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A Closer Look
引当マトリクスを使用した営業債権への予想信用損失モデルの適用
目次
トーキング・ポイント
はじめに
変更点は何か。
「一般的なアプローチ」 とは何か、また「単純化
したアプローチ」が必要な理由は何か。
「単純化したアプローチ」を使用する場合、どのよ
うな会計方針を選択できるか。
検討
引当マトリクスを用いた「単純化したアプロー
チ」の適用
終わりに
詳細は下記Webサイト参照
www.iasplus.com
www.deloitte.com
www.deloitte.com/jp/ifrs
トーキング・ポイント
• IFRS第 9号「金融商品」は、2018年 1月 1日以後開始する事業年度に発効する。IFRS第 9
号では、予想信用損失に基づく新たな減損モデルが導入されている。これは、発生損失モデル
を使用した IAS第 39号「金融商品:認識および測定」とは異なる。
• IFRS第 9号の「一般的なアプローチ」の複雑性により、IFRS第 15号の「顧客との契約から生
じる収益」に基づく営業債権、契約資産、および IAS第 17号「リース」または IFRS第 16号「リ
ース」に基づくリース債権に対する単純化が必要となった。特定の会計方針の選択が適用され
る。
• 例えば、重大な金融要素を含んでいない営業債権に「単純化したアプローチ」を適用する場合、
引当マトリクスを適用することができる。本文書は、引当マトリクスを使用するための段階的なア
プローチを提供している。
• ステップ 1共通の信用リスク特性のカテゴリーに、債権の適切なグルーピングを決定する。
• ステップ 2将来の予想損失率の見積りを行うために実績損失率を入手する期間を決定する。
• ステップ 3実績損失率を算定する。
• ステップ 4将来予測的なマクロ経済的要因を考慮し、関連性のある将来の経済状況を反映す
るために実績損失率を調整する。
• ステップ 5予想信用損失を計算する。
はじめに
金融商品の会計は、銀行のような大規模な金融機関のみが関係する分野であると多くの人が考
えている。そうではない。ほとんどすべての企業は、会計処理する必要がある金融商品を保有し
ている。特に、ほとんどすべての企業が営業債権を保有しており、新しい金融商品基準は企業が
減損について考える方法を変更する。本稿では、IFRS第 9号における新しい減損の要求事項に
焦点を当てる。具体的には、IFRS第 15号の下で認識された営業債権、契約資産、IAS第 17号
(または IFRS第 16号)に基づくリース債権の減損のガイダンスに焦点を当てる。
営業債権、契約資産およびリース債権とは何か?
営業債権とは、通常、顧客との収益契約から発生する金融商品であり、対価を受領する権利は無条件であり、対価を受領する前に時の経過のみが
要求される。
IFRS第 15号で定義される契約資産とは、顧客に対して既に提供した財またはサービスと交換に対価を受領する権利であるが、例えば積算士
(quantity surveyor)による契約完了段階の認証の発行など、支払いが特定の事象の発生を条件とするものであると定義されている。
リース債権とは、IAS第 17号(または IFRS第 16号)に基づくリース料の支払を受ける権利をいう。
注: 本資料は Deloitteの IFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳した
ものです。
この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版
ニュースレターをご参照下さい。

A Closer Look |IFRS第 9号
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なぜ上記の項目のみを特に考慮するのだろうか?IFRS第 9号の減損ガイダンスは複雑であり、重要な判断を必要とするが、一定の単純化が、営業
債権、契約資産およびリース債権について特になされている。ほとんどすべての企業が、これらの項目のうちの(すべてではなくても)1つを有してい
