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田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

発行月 : 平成25年11月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社

〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

和歌山県版特別号

新時代を迎えた病院薬剤師~さらなる飛躍に向けた業務展開と課題~

和歌山県病院薬剤師会 会長社会保険紀南病院 薬剤部長那須 明弘 先生

独立行政法人国立病院機構南和歌山医療センター 薬剤科長(現 ・ 神戸医療センター 薬剤科長)岡田  博 先生

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

■和歌山県における病棟薬剤業務の現状と展望――病棟薬剤業務実施加算が新設されて1年がたちましたが、現状についてどのようにお考えですか。

那須 2013年7月現在、和歌山県内で病棟薬剤業務実施加算を算定している施設は、2012年4月時点の5病院から徐々に増えて15病院となっています。ただし、2012年末からは増えていません。また、15病院のうちほとんどが中小規模の病院で、診療科や病棟数の多い大規模病院では薬剤師のマンパワー不足などから、算定のハードルは高いようです。私ども社会保険紀南病院(一般病床352床、8病棟)は2012年4月に算定を開始しました。現在、薬剤部として薬剤師17人(うち1人が育児休暇中)、非常勤1人、薬剤助手2人の体制で、発注業務などはSPDのスタッフが行いますが、化学療法に力を入れているほか、NSTやICTなど院内のチーム医療にも積極的に参画していますので、当院においてもマンパワー不足は否めません。

岡田 南和歌山医療センター(一般病床316病床)は、2012年7月から加算を算定しています。それは、私が2011年の着任時に薬剤師の病棟常駐化を実現したいと考え、病院幹部の理解を得て2012年4月から6年制新卒薬剤師3名が増員となり、8病棟(うち病棟薬剤業務実施加算対象病棟は6病棟)で薬剤師12名、助手2名の体制ができたことが大きな理由だったと思います。この増員がなければ、加算の届け出は難しかったのではないかと感じています。2013年7月現在、薬剤師は13人、うちCRC担当薬剤師2名、助手2名となっています。

――マンパワー不足の問題を含めて、和歌山県病院薬剤師会としての会員への支援策についてお伺いします。

那須 和歌山県病院薬剤師会(以下、県病薬)では、年に1度、医療安全を兼ねた薬剤情報提供に関する講演会を開催しており、2013年7月には「病棟薬剤業務実施加算」をテーマに、算定している6施設と医療安全に取り組んでいる施設で、問題点や利点について討論しました。ただ、薬剤師を確保・増員できるかどうか

は、各施設が抱える問題に左右されると思います。岡田 私たち国立病院機構では、北は福井、西は姫路、南は南紀田辺に及ぶ近畿管内全域で薬剤師を一括採用しています。しかし、採用時の配属先が当院のような地方にある病院に決まると辞退する人もいるので、増員どころか確保すらできない状況にあります。

那須 そうしたことも踏まえて、県病薬では、当県の医療機関への薬剤師の入職者数を増やす目的で、大学向けのDVDの作成を進めているほか、学生実習の窓口である近畿地区調整機構に対して『ふるさと実習』を推進するように強くお願いしています。

――薬剤師増員の方策についてはどのようにお考えでしょうか。

岡田 増員については、実績をつくり、医療チームのスタッフから薬剤師の必要性を認めてもらうことに尽きると思います。

那須 私たち公務員の場合は、医師は別として、病院全体の職員数が規定されているので、例えば看護師を増やすと、薬剤師など他職種を減らさざるをえません。規定を超えて薬剤師数を増やす場合は、議会の承認が必要で、そこで何かを言うためには、チーム医療での実績をつくる必要があると思います。

■チーム医療の推進と協働への取り組み――病棟薬剤業務の実施状況について教えてください。

那須 病棟薬剤業務実施加算を算定し始めましたが、これまでに病棟で実施してきた薬剤業務はほとんど変わっていません。算定条件として列記されている病棟薬剤業務については、ほぼ取り組みがなされており、持参薬管理や化学療法のレジメン管理と抗がん剤の混合調製、MRSAを中心とした抗生剤処方に対するTDMの解析などは以前から行っていました。しかし、薬剤師の病棟常駐化により、持参薬管理が年間約1,300件、月にすると約100件程度増えている(資料1)ほか、薬剤管理指導料や退院時服薬指導料の算定件数も大きく増えました。

岡田 当院は病棟ごとに1人の担当薬剤師を決めていますが、1フロアにある2病棟を3人の薬剤師で担当するようにしています。当院も那須先生のところと同様に、加算を算定する以前から病棟業務を実践していました。具体的には、病棟での持参薬管理はかなり実施されており、それに伴う当院採用医薬品を用いた医師への処方提案も積極的に行われていました。また、がん化学療法におけるレジメン管理や入院・外来を含む抗がん剤調製、ICT、NST、褥瘡チームなど院内横断的な医療チームにも参加していました。つまり、医師や看護師などとの協働は既にほぼできており、実際、加算算定にあたっては、医師や看護師に協力を求める際にも、「当院ではこれまでの業務内容と基本的に変わらない」と説明しました。

――病棟薬剤業務の成果として、何か表れてきていますか。

那須 以前、抗がん剤の調製において、薬剤師はミキシングまでしか行っていませんでしたが、看護部との話し合いで、現在は薬剤師がミキシング後、ルートを接続し、患者さんにそのまま投与できる状態にしています。それにより、看護師からは安全性が向上したという評価を得ています。

岡田 看護師から評価が高い病棟薬剤業務としては、持参薬管理があります。それにより看護師は薬がなくなるタイミングを把握でき、医師に処方を依頼しやすくなるからです。施設によっては、医師や看護師などの他職種を対象に、病棟薬剤業務実施後、業務軽減がみられたか、患者さんへのフィードバックになったかなどのアンケート調査を実施しているようです。

那須 病棟薬剤業務の成果を数字で示すことは難しいですね。当院は先ほどお話ししたように、持参薬管理の件数が増えていることに加えて、病棟での医師-薬剤師間のコミュニケーションが良くなったからか、薬剤部から医師への疑義照会件数が減っています。また、薬剤師が医師に依頼を促すようになったことから、2012年度のTDMの依頼件数が2011年度のほぼ2倍に増えました(資料1)。

和歌山県版 特別号

和歌山県版特別号

岡田 確かに、当院でも薬剤師が病棟にいる時間が長くなったことから、薬剤に関する医師や看護師からの問い合わせをその場で解決していることもあって、疑義照会は減っている印象があります。

――薬剤師が病棟にいることで、医師や看護師などと患者情報の共有化を図れているように思われますが、それについて具体的な取り組みは?

