臨床評価指標を用いたpdcaサイクルに基づく 医療 …pdcaサイクルとは...
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独立行政法人 国立病院機構本部総合研究センター 診療情報分析部
医療の質の改善事業臨床評価指標を用いたPDCAサイクルに基づく
国立病院機構(National Hospital Organization:NHO)は、患者一人ひとりに提供
される医療の手順となるプロセスや、提供された医療によって得られるアウトカムを
評価し、病院間のばらつきの少ない良質な医療の提供を目指しています。
診療情報分析部では、その使命を受けて、医療の質を定量的に計測し可視化(見
える化)するためのツールとして臨床評価指標を開発し、平成18年度より計測を開始
しました。複数回の改定を経て、現在もあらゆる領域の医療の質の計測を継続的に
行っています。
平成27年度からは、「臨床評価指標を用いたPDCAサイクルに基づく医療の質の
改善事業(以下、PDCAプロジェクト)」が始動しました。このプロジェクトは、全NHO
病院が、PDCAサイクルという概念に基づき医療の質の改善に取り組むという、前例
のない大規模な取り組みです。現在では、ほぼ全てのNHO病院に、活動の基盤とな
るクオリティマネジメント委員会が設置され、各病院で様々な活動が行われていま
す。こうした活動の成果およびノウハウが、NHO病院における医療、ひいてはわが国
の医療にも寄与することを期待しています。
はじめに
C o n t e n t s
Ⅰ. 医療の質の可視化から改善へ ……………………………1
Ⅱ. 改善活動の状況 ………………………………………………2
Ⅲ. 改善活動の事例紹介 …………………………………………3
Ⅳ. 改善活動の成果(平成28年度実績)……………………4
Ⅴ. 継続的な改善活動のためのフォローアップ体制 ………5
Ⅵ. 情報発信 …………………………………………………………7
国立病院機構(National Hospital Organization:NHO)は、患者一人ひとりに提供
される医療の手順となるプロセスや、提供された医療によって得られるアウトカムを
評価し、病院間のばらつきの少ない良質な医療の提供を目指しています。
診療情報分析部では、その使命を受けて、医療の質を定量的に計測し可視化(見
える化)するためのツールとして臨床評価指標を開発し、平成18年度より計測を開始
しました。複数回の改定を経て、現在もあらゆる領域の医療の質の計測を継続的に
行っています。
平成27年度からは、「臨床評価指標を用いたPDCAサイクルに基づく医療の質の
改善事業(以下、PDCAプロジェクト)」が始動しました。このプロジェクトは、全NHO
病院が、PDCAサイクルという概念に基づき医療の質の改善に取り組むという、前例
のない大規模な取り組みです。現在では、ほぼ全てのNHO病院に、活動の基盤とな
るクオリティマネジメント委員会が設置され、各病院で様々な活動が行われていま
す。こうした活動の成果およびノウハウが、NHO病院における医療、ひいてはわが国
の医療にも寄与することを期待しています。
はじめに
C o n t e n t s
Ⅰ. 医療の質の可視化から改善へ ……………………………1
Ⅱ. 改善活動の状況 ………………………………………………2
Ⅲ. 改善活動の事例紹介 …………………………………………3
Ⅳ. 改善活動の成果(平成28年度実績)……………………4
Ⅴ. 継続的な改善活動のためのフォローアップ体制 ………5
Ⅵ. 情報発信 …………………………………………………………7
P D C Aサイクルとは
国立病院機構では、平成18年から臨床評価指標を用いて医療の質を可視化し、その結果を公表してきました。しかし、医療の質は、測定・公表しているだけでは保障されず、改善活動を行ってはじめて保障されます。そこで、指標を算出して公表するだけのステージから、臨床評価指標の測定結果を改善活動に繋げていくという新たなステージへの挑戦として、2012年から臨床評価指標を用いたPDCAサイクルに基づく医療の質の改善事業を開始しました。
PDCAサイクルとは、事業活動を効率的かつ実用的に進展・向上させていくためのマネジメント手法のひとつです。Pは「計画(Plan)」、Dは「実行(Do)」、Cは「評価(Check)」、Aは「改善(Act)」で、この4つのプロセスを順に実施することで、継続的に品質改善や業務改善をしようとする考え方です。
クオリティマネジメント委員会(以下、QM委員会)の設置
国立病院機構では、本事業を開始するにあたり、取り組みの基盤となる組織を立ち上げました。それが、クオリティマネジメント委員会です。 クオリティマネジメント委員会は、院内における医療の質の改善活動の中心となり、課題の選定、問題点の分析、計画の立案を、現場のスタッフと協同して行います。さらに、活動のモニタリングも担当します。 国立病院機構のクオリティマネジメント委員会は、医療職の他に事務職員も含めた多職種から構成されており、DPCデータやレセプトデータ等を用いた客観的な分析まで担当する点が特徴です。また、他の委員会のメンバーにも加わってもらい、組織横断的な委員会にするよう心がけています。
QM委員会の設置数平成29年4月時点で、国立病院機構の141病院にQM委員会が設置され、改善活動を行っています。
本事業のノウハウ蓄積のために診療情報分析部と協同して活動を行った病院
第1期病院:平成28年度から活動を開始した病院第2期病院:平成29年度から活動を開始した病院
各病院が取り組んでいる指標の例 (平成28年度実績)
医療の質の可視化から改善へⅠ 改善活動の状況Ⅱ
1 2
QM委員会の構成メンバー●副院長または診療統括部長●医師●看護師長●薬剤師
●クリニカルパス委員長●感染対策委員長●診療情報管理士または医事課●事務長、経営企画室長
○○科
看護師 診察情報管理士
医師
医事
QM委員会
院長・副院長診療統括部長
国立病院機構○○医療センター
現状分析問題点抽出計画立案
(具体的な行動を明記)薬剤師
感染対策室 医療安全管理室
クリ二カルパス委員会
PPlan
DDo
AAct
CCheck
現状分析と計画立案1
PDCAを実施する指標に関連する医師、看護師、コメディカルが話し合って、現状の問題点を抽出し、各問題点に対する具体的な行動計画を立案する。
計画を実行2
具体的な行動計画に基づき、医療の質の改善を目指す。
改 善4
評価に基づき、改善策や計画の改訂を検討する。
評 価3
3か月に1回、改善活動の結果について報告書を作成する。その報告書を用いて、各診療科のカンファレンスや病院内の会議で臨床現場の医師や医療スタッフに直接フィードバックする。
6
モデル病院
65
141
新規モデル病院+
第1期病院
第2期病院
■~平成26年度■平成27年度■平成28年度
モデル病院
No. 指標タイトル
20 急性脳梗塞患者に対する早期リハビリテーション開始率
21 脳卒中患者に対する静脈血栓塞栓症の予防対策の実施率
24 外来糖尿病患者に対する管理栄養士による栄養指導の実施率
26 気管支喘息患者に対する吸入ステロイド剤の投与率
27誤嚥性肺炎患者に対する喉頭ファイバースコピーあるいは嚥下造影検査の実施率