るため、すべての企業が新しい会計の要求事項の影響を理解することが重要である。
本稿の前半では、金融資産の減損に関する新しい会計上の要求事項を検討し、後半では、引当マトリクス方式を実務に適用する可能性のある方法
を提案する。
変更点は何か
IFRS第 9号は IAS第 39号に置き換わるものであり、2018年 1月 1日以後開始するすべての事業年度に適用される。IAS第 39号の要求事項に
従って、償却原価で測定される金融資産の減損損失は、減損の客観的証拠がある範囲でのみ認識されていた。言い換えれば、減損損失を計上する
ことが可能となる前に、損失事象が発生することが必要であった。
IFRS第 9号では、予想信用損失に基づく新たな減損モデルが導入され、信用損失が発生する前に損失引当金が認識される。このアプローチの下
で、予想信用損失を見積もる際に、企業は、現在の状況、過大なコストや労力をかけずに利用可能な合理的で裏付け可能な将来予測の情報を考慮
する。IFRS第 9号は、減損に対する「一般的なアプローチ」 を定めている。しかし、場合によっては、この「一般的なアプローチ」は複雑すぎるため、
いくつかの単純化が導入された。
「一般的なアプローチ」とは何か、また「単純化したアプローチ」が必要な理由は何か
IFRS第 9号における一般的なアプローチの単純化は、営業債権、契約資産およびリース債権に適用されるように設計されているが、「単純化したア
プローチ」の適用は必ずしも強制ではなく、場合によっては、「一般的なアプローチ」と「単純化したアプローチ」との間に会計方針の選択が存在する。
したがって、本稿の大部分が「単純化したアプローチ」の適用に焦点を当てているものの、「一般的なアプローチ」と「単純化したアプローチ」の両方を
理解することが重要である。
我々は、IFRS第 9号の減損に対する「一般的なアプローチ」から始める。この「一般的なアプローチ」の下では、信用リスク(全期間の債務不履行確
率を使用して測定される)が金融資産の当初認識以降に著しく増大している場合、全期間の予想信用損失に対する損失引当金が金融商品に対して
認識される。報告日現在において、金融商品の信用リスクが当初認識以降に著しく増大していない場合、12か月の予想信用損失に対する損失引当
金が認識される。言い換えれば、「一般的なアプローチ」は、12か月の予想信用損失と全期間の予想信用損失という、予想信用損失を測定するため
の 2つの基礎を有する。
12か月の予想信用損失と全期間の予想信用損失が意味するものは何か?
全期間の予想信用損失とは、金融商品の予想存続期間にわたるすべての生じ得る債務不履行事象から生じる予想信用損失である。
12か月間の予想信用損失とは、全期間の予想信用損失のうち、ある金融商品について報告日後 12か月以内に生じ得る債務不履行事象から生
じる予想信用損失を表す部分である。「12か月の予想信用損失」という言葉は、直感的には、企業が今後 12か月間に予想するキャッシュ不足に
対する引当金のように聞こえるかもしれない。そうではない。IFRS第 9号は、12か月の予想信用損失は、全期間の予想信用損失の一部であり、
報告日後 12か月以内に生じ得る債務不履行事象から生じる、全期間のキャッシュ不足を表すと説明している。
IFRS第 9号では「債務不履行」という用語は定義されておらず、企業は、債務不履行とみなされるものについて企業自身の方針を確立し、関連する
金融商品の内部信用リスク管理目的に使用される定義と整合的な定義を適用しなければならない。これには、適切な場合には、定性的な指標(例え
ば、財務特約条項)を考慮しなければならない。IFRS第 9号には、債務不履行は金融資産が 90日の期日経過となる時点よりも後で発生することは
ないという、反証可能な推定が含まれている。ただし、もっと遅い債務不履行の要件のほうが適切であることを立証するための合理的で裏付け可能
はい。全期間の予想信用損失に基づい
て、予想信用損失を測定する。 いいえ。12か月の予想信用損失に基づ
いて、予想信用損失引当金を測定する。
信用リスクが当初認識以降に著しく
増大しているか?

