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平成21年(2009年)2 地域 地域 地域 地域 と地域団体商標制度 地域団体商標制度 地域団体商標制度 地域団体商標制度 に関す す実証分析 実証分析 実証分析 実証分析 効果的 効果的 効果的 効果的に地域 地域 地域 地域 育成 育成 育成 育成すには すには すには すには 政策研究大学院大学 政策研究科知財 MJI08043 長谷川 絵美 〈要旨〉 稿は、地域団体商標「出願」す要因と地域団体商標「登録」受けことができ 要因につき銘柄牛の用いて分析行った。 その結果、出荷頭数が多く等級が優てい銘柄牛の生産者ほど、高い確率で地域団体 商標出願すことが示さた。 次に、銘柄牛の等級が優ていほど、出願人は低い確率で地域団体商標登録受け ことができが、広範囲に出荷し、出荷頭数が多いほど、高い確率で地域団体商標登録 受けことができと示さた。このことか、地域団体商標制度は周知性の要件が大き く加味さていため、生産者が地域の販路拡大や宣伝も品質にこだが 強い場合地域団体商標登録受けことができにくくなと推した。 以上の分析結果踏まえ、地域団体商標制度が、発展段階にあ地域保護し 経の性化につながものとなためにはこの点に考慮すべきこと提言した。

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平成21年(2009年)2月

地域地域地域地域ブランドブランドブランドブランドとととと地域団体商標制度地域団体商標制度地域団体商標制度地域団体商標制度

にににに関関関関するするするする実証分析実証分析実証分析実証分析

~~~~よりよりよりより効果的効果的効果的効果的にににに地域地域地域地域ブランドブランドブランドブランドをををを育成育成育成育成するにはするにはするにはするには~~~~

政策研究大学院大学

政策研究科知財プログラム

MJI08043

長谷川 絵美

〈要旨〉

本稿は、地域団体商標を「出願」する要因と地域団体商標「登録」を受けることができ

る要因につき銘柄牛のクロスセクションデータを用いて分析を行った。

その結果、出荷頭数が多く等級が優れている銘柄牛の生産者ほど、高い確率で地域団体

商標を出願することが示された。

次に、銘柄牛の等級が優れているほど、出願人は低い確率で地域団体商標登録を受ける

ことができるが、広範囲に出荷し、出荷頭数が多いほど、高い確率で地域団体商標登録を

受けることができると示された。このことから、地域団体商標制度は周知性の要件が大き

く加味されているため、生産者が地域ブランドの販路拡大や宣伝よりも品質にこだわりが

強い場合地域団体商標登録を受けることができにくくなると推測した。

以上の分析結果を踏まえ、地域団体商標制度が、発展段階にある地域ブランドを保護し

経済の活性化につながるものとなるためにはこの点に考慮すべきことを提言した。

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目目目目 次次次次

1111....はじめにはじめにはじめにはじめに……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………1111

2222....地域団体商標地域団体商標地域団体商標地域団体商標………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………1111

2222....1111....地域団体商標地域団体商標地域団体商標地域団体商標………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 1111

2222....2222....関係法令関係法令関係法令関係法令………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………4444

3333....計量分析計量分析計量分析計量分析……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………4444

3333....1111....検証検証検証検証するするするする仮説仮説仮説仮説………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 4444

3333....1111....1111....地域地域地域地域ブランドブランドブランドブランドとととと商標出願商標出願商標出願商標出願のののの関係関係関係関係………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………4444

3333....1111....2222....地域地域地域地域ブランドブランドブランドブランドとととと商標商標商標商標のののの登録要件登録要件登録要件登録要件であるであるであるである周知性周知性周知性周知性のののの関係関係関係関係……………………………………………………………………………………5555

3333....1111....3333....仮説仮説仮説仮説……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………5555

3333....2222....地域団体商標地域団体商標地域団体商標地域団体商標をををを出願出願出願出願するするするする要因要因要因要因のののの分析分析分析分析((((プロビットモデルプロビットモデルプロビットモデルプロビットモデル))))…………………………………………………………………………6666

3333....2222....1111....被説明変数被説明変数被説明変数被説明変数…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 7777

3333....2222....2222....説明変数説明変数説明変数説明変数……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 7777

3333....2222....3333....推定方法推定方法推定方法推定方法……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 9999

3333....2222....4444....推定結果推定結果推定結果推定結果・・・・…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 9999

3333....3333....地域団体商標地域団体商標地域団体商標地域団体商標のののの登録登録登録登録をををを受受受受けることができるけることができるけることができるけることができる要因要因要因要因のののの分析分析分析分析((((ロジットモデルロジットモデルロジットモデルロジットモデル))))………… 13131313

3333....3333....1111....被説明変数被説明変数被説明変数被説明変数……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………14141414

3333....3333....2222....説明変数説明変数説明変数説明変数………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………14141414

3333....3333....3333....推定結果推定結果推定結果推定結果………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………18181818

4444....考察考察考察考察………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………19191919

5555....結論結論結論結論………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………19191919

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- 1 -

1111....はじめにはじめにはじめにはじめに

平成18年に商標法の一部が改正され、地域ブランドを保護するための地域団体商標制

度が始まってから約2年が経過した。855件の地域団体商標の出願があり、そのうち4

