基礎水産資源学 第4回 -...
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基礎水産資源学第4回
担当:松石 隆
最新水産ハンドブック
2.5資源調査と資源特性値の推定
松石隆
2
2.5.1 資源調査研究の内容
• A.資源調査研究の目的
• 何のために資源調査を行うのか
• B. 資源調査研究のための調査項目
• 具体的に何を調査するのか
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A. 資源調査研究の目的
1. 適正漁獲量の推定• なるべく多くの漁獲量を恒久的に提供してくれる資源状態,最大持続生産量を実現するための漁獲量を推定
2. 漁況の予測• 漁期,漁場,魚群の質や量を予測。操業の合理化や効率化など計画的な漁業経営のために必要。漁況の変動しやすいサンマ,サバ,マイワシなどの回遊性浮魚では重要
3. 増殖手段の開発• 資源の生態,数量動態などの生態学的特性に基づき,資源の増殖を図ること。とくに沿岸性の魚類や貝類などでは,種苗放流など人為的な資源増殖の手段も有効
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B. 資源調査研究のための調査項目
• 漁獲量・努力量
• 魚種別/漁業種別/期間別/海域別
• 漁船の隻数/航海数/操業日数/操業回数/曳網時間/使用漁具数など
• 生物調査:
• 体長→体長組成推定
• 体重→体重組成,体長体重関係
• 耳石採取・採鱗:系群判別,年齢査定
• 性別/成熟度/胃内容物
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2.5.2 漁獲統計と生物調査
• 2つの情報源
• 調査船調査など漁業と独立した調査にもとづく評価
• 漁獲統計と漁獲物の生物調査データを用いた評価
• 漁獲統計等による評価が圧倒的に多い
• A. 漁獲統計
• B. 生物調査
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A. 漁獲統計(漁獲量・努力量)
• 総漁獲量推定:市場調査(日本)と標本船調査(発展途上国等)
• 日本の漁獲量・努力量集計:
• 農林統計(公式統計 1894年から) 産地市場の水揚統計を基本.
• 属人統計と属地統計
• 魚種別集計(さば類など魚種に分かれていないものも)
• 漁獲努力量:漁船トン数,出漁日数や航海日数など
• 発展途上国等での漁獲量・努力量集計:
• 市場外流通がある
• 標本船調査による漁獲量の推定(1隻当平均漁獲量×隻数)
• 努力量推定:漁獲量÷CPUEで行われることも7
B. 生物調査
• 漁獲物調査の目的:
• 漁獲物の体長や年齢などの生物学的属性を知る
• 種苗放流対象魚の混獲率を知る
• 漁獲物調査:
• 各市場の銘柄別の体長組成の測定
• 魚体調査用のための標本抽出
• 標本個体:研究室に持ち帰り,目的に応じて測定・採材
• 体長や体重を測定
• 年齢形質・卵巣または精巣
• 遺伝情報・汚染物質の分析用の組織サンプル
• 食性調査のための胃
• 標本は漁業生物学(fishery biology)の分野を構成する系群,年齢・成長,成熟-産卵,分布-回遊に関する,基礎的な標本である. 8
2.5.3 資源特性値の推定
• 調査結果等から資源特性値(パラメータ)を推定
• 推定の統計学的手法:
• 最尤推定(maximum likelihood estimation: MLE)
• ベイズ推定(Bayes estimation)
• 一般化線形モデル(generalized linear model :GLM)
• 赤池情報量規準(Akaike’s Information Criterion :AIC)
• 資源統合法(stock synthesis: SS)
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推定される資源特性値
• A. 成長式のパラメータ
• B. 年齢組成
• C. 自然死亡係数
• D. 漁獲係数
• E. 性成熟年齢
• F. 性比
• G. 再生産曲線
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2.5.4 漁獲努力量と資源量指数
• 漁獲強度(漁獲圧)は,漁獲努力量(fishing effort)が大きいほど高くなる
• 漁獲努力量は,操業した漁船の隻数×操業日数,操業回数など.
