ずは議䌚の制定した法什をその通りに執行府による裁

量的刀断なしに実行するこずであるずされる。このような意味での「䞭立性」を達成する

ためには連邊取匕委員䌚は議䌚の機関ずしお存圚するべきであり埓っお倧統領の解

任暩が制玄されるこずも蚱されるずするのである。③の倧統領議䌚競合機関論は②ず同

じく柔軟な暩力分立芳に立ち぀぀もたた独自の「䞭立性」抂念を甚いお独立機関の存圚

を肯定しおいる。そこでは倧統領ず議䌚ずの䞡方から等距離を保぀こずが「䞭立」である

ず芳念され執行府ず立法府の管蜄暩が競合する堎ずしお独立機関が存圚するずの理解が

瀺される。ここでは②説ずは異なり独立機関は党くの議䌚の機関でもないが䞀方で倧

統領だけが管蜄する機関でもないずされる。

もちろん①③の各説はそれぞれにより豊かな内容を含んでいるがここで確認しお

おきたいのは駒村が指摘する通り「第四郚門」論におけるような我々が通垞むメヌゞ

するような「䞭立性」ないし「独立性」の抂念ずは盞圓異なった前提に立っお米囜におけ

る議論は行われおいるずいうこずである。すなわち倚くの孊説は独立の機関ずはいい぀

぀もその「独立性」は他のいかなる者の指図を受けず自ら刀断行動をするずいう文字

通りの意味ではないず考えおいるずいうのである。同様に「䞭立」性も党くの䞍偏䞍党

䞭立公平ずいう意味では理解されおいない。

さお駒村は米囜における議論状況を参照したうえで次のような独立行政委員䌚の論蚌

を行う94。囜家䜜甚の䞉暩ぞの静的な配分のみならず暩力盞互の関係性に着目する立堎に

立ちその関係性を芏埋する固有の法理ずしお「抑制・均衡」を䜍眮づける。そしお抑制・

均衡の法理が執行府の拡倧に察する批刀的・察抗的措眮ずしおの独立行政委員䌚の存圚を

蚱容しおいる。しかしだからずいっおいかなる機関を蚭けおも蚱されるずいうこずにはな

らずその蚭眮の合理的理由は必芁ずなりその刀断基準が内閣の法埋の誠実執行矩務憲

94 駒村・前掲泚91245248 頁

Page 56: (95) (96) - Hitotsubashi University

55

法 73 条 1 号に眮かれる。政府が誠実な執行ができないず思われる際には立法措眮を取

り独立行政委員䌚を蚭眮するこずが認められるずするのである。

䞊蚘のような駒村の議論は米囜の理論の日本ぞの導入ずしお説埗力のあるものである。

ただし必ずしも駒村においおも明瀺的に論じられおいない日本ず米囜の政治制床の違い

に起因する問題が残るず私は考えおいる。それは日本の憲法孊説においおもっずも根本

的な問題ずされおきたが米囜においおは珟圚それほど問題ずされおいない点民䞻的責任

行政の原理ずの抵觊の問題にかかわる。この論点は米囜においおは文字通りの「独立性」

はないずいうこずによっお回避されおいる。すなわち米囜における独立芏制委員䌚を始め

ずする独立の機関は倧統領の完党な支配の䞋にないずいうだけであり議䌚やあるいは倧

統領ず議䌚の競合する管蜄には服しおいるずされるのである。その意味で米囜の独立機関

は民䞻的な機関であるずもいえるわけである。

そうするず日本の独立行政委員䌚においおは日本囜憲法䞊抑制・均衡の法理が認め

られか぀誠実執行の挫折が芋られるずしおもそれだけでは民䞻的責任行政の原理ずの

抵觊が問題にならないずいうこずはできないこずになる。あくたで日本の独立行政委員䌚

は「第四郚門」論のように文字通りの独立性を有するものずしお構想されおきたからで

ある。だずすれば䞊蚘の駒村の論蚌には前提ずしお独立行政委員䌚の䜍眮づけを䜕ら

かの意味での民䞻的なものず蚭定するこずが必芁なはずである。

米囜の議䌚機関論や倧統領議䌚競合機関論にならい囜䌚付属機関ず䜍眮づけるかあ

るいは内閣ず囜䌚の管蜄暩が競合する機関ずしお䜍眮づけるこずが考えられる。しかし駒

村が瀺唆する95ように米囜ず異なり議院内閣制を採甚する日本においおは民䞻的な正統

性は囜䌚に䞀元的に垰属するので囜䌚付属機関ずするこずが自然であろう。米囜における

議論から孊び明らかになったのは日本における独立行政委員䌚の合憲性の論蚌ずしおは

囜䌚付属機関ずしおの民䞻的正統化が考えられるずいうこずである。

95 駒村・前掲泚91111 頁

Page 57: (95) (96) - Hitotsubashi University

56

Ⅵ 独立行政委員䌚による抑制均衡

独立行政委員䌚を囜䌚付属機関ずしお䜍眮付けるこずずすれば民䞻的責任行政の原理

ずの抵觊ずいう埓来憲法䞊もっずも問題ずされおきた点はクリアされるこずずなる。そし

おその䞊で柔軟な機胜的暩力分立芳を採甚すれば独立行政委員䌚の存圚を憲法 65 条

等ずの関係で説明するこずは十分可胜である。暩力分立の目的が「暩力の分離」ずいう以

䞊に盞互の抑制・均衡にあるず考えるならば必ずしも行政ずいう䜜甚が内閣の䞋に

眮かれる必然性はないずいうこずになるからである96。むしろそのような䜜甚ず機関を䞀

察䞀で察応させ「厳栌分離」を志向するこずは抑制・均衡を阻害するこずにもなりかね

ない。機関盞互の関わり合いがないならば抑制を働かせる方法がないからである。暩力分

立論を抑制・均衡ずいう目的に照らしお機胜的に考えるならば憲法 65 条が内閣に暩

限を独占させる芏定ずみるべきではないから抑制・均衡を働かせるための独立行政委員䌚

の存圚は憲法に適合するずいうこずができる。

しかしそのような考え方に立った堎合に問題ずなりうるのは果たしお囜䌚付属機関た

る独立行政委員䌚がその目的を達成するこずができるかずいう点である。議院内閣制を採

甚する日本においおは囜䌚の倚数掟の信任を前提に内閣が存圚するのであるから内閣ず

囜䌚の倚数掟は通垞䞀臎する。そしお内閣の長たる銖盞は䞎党のトップでもありずり

わけ今日の党執行郚の力が非垞に匷い状況の䞋では囜䌚を事実䞊掌握しおいるずもいえ

る。独立行政委員䌚に内閣からの独立性を認め囜䌚に属させるずいっおも実質的な違い

はほずんどないのではないかずも思われるのである。これは独立行政委員䌚の合憲性ずも

かかわっおくる事項である。抑制・均衡ずいう暩力分立原理の目的に有効でないならばあ

えお独立行政委員䌚を蚭眮する合理的な理由はないからである。

この問題の背景にある䞎党を通じた立法府ず行政府の䞀䜓化は議院内閣制の堎合には

顕著である。しかし倧統領制をずった堎合には生じないかずいえば実はそうではない。

倧統領制の䞋でも議䌚の倚数掟ず倧統領の所属政党が䞀臎するいわゆる統合政府のもず

では同様の状況ずなる。このこずを明確に指摘した議論ずしおLevinson ず Pildes の「政

党分立論」97がある。

ふたりは合衆囜憲法が想定する立法府ず行政府の盞互チェックが働くかは分割政府ず

統合政府の堎合によっお異なるこずを指摘し統合政府の堎合にはチェックが十分働かな

いずいう問題があるず論じた。そしお統合政府の堎合には叞法による暩力のチェックに

も十分期埅できないずする。そもそも裁刀所には非民䞻的な機関であるため民䞻的に

遞出された議䌚や倧統領の行動をなぜ吊定できるのかずいう「反倚数性の難点」が根本的

な問題ずしお぀きたずう。そしお統合政府の堎合には議䌚ず倧統領が䞀臎しおある政策

を掚し進めるこずずなるのでその民䞻的な正統性は非垞に高いこずずなり叞法がそれに

96 村西良倪『執政機関ずしおの議䌚』45 頁有斐閣2011 97 倧林啓吟『アメリカ憲法ず執行特暩』238242 頁成文堂2008

Page 58: (95) (96) - Hitotsubashi University

57

反察するこずには「反倚数性の難点」が぀よく意識され十分なチェック機胜を果たせな

いこずずなるからである。

そこで統合政府の堎合にいかに政治郚門をチェックするかずいうこずが倧きな課題ず

されるのである。その手段ずしお二人が挙げるのは議䌚における少数掟の暩利を保障する

こずず独立芏制委員䌚である。

議院内閣制をずる日本では基本的には囜䌚の倚数掟ず内閣は䞀臎しおおり米囜でいう

ずころの統合政府の状態が垞に生じおいるこずになる。だずすればLevinson ず Pildes の

「政党分立論」は日本の状況を考える䞊でも倧いに参考になるものずいえよう。独立行政

委員䌚に察しおは「匷い銖盞」䞋の暩力分立においお抑制・均衡を図るためにより倧き

な圹割を期埅しおよいはずである。そしお囜䌚付属機関ずしお䞀定の民䞻的正統性を付䞎

するこずはこのこずに぀いおポゞティブな意味を持぀。問題はいかにしお内閣ず䞀䜓

ずなった䞎党が倚数掟を占める囜䌚の機関ずしおの独立行政委員䌚にチェック機胜を果た

しうる制床を構築するかずいう点である。

ここで泚目すべきはLevinson ず Pildes のいう統合政府に察するもう䞀぀のチェック

手段議䌚における野党の少数掟暩である。独立行政委員䌚に察しおもっぱら倚数掟たる

䞎党のみが圱響力を行䜿できるようにするのではなく野党に察しおも䞀定の暩利を保障

し独立行政委員䌚が政府䞎党に察しおもチェック機胜を果たすこずのできるように制床

を工倫するこずが考えられる。

野党に察しお䞀皮の少数掟暩ずしお独立行政委員䌚ぞのアクセスを認めるこずは民

䞻䞻矩の原理からしおも基瀎付けるこずが可胜である。そもそも民䞻䞻矩においお尊重

されるべき「民意」ずは固定的なものではないから今日の少数掟の意芋も将来のおける倚

数掟ずなりうるものずしお十分尊重に倀するずみるこずができる98。このこずは日本囜憲

法自身も前提にしおいる。憲法は必ずしも単玔倚数決を採甚しおいるわけではなく少数

掟暩を認める芏定をいく぀も眮いおいるのである。その最も重芁な芏定は憲法改正手続き

を定めた 96 条 1 項であり3 分の 1 以䞊を有する少数掟に察しお憲法改正の発議を阻止

するこずを認めおいる。他にも55 条56 条 1 項57 条 1 項3 項58 条 2 項59 条 3

項などに少数掟暩を定めた芏定がみられる。以䞊から䞀定の少数掟に独立行政委員䌚に察

する関䞎を認めるこずは憲法䞊十分蚱容されるべきものずいえる99であろう。

さらに珟行の独立行政委員䌚制床においおもこのような野党ずの結び぀きをもたらす

こずによる抑制・均衡の発揮を認める手がかりずなりうる芏定が存圚する。それは「同䞀

政党条項」である。この芏定は倚くの独立行政委員䌚に蚭けられおいるが同䞀の政党に

所属する者が委員の過半数を超えおはならないずするものが倚い。いく぀か䟋を挙げるず

98 吉田栄叞『憲法的責任远及制論Ⅰ』46、47 頁関西倧孊出版郚2010 99 村西良倪「少数掟・反察掟・野党䌚掟――政府統制の䞻䜓に関する芚曞」法埋時報 90 å·» 5 号 29 頁

2018は、議院内閣制の構造自䜓から、野党の少数掟暩を導き出すこずが可胜であるずする。

Page 59: (95) (96) - Hitotsubashi University

58

人事院に぀き囜家公務員法 5 条 5 項が「人事官の任呜に぀いおはその䞭の二人が同䞀

政党に属し又は同䞀の倧孊孊郚を卒業した者ずなるこずずな぀おはならない。」ず定め

公安委員䌚に぀いお譊察法 7 条 5 項が「委員の任呜に぀いおはそのうち䞉人以䞊が同

䞀の政党に所属するこずずな぀おはならない。」ずしおいる。䞭倮遞挙管理䌚に぀いおは

公職遞挙法 5 条の 2 第 3 項が「前項の指名に圓぀おは同䞀の政党その他の政治団䜓に属

する者が䞉人以䞊ずならないようにしなければならない。」ずしおいる。地方の独立行政

委員䌚である人事委員䌚公平委員䌚教育委員䌚にも同旚の芏定がある。

これらの芏定のうち人事院に぀き「同䞀の倧孊孊郚を卒業した者」に぀いお芏定しおい

るのは東京垝囜倧孊法孊郚支配を懞念したこずによるナニヌクな存圚であるが他は

米囜における同皮の条項を戊埌改革期の独立行政委員䌚導入に際しおそのたた蚭けたもの

である。この「同䞀政党条項」は埓来さほど重芖されおこなかった。これは委員の政

治的䞭立性を確保するための芏定であるず理解され日本においお政党に入党するずいう

こずは比范的珍しいこずであり同䞀の政党に所属するものが過半数を占めるなどずいう

こずはほずんどあり埗ないこずであったからであろう。

しかし「同䞀政党条項」はどの政党ずも関わりがないずいう意味での「䞭立性」を確

保するための芏定ずは芋るべきでない。そのような意味での「䞭立性」を確保するためなら

ば端的に政党所属や政治的掻動を犁止する芏定を眮く方がはるかに目的が培底され過半

数に満たない限り政党に所属するこずを認める芏定ずする必芁がない。

「同䞀政党条項」の起源である米囜においおはこの条項を元に共和党民䞻党に独立

行政委員䌚の委員を割り圓おる運甚が行われおいる。䟋えば攟送や通信に぀いおの独立芏

制委員䌚である FCC 連邊通信委員䌚では「委員は倧統領が任呜しおそれを議䌚䞊院が

承認する圢だが実質的には議䌚が䞭心になっお人遞から審査たでを行う。そのうち 1 人

を倧統領が委員長に指名する。委員の任期は 5 幎で再遞も可胜である。同䞀政党から遞べ

るのは 3 人たでで䞎党偎 3 人野党偎 2 人ずいう構成になる。」100ずいうのが委員の任甚

の慣行であるずいう。これは培底されおおり原子力芏制委員䌚のような技術色の匷い機関

でも共和党ポスト民䞻党ポストずいう点が明確にされおいる101。なおこのような運甚に

は委員䌚内郚での察立が生じ運営に困難が生じるのではないかずの懞念も考えられる。

しかし党掟別割圓の慣行は米囜においおは定着しおおり䟋えば FCC の堎合では次の

ような統蚈もあるずいう。「民䞻・共和䞡党の党掟色が出お意芋が割れるこずが倚いので

はないかずいう質問に察しお3 幎間の 5 人の投祚を調べたずころ玄 700 回の議決のう

ち90が 50 の党䌚䞀臎だったずいうのである。5が審議案件に察する意芋の盞違

100 柎田厚「囜際比范研究攟送・通信分野の独立芏制機関 第 3 回 アメリカ FCC連邊通信委員䌚」

攟送研究ず調査 60 å·» 8 号 31 頁2010 101 前田䞀郎「米囜原子力芏制委員の指名・同意に぀いお」JAIF 米囜原子力政策動向 2014 幎 9 月 25 日

http://www.jaif.or.jp/cms_admin/wp-content/uploads/2014/12/new-nrc-commissioners140925.pdf

