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日皮会誌:90 (14), 1373-1380, 1980 (昭55)
ラット皮膚におけるヒアルロン酸合成酵素の検討
山 本
要 旨
Wistar系ラット背部の微景凍結乾燥皮膚組織を酵素
源としてヒアルロソ酸(以下HΛと略)合成酵素活性
を測定したUDP-N-acetyl-D-rU-"Cl-glucosamine (以
下UDP-GIcNAc-"Cと略)と UDP-D-glucuronic acid
(以下UDP-GlcUAと略)を基質としてO.IM Tris-
HCl buffer pH 7.0 とMg°の存在下に37°C,3時間反
応させ,下降法ペーパークロマトグラフィーを行ない多
糖体ポリマーとヌクレオタイドに分離した.原点にとど
まる多糖体ポリマーの放射活性をオートラジオグラフj
-で確認後,その放射活性を液体シンチレーションで測
定し,以下の結果を得た.
1)酵素源としての皮膚組織を含まない系および煮沸
した皮膚組織を用いた系では多糖体ポリマーの形成はみ
られない,
2)多糖体ポリマーは反応時間3時間まで直線的に増
加する.
3)多糖体ポリマベま皮膚組織lOmgまで直線的に
増加する. 上
4)本反応はPH依存性である. ・
5)本反応において,基質(UDP-GlcNAc-"C)に対
するみかけ上のKm値は2.4×10’5Mである.
以上より本反応は酵素的に進行していると考えられ
た.さらにヒアルロニダーゼ消化実験と二次元電気泳動
の結果より,多糖体ポリマーはHAを主とする物質で
あると考えられた.また,凍結乾燥皮膚組織に凍結融解
の操作を繰り返し加えた後の上清部分にも同様の多糖体
ポリマー合成活性がみられ,凍結乾燥皮膚組織そのまま
を用いた時の約60%の活性であった.
加齢との関係では,凍結乾燥重量あたり,胎児で多糖
体ポリマー合成活性は最高値を示した. l
岡山大学医学部皮膚科学教室(主任 野原 望教授)
Yasuo Yamamoto: Studies on hyaluronic acid syn-
thetase in rat skin.
昭和55年5月6日受理
別刷請求先:(〒700)岡山市鹿田町2 ― 5―1
岡山大学医学部皮膚科学教室 山本康生
康 生
緒 言
ムコ多糖(以下MPSと略)は生体の支持組繊を形づ
くる結合組織の1構成成分であり,皮膚においては,真
皮結合組織間基質として線維形成や水,電解質運搬を行
ない√表皮細胞間セタソト物質として大きな役割を果し
ている.そのMPSは,生体内の種々の生理的,病的
状態によって影響を受けている.その動態は生成された
MPSを定量することにより検討されてきた.その結果,
皮膚とくに真皮におけるMPSはHAとデルマタソ硫
酸とか主たる成分であり,加齢に伴いHAは減少し,
逆にデルマタソ硫酸は増加するといわれている!)~4≒ し
かし,部位別でみると一定のデータがみられない3) 5)-7)
そり一因として,定錨:するために比較的大量の材料を必
要とすることかあげられる.そのため,石川8)は比較的
少量の皮膚片より分離したMPSをセルローズアセテー
ト膜電気泳動で分画し,デソシトノーターにかけ, MPS
を半定量的に測定した.結合組織の種々の病態を論ずる
際に,生成された物質の定量的検討は1つの方法である
が,その物質の合成に関与する酵素活性をみれば,ある
病態の動的側面をより適確につかめると考えられる.著
者は合成経路におけるHA合成酵素に注目した.これ
までHA合成に関する報告はいくつかみられる9)-16)
とりわけ,ストレプトコッカスにおけるHA 合成機構
に関して精力的に研究が行なわれている13) lC)しかし,
皮膚におけるHA合成酵素活性測定はSchillerらの報
告9)10)以来みられない.その理由として,酵素活性の出
現が測定の際の試料調製に微妙に依存することがあげら
れる.著者は線維芽細胞におけるIshimotoらの方法11)
を一部改変しWistar系ラット背部の微量凍結乾燥皮膚
組織を用いて,皮膚におけるHA合成酵素活性の測定法
の確立を試み,かつ加齢に伴う変動について検討した.
