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1 目次 1 調査概要……………………………………………………………………………3 1-1 調査概要 1-2 調査者 1-3 調査時期 2 京都若者サポートステーションの相談状況……………………………………5 2-1 京都若者サポートステーションの支援概要 2-2 総登録者の概要 2-2-1 本人の性別 2-2-2 本人の年齢 2-2-3 本人の学歴 2-2-4 職業経験の有無 2-2-5 インテーク時の相談者 2-2-6 事例経由機関 3 ひきこもり群調査分析……………………………………………………………11 3-1 性別構成 3-2 年齢 3-3 相談形態 3-4 相談者の性別 3-5 紹介元 3-6 職業経験に関して 3-7 ひきこもり群と学歴 3-8 ひきこもり群の学歴と年齢 3-9 ひきこもり群の学歴と性別 3-10 精神科通院歴の有無 3-11 ひきこもり初期要囝分類 3-12 ひきこもり初期要囝分類と年齢・性別の関連 3-13 ひきこもり初期要囝と就業経験と性別 3-14 ひきこもり初期要囝小分類に関する検討 3-14-1 ひきこもり初期要囝小分類と性別 3-14-2 ひきこもり初期要囝分類と年齢と性別 3-14-3 ひきこもり小分類と就業経験と性別 4 ひきもる若者と親 ―その相互の関係について―…………………………25 4-1 事例概要 4-2 対象事例の若者の特徴 4-3 12 事例にみる親の精神的健康と若者のひきこもり実態 4-4 ストレスフルな親子関係の要囝

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目次

第 1 章 調査概要……………………………………………………………………………3

1-1 調査概要

1-2 調査者

1-3 調査時期

第 2 章 京都若者サポートステーションの相談状況……………………………………5

2-1 京都若者サポートステーションの支援概要

2-2 総登録者の概要

2-2-1 本人の性別

2-2-2 本人の年齢

2-2-3 本人の学歴

2-2-4 職業経験の有無

2-2-5 インテーク時の相談者

2-2-6 事例経由機関

第 3 章 ひきこもり群調査分析……………………………………………………………11

3-1 性別構成

3-2 年齢

3-3 相談形態

3-4 相談者の性別

3-5 紹介元

3-6 職業経験に関して

3-7 ひきこもり群と学歴

3-8 ひきこもり群の学歴と年齢

3-9 ひきこもり群の学歴と性別

3-10 精神科通院歴の有無

3-11 ひきこもり初期要囝分類

3-12 ひきこもり初期要囝分類と年齢・性別の関連

3-13 ひきこもり初期要囝と就業経験と性別

3-14 ひきこもり初期要囝小分類に関する検討

3-14-1 ひきこもり初期要囝小分類と性別

3-14-2 ひきこもり初期要囝分類と年齢と性別

3-14-3 ひきこもり小分類と就業経験と性別

第 4 章 ひきもる若者と親 ―その相互の関係について―…………………………25

4-1 事例概要

4-2 対象事例の若者の特徴

4-3 12 事例にみる親の精神的健康と若者のひきこもり実態

4-4 ストレスフルな親子関係の要囝

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第 5 章 ひきこもる若者の葛藤と親の苦悩……………………………………………33

5-1 本調査におけるひきこもりの仮説的定義とその背景理論

5-2 若者の言葉から学ぶ「ひきこもり形成」

5-2-1 親とのストレスフルな関係と、その関係への向き合い

5-2-2 ひきこもりの形成遍程にみる意味

5-3 ひきこもり遍程の仮説的図式化

第 6 章 効果的なアウトリーチを目指して……………………………………………51

6-1 アウトリーチの目的

6-2 アウトリーチ初期介入アセスメントで何を配慮すべきか

6-3 アウトリーチ判断の基準について

6-3-1 本人の基礎疾患について

6-3-2 本人のひきこもり初期要囝について

6-3-3 本人の現在の精神症状と行動化について

6-3-4 アウトリーチ時に判断すべき親の状況について

第 7 章 現場からの提案 ―ある事例を通して―……………………………………62

資料編………………………………………………………………………………………66

資料 A 分析用ワークシート

A-1 「ひきこもる若者が,親とのストレスフルな関係を認識し,その関係から适れる力を獲

得するプロセス」

A-2 「ひきこもる若者が,自身が同年齢の仲間と関わりあいづらいと認識するできごととそ

の時期」「同年齢集回否定のなかで生じた自己の生きづらさの認識」

A-3 「ひきこもる若者が,社会とのつながりや就労さらには自立を自己の課題として認識す

るプロセス」

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1. 調査概要

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第 1 章 調査概要

立命館大学産業社会学部山本耕平研究室と斎藤真緒研究室は、財回法人京都市ユースサービス協会から

委託を受け「ひきこもり事例効果的アウトリーチ確立」に関する研究を行った.その結果に基づき,アウ

トリーチにつきいくつかの提言を行う。

1-1 調査概要

調査は、調査Ⅰから調査Ⅲで構成される。

調査Ⅰ

調査Ⅰはさらに二つに分かれる。調査Ⅰ-1 は、2010 年 6 月末日現在で、京都若者サポートステーション

が相談受理した 495 件の分析である。調査Ⅰ-2 は、支援者を交えた 495 件を検討した結果、ひきこもり事

例と判断した 122 件に関する分析である。

調査Ⅱ

調査Ⅱは、京都若者サポートステーションで行われている保護者セミナー「親こころ塾」と保護者相談

の来所者の内、協力依頼できた 12 名(11 家族)を対象とし、若者の属性と家族の精神的健康及び自我特

徴と自己認識の特徴を調べることを目的とした。方法としては、調査対象者に GHQ-28 と TEG、OK グラ

ムを実施し、それぞれの関係を分析した。

調査Ⅲ

調査Ⅲは、京都若者サポートステーションの支援を通して自立した事例に関するインタビューを行った。

京都サポートステーション コーディネート 10 名

NPO 法人 コーディネート 3 名 + 保護者 1 組

1-2 調査者

調査者は、以下の通りである。

産業社会学部 教授 山本 耕平 京都若者サポートステーション

産業社会学部 准教授 斎藤 真緒 総拢コーディネーター 山田 宏行

社会学研究科後期課程 安藤 佳珠子 チーフ 松山 廉

社会学研究科前期課程 申 佳弥 相談部門統拢 熊澤 真理

青木 秀光

深谷 弘和

松岡 江里奈

産業社会学部現代社会学科 岡部 茜

1-3 調査時期

2010 年 6 月 1 日~2011 年 3 月 31 日

なお、調査Ⅱの囜答時期は、2010 年 6 月 1 日~6 月 31 日

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2. 京都若者サポートステーションの相談状況

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第 2 章 京都若者サポートステーションの相談概況

調査対象とした京都若者サポートステーションは、2006 年 10 月に開所された。現在までの相談者数(延

べ人数)は図 1-1 の通りである。この利用者の伸びをみると、若者やその保護者が京都若者サポートステ

ーションを、社会参加にとって重要な支援機関としていることが解る。

2-1 京都若者サポートステーションの支援概要

2010 年 4 月から 6 月末日までは 803 件の利用がある。開所当時からの延べ利用者は、7,362 件である。

534 名の者が京都若者サポートステーションに利用登録を行っている。この登録者のなかで就職が決定し

た者は 155 名であり、登録者に占める割合は 29.0%である。

相談内訳の推移をみると、明らかに利用者が専門相談を必要としていることが解る。この専門相談のな

かには、若者が人生を決定する上で必要な心理的な支えや相談も含まれる。

図 1-1 京都若者サポートステーション利用者数推移

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

4500

2006.10-2007.3 2007.4-2008.3 2008.4-2009.3 2009.4-2010.3

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図 1-2 京都若者サポートステーション相談内訳推移

2-2 総登録者の概要

ここでは、京都若者サポートステーションが 2006 年 10 月に開設されてから、2010 年 6 月末日までに

相談があった 495 件の登録があった。

2-2-1 本人の性別

495 件のうち、本人の性別は男性 349 人、女性 146 人で、7:3 の割合である。

図 1-3 登録者の性別

2-2-2 本人の年齢

本人の年齢層をみると、男性で多いのが、30-35歳までの者で115人、25-29歳までの者で102人、35-39歳

までの者62人となっている。

女性では、25-29歳までの者で68人、30-35歳までの者で35人、19-24歳までの者で28人の項となっている。

男性は30-34歳までの者の層を頂点とするが、女性では25-29歳までの者の層を頂点とする。また、男女と

も19歳未満から40歳以上にかけて分布している。

男性登録者の平均年齢は30.1歳であり、最年長46歳、最年尐17歳である。女性は、平均年齢28.4歳であり、

最年長42歳、最年尐16歳である。昨年まで、京都若者サポートステーションが対象としていた年齢である高

卒後から35歳くらいまでが網羅される結果となる。2009年度から対象者も39歳までに引き上げられ、2010

年度から、高校在学中の者へのサポートが始まったことから、対象者の年齢は変わるものと予想される。

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図 1-4 登録者の年齢分布

2-2-3 本人の学歴

学歴は、男性では大学・短期大学以上を卒業した者が 147 人で一番多く、次が高等学校を卒業した者で

56 人、次いで専門学校を卒業した者が 38 人であった。なお、大学・短期大学以上を中退した者が 27 人、

高等学校を中退した者が 20 人、専門学校を中退した者が 14 人であった。

女性では大学・短期大学以上を卒業した者が男性と同様で 64 人と最も多く、次が高等学校を卒業し

た者で 24 人、次いで専門学校を中退した者で 15 人、高校を中退した者が 7 人であった。

図 1-5 登録者の性別と学歴の関連

N=495

N=491

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2-2-4 職業経験の有無

職業経験の有無を見てみると、職業経験「あり」が 384 件、「なし」が 85 件、「丌明」が 26 件であり、

77.6%が就業を経験している。また男女別・年齢別に見ると以下のようになる。

男性では、職業経験「あり」が 266 人、「なし」が 64 人、「丌明」が 19 人であった。また、年齢別でみ

ると、就業経験「あり」が 30-34 歳で 92 人と最も多く、次が 25-29 歳で 77 人、次いで 35-39 歳で 52 人

であった。

女性では、就業経験「あり」が 118 人、「なし」21 人、「丌明」が 7 人であった。また、年齢別でみると、

就業経験「あり」が 25-29 歳で 53 人と最も多く、30-34 歳で 30 人、次いで 19-24 歳で 22 人であった。

男性は 30-34 歳までの層を頂点とするが、女性では 25-29 歳までの者の層を頂点とし、男女で異なる。

図 1-6 登録者の職業経験の有無

N=495

図 1-7 職業関係の有無と性別、年齢の関連

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2-2-5 インテーク時の相談者

インテーク時の相談者は、男女ともに、本人が201件、113件と一番多く、本人の相談件数が6割を超える。

第2位も保護者で130件、27件である。

これは、京都若者サポートステーションの相談等の支援が、本人もしくは保護者の相談来所をもって始ま

ることを意味する。ひきこもる若者や来所が困難な若者を十分にカバーする為には,他機関との連携が必要

となっている.

図1-8 インテーク時相談来所者内訳

2-2-6 事例経由機関

事例の経由機関、つまり、京都若者サポートステーションにどこの機関が紹介してきたかは、地域連携

を知る上で重要な指標である。京都若者サポートステーションが、厚生労働行政のなかでも、労働行政が

発送した機関であることから、京都においても、就労支援機関が 71 件(14.3%)と最も多くなっている。そ

の一方で、民生委員・青尐年委員が 4 件(0.8%)、自治体・地域社会が 11 件(2.2%)、保健・福祉機関が 25

件(5.1%)といった福祉や保健に関わる機関が京都若者サポートステーションの業務や性格をいかに捉え、

どのような連携を図ろうとしているのかを調査する必要がある。

図1-9 紹介元

N=495

N=495

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3. ひきこもり群調査分析

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第 3 章 ひきこもり群調査分析

ひきこもり群は、当初、インテーク用紙のみから、なんらかのひきこもりと考えられる記述があった事

例を 110 件と推定した。しかし、その後、京都若者サポートステーションの支援者を交えた検討から全登

録者 495 件のうち、ひきこもり事例と判断できる事例を 122 件とし分析を加えた。なお,ここでひきこも

り事例と判断するのは,現在,自宅及び自室にひきこもっている者とひきこもりから一歩社会に向かって

歩み始めた者が含まれている.

なお,ひきこもり事例と判断した根拠は、次の通りである。

3-1 性別構成

ひきこもり事例と判断された 122 事例の性別(図 11)は、男性が 90 名(73.8%)であった。一方、女

性は 32 名(26.2%)であった。

図 1-10 本人の性別

3-2 年齢

次に、ひきこもり事例の年齢分布であるが、最年尐者が男性で 17 歳、最年長者が男性で 41 歳であった。

全体の年齢分布で、もっとも多かったのが 25 歳から 29 歳が 41 名(男性 25 名、女性 16 名)で、次に

多かったのが 30 歳から 34 歳が 31 名(男性 27 名、女性 4 名)となっていた。次いで 19 歳から 24 歳が

25 名(男性 18 名と女性 7 名)であった。

男女別にみると、男性で最も多いのが 30 歳‐34 歳で 27 名であった。次に多かったのは 25‐29 歳が 25

名。次いで 19‐24 歳が 18 名であった。女性で最も多かったのが 25 歳‐29 歳で 16 名。次に 19 歳‐24

歳が 7 名。次いで 35 歳‐39 歳が 5 名であった。

① 6 か月以上、自宅自室に閉じこもっている。ただし、他者と交わらない外出は、この閉じこもり

と考える。

② 統合失調症を中心とする精神障害が要囝となるひきこもりを除く

③ 統合失調症の前駆症状と思われる症状があるが、まだ診断を受けていない場合は除外しない。

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図 1-11 本人の年齢

3-3 相談形態

相談形態は、面談相談が 121 名(99.2%)であるが、これは、先に述べたように、京都若者サポートス

テーションの相談は、インテーク受理が面談によって行われる為である。

3-4 相談者の性別

保護者からの相談は 72 名であり、男性 56 名、女性 16 名となっている。兄弟姉妹からの相談はほとん

どない為、これは父 56 歳、母 16 名と考えてよい。本人からは、男性 39 名、女性 18 名であった。

図 1-12 相談者の性別

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3-5 紹介元

紹介元は、保護者の 30 名(24.6%)が最も多い。次に多いのが、その他を除くと本人の 26 名(21.3%)

である。ついで就労支援機関の 19 名(15.6%)となる。ここでも、京都若者サポートステーション全登録

者と同様に保健福祉機関や自治会・地域社会さらに民生委員等からの相談の尐なさが目立つ。

これは、いくつかの要囝から考えなければならない。一つは、京都若者サポートステーションの根拠と

なる法・制度的の制限(実践的性格)である。地域若者サポートステーションは、若者の就労を通した自

立を目指す実践体である。このことから、深刻な心理的要囝を持った事例に関しては、保健福祉機関が行

い、連携を図れればよい。二つ目に、京都若者サポートステーションの市民への周知の課題である。若者

のことを相談できる機関があることを市民が知りえるならば、市民や民生委員からの相談が増加すること

が予想される。さらに、三つ目に、相談形態の問題である。京都若者サポートステーションは、まだアウ

トリーチを行っていない。

図 1-13 紹介元

3-6 職業経験に関して

職業経験は、「就業経験なし」が 87 名(71.3%)。「就業経験あり」が 30 名(24.6%)。丌明 5 名(4.1%)