2019 幎 9 月 12 日最終閲芧

Page 60: (95) (96) - Hitotsubashi University

59

残りの 5がいわゆる党掟色の匷い投祚だった。」102必ずしも委員䌚運営が過床に察立的

になるずいうものではないのである。

日本においおも政党別に委員を割り圓おる方匏によっお運営されおいる行政委員䌚が

存圚する。それは8 条委員䌚の䞀぀である䞭倮遞挙管理䌚である。䞭倮遞挙管理䌚の委員

の指名に぀いおは同䞀政党条項を根拠に各党ぞ割り圓おをおこなっおいる103。遞挙の運

営ずいう政治的「䞭立性」が極めお匷く求められる独立行政委員䌚においお実珟されおい

る䞭立性はいずれの党からも距離を眮くずいう意味ではなく異なる利害を有する者がそ

れぞれに意芋を衚明する機䌚が䞎えられるずいう意味であるずいうこずは埓来暗黙の

うちに前提ずされおきた「䞭立性」理解の再考を促すものずいえる。

「同䞀政党条項」は独立行政委員䌚における「䞭立性」が倚様な利害関係者の意芋を

等しく衚出させそのこずによっおより望たしい決定を目指すものであるこずを瀺す芏定

であり同時に野党ずいう少数者に独立行政委員䌚ぞのアクセスを保障し「匷い銖盞」

䞋の暩力分立においお独立行政委員䌚の圹割を実効化する契機ずもなる芏定であるず理

解すべきである。

このこずは独立行政委員䌚の「委員䌚」すなわち合議制の機関であるずいう必然的な

性栌からも基瀎付けるこずができる。合議制をなぜずるかずいえばそれは合議によっお

独任制の堎合よりもより望たしい決定を達成するこずができるずの期埅が存圚するからに

他ならない。しかし同䞀の意芋を有する者同士が合議をしおもその決定がより望たしい

ものになるこずは考え難いからそこでは異なる意芋を有する者同士が議論をし決定をよ

り優れたものにするこずが想定されおいるはずである。独立行政委員䌚が合議制の機関で

あるこずは委員がそれぞれに異なる意芋ないし利害を有しおいるこずを前提にしたもの

ずいえる。独立行政委員䌚に求められるのは癜玙的な䞭立性ではなく倚様な意芋を等し

く扱うこずである。

さらにこのような倚様な利害の衚出調敎ずいう性栌は日本の戊埌の独立行政委員䌚

の実態にも即するものである。Ⅲにおいお明らかになったように日本の独立行政委員䌚

の䞭で独立芏制員䌚型の機関ずいうのは実は公正取匕委員䌚などのごく䞀郚に限られ

むしろ䞭倮劎働委員䌚のような異なる利害関係人が参加しお調敎を行うタむプの方が䞻

流なのである。8 条委員䌚に芖野を広げおも明文の芏定でもっお特定の利害を代衚する者

を委員ずする芏定がない堎合でも「実際には経枈団䜓劎働組合消費者団䜓等に属する

者を委員ずしお遞出するこずは倚い。かかる堎合には圓該瀟䌚集団の専門知識・経隓等

を審議過皋にむンプットする圹割を期埅されおいるずいえよう。」104ずの指摘がされおいる

ずころである。独立行政委員䌚を論じる際に孊説䞊前提ずされおいた文字通りの意味で

102 柎田・前掲泚10035 頁 103 河野矩克第 38 回囜䌚第 15 郚参議院議院運営委員䌚䌚議録第 19 号 1 頁1961 幎 3 月 27 日 104 宇賀・前掲泚21221 頁

Page 61: (95) (96) - Hitotsubashi University

60

の䞭立性は珟実の独立行政委員䌚には存圚しおいないものである。

Ⅹ 終わりに 「匷い銖盞」䞋の独立行政委員䌚

本論文では独立行政委員䌚を囜䌚付属機関ずしお䜍眮付けなおし野党のアクセス暩を

保障するこずで合憲性ず実効性を確保しより積極的な掻甚ぞの途を開くずいう可胜性を

瀺した。独立行政委員䌚は「匷い銖盞」䞋の暩力分立を十分なものずするための重芁なピ

ヌスずしおより肯定的に捉え盎されるこずずなる。そこでは埓来の独立行政委員䌚をめ

ぐる解釈論ずは「独立性」「䞭立性」ずいう抂念の意味内容が倉わっおくるこずずなる。す

なわち文字通りの意味での䜕者の指瀺にも服さないいかなるものずも距離をずるずい

う「独立性」「䞭立性」ではなく議䌚付属機関ずしお行政府から「独立性」を有し異

なる利害を有する者の意芋が等しく衚出されるずいう意味での「䞭立性」を有する機関ずし

お独立行政委員䌚は理解されるこずずなる。この「䞭立性」理解は独立行政委員䌚の運

営に察しお批刀的に怜蚎する芖座を䞎えるこずにもなる。埓来独立行政委員䌚に察しお

は十分な独立性が実際にはなく政府の「カクレミノ」ずなっおいるずの批刀105があった。

このような批刀は事実認識ずしおは正圓な堎合が少なくなかったず思われるがその理論

的根拠を欠いおいた。「䞭立性」を倚様な意芋が等しく衚出されるこずであるず考えるなら

ばこれらの事態は䞭立性を欠く運甚ずしお望たしくないずいうこずができる。

さらに独立行政委員䌚をこのような機関ずしお捉えるこずは民䞻䞻矩芳に察しお䞀

定の倉容を迫る郚分もある。囜䌚付属機関ずしお䜍眮付けるこずによっお独立行政委員䌚

の決定に぀いお民䞻的正統化をはかるこずができるずしおもそれは「党囜民を代衚する」

憲法 43 条 1 項囜䌚の意思決定そのものではない。たしおや「同䞀政党条項」を根拠

ずしお䞀定の利害関係者を委員ずしお遞任するこずになればそれはすべおの囜民が平

等な遞挙暩をもっお遞出した囜䌚による意思決定ずは小さくない乖離をもたらすこずず

なろう。

ドむツ憲法孊においおはBöckenförde に代衚される䞀元型モデルず Bryde や Groß ら

の倚元型モデルずいう異なる民䞻的正統化論が存圚する。䞀元型モデルにおいおは䞀人ひ

ずりの垂民が投祚などを通じお「囜民」を圢成し囜民の意思に基づいお行政掻動が

行われる限りで民䞻正統化が可胜であるずする106。察しお匁護士䌚など特定の集団の自治

などは政治的平等が確保されおいないので民䞻的に正統化されえないずいう107。䞀元型

モデルを厳密に貫くならば独立行政委員䌚は議䌚付属機関ず䜍眮付けおみおも結局のず

105 杉原泰雄『憲法Ⅱ 統治の機構』317 頁有斐閣1989

吉田善明『日本囜憲法論 第 3 版』164 頁䞉省堂2003 106 高橋雅人『倚元的行政の憲法理論 ドむツにおける行政の民䞻的正圓化論』8788 頁法埋文化瀟

2017 107 高橋・前掲泚10689 頁

Page 62: (95) (96) - Hitotsubashi University

61

ころ正統化されないずいうこずになろう。

独立行政委員䌚の正統化にはこれず察比される倚元型モデルの民䞻䞻矩芳が必芁ずな

ろう108。この議論では「開かれた民䞻䞻矩」ずいう原理が䞻匵される。すなわち必ずしも

垞に党囜民の代衚たる議䌚の決定による正統化が求められるのではなく個々の局面ごず

に利害関係を有する人々による決定がされるこずも民䞻的に正統なものずしお理解するこ

ずができるずするのである。Groß の論じるずころによれば合議機関に぀いおは関係団

䜓の遞挙による委員の遞出やあるいは瀟䌚団䜓盞互の利害関係の調敎ずいう圢で独自の

正圓化をするこずが考えられるずいう。このような「開かれた民䞻䞻矩」芳は魅力的な抂

念ではあるがその具䜓的にいかなる堎合においお正統化がされるかなどその内容は必

ずしも明確でない郚分があり盎ちに採甚するこずは難しい。

ずはいえ衆議院の過半数をもっお衚出される民意ずは異なる耇数の民意がありそれ

ぞれに䞀定の正統性をも぀ずいう倚元䞻矩的な民䞻䞻矩理解は「匷い銖盞」䞋の暩力分立

を考えおいく䞊で十分考慮に倀するものである。珟代の議院内閣制での抑制・均衡ずは

そのような倚様な民意を前提にしおこそ有効に機胜するからである。独立行政委員䌚の合

憲性の問題は「匷い銖盞」䞋における民䞻䞻矩芳の問い盎しぞず広がっおいく問題であり

今埌さらに怜蚎を進めおいくこずずしたい。

謝蟞

本皿は、法科倧孊院圚孊䞭に履修した「法孊研究基瀎」においお執筆した論文の䞀郚であ

る。ご指導いただいた只野雅人先生に改めお、深く感謝申し䞊げたす。

108 高橋・前掲泚106

Page 63: (95) (96) - Hitotsubashi University

62

コンプラむアンス・プログラムず法人凊眰

䞀橋倧孊法科倧孊院修了2019 幎 3 月吉田 開

目次

I. はじめに

II. 米囜におけるコンプラむアンス・プログラム

III. コンプラむアンス・プログラムず組織文化

IV. 組織凊眰に関する理論

V. コンプラむアンス及び組織文化の理論的䜍眮付け

VI. 実珟可胜な圢

VII. おわりに

I. はじめに

組織1掻動から生じる瀟䌚に察する重倧な損害が近幎泚目されおいるが、これを避けるた

め法によるむンセンティブ付䞎の必芁がある。ここで重芁になるのがコンプラむアンス・

プログラムである。

日本においおは䌚瀟法 362 条 4 項 6 号が内郚統制システムの敎備に関する事項を取締

圹䌚の決定事項ずしたり内郚統制システムの構築・運甚の䞍備を取締圹の善管泚意矩務違

反の内容ずする刀䟋が珟れたりするなど私法の分野においおはコンプラむアンス・プログ

ラムに関する考慮が採り入れられ始めおいる2。しかし刑事法の分野においお敎備された

コンプラむアンス・プログラムたたは内郚統制システムをどのように扱うかは定芋が存し

ないずいえる。そのため本論文ではこの点に関する怜蚎を行う。

米囜におけるコンプラむアンス・プログラムによる違法行為回避のむンセンティブ付䞎

の根底にある考え方はコンプラむアンス・プログラムの内容を単なる法什遵守ずするも

のからそれを越えお組織の有する颚土に関する䜕らかの芏埋ずするものぞず倉化し぀぀

ある。組織犯眪の原因は圓該犯眪行為の行為者ずなった個人のみではなく圓該個人を指揮

しおいた䞊䜍者圓該組織のシステムの圚り方ひいおは圓該組織の䌝統的な組織文化ぞず

遡っおゆくこずができる3。組織凊眰に぀いお考察する堎合には組織犯眪の原因を分析し

1 本論文は䌁業や法人に限らず組織によっお、たたは組織の内郚で匕き起こされる犯眪を怜蚎察象ずする

ため、組織ずいう蚀葉を甚いるが、歎史的経緯や識者の説明においおはこれに代えお䌁業や法人ずいう蚀

葉が甚いられる堎合が倚く、その堎合には甚語をそのたた甚いおいる。なお、犯眪を匕き起こすこずを目

的ずしお成立する組織に぀いおは本皿の察象倖である。なお、筆者は「組織」ずするがずくに別様に解

する必芁がないので文献の甚語をそのたた䜿甚する。 2 最刀平成 21 幎 7 月 9 日刀時 2055 号 147 頁。 3 田口守䞀「䌁業犯眪ず制裁制床のあり方」田口他『刑法は䌁業掻動に介入すべきか』(成文堂2010

幎)5-6 頁。

Page 64: (95) (96) - Hitotsubashi University

63

その抑止を図るこずが必芁ずなるためその原因をどこに求めるべきかが重芁ずなる。本論

文は米囜の考え方ず軌を䞀にし単なる法什遵守の促進だけでなく組織颚土が重芁な圹

割を果たすず考えるため米囜におけるコンプラむアンス・プログラムに぀いおの考察を行

いそこから埗られた知芋を基にしお我が囜の刑法䜓系の䞭で組織凊眰がどのように䜍眮

づけられうるのかの考察を加えながら組織凊眰の䞭でコンプラむアンス・プログラムをど

のように掻甚できるのかに぀いおの考察を加えおゆく。

II. 米囜におけるコンプラむアンス・プログラム

1. 連邊量刑ガむドラむン制定前におけるコンプラむアンス・プログラム

1960 幎代コンプラむアンス・プログラムは䌁業が埓業者の反トラスト法違反行為を

防止するための予防策ずしお普及した。重電機メヌカヌ反トラスト法違反事件ではコンプ

ラむアンス・プログラムは法的意矩を認められず䌁業法人の刑事責任を刀断するにあたっ

お䌁業に有利には䜜甚しなかった。しかし刀決においお圓時ずしおはきわめお重い刑眰が

蚀い枡されたこずから皮肉にもコンプラむアンス・プログラム導入ぞの機運が高たったの

である。さらに䌁業が反トラスト法コンプラむアンス・プログラムを導入する動きは行

政機関に肯定的に受け止められたこずによっおその進床を加速しおいったずいわれる4。

1970 幎代にはりォヌタヌゲヌト事件や盞次ぐ䌁業献金スキャンダルの䞭①䌁業内郚

では違法行為に察するマむナス・むメヌゞが非垞に垌薄で5②取締圹や埓業者らの行動の

劥圓性や適法性を保蚌する明確なガむドラむンが欠劂し6③䌁業内郚での情報䌝達機胜が

䞍足しおいる7ずいった問題点を改善するために蚌刞取匕委員䌚は䌁業に察しお自䞻的に

違法な䌁業掻動を防止するための行動芏凖を䜜成しその適正な運甚に努めるこずを求め

た。たた、1977 幎連邊倖囜䞍正慣行防止法(The Foreign Corrupt Practices Act of 1997)は

䌁業に察しお内郚的な䌚蚈コントロヌルシステムの敎備を矩務付けた。これらの政策は功

を奏し倚くの䌁業が経営手法を芋盎し䌚蚈・経理面を䞭心ずしたコンプラむアンス・プ

ログラムの敎備を進めた8。

1980 幎代コンプラむアンス・プログラムはその察象をさたざたな法領域ぞず拡倧し

おいった。このような察象の拡倧の背景には垞に䌁業スキャンダルがあった。぀たり䌁

業スキャンダルが発芚する床に法執行機関が将来の違法行為を防止するために䌁業にコ

ンプラむアンス・プログラムの実斜を求めあるいは䌁業が自らの自浄努力を瀺すためにコ

4 川厎友巳『䌁業の刑事責任』(成文堂2004 幎) 227-228 頁。 5 John C. Coffee. Jr., Beyond the Shut Eyed Sentry: Toward a Theoretical View of Corporate misconduct and an Effective Legal Response, 63 VA. L. Rev. 1102-03 (1977). 6 Id. at 1130. 7 Id. at 1146-47. 8 Id. at 1121-22.

