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リアルタイムでの津波波形と地震波及びGPS

データの併用インバージョンによる津波予測

:2011年東北津波への適用 Tsunami Forecast by Joint Inversion of Real-Time Tsunami Waveforms and Seismic or

GPS Data: Application to the Tohoku 2011 Tsunami

菊地 昭裕1 Akihiro Kikuchi

1東北大学工学部建築・社会環境工学科広域被害把握研究室

著者:Yong Wei, Andrew V. Newman, Gavin P. Hayes, Vasily V. Titov, Liujuan Tang

出典:Pure Appl. Geophys. 171(2014),3281-3305 津波波源の特定は現在の津波予測の最も重要な要素である.津波の発生を直接計測することは困

難だが,深海津波計や地震計,GPS等の機器を用いて即時的にモデル化することが可能である.本研究では2011年3月11日に日本で起きた大津波に対する様々な発生モデルの強みと限界について,日本近海での発生・伝播・浸水のデータの比較検討を通して評価した.本研究は深海津波計の機

能と迅速な津波波源推定の有効性を示し,様々な津波の計測手法が観測データにどの程度整合す

るかということを確認することで,津波予測において最も正確で迅速な手法を模索することを目

的とするものである.

Key Words : 深海津波計,GPS,津波インバージョン,津波予測,モデリング

1.序論

津波を引き起こす主な原因は,地震断層による急速な

海底の変形である.早い段階における津波波源の特徴の

調査は,正確で実用的な浸水及び陸上遡上の予測におい

て重要である.現在最も使用されている地震断層及び津

波のリアルタイム計測器は,深海津波計やGPS計測器,地震計等であるが,これらの計器によるデータはリアル

タイムでの断層による津波の波源推定モデルに直接入力

される.

深海津波計による津波計測は,津波による圧力変化を

直接測定するもので,近年の直接的な津波計測で最も一

般的である.潮位計による水位測定とは異なり,深海津

波計は港や海岸での反射の影響を受けないことや,圧力

変化による即時的な計測が長所だが,短波長の波に対す

る感度が低いことが欠点である.

GPSは震源域の断層活動を正確に計測し,それにより断層の詳細な発生機構を把握できる.しかし,2011年の東北地震では,陸地と沿岸地域を除いてリアルタイム計

測には有効でなかった.GPS信号は水を通過できないので,GPS計測器はほとんどが陸上での使用に限られ,沖

合や海溝付近での地震断層の特徴付けには適さないから

である.GPSをリアルタイム計測に活用するための一つの解決策は深海津波計等の計器と併用してインバージョ

ンを行うことである.

地震計を使った地震波インバージョンは,空間的・時

間的な断層の様子を短時間で特定することが可能である.

この計測法では広大な断層の分布モデルを特定できるが,

地形の初期条件により制約を受けることが想定される.

最も大きな懸念は断層から海面までのエネルギー転換の

プロセスであり,今なお解決困難な問題として残る.

本研究では,2011年の日本における東北津波のモデルをこれら3つのリアルタイムインバージョン手法を用い

て導出し,結果を比較しつつ評価することで,それぞれ

の計測法の強みと限界性を明らかにした.