A Closer Look |IFRS第 9号
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な情報を企業が有している場合は除く。こうした目的で使用される債務不履行の定義は、すべての金融商品に一貫して適用しなければならない。た
だし、特定の金融商品について、別の債務不履行の定義のほうが適切であることを証明する情報が利用可能となった場合は除く。
「一般的なアプローチ」に基づく実際の測定に際しては、IFRS第 9号に示される測定の原則を反映した方法で、金融商品の予想信用損失を測定しな
ければならない。これらは、予想信用損失の見積りが次のものを反映していなければならないことを示している。
• 一定範囲の生じ得る結果を評価することにより算定される、偏りのない確率加重金額
• 貨幣の時間価値
• 過去の事象、現在の状況および将来の経済状況の予測についての、報告日において過大なコストや労力をかけずに利用可能な合
理的で裏付け可能な情報
予想信用損失を測定する際、企業は必ずしもすべての考え得る将来予測のシナリオを特定する必要はない。しかし、たとえ信用損失が発生する確
率が非常に低い場合であっても、信用損失が発生するリスクまたは確率を、信用損失が発生する可能性と信用損失が発生しない可能性とを反映す
ることによって、考慮しなければならない。また、シナリオの信用損失の結果は必ずしも直線的ではないことにも留意する必要がある。言い換えれ
ば、失業率が 1%上昇した場合のマイナスの影響の方が、失業率が 1%低下した場合のプラスの影響よりも大きいということである。
この理論を実務に適用する上で、「一般的なアプローチ」の下での予想信用損失は、以下の公式を用いて最もよく記述することができる。債務不履行
確率(PD)×債務不履行時の損失率(LGD)×債務不履行時のエクスポージャー(EAD)。各将来予測シナリオについて、企業はこの公式を用いて予
想信用損失を効果的に策定し、その結果を確率加重する。
PD、LGD、EAD とは何か?
債務不履行確率(PD)とは、特定の対象期間における債務不履行の可能性の見積りである。例えば、20% PDとは、貸付金が債務不履行となる
確率が 20%であることを意味する。(IFRS第 9号では、上記のように 12か月 PDと全期間 PDを区別している。)
債務不履行時の損失率(LGD)とは、債務不履行の事象において損失となる金額である。例えば、70% LGDとは、債務不履行が発生した際に、
債務不履行時点での残高の 70%のみが損失となり、残りの 30%は(担保の回収または現金の回収によって)回収されることを意味する。
債務不履行時のエクスポージャー(EAD)とは、債務不履行時における債権の予想残高である。
PDに焦点を当てることにより、営業債権のようなものに関して、12か月の予想信用損失と全期間の予想信用損失とを区別する目的で信用リスク
の著しい増大を追跡する要求は、過度に複雑に見える。これは、営業債権は、通常比較的短期間の残高であり、信用リスクの著しい増大を識別し
ようとすることは実務上不可能であるためである。例えば、営業債権の通常の与信期間は 30日であるかもしれない。「一般的なアプローチ」を適
用することは、企業に当初認識以降に信用リスクが著しく増大した営業債権を識別することを要求する。その上で、上記の「一般的なアプローチ」で
説明したように、12か月の予想信用損失と全期間の予想信用損失の測定を区分する。しかし、純粋な測定基礎からすると、「一般的なアプローチ」
は、12か月または全期間の予想信用損失について、異なる答えをもたらすことはない。なぜなら、与信期間が 30日のみであるからである。ここに
単純化の必要性がある。企業が短期債権に対して一般的なアプローチを適用することを要求することは、実務的ではなく、いかなる便益ももたらさ
ない。したがって、IFRS第 9号は、企業は、営業債権、契約資産およびリース債権に対して「単純化したアプローチ」を適用することを認めている。
単純化したアプローチは、企業が信用リスクの著しい増大を識別する必要性なしに、これらすべての資産について全期間の予想損失を認識するこ
とを認めている。
しかし、必ずしもすべての営業債権、契約資産またはリース債権が短期 (すなわち、12か月と全期間の予想信用損失の区別のために十分に
短い期間)ではない。例えば、その購入に対して顧客が 3年間にわたって支払うことを認める、家具小売業者のような顧客に延長された信用条
件を提供する企業の営業債権がある。このような状況では、全期間の予想信用損失を認識することは、12か月の予想信用損失と比較して、損
失引当金および減損損失が大きくなり得る。IFRS第 9号は企業に過大な負担をかけることを望んでいないが、重大な金融要素が存在する状
況において、企業が会計方針を選択することを認めている。これは、信用リスクの増大の実績のない資産について全期間の予想信用損失を使
用することにより、12か月の予想信用損失を適用する場合と比較して、過大な損失引当金となる状況に対処するためである。
「単純化したアプローチ」を使用する場合、どのような会計方針を選択できるか
重大な金融要素を含まない営業債権および契約資産については、全期間の予想損失を認識する要求事項がある。(すなわち、企業は常に、「単純化
したアプローチ」を適用しなければならない。)他の営業債権、他の契約資産、オペレーティング・リース債権およびファイナンス・リース債権について
は、資産の種類ごとに別個に適用できる会計方針の選択である。(しかし、特定の種類のすべての資産に適用される。)

A Closer Look |IFRS第 9号
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重大な金融要素とは何か?