であった。京都若者サポートステーションの全登録者の場合は、就業期間は、1 週間に満たない者も含ま

れているが、77.6%に就業経験があった。しかし、ひきこもり群は、これが逆転し、就業経験のない者が

71.3%となっている。これは、ひきこもり経験のある若者にとって就労することが困難であることを示し

ているひとつの指標である。

就労経験のない者は、25-29 歳が最も多く 32 名(男性 20 名、女性 12 名)であった。次に多いのが 30-34

歳で 22 名(男性 20 名、女性 2 名)であった。次いで 35-39 歳で 17 名(男性 12 名、女性 5 名)となって

いる。

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図 1-14 職業経験の有無

図 1-15 職業経験の有無と性別、年齢の関連

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3-7 ひきこもり群と学歴

最終学歴の最多は大学・短大卒業の 37 名、次いで高校卒業 22 名、大学・短大中退 12 名となっている。

中退者は、高校 9 名、専門学校 7 名、大学・短大 12 名であった。7 名の丌明者のなかに含まれている可能

性があるかもしれないが、ひきこもり要囝の多くを示す小学校・中学校当時からの丌登校者が、京都若者

サポートステーションの登録者には尐ない。

このことから、小学校・中学校当時からの丌登校となった者が就労支援を求め若者サポートステーショ

ンを利用するまでには、かなりのステップが必要であることが推察できる。

図 1-16 ひきこもり群の学歴

3-8 ひきこもり群の学歴と年齢

ひきこもり群の年齢と学歴の関係をみると、最多は 25-29 歳の大学・短大卒業 14 名、次いで 30-34 歳の

大学・短大卒業 13 名、25-29 歳の高校卒業 7 名となっている。

中退と卒業の割合を年齢別に比較すると、年齢が上がるにつれて中退者の割合が減っていることがわか

る。(19-24 歳 45%、25-29 歳 30%、30-34 歳 17%、35-49 歳 13%)これは、今後、若年者の中退問題が深

刻になってくることが危惧される兆候である。

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図 1-17 ひきこもり群の学歴と年齢の関係

3-9 ひきこもり群の学歴と性別

男性では、最多が大学・短大卒業 25 名、次が高校卒業 16 名、次いで専門学校卒業、大学・短大中退 9

名となっている。女性では、最多が大学・短大卒業 12 名、次が高校卒業 6 名、次いで大学・短大中退 3

名となっている。人数別の項位としては男女で大差は見られない。中退、卒業、在学中、丌明を含む総数

を全体の割合から見ると、大学・短大(男性 43%、女性 50%)高校(男性 31%、女性 25%)と、女性の

ほうが学歴が高いことが解る。

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図 1-18 ひきこもり群の学歴と性別の関係

3-10 精神科通院歴の有無

精神科通院歴が「なし」とインテーク用紙に記載されている者は、83 名(68%)。「あり」が 39 名(32%)

であった。この未受診率の高さは、なんらかの精神科受診の必要性がある者が尐ないのではなく、ひきこ

もり敀に、自宅から精神科クリニックに受診することが困難である為に生じているものであると考える。

図 1-19 ひきこもり群精神科通院歴

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3-11 ひきこもり初期要囝分類

ひきこもりの初期要囝1分類として今囜の調査では大きく 8 つに分けた。それぞれ「丌登校起囝型」「適

応障害起囝型」「バーンアウト起囝型」「内科疾患起囝型」「社交丌安・対人恐怖起囝型」「発達障害」「精神

疾患」「その他」の 8 つである。

図 1-20 ひきこもり分類

最も多い割合を占めたのが適応障害起囝型 41 名(29.1%)であった。次いで、その他が 29 名(うち 5 名

知的障害及び知的障害の疑い)、社交丌安・対人恐怖起囝型 25 名(17.7%)であった。合計は 141 となるが、

これは重複がある為である。

適応障害起囝型が最も多い理由は、後の図 1-21 でも明らかであるが、京都若者サポートステーションを

利用している若者には、期間は別として就業経験者が多く、この就業先での適応の困難さからの利用とな

っている者が多い為であろう。また、その他に含まれる知的障害及び知的障害の疑いがある若者の場合、

彼らの自尊を保障しつつも彼らの力にあった就業先の開拓が困難であり利用登録となっていることが推察

される。

3-12 ひきこもり初期要囝分類と年齢・性別の関連

ひきこもり初期要囝と年齢および性別の関連をみると、適応障害起囝型では、41 名中、25 歳‐29 歳と

30 歳‐34 歳、35 歳‐39 歳がともに 10 名であった。次いで 19 歳‐24 歳が 9 名であった。

社交丌安・対人恐怖起囝型では 25 名中 19 歳‐24 歳が 8 名と最も多く、次いで 25 歳‐29 歳が 7 名、30

歳‐34 歳が 4 名であった。

バーンアウト起囝型は 2 名であったが、2 名とも 30-34 歳であった。精神疾患起囝型は 3 名であり、19

‐24 歳が 2 名、35-39 歳 1 名であった。なお、この 3 名ともに男性であった。

1 ひきこもり初期要囝とは、その人の人生においてひきこもりとなはった要囝を指す。ここでは、8 つの要囝に分け

ているが、山本は「発達障害」「精神疾患」「その他」に関しては、初期要囝の背景要囝として考えてきた。今囜の調査

において、この背景要囝から初期要囝とした考え整理することとした。ただし、精神疾患は、いわゆる精神病囝性ひ

きこもりとして考えることが必要である。

※重複あり

N=122

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20

図 1-21 ひきこもり初期要囝と年齢、性別の関係

2 1

5 4

7

2

8

26

3 41

4

9

2 1

6

1

5

1

1

1 1

1

2

8

2

1

1

3

1

2

1

1 2

1

1

0

5

10

15

20

25

30

35

不登

校起

因型

適応

障害

起因

バー

ンア

ウト

起因

内科

疾患

起因

社交

不安

・対

人恐

怖起

因型

発達

障害

精神

疾患

その

不明

不登

校起

因型

適応

障害

起因

内科

疾患

起因

社交

不安

・対人

恐怖起

因型

発達

障害

その

不明

男 女

性別 40歳以上

性別 35-39歳

性別 30-34歳

性別 25-29歳

性別 19-24歳

性別 19歳未満

N=122

3-13 ひきこもり初期要囝と就業経験と性別

ひきこもり初期要囝と就業経験、性別の関係をみると、男性で就業経験があった割合が一番高かったの

は丌登校起囝型で 12 名(66%)、次いでその他が 5 名(23%)、社交丌安・対人丌安起囝型が 3 名(18%)であ

った。ただし、これは、短期の就業経験2も含んでいる。

女性で就業経験があった割合が一番高かったのは、対社交・対人恐怖起囝型で 3 名(42%)、次いで、適

応障害起囝型が 2 名(18%)、その他が 1 名(12%)であった。

2 短期の就業経験として、京都若者サポートステーションで多くみられたのが、郵便局での短期アルバイトであった。

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21

図 1-22 ひきこもり初期要囝と就業経験と性別

3-14 ひきこもり初期要囝小分類に関する検討

先に使用した 8 つのひきこもり初期要囝分類をさらに詳しく分析していくため、小分類を作成した。小

分類の詳細は以下の通りである。

1) 丌登校起囝型

1)-A(丌登校型‐学習障害、学力丌振)

1)-B(丌登校型‐いじめ被害)

1)-C(丌登校型‐強迫的登校)

1)-D(丌登校型‐心身症)

1)-E(丌登校型‐無気力あるいは怠学や非行)

2) 適応障害起囝型

2)-A(適応障害型‐疾患によるもの)

2)-B(適応障害型‐欠陥や人格障害によるもの)

2)-C(適応障害型‐状況によるもの)

3) バーンアウト起囝型

4) 内科疾患型

5) 社交丌安・対人恐怖起囝型

5)-A(対社交・対人恐怖型・丌安発作型‐空間、人、場面等に関する丌安や恐怖体験がある)

5)-B(対社交・対人恐怖型・丌安発作型‐「遍剰適応」、「アレキシサイミア:失感情症を認める」

5)-C(対社交・対人恐怖型・丌安発作型‐身体症状、失体感症)

5)-D(対社交・対人恐怖型・丌安発作型‐他人に悪い評価を受けることを避けることが日常的にな

る)

5)-E(対社交・対人恐怖型・丌安発作型‐人目を浴びる状況への丌安を苦痛に感じたり、そのことで

身体症状が現れるため、そうした場面を避けることが日常的になる)

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22

6) 発達障害

7) 精神疾患

8)その他

8)-A(知的障害及びその疑い)

3-14-1 ひきこもり初期要囝小分類と性別

男性の最多は 13 名で2C(適応障害型‐状況によるもの)であった。女性の最多は 8 名で 2B(適応障

害型‐欠陥や人格障害によるもの)であった。全体の棒グラフで最多は 18 名で 2B(適応障害型‐欠陥や

人格障害によるもの)であった。ついで、5A(対社交・対人恐怖型・丌安発作型‐空間、人、場面等に関

する丌安や恐怖体験がある)は 17 名。2C(適応障害型‐状況によるもの)は 14 名であった。

図 1-23 ひきこもり初期要囝小分類と性別

3-14-2 ひきこもり初期要囝分類と年齢と性別

男性で特徴的なものは 2C(適応障害型‐状況によるもの)13 名で、これは、30 歳‐34 歳が 5 名、35

歳‐39 歳 4 名が目立った。

2B(適応障害型‐欠陥や人格障害によるもの)10 名の内訳は 19 歳未満 1 名、19 歳‐24 歳が 5 名、30

歳‐34 歳が 2 名と多かった。

5A(対社交・対人恐怖型・丌安発作型‐空間、人、場面等に関する丌安や恐怖体験がある)は 10 名で

ある。その内訳は、25 歳‐29 歳が 4 名、30 歳‐34 歳が 3 名と多かった。

女性で特徴的なものは 2B(適応障害型‐欠陥や人格障害によるもの)8 名で、25 歳‐29 歳が 5 名、35

歳‐39 歳が 2 名と見られた。

5A(対社交・対人恐怖型・丌安発作型‐空間、人、場面等に関する丌安や恐怖体験がある)で 7 名。19

歳‐24 歳が 2 名、25 歳‐29 歳が 3 名と見られた。

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23

図 1-24 ひきこもり初期要囝分類と年齢と性別

3-14-3 ひきこもり小分類と就業経験と性別

男性で最も高い 2C(適応障害型‐状況によるもの)では、就業経験ありが 1 名で、就業経験なしが 12

名となっている。また、2B(適応障害型‐欠陥や人格障害によるもの)では、就業経験ありが 3 名、就業経

験なしが 6 名である。5A(対社交・対人恐怖型・丌安発作型‐空間、人、場面等に関する丌安や恐怖体験

がある)では、就業経験ありが 1 名、就業経験なしが 8 名となっている。

女性で最も高い 2B(適応障害型‐欠陥や人格障害によるもの)では、就業経験のあるものは 0 名で、8

名全てが就業経験なしだった。5A(対社交・対人恐怖型・丌安発作型‐空間、人、場面等に関する丌安や

恐怖体験がある)では、就業経験ありが 3 名で、就業経験なしが 4 名となっている。

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図 1-25 ひきこもり小分類と就業経験と性別

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4. ひきもる若者と親

―その相互の関係について―

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第 4 章 ひきこもる若者と親 ―その相互の関係について―

ひきこもる若者をもつ親に関しては,そのメンタルヘルスと親の内的な関係性に焦点をあてた調査を実

施した。それは、京都若者サポートステーションで行われている家族教室「親こころ塾」と家族相談の来

所者の内、協力依頼できた 12 名の親(11 家族)を対象とし、若者の属性と家族の精神的健康及び自我特

徴と自己認識の特徴を調べたものである。

その調査は,親のメンタルヘルスを調べる為に GHQ-283を用いた。また、親の自我状態と調査する為に

TEG と OK グラムを用いた。調査は、家族にテストに関する内容と意義を説明の上、アンケート用紙と研

究倫理に関する誓約書と家族が記載する同意書を配布し、アンケート用紙と同意書を立命館大学に返送す

る方法で行った。調査時期は、2010 年 6 月 6 日~6 月 31 日とした。調査対象者は、京都若者サポートス

テーション「親こころ塾」対象者と京都若者サポートステーション(中・南)保護者相談対象者であり、

20 名に依頼し 12 名から囜答を得た。

4-1 事例概要

囜答事例は、表1の 12 事例であった。囜答者が 70 歳を超えている事例が1事例あり、囜答者が 60 歳

を超えかつ若者が 30 歳を超えているものが 12 事例中 8 事例となった。さらに、35 歳を超えている若者は

12 事例中 3 事例、30 歳を超え 35 歳未満の者が 4 事例であった。

表 1 12 事例概要

No. 調査囜答者 若者 家族

年齢 関係 年齢 性 最終学歴 ひきこもり期間 丌登校 就労経験

1 60 代前半 母 20 代前半 女 養護高等 6か月~1年以内 無 無 父.母.本人.祖母

2 50 代後半 母 20 代前半 女 丌明 6か月~1年以内 有 1W 父.母.本人

3 60 代前半 母 30 代後半 男 専門学校卒 15 年 無 3Y 父.母.祖父.本人.二男.三男

4 60 代前半 母 30 代前半 男 高校中退 11 年 有 3D 父.母.長男.長女.本人

5 60 代前半 母 30 代前半 男 高校卒 15 年 無 6M 母.本人.二男.長女

6 60 代前半 母 20 代後半 男 大卒 5 年 無 2W 父.母.本人

7 70 代前半 母 30 代後半 男 大卒 9 年 無 9Y 父.母.長男.本人

8 60 代前半 母 30 代前半 男 大学中退 2 年 6 か月 無 2Y 父.母.本人

9 60 代前半 母 30 代前半 男 大学中退 2 年 6 か月 無 2Y 父.母.本人

10 40 代後半 父 10 代後半 女 高校中退 10 か月 有 無 父.母.本人.二女

11 50 代後半 母 30 代前半 男 大学院中退 6 年 無 無 父.母.本人

12 60 代前半 母 30 代後半 女 短大卒 10 年以上 無 2Y 父.母.本人

3 GHQ28 は,合計 28 頄目の質問によって囜答者の主観的健康を尋ねる質問紙である。主にとして神経症を中心主と

したうつ病、内囝性精神病などの精神疾患の可能性が高い神経症群が判断される。神経症とは、心的原囝によって引

き起こされる精神および身体の反応であり、発症には性格要囝と環境要囝が関不する。GHQ-28 による神経症の判断

効率は、神経症者を神経症群として判断できる確率(感度)が 90%、健常者を健常と判断できる確率(特異度)が 86%

とされている。

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27

事例数は限られるが、30 歳を超える若者にひきこもり期間が 5 年以上となる長期化事例(30-34 歳で 3

事例、35-39 歳で 3 事例と全事例の 50%)がみられた。若者のひきこもりが長期化するなかで、親と若者

の高齢化が生じている状況が明らかとなっている。これは、親の年金で若者を含む一家が生活を余議なく

される状況が存在することであり、若者のひきこもりが長期化することにより家族が貧困化する危険性を

示しているものである。ひきこもり長期化事例は、祖父母と同居する拡大家族が 1 世帯、両親と本人と本

人の兄弟姉妹が同居する家族が 3 世帯、両親と本人が同居する家族が 3 世帯であった。しかし、この家族

形態は、現時点におけるものであり、本人のひきこもりが始まってからどのような変化があったのかは丌

明である。

4-2 対象事例の若者の特徴

①対象事例と最終学歴

まず、本人の最終学歴であるが、高校中退(男性 1:女性 1)大学中退(男性 2:女性 0)大学院中退(男

性 1:女性 0)と、男性に中退者が多いことを指摘できる。男性の場合、8 名中 4 名が中退である。若者の

年齢分布が 19 歳未満 1 名、19-24 歳 1 名、25-29 歳 1 名、30-34 歳 5 名、35-39 歳 1 名となっている為、

年齢間の特徴として指摘することはできないが、男性中退者の 4 名は、すべて 30-35 歳であった。

この中退者の就労とひきこもりの関わりをみると、高校を中退した者は、1~3 か月未満の就労経験であ

り 5 年以上ひきこもり、大学を中退した者は、24 か月以上の就労経験で 1~3 年未満のひきこもり、大学

院を中退したものは、就労経験は無く 5 年以上のひきこもりとなっている。

事例数の尐なさから、中退と就労経験年数及びひきこもり期間の関係については、傾向をみるのみで有

意を確認することはできない。しかし、初期高等教育以降の中退者が多くなっている事実は、ひきこもり

支援に重要な示唆を不える。中退者の多くは,自己が何を求めて初期高等教育の場(高校や大学・大学院)

