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生命を情報伝達システム として捉える

藤井 雅史 (黒田T黒田G)

東京大学大学大学院 理学系研究科生物科学専攻

Introduction

生命は様々な反応で成り立っている でも…

反応が起こる場所(反応場)は小さい!

細胞: ~1000µm3 (1pL) 小区画: 0.1–10µm3 (0.1–10fL)

反応場が小さいと反応揺らぎが大きくなる

揺らぎ(CV)=

p分散

平均 ∝ p

1

個数 ∝ p

1

体積 (※反応がPoisson過程に従うなら)

反応場の大きさ

測定誤差 外部揺らぎ

反応揺らぎ

pERK c-

FOS

データがばらつく

揺らぎの大きさ=分子数を見積もる

a V 1M 1mM 1µM 1nM

10cm 1L 1023 1020 1017 1014

1cm 1mL 1020 1017 1014 1011

1mm 1µL 1017 1014 1011 108

100µm 1nL 1014 1011 108 105

10µm 1pL 1011 108 105 102

1µm 1fL 108 105 102 10-1

1辺の長さ a の立方体(容積 V ) 分子の濃度 C

細胞以下のスケールでは 分子の数が100個にも

満たないなんてことも!

揺らぎの大きさ=分子数を見積もる

a V 1M 1mM 1µM 1nM

10cm 1L 10-11 10-9.5 10-8 10-6.5

1cm 1mL 10-9.5 10-8 10-6.5 10-5

1mm 1µL 10-8 10-6.5 10-5 10-3.5

100µm 1nL 10-6.5 10-5 10-3.5 10-2

10µm 1pL 10-5 10-3.5 10-2 10-0.5

1µm 1fL 10-3.5 10-2 10-0.5 101

1辺の長さ a の立方体(容積 V ) 分子の濃度 C

※反応速度定数 ~ 10-1 [sec-1]

細胞以下のスケールでは 揺らぎの大きさは

10%を超えることも!

生命=情報システム:揺らぎが大きいと困る?

x

Pr(pERK | NGF)

NGF

pER

K

y

x

Pr(pERK | NGF)

NGF pE

RK

y

入力 (NGF)

反応系  (MAPK Pathway)

出力 (pERK)

x

Pr(pERK | NGF)

NGF

pER

K

y

反応揺らぎ 無 小 大

反応揺らぎ

出力はどのくらい  ばらつく?

生命=情報システム:揺らぎが大きいと困る?

x

Pr(pERK | NGF)

NGF

pER

K

y

x

Pr(pERK | NGF)

NGF pE

RK

y

入力 (NGF)

反応系  (MAPK Pathway)

出力 (pERK)

x

Pr(pERK | NGF)

NGF

pER

K

y

反応揺らぎ 無 小 大

反応揺らぎ

入力は  どのくらい?

出力から入力をどのくらい予測出来るか?

相互情報量を用いて定量化

I(x; y) =� �

Pr(x, y) log2

�Pr(x, y)

Pr(x) Pr(y)

�dydx

�=

�Pr(x)

�Pr(y|x) log2

�Pr(y|x)Pr(y)

�dydx

入力 (NGF)

反応系  (MAPK Pathway)

出力 (pERK) 反応揺らぎ

入力は  どのくらい?

相互情報量を用いた具体例

分化

PC12 cells

(IEGs) 相互情報量

Uda et al., Science (2013)

GFからIEGsへ、約1bitの情報量輸送が可能

0

0.5

1

0

0.5

1

0

0.5

1

0

0.5

1

0

0.5

1

0

0.5

1

0

0.5

1

0

0.5

1

0

0.5

1

E-C G-C total E-I C-I total G-I E-I C-I total G-I

PATHWAY:G-I!(red)!

PATHWAY:C-I!(green)!

PATHWAY:E-I!(blue)!

PATHWAY:G-C (green)!PATHWAY:E-C(blue)!

