【問題7-1】次の反応で代表されるs n · 2011-11-29 · 1...
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1 【問題 7-1】次の反応で代表される SN1 求核置換反応(unimolecular nucleophilic substitution)の特徴を述べよ。
《解説》2-Chloro-2-methylpropane (tert-butyl chloride)の中心の炭素は 3つのメチル基と 1つの塩素を結合した sp3混成軌道から成る四面体構造であり、大変込み合った(立体障害のある)構造である。また、C-Cl 結合は塩素の電気陰性度により分極しているので、メタノール水溶液中で C-Cl 結合が切れてカルボカチオンと塩素陰イオンになりやすい。なぜならば、C-Cl 結合が切れると、込み合った(立体障害のある)構造が sp2混成の平面構造であるカルボカチオンとなるので、ひずみが解消される。また、生成したカルボカチオンはメチル基の電子を押し込む誘起効果により安定化されるし、一方、塩素陰イオンは不活性ガスのアルゴン電子配置とり、メタノール水溶液中で安定である。
このカルボカチオンが生成するまでの反応には溶媒である水分子は関与しない。一旦できたカルボカチオンと塩素陰イオンは水分子によって溶媒和(solvation)され、安定化する。次に、生成したカルボカチオンは平面構造なので、水分子の攻撃を左右(または上下)から同じ確率で受けることとなる。その後、それぞれから生成したオキソニウムイオンは脱プロトンを起こり、最終生成物である 2-methyl-2-propanol (tert-butyl alcohol)が得られる。もし、3 つのメチル基がすべて異なる不斉炭素から成る化合物であるならば、生成物のアルコールはラセミ混合物となる。
この反応はカルボカチオンが生成するかどうかにかかっているので、速度論的には溶媒分子の濃度に依存し
CH3CCH3
CH3
Cl CH3CCH3
CH3
OHH2O
CH3OH(solvent)
CH3CCH3
CH3
Cl!-!+
CH3CCH3
CH3
-Cl-
遅いCH3CCH3
CH3
OHH2O
速い
SN1反応 反応速度v =k[(CH3)3C-Cl] 1分子反応
炭素陽イオンCarbocation
電子不足炭素
CH3
CH3H3C
H3C
ClH3C
H3C
+ Cl
OH H OH H
H3C
OH3C
H3C
CH3
OCH3
CH3
+H
H
H
H
H3C
OH3C
H3C
CH3
OCH3
CH3
+HH
-H-H
2 ない一次反応速度式に従う。エネルギー図で説明すると、遅いカルボカチオン生成過程(律速段階)を経て、速い水分子の攻撃が起こる次のような図となる。ここで、カルボカチオンはエネルギー図では「谷」に当たる化合物なので、中間体(intermediate)と呼ばれる。
以上をまとめると、SN1 求核置換反応の特徴は次のようになる。 1)反応速度は、基質の濃度のみに依存する一次速度式で表される(一分子反応)。 2)反応の途中にカルボカチオン中間体を経る(カルボカチオンが生成する必然性あり)。 3)不斉炭素を含む SN1 求核置換反応では、ラセミ混合物を与える(カルボカチオンが平面構造であることに起因する)。 【問題 7-2】次の反応で代表される SN2 求核置換反応(bimolecular nucleophilic substitution)の特徴を述べよ。
《解説》臭化メチル(methyl bromide)は 2-chloro-2-methylpropane のように込み合っていないので、立体 的 に は 安 定 で あ る 。 C-Br 結 合 は 臭 素 の 電 気 陰 性 度 に よ り 分 極 し て い る 。 し か し 、2-chloro-2-methylpropane のように自動的に切れてメチルカチオンと臭素陰イオンになることは無い。なぜならば、メチルカチオンを安定化させる要因が何も無いからである。すなわち、不安定なカチオン中間体は生成しない。従って、臭化メチルからメタノールを得るためには、分極した炭素を攻撃して臭素を臭素イオンとして押し出すことのできる強力な水酸化物イオン(求核試薬)が必要である。
自動的に切れない C-Br 結合を切り、この反応を起こすためには、その結合の反対側から強力な水酸化物イオンを攻撃させる必要がある(push-pull 原理)。よって、反応速度は基質の濃度と加える塩基の濃度の両方に
H3C CCH3
CH3Cl
H3C CCH3
CH3OH
H3C CCH3
CH3
Energy
E1
E2
v1
v2遅い 速い
v = k[(CH3)3C-Cl]
CHH
H
Br CHH
H
OHOH
H2O/CH3OH(solvent)
CHH
HBr!-!+
CH+ OH
CHOH
HH
- Br
H H
HO Br!- !-
反応速度v = k[CH3-Br][OH-]SN2反応 2分子反応
遷移状態Transition State
電子不足炭素
求核剤
3 依存することとなり(二分子反応)、二次反応速度式に従う。エネルギー図に示すと、次のようになる。
すなわち、C-Br 結合の反対側から水酸化物イオンが幾分正に分極した炭素に引かれて近づいてきて、HO•••C•••Br という遷移状態(transition state)を形成する。次に、臭素が臭素イオンとして押し出され、メタノールとなる。水酸化物イオンの攻撃は C-Br 結合を切断する手助けをしており、結果として臭素イオンが押し出される push-pull の原理に従う協奏反応(concerted reaction)ということになる。 ここで、不斉炭素を含む次の反応では SN1 求核置換反応のようにカルボカチオンを経ないので、水酸化物イオンの攻撃は C-Br 結合の反対側からなり、基質の立体化学は生成物で反転することとなる。この反転のことをWalden 反転と呼ぶ。
以上をまとめると、SN2 求核置換反応の特徴は次のようになる。 1)反応速度は、基質と試薬の両方の濃度に依存する二次速度式で表される(二分子反応)。 2)反応は遷移状態のみ存在し、カルボカチオン中間体を経ない(カルボカチオンが生成しない必然性あり)。 3)不斉炭素を含む SN2 求核置換反応では、Walden 反転を起こし、立体化学が逆転する。 一般に、SN1 求核置換反応は三級炭素で起こり、SN2 求核置換反応は一級炭素で起こる。二級炭素では SN1か SN2 か、明確に区別できない場合も多い。Walden 反転を起こす SN2 求核置換反応は二級炭素上で起こる場合や、次の反応例のようにヒドロキシ基を p-toluenesulfonyl chloride のような良い離脱基で保護した場合に、結果として(強制的に)起こる。
反応速度v = k[CH3-Br][OH-]
H CH
HBr
HO CH
HH
Ener
gyE
CH
H HHO Br!- !- 遷移状態
Transition State
R1
R3R2
R1
BrR2R3
R1
HOR2
R3
置換基Brの背後からが攻撃OH
HO Br
光学活性体 光学活性体
!- !-
HO
遷移状態Transition State
+ Br
立体配置の反転が起こる
Walden Inversionワルデン反転
4
CH3
HPhH2C
H3C
OPhH2C
H
CH3
OCH2Ph
H
光学活性体
光学活性体
!- !-
遷移状態 Transition State
立体配置の反転が起こる
Walden Inversionワルデン反転
H
" = +33.0°
SO2Cl CH3
H3C
OPhH2C
H
SO2 CH3
-HCl
H3COO
OO
H3C O SO2 CH3
OH3C
H2OCH3
HOCH2Ph
H
CH3
SO3
-
" = -32.2°
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