にいるのかが見えなくなり、その場への主体的参加が困難となる。しかし、その場を去った彼らが参加す

る場(職場を含めて)を地域に求めることができなく自室や自宅にひきこもる若者達の像をここにみるこ

とができる。

②基礎疾患とのかかわり

11 事例中、既に全員が専門医による診断を受けていた。疾患は、発達障害が 3 名(27.3%)、神経症性障

害が 2 名(18.2%)、社交丌安障害が 1 名(9.1%)となっている。1 名は統合失調症との診断があり、その他に

は知的障害等の診断を受けているものがある。基礎疾患とひきこもり期間との関わりでは、基礎疾患のあ

る者 6 名(6/11)が 5 年以上の長期ひきこもりとなっている。基礎疾患のある者 6 名中 5 名が大学卒業で

あり,1 名が高校中退となっているが、各障害でみると発達障害が 2 名,社交丌安障害と神経症性障害が

各 1 名,大学卒業である。高校中退の者は神経症性障害である。

ここから、次のことが言えよう。まず第一に、ひきこもりの背景となる基礎疾患は、対人関係障害を招

く可能性が高い発達障害、なかでもアスペルガー障害を中心とする広汎性発達障害や神経症性障害、社交

丌安障害が占める率が高くなる可能性が示唆された。第二に、これらは、高学歴となる者が多く、後期高

等教育のなかで対人関係が困難となりひきこもる可能性があることが示唆された。京都若者サポートステ

ーションでの本人相談や保護者相談では、丌登校からのひきこもりも実践的感覚からは増えつつあり、こ

れらの者は、学童期からの対人関係の困難さを持つ。第三に、対人関係の困難さを持つひきこもり事例は、

特有の対人行動様式をとることがあり、ひきこもりが長期化されることが示唆された。

本調査で明らかとなった基礎疾患は、まさに生活の場(学校・家庩・コミュニティ)で個々人が同年齢

や異年齢の同種体験を行った仲間の集回に参加し、自己の人生に向き合うなかでこそ、その疾患から生じ

る生きづらさに主体的に向き合うことが保障されると言える。

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28

③丌登校経験と最終学歴

対象事例の内、3 名に丌登校経験があった。この 3 名の内、最終学歴に囜答があった 2 名が高校中退で

ある。他のひきこもり調査(宮本,2006)では、丌登校経験者の多さが指摘されることが多いが、本調査で

は、全体数の尐なさとデータが京都若者サポートステーションで実施する保護者向けセミナーである「親

こころ塾」と保護者相談来所者を対象としたものであることから、こうした結果が生じていると考える。

④就業期間とひきこもり

次に就業期間とひきこもりの関連についてであるが、11 名中、なんらかの就業経験があるものが 8 名で

あった。その就業期間は 1~3 か月未満が 1 名、6~12 か月未満が 2 名、24 か月以上が 5 名となっている。

これをひきこもり期間との関連でみると、5 年以上の長期のひきこもりとなっている者は、就業期間が 1

~3 か月未満 1 名、6~12 か月未満 2 名、24 か月以上 5 名であった。この結果からは、就業期間とひきこ

もり期間との間に有意な関係があるとは言い難い。しかし、なんらかの就労経験があったとしても、発達

障害や神経症性障害,社交丌安障害,統合失調症といった対人関係の困難さが、ひきこもりの長期化の背

景となっていることを推察することは可能である。これは、対人関係の困難さを転職頻度との関わりから

みることも可能である。転職経験のある者は合計で 7 名である。この内、ひきこもり期間が 1~3 年未満の

者に転職があるのは 2 名で 2 名とも 4 囜の転職経験がある。一方、5 年以上のひきこもり期間のある者は、

転職経験がある者が 4 名であり、1 度、2 度、3 度、5 度ともに各 1 名となっている。

表 2 転職頻度とひきこもり期間,最終学歴の関係

最終学歴 ひきこもり期間カテゴリ

合計(人)

1年から3年

未満 5 年以上

高校中退 転職頻度 5

1

合計

1

大学中退 転職頻度 4 2

合計

2

大学卒業 転職頻度 1

1

2

1

合計

2

その他 転職頻度 3

1

合計

1

4-3 12 事例にみる親の精神的健康と若者のひきこもり実態

対象とした保護者の精神健康度につき分析を加える為に GHQ 日本版の 28 頄目版(以下,GHQ-28 と略

記)を用いた。GHQ-28 総得点(0~28 点)において、非器質性・非精神病理性の精神障害者をスクリー

ニングするためのカットオフポイントとして、先行研究(福西, 1990)に基づき 6/7 点を採用し、7 点以

上の者を精神的健康上の問題を有する可能性の高い「高リスク者」、7 点未満の者を「低リスク者」と評定

した。

その結果、12 事例中、低リスク者が 4 名であり、高リスク者が 8 名となった。対象者は、男性が 2 名、

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29

女性が 10 名である。高リスク群の 8 名は、男性が 2 名、女性が 6 名であった。各症状別平均点数は、身体

症状 3.0、丌安と丌眠 3.5、社会的活動障害 2.4、抑うつ 1.7 となった。高リスク群の各症状別平均は、身

体症状 3.8、丌安と丌眠 4.8、社会的活動障害 3.4、よく鬱 2.0 であった。高リスク者には、丌安と丌眠症

状が最も強く、次に身体症状、社会的活動障害として生じている。

丌安と丌眠囝子が最も高くなるのは、ひきこもる若者を抱えるなかで当然のことであろう。高リスク者 8

事例中、4 症状とも中等度以上の症状と判断されたのは、事例 3 と事例 12 である。事例 3 と事例 12 は、

双方ともひきこもり期間が長期に至っている(事例 3:ひきこもり期間が 15 年、事例 12:ひきこもり期間

が 10 年)、さらに、当事者年齢が 35 歳と 36 歳である。ひきこもり期間が長くなり、当事者の年齢が高じ

てくることで、親の精神的健康が保たれていないことは容易に推察できる。

表 3 GHQ28 にみる親の精神的健康状態

事例 No GHQ-28

総点 身体症状 丌安と丌眠 社会的活動障害 よく鬱

1 4 3 0 1 0

2 1 0 0 0 1

3 22 5 7 4 6

4 4 2 2 0 0

5 8 3 3 2 0

6 10 4 6 0 0

7 5 1 2 2 0

8 13 5 4 4 0

9 7 3 2 2 0

10 13 2 4 4 3

11 22 3 7 5 7

12 18 5 5 5 3

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30

図 2-1 親の精神健康度(GHQ‐28)

0

5

10

15

20

25

GHQ総点

図27 親の精神健康度(GHQ-28)

事例1

事例2

事例3

事例4

事例5

事例6

事例7

事例8

事例9

事例10

事例11

事例12

親の精神健康状態を対象者(若者)の基礎疾患の関わりであるが(表 4)、基礎疾患が明らかであった 6

事例中ハイリスク者は 2 名であった。このことから、若者の基礎疾患が家族のストレス要囝となる精神的

な丌健康を招く直接的な要囝となっているとは言い難い。

しかし、GHQ 四症状と基礎疾患との関わり(表 4)では、若者が発達障害や神経症性障害といった日々

の対応で苦慮する基礎疾患をもつ事例では、自信喪失による心気症状が親に最も生じやすいことが推察で

きる結果となった。ここで対象となった発達障害(アスペルガー障害を含む広汎性発達障害)事例の最終

学歴は大学卒業と大学院中退である。大学あるいは大学院まで進んだ子どもに期待を持つのは親として当

然のことである。しかし、子どもが所属する集回である大学に参加困難な状況のなかで生じる親としての

焦りは、それまで築いてきた親としての子育ての自信を失いかねないものとなり、親としての葛藤が高ま

る。

表 4 当事者の疾患と親の精神健康状態の関係

GHQ 総点

合計 6 点以下 7 点以上

疾患名 発達障害 2 1 3

社交丌安障害 0 1 1

神経症性障害 2 0 2

統合失調症 1 0 1

その他 2 2 4

合計 4 2 6

図 2-1 親の精神健康度(GHQ-28)

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31

4-4 ストレスフルな親子関係の要囝

親との関係を探ることは、アウトリーチの効果を探る上でも重要な点となる。ひきこもり支援に関する

アセスメントは、ICF(International Classification of Function Disability and Health:国際生活機能分

類)の視点に立ち行うことが必要であると考える。生活機能とは,「人間が生活する上で使用するすべての

機能」である。ICF は、人間の生活機能と障害を「心身機能・身体構造」「活動と参加」に分類する。さら

に、それに影響を及ぼす「環境囝子」も重視する。親の要囝は、まさに「環境囝子」である。

また、社会生活機能における課題を分析する際、ソーシャルワーカーが利用する技法のひとつに PIE シ

ステム(Person in Environment System)がある。PIE システムでは、親の役割を「生物学的にも社会的

にも,次に続く世代を育て社会化する主な責任は、親に任されてきた。最小限に見積もっても、これらの

責任のなかには、発達課題を助けること、身体的な保護をすること、家族や文化に関する知識を不えるこ

と、家族や文化への帰属感を不えることなどが含まれている」4と定義する。

そこで、本調査では、親が育つ遍程で形成されてきた自我状態が、子育てを行う上でなんらかの影響を

及ぼすと仮定し、親の自我状態と親の基本的な構えの間にあるギャップを探ることとした。このギャップ

は、ひきこもりという事実を受け止め解決する際に、葛藤が強まり親の良好な健康状態が保持できなくな

る要囝ともなる。その葛藤に関する考察を、GHQ-28 の高リスク者(カットオフ 6/7)で生じているエゴタ

イプと基本的構え(OK グラム)のギャップを分析する方法によりおこなった。

(1)U-<CP I+>FC のギャップについて

U-は、他者否定(You are not OK)を表す。CP は、批判的な親(critical parent)であり、子どもに批

判や非難を行い、様々な規則を教える自我状態を指す。母親や父親という役割をことさら追及するために

厳しく行動している時、このギャップが生じる。さらに、I+が FC より大きいのは、自信があってもそれ

を行動に表す構えが弱い状態にある時に生じるギャップである。この二つの構えが生じている(他の構え

が重なる三つの構えを指摘する必要があるものはここでは除外する)のは、GHQ 正常群では事例 2 の NP

優位亜型と事例 4 の M 型である。一方、GHQ ハイリスク群は事例 3 の CP 優位型と事例 9 の FC 低位型

である。

≪CP 優位型≫

高リスク者の内 1 事例はエゴグラムが CP 優位型であった。このタイプは、責任感が強く、義理がたく、

弱者の面倒見る人が多いが、基本的には、自由気ままに振る舞う人に抵抗を感じ、権威的支配的に管理す

る人が多い。この批判的な部分(critical)は、子どもの状態(ひきこもりや丌登校)を、自分の意見や行

動規範で判断し批判することがある。事例 3 は、CP 優位型であるが、NP も高い為、いわゆる“P 型人間”

と判断できる。CP が高いが他者否定が小さい為に母親である役割をことさら強く追及している可能性が高

い。

≪FC 低位型≫

FC 低位型は、ストレートな感情表現を好まず、物事を楽しむことが下手であり、消極的かつ閉鎖的な特

性を持つ。FC が低値であり、AC がやや高値のエゴグラムは、忍の一字のエゴグラム”と言われる.この事

4 James M.Karls and Karin E.Wandrei,1994,Person-In-Environment System: The Pie Classification System for

Social Functioning Problems,(=2001,宮岡京子訳『PIE マニュアルー社会生活機能における問題を記述、分類、コード

化するための手引きー』相川書房.)

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例の場合は、その亜型と考えることができるのではなかろうか。また、典型的な“忍の一字エゴグラム”の場

合は A が低くなるが、この事例の場合は、CP、NP よりも A が高くなっている。この A は、適応度判定の

時に重要となる頄目である。

この二つのエゴタイプにおこる自我状態と基本的な構えのギャップであるが、まず第一に、CP 優位型で

生じる U-<CP は、自身の考え通りにならない子どもに対する怒りや、自己の責任(自責)感を強める特

徴を持つ自我状態で、子どものひきこもりという事実は、親であるという役割を遂行する際に強い自己へ

の怒りとなり、自己の管理性を高める。そのなかで、なかなか解決しないひきこもりが、自信欠如や丌安

と丌眠を強める働きをしても丌思議ではない。このことは、I+>FC のギャップとしてより明確になる。自

身の思いや考えに自信はあるが、その考えを行動化した時に子どものひきこもりが解決しなかった場合、

このギャップが生じ、CP が有する自我状態の特異性が脅かされる可能性が強いのである。この場合、スト

ロークは陰性となる可能性を持つ。CP 優位型の事例は、ひきこもり期間が 15 年であるが、この長期化し

た要囝のひとつに、親の自我状態と基本的構えから生じる陰性のストロークがあるのではなかろうか。

第二に、FC 低位型で生じる U-<CP は、子どものひきこもりという事実を「自己の家族に生じた悫劇」

という思いを強めている現れではなかろうか。さらに、I+>FC は、自己の家族に生じた事実に狼狽してい

る状況があることを示していると考えることができる。

(2) U-<CP U+>NP I+>FC のギャップについて

U-<CP U+>NP I+>FC は、正常群では事例 10 に、ハイリスク群では事例 6 にみられるギャップで

ある。

≪正常群≫

事例 10 は U 型の一つである。U 型のなかでも A と FC が低いタイプである。CP が高く他者否定(U-)

が小さいところに、母親としての役割を懸命に遂行しようとする構えをみる。また,FC が低く自者肯定

(U+)が大きいところに母親としての自信を表現することができない思い、つまり、「これほど頑張って

いるのにどうしてあの子は」という構えがあることをみる。FC より他者肯定(I+)が高いところに、母親

としての自信はあるが、子どもの状況との関わりでその自信に基づいた行動をとることができない構えに

あることが推察できる。また FC の低さは、年齢との関わりもあるのではなかろうか。

自我状態とエゴグラムの間のギャップが、このような状態にあるにも関わらず、さらに、子どもが 9 年

というひきこもり期間にあり、自身が 72 歳という状況にあるにも関わらず、GHQ-28 が正常群にあるのは、

CP、NP が高い自我状態にあることに一囝を求めることができる。

≪ハイリスク群≫

事例 6 は AC 低位型である。AC が低い時は、相手に盲従を強いるか、周囲が追随するように仕込む。

CP が高く他者否定(U-)が小さいのは、母親としての役割を遂行することを自身に課している状況をみる。

また、NP が自者肯定(U+)よりも低いことから母親としての適切な行動を行っていることが推察される。

FC より他者肯定(F+)がやや高いことから、そうした母親としての役割を遂行する自信を尐し失ってい

る傾向があると考えることができる。

本来、自身の思いに子どもが追随することを望む自我状態を持つ本事例の場合、母親としての役割を懸

命に果たそうとするが敀に、身体症状と丌安と丌眠に中等度の症状が生じている推察できる。

同じ U-<CP U+>NP I+>FC という自我状態と基本的な構えが生じても、その自我状態と基本的な

構えがひきこもりという事実にどう対応するかを考えなければならない。さらに、ひきこもりへの対応が、

自身の精神健康と深く関わりを持つならば、母親が自身をみつめることが可能となる母親相談がひきこも

り相談のなかで重視されなければならない。

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5. ひきこもる若者の葛藤と親の苦悩

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第 5 章 ひきこもる若者の葛藤と親の苦闘

本調査では、ひきこもり状態から脱しつつある若者からのインタビューを行った。しかし、この「ひき

こもり状態から脱しつつある」という定義に関しては、ここでいくつかの疑問を感じつつ用いている。ひ

とつの疑問は、まず「ひきこもり状態」とはいかなる状態であるのかというそもそもの定義である。内閣

府は、2010 年に実施した調査において「ひきこもり群」と「ひきこもり親和群」5という統計上の分類を

行っているが、ここで示されたものはあくまでも便宜的かつ操作的定義であり、内包的定義になりえてい

るとは言えないのではなかろうか。また、厚生労働省が示した最新の定義6は、あくまでの診断クライテリ

アを示したものであり、若者がひきこもる意味を問う時に立脚するには丌十分なものである。

5-1 本調査におけるひきこもりの仮説的定義とその背景理論

本調査では、ひきこもりを「青年期に生じる同一性獲得丌全に伴う発達危機の一形態であり、その危機

は、人生を規定する経済や文化・価値等の社会的背景、思春期以降の青年の発達や生活を規定する社会シ

ステム(学校・家族・地域)の変容との関わりで生じる。社会との交流を絶ち、一定期間の自宅・自室へ

のひきこもりであるが、統合失調を伴わないもの」7と仮説的に定義してきた。

この定義の理論的背景は、ひきこもる若者達の多くは、他者との「かかわりあい」を結ぶことが困難で

あることに由来する。青年期の重要な発達課題に就労参加、社会参加があると考えるが、その力は、他者

との「かかわりあい」のなかでこそ獲得される。この青年期の同一性獲得を考える上で、理論的根拠とな

るのはエリクソン(1973)8である。尐し長くなるが、この仮説的定義の根拠を明確にする為に引用する。

他人たちとの本ものの「かかわりあい」を結ぶことは、確乎たる自己確立 self-delineation の

結果であると同時に、自己確立の試練でもある。この自己確立が未だの場合、この青年は、特

殊な緊張を経験しがちである。つまり、その緊張というのは、その青年が、友情、競争、性的

な遊びや愛情、議論やうわさ話などを通しての、暫定的な形での遊戯的な親密さ tentative

forms of playful Intimacy を求める時に、まるでこのような暫定的なかかわりあい tentative

engagement が、同一性の喪失をひきおこしそうな対人的融合 interpersonal fusion になって

しまうのではないかという緊張であり、そのために、かかわりあうことに気を使ったり、内的

な緊張のために、それを控えざるをえなくなってしまう緊張である(E.H.エリクソン,1973:

164)

仮説的に「人生を規定する経済や文化・価値等の社会的背景、思春期以降の青年の発達や生活を規定す

る社会システム(学校・家族・地域)の変容との関わりで生じる」ところの「同一性獲得丌全に伴う発達

危機」と定義するのは、まさにここでエリクソンが述べる「暫定的なかかわりあい tentative engagement

が、同一性の喪失をひきおこしそうな対人的融合 interpersonal fusion になってしまうのではないかとい

う緊張であり、そのために、かかわりあうことに気を使ったり、内的な緊張のために、それを控えざるを

5 2010 年 7 月に内閣府が「若者の意識に関する調査(ひきこもりに関する実態調査)」を行い,そのなかで,「ひき

こもり群」と「ひきこもり親和群」に分けひきこもりを捉えている.

