Ⅳ.最近の電気事故の事例...Ⅳ.最近の電気事故の事例...

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Ⅳ.最近の電気事故の事例 中国四国産業保安監督部 1.人身事故 1-1.作業者感電負傷事故 (1)事故の発生状況 事業場内の空調設備の老朽化のため、取替工事を計画し、その電気工事を外部業者に依頼し ていた。事故当日、外部工事会社の作業員2名が事業場に到着し、作業ミーティングを行い、 取替工事に着手した。 その後、作業を進めていたが、作業員のうち1名が電線の被覆を剥く作業に取りかかったと ころ、3相のうちの2本が両手に接触し感電した。 (2)事故の原因 被災者は、事故発生の前日に空調設備の遮断器を開放していたため、当日もそのまま開放さ れていると思い込みがあった(開放の際に投入禁止の表示はしなかった)。このため、当日に遮 断器の開放を確認せず、検電もしなかったため、充電されていることに気付かなかった。 また、前日に保安規程に基づく年次点検を行っており、低圧絶縁抵抗測定後、当該遮断器に 投入禁止表示がなかったため、誤って遮断器を投入してしまった可能性がある。 (3)防止対策 電気主任技術者が作業前に外部業者、社内作業者等の作業計画を把握してそれぞれに工 事、点検等の内容を周知する。 作業前にKY活動を実施し、危険箇所の把握をする。 遮断器等の誤投入の可能性もあるため、作業前ミーティング時に必ず作業線路の停電を 作業者全員で確認する。 遮断器の誤投入を避けるため、明示等の措置をとる。 被災時の状況

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Ⅳ.最近の電気事故の事例

中国四国産業保安監督部

電 力 安 全 課

1.人身事故

1-1.作業者感電負傷事故

(1)事故の発生状況

事業場内の空調設備の老朽化のため、取替工事を計画し、その電気工事を外部業者に依頼し

ていた。事故当日、外部工事会社の作業員2名が事業場に到着し、作業ミーティングを行い、

取替工事に着手した。

その後、作業を進めていたが、作業員のうち1名が電線の被覆を剥く作業に取りかかったと

ころ、3相のうちの2本が両手に接触し感電した。

(2)事故の原因

被災者は、事故発生の前日に空調設備の遮断器を開放していたため、当日もそのまま開放さ

れていると思い込みがあった(開放の際に投入禁止の表示はしなかった)。このため、当日に遮

断器の開放を確認せず、検電もしなかったため、充電されていることに気付かなかった。

また、前日に保安規程に基づく年次点検を行っており、低圧絶縁抵抗測定後、当該遮断器に

投入禁止表示がなかったため、誤って遮断器を投入してしまった可能性がある。

(3)防止対策

① 電気主任技術者が作業前に外部業者、社内作業者等の作業計画を把握してそれぞれに工

事、点検等の内容を周知する。

② 作業前にKY活動を実施し、危険箇所の把握をする。

③ 遮断器等の誤投入の可能性もあるため、作業前ミーティング時に必ず作業線路の停電を

作業者全員で確認する。

④ 遮断器の誤投入を避けるため、明示等の措置をとる。

被災時の状況

1-2.作業者感電負傷事故

(1)事故の発生状況

建造中の船内において塗装作業のため、被災者は同僚1名と防爆型換気ファンの結線作業を

開始し、作業完了後、換気ファン本体の移動作業に移った。

被災者は換気ファンを所定の位置(船内)に移動させ、電源を入れたがファンが始動しなか

った。このため、再度分電盤のナイフスイッチ等の確認を行ったが特に外観の異常は見あたら

ず、一旦船内に戻った。

その後もファンが始動しないため、分電盤内の別のナイフスイッチへ結線を取り直す作業に

着手した。ケーブル端子3線のうち、赤線、白線の順に外し、最後に黒線を外そうとして触れ

たところ感電した。

(2)事故の原因

換気ファンの結線を行ったものの、ファンが始動しなかったため、通電していないと思いこ

みナイフスイッチ電源を入れたまま作業を行った。

また、結線作業の際には装着していた革手袋も結線を取り直す際には外して作業を行ってい

た。(赤線、白線のナイフスイッチ内のヒューズが切れた状態となっており、通電しておらず、

黒線のみが活線状態となっていたため、ファンが始動しなかったことが事故後判明した。)