岡田 病棟にいる時間が増えると、患者情報は病棟単位で共有されるため、同じ病棟に関わる薬剤師を除けば、医師や看護師との間で共有されやすくなります。しかし、薬剤科内での患者情報の共有は非常に大切で、例えば、患者さんが救命救急から一般病棟へ移ったときも、病棟薬剤師に情報が途切れることなくつなぐことができます。そこで、当院では、月1回、病棟での疑義照会内容の紹介を含めた症例検討会(資料2)を開催しているほか、朝礼や科内会議で、医薬品情報担当者から添付文書改訂など必要な医薬品情報を提供するようにしています。

那須 当院もほぼ同じで、毎朝の朝礼時に添付文書の改訂などを含めた医薬品情報の共有化を図り、毎週木曜日の休憩終了後に症例報告をしています。

■薬剤師の資質向上への取り組み――薬剤師の教育やレベルアップについてはどのようにお考えですか。まず、6年制教育を受けた薬剤師についてお伺いします。

岡田 当院には2012年度に、初めてとなる6年制の薬剤師が3人入職してきましたが、彼らは、私たち4年制の薬剤師に比べると、卒業時の薬学的な知識や、長期の実務実習による調剤の技術など一通りは身につけているという印象を受けました。ただ、チーム医療を実践する上で最も重要となる、他職種とのコミュニケーションは大学での講義や実習だけでは不十分なところもあると感じました。逆にそれさえカバーすれば、即戦力になりえると思われます。新卒薬剤師を採用後3カ月で戦力に育成するため、最初は病棟薬剤業務として持参薬確認を中心に実務を覚えてもらいました。同時に、ベテランの薬剤師が患者さんや他職種とのコミュニケーション、記録の取り方などを実地で教えたところ成果が得られ、目標どおりに7月には病棟薬剤業務実施加算を算定することができました。

――県病薬では薬剤師のスキルアップとしてどのような取り組みをされていますか。

那須 県病薬では、前述した医療安全を兼ねた薬剤情報提供の講演会を年に1回開催しているほか、研修会をシリーズで展開しており、毎年2つのテーマを選定し、専門シリーズと教育シリーズを各5回、計10回実施しています。また、毎年3月の第1日曜日に県病薬の学術大会を開催したり、若手薬剤師を対象にした1泊2日の研修会(8月下旬~9月上旬)やスキルアップ研修会(12月初旬)を行っています。ただし、和歌山県は地形が細長く、し

かも、田辺より南側の交通の便はあまり良くないため、南紀、中紀、橋本などから和歌山市内に出てくることは難しいことから、今後は、地域ごとで勉強会をするなど、支部活動を充実させていかなければならないと考えています。

岡田 薬剤師間の情報共有も必要なことですので、県病薬が積極的に研修会を開催してくださっているのは非常にありがたく感じています。

■薬薬連携・地域医療連携への取り組み――薬薬連携・地域医療連携はどのような状況でしょうか。

那須 勉強会、研修会については、県病薬と県薬剤師会が相互乗り入れをして、情報交換をしています。また、和歌山地域糖尿病療養指導士の取得に関しては、病院薬剤師のみならず、薬局薬剤師にも門戸を開いています。

岡田 田辺地区では、病院薬剤師と田辺薬剤師会所属の薬局薬剤師との交流が古くからあり、合同勉強会のほか親睦会なども行い、情報交換を行っています。例えば、2012年度は在宅緩和ケアに必要な麻薬の服薬指導についての合同勉強会を当院で3回実施しています。現時点では、退院時に病院薬剤師から薬局薬剤師への患者さんの情報提供として、お薬手帳や情報提供書を渡しているものの、十分とはいえないので、今後、この点を改善していく必要があると思っています。つい最近、当院では薬薬連携の「吸入療法パス」を作成・稼働させたのですが、近い将来、その成果を示そうと考えているところです。

■新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージ――最後に、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお願いします。

岡田 病棟薬剤業務実施加算はこれまで薬剤師が地道にやってきたことがようやく診療報酬として評価されたという点で大きな意味を持ちます。これからの薬剤師はこの評価に甘えることなく、これまで以上にチーム医療の推進、医師や看護師との協働に邁進してほしいと考えています。6年制の薬剤師は、私たち4年制の薬剤師とはまったく違うカリキュラムで教育を受けて

きており、その臨床能力に対して周囲は大きな期待を持っています。今後、6年制の薬剤師は病棟薬剤業務の実践とともに、臨床研究も視野に入れていかなければならないと感じています。ただし、6年制の薬剤師が社会に出てきて、病棟薬剤業務実施加算が新設され、病院薬剤師の新しい時代を迎えたとしても、薬剤師はまずはジェネラリストであるべきだということを忘れないでほしいと思っています。若手薬剤師には専門性を求める傾向がみられますが、まずは広い知識をもってからでなければ、専門性を持つ意味がないことを強調しておきたいと思います。