06件(平成20年11月)が地域団体商標登録を受けており、地域経済活性化の手段と

して高い関心を集めている。

ここで、地域団体商標制度と品質に関する研究を概観する。地域団体商標制度における

商標と品質の関係性について堀(2006)は、地域団体商標の対象となりやすい農産物等の

場合においては、地域団体商標使用者間(各生産者間)の品質費用関数(財 X の品質をあ

る値にするための費用関数)の差を小さくすることが余剰最大化のために重要であること

を指摘した。しかし、地域団体商標制度が始まってから約2年しか経過していないためで

あろうか、地域団体商標制度と地域ブランドに関する実証研究はいまだ十分に行われてい

るとはいえない。

そこで、本稿は、地域団体商標を「出願」する要因と地域団体商標「登録」を受けるこ

とができる要因につき銘柄牛のクロスセクションデータを用いて分析を行った。結論をあ

らかじめ述べると、出荷頭数が多く等級が優れている銘柄牛の生産者ほど、高い確率で地

域団体商標を出願することが示された。

次に、銘柄牛の等級が優れているほど、出願人は低い確率で地域団体商標登録を受ける

ことができるが、広範囲に出荷し、出荷頭数が多いほど、高い確率で地域団体商標登録を

受けることができることが示された。

なお、本稿の構成は以下のとおりである。第2章では本稿で扱う地域団体商標を概観す

る。第3章では地域ブランドを用いて生産・販売を行う者が地域団体商標を出願する要因

と登録を受けることができる要因について実証分析を行う。第4章で分析結果を考察する。

第5章で、結論をまとめる。

2222....地域団体商標地域団体商標地域団体商標地域団体商標

2222....1111....地域団体商標地域団体商標地域団体商標地域団体商標

地域ブランドとは、「地域名」と「商品(役務)名」から構成される商標であると定義す

る。1しかし、原則、地域名と商品名からなる商標は、商標登録を受けることができない(商

標法第3条第1項3号)。ただし、産地を含む商標であっても使用された結果特定の者の出

所表示としてその商品又は役務の需要者の間で全国的に認識されていれば商標登録を受け

ることができる(法第3条第2項)。従来、地域の特産品の名称が商品の産地のような地名

を含む場合、商標を使用した結果需要者に全国的に認識されるまでは商標登録を受けるこ

1 最新法律改正の解説 新「地域団体商標」制度と地方公共団体-新制度の概要と今後の課題-

久保 次三

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- 2 -

とができず、地域ブランドは十分な法的保護をされている状況とは言えなかった。また、

文字商標だけでなく、識別力のあるマーク(図形)と組み合わせた場合、図形に出所表示

機能が認められるので、地域ブランドが全国的に認識されていなくても商標登録が可能で

ある。しかし、他者が図形の部分を意図的に別の図形に変えて地域ブランドを使用する場

合や、単に文字のみで地域ブランドを便乗使用する場合に商標権の効力を及ぼし得ない。

識別力のあるマーク(図形)と組み合わせた場合、「地域名」+「商品名」の文字部分には

出所を表示する機能がないからである。2

そこで、商標法の一部が改正され、平成18年4月1日に地域団体商標制度が始まった。

ここで、地域団体商標として登録ができる商標は、次の三類型である。①「地域の名称」+

「商品(役務)の普通名称」②「地域の名称」+「商品(役務)の慣用名称」③①又は②+

「産地等を表示する際に付される文字として慣用されている文字」。

地域団体商標登録には、「需要者の間に広く認識されていること」が必要である。つまり、

全国的な需要者の間に認識されるには至っていなくとも、隣接都道府県に及ぶ程度の需要

者に認識されていれば、商標登録を受けることができることとなった(法第7条の2第1

項柱書)。ここで、地域の名称を含む地域ブランドが商標登録を受けようとする場合、地域

団体商標制度が創設されたことにより商標の認識の度合いは、「全国」から「隣接都道府県」

程度に緩和された。

2地域ブランドの商標法における保護の在り方について 産業構造審議会知的財産政策部会 商標制度

小委員会 平成17年2月

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- 3 -

出所:平成19年度地域団体商標制度説明会テキスト資料(特許庁)

なお、地域団体商標が「需要者の間に広く認識されていること」とは、商品に商標を使

用して販売した結果、標識が需要者の信頼を得ていることであり、商品そのものが有名な

こととは別である。

「地域の名称」には現在の行政区画単位の地名だけでなく、旧地名等の地理的名称を含

むことができる。(法第7条の2第1項1号)。地域の名称は、本来誰でも自由に使えるべ

きであり、特定の者に「地域名」と商品名からなる商標を独占させることはなじまないが、

出願人が加入自由な「組合等」であることを要件とし、「地域の名称」を付した商標の使用

を希望する者は組合に加入することで当該商標を使用することができると法は担保してい

る(法第7条の2第1項柱書)。

また、本来特定の者に独占させることになじまない「地域名」と商品名からなる商標の

独占を例外的に認めているという点において、商標権の移転の制限(法第24条の2)、専

用使用権を設定することができない、という特徴がある。また、第三者との関係では、先

に当該商標を使用している者については先使用権が発生する(法第32条の2第1項)。

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- 4 -

2222....2222....関係法令関係法令関係法令関係法令

なお、「地域名」+「商品名」からなる地域ブランド(商標)については、消費者保護の

観点からJAS法、景品法による行政規制が行われている。一方、地域団体商標制度では、

地域ブランドの生産・販売主体自らが、地域ブランドにただ乗りする者に対して、商標使

用の差し止め請求(法第36条)、損害賠償請求(民法第709条)することができる。ま

た、不正競争防止法上の保護を受けるためには、商標の登録・未登録は問わないが、取引

上使用されて取引通用していること、または著名性を必要とする。(不正競争第2条第1項

1号・2号)。3ここではいまだ発展途中にある地域ブランドをいかに効果的に育成するかと

いう点に着目し、第3章では地域団体商標制度を出願する要因について経済分析を行う。

次に、地域団体商標出願後、地域団体商標登録をうけることができる要因に関する分析を

行う。

3333....計量分析計量分析計量分析計量分析

3333....1111....検証検証検証検証するするするする仮説仮説仮説仮説

第2章で、地域団体商標とは、地域の名称及び商品(役務)の名称等からなる商標につ

いて、一定の範囲で周知となった場合には、つまり、隣接都道府県に及ぶ程度の需要者に

認識されれば、事業協同組合等の団体による地域団体商標の登録を認める制度であるとし

た。これから新たに地域ブランドを掘り起こし、又は生産者が消費者に地域ブランドを広

めていくとすればどの範囲の需要者に認識された段階で地域ブランドを保護することが適

切であるか。以下、法と経済学の立場から分析を行う。

3333....1111....1111....地域地域地域地域ブランドブランドブランドブランドとととと商標出願商標出願商標出願商標出願のののの関係関係関係関係

消費者が購入前に商品の品質を容易に判断することができないとき、ブランド名はその

商品の品質が一定水準以上のものであるという情報を与え、その商品が信頼できるかどう

かの判断材料となる。

例えば本論文で扱う牛肉の場合、一般的な消費者は小売店に陳列された肉そのものを見

ただけでその品質が良いものか悪いものかを瞬時に判断することは難しい。そこで、ブラ

ンド名(銘柄)により、牛肉が高品質であるか否かをある程度判断することができる。消

費者はブランド名を見て「このブランドであれば商品は一定水準以上の品質のものであろ

う」と判断し、信頼して購入する。この意味でブランド品にはより多くを支払うインセン

ティブがある。つまり、ブランドは生産者が知っている品質についての情報を容易に知る

ことができない消費者に伝えるという点で、情報の非対称性を解消する役割を果たす。

また、生産者にとっても消費者からの高い信頼を獲得したブランド名は、高い売上をも