材料と方法
I) HA合成酵素活性測定
Wistar系ラット背部皮膚をエーテル麻酔下に剃毛後
鋏で採取し,あらかじめディープフリーザー内で冷却し
ておいた合成樹脂性のまな板上に脂肪織を下にして凍結
固定した. -15°Cの冷凍庫内で替刃のメスを用いて表皮
1374
0。5M Tris-HCl buffer pH 7.0 0.05 ml
0.2M MgCI^ 0.035ml
O.OIM UDP-GIcUA 0.02 ml
0.077mM UDP-GlcNAc-"C* 0.05 ml
distilled water 0.115ml
Total 0.27 ml
(Penicillin lOOu/ml, Gentamicin 100μg/ml, ATP
3mM)
* specificactivity: 323mCi/inmol
図1 HA合成酵素活性測定における反応液
skin
↓
凍結後タスで削る(-15旬冷凍庫内)
↓
凍結乾燥
↓
incubation at 37・C in reaction mixture
↓
reaction stopped in boiling water
↓
homogenize
↓
凍結乾燥
↓
descending paper chromatography
↓
autoradiography
↓
liquid scintillation
山本 康生
図2 HA合成酵素活性測定の基本的操作
を荒削り除去した後,真皮を粉雪状の大きさに削り取り
凍結乾燥して試料(酵素源)とした.化学天秤で計量
後UDP-GlcNAc-"C (The Radiochemical Centre Am-
ersham England)とUDP-GlcUA (Sigma)とを基質と
して,図1に掲げる反応液中で37°C,3時間反応させた
後,3分間沸騰水で熱して反応を停止した.さらにI ml
用のガラスホモジェナイザー(Vitro)でポモジェナイ
スし凍結乾燥した.適量の蒸溜水で再懸濁させたものを
幅4cmのWhatman 3MMの濾紙にスポッ斗し,イソ酪
酸:INアンモニア=5:3の展開液で下降法ペーパー
クロマトグラフィーを48時間行ない,多糖体ポリマーと
ヌクレオタイドとを分離した.スポット原点にとどまる
多糖体ポリマー15)の放射活性を72時間のオートしラジオ
グラフ・f-(フジX線フィルムRX)で確認後,濾紙を
4×lcmのたんざく形に切り取り, 0.5mlの蒸溜水と
5mlのアクアゾール2(ボクスイブラウy)を加えた
後,アロカLSC-653液体シンチレーションスペクトp
skin L
sohicationin 1ml disUlIed water atかC L
1ml ice-cold 10%TCA
「___5tat 2,000Xg, forlOmin,・at4℃
Sup・ prec. |
1.5ml ice-cold 95% ethanol
→at 2,000Xg, tor10m in,at4℃
sup prec.
t
heated in lm]5% TCA for lOmin, at90°C
at2,000Xg, forlOmin よ
三二二〇min
heated
し
2ml O.IN NaOH for lOmin
r__jtat 2,000Xg, for lOmin
plみc. sup, 一一f。r[Protei司
図3 DNAと蛋白抽出操作
at90°C
タークー(日本無線医理学)にて測定した(図2).以
上を標準法とする.
II) MPSの抽出
I・)に記述した方法に従い作製した凍結乾燥皮膚組織
を4mg,反応液を各倍量とし37°C,3時間反応させた.
反応後0.2N NaOHを反応液に等量加え, 0 °C, 4時開
静置した後,24時間蒸溜水にて透析した.さらに■ O.IM
Tris-HCl buffer でpH 8.0 に調製し豚皮HA(生化学
工業) 2mgを加えた後プロナーゼP(和研化学)lmg/
10mlを0.1mlずつ12時間毎に加え,60°0, 48時間消化
した.消化終了後,終末濃度8%となるように50%トリ
クp-ル酢酸を加えた.0 °C,1時間静置した後,遠沈
除蛋白したものを蒸溜水に対し72時間透析し,凍結乾燥
後蒸溜水を加えてlm1とした.これを用いて,ヒアル
ロニダーゼ消化実験,二次元電気泳動を行なった.
