a 心肺蘇生輸液および薬物療法 静脈路確保...

10
Ⅱ 救急・主要症候編  9 A 小児一次救命処置 pediatric basic life support(PBLS) CPR の実際 CPR は,C→A→B の手順で直ちに開始 CPRは,何らかの原因によって呼吸または循環が十分に行 えない,あるいは停止する,などの際に行われる救急救命処 置である。 心停止の判断として心拍の確認は信頼性が低いため,意識 患児の反応と正常な呼吸の有無で判断する。 『ガイドライン2010』(アメリカ心臓協会)より,CPRの手順 が「A→B→C」から「C→A→B」に変更された。 C:循環確保 Circulation 心マッサージ:胸骨圧迫を 100 回/分以上のペースで行う。 心マッサージと人工呼吸の組合せ:胸骨圧迫30回につき人 工呼吸 2 回の割合で行う(二人法では 15 回と 2 回)。 気管挿管がなされた場合:人工呼吸は胸骨圧迫と非同期で呼 吸回数約 10 回/分のペースで行う。 A:気道確保 Airway 頭部後屈・顎先挙上法あるいは下顎挙上法(頸椎損傷が疑わ れるときに適応)で行う。 B:呼吸管理 Breathing 気道を確保したうえで,人工呼吸を 2 回行う(乳児の場合は 口対口鼻人工呼吸小児の場合は口対口人工呼吸)。 8 Ⅱ 救急・主要症候編 1 1 小児の救急 A 心肺蘇生 cardiopulmonary resuscitation(CPR) 大声で叫び応援を呼ぶ 緊急通報・除細動器を依頼 正常な呼吸 あり 必要あり 必要なし 反応なし 呼吸なし *2 呼吸をみる *1 ただちに胸骨圧迫から CPRを再開 *3 (2分間) *3 ・強く,速く,絶え間ない胸骨圧迫を! AED/除細動器装着 心電図解析・評価 電気ショックは必要か? 気道確保 応援・PALSチームを待つ 回復体位を考慮する *1 ・気道確保して呼吸の観察 を行う ・熟練者は呼吸と同時に頸 動脈の拍動を確認する (乳児の場合は上腕動脈) *2 ・死戦期呼吸は心停止とし て扱う ・「呼吸なし」でも脈拍があ る場合は気道確保および 人工呼吸を行い,PALS チームを待つ CPR ただちに胸骨圧迫を開始する 強く(胸の厚さの約1/3) 速く(少なくとも100回/分) 絶え間なく(中断を最小にする) 人工呼吸の準備ができ次第,2回の 人工呼吸を行う 15:2で胸骨圧迫に人工呼吸を加え る(一人法では30:2) 人工呼吸ができない状況では胸骨 圧迫のみを行う ショック1回 ショック後ただちに 胸骨圧迫からCPRを 再開 *3 (2分間) PALSチームに引き継ぐまで,あるいは患者に 正常な呼吸や目的のある仕草が認められるま でCPRを続ける 図 1 小児一次救命処置(PBLS)のアルゴリズム (JRC(日本版)ガイドライン 2010 より引用)

Upload: others

Post on 12-Feb-2021

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

  • Ⅱ 救急・主要症候編  9

    A

    心肺蘇生

    1 小児一次救命処置 pediatric basic life support(PBLS)

