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研究の目的・研究組織大規模中心血圧データベース―ABC-J研究の背景 ABC-J研究(Anti-hypertensives and Blood pressure of Central artery study in Japan)について、その背景、目的、結果の一部、さらに展望について述べたい。 今日、中心血圧の意義が認められてきた背景には、非侵襲で簡便に大動脈起始部の中心血圧を推定する方法が開発されたことが大きく寄与している。 国際的に、ASCOT-CAFÉ Study1)やStrong Heart Study2)などにより、中心血圧と予後の関係が調べられ、中心血圧の予後予測能が優れていることが示された。このように中心血圧は上腕血圧より心血管イベントや臓器障害との関連がより強いという報告が複数なされ、その重要性が確認されている。アジア(台湾)からも一般住民の予後解析に基づき、中心血圧カットオフ値が提案された3)。 日本においても一般高血圧治療における中心血圧研究の必要性が認められはじめ、その1つとして、治療中高血圧患者を対象にしたABC-J研究が計画・実行され、大規模な中心血圧データベースが構築された。これは、中心血圧の通常の末梢血圧とは異なる情報としての有用性、さらには、日本人の実際の高血圧診療のなかで、中心血圧はどのように使われうるかという可能性を考察する試みである。
目的と組織 ABC-J研究は、横断研究と追跡研究の2つに分かれており、横断研究では、現実にあるデータを解析し、降圧薬の効果を検討できないか、ということを目的とした。 追跡研究では、プロスペクティブなフォローアップというより、後ろ向きからみて、降圧薬と予後との関係を調査し、それにより、治療継続による中心血圧の変化や、降圧薬の中心血圧への効果などをデータにより分析することを目的とした。 ABC-J研究を進める組織は、臨床血圧脈波研究会を研究母体とし、各大学には共同研究機関としてアカデミックな協力を得るとともに、実際の診療現場からも全国的
に協力研究機関を募り、多くの施設の参加を得た。
研究プロトコル・データベースの状況・イベント評価(図1)プロトコル 第一次のベースラインデータとしては、すでに高血圧治療中の約1,800名の情報(HEM-9000AI[オムロンヘルスケア]により測定、SBP2を用いた)を2006年度に集積した。それらを解析したところ、意味のあるデータが得られたので、その後、第二次のベースラインデータとして約4,000名の情報を追加した。 これらのデータに関して、後ろ向きに2年以上の追跡調査を行い、フォローアップデータベースとし、2013年3月末までをフォローアップ期間とした。 データ管理については、WEB入力を用い、効率的な入力・管理が実施できた。 登録症例のプロファイルの概要は、男女ほぼ同数(男性2,035名、女性1,988名)、年齢は男性65±11歳、女性67歳±11歳、末梢血圧は男性138±17/79±13mmHg、女性138±19/76±13mmHg、中心血圧は男性141±20mmHg、女性145±21mmHgとなっている。 データ入力項目(入力率)では、喫煙(81%)、合併症・既往歴(99%)、高血圧治療薬(100%)、経口糖尿病治療薬(100%)、脂質異常症治療薬(99%)、抗血栓治療薬(99%)、血液検査(97%)、尿検査(84%)を必須項目とした。
イベント評価委員会 イベント評価に関しては、専門家による委員会を設置した。委員長は北川泰久先生(東海大学八王子病院)に就任していただき、脳・心・腎に責任者を置き、その下に各2名の委員を配した。実際に何らかのイベントが生じ、報告された場合には、委員2名がそれぞれ判定を行い、その結果が一致しなければ、責任者が最終判定を行い、そのうえで委員長が最終確認するといったプロセスを経て、エンドポイントを判定した(図2)。最終的には、4,000例のうち418例のイベントが集積された。
島田和幸(新小山市民病院理事長)
ABC-J研究報告
第14回 臨床血圧脈波研究会 特別報告
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特別講演
横断解析による研究結果 ABC-J研究により集積されたデータに関して横断的解析が行われ、さまざまな業績が論文や学会発表を通じて報告されているところである。 横断解析を用いた研究論文の1つである宮下 洋先生(自治医科大学健診センター)による「SBP2-SBPによる中心降圧効果の比較」4)では、SBP2とSBPの差を指標として用いて、降圧薬の効果とどのような関係が示されるかが検討された(図3)。アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(angiotensin II receptor blocker;ARB)、カルシウム拮抗薬(calcium channel blocker;CCB)、α遮断薬といった血管拡張薬と、利尿薬、β遮断薬といった心臓の拍出を
抑制する薬剤とを比較したところ、明確な差が現れた。血管拡張薬のほうが非血管拡張薬に比べ、より中心血圧が下がりやすい、また、血管拡張薬同士を併用すると、より下がりやすいという結果が示された(図4)。 そのほか、中心血圧を用いてどのような病態や心血管イベントを抽出していけるかといった課題についても、ABC-J研究データベースを用いて考察されている。 上腕血圧と中心血圧を2軸とした4象限に、血清クレアチニン値がある患者をCKDのステージ別に分類し、AIの値を調べていくと、年齢、SBP、脈拍数、血管拡張薬を調整した後でも、ステージ5では、AI値が有意に低かったという研究結果が得られている5)。 また、追跡データに健診データを追加したデータを用
特別報告
ベースラインデータベース(第一次)
1,727名
1回目測定(2006年11月~2007年1月末)
1回目測定(~2011年3月末)
フォローアップ(~2013年3月末)
研究参加医療機関に通院する高血圧症患の後ろ向き観察:1.(3カ月以上の)安定した降圧治療下で、1 回以上のHEM-9000AIによる検査の実施歴があること。
2.20歳以上(上限は設定なし)。性別不問。
ベースラインデータベース(第二次)
4,023名
継続症例:第一次研究対象者のうち、経過追跡可能な患者。新規登録:参加医療機関に通院する高血圧症患者で、下の3条件をすべて満たすもの:1.降圧薬服用中、もしくは新たに降圧薬を服用開始。2.1 回以上のHEM-9000AIによる検査の実施歴があること。3.35歳以上(上限は設定なし)。性別不問。
フォローアップデータベース
カルテ情報からの後ろ向き調査による登録。<経過追跡>2年以上
図1 ● 研究プロトコル・データベース