28間質性肺炎患者に対する血清マーカー検査(KL-6、SP-D、SP-A)の実施率
31慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者に対する呼吸器リハビリテーションの実施率
32 周術期(肺手術)の呼吸器リハビリテーション実施率
34 心大血管手術後の心臓リハビリテーション実施率
39B型およびC型慢性肝炎患者に対する肝細胞がんスクリーニングのための画像検査の実施率
40 急性胆管炎における入院初日の血液培養実施率
41 急性胆嚢炎患者に対する入院2日以内の超音波検査の実施率
42急性胆管炎患者、急性胆嚢炎患者に対する早期(入院2日以内)の注射抗菌投与の実施率
44大腿骨近位部骨折患者に対する早期リハビリテーション(術後4日以内)の実施率
46 急性腎盂腎炎患者に対する尿培養の実施率
56 肺炎患児における喀痰や鼻咽頭培養検査の実施率
58重症心身障害児(者)に対する骨密度測定の実施率(超・準超重症、超・準超重症以外)
No. 指標タイトル
59重症心身障害児(者)に対するリハビリテーションの実施率(超・準超重症、超・準超重症以外)
6015歳以上デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者に対するβ-ブロッカーもしくはACE阻害剤の投与率
63 抗パーキンソン病薬投薬患者に対する心エコー実施率
64 パーキンソン病患者に対するリハビリテーションの実施率
73くも膜下出血、破裂脳動脈瘤、未破裂脳動脈瘤患者のクリッピング/ラッピングにおける手術部位感染予防のための抗菌薬3日以内中止率・遷延率
77ステントグラフト内挿術施行患者における抗菌薬3日以内中止率
79 胃の悪性腫瘍手術施行患者における抗菌薬4日以内中止率
83肝・肝内胆管の悪性腫瘍の肝切除術施行患者における抗菌薬4日以内中止率・遷延率
87膝関節症、股関節骨頭壊死、股関節症手術施行患者における抗菌薬3日以内中止率・遷延率
97 子宮全摘出術施行患者における抗菌薬4日以内中止率
99子宮附属器腫瘍摘出術施行患者における抗菌薬4日以内中止率・遷延率
104手術ありの患者の肺血栓塞栓症の予防対策の実施率(リスクレベルが中リスク以上)
107 安全管理が必要な医薬品に対する服薬指導の実施率
108 バンコマイシン投与患者の血中濃度測定率
110 75歳以上退院患者の入院中の予期せぬ骨折発生率
P D C Aサイクルとは
国立病院機構では、平成18年から臨床評価指標を用いて医療の質を可視化し、その結果を公表してきました。しかし、医療の質は、測定・公表しているだけでは保障されず、改善活動を行ってはじめて保障されます。そこで、指標を算出して公表するだけのステージから、臨床評価指標の測定結果を改善活動に繋げていくという新たなステージへの挑戦として、2012年から臨床評価指標を用いたPDCAサイクルに基づく医療の質の改善事業を開始しました。
PDCAサイクルとは、事業活動を効率的かつ実用的に進展・向上させていくためのマネジメント手法のひとつです。Pは「計画(Plan)」、Dは「実行(Do)」、Cは「評価(Check)」、Aは「改善(Act)」で、この4つのプロセスを順に実施することで、継続的に品質改善や業務改善をしようとする考え方です。
クオリティマネジメント委員会(以下、QM委員会)の設置
国立病院機構では、本事業を開始するにあたり、取り組みの基盤となる組織を立ち上げました。それが、クオリティマネジメント委員会です。 クオリティマネジメント委員会は、院内における医療の質の改善活動の中心となり、課題の選定、問題点の分析、計画の立案を、現場のスタッフと協同して行います。さらに、活動のモニタリングも担当します。 国立病院機構のクオリティマネジメント委員会は、医療職の他に事務職員も含めた多職種から構成されており、DPCデータやレセプトデータ等を用いた客観的な分析まで担当する点が特徴です。また、他の委員会のメンバーにも加わってもらい、組織横断的な委員会にするよう心がけています。
QM委員会の設置数平成29年4月時点で、国立病院機構の141病院にQM委員会が設置され、改善活動を行っています。
本事業のノウハウ蓄積のために診療情報分析部と協同して活動を行った病院
第1期病院:平成28年度から活動を開始した病院第2期病院:平成29年度から活動を開始した病院
各病院が取り組んでいる指標の例 (平成28年度実績)
医療の質の可視化から改善へⅠ 改善活動の状況Ⅱ
1 2
QM委員会の構成メンバー●副院長または診療統括部長●医師●看護師長●薬剤師
●クリニカルパス委員長●感染対策委員長●診療情報管理士または医事課●事務長、経営企画室長
○○科
看護師 診察情報管理士
医師
医事
QM委員会
院長・副院長診療統括部長
国立病院機構○○医療センター
現状分析問題点抽出計画立案
(具体的な行動を明記)薬剤師
感染対策室 医療安全管理室
クリ二カルパス委員会
PPlan
DDo
AAct
CCheck
現状分析と計画立案1
PDCAを実施する指標に関連する医師、看護師、コメディカルが話し合って、現状の問題点を抽出し、各問題点に対する具体的な行動計画を立案する。
計画を実行2
具体的な行動計画に基づき、医療の質の改善を目指す。
改 善4
評価に基づき、改善策や計画の改訂を検討する。
評 価3
3か月に1回、改善活動の結果について報告書を作成する。その報告書を用いて、各診療科のカンファレンスや病院内の会議で臨床現場の医師や医療スタッフに直接フィードバックする。
6
モデル病院
65
141
新規モデル病院+
第1期病院
第2期病院
■~平成26年度■平成27年度■平成28年度
モデル病院
No. 指標タイトル
20 急性脳梗塞患者に対する早期リハビリテーション開始率
21 脳卒中患者に対する静脈血栓塞栓症の予防対策の実施率
24 外来糖尿病患者に対する管理栄養士による栄養指導の実施率
26 気管支喘息患者に対する吸入ステロイド剤の投与率
27誤嚥性肺炎患者に対する喉頭ファイバースコピーあるいは嚥下造影検査の実施率
28間質性肺炎患者に対する血清マーカー検査(KL-6、SP-D、SP-A)の実施率
31慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者に対する呼吸器リハビリテーションの実施率
32 周術期(肺手術)の呼吸器リハビリテーション実施率
34 心大血管手術後の心臓リハビリテーション実施率
39B型およびC型慢性肝炎患者に対する肝細胞がんスクリーニングのための画像検査の実施率
40 急性胆管炎における入院初日の血液培養実施率
41 急性胆嚢炎患者に対する入院2日以内の超音波検査の実施率
42急性胆管炎患者、急性胆嚢炎患者に対する早期(入院2日以内)の注射抗菌投与の実施率
44大腿骨近位部骨折患者に対する早期リハビリテーション(術後4日以内)の実施率
46 急性腎盂腎炎患者に対する尿培養の実施率
56 肺炎患児における喀痰や鼻咽頭培養検査の実施率
58重症心身障害児(者)に対する骨密度測定の実施率(超・準超重症、超・準超重症以外)
No. 指標タイトル
59重症心身障害児(者)に対するリハビリテーションの実施率(超・準超重症、超・準超重症以外)