A B

NG

F PA

CA

P PM

A

Mut

ual i

nfor

mat

ion

(bits

)

c-FOS

pCREB

pERKs

GF

EGR1

pCREB

pERKs

GF

pERKs

pCREB

GF

1bit(ありorなし)  の情報量が  伝達可能

Uda et al., Science (2013)

【阻害実験】 別ルートによる情報量の補償 N

GF

PAC

AP

PMA

Mut

ual i

nfor

mat

ion

(bits

)

(-) +PD +H89 +BIS (-) +PD +H89 +BIS (-) +PD +H89 +BIS

0

0.5

1

0

0.5

1

0

0.5

1

-0.5

0

0.5

1

-0.5

0

0.5

1

-0.5

0

0.5

1

-0.5

0

0.5

1

-0.5

0

0.5

1

-0.5

0

0.5

1

PATHWAY:G-I!(red)!

PATHWAY:C-I!(green)!

PATHWAY:E-I!(blue)!PATHWAY:G-C (green)!

PATHWAY:E-C(blue)!

A B

c-FOS

pCREB

pERKs

GF

EGR1

pCREB

pERKs

GF

pERKs

pCREB

GF

Uda et al., Science (2013)

(-) +PD -0.5

0

0.5

1

PACAP→c-FOS

ERK経由: 減少 CREB経由:増加 全体:ほぼ変化なし

ここまでのまとめ

•  細胞やそれ以下のスケールでは、反応揺らぎの影響が大きい

•  内部の揺らぎによって、刺激情報の下流への伝達が正確ではなくなる

•  実際にどのくらいの情報が伝えられているかは、相互情報量を用いて検証すると便利

Stochasticity in Ca2+ increase in spines enables robust and sensitive

information coding スパインにおけるCa2+上昇の確率性は

ロバストで感受性の高い 情報コードを可能にする

上村卓也� 浦久保秀俊� 大橋郁� 黒田真也�

Collaborate with

PLoS ONE 9(6): e99040 (2014)

•  神経細胞樹状突起上の小さな区画 “スパイン”とは?

プルキンエ細胞

顆粒細胞

小脳

スパイン

樹状突起

細胞体

スパインの体積:0.1−1µm3

(細胞体の体積: ~5000µm3)

•  平行繊維からのローカルな入力 (PF入力) •  登上繊維からのグローバルな入力 (CF入力)

細胞質中のCa2+の上昇

スパインは2種類の入力を受け取る

プルキンエ細胞

顆粒細胞

PSD�

dendrite�

ER Ca2+ Stores�

Parallel Fiber�

Climbing Fiber�

VGCC AMPAR

AMPAR

Gq�PLCβ�

IP3�

IP3R�

Ca2+

Buffers�

mGluR

SERCA�Na+/Ca2+�

PMCA�

Leak�Leak�

IP3 3-kinase�

IP3 5-phosphatase�

Ca2+�

•  PF入力: 興奮性シナプス後電位 (100Hz) •  CF入力: Ca2+

出力:スパイン内部のCa2+イメージング

スパインは協調的なPF-CFによって応答する

PF

Wang et al., Nat. Neurosci. (2000)

CF

Ca2+の上昇なし Ca2+が 急激に上昇!

Ca2+  時系列

プルキンエ細胞

•  PFとCFの入力間隔を変化 Ca2+の応答を見る (時系列のAUC)

スパインは入力間隔依存的に応答する

PF CF

Wang et al., Nat. Neurosci. (2000)

急激なCa2+上昇

V

スパイン応答の決定論的なモデル

Doi et al., J. Neurosci. (2005)

入力依存性 の再現

2つの入力 間隔依存性 の再現

急激なCa2+上昇と入力間隔同定のメカニズム

Δ

ER Ca2+ Store

IP3R

CF PF

Ca2+

AMPAR pathway mGluR pathway

速い正&遅い負の フィードバックループ

IP3

Ca2+の急激な上昇と入力間隔の同定には、 速い正&遅い負のフィードバックループが必要だ! 情報伝達の過程から何から何まで、 スパインについては完璧に理解した! ちょっと待った!スパインは非常に小さいぞ! ということは、揺らぎが大きい!

決定論的なモデルだけで理解できた?

スパインは決定論的なモデルだけで 説明出来るのか?

体積 ~ 0.1−1 [µm3]

分子数

Ca2+ ~ 4−40

mGluR ~ 60−600

IP3R ~ 16−160

確率論的なモデルで シミュレーション!

実験データの ばらつきが大きい

•  様々な体積で確率論的なシミュレーション – スパインがそのまま大きくなったものと比較

•  相互情報量による情報伝達の定量化

•  “スパインの小ささ”の意味を探る

スパインにおける情報伝達を理解するには?