    CPRの実際

    CPRは,C→A→Bの手順で直ちに開始

    �CPRは,何らかの原因によって呼吸または循環が十分に行えない,あるいは停止する,などの際に行われる救急救命処置である。

    �心停止の判断として心拍の確認は信頼性が低いため,意識(患児の反応)と正常な呼吸の有無で判断する。

    �『ガイドライン2010』(アメリカ心臓協会)より,CPRの手順が「A→B→C」から「C→A→B」に変更された。

    C:循環確保 Circulation

    �心マッサージ:胸骨圧迫を100回/分以上のペースで行う。�心マッサージと人工呼吸の組合せ:胸骨圧迫30回につき人

    工呼吸2回の割合で行う(二人法では15回と2回)。�気管挿管がなされた場合:人工呼吸は胸骨圧迫と非同期で呼

    吸回数約10回/分のペースで行う。

    A:気道確保 Airway

    �頭部後屈・顎先挙上法あるいは下顎挙上法(頸椎損傷が疑われるときに適応)で行う。

    B:呼吸管理 Breathing

    �気道を確保したうえで,人工呼吸を2回行う(乳児の場合は口対口鼻人工呼吸,小児の場合は口対口人工呼吸)。

    8 Ⅱ 救急・主要症候編

    1

    小児の救急

    1 小児の救急

    A 心肺蘇生 cardiopulmonary resuscitation(CPR) 大声で叫び応援を呼ぶ

    緊急通報・除細動器を依頼

    正常な呼吸あり

    必要あり 必要なし

    反応なし

    呼吸なし*2

    呼吸をみる*1

    ただちに胸骨圧迫からCPRを再開*3(2分間)

    *3・強く,速く,絶え間ない胸骨圧迫を!

    AED/除細動器装着

    心電図解析・評価電気ショックは必要か?

    気道確保応援・PALSチームを待つ回復体位を考慮する

    *1・気道確保して呼吸の観察を行う

    ・熟練者は呼吸と同時に頸動脈の拍動を確認する

     (乳児の場合は上腕動脈)

    *2・死戦期呼吸は心停止として扱う

    ・「呼吸なし」でも脈拍がある場合は気道確保および人工呼吸を行い,PALSチームを待つ

    CPR●ただちに胸骨圧迫を開始する 強く(胸の厚さの約1/3) 速く(少なくとも100回/分) 絶え間なく(中断を最小にする)●人工呼吸の準備ができ次第,2回の人工呼吸を行う

    ●15:2で胸骨圧迫に人工呼吸を加える(一人法では30:2)

     人工呼吸ができない状況では胸骨圧迫のみを行う

    ショック1回ショック後ただちに胸骨圧迫からCPRを再開*3(2分間)

    PALSチームに引き継ぐまで,あるいは患者に正常な呼吸や目的のある仕草が認められるまでCPRを続ける

    図 1 小児一次救命処置(PBLS)のアルゴリズム

    (JRC(日本版)ガイドライン 2010 より引用)

  • 輸液および薬物療法

    静脈路確保

    �蘇生や救命処置においては,輸液や薬物投与のために静脈路確保は必須である。したがって,蘇生を中断することなく迅速に確保しなければならない。

    �静脈路確保に時間を要する場合は,状況により骨髄内ルートや気管内投与を考慮する。

    骨髄内ルート

    �通常は,専用骨髄針を前脛骨骨髄内に穿刺する。�本法は中心静脈路と同程度の急速大量投与が可能であり,輸

    血を含めてほとんどの蘇生薬物が安全に投与できる。�一度,穿刺に失敗した場合は,同側に再穿刺してはならない。

    気管内投与

    �脂溶性薬剤の投与が主体であり,投与できる主な薬剤はLEANと呼ばれる。

    �LEANとは,Lidocaine(リドカイン),Epinephrine(エピネフリン〔アドレナリン〕),Atropine(アトロピン),Naloxone

    (ナロキソン)のことである。

    Ⅱ 救急・主要症候編  11

    A

    心肺蘇生

    2 小児二次救命処置 pediatric advanced life support(PALS)