• 漁法別に,努力量の単位は異なる
• 曳網距離や曳網時間(底曳網)
• 使用網の総延長や浸漬時間(刺網)
• 使用釣針数(はえ縄)
• 魚群の探索時間(まき網)
• 使用した漁船の総トン数や馬力,人員などで補正・標準化する場合も. 11
漁獲係数
• 漁獲強度を示す係数
• F: 漁獲係数(fishing coefficient)
• X: 漁獲努力量
𝐹 = 𝑞𝑋• 比例定数𝑞は漁具能率・漁獲能効率(catchability coefficient)
𝑞 = 𝐹/𝑋であるので,単位努力量あたり漁獲係数
• 技術進歩により, 𝑞 は少しずつ増大することがあるので,注意
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CPUE 単位努力量あたり漁獲量
• 単位努力あたり漁獲量(CPUE):資源密度を表す相対的な指数
• 1日1隻あたり漁獲量,1操業あたり漁獲量など
• 資源量を𝑁漁獲量を𝐶とし, 𝐶 = 𝐹𝑁,𝐹 = 𝑞𝑋の関係があるとき
𝐶𝑃𝑈𝐸 =𝐶
𝑋=𝐹𝑁
𝑋=𝑞𝑋𝑁
𝑋= 𝑞𝑁
• CPUEは資源量に比例.
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トロール調査などでのCPUE
• 漁具能率𝑞を,漁場面積𝐴に対する単位努力あたり漁獲面積𝑎(底びき網における掃過面積など)と考えて𝑞 = Τ𝑎 𝐴とおくと,
𝐶𝑃𝑈𝐸 =𝐶
𝑋= 𝑞𝑁 = 𝑎
𝑁
𝐴• CPUEは漁場内での資源、密度( Τ𝑁 𝐴)に比例する
14
資源量指数
• 魚の分布が集中分布するとき,CPUEは,資源密度の偏った指標を与える.
• 対象漁場を複数の漁区に細分したうえで,漁区別CPUEにそれぞれの漁区面積をかけあわせたものの総和:資源量指数(abundance index)
𝑁 =
𝑖
𝐴𝑖𝐶𝑖𝑋𝑖
𝑖は漁区番号
• 資源密度指数: Τ𝑁 𝐴
• 有効漁獲努力量: ෨𝑋 = Τ𝐴𝐶 𝑁15
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トロールによる資源量推定
• トロール漁業(大臣許可漁業)
• 漁獲データの提出が義務づけられている
• 集計結果が公表されている
17
海区
18
月別海区別投網回数・魚種別漁獲量
• 1818
CPUEの標準化
• CPUEは,資源密度以外のさまざまな要因(季節,漁具の差異,魚の年齢、など)の影響も受ける
• 資源の変動を正確に知るためには,これらの影響を除く必要がある.
• 複数の魚種を漁獲対象とする漁業(底びき網漁業など)では,漁獲目的とする主対象種の変化もCPUEの値に影響を与える
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CPUEと資源量
• ①全体の資源量が低下してもCPUEが低下しない場合
• 魚の分布中心域の資源量が低下しても,縁辺域から魚が集中してくる場合
• 産卵場に集まった魚群を対象に漁業が行われる場合,
• 資源量が低下しても魚群の大きさがあまり変わらない場合,
• 資源密度が高いと漁具の飽和が起こる場合など
• CPUEが資源量の大幅な低下に反応しないので注意
• ②資源量の低下にくらべてCPUEの低下が急激
• 漁獲対象海域では資源密度が低下しでも,漁獲対象以外の海域に比較的高密度の資源が分布-残存し,両者の混じり合う速度が低い場合など
20
2.5.5 バイオロギング調査による回遊の推定
• 新手法の紹介
21
A.回遊(migration)
• 魚類が定まった時期に餌の供給や無機的な環境条件の変化に応じであるいは環境が不変でも発育段階の変化に伴い魚の生活要求が変化しそれを満たすためにひとつの生息場所から別の生息場所に一定の周期で、移動する現象
• 索餌回遊(feeding migration):餌を追って移動する過程
• 産卵回遊(spawning migration)産卵場へ向かう移動過程
• 季節回遊(seasonal migration):季節的環境変化に応じた移動
• 越冬回遊(wintering migration):冬季の水温低下を避けた移動過程
• 通し回遊魚(降河回遊魚・遡河回遊魚・両側回遊魚)
• 非通し回遊魚(海洋回遊魚・河川回遊魚)22
B.従来の回遊推定方法
• 漁場の移動の追跡
• 漁獲物の体長組成から推定.