2.手法と津波モデル

この研究では津波モデルとして2011年に日本で起きた東北津波のモデルを用いた.この津波解析モデルは

Method of Splitting Tsunami(MOST)と呼ばれる解析手法に基づいており,津波の発生から伝播,浸水までの挙動の

図-1 (a)深海津波計によるインバージョン(b)深海津波計とGPS

によるインバージョン

表-1 断層パラメータ

予測が可能である.MOSTは,非線形浅水理論式と境界条件から陸地での浸水を計算する.陸上遡上計算や砕波

の再現性,計算効率などの観点から,MOSTはリアルタイム数値計算に最も適している. Macinnesら(2013)は9つの地震における津波発生機構

を調べるため,深海津波計,GPSデータ,地震データを単独で,または組み合わせて用いた津波解析モデルを使

用した.低空間分解能の地形データでは,高分解能のも

のに比べてかなりの誤差があることを確認した.水深・

地形測定における高分解能の空間格子は様々な発生モデ

ルを区別するのに必要であり,最も適する分解能は

2arcs(~60m)であることが分かっている.海洋深さと地形の測定にはETOPO1やJ-EGG500,GSI,LiDAR等が用いられた. 以上のことをふまえ,以下の項目を検討していく. (1)津波波源推定の3つの手法の特徴. (2)各手法の強み及び限界性. (3)各手法の沿岸域における津波警報への適用可能性.

3.2011年3月の日本における津波の発生モデル

(1)深海津波計による津波解析

図-1(a)中のグラフは,2011年に日本で起きた東北津波で深海津波D21418とD21401が地震後30分間に観測した波の高さである.D21418は最高で1.8mの波を観測し,これは深海津波計による観測史上最高の高さである.図

中の紫の線はプレートの境目であり,黒い箱は海溝に沿

う地形を100km×50kmの小領域に分解したものである.色がついている6つの領域がこのインバージョンで用い

られたものであり,上述した2つの津波計のデータから

この6つの領域についての断層パラメータを求めた(表-1).赤い部分はずれが特に大きかった部分である.注目すべきは,この手法ではたった2つの深海津波計のデー

タから波源が特定できる点である. (2)深海津波計とGPSを併用した津波解析

本研究では,地震による断層の広がりや津波の発生を

評価するにあたり,本手法ではGPSデータとMOSTインバージョンによる海底変位データを組み合わせるという

独自の手法を取り入れた.海底の上昇予測と陸上GPSデータを均等に分配するため,断層付近の海底を77個の

小領域に分け,それぞれの小領域の鉛直変位推定に陸上

GPSによって重みを与えた.本手法では断層周辺の366個の陸上GPSステーションのデータを使用した.誤差は水平方向に10cm以内,鉛直方向に20cm以内となるよう配分した.図-1(b)がその結果である.最終的な解は

GPSデータと海底変位の両方との整合性が確認できた(二乗平均平方根は水平成分で2.8cm,鉛直成分で3.9cm).同様に,水平断層成分は海底の水平変位とほぼ一致した

ことが後のSato(2011)らによる研究によって確認された. GPS/深海津波計による解の一つの大きな特徴は,津波インバージョンのために予め定義された断層モデルの

正確さに関わらず実用的であるという点である.

小断層 走向 傾斜 滑り角 深さ(km) 1 185° 19° 90° 5.0 2 185° 19° 90° 5.0 3 188° 19° 90° 5.0 4 188° 21° 90° 21.3 5 198° 19° 90° 5.0 6 198° 21° 90° 21.3

図2 各手法による初期波源推定

(3)地震データから得られた有限断層モデル

2011年3月の地震の有限断層モデルは,長波の地震波をインバージョンすることで断層の滑り量,走

向,傾斜,滑り角等のパラメータを取得する.この

インバージョンに使用した断層面はUS Geological Survey(USGS)が配信するCMT解(セントロイド・モーメント・テンソル解)によって定義されたもの

である.初期断層の大きさは.マグニチュードと断

層長さ及び幅のスケーリング則から得た. 津波モデル推定に際して,断層パラメータは水面

変形の計算のためにMOSTへの入力値として利用された.断層の初期鉛直変位はOkada(1985)により算出されるものである.