6015歳以上デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者に対するβ-ブロッカーもしくはACE阻害剤の投与率
63 抗パーキンソン病薬投薬患者に対する心エコー実施率
64 パーキンソン病患者に対するリハビリテーションの実施率
73くも膜下出血、破裂脳動脈瘤、未破裂脳動脈瘤患者のクリッピング/ラッピングにおける手術部位感染予防のための抗菌薬3日以内中止率・遷延率
77ステントグラフト内挿術施行患者における抗菌薬3日以内中止率
79 胃の悪性腫瘍手術施行患者における抗菌薬4日以内中止率
83肝・肝内胆管の悪性腫瘍の肝切除術施行患者における抗菌薬4日以内中止率・遷延率
87膝関節症、股関節骨頭壊死、股関節症手術施行患者における抗菌薬3日以内中止率・遷延率
97 子宮全摘出術施行患者における抗菌薬4日以内中止率
99子宮附属器腫瘍摘出術施行患者における抗菌薬4日以内中止率・遷延率
104手術ありの患者の肺血栓塞栓症の予防対策の実施率(リスクレベルが中リスク以上)
107 安全管理が必要な医薬品に対する服薬指導の実施率
108 バンコマイシン投与患者の血中濃度測定率
110 75歳以上退院患者の入院中の予期せぬ骨折発生率
本事業では、臨床評価指標の中からテーマを選ぶことを基本的なルールとしています。臨床評価指標は、プロセス指標を中心に開発されていることから、各病院ではまず医療のプロセスを見直し改善することに取り組んでいます。この取組みが患者さんに対する望ましいアウトカムに結びつくには、長期的な活動が必要ですが、プロセスの面ではすでに成果が表れています。 以下は、平成28年度の報告会に参加した63病院に活動状況についてアンケートを行った結果です。
改善活動の事例紹介Ⅲ 改善活動の成果(平成2 8年度実績)Ⅳ
3 4
急性脳梗塞患者に対する早期リハビリテーション開始率(4日以内)
脳血管疾患リハに関するリハ科へのコンサルテーションが週3回としていた関係で、入院からリハ開始までに7日間要したケースがあった。
問題点
●神経外科、神経内科から直接リハビリオーダーを可能とすることで、リハビリ開始までの日数の短縮を図る。●オーダ日当日のリハビリ開始ができるよう、リハビリ科の体制を整える。
計画
47.1% → 73.1%リハビリテーションの運用を見直すことで、一定の効果が得られた。
活動の評価
重症心身障害児(者)に対する骨密度測定の実施率
●意思疎通が困難な場合、1分間の足部の静止が必要な骨密度測定は難しいことがある。●足部に変形がある場合は、測定器に踵を置くことが難しい。
問題点
●骨密度測定器の踵を置く位置に患者の足がフィットするか、どうしたら1分間の静止が可能となるか、患者毎に多職種の関係者(児童指導員や保育士を含む)でカンファレンスを行う。●患者の負担を軽減するために、脳波測定に併せ睡眠時にCT撮影とともに測定ができないか模索する。
計画
32.1% → 80.0%測定の実施と併せて、多職種で測定値を共有することで、患者の移動時やリハビリ実施時等における骨折予防に積極的に取り組めるようになった。
活動の評価
ステントグラフト内挿術施行患者における抗菌薬3日以内中止率
●抗菌薬中止に関するデータ提供等の情報提供が十分にされていない。●クリティカルパスの有用性についての情報提供が不十分だった。
問題点
●クリティカルパスを作成し、パス内に抗菌薬中止時期を盛り込む。●採血実施における運用方法を見直す。●各診療科のカンファレンスなどを通じて、中止率のデータ提供を行うことを目指す。
計画
0.0% → 69.2%抗菌薬中止に係る意識統一が十分に図られていなかったが、委員会内で感染症の発生リスクを数値化し、検証を行った結果、共通認識を持った上での投与が可能となり、投与期間が改善された。
活動の評価
自院で設定した活動目標の達成状況
医療の質の改善活動で実際に改善されたと思うもの(複数回答可)
0% 20% 40% 60% 80% 100%
■悪くなった ■やや下降 ■現状維持 ■上昇 ■達成
40%
3%
54%上昇 達成
1%1%
94%の病院に改善が見られました。
0 20 40 60 8010
患者(家族)とのコミュニケーション
職場の環境・雰囲気
診療体制
診療科間の情報共有
DPCデータやレセプトデータの質
業務効率
診療報酬面
診療科内の情報共有
チーム医療の推進
自院の問題点の把握と院内共有
標準化医療(治療・業務)に対する意識
診療(業務)内容の見直し
臨床評価指標への理解
職種間の情報共有
30 50 70 90 100(病院)
本事業では、臨床評価指標の中からテーマを選ぶことを基本的なルールとしています。臨床評価指標は、プロセス指標を中心に開発されていることから、各病院ではまず医療のプロセスを見直し改善することに取り組んでいます。この取組みが患者さんに対する望ましいアウトカムに結びつくには、長期的な活動が必要ですが、プロセスの面ではすでに成果が表れています。 以下は、平成28年度の報告会に参加した63病院に活動状況についてアンケートを行った結果です。
改善活動の事例紹介Ⅲ 改善活動の成果(平成2 8年度実績)Ⅳ
3 4
急性脳梗塞患者に対する早期リハビリテーション開始率(4日以内)
脳血管疾患リハに関するリハ科へのコンサルテーションが週3回としていた関係で、入院からリハ開始までに7日間要したケースがあった。
問題点
●神経外科、神経内科から直接リハビリオーダーを可能とすることで、リハビリ開始までの日数の短縮を図る。●オーダ日当日のリハビリ開始ができるよう、リハビリ科の体制を整える。
計画
47.1% → 73.1%リハビリテーションの運用を見直すことで、一定の効果が得られた。
活動の評価
重症心身障害児(者)に対する骨密度測定の実施率
●意思疎通が困難な場合、1分間の足部の静止が必要な骨密度測定は難しいことがある。●足部に変形がある場合は、測定器に踵を置くことが難しい。
問題点
●骨密度測定器の踵を置く位置に患者の足がフィットするか、どうしたら1分間の静止が可能となるか、患者毎に多職種の関係者(児童指導員や保育士を含む)でカンファレンスを行う。●患者の負担を軽減するために、脳波測定に併せ睡眠時にCT撮影とともに測定ができないか模索する。
計画
32.1% → 80.0%測定の実施と併せて、多職種で測定値を共有することで、患者の移動時やリハビリ実施時等における骨折予防に積極的に取り組めるようになった。
活動の評価
ステントグラフト内挿術施行患者における抗菌薬3日以内中止率
●抗菌薬中止に関するデータ提供等の情報提供が十分にされていない。●クリティカルパスの有用性についての情報提供が不十分だった。
問題点
●クリティカルパスを作成し、パス内に抗菌薬中止時期を盛り込む。●採血実施における運用方法を見直す。●各診療科のカンファレンスなどを通じて、中止率のデータ提供を行うことを目指す。
計画
0.0% → 69.2%抗菌薬中止に係る意識統一が十分に図られていなかったが、委員会内で感染症の発生リスクを数値化し、検証を行った結果、共通認識を持った上での投与が可能となり、投与期間が改善された。
活動の評価
自院で設定した活動目標の達成状況
医療の質の改善活動で実際に改善されたと思うもの(複数回答可)
0% 20% 40% 60% 80% 100%
