9.「vrs-ts」測量方式を用いた地形測量archive.sokugikyo.or.jp/pdf/apa87_2004_09/apa8709.pdf-75-...

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-74- 2004年9月 APA No.87-9 財団 法人 日本測量調査技術協会 9.「VRS-TS」測量方式を用いた地形測量 - ネットワーク型 RTK-GPSの公共測量への応用 - 呉 新華 三 島 研二 三 島 義徳 笹 川 正 橘 菊生 1.概要 次世代GPS測量方式としてネットワーク型 RTK-GPSが脚光を浴びている中、日本国内にお いて、その公共測量作業マニュアル(案)が 今年作成され、7月に公開された。株式会社 パスコではH14年から、仮想基準点(Virtual Reference Station、以下VRSと呼ぶ。)方式を 用いた独自の「VRS-TS」測量方式を考案し、 フィールド実測実験などに基づいてその測位 精度を検証することによって、公共測量にお けるこの新しい測量方式の実用性と有効性を 確認してきた。 本論文では、昨年の公共基準点測量に続い て、数値地形測量での実証実験例について紹 介する。 2.VRSを取り巻く動向と当社の取り組み VRS(Trimble社の登録商標)方式は複数の 基準点を使ったRTK-GPS技術であるため、ネッ トワーク型RTK-GPSとも呼ばれている。VRS方 式が日本に正式に導入されてから4~5年経 過するが、位置情報そして応用計測の実用化 に至る国内の背景には、 (1) 広域高精度リアルタイム測位技術の ハードとソフト面での進歩 (2) 国土地理院による電子基準点リアル タイムデータの提供と拡大 (3) 位置情報サービス(LBS)をビジネス とする民間事業の成長 などが挙げられる。 このような状況で、位置情報基盤の役割を 果たす電子基準点リアルタイムデータの公開 はVRS実用化に拍車をかけた。H15年度末現在 1,224点まで整備された電子基準点は、これま で2年間をかけてほぼ全点(H14年6月~200 点;H15年5月~645点;H15年10月~931点; H16年7月~1,180点)開放することになりつ つある一方、GPS測位技術の標準化も進められ ている。(社)日本測量協会に事務局を置かれ たGPS測位技術の標準化検討委員会では、作業 マニュアルに関するワーキンググループが今 年3月、「ネットワーク型RTK-GPSを利用する公 共測量作業マニュアル(案)基準点測量をまとめ、7月から公共基準点(、4の測量に用された。 社では、14年から、公共測量でのVRS 用にいち早く取組んできた。VRS方式に よるRTK-GPSとトータルスション(TS)に よる多角測量を組み合わせた測量方式を独自 に考案し、VRS方式による新点間をTSによる測量方式で結合した閉合差で点検する方式 用した(以下、「VRS-TS」測量方式という。)。 また、公共測量へ適用さるためにいつか の実証実験をフィールドでい、これによっ てその測位精度、問題点をめた実用性、有 効性などを確認した。に、公共基準点測量 用と数値地形測量(以下、地形測量という。) 用の社内作業用マニュアル(案)をそれ検討、作成し、この新しい「VRS-TS」測量方 式を提案してきた。 第26回 技術発表会論文特集