契約の当事者が(明示的にまたは暗黙的に)合意した支払いの時期により、顧客または企業に顧客への財またはサービスの移転に係る資金提供
の重大な便益が提供される場合、重大な金融要素が存在する 〔IFRS第 15号 60項] 。顧客との契約は、以下の要因のいずれかが存在する場
合には、重大な金融要素を有さない [IFRS第 15号 62項] 。
• 顧客が財またはサービスに対して前払いしており、当該財またはサービスの移転の時期が顧客の裁量で決まる。
• 顧客が約束した対価のうち相当な金額に変動性があり、当該対価の金額または時期が、顧客または企業の支配が実質的に及ばない将来の事
象の発生または不発生に基づいて変動する(例えば、対価が売上高ベースのロイヤルティである場合)。
• 約束した対価と財またはサービスの現金販売価格との差額が、顧客または企業のいずれかに対する資金提供以外の理由で生じており、それら
の金額の差額が相違の理由に見合っている。例えば、支払条件が、企業または顧客に、相手方が契約に基づく義務の一部または全部を適切に
完了できないことに対しての保護を提供する場合がある。
さらに、IFRS第 15号 63項は、契約開始時において、企業が約束した財またはサービスを顧客に移転する時点と顧客が当該財またはサービス
に対して支払いを行う時点との間が 1年以内となることを見込んでいる場合には、企業は、約束した対価の金額を重大な金融要素の影響につい
て調整する必要はないという実務上の便法を有している。これは、大部分の営業債権に適用される可能性が高いと思われる。
本稿の残りの部分では、企業が、「単純化したアプローチ」をどのように適用できるか、具体的には、重大な金融要素を含まない営業債権についての
「単純化したアプローチ」に焦点を当てる。「単純化したアプローチ」に適用できる方法論の一例として、我々は、予想信用損失を測定する方法論とし
て引当マトリクスを使用する。
短期的な性質のため、重大な金融要素がない契約資産および特定のリース債権(通常のオペレーティング・リース債権)についても、適切な場合
には、同一または同様のアプローチを採用することができる。しかし、重大な金融要素を含む営業債権および契約資産およびファイナンス・リース
債権については注意が必要である。引当マトリクスは、このような場合には最も適切な方法ではないかもしれない。これは、引当マトリクスが短期
の債権についてはより単純に適用できるためである。他の方法は、より複雑な統計的方法を使用するが、長期の債権のほうがより適しているかも
しれない。
引当マトリクスを用いた「単純化したアプローチ」の適用
信用リスクにさらされている期間中に、経済状況に重大な変化が生じる可能性が低く、実績損失率が将来の予想損失の見積りのための適切な基礎
となるかもしれないことを前提として、短期の営業債権、例えば、期間 30日の営業債権については、将来の経済予測シナリオの決定は、それほど重
要ではないかもしれない。引当マトリクスは、関連性のある損失率を営業債権の残高に適用することに他ならない。(すなわち、営業債権の年齢分
析)。例えば、企業は、営業債権が期日経過となっている日数に応じて異なる損失率を適用する。顧客ベースの多様性に応じて、企業は、過去の信
用損失の実績が異なる顧客セグメントについて著しく異なる損失パターンを示している場合には、適切なグルーピングを使用する。これは単純化され
たアプローチではあるが、以下の点に注意する必要がある。
• 適切なグルーピングの決定。実績損失率をインプットとして用いる場合には、共通の信用リスク特性(たとえば、満期日)を含む、主要なパラメータ
の完全性および正確性を検証するために、過去の損失データについて十分なデューデリジェンスを実施しなければならない。この結果に重要性
がある場合には、別個の引当マトリクスを、債権の共通の信用リスク特性に基づく適切なグルーピングに適用しなければならない。企業は、顧客
セグメントごとに損失パターンが著しく異なるかどうかを識別するために、実績信用損失率を調査しなければならない。資産のグループピングに使
どの会計方針の選択が利用可能か? 利用可能な?