• 個体の移動を直接的には反映しない.
• 標識放流:
• 魚体に標識など目印をつけて放流し,採捕点を結ぶ
• 経路や移動に要した正確な時間は把握できない
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C.バイオロギング
• バイオロギングとは,対象生物に音波発信機や記録計を取りつけて,その生態を調べる方法
• a. バイオテレメトリー
• b. マイクロデータロガー,アーカイバルタグ
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a. バイオテレメトリー(biotelemetry)
• 超音波を信号とする小型発信機を対象個体に装着することにより,遠隔地から個体の位置,環境情報,あるいは生理情報などを記録しようとする手段
• 船で追跡する型/受信器を係留する型
• 欠点
• 魚類の追跡の場合には調査船が必要
• 天候に左右されるなど
• 多大な労力を強いられる
• 長期間の追跡はできない.
• 複数個体を同時に追跡することは難しい
• 係留型は設置する台数がある程度必要
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アルゴスタグ
• 対象動物に電波発信機をとりつけ,発信機から送信される信号を人工衛星が受信することで,動物の位置を正確に割り出し,彼らの移動状況を把握する方法
• 広範囲,長期間にわたっての追跡が可能で、渡り鳥などの調査に用いられている.
• 海洋では,クジラ,アザラシ,ウミガメといった大型動物に適用されている
• 水中では電波が滅衰するため,このシステムを魚類に適用するのはたいへん難しく,息継ぎなどで水面に浮上する生物に限られる.
• また通信費や発信器に費用がかかる
26
27
http://www.big-game.jp/kaziki/k1/k1_13/index_1.html
ネズミイルカに装着
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回遊経路リョウ(2012/4/21放流)
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b.マイクロデータロガー,アーカイバルタグ
• 内部ICメモリーに水温,塩分,圧力,照度などの環境情報,体温などの生理情報を記録する装置
• 受信局不要,漁場間の長期間にわたる情報を入手
• 最近は,ロガーを自動的に水面に浮上させ,ロガーに記録されたデータを人工衛星に電送する手法も実用化
• ロガーを一定期間の後に個体から切り離すか,漁業で個体を再捕して回収する必要
• 大量個体に装着して放流する場合,費用も大きい
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アーカイバルタグ(例)
31
田中三次郎商店
2.5.6 耳石微量元素分析による系群判別
• 新手法の紹介
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A.耳石とは
• a.種類と構造• 耳石(Otolith)は内耳にある高度に石灰化した硬組織• 魚類頭部の内耳は左右に1対存在• 内耳は3つの嚢状部に耳石が1つずつ存在• 磯石(lapillus)・扇平石(sagitta)・星状石(asteriscus)• 扇平石が最も大きく,研究に多く使われる• 形状と構造は魚種によって異なる
• 多くの硬骨魚類の耳石は炭酸カルシウムのアラゴナイトの結晶
• チョウザメ類などの硬骨魚類の古代魚は,不安定なパテライト結晶
• サメやエイなど軟骨魚類は,砂粒状のカルサイト結晶• 円口類の耳石は,砂状非晶質のリン酸カルシウム
• 耳石は魚類の聴覚と平衡感覚に関与• 個体発生のごく初期段階に形成される• 耳石膜を介して内耳壁に接し,感覚細胞へ振動を伝達 33
魚類の内耳構造
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ハタハタの耳石
北水試 魚介類測定・海洋観測マニュアル 1996
スケトウダラの耳石ブレークバーン法
赤嶺・麦谷水産動物の成長解析 1997
スケトウダラの耳石日周輪構造
赤嶺・麦谷水産動物の成長解析 1997
耳石重と遊泳速度の関係
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Mori, Matsuishi et al. 2001
b. 個体履歴と成長の記録
• 魚類の耳石のおもな構成成分は炭酸カルシウムである.