那須 病棟薬剤業務を行う中で、大切なことは医師や看護師などの他職種とのコミュニケーションだと考えています。そのため、薬剤師は医師や看護師から「いろいろなことを聞きやすい人」「どんな質問でも真剣に聞いてくれる人」「この人に聞けば誠実に答えてくれる」と思われる一方、便利屋ではないという姿勢を貫く必要もあります。医師、看護師など他職種とともに、協働する仲間として、一緒に患者さんのためのチーム医療はどうあるべきかを考えていってほしいと思います。

 2012年度の診療報酬改定において、薬剤師の病棟業務に対する評価として「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。患者さんへの安全かつ適切な薬物療法の提供のために、薬剤師はその専門性を最大限発揮するとともに、チーム医療の一員として、これまで以上に積極的に医師や看護師など他職種との連携・協働を進めることが求められています。 「ファーマスコープ特別号・和歌山県版2013」では、社会保険紀南病院薬剤部長の那須明弘先生と、南和歌山医療センター薬剤科長の岡田博先生のお二人に、和歌山県における病棟薬剤業務の現状、とくに病棟でのチーム医療の推進と協働のほか、薬剤師の資質向上への取り組み、薬薬連携・地域連携などについてお話を伺う中から、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお届けします。

アドベンチャーワールド

和歌山県版 特別号

和歌山県病院薬剤師会 会長社会保険紀南病院 薬剤部長

な す あき ひろ

那須 明弘 先生

独立行政法人国立病院機構南和歌山医療センター 薬剤科長(現 ・ 神戸医療センター 薬剤科長)

おか だ ひろし

岡田  博 先生

■和歌山県における病棟薬剤業務の現状と展望――病棟薬剤業務実施加算が新設されて1年がたちましたが、現状についてどのようにお考えですか。

那須 2013年7月現在、和歌山県内で病棟薬剤業務実施加算を算定している施設は、2012年4月時点の5病院から徐々に増えて15病院となっています。ただし、2012年末からは増えていません。また、15病院のうちほとんどが中小規模の病院で、診療科や病棟数の多い大規模病院では薬剤師のマンパワー不足などから、算定のハードルは高いようです。私ども社会保険紀南病院(一般病床352床、8病棟)は2012年4月に算定を開始しました。現在、薬剤部として薬剤師17人(うち1人が育児休暇中)、非常勤1人、薬剤助手2人の体制で、発注業務などはSPDのスタッフが行いますが、化学療法に力を入れているほか、NSTやICTなど院内のチーム医療にも積極的に参画していますので、当院においてもマンパワー不足は否めません。

岡田 南和歌山医療センター(一般病床316病床)は、2012年7月から加算を算定しています。それは、私が2011年の着任時に薬剤師の病棟常駐化を実現したいと考え、病院幹部の理解を得て2012年4月から6年制新卒薬剤師3名が増員となり、8病棟(うち病棟薬剤業務実施加算対象病棟は6病棟)で薬剤師12名、助手2名の体制ができたことが大きな理由だったと思います。この増員がなければ、加算の届け出は難しかったのではないかと感じています。2013年7月現在、薬剤師は13人、うちCRC担当薬剤師2名、助手2名となっています。

――マンパワー不足の問題を含めて、和歌山県病院薬剤師会としての会員への支援策についてお伺いします。

那須 和歌山県病院薬剤師会(以下、県病薬)では、年に1度、医療安全を兼ねた薬剤情報提供に関する講演会を開催しており、2013年7月には「病棟薬剤業務実施加算」をテーマに、算定している6施設と医療安全に取り組んでいる施設で、問題点や利点について討論しました。ただ、薬剤師を確保・増員できるかどうか

は、各施設が抱える問題に左右されると思います。岡田 私たち国立病院機構では、北は福井、西は姫路、南は南紀田辺に及ぶ近畿管内全域で薬剤師を一括採用しています。しかし、採用時の配属先が当院のような地方にある病院に決まると辞退する人もいるので、増員どころか確保すらできない状況にあります。

那須 そうしたことも踏まえて、県病薬では、当県の医療機関への薬剤師の入職者数を増やす目的で、大学向けのDVDの作成を進めているほか、学生実習の窓口である近畿地区調整機構に対して『ふるさと実習』を推進するように強くお願いしています。

――薬剤師増員の方策についてはどのようにお考えでしょうか。

岡田 増員については、実績をつくり、医療チームのスタッフから薬剤師の必要性を認めてもらうことに尽きると思います。

那須 私たち公務員の場合は、医師は別として、病院全体の職員数が規定されているので、例えば看護師を増やすと、薬剤師など他職種を減らさざるをえません。規定を超えて薬剤師数を増やす場合は、議会の承認が必要で、そこで何かを言うためには、チーム医療での実績をつくる必要があると思います。

■チーム医療の推進と協働への取り組み――病棟薬剤業務の実施状況について教えてください。

那須 病棟薬剤業務実施加算を算定し始めましたが、これまでに病棟で実施してきた薬剤業務はほとんど変わっていません。算定条件として列記されている病棟薬剤業務については、ほぼ取り組みがなされており、持参薬管理や化学療法のレジメン管理と抗がん剤の混合調製、MRSAを中心とした抗生剤処方に対するTDMの解析などは以前から行っていました。しかし、薬剤師の病棟常駐化により、持参薬管理が年間約1,300件、月にすると約100件程度増えている(資料1)ほか、薬剤管理指導料や退院時服薬指導料の算定件数も大きく増えました。