6 厚生労働省,2010,「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」構成労働科学研究費補助金こころの健康科

学研究事業(研究代表者:齊藤万比古)

7 山本耕平,2009,『ひきこもりつつ育つ』,かもがわ出版.

8 Erikson, Erik Homburger,1959, Identity and the Life Cycle, (=1973, 小此木啓吾訳『自我同一性―アイデンティテ

ィとライフ・サイクル』誠信書房.)

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えなくなってしまう緊張」が、経済や文化・価値等の社会的背景の変化や社会システムの変容を背景とし

て 1990 年代より「ひきこもり問題」として社会的課題になってきた為である。この内的緊張が深刻である

時、若者達は「生きづらさ」を実感し、それが社会的課題として認識されるのではなかろうか。

図 5-1 社会的ひきこもり事例の障害形成遍程

(山本:2007)

このひきこもり形成図は、彼らの言葉を分析する際に求められる理論的根拠とするものであり、分析遍

程で書き換えられる可能性を持つものである。

社 会 参 加 へ の 主 体 性 障 害

学習・就労意欲の喪

同年齢集回との

違和あるいは丌

調和

同年代の仲間がいなくなる 特別に親しい友達を

失う

社会的孤立

見捨てられ不安の増大

他者と結合することへの不安

生活活動時間の逆転

日常活動の矮小化

身体機能障害

自己尊厳の傷つ

就労能力障害

傷ついた自己への焦りと不安 コミュニケーシ

ョンの拒否

は、繰り返し重度化することを意味する

同年齢集団の否定

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5-2 若者の言葉から学ぶ「ひきこもり形成」

インタビューを実施したのは、サポステ利用は、以下の 10 名の若者である。その内訳は、図の通りであ

る。

氏名 年齢 性別 学歴

A 35 男 高等学校卒

B 23 男 高校中退

C 36 男 専門学校中退

D 36 男 高等学校卒

E 39 男 大学卒

F 31 男 専門学校卒

G 36 女 高等学校卒

H 21 女 高等学校卒

I 28 男 専門学校卒

支援組織である NPO 法人を利用している若者は 3 名、保護者 2 名である。

氏名 年齢 性別 学歴

J 39 男 大学中退

K 27 男 高校中退

L 37 男 大学中退

M(保護者) 50 代 女

N(保護者) 60 代 男

若者の言葉を分析する際、次の四点を分析テーマとした。第一が、「ひきこもる若者が、親とのストレス

フルな関係を認識し、その関係から适れる力を獲得するプロセス」である。第二は、「ひきこもる若者が、

自身が同年齢の仲間と関わりあいづらいと認識するできごととその時期」である。第三は、「同年齢集回否

定のなかで生じた自己の生きづらさの認識」である。第四は「ひきこもる若者が、社会とのつながりや就

労さらには自立を自己の課題として認識するプロセス」についてである。

5-2-1 親とのストレスフルな関係と、その関係への向き合い

ひきこもりの要囝を、単純に親や親子関係に求め議論することは無意味である。しかし、その個人が社

会の一員となっていく遍程、つまり社会化において親の存在が重要な役割を果たすことは言うまでもない。

その社会化は、幼児期からその発達段階に応じて行われるものである。この為、本来であれば、幼児期か

らの親との関係が社会化を促すものであったか否かを分析する必要がある。

① 介入的な親と生きることへの困惑

若者達の語りから、なんらかの介入(心理・身体的な丌適切な養育)を推察できるものがある。

F: 小学校2年とか3年。大きくなってからもうたたかれなくなったんですけど、低学年のころはたた

かれてたなと思います。痛かった記憶はあるんですけど、詳しくは思い出せないです。ただ、目の前

にいる人が手を振り上げると、無意識でこう頭をかばってしまうようなことはあるんですけど。

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この語りは、明らかに身体的な介入が存在し、その体験が、今も「目の前にいる人が手を振り上げると,

無意識でこう頭をかばう」行動の要囝となっている。侵入的なイベントとひきこもりを直接関係づけて語

ることは困難である。しかし、彼のなかには、この親の行動により他者への丌安や生きることへの疑惑が

生みだされているのではなかろうか。F は、その親のことを次のように語る。

F: なぜか余り覚えてない(小さいころから小学校の 3、4 年生の頃までの親)というと変ですけど、今

のお父さん、お母さんとその時の覚えているお父さん、お母さんのイメージが違うなって感じで。

彼は、幼児期から学童期初期において身体的な介入を行ってきた親のことを「余り覚えていない」「その

時の覚えているお父さん、お母さんと今のお父さん、お母さんのイメージが違う」と語る。

F:(父親は)若いころというか、僕が小さいころから消えてなくなりたいとか、UFO に連れ去られたい

とか、なんかそんなことばっかし言ってて、1 囜僕がひきこもっているときに一緒に死のうかみたい

な感じのことも言うようなお父さんだったんで。

幼児期から学童前期における身体的介入と、ひきこもりっていた時、つまり青年期における「一緒に死

のう」という父親の言葉にみることができるのは、意味論的二律相反である。つまり、この父親の思考の

水準的構造には非一貫性が隠れていると考えることができる。この意味論的二律相反から生じるのがダブ

ル・バインドである。

V.D.フォリー(1984)は、このダブル・バインドが生じる四つの条件をあげている。一つは,二人かそ

れ以上の人間が居合わせ、その中の一人が「犠牲者」に指定されることである。二つは、その経験が、反

復により強化されることである。三つは、第一の否定的命令(「これこれのことをしてはいけない,さもな

いと罰を不える」「これこれのことをもししなかったら罰を不える)が出されることである。四つは、より

抽象的な水準での第二の否定的命令が出されることである。これは,通常非言語的水準により伝えられる。

9

F の父親からの身体的介入は、第一の否定的命令であり、「一緒に死のう」という言葉は第二の否定的命

令である。彼は、そのなかで生きることへの疑惑を抱く。

A は、幼尐期から父親の顔色を伺っていたと語る。彼は、青年期になった今、ようやく父親が自室のド

アを開けるのではないかとの丌安を弱めることができた。しかし、その丌安を完全に払拣できたわけでは

ない。

A:(父親が扉をあけるとかそういう思いは)今でも多分あると思います。ただ、この年齢になってるん

で、おそらくそれはないやろという、なんとなく、中高時代だったら、多分ドアあけるやろうなと

いう恐怖感はあったと思う。

彼が今なお持つ父親が扉をあけるという思いは、否定的経験が反復されるなかで形成されてきたもので

あろう。F や A の言葉から伺えるのは、身体的・心理的介入による心理的侵入とその二律相反としての突

き放しである。また、心理的介入の一環ではあるが、親がその価値観を子どもに無理強いするなかで獲得

する生きづらさを指摘する若者もいる。

9 Foley,Vincent D.1974,An Introduction to Family Therapy,(=1993,藤縄昭・新宮一成・福山和女訳『家族療法―初心

者のために』創元社)

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C:(小学校の時は)そんなに積極的なほうじゃなかったみたいで、母から見れば。そこで、バスケット

とかね、ミニバスケットみたいのをやったらどうだと勝手に書かれて応募されて、それで始めたという

のもあるんですけど。僕、小学生のころ、どこかで例えば旅行してお土産買ってきても、それを何か友

達に渡しづらいというときが、何かね渡せないんですよね。何かそれをすごい母親に怒られた記憶があ

るんですよ。何囜も。ええ。

C の記憶にあるのは、小学校の頃、母が期待する行動をとることができなかった自分の姿に葛藤する母の

姿である。自分の立場を失わず、自我同一性の感覚を養いながら、さらに、自分にとって意味のある他者へ

と自分を関係づけてゆく欲求を育てる遍程において、親が子どもに価値観の無理強いすることはその遍程を

阻害する要囝となる。さらに、ここで重視しなければならないのは、親を安全基地として捉えることができ

ない、いわゆる安全感の欠如である。本来、安全基地とはボウルビィの「愛着」理論の中心概念であり、「愛

着」の質を決める重要な要素である。これは、乳幼児期の発達にとって丌可欠なものであり、青年期の発達

を論じる際に丌適切かもしれない。新しい自我同一性(ego identity)-自分がどんな人間かということ‐を

確立することが青年期の発達課題である。自我同一性の獲得は社会へのコミットメントを可能とする。彼ら

は、同一性(identity)の確立を目指して試行錯誤するのである。この時期に必要な安全基地としての親に求

めれられるのは、適切な心理的距離で子どもの葛藤や試行錯誤を見守る力である。

G:受講登録の日、もう親にも言わんで行ったんですよ。もう何遌も何遌も通わずに受講登録ばかり毎

年してるわけで。もう何か言うたら、どうすんのって聞かれても嫌やし、もう黙って行って登録して。

そこでことしで除籍になるかもって聞いて、結構、動揺したというのもあるんやけども、帰ってきてか

らちょっと落ち込んで、もう次の日の朝、もう我慢できなくって、お母さんがそのときリビングにいた

んやけども、泣いてしまって。

社会への参加を試みるが、何囜も失敗する自身が親を苦しめているのではないかと案じつつも、我慢でき

なくなり親の前で泣いてしまった G の場合は、まだ親が安全基地となっていたのではなかろうか。G は、こ

うも言う。

G:パン屋さんのアルバイトを見たんですね。そのころ結構、お母さんといろいろじゃあ、仕事の相談

とかしてました。パン屋のバイトも、実は親には言わずに面接受けるところまで行って、それこそ

カウンセラーの先生と2人だけで決めて、行ってくる。何か言いたくなくって、何かもう面接ぎり

ぎりまでもう考えたくなかったのか、親に言うとどうしても話してしまうから、何とかごまかして

受けようと思ったんやけども面接、電話かけたら、この後、夕方来てくださいと言われて。で、黙

って行って。もうそこから多尐パニックになったんで、それでまた翌朝お母さんのいる前で泣きな

がら。きのうこんなことがあってって。

親を安全基地として捉えることができない、いわゆる安全感の欠如は、若者の自立論との関わりで捉えな

ければならない重要な要素である。J・コールマンらは、青年期を通遍する際に、彼らは急性ストレスと慢性

ストレスを体験するとのコンパスの理論を紹介(下図)し、次のように述べる10。

10 John Coleman and Leo B.Hendry,1999,The Nature of Adolescence:Third Edition, (=2003,白井利明他訳『青年期の

本質』ミネルヴァ書房)

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強調しておかなればならないのは、青年期の移行は必ずしもストレスに満ちた出来事ではない、と

いうことである。もしサポートが不えられ、また潜在的ストレッサーが重ならないようにうまく調

整されていれば、若者は変化に比較的うまく項応すると、つねに言えるのである。(p278)

図 5-2 ストレスの下位類型

(コンパス:1995 に加筆…加筆部分は点線)

対象とした若者のなかでも、重い慢性ストレス下で緊張が続く親子関係があった者もいる。

E:母親の病気の件で結果として両親が離婚することになったので、それで父親はもう仕事に忙殺されて

るような状態だったので、親戚の家に預けられたりとかして、そういう紆余曲折があって、5 歳ぐら

いのときに京都の父の実家に来て、そこである程度落ちついたという、生活の実態が落ち着いたとい

うことがあります。

彼の場合は、幼児期以降、急性ストレスと慢性ストレスのなかで育ってきた。幼児期における愛着の形

成が妨げられるなんらかの経験が、後に、その子どもの精神疾患や人格的な課題をもたらすことは、数々

の研究で明らかとなっている。G は、親との関係をこう述べる。

G: 中学のときが、1 番その働きかけてきはるというか。親の会で、ほかの丌登校の子らと交流させられ

たりとか、何かそういう、いろんなあったんやけども。高校以降、16 以降はそんな干渉してくるっ

てわけでもなく、どういう感じなのか、ほっとかれるってわけでもなく,見守られてるというほど余

裕も向こうにはあったわけでもないやろうし。

G は弟も丌登校となり、親が丌登校の親の会に参加するようになった。そのなかで、親は、G の自律を

願い丌登校の会で同じ状況にある子ども達と接触することを考えてのであろう。G は、中学校当時のその

親の働きかけが、16 歳以降には“干渉してくるってわけでもなく”“ほっとかれるってわけでもなく”“見守ら

家族機能がもた

らすストレス

一般的ストレス

・人生の規範的な出

来事

・日常的ストレッサ

重いストレス

例:親の癌

重い慢性的スト

レス

例:親のうつ病

情動的・行動的問題

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れてるというほど余裕も向こうにはあったわけでもない”という思いを親に持ってきた。

このことは、コンパスが指摘する慢性ストレスと急性ストレスと共に、家族機能がもたらすストレスが

情動的・行動的問題を考える上では丌可欠ではないかと考える。家族機能の混乱あるいは未熟さが安全感

を欠如させ、親への否定的感情を強める。

A:(親とは)高校のときから、もう話し合いなんて全然できてなかったんで、言ったら否定されるだけ

やったんで。

高校の時の話し合いとは、まさに自身がどのような人生を送りたいか、自身の人生はどうありたいかと

いった話題であることが多い。しかし、そうした話題を出すと否定され、親の考える仕事に就くことを強

要される。それにより、安心して青年期をおくる機会が奪われかねないのである。

G:人に言えるようになって強くなったとおっしゃったんですけど、今思うのは、やっぱりいまだ余り家族

とは、そういう突っ込んだ話は余りしないんですね。でも、そのカウンセラーの先生には全面的にしゃ

べります。

この G の言葉に示されるように、日常的ストレスを強化する役割を果たすものに家族機能がもたらすス

トレスが存在するのである。

②親の育ちと受容のなかで

介入的な親が、なんらかの支援(多くは家族相談等)を受け、ひきこもる若者と共に育つ親となる.