Page 65: (95) (96) - Hitotsubashi University

64

ンプラむアンス・プログラムの導入に積極的に取り組んだ結果ずしお倚様な法領域にコン

プラむアンス・プログラムが普及したのである9。

2. 連邊量刑ガむドラむン制定埌におけるコンプラむアンス・プログラム

1991 幎に連邊議䌚叞法郚所属の独立委員䌚である合衆囜量刑委員䌚は「組織䜓に察す

る連邊量刑ガむドラむン」を法制化した。それたでは刑事眰の量刑は裁刀官の裁量の䞋で行

われおいたが実際に刀決で決定される刑期などに぀いおは盞圓の恣意性がありたた服圹

䞭の受刑者に察する仮釈攟に関する扱いも受刑者によっお盞圓皋床の差が認められおいた

ためより客芳性のある量刑ガむドラむンに基づく刀決を実斜しようずする連邊議䌚の意

向があった10。このガむドラむンは䌁業に察しお埓来ずは比范にならない高額の眰金刑を

科すこずを定める䞀方でコンプラむアンス・プログラムが適正に実斜されおいた堎合眰

金額を必芁的に軜枛するこずを明瀺した。この連邊量刑ガむドラむンは䌁業に察する眰金

額の軜枛事由ずしおのコンプラむアンス・プログラムに぀いお「圓該犯眪の阻止および発

芋の䞍成功はそれだけではプログラムが効果的でなかったこずを意味しない」ず芏定しお

いる。

さらに連邊量刑ガむドラむンはコンプラむアンス・プログラムの具䜓的な内容を決定

する際に次の 3 ぀の芁玠を十分に考慮するこずを求める。第 1 に䌁業の組織芏暡であ

る。組織の芏暡が倧きいほどプログラムの圢匏的な偎面が重芖される。第 2 に事業の内

容である。䌁業の事業の性質からみお䞀定の類型の犯眪が発生する蓋然性が高いずきは

その皮の犯眪の予防および発芋のための適切な手だおを講じねばならない。第 3 に過去

の違法行為歎である。䌁業が過去に違法行為を行ったずいう事実は予防措眮を講じるべき

犯眪の類型を指し瀺しおいるず考えられる11。

たた連邊量刑ガむドラむンは䌁業に察する固有の刑事制裁ずしおコンプラむアンス・

プログラムを遵守事項ずしたプロベむションを導入した。そこでは裁刀所が再犯の予防の

ために必芁ず認めた堎合プロベむション・オフィサヌや倖郚の専門家らの刀決前調査の結

果をふたえお䌁業にコンプラむアンス・プログラムの実斜ず実斜状況の定期的な報告を

呜じるこずが認められおいる。

連邊量刑ガむドラむンがコンプラむアンス・プログラムの実斜を促進するため積極的

に䌁業掻動や管理システムに介入しおいく方針を瀺したこずは埓来の芏定に比べお裁刀

所の暩限を拡倧したこずを意味しその効果に倧きな期埅がかけられおいる。しかし他方

では次のような根匷い批刀にさらされおいる。①経枈掻動ぞの叞法暩の過床の介入である。

9 川厎・前掲泚 4)231-235 頁。 10 梅接光匘「改正連邊量刑ガむドラむンずその背景䌁業倫理の制床化ずの関係から」䞉田商孊研究第

48 巻第 1 号(2005 幎) 148 頁。 11 川厎・前掲泚 4)231-237 頁。

Page 66: (95) (96) - Hitotsubashi University

65

②有効性が十分に実蚌されおいない。③コンプラむアンス・プログラムず量刑の関係がなお

䞍明確であり眰金刑の軜枛事由やプロベむションの遵守事項ずしおどのレベルのプログ

ラムを芁求されおいるのかがなお䞍明確である。④䌁業に察しおコンプラむアンス・プログ

ラムの促進のむンセンティブずなり埗るか䞍明である。

3. 連邊量刑ガむドラむンの改正

連邊量刑ガむドラむンは監督官庁が䌁業にコンプラむアンス・プログラムの導入を

積極的に働きかけあるいは䌁業自身がその導入を図る際に甚いられる基準ずしお広く

行き枡るこずずなった。たたコンプラむアンス・プログラムには倚様な法埋効果が付

䞎されたがその存吊を怜蚎する際にも組織䜓に察する連邊量刑ガむドラむンの定めた

7 ぀のステップを充足しおいるかが基準ずされた。䟋えばコンプラむアンス・プログラ

ムの実行による取締圹の責任枛免の可胜性に蚀及したケヌスや䌁業の䜿甚者責任の免陀

の䜙地があるかを刀断するにあたっお連邊量刑ガむドラむンの 7 ぀のステップを参照し

たケヌスなどである。加えお量刑に至る前の起蚎裁量の段階や䌁業の栌付けなどにコ

ンプラむアンス・プログラムの実斜状況が参照されるこずもあった。このような掻甚の普

遍化や゚ンロン事件によっおコンプラむアンス・プログラムの犯眪予防効果に察する信

頌が揺らいだこずからSOX法の制定や NYSE芏則の改定圓時の叞法副長官たちによる

「ホルダヌ・メモ」「トンプ゜ン・メモ」においお起蚎原則内でのコンプラむアンス・プ

ログラムの敎備状況の考慮が蚀及されたこずに加え連邊量刑ガむドラむンに定めるコン

プラむアンス・プログラムの内容の再怜蚎に向かう動きが掻発になった12。

このような経緯から合衆囜量刑委員䌚は2002 幎から特別諮問グルヌプを蚭眮し

同グルヌプに察しお組織䜓に察する連邊量刑ガむドラむンの有効性に察する怜蚌䜜業を

委ねた。いく぀かのヒアリング13を経たのち特別諮問グルヌプは 2003 幎 8 月の報告曞に

おいお「コンプラむアンス・プログラムの有効性はコンプラむアンス・プログラムの敎

備に察する盞圓の泚意に加えおコンプラむアンスに察する埓業員の参䞎を促す文化を創

出するための察策を講じるこずによっお匷化されうる」ずの結論を䞋した14。

12 Paul, F. (2004) WILL U.S. SENTENCING COMMISSION AMENDMENTS ENCOURAGE A NEW

ETHICAL CULTURE WITHIN ORGANIZATIONS? Wake Forest L. Rev, 39 at 571. 13 コメントを行ったデュヌク倧の Krawiec 教授によれば䌁業は違法行為を枛少させるこずなく簡単に

コンプラむアンス・プログラムをたねるこずができるずされた。ずいうのも教授によればコンプラむ

アンス・プログラムが効果的であるこずに぀いおは䜕ら実蚌的根拠が存しないためである。Kimberly

D. krawiec. (2003). Cosmetic Compliance and the Failure of Negotiated Governance, 81 Wash. U.L.Q.

たた、ペンシルバニア倧の Laufer 教授によれば捜査機関の胜力の限界によっお䌁業は最䜎限のコン

プラむアンス・プログラムによっお内郚の埓業員に責任を転嫁するこずができるから Krawiec 教授の考

えず同様の事態が起きるずされた。William S. Laufer. (1999). Corporate Liability, Risk Shifting, and

the Paradox of Compliance, 52, Vand. L. Rev. 14 The Ad Hoc Advisory Group on the Organizational Sentencing Guidelines. (2003). REPORT OF

THE AD HOC ADVISORY GROUP ON THE ORGANIZATIONAL SENTENCING GUIDELINES

October 7,2003 at 51. <https://www.ussc.gov/sites/default/files/pdf/training/organizational-

guidelines/advgrprpt/AG_FINAL.pdf>(2019 幎 10 月 31 日閲芧)

Page 67: (95) (96) - Hitotsubashi University

66

その埌合衆囜量刑委員䌚は2004 幎 5 月にコンプラむアンス・プログラムに関す

る芏定の充実などを目的ずした組織䜓に察する連邊量刑ガむドラむンの倧幅な改正を連邊

議䌚に提案した。

この改正における改正点ずしお次のようなものが挙げられる15。

第䞀に組織䜓に察する連邊量刑ガむドラむンにおいお「コンプラむアンス・プログ

ラム」は「コンプラむアンス及び倫理プログラム」ず呌ばれるようになった。゚ンロン

瀟は法及び䌚蚈の技術的なコンプラむアンスを遵守しおいたにもかかわらず事件は起きお

したったこずから䌁業が眰金の枛免を受けるためには組織は単に圢匏的なルヌルぞの

適合を求めたりリストを䜜成したりするだけではなくコンプラむアンス遵守が芏範ずな

りそこからの逞脱が蚱容されない雰囲気を醞成するこずに最倧限の努力を泚力しなけれ

ばならないずの趣旚の指摘がなされ16それを受けおガむドラむンにも「倫理」の文蚀が

さらに぀け加えられたものである。しかしこのように倫理の芳点をコンプラむアンス・

プログラムに盛り蟌むこずには反察の意芋も根匷い。合衆囜ではコンプラむアンスの意

矩を犯眪の予防だけに限定せず民事䞊の違法行為に察するコンプラむアンス・プログラ

ムの敎備も重芁ずの理解が広がっおいるがこの改正では察象は犯眪行為に匕き続き限

定されおいる。

第二に新しい組織䜓に察する連邊量刑ガむドラむンでは組織䜓は①犯眪行為を予

防及び発芋する盞圓の泚意を尜くすだけでは足りず②倫理的な行為及び法什遵守ぞの関

䞎を促進する組織文化を醞成するこずが求められるようになった。1990 幎代以降の米囜で

は組織文化がコンプラむアンス・プログラムの効果を高めるためのカギを握るずいう

芋解が有力に唱えられおきおおり17この芋解は過去 10 幎の䌁業によるコンプラむアン

ス・プログラムの取り組みにおいおも実蚌されおいた18。

第䞉に責任者の責任の範囲に぀いお①組織䜓の経営責任者組織䜓の䞊玚構成員及

び③実質的な暩限を有する構成員のそれぞれに぀き割り圓おられるべき責任に぀いお詳

现な芏定が盛り蟌たれた。特にCECO(Chief Executive Compliance Officer)の創蚭が芁

求され実際にコンプラむアンスを掚進するためのリ゜ヌスや暩限を䞎えるこずが矩務化

された。

第四にガむドラむンは組織䜓に察しお実質的な暩限を持぀者のなかに法什違反

15 川厎友巳「米囜におけるコンプラむアンス・プログラムの新動向」同志瀟法孊 56 å·» 7 号(2005 幎)に䟝

る。 16 Public Hearing Before the United States Sentencing Commission. (2004). (Testimony of Dov

Seidman) < https://www.ussc.gov/sites/default/files/transcript_2.pdf>(2019 幎 10 月 31 日閲芧) 17 Lynn, S. P. (1994). Managing for Organizational Integrity HARVARD BUSINESS REV. 72(2) 106-

17.たた梅接・前掲泚 10) 154 頁はそれたでは「有責性スコアを軜枛するための圢匏的な倫理プログ

ラム導入を行う䌁業が跡(ママ)を絶たなかったのであるがその堎合それぞれの䌁業に固有のリスク案件

を意図的に芋萜ずす傟向があった」ず指摘する。 18 Supra note 14 at 52.

Page 68: (95) (96) - Hitotsubashi University

67

に埓事した前歎等を持぀者などを含たないようにする合理的な努力を぀くさなければなら

ないずしおきたがこの改正においお詳现な指針が瀺されるようになった。

第五にコンプラむアンス・プログラムの評䟡にあたっお①適圓な業界の慣䟋たたは

䞀定の行政芏制によっお芁求される基準②組織䜓の芏暡(芏暡が倧きな組織䜓は小さ

な組織䜓よりもガむドラむンの芁件を充足するために圢匏的な運甚に泚力し倚額の

資金を費やすべきである。必芁に応じお効果的なコンプラむアンス及び倫理プログラム

の実行のために芏暡の倧きな組織䜓はそうした組織䜓ず商取匕䞊の関係を有するか

有するこずを求めおいる小さな組織䜓に働きかければならない)、及び③類䌌の違法行為

(類䌌の違法行為の再発は組織䜓がガむドラむンの芁件を充足する合理的な手段を講

じおいたか吊かに぀いお疑いを生む)を考慮するこずが求められるようになった。ガ

むドラむンは必芁に応じお定期的に犯眪行為の起こるリスクの評䟡を行うこずを求

め必芁があればガむドラむンに定めた芁件を充足する掻動に優先順䜍を぀けお修正

を加えるこずも求めおいる。

その埌の 2010 幎の改正では䌁業のコンプラむアンス及び倫理プログラムの改善を遵守

事項ずしたプロベむションによっお裁刀所が䌁業をモニタリングする暩限を有するこず

が明確化されるずずもに違法行為に察する䌁業の察応に関する指針が定められた19。たた

眰金刑の算定手続においお高い地䜍にある者が犯眪に関䞎しおいた堎合には認められな

かった効果的なコンプラむアンス及び倫理プログラムの実斜を眰金刑の軜枛事由ずしお

認める芏定が新蚭されるなどした。たたCECO の圹割が重芖された。CECO は取締圹䌚

に違法行為があった堎合に報告するだけでなく個人的な報告を取締圹䌚に定期的に(少な

くずも1 幎に 1 回)行う暩限を䞎える矩務があるずされた20。

III. コンプラむアンス・プログラムず組織文化

1. コンプラむアンス・プログラムに関する芏埋

䌁業掻動に䌎う逞脱ぞの察凊ずしお違法行為に察する䌁業ぞの金銭的制裁や実行行為

者の刑事責任等が匱すぎるのではないかずいう疑念が米囜では提起された。しかし個人で

ある実行行為者に察する制裁匷化は個人が合理的な効甚蚈算を行っおいるず仮定すれば

有効のようにも思われるが組織の意思決定暩限の分散や官僚的な郚門機構からそもそも

非難すべき個人を特定できない堎合も少なくないず考えられる21。非難されるべきが組織の

欠陥であるず考えられる堎合には個人ぞの刑眰の匕き䞊げは公正の芳点から問題がある

19 Paul E McGreal “Corporate Compliance survey” at 126 20 Supra note 19 at 127-128 21 John C. Coffee, Jr., “Making the Punishment Fit the Corporation: The Problems of Finding an

Optimal Corporation Criminal Sanction”, 3 N.Ⅲ. Univ. L. Rev. 3, 13 (1980); Christopher D. Stone,

“The Place of Enterprise Liability in the Control of Corporate Conduct”, 90 Yale L. J. 1, 31 (1980)

Page 69: (95) (96) - Hitotsubashi University

68

ずずもに違法行為に察する黙瀺の指瀺を䞋した䞊䜍者を芋逃しおしたう可胜性がある22。

たた組織に察する制裁匷化に぀いおは組織ずいうものの耇雑性から十分なコントロヌ

ルを望むこずができないずずもに23組織犯眪の発芚率の少なさから組織に察する組織䞍祥

事の期埅損倱は制裁を䞍盞圓に匕き䞊げなければ高くならず䞍盞圓に制裁を匕き䞊げた

堎合には制裁による被害が䌚瀟に関わる様々なステヌクホルダヌの利害に波及する可胜性

があるこずから劥圓ではない。

このような制裁匷化に察する問題点からコンプラむアンス・プログラムの実斜が泚目さ

れる。

2. 組織文化に関する芏埋

コンプラむアンス・プログラムは䞡面的な効果を有するこずが研究によっお指摘されお

いる。具䜓的には匱い倫理むンフラストラクチャヌはそれがないずきよりも非倫理的な行

為を招きやすいずいう点が指摘されおいる。぀たり裏付けずなる倫理的文化がなけれ

ば埓業員は芏範の単なる存圚から芏範が衚局的なものにすぎないずのシグナルを受け

取るこずになる。

経営孊での通説的考え方のサむモンの考えによるず24意思決定ずは諞前提から結論

を遞択する過皋のこずを蚀いその構造は決定前提から各皮代替案が出されその䞭か

ら最終案が遞択されおゆくずいうプロセスであるずされる。ここで決定前提は䟡倀

前提ず事実前提に分けられる。䟡倀前提は意思決定の内容を評䟡する基準であり人間

の䞻芳に由来するため経隓的な怜蚌が䞍可胜であるずされる。他方事実前提は意思

決定を行うに際しおの事実的芁因である。このうち䟡倀前提が組織文化に圓たる。

このようなプログラム化されない意思決定に察しおプログラム化された意思決定マ

ニュアル化された意思決定ずいわれるものもサむモンの意思決定論には存圚する。これ

はあるプロゞェクトや事業に関する意思決定のマニュアルができおいお意思決定を行

うポゞションの人が倉わっおも受け継いだマニュアルを利甚しお意思決定を行うこずが

でき意思決定がルヌティンずしおなされるのである。

この二぀の意思決定に぀いおそれぞれ「組織文化」ず「マニュアル」ずいう受け継が

れるものがある。そしお意思決定者は盞圓な芚悟がない限りこの「受け継ぎ」を拒吊

22 Kenneth Elzinga and William Breit, The Antitrust Penalties: A Study in Law and Economics, 38-

39(1976). しかしJohn C. Coffee, Jr., “Corporate Crime and Punishment: A Non-Chicago View of the

Economics of Criminal Sanctions” 17 Am. Crim. L. Rev. 419, 456-7 (1980)は犯眪による利最は䌚瀟や

経営者に生じるのであり埓業員に生じるのではないから埓業員に察する抑止の方が䌚瀟に察する抑止よ

りもコストが䜎いずする。 23 川濱昇「独犁法遵守プログラムの法的䜍眮づけ」『川又良哉先生還暊蚘念・商法・経枈法の諞問題』(商

事法務研究䌚1994 幎) 550-551 頁。 24 H. A. サむモン著(束田歊圊高柳暁二村俊子蚳)『経営行動〔第 2 版〕』(ダむアモンド瀟1966 頁)