Ill) DNAと蛋白の抽出および定量
I)で記述した方法に従い作製した凍結乾燥皮膚組織
2mgをlm1め蒸溜水に懸濁しMODEL W-225R ソ
ニケーター(Heat system)を用いoutput 3,0°C,
5分間ソニケーショソを行なった.その後の抽出は培養
表皮細胞におけるFlaxmanらの方法17)に従った(図
3). DNAはBurtonの変法18)により,蛋白はLowry
の方法19)により,200-20形日立ダブルビーム分光光度
計で比色定量した.
IV)ラット皮膚におけるHA合成酵素活性測定の基
礎的検討
1)ホモジェナイズしたのみの皮膚を酵素源とした系
ヒアルロン酸合成酵素
ラット背部皮膚をエーテル麻酔下に剃毛後鋏で採取
し,脂肪織を除いた後0.4gを鋏で細切した後1mlの
O.IM Tris・HCl bu汀erPH 7.0 を加え, 4°Cに冷やしな
がら,さらに鋏で細切しホモジェナイズした.皮膚100
mg湿重量相当を用いてその後の反応,測定は標準法に
よった.
2)皮膚組織を含まない系は標準法で行なった.
3)皮膚組織を煮沸した系は,反応前に皮膚組織を3
分間沸騰水で熱した他は標準法で行なった.
4)反応後上清のみを測定した系は標準法で反応さ
せた後,遠沈後上清のみ下降法ペーパークロマトグラ
フィーを行ない多糖体ポリマー合成活性を測定した.
5)可溶性画分を用いた系
I)に記述した方法に従い作製した凍結乾燥皮膚組織
lOOmgを10mlのO.IM Tris-HCl buffer PH 7.0 に懸濁
後,3回凍結融解を繰り返し, 10,000 xgの上清0.1ml
を酵素源として標準法で反応,測定した.
6)ヒアルロニダーゼ消化実験
11)で抽出した粗MPS画分0.4mlを,羊単丸ヒア
ルロニダーゼ0.2mg (Miles laboratories,1240u/mg)
を含むO.IM Sodium Acetate bufferpH 5.5 計lm1中で
37°C,24時間消化した後,蒸溜水に対し24時間透析後凍
結乾燥した.得られた非HA画分の放射活性を下降法
ペーパークロマトグラフィーを行なわず,直ちに0.5ml
の蒸溜水と5m1のアクアゾール2を加え,液体シソチ
レーショソスペクトロメーターで測定した.
7)二次元電気泳動2o)
II)で抽出した粗MPS画分を用い,セルローズア
セテート膜(SepraphoreⅢ10×10cm)にスポットし,
一次元の電極液にO.IMピリジソー0.47Mギ酸緩衝液
を用い1mA/cmで泳動を1時間行ない,二次元の電極
液にはO.IM酢酸バリウム溶液を用いlmA/cmで泳動
を4.5時間行なった.染色液には0.1%アルシアソブルー
溶液を用いた.二次元泳動後,セルローズアセテート膜
上の放射活性を2ヵ月間のオートラジオグラフィーで確
認した.
8) time course,皮膚組織重量との相関は標準法で行
なった.
9)PH依存性はpH 5.0~7.0にO.IM phosphate
buffer,pH 7.0~9.0にO.IM Tris-HCl bufferを使用し
標準法で検討した.
10)基質との相関
UDP-GlcNAc-''C濃度との相関, UDP-GlcUA濃度と
1375
の相関は標準法で行なった.
11) UDP-GlcUA-"CとUDP-GlcNAcとを基質とした
系は標準法に準じて,基質にUDP-GlcUA-^C (specific
activity, 321mCi/mmol) (The Radiochemical Centre
Amersham England)を14μM, UDP-GlcNAc (Sigma)
を740.7μM使用しUDP-GlcNAcを含まないものを
対照として検討した.
V)加齢に伴うHA合成酵素活性の変動
分娩直前のラット胎児(雌雄区別なし)10匹および
1, 2, 3, 4, 6, 9, 13週齢の雌雄各5匹ずつ(た
だし1週齢雌のみ4匹)を用いた.標準法に従い,皮膚
組織各2mgで検討した.さらに分娩直前の胎児2匹,
1, 2, 3, 4, 6, 9, 13週齢雌雄各1匹ずっを用い
て,Ⅲ)の方法により皮膚組織のDNAと蛋白を定量し
た.
結 果
1)ホモジェナイズしたのみの皮膚を酵素源とした系
多糖体ポリマー合成活性は認められなかった.