(委員1、委員2)イベントを判定し、結果を事務局へ送付する。
追加資料の請求
(事務局)各施設より資料を取り寄せ、委員へ再送する。 (事務局)委員の判定結果をまとめ、責任者へ送付する。
(責任者)確認のうえ、判定結果を採用する。 (責任者)内容を再検討し、判定を行う。
(事務局)委員1、委員2にイベント詳細報告用紙を送付する。
(事務局)結果をまとめ、委員長へ結果を送付する。
(委員長)判定結果を最終確認する。
(責任者)事務局へ判定結果を送付する。
イベント評価は評価用紙に記入し、事務局にてまとめ、委員長が最終確認する。
NOYES
判定結果が一致 NOYES
図2 ● イベント判定プロセス
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群間有意差; :p<0.001, :p<0.05(G-H)
(mmHg)
0
-10
-20
SBP2
∆
ARB ACEI CCB DiurBLα BLβ
血管拡張薬単剤は非血管拡張薬単剤よりも中心血圧を下げる。
血管拡張薬同士を併用するとより中心血圧を下げる。
p<0.001(K-W)
(mmHg)
0
-10
-20
SBP2
∆
ARB+CCB
ARB+ BL
CCB+ACEI
CCB+Diur
ARB+Diur β
CCB+ BLβ
Diur+ BLβ
p<0.001(K-W)
図4 ● SBP2-SBPによる中心降圧効果の比較:結果(文献4より引用)
0mmHg
SBP1
SBP(上腕収縮期血圧)
SBP2(橈骨収縮後期圧)
DBP(上腕拡張期血圧)
対象 方法
SBP2=SBP2-SBP∆
SBP2:SBP2とSBPの差で、上腕血圧に対して中心血圧が低い度合いをみている指標。差が大きいほど末梢に比べ中心血圧がより低い。治療効果によるこの差の拡大は、中心降圧度の過小評価の程度を表す。
SBP2は年齢・性別・身長・BMI・DBP・他の薬剤で調整した。
∆
∆
ベースラインデータベース(第一次)
1,727名
1回目測定(2006年11月~2007年1月末)
(平均年齢:66.5±11.5歳、男性884名、女性843名)
フォローアップ(~2013年3月末)
ベースラインデータベース(第二次)
4,023名
フォローアップデータベース
図3 ● SBP2-SBPによる中心降圧効果の比較(文献4より引用)
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特別講演
いて、AI値増大への年齢、血圧の影響をみると、高齢者では年齢の影響は受けず、収縮期血圧が高くなるとAI値が増大することを示した研究結果なども論文として発表されている6)。 さらに、末梢血圧の値にかかわらず、中心血圧の高い患者が軽度の上昇であるが、BNPが高くなる傾向が示されたとの報告が日本循環器学会にて行われている7)。
ABC-J研究による国際貢献 国際的に、中心血圧の参照値を設ける動きがヨーロッパを中心に進んでいるが、そうした活動に対して、ABC-J研究グループとしてデータを提供した。これは、まもなく『European Heart Journal』において公表される。年齢、性別、リスクファクターの有無などにより、日本の大規模なデータベースを含む国際データベースから得られた中心血圧の参照値が報告されている(図5)。
特別報告
SBP/DBP
MAP/DBP
SphygmoCor44,458(52%)Omron
30,543(35%)
頸動脈エコー8,120(9%)
Direct Carotid3,284(4%) PulsePen
158(1%)
ABC-J: 10,425名古屋市大: 10,165東京医大: 8,750HART(RSA): 1,203
全症例:86,563 症例、HEM-9000AI:30,543 症例(35%)
図5 ● 中心血圧参照値化プロジェクト-日本からの貢献日本から約3万データを提供している。
1) Williams B, et al. Diff erential impact of blood pressure-lowering drugs on central aortic pressure and clinical outcomes: principal results of the Conduit Artery Function Evaluation(CAFE)study. Circulation 2006 ; 113 : 1213 -25 .
2) Roman MJ, et al. Central pressure more strongly relates to vascular disease and outcome than does brachial pressure: the Strong Heart Study. Hypertension 2007 ; 50 : 197 -203 .
3) Cheng HM, et al. Derivation and validation of diagnostic thresholds for central blood pressure measurements based on long-term cardiovascular risks. J Am Coll Cardiol 2013 ; 62 : 1780 -7 .
4) Miyashita H, et al. Cross-sectional characterization of all classes of
antihypertensives in terms of central blood pressure in Japanese hypertensive patients. J Hypertens 2010 ; 23 : 260 -8 .
5) Kanno Y, et al. Paradoxical distribution of augmentation index level in chronic kidney diseases. Nephrol Rev 2012 ; 4 : e19 .
6) Tomiyama H, et al. Diff erences in eff ects of age and blood pressure on augmentation index. Am J Hypertens 2014 May 12 .[Epub ahead of print]
7) Eguchi K, et al. Signifi cance of high central BP but normal brachial BP in treated hypertensives-The ABC-J Study-. 第78回日本循環器学会学術集会抄録 2014 : OE-167 .
文献
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