    意識(反応性)と正常な呼吸の有無により心停止の判断をしながら,PBLSを続行しつつPALSへの移行を開始する

    有効な酸素化と換気の保持

    �自発呼吸が確認できれば,鼻カニューレ,フェイスマスクなどを用いて積極的な酸素投与を実施する。

    �気道確保を行うとともに,換気用のマスクのフィットをE-Cクランプ法(図3)で確実に行う。

    10 Ⅱ 救急・主要症候編

    1

    小児の救急

    a 救助者が2人の場合

    図2 乳児の心マッサージ

    b 救助者が1人の場合

    胸骨の下半分の胸の真ん中に左右の親指をあて,毎分100回,胸の厚さの約1/3の深さを目安に胸骨を押し下げる。

    胸骨の下半分の胸の真ん中に指を2本あて,毎分100回,胸の厚さの約1/3の深さを目安に胸骨を押し下げる。

    図3 E-Cクランプ法

  • 脱水と溶血性尿毒症症候群に要注意

    診 断

    �便の水分量が増加した状態で,多くは頻回の排便を伴う。

    原因疾患

    �急性下痢症の大半は,急性消化管感染,もしくは消化管外感染(上気道感染症,肺炎,髄膜炎など)に起因するものであり,最も頻度が高いのはウイルス性胃腸炎である。

    �緊急性の高い疾患には,下痢に伴う脱水症や,溶血性尿毒症症候群(HUS)を伴った腸管出血性大腸菌性腸炎などがある。

    �乳児下痢症の原因には,表1のようなものがある。

    病歴聴取・身体所見

    �いつから,回数,便の色や性状,随伴症状の有無,家族や周囲の状況などの詳細な病歴聴取を行う。

    �一般状態,呼気の臭い,腹部を含む全身の所見,脱水徴候など十分な診察を行う。

    �1日10回以上の下痢あるいは脱水徴候がある場合は,少なくとも血糖と血液ガスの検査を施行し,輸液を開始すべきである(必要に応じて初期輸液にブドウ糖やメイロン®を追加

    46 Ⅱ 救急・主要症候編

    2

    小児の主要症候

    する)。�HUSが疑われる場合は,できるだけ早く専門医にコンサル

    トする。

    必要な処置

    ロートエキス®とロペミン®は生後6か月未満の児では禁忌

    �下痢が頻回に及び,安静が保てない場合には止痢薬を投与する。ただし,細菌感染が疑われる場合は用いない(治癒を遅らせる可能性があるため)。

    �ロートエキス(ロートエキス®)と塩酸ロペラミド(ロペミン®)は生後6か月未満の児では,イレウスを来す可能性があるため禁忌である。処方例

    【ビフィズス菌】ビオフェルミン 0.1g/kg/日 分3(成人の1日量は3.0g)

    【カルシウム補給剤】乳酸カルシウム 0.06g/kg/日 分3(成人の1日量は

    2.0~5.0g)【止痢薬】

    アドソルビン 0.1g/kg/日 分3~4(成人の1日量は3.0~10g)

    タンナルビン 0.1g/kg/日 分3~4(成人の1日量は3.0~4.0g)

    ロペミン 0.02~0.04mg/kg/日 分2~3(成人の1日量は1~2mg 分1~2)

    【副交感神経遮断薬】ロートエキス 1mg/kg/日 分3(成人の1日量は20~

    90mg)

    ホームケア・アドバイス

    �水分補給を十分に行う。

    Ⅱ 救急・主要症候編  47

    D

    下 痢

    2 小児の主要症候

    D 下 痢 diarrhea

    表1 乳児下痢症の原因

    食事要因 糖や脂肪の過量摂取

    消化管感染ウイルス性胃腸炎(ロタウイルス,ノロウイルス,アデノウイルス,ポリオウイルスなど),細菌性腸炎(大腸菌,サルモネラ,黄色ブドウ球菌,腸炎ビブリオなど)

    消化管以外の感染 上気道炎,中耳炎,髄膜炎,敗血症などその他 菌交代現象,食物アレルギー(牛乳アレルギーなど)