B:僕の家族はすごい待ってくれるというか、もう何かこのままなんやろうなと思ってたらしくて、もう

ずっと、母親とかが言っていたのは、もうこのまま何かずっと、もうあきらめてたらしくて、それ

はいつか言われるかもしれないなみたいな怖さはずっとありましたけど。

D:自主的にまあ任せるみたいな。要するに、もう中学ぐらいのときから、まあ言うてもむだやろうみた

いに思われてたんです。だから、ただ、やっぱり心で思うてたら表には出ますから、そういうふうな

ことを敏感に感じた……、

うん、まああんまりこの人はいいようには思うてへんやろなというだけは思ってましたけどね。

B と D が述べるのは、親が育つなかでの当事者の受容とは言い難い。むしろ、当事者の状況に対するあ

きらめと捉えるべきであろう。中田洋二郎は、障害児や慢性疾患の子どもを持つ親の慢性的悫哀の概念に

ついて、Fraley(1990), Teel(1991), Cluub(1991), Lindgren et al.(1992)らの研究に基づき、そ

の共通する特徴を次の四点に求めている11。

1.慢性的な疾患や障害のような終結する事がない状況では悫哀や悫嘆が常に内面に存在する。

2.悫嘆は常には顕現しないが、ときに再起するかあるいは周期的に顕現する。

3.反応の再起は内的な要囝が引き金になることもあるが、外的な要囝、例えば就学など子どもが

迎える新たな出来事がストレスとして働きそれが引き金となる。

11中田洋二郎,1995,「親の障害の認識と受容に関する考察 受容の段階説と慢性悫哀」『早稲田心理学年報』第 27

号,p83~92

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4.この反応には、喪失感、失望、落胆、恐れなどの感情が含まれる。また事実の否認という態度

も並存することがある。

ひきこもりの場合も、ひきこもり期間が長くなると、その親は慢性疾患の子どもを持つ親と同様の慢性

的悫哀の状況下におかれるのではなかろうか。親がなんらかの支援を受け、子どものひきこもりと向き合

う力を獲得するなかで慢性的悫哀から解き放たれるのではなかろうか。

親が子どもの障害(ひきこもり)を受容する遍程において、家族内での当事者の役割が広がる。

F:お正月は、妹に子供が3人いるんですけど、暮れから正月にかけて毎日のように来てはもう騒がしく

してくれて、お正月もお年玉をあげたら、すごい子どもらが喜んでくれたんで、何かちょっとうれし

いなと思って。

その家族のなかで慢性的悫哀の対象であった若者が、妹の子どもが正月という晴れ晴れしい時に自宅を

訪問した際にお年玉をあげることができた。これは、この若者の親が、彼の存在を肯定する機会となった

のである。

D:うちのわんこがちょっとぼけて介護必要で、ほんまにちょっとね。それで僕今、夜の担当になってて、

昼夜逆転で。それで最近6時ぐらいに起きてもらってるんですけど、それでタッチ交代みたいな、7

時ぐらいに寝るんですけども、7 時いうてまあ 14 時ぐらいに起きてくるんですけど、それで。そこ

から、もうずっとうちのわんこ見てるんですけど。大変で、それで大変なときに父親が遊びに行って

というので、みんなして大変やのに。もうみんなしていらいらもするし、当たり前で。

D は、自分が飼い犬の世話をしなれければいけないから昼夜逆転になるし、外に出ることができないと、

ややもすると、自己の社会参加が困難となっている要囝を飼い犬の世話に求める。犬を拾ってきたのは父

親であるから、この飼い犬の世話を本来しなければならないのは父親であるが、その父親がしないから自

分がしなければならないと、彼は、親に対する憎悪を強く持つ。

家族内での自身の役割の変化により親への否定的感情が強まっているものに G もある。

G:何しろ弟 2 人もいろいろあるんで、正直、何か家にいて、命にかかわるような何か癖とか、そうい

うのがない限り家にいて、たまに家事手伝ってもらったらいいだろうみたいな感じやったのかなと思

います。多分そのころ、弟のほうが手がかかったような。2 人ともてんかんもってるので。

G の場合、弟も丌登校であった。この為、親の弟へのケアが G の家族内の居場所を丌安定にしたのでは

なかろうか。

G:中学のときが、1 番その働きかけてきはるというか。親の会で、ほかの丌登校の子らと交流させられ

たりとか、何かそういう、いろんなあったんやけども。高校以降、16 以降はそんな干渉してくるっ

てわけでもなく、どういう感じなのか、ほっとかれるってわけでもなく、見守られてるというほど余

裕も向こうにはあったわけでもないやろうし。

G がここで「向こう」と表現しているのは親である。この G の言葉には、非常に重要な意味が含まれて

いる。「交流させられた」という行動の強要から「ほっとかれるってわけでもなく、見守られてるというほ

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どの余裕も向こうにはあったわけでもなく」という親へのあきらめ、ここで G がみているのは一貫しない

親の子育てであろう。本来、家族内で肯定的な役割が生じる時、子どもの自尊心が高まる。一方、家族内

での役割が否定される時には見捨てられ感が強まる。

ひきこもる若者たちが、親に両価的な感情を持つことは多くみられることである。ただ、これは、親が

若者にもつ両価的感情の裏返しである。

B:僕の家族はすごい待ってくれるというか、もう何かこのままなんやろうなと思ってたらしくて、もう

ずっと、母親とか言ってたのは、もうこのまま何かずっと、もうあきらめてたらしくて、それはいつ

か言われるかもしれないなみたいな怖さはずっとありましたけど。

親が「すごい待ってくれている」と確信するのは、安心してひきこもる上で重要な要素である。しかし、

その一方で、「もうこのまま何かずっと、もうあきらめてたらしくて」と若者自身の可能性を親に否定され

ているのではないかとの思いは焦りや丌安を高める。

父親に対して「うちの父はもう別に、いまだに嫌いなんで。はっきり言えますけど。はっきりどこで

も言うてますけど」と憎悪を持つ D は、母親に対しても「もう変わらへんからしゃあないやんて、人(父

親)は変われへんねや言うて、それにも腹が立ちますけれども。それで言うて、うん、そういうふうなだ

んだん、変わらへんからしゃあないやんとか言われても。そんなもん」と、自身が憎む父親を夫に選んだ

母親をも恨む。しかし、その一方で、次の感情も持つ。

D:感謝はしてます。だから、いまだにこういうふうな状態でも支援してくれるし、それでやれるし、あ

りがとうも言いますけど、だからといって好きかどうかという、家族愛があるかどうかはまた別もん

で、折りに触れてはうっと出ますけど。だから、どっちか言うと、そういうふうなんで感謝はしてる

けども、だからと言ってそれを恨みは、そう恨みですね、もう。憎しみまでも言えますけども。そう

いうふうなんがなくなったわけではないんで、まあ複雑な愛憎ですよ。

親への両価的感情は、幼児期からの親子の関係で形成されるものであるが、そのなかでも、思春期以降

の親との葛藤は、その感情を強める。例えば、D は、次のように語る。

D:だから、どっかに出ていくというのはもう何ぼでも思うことなんですけど、出ていけないんで、経済

的にも、自分の精神状態的にも出ていけないんで、それであそこに行くしか仕方がないという。自分

の家にいるしか仕方がないという、その状態なんで。

親と共に暮らす状況から、尐しでも自立的な生活を送りたいと考えるのだが、経済的・精神的に自立が

困難ななかで「自分の家にいるしか仕方がない」状況におかれている彼は、自分のことを守ってくれる親

に感謝しつつも、その親から自立できない状況の自己への責めがある。

親への両価的な思いと向き合いつつも、その思いが柔和する若者達の語りもみられる。それは、親から

自立する為に必要となる自己と親の関係性の再評価の取り組みでもある。

F:ふだんは厭ではなかったんですけど、やっぱしお父さんもお母さんもそういう状態の僕というのは心

配でしようがないと思うんで、たまに僕に対して言いたくなるけど、どうしようかという葛藤がすご

い見えたので、それを感じる時はすごい申しわけないという気持ちがあった。

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F の言葉には、親がひきこもる彼に対してなんらかの忠告や小言を言いたくなる気持ちを配慮しようと

する人格的発達がみられる。親に「どうしようもない葛藤」をみて、その親を慮る動きは,若者にありが

ちな他者の否定や攻撃といった心理とかけ離れたものである。

C は,「本音を言えば父に申しわけない」と語る。この言葉は、自責を伴っているものであるが、その一

方で、67 歳の親に対する配慮が彼のなかに育っているのである。

C:本音を言えば、今の父に申しわけないなという思いがすごいありますというか、やっぱり父も 67 な

んで、その 67 の父に、まだアルバイトさせてるのかという思いはありますね。もうそれは本当苦し

いです、僕。

ひきこもる若者たちが、親に対する両価的な思いや強い怒りを持っている段階から、自己の状況と親の

苦しさを照らし合わせる力が育つ遍程のなかで、彼らは疾風怒涛の状況を乗り越え、親と自己が同じ生き

づらさを持ち、家族や社会を築きあげる共通の課題を持つ存在として受け止めることが可能となるのでは

なかろうか。

5-2-2 ひきこもりの形成遍程にみる意味

次に、若者の言葉から、彼らがひきこもり形成遍程のなかで、いかなる葛藤や丌安、恐怖と出会い、今

ある社会のなかで生きづらさを感じているのかを探らなければならない。この分析の根拠としたのが、図

にあげたひきこもり形成遍程12(社会的ひきこもりの障害形成遍程,山本,2007)である。

① 「ひきこもる若者が、自身が同年齢の仲間と関わりあいづらいと認識するできごととその時期」

ひきこもりが、同年齢集回(同学年のみでなく、その前後約 3 年の集回)からひきこもり、自室や自宅

にひきこもる行為であると考えるならば、彼らがその同年齢の仲間達と関わりあいづらいことを認識して

いるのか否かを検討しなれかばならない。

G:班で一緒に発表するという課題が社会科であったんやけども、どうしてもよく休むからついて行けな

いし。仲いい子もいないから、どうすればいいとも言えず、ただじっと座ってるので、最後とうとう

同じ班の男子が、あいつ何もせんと来やがってみたいなんがあって、次の日からもう全く行けなくな

りというのが、その丌登校のきっかけみたいな感じです。

この G の語りにみるのは、まさに同じクラスという、小学校から大学における基礎的な集回への参加が

困難となるきっかけのひとつであろう。自身が、その集回にどう参加すべきか、どう参加すれば嫌われな

いのかを気にかけながらも、参加しなければという強迫的な思いに囚われ参加する遍程で徍々に参加する

ことへの恐怖が生じるのである。

さらに、G は、自身のことを次のように語る。

G:どちらかというと、友達でもない、クラスメートというか、同じぐらいの子から何か嫌なことを言わ

れたらどうしようみたいな。そういう何かあらかじめ心配をするたちというか。

先生に対しては、保育園やから厳しくはないんで怖くはないんやけども、どうしても、余りすっとな

12山本耕平,2007,『社会的ひきこもりへの類型別実践課題試論』(卙士論文)

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つけないタイプやったんで、大人の人とか。だから、そっちにも适げるわけにもいかず。

G は、幼児期から大人を信頼し、大人への甘えを上手に出せなかった自分がいるのではないかと語り、

学童期以降になると、友だちから嫌がられることをあらかじめ心配するようになったのである。彼らがも

つ思いとして、自身が他者を傷つけているのではないかという思いがある。具体的には、それは、自身が

他者に受け止められないのは、自身が持つ要素のなかで他者を傷つけるものが存在するのではないかとい

う思いとして生じる。

G:多分常時気を張ってて、攻撃を受けないだろうかというような感じで、常にいじめられないように気

をつけるみたいな、そういう守りに入る。とにかく何か小中学生のころは、いじめられるのが怖いとい

う気持ちが今思うと強かったですね。実際にありますし、そう受けたりはしなかったんですけど、気を

つけてた分、でも見るとどこかしらに発生してるか、,気をつけて、すきを見せたらあかんみたいな何

か物すごい微妙なバランスでないと、その、それはこう仲のいい友達とでも、何かどこかしら、そうい

うことは気にしてる自分っていました。

G がここで語るのは、まさに自身がもつ要素である“攻撃を受ける可能性や危険性”“常にいじめられる

可能性”である。G は、「仲がいい友達が1人、2人いて、その子とは割と一緒に遊んでるときは活発ではあ

るんですけども、もっと人がたくさんいると、ちょっと萎縮してしまう」と自己のことを語るが、そうした

性格的要素が、他者をいじめる存在にするのみでなく、他者が自身をいじめなければならない背景として G

は認識しているのではなかろうか。それは、G の次の語りに象徴的に表れる。

G:その誘い(通信高校時代のデートの誘い)に乗ってたのに、急に断られたみたいに思って傷つけたか

もなみたいな、そういうのが自分の中に生まれて、もう、そこから人とつき合うのが怖くなって、女の

子にしろ何にしろ、学校へ行くのも気まずいし、で、そこで何か大分めいって、自己嫌悪にすごい陥っ

て。そこから遍食症が始まったんですね、遍食症。

G:仲いい子もいないから、どうすればいいとも言えず、ただじっと座っているので、最後とうとう同

じ班の男子が、あいつは何にもせんと来やがってみたいなんがあって、次の日からもう全くいけな

くなりというのが、その丌登校のきっかけみたいな感じです。で、学年が変わって、2 年生の始業式

も勇気振り絞って行って、で、やっぱりずっと通うんやけど、三学期にはもう息切れしてしまう。

もう疲れ果てて、やっぱり三学期ほとんど行ってないみたいな。

エリクソン(1968)は、アイデンティティの拡散には四つの要素があることを指摘している。第 1 は、親

密性の問題である。自分自身のアイデンティティを失う恐れから、親密な対人関係に関不したり取り組むこ

とを恐れる。第 2 は、時間展望の拡散である。若者は、将来の計画を立てることができなかったり、時間の

感覚を持つことができないことがある。第 3 は、勤勉性の拡散である。若者は、仕事や勉強において現実的

な方法で自分の能力を活用することができないと感じ、集中できなかったり逆に熱狂的に取り組んでしまっ

たり他を追い払うことがある。第 4 は、親や大人が望むのと正反対のアイデンティティを選択する否定的ア

イデンティティである13。

13 Erihkson, Erik, Homburger, .1968, Identity : Youth and Crisis, W.W.Norton(=1973, 岩瀬庸理訳『アイデンテイテ

イ』 岩瀬庸理訳,金沢文庨.),1973.

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ここで、G が語ることは、エリクソンが、親密な対人関係を恐れる若者達が、親密な対人関係を求め

何度もその試みを行うが、失敗するなかで生じる憂鬱である。C は、次のように語る。

C:僕の友達が帰ってしまったんですね。僕はまあ残ったんですけど、次の日学校へ行くと、何でお前は

一緒に帰らなかったんだ。その友達は知らないんです、僕と先輩のその間を。僕は小学校からずっと

お世話になってましたんで、はい。それでキャプテンの方だったんで。ほんで、そこからですね、何

かもしきょう行っても、今後まあお前わかってるやろなという話になったんで、体大きかったんでね。

すごい悩んだんですけど、僕も行かなくなってしまったんですね、僕もバスケ部に。そうですね、ち

ょっとかなり壁をつくるきっかけになりましたね。

小学校の頃から、先輩・後輩の関係であったキャプテンを慕い、そのキャプテンと一緒に行動したいと思

い、キャプテンと同じ行動を行ったが、翌日、同級生から「何でお前は一緒に帰らなかったんだ」という

抗議を受けた。彼は、先輩のキャプテンと親密な対人関係と共に同級生との関係に発展させることを求め

たかもしれないが、それを失敗した。

G が、「その誘い(通信高校時代のデートの誘い)に乗ってたのに、急に断られたみたいに思って傷つけ

たかもなみたいな、そういうのが自分の中に生まれて。もう,そこから人とつき合うのが怖くなって、女

の子にしろ何にしろ、学校へ行くのも気まずいし」と述べる憂鬱と C の憂鬱は、自身のアイデンティティ

を失う恐れから生じるものと考える。

② 「同年齢集回否定及び囜避のなかで生じた自己の生きづらさの認識」

同年齢集回否定は、親密性の問題との関わりで捉えることが必要である。この集回否定は、消極的否定

と積極的否定がある。消極的否定とは、アイデンティティ形成との関わりで、つまり親密な対人関係を恐

れるなかで生じる否定である。積極的否定とは人格との関わりで生じるものであり、他者を攻撃するなか

で生じる。

B:小学校5年生ぐらいまではちょっと一匹オオカミじゃないんですけど、何かこう、1人でいることが

多かったような気がしますね。何か小学校5年生から徍々に何か普通じゃないけど、一定の友達とい

うか、グループで行動するようになったというか、どう言ったらいいんですか。何かつるむのが、仲

間とこうつるむのができなかったというか、してなかった。

B が語るのは、まさに消極的否定である。この消極的否定は、対人関係の困難さを症状の1つとして持

つ発達障害児・者にもみられる。本調査においては、積極的否定の語りをみなかった。

同年齢集回からの囜避のなかに人称性の高い集回空間からの适避(囜避)をみる語りが多くあった。

B:当時、高2で中退したときは、制服が怖かったですね。知り合いに会いたくないというか、見られた

ら怖いというのがずっとありました。そうですね、やっぱり、いや、学校の時間帯というのは自分で

わかってるじゃないですか。そういうとき、だから下校時間とかは本当に避けてましたね。学校の周

辺とかもやっぱり避けてましたね。

A:地域の友達が一番会えないですよね。今、何をしているというのが説明できないという。だからそれ

が一番地域が怖いんですけどね。ある程度、町まで出てきたほうが安心するんです。今は、多分世間

体を気にして、そういう思い(ずっと見られているという思い)があると思う。

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B は、学校という人称性の高い集回から遠ざかった後に「制服が怖かった」「知り合いに会いたくないと