常に「単純化したアプローチ」を適用
(選択なし) 「一般的アプローチ」または「単純化したア
プローチ」のいずれかを適用する
IFRS第 15号で重大な金融要素を
含まない営業債権および契約資産
IFRS第 15号で重大な金融要素を含
む営業債権および契約資産 リース債権
「一般的アプローチ」または「単純化したア
プローチ」のいずれかを適用する

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用される可能性のある要件の例としては、地域、製品の種類、顧客の信用格付、担保または取引信用保険、顧客の種類(卸売か小売かなど)が
ある。[IFRS第 9号 B5.5.35項]
• 将来予測情報に関する実績損失率の調整。実績損失率が、貸借対照表日時点のポートフォリオのエクスポージャー期間中に存在することが予
想されるものを代表する経済状況の下で発生したかどうかを決定しなければならない。損失率アプローチの適用が当該ポートフォリオにとって適
切かどうか、また、計算された実績損失率が、報告日時点で利用可能な情報に基づいて、ポートフォリオの状況やパフォーマンスの予想される将
来の変化を反映するように適切に調整されているかどうかを検討することが重要である。
以下に引当マトリクスの例を示す。
営業債権 期日経過なし 30日の期日
経過
60日の期日
経過
90日の期日経
過
90日超の期日経過
損失率 1% 2% 3% 20% 100%
損失率を引当マトリクスに適用する必要があることを述べることは、かなり単純である。しかし、損失率はどのように算定されるのだろうか。この問題
に対処するために、我々は、以下の引当マトリクスを適用するための段階的アプローチを提供する。IFRS第 9号では具体的なガイダンスが提供さ
れていないため、企業が引当マトリクスの構築を進めることが可能ないくつかの方法がある。
検討
ステップ 1適切なグルーピングを決定する
IFRS第 9号には、営業債権をグルーピングする方法について明示的なガイダンスや具体的な要求事項はないが、グルーピングは、地域、製品
の種類、顧客の格付け、担保または取引信用保険、顧客の種類(卸売か小売かなど)に基づいて行うことができる。
営業債権に引当マトリクスを適用するには、まず、個々の営業債権の母集団を、同様の信用リスク特性を共有する債権のグループに集約する必
要がある。共通の信用特性の目的で項目をグルーピングする際に、各異なるグループの信用リスクを最も大きく左右するものを理解し、識別する
ことが重要である。
24か月契約で携帯端末とネットワーク・アクセスの両方を販売している通信会社を考える。異なる信用リスク特性を有するため、法人顧客と個人
顧客からの債権は、別々にグルーピングされるかもしれない。さらに、信用エクスポージャーの期間に関連するリスク特性が異なることから、携帯
端末に関連する債権(24か月間にわたる債権を表す)は、月次のネットワーク・アクセス料に関連する債権とは別にグルーピングするかもしれな
い。そして、そうすることに関連性がある場合には、上記の債権の各セットを地域別にグルーピングし得る。
これに基づいて、引当マトリクスは月次ネットワーク・アクセスに関連する営業債権にのみ適切であり、異なるアプローチが、(24か月にわたる債
権を反映する)携帯端末の販売に関連する営業債権には必要であると判断されるかもしれない。
さらに、2つの関連性のある地域が、それぞれ独自の信用特性によって識別されていると仮定する。

A Closer Look |IFRS第 9号
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その結果、この例では、通信会社に関して共通の信用特性を有する 8つのサブグループが作成される。
ステップ 2観測された実績損失率が適切である期間を決定する
サブグループを識別した後、各サブグループについての過去の損失データを収集する必要がある。IFRS第 9号には、過去のデータをどこまで遡
って収集すべきかについての具体的なガイダンスはない。営業債権が回収される将来の期間に関連性のある、信頼性のある過去のデータが入手
できる期間を判断する必要がある。一般的に、この期間は合理的であるべきであり、非現実的に短期間や長期間であってはならない。実務上は、
