新型インフルエンザ対策における サージカルマスク …「infection control」誌...

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「INFECTION CONTROL」誌 臨時 web 速報

新型インフルエンザ対策におけるサージカルマスク不足への代替案-地域発! 「咳エチケット」実施の現実的なアイデア-

松山記念病院 山内勇人,佐伯真穂道後温泉病院 大西 誠

はじめに -松山市における「咳エチケット」実践例- 2003 年の SARS 騒動を契機に提唱された「咳エチケット」の概念を,筆者らは,同じく主たる感染経路が飛沫感染である季節性インフルエンザ対策にいち早く導入した.なかでも,サージカルマスク着用を「誰でもすぐにできる究極の咳エチケット」として,医療機関内のみならず,市中においても推奨してきた 1, 2).

日本における 「マスク着用」の考え方の変遷

厚生労働省のインフルエンザ啓発ポスターから 本邦では SARS 騒動後も,厚生労働省のインフルエンザ 啓発ポスターが示すように,「ワクチン偏重,手洗い・うがい神話」とも感じられる対策が続いた.咳エチケットの概念は 2005年度から一部導入されたが,咳エチケット主体へと大きく変遷したのは 2007 年度からであった.これは 2007 年「隔離予防策のための CDCガイドライン」3, 4)のなかで,「呼吸器衛生 / 咳エチケット」が標準予防策として追加されたことの関与が大きいと考えられる. CDC はマスク着用を「医療施設に入るときに適用」するものとしており市中では推奨していないが,その影響からか,厚労省のポスターは CDC ポスターをそのまま和訳して用いており,2008 年度のポスターにおいてもマスク着用が最優先とされていなかった.一方,2008年に我々が松山市で作成した啓発ポスター

(図 1)では,マスク着用を最優先とした.

図 1 2008 年度の松山市の咳エチケット啓発ポスター

INFECTION CONTROL 2009 vol.18 no.7(647)9

新型インフルエンザ対策では 「マスク着用」が前面に

 しかし,新型インフルエンザ発生に伴い,本邦では咳エチケットのなかでもマスク着用が前面に出てきている.「咳エチケット」としての使用が基本であるが,状況によっては予防的効果もある程度は期待できること 5-9)から,「予防的着用」に対しても今の状況下でエビデンスの有無を問う者は少ないであろう.ただ,マスク着用が推奨される一方で,今後のマスク不足が懸念される.

インフルエンザ対策としての サージカルマスクの重要性

サージカルマスクは安価で高性能 現在,一般に売られている不織布マスクの性能は,医療機関で使用しているサージカルマスクとほぼ同等との報告もあるが,有事の際には粗雑なものが出てくる可能性も考えられる.また,市販の不織布マスクは使い捨てとして使用するには高価であることを考えると,「安価で高性能なサージカルマスク」を市中で流通させることは,非常に重要な新型インフルエンザ対策であり,国が積極的に関わるべき対策であると考える.

地域住民の間にサージカルマスクを 流通させる取り組み

 サージカルマスクは医療機関を対象としているため,もともと生産量としては多くなく,新たな投資も行いにくい状況のように感じる.そのため,筆者らは以前から,新型インフルエンザ出現を念頭に置き,まずは季節性インフルエンザ対策として,地域住民に「咳エチケットとサージカルマスク」を広め,医療施設以外にも

サージカルマスクが流通する状況を作るために取り組んできた 10, 11).需要を増やすことにより,安定した供給を増やし,その結果,単価の低下と有事の際の供給不足対策につながると考えたからである.

新型インフルエンザ発生後 サージカルマスクが不足している いま,市場では,すでにサージカルマスクが不足している. 本邦のマスク会社の多くが,安い人件費を求めて,中国に工場を持っている.SARS や四川大震災時と同様,中国人民の新型インフルエンザ対策用に自国の内需を固めるため,中国政府によるマスクの買い占めが始まり,海外への出荷停止命令も出ている状況が推察される. さらに,ある国内のマスクメーカーからの情報によると,中国でサージカルマスクを製造しているのは日本だけでなく,やはり安い人件費を求めて欧米各国もかなりの量のマスクを中国で製造しており,中国国内のマスクは,日本・中国国内分に加え欧米各国との取り合いの状態であるという.サージカルマスクの供給は,いつになれば安定するか分からない状況である. 感染拡大期にはもちろんのこと,社会的閉鎖が解除される収束期においても,マスク着用は必要となる.新型インフルエンザ対策が長期化する場合に加え,季節性インフルエンザ対策としての利用も考慮すると,冬季のサージカルマスク不足が危惧される.

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「紙マスク」の有効利用 -サージカルマスクが不足した場合の代替案- そこで,医療機関に限らず,教育機関,企業などにおいて,サージカルマスクの備蓄を進める努力を継続する一方で,不足することを想定し,代替案として,咳エチケットとしての効果が期待 12)できる「紙マスク」を有効利用することを提案したい.ただし,あくまで代用品であること,また,サージカルマスクに比べて息苦しさのために長時間使用には不向きである,などの問題点を考慮する必要がある.