たらすので、高い品質を維持するインセンティブを与える。

3 知的財産権法概論 紋谷暢男 有斐閣

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- 5 -

ところが、ブランド品を生産する生産者が高い売上を得るとそれに便乗しようとする他

の生産者が現れる。これまで高品質の商品を地道に提供し長い時間をかけて消費者からの

評価と信頼を得た生産者の営業努力、つまりブランドの信用力にただ乗りするのである。

ブランドの偽物、類似品が出回れば今まで築いてきたブランドの信用が失墜し、売上が落

ちる。これではよりよい品質の製品を提供したいという生産者のインセンティブが落ちて

しまう。一方、消費者の側からみても、このブランドの製品であれば高い品質のものに違

いないと信じ、高い対価を支払ったのにもかかわらず粗悪品に高い対価を支払ったとなれ

ば利益を害する。誰でもブランド名を使用してよいならば、消費者はどれが本物でどれが

偽物なのか判断がつかないか目当ての商品を選択するのに非常に時間を要し機会費用が増

加する。つまり、生産者と需要者の両方の余剰が減少し社会的厚生が悪化する。ここに政

府が市場に介入し、法で生産者に商標つまり、地域ブランドを独占させる根拠が存する。

従って、品質の高いブランドは、高い売上をもたらすため、生産者にとって他者にただ乗

りされないよう法的権利を求める、つまり商標出願するインセンティブがある。

3333....1111....2222....地域地域地域地域ブランドブランドブランドブランドとととと商標商標商標商標のののの登録要件登録要件登録要件登録要件であるであるであるである周知性周知性周知性周知性のののの関係関係関係関係

前述のとおり、質の高いブランドは高い売上をもたらすため、生産者にとって地域団体

商標を出願し、他者のただ乗りを防ぐため法的権利を得る動機がある。しかし、地域団体

商標登録の審査では、「商標が使用された結果隣接都道府県の需要者に認識されているこ

と」という条件が考慮されるため品質が高くても隣接都道府県にまで認識されていない場

合は商標登録を受けることができない。その結果、これから自県で品質が高いことで評判

の地域ブランド品を他県に売り出そうとした段階では法的権利がないので、いち早く評判

のブランド品に目をつけた他者にただ乗りされてしまうことも考えられる。

一方消費者からみても、品質の高く生産者に高い利益をもたらすものほどただ乗りされ

市場から淘汰されてしまうのであれば本来買うことのできたはずの高品質の商品を買うこ

とができず品質の劣るものを買うことになるので、利益が減少すると考えられる。

従って現行の地域団体商標制度では、登録に「隣接都道府県の需要者に認識されている

こと」という周知性の要件が大きく加味されるため、品質が高いけれども隣接都道府県の

需要者に認識されていないブランドの中には法的権利のないものもあり、その結果他者に

ただ乗りされ、社会的余剰が減少していると考えられる。

3333....1111....3333....仮説仮説仮説仮説

第一に、地域団体商標を出願する要因を分析し、銘柄牛の品質が地域団体商標の出願に

影響を与えているという仮説を検証する。先にも述べたように、非常に質の高いブランド

が確立されたとするとそのブランドにフリーライドして偽物が流通する可能性があるため、

ブランドの周知性に関係なく地域団体商標を出願する動機があると考えられるからである。

そこで、地域団体商標の出願の有無を被説明変数とするプロビットモデルを用いて、実際

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に影響を与えているのかどうか銘柄牛のクロスセクションデータを用い、その仮説を検証

する。

第二に、地域団体商標の登録を受けることができる要因の分析を行い、現状の制度で地

域団体商標の登録要件として大きく加味されている周知性の有無が地域団体商標の登録に

対して影響を与えるが、銘柄牛の品質は地域団体商標の登録に影響を与えないという仮説

を検証する。前述のとおり品質が高いけれども隣接都道府県の需要者に認識されていない

地域ブランドの中には法的権利のないものもあり、他者にただ乗りされ、社会的余剰が減

少していると考えられるからである。そこで、地域団体商標の登録の有無を被説明変数と

し、その他の要因と思われる変数を併せ、銘柄牛のクロスセクションデータを用いて、そ

の仮説を検証する。

3333....2222....地域団体商標地域団体商標地域団体商標地域団体商標をををを出願出願出願出願するするするする要因要因要因要因のののの分析分析分析分析((((プロビットモデルプロビットモデルプロビットモデルプロビットモデル))))

仮説として挙げた「銘柄牛の品質が地域団体商標の出願に影響を与える」ことを分析す

るため、銘柄牛のクロスセクションデータを用いて分析を行った。銘柄牛については、財

団法人日本食肉消費総合センターが発行する『銘柄牛肉ハンドブック2005』に掲載さ

れているものを用いた。銘柄牛肉ハンドブックに紹介されている銘柄牛は全国の全ての銘

柄を網羅するものではないが、各都道府県畜産課から挙げられた銘柄について掲載したも

のと、財団法人食肉消費総合センターに直接掲載希望のあったものである。4この仮説の検

証を行うために用いたモデルは次式のとおりである。

(a)(地域団体商標の出願の有無)=α0+α1(周知性の代理変数Ⅰ)

+α2(品質の代理変数①)+α3X+ε

(b)(地域団体商標の出願の有無)=α0+α1(周知性の代理変数Ⅰ)

+α2(品質の代理変数②)+α3X+ε

(c)(地域団体商標の出願の有無)=α0+α1(周知性の代理変数Ⅱ)

+α2(品質の代理変数①)+α3X+ε

(d)(地域団体商標の出願の有無)=α0+α1(周知性の代理変数Ⅱ)

+α2(品質の代理変数②)+α3X+ε

被説明変数である(地域団体商標の出願の有無)は、ダミー変数で、地域団体商標に出

願している場合は1、していない場合は0とした。(周知性)は、銘柄牛の年間出荷頭数を、

周知性の代理変数とした。(品質)は、銘柄牛の「日格協枝肉取引規格」を代理変数とした。

X は、銘柄牛の地域団体商標出願に係るその他の要因を表す変数で、地域ブロックが含まれ

ている。α0、α1、α2、α3はそれぞれ推計するパラメータで、εは誤差項である。

4 「銘柄牛肉ハンドブック2005」参照。

Page 9: aaaaaa - grips.ac.jpip/pdf/paper2008/MJI08043Hasegawa.pdf · Title: aaaaaa Author: mji08043 Created Date: 2/20/2009 1:42:12 PM

- 7 -

3333....2222....1111....被説明変数被説明変数被説明変数被説明変数

((((1111))))地域団体商標出願地域団体商標出願地域団体商標出願地域団体商標出願のののの有無有無有無有無

地域団体商標出願の有無は、『銘柄牛肉ハンドブック2005』に掲載されている銘柄牛

のうち、地域団体商標を出願しているものを1、出願していないものを0とするダミー変

数を用いた。地域団体商標出願の有無は、『都道府県別地域団体商標出願一覧』(特許庁)

を利用した。

3333....2222....2222....説明変数説明変数説明変数説明変数

((((1111))))周知性周知性周知性周知性のののの代理変数代理変数代理変数代理変数・・・・年間出荷頭数年間出荷頭数年間出荷頭数年間出荷頭数

銘柄牛の周知性を示す指標として銘柄牛の年間出荷頭数の原数値と対数値を用いた。出

荷頭数が多いほど、流通量が多いため他者にただ乗りされる可能性が高くなりそれを防ぐ

ことが出願の動機となると考えられるため予測される係数の符号は正である。年間出荷頭

数は、『銘柄牛肉ハンドブック2005』を用いた。

((((2222))))周知性周知性周知性周知性のののの代理変数代理変数代理変数代理変数・・・・主主主主にににに県外県外県外県外にもにもにもにも出荷出荷出荷出荷していることしていることしていることしていること

各都道府県内にとどまらず県外市場に銘柄牛を出荷していることが地域団体商標出願に

与える影響を測るため、主に都道府県外にも出荷している場合を1、していない場合を0

とするダミー変数を用いた。広範囲に流通するほど他者にただ乗りされる可能性が高くな