2)皮膚組織を含まない系
皮膚組織の有無による多糖体ポリマー合成活性の比較
を行なったところ表1,図4の結果が得られ,皮膚組織
を含む系のみ多糖体ポリマー合成活性が認められた.
3)皮膚組織を煮沸した系
表2に示す如く,反応前に皮膚組織を煮沸した系で
は,多糖体ポリマー合成活性は認められなかった.
4)反応後上清のみを測定した系
表3に示す如く,反応後の上清には多糖体ポリマーは
認められなかった.
5)可溶性画分を用いた系
可溶性画分を酵素源とした場合,多糖体ポリマー合成
活性は標準法で認められる活性の約60%であった(表
4).
6)ヒアルロニダーゼ消化実験
生成された多糖体ポリマーの約70%が羊皐丸ヒアルロ
ニダーゼにより消化された(表5).
7)二次元電気泳動
標準HAの部にスポットがあり,同部位に放射活性
が認められた(図5).
8) time course
反応時間3時間まで多糖体ポリマー合成活性はほぽ直
線的に増加した(図6).
9)皮膚組織重量との相関
皮膚組織lOmgまで多糖体ポリマー合成活性はほぼ直
1376
人I 皮膚糾織の町無による多柏体ポリ一一
合成活性.皮唐組織を含打系では,成熟ム
ラヴト服の皮膚組繊2.6 mgを使川した.
incorporated UDP-GlcNAc-"'C
㎜㎜㎜■㎜㎜ ・㎜㎜■・・■㎜ ■㎜■
皮膚組織を含まない系 0.052 pmol/hr
_.._ __‥‥
1 9少サヤ.言 〇.517 pmo】/mg/hr
図4 下降法ベーパークロマトグラフィーの原点に
おける多新体ポリマー放射活性のオートラジオダ
ラフィー,Aは皮膚組織を含まない系,Bは皮膚
組織を含む系である.矢印で原点のスポットを示
した,
表2 反応前に皮膚組織を煮沸した系での多糖
体ポリマー合成活性.成熟ラット維2匹を用
い,皮膚組織を実験1では2 rag,実験2では
5mg使用した.
incorporated UDP-GlcNAc-"C pmol/mg/hr一 一
煮沸しない系
--
実験1
-一実験2
表3 反応停止後2,000xgの上清を下降法ペー
パークロマトダラフィーにかけ,その原点にと
どまる多糖体ポリー・-の放射活性を測定した,
成熟ラット雄の皮膚組織2mgを使用した.
incorporatedUDP-GlcNAc-"C pmol/mg/hr|-一一
反応後上清のみ __
標 準 法
山本 康上
一
-
A
0.031 1
/oし‾] 8
線的に増加した(図7).
10) pH依存性
図8に示す如く,多糖体ポリマー合成活性はpH依
人J ll」'溶什1111jjlflj酵素沁として川いた系での
多鮪休ボレ。一削むI健に 成熟ラヴト顛の皮
心組織1mg川ヽIりい検体として川いた。対!|が
とトCは抑や法で皮膚組繊2mgを使用した.
ilKO叩O iat<ヽdUDP-GlcNAcソ4C pmol/rag/hr
III・溶什Illlj ',]-
標 叩 よ
{). k;;!
(しぷ;I
,j.ム3 1.:y・11』、 y一一'・■il'ifiリ日丿皿に.1ノjち糖
休小りごてり心卜け.ノ丿岫;いり・川ろ.’川ト
mcorp‘)tai('(l UDl'-Cli・\A(・-「'C I・m・」l/>ng/li「
ヒyル1'にニゲー・りi"i (L 旺
ヒアルロニダーゼ木消化 !11:!
. ;
抽出粗MPS i由にyのづい白卜石水軸川町に、標
準HΛかll、ト'、ノIミ端に冰!li川だ.
Aのオートラジオグラフィーをトレースいたも
の.
図 5
存性であり,至適PHはphosphate bufferで6.5, Tris-
HCl bufferで7.0であった.
pmol/mg
0 no
(r>
1 0 0
o。-ovN=io-dan
lo
ト
ヒアルpy酸合成酵素
pmol/mg/hr
O.i-=V
0.3
5 0.2
{
oT1
図6 多糖体ポリマー合成活性のtime course.成熟
ラット雄の皮膚組織5聡を使用した.