7 頁。

Page 70: (95) (96) - Hitotsubashi University

69

するこずはできない。しかし珟圚のわが囜の刑事法の䞋では行為者個人の責任に還元

できないような「受け継がれるもの」が組織内にあった堎合にもその組織的な「受け継

がれ」は問題ずされずたたたた立件された圓時の担圓行為者の責任ずその行為者に察す

る監督責任を通じた組織責任を問うこずずせざるを埗ない25。このように組織の意思決

定が「決定の連鎖」ではなく「決定前提の連鎖」であるずすれば組織の構成員が既存

の「組織の行為」を前提ずし぀぀その時点の状況を螏たえお刀断するこずにより生じる

「組織の行為」の連鎖は決定前提に倧いに䟝存するものでありこのような性質が組織䜓

犯眪における個人責任の远及を困難ずしおいる芁因ずしお挙げられる26。

IV. 組織凊眰に関する理論

1. 個人モデルず組織モデル

第二線における怜蚎によっお重芁性の明らかになった組織文化ずいう組織の有する独

自の性質を刑事凊眰においお採り入れるこずはできないのだろうか。組織凊眰がどのよう

な理論構成でたたどのような根拠に基づいおなされるべきかずいう問題ず組織文化やコ

ンプラむアンスをどの皋床考慮できるかずいう問題は関連するため、この線においお論じ

おゆくこずにする。

わが囜では、組織凊眰の基瀎付けずしお、個人モデルず組織モデルの二぀のモデルが䞻匵

されおいる。

自然人たる代衚者を媒介しお組織は肉䜓ず粟神を持぀ずし組織䜓の圢成・運営に関䞎し

おいる個人の行動を刑眰を甚いお非難しその嚁嚇によっお組織䜓の行為を制埡しようず

する理論が個人抑止モデルでありその䞭でも有力なものが特定の自然人の犯眪を組織の

犯眪ず同䞀芖するこずで組織凊眰を認めるべきずする同䞀芖理論である。

それに察しお個人の責任を媒介ずせず組織それ自䜓の固有の性質に凊眰根拠を芋出そ

うずするのが組織モデルである。

このような同䞀芖理論ず組織モデルの関係に぀いお同䞀芖原理のように自然人を媒介

にした垰責原理では自然人ずの同䞀性に着目した組織ずしおの性質は捉えるこずはでき

おも組織ずしおの性質を捉えるこずができず逆に組織モデルでは組織ずしおの性質

を捉えるこずができないこずから䞡者の折衷をどのように図るかが問題ずされ27䜵甚説

ず統合説がこれたでに䞻匵されおきた。

25 癜石賢「䌁業の意思決定過皋における䌁業䜓質・䌁業文化ず䌁業責任」田口守䞀他線著『䌁業犯眪ずコ

ンプラむアンス・プログラム』(商事法務2007 幎) 126 頁。 26 神䟋康博「法人凊眰論の課題―近時の理論展開を螏たえお―」浅田和茂ほか線『刑事法理論の探究ず発

芋―斉藀豊治先生叀皀祝賀論文集―』88 頁。 27 川厎「䌁業に察する刑事制裁のあり方」甲斐克則線『䌁業掻動ず刑事芏制』(日本評論瀟2008 幎)

223-224 頁。

Page 71: (95) (96) - Hitotsubashi University

70

2. 䜵甚説

䜵甚説は川厎教授によっお提唱された芋解で個人モデルずしおの同䞀芖理論ず組織

モデルずしおの䌁業システム過倱論の単玔な䜵甚を認める芋解である。䌁業システム過倱

ずは䌁業の巚倧化・耇雑化による䌁業犯眪による被害の深刻化の䞀方で行為者を特定で

きないケヌスや同䞀芖察象者が犯眪行為に関䞎しおいない堎合など同䞀芖理論によっおは

刑事責任を問えない堎合に察応するための理論である28。その内容ずしおは「䌁業の泚意

矩務ずしおの犯眪防止䜓制を十分に敎備しその防止䜓制の具䜓的掻動を手抜かりなく行

うこず」を代衚者ずは切り離された法人固有の泚意矩務ずしたうえでこの泚意矩務を䌁業

が尜くさなかったために内郚者によっお違法行為が実行され法益䟵害が発生した堎合に

は䌁業のシステム面に぀いおの管理監督過倱責任を問うべきずするものである29。この䌁

業システム過倱に぀いおは䌁業の埓業者が業務に関しお違反行為を実斜した堎合そう

した行為は通垞䌁業の遞任監督に基づく行為ず考えられるこずから䌁業の過倱が掚定さ

れるべきであるずしおいる。そしおコンプラむアンス・プログラムの遵守をもっお量刑

における情状の䞀぀ずしおの地䜍にずどたらず30この掚定に察する抗匁ずするこずを提唱

する。この抗匁は䞡眰芏定における過倱掚定説における掚定に察する反蚌ずしおだけでは

なく䌁業の埓業員・たた䌁業自身に察する過倱掚定の反蚌ずしお䜿甚されるこずが想定さ

れおいる31。川厎教授はこの免責ずいう匷い効果によっお䌁業に察し犯眪防止の匷いむン

センティブを䞎えるこずを意図しおいる。

この芋解に察しおは同䞀芖理論䌁業システム過倱論の䜵甚が専ら結論の劥圓性を匷

調するこずから䞻匵されおおり既存の刑法理論ずの敎合性が明確でないずいう批刀があ

る32。たた法人ずしおの過倱の内容をさらに怜蚎するこずなく䌁業システム過倱を問題に

すれば法人の構成員による結果の予芋が著しく困難な堎合でも法人に䌁業システム過倱

が認められる䜙地が倧きくなる。このような垰結は管理・監督過倱論に含たれる極めお

抜象的な結果発生に察する予芋可胜性により過倱を肯定する危険性を䞀局増倧させるもの

であっお䞍圓であるずの指摘もなされる33。別の芳点から圢匏的倖圢的にはコンプラ

むアンス・プログラムが敎えられおいおも䌚瀟の各郚門ぞの業瞟芁請等が法遵守を軜芖し

かねない組織䞊の圧力をもたらしかねないので免責をコンプラむアンス・プログラムの実

斜だけで刀断するのは間違っおいるずいう批刀もある34。この批刀に察しおはコンプラ

むアンス・プログラムを実斜しおいた事実から法人が泚意矩務を尜くしおいたず評䟡され

るためには圢匏面だけでなく実質的なコンプラむアンス・プログラムが敎っおいなければ

28 川厎・前掲泚 4) 211 頁。 29 川厎・前掲泚 4) 211-212 頁。 30 川厎・前掲泚 4) 300-301 頁。 31 川厎・前掲泚 4) 486-490 頁。 32 今井猛嘉「コンプラむアンス・プログラムず法人凊眰」刑事法ゞャヌナル 17 号(2009 幎) 17 頁。 33 今井・前掲泚 32) 17-18 頁。 34 川濱・前掲泚 23) 577 頁。

Page 72: (95) (96) - Hitotsubashi University

71

ならないずしお川厎教授は応えおいる35。

たた䌁業システム過倱論それ自䜓に぀いおも自然人を察象にした䌝統的な刑法の諞原

則ず合臎しない点が批刀される。䟋えば「特定の自然人がかかわらない客芳的泚意矩務やシ

ステムずしおの犯眪防止矩務の違反を芳念するこずは刑法の芏範名宛人を倱うこずになる」

ずいう䌁業組織䜓責任論に察する批刀が圓おはたるずいうもの36や「䌁業システム過倱が

もっぱら客芳的過倱を意味しおおり珟行刑法の予定しおいる䞻芳的過倱を無芖しおいる」

点は「客芳的過倱を条件ずする代䜍責任を認めるこずに他ならない」ずいうもの37である。

これに察しお川厎教授は法人凊眰においお重芁なのは刑法の諞原則の墚守ではなく凊眰

範囲の合理化を堅持するこずであるずしおこの批刀に応えおいる38。

3. 統合説

統合説は暋口教授によっお提唱された芋解である。

この芋解は法人凊眰の存圚意矩を抑止察象の拡匵機胜ず抑止方法の拡匵機胜に求める。

抑止察象の拡匵機胜ずは個別の自然人に凊眰に倀するほどの違法・責任が備わらない堎合

でも倚数人の掻動が蓄積するこずで法益に察する重倧な脅嚁が発生するこずは看過できず

他方自然人の凊眰範囲の拡匵により察凊しようずするず刑事責任の過床の拡匵を招くこず

から自然人凊眰に代わり倚数人の掻動が集積する結節点ずしおの法人自䜓を凊眰察象ず

するこずで自然人凊眰の察象ずならない法人内郚の自然人埓業員に間接的ではあるもの

の包括的に犯眪の抑止を働きかけるずいうものである39。しかし犯眪事実の解明が進み

法人内郚の自然人党員に犯眪が成立しおいるような堎合には法人凊眰によっお抑止察象

を拡匵する必芁性が消倱するこずになる。このような堎合にも法人凊眰を認めるこずの意

矩ずしお法人の掻動に関連した犯眪に぀いお自然人凊眰ずは異皮の刑事制裁である法人

凊眰ずいう制床を蚭定する堎合自然人を凊眰する堎合ず異なり刑眰のスティグマは法人

それ自䜓に䞎えられるこずから法人の掻動領域から違法行為が生じたこずが明瀺される

ずいう抑止方法の拡匵機胜が提唱された4041。

そしおその䞊で法人凊眰の刑法理論䞊の正圓性は法人の掻動から生じる危険性が違法

な結果に実珟した堎合には(肉䜓を有しない)法人であっおも自己責任を問われるべきこず

他行為可胜性を有する行為者ずしおの法人に察する非難は(粟神を有しない)法人に察し

35 川厎友巳「コンプラむアンス・プログラムず法人凊眰」刑事法ゞャヌナル 17 号(2009 幎) 29 頁。 36 神山敏雄「法人凊眰制床の倉動ず理論」甲南法務研究 1 号(2005 幎) 81 頁以䞋。 37 浅田和茂「法人の犯眪ずその凊眰」『神山敏雄先生叀皀祝賀論文集 第 2 巻』(成文堂2006 幎) 54 頁。 38 川厎・前掲泚 35) 28 頁。 39 暋口亮介『法人凊眰ず刑法理論』 (東京倧孊出版䌚2009 幎)153 頁。 40 暋口・前掲泚 39) 154-155 頁。 41 このような抑止方法の拡匵機胜は䌝統的には同䞀芖理論の立堎から論じられおきたものであるが組

織モデルによっおも刑事叞法ぞのコストの増倧を抑止する芳点から認められるものずされおいる。暋

口・前掲泚 39) 102,154-155 頁。

Page 73: (95) (96) - Hitotsubashi University

72

おも芏範的には向けうるこずから導かれおいる。぀たり客芳面に぀いおは刑法における

行為性の芁件が最䜎限犯眪意思を超えた倖郚的態床の存圚を芁求しおいるず解したうえ

で法人の掻動がもたらす犯眪惹起ぞの危険が創出されおいる限りにおいお倖郚化ずいう

芁請が満たされおいるものず考え自然人の行為が法人の有する危険を創出したずいえる

範囲で圓該自然人の行為を法人の行為ず芏範的に評䟡するこずで法人に肉䜓がないずい

う法人凊眰に関する客芳面の理論的障壁を解決するものである42。そしお䞻芳面に぀いお

は故意を非難可胜性の高床さを瀺す指暙ずしお理解する堎合には他行為可胜性の皋床ず

いう芏範的刀断によっお刀断するこずは可胜であるし特別予防の必芁性の高さを城衚す

るものずしお理解する堎合には法人に察する特別予防の必芁性の皋床ずしお刀断するこ

ずが可胜ずなるずしおこのような故意の芏範的根拠は法人にも劥圓するから䞻芳面での

理論的障壁に぀いおも解決されるものであるずした43。

このような法人凊眰の根拠は同䞀芖理論ず組織モデルの双方に劥圓するこずから統合

説はそれぞれの基瀎理論ずしお統䞀的に理解されるべきものであるずする。

統合説に察しおは具䜓的事案に察しお同䞀芖理論ず組織モデルずをいかなる基準で適

甚するのか(䞡理論の優先関係あるいは適甚の先埌関係)が明確ではないずいう問題が指摘

される44。たた抑止察象の拡匵によっお自然人凊眰に芁求される凊眰芁件の氎準を法人凊

眰に限っお切り䞋げるこずは自然人に察する刑法理論の法人に察する適甚の枠を超える

こずになり刑法理論ずしおの察応関係が倱われるずの指摘もある45。

たた䜵甚説の立堎からは以䞋の 3 ぀の疑問が呈されおいる46。第䞀に組織の行為や

それによる結果のうち構成員たる自然人に還元できない郚分に぀いおの認識に぀いおも

組織モデルによる法人凊眰の存圚意矩ずしお重芖する䜙地がある。第二に統合説の立堎か

ら唱えられる抑止察象の拡匵ず抑止方法の拡匵ずいう法人凊眰の意矩は法人凊眰の効果

を述べるにすぎず法人凊眰が責任䞻矩に反しない他人の行為に察する責任でないこずを

論蚌しおいるずは蚀えない47。第䞉に統合説が同䞀芖理論ず組織モデルに぀いお法人

凊眰の理論的基瀎を充足する兞型䟋ずいう䜍眮づけを䞎えおいるこずに察しお法人凊眰

立法の具䜓的凊眰芁件ずしお同䞀芖理論ず組織モデルに察応したものを提案するのみで

非兞型的な堎合に察応する芁件が敎備されおいない点に関する説明がなされおいない。

42 暋口・前掲泚 39) 159 頁。 43 暋口・前掲泚 39) 162-163 頁。 44 今井猛嘉「䌁業犯眪ず法人の刑事責任」前掲泚 3) 57 頁。 45 神䟋・前掲泚 26) 87 頁。 46 川厎友巳「法人凊眰論の新地平―暋口亮介著『法人凊眰ず刑法理論』(東京倧孊出版䌚2009 幎)の公

刊を契機に―」川端博他線『理論刑法孊の探究 3』(成文堂2010 幎) 191-194 頁。 47 䜵甚説論者によるものではないが神䟋・前掲泚 26) 87 頁は「ある䞻䜓の違反行為を抑止するため

に共犯ずしおも行為䞻䜓ずしお把握されない別の法䞻䜓に制裁を課すずいうこずは自然人に察する制

裁䜓系では考えられないであろう」ず述べる。

Page 74: (95) (96) - Hitotsubashi University

73

4. 今井教授・甲斐教授の芋解

このような敎理に察しお今井教授は刑眰は法人ずしお行動しうる自然人の意思に働き

掛けおこそ有効に機胜しうるずいう芳点から考察を加えた48。今井教授は統合説によるア

プロヌチを基本的に支持しながらも統合説の発想を法人ず同䞀芖できるだけの暩限を有

する者には同䞀芖理論をたたそれ以倖の者にはそれらの者の関䞎を統合したうえで組織

モデルを適甚するものであるず理解したうえで同䞀芖理論の適甚される堎合のみならず

組織モデルの適甚される堎面でも自然人の関䞎を重芖するならばその根拠は組織モデル

からではなく同䞀芖理論から基瀎付けられるべきであるず考えおいる49。

甲斐教授は䞡眰芏定以倖の堎面における法人固有の犯眪胜力が吊定されるずする立堎

に立った䞊で過倱掚定の反蚌の玠材ずしおコンプラむアンス・プログラムを考慮する可胜

性を認めおいる50。

V. コンプラむアンス及び組織文化の理論的䜍眮づけ

1. コンプラむアンスに関する考慮

川厎教授の考えによれば組織それ自䜓に固有の泚意矩務を課し犯眪を抑止しようずし

た趣旚を実効的なものにするためには組織が尜くすべき泚意矩務の内容が明確である必

芁があるが他方泚意矩務の内容が芏制法什によっお倚様であるこずから䞡者の調和の

䞀぀の圢態ずしおコンプラむアンス・プログラムを人的偎面ず組織構造の䞡方に泚意を払

った法什遵守のための内郚統制システムず䜍眮づけこれを組織固有の泚意矩務の内容ず

捉えるこずを提唱する51。

暋口教授の考えによれば犯眪を抑止しようずする行為・意思が存圚する堎合には法人

凊眰の理論的基瀎である危険の量が枛少するものず考えられるから犯眪抑止的な䞊䜍者

の監督措眮やコンプラむアンス・プログラムを考慮しお法人凊眰の可吊を総合刀断するず

いう垰結が導かれる52。ここではコンプラむアンス・プログラムによっお法人の保有する

危険がどの皋床枛少したかが問題ずなるものである。したがっお法人内においお䞋䜍に䜍

眮する埓業員の裁量がコンプラむアンス・プログラムによっお十分に統制されおいるよう

な堎合法人を免責するこずは可胜であるが代衚者などコンプラむアンス・プログラムに

よっおもその裁量暩限がそれほど制玄されないような自然人の行為に぀いおは盎ちに免

責を認めるべきではなく実行行為の裁量暩限からの逞脱ずいった事情をも加味しお免責

48 今井猛嘉「法人凊眰」法孊教宀 260 号(2002 幎) 75 頁。 49 今井・前掲泚 32) 19-20 頁。 50 甲斐克則「コンプラむアンス・プログラムず䌁業の刑事責任」田口他・前掲泚 25) 116 頁。 51 川厎・前掲泚 4) 211-213 頁。 52 暋口・前掲泚 39) 171 頁。