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2004年9月

APA No.87-9 財団

法人日本測量調査技術協会

9.「VRS-TS」測量方式を用いた地形測量

- ネットワーク型 RTK-GPSの公共測量への応用 -

呉 新華※ 三 島 研二※ 三 島 義徳※

笹 川 正※ 橘 菊生※

1.概要

次世代GPS測量方式としてネットワーク型

RTK-GPSが脚光を浴びている中、日本国内にお

いて、その公共測量作業マニュアル(案)が

今年作成され、7月に公開された。株式会社

パスコではH14年から、仮想基準点(Virtual

Reference Station、以下VRSと呼ぶ。)方式を

用いた独自の「VRS-TS」測量方式を考案し、

フィールド実測実験などに基づいてその測位

精度を検証することによって、公共測量にお

けるこの新しい測量方式の実用性と有効性を

確認してきた。

本論文では、昨年の公共基準点測量に続い

て、数値地形測量での実証実験例について紹

介する。

2.VRSを取り巻く動向と当社の取り組み

VRS(Trimble社の登録商標)方式は複数の

基準点を使ったRTK-GPS技術であるため、ネッ

トワーク型RTK-GPSとも呼ばれている。VRS方

式が日本に正式に導入されてから4~5年経

過するが、位置情報そして応用計測の実用化

に至る国内の背景には、

(1) 広域高精度リアルタイム測位技術の

ハードとソフト面での進歩

(2) 国土地理院による電子基準点リアル

タイムデータの提供と拡大

(3) 位置情報サービス(LBS)をビジネス

とする民間事業の成長

などが挙げられる。

このような状況で、位置情報基盤の役割を

果たす電子基準点リアルタイムデータの公開

はVRS実用化に拍車をかけた。H15年度末現在

1,224点まで整備された電子基準点は、これま

で2年間をかけてほぼ全点(H14年6月~200

点;H15年5月~645点;H15年10月~931点;

H16年7月~1,180点)開放することになりつ

つある一方、GPS測位技術の標準化も進められ

ている。(社)日本測量協会に事務局を置かれ

たGPS測位技術の標準化検討委員会では、作業

マニュアルに関するワーキンググループが今

年3月、「ネットワーク型RTK-GPSを利用する公

共測量作業マニュアル(案)―基準点測量―」

をまとめ、7月から公共基準点(3、4級)

の測量に適用された。

当社では、H14年から、公共測量でのVRS

利活用にいち早く取り組んできた。VRS方式に

よるRTK-GPSとトータルステーション(TS)に

よる多角測量を組み合わせた測量方式を独自

に考案し、VRS方式による新点間をTSによる多

角測量方式で結合した閉合差で点検する方式

を採用した(以下、「VRS-TS」測量方式という。)。

また、公共測量へ適用させるためにいくつか

の実証実験をフィールドで行い、これによっ

てその測位精度、問題点を含めた実用性、有

効性などを確認した。更に、公共基準点測量

用と数値地形測量(以下、地形測量という。)