当該期間は 2-5年に及ぶ可能性がある。
ステップ 3実績損失率の算定
これで、サブグループが識別され、損失データを収集する期間が選択されたので、企業は、期日経過カテゴリーに細分化された各サブグループに
ついての予想損失率を算定する。(すなわち、期日経過なしの残高の損失率、期日経過日数が 1―30日の損失率、期日経過日数が 31-60日
の損失率など)。そのためには、企業は、決定した期間から観測可能なデータを入手することによって、各グループまたはサブグループの実績損
失率を決定しなければならない。
IFRS第 9号は、損失率の算定方法に関する具体的なガイダンスは提供しておらず、判断が要求される。
通信会社の例をステップ 1から継続し、地域 1の小売顧客のネットワーク料金について考えてみる。この企業は、どのように損失率を計算するか?
ステップ 3.1選択した過去の期間の信用販売合計および信用損失合計を算定する。
企業はデータを収集する期間を選択した後、信用売上の合計と、当該売上で被った信用損失の合計を識別しなければならない。関連性のある期
間中に収集されたデータを統合し、平均を計算しなければならない。しかし単純化のために、この例では 1事業年度について入手された情報を反
映している。
例えば、2017年度のデータを用いたと想定して、以下のとおり決定された。
• 2017年の信用売上の合計:10,500,000 ドル
• これらの売上に関連する信用損失合計:125,000 ドル
信用売上および信用損失の合計が判明した後、関連性のある「年齢」を決定する必要がある。企業は、すべての債権を回収するのにかか
った期間(すなわち、年齢区分(ageing bands)を通じた残高の推移(migration of balances))を決定するため、および最終的に受け取らな
かった各期日経過カテゴリーにおける残高の割合を決定するためのデータを分析する必要がある。別の言い方をすれば、各期限経過の指
標に達した債務者のうち、最終的にどの程度の割合が回収されたか。これを行う理由は、特定の期日経過時点になった債権が「悪くなる」比
率の過去の実績に基づいて、予想値を決定するためである。
この分析では、いつ顧客が信用売上の請求書を支払ったかを識別するための会計システムが要求される。この情報は、次の表に示すように、異な
る期間枠にソートされる。
ステップ 3.2現金をいつ受け取ったか? 年齢グルーピングに到達
した売上
年齢グルーピング中に受け取った金額 次の年齢グループに到
達した売上
期日経過なし 10,050,000 ドル 5,000,000 ドル 5,500,000 ドル
1日-30日の期日経過 5,500,000 ドル 2,750,000 ドル 2,750,000 ドル
31日-60日の期日経過 2,750,000 ドル 1,350,000 ドル 1,400,000 ドル
61日-90日の期日経過 1,400,000 ドル 750,000 ドル 650,000 ドル
90日超の期日経過 650,000 ドル 525,000 ドル 125,000 ドル
支払なし(直接償却) 125,000 ドル - (直接償却)
通信会社
地域 1 地域 2
卸売業者 小売顧客 卸売業者 小売顧客
携帯端末債権 ネットワーク
料金債権
1 2 3 4 5 6 7 8
携帯端末債権 携帯端末債権 携帯端末債権 ネットワーク
料金債権
ネットワーク
料金債権
ネットワーク
料金債権

A Closer Look |IFRS第 9号
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現金の受取りを分析し、残高をグルーピングした後、実績損失率を計算しなければならない。実績損失率は、信用損失合計を、各年齢グルーピン
グに到達した信用売上額で除して計算している。
ステップ 3.3実績損失率の算定 期日経過なし 30日の期日
経過
60日の期日
経過
90日の期日
経過
90 日超の期日経
過
残高 10,500,000 ド
ル
5,500,000 ド
ル
2,750,000 ド
ル
1,400,000 ド
ル
650,000 ドル
信用損失合計 125,000 ドル 125,000 ド
ル
125,000 ド
ル
125,000 ド
ル
125,000 ドル
実績損失率 1% 2% 5% 9% 19%