Page 75: (95) (96) - Hitotsubashi University

74

の可吊を決定すべきである53。

今井教授の同䞀芖理論を重芖する理解によればコンプラむアンス・プログラムずはこ

れら法人ず同芖されるべきものが埓うべき違法行為防止に向けたマニュアルであるずずも

に違法行為を惹起したずしおも法人に免責の䜙地を䞎えるための抗匁事䟋集ずしお理解

されおいる。前者は違法性阻华を関連法芏の保護法益ず䟵害された法益ずの比范衡量ず理

解したうえでコンプラむアンス・プログラムをこれらの比范衡量のマニュアルにすぎず

これに沿ったからずいっお盎ちに違法性阻华が認められるわけではないずするものである。

埌者に぀いおはコンプラむアンス・プログラムを責任阻华事由ずずらえるものであり法

人の業務執行ずの関連においお違法結果の惹起が予想される堎合でもそれを回避するよ

う組織党䜓ずしお努めるべきこずの蚘述が重芁なものであるずしおいる。たた量刑阻华事

由ずしおのコンプラむアンス・プログラムに぀いおは法人の責任阻华事由に関連する事情

がたず考慮されるこずを前提に有眪ず認定された法人の特別予防䞀般予防に関する事情

が考慮されるべきものずしおいる54。

たた甲斐教授もコンプラむアンス・プログラムの違法性に察する機胜に぀いおは可胜

性の指摘を行うにずどめおいるが責任の阻华・枛少に぀いおは旧過倱論の立堎に立ち

コンプラむアンス・プログラムがよくできおいおも事故が起こるこずはありうるずいう芳

点からコンプラむアンス・プログラムを決定的なものではないにしおも、個人の行為の

認定においお、行為環境の䞀郚ずしお刀断芁玠ずするこずを認めおいる55。たた、法人の行

為の認定においおは、過倱掚定説における反蚌の玠材ずしおも考慮する䜙地を認める。しか

し同教授はプログラムに「盞圓の泚意」のような抗匁ずしおの法的意矩を䞎えるこずは

困難であるずする56。これは倧䌁業ず䞭小䌁業ずの間たた業皮間においおコンプラむア

ンス・プログラムの取り組みにばら぀きがあるずいう事実認識を螏たえたものである。同教

授はコンプラむアンス・プログラムに関する問題が監督過倱論ず密接な関係にあるが埓

業員の過倱行為が必ずしも介圚するずは限らない点で兞型的な監督過倱論ずは区別され

るずいう点を指摘する。

2. 組織文化に関する考慮

䞊蚘のようなコンプラむアンス・プログラムに関する理論のなかで組織文化に関する考

慮ずいうものを行うこずは果たしお可胜なのであろうか。

川厎教授はコンプラむアンス・プログラムを「それぞれの業務内容組織芏暡資力

䌁業颚土に応じお」構築すべきであるずしおおり57䌁業文化(䌁業颚土)はコンプラむアン

53 暋口亮介「法人凊眰ず刑法理論」刑法雑誌 46 å·» 2 号(2007 幎 2 月) 24 頁。 54 今井・前掲泚 49) 20-23 頁。 55 甲斐・前掲泚 50) 114-116 頁。 56 甲斐・前掲泚 50) 109 頁。 57 川厎・前掲泚 35) 29 頁。

Page 76: (95) (96) - Hitotsubashi University

75

ス・プログラムの内容を決定する際の䞀぀の考慮芁玠であるず考えおいるようである。前述

した実質的なコンプラむアンス・プログラムずはこのような考慮芁玠を十党に考慮しお䜜

成されたプログラムであるず蚀えよう。

暋口教授は明瀺的に䌁業文化に぀いお述べおいないが犯眪防止法什遵守的な䌁業文化

が存圚する堎合には組織凊眰の理論的基瀎である危険の量が枛少するものず考えられる

から組織凊眰の可吊に関する総合刀断の䞭でこれを甚いるこずができるのではないだろ

うか。

この点に぀いお今井教授は組織䜓自䜓の意思決定ずこれに基づく違法な結果惹起を

根拠ずしお自然人ずは別個に組織䜓を非難しようずする自己同䞀性モデルが組織䜓の粟

神や文化を重芖しおいるこずに察しお「組織䜓の刑事責任は圓該組織䜓が違法な結果を

惹起する行為に出たのがやむをえないものであったかどうかを行為時の事情に基づいお

客芳的個別的に怜蚎しお初めお刀断しうる事項」でありこのような事項を組織䜓の文化ず

いう抂念によっお䞀埋に評䟡するこずがそもそも䞍可胜であるこずから組織䜓の文化を

刑法孊においお問題ずするこずはできないずした58。

甲斐教授は組織䜓の文化に぀いお明瀺的には觊れおいないがコンプラむアンス・プロ

グラムに狭矩の法埋を超える内容である䌁業倫理各皮瀟内芏皋やガむドラむンが含たれ

おいるこずを前提に考察しおいるものでありコンプラむアンス・プログラムの内容ずしお

䌁業䜓の文化を考慮するものず考えられる59。

VI. 実珟可胜な圢

1. 組織凊眰理論

䞊蚘の組織凊眰の理論に぀いおは組織モデル適甚の理論的な基瀎付け(存圚意矩ず正圓

性)がなされおいるこずそれず調和させた圢で刑法の基瀎理論の貫培が図られおいるずい

う理論的敎合性から暋口教授のアプロヌチ(統合説)によるのが適切であるず考える。

統合説に察しおは同䞀芖理論ず組織モデルの適甚の先埌関係が明確でないずの批刀が

あるが統合説においお重芁な点は、組織凊眰の理論的基瀎の充足を刀断するこずにあり、

同䞀芖理論および組織モデルは理論的根拠を充足する兞型䟋ずしおの圹割を䞎えられおい

る60。そのため、同䞀芖理論ず組織モデルはその有する兞型に近い事䟋にそれぞれ優先され

お適甚されるこずになり、その点においお先埌関係に関しおの基準を芋出すこずができる。

たた凊眰芁件の氎準の切り䞋げによっお刑法理論ずの察応関係が喪倱されおいるずの指

58 今井猛嘉「䌁業の刑事責任」甲斐線・前掲泚 27) 15 頁。 59 甲斐・前掲泚 55) 107-109 頁。

60 暋口・前掲泚 39) 170 頁。

Page 77: (95) (96) - Hitotsubashi University

76

摘61に぀いおは圓該法人凊眰を自然人䞀人ひずりに察する凊眰であるずみた堎合には切り

䞋げられおいるように芋えるが圓該法人凊眰によっお凊眰の察象ずなる法人の段階にお

いおみた堎合には自然人凊眰ず同レベルの芁件が存圚するこずで62凊眰芁件の氎準は保持

されおおり切り䞋げられおいるものずは蚀えないず考えられる。

たた䜵存説からは組織の行為・結果に぀いお自然人に還元できない郚分に関する認識

が十分でないずの指摘があるが暋口説における凊眰方法の拡匵機胜は「法人の掻動領域

から違法行為が生じたこずが明瀺される63」こずに意味を求めるものでありこれこそが自

然人に還元できない郚分に関する機胜であるから、自然人に還元できない組織の行為・結果

に関する考慮は十分になされおいるものず考えられる。そしお法人凊眰の責任䞻矩ずの抵

觊に関する指摘぀たり他人の行為に察する責任を問うおいるこずぞの懞念に぀いおは

統合説においおは自然人が行ったこずそれ自䜓に察する責任を問うおいるのではなく法

人の掻動のもたらす犯眪惹起ぞの危険が倖郚化ずいう芁請を満たしたこずを法人による行

為ず同芖するこずによっお責任の所圚を求めるものであるからそれは法人自身の行為(ず

同芖されるもの)に察する責任であり他人の行為に察する責任を問うおいるものではない。

以䞊のように統合説に察しお指摘されおいる䞻芁な問題は解決䞍胜なものではないか

ら統合説によるアプロヌチを支持するこずができる。

しかしこのアプロヌチによる堎合芏範的責任論を根拠にしたうえでの法人凊眰の䞻芳

的芁玠(故意・過倱の察応物)が䞍明確である64ずいう問題は残るためこの点に぀いお類型

化・明確化する必芁は残るずいえる。

2. コンプラむアンス・プログラムの理論的䜍眮づけず意味合い

統合説によればコンプラむアンス・プログラムそれ自䜓は免責事由ずなるものではなく

責任・違法性枛少の考慮芁玠にずどたるこずになる。その堎合、過倱掚定における過倱の阻

华事由ずしおではなく、掚定を芆すための䞀事情ずしおの䜍眮づけを䞎えられるずずもに、

責任や違法性の皋床で決定される量刑においおの考慮を受けるこずになる。

ここで、組織に察するむンセンティブ付䞎ずしおの効果が問題ずなりうるが責任枛少事

由ずしお量刑段階においお考慮がなされるこずが鮮明ずなればそれは起蚎段階においお

も考慮を受けるこずになる。そうなれば起蚎されるずいう組織の評刀にずっお最も倧きな

ダメヌゞを回避するこずができるようになり十分にむンセンティブ付䞎の効果を持ちう

るものず考えられる。

61 神䟋・前掲泚 26) 87 頁。 62 䞋に述べるように䞻芳的芁玠の明確性も前提ずすべきだろう。 63 暋口・前掲泚 39) 155 頁。 64 川厎友巳「法人凊眰論の今日的展開―『䌁業の刑事責任』再論―」瀬川晃線『倧谷寊先生喜寿蚘念論文

集』(成文堂2011 幎) 385 頁。青朚玀博「アメリカにおける『法人責任論』の詊み」産倧法孊 30 å·» 3.4

号(1997 幎) 589 頁。

Page 78: (95) (96) - Hitotsubashi University

77

むギリスやオヌストラリアでは䌁業文化ずいう抂念が採甚されおいるが悪しき䌁業文

化の存圚だけで䌁業過倱ありず認定するこずに察しおは批刀もあり䌁業文化が犯眪を促

進させたかあるいは法遵守の雰囲気を維持し損ねたこずが故意的であるこずが蚌明され

る必芁があるのではないかずいう意芋がある65。組織文化は組織内の明瀺のガむドラむン

ずしお瀺されおいるものもあるが黙瀺的なもの䞍䜜為消極的なものもありえる。この

ように曖昧なものを犯眪の構成芁件ずするこずは囜民の予枬可胜性を倧きく害するこず

になり刑事法䞊明確性の原則に反しその芏定は無効にもなりかねない66。

しかし、統合説のアプロヌチによればコンプラむアンス・プログラムは責任枛少芁玠の

䞀郚ずしお考慮されるにずどたりその存圚のみを以お犯眪の成立が巊右されるこずには

ならないため芁求される明確性のレベルはある皋床枛少するものずいえ組織文化や組織

颚土ずいう挠然ずしたものを捉えるこずができる枠組みずなっおいるのである。

そしお統合説によれば本論考の前半においお怜蚎したような米囜での制床の倉遷の反

省も螏たえるこずができる。米囜においおは圓初の量刑ガむドラむンによっお求められお

いたのは圢匏的なプログラムだったが゚ンロン事件等によっお組織倫理の芳点に螏み蟌

んだコンプラむアンス・プログラムの必芁性が認識されたこずから二床の改正により組

織倫理組織文化的な芳点を含んだプログラムが量刑ガむドラむンによっお求められるよ

うになった。このような経緯を掻かすためには圢匏的なコンプラむアンス・プログラムだ

けでなく組織倫理や組織文化に察する圱響も考慮された実質的な内容のプログラム(以䞋、

組織倫理コンプラむアンス・プログラムずいう)の敎備に察するむンセンティブを䞎える必

芁があり統合説はこれに応えるこずのできる枠組みである。䜵甚説の発想のようにコンプ

ラむアンス・プログラムの存圚を免責事由ずしおしたうず明確性の芁請よりある皋床明確

なもののみが免責事由たりうるプログラムずしお蚱容されるこずになるため組織倫理に

察する考慮ずいうものが難しくなるが統合説における考慮の堎合には考慮芁玠にずどた

るこずから芁求される明確性のレベルはある皋床䞋がるものず考えられるためである。

これに関しおコンプラむアンス・プログラムの考慮がむンセンティブたりうるためには

組織に察する刑眰が珟状に比しおより重倧である必芁があるずの指摘がなされるこずがあ

る。しかし違法性や責任を阻华し埗る皋床のコンプラむアンス・プログラムの存圚は刀決

の段階においお違法性枛少や責任枛少の効果を持ちうるのみでなく起蚎段階においおも

考慮されるこずになるず考えられたた内郚での違法発芋のプロセスが敎備されたコンプ

ラむアンス・プログラムが存圚する堎合には叞法取匕等によっお組織が蚎远を避けるこず

ができる可胜性も高くなる。だずすれば組織はコンプラむアンス・プログラムの存圚によ

65 Boisvert. (1999). Corporate Criminal Liability Discussion Paper 1999.

<https://www.ulcc.ca/en/annual-meetings/365-1999-winnipeg-mb/criminal-section-documents/1840-

corporate-criminal-liability-discussion-paper?showall=1&limitstart=>(2019 幎 10 月 11 日閲芧) 66 癜石・前掲泚 25) 132 頁。

Page 79: (95) (96) - Hitotsubashi University

78

っお蚎远そのものを避けられるこずがあり有眪刀決を受けるこずにずどたらず蚎远され

るこず自䜓が組織の評刀に察する倧きな損害ずなっおいる珟状からすればこれは十分な

むンセンティブたりうるものず考えられる。そのため刑眰の厳栌化は組織凊眰においおコ

ンプラむアンス・プログラムを考慮するこずに関しおは必須のものではないず考えられる。

3. 望たしい内容のコンプラむアンス・プログラム

それでは組織が犯眪を発生させる危険を枛少させられるような組織倫理コンプラむア

ンス・プログラム組織颚土の圢成ずはどのような内容のものだろうか。経営トップの関

䞎埓業員ぞの䌝達監査・監督の諞点に分けお考察しおみたい。

(1) 経営トップの関䞎

ハヌバヌドビゞネススクヌルのペむン教授が唱えたむンテグリティ・アプロヌチでは正

しい単䞀のむンテグリティ戊略があるわけではなく経営者の人栌䌚瀟の歎史文化営

業皮目産業芏制は適切な䟡倀の圢成や実斜プログラムの蚭蚈に際しお考慮しなければ

ならないずされおいる。しかしなお䜕らかの成功を達成しおきた努力に若干の特城がある

ずしお「䌚瀟のリヌダヌが圌らが取り䞊げた䟡倀に基づいお行動するこずに個人的にコ

ミットしおおりそれがもっずもらしいものであり自発的に行われそうなこず67」が挙げ

られおいる。

公正取匕委員䌚の行ったアンケヌトによれば組織倫理コンプラむアンス・プログラムに

含たれる芁玠の䞭でも経営トップの意識が重芁でありコンプラむアンス担圓の圹員等を

蚭眮したたこの担圓圹員が瀟長副瀟長などの経営トップの関䞎によるものであるこずが

重芁であるずされた68。これは経営トップによっお提唱された法什遵守に関する䟡倀芳が

経営意思決定の䞭で明確に瀺されおおり組織の重芁な掻動においお反映されおいるこず

が必芁であるずするペむン教授の指摘69にも沿うものである。

同じく公正取匕委員䌚の行った組織の取り組み事䟋の分析70でも経営トップが埓業員に

察するメッセヌゞの堎においお利益よりもコンプラむアンスを重芖する姿勢を組織の方針

ずしお明確に発信すべき71であるずの認識が瀺された。

たたトップダりン的な組織颚土の圢成を目指すだけではなく法什違反が実際に発生し

た堎合に党瀟的な䜓制が迅速にずれるよう瀟長や副瀟長がコンプラむアンス担圓圹員を

務めるこずが望たしく瀟長・副瀟長が盎接の担圓ずされおいない堎合でも法什違反が瀟

67 Supra note 17 at 112. 68 公正取匕委員䌚「䌁業におけるコンプラむアンス䜓制に぀いお―独占犁止法を䞭心ずしお敎備状況ず課

題」倧西䞀枅線『䌁業のコンプラむアンスず独占犁止法』(商事法務,2006 幎) 17-35 頁。 69 Supra note 17 at 112. 70 公正取匕委員䌚・前掲泚 68) 36-53 頁。 71 志田至朗「䌁業に求められる独占犁止法のコンプラむアンスぞの取組―コンプラむアンスの実効性を高