■悪くなった ■やや下降 ■現状維持 ■上昇 ■達成
40%
3%
54%上昇 達成
1%1%
94%の病院に改善が見られました。
0 20 40 60 8010
患者(家族)とのコミュニケーション
職場の環境・雰囲気
診療体制
診療科間の情報共有
DPCデータやレセプトデータの質
業務効率
診療報酬面
診療科内の情報共有
チーム医療の推進
自院の問題点の把握と院内共有
標準化医療(治療・業務)に対する意識
診療(業務)内容の見直し
臨床評価指標への理解
職種間の情報共有
30 50 70 90 100(病院)
定期的、継続的な改善活動のモニタリングと評価
ワークショップ
臨床評価指標の集計結果(暫定値)
の送付(年4回)
診療情報分析部では、3ヶ月に1回、臨床評価指標の集計結果(暫定値)を全病院のQM委員会に送付しています。 この集計結果は、活動の成果の評価に使用されたり、活動を行う現場にフィードバックされたりして、活用されています。
効率的な活動を支える
PDCA活動報告書
P・D・C・Aのすべての情報が1枚に記載された報告書を用意し、各病院が使用しています。 この1枚でカンファレンスや会議が完結するため、新しい資料を作る必要がなく、無駄な時間を省くことができます。また、この報告書は、病院間での活動成果の共有にも使われます。
活動をスムーズに遂行するため、全病院を対象としてワークショップを開催しています。 ワークショップでは、PDCAの概念や活動の進め方を学ぶと共に、活動を進める上で生じやすい問題等について、グループディスカッションを行います。 平成29年7月に開催したワークショップでは、同じ職種同士、あるいは病院機能が同じ病院同士でディスカッションを行い、現場に即した様々な意見が出されました。参加者からは、「他の病院の様子が聞けてよかった」「他の病院とこのように議論する場は他にないので、参加してよかった」などの声が多く聞かれました。
国立病院総合医学会での成果発表
PDCAポスターセッションを設け、各病院の改善の取り組みを発表する場を作っています。
テキストによる成功のノウハウを共有
これまでの活動から見えてきた活動を成功に導くポイントを整理し、テキストにまとめました。 このテキストは全病院のQM委員会に配布し、現場で活用されています。 ワークショップに参加できなかった人や、新たに活動に参加する人も、このテキストがあれば、スムーズに活動に参加することができます。
P D C A活動報告書の共有
1年間の改善活動をまとめたPDCA活動報告書は、Hospnetの掲示板で共有しています。 これにより、報告会に参加できなかった人でも、他の病院の取り組みを知ることができます。
報告会
1年間の活動を終えた病院が集まって、
活動の成果を報告・共有するために、年に
1度報告会を開催します。
平成29年1月に行った報告会では、各病
院のユニークな取組みが紹介されました。
他病院の活動を知る貴重な機会になり、次
の活動を考える際にも役立つような、有益な
情報交換の場となりました。
各参加者が、良い取組みを行ったと思う
病院への投票を行い、63病院中10病院
が優秀賞に選ばれました。
継続的な改善活動のためのフォローアップ体制Ⅴ
5 6
20 21
第1章
総論
第1章
総論
第2章
実践
第2章
実践
第3章
実例
第3章
実例
付録
付録
QM委員会の設置とPDCA実施指標の決定 目標値の設定・現状分析・問題点抽出・計画立案
PDCAの具体的な手順
PDCAの具体的な手順準備 計画
QM委員会の設置
臨床評価指標の測定結果を目標値達成・未達成、またはNHO平均以上・以下で分ける。
目標値未達成(NHO平均以下)の指標、または改善の維持ができていない指標から、PDCA実施指標を決定する。
目標値未達成、またはNHO平均以下の指標の原因を分類する。
■QM委員会の役割とは? PDCAサイクルに基づく医療の質の改善活動の中心となる組織です。 自院の現状分析、問題点抽出、計画立案、活動の評価、改善策の考案などを各診療科の医師や多職種の職員と一緒に行います。改善活動のマネジメントを行います。 ■委員会の構成メンバー この取り組みには、医療や診療に関する知識の他に、DPCデータ等の医療情報に関する知識や分析のスキルが必要です。多職種からなる委員会を設置してください。 □副院長または診療統括部長 □医師 □看護師長 □薬剤師 □クリニカルパス委員長 □感染対策委員長 □診療情報管理士または医事課 □事務長、経営企画室長 □地域連携室
■マンパワー不足などは1年のPDCA活動で改善できるものではありません。 現在の資源配分などを見直し、どの程度までの改善を目指すかを議論して設定してください。■ 臨床評価指標の目標値は、ガイドラインなどの基づいて設定されていますが、個々の病院の事情を考慮したものではありません。各病院の患者構成や病院機能、地域特性を考慮して目標値を設定してください。
■ 臨床評価指標は、DPCデータやレセプトデータのみを用いて算出しています。そのため、臨床現場の状況を正確に反映しきれていない指標もあります。現状分析で、対象症例ではない症例がどの程度含まれているのかを把握し、その実態を踏まえた目標値を設定してください。
■「隠れ未達成」を見落とさないで! 測定結果が十分に高いものでも、その結果が偶然のものなのか、経年的に改善が維持されているものなのかを調べる必要があります。
■指標選択のポイント 原因が指標自体や指標の算出方法に問題があるものや症例ごとのバリエーションによるものの場合、PDCAサイクルで医療の質を改善することは難しくなります。 一方、診療やケアの質に問題があると考えられる指標やDPC・レセプトデータの質に問題がある場合は、積極的に改善に取り組む必要があります。
※指標を選ぶときは、病院あるいは診療科の方針にあったものを選ぶことも重要です。 目標未達成という理由だけでは、現場のみなさんの理解が得られないこともあるので注意してください。
■原因は以下の4つに分類します。 Ⅰ 診療やケアの質の問題 ➡改善可能 Ⅱ DPCやレセプトのデータの質の問題 ➡データ入力の見直しで改善可能 Ⅲ 指標自体や指標の算出方法の問題
➡院内の取り組みでは改善不可能 Ⅳ 症例(患者)ごとのバリエーションの問題 }
1
2
4
3
目標値の設定のポイント
客観的情報に基づいて、できるだけ具体的に数値などで現状を示します。 実施率だけでなく、診療科別や疾患別、術式別などに分解して分析すると、次の問題点抽出に繋がりやすくなります。
問題点を3つに分類し、一つずつ箇条書きにまとめることで、次の計画立案や改善(A)につなげやすくなります。
①構造の問題 データ算出困難、機器の不足・職員不足・施設基準など
②医療提供者側の問題 オーダーもれ・認識不足・情報共有の不足・連携不足など
③患者側の問題 重症例、拒否、対象外患者など
一つ一つの問題点に対し、改善可能か不可能かを見極めたうえで、各問題点に対応させる形で計画を立案します。 “気をつける”、“周知を図る”などの計画は具体性に欠けるため、活動の継続失敗の一因になることがあります。改善のための“仕組み作り”に重点をおいた具体的な行動計画を立案してください。 評価(C)につなげるためには、段階的な計画設定も有効的です。3か月、6か月、9か月の時点で到達すべき行動目標を設定することで、評価(C)時の評価基準が明確となり、多職種間で結果を共有しやすくなります。