岡田 当院は病棟ごとに1人の担当薬剤師を決めていますが、1フロアにある2病棟を3人の薬剤師で担当するようにしています。当院も那須先生のところと同様に、加算を算定する以前から病棟業務を実践していました。具体的には、病棟での持参薬管理はかなり実施されており、それに伴う当院採用医薬品を用いた医師への処方提案も積極的に行われていました。また、がん化学療法におけるレジメン管理や入院・外来を含む抗がん剤調製、ICT、NST、褥瘡チームなど院内横断的な医療チームにも参加していました。つまり、医師や看護師などとの協働は既にほぼできており、実際、加算算定にあたっては、医師や看護師に協力を求める際にも、「当院ではこれまでの業務内容と基本的に変わらない」と説明しました。

――病棟薬剤業務の成果として、何か表れてきていますか。

那須 以前、抗がん剤の調製において、薬剤師はミキシングまでしか行っていませんでしたが、看護部との話し合いで、現在は薬剤師がミキシング後、ルートを接続し、患者さんにそのまま投与できる状態にしています。それにより、看護師からは安全性が向上したという評価を得ています。

岡田 看護師から評価が高い病棟薬剤業務としては、持参薬管理があります。それにより看護師は薬がなくなるタイミングを把握でき、医師に処方を依頼しやすくなるからです。施設によっては、医師や看護師などの他職種を対象に、病棟薬剤業務実施後、業務軽減がみられたか、患者さんへのフィードバックになったかなどのアンケート調査を実施しているようです。

那須 病棟薬剤業務の成果を数字で示すことは難しいですね。当院は先ほどお話ししたように、持参薬管理の件数が増えていることに加えて、病棟での医師-薬剤師間のコミュニケーションが良くなったからか、薬剤部から医師への疑義照会件数が減っています。また、薬剤師が医師に依頼を促すようになったことから、2012年度のTDMの依頼件数が2011年度のほぼ2倍に増えました(資料1)。

岡田 確かに、当院でも薬剤師が病棟にいる時間が長くなったことから、薬剤に関する医師や看護師からの問い合わせをその場で解決していることもあって、疑義照会は減っている印象があります。

――薬剤師が病棟にいることで、医師や看護師などと患者情報の共有化を図れているように思われますが、それについて具体的な取り組みは?

岡田 病棟にいる時間が増えると、患者情報は病棟単位で共有されるため、同じ病棟に関わる薬剤師を除けば、医師や看護師との間で共有されやすくなります。しかし、薬剤科内での患者情報の共有は非常に大切で、例えば、患者さんが救命救急から一般病棟へ移ったときも、病棟薬剤師に情報が途切れることなくつなぐことができます。そこで、当院では、月1回、病棟での疑義照会内容の紹介を含めた症例検討会(資料2)を開催しているほか、朝礼や科内会議で、医薬品情報担当者から添付文書改訂など必要な医薬品情報を提供するようにしています。

那須 当院もほぼ同じで、毎朝の朝礼時に添付文書の改訂などを含めた医薬品情報の共有化を図り、毎週木曜日の休憩終了後に症例報告をしています。

■薬剤師の資質向上への取り組み――薬剤師の教育やレベルアップについてはどのようにお考えですか。まず、6年制教育を受けた薬剤師についてお伺いします。

岡田 当院には2012年度に、初めてとなる6年制の薬剤師が3人入職してきましたが、彼らは、私たち4年制の薬剤師に比べると、卒業時の薬学的な知識や、長期の実務実習による調剤の技術など一通りは身につけているという印象を受けました。ただ、チーム医療を実践する上で最も重要となる、他職種とのコミュニケーションは大学での講義や実習だけでは不十分なところもあると感じました。逆にそれさえカバーすれば、即戦力になりえると思われます。新卒薬剤師を採用後3カ月で戦力に育成するため、最初は病棟薬剤業務として持参薬確認を中心に実務を覚えてもらいました。同時に、ベテランの薬剤師が患者さんや他職種とのコミュニケーション、記録の取り方などを実地で教えたところ成果が得られ、目標どおりに7月には病棟薬剤業務実施加算を算定することができました。

――県病薬では薬剤師のスキルアップとしてどのような取り組みをされていますか。

那須 県病薬では、前述した医療安全を兼ねた薬剤情報提供の講演会を年に1回開催しているほか、研修会をシリーズで展開しており、毎年2つのテーマを選定し、専門シリーズと教育シリーズを各5回、計10回実施しています。また、毎年3月の第1日曜日に県病薬の学術大会を開催したり、若手薬剤師を対象にした1泊2日の研修会(8月下旬~9月上旬)やスキルアップ研修会(12月初旬)を行っています。ただし、和歌山県は地形が細長く、し

かも、田辺より南側の交通の便はあまり良くないため、南紀、中紀、橋本などから和歌山市内に出てくることは難しいことから、今後は、地域ごとで勉強会をするなど、支部活動を充実させていかなければならないと考えています。

岡田 薬剤師間の情報共有も必要なことですので、県病薬が積極的に研修会を開催してくださっているのは非常にありがたく感じています。

■薬薬連携・地域医療連携への取り組み――薬薬連携・地域医療連携はどのような状況でしょうか。

那須 勉強会、研修会については、県病薬と県薬剤師会が相互乗り入れをして、情報交換をしています。また、和歌山地域糖尿病療養指導士の取得に関しては、病院薬剤師のみならず、薬局薬剤師にも門戸を開いています。

岡田 田辺地区では、病院薬剤師と田辺薬剤師会所属の薬局薬剤師との交流が古くからあり、合同勉強会のほか親睦会なども行い、情報交換を行っています。例えば、2012年度は在宅緩和ケアに必要な麻薬の服薬指導についての合同勉強会を当院で3回実施しています。現時点では、退院時に病院薬剤師から薬局薬剤師への患者さんの情報提供として、お薬手帳や情報提供書を渡しているものの、十分とはいえないので、今後、この点を改善していく必要があると思っています。つい最近、当院では薬薬連携の「吸入療法パス」を作成・稼働させたのですが、近い将来、その成果を示そうと考えているところです。

■新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージ――最後に、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお願いします。