表-2 各手法の精度(水位観測値比)

表-3 各浸水モデルの観測値比

4.モデル結果

津波後の日本の研究者による調査により,各地点

の津波遡上高と3000カ所の沿岸地域での浸水範囲のデータが得られた.最大遡上高は岩手県宮古市の

39.7mであった.20m以上の高い津波は北緯39-40°の沿岸の集中しており,これは狭い入り江が多くあっ

たためである.Weiら(2013)とMacinnesら(2013)は北緯39~40°の沿岸での高い陸上遡上を説明するために,高空間分解能の空間格子を用いることの重要性を指

摘する.30arcs(~900~1000m)の空間分解能では沿岸の特徴を捉えるには不十分であり,10~20mの過小誤差につながるとした.それゆえ,本研究ではWeiら(2013)によるモデルと同じ20arcs(~60m)の空間分解能のものを用い,3つのモデルに適用した(図-2(e)-(g)).結果は,全てのモデルで遡上高が低い所はよく再現されていたが,遡上高が大きい所では違

いが生じ,それは北緯39~40°の地域で特に顕著だった.深海津波計モデルから計算された遡上高は,遡

上高が高い場所も低い場所もよく再現できており,

宮古市における最大遡上高39.7mも精度よく再現したが,全体としてやや過小に計算された.深海津波

計のみのモデルに比べ,GPS/深海津波計モデルでは低い遡上の地域でより正確な予測をしたが,北緯

39.5~40°の遡上が高かった地域では10mもの過小誤差が生じた. 深海津波計による時系列データは津波波源の迅速

な特定のみならず,深海域でのモデル推定結果の評

価にも役立つ.表-2は最大波についての各手法のモ

デルと観測値との平均整合率を表している.深海津

波計インバージョンでは4つの深海津波計による観測値との平均整合率が91.6%であった.GPS/深海津波計インバージョンでは一つの深海津波計を除いて

は整合性が認められた.地震波インバージョンでも

91.6%と高い整合率が認められた. 津波浸水の調査によって,波源モデルの更なる詳

細な検討が可能となった.最も浸水が激しかったの

は仙台と相馬の間の沿岸と,更に南下した福島第一

原子力発電所周辺である.本研究では津波浸水予測

における3つのインバージョン手法の違いを示すた

め,上述した日本の沿岸地域を中心とした浸水モデ

ル結果で比較を行った.相馬-福島第一原発間では3つのモデル結果は観測結果によく整合した.GPS/深海津波計モデルは全体として最も大きな浸水範囲

を示した.表-3は各浸水モデルによる推定浸水面積

深海津波計 GPS/深海津波計 地震波

深海 91.6% 76.8% 91.6% 沿岸 77.9% 63.0% 45.6%

深海津波 GPS/深海 地震波 整合率 98.5% 94.4% 68.2%

表-4 計測時間

と観測された浸水面積との整合率を求めたものであ

る.この結果から,深海津波計によるものが最も精

度が高いことが確認された. 5.考察

この研究で示した3つのインバージョン手法のう

ち,津波計によるインバージョンと地震波インバー

ジョンは2011年3月11日の津波で実際に使われたものである.GPS/深海津波計モデルはその後発展したものだが,まだ解決すべき課題は多い.深海津波

計データはリアルタイムで利用できる一方,その他

多くの手法ではRTK-GPSから得たデータが利用できる.地震波断層モデルでは地球全体の地震計からの

データを使うため,その解は地域によって異なる速

度体系に依存する上,震源の不確定性にも歪められ

る.それゆえ,それ単体ではリアルタイム計測には

適さないであろう.

表-3は2011年の東北地震に関する予備的及び補正

後の各手法の計測時間である.リアルタイムRTK-GPSが迅速に地震断層の発生と地形のひずみを捉えることができていた一方で,当時はそのような自動

システムが機能しておらず,またGPSによるインバージョン手法も確立されていなかった.今では,

Ohtaら(2012)の研究によって,GPSに基づく解が有効であると分かり,大きな地震においても十分に活

用できる手法であるといえる.

日本の2011年の津波以来,観測とモデリングの技術は計算時間の短縮という点で格段に改良された.