108
第1章
総論
第2章
実践
第3章
実例
2.PDCAプロジェクトの第1期参加病院報告書の実例
付録
Plan(現状分析と計画)
● 2014年度の実績:脳卒中患者■件に対し管理料を算定したのは■件、実施率は48.3%であった。● 当予防対策におけるリスク評価は医療安全管理対策委員会「肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症予防マニュアル」に基づき行われている。● リスク評価は「静脈血栓塞栓症のリスク評価と予防調査票」により行われるが、手術、非手術により様式が異なる。● 手術を行う場合の予防対策はクリティカルパスの処置項目に挙げられているのに対し、非手術の場合はパスにない。● 予防対策は、救命病棟に入院している患者に対して主に実施されている。● 24時間以内に死亡した患者に対して予防対策を実施したのは1件のみであった。
● 非手術例に対しリスク評価を行うかどうかの基準がマニュアルになく、看護師の判断によるところが大きいため、本来予防対策すべき症例を漏らしている。● パスにのせているか、つまり手術、非手術によりオーダー方法が異なる。手術例に対する予防対策は、パスの適用により自動的にオーダーされるのに対し、非手術例はパスにないため、条件付指示によりオーダーしなければならない。そのため非手術例に対する管理料算定につながらない可能性がある。● 段階的弾性ストッキングの使用について「脳卒中治療ガイドライン2015」によると、脳梗塞に対して勧められない、脳出血に対する単独使用は行わないよう勧められるとある。管理料を算定するにはフットポンプの使用を効果的に行う必要がある。● リスク評価票へ医師や看護師の記載がないことがある。また、看護師の実施入力がされていないことがある。それにより管理料の算定が漏れている。● 抗凝固療法のみの予防対策に対しては当該管理料を算定できない。● 24時間以内死亡の患者に対してまで予防対策を行うことが適切かどうか疑問がある。● 輸血、創処理等の手術(Kコード)を行うと、対象外であった症例も「手術あり」として分母に含まれてしまう。 ※輸血(K920)は「手術あり」に含まれません。
● 非手術例のリスク評価のためのスクリーニング方法を統一する。「JCS3桁」、「寝たきり」、「肥満」のいずれかを満たす患者とし、対象患者全員にリスク評価を実施することで算定増をはかる。● 手術例に対してはパスに則り全員を対象に予防対策を行う。非手術例に対しては「脳卒中静脈血栓予防パス」という併用パスを新たに作成、適用することでオーダー漏れをなくす。● 手術時には必ず弾性ストッキングを装着するよう病院で決められているので算定は可能。非手術の際はフットポンプ(3日を終了基準とする)を使用するよう上記パスに組み込む。ストッキングを使用する際にも「皮膚トラブル」等の観察項目、「リハビリ依頼」のメモを入れ、ガイドラインに沿うよう作り込む。● 医師の指示による予防対策を行うため、また管理料を適切に算定するため、オーダーから算定までのフロー図を作成し、職員に周知する。● 重要な予防対策である抗凝固療法についても、院内における評価対象とするべくデータ抽出を行う。● 24時間以内死亡の患者についてデータ抽出を行い、早期死亡症例の適応基準について検討する。● 「手術あり」の症例を手術の種類別に分けた資料を作成し、「手術あり」かつ算定なしの原因を特定する。
現状分析
問題点
計画
脳卒中患者に対する静脈血栓塞栓症の予防対策の実施率
【指標21】
2015年度 PDCA取り組み指標
48.3%現在
60.0%目標
手順3:計画立案
手順1:現状分析
手順2:問題点抽出
現状値についてDPC・レセプトデータを活用して検証してみる
検証方法・結果
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第1章
総論
第1章
総論
第2章
実践
第2章
実践
第3章
実例
1.臨床評価指標を用いたDPC・レセプトデータによる
現状分析手法
第3章
実例
1.臨床評価指標を用いたDPC・レセプトデータによる
現状分析手法
付録
付録
計測対象
分子 分母のうち、入院日から4日以内に「H001$ 脳血管疾患等リハビリテーション料」が算定された患者数(入院日を1日目とする)
分母 入院契機傷病名と医療資源傷病名の両方に「I63$ 脳梗塞」が記載され、かつ発症から入院までが3日以内の退院患者数
現状値
実施率(分子/分母) ▶ 69.1%(114/165)NHO平均値±SD ▶ 85.1%±14.0
指標の構造と現状値を知る
よくある質問・意見
Q 実際よりも実施率が低いように思いますが…。
A 入院日を1日目とカウントしています。自院におけるカウントの仕方と異なることがあるので、注意してください。本指標は土・日・祝日も含めて入院日から4日以内のリハビリの開始となっています。土・日・祝日にリハビリを提供していない施設では実施率が低くなることがあります。
指標20:急性脳梗塞患者に対する早期リハビリテーション(4日以内)開始率
入院した曜日別の4日以内の開始率と入院からのリハ開始までの日数を調べてみる。
入院期間別のリハ実施率を調べてみる。
1
2
入院曜日 分母 分子 実施率 開始までの
日数(中央値)
月曜日 19 19 100.0% 2
火曜日 25 24 96.0% 2
水曜日 25 23 92.0% 2
木曜日 30 9 30.0% 4
金曜日 30 8 26.7% 4
土曜日 21 16 76.2% 3
日曜日 15 15 100.0% 2
入院期間 分母 分子 実施率
4~7日 4 3 75.0%
8~ 14日 80 57 71.3%
15~ 30日 52 39 75.0%
31日~ 29 15 51.7%
木曜日と金曜日の入院症例の4日以内のリハ開始率が低くなっています。また、入院からリハ開始までの日数は、他の曜日と比べて2倍遅れています。土・日の影響が考えられます。
入院期間が30日以内の場合、入院からリハ開始までの日数には大きな違いはないようです。また、入院期間が短いケースは、リハが介入せずに退院している可能性が考えられます。
現状値についてDPC・レセプトデータを活用して検証してみる
検証方法・結果
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第1章
総論
第1章
総論
第2章
実践
第2章
実践
第3章
実例
1.臨床評価指標を用いたDPC・レセプトデータによる
現状分析手法
第3章
実例
1.臨床評価指標を用いたDPC・レセプトデータによる
現状分析手法
付録
付録
計測対象
分子 分母のうち、当該入院中に「B001-6 肺血栓塞栓症予防管理料」が算定された患者数
分母 主傷病名に「I60$ くも膜下出血」「I61$ 脳内出血」「I63$ 脳梗塞」「I69$ 脳血管疾患の続発・後遺症」のいずれかが記載された退院患者数
現状値
実施率(分子/分母) ▶ 60.7%(51/84)NHO平均値±SD ▶ 40.2%±24.3
指標の構造と現状値を知る
よくある質問・意見
Q 手術をしていない患者や抗凝固薬を投与している患者も分母の対象になりますか?