める方策―」公正取匕 775 号(2015 幎 5 月)10 頁もビゞネスにコンプラむアンスが優先するずいう䌁業

の方針の打ち出しにおけるトップのコミットメントの重芁性を匷調する。

Page 80: (95) (96) - Hitotsubashi University

79

長たで速やかに報告されるこずが望たしい。

(2) 組織の構成員の受容

トレビヌニョらの研究によれば組織倫理コンプラむアンス・プログラムのデザむンに圓

たっおは共有された䟡倀芳に察する雇甚者の受容が重芁な芁玠である。芏範や信条は組織

のリヌダヌシップによっお圢䜜られ共有された䟡倀芳や行動原則の圢で瀺され組織内の

様々なシステムや手続きによっお匷化される72。

組織の構成員に察しお受容を促すためのプロセスに぀いおはたず文曞化を行うこずが

重芁である。米囜の SEC高官によれば優れたコンプラむアンス文化は文曞化されおいる

ずいう芁玠を有しおいるものであるずされおおり73公正取匕委員䌚のアンケヌトによれば

法什遵守に関するマニュアルを文曞化しお定めおいない事業者はマニュアルの敎備が効果

的であるず考えおいるず同時に珟圚行っおいるシステムが䞍十分であるず考えおいる割

合が高かった。ルヌルやメッセヌゞが文曞化されおいるこずは経営トップの法什遵守に察

する意識を圢で瀺すこずができるものであり構成員が目にする機䌚も増えるこずから継

続的な法什遵守颚土ぞの啓蒙の基瀎ずなる有効な手段である。

䌝達のそのほかの手段に぀いおは組織の業皮芏暡によっおさたざたな圢態のものがあ

り埗るが少人数グルヌプでの蚓緎や研修を行うだけでなく研修に基づいた自己の考えを

蚀語化させるなど組織構成員の胜動的な参加を促す手段などが効果的であるず考えられる。

(3) 監芖や監督

監査に぀いおは定期的に監査するだけではなく垞時営業郚門から情報を仕入れおゆく

こずが重芁である。たた監査はそれが行われるこず自䜓によっお効果を持぀ずずもにい

぀監査が行われるかわからないずいうこずが重芁な抑止力になりうるものである74。

クレッシヌ教授の研究によれば䌁業䞍祥事は動機・機䌚・正圓化の䞉぀の条件が敎った

堎合に起こるこずが分かっおいるが䞊蚘の経営トップのメッセヌゞの発信・䌝達は䞍正の

「正圓化」の芜を摘み取るこずになるのに察しお内郚通報窓口の存圚は「機䌚」を倱わせ

るこずになる75。コンプラむアンス掻動に぀いおは倖郚業者を起甚しお定期的に党瀟員を

察象ずしたコンプラむアンス・モニタリングを実斜すべきである。

監査をはじめずする埓業員が違法行為ぞず向かわないようにするための監督は構成員

に過床に監督されおいるずの感芚を抱かせないよう組織構成員ずの間の信頌関係が砎壊

72 Linda Klebe Treviño et al., Managing Ethics and Legal Compliance: What Works and What Hurts,

41 CAL. MGMT. REV. 131, 131-132(1999). 73 Lori A. Richards “The Culture of Compliance”

<https://www.sec.gov/news/speech/spch042303lar.htm> (2019 幎 10 月 11 日閲芧) 74 公正取匕委員䌚・前掲泚 68) 42-43 頁。 75 Cressey D. R. (1973) Other People’s Money (Montclair: Patterson Smith) p.30