(3)防止対策

① 結線作業は資格取得者(労安法に基づく低圧電気取扱特別教育受講者)が実施する。

② 分電盤内のナイフスイッチの入切状態が分かり難いため、入り切り表示を行い、停電状

態が確認できるようにする。

③ 職員、請負業者に対し低圧電気取扱特別教育を行う。

事故が発生した分電盤

1-3.年次点検中に発生した作業者感電負傷事故

(1)事故の発生状況

事故当日の朝、保安法人本社で年次点検に係るミーティングを実施し、その中で今回は防災

無線の電源を確保するために非常用発電機を運転させた状態で年次点検を行うため特に注意す

るよう周知した。

事業場に到着し、年次点検作業に着手した。また、電力会社から停電作業員が現場に到着し

た(路上の高圧キャビネット内の断路器操作のため)。

地絡継電器の連動試験を行い、受電用遮断器をトリップさせた。受電用遮断器が切れている

ことを確認後、電力会社の停電作業員により、高圧キャビネット内の断路器を切り離し、事業

場を停電状態とした(受電用遮断器が開放すると、インターロックにより非常用発電機が起動

し、防災無線を含む非常用回路に電源が供給されるようになっている)。電力会社からの送電が

停止しているか、検電器で確認し、構内断路器1次側に短絡接地器具を取り付けた。

その後、保安法人職員5名で手分けして年次点検を開始した。

年次点検を手分けして行っていたが、突然電気室の蛍光灯が消灯したため、今回の年次点検

の責任者が発電機室の非常用発電機操作盤へ行き確認したところ、「過電流」が点灯し警報ブザ

ーがなっていたため、直ちに非常用発電機を停止した。その後、責任者が発電機室から電気室

に戻る際に、高圧配電盤の中で被災者が倒れているのを発見した。

(2)事故の原因

被災者が中に入っていた高圧配電盤は上半分が一般動力盤で停電状態、下側が非常用回路で

非常用発電機から電源が供給されている状態であった。

被災者は当時、一般動力盤にあった保護継電器(過電流継電器)の試験を実施していたが、

下側の非常用回路が活線状態であったことに気付かなかったものと推測される。

また、通常高圧配電盤内の中に入るのは清掃時のみであるが、停電状態の配電盤のみ実施す

ることとなっていた。しかし、被災者は高圧配電盤の中で感電しており、何故高圧配電盤の中

に入ったのか聞き取り調査を試みたものの、被災時の記憶がないため分からないままとなって

いる。

(3)防止対策

① 点検作業の責任者は、危険エリアにテーピングやロープ、表示札により立入禁止表示を

徹底する。

② 高圧検電器は活線状態で動作することを確認した後、使用することを徹底する。また、

停電後の検電は年次点検の作業員全員で各相すべて確認することを徹底する。

③ 危険を伴う作業を行う場合は必ず2名体制で実施する。

④ 保安法人が受託している事業場の年次点検実施状況を、役員等が毎月1回現地で確認す

る。

⑤ 年次点検中に高圧配電盤内に入る場合は、点検作業の責任者の承諾を得る。

⑥ 年次点検の作業手順書を改訂し、安全対策について詳細に記載する。

事故が発生した高圧配電盤の裏側

事故発生時の状況(断面図)

財産・責任分界点

屋外式キュービクル

PAS(SOG付)7.2kV 200A

LBS:7.2kV 200A+

PF:G50A

事故発生箇所

構内柱

VCT

LA:8.4kV

Sc 30kvar

Tr

6.6kV/210-105V1φ75kVA

Tr

6.6kV/210V3φ100kVA

PCPC PC(素通し)

2.電気事業者へ波及した事故

2-1.保守不備(自然劣化)による波及事故

(1)事故の発生状況

設置者が契約している警備会社より、事業場が停電しているとの連絡が設置者自宅にあった。

設置者は深夜であることから現場へ行かず、管理技術者へも連絡しなかった。翌朝、設置者は事

業場で停電を確認し、電気管理技術者へその旨連絡した。その後、現場に到着した電気管理技術

者は、設置者に事業場の停電状況を確認し、設置者立会のもと、屋外の受電設備の確認を行った。

その結果、構内柱のPASが切れており、SOG制御箱内の地絡(G)トリップを確認した。こ

のため、キュービクル内のLBSを開放し、高圧回路の絶縁抵抗測定を行ったが、異常がなかっ

たため、受電することとした。

電気管理技術者が、電力会社に先の確認内容と受電再開の旨を携帯電話で連絡し(その後、携

帯電話は通話状態のまま)、設置者立会のもと、PASを投入したが、SOGが地絡を検出し、

トリップした。その際、PAS付近から火花が出たことも確認した。また、電力会社から配電線

地絡事故が発生したこと、PASの再操作禁止及び事故原因究明の指示を受けた。

その後、電力会社にて当事業場を除き送電した。

電気管理技術者及び協力を依頼した電気工事会社で調査した結果、PAS二次側縁線(青相)