•  反応及びパラメータ: – 決定論的なモデル (Doi et al. (2005)) と同じ

(実験的に得られた、あるいはパラメータ推定) • 56種類の分子、43種類の反応、96個のパラメータ

•  シミュレーションのアルゴリズム: – Gillespie法 + modified τ-leap法

(Cao et al., J. Chem. Phys. (2006))

スパインの確率論的なモデル

•  体積: – 0.05, 0.1(スパイン), 0.5, 1, 10, 100, 1000, 5000(細胞体) – 分子数(正の整数):

•  [スパインにおける実際の濃度] × NA × [スパインとの体積比]

•  入力(実験と同じ): – PF: at 0, 10, 20, 30, 40 [msec] (100Hz) – CF: at

•  出力(Ca2+の応答): – Ca2+の時系列のAUCの対数

シミュレーションの設定

�t (�t 2 {�400, 380, · · · , 580, 600})

Cares = log10

⇢Z 1500

�500

�⇥Ca

2+⇤(t)�

⇥Ca

2+⇤basal

�dt

シミュレーション結果

-500 0 500 1000 1500 -500 0 500 1000 1500 Time (msec) Time (msec)

�t = 160 �t = �400

平均値では Ca2+の 上昇が 大きい

平均値では Ca2+の 上昇が 小さい Δt Δt

各シミュレーション(各個体) 全時系列の平均

平均的な挙動とは異なる振る舞いのものも!

スパインでのCa2+の応答の分布

�t = 160

log10

⇢Z 1500

�500

�⇥Ca

2+⇤(t)�

⇥Ca

2+⇤basal

�dt

�t = �400

Ca2+の上昇が 起こる

起こらない の二峰性

スパインでのCa2+の応答の分布

�tPF→CF interval (msec) Ca2+上昇が 小さい群

Ca2+上昇が 大きい群

分布から相互情報量を計算 Itotal

=

X

�t

Pr(�t)

Z

Cares

Pr(Cares

|�t) log2

Pr(Ca

res

|�t)

Pr(Cares

)

�dCa

res

バイアスの補正法:Cheong et al., Science (2011)

情報量は体積の増加に対して 単調増加だけど… スパインの体積

が最適!

Itotal

Volume

体積で割って 効率として見る

入力強度が揺らぐ環境では?

PF強度一定 PF強度が揺らぐ

Gaussian- white-noise

揺らぎによる分布の変化

CV = 0.1 CV = 0.5

Spin

e C

ell v

olum

e

ほとんど 変化なし

ばらつきが 増大

Δ14.3%

Δ76.9%

揺らぎによる情報量の損失割合

揺らぎによる 情報量の損失の割合:   スパイン<細胞体

スパインは 入力強度の揺らぎに

対してロバスト!

複数のスパインでの情報伝達

Ca2+ Ca2+ Ca2+ Ca2+ Ca2+ Ca2+

Ca2+ Ca2+ Ca2+ Ca2+ Ca2+ Ca2+

PF入力は10−100個のスパインに加わる (Hildebrand et al. (2009)) 全体での応答:個々の応答の平均と仮定

PF

PF

複数スパインでもロバスト性は保持される

情報量:100スパイン>細胞体 (体積:100スパイン<細胞体)

1000スパイン

100スパイン

細胞体

10スパイン

1スパイン

PF入力が少なかったら?

5 PF input 3 PF input

スパインは少ない入力にも応答出来る!

5PFs 3PFs Sp

ine

Cel

l vol

ume

(少しだけど) Ca2+上昇が 大きい群

Ca2+上昇が 大きい群なし

Δ36.1%

Δ40.6%

入力数減少による情報量の損失割合

入力数減少による 情報量の損失の割合:   スパイン<細胞体

スパインは 少ない入力でも

情報量輸送が可能!

•  プルキンエ細胞スパインにおける PF-CF入力間隔の情報コード – 情報伝達の効率はスパインの体積が最適

•  スパインの小ささの利点 – 入力強度の揺らぎに対するロバスト性:

• スパイン>細胞体サイズ – 少ない入力に対する感受性:

• スパイン>細胞体サイズ

まとめ

より詳細なことは論文で: PLoS ONE 9(6): e99040 (2014)

「小さいものがいっぱい」は 生物がとった情報伝達において

有効な戦略?

Mitochondria Spines

Discussion

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