A 分母の算出条件には手術の有無や投薬情報は含まれていないため、このようなケースも分母に含まれる可能性があります。
Q 入院後すぐに死亡した症例も分母に含まれていますか?
A 24時間以内死亡退院患者を除外する条件設定はしていないため、死亡症例も含まれることがあります。
Q 「G81$ 片麻痺」の症例は含まれていないのですか?
A 現在の算出条件では、含まれていません。自院で検討する時は「G81$ 片麻痺」も含めて検討することで、より現状を詳細に評価できます。
Q 弾性ストッキングはガイドラインから除外されましたが、分子に含まれていますか?
A 現在の算出条件には含まれています。次回の指標見直し時の検討事項にします。
指標21:脳卒中患者に対する静脈血栓塞栓症の予防対策の実施率
手術の有無別、抗凝固薬投与の有無別の実施率を調べてみる。
24時間以内死亡症例を調べてみる。
分母84症例のうち、6症例が24時間以内死亡症例でした。6症例のうち1症例は静脈血栓塞栓症の予防対策を実施していました。
1
2
分母手術
あり なし
抗凝固薬投与
あり 分母54・分子41実施率75.9%
分母11・分子2実施率18.2%
分母に24時間死亡1症例含む
なし分母6・分子5実施率83.3%
分母に24時間死亡1症例含む
分母13・分子3実施率23.1%
分母に24時間死亡4症例含む
手術有で抗凝固薬の投与がない症例、または手術無で抗凝固薬の投与がない症例では、静脈血栓塞栓症の予防対策の必要性は高くなると思われます。こうした症例に焦点をあてて調べると、現状がより詳細に評価できます。
病名別に実施率を算出してみる。
「G81$片麻痺」の症例を分母に含めて、分子・実施率を調べてみる。
3
4
ICD10コード 医療資源傷病名 分母 分子 実施率
I60$ くも膜下出血 15 12 80.0%
I61$ 脳内出血 27 20 74.1%
I63$ 脳梗塞 41 19 46.3%
I69$ 脳血管疾患の続発・後遺症 1 0 0.0%
分母 分子 実施率
92 54 58.70%
脳梗塞では、抗凝固薬の使用や早期の離床により、実施率が低くなっていると考えられます。
G81$ 片麻痺は8名いました。「G81$ 片麻痺」の症例を含めて検討することで、より現状を詳細に評価できます。
Plan
Do &Check
現状分析問題整理
Act
定期的、継続的な改善活動のモニタリングと評価
ワークショップ
臨床評価指標の集計結果(暫定値)
の送付(年4回)
診療情報分析部では、3ヶ月に1回、臨床評価指標の集計結果(暫定値)を全病院のQM委員会に送付しています。 この集計結果は、活動の成果の評価に使用されたり、活動を行う現場にフィードバックされたりして、活用されています。
効率的な活動を支える
PDCA活動報告書
P・D・C・Aのすべての情報が1枚に記載された報告書を用意し、各病院が使用しています。 この1枚でカンファレンスや会議が完結するため、新しい資料を作る必要がなく、無駄な時間を省くことができます。また、この報告書は、病院間での活動成果の共有にも使われます。
活動をスムーズに遂行するため、全病院を対象としてワークショップを開催しています。 ワークショップでは、PDCAの概念や活動の進め方を学ぶと共に、活動を進める上で生じやすい問題等について、グループディスカッションを行います。 平成29年7月に開催したワークショップでは、同じ職種同士、あるいは病院機能が同じ病院同士でディスカッションを行い、現場に即した様々な意見が出されました。参加者からは、「他の病院の様子が聞けてよかった」「他の病院とこのように議論する場は他にないので、参加してよかった」などの声が多く聞かれました。
国立病院総合医学会での成果発表
PDCAポスターセッションを設け、各病院の改善の取り組みを発表する場を作っています。
テキストによる成功のノウハウを共有
これまでの活動から見えてきた活動を成功に導くポイントを整理し、テキストにまとめました。 このテキストは全病院のQM委員会に配布し、現場で活用されています。 ワークショップに参加できなかった人や、新たに活動に参加する人も、このテキストがあれば、スムーズに活動に参加することができます。
P D C A活動報告書の共有
1年間の改善活動をまとめたPDCA活動報告書は、Hospnetの掲示板で共有しています。 これにより、報告会に参加できなかった人でも、他の病院の取り組みを知ることができます。
報告会
1年間の活動を終えた病院が集まって、
活動の成果を報告・共有するために、年に
1度報告会を開催します。
平成29年1月に行った報告会では、各病
院のユニークな取組みが紹介されました。
他病院の活動を知る貴重な機会になり、次
の活動を考える際にも役立つような、有益な
情報交換の場となりました。
各参加者が、良い取組みを行ったと思う
病院への投票を行い、63病院中10病院
が優秀賞に選ばれました。
継続的な改善活動のためのフォローアップ体制Ⅴ
5 6
20 21
第1章
総論
第1章
総論
第2章
実践
第2章
実践
第3章
実例
第3章
実例
付録
付録
QM委員会の設置とPDCA実施指標の決定 目標値の設定・現状分析・問題点抽出・計画立案
PDCAの具体的な手順
PDCAの具体的な手順準備 計画
QM委員会の設置
臨床評価指標の測定結果を目標値達成・未達成、またはNHO平均以上・以下で分ける。
目標値未達成(NHO平均以下)の指標、または改善の維持ができていない指標から、PDCA実施指標を決定する。
目標値未達成、またはNHO平均以下の指標の原因を分類する。
■QM委員会の役割とは? PDCAサイクルに基づく医療の質の改善活動の中心となる組織です。 自院の現状分析、問題点抽出、計画立案、活動の評価、改善策の考案などを各診療科の医師や多職種の職員と一緒に行います。改善活動のマネジメントを行います。 ■委員会の構成メンバー この取り組みには、医療や診療に関する知識の他に、DPCデータ等の医療情報に関する知識や分析のスキルが必要です。多職種からなる委員会を設置してください。 □副院長または診療統括部長 □医師 □看護師長 □薬剤師 □クリニカルパス委員長 □感染対策委員長 □診療情報管理士または医事課 □事務長、経営企画室長 □地域連携室
■マンパワー不足などは1年のPDCA活動で改善できるものではありません。 現在の資源配分などを見直し、どの程度までの改善を目指すかを議論して設定してください。■ 臨床評価指標の目標値は、ガイドラインなどの基づいて設定されていますが、個々の病院の事情を考慮したものではありません。各病院の患者構成や病院機能、地域特性を考慮して目標値を設定してください。
■ 臨床評価指標は、DPCデータやレセプトデータのみを用いて算出しています。そのため、臨床現場の状況を正確に反映しきれていない指標もあります。現状分析で、対象症例ではない症例がどの程度含まれているのかを把握し、その実態を踏まえた目標値を設定してください。