にPAS本体接地線が接触しており、接地線の被覆が摩耗し、芯線が露出していることを確認し

た。(供給支障電力1,075kW、供給支障時間2分)

(2)事故の原因

PAS本体接地線は、竣工時にPAS制御ケーブルと固定されていたが、長期間(約12年間)

の風雨、外気温の変動による自然劣化で外れた。外れた接地線がPAS二次側縁線(青相)と接

触した状態となり、更に風等の影響で被覆が摩耗し接地線の芯線が一部露出して夜間の雨で地絡

したものと推定される。

(3)防止対策

PAS2次側縁線(各相)及び接地線の取替を行った。更に制御ケーブルと接地線を固定し、

接触しないよう措置を講じた。

地上から目視点検していたが、配線が輻輳し発見ができなかったため、今後は双眼鏡などを使

用して、構内柱上部の機器・配線の点検を強化する。

単線結線図 事故時の状況

財産・責任分界点

PAS(SOG付)7.2kV 200A

DS:7.2kV 400A

焼損した計器用変圧器

電柱

VCT

LA

VCB:7.2kV 400A 50MVA

Tr

6.6kV/3.3kV3φ300kVA

Tr

6kV/210-105V3φ50kVA

PT×2

I>

I>I>

DS:7.2kV 200A DS:7.2kV 200A PC

VCB:7.2kV 200A50MVA

VCB:7.2kV 200A50MVA

20A CBHGR電源

断線した架空電線

Tr

6.6kV/210kV3φ750kVA

2-2.保守不備(自然劣化)による波及事故

(1)事故の発生状況

電力会社配電線がDGR動作により自動遮断した。電力会社が事故探査をしたところ、当事業

場の受電設備の事故と判明した。その後、連絡を受けた保安技師により当事業場の高圧開閉器を

開放し、配電線を全送電した。事業場内を調査したところ、受電設備内の計器用変圧器が焼損し

ていることを確認した(高圧開閉器各相~対地間0MΩ)。(供給支障電力503kW、供給支障

時間2時間35分)

(2)事故の原因

計器用変圧器は設置後38年経過していた(屋内設置のものは通常20年程度で交換を推奨)。

また、地絡継電器を設置しており、事故発生の1週間前の月次点検では異常がなかった。しかし、

事故当日には、継電器に電源を供給している架空電線が断線していたため、電源喪失となり高圧

開閉器の開放が出来ず波及事故に至ったと推定される。

(3)防止対策

電気設備の更新は、保安法人の指導に基づき計画的に取替・改修を実施する。

単線結線図 焼損した計器用変圧器

2-3.他物接触(鳥獣接触)による波及事故

(1)事故の発生状況

電力会社配電線が過電流継電器動作により自動遮断した。配電線の自動再閉路システム不具合

により、自動再閉路しなかったため、遠制による手動操作にて、当事業場を除き、配電線を全送

電した。

その後、当事業場より、保安法人に事業場が全停電しているとの連絡があり、保安技師が出動

した。保安技師が当事業場に到着し、調査した結果、小動物接触による高圧負荷開閉器(主遮断

器)の短絡と判明した(構内区分開閉器はSO動作により「切」状態となっていた)。(供給支障

電力1,400kW、供給支障時間4分)

(2)事故の原因

高圧負荷開閉器の相間に蜘蛛の巣がはり、その巣に工場から出る食品粉が付着し、夜間での結

露も重なり短絡したと考えられる。

(3)防止対策

① 高圧負荷開閉器に相間短絡バリアを取付ける(高圧負荷開閉器は当日取替え済み)。

② キュービクル内に蜘蛛の巣がはらないよう、防虫シートを取付ける。

単線結線図

短絡した高圧負荷開閉器

財産・責任分界点

キュービクル式受電設備 (第1キュービクル)

(第2キュービクル)

PAS(GR付)7.2kV 100A

LBS:7.2kV 200A+

PF:7.2kV 40A 500MVA

事故発生箇所

電柱

VCT

LA:8.4kV 2.5kA

Tr

6kV/0.2kV3φ100kVA

Sc 6kV3φ30kvar

LBS:7.2kV 200A+

PF:7.2kV 30A 500MVA

AS:7.2kV 100A

Sc 6kV3φ20kVA

Tr

6kV/0.2kV1φ20kVA

Tr

6kV/0.2kV3φ75kVA