岡田 病棟薬剤業務実施加算はこれまで薬剤師が地道にやってきたことがようやく診療報酬として評価されたという点で大きな意味を持ちます。これからの薬剤師はこの評価に甘えることなく、これまで以上にチーム医療の推進、医師や看護師との協働に邁進してほしいと考えています。6年制の薬剤師は、私たち4年制の薬剤師とはまったく違うカリキュラムで教育を受けて

きており、その臨床能力に対して周囲は大きな期待を持っています。今後、6年制の薬剤師は病棟薬剤業務の実践とともに、臨床研究も視野に入れていかなければならないと感じています。ただし、6年制の薬剤師が社会に出てきて、病棟薬剤業務実施加算が新設され、病院薬剤師の新しい時代を迎えたとしても、薬剤師はまずはジェネラリストであるべきだということを忘れないでほしいと思っています。若手薬剤師には専門性を求める傾向がみられますが、まずは広い知識をもってからでなければ、専門性を持つ意味がないことを強調しておきたいと思います。

那須 病棟薬剤業務を行う中で、大切なことは医師や看護師などの他職種とのコミュニケーションだと考えています。そのため、薬剤師は医師や看護師から「いろいろなことを聞きやすい人」「どんな質問でも真剣に聞いてくれる人」「この人に聞けば誠実に答えてくれる」と思われる一方、便利屋ではないという姿勢を貫く必要もあります。医師、看護師など他職種とともに、協働する仲間として、一緒に患者さんのためのチーム医療はどうあるべきかを考えていってほしいと思います。

社会保険紀南病院:病棟薬剤業務実施による実績の変化(持参薬鑑別件数・TDM依頼件数)

資料1

南和歌山医療センター : 症例検討会のテーマ資料2

500

400

300

200

100

0

(件) (件)持参薬鑑別

持参薬鑑別

TDM依頼

TDM依頼

20

15

10

5

0

3143件

4466件

合計

85件

135件

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月11月12月 1月 2月 3月

2012年度2011年度

2012年度2011年度

ARB、Ca拮抗剤の比較、検討薬物血中濃度解析の実際と副作用防止について(解析ソフトを用いて)救命救急センターでの脳梗塞急性期における薬物療法~t-PA製剤を再考する~てんかん疑いの患者に対する薬剤指導についてTACE施行患者への薬学的介入について進行再発乳がんの化学療法についてVATSへ薬剤師はいかに介入すべきか盲腸がん患者症例報告(口内炎、下痢に対する薬学的介入について)悪心・嘔吐について病態と薬物との関連について(腎機能低下症例から) VCM投与患者でトラフ値が十分上昇しなかった症例について

開催年月日

H24.6.19

H24.8.21

H24.10.9

H24.11.28H24.12.11

H25.1.15

H25.2.20

H25.2.20

H25.4.24

H25.5.29

H25.7.24

テーマ 病棟

5階病棟

ICT

救命救急

4階病棟5階病棟4階病棟

6階病棟

6階病棟

6階病棟

救命救急

4階病棟

和歌山県版 特別号

和歌山県病院薬剤師会 会長社会保険紀南病院 薬剤部長

な す あき ひろ

那須 明弘 先生

独立行政法人国立病院機構南和歌山医療センター 薬剤科長(現 ・ 神戸医療センター 薬剤科長)

おか だ ひろし

岡田  博 先生

■和歌山県における病棟薬剤業務の現状と展望――病棟薬剤業務実施加算が新設されて1年がたちましたが、現状についてどのようにお考えですか。

那須 2013年7月現在、和歌山県内で病棟薬剤業務実施加算を算定している施設は、2012年4月時点の5病院から徐々に増えて15病院となっています。ただし、2012年末からは増えていません。また、15病院のうちほとんどが中小規模の病院で、診療科や病棟数の多い大規模病院では薬剤師のマンパワー不足などから、算定のハードルは高いようです。私ども社会保険紀南病院(一般病床352床、8病棟)は2012年4月に算定を開始しました。現在、薬剤部として薬剤師17人(うち1人が育児休暇中)、非常勤1人、薬剤助手2人の体制で、発注業務などはSPDのスタッフが行いますが、化学療法に力を入れているほか、NSTやICTなど院内のチーム医療にも積極的に参画していますので、当院においてもマンパワー不足は否めません。

岡田 南和歌山医療センター(一般病床316病床)は、2012年7月から加算を算定しています。それは、私が2011年の着任時に薬剤師の病棟常駐化を実現したいと考え、病院幹部の理解を得て2012年4月から6年制新卒薬剤師3名が増員となり、8病棟(うち病棟薬剤業務実施加算対象病棟は6病棟)で薬剤師12名、助手2名の体制ができたことが大きな理由だったと思います。この増員がなければ、加算の届け出は難しかったのではないかと感じています。2013年7月現在、薬剤師は13人、うちCRC担当薬剤師2名、助手2名となっています。

――マンパワー不足の問題を含めて、和歌山県病院薬剤師会としての会員への支援策についてお伺いします。

那須 和歌山県病院薬剤師会(以下、県病薬)では、年に1度、医療安全を兼ねた薬剤情報提供に関する講演会を開催しており、2013年7月には「病棟薬剤業務実施加算」をテーマに、算定している6施設と医療安全に取り組んでいる施設で、問題点や利点について討論しました。ただ、薬剤師を確保・増員できるかどうか

は、各施設が抱える問題に左右されると思います。岡田 私たち国立病院機構では、北は福井、西は姫路、南は南紀田辺に及ぶ近畿管内全域で薬剤師を一括採用しています。しかし、採用時の配属先が当院のような地方にある病院に決まると辞退する人もいるので、増員どころか確保すらできない状況にあります。