りそれを防ぐことが出願の動機となると考えられるため予測される係数の符号は正である。

「主に県外にも出荷していること」の判断は『銘柄牛ハンドブック2005』を用いた。

((((3333))))品質品質品質品質のののの代理変数代理変数代理変数代理変数・・・・ⅠⅠⅠⅠ銘柄牛銘柄牛銘柄牛銘柄牛のののの等級最低値等級最低値等級最低値等級最低値…………3333....2222....ののののモデルモデルモデルモデル(a)(c)(a)(c)(a)(c)(a)(c)

ⅡⅡⅡⅡ銘柄牛銘柄牛銘柄牛銘柄牛のののの等級中央値等級中央値等級中央値等級中央値…………3333....2222....ののののモデルモデルモデルモデル(b)(d)(b)(d)(b)(d)(b)(d)

銘柄牛の品質を示す指標として、「日格協枝肉取引規格」を用いた。肉質等級は、1~5

までの5等級で、銘柄牛ごとに定められた品質規格のうち「Ⅰ:等級最低値」と「Ⅱ:等

級中央値」を用いた。等級は5等級が最も評価の高い等級である。5

品質が高いものほど他者にただ乗りされることを防ぐために商標出願する動機があると

考えられる。従って、予想される係数の符号は正である。等級は、『銘柄牛肉ハンドブック

2005』を用いた。ハンドブックに品質規格の記載のない銘柄牛は、電話による聞き取

り調査を行い、回答を得た銘柄牛の等級のみ用いた。

((((4444))))銘柄銘柄銘柄銘柄牛生産主体牛生産主体牛生産主体牛生産主体・・・・組合組合組合組合・・・・連合会連合会連合会連合会

主体要件を表す指標としてダミー変数を用いた。出願人は例えば、加入が自由な組合、

連合会であるという主体要件を満たしている必要がある。そこで銘柄牛の生産主体が組

合・連合会である場合は1、それ以外の場合は0とした。生産主体がもともと加入の自由

な組合・連合会であり統一的にブランド管理されていれば、新たに、組合を設立する必要

がなく、出願手続きが円滑に進むと考えられるため、予想される係数の符号は正である。

銘柄牛生産主体が組合・連合会であるかの判断は『銘柄牛肉ハンドブック2005』を

5 等級は巻末付録参照。

Page 10: aaaaaa - grips.ac.jpip/pdf/paper2008/MJI08043Hasegawa.pdf · Title: aaaaaa Author: mji08043 Created Date: 2/20/2009 1:42:12 PM

- 8 -

用いた。

((((5555))))コントロールコントロールコントロールコントロール変数変数変数変数・・・・地域地域地域地域

地域に関する要因をコントロールするため、ダミー変数を用いた。全国を北海道東北、

関東甲信越、北陸東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄の7ブロックと、その他ブロッ

クの合計8ブロックに分類し、6それぞれの銘柄牛の産地が各地域ブロックに該当する

場合は1、それ以外の場合は0とした。

ただし、地域ブロックは8ブロックあり、複数のカテゴリがある。銘柄牛の産地はど

れかのブロックに必ず該当する互いに排反するカテゴリである。しかし、8ブロックの

数だけダミー変数を作成すると完全な多重共線性が生じる。そこで、分析に用いたダミ

ー変数の数はカテゴリの数である8ブロックマイナス1とし、7ブロックとした。

地域ブロックは、『銘柄牛肉ハンドブック2005』を用い、銘柄牛の生産地ごとに地

域ブロックに分類した。

これらの変数の基本統計量を表3-1-1に掲げる。

表表表表3333----1111----1111 地域団体商標地域団体商標地域団体商標地域団体商標をををを出願出願出願出願するするするする要因要因要因要因のののの分析分析分析分析のののの基本統計量基本統計量基本統計量基本統計量

サンプル数 平均 標準偏差 最小値 最大値

出願ダミー 174 0.1781609 0.3837525 0 1

等級最低値 174 2.658046 1.098879 1 5

等級中央値 174 3.719828 0.665648 2 5

出荷量(頭数) 174 1824.259 2989.951 30 18000

出荷量対数値 174 6.577741 1.385527 3.401197 9.798127

県外出荷ダミー 174 0.6724138 0.4706875 0 1

【地域ブロックダミー】

北海道・東北 174 0.2758621 0.4482375 0 1

北陸東海 174 0.1034483 0.3054224 0 1

近畿 174 0.0747126 0.2636859 0 1

中国 174 0.0804598 0.2727887 0 1

四国 174 0.0344828 0.1829922 0 1

九州沖縄 174 0.0977011 0.297767 0 1

組合・連合会ダミー 174 0.4022989 0.4917768 0 1

組合、等級、出荷頭数が不明なものと、銘柄名に地域名を含まないものは分析時に除いた。

6 地域の分類は巻末付録参照。

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- 9 -

3333....2222....3333....推定方法推定方法推定方法推定方法

プロビットモデルとロジットモデルは質的データの分析に用いられる確率的手法である。

質的データとは、具体的な数値ではなく、地域団体商標を出願する(Y=1)、出願しない

(Y=0)といった、選択等の質的特性を持ったデータのことをいう。プロビットモデルと

ロジットモデルの違いは、誤差項の分布に関する特定化の相違にある。誤差項の累積分布

がロジスティックならばロジットモデルとなる。誤差項が正規分布に従えば、プロビット

モデルになる。プロビットモデルとロジットモデルの特徴は隠された潜在変数の存在を仮

定しその実現値として0、1が得られるものとする点にある。7

そこで、3.2では、プロビットモデルを用いて地域団体商標を出願する(Y=1)場合

をとる確率に与える効果を測定した。次に、3.3では、ロジットモデルを用いて地域団

体商標登録を受けることができる(Y=1)をとる確率に与える効果を測定した。

3333....2222....4444....推定結果推定結果推定結果推定結果

表3-1-2と表3-1-3、表3-1-4は3.2で示したモデル(a)~(d)を分

析した結果である。

7 マダラ計量経済分析の方法 G.S.Maddala(著) 佐伯親良 (翻訳)

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表表表表3333----1111----2222 プロビットモデルプロビットモデルプロビットモデルプロビットモデルによるによるによるによる地域団体商標地域団体商標地域団体商標地域団体商標をををを出願出願出願出願するするするする要因要因要因要因のののの分析推定結果分析推定結果分析推定結果分析推定結果

変数 (a)出願 (b)出願 (c)出願 (d)出願

係数 係数 係数 係数

等級最低値 2.05** - 1.71* -

(0.1601861) (0.1460496)

等級中央値 - 2.07** - 1.73*

(0.2782666) (0.254828)

出荷量(頭数) - - 1.39 1.31

(0.0000476) (0.0000471)

出荷量対数値 3.06*** 3.06*** - -

(0.134729) (0.1329219)

県外出荷 -0.01 -0.03 - -

(0.3587478) (0.3587769)

北海道東北 5.30*** 5.29*** 5.44*** 5.43***

(0.4534043) (0.4529894) (0.4205205) (0.418716)

北陸東海 3.93*** 3.85*** 4.11*** 4.07***

(0.5810601) (0.572875) (0.5448857) (0.5394847)

関東甲信越 2.23** 2.20** 2.63*** 2.61***

(0.5623947) (0.5652569) (0.535324) (0.5359847)

近畿 3.01*** 2.93*** 3.12*** 3.08***

(0.682243) (0.6783048 ) (0.6093359) (0.6096094)