Page 81: (95) (96) - Hitotsubashi University

80

されないように泚意しお行われるべきものである。研究によれば過床の監芖は埓業員に察

しお䞍信を招きそれ故に䞍信に基づいた行動を誘発しおしたうかたたは倖圚的な芁因が

内圚的な䌚瀟の基準に察する遵守ぞず向かう芁因をクラりドアりトしおしたうのではない

かずいう懞念が瀺されおいる。このどちらのケヌスであっおもプログラムは逆効果を有し

おしたうこずになる。

内郚通報制床においおも信頌関係が砎壊されないよう内郚通報による䞍利益が発生し

ないように泚意するずずもに(公益通報者保護法 3 条5 条参照)瀟内リヌニ゚ンシヌ制床

の掻甚も怜蚎されるべきである。

VII. おわりに

コンプラむアンス・プログラムは統合説の䞋で䞡眰芏定における過倱掚定を芆す考慮

芁玠であるずずもに量刑においお違法・責任枛少事由ずしお考慮されるべきである。こ

のような考慮を受けうる実質的なコンプラむアンス・プログラムずは法什遵守を志向する

メッセヌゞが圢匏的でなく実質的なものであるこずを組織構成員に䌝達するずずもにそ

れによっお健党な組織文化の醞成に寄䞎すべきものでなければならない。その手段ずしお

統䞀された組織の意思ずしおの法什遵守を瀺しなおか぀それを䞋郚構成員ずの共同の䞋

行っおゆくため盞互コミュニケヌションによるトップの関䞎が明確に瀺される必芁がある。

たた組織の意思ずしおコミットメントを行うためにコンプラむアンス・プログラムの内

容を文曞化するずずもに内郚通報窓口を蚭けるなど構造的な措眮を行うこずで組織の意

思に぀いおコミットメントを行うこずが組織䞍祥事の枛少のため肝芁である。このような

特性を備えたコンプラむアンス・プログラムが実効的に組織の遵法傟向を圢成しうるもの

ずしお違法・責任の枛少の芳点から考慮されるべきであろう。

以 侊

★謝蟞

本論文の䜜成にあたり、指導教官の本庄歊先生からは倚倧なご指導ずご助蚀をいただき

たした。ご指導を受けながら、先生の透培した思考には幟床ずなく驚かされたした。孊郚及

び法科倧孊院の指導でお忙しいなかご盞談させおいただくたびに明晰なご助蚀をくださり、

感謝に堪えたせん。

たた、法科倧孊院の友人の面々には、倜遅くたで様々な議論の䞭で思考の敎理に力を貞し

おいただきたした。圌らの助けなくしおこの論文の完成はあり埗たせんでした。深謝いたし

たす。

Page 82: (95) (96) - Hitotsubashi University

81

刑事匁護の倉化を芋る

埌藀昭䞀橋倧孊・青山孊院倧孊名誉教授

近況報告

I 䞀橋法科倧孊院の秘められた構想

II 刑事匁護の歎史を振り返る

III 倉化の意味

IV これから䜕を目指すか

近況報告

久しぶりに修了生の皆さんずお䌚いしたので私の近況を報告したす1。私は

2014幎に䞀橋倧孊を定幎退職した埌青山孊院倧孊法務研究科に移っお法科倧孊

院生を指導したした。2019幎月に青山孊院も定幎退職したした。珟圚は青山

孊院で非垞勀講垫のほか叞法通蚳逊成講座の講垫を務めおいたす。この講座

は東京倖囜語倧孊ず青山孊院倧孊が連携しお2019幎床から始めた瀟䌚人向けの

履修蚌明プログラムです。

I 䞀橋法科倧孊院の秘められた構想

今日は䞀橋倧孊法科倧孊院の秘められた構想を初めお皆さんに明かそうず思

いたす。䞀橋倧孊法科倧孊院は①ビゞネス法務に粟通し②広い囜際的芖野を

もち③豊かな人暩感芚を有する法埋家の育成を目指すずいう目暙を掲げお出発

したした。珟圚でもこの目暙を維持しおいるず理解したす。このような目暙蚭

定は叞法改革の理念ず䞀橋倧孊の沿革や実瞟立地などに照らしお適切であっ

たず思いたす。

しかし実は法科倧孊院を創ったずき私にはそのほかにもう䞀぀密かな目

暙がありたした。それは「刑事匁護を孊びたければ䞀橋Lawに行け」ず蚀

われるような法科倧孊院を創りたいずいう目暙です。その基には刑事匁護の氎

準を䞊げるこずによっお日本の刑事叞法の氎準を䞊げるずいう倧きな目的があ

りたした。

この目暙のためにいろいろな工倫をしたした。村岡啓䞀教授を専任教員に迎

えたのも怜察官教員の掟遣をいち早く法務省にお願いしたのも裁刀員仕様の

法廷教宀を造ったのも発展れミの䞭に刑事䞊蚎クリニックを蚭けたのもそのた

めでした。有胜な匁護士は有胜な怜察官が䜕を考えるか想像できなければいけた

せん。そのために優れた怜察官を教員に迎えるこずがだいじでした。私自身の担

圓科目では匁護人怜察官ずいう圓事者目線の教材を䜜り受講者には圓事者

ずしおの立論の想像力を持たせるこずを狙いたした。

Page 83: (95) (96) - Hitotsubashi University

82

このような目暙は䞀橋倧孊法科倧孊院の広報掻動の衚には珟れおいたせん。

しかし党く私の独断で進めたずいうわけではありたせん。『受隓新報』誌の䟝

頌に応じお2002幎4月号に私が曞いた「䞀橋倧孊ずロヌ・スクヌル法科倧孊院

構想」で筆者にはこのような目暙もあるこずを正盎に曞いおいたす。それをご

芧になった圓時の山内敏匘法孊研究科長はそれで良いず蚀っお䞋さいたした。

珟圚「䞀橋Lawの修了者には刑事匁護で掻躍しおいる人が倚い」ずいう

業界内での評刀を聞きたす。先にお話になった赀朚竜倪郎さんもその代衚栌

の䞀人です。その意味では私の密かな構想は成功したずいえるでしょう。ただ

し珟圚法科倧孊院で䜕を孊びたいのかそのためにどの法科倧孊院に入るの

が良いかを考えお遞ぶ方は少ないでしょう。その意味では私の目暙は達成でき

おいたせん。もっず各法科倧孊院の特城が重芖されるようになれば法曹の倚様

化にも繋がるこずでしょう。

II 刑事匁護の歎史を振り返る

21䞖玀初頭の叞法改革の䞀環ずしお法科倧孊院ができおから15幎が経ちたし

た。それ以前も芖野に入れながら珟行刑事蚎蚟法の䞋で刑事匁護がどのよう

に倉わっおきたかを振り返っおみたす。

 1990幎以前

1949幎に珟行刑事蚎蚟法が斜行されおから1980幎代たでの状況をたず考え

たす2。圓時束川事件などの劎働・公安事件で先鋭な匁護掻動がありたした。し

かし刑事匁護党䜓ずしおは掻発ではなかったずいうべきでしょう。捜査段階

で匁護人の぀く被疑者は割合ずしおはごく少数でした。被告人が吊認しおいる

のに匁護人が蚎因事実を認めるような䜎調な囜遞匁護の䟋も珍しくありたせんで

した。総じお刑事匁護は匁護士であれば誰でもできる仕事ずみられおいたし

た。

しかしそのなかにあっおも刑事匁護を掻性化するための匁護士䌚の努力は

続いおいたした。匁護士䌚は接芋指定の運甚を改善するために囜家賠償請求蚎

蚟に組織的に取り組みたした。その結果1978幎の杉山刀決最刀昭53・7・10

民集32å·»5号820頁が「䞀般的指定」の運甚を吊定したした。その埌2009幎の

最倧刀平11・3・24民集53å·»3号514頁が接芋指定に関する刀䟋法理を集倧成し

たした。その結果接芋指定をめぐる玛争は非垞に少なくなり珟圚ではむし

ろ接芋時の電子噚機の利甚や接芋の秘密の保護などが匁護人接芋に関する䞻芁

な論争点になりたした。

1970幎代からの監獄法改正の過皋で匁護士䌚は代甚監獄廃止運動を展開した

した。この運動は珟圚たでその目暙を達成しおはいたせん。しかしこの運動

は被疑者取調べを䞭心ずする捜査の問題を意識させる効果がありたした。再審

請求に぀いおの匁護士䌚の支揎は死刑4事件での再審無眪ずいう成果をもたらす

Page 84: (95) (96) - Hitotsubashi University

83

ず同時に自癜に䟝存する事実認定の危うさを明らかにしたした。  1990幎代――圓番匁護士の時代

1990幎代に入るず刑事匁護を掻性化するための匁護士䌚の掻動は新たな段

階に入りたす。地方の匁護士䌚が圓番匁護士の掟遣を始めおそれが瞬く間に党

囜に広がりたした。これによっお被疑者が匁護人ないし匁護士の揎助を受ける

機䌚が倧幅に拡倧したした。1995幎に珟代人文瀟は『季刊刑事匁護』を創刊した

した。この雑誌によっお匁護士たちが刑事匁護の経隓を広く共有するようにな

りそれが目に芋える圢で蓄積されるようになりたした。

この時期に被疑者被告人の暩利を培底しお実珟しようずする圓事者䞻矩的

adversarialな匁護の流儀が日本でも始たりたした。それを䞻導したのは高

野隆匁護士であり黙秘暩実珟を培底しようずするミランダの䌚の掻動はその

匁護の流儀を象城しおいたす。このような匁護の方法が珟れたために怜察官偎

からは匁護人が被疑者に黙秘を勧めるこずに察する批刀がありたした。それを

きっかけに匁護人の圹割に぀いお新たな議論が起きたした3。

 2000幎以埌叞法改革の時代

2000幎以埌は叞法改革の時代に入りたす。それによっお刑事叞法の様盞は

䞀気に流動的ずなり刑事匁護の方法も倧きく倉わり始めたした。

2001幎の『叞法制床改革審議䌚意芋曞』が刑事叞法に぀いお提案した諞制床

は2004幎の立法で法埋ずなりたした。そのうち被疑者囜遞匁護制床は2006

幎に斜行され2009幎から察象事件が必芁的匁護事件の眪名たで拡倧したした。

ここで被疑者囜遞匁

制床の珟実性が認め

られたのは10幎間

にわたる圓番匁護士

掟遣の実瞟があった

からです。蚌拠開瀺

を含む公刀前敎理手

続は2005幎から裁

刀員裁刀は2009幎か

ら始たりたした。刑

事叞法の担い手ずな

る法曹を逊成する制

床も倧きく倉わりた

した。法科倧孊院を

䞭栞ずする新しい法

曹逊成制床ができ

お匁護士の数も以前に比べお増えたした。

0

20000

40000

60000

80000

100000

120000

140000

160000

06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17

図 募留被疑者数・被疑者囜遞匁護人遞任数

募留被疑者数 被疑者囜遞数

Page 85: (95) (96) - Hitotsubashi University

84

その結果被疑者に囜遞匁護人が付く割合は急速に拡倧したした。図は

2006幎から2017幎たでの募留被疑者数ず被疑者囜遞匁護人遞任数を衚しおいた

す。

図は同じ時期の募留された被疑者䞭の囜遞匁護人遞任の割合を瀺しおいたす。

このように被疑者匁護が普及したのはこの時期の重芁な倉化です。起蚎埌の手

続では蚌拠開瀺の可胜性が栌段に広がりたした。裁刀員裁刀の導入によっお䟛

述調曞よりも法廷で

の䟛述によっお立蚌

する傟向が生じ公刀

䞭心䞻矩が匷化され

たした。匁論も曞面の

読み䞊げではなく裁

刀員に語りかけるよ

うになり法廷が掻発

になりたした。このよ

うな倉化の結果圓事

者法曹にずっおは尋

問や匁論の法廷技術

が重芁床を増したし

た。

これらの立法による新制床のほかに募留保釈の運甚にも倉化が生じたし

た。裁刀所が募留の必芁性に぀いおより慎重に刀断し裁量保釈の盞圓性をより

広く認める傟向が生じたした。最高裁の刀䟋ずしおは募留に関する最決平26・

11・17刀時2245号129頁や裁量保釈に関する最決平26・11・18刑集68å·»9号

1020頁が代衚的なものです。

21䞖玀の初頭にこのような倧きな倉化があったもののこの時期の立法は被

疑者囜遞匁護以倖には捜査のあり方を倧きく倉えるものではありたせんでし

た。

 2016幎刑蚎改正以埌

その状況を倉えるきっかけずなったのは2010幎にいわゆる郵䟿䞍正事件で無

眪刀決が出お同時に担圓怜察官が蚌拠物を改竄しおいたこずが明るみに出るず

いう経隓でした。この事件で裁刀所は村朚被告の共犯者ずされた人の怜面調曞

の刑蚎法321条項号埌段に拠る蚌拠請求を华䞋したした。担圓怜事は怜面調

曞に基づく筋曞きに合わせるように蚌拠物を改竄しおいたした。この事䟋は取

調べず䟛述調曞に䟝存する刑事裁刀の危うさを象城しおいたした。

この事件を受けお法務倧臣は「怜察の圚り方怜蚎䌚議」を蚭けたした。この

䌚議は取調べの録音・録画を目指す方向で新たな刑事叞法を構想するこずを提

0.00%

10.00%

20.00%

30.00%

40.00%

50.00%

60.00%

70.00%

06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17

図 囜遞匁護人遞任率

遞任率

Page 86: (95) (96) - Hitotsubashi University

85

蚀したした4。それを具䜓化するために法務倧臣は法制審議䌚に新たな刑事裁刀

のあり方を諮問し法制審議䌚に「新時代の刑事叞法制床特別郚䌚」ができたし

た。そこでの課題は「取調べ及び䟛述調曞に過床に䟝存した捜査・公刀の圚り

方」を芋盎すこずでした5。私自身もこれらの䌚議の委員ずしお議論に参加し

たした。私がそれらの委員になったのは郵䟿䞍正事件が民䞻党政暩の䞋で起き

たずいう歎史の偶然が圱響したでしょう。

この諮問に察する法制審議䌚の答申は2016幎の刑蚎法改正をもたらしたし

た。その結果たず被疑者囜遞匁護の適甚範囲がさらに広がり眪名の限定がな

くなりたした。最も重芁なのは被疑者取調べの録音・録画制床が入ったこずで

す。法埋䞊の録音・録画矩務の範囲は狭いものの珟実の運甚はそれを超えお広

がっおいたす。蚌拠開瀺に関しおは匁護人が怜察官に察しお蚌拠䞀芧衚の亀付

を求めるこずができるようになりたした。圓事者には公刀前敎理手続の請求暩

が認められたした。さらに協議合意制床すなわち捜査・蚎远協力型の叞法取

匕が刑蚎法に入りたした。同時に䞻ずしお共犯者蚌蚀をえるための刑事免責に

よる蚌人尋問の制床もできたした。通信傍受の範囲も倧きく広がりたした。

III 倉化の意味

このように最近30幎間で刑事匁護の環境は倧きく倉わりたした。たず捜査

匁護が日垞的な仕事ずなりたした。起蚎埌に匁護人が怜察官から蚌拠開瀺を受け

る機䌚は拡倧したした。これらの倉化の結果以前に比べればずっず捜査の過

皋が倖から芋えるようになりたした。裁刀員裁刀によっお公刀䞭心䞻矩が建前

だけでなく珟実的な意味をも぀ようになりたした。

このような倉化をもたらした倧きな芁因の぀は匁護士たちのたゆみない実

践ず運動です。最近匁護士になる方たちは被疑者でも募留されれば囜遞匁護人

が付くこず取調べの録音・録画を匁護人が芳られるこず匁護人が怜察官手持

ち蚌拠の開瀺を受けられるこずなどを圓たり前のように感じるかもしれたせん。

しかし日本の刑事蚎蚟法の歎史の䞭で芋ればこれらはごく最近実珟したこず

でありいずれも30幎前には倢のような話でした。いた圓たり前のように芋える

ものでもそれは先人たちの努力が蓄積した結果であるこずを意識しおほしいず

思いたす。

このような環境の倉化に応じお刑事匁護の方法も倉わりたした。たず匁護

の手段が豊富になりたした。ずくに蚌拠開瀺によっお倚くの情報を埗るこずがで

きるようになったのが重芁です。それによっお匁護人は明確な匁護方針を立お

たうえで公刀審理に臚むようになりたした。裁刀員裁刀は法廷技術の芋せ堎

です。叞法取匕も取匕圓事者の匁護人にずっおは新たな匁護の手段ずなりた

す。

刑事匁護人の圹割意識も倉わりたした。か぀おは粟密叞法の䞋で真実を明ら

Page 87: (95) (96) - Hitotsubashi University

86

かにするこずを匁護の圹割ずする意識がありたした。しかし今は䟝頌者の暩利

ず利益を実珟するこずを匁護人の圹割ずする意識が匷くなりたした。最近私たち

が目にしたカルロス・ゎヌン被疑者の匁護人亀代劇はこのような匁護の流儀の

倉化を象城しおいるように思えたす。匁護士の数が増えお匁護の手段が豊富に

なった結果自芚的に刑事匁護を専門ずする匁護士局が生たれたした。匁護士の

仕事の䞭で刑事は぀の専門分野ずしお成立したした。今や本栌的な刑事匁護

は「刑事に匷い匁護士がするべき仕事」ず思われるようになりたした。

ただしこの30幎間に匁護人だけが手段を拡倧しおその分怜察官が領土を倱

った蚳ではありたせん。この間怜察官も通信傍受叞法取匕刑事免責など

の倚くの新しい手段を埗たした。取調べの録音・録画は捜査官にずっおも有甚

であるこずは良く理解されおいたす。蚌拠開瀺にしおも取調べの録音・録画に

しおも導入する前には抵抗感があっおも実際にやっおみればすぐにそれが

自然だず感じるようになりたす。もずもず日本の刑事叞法は「怜察官叞法」ず

呌ばれるほどに怜察官が倧きな暩限ず責任を独占する傟向がありたした。それ

がだんだんず怜察官ず匁護人が事件解決の責任を分担するように倉わっおきた

ず芋るべきでしょう。協議合意制床はその象城です。

IV これから䜕を目指すか

そこで私たちはこれから先䜕を目指すべきかを考えたす。

日本の刑事叞法の最倧の問題は透明床が䜎いこずだず私は考えたす。「取調

べず䟛述調曞に䟝存する刑事裁刀」ずいう衚珟はそれを象城したす。この30幎間

の倉化によっおたしかに透明床は䞊がっおきたした。しかしただ十分ではあ

りたせん。さらに透明床を䞊げるこずを目指すべきです。

捜査に぀いおはたず被疑者取調べぞの匁護人立䌚を実珟するこずが重芁で

す。取調べの匁護人立䌚は珟代の刑事叞法の囜際暙準なので日本の叞法もそ

れを実珟しないず囜際的な信甚を埗るこずはできたせん。取調べ録音・録画矩務

の範囲を拡倧するこずも捜査の透明床を䞊げるために必芁です。たた取調べ

を接芋指定の理由ずするこずを認める珟圚の刀䟋は克服するべきものです 6。

被疑者取調べぞの䟝存を克服し匁護人立䌚を珟実的にするために取調べに

かける時間を短瞮するこずも必芁です。法制審議䌚特別郚䌚の配垃資料の䞭に

法務省『取調べに関する囜内調査結果報告曞』2011幎がありたす。これは

2010幎月に党囜の地怜が凊理した党事件に぀いお圚宅調べを含めお被疑者取

調べにどれくらいの時間をかけたかを調査した報告でありずおも貎重な情報源

です。たずえば次のような数倀が分かりたす。

図は党事件ず裁刀員制床察象事件に぀いおの取調べ時間の平均を瀺しおい

たす。裁刀員察象事件では平均43時間皋床の被疑者取調べをしおいるこずが分

かりたす。

Page 88: (95) (96) - Hitotsubashi University

87

図

党事件 裁刀員制床察象事件

譊察平均 時間分 時間分

怜察平均 時間分 時間分

合蚈平均 時間分 時間分

図は被疑眪名別に譊察ず怜察庁での合蚈被疑者取調べ時間の平均ず最長事

䟋での時間を瀺したものです。殺人だず平均で51時間以䞊になっおいたす。収賄

だず平均で130時間以䞊最長では250時間に近い取調べの䟋があるこずが分かり

たす。もしアメリカ合衆囜やドむツの捜査官がこれを芋たらおそらくその長

さに驚くでしょう。本圓にこれほどの取調べをする必芁があるかどうか考えなけ

ればなりたせん。

図

被疑眪名 平均時間 最長事䟋

殺人 時間分 時間分

珟䜏建造物等攟火 時間分 時間分

収賄 時間分 時間分

詐欺 時間分 時間分

未決の身䜓拘束に぀いおは韓囜に珟れおいるような身䜓䞍拘束原則を実珟し

たいです。珟圚の刀䟋は募留を慎重よりに裁量保釈をより緩やかにずいう傟

向を芋せおいたす。それらの刀䟋は刑蚎法60条項号89条号に定める

「眪蚌を隠滅するず疑うに足りる盞圓な理由」があるずいう刀断を前提にしお

「眪蚌隠滅の珟実的可胜性の皋床」を募留の必芁性すなわち盞圓性や裁量

保釈の盞圓性の䞻芁な芁玠ずしお考慮しおいたす。しかし蚌拠隠滅の珟実的可

胜性が䜎いのであればそもそも条文の芁件に圓たらないずするべきです。立法

論ずしおは起蚎前保釈制床を採り入れるこずによっお取調べず自癜獲埗のた

めの募留ずいう実態から脱华するべきです。

公刀手続に぀いおは蚌拠開瀺請求暩を公刀前敎理手続から切り離しお䞀般

的な制床ずするべきです。珟圚でも匁護人が公刀前敎理手続を求める䞻芁な目

的は蚌拠開瀺請求暩を埗るこずでしょう。そのために必ず公刀前敎理手続をし

なければならない必然性はありたせん。

刑事叞法の透明床を高めるためには公刀䞭心䞻矩すなわち捜査ず公刀の分離

を培底するべきです。そのために被告人の公刀倖䟛述を䜿わない立蚌が必芁で

Page 89: (95) (96) - Hitotsubashi University

88

す。吊認事件で捜査段階での自癜を蚌拠にする堎合でも基本的には被告人自身

が法廷で以前の自癜に぀いお説明するこずによっお蚌拠化するずいう運甚がで

きたす7。怜察官面前䟛述調曞の蚌拠胜力に関する刑蚎法321条項号は蚎远

官が公刀倖でたずめた「蚌蚀的」な䟛述8を䌝聞䟋倖ずしお特別に優遇しおいた

す。これは公刀䞭心䞻矩に反したす。

このような刑事叞法のさらなる倉化を実珟するために匁護士たちには倧き

な圹割がありたす。たずは日垞的な個別事件の匁護掻動の䞭で珟行制床の䞋

での運甚の可胜性を拡倧しおいくこずがだいじです。たた接芋亀通暩に぀いお

匁護士䌚がしたように刀䟋を獲埗するこずによっお法の運甚を改善するずいう

方法もありたす。裁刀官は匁護士たちの問題提起に応えお刑事手続の珟実に

着目する刀䟋を出しおほしいです。日本の刀䟋には憲法や法埋に暩利があるず

曞いおあれば暩利は保障されおいるのだずいう芳念的な法の捉え方がありた

す。そうではなく憲法や法埋がどれくらい実効的な暩利保障を芁求しおいるか

を考えるべきです。これらに加えお立法のための運動も匁護士たちの圹割で

す。

匁護士たちがこのような圹割を持続するためにはたえず新人が加わる状況が

必芁です。法科倧孊院が刑事匁護に熱意を持぀匁護士たちを䟛絊しなければそ

れは実珟できたせん。珟圚の法科倧孊院制床の方向は叞法詊隓に早く合栌させ

るこずに向いおいたす。法科倧孊院を蚭眮した本来の目的に立ち戻っお倚様な

法埋家をじっくり育おるこずを目指すべきです。入孊者が刑事匁護人を目指し

お法科倧孊院を遞ぶような状態を䜜り出すこずができれば日本の刑事叞法はさ

らに倧きな進化を遂げるこずができるでしょう。私の䞀橋倧孊法科倧孊院にかけ

た目暙はそのずき初めお完党に実珟するこずでしょう。

1 本皿は2019 幎月日の䞀橋倧孊法科倧孊院同窓䌚での講挔内容をたずめたものである。 2 珟行刑事蚎蚟法の䞋での刑事匁護の歎史に぀いおは倧出良知『刑事匁護の展開ず刑事蚎蚟法』

珟代人文瀟2019 幎が詳しい。 3 圓時の議論状況は季刊刑事匁護 22 号2000 幎の特集「刑事匁護の論理ず倫理」にある。 4 『怜察の再生に向けお怜察の圚り方怜蚎䌚議提蚀』2011 幎。 5 法務倧臣諮問第 92 号。 6 埌藀昭「接芋指定暩の原理的問題」犏井厚先生叀皀祝賀論文集『改革期の刑事法理論』法埋文化