• ごく微量のストロンチウム,マグネシウム,バリウム,マンガン,リチウムなどが含有
• 安定同位体も存在
• これら微量元素とその同位体は,環境水の化学組成等をおおよそ反映
• ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計),SIMS (二次イオン質量分析計), EPMA(電子線マイクロアナライザー)なとで高精度に測定可
• 産卵や成長に利用された海域や河川の特定,回遊履歴推定に応用可
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• 魚類の耳石は代謝回転がきわめて小さい
• いったん成長層に記録された情報(微量元素)は,終生保持される.
• 耳石は,中央部分の核から縁辺に向かつて同心円状に成長
• 個体の生活史に沿った時系列イベント(履歴)を忠実に復元可
• 形態の違いや遺伝的な差が認められない同一種内の系群判別や天然・養殖個体の識別も可
• 元素組成は,環境だけではなく成長,変態,成熟などの内的因子によっても変動
• 環境水の微量元素が耳石に反映されるまでの時間的ずれや季節-年変動などにも注意 40
B.耳石微量元素分析の応用
• 生活史推定
• マグロ,サケ・マス,タラ,スズメダイなど:地域個体群間の交流の有無/仔稚魚の分散-加入/成魚の回帰行動の研究
• サケ・マス,ウナギ,アユ,ハゼなど通し回遊魚:回遊履歴推定(海水と淡水でSr濃度が100倍程度異なる)
• アユ:天然遡上魚(海に下る),陸封魚の判別,養殖魚
• 内部標識としての利用
• 天然環境には存在しない高濃度の元素をとりこませる
• 一度に大量の個体の標識が可
• 親魚に標識剤を投与して卵・稚仔魚に大量標識をする方法も
41
42
2.6資源量推定法
43
2.6.1 漁獲統計解析
• 漁獲量やCPUE(単位努力あたり漁獲量)は資源量Nの関数f(N)
• 漁獲統計を用いてfからNを求める
• 漁獲量は,確率的に変動
• 最小二乗法や最尤法などの統計学的手法を用いる
• 資源調査データを同時に用いることも
• 資源変動に関係するパラメータを一括推定する統合型手法も
• ここでは,DeLury法とVPAを説明
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A. デルーリー(DeLury)法
• CPUEの減少傾向から資源査を推定する方法
• 必要なデータは期間ごとの漁獲量Cと漁獲努力量Xのみ
• 以下の仮定が必要
1. CPUEは資源量に比例する.比例係数q(漁具能率)は一定
2. 自然死亡,移出入や再生産による加入は生じない
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a.累積漁獲量を用いる方法
• 期間tのCPUE(𝐶𝑡/𝑋𝑡)と漁期開始時の資源量𝑁0の関係は
𝐶𝑃𝑈𝐸𝑡 = 𝑞𝑁𝑡 = 𝑞 𝑁0 − 𝐾𝑡 = 𝑞𝑁0 − 𝑞𝐾𝑡• 𝑁𝑡は期間𝑡開始時の資源量
• 𝐾𝑡は𝑡 − 1期までの累積漁獲量
• 横軸に𝐾𝑡,縦軸にCPUEをプロットすると,データ点は右下がりの直線上に並ぶ
• 漁具能率が高いほど直線の傾斜が急
• 横軸との交点ではCPUEが0,つまり全部を獲り尽くした状態を表す
• この状態での除去総量は𝑁0
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DeLury法 (概念図)
47
累積漁獲量
CP
UE
500
10
20
1000
b. 累積漁獲努力量を用いる方法
• 累積漁獲量のかわりに累積努力量を使う方法もある
𝑁𝑡 = 𝑁𝑡−1exp −𝑞𝑋𝑡−1= 𝑁0exp −𝑞𝐸𝑡
• 𝐸𝑡は𝑡 − 1期までの累積努力量
• −𝑞𝑋𝑡−1 は期間t-1開始時から期間t開始時までの生残率
• この式を𝐶𝑃𝑈𝐸 = 𝑞𝑁1に代入し対数をとると
ln 𝐶𝑃𝑈𝐸𝑡 = ln 𝑞𝑁0 − 𝑞𝐸𝑡• 直線回帰から𝑁0と𝑞を推定する.