那須 そうしたことも踏まえて、県病薬では、当県の医療機関への薬剤師の入職者数を増やす目的で、大学向けのDVDの作成を進めているほか、学生実習の窓口である近畿地区調整機構に対して『ふるさと実習』を推進するように強くお願いしています。

――薬剤師増員の方策についてはどのようにお考えでしょうか。

岡田 増員については、実績をつくり、医療チームのスタッフから薬剤師の必要性を認めてもらうことに尽きると思います。

那須 私たち公務員の場合は、医師は別として、病院全体の職員数が規定されているので、例えば看護師を増やすと、薬剤師など他職種を減らさざるをえません。規定を超えて薬剤師数を増やす場合は、議会の承認が必要で、そこで何かを言うためには、チーム医療での実績をつくる必要があると思います。

■チーム医療の推進と協働への取り組み――病棟薬剤業務の実施状況について教えてください。

那須 病棟薬剤業務実施加算を算定し始めましたが、これまでに病棟で実施してきた薬剤業務はほとんど変わっていません。算定条件として列記されている病棟薬剤業務については、ほぼ取り組みがなされており、持参薬管理や化学療法のレジメン管理と抗がん剤の混合調製、MRSAを中心とした抗生剤処方に対するTDMの解析などは以前から行っていました。しかし、薬剤師の病棟常駐化により、持参薬管理が年間約1,300件、月にすると約100件程度増えている(資料1)ほか、薬剤管理指導料や退院時服薬指導料の算定件数も大きく増えました。

岡田 当院は病棟ごとに1人の担当薬剤師を決めていますが、1フロアにある2病棟を3人の薬剤師で担当するようにしています。当院も那須先生のところと同様に、加算を算定する以前から病棟業務を実践していました。具体的には、病棟での持参薬管理はかなり実施されており、それに伴う当院採用医薬品を用いた医師への処方提案も積極的に行われていました。また、がん化学療法におけるレジメン管理や入院・外来を含む抗がん剤調製、ICT、NST、褥瘡チームなど院内横断的な医療チームにも参加していました。つまり、医師や看護師などとの協働は既にほぼできており、実際、加算算定にあたっては、医師や看護師に協力を求める際にも、「当院ではこれまでの業務内容と基本的に変わらない」と説明しました。

――病棟薬剤業務の成果として、何か表れてきていますか。

那須 以前、抗がん剤の調製において、薬剤師はミキシングまでしか行っていませんでしたが、看護部との話し合いで、現在は薬剤師がミキシング後、ルートを接続し、患者さんにそのまま投与できる状態にしています。それにより、看護師からは安全性が向上したという評価を得ています。

岡田 看護師から評価が高い病棟薬剤業務としては、持参薬管理があります。それにより看護師は薬がなくなるタイミングを把握でき、医師に処方を依頼しやすくなるからです。施設によっては、医師や看護師などの他職種を対象に、病棟薬剤業務実施後、業務軽減がみられたか、患者さんへのフィードバックになったかなどのアンケート調査を実施しているようです。

那須 病棟薬剤業務の成果を数字で示すことは難しいですね。当院は先ほどお話ししたように、持参薬管理の件数が増えていることに加えて、病棟での医師-薬剤師間のコミュニケーションが良くなったからか、薬剤部から医師への疑義照会件数が減っています。また、薬剤師が医師に依頼を促すようになったことから、2012年度のTDMの依頼件数が2011年度のほぼ2倍に増えました(資料1)。

岡田 確かに、当院でも薬剤師が病棟にいる時間が長くなったことから、薬剤に関する医師や看護師からの問い合わせをその場で解決していることもあって、疑義照会は減っている印象があります。

――薬剤師が病棟にいることで、医師や看護師などと患者情報の共有化を図れているように思われますが、それについて具体的な取り組みは?

岡田 病棟にいる時間が増えると、患者情報は病棟単位で共有されるため、同じ病棟に関わる薬剤師を除けば、医師や看護師との間で共有されやすくなります。しかし、薬剤科内での患者情報の共有は非常に大切で、例えば、患者さんが救命救急から一般病棟へ移ったときも、病棟薬剤師に情報が途切れることなくつなぐことができます。そこで、当院では、月1回、病棟での疑義照会内容の紹介を含めた症例検討会(資料2)を開催しているほか、朝礼や科内会議で、医薬品情報担当者から添付文書改訂など必要な医薬品情報を提供するようにしています。

那須 当院もほぼ同じで、毎朝の朝礼時に添付文書の改訂などを含めた医薬品情報の共有化を図り、毎週木曜日の休憩終了後に症例報告をしています。

■薬剤師の資質向上への取り組み――薬剤師の教育やレベルアップについてはどのようにお考えですか。まず、6年制教育を受けた薬剤師についてお伺いします。

岡田 当院には2012年度に、初めてとなる6年制の薬剤師が3人入職してきましたが、彼らは、私たち4年制の薬剤師に比べると、卒業時の薬学的な知識や、長期の実務実習による調剤の技術など一通りは身につけているという印象を受けました。ただ、チーム医療を実践する上で最も重要となる、他職種とのコミュニケーションは大学での講義や実習だけでは不十分なところもあると感じました。逆にそれさえカバーすれば、即戦力になりえると思われます。新卒薬剤師を採用後3カ月で戦力に育成するため、最初は病棟薬剤業務として持参薬確認を中心に実務を覚えてもらいました。同時に、ベテランの薬剤師が患者さんや他職種とのコミュニケーション、記録の取り方などを実地で教えたところ成果が得られ、目標どおりに7月には病棟薬剤業務実施加算を算定することができました。