1 2 5 10 mg
図7 皮膚組織重量と多糖体ポリマー合成活性との
相関.成熟ラット雌を用いた.
l/pmol/mg/hr
5.0
1377
9.0
図・8 PHによる多糖体ポりマー合成活性の変動.14
週齢ラyト雌,の皮膚組織3mgを使用した. PH
5.0~7.0はO.lM phosphate buffer,pH 7.0~9.0
はO.IM Tris-HCl bufferを使用した.
11)基質との相関
i ) UDP-GlcNAc-"C濃度との相関
UDP-GlcNAc-"C濃度が増加するにつれ,多糖体ポリ
マー合成活性も増加し,みかけ上のKm値は2.4×10-=
Mであった(図9)。
") UDP-GlcUA濃度との相関
UDP-GlcUA濃度が変化しても,多糖体ポリマー合
成活性は1 .3pmol/mg/hr 前後でほぼ一定であった(図
10).
12) UDP-GlcUA-"Cと UDP-GlcNAc とを基質とし
た系
UDP-GlcNAcの有無による多糖体ポリヴー合成活性
を比較検討したが,その活性に差は認められなかった
-I/Km 1/1O-°M
図9. UDP-GIcNAc-"C濃度と多糖体ポリマー合成活性との相関.
7週令ラット雄の皮膚組紐2mgを使用した. Lineweaver-Burkの
プロットで示した.挿入図にUDP-GlcNAc->'C濃度(0,1,2,
5, 10, 14, 20, 30, 40μM)に対する多糖体ポリマー合成活性を
示した.標準法でのUDP-GlcNAc-"C濃度は14μMである.
1378
pmol/mg/hr
ジ1・5
1
1
作
.ヨ
山本 康生
UDPこGloUAμM
図10 UDP-GlcUA濃度と多糖体ポリマー合成活性との相関.
3週齢ラット雌の皮膚組織2mgを使用した.標準法での
UDP-GlcUA濃度は740.7,μMである.
表6 UDP-GlcUA-"Cと UDP-GlcNACを基
質とした系での多糖体ポリマー合成活性.6
週齢ラット雌の皮膚組織2mgを使用した.
incorporated UDP-GlcUA-≫C pmol/mg/h「
UDP-GlcNAcを含む 0.485
UDP-GlcNAcを含まない 0.489
pmol/mg/hr
y
万
白
paj-BJodJooui
0 1 2 3 4 6 り 16 w
図n 加齢に伴う多糖体ポいマー合成活性(単位凍
結乾燥重量あたり)の変動,分娩直前のラット胎
児10匹(雌雄区別なし),他はラット雌雄各5匹
(ただし1週齢雌のみ4匹)の平均値士標準偏差
で示した。皮膚組織2mgを使用した。
(表6).
13)加齢に伴うHA合成酵素活性の変動
凍結乾燥重量あたりでみると図11に示すとおりで,多
糖体ポリマー合成活性は分娩直前のラット胎児で最も高
0。-3VN010-dan pat^-iodJOom
DNA/hr
2 3 4
-
NNS`●yf゛がs
-かφ″二“4
W
図12 DNA単位重量あたりに換算した多糖体ポリ
マー合成活性の加齢に伴う変動.分娩直前のラッ
ト胎児は2匹(雌雄区別なし)の平均値,他は1
匹の測定値で示した.皮膚組織2mgを使用した.
pmol/mg
10
0
LO
0n-3VN=10-dCin p3?≪Jodjoou!
Protein/hr
0 2 3 4
■^-―'〆〆゛
図13 蛋白単位重量あたりに換算した多糖体ポリマ
ー合成活性の加齢に伴う変動.分娩直前のラット
胎児は2匹(雌雄区別なし)の平均値,他は1匹
の測定値で示した.皮膚組織2mgを使用した.
く,1週齢で落ち込み,2週齢より漸減した. DNAあ
たりのそれ(図12)は2~4週齢で高値を示し以後漸減
した.蛋白あたりのそれ(図13)は, DNAあたりのモ
れとほぼ同様の傾向で,4週齢で最高となり6週齢以後
ヒアルロソ酸合成酵素
はほぼ一定となった.