48
DeLury法の特徴
• 強い漁獲のためにCPUEがO近くまで低下しないと精度の高い推定は行えない.
• 仮定(2)はふつう成立しない.しかし,小さな湖で短
期間に強いが加わるとき,あるいは移動性を無視できる資源で同様の漁獲が加わるとき,近似的に資源は漁獲のみで減少するとみなせるであろう.
• qの時間変化や自然死亡がある場合なども適用できるよ
うに,上記の基本手法は種々拡張されている.とくに最尤法情報量規準に基づくモデル選択の導入は拡張のための有力な手段となっている.
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B. V PA (virtual population analysis,コホート解析)
• 必要なデータ:年別年齢別漁獲個体数と自然死亡係数M
• 分布全域の資源重量の変動要因は加入,成長,漁獲,自然死亡
• 年級群(同じ年に生まれた集団,コホート)の個体数は時間の経過とともに減少の一途
• 減少要因は漁獲と自然死亡
50
• 年tのα歳の個体数と1年後にα+1歳の個体数の関係は,
• 漁獲量𝐶𝑎,𝑡が年半ばに瞬間的に得られるとき,
𝑁𝑎+1,𝑡+1= 𝑁𝑎,𝑡exp Τ−𝑀 2 − 𝐶𝑎,𝑡× exp Τ−𝑀 2
• exp Τ−𝑀 2 は自然死亡のみによる半年間の生残率
• 周年漁業を近似
• exp Τ−𝑀 2 と𝐶𝑎,𝑡は既知
• 𝑁𝑎+1,𝑡+1を与えると上式から𝑁𝑎,𝑡が求められる
𝑁𝑎,𝑡 = 𝑁𝑎+1,𝑡+1exp Τ𝑀 2 + 𝐶𝑎,𝑡 × exp Τ𝑀 251
• 𝑁𝑎,𝑡が決まると𝑁𝑎−1,𝑡−1が決まる.
• 通常最高齢個体数から若齢に向けて次々に計算
• 最高齢の個体数/漁獲係数(ターミナルF)を仮定
• 𝐹𝑎,𝑡から𝑁𝑎,𝑡を求める場合
𝑁𝑎,𝑡 =𝐶𝑎,𝑡exp Τ𝑀 2
1 − exp −𝐹𝑎,𝑡
• 𝑁𝑎,𝑡から𝐹𝑎,𝑡を求める場合
𝐹𝑎,𝑡 = −ln 1 −𝐶𝑎,𝑡exp Τ𝑀 2
𝑁𝑎,𝑡
52
53
VPAの基本的な考え方
• ある池に1月に1歳魚を多数放流した。
• そのままにしておくと,1年間で1/4に減少
• 毎年6月に漁獲し以下の尾数が漁獲された
• 1歳の時 100
• 2歳の時 300
• 3歳の時 200
• もともと何尾放流されたのか
54
1歳魚放流? 尾
1歳魚の漁獲100尾
2歳魚の漁獲300尾
3歳魚の漁獲200尾
55
解答1
• とにかく600尾漁獲されたのだから少なくとも600尾は放流された
56
解答2
• 解答1では,自然死亡を考慮していない
• 3歳魚が200尾獲れた→3歳時に6月には200尾いた
• 1年の生残率が1/4ということは半年で半分が死ぬ
• 3歳の1月には400尾,2歳の6月漁獲後には倍の800尾居たはず
• 2歳の漁獲前には800+300で1100尾いたはず
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2歳魚の漁獲300尾
3歳魚の漁獲200尾
6月
少なくとも200
1月
少なくとも400
生残率1/2
7月
少なくとも800
6月
少なくとも1100
生残率1/2
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(つづき)
• 2歳の漁獲前には800+300で1100尾いたはず
• 2歳の正月には倍の2200尾
• 1歳の漁獲直後には倍の4400尾
• 1歳の漁獲尾数は100尾だったので,1歳の漁獲直前には4500尾
• 1歳の正月には少なくとも倍の9000尾
59
1歳魚放流9000尾
1歳魚の漁獲100尾