用の社内作業用マニュアル(案)をそれぞれ

検討、作成し、この新しい「VRS-TS」測量方

式を提案してきた。

第26回 技術発表会論文特集

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3.「VRS-TS」を用いた地形測量

3.1 「VRS-TS」の基本的な考え

ネットワーク型RTK-GPSの一種であるVRS方

式では、複数の基準点がカバーするエリア内

では任意の場所にVRS点の設置ができるため、

従来のRTK-GPSのように基準点と観測点の距

離の制約を免れることができ、GPS受信機1台

で高精度のリアルタイム測量が可能である。

しかし、市街地や山間部など上空の開きが限

られている地域においては、VRS方式による観

測は時間・場所などに左右されやすく、「いつ

でも・どこでも」安定した精度の測位は現時

点でまだできていない。

VRS測量は測点間の視通を必要としないが、

上空が開けていなければならない。一方、TS

測量は上空の開きは必要としないが、測点間

の視通がなければならない。そこで、精度が

良好であるVRSの測位結果を採用し、TS測量方

式で精度を点検すれば、VRS方式とTS測量方式

の特性を十分に生かせる。この測量システム

が「VRS-TS」測量方式である。すなわち、

「VRS-TS」測量方式は測地的な絶対位置で得

られるVRS新点の測量結果に対して、相対的な

位置関係が幾何学的に決定されるTS測量方式

の結果の閉合差で精度評価をする方式である。

「VRS-TS」測量方式による「公共基準点測

量」については昨年報告したが、本論文では

「VRS-TS」方式による「地形測量」について

紹介する。

3.2 「VRS-TS」による地形測量

「VRS-TS」による地形測量は、近傍に既知

の基準点が不足する場所やVRS方式のみによ

る地形、地物等の測定が不可能な場合などで

の測量手法である。その基本的な考えを簡単

に記述すると、以下のことがポイントとなる。

(1) 作業現場付近の上空の開きが良好な

ところに精度の良い基準点を容易に作り、

測地座標における絶対位置を持つこれら

の基準点をVRS図根点として利用できる

こと。

(2) VRS 観測に適しない場所では、点間視

通さえとれれば、VRS 図根点をTSの多角

測量方式で結合することによりVRS測量

方式の精度を評価し、地形測量を行える

こと。

(3) 異なる測量方式での精度評価を行う

ことで、VRSとTS両方式の利点を生かし、

互いの欠点を補う効率の良い地形測量と

なること。

これは単にVRS新点の結果をTSの多角測量

方式で結合するのではなく、VRSによる

RTK-GPS測量方式の精度評価にTS測量方式を

積極的に利用することでもある。

3.3 地形測量の方法について

「VRS-TS」測量方式を用いた地形測量の方

法としては、地域内又は周辺のVRS観測が可能

な場所にVRS図根点を3点以上設置し、さらに、

VRS観測ができない場所にTS等を用いて地形、

地物測定に必要なTS図根点をVRS図根点に基

づいて設置する。これらの図根点を基にTS方

式によって地形、地物等を測定し、地形図等

の作成に必要なデータを取得する。その後、

取得したデータを編集し、地形図等を作成す

る。図根点および基になる既知点の種類、そ

して測量の方式は表-1の通りである。図-

1は「VRS-TS」測量方式による地形測量のイ

メージを示している。

表-1 図根点および既知点の種類、測量の方式

図根点の種類 既知点の種類 測量および測量方式

VRS図根点 電子基準点 VRS方式によるRTK-GPS

TS図根点 VRS図根点 TS方式(多角測量方式)

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図-1 「VRS-TS」測量方式による地形測量のイメージ

「VRS-TS」による地形測量の手順をもう少

し説明する。まず、上空開き及び地上の視界

が良好で、TS整置可能な場所で各VRS図根点を

選定する。VRS図根点には標杭等を設置し1

セット(10 エポック以上)の観測を行う。直

接測定したVRS図根点の測地座標を点検する

ため、再初期化した2セット目の観測を行い、

セット間較差が許容範囲内か否かを確認する。

次に、観測エリア内において、地形、地物等

の状況により視通可能な場所でTS図根点を一

定な密度で配点する。続いてVRS図根点から、

TSを用いて結合多角方式によりTS図根点を測

量する。VRS図根点を基にしたTS図根点の配置

は2次点までとする。さらに、各図根点にお

いて、TS放射法により地形・地物の細部測量

を実施する。

「VRS-TS」測量方式による地形測量は、こ

れまで地形測量の選択肢ではいずれもクリア

できない問題点を想定し、あらゆるケースに

も対応できるコスト・効率・精度の良い方法

である。このことを実証するための実験例を

紹介する。

4.VRS-TS地形測量の実証実験例

4.1 実験の概要と方法

以下に、当社の本社近くで最近実施した観

測とその結果を示す(図-2を参照)。VRS図

根点(①~③の3点)測位観測に使用した機

材はライカジオシステムズ社の最新のGX1200

系GPS測量機である。比較のため、SR530も用

いて観測を行った。TS図根点(6点)および

各図根点における細部測量(約400点)ではニ

コン製のトータルステーションを使用した。

実験の概要は下表-2の通りである。表-3

は実証実験の観測方法について詳細に示して

いる。

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図-2 実験の場所およびVRS図根点(東京都目黒区)

表-2 実験の概要

実 施 日 時 平成16年5月24日(月)~ 25日(火)

実 験 場 所 東京都目黒区 図-2を参照

図 根 点 VRS図根点=3点; TS図根点=6点 図-6を参照

細 部 測 量 地形 地物の測定点=約 400 点 図-6を参照

使 用 測 機 Leica GX1230/AX1202、 Leica SR530/AT502; Nikon GF-1

VRS補正データ GPSnet(トリンブル社)システムによるJENOBA データ配信

表-3 実験の方法

スタテックによる観測(観測時間:2時間;データ取得間隔:30秒)

衛星仰角≧15°(観測点)

10エポック/1セット VRS図根点 VRS による観測

(時間・機種別)

制限値: PDOP≦4、H≦±20mm、V≦±30mm

TS 図根点 TSによる多角測量

細 部 測 量 TSによる放射法測量

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4.2 VRS 図根点の観測

4.2.1 観測結果

観測結果を検証するため、VRS図根点①、②、

③ではGPS によるスタティック観測(図-2

の写真を参照)とVRSによるRTK-GPS(図-3

の写真右を参照)の2通りの測位をそれぞれ

行った。後ほど紹介するVRS方式の測量結果お

よび精度検証は、すべてスタティック観測結

果を比較の基準としている。

GPS衛星を受信する上空開き状況を示した

のは図-3の写真左である。VRS図根点③では

近傍に高い樹木(写真下の手前側)が多いた

め、上空の視野が比較的に狭く、①、②と比

べて観測環境は劣っている。

VRS図根点①

VRS図根点②

VRS図根点③

図-3 VRS図根点における上空視界・VRS測位風景

VRS図根点の観測に当たっては、位置情報

サービス事業者JENOBA社の配信データを受信

してVRS観測を行った。各点の観測では連続10

エポックの平均を1セットとし、座標を計算

する最大のPDOPおよび1セット内の標準偏差

を表-3のように設定した。

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スタティック結果を比較対象としたVRS図

根点の測位結果を下図に示す。縦軸はVRSとス

タティック観測による測位3成分の較差(左)