中国 2.12** 2.10** 2.31** 2.32***

(0.6318833) (0.6234023) (0.6128176) (0.6090682)

四国 3.16*** 3.08*** 3.57*** 3.51***

(0.7250326) (0.7205052) (0.6858831) (0.6821296)

九州沖縄 1.47 1.34 2.27** 2.20**

(0.5879123) (0.5879503) (0.5629874) (0.5631925)

組合・連合会 0.75 0.72 0.36 0.37

(0.320357) (0.3192259) (0.3026213) (0.3032284)

定数項 -5.09*** -4.56*** -5.36 *** -4.00***

(1.311614) (1.730354) (0.7036265) (1.180573)

類似決定係数 0.4681 0.4688 0.4096 0.4102

LRカイ二乗 76.33(11) 76.45(11) 66.80(10) 66.89(10)

サンプル数 174 174 174 174

***、**、*はそれぞれ 1%、5%、10%の水準で統計的に有意であることを示す。()はそれぞれ標準誤差。

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- 11 -

表表表表3333----1111----3333 プロビットモデルプロビットモデルプロビットモデルプロビットモデルによるによるによるによる地域団体商標地域団体商標地域団体商標地域団体商標をををを出願出願出願出願するするするする要因要因要因要因のののの分析推定結果分析推定結果分析推定結果分析推定結果

タイプ(a) タイプ(b)

係数 限界効果 P値 係数 限界効果 P値

等級最低値 2.05** 0.0447995 0.040 - - -

等級中央値 - - - 2.07** 0.0777846 0.039

出荷量対数値 3.06*** 0.0562292 0.002 3.06*** 0.0549792 0.002

県外出荷 -0.01 -0.0004189 0.993 -0.03 -0.0015458 0.975

北海道東北 5.30*** 0.5921664 0.000 5.29*** 0.5872623 0.000

北陸東海 3.93*** 0.6757935 0.000 3.85*** 0.6495256 0.000

関東甲信越 2.23** 0.2890774 0.025 2.20** 0.283464 0.028

近畿 3.01*** 0.6156726 0.003 2.93*** 0.5916998 0.003

中国 2.12** 0.3506985 0.034 2.10** 0.338182 0.035

四国 3.16*** 0.7118995 0.002 3.08*** 0.6881291 0.002

九州沖縄 1.47 0.1857161 0.142 1.34 0.163017 0.180

組合・連合会 0.75 0.0339062 0.455 0.72 0.032298 0.470

定数項 -5.09*** 0.000 -4.56*** 0.000

サンプル数 174 174

LR カイ二乗(自由度) 76.33(11) 76.45(11)

類似決定係数 0.4681 0.4688

対数尤度 -43.370985 -43.308307

***、**、*はそれぞれ 1%、5%、10%の水準で統計的に有意であることを示す。

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表表表表3333----1111----4444 プロビットモデルプロビットモデルプロビットモデルプロビットモデルによるによるによるによる地域団体商標地域団体商標地域団体商標地域団体商標をををを出願出願出願出願するするするする要因要因要因要因のののの分析推定結果分析推定結果分析推定結果分析推定結果

タイプ(c) タイプ(d)

係数 限界効果 P値 係数 限界効果 P値

等級最低値 1.71* 0.038858 0.087 - - -

等級中央値 - - - 1.73* 0.0679404 0.084

出荷量(頭数)1.39 0.0000102 0.166 1.31 9.56e-06 0.189

北海道東北 5.44*** 0.5884852 0.000 5.43*** 0.5830554 0.000

北陸東海 4.11*** 0.6829028 0.000 4.07*** 0.6678367 0.000

関東甲信越 2.63*** 0.3643051 0.009 2.61*** 0.3594129 0.009

近畿 3.12*** 0.5847594 0.002 3.08*** 0.5750806 0.002

中国 2.31** 0.4036368 0.021 2.32** 0.4002337 0.020

四国 3.57*** 0.7663587 0.000 3.51*** 0.7523504 0.000

九州沖縄 2.27** 0.346492 0.023 2.20** 0.3315665 0.027

組合・連合会 0.36 0.0173812 0.716 0.37 0.0177734 0.709

定数項 -5.36*** 0.000 -4.00*** 0.000

サンプル数 174 174

LR カイ二乗(自由度) 66.80(10) 66.89(10)

類似決定係数 0.4096 0.4102

対数尤度 -48.136097 -48.091986

***、**、*はそれぞれ 1%、5%、10%の水準で統計的に有意であることを示す。

タイプ(c)(d)では説明変数に県外出荷を含まない。

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- 13 -

((((1111)))) 周知性周知性周知性周知性のののの代理変数代理変数代理変数代理変数・・・・年間出荷頭数年間出荷頭数年間出荷頭数年間出荷頭数

周知性の代理変数とした銘柄牛年間出荷頭数の対数値の符号はタイプ(a)、(b)では

正で、予想どおりの結果が得られ、他の説明変数(条件)を一定として、出荷頭数が1%

増えるほど、出願する確率がタイプ(a)では、0.0562292 タイプ(b)では 0.0549792 増

えることが1%水準で統計的に有意に示された。従って、出荷頭数が多い(少ない)銘柄

牛の生産者ほど、高い(低い)確率で地域団体商標を出願する。

((((2222)))) 周知性周知性周知性周知性のののの代理変数代理変数代理変数代理変数・・・・主主主主にににに県外県外県外県外にもにもにもにも出荷出荷出荷出荷していることしていることしていることしていること

周知性の代理変数とした「主に県外にも出荷していること」の符号は、タイプ(a)(b)

とも負であった。ただしいずれも統計的には有意でない。よって、生産者が主に県外にも

銘柄牛を出荷していることは地域団体商標出願に有意な影響を与えていない。

((((3333))))品質品質品質品質のののの代理変数代理変数代理変数代理変数・・・・ⅠⅠⅠⅠ銘柄牛銘柄牛銘柄牛銘柄牛のののの等級最低値等級最低値等級最低値等級最低値タイプタイプタイプタイプ((((a)、(c)a)、(c)a)、(c)a)、(c)

ⅡⅡⅡⅡ銘柄牛銘柄牛銘柄牛銘柄牛のののの等級中央値等級中央値等級中央値等級中央値タイプタイプタイプタイプ(b)、(d)(b)、(d)(b)、(d)(b)、(d)

品質の代理変数とした銘柄牛の等級の最低値、中央値の符号はタイプ(a)~(d)の

いずれも正で、予想どおりの結果が得られ、他の説明変数(条件)を一定として、等級が

1等級優れるほど、出願する確率がタイプ(a…等級の最低値を用いた場合)では 0.0447995、

タイプ(b…等級の中央値を用いた場合)では 0.0777846 増えることが5%水準で統計的

に有意に示された。また、タイプ(c)では 0.038858、タイプ(d)では 0.0679404 増え

ることが10%水準で統計的に有意に示された。従って、銘柄牛の等級が優れて(劣って)

いるほど、生産者は高い(低い)確率で地域団体商標を出願する。

((((4444)))) 銘柄牛生産者銘柄牛生産者銘柄牛生産者銘柄牛生産者がががが組合組合組合組合・・・・連合会連合会連合会連合会