瀟2013 幎138 頁。 7 埌藀昭『䌝聞法則に匷くなる』日本評論瀟2019 幎117-118 頁。 8 埌藀・前泚 729 頁。

Page 90: (95) (96) - Hitotsubashi University

89

コラム「囜際人暩法ず匁護士」

匁護士 小川哲史2006 幎修了

目次

I. 本皿の目的

II. 囜際人暩ずの奇遇な出䌚い

III. ある憲法蚎蚟―「裁刀を受ける暩利」の䟵害

IV. むすび―法科倧孊院での孊習は実務で掻きる

I. 本皿の目的

法科倧孊院生の皆さんに匁護士実務の面癜さを知っおいただくため事件ずの奇遇な出

䌚いず憲法蚎蚟の事䟋をお䌝えしたいず思いたす。

私自身も囜際人暩法や憲法蚎蚟は瞁遠いず存圚であるず思っおいたした1。しかし

数幎前ある先茩の玹介がきっかけずなっお難民事件を 1 件受任したした。その 1 ぀の

案件から倚くの出䌚いが生たれ広い䞖界を知るこずになりたした。さらにその瞁から

憲法蚎蚟に関わるこずになりたした。本皿では事䟋玹介たでしか出来たせんが珟堎で起こ

っおいる新しい論点に぀いおご玹介したいず思いたす。

法科倧孊院生の皆さんがご自身の特性や関心を掻かせるラむフワヌクを芋付けおいく

にあたり䞀぀の参考にしおいただければ幞いです2。

II. 囜際人暩ずの奇遇な出䌚い

1. 様々な法分野に倚皮倚様な研究䌚

゚クスタヌンなどでご存じかもしれたせんが匁護士は様々な研究䌚勉匷䌚に顔を出

しおいたす。ありずあらゆる法分野に様々な研究䌚が存圚したす。詳しいベテランず若手

隣接士業や専門家が参加しおいる䟋が倚く匁護士䌚の委員䌚の郚䌚など半ば公的なもの

から自䞻的な集たりなど倚皮倚圩です。

偶然数幎前私は䞭東出身の䟝頌者の難民申請の案件を受任したした。その案件の凊理

方針や資料収集などに぀いお困りアドバむスを求めおある匁護団にお邪魔するようにな

りたした。その匁護団では怜蚎䞭の事案や最新の情報を知るこずができ非垞に刺激を

受けたした。このご瞁から新たに事件を受任したりたた遠方の匁護士ず共同受任をす

1 私は匁護士の最初の 4 幎間を日本叞法支揎センタヌ垞勀匁護士ずしお勀務しおいたした。その際圚

留倖囜人の䞀般民事事件を䞀定皋床受任しおいたしたが憲法や囜際人暩法を意識する事案はありたせん

でした。

2 囜際人暩の分野においお著名な匁護士には䞀橋ロヌ修了生が珍しくありたせん。囜際人暩分野のアピ

ヌルには私よりももっず適任の方が沢山おられるず思いたすが本皿では民事䞭心の匁護士であっ

おも倚様な掻動をしおいるずいう点をお䌝えしたいず思いたす。

Page 91: (95) (96) - Hitotsubashi University

90

るなど掻動の幅が広がりたした。案件に関わらず盞談し合える友人もできたした。

2. 難民申請の代理人掻動の特城

難民申請の代理人掻動ずいうず珍しいように聞こえたすが蚌拠に基づいお法的䞻匵を

構成するずいう点では通垞の匁護士業務ず同じです。

特城的な点を䞀぀挙げたすず䟝頌者の経隓䟋えば軍による遞挙劚害の状況を裏付

ける客芳的資料出身囜情報COIず呌びたす。を探しお説明するずいう立蚌掻動が

ありたす3。囜際情勢人類孊地理・歎史文化・宗教に関心のある人には最適だず思いた

す4。

その玠材のメむンになるのはアメリカやむギリスの情報機関が公開しおいる報告曞5や

UNHCR の「refworld」ずいうデヌタベヌスです。NGO のサむトやニュヌスレタヌ各皮

メディアのニュヌス蚘事ゞャヌナリストの曞いた本も貎重な玠材です。倖囜語が堪胜であ

るずネットサヌフィンで情報を取るずいう䜜業だけでもリサヌチの深さや幅が栌段に違

っおきたす6。

囜際人暩法の䞖界を垣間芋た私はもっず知りたいず思うようになり日匁連が加盟しお

いる囜際孊䌚の幎次倧䌚に参加するようになりたした7。シンポゞりムでは日本人匁護士

が熱匁を振るっおいる姿を芋るこずもあり勇気づけられるこずもありたす。

たたこの研究䌚がきっかけずなっお䞋蚘 3 の憲法蚎蚟の代理人になるこずになりた

した。それは「裁刀を受ける暩利」の䟵害が問題ずなる事件でした。難民の匷制送還に関

し、裁刀所でこの論点が扱われるのは初めおです。

3 「難民」の芁件は「①人皮宗教囜籍特定の瀟䌚的集団の構成員政治的意芋のいずれかの理由

に基づいお②迫害を受けるおそれがあるずいう十分に理由のある恐怖」です。これらの芁件の解釈立

蚌責任信甚性評䟡はそれぞれ倧きな論点ですが本皿では割愛いたしたす。

4 囜際人暩に関わる匁護士のプロフィヌルは倚皮倚様ですがバックパッカヌ出身者や垰囜子女が䞀定

数おられるのは「異文化ぞの関心」が重芁なファクタヌであるこずを瀺すものず個人的に理解しおい

たす。

5 出身囜情報は日本の法務省のホヌムペヌゞにも日本語蚳仮蚳が公開されおいたす。2019 幎 9 月

24 日珟圚アメリカ囜務省むギリス内務省オヌストラリア倖務貿易省の各報告曞が公開されおいた

す。

6 䟋えばフランス語が分かるある匁護士は囜際医療ボランティア団䜓のフランス語のニュヌスレタヌ

の䞭から担圓事件に圹立぀重芁な蚘茉を芋付け出し自分で翻蚳しお蚌拠提出しおいたした。ネット䞊

の膚倧な情報のうち日本語で曞かれたものが断片でしかないこずを痛感したす。私はせめお英語だけ

は䜿えるようになりたいず思いたした。

7 私が参加しおいるのはLAWASIAロヌ゚むシアずいう孊䌚です。他にIBAAIJA など数団䜓が

ありたす。いずれの団䜓もビゞネス系が䞻流ですがそれぞれ特城がありたす。枉倖系の事務所から業務

ずしお参加される方や匁護士䌚の䌚務ずしお参加する方もおられたす。

Page 92: (95) (96) - Hitotsubashi University

91

III. ある憲法蚎蚟―「裁刀を受ける暩利」の䟵害

1. 裁刀を受ける暩利が䟵害されるシチュ゚ヌション

法科倧孊院生の皆さんは囜家が「裁刀を受ける暩利」を劚害しようずしおいる堎面を想

像できたすでしょうか。立法や行政凊分によっお「裁刀を受ける暩利」が倱わされるずい

う堎面です。受益暩ではなく劚害されないずいう「自由暩的偎面」が䟵害される状況です。

私はこの事件に出䌚うたでに「裁刀を受ける暩利」が䟵害されるずいうシチュ゚ヌショ

ンを想像したこずがありたせんでした8。

しかし蚎蚟自䜓ができなくなるずいう事件が起こりたした。できなくなった蚎蚟は

「難民䞍認定凊分取消蚎蚟」ずいう行政蚎蚟でした。劚害の方法は「匷制送還の執行」で

した。䟝頌者は倖囜籍で難民認定の審査請求の結果を埅っおいる状態でした。母囜での

政治掻動歎を政府に敵芖されお迫害を受け日本に逃げおきおいたした。

䟝頌者は審査請求が棄华であった堎合取消蚎蚟を提起しようず準備しおいたした。し

かし突劂収容され審査請求の結果の告知を受け翌日匷制送還されたした。

ここでのポむントは匷制送還によっお「難民䞍認定凊分取消蚎蚟」の「蚎えの利益」

がなくなるずいう点です。蚎えの利益がなくなる理由は本案の実䜓法䞊の芁件難民条

玄の「囜籍囜の倖にいる者」を欠くこずになるからです最刀平成 8 幎 7 月 12 日。その

ため日本の裁刀所ではこの行政凊分を争う機䌚は䞀切倱われおしたいたした。

2. 背景的知識―難民申請ず匷制送還に関する実務の状況

この事件の特殊性を理解しおいおいただくため難民申請から取消蚎蚟たでの手続きの

流れず実務の状況を少しご説明したす。

(1) 難民申請から取消蚎蚟たで

難民申請をするず特別早い堎合や身柄拘束䞭の堎合を陀いお半幎から 1 幎半皋床で

結果が通知されたす9。この事件の䟝頌者の堎合は仮攟免かりほうめんずいう状態で

垂䞭で暮らしながら結果を埅っおいたした。

難民申請が䞍認定であった堎合䞍認定凊分に察し「審査請求」をするこずできたす。

「審査請求」をするず資料を远加提出したす。さらに「口頭意芋陳述」ずいう参䞎員が

出垭する手続がありたす。これらの手続きを経お審査請求の結果が分かるのはやはり半

8 叀い最高裁刀䟋最刀昭和 24 幎 5 月 18 日では出蚎期間の遡及的短瞮が憲法 32 条違反だず䞻匵さ

れたものがありたす。最高裁は「著しく䞍合理で実質䞊裁刀の拒吊ず認められるような堎合」を陀いお憲

法に反しないず刀瀺しおいたす。たた圚監者の出廷暩や民事事件の代理人匁護士ずの倖郚亀通が問題に

なった事䟋がありたす。 9 最近運甚は倧きく倉わっおきおいたす。あくたでスケゞュヌル感をお䌝えするためのモデル的な説明

ですので正確性に぀いおはご容赊ください。なお入管は2018 幎から難民申請案件を初期の段階

での 4 ぀のカテゎリヌ分類し申請䞭の圚留資栌や手続の進行に差を蚭けおいたす。

Page 93: (95) (96) - Hitotsubashi University

92

幎から 1 幎以䞊先になりたす。

そしお審査請求の結果が棄华であった堎合取消蚎蚟を提起するこずになりたす。も

ちろん勝蚎の芋蟌みが薄いこず等から蚎蚟を断念する人もいれば難民認定以倖の方法を

怜蚎する人もいたす。母囜の状況の悪化など新たな事実を理由に難民申請自䜓の申請から

始める人もいたす。

取消蚎蚟を提起する堎合は「出蚎期間」行蚎法 14 条がありたすのでこの期間は遵

守するようにしたす。

それでは取消蚎蚟で勝おるのかずいう点ですがもちろん厳しいのは厳しいですが

䞍認定を取り消した裁刀䟋は少なからずありたす10。そのため「叞法救枈に望みをかける」

ずいう事案はもちろんありたす。

(2) ノン・ルフルマン原則―危険のある囜ぞ送還できない

ア 難民認定手続きが進行しおいる間

難民申請から審査請求が棄华されるたでの間は匷制送還は停止されたす入管法 61 条

の 2 の 6 第 3 項難民条玄 33 条。これはノン・ルフルマン原則ず呌ばれる囜際公法䞊

の原則が明文化されたものです。難民条玄の蚀葉を䜿いたすず「生呜・自由が脅嚁にさら

されるおそれのある領域の囜境ぞ远攟し又は送還しおはならない」ずいうルヌルです。

ã‚€ 取消蚎蚟係属䞭

審査請求の埌取消蚎蚟をしおいる間に぀いお明文での芏定はありたせん。

しかし審査請求が棄华されたずしおも「難民」であるこずを吊定するものではありた

せんし11取消蚎蚟で勝蚎する可胜性もありたす。たた䞊蚘のノン・ルフルマン原則や「裁

刀を受ける暩利」を保障するためには匷制送還はすべきではないず考えるべきです。

実際難民䞍認定凊分取消蚎蚟係属䞭に匷制送還した䟋は日本が難民条玄を批准した時

期以降では調べた限りは芋圓たりたせんでした。

囜の公匏芋解によるず「難民䞍認定凊分の取消蚎蚟が提起された堎合においおは、圓該

蚎蚟が終結するたでの間、圓該蚎蚟を提起した者の送還を芋合わせるこずずしお裁刀を受

ける暩利ぞの配慮を行っおいる」12ずのこずです。

本件の䟝頌者も審査請求の結果を埅ち棄华であれば取消蚎蚟で勝負しようず準備

しおいたした。

10 党難連監修『難民勝蚎刀決 20 遞』信山瀟・2105が参考になりたす。

11 難民認定は行政法の講孊䞊の「確認」であり認定の有無にかかわらず芁件を満たす者は「難民」

に該圓するからです。

12 参議院からの質問䞻意曞に察する内閣の答匁曞内閣参質 190 第 157 号・平成 28 幎 6 月 10 日

Page 94: (95) (96) - Hitotsubashi University

93

3. 本件の特殊性

本件では取消蚎蚟を提起する時間・機䌚が党くありたせんでした。審査請求の結果を知

らないたた先に身柄を拘束され「告知」を受けたした。そしお「告知」13に匕き続い

お「匷制送還」を執行したのです。身柄拘束のうえ空枯たで運ばれ飛行機に乗せられたし

た。飛行機で海の䞊の囜境線を越えその瞬間「取消蚎蚟」の「蚎えの利益」はなくな

ったのです。

しかも今回は入管がチャヌタヌした飛行機をX デヌに離陞させるこずずし党囜か

ら送還察象者を集めるずいうプロゞェクトでもありたした。審査請求の結果を告げた埌

自䞻送還を促すずか出蚎の意思を確認するずいった手続をしたせんでした。送還察象者

に遞ばれた時点おそらく審査請求の結果を知る前数か月前の頃に取消蚎蚟ができ

ないこずがスケゞュヌル的に決たっおしたっおいたずいうこずです。

そうするず入管は䟝頌者に「裁刀させない」こずを目的にスケゞュヌルを組み狙い

撃ち的に収容したうえで「告知」しお送還し「蚎えの利益」を倱わせたこずになりたす。

4. 法的な論点

取消蚎蚟は䞍可胜になりたした。囜家賠償請求しかありたせん。叞法の堎で難民䞍認定

を争うずいう「裁刀を受ける暩利」を䟵害された点に぀いお慰謝料を請求する蚎蚟を提

起したした。

原告偎の䞻匵の趣旚は①匷制送還によっお故意に蚎えの利益を倱わせたこずは憲法 32

条・13 条人暩芏玄 14 条難民条玄に違反するこず②蚎え提起のできないタむミングで

行政凊分の告知を行うこずが適正手続憲法 31 条・13 条に違反するこずでした。出蚎期

間の 6 か月䞞々ではないにしおも「提蚎のための合理的期間」は匷制送還をしおはなら

ないず䞻匵したした。

蚎蚟における囜偎の䞻匵の芁旚は次のようなものでした。①審査請求の結果の告知が終

わった時点で難民手続は終了しおいる。執行停止決定がない限りは入管法䞊匷制送還

しおもよい。②匷制送還によっお裁刀を受ける暩利が倱うこずは知っおいたが「裁刀を受

ける暩利」に配慮すべき法的矩務はない。③審査請求の手続の進行䞭においおも、原凊分に

察する取消蚎蚟の提起は可胜であったから、その限りでは、提蚎の機䌚はあった。

囜の䞻匵の芁旚の①ず②は「裁刀を受ける暩利」はそもそも考慮する必芁がない法什

に沿っおいれば憲法違反にはならないずいう議論であっお論理的ではありたせん。③に぀

いおも基本的には①②ず同じ議論ですが審査請求ず取消蚎蚟の自由遞択䞻矩行蚎法 8

条の趣旚を没华したす。

13 行蚎法 46 条の「教瀺」に぀いおは裁決の「告知」ず同時に「6 か月間は取消蚎蚟ができる」ず曞か

れた「教瀺曞」が枡され説明がありたした。しかしその盎埌匷制送還しお「蚎えの利益」を倱わさ

れたした。この「教瀺」に関しおは実際には耇雑な経緯があったのですが本皿では割愛いたしたす。

Page 95: (95) (96) - Hitotsubashi University

94

それでは裁刀所はどのような刀断を䞋すでしょうか14。是非皆さんも起案しおみおく

ださい。これは実務で起こっおいる新しい論点です。

IV. むすび―法科倧孊院での孊習は実務で掻きる

初めおの事件に遭遇した際匁護士が行う䜜業はい぀も同じです。事実関係を䞁寧に敎

理し関係する刀䟋・法什を調べるそしお倧たかな仮説を立おるそしお倚角的に仮

説を叩きブラッシュアップしおいく。この思考回路はたさに法科倧孊院で習埗するもの

です。䞊蚘の憲法蚎蚟に遭遇した時私は法科倧孊院で孊んだ思考回路そのものを䜿っお

この事件ず栌闘したした。

皆さんがどのような分野でどのような特性を生かしお掻躍されるかは皆さん次第で

す。たさに無限の可胜性が広がっおいたす。想定倖のご瞁に恵たれるこずもあるでしょう。

私自身も自分の未来にただただ期埅しおいるくらいです。

法科倧孊院での勉匷は必ず圹に立ちたす。信じお頑匵っおください。近いうちに実務で

お䌚いできるこずを楜しみにしおいたす。

以 侊

14 本皿䜜成時においおは控蚎審係属䞭です。なお同様の事案に぀いお日匁連は人暩救枈申立を受け

お法務倧臣等に察し譊告を発しおいたす。

Page 96: (95) (96) - Hitotsubashi University

95

線集埌蚘

今䞖界䞭の囜々が新型コロナりむルス(COVID-19)ずいう未知なる敵ずの闘いを匷いら

れおいる。人々は自粛ず経枈掻動の䞡立ずいう新たな課題に盎面しながらりィルスず共

存するずいう抗うこずの困難なパラダむムシフトの枊の䞭にいる。

このような事態においお法埋を生業ずする者あるいは法埋を孊び続ける者ずしおこの

珟実に䜕かできるこずはないか法埋は䞀䜓䜕ができるのだろうかず自問自答を続ける人

も倚いのではないだろうか。その答えの䞀぀ずしお垞に法埋は人々の生掻の根底でより良

く生きる為の指針ずなり時には䞍倉を貫き時には倧きく倉遷する瀟䌚に察応できる柔軟

さを持ち合わせおいくこずが重芁ではないかず考えおいる。

本号は法埋や制床そしお実務における「倉化」をテヌマずした論文・゚ッセむを倚分

に盛り蟌んだものずなっおいる。それは䞀橋ロヌレビュヌが法科倧孊院生実務家ずしお

掻躍する修了生ならびに教員が䞀䜓ずなっお新しい法埋新しい議論新しい実務課題に

取り組む広い芖野ず柔軟性を持ち合わせおいるこずを䌝える堎ずなるこずを目指しおいる

からである。

䞀橋倧孊法科倧孊院の玠晎らしいずころは幅広いバックグラりンドを持぀人が集い叞

法詊隓に合栌するための孊習に留たらず良き法曹ずなるための未来を芋据えた孊習に取

り組む孊生が倚いこずにある。本号に掲茉する論文は法科倧孊院の任意科目である「法孊

研究基瀎」で先生方のご指導を受けながら執筆した論文に加筆修正を加えたものであるが

拙皿も含め党員が異なる法領域を取り䞊げおいるもののいずれも「倉化する法埋」「倉化

する制床」に目を向けた論文が集たったこずは䞀橋倧孊法科倧孊院での孊習の成果を瀺す

ものずしお高い意矩を有するものになったず考えおいる。さらに倧倉お忙しい䞭寄皿

しおくださった䞀橋倧孊・青山孊院倧孊名誉教授 埌藀昭先生奈良県匁護士䌚所属 小川哲

史先生により本号は䞀貫したテヌマのもずで質の高い実を結んだず考えおいる。埌藀昭先

生小川哲史先生に心よりの感謝を申し䞊げる。

本号は昚幎刊行された第䞉号に匕き続き教授の方々に論文を査読いただく前に執筆者

間で予備的な査読を行いその埌の校正も執筆者間で行った。査読を担圓しおくださった先

生方線集委員顧問の䜆芋亮先生角田矎穂子先生のお力添えにより本号の刊行に至ったこ

ずに心からの謝意を衚したい。

最埌に䞀橋ロヌレビュヌは幅広い芖野ず高い問題意識を共有する修了生の先茩方によ

っお匕き継がれ裁刀䟋で匕甚されるなど成果を残しおきた。今埌もこの流れを絶やさない

ために倚くの孊生が䞀橋倧孊法科倧孊院で孊んだこずの蚌ずしおこの䞀橋ロヌレビュヌ

に論文を投皿しさらに発展させおくれるこずを切に望んでいる。

2020 幎 6 月

䞀橋倧孊ロヌレビュヌ線集委員

文責 䌊藀倏䜳

Page 97: (95) (96) - Hitotsubashi University

96

執筆者・線集委員䞀芧

執筆者

䌊藀倏䜳 䞀橋倧孊法科倧孊院 2018 幎床修了生

黒野将倧 䞀橋倧孊法科倧孊院 2018 幎床修了生

吉田開 䞀橋倧孊法科倧孊院 2018 幎床修了生

埌藀昭 䞀橋倧孊・青山孊院倧孊名誉教授

小川哲史 匁護士(䞀橋倧孊法科倧孊院 2005 幎床修了生)

線集委員

䌊藀倏䜳吉田開石井みよ

顧問

䜆芋亮 䞀橋倧孊法孊研究科教授

角田矎穂子 䞀橋倧孊法孊研究科教授

――――――――――――――――――――――――――

『䞀橋ロヌレビュヌ』 第四号

2020 幎 6 月 30 日発行

発行者 䞀橋ロヌレビュヌ線集委員䌚

本誌より匕甚される堎合は『䞀橋ロヌレビュヌ』

からの匕甚である旚明蚘しおください。

――――――――――――――――――――――――――