2歳魚の漁獲300尾
6月
少なくとも1100
6月
少なくとも4400
少なくとも4500
7月
60
解答3
• 解答2では3歳魚の生き残りを考慮していない
• 3歳の12月に100尾生き残っていると仮定する
61
1歳魚放流15400尾
1歳魚の漁獲100尾
2歳魚の漁獲300尾
3歳魚の漁獲200尾
3歳魚の生残100尾
100x2+
200=
400
400x4+
300=
1900
1900x4+
100=
770
0
7700x2=
15400
a. VPAの注意点
• 資源全体の年別年齢別の個体数と漁獲係数を得るためには,最近年(年齢別漁獲尾数が得られている最も新しい年)に現存する年級群とその年より前に最高齢に達した年級群(年齢を行,年を列にとった個体数の行列のそれぞれ右端の列と下端の行に相当)それぞれに対してこの計算を行う.
• 問題は最高齢での仮定の影響である.一般に若齢にさかのぼるほど,また漁獲圧が強いほど仮定の影響は弱まり個体数の信頼性がが高まる.しかし加入したばかりの年級群では過程の影響が残る.
• 漁業が安定しているときには,ここ数年のFの平均値を最近年のFとして与え,また最高齢と1つ若い年齢で、Fが等しいとみなすことにより,再現性のある結果を得るなど,工夫がなされている. 62
b. チューニングVPA
• 漁業が安定していないときには,通常のVPA適用に問題
• CPUEなど資源量指標などが得られていれば,これらを利用してターミナルFを推定
• 資源量指標を𝐼𝑡とするとき,以下の目的関数を最小化してターミナルFを求める.
𝑎,𝑡
𝐼𝑎,𝑡 − 𝑞𝑁𝑎,𝑡2
• ここで𝑁𝑎,𝑡はターミナルFの関数で,繰り返し計算により求める.
63
c.セパラブルVPA
• 𝐹𝑎,𝑡を以下のように表現できると仮定
𝐹𝑎,𝑡 = 𝑠𝑎 × 𝐹𝑡• 複数の年級群を一括して資源量推定が可能
• 𝑠𝑎は年齢別選択率, 𝐹𝑡は年別漁獲係数
• 選択率一定の仮定は,資源減少に伴い昔はあまり利用しなかった若齢個体を選択的に漁獲するようになったことなどにより成立しないことが多い.
• 精度の高い推定を行いにくい
• 期間ごとに𝑠𝑎を推定,資源量指数を用いたチューニングを行うなど工夫した,統合型VPAが用いられる
64
2.6.2 標識放流
65
A. 標識の種類と使用法
• 最初の魚類の標識放流:1653年に大西洋サケにリボンウールを標識
• 日本の標識放流:1970年代後半からアンカータグ型,リボン型,背骨型など
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標識の種類
• 焼印標識:焼きごてや液化炭酸ガスで体表にマーク
• 切除標識法:魚類の鰭あるいは尾肢や遊泳脚などを切除
• 自然標識:マダイの鼻孔隔皮欠損/ヒラメの無眼側の色素/アワビやサザエの種苗生産時の殻色
• バイオロギング:
• アルゴスタグ:大型動物の移動-回遊や行動生態の調査
• マイクロデータロガー:水温などのデータを記録保存する
• ポップアッフ型標識:一定時間後分離浮遊,衛星から位置確認可
• 体内標識
• コードワイヤータグ:微小な金属に放流情報を記録
• 色素注入:カラーラテックスなどを注入する
• 化学標識:アリザリンコンプレクソン→耳石・鱗,イカの甲
• 耳石温度標識:飼育水温を変化させることにより耳石に標識
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• 遺伝標識:放流魚を遺伝子解析技術により識別
• 耳石標識や遺伝標識は,小さなサイズでも標識できることに加え標識死亡や標識脱落がないため,成長や生残率の正確な推定が可能.