考 按
皮膚におけるHA合成酵素活性を検討するにあたり,
ラット皮膚をそのままポモジェナイスしたものを酵素源
とした場合には, UDP-GlcNAc-"Cと UDP-GlcUA と
から多糖体ポリマーは生成されなかった.種々検討した
結果,皮膚を凍結細片として凍結乾燥したものを酵素
源とすることにより UDP-GIcNAc-"C (またはUDP-
GlcUA-14C)が多糖体・ポリマーに取り込まれることが
判ったので上述したような酵素化学的検討を行なった.
その結果,1)酵素源としての皮膚組織を含まない系
および煮沸した皮膚組織を用いた系では,ペーパークロ
マトグラフィーのスポット原点に放射活性が認められ
ず,多糖体ポリマーの形成がない; 2) time course で
反応時間3時間まで直線的に多糖体ポリマーが増加す
る;3)皮膚組織重量との関係でlOmgまで多糖体ポリ
マーが直線的に増加する;4)多糖体ポリマー合成活性
はPH依存性である;5)基質としてのUDP-GlcNAc-
14Cの量の増加とともに多糖体ポリマー量は増加し,み
かけ上のKm値は2.4xlO-=Mであることが判った.
このことより凍結乾燥皮膚組織を酵素源とすることに
よってUDP-GlcNAc-"Cは酵素的に多糖体ポリマーに
取り込まれると考えられた.
生体の組織中のHA合成酵素を測定するための試料
調製には微妙な問題がある. Schillerら9)はラット胎児
皮膚のcell-free extractを用いて, UDP-GlcNAc-=Hと
UDP-GlcUAを基質としてHA合成活性を検討してい
る.その際ホモジェネートをそのまま用いた場合に活性
は最も高く,その20,000 xg上清では活性が認められ
ず,沈位ではホモジェネートの約27%の活性が認められ
ている.さらにSchiller'°)はラット胎児皮膚ホモジェ
ネートをあらかじめパパイソ処理するとHA合成活性
が3倍になること,パパイソ処理後では105,000 xg上清
に,パパイソ未処理ホモジェネートの約36~40%の活性
が認められ,皮膚のHA合成活性がパパイソ処理する
ことにより可溶画分にもでてくることをみたIshimoto
ら11)は,線維芽細胞では強くフィットしたPotter-
Elvehjem homoge�zerによるホモジェネートがHA
合成活性を検討するのに最も適しているとし,かつ
10,000 xgで遠沈するとその活性はほとんど全部沈澄に
くることをみた. Tomidaら14)は,培養細胞ではガラス
ホモジェナイザーによるホモジェネートよりも凍結融解
を繰り返した試料の方がより高いHA合成活性を示す
1379
ことをみている.
Schillerらの報告9)10)以来皮膚のHA合成酵素を直接
に測定した報告はたい.著者の検討では,皮膚におい
て凍結乾燥皮膚組織のみがUDP-GlcNAc-"C (または
UDP-GlcUA-"C)より多糖体ポリマーを形成した.ま
た,凍結乾燥皮膚組織をbuffer中'で3回凍結融解を繰
り返した後のlOjOOOxgの上清に凍結乾燥皮膚組織全体
の約60%の活性が認められた. Schiller'"はパパイソ処
理により,酵素の隠されていた部分が露出されるのであ
ろうと述べているが,凍結乾燥あるいは凍結融解により
同様の可能性が推定される.
今回の実験において,生成された多糖体ポリマーは,
二次元電気泳動でHAの泳動部位にほぼ一致して放射
活性を示し,羊率丸ヒアルロニダーゼにより70%消化さ
れた.羊率丸ヒアルロニダーゼはHA特異的ではない
が電気泳動の所見とあわせて,この多糖体ポリマーは
HAを主とする物質と考えられる. Hopwoodらls)は
ラット線維肉腫組織のHA合成を検討し,生じた多糖
体ポリマーの放射活性はストレプトコッカルヒアル1=zニ
ダーゼ(バリダーゼ使用)により約80%減少することを
みた.