――県病薬では薬剤師のスキルアップとしてどのような取り組みをされていますか。

那須 県病薬では、前述した医療安全を兼ねた薬剤情報提供の講演会を年に1回開催しているほか、研修会をシリーズで展開しており、毎年2つのテーマを選定し、専門シリーズと教育シリーズを各5回、計10回実施しています。また、毎年3月の第1日曜日に県病薬の学術大会を開催したり、若手薬剤師を対象にした1泊2日の研修会(8月下旬~9月上旬)やスキルアップ研修会(12月初旬)を行っています。ただし、和歌山県は地形が細長く、し

かも、田辺より南側の交通の便はあまり良くないため、南紀、中紀、橋本などから和歌山市内に出てくることは難しいことから、今後は、地域ごとで勉強会をするなど、支部活動を充実させていかなければならないと考えています。

岡田 薬剤師間の情報共有も必要なことですので、県病薬が積極的に研修会を開催してくださっているのは非常にありがたく感じています。

■薬薬連携・地域医療連携への取り組み――薬薬連携・地域医療連携はどのような状況でしょうか。

那須 勉強会、研修会については、県病薬と県薬剤師会が相互乗り入れをして、情報交換をしています。また、和歌山地域糖尿病療養指導士の取得に関しては、病院薬剤師のみならず、薬局薬剤師にも門戸を開いています。

岡田 田辺地区では、病院薬剤師と田辺薬剤師会所属の薬局薬剤師との交流が古くからあり、合同勉強会のほか親睦会なども行い、情報交換を行っています。例えば、2012年度は在宅緩和ケアに必要な麻薬の服薬指導についての合同勉強会を当院で3回実施しています。現時点では、退院時に病院薬剤師から薬局薬剤師への患者さんの情報提供として、お薬手帳や情報提供書を渡しているものの、十分とはいえないので、今後、この点を改善していく必要があると思っています。つい最近、当院では薬薬連携の「吸入療法パス」を作成・稼働させたのですが、近い将来、その成果を示そうと考えているところです。

■新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージ――最後に、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお願いします。

岡田 病棟薬剤業務実施加算はこれまで薬剤師が地道にやってきたことがようやく診療報酬として評価されたという点で大きな意味を持ちます。これからの薬剤師はこの評価に甘えることなく、これまで以上にチーム医療の推進、医師や看護師との協働に邁進してほしいと考えています。6年制の薬剤師は、私たち4年制の薬剤師とはまったく違うカリキュラムで教育を受けて

きており、その臨床能力に対して周囲は大きな期待を持っています。今後、6年制の薬剤師は病棟薬剤業務の実践とともに、臨床研究も視野に入れていかなければならないと感じています。ただし、6年制の薬剤師が社会に出てきて、病棟薬剤業務実施加算が新設され、病院薬剤師の新しい時代を迎えたとしても、薬剤師はまずはジェネラリストであるべきだということを忘れないでほしいと思っています。若手薬剤師には専門性を求める傾向がみられますが、まずは広い知識をもってからでなければ、専門性を持つ意味がないことを強調しておきたいと思います。

那須 病棟薬剤業務を行う中で、大切なことは医師や看護師などの他職種とのコミュニケーションだと考えています。そのため、薬剤師は医師や看護師から「いろいろなことを聞きやすい人」「どんな質問でも真剣に聞いてくれる人」「この人に聞けば誠実に答えてくれる」と思われる一方、便利屋ではないという姿勢を貫く必要もあります。医師、看護師など他職種とともに、協働する仲間として、一緒に患者さんのためのチーム医療はどうあるべきかを考えていってほしいと思います。

社会保険紀南病院:病棟薬剤業務実施による実績の変化(持参薬鑑別件数・TDM依頼件数)

資料1

南和歌山医療センター : 症例検討会のテーマ資料2

500

400

300

200

100

0

(件) (件)持参薬鑑別

持参薬鑑別

TDM依頼

TDM依頼

20

15

10

5

0

3143件

4466件

合計

85件

135件

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月11月12月 1月 2月 3月

2012年度2011年度

2012年度2011年度

ARB、Ca拮抗剤の比較、検討薬物血中濃度解析の実際と副作用防止について(解析ソフトを用いて)救命救急センターでの脳梗塞急性期における薬物療法~t-PA製剤を再考する~てんかん疑いの患者に対する薬剤指導についてTACE施行患者への薬学的介入について進行再発乳がんの化学療法についてVATSへ薬剤師はいかに介入すべきか盲腸がん患者症例報告(口内炎、下痢に対する薬学的介入について)悪心・嘔吐について病態と薬物との関連について(腎機能低下症例から) VCM投与患者でトラフ値が十分上昇しなかった症例について

開催年月日

H24.6.19

H24.8.21

H24.10.9

H24.11.28H24.12.11

H25.1.15

H25.2.20

H25.2.20

H25.4.24

H25.5.29

H25.7.24

テーマ 病棟

5階病棟

ICT

救命救急

4階病棟5階病棟4階病棟

6階病棟

6階病棟

6階病棟

救命救急

4階病棟

田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

発行月 : 平成25年11月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社

〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

和歌山県版特別号

新時代を迎えた病院薬剤師~さらなる飛躍に向けた業務展開と課題~

和歌山県病院薬剤師会 会長社会保険紀南病院 薬剤部長那須 明弘 先生

独立行政法人国立病院機構南和歌山医療センター 薬剤科長(現 ・ 神戸医療センター 薬剤科長)岡田  博 先生

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

■和歌山県における病棟薬剤業務の現状と展望――病棟薬剤業務実施加算が新設されて1年がたちましたが、現状についてどのようにお考えですか。

那須 2013年7月現在、和歌山県内で病棟薬剤業務実施加算を算定している施設は、2012年4月時点の5病院から徐々に増えて15病院となっています。ただし、2012年末からは増えていません。また、15病院のうちほとんどが中小規模の病院で、診療科や病棟数の多い大規模病院では薬剤師のマンパワー不足などから、算定のハードルは高いようです。私ども社会保険紀南病院(一般病床352床、8病棟)は2012年4月に算定を開始しました。現在、薬剤部として薬剤師17人(うち1人が育児休暇中)、非常勤1人、薬剤助手2人の体制で、発注業務などはSPDのスタッフが行いますが、化学療法に力を入れているほか、NSTやICTなど院内のチーム医療にも積極的に参画していますので、当院においてもマンパワー不足は否めません。