  • Ⅱ 救急・主要症候編  49

    E

    呼吸困難と喘鳴

    �嘔吐がない場合は,経口補液剤(ORS)がより効果的となる。�母乳栄養児では,食欲があれば普段どおりに与える(嘔吐が

    なければ少量頻回とする必要はない)。それでも空腹を訴える場合は,乳児用イオン飲料やORSを追加する。

    �人工栄養児では,ミルクを薄める必要はなく,食欲があれば普段どおりに与え,必要に応じて乳児用イオン飲料やORSなどを併用する。

    �食事は,電解質,糖分(でんぷん)を適度に含み,消化が良く,水分を補給できる食品(かゆ,野菜スープ,煮込みうどん,つぶしじゃがいもなど)を与える。

    48 Ⅱ 救急・主要症候編

    2

    小児の主要症候

    2 小児の主要症候

    E 呼吸困難と喘鳴 dyspnea and wheeze診 断

    酸素飽和度のチェックは必須

    �呼吸困難(新生児では呼吸窮迫)とは,喚気運動に際して生じる努力感のことで,息ぎれと同義である。

    �喘鳴とは,気道狭窄によって生じる呼吸音(ヒューヒューあるいはゼイゼイと表現される)である。

    �新生児が呼吸窮迫を来しているときは,鼻翼呼吸,多呼吸,無呼吸,陥没呼吸,呻吟,シーソー呼吸などが認められる。

    �吸気時に喘鳴が聴取されるときは上気道の狭窄が,呼気時に聴取されるときは下気道の狭窄が示唆される。

    原因疾患  (表1)

    �最も頻度が高い疾患は,喘息様気管支炎と気管支喘息である。�緊急性の高い疾患には,急性喉頭蓋炎,喉頭・気管異物,ア

    ナフィラキシー,気管支喘息大発作などがある。

    病歴聴取・身体所見

    �いつからか,いつもと同じ咳か,呼吸の際に音が聞こえるか,発熱などの随伴症状の有無,食事との関連,既往歴や家族歴などの詳細な病歴を聴取する。

    表1 喘鳴の分類

    部位 分類 原因疾患喉頭 吸気性 クループ,上気道異物,Quincke浮腫,喉頭軟化症*

    気管 吸気性 気管異物気管支以下 呼気性 急性細気管支炎,気管支喘息,気管支異物*喉頭軟化症laryngomalacia:新生児期に吸気性喘鳴を来す疾患である。喉頭

    以外に異常はなく,成長に伴って自然治癒することがあるので特別な治療は要しない。

  • �一般状態,呼吸状態,心雑音やチアノーゼの有無,その他の全身所見など,十分な診察を行う。

    �患児の呼吸状態が良好であっても,家族がいつもの咳と違うと訴える場合は,クループや気管支異物などを考慮して慎重に診断を行う。

    �気道異物が疑われる場合は,速やかに専門医にコンサルトする。

    検 査

    �軽症にみえても,必ず経皮的酸素飽和度(SpO2)のチェックを行う。

    �気になる所見がある場合や診断に苦慮する場合は,迷わず胸部X線撮影などを行う。

    �新生児の呼吸窮迫の程度を評価するには,Silverman-Anderson retraction score(点数が高いほど予後不良)を用いる(表2)。

    �心雑音があれば心電図と心エコー検査を行う。

    必要な処置

    �SpO2 94%以下は,まず100%酸素投与(5~10 l/分)を行う。�原因疾患に対する治療を行う。

    50 Ⅱ 救急・主要症候編

    2

    小児の主要症候

    ホームケア・アドバイス

    �十分な水分補給を行い,居室を十分に加湿(60%以上)する。�食事摂取や睡眠が困難な場合は,早めに再診するように指導

    しておく。

    先天性喘鳴喉頭付近に奇形等の異常が存在することによって,生直後

    ~4週ころに吸気性喘鳴を起こすものをいう。原因は表3に示す。

    POINT

    乳幼児の心不全では,多呼吸,喘鳴,呼吸困難などの症状がみられるので,要注意である。

    Ⅱ 救急・主要症候編  51

    E

    呼吸困難と喘鳴

    表2 Silverman-Anderson retraction score

    点 数 0 1 2胸と腹の運動 胸と腹とが同時

    に上下する胸はわずかに動き腹だけが上下する

    腹が上がるときに胸が下がる(シーソー運動)