地域で考えられる「紙マスク」の活用方法 地域での流行状況によるが,社会的閉鎖を考慮する前段階などで,乗り合いの交通機関や買い物時など短時間に人ごみに入る場合には,マスク非着用者に紙マスクを配布して着用してもらうなどいかがだろうか.予防的効果はあまり望めないとしても,全員が着用することにより潜伏期の人もマスクを着用することになるため,“ 強化 ” 咳エチケット対策といえる.学校や職場などのように,長時間着用する場合には,ガーゼをつけて使用するのが現実的かと考える.ガーゼを用いても費用としては 6 円程度で済むので,使い捨てで 1 日何セットか使用することも可能である.ガーゼマスクの上から,紙マスクをかぶせて使用することも一つの方法かと思われる. なお,これらにかかるコストであるが,行政で算出できれば問題ないが,店舗などでは地域で申し合わせをして,自前のマスクを着用していない場合には,紙マスクを提供する代わりに,新型インフルエンザ対策費用として利用者から数円いただくのも一つの方法かと考える.

●咳をするときの「肘ブロック」 を習慣づけよう さらに,咳をするときに,肘を曲げて内肘で口を覆う,「肘ブロック」13)も,マスク着用の有無に関わらず習慣づけていただきたい(図 2).衣服がマスクから漏れ出た飛沫を吸収してくれるだけでなく,内肘は手に触れる機会が少なく接触感染防止にも有用である.特に,紙マスク使用時は強い風圧のために,マスクが浮いて飛沫が飛び散りやすいため,その対策として有用と思われる.

おわりに マスク着用の普及には国民性が関与しているようであるが,花粉症対策のおかげで,マスク着用の光景は本邦ではさほど奇異でない.マスク対策は本邦から世界に発信できる対策であると考えられる. なお,マスク対策をより効果的にするためには,鼻を覆い密閉させた正しい着用を行うのはもちろんのこと,マスクを外す食事中や喫煙時などに,飛沫感染対策としての距離や位置を考慮したり,また十分に換気を行うなどの対策を併用することが重要である.

図 2 肘ブロック

INFECTION CONTROL 2009 vol.18 no.7(649)11

◎ 本記事は,病院感染対策の総合専門誌「INFECTION CONTROL」誌(メディカ出版)7 月号に掲載予定のものです.状況を考慮し,速報として web にて掲載しています.

◎本記事の無断引用・転載を禁じます.

文 献1) 河野恵ほか.臨床現場からみたインフルエンザ-新型

に備えてインフルエンザ対策を見直す-.Circles. 2007, 9(3),8-9.

2) 山内勇人ほか.わが病院の感染対策 第二部 道後温泉病院リウマチセンターの病院感染対策.化学療法の領域.23(9),2007, 1474-9.

3) CDC. Guideline for Isolation Precautions Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of In-fectious Agents in Healthcare Settings 2007.

4) 矢野邦夫ほか訳.医療現場における隔離予防策のための CDC ガイドライン.大阪,メディカ出版,2007,1-214.

5) 山内勇人ほか.インフルエンザ院内感染対策としての予防的マスク着用の有用性.環境感染.21,2006,81-6.

6) 学会トピックス : 予防的マスク対策でインフルエンザの二次感染を防ぐ.日経メディカル オンライン

(http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/flu2007/pickup/200803/505794.html)

7) 学会トピックス : マスクに一定のインフルエンザ予防効果を確認対策.日経メディカル オンライン(http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/flu2007/pick-up/200801/505340.html)

8) Ferguson, N. et al. A face mask prevent you getting flu, but only you were it. Emerging Infection Disease: February 2009.

9) Seto, WH. et al. Effectiveness of precautions against droplets and contact in prevention of nosocomial transmission of severe acute respiratory syndrome

(SARS). Lancet. 2003, 361, 1519.10) 山内勇人ほか.一般病院における新型インフルエンザ

対 策. 感 染 対 策 ICT ジ ャ ー ナ ル.3(4),2008,407-12,

11) 学会トピックス : 咳エチケットを聞いたことがないが80%も~キャンペーンソング「咳出る時のマナーぞな」などで普及に尽力~.日経メディカル オンライン

(http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/pan-demic/topics/200903/509785.html).

12) Inouye, S. et al. Masks for influenza patients : mea-surement of airflow from the mouth. Jnp. J. Infect. Dis. 2006, 59, 179-81.

13) これで安心! インフルエンザ “ 新 ” 対策.インフルエンザに強くなる授業を行う町~愛媛 松山市~.NHK

「難問解決 ご近所の底力」.2009 年 1 月 9・11 日放送. http://www.nhk.or.jp/gokinjo/backnumber/090111.html

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