深海津波計は発生源の近くに配置され,10-20分以内に津波の前兆を捉えることができる.2012年9月のコスタリカ地震以降,いくつかの短時間計測器も

開発された.リアルタイムでGPSデータを提供するネットワークも確立された.GPSネットワークに残る問題はそれらが陸地に限られることと,正確な予

測に必要な地形情報を常に欠いていることである.

当分の間は,地震波インバージョンモデルが地震に

よる断層の詳細についての最も速い情報であり続け

ると考えられる.

6.結論 2011年3月11日の地震と津波から得られた地震計やGPS,深海津波計によるデータはリアルタイム解析の重要な考察対象である.この研究では,2011年の津波をのみの場合,津波計とGPSを併用した場合,地震波の場合の3つのモデルを比較して調査した. これらのモデルはMOSTによる解析の入力として利

用され,津波の発生,伝播及び浸水をシミュレー ションした.その結果はそれぞれのモデルの比較に

おける強みと限界性について示唆に富むものだった. 本研究では深海及び沿岸域における津波の波形の モデルを比較し,津波の遡上高や浸水の範囲につい

て調査した.3つの発生モデルのうち,深海津波計

によるリアルタイム解析が,地震による断層の形状

特定が通例であるにもかかわらず,津波の観測結果

と最もよく整合していた.特に,三陸海岸における

津波の遡上高と浸水の解析の正確さが際立った. GPS/深海津波計法は海岸線に沿った北緯39-40°の間で最大50%,高さに換算して30-40mの過小誤差があった.地震波インバージョンは同じ場所で10m丁度の津波高を予測した.地形のひずみによりデータ

が歪められた北部では,地震計やGPSステーションはうまく機能せず,遡上高の過小誤差につながった. 3つの発生モデルについての考察は,日本で起き

た震災において最も迅速に利用できた津波の観測法

の,津波のモデリングや予測への重要性を明らかに

した.これらの発生モデルはリアルタイム解析及び

津波後の調査によって確証された高精度な津波モデ

ルにつながった.津波波源のインバージョンにおけ

る津波の直接的観測は断層と津波の相互関係の間の

不確実性を取り除き,津波の効果的かつ正確な予測

を可能にした. GPS計測が地震後より迅速に利用できるようになり,また地震波モデルが正確さを欠くことなく迅速

に構築できるようになれば,沿岸における津波災害

の評価の待ち時間を減らすことができるだろう.ま

た,本研究ではこれらのデータを深海津波計と組み

合わせることで,更なる時間短縮が見込まれること

が明らかになった.近年の日本の沖合における深海

津波計の増加は,津波の観測を20分以内にまで短縮した.震源の位置に左右されるものの,今後更なる

計測時間の短縮が期待できる.計測手法や計測器の

組み合わせ方の改善による計測時間の短縮と,陸上

での津波警報への利用法の確立がこれから取り組ま

れるべき課題である.

参考文献

1)首藤伸夫,今村文彦,越村俊一,佐竹健治,松冨英

夫:津波の事典,朝倉書店,2010 2)高川智博,津波の逆推定手法,ながれ31 9-14,2013 3)Arcas,D.,Titov,V.:Sumatra tsunami: Lesson from modeling, Surv. Geophys., 27(6),doi:10.1007/s10712- 006-9,679-705.2006 4)Percival,D, Denbo D., Eble M., Gica E., Mofjeld H., Spillane M., Tang L., Titov V.: Extraction of tsunami source coefficients via inversion of DART buoy data, Nat. Hazards 58:567-590 doi 10.1007/s11069-010-9688-1 5)Chen,T., Newman,A.V., Feng,L., Fritz,H.M.:Slip distribution from the 1 April 2007 Solomon Island earthquake,a unuique image of near trench rupture, Geophys.Res.Lett.,36,zl16307,doi

インバージョン 簡易 補正後

深海津波計 30分 1.5時間 GPS/深海津波計 数時間 —

地震波 5-15分 7時間

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