    肋間陥没 肋間腔が吸気の際にへこまない

    ようやくわかる程度にへこむ

    著明に陥没する

    剣状突起部陥没 陥没しない わずかに陥没する 著明に陥没する鼻翼呼吸 ない 鼻孔がわずかに開

    く鼻孔が著明に開く

    呼気性呻吟 うめき声はない 聴診器で聴こえる よく聴こえる

    表3 先天性喘鳴の原因

    部位 原因疾患

    気管 気管気管支軟化症,気管食道瘻気管外 血管輪

    鼻咽頭 小顎症(Pierre Robin症候群),巨舌(舌根が喉頭部に飛び出している),後鼻腔閉鎖

    喉頭 喉頭軟化症,声門付近の先天性囊腫,声門下部の狭窄

    一口メモ

  • 122 Ⅲ 疾患編

    4

    呼吸器疾患

    �副腎皮質ステロイドのデキサメタゾン(デカドロン®)の経口投与で浮腫の軽減を図る。多くの症例でよく反応する。処方例

    デカドロンエリキシル 0.15mg/kg/回�加湿により,乾燥による刺激を防ぎ,分泌物を出しやすくす

    る。�呼吸困難やSpO2低下のある場合は,適宜酸素投与を行う。�クループ症候群治療のアルゴリズムは図1のとおりである。

    �本症候群の多くは外来治療で軽快するが,逆に症状が遷延する場合は,異物や咽後膿瘍などの他疾患の鑑別が必要である。

    患者・家族への説明のポイント

    �外来治療で軽快して帰宅しても,再度症状を呈する場合があるため,症状が出現した場合は再診を指示する。

    Ⅲ 疾患編  123

    B

    クループ症候群

    4 呼吸器疾患

    B クループ症候群 croup syndrome病 態

    吸気性喘鳴,犬吠様咳嗽,嗄声が主症状

    �喉頭の狭窄によって生じる,吸気性喘鳴,犬吠様咳嗽,嗄声を主症状とする呼吸器疾患の総称である。

    �ウイルス感染(特にパラインフルエンザウイルスが多い)による喉頭気管気管支炎が大半を占める。

    �生後6か月~3歳に好発する。

    症 状

    �上記の主症状に加え,発熱,鼻汁,鼻閉を伴う場合もある。�喉頭の浮腫と発赤を認める。�呼吸困難が強い場合は,急性喉頭蓋炎(+ p.124)との鑑別

    が必要である。

    診 断

    �臨床診断は,症状から比較的容易であるため,喉頭高圧X線撮影は必ずしも診断に必要ではないが,正面像で声門下部の気管透亮像の狭小化および側面像で下咽頭腔の拡大を認める。