• 適切なサンプリング計画や個体ごとに標識の確認が必要なことから,研究機闘が自らサンプリングを行う詳細な調査に適している.
68
B.再捕データの解析
• 移動,回遊,漁獲実態の推定
• 成長式の推定
• 死亡率の推定
• 報告漏れなどの影響が大きく難しい
• 過分散が生じ,技術的に推定が難しい場合も
• 綿密な調査計画とサンプリングが不可欠
69
70
ピーターセン法
• 標識放流によって資源量を推定する方法
• 漁期はじめの標識放流尾数をX
• その後の漁獲尾数をn
• 標識魚の再捕尾数をx
• 放流時の資源尾数Nは x
nXN ˆ
71
式の解釈
• 100尾(=X)に標識を付けた
• 標識率が10%だった
• 50尾(=n)調査したら5尾(=x)に標識がついていた
• 資源量は1000尾
• 50尾(=n)漁獲した
• 漁獲率が5%だった• 100尾(=X)放流した標識魚のうち5尾(=x)が再捕された
• 資源量は1000尾
505
100ˆ nx
X
x
nXN 1005
50ˆ Xx
n
x
nXN
2.6.3 卵数法
• 卵数法(egg production method)
• 産卵親魚量を算出する資源量推定
• 産卵場全体での産卵調査(卵稚仔調査)によって産出された卵の総量を推定
• 雌1個体あたりの産卵数,性比の情報などから,資源量を推定
• 卵の種同定が可能であることが前提
• 資源量推定値/チューニングVPAなどの資源量指標
• 小型浮魚類の資源評価に,世界各地で広く適用
72
卵数法の手法
• 年間総産卵量に基づく手法(annual egg production method :AEPM)
• 1日あたり総産卵量に基づく手法(daily egg production method: DEPM)
• 個体群の潜在的産卵量の減少率に基づく手法(daily fecundity reduction method :DFRM)
73
A. 産卵量の推定法
• 雌1個体1日あたり産卵数=パッチ産卵数(1回あたり産卵数)×1日あたりの産卵個体割合
• パッチ産卵数:体長・体重と相関
• パッチ産卵数,産卵個体割合~水温などの外的環境要因の影響
• 魚卵採集装置 continuous underway fish eggsampler(CUFES):調査船航走中に海水ポンプでくみあげて漉過し連続採集
• プランクトンネット:口径45cm/60cm,目合0.33mm/0.335mmの鉛直びき
• 発育段階ごとの卵密度に発育速度と死亡率を考慮しで産卵量を推定
74
B.利用の実態
• メリット:漁業情報に依存することなく,組織的・系統的に計画した調査をもとに資源量推定値が得られる
• デメリット:産卵場全域での大規模な調査が必要.コストが非常に大きい
• 国・海域によっては,産業重要魚種の主産卵期にのみ実施する場合も
• 日本では,1945年以降,マイワシなどの主要小型浮魚類を対象とした産卵調査を実施,1978年以降,わが国200海里水域内における産卵調査が毎月継続
75
2.6.4 目視法・魚探法
76
A. 資源の動向の把握
• 漁獲統計を用いた調査:船の規模や馬力,隻数,探索・漁獲能力,経済や社会状態などに影響される.