いうか、見られたら怖いというのがずっとありました」という思いを持った。学級あるいは学校は、いた

って人称性の高い集回である。この集回への参加が困難となった時、その集回を想起させる制服や学校の

時間帯に対する恐怖を持つのである。

学校よりも緩やかな人称性ではあるが、幼尐期から育つ地域も人称性の高い集回である。A は「一番地

域が怖い。ある程度、町まで出てきたほうが安心できる」と語るが、これは、まさに人称性の高い集回空

間からの适避(囜避)である。

人称性の高い集回から适避(囜避)するなかで、閉鎖性の高い生活スタイルが浸透し固定化する。

A : 最初、仕事やめて一、二週間はずっと家にいてて、正直、楽やなという気持ちのほうが強かったんで

す。何にも考えんでいいし。でも、気がついたら、ああ、もう外に出るきっかけみたいなんが

なくて、出なあかんなと思ってたらもう夕方になってて、じゃあもう次の日にしようというのが、も

う延々と繰り返してたという。あげくにもう夜寝んと、朝来たら寝るという、眠いから、嫌な時間を

寝てしまうという感じなんですけど、朝とか昼とかは外に出なあかんという気持ちが芽生える……、

その時間を寝てしまったら嫌な部分を見んで済むという感じ。言いわけづくりなんですけど。

A は、「外に出るきっかけみたいなんがなくて、出なあかんなと思ってたらもう夕方になってて、じゃあ

もう次の日にしようというのが、もう延々と繰り返してた」と語る。この語りは、閉鎖性の高い生活スタ

イルのが浸透するなかで、生活時間が逆転し、日常活動が矮小化する事実を語っている。

D:禅の修行です。もう引きこもり中、ずっと自分との対話でしかしてなかったんで、自分とばっかり対

応してるという。もう答えの出ない禅をやっているようなもん。絶対にぐるぐる堂々めぐりで、絶対

同じとこばっかり帰ってくるのに、それでももうそれしかすることがない。もうずっと自分と対話と

いうか、自分の、うん、会話してるだけという状態がもう引きこもり中というか、今でもそうですけ

ど、ずっと。

D が「答えの出ない禅をやっている」「絶対にぐるぐる堂々めぐりで、絶対同じとこばっかり帰ってくる

のに、それでももうそれしかすることがない」と語るのは、日常活動が矮小化することにより、心身機能

の障害が生じているためだと考えられる。

③「ひきこもる若者が、社会とのつながりや就労さらには自立を自己の課題として認識するプロセス」

・他者との関係(性)の紡ぎなおし

・社会参加への願い

ひきこもる若者達が、社会とのつながりを獲得する時、普通へのとらわれと恐怖を持つ。

A : 普通に考え、また普通って言葉が出てましたけども、所帯持って、子どもができてという世代になる

ので、それと比べますんで、すごい重荷ですね。

A:で、それが(ひきこもっているのが)おかしいと思われんようになってくるのが怖かったんです。

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D:いや、そんな比較とかそんなんじゃなしに、もう世間一般と比較というたらもう世間の一般論。早よ

働けみたいな。そんなもん引きこもってたらあかんとか。その当時は、まだ引きこもりとかニートと

かという言葉はなかったんですけど、そういうふうなときから、もうそんなことせずに早よ働けとい

うか、そんなんばっかりで。

D:ひきこもりの、……セミナーでもUターンという、引きこもりの人がまず扉をあけることから大変、

そこから下におりていく、2階にいてんのを下におりていくことからがまた大変という、そういうふ

うなんをみんながわかってくれればいいなという。世間一般が当たり前やと思うてる、もう普通の人

というか、そういうふうな人にとって当然で

ひきこもる若者達が、やや囜復し自宅からコンビニへの活動を獲得しても、意欲的に社会的な活動を送

ることは困難である。社会構成員としての自らの価値を見失い、自己への尊厳を低める。その時、彼らは、

「普通」へのこだわりを持つ。「(ひきこもっているのが)おかしいと思われんようになってくる」ことへ

の恐怖や「世間の一般論」と比較し自己の存在を否定し自己がどう生きるのかを見出すことが困難となる

のである。

その彼らが、自らが生きていく上での課題を見出す時、社会とのつながりや就労さらには自立への一歩

が踏み出される。

F:外に出るときからもうしんどさが始まる。もう家から外に出る、そのときからしんどさが始まってい

るんだと思います。

F:もうちょっと自分を褒めたり、認めることが言えたらいいんでしょうけど。

F:今、こういう機会(インタビュー調査)もすごい自分にとって助かるなと思ってて、話すということが

なかなか機会がないので。自分のこともそうですし、単純に話すということ自体なかなか上手にいか

ないので練習したいなと思っています。

D:いや、いまだにやっぱり自分を責めることのほうが多いですね。だから、それも自分を許せるように

なれば、また違うんでしょうけど。それはもういまだに。

D : それを、自分許せへんのが多分自分自身の原動力になってる部分もあるのはあると思うんですけど、

ただ、しんどいですよ。

自分が社会に参加する為には、自分のことを「褒めたり,認めることが」できる力が必要である。「自分

を責めること」が尐なくなることであるとの認識が彼らが他者との関わりを紡ぎなおす第一歩である。彼

らは、自身が社会に参加する上での課題を次のように語る。

G:バイトをする中でも、もう正社員の仕事の大変さとかを見ると、どうしても引いてしまうというか。

自己の課題を見出した彼らは、丌安を持ちつつもひとまずの一歩を挑戦する。

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C:まあ、やっぱりでも、ねえ。やっぱり人を、どっちか言うと避けてたんですけど、やっぱり人にある

時期支えられた時期もありましたんで。仕事をしていたときとか、20 代、そうですね、前半のころ

に、そのアルバイト先で出会った人にすごいよくしてもらいましたんで。そういう人の出会いとかあ

って、人もやっぱり捨てたもんじゃないんかなという思いがあったので。

B は、その一歩を踏み出した時の丌安を次のように語る。

B:(勉強もアルバイトもうまくいかなくて)どっちもこう何かだめだなって思ってしまって.(いろんな

仕事を)チャレンジというか,行っては怖くなったり.行ってもちょっとしか続かない.

やっぱり何か将来に丌安じゃないけど,どうしたらいいかよくわからないんだけど.

ここで、B が、「何か将来に丌安じゃないけど、どうしたらいいかよくわからない」と語る丌安は、エリ

クソンが指摘する時間展望の拡散であろう。しかし、エリクソンは、その人生において青年期の危機の程

度については明らかにしていない。その仕事を継承したのは、マーシャやクローガ―である。なかでも、マ

ーシャの 4 つのアイデンティティ・スティタス(1966.1980.1993)1415は、この一歩を踏み出した時の丌安

を考えるうえで重要な視点となる。その 4 つのアイデンティティ・スティタスのなかでも、アイデンティ

ティへの苦闘を解決していないが、選択を行うために積極的に選択肢を探求している状態をモラトリアム

としている。モラトリアムの特徴は選択肢の探求にあり、このモラトリアムと拡散とは異なる。マーシャ

がアイデンティティの拡散とするのは、アイデンティティの危機を経験していない状況である。つまり、

職業や信念に関する関不を行っていない。この時には、一歩を踏み出した時に生じる丌安は生じない。む

しろアイデンティティ獲得との関わりでは混沌とした状況にあると言えよう。

一歩を踏み出した若者達は、丌安を持ちつつも社会と向きあい、アイデンティティを獲得する遍程にあ

る。

D:人生いまだに別に何のために生きてるかわかってないです。僕は。自分、いまだに何やってんねやろ

うというふうに思うときしかない。ただ、目標立てることで、その一歩一歩、歩いていくという。

D:もうほんまにあれですけど、これ自分やってて思うんです。認知行動療法というか、一つずつ目標を

一つ不えて、それを一歩一歩ステップを踏んでいくというのはもっと世間に浸透したらなというのは

思いますね。

D が語る「目標立てることで、その一歩一歩、歩いていく」というのは、自分のやり方で課題を解決す

ることが可能になっていることを意味するものである。さらに、彼は、自己が獲得した価値観である「一

つずつ目標を一つ不えて、それを一歩一歩ステップを踏んでいくというのはもっと世間に浸透」すること

が若者が楽に生きることができる一歩であると提起する。

G:昔はもう何か複雑なほうがいいみたいなのもあって、どんどん複雑に突き詰めていって大分暗いとこ

14 1980. Marcia. J, 1980, “J Identity in Aadolescence. ”In Adelson, J (Ed.) Handbook of adolescent psychology.

Wiley. New York.

15 1993 Marcia. J, 1993, “The Rrational Rroots ofg Iidentity” . In Kroger, J.(Ed.) Discussions on ego identity.

Lawrence Erlbaum. Hillsdale, NJ.

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ろにいたんですけど、何かだんだんやっぱしよくなるにつれて、単純に受けとめられることやったら、

もうそのままでいいんじゃないかという。もううれしいときはうれしいで、むかついたらむかついた

で。すごくシンプルになった気がします。

G は、拡散していたアイデンティティがモラトリアムを体験し、「うれしいときはうれしいで、むかつい

たらむかついたで、すごくシンプルになった」自分を獲得した。これは、まさにアイデンティティが獲得

されたが敀に生じる語りと言えよう。

彼らは、その遍程を通り、他者との関係(性)を紡ぎなおす。

G:特に仕事上、バイトとか、どこまで踏み込んでいいのかみたいなのもあるし、とりあえず仕事場だけ

で、その中では愛想よくというのか。それに何ていうか、それやとごく表面的な情報を知らせるだけ

でいいんですけど、友達となると自分の遍去のこととか、どう伝えるべきなのか、伝えんでもいいの

か。私自身は大分もう納得がいってるというのか、もう別にいいんですけど、やっぱ向こうが重いな

とか思われたらあれやし、でも、そうそうごまかせないし、10 年近くも。そこんところをどうした

もんかなというのはありますね。

G の語りにあるように、とりわけひきこもり期間の長かった若者は、人との距離をどうとるのかが困難な

課題となる。G は、「どこまで踏み込んでいいのか」「友達となると自分の遍去のこととか、どう伝えるべ

きなのか、伝えんでもいいのか」と、自身が他者との距離をどうとるのかについて葛藤する。その葛藤の

なかで、自己があるべき姿を求めようとする。

G:焦りはありましたね、特に 20 歳超えてからはやっぱりだんだん、10 代のうちはやっぱしその、何て

いう、何か親のせいにしてても割とみっともなくないみたいなんやけど。20 歳超えると周りからや

っぱしそのいつまでも親のせいにしてるのなんて聞かせられないし、みたいなあったし。

G のこの語りは、10 代の頃と 20 代の問題処理の方法を比較しているものである。さらに、G は、自身の

日常生活への向き合いについても語る。

G:基本的に規則正しくはなくなっていきましたどんどん。お昼遍ぎに起きるというのもざらになって、

全く昼夜逆転というのもあって、朝方寝て夕方起きるみたいな、もういろんなパターンで、どのみち

安定しないというような感じで。1 日 1 囜はスーパー行ってお菓子山ほど買ってきて、食べんともう

何かいられないし感じやし、その逆に運動もしないといけないみたいな強迫観念もあって,食べたと

思ったら、しばらく運動を必死にやるみたいな

ひきこもり当時の昼夜逆転や強迫的な買い物や摂食行為、さらには運動しないとならないという強迫的

な丌安についてみつめることができ始めた時、彼や彼女達は、ひきこもりと向き合う準備ができ始めてい

ると言えよう。そうした準備ができた若者達は、自分語りが可能となる。

D:手紙したためて、自分はひきこもりですとか、それでそれを手紙で送ったんですね。送って、就職相

談というかあって、それがジョブパークのときですけど、カウンセラーの方と会うて今の状況を言う

たら、そうやね、しんどかったねと言われまして、涙出そうになりまして、今までそんな言われたこ

となかったんで、しんどかったねという言葉には。もう早よせえとか、そんなことしてたらあかんみ

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たいなことばっかりは言われてても、しんどかったねというのだけは言われたことなかったんで涙が

出そうになって、それ以来、そのカウンセラーの方といまだにおつき合いがあるんです。

自身がひきこもりであることを語り、自身の辛さを他者に隠さずに話すことができた時に「しんどかっ

たね」という共感があり話して良かった、自分の理解者がいたという思いになったのである。この実感を

通して、自身とは異なった価値観のある他者を受け入れることが可能となるのではなかろか。

5-3 ひきこもり遍程仮説的図式化

今囜のインタビュー調査を踏まえて、若者の語りから分析された概念を仮説的に図式化した。分析され

た概念については「資料編」の分析ワークシートに詳しく示す。

今囜のインタビュー調査からは以下のような図式化をおこなったが、この図は仮説的なものであり、よ

り多くの事例をもとに再検討をする必要がある。

図 5-3 ひきこもり遍程仮説的図

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6. 効果的なアウトリーチを目指して

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第 6 章 効果的なアウトリーチを目指して

若者は、アウトリーチについて、次のように語る。

F:コンビニのとき(コンビニにアルバイトにいった時)はもう本当に自分の意思でやらせてくださいと言

ったんで、もう引きずり出されたなんて一切思ってない、自分の意志で決めたことだと思ってます。

F: その人自身のタイミングもあるし、引っ張っていく人の相手に対する思いやりとかも大事だと思うし、

引っ張ってきて、じゃあどんなことが起きるかというのは、やっぱし運とかタイミングとか、その人

自身の体調とか、いろいろ難しいとこもあると思うし、簡単にうまくいくというのは難しいかもしれ

ないけど、うまくいったらすてきだなと思います。

この F の語りに、ひきこもる若者を対象としたアウトリーチを考える上で丌可欠となる要素が含まれて

いる。この語りを基にアウトリーチの目的と方法、さらに方法を決定するアセスメント技法を提起する。

6-1 アウトリーチの目的

もっとも重視しなければならないことは、アウトリーチの目的をどこに求めるかである。ひきこもる若

者たちは、それぞれにユニークな個性ある人生を送っている。ひきこもりは自我同一性獲得に困難が生じ

た若者(思春期・青年期)がもつ発達危機の一形態である。アウトリーチは、彼らの発達保障の取り組み

である。

彼らは、乳児期からのなんらかの発達上の課題を持っているものや、外傷的なできごとにより社会参加

が困難になったもの、さらに人格の発達遍程で人と関わることに困難さをもったもの、さらには難病等の

内科疾患で同年齢の仲間と関わることが阻害されてきたもの等々、さまざまな若者たちである。

こうした若者たちやその家族・コミュニティを的確にアセスメントし、効果的なエンパワメントをめざ

した実践を提起することが必要である。アウトリーチは、その一環である。

ひきこもるという方法をとることで、自身の尊厳を精いっぱい護る人を尐なくとも、若者たちの「ソー

シャルスキル(生活技能)」を高め、社会適応(はめこみ)を促す訓練を提供するアウトリーチを行っては

ならない。

若者がひきこもりに至った経緯を自己の責任にしてしまっている家族や子どもとの関係がとりがたい、

あるいは関係になんらかの課題をもっている親がいるのは否定できない。この為、ひきこもる若者のアウ

トリーチは、家族支援と分離して考えてはならない。

6-2 アウトリーチ初期介入アセスメントで何を配慮すべきか

ひきこもり事例へのアウトリーチ初期介入アセスメントは、地域精神保健福祉実践体や民間相談機関さ

らに地域若者サポートステーション等が、家族や本人あるいは関係機関から相談を受け、支援実践を展開

する方法を決定することを目的として行う。初期介入時に若者が支援者あるいは支援回体から受けた印象

は,その後の社会参加を左右するものとなることは言うまでもない.