本実験ではUDP-GIcNAc-"Cに対する coldの基質
であるUDP-GlcUAの濃度変化により多糖体ポリマー
形成の活性に差がなくUDP-GlcUAがなくてもほとん
ど変わらぬ多糖体ポリマー形成がみられた. Schillerら9)
の実験ではUDP-GlcUAがない時UDP・GIcNAc-=Hよ
りのHA合成は約1/3になっている.ラット線維肉
腫(HOPwoodら15)),ストンプトコッカス(Stoolmiller
ら13))における報告ではUDP-GlcNAcとUDP-GIcUA
のいずれが欠けてもHA合成活性は認められないとい
う.HAはN-acetyl-D-glucosamine とD-glucuronic
acidとのβ-グルコシド結合からなる多糖体ポリマーで
あるが,著者の実験では凍結乾燥皮膚組織を用いている
ため内因性のD-glucuronic acid が基質として用いられ
ている可能性と単にUDP-GlcNAc-"Cから内因性のHA
鎖へGlcNAc-"Cの取り込みが行なわれている可能性と
が考えられるOsterlinら12)は子牛水晶体hyalocyteで
は内因性のHAがUDP-GlcNAc-≫Cの受容体となると
している.以上の点に関しては,生成多糖体ポリマーの
同定を含めてさらに検討中である.しかし,上記のいず
れの可能性が正しくても,著者の実験系で反応が酵素的
に進行していることは間違いなく HA合成酵素活性の
動態の一面を知ることはできると考える.
1380 山本 康生
HA合成酵素の至適PHはphosphate buffer で7.0~
7.5 (ラット線維肉腫"'), 7.1 (ストレプトコッカス13))
と報告されている.著者の0.5間隔で行なった成績では
phosphate buffer で6.5, Tris-HCl buffer で7.0であり,
やや酸性よりであるがほぼ近似する値である.
加齢に一伴う多糖体ポリマー合成活性の変動の検討に応
用してみた成績は図11~13に示すとおりであった.主と
して,凍結乾燥重量あたりで検討したが,酵素反応の場
が細胞内もしくは細胞表面であることを考えればDNA
あたりで検討するのが妥当かもしれないパ
合成酵素活性と加齢との関係についての報告はみられな
い.本実験での加齢に伴う多糖体ポリマー合成活性の成
績を生成されたHAを定量的に検討した成績l)-tiと比
文
1) Loewi, G. & Meyer, K.: The acid muco-
polysaccharides of embryonic skin, Biochim.
j匈砂j.j心,27: 453-456, 1958.
2) Schiller, S. & Dorf皿an, A.: Effect of age on
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3)野田三千麿:皮膚。の酸性ム=多糖類分画に関す
る臨床的実験的研究,日皮会誌, ^5 : 609-633,
1965.
4)松本義也:ラット皮膚加齢に伴りグリ=1サミノ
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5) Loewi, G.: The acid mucopolysaccharides of
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6) Mier, P.D. & Wood, M.: The acid muco-
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Ada, 201: 54-60, 1970.
8)石川英一:セルローズアセテート膜電気泳動に
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9) Schiller, S., Slover, G.A. & Dorfinan, A.:
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extracts of embryonic skin, Biochem. Bioftfos.
Res.Commun.,5: 344-348, 1961.
10) Schiller, S.:Synthesis of hyaluronic acid by a
soluble enzyme system fi・om mammalian tissue,
Biochem. Biophrs. Res.Commun・, 15: 250-235,
1964.
11) Ishimoto, N., Temin, H.M. & Stroininger,
較するとほぼ一致した結果である.このことは皮膚の分
化とMPSの役割との関連を考える上で興味深く,今後
さらに検討を加える予定である.
稿を終えるにあたり御指導,御校閲を賜りました野原
望教授ならびに終始直訴御指導をいただきました荒田次
郎助教授(現高知医科大学皮膚科教授)に深甚なる謝意
を表します.
本論文の要旨は第78回日本皮膚科学会総会において発
表した.
本研究は文部省科学研究費補助金昭和52年度奨励研究
A (277327,山本康生),昭和52, 54年度一般研究C
(257280, 457273,荒田次郎)の援助を受けたことを附
記し深謝いたします.
献
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sarcoma viruses, II. Virus-induced increase in
hyaluronic acid synthetase in chicken fibro-
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13) Stoolmiller, A.C. & Dorfman, A.: The
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14) Tomida, M., Koyama, H. & Ono, T.:Hyal-
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17) Flaxman, B.A. & Harper, R.A.: Primary cell
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18) Burton, K.: A study of the conditions and
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