• 操業は高密度海域のみで実施されるので,資源全体の変動をとらえない恐れ
• ライントランセクト調査:海域全体を覆うように設計されたトラックラインの上を船や航空機を走らせ,観測を行う
• 目視観測:クジラや表層を遊泳するマグロ幼魚など,双眼鏡で観測
• 魚探調査:直接目視できない魚など.超音波を発信しその反射状況から魚群の位置と大きさを測定
• 魚種判別,群サイズの測定,発見位置を正確に測定
• 検証予備実験,調査本体に検証を組みこむ工夫が必要 77
B. 資源量の推定・発見率・探索幅の見つもり
• 海域全体資源量推定値=発見個体数×探索面積÷調査海域の面積
• 発見数の日変動などから,推定精度を評価
• 探索面積=調査航路長×探索幅
• 調査航路(トラックライン)長は航海記録から
• 探索幅はトラックラインから発見対象物までの横距離の分布から推定
78
79
有効探索幅横距離分布
0
25
50
-2 -1 0 1 2
発見横距離
発見数
sinrL
80
有効探索幅
• 横距離分布から推定
• 横距離0の時の発見確率は1と仮定
• 水色と灰色の面積が等しいとき
• Wまでを完全に計数したのと等しい結果になる
w
freq
W
81
南氷洋のクロミンククジラ個体数推定結果
Antarctic Minke Whale
Balaenoptera bonaerensis
1991 IWC
2.6.5 その他の方法(遺伝情報を用いた方法など)
82
A.遺伝標識を利用する方法a. 標識再捕法
• 人工的な標識を用いた標識再捕法:標識の脱落,標識装着による発見,死亡率の変化の恐れ
• 遺伝標識はこのような恐れが無い
手順
1. バイオプシーサンプリングを通して核DNAなどの遺伝子型を観測
2. 十分なサイズの遺伝子座情報を行い,個体識別
3. 時期をずらして経年的にサンプリング
4. 標識再捕法と同様の方法で資源量推定が可能
• 遺伝子型数や多様性が少ない場合,他個体を同一個体と判別する恐れ→資源量過小推定→補正して使用
83
b. 父系解析法
• 雄からランダムに遺伝子情報を取得
• 母子からランダムに遺伝子情報を取得
• 子の遺伝子情報の内の雄由来の部分に,取得してあった雄の遺伝子情報が含まれている確率から,資源量を推定する
• クジラ,カメで実用例あり
• 対立遺伝子の共有情報をもとにした,資源量推定に拡張可
84
B.遺伝的有効集団サイズから計算する方法
• 有効集団サイズ𝑁𝑒:集団と同じ遺伝的変化率(遺伝的浮動)をもつ理想集団の個体数
• 理想集団:性比が1:1,世代が重複しない,交配がランダムで選択を伴わない集団
• 一般に有効集団サイズは実際の集団個体数よりも小さい
• 希少種の場合,集団の個体数が多くても,有効集団サイズが小さいと,存続が危ぶまれる
85
a.現在の有効集団サイズ
• 遺伝的浮動(遺伝子頻度の変化)の大きさは,その集団の有効集団サイズNeに依存
• Neが大きいほど浮動は小さい
• Temporal法:• 異なる世代間における遺伝子浮動Neを推定
• 重複世代を考慮したモデルなどへも拡張も
• 連鎖不平衡を利用した推定法:
• 連鎖不平衡を利用する方法では1時点における複数遺伝子座の遺伝子型情報で十分
• 推定精度を高めるには,多型性をもつ遺伝子座の利用および十分なサンプルサイズが必要 86
b.歴史的な有効集団サイズ
• 歴史的有効集団サイズ:過去からの有効集団サイズの調和平均
• 遡上合同法(coalescent method):
• サンプルとして得た個体が共通祖先に到達するまでの遺伝子の系図(gene genealogy)から歴史的な有効集団サイズを推定
• 有効集団サイズが大きく遺伝的多様性が高い→共通祖先に到達する世代数が大きい
• 突然変異率,塩基置換率などを考慮して計算
• スカイライン法:
• 歴史的な有効集団サイズの変化そのものを時系列的にさかのぼって推定する方法
• これらの手法から,歴史的に現在の個体数が少ないという研究結果もあるが,手法の仮定がみたされているか注意する必要がある.
87
おわりに
• 水産資源学
• 資源動態解析
• 資源調査
• 資源特性値・資源量推定
• 資源管理
• 社会的にニーズが大変大きい
• TAC管理実施のため
• 発展途上国,ASEAN等の乱獲防止
• 水産研究者の多くが水産資源学分野に従事
• 水産研究所(水産庁)
• 水産試験場(都道府県)
• 研究者志望の方は,身につけておくべき 88
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