信用損失合計を各年齢区分の未回収残高で割るロジックは、それが異なる年齢区分を移動するため、損失引当金を追いかけることによって説明
することができる。上で計算した損失率をどの時点の信用売上残高に適用しても、損失引当金は 125,000 ドルとなり、これは信用売上合計額
10,500,000 ドルの全期間の予想損失となる。これを、以下に示す。
過去の信用損失の合計は、信用売上の 1%である。言い換え
れば、延滞状況が考慮される前に、過去の損失は、1%の予
想損失を示している。
残高は減少したものの、我々は、当該残高に生じる損失の合
計は 125,000 ドルであることを知っている。その結果、30日
期日経過の時点で、実績損失率は 2%である。
上記の計算は、過去の損失の指標として機能するために、異なる年齢区分を通じて 1年間の信用売上を追いかけるものである。報告日におい
て、営業債権の年齢分析は、年齢区分を通じて信用売上がどのように進捗しているかを要約したものである。言い換えれば、これはある時点での
スナップショットである。その結果、上記で計算された実績損失率は、IFRS第 9号の下での予想信用損失の見積りに対する良い出発点として機
能する。
通信会社は、予想信用損失を測定するために引当マトリクスを使用することが適切である、ステップ 1で識別した各サブグループに対して、この検
討を繰り返す必要がある。
ステップ 4将来予測的なマクロ経済的要因を考慮し、適切な損失率の結論を出す
ステップ 3で計算された実績損失率は、過去のデータが関連する期間中の経済状況を反映している。これらは、予想損失を識別するための出発
点ではあるが、必ずしも帳簿価額に適用すべき最終的な損失率ではない。ここまでの例を使用して、過去の損失率を 2017事業年度から計算し
た。しかし、2018年の報告日に、ある特定の地域で突然の景気後退のため失業率が上昇すると予想され、失業率の上昇が短期的に債務不履
行の増加をもたらすことが予想されるという情報が利用可能となったらどうだろうか。このような状況では、実績損失率は、適切な予想損失を反映
しないため、調整が必要となる。これは重要な判断の領域であり、将来の経済状況についての合理的で裏付け可能な予測の機能である。
実績損失率を更新する必要性を説明するために、ステップ 3で計算した実績損失率を参照する。前回、特定の地域で雇用が大幅に減少したと
き、営業債権の損失は平均で 20%増加した。これは、景気循環の時点と比較した過去の損失パターンの分析に基づく可能性がある。
10,500,000 ドルの信用売上
125,000 ドルの信用損失
30日経過後の残高は
5,500,000 ドルになった。
30日経過後の残高は
2,750,000 ドル
同じプロセスを継続する。
残高は減少したものの、我々は、当該残
高に生じる損失の合計は 125,000ドルで
あることを知っている。その結果、31-
60日の期日経過の時点で、実績損失率は
5%となる。

A Closer Look |IFRS第 9号
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20%の増加が、必ずしもすべての年齢区分で同じであるとは限らないことは注目に値する。この例の目的のために、我々は、20%の増加がすべ
ての年齢区分であるものと仮定する。その結果、現在の経済見通しを反映するために、実績損失率を 20%増加させる必要がある。
将来予測的な情報に関する過去の損失率の更新 期日経過なし 30日の期日経
過
60日の期日経
過
90日の期日経
過
90日超
20%増加した実績損失率 1.2% 2.4% 6% 10.8% 22.8%
説明のため、失業率の上昇から生じる信用損失のリスクの上昇を反映する損失率の修正は 1つのみである。ステップ 3の平均実績損失率と比較
した信用リスク環境に特有の特性を報告日時点で反映させるために、複数の修正が必要となる場合がある。
損失率が、ステップ 3で算定され、将来予測的なマクロ経済要因についてステップ 4で修正された後、損失率が算定されたグループと整合的な方
法で予想信用損失を測定するために、損失率が使用される。
ステップ 5予想信用損失を計算する
ステップ 1で決定された各サブグループの予想信用損失は、現在の総額での債権金残高に損失率を乗じて計算しなければならない。例えば、特