■「隠れ未達成」を見落とさないで! 測定結果が十分に高いものでも、その結果が偶然のものなのか、経年的に改善が維持されているものなのかを調べる必要があります。
■指標選択のポイント 原因が指標自体や指標の算出方法に問題があるものや症例ごとのバリエーションによるものの場合、PDCAサイクルで医療の質を改善することは難しくなります。 一方、診療やケアの質に問題があると考えられる指標やDPC・レセプトデータの質に問題がある場合は、積極的に改善に取り組む必要があります。
※指標を選ぶときは、病院あるいは診療科の方針にあったものを選ぶことも重要です。 目標未達成という理由だけでは、現場のみなさんの理解が得られないこともあるので注意してください。
■原因は以下の4つに分類します。 Ⅰ 診療やケアの質の問題 ➡改善可能 Ⅱ DPCやレセプトのデータの質の問題 ➡データ入力の見直しで改善可能 Ⅲ 指標自体や指標の算出方法の問題
➡院内の取り組みでは改善不可能 Ⅳ 症例(患者)ごとのバリエーションの問題 }
1
2
4
3
目標値の設定のポイント
客観的情報に基づいて、できるだけ具体的に数値などで現状を示します。 実施率だけでなく、診療科別や疾患別、術式別などに分解して分析すると、次の問題点抽出に繋がりやすくなります。
問題点を3つに分類し、一つずつ箇条書きにまとめることで、次の計画立案や改善(A)につなげやすくなります。
①構造の問題 データ算出困難、機器の不足・職員不足・施設基準など②医療提供者側の問題 オーダーもれ・認識不足・情報共有の不足・連携不足など③患者側の問題 重症例、拒否、対象外患者など
一つ一つの問題点に対し、改善可能か不可能かを見極めたうえで、各問題点に対応させる形で計画を立案します。 “気をつける”、“周知を図る”などの計画は具体性に欠けるため、活動の継続失敗の一因になることがあります。改善のための“仕組み作り”に重点をおいた具体的な行動計画を立案してください。 評価(C)につなげるためには、段階的な計画設定も有効的です。3か月、6か月、9か月の時点で到達すべき行動目標を設定することで、評価(C)時の評価基準が明確となり、多職種間で結果を共有しやすくなります。
108
第1章
総論
第2章
実践
第3章
実例
2.PDCAプロジェクトの第1期参加病院報告書の実例
付録
Plan(現状分析と計画)
● 2014年度の実績:脳卒中患者■件に対し管理料を算定したのは■件、実施率は48.3%であった。● 当予防対策におけるリスク評価は医療安全管理対策委員会「肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症予防マニュアル」に基づき行われている。● リスク評価は「静脈血栓塞栓症のリスク評価と予防調査票」により行われるが、手術、非手術により様式が異なる。● 手術を行う場合の予防対策はクリティカルパスの処置項目に挙げられているのに対し、非手術の場合はパスにない。● 予防対策は、救命病棟に入院している患者に対して主に実施されている。● 24時間以内に死亡した患者に対して予防対策を実施したのは1件のみであった。
● 非手術例に対しリスク評価を行うかどうかの基準がマニュアルになく、看護師の判断によるところが大きいため、本来予防対策すべき症例を漏らしている。● パスにのせているか、つまり手術、非手術によりオーダー方法が異なる。手術例に対する予防対策は、パスの適用により自動的にオーダーされるのに対し、非手術例はパスにないため、条件付指示によりオーダーしなければならない。そのため非手術例に対する管理料算定につながらない可能性がある。● 段階的弾性ストッキングの使用について「脳卒中治療ガイドライン2015」によると、脳梗塞に対して勧められない、脳出血に対する単独使用は行わないよう勧められるとある。管理料を算定するにはフットポンプの使用を効果的に行う必要がある。● リスク評価票へ医師や看護師の記載がないことがある。また、看護師の実施入力がされていないことがある。それにより管理料の算定が漏れている。● 抗凝固療法のみの予防対策に対しては当該管理料を算定できない。● 24時間以内死亡の患者に対してまで予防対策を行うことが適切かどうか疑問がある。● 輸血、創処理等の手術(Kコード)を行うと、対象外であった症例も「手術あり」として分母に含まれてしまう。 ※輸血(K920)は「手術あり」に含まれません。
● 非手術例のリスク評価のためのスクリーニング方法を統一する。「JCS3桁」、「寝たきり」、「肥満」のいずれかを満たす患者とし、対象患者全員にリスク評価を実施することで算定増をはかる。● 手術例に対してはパスに則り全員を対象に予防対策を行う。非手術例に対しては「脳卒中静脈血栓予防パス」という併用パスを新たに作成、適用することでオーダー漏れをなくす。● 手術時には必ず弾性ストッキングを装着するよう病院で決められているので算定は可能。非手術の際はフットポンプ(3日を終了基準とする)を使用するよう上記パスに組み込む。ストッキングを使用する際にも「皮膚トラブル」等の観察項目、「リハビリ依頼」のメモを入れ、ガイドラインに沿うよう作り込む。● 医師の指示による予防対策を行うため、また管理料を適切に算定するため、オーダーから算定までのフロー図を作成し、職員に周知する。● 重要な予防対策である抗凝固療法についても、院内における評価対象とするべくデータ抽出を行う。● 24時間以内死亡の患者についてデータ抽出を行い、早期死亡症例の適応基準について検討する。● 「手術あり」の症例を手術の種類別に分けた資料を作成し、「手術あり」かつ算定なしの原因を特定する。
現状分析
問題点
計画
脳卒中患者に対する静脈血栓塞栓症の予防対策の実施率
【指標21】
2015年度 PDCA取り組み指標
48.3%現在
60.0%目標
手順3:計画立案
手順1:現状分析
手順2:問題点抽出
現状値についてDPC・レセプトデータを活用して検証してみる
検証方法・結果
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第1章
総論
第1章
総論
第2章
実践
第2章
実践
第3章
実例
1.臨床評価指標を用いたDPC・レセプトデータによる
現状分析手法
第3章
実例
1.臨床評価指標を用いたDPC・レセプトデータによる
現状分析手法
付録
付録
計測対象
分子 分母のうち、入院日から4日以内に「H001$ 脳血管疾患等リハビリテーション料」が算定された患者数(入院日を1日目とする)
分母 入院契機傷病名と医療資源傷病名の両方に「I63$ 脳梗塞」が記載され、かつ発症から入院までが3日以内の退院患者数
現状値
実施率(分子/分母) ▶ 69.1%(114/165)NHO平均値±SD ▶ 85.1%±14.0
指標の構造と現状値を知る
よくある質問・意見
Q 実際よりも実施率が低いように思いますが…。
A 入院日を1日目とカウントしています。自院におけるカウントの仕方と異なることがあるので、注意してください。本指標は土・日・祝日も含めて入院日から4日以内のリハビリの開始となっています。土・日・祝日にリハビリを提供していない施設では実施率が低くなることがあります。