生産者が地域団体商標出願前に組合・連合会であることの符号は、正であった。ただし

タイプ(a)~(d)のいずれも統計的には有意でない。よって、銘柄牛の生産者が地域

団体商標出願前に組合・連合会であることは、地域団体商標出願に有意な影響を与えてい

ない。

3333....3333....地域団体商標地域団体商標地域団体商標地域団体商標のののの「「「「登録登録登録登録」」」」をををを受受受受けることができるけることができるけることができるけることができる要因要因要因要因にににに関関関関するするするする分析分析分析分析

((((ロジットモデルロジットモデルロジットモデルロジットモデル))))

仮説として挙げた「現状の制度で地域団体商標の登録要件として大きく加味されている

周知性の有無が地域団体商標の登録に対して影響を与えるが、銘柄牛の品質は地域団体商

標の登録に影響を与えない」ことを分析する手段として「3.2地域団体商標を出願出願出願出願する

要因の分析」と同じ銘柄牛のクロスセクションデータを用いた。さらに、3.2出願の分

析で用いた変数を含め、このような推計を行う場合に代表的な手法とされるロジットモデ

ルを用いて分析を行った。この仮説を検証するために用いたモデルは次式のとおりである。

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- 14 -

(a)(登録の有無)=β0+β1(周知性の代理変数Ⅰ)

+β2(品質の代理変数①)+β3Z+ε

(b)(登録の有無)=β0+β1(周知性の代理変数Ⅱ)

+β2(品質の代理変数②)+β3Z+ε

(c)(登録の有無)=β0+β1(周知性の代理変数Ⅲ)

+β2(品質の代理変数①)+β3Z+ε

(d)(登録の有無)=β0+β1(周知性の代理変数Ⅳ)

+β2(品質の代理変数②)+β3Z+ε

被説明変数は、地域団体商標を出願した銘柄牛のうち登録を受けることができたか否か

を(登録の有無)とした。(周知性の代理変数)、(品質の代理変数)は「3.2.地域団体

商標を出願する要因の分析」でも用いたものと同じものに加えて、主に地域ブロック外に

も出荷しているか否か(周知性の代理変数)も使用した。コントロール変数として出願か

らの経過月数を用いた。β0、β1、β2、β3はそれぞれ推定するパラメータで、εは誤差

項である。

3333....3333....1111....被説明変数被説明変数被説明変数被説明変数

((((1111))))登録登録登録登録のののの有無有無有無有無

地域団体商標登録の効果を測るため、地域団体商標を出願した銘柄牛のうち登録を受け

ることができた場合は1とし、登録されていない場合は0とするダミー変数を用いた。登

録の有無は、「登録査定」(特許庁ホームページ)と公報を利用した。

3333....3333....2222....説明変数説明変数説明変数説明変数

((((1111))))周知性周知性周知性周知性のののの代理変数代理変数代理変数代理変数・・・・出荷頭数出荷頭数出荷頭数出荷頭数

銘柄牛の周知性を示す指標として、「3.2.出願する要因の分析」と同じ銘柄牛の年間

出荷頭数を用いた。出荷頭数が多いほど、商品が県内だけでなく県外市場にも広く流通し

ており、隣接都道府県の需要者にも認識され、商標の登録要件を満たすと考えられるので、

予測される係数の符号は正である。出荷頭数は『銘柄牛ハンドブック2005』を用いた。

((((2222)))) 周知性周知性周知性周知性のののの代理変数代理変数代理変数代理変数・・・・ⅠⅠⅠⅠ主主主主にににに県外県外県外県外にもにもにもにも出荷出荷出荷出荷していることしていることしていることしていること

ⅡⅡⅡⅡ主主主主にににに地域地域地域地域ブロックブロックブロックブロック外外外外にもにもにもにも出荷出荷出荷出荷していることしていることしていることしていること

県外に銘柄牛が流通していることが一定程度周知であるとして地域団体商標登録に与え

る影響を測るため、出願する要因の分析と同じく主な出荷先に県外が含まれている場合を

1、県内のみである場合を0とするダミー変数を用いた。県外に出荷されていれば、地域

団体商標登録要件である隣接都道府県の需要者に認識されていることという条件を満たす

と考えられるため、予測される係数の符号は、正である。

加えて、例えば東北地方から首都圏のように地域ブロックを超えて出荷している場合を

1、していない場合を0とするダミー変数を用いた。地域ブロックを超えて出荷されてい

Page 17: aaaaaa - grips.ac.jpip/pdf/paper2008/MJI08043Hasegawa.pdf · Title: aaaaaa Author: mji08043 Created Date: 2/20/2009 1:42:12 PM

- 15 -

ればより需要者に認識されていると考えられるため予測される係数の符号は正である。主

に地域ブロック外にも出荷しているか否かの判断は、『銘柄牛肉ハンドブック2005』を

用いた。

((((3333)))) 周知性周知性周知性周知性のののの代理変数代理変数代理変数代理変数・・・・インターネットインターネットインターネットインターネット検索件数検索件数検索件数検索件数

周知性をあらわす指標として銘柄牛のインターネット検索件数を用いた。検索件数が多

いほど、需要者に認識されており、登録に影響を与えると考えられるため予測される係数

の符号は正である。インターネット検索件数はグーグルに“銘柄牛の名称”を入力して検

索された件数を用いた。

((((4444)))) 品質品質品質品質のののの代理変数代理変数代理変数代理変数・・・・等級等級等級等級

「3.2.出願に与える要因分析」と同じ銘柄牛の等級を用いた。

前述の出願に与える要因分析では、銘柄牛の等級が優れて(劣って)いるほど、生産者

は高い(低い)確率で地域団体商標を出願することが示された。

しかし、商標登録を受ける際には周知性の要件が大きく加味されるため、生産者が限ら

れた生産費用を主に品質向上に使用し、その分広告宣伝や販路拡大に使う費用が減少すれ

ば需要者に地域ブランドが認識されず地域団体商標登録を受けることができる可能性が低

くなると考える。従って、予想される係数の符号は負である。等級は、『銘柄牛肉ハンドブ

ック2005』を用いた。ハンドブックに品質規格の記載のない銘柄牛は、電話による聞

き取り調査を行い、回答を得た銘柄牛の等級のみ用いた。

((((5555))))銘柄牛生産主体銘柄牛生産主体銘柄牛生産主体銘柄牛生産主体がががが組合組合組合組合・・・・連合会連合会連合会連合会

主体要件を表す指標として前述の出願に与える要因分析と同じく銘柄牛の生産主体が出

願前に組合・連合会である場合は1、それ以外の場合は0とするダミー変数を用いた。生

産主体がもともと加入自由な組合・連合会でブランド管理されていれば、商標を使用した

実績があり登録に影響を与えると考えられるため、予想される係数の符号は正である。銘

柄牛生産主体が組合・連合会であるかの判断は『銘柄牛肉ハンドブック2005』を用い

た。

((((6666))))コントロールコントロールコントロールコントロール変数変数変数変数・・・・出願年月日出願年月日出願年月日出願年月日からのからのからのからの経過月数経過月数経過月数経過月数

出願年月日から分析時までの経過月数を用いた。被説明変数である、登録の有無には、

現在特許庁で審査中の案件も含まれ、出願からの経過月数が影響すると考えられるため予

測される係数の符号は正である。未だ出願していない場合は時間が経過していないため、

0とおく。出願年月日から月数が経過するほど登録されやすいと考えられるため予測され

る係数の符号は正である。出願年月日は特許電子図書館と公報を利用し、分析時までの経

過月数を数えた。

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- 16 -

これらの変数の基本当計量を表3-2-1に掲げる。

表表表表3333----2222----1111 地域団体商標地域団体商標地域団体商標地域団体商標のののの登録登録登録登録をををを受受受受けることができるけることができるけることができるけることができる要因要因要因要因のののの分析分析分析分析 基本統計量基本統計量基本統計量基本統計量

サンプル数 平均 標準偏差 最小値 最大値

地域団体商標登録ダミー 174 0.1149425 0.3198731 0 1