    診察のポイント

    �啼泣により症状が増悪する場合があるため,診察や処置,検査は可能な限り愛護的に行う。

    治 療

    �エピネフリン(ボスミン®)吸入で浮腫の軽減を図る。処方例

    ボスミン 0.1~0.2ml+生理食塩水2ml 20~30分間隔で反復可

    図1 クループ症候群治療のアルゴリズム

    呼吸困難

    症状が軽快すれば帰宅可

    症状が改善しなければ入院

    喉頭蓋炎であれば気道確保が優先

    喉頭蓋炎でなければクループの治療

    強い強くない

    入院を前提に喉頭蓋炎の鑑別

    ステロイド投与エピネフリン吸入

  • 病 態

    必ず,窒息の危険を念頭に置く

    �急激な喉頭蓋の腫脹により,窒息の危険がある救急疾患である。

    �インフルエンザ菌に起因するものが最も多い。�3~6歳に好発する。

    症 状

    �急激な発熱,流涎,咽頭痛,嚥下困難,特徴的な姿勢(顎を前方に突き出し開口して舌を出す)を呈する。

    �喉頭粘膜の浮腫を来すと,呼吸困難を呈し,窒息することもある。

    �著明な陥没呼吸,全身性チアノーゼ,不穏状態を認めた場合は喉頭蓋炎を念頭に置く。

    診 断

    �喉頭高圧X線撮影の側面像で喉頭蓋の腫大を認める。�血液検査で炎症反応の有無をチェックし,上昇していれば喉

    頭蓋炎の可能性を考慮する。�可能なかぎり血液培養を行い,抗菌薬の感受性を確認する。

    診察のポイント

    �クループ症候群と同様,啼泣により症状が増悪する場合があるため,診察や処置,検査は可能な限り愛護的に行う。

    治 療

    �インフルエンザ菌を念頭において,抗菌薬のセフォタキシムナトリウム(クラフォラン®)やメロペネム水和物(メロペ

    124 Ⅲ 疾患編

    4

    呼吸器疾患

    Ⅲ 疾患編  125

    C

    急性喉頭蓋炎

    4 呼吸器疾患

    C 急性喉頭蓋炎 acute epiglottitis

    ン®)を使用する。処方例

    クラフォラン 100~150mg/kg/日 分3~4メロペン 60~100mg/kg/日 分3~4

    �躊躇せず気管挿管を行う。ただし,熟練者が施行する。また,麻酔科医や耳鼻科医に連絡し,緊急気管切開に備える。

  • 204 Ⅲ 疾患編

    11

    内分泌・代謝疾患

    ともあるため,インスリンを普段より少なめに投与するが,決してインスリンをやめてはいけない。

    2 糖尿病性ケトアシドーシス diabetic ketoacidosis(DKA)

    怠薬で惹起されることがある

    病 態

    �インスリンの極度の欠乏時に生じるアシドーシスで,昏睡を引き起こす。

    �1型にみられることが多い。�インスリン治療の中断によって惹起されることがある。�高血糖(血糖200mg/dl以上),静脈血pH<7.3または重炭

    酸<15mmol/l,ケトン血症かつケトン尿を呈する。

    症 状

    �口渇,多飲,多尿で突然発症し,全身倦怠感を訴える。�腹痛や嘔吐,脱水(皮膚・粘膜の乾燥,低血圧,頻脈),意識障害,Kussmaul呼吸などを呈する。

    Ⅲ 疾患編  205

    D

    糖尿病

    11 内分泌・代謝疾患

    D 糖尿病 diabetes mellitus

    1 小児の糖尿病 diabetes mellitus in children

    口渇,多飲,多尿,体重減少,ケトアシドーシスで突然発症

    病 態

    �インスリンの作用低下に起因して生じた,高血糖を主徴とする慢性代謝異常である。

    �1型糖尿病(ウイルス感染や免疫反応が関与)と2型糖尿病(肥満にみられる)に分類される。

    症 状

    �口渇,多飲,多尿,体重減少で突然発症する。�1型糖尿病は,ケトアシドーシス(後述)で発症することも

    ある。

    診 断

    �糖尿病の診断基準(表1)に沿って診断をする。

    1型糖尿病のsick day*時の注意点

    �感染症に罹患したときは,高血糖になりやすい。�インスリンを中断しない。�血糖測定を頻回に行い,高血糖のときは超速効型インスリン

    もしくは速効型インスリンを追加して投与する。�急性胃腸炎などで経口摂取できないときは低血糖を起こすこ

    *sick day糖尿病患者が他の疾患に罹患し,体調を崩したとき。

    表1 糖尿病の診断基準(概略)

    �①~④のいずれかが確認された場合は「糖尿病型」と判定する。ただし①~③のいずれかと④が確認された場合には,糖尿病と診断してよい。

    ①早朝空腹時血糖値126mg/dl以上②75g OGTTで2時間値200mg/dl以上③随時血糖値200mg/dl以上④HbA1c(JDS値)が6.1%以上[HbA1c(国際標準値)が6.5%以上]

    �⑤および⑥の血糖値が確認された場合は「正常型」と判定する。⑤早朝空腹時血糖値110mg/dl未満⑥75g OGTTで2時間値140mg/dl未満

    �上記の「糖尿病型」「正常型」いずれにも属さない場合は「境界型」と判定する。

  • 付録  265

    A

    小児検査基準値

    小児の基準値は,検査法や施設間においても異なる場合があり,その標準化はなかなか難しい。ここでは,おおむね妥当と思われる値を文献などから選び,研修医にとって必要な項目に絞ってまとめた。検査値を判読するうえでの一つの物差しとしてみていただきたい。

    血 液

    生化学

    264 付録

    付 録

    付録

    A 小児検査基準値

    検査項目 1か月未満 1か月~1歳未満 1歳~5歳 6歳~12歳 成人

    WBC(103/µl)白血球数

    7.0~25.0 7.0~15.0 7.0~11.0 6.0~10.0 4.5~11.0

    好中球(%) 50~70 20~40 30~50 55~75 59好酸球(%) 4 3 3 5 3リンパ球(%) 20~40 50~70 30~50 20~30 34単球(%) 7~9 5 5 4~5 4RBC(104/µl)赤血球数