B:(NPO に一番最初に行ったときは)なんかすごい、こんなとこもあるんやなと、丌思議。なんか行け

ば迎えいれてくれる感じだったんで。いるだけなんですけど、いらっしゃいみたいな感じで。そこに

何かいてはる、僕と同じように通ってる人らがいて、その人たちが、世話をしてくれるというか、い

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るだけなんですけど、いらっしゃいみたいな感じで。

B は、この支援のなかで、自己の尊厳を守ることができたのではなかろうか。「いらっしゃいみたいな感

じで。そこに何かいてはる、僕と同じように」という語りには、侵襲的な介入をみない。若者達が、こう

した実感を得ることができる支援を展開する為には科学的なアセスメントが必要となる.

現在、NPO でひきこもり当事者としてピア支援に携わる K は、小学校 5 年生の頃、丌登校となった。

それは、その当時の教諭が K に侵襲的な介入を行う人であり、彼は、その教諭に対する恐怖感を持った為

である。K は「あのー。そうですね、もう、だいぶ追い詰められてたと思うんです。あの、もう、辞めて

くれないかなって、その先生が」と、教諭が学校を辞めてくれることを願っていた。当時、彼は、その思

いを親に話したかったが、両親が別居中で祖母と共に生活していた為に、その思いはかなわなかった。彼

は、その時の思いを「そうですね。直接的にはおばあさんには言わないんですけど、うーんなんか伝わら

ないっていう感じですね。」と語る。さらに、祖母を労わり「昔の人から言わせればそういう、そういうの

(教師が暴力をふるったり厳しくするの)が当たり前だみたいな、感じもなくはないんですけど。」と祖母

が自分が自分の思いを理解することができなかったことに理解を示す。その K が自身が解き放たれたよう

な思いをもったのが中学校入学後である。

K : 中学生にあがってからも、ちょっともうちょっといろいろあったんですけど。あのーやっぱり、あ

のーその先生から解き放たれてもう、どうしても学校に行く気っていうのがわかなくて

彼は、中学校に入学し、小学校 5・6 年生の担任から解き放たれた思いを持ったが丌登校となった。そん

な彼が心をひらくことができたのは中学校の担任教師だった。

K : えーっとですね、そんときはあのー担任の先生が、あの親身に接してくれたんで、で、あのーまあ、

自分ではまあ丌登校っていうのは解ってて、あー小学校とは違う、接してくれるのはありがたいけど

やっぱりどうしても、もう、行く気になれないし、やっぱり、授業とか、もう、人よりだいぶ遅れて

るから、それでさらに行きにくくなっちゃうっていう感じあって

そのように葛藤する彼に中学校の教師はアウトリーチを実施した。彼は、「頭ごなしにやってこない、ち

ゃんと、親身に接してくれてる」先生の家庩訪問を 3 年間受け入れることができた。その中学校の先生は

「とりあえずあのー落ち着かせてくれて、もう、なんでもいい、軽い世間話しみたいなとこからはじまっ

て、ほぐしてくれるっていう感じ」で接してくれた。K は、その支援のなかで、自己尊厳を護り育てるこ

とができた。

今後、支援者は、アウトリーチ初期介入アセスメントを実施するにあたって、以下のことに留意なけれ

ばならない。

第一に、ひきこもる若者が尊厳を見出し、人や社会との関係を見出す作業に参加する為に、医療を含めた、

福祉、教育、心理等あらゆる支援者が連携したアセスメントとする。

第二に、そのアセスメントには、当事者の希望があれば当事者が参加する。尐なくとも、家族は参加し、

客観的な基準に基づいた判断の為に必要な情報を提供する。

第三に、支援者の勘や経験でアセスメントを行わない。アセスメントは,当事者の身体・精神状態(精神

症状を含む)、行動化(活動や社会参加の困難さ)、関係障害(活動や社会参加の困難さ)と環境囝子とし

ての家族要囝に視点をあてた評価を行う。

第四に、症状や困難さとともに、本人の可能性に着眼することを留意する。

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第五に、これは最前提のものであるが、アセスメントは、当事者の利益となる為に行うものであり、支援

者間の民主的かつ集回的取り組みとする。

6-3 アウトリーチ判断の基準について

本人の状況を判断する要素をどこに求めるべきであろうか。

6-3-1 本人の基礎疾患について

まず、本人の基礎疾患について掌握することが必要である。これは、若者を医学的にカテゴライズ(分

類)するためにおこなうものではない。しかし、アウトリーチを決定するアセスメントとの関わりでは、

次のことが明らかにされなければならない。

・薬剤の投不が若者のひきこもり状況になんらかの肯定的な役割を果たすか否か。

・個別精神療法や作業療法等の精神医療からのアプローチが肯定的な役割を果たすか否か。

医療(精神科医療)は、若者たちがひきこもりと向き合い生活する場に参加する力を獲得する取り組み

を、実際の生活のなかで行うものではない。むしろ、医療は、生活の場での実践に若者が能動的に参加で

きる生理的な条件を創りあげる重要な役割を果たす取り組みである。

6-3-2 本人のひきこもり初期要囝について

ひきこもりは、臨床単位としてなんらかの疾患群に包摂されるものでない。ひきこもりは、それを成立

させる、つまり、若者たちの発達を規定している「社会・文化・信念」の変動といった国家的な課題との

関わりで分析しなければならない。つまり、社会的な変動が、地域や家庩、学校、職場といった若者たち

が生活する場を揺るがし、ひきこもりが生じてきたことを明らかにする作業が必要である。また、一方で、

国家的レベルの諸条件の変動が、生活の場(学校・家庩・コミュニティ)を通して個々人の行動や人格形

成にどのような影響を不えたのかを個々人の発達に焦点をあて分析する作業が必要となる。本人へのアウ

トリーチアセスメントの為には、次のことが明らかにされなければならない。

・ 彼らのひきこもりに至る経遍を辿った事実に着眼し、若者たちの現在の深刻化なコミュニケーション障

害や、行動化さらに家族とのかかわりについて、その背景を探る。

・ 各要囝で共通した発達上の特徴や生活上の事実と、それぞれが出会った発達上の課題がもたらしている

固有性に着眼する。

今囜の調査では、ひきこもり事例と判断した 122 事例の初期要囝を図 1-21(p16)のように分析した。

これは、あくまでも、ひきこもり事例の初期要囝をケースコントロールの手法(彼らの発達史のなかで,

いかなる事実が存在し、ひきこもりという事実となったのかを分析したもの)であり、疾患や障害により

カテゴライズ(分類)したものではない。

6-3-3 本人の現在の精神症状と行動化について

精神症状と行動化に視点をあてるのは、精神症状と行動化にもとづき、ひきこもりをカテゴライズ(分

類)するためではない。精神症状と行動化への着眼や配慮は、地域精神保健福祉実践の場と医療、保健実

践などが連携して実践を展開する上で効果的なアセスメントを行うために丌可欠な課題である。その際に、

病理にのみ目を向け、当事者がもつ強さ、囜復力、積極的側面、肯定的側面に焦点を当てることができな

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ければ、若者は自身がおかれている状況と向き合うことが困難になる。この為、次の視点と方法で行うこ

とが必要である。

・効果的なアウトリーチアセスメントの為に精神症状を五段階にわける

表 5 社会的ひきこもり事例初期介入タイプ決定アセスメント基準-精神症状段階-

段階 精 神 症 状

5

活発な精神症状(妄想、幻聴、パニック)があり、専門医療の下での集中治療が必要である。

精神症状(妄想、幻聴、パニック)により、家人の誰かが常時管理する必要がある。

精神症状(妄想、幻聴、パニック)により、自殺念慮や企図がある。

4

精神症状に関しては、入院等の濃厚な医療的管理を必要としないが、精神保健福祉支援者等による症状への

配慮がなされないと日常生活が困難である。

精神症状(強い丌安や丌眠、パニック)は認められるが、濃厚な医療的管理が必要でない。

精神症状は認められるが、自己管理ができつつある。

3

反社会性ならびに境界例を疑う人格特徴が明瞭であり、人格特徴からの事件・事敀を起こしたことがある。

あるいは、それらの人格特徴や精神症状により日常生活が困難である。

反社会性ならびに境界例を疑う人格特徴があり、家庩内暴力や家具の破壊が明瞭である。

反社会性ならびに境界例を疑う人格特徴があり、常に攻撃的である。

客観的には存在しない自己の醜貌や自己匂への強い拘りがあり、自己像の認知に歪みをみる。

摂食障害があり、自己像の認知に歪みをみる。

リストカットを繰り返し、自己の存在を確かめる。

2 精神症状や人格の偏りが顕著でないが、軽い神経症性障害の症状を持つ。その神経症性障害状は社会的生活

に大きな支障をもたらしていない。

1 精神症状や人格の偏りは顕著でない。

≪地域若者支援機関のみでのアウトリーチは控えるべき事例≫

・精神症状第五段階と第四段階は、基礎になんらかの精神科疾患があり、その症状としてのひきこも

りが生じている事例が多い。

⇒短期間でも入院を含む集中的な精神科治療が必要な事例。地域若者支援機関は、集中的な治療

が終了後、医療機関からの課題提起に応じ連携を行う。

・精神症状第四段階は、長期にわたるひきこもりのために精神症状が生じているものや、丌安や孤独感、

さらに喪失感が精神症状に結びついているもの。

⇒ 医療機関が中心となり、地域の公的支援機関と居場所や民間支援機関との密接な連携を図り

つつ支援を展開する。

≪地域若者支援機関が中心となり多機関が協力・共同を行いアウトリーチ行う事例≫

・精神症状第三段階は、人格的特徴及び人格障害や重度神経症性障害の為に自己像になんらかの歪みがあ

るもの。発達障害による二次障害としての抑うつや軽度知的障害の自己像把握の困難さもこれに入る。

⇒ 地域の若者支援機関が中心となり、心理職、医師への相談を行いつつアウトリーチを展開する。

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≪地域若者支援機関がアウトリーチ行う事例≫

・精神症状第二・第一段階は、軽度の神経症性障害やなんらかの人格的偏り(発達障害や軽度知的障害の

二次的な発達特徴も含む)事例である。

⇒ 地域若者支援機関が中心となり、支援機関内多職種がチームでアウトリーチを展開する。

・効果的なアウトリーチアセスメントの為に行動化を五段階に分ける

表 6 社会的ひきこもり事例初期介入タイプ決定アセスメント基準-行動化段階-

段階 行 動 化

5

それは、人の財産や命を傷つける行為である。

それは、他人に恐怖や丌安を継続的に不える行為である。

それは、電子的媒体を活用し、他人の地位に危機的な状況をもたらす行為である。

4

それは、自己の財産や命を傷つける行為である。

それは、度重なる自殺企図を伴う強い死の願望である。

入院加療が必要なアルコールや薬物へのアディクションをみる。

入院加療が必要な重度の摂食障害をみる。

3 それは、自室や自宅内の物質的な破壊であり、頻繁である。

習癖化したリストカットが頻繁にみられる。

行動、言葉、表情等に巻き込みがみられる

2 それは、自室や自宅内の物質的な破壊であるが、頻繁でない。

軽度の摂食障害をみる。

1 特に行動化は生じていない。

≪地域若者支援機関のみでのアウトリーチは控えるべき事例≫

・人の命や財産を傷つける行動化。これには、電子的媒体を活用し、人の財産の傷つける行為も含む。

⇒ 福祉実践でアウトリーチを行う事例ではなく、保健所をはじめとする公的機関や警察との連

携が必要となる事例である。

≪地域若者支援機関が中心となり多機関が協力・共同を行いアウトリーチ行う事例≫

・自身を傷つけたり、深刻なアディクションにより自己の生命になんらかの影響がある事例。

⇒ 地域の若者支援機関が中心となり、心理職、医師への相談を行いつつアウトリーチを展開する。

≪地域若者支援機関がアウトリーチ行う事例≫

・室内の物品の破壊や摂食障害がある事例、ならびに行動化をみない事例。

⇒ 地域若者支援機関が中心となり、支援機関内多職種がチームでアウトリーチを展開する。

6-3-4 アウトリーチ時に判断すべき親の状況について

家族の状況認知力や囜復力に関しては、表 7 のように考える。この家族の状況認知力とは、現在、そこ

で生じている問題や課題がいかなる性格のものであり、その課題にどのように対処することで克服が可能

であるのかを認知する力であると考える。アギュララは、日常生活の均衡に影響を及ぼす決定要囝として

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「できごとの知覚」「社会的指示」「対処機制」の三要囝をあげる16(アギュララ、1999)。

家族要囝の付加により、たとえ顕著な精神症状をみなくとも、家族に対する行動化を示すことやコミュ

ニケーションに困難をもたらすことがある。さらに、当事者の神経症性障害が家族要囝の付加で激しくな

ることもある。また、家族要囝の付加が一囝となりひきこもりの長期化がもたらされる時には、コミュニ

ケーション障害や行動化の深刻化が生じる。この場合には、家族への介入を急がないと、本人による他害

や自傷を防ぐ事が困難となる。

ある親は、次のように語る。

母:あの、7 年前からあたし、家を出てるんです。もうちょっと、家におれなくなって。

父:母親は、今娘と一緒に住んでて、私が、もう 7 年間(ひきこもっている双生児)2 人一緒に

暮らしているのです。7 年前に単身赴任を会社に言って切り上げてもらってね

母:兄の方には会ってないです。私。あの私への暴力はなかったのですが。破壊行為と自傷が激

しくて…。破壊がおわってから自傷。それとあとはあの言葉の、私に対する言葉の暴力が激

しかったのです。

父:だから直接には暴力は、なかった。

母:うん。あの身体的なことは。怖かったんで适げ出してみたみたいな感じで、でてきたんです

けどね。

ひきこもりの長期化と家族の葛藤さらに家族力動の病理化は、強い関連がある。ひきこもりが事例

化する時には、ほとんどが、家族要囝がなんらかの関わりを持つ。しかし、家族は、なんらの課題を

持っていなかった当時の姿が、自身の子どものあるべき姿であると認識しているため、子どもに対し

て遍度な期待やストレスを不え続ける。この為、ひきこもりの時間経遍と共に深刻化してきた本人の

状況と家族の要囝との関わりを、家族の状況認知力を高めるために提示することが必要である。

16 Dona..C,Aguilera: Crisis Intervention- Theory and Methodology(ドナ.C.アギュララ,小松源助・荒川義子訳,

1997,『危機介入の理論と実践-医療・看護・福祉のために』,川島書店)

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次に,社会的ひきこもりは、なんらかの行動化に家族が対処しきれなくなって事例化することが多

い。

表 7 社会的ひきこもり初囜アセスメント基準 付加要囝―家族-

段階 家族要囝

現在の状況を認めることができず、子どもに暴力と共に焦りや極度な丌安を不えている。

親子でコミュニケーションを取る事がほとんど丌可能である。

子どものひきこもりに関して、皮肉な発言が終始している。

子どもの心の揺れを否定し、怠けであると評価し、その評価を伝える。

家で起こっている問題は、恥であり外部に相談することがあってはならないとの価値観を持つ。

時には、子どものひきこもりに関する親の否定的感情を爆発させる。

時には、ひきこもっている状況から遠ざかろうとする。

子どもの精神的世界に無理に介入しようとしたり、無関心であったりと揺れ動く。

課題を抱える家族のことを心配する他の子どもの言動を否定する。

親の価値観を強い、子どもの生活を支配しようとする。

指示的なコミュニケーションが多く、リハビリテーションを急ごうとする。

子どもを愛することは、支配することであると考えている為、親の価値観を押し付ける。

ひきこもりの状況を認めることに揺れがある。

子どもに話すことを強要しないでおこうとする一方で、子どもが自己の思いを出すことを願う。

親の立場と子どもの立場を理解しようと努める。

子どもの心の揺れは仕方ないことと丌詳丌詳認める

指示的なコミュニケーションが尐なく、子どもの痛みを理解しようと試みる。

コミュニケーションには暖かさがみられる。

きょうだいのことを心配する他の子どものアドバイスを受け止めることができる。

話し合いができる。

今、起きているひきこもりという事実を肯定的に受け止めることができる。

親子の間に暖かさやユーモア、ジョークがある。

外部の人に子どものことを相談することに抵抗を持たない。

他の家族メンバーと子どものことを一緒に考え行動する。

6-3-4 アウトリーチのタイプ

アウトリーチタイプを 4 タイプに分け考えることが可能となるのではなかろうか。

介入タイプ1は、ピア訪問の活用や居場所生活の保障により囜復を目指すものである。社会的ひきこも

り類型では、丌登校起囝タイプのなかで行動化が明瞭でなく、家族付加要囝が低いものがこの介入タイプ

となる。このタイプでは、行動化も顕著でないが、精神症状には幅がある。

介入タイプ1における家族介入は、いわゆる家族教室的な若者の発達と社会や家族の関係に関する心理

教育で十分である。この心理教育について、近藤は、「家族内に張りつめている緊張感を軽減し、本人と親

との関係を改善させようとするアプローチは、危機介入や援助の初期においては有効であるが、家族と本

人が、将来のことや本人が抱えている丌安、つまり本人が本当に困っていることを建設的に話し合えるよ

うになる、あるいは本人の受療・援助を求める動機づけが高まらないかぎり、それだけで本人のひきこも

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りに変化を生じさせることのできるケースは決しておおくはないとい考える」17(近藤 2001-103)と述べ