指標20:急性脳梗塞患者に対する早期リハビリテーション(4日以内)開始率
入院した曜日別の4日以内の開始率と入院からのリハ開始までの日数を調べてみる。
入院期間別のリハ実施率を調べてみる。
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2
入院曜日 分母 分子 実施率 開始までの
日数(中央値)
月曜日 19 19 100.0% 2
火曜日 25 24 96.0% 2
水曜日 25 23 92.0% 2
木曜日 30 9 30.0% 4
金曜日 30 8 26.7% 4
土曜日 21 16 76.2% 3
日曜日 15 15 100.0% 2
入院期間 分母 分子 実施率
4~7日 4 3 75.0%
8~ 14日 80 57 71.3%
15~ 30日 52 39 75.0%
31日~ 29 15 51.7%
木曜日と金曜日の入院症例の4日以内のリハ開始率が低くなっています。また、入院からリハ開始までの日数は、他の曜日と比べて2倍遅れています。土・日の影響が考えられます。
入院期間が30日以内の場合、入院からリハ開始までの日数には大きな違いはないようです。また、入院期間が短いケースは、リハが介入せずに退院している可能性が考えられます。
現状値についてDPC・レセプトデータを活用して検証してみる
検証方法・結果
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第1章
総論
第1章
総論
第2章
実践
第2章
実践
第3章
実例
1.臨床評価指標を用いたDPC・レセプトデータによる
現状分析手法
第3章
実例
1.臨床評価指標を用いたDPC・レセプトデータによる
現状分析手法
付録
付録
計測対象
分子 分母のうち、当該入院中に「B001-6 肺血栓塞栓症予防管理料」が算定された患者数
分母 主傷病名に「I60$ くも膜下出血」「I61$ 脳内出血」「I63$ 脳梗塞」「I69$ 脳血管疾患の続発・後遺症」のいずれかが記載された退院患者数
現状値
実施率(分子/分母) ▶ 60.7%(51/84)NHO平均値±SD ▶ 40.2%±24.3
指標の構造と現状値を知る
よくある質問・意見
Q 手術をしていない患者や抗凝固薬を投与している患者も分母の対象になりますか?
A 分母の算出条件には手術の有無や投薬情報は含まれていないため、このようなケースも分母に含まれる可能性があります。
Q 入院後すぐに死亡した症例も分母に含まれていますか?
A 24時間以内死亡退院患者を除外する条件設定はしていないため、死亡症例も含まれることがあります。
Q 「G81$ 片麻痺」の症例は含まれていないのですか?
A 現在の算出条件では、含まれていません。自院で検討する時は「G81$ 片麻痺」も含めて検討することで、より現状を詳細に評価できます。
Q 弾性ストッキングはガイドラインから除外されましたが、分子に含まれていますか?
A 現在の算出条件には含まれています。次回の指標見直し時の検討事項にします。
指標21:脳卒中患者に対する静脈血栓塞栓症の予防対策の実施率
手術の有無別、抗凝固薬投与の有無別の実施率を調べてみる。
24時間以内死亡症例を調べてみる。
分母84症例のうち、6症例が24時間以内死亡症例でした。6症例のうち1症例は静脈血栓塞栓症の予防対策を実施していました。
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分母手術
あり なし
抗凝固薬投与
あり 分母54・分子41実施率75.9%
分母11・分子2実施率18.2%
分母に24時間死亡1症例含む
なし分母6・分子5実施率83.3%
分母に24時間死亡1症例含む
分母13・分子3実施率23.1%
分母に24時間死亡4症例含む
手術有で抗凝固薬の投与がない症例、または手術無で抗凝固薬の投与がない症例では、静脈血栓塞栓症の予防対策の必要性は高くなると思われます。こうした症例に焦点をあてて調べると、現状がより詳細に評価できます。
病名別に実施率を算出してみる。
「G81$片麻痺」の症例を分母に含めて、分子・実施率を調べてみる。
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ICD10コード 医療資源傷病名 分母 分子 実施率
I60$ くも膜下出血 15 12 80.0%
I61$ 脳内出血 27 20 74.1%
I63$ 脳梗塞 41 19 46.3%
I69$ 脳血管疾患の続発・後遺症 1 0 0.0%
分母 分子 実施率
92 54 58.70%
脳梗塞では、抗凝固薬の使用や早期の離床により、実施率が低くなっていると考えられます。
G81$ 片麻痺は8名いました。「G81$ 片麻痺」の症例を含めて検討することで、より現状を詳細に評価できます。
Plan
Do &Check
現状分析問題整理
Act
機構内に向けた情報発信:「NHOだより」
「NHOだより」は、機構内に発信されている機関誌です。診療情報分析部では、ワークショップや報告会の様子を「NHOだより」で紹介し、本事業が広く周知されるよう情報発信を行っています。(NHOだより No. 149 No. 153)
一般に向けた情報発信:「NHO P R E S S」
「NHO PRESS ~国立病院機構通信~」は多くの方に国立病院機構のことを知っていただくために刊行している広報誌です。そのvol. 4で、QM委員会の活動が特集されました。 全病院を代表して、花巻病院と三重中央医療センターが取材に応じました。活動を通じた現場の変化や患者さんとの関わりの変化、活動に対する思い等が紹介されています。
情報発信Ⅵ
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機構内に向けた情報発信:「NHOだより」
「NHOだより」は、機構内に発信されている機関誌です。診療情報分析部では、ワークショップや報告会の様子を「NHOだより」で紹介し、本事業が広く周知されるよう情報発信を行っています。(NHOだより No. 149 No. 153)
一般に向けた情報発信:「NHO P R E S S」
「NHO PRESS ~国立病院機構通信~」は多くの方に国立病院機構のことを知っていただくために刊行している広報誌です。そのvol. 4で、QM委員会の活動が特集されました。 全病院を代表して、花巻病院と三重中央医療センターが取材に応じました。活動を通じた現場の変化や患者さんとの関わりの変化、活動に対する思い等が紹介されています。
情報発信Ⅵ
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独立行政法人国立病院機構本部総合研究センター診療情報分析部
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