    368~600 310~450 390~530 400~520男450~560女370~530

    Hb(g/dl)ヘモグロビン

    12.8~20.8 9.5~13.5 11.5~13.5 11.5~15.5男13.5~17.5女12.0~14.5

    Ht(%)ヘマトクリット

    39.8~66.2 29.0~41.0 34.0~40.0 35.0~45.0男42.0~53.0女36.0~44.0

    PLT(104/µl)血小板数

    15.0~40.0 15.0~40.0 15.0~40.0 15.0~40.0 25.0±10.0

    総蛋白(TP)(g/dl)年齢 男 女

    生後1か月 5.0~6.5 5.0~6.5生後6か月 5.7~7.2 5.7~7.4

    3歳 6.1~7.7 6.2~7.912歳 6.5~8.3 6.5~8.4成人 7.0~8.3 6.9~8.3

    アルブミン(ALB)(g/dl)年齢 男 女

    生後1か月 3.3~4.2 3.5~4.2生後6か月 3.9~4.8 3.9~5.0

    3歳 3.9~4.8 4.0~5.012歳 4.0~4.9 4.0~5.1成人 4.0~5.0 4.0~5.0

    IgG(mg/dl)年齢 男 女

    生後1か月 400~1030 400~1030生後6か月 290~950 290~950

    3歳 530~1340 540~134012歳 750~1660 790~1740成人 650~1620 730~1630

    IgA(mg/dl)年齢 男 女

    生後1か月 ~24 ~24生後6か月 8~50 8~50

    3歳 25~174 22~15012歳 71~352 63~373成人 83~442 83~434

    IgM(mg/dl)年齢 男 女

    生後1か月 21~96 21~96生後6か月 46~176 46~176

    3歳 63~279 86~33212歳 72~306 100~380成人 50~263 67~302

    IgE(IU/ml)PRIST年齢

    生後1か月 0.17~ 10.65生後6か月 0.72~ 57.60

    3歳 1.83~122.7210~15歳 6.92~227.35

    成人 7.08~134.98日常診療では,乳児100 IU/ml,幼児150IU/ml,学童期後期250 IU/ml,が正常上限とされる。

    総ビリルビン(T-Bil)(mg/dl)年齢 男 女

    生後1か月 0.3~5.3 0.4~7.8生後6か月 0.2~1.4 0.2~1.3

    3歳 0.1~0.7 0.1~0.612歳 0.1~0.9 0.1~0.8成人 0.2~1.0 0.2~1.0

    尿素窒素(BUN)(mg/dl)年齢 男 女

    生後1か月 4.0 ~15.4 3.6 ~16.2生後6か月 3.7 ~14.7 3.2 ~15.5

    3歳 8.2 ~19.6 7.5 ~19.312歳 8.1 ~19.4 7.1 ~18.7成人 7.23~23.4 3.97~23.7

    クレアチニン(Cr)(mg/dl)年齢 男 女

    生後1か月 ― ―生後6か月 ― ―

    3歳 0.3~0.7 0.4~0.712歳 0.5~0.8 0.4~0.9成人 0.6~1.3 0.6~1.3

    AST(GOT)(U/l)年齢 男 女

    生後1か月 19~61 20~71生後6か月 25~85 22~76

    3歳 20~45 20~4412歳 14~33 12~30成人 10~40 10~40

    ALT(GPT)(U/l)年齢 男 女

    生後1か月 10~50 11~68生後6か月 12~62 10~63

    3歳 4~24 5~2712歳 3~20 3~18成人 5~40 5~40

    アミラーゼ(AMY)(U/l)年齢 男 女

    生後1か月 ~54 ~46生後6か月 17~132 21~114

    3歳 65~217 65~22312歳 64~215 60~215成人 60~200 60~200

  • 付録  269

    B

    小児薬用量

    小児は成人のミニチュアではないにもかかわらず,小児特有の薬物療法がきちんと確立されている訳ではない。小児に使用されている医薬品において,小児の用法・用量の記載のあるものはわずか約20%のみである。しかも,多くは「小児への投与に関する安全性は確立されていない」と記載されている。したがって,承認されていない適応に対して用いたり,承認されていない用法・用量で用いる,いわゆるoff-label使用をせざるを得ないのが現状である。