定の調整後損失率が、各グループの債権についての各年齢区分の残高に適用されなければならない。債権の各年齢区分の予想信用損失が計
算された後、単純に各年齢区分のすべての予想信用損失を加算して、ポートフォリオの予想信用損失の合計を計算する。報告日時点の営業債
権残高が 1,652,000 ドルで、以下に詳細に記述する年齢分析を行うと仮定すると、予想信用損失は 55,416 ドルと計算される。以下の表は、ステ
ップ 4で計算した損失率を使用して、最終的な予想信用損失引当金を計算する方法を示している。
予想信用損失を算定する 期日経過なし 1-30日期日
経過
31-60日期
日経過
61-90日期
日経過
90日超期日経
過
合計
報告日残高 875,000 ドル 460,000 ド
ル
145,000 ド
ル
117,000 ドル 55,000 ドル
予想信用損失率 1.2% 2.4% 6% 10.8% 22.8%
予想信用損失引当金 10,500 ドル 11,040 ドル 8,700 ドル 12,636 ドル 12,540 ドル 55,416 ドル
おわりに
新しい減損の要求事項は、ほとんどすべての企業に影響を及ぼすものであり、大規模な金融機関にのみ影響を及ぼすものではない。企業が重要性
のある営業債権、契約資産およびリース債権を有する場合には、予想信用損失を計算するための適切なプロセスが実施されることを確保するために
注意が必要である。
また、IFRS第 7号 「金融商品:開示」の信用リスクに関する拡張された開示要求事項を実施するために要求される努力についても、過小評価する
べきではない。企業は、特に IFRS第 9号を適用する最初の年度において、どのレベルの開示が要求されるかを検討しなければならない。財務諸
表の利用者にとって、IFRS第 9号の適用における、減損の増加、適用される会計方針および判断が適用される重要な分野の増加について理解す
ることが重要である。

デロイト トーマツ グループは日本におけるデロイト トウシュ トーマツ リミテッド(英国の法令に基づく保証有限責任会
社)のメンバーファームであるデロイト トーマツ合同会社およびそのグループ法人(有限責任監査法人トーマツ、デロ
イト トーマツ コンサルティング合同会社、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社、デロイト トーマ
ツ税理士法人、DT弁護士法人およびデロイト トーマツ コーポレート ソリューション合同会社を含む)の総称です。デ
ロイト トーマツ グループは日本で最大級のビジネスプロフェッショナルグループのひとつであり、各法人がそれぞれ
の適用法令に従い、監査・保証業務、リスクアドバイザリー、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー、税
務、法務等を提供しています。また、国内約 40都市に約 11,000名の専門家を擁し、多国籍企業や主要な日本企業
をクライアントとしています。詳細はデロイト トーマツ グループWebサイト(www.deloitte.com/jp)をご覧ください。
Deloitte(デロイト)は、監査・保証業務、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリーサービス、リスクアドバイザ
リー、税務およびこれらに関連するサービスを、さまざまな業種にわたる上場・非上場のクライアントに提供していま
す。全世界 150を超える国・地域のメンバーファームのネットワークを通じ、デロイトは、高度に複合化されたビジネ
スに取り組むクライアントに向けて、深い洞察に基づき、世界最高水準の陣容をもって高品質なサービスを Fortune
Global 500® の 8割の企業に提供しています。“Making an impact that matters”を自らの使命とするデロイトの約
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Deloitte(デロイト)とは、英国の法令に基づく保証有限責任会社であるデロイト トウシュ トーマツ リミテッド(“DTTL”)
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