とGPSの衛星数およびDOPの状態(右)、横軸は

2日間の各観測のセッションおよび使用したGPS

受信機(G: GX1230; S: SR530)を示している。

VRS図根点①

-150

-100

-50

0

50

100

150

24A_G

25A_G

25B_G

25C_G

25C_S

25D_G

25D_S

mm

0

3

6

9 ΔX

ΔY

Δh

SVs

Hdop

Vdop

VRS図根点②

-150

-100

-50

0

50

100

150

24A_G

25A_G

25B_G

25C_G

25C_S

25D_G

25D_S

0

3

6

9 ΔX

ΔY

Δh

SVs

Hdop

Vdop

VRS図根点③

-150

-100

-50

0

50

100

150

24A_G

25A_G

25B_G

25C_G

25C_S

25D_G

25D_S

0

3

6

9 ΔX

ΔY

Δh

SVs

Hdop

Vdop

図-4 VRS図根点のVRS測位結果

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上図により、本実験のVRS図根点の観測結果

全体についてまとめると、以下のような結論

が得られる。

(1)スタティックとVRSによる水平位置の較

差はすべて5cmに収まっており、その平

均値は2cm以内である。

(2)VRSによるVRS図根点の測位結果は、全

セッションにおいて、標準偏差が水平

2cm前後、高さ4~5cmの精度であっ

た。

(3)スタティックとVRSによる測位結果には

高さ成分の較差が大きく、正負極値の最

大較差は20 cm近くあると同時に、系統的

な誤差も見られる。

(4)VRS図根点①、②に比べ、③における高

さ成分のばらつきが一番大きい。これは

観測条件によるものと思われる。

(5)周囲に樹木が多く、観測環境が比較的

に悪いVRS図根点③では、測位結果に異常

が見られた。また、特定の時間帯で衛星

の配置状態によっては、必要なGPS衛星数

が不足するため、観測自体できなかった

こともあった。

(6)機種ごとによる比較結果では、顕著な

変化の傾向は見られず、全体および平均

値を見る限りでは、機種別の差異はない

と思われる。

4.2.2 精度評価

「VRS-TS」による地形測量では、既知の公

共基準点(3、4級)が不足する地域での作

業を想定しているため、VRS図根点は実にそ

の3、4級の基準点の役割を果たすものであ

る。

本実験では、VRS方式によるVRS図根点の全

実測値の精度について統計的に処理した結果

により、水平成分の標準偏差は、南北方向(X)

は 13.5 mm 、東西方向(Y)は 19.6 mm で、

いずれも2cm以内となっており、高さ方向は

やや大きく、44.7 mm である。表-4はVRS図根

点①、②、③の実測精度(標準偏差)を点別

に示している。

表-4 VRS図根点の実測精度(標準偏差)

No. X (NS) Y (EW) H (UP)