    本稿での薬用量は,基本的に著者らの施設における使用経験に基づき,外来で頻用する内服薬を中心に代表的なものをまとめたものである。使い慣れない薬剤や危険性の高い薬剤については,各自で添付文書や上級医に確認をとることを勧める。

    小児薬用量の算出法にはさまざまな計算式があるが,体表面積近似式であるvon Harnack表が簡便で使用しやすい。しかし,実際にはほとんどの小児科医が体重1kgあたりの薬剤量(力価)を用いて処方を行っている。

    凡 例

    �基本的に「一般名もしくは略号」,「代表的な商品名」,「体重あたりの力価(mg/kg)と投与量(年齢・体重別)」,「商品名」,「剤型ごとの投与量(年齢・体重別)」の順で記載した。

    �商品名は色文字で示した。�商品名もしくは剤型の右肩に「★」の付してあるものは,表

    頭の年齢・体重とは別の基準のあるものである。�剤型は以下のように略して表記した。錠=錠剤,顆=顆粒,散=散剤,細=細粒,末=原末,坐=坐剤,C=カプセル,Syr=シロップ,DS=ドライシロップ,ゼ=ゼリー,吸=吸入薬

    268 付録

    付 録

    付録

    B 小児薬用量

    von Harnack表

    未熟児 新生児 6か月 1歳 3歳 7.5歳 12歳1/81/10 1/5 1/4 1/3 1/2 2/3

    新生児

    (3k

    g)6か月

    (8k

    g)1歳

    (10

    kg)

    3歳

    (15

    kg)

    6歳

    (20

    kg)

    7.5歳

    (25

    kg)

    9歳

    (30

    kg)

    12歳

    (40

    kg)

    成人

    (60

    kg)

    アモキシシリン水和物(AMPC)

    力価

    20~

    40m

    g/kg

    /日,

    分3~

    4—

    250m

    g30

    0mg

    450m

    g60

    0mg

    750m

    g75

    0mg

    750m

    g75

    0~10

    00m

    gサワシリン,パセトシン

    細:

    100m

    g/g

    2.53.0

    4.56.0

    7.57.5

    7.5C

    :25

    0mg

    3C3C

    3C3~

    4Cワイドシリン

    細:

    200m

    g/g

    1.25

    1.52.2

    53.0

    3.75

    3.75

    3.75

    スルタミシリントシル酸塩水和物(SBTP

    C)

    力価

    15~

    30m

    g/kg

    /日,

    分3

    —15

    0mg

    200m

    g30

    0mg

    400m

    g50

    0mg

    600m

    g75

    0mg

    750~

    1125

    mg

    ユナシン

    細:

    100m

    g/g

    1.52.0

    3.04.0

    5.06.0

    7.5錠

    :37

    5mg

    3錠(

    375)

    クラブラン酸カリウム・アモキシシリン水和物(CVA/A

    MPC)

    力価

    96.4m

    g/kg

    /日—

    600m

    g12

    00m

    g18

    00m

    g24

    00m

    g30

    00m

    g36

    00m

    g75

    0~10

    00m

    gクラバモックス

    ★6~

    10kg

    11~

    16kg

    17~

    23kg

    24~

    30kg

    31~

    36kg

    37~

    39kg

    DS

    :60

    0mg/

    1.01g

    ,分

    2(食

    直前

    )1.0

    12.0

    23.0

    34.0

    45.0

    56.0

    6錠

    :25

    0mg,

    分3~

    43~

    4錠(

    250)

    ●ペニシリン系抗菌薬

    小児HB_p007-三_Ⅱ 救急・主要症候編小児HB_p055-三_Ⅲ 疾患編1-6小児HB_p151-三_Ⅲ 疾患編7-12小児HB_p263-三_付録