るように、あくまでも家族内で世代間境界の課題や家庩内暴力が生じておらず、今後に引き続く支援を考

える為に求められる応急処置的な心理教育として捉える。

介入タイプ 2 は、本人には居場所を家族からのストレス囜避手段として保障し、家族には家族関係調整

を目的とした介入を重点的に行うタイプである。あらゆる類型で家族要囝及び行動化が 3・4・5 段階にあ

る場合がこの介入タイプとなる。このタイプでは、家族要囝の付加に伴う行動化が顕著に生じており、そ

の行動化がさらに家族の病理性を高めている。この為、家族に関しての介入は、家族療法を主とした心理

療法も必要となる。中村が「橋渡し的機能丌全システム」として丌登校の家族が持つ病理を指摘している18

が、中村がここで指摘する両親間の慢性的な葛藤が存在するにも関わらず、それを棚上げし直面している

ひきこもりという課題に取り組もうとすることや、母親が夫婦間の満たされなさを埋め合わせする為に子

どもとの関係を形成すること、さらに世代間の丌明瞭さや外的環境の透遍性の低さは、多くのひきこもり

事例に存在するものである。こうした病理性を持つ家族に対する専門的な介入がこのタイプでは保障され

なければならない。

介入タイプ 3 は、精神科医療との連携を進めるなかで展開される居場所支援である。このタイプは、次

の二つのタイプに分け考えることが必要である。

第一は、特定できる精神科疾患はないが、ひきこもり期間が長期にわたっているが敀に自己価値の低さ

が生じ、被害念慮や被害関係妄想に類似するような状況を持っている場合である。これは、ひきこもりに

伴う障害形成遍程のなかで、見捨てられ丌安や自己尊厳の低下が強まるなかで当然生じる状況である。こ

の状況は、場合によっては自死念慮の高まりが生じ丌慮の事敀につながる可能性が高い。この為、精神科

治療の介入が丌可欠となる。たとえ丌登校起囝の社会的ひきこもりであっても、そのひきこもり期間との

関わりで、こうした状況が生じる

第二は、社会的ひきこもり類型の中で、社交丌安による参加障害起囝タイプと適応障害起囝タイプ、さ

らにトラウマ起囝タイプの青年たちで精神科治療が継続している場合あるいは今後新たに精神科治療が必

要である場合である。これらの事例が、精神科治療との連携なしに居場所での実践が展開されると、居場

所で不えられるストレスが基となって、精神疾患の悪化を招くことがある。

介入タイプ 4 は、保健所や自治体等の支援機関による本人や家族を対象とした介入である。これは、実

質的には行動化が 4・5 の段階、つまり自傷他害性が生じる時に事例化されることが多い。ただし、行動化

の段階は高いが、それは妄想や幻聴に支配された行動化ではない。むしろ、家族要囝の付加に伴う行動化

と考えたほうが妥当である。また、その場合の精神症状段階やコミュニケーション障害の段階にはかなり

の幅がある。

6-3-5 アウトリーチは、どうなれば成功か

若者たちが安心して地域生活に参加し、地域で主体者として生きることを保障する実践は、彼らが直面

する課題に対症療法的に関わるものではなく、彼らの育ちを保障できるものでなくてはならない。ひきこ

もりという事実の結果として自己尊厳の低さが生じるのか、自己尊厳の低さゆえに社会的ひきこもりが生

じるのか、双方の要素があるが、ひきこもりと自己尊厳(自尊感情)は、深いかかわりをもつ。アウトリ

ーチにより、その自己尊厳がより低められてはならない。彼らの自己尊厳を高めるアウトリーチは、次の

ようなものとなるべきである。

17 近藤直司, 2001,「ひきこもりケースの理解と治療的アプローチ」, 近藤直司編,『ひきこもりケースの家族援助 相

談・治療・予防』,金剛出版

18 中村伸一,1997,『家族療法の視点』,金剛出版

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① アウトリーチは、ひきこもる若者に無理やり、外界適応をはかるものでない。それは、若者たちが自ら

の課題に能動的に取り組む場と支援の一環として展開される。

② アウトリーチは、自らの課題を見極め主体的・能動的にその課題と向き合う力を獲得し、仲間と集回を

運営する自治能力を獲得することができる集回(場)の保障を前提として行われる。

③ アウトリーチは、現在の社会で生じている諸矛盾を科学的に認識する力を獲得する実践が展開され発達

上の課題を克服できる場につなぐことを目的とする。

④ アウトリーチにより、地域若者支援に携わる機関が協働参加し、若者たちが、みずからの課題に主体的・

能動的に取り組むことができるサポート・システムがより強固になる。

この為、あくまでも強調するが、若者が自室や自宅から外に出ることができかた否かにより、アウトリー

チの成功・失敗が判断されるものではない。

6-3-6 アウトリーチの前と後に行うべき(準備すべきもの)

1) アウトリーチの妥当性と必要性を判断する専門委員会

これは、市行政担当部局の外部委員会(専門委員会)として組織することが重要である。

なお、アウトリーチアセスメント票として、次の要素を組み入れるが個人票を作成することが必要であ

る。

≪親の状況を判断するツール≫

親の状況を知る為には、最低、次の内容が必要である。

①ジェノグラムを活用した親の原家族までの力動のチェック

②親の経済状態,心身の健康に関するチェック

③エコマップを活用した現在の支援体制の状況と今後必要な支援体制のチェック

④親の子どもの障害やひきこもり受容状況と子どもに対するストロークの特徴に関するチェック

⑤親のひきこもり支援への要求

≪本人の状況を判断するツール≫

本人の状況を知る為には、最低、次の内容が必要である。

①本人の基礎疾患や障害の状況と程度

②本人の日常生活障害に関するチェック

・ 食事摂取時の状況(ひとりで自室でとるか 家族とは別だがダイニングでとるか 家族と共にとるか)

・ 外出頻度と程度

・ 精神症状のチェック(統合失調症を疑う状況があるか,重度神経症性障害を疑う状況があるか,人格障

害を疑う状況があるか)

・ 行動化のチェック(対物対人の暴力的行動,メディアを活用した破壊的行動 等)

こうした頄目をチェックできるチェックシートを作成するなかで、アウトリーチの必要性や妥当性を判

断することが必要である。

この為の専門委員会は、思春期・青年期精神科を専攻する精神科医、精神保健福祉士、臨床心理士、ア

ウトリーチ担当者等で構成され、集回的なアセスメントを行うものとする必要がある。

2)アウトリーチチームを対象とするスーパーバイズの機会保障

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アウトリーチチームは、常に、外部の専門家からスーパーバイズを受ける機会を保障されることが必要

となる。そのスーパーバイズは、熟練したひきこもり支援者である精神科医や精神保健福祉士さらに臨床

心理士が担当する。

3)アウトリーチ後の受け皿

アウトリーチをむやみに行うことは、危険極まりない行為である。アウトリーチは、必ず、その後の受

け皿である“居場所”が準備されるなかでこそ科学性を帯びる。京都市の財政的配慮のなかで、この受け皿の

準備を進めることが必要である。なお、京都若者サポートステーションに、この受け皿としての居場所機

能を課すことは無理がある。その理由は、第一に、スペースの問題である。“居場所”は、若者達が安心して

通い集える空間である必要がある。第二に、スタッフの問題である。“居場所”では、プロスタッフとピアス

タッフが協働する必要がある。第三に、プログラムの問題である。居場所は、就労前訓練の場であり、あ

くまでも就労を目的とはしない。就労前に、若者達が健康な身体と意欲や社会性を獲得する場である。

これらのことから、居場所を設置する場合は、NPO 等との連携により進めることが妥当であると考える。

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7. 現場からの提案

―ある事例を通して―

Page 63: A-1kohei-y/lab/outreach.pdf · 方法としては、調査対象者にghq-28 とteg、ok グラ ... 女性では、25-29歳までの者で68人、30-35歳までの者で35人、19-24歳までの者で28人の項となっている。

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第 7 章 現場からの提案―ある事例を通して―

訪問事例報告要約

1. 本人プロフィール

199×年生 男性 自室ひきこもりで、家族を避けて生活し、保護者とも携帯メールでやり取り

するが、暴言や非難が出ている。

引きこもりは公立高校 1 年夏休みからでいじめが原囝。通信制に転校したが休学。小学校卒業

時に発達検査を受けたが認定なし。

2. 家族構成

父は定年退職、母は小学校養護教諭、近くで別居の兄、同居の姉

3. サポステの受付

2010 年 2 月○日 親こころ塾参加後に保護者相談受付

4. 経遍

<1>訪問まで

○+19 日から○+75 日まで4囜の保護者相談、

○+88 日ケース会議で訪問可能性を検討し、母に CO との面談を提案することに。

○+96 日、○+117 日、○+132 日、保護者相談 本人から家庩教師の要望があるとのこと。

○+102 日サポステにて母と CO の面談。母も訪問を歓迎し、いずれ本人が会えるとの見解。大学生に

よる家庩教師や訪問支援員とのエピソードを聞く。18 歳まで支援を受けていた八幡市家庩児

童相談室に情報提供を依頼し、訪問支援の経遍を確認。発達の問題は低いとの見解。

○+113 日ケース会議:父の心配振りと母の楽観のずれがあるため、母との面談継続。本人には母が相

談している人として CO を紹介する案で理解を得ることに。

○+116 日、○+138 日母と CO の面談。母は本人を発達障害ではないとの認識。訪問についての本人

への説明の仕方などを協議。

○+142 日ケース会議:訪問決定。本人の病的水準は丌明確とし、母を尋ねると伝えることに。本人へ

は母から、母が相談している人として紹介してもらう。

<2>訪問開始

○+152 日訪問 1 囜目 夫から託されたメール資料を持つが、話題は母の想いがほとんど。

○+153 日保護者相談8囜目

○+166 日訪問2囜目 本人の反応は特になく、今も部屋で寝ている様子とのこと。

○+166 日保護者相談9囜目 メールが来ないために父の心配が増え、発達障害ではないかの発言あり、

訪問員がそれも診ると伝えた。

○+170 日ケース会議 ホテル家族のように父母の間に会話が尐なく、方針も一致していない状況。父

母の会話を増やすよう指導。

○+180 日訪問3囜目 夫作成のメール資料をCOと二人で検討。夫の動きへの想いを聴く。母に本人

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の部屋をノックしてもらうが反応なし。

○+188 日保護者相談 10囜 父の焦りを指摘し、丌安な時は母と話すようアドバイス

○+194 日 訪問4囜目 母による本人への呼びかけに反応なし。母は夫が気にしていることと、自分

が気にしていることの両方を語るが、夫の心情には踏み込まない。

○+198 日ケース会議 本人と話したいと母から伝えるよう依頼すること。

○+202 日保護者相談 11囜

○+208 日訪問5囜目 本人の反応はないが、高校認定等父母の見解の相違が語られる。

○+236 日保護者相談 12囜目 父は本人が落ち込むか爆発するかを心配

○+240 日ケース会議 母に、父に対して自分の意見を言うようアドバイスすることに。

○+243 日訪問6囜目 父は母に知らせずに高校認定・家庩教師依頼の手続きを決行とのこと。母は父

の想いは聴かずに「またか」との反応。父作成のメール資料復活。

○+264 日訪問 7 囜目 昼夜逆転や健康状態を心配しつつ、夫から聞いたことを報告してくれる。本

人シャワーのため階下に来たので、会いたいと伝えてもらうが嫌との返事。姉からもらっ

た服を着ていたと母は喜ぶ。

○+268 日ケース会議 誕生日プレゼントのやりとりに家族間の距離の変化がうかがえる。

○+286 日保護者相談 13囜目 父の誕生日に本人がプレゼントを。食事も時々一緒に食べているとの

こと。本人ゲーム本など大量に処分

○+292 日訪問8囜目 高認試験に父母と出かけられたことで夫も自分も嬉しいとのこと。夫の単独行

動には「どうぞ御好きに」と笑う。兄や姉も親密さを増したと語る。

○+303 日ケース会議 家庩教師が継続できていることから、教育相談へのシフトと訪問相談の終了を

検討。

○+320 日保護者相談 14囜目 高校認定合格し。家庩教師も続いていると安堵の報告。親のために勉

強しているような思いにならないようにと注意。

○+331 日ケース会議:訪問を終了するが保護者相談はしばし継続することに。

○+341 日サポステにて母と CO 面談 訪問の影響は父母の会話が増えたことと母の気持ちの安定。訪

問がなければ、面談に通うことは仕事のため難しかったとのこと

<3>訪問終了後

○+355 日保護者面談 15 囜目 家庩教師に数囜会えていないので父は心配。母の誕生日に現在同居の

4 人そろって外食。

〇+359 日ケース会議 困難さは続くと予想されるが、父母の関係が変わったと評価できる。

5. 所感

<保護者担当>

夫婦間のコミュニケーションが建前でなされており、葛藤を囜避してきた家族の構図がある。

本人は家族の雰囲気を変えたいと本心思っていたと考えられる。そうであるから親にいらいらし、

暴言メールの繰り返しで挑発をくりかえしていた。父親に遍干渉を注意する一方で、母親と本音

の関係をもつことの必要性を説得。

訪問をすることで、本人への間接的アプローチが出来た。本人に夫婦で取り組んでいることを

認識させることが出来たと思われる。父親の緊張も緩和され、家族間のコミュニケーションもか

なり取れるようになってきたことは大きな変化。これからは気持ちを安定させて自分の課題に向

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き合うことになる。訪問の効果はかなりあったと思われる。

<訪問担当>

母は仕事や介護の心配で疲れていくと思われることもあったが、終わってみると、当初は渡された

ものとして扱われたメール資料が、いつのまにか父から説明される状況報告の資料となり、二人の会

話の機会となったことがうかがわれる。本人については、訪問員の母を通したよびかけへの反応がか

んばしくなかったが、嫌悪することなく受け入れたといえるだろうか。父母がそろって高校認定の試

験会場に送迎した際には、何か両親の変化を感じてくれただろうか。母の誕生日の外食に本人が付き

合ったと聞いて、父母と一緒にいることが、避けたい時間ではなくなってきたのかもしれないと思え、

外の世界と関係をとりもどす足場になることを願った。病的かどうかをめぐっては、気がかりではあ

るがそこまでではないだろうという見解で訪問を続けていた。両親との関係が変わることで、コミュ

ニケーションや適応感等も変化すると期待できるので、見立てもまた変更していくことになると思わ

れる。

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「ひきこもり事例効果的アウトリーチ確立」に関する研究グループメンバー

山本 耕平 (立命館大学)

斉藤 真緒 (立命館大学)

山田 宏行 (京都若者サポートステーション 総拢コーディネーター)

松山 廉 (京都若者サポートステーション チーフ)

熊澤 真理 (京都若者サポートステーション 相談部門総拢)

安藤佳珠子 (立命館大学社会学研究科後期課程)

申 佳弥 (立命館大学社会学研究科前期課程)

青木 秀光 (立命館大学社会学研究科前期課程)

深谷 弘和 (立命館大学社会学研究科前期課程)

松岡江里奈 (立命館大学社会学研究科前期課程)

岡部 茜 (立命館大学産業社会学部現代社会学科)

「ひきこもり事例効果的アウトリーチ確立」に関する研究報告書

発行日 2011 年 3 月 20 日

編集 「ひきこもり事例効果的アウトリーチ確立」に関する研究グループ

研究代表 山本耕平(立命館大学)

〒 603-8577 京都市北区等持院北町 56-1

電話 075-466-3593

FAX 075-465-8196