① 7.8 mm 22.6 mm 46.8 mm

② 13.8 mm 13.7 mm 39.7 mm

③ 12.4 mm 15.6 mm 35.6 mm

3点 13.5 mm 19.6 mm 44.7 mm

「国土交通省公共測量作業規程」第2編(基

準点測量)第2章(基準点測量)第42条によ

ると、1~4級基準点測量の許容精度は、TS

等観測およびGPS観測による新点水平位置の

標準偏差が10 cm 以内と規定されている。本

「VRS-TS」によるVRS図根点の実測精度をこの

許容範囲に準用すると、表-4の通り、VRS

図根点の測量精度は公共基準点測量精度の許

容範囲を十分満たしていることがわかる。

一方、VRSによる図根点の測量は特定の場所

において、観測時間によって観測不能や精度

劣化などが発生した。そのほとんどは観測点

周囲の樹木などの影響によるGPS衛星の受信

障害である。VRS図根点の実験観測は樹木が多

い公園で行ったことを考えると、場所によっ

てVRS観測の精度には若干改善できる余地が

あると考えられる。

4.3 「VRS-TS」による地形地物点の測定およ

び精度評価

VRS図根点(3点)に対する測量はスタ

ティック観測とVRS観測を行った。スタティッ

クによるVRS図根点の測位結果とVRSによる全

測位結果の平均値を用いて、TS結合多角方式

によりTS図根点(6点)の座標値をそれぞれ

測定した。さらに、TS図根点にTSを整置し、

放射法観測により地形、地物等の水平位置お

よび標高の測定を行い、全細部測量点(約400

点)の座標を得た。

4.3.1 TS図根点の精度

TS図根点はVRS図根点に基づいてTS多角測

量によって測定されるため、その観測誤差は

VRS方式の測量誤差およびTS測量方式の測量

誤差に依存する。

本実験では、VRS測量の標準偏差は水平2cm

前後である。また、同一のVRS図根点に対して、

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TSによるトラバースの座標閉合差は3.1cm で

あった。よって、ここでは、

VRS測量方式の精度 :≦±30 [mm]

TS測量方式の累積誤差 :≦±40 [mm]

とすると、

2 2(30[ ]) ([40 ]) 50

TSm mm mm mm+ =≦

となる。したがって、TS図根点の測量精度を

5cm と推定した。

本「VRS-TS」測量方式でのTS図根点は従来

の地形測量におけるTS点と同一ものと考えら

れる。TS点に関する精度については、「国土交

通省公共測量作業規程」第3編(地形測量)

第2章(平板測量)第89条によると、空中写

真測量における標定点の精度規定に準用とさ

れている。TS図根点の精度を評価するため、

TS点の精度規定を下表に示す。

表-5 TS点の精度規定

精度

縮尺 水平位置(標準偏差) 標 高 点(標準偏差)

1/ 500 0.1 m 以内 0.1 m 以内

1/ 1,000 0.1 m 以内 0.1 m 以内

1/ 2,500 0.2 m 以内 0.2 m 以内

1/ 5,000 0.2 m 以内 0.2 m 以内

1/ 10,000 0.5 m 以内 0.3 m 以内

上表により、縮尺1/500の地形図について、

TS点位置の水平および高さ成分の標準偏差は

それぞれ 10 cm 以内と定められている。TS

図根点の測量精度をこの規定に準用させる

と、許容値の倍以上良い精度を持つことに

なる。

4.3.2 細部測量点の精度

VRS図根点のスタティックによる測位結果

とVRSによる測位結果(平均値)に基づいて、

各細部測量点に対して2組の座標値が得られ

た。地形、地物点の測定精度を考察するため、

これら2組の座標値の差分をとり、その較差

を下図に示した。

-10

0

10

20

30

mm

ΔY ΔX

図-5 VRS図根点のスタティックとVRSによる測位結果に基づいた細部測量結果の比較

図-5により、各細部測量点の座標差につい

て、南北方向(X)は-7~+22 mm 、東西方向

(Y)は-2~+30 mm 、いずれも約3cm程度と

なっていることがわかる。上図の細部測量点の

座標差にはTSによる観測誤差を含んでいない。

TS結合多角方式およびTS放射法による観測

精度は従来のTSを用いる方法による図根点測

量および細部測量と変わらないため、

「VRS-TS」測量方式による地形地物点の測定

にはVRS図根点測量の影響が一番大きい。すな

わち、「VRS-TS」測量方式による地形地物点の

測定精度は、VRS方式によるRTK-GPS測位観測

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の精度に大きく左右される。

一方、地形、地物等地上座標の測定精度に

一番影響を与えるVRS方式によるVRS図根点の

測位精度は、水平2cm前後、高さ4~5cmの

標準偏差であった。

本来地図は、縮尺の概念をもとにその地図

の表現を1枚の図面として行うが、数値地形

図の地図情報は縮尺によらない測地座標を用

いて記録されている。そのため、新しい概念

として、従来の縮尺の分母数に相当するもの

を「地図情報レベル」と定義された。従って、

地図情報レベルは個々のデータ項目そのもの

の持つ精度を表わすものではなく、図郭内に

含まれている全データの平均的な精度、すな

わち位置的な精度と数値図化時におけるデー

タ取得基準に基づく精度の両者が誤差の許容

値以内であることを表現している。

「国土交通省公共測量作業規程」第4編(数

値地形測量)第1章(概説)第1款によると、

地図情報レベルの総合精度(誤差の許容値)