等級最低値 174 2.658046 1.098879 1 5

等級中央値 174 3.719828 0.665648 2 5

出荷量(頭数) 174 1824.259 2989.951 30 18000

出荷量対数値 174 6.577741 1.385527 3.401197 9.798127

インターネット検索結果 174 27332.9 95815.85 4 746000

組合・連合会ダミー 174 0.4022989 0.4917768 0 1

県外出荷ダミー 174 0.6724138 0.4706875 0 1

地域ブロック外出荷ダミー 174 0.5229885 0.5009127 0 1

出願からの経過月数 174 4.764368 10.84716 0 31

組合、等級、出荷頭数が不明なものと、銘柄名に地域名を含まないものは分析時に除いた。

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表表表表3333----2222----2222 地域団体商標地域団体商標地域団体商標地域団体商標のののの登録登録登録登録をををを受受受受けることができるけることができるけることができるけることができる要因要因要因要因のののの分析分析分析分析 推定結果推定結果推定結果推定結果

ロジットモデルロジットモデルロジットモデルロジットモデル

変数 (a)登録 (b)登録 (c)登録 (d)登録

係数 係数 係数 係数

等級最低値 -1.68 * - -0.49 -

(0.6728487) (0.2223841)

等級中央値 - -0.67 - -0.06

(0.9830948) (0.3723057)

組合・連合会 -0.88 -1.16 -1.71* -1.78*

(1.685776) (1.402199) (0.6024803) (0.5936888)

県外出荷 -0.58 -0.66 1.17 1.43

(1.77816 ) (1.553659) (0.69199) (0.6772408)

地域ブロック外出荷 1.57 1.89* - -

(1.952439) (1.521213)

出荷量(頭数) - 0.60 - 1.71*

(0.0001641) (0.0000625)

出荷量対数値 -1.06 - 2.43** -

(0.6321375) (0.1982609)

インターネット 1.34 - - -

(0.0000382)

出願からの経過月 1.87* 1.80* - -

(0.2400955) (0.2222279)

定数項 -0.78 -1.48 -3.34*** -1.77*

(7.589961) (6.020747) (1.623295) (1.472299)

類似決定係数 0.8624 0.8196 0.1231 0.0876

LR カイ二乗 107.06(7) 101.74(6) 15.28(4) 10.87(4)

サンプル数 174 174 174 174

対数尤度 -8.540228 -11.199002 -54.42092 -56.634413

***、**、*はそれぞれ 1%、5%、10%の水準で統計的に有意であることを示す。

()はそれぞれ標準誤差。

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3333....3333....3333....推定結果推定結果推定結果推定結果

表3-2-2は3.3で示したモデルを分析した結果である。

((((1111)))) 周知性周知性周知性周知性のののの代理変数代理変数代理変数代理変数・・・・出荷頭数出荷頭数出荷頭数出荷頭数

周知性の代理変数とした銘柄牛の年間出荷頭数の符号はタイプ(c)(d)では正で、予

想どおりの結果が得られ、他の説明変数(条件)を一定として、地域団体商標登録を受け

ることができる確率に正の影響を与えることがタイプ(c)、タイプ(d)ではそれぞれ5%

と10%水準で統計的に有意に示された。従って、出荷頭数が多い(少ない)出願人ほど、

高い(低い)確率で地域団体商標登録を受けることができる。

((((2222)))) 周知性周知性周知性周知性のののの代理変数代理変数代理変数代理変数・・・・ⅠⅠⅠⅠ::::主主主主にににに県外県外県外県外にもにもにもにも出荷出荷出荷出荷していることしていることしていることしていること

ⅡⅡⅡⅡ::::主主主主にににに地域地域地域地域ブロックブロックブロックブロック外外外外にもにもにもにも出荷出荷出荷出荷していることしていることしていることしていること

Ⅰ:周知性の代理変数とした「主に県外にも出荷していること」の符号はタイプ(a)(b)

では負でタイプ(c)(d)では正であった。ただしいずれも統計的には有意でない。よっ

て、出願人が主に隣接県のような県外にも出荷していることは、地域団体商標を受けるこ

とに有意な影響を与えない。

Ⅱ:周知性の代理変数として用いた東北地方から首都圏へなど「地域ブロック外にも出

荷していること」の符号はタイプ(b)では正で予想どおりの結果が得られ、他の説明変

数(条件)を一定として、地域団体商標登録を受けることができる確率に正の影響を与える

ことが10%水準で統計的に有意に示された。従って、比較的広範囲つまり地域ブロック

外(比較狭い範囲つまり地域ブロック内)に出荷している出願人ほど、高い(低い)確率

で地域団体商標登録を受けることができる。

((((3333)))) 周知性周知性周知性周知性のののの代理変数代理変数代理変数代理変数・・・・インターネットインターネットインターネットインターネット検索件数検索件数検索件数検索件数

周知性の代理変数とした銘柄牛のインターネット検索件数の符号はタイプ(a)では正

であった。ただし統計的には有意でない。よって、銘柄牛のインターネット検索件数は、

地域団体商標を受けることに有意な影響を与えない。

((((4444))))品質品質品質品質のののの代理変数代理変数代理変数代理変数・・・・ⅠⅠⅠⅠ銘柄牛銘柄牛銘柄牛銘柄牛のののの等級等級等級等級のののの最低値最低値最低値最低値タイプタイプタイプタイプ(a)、(c)(a)、(c)(a)、(c)(a)、(c)

ⅡⅡⅡⅡ銘柄牛銘柄牛銘柄牛銘柄牛のののの等級等級等級等級のののの中央値中央値中央値中央値タイプタイプタイプタイプ(b)、(d)(b)、(d)(b)、(d)(b)、(d)

品質の代理変数とした銘柄牛の等級の最低値、中央値の符号はタイプ(a)~(d)のい

ずれも負で、予想どおりの結果が得られ、他の説明変数(条件)を一定として、地域団体

商標登録を受けることができる確率にタイプ(a…等級の最低値を用いた場合)では負の影

響を与えることが10%水準で統計的に有意に示された。従って、銘柄牛の等級が優れて

(劣って)いるほど、出願人は低い(高い)確率で地域団体商標登録を受けることができ

る。

((((5555))))銘柄牛生産主体銘柄牛生産主体銘柄牛生産主体銘柄牛生産主体がががが組合組合組合組合・・・・連合会連合会連合会連合会

主体要件の符号は、予測と異なり負で、出願人が商標出願よりも前から組合・連合会で

あればタイプ(C)タイプ(d)では登録される確率に負の影響を与えることが10%水

準で統計的に有意に示された。ただし、使用したデータは、出願時には出願人は全て組合・

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連合会であったが、銘柄牛ハンドブックに掲載されている生産者が組合・連合会でない場

合は、組合・連合会に該当しないと扱った。

4444....考察考察考察考察

推定の結果から、出荷頭数が多く(少なく)等級が優れて(劣って)いる銘柄牛の生産

者ほど、高い(低い)確率で地域団体商標を出願することが考えられる。しかし、銘柄牛

の等級が優れて(劣って)いるほど、出願人は低い(高い)確率で地域団体商標登録を受

けることができる。また、比較的広範囲つまり地域ブロック外(比較狭い範囲つまり地域

ブロック内)に出荷し、出荷頭数が多い(少ない)出願人ほど、高い(低い)確率で地域

団体商標登録を受けることができると考えられる。

まず初めに、なぜ出荷頭数が多く等級が優れている銘柄牛の生産者ほど地域団体商標を

出願するのだろうか。その理由としては、他者が自己のブランドにただ乗りすることへの

対抗手段だと考えられる。つまり、類似品が市場に出回った場合、自己の権利を行使する