は表-6に示す通りである。

表-6 地図情報レベルの総合精度

精 度(地上座標、標準偏差) 地図情報レベル

平 面 位 置 標高点の標高

250 0.125 m 以内 0.25 m 以内

500 0.25 m 以内 0.25 m 以内

1,000 0.70 m 以内 0.33 m 以内

2,500 1.75 m 以内 0.66 m 以内

5,000 3.50 m 以内 1.66 m 以内

10,000 7.00 m 以内 3.33 m 以内

図-6 「VRS-TS」測量方式による数値地形図

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「VRS-TS」測量方式による地形、地物等地

上座標の測定精度を上表の規定を準用してい

る。地図情報レベルのこの総合精度に適用す

ると、表に示したように、地図情報レベル250

(相当縮尺1/250)の地形図について、地上観

測点座標の標準偏差は水平位置0.125m以内、

高さで0.25m以内とそれぞれ定められている。

よって、前節に述べたように、「VRS-TS」測量

方式による地形、地物等地上点の測量精度は、

全ての地図情報レベルの総合精度よりはるか

に高いことが実証されている。

図-6は本実験で、「VRS-TS」測量方式を用

いた地形測量により得られた数値地形図の概

略図である。

「VRS-TS」測量方式を実際の公共測量業務

に適用させる場合は、本方式による総合的な

精度管理・精度評価が有効であることが実証

された。

5.まとめと今後の課題

前述の通り、地形測量において、新しい

「VRS-TS」測量方式の実用性と有効性が確認

された。本実証実験例の実測結果および精度

により、「VRS-TS」測量方式を用いた地形測量

については次のように結論がまとめられる。

(1) VRS図根点測位結果の標準偏差は水平

2cm前後、鉛直5cm以内である。

(2) 「VRS-TS」測量方式による地形測量は、

地形図等の精度を十分満たしている。

(3) 異なるGPS機種を用いたVRS方式による

測位の結果には顕著な差異はない。

(4) 今後、より高い精度で安定した高さ方

向の測位結果が求められる。

VRS方式によるRTK-GPSの測位観測において、

通常の場合では大変高い精度でのリアルタイ

ム測位結果が得られる。一方、他のGPSリアル

タイム測位にも共通する誤差のほか、現時点

での技術段階では、測位結果の再現性にも問

題点が存在している。

本論文での実験例の測量結果にも示してい

るように、観測時間(GPS衛星の配置)、特定

の場所(観測点の環境)によって、測位結果、

特に高さ成分での精度劣化や観測不能などの

現象が確認された。VRS方式測位結果の再現性

が低下する原因に対する考察が必要であるが、

本論文ではこれを今後の課題とする。

また、既設基準点(測地成果2000)との整

合性も今後の課題の一つであると思われる。

測量地域近傍の既設基準点による測位結果と

遠方の電子基準点による測位結果の間の整合

性は、パラメータを求めて変換処理すること

によって一定の効果はあるが、地殻変動によ

る歪みの影響はいずれも解消されない。

謝 辞

本実証実験の実施にあたって、ライカジオ

システムズ 株式会社様から最新のGPS測量機

のご提供とご協力をいただきました。関係者

各位に深く謝意と御礼を申し上げます。

(※株式会社パスコ)

参考文献

1) 呉新華・松村正一・畑中雄樹・都筑三千夫:仮想基準

点方式によるRTK-GPSの実用化に向けて、日本測地学会第

96回講演会要旨集、2001

2) 西修二郎・松村正一・畑中雄樹・都筑三千夫・土屋淳・

吉村愛一郎・呉新華:GEONETを用いた仮想基準点方式に

よるリアルタイムGPS測位、地球惑星科学関連学会2002年

合同大会予稿集、D058 GPS、2002

3) 呉新華・三島研二・笹川正・三島義徳・橘菊生:VRS

方式による公共基準点測量および精度評価の新方法、

(財)日本測量調査技術協会 APA No.85-4、2003

4) 呉新華・三島研二・笹川正・三島義徳・橘菊生:VRS

方式測位における電子基準点変動の影響について、日本

測地学会第100回講演会要旨集、2003

5) 松村正一・畑中雄樹・雨宮秀雄・都筑三千夫・菅富美

男・呉新華:電子基準点を利用した仮想基準点方式によ

るRTK-GPS測位新技術、電子情報通信学会論文誌A

Vol.J87-A、No.1、2004

6) 社団法人 日本測量協会:国土交通省公共測量作業規

定 解説と運用 世界測地系対応版、2003

7) 株式会社パスコ:VRS-TS地形測量マニュアル(案)-

社内作業用-、2003