ことで類似品を排除しブランドの信用を保つことができるからである。

次に、銘柄牛の等級が優れているほど、出願人は低い確率で地域団体商標登録を受ける

ことができるが、比較的広範囲に出荷し、出荷頭数が多いほど、高い確率で地域団体商標

登録を受けることができる。これはなぜだろうか。その要因としては、地域団体商標の登

録を受ける際に周知性の要件が大きく加味されていることが考えられる。すなわち、生産

者が商品の販路拡大や宣伝よりも品質にこだわりが強く、広告宣伝費よりも品質に費用を

使う場合、地域団体商標登録を受けることができにくくなる。

以上をまとめると、他者が自己のブランドにただ乗りするのを防ぐことが、品質が優れ

た商品を生産する生産者が地域団体商標を出願する要因だと推測される。また、周知性の

要件が大きく加味されていることが品質の優れた商品を生産している生産者ほど低い確率

で地域団体商標登録を受けることができる要因だと推測される。

5555....結論結論結論結論

本稿は、地域団体商標を出願する要因と地域団体商標登録を受けることができる要因に

つき銘柄牛のクロスセクションデータを用いて分析を行った。

その結果、出荷頭数が多く(少なく)等級が優れて(劣って)いる銘柄牛の生産者ほど、

高い(低い)確率で地域団体商標を出願することが示された。その要因は、他者が自己の

ブランドにただ乗りするのを防ぐことだと推測される。

次に、分析の結果、銘柄牛の等級が優れて(劣って)いるほど、出願人は低い(高い)

確率で地域団体商標登録を受けることができるが、比較的広範囲つまり地域ブロック外(比

較狭い範囲つまり地域ブロック内)に出荷し、出荷頭数が多い(少ない)出願人ほど、高

い(低い)確率で地域団体商標登録を受けることができることが示された。その要因は、

地域団体商標登録に周知性の要件が大きく加味されていることだと推測される。

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発展段階にある地域ブランドを保護し経済の活性化に役立てることを目的とする地域団

体商標制度では、比較的広範囲に出荷し、出荷数が多いほど、高い確率で地域団体商標登

録を受けることができるが、商品の品質が優れているほど、出願人は低い確率で地域団体

商標登録を受けることができる点を考慮すべきである。

つまり、生産者が商品の販路拡大や宣伝よりも品質にこだわりが強い場合、地域団体商

標登録を受けることができにくくなる。同じ生産費用であれば本来地域ブランドの品質向

上に費用を使いたいところ、周知性の要件が大きく加味されるため広告宣伝費や販路拡大

に重点的に費用を使った方が地域団体商標登録を受けることができると考えられる。消費

者からみても、地域ブランド商品に広告宣伝費が余分に上乗せされ余剰が減少すると考え

られる。

例えば、比較的狭い範囲、つまり都道府県内市場で商品に「○○県名」+「商品名」から

なる商標を使用して信用が蓄積された場合、隣接する県外の市場での信用は未だ獲得する

途中だとしても、発展段階にあるブランドを保護するために法的権利を与え商標使用の独

占を認めることについても検討すべきである。商標が保護されることにより商品の認知度

が上がれば生産者も消費者も余剰が増加すると考えら得るからである。

しかし、周知性の要件を緩和するとしても周知性要件を全くなくすことは妥当でないと

考える。地域ブランドが一切周知されていない(周知性ゼロ)のときは、生産者が地域ブ

ランド商品をまだ発売していないか、これから発売しようとする状況である。ここで、地

域団体商標制度とは、株式会社や個人ではなく、主に同じ地域に住むという共通項のもと

に集まった組合員が一つのブランドを掲げ、協力して商売をする時に活用されるものであ

る。しかし、商売を始めたばかりの時、組合員同士は結束力が十分ではなく品質にばらつ

きがあることも予想され、組合内部で地域資源を有効に活用しているとは必ずしも言えな

い。このような段階で一つの組合が地域ブランドを独占するよりも、地域ブランドを誰で

も自由に使用できる方が地域資源を有効に活用していると考えられる。ある程度の時間が

経過すると、品質がよいものが生き残り、または組合内部で品質管理される。そうなった

ならば、組合員が結束して地域ブランドを地域外に売り込む際に商標使用を独占するのが

妥当だと考える。

もっとも、本稿の分析には今後さらに議論を展開させるべき課題も存在する。

平成18年に法改正され、登録からまだ1~2年しか経過していないため計量分析に用

いる時系列データが不足しており今回は分析ができなかったが、地域団体商標登録後、直

接的には売上にどのような効果があったか、二次的には観光客や就業者の変化などを分析

することも今後の検討課題といえる。

しかしながら、こうした課題は、地域ブランドと地域団体商標制度の実証研究を発展さ

せていく上でのよい材料となろう。本稿で行った地域ブランドと地域団体商標制度の実証

分析は地域産業の強化や経済の持続的な活性化を考える上で重要だと考える。

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付録

1.肉質等級

項目

等級 脂肪交雑 肉の色沢

肉の締まり及びき

め 脂肪の色沢と質

5

胸最長筋並びに背

半棘筋及び頭半棘

筋における脂肪交

雑がかなり多いも

肉色及び光沢がか

なり良いもの

締まりはかなり良

く、きめがかなり細

かいもの

脂肪の色、光沢及び

質がかなり良いも

4

胸最長筋並びに背

半棘筋及び頭半棘

筋における脂肪交

雑がやや多いもの

肉色及び光沢がや

や良いもの

締まりはやや良く、

きめがやや細かい

もの

脂肪の色、光沢及び

質がやや良いもの

3

胸最長筋並びに背

半棘筋及び頭半棘

筋における脂肪交

雑が標準のもの

肉色及び光沢が標

準のもの

締まり及びきめが

標準のもの

脂肪の色、光沢及び

質が標準のもの

2

胸最長筋並びに背

半棘筋及び頭半棘

筋における脂肪交

雑がやや少ないも

肉色及び光沢が標

準に準ずるもの

締まり及びきめが

標準に準ずるもの

脂肪の色、光沢及び

質が標準に準ずる

もの

1

胸最長筋並びに背

半棘筋及び頭半棘

筋における脂肪交

雑がほとんどない

もの

肉色及び光沢が劣

るもの

締まりが劣り又は

きめが粗いもの

脂肪の色、光沢及び

質が劣るもの

(出所:社団法人日本食肉格付協会より作成)

※地域団体商標を「出願」する要因と地域団体商標「登録」を受けることができる要因に

つき銘柄牛のクロスセクションデータを用いて分析を行った際、品質の代理変数として

用いた等級基準である。なお、本稿は特定の銘柄牛や銘柄牛一般の品質について言及す

るものではない。

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2 地域の分類

北海道(1道)

東北(6県)

北海道

青森 岩手 宮城 秋田 山形 福島

関東甲信越(10都県) 茨城 栃木 群馬 埼玉 千葉 東京 神奈川

山梨 新潟 長野

北陸東海(7県) 富山 石川 福井 岐阜 静岡 愛知 三重

近畿(6府県) 滋賀 京都 大阪 兵庫 奈良 和歌山

中国(5県) 鳥取 島根 岡山 広島 山口

四国(4県) 徳島 香川 愛媛 高知

九州・沖縄(8県) 福岡 佐賀 長崎 熊本 大分 宮崎 鹿児島

沖縄

その他 財団法人食肉消費総合センターに直接掲載希望の

あったもの。

※地域団体商標を「出願」する要因と地域団体商標「登録」を受けることができる要因に

つき銘柄牛のクロスセクションデータを用いて分析を行った際、周知性の代理変数とし

て用いた地域ブロック分類である。

【参考文献】

・ 知的財産権法概論 紋谷暢男 有斐閣

・ 堀政博「地域団体商標制度における商標と品質に関する考察」(平成17年度知財プロ

グラム論文集)<政策研究大学院大学政策研究科>

・ 平成19年度地域団体商標制度説明会<説明会テキスト> 特許庁

・ マダラ計量経済分析の方法 G.S.Maddala(著) 佐伯親良 (翻訳) エコノミスト社

・ 地域ブランドの商標法における保護の在り方について 産業構造審議会知的財産政策

部会 商標制度小委員会 平成17年2月

・ 最新法律改正の解説 新「地域団体商標」制度と地方公共団体-新制度の概要と今後の

課題- 久保 次三