岡田 南和歌山医療センター(一般病床316病床)は、2012年7月から加算を算定しています。それは、私が2011年の着任時に薬剤師の病棟常駐化を実現したいと考え、病院幹部の理解を得て2012年4月から6年制新卒薬剤師3名が増員となり、8病棟(うち病棟薬剤業務実施加算対象病棟は6病棟)で薬剤師12名、助手2名の体制ができたことが大きな理由だったと思います。この増員がなければ、加算の届け出は難しかったのではないかと感じています。2013年7月現在、薬剤師は13人、うちCRC担当薬剤師2名、助手2名となっています。

――マンパワー不足の問題を含めて、和歌山県病院薬剤師会としての会員への支援策についてお伺いします。

那須 和歌山県病院薬剤師会(以下、県病薬)では、年に1度、医療安全を兼ねた薬剤情報提供に関する講演会を開催しており、2013年7月には「病棟薬剤業務実施加算」をテーマに、算定している6施設と医療安全に取り組んでいる施設で、問題点や利点について討論しました。ただ、薬剤師を確保・増員できるかどうか

は、各施設が抱える問題に左右されると思います。岡田 私たち国立病院機構では、北は福井、西は姫路、南は南紀田辺に及ぶ近畿管内全域で薬剤師を一括採用しています。しかし、採用時の配属先が当院のような地方にある病院に決まると辞退する人もいるので、増員どころか確保すらできない状況にあります。

那須 そうしたことも踏まえて、県病薬では、当県の医療機関への薬剤師の入職者数を増やす目的で、大学向けのDVDの作成を進めているほか、学生実習の窓口である近畿地区調整機構に対して『ふるさと実習』を推進するように強くお願いしています。

――薬剤師増員の方策についてはどのようにお考えでしょうか。

岡田 増員については、実績をつくり、医療チームのスタッフから薬剤師の必要性を認めてもらうことに尽きると思います。

那須 私たち公務員の場合は、医師は別として、病院全体の職員数が規定されているので、例えば看護師を増やすと、薬剤師など他職種を減らさざるをえません。規定を超えて薬剤師数を増やす場合は、議会の承認が必要で、そこで何かを言うためには、チーム医療での実績をつくる必要があると思います。

■チーム医療の推進と協働への取り組み――病棟薬剤業務の実施状況について教えてください。

那須 病棟薬剤業務実施加算を算定し始めましたが、これまでに病棟で実施してきた薬剤業務はほとんど変わっていません。算定条件として列記されている病棟薬剤業務については、ほぼ取り組みがなされており、持参薬管理や化学療法のレジメン管理と抗がん剤の混合調製、MRSAを中心とした抗生剤処方に対するTDMの解析などは以前から行っていました。しかし、薬剤師の病棟常駐化により、持参薬管理が年間約1,300件、月にすると約100件程度増えている(資料1)ほか、薬剤管理指導料や退院時服薬指導料の算定件数も大きく増えました。

岡田 当院は病棟ごとに1人の担当薬剤師を決めていますが、1フロアにある2病棟を3人の薬剤師で担当するようにしています。当院も那須先生のところと同様に、加算を算定する以前から病棟業務を実践していました。具体的には、病棟での持参薬管理はかなり実施されており、それに伴う当院採用医薬品を用いた医師への処方提案も積極的に行われていました。また、がん化学療法におけるレジメン管理や入院・外来を含む抗がん剤調製、ICT、NST、褥瘡チームなど院内横断的な医療チームにも参加していました。つまり、医師や看護師などとの協働は既にほぼできており、実際、加算算定にあたっては、医師や看護師に協力を求める際にも、「当院ではこれまでの業務内容と基本的に変わらない」と説明しました。

――病棟薬剤業務の成果として、何か表れてきていますか。

那須 以前、抗がん剤の調製において、薬剤師はミキシングまでしか行っていませんでしたが、看護部との話し合いで、現在は薬剤師がミキシング後、ルートを接続し、患者さんにそのまま投与できる状態にしています。それにより、看護師からは安全性が向上したという評価を得ています。

岡田 看護師から評価が高い病棟薬剤業務としては、持参薬管理があります。それにより看護師は薬がなくなるタイミングを把握でき、医師に処方を依頼しやすくなるからです。施設によっては、医師や看護師などの他職種を対象に、病棟薬剤業務実施後、業務軽減がみられたか、患者さんへのフィードバックになったかなどのアンケート調査を実施しているようです。

那須 病棟薬剤業務の成果を数字で示すことは難しいですね。当院は先ほどお話ししたように、持参薬管理の件数が増えていることに加えて、病棟での医師-薬剤師間のコミュニケーションが良くなったからか、薬剤部から医師への疑義照会件数が減っています。また、薬剤師が医師に依頼を促すようになったことから、2012年度のTDMの依頼件数が2011年度のほぼ2倍に増えました(資料1)。

和歌山県版 特別号

和歌山県版特別号

岡田 確かに、当院でも薬剤師が病棟にいる時間が長くなったことから、薬剤に関する医師や看護師からの問い合わせをその場で解決していることもあって、疑義照会は減っている印象があります。

――薬剤師が病棟にいることで、医師や看護師などと患者情報の共有化を図れているように思われますが、それについて具体的な取り組みは?

岡田 病棟にいる時間が増えると、患者情報は病棟単位で共有されるため、同じ病棟に関わる薬剤師を除けば、医師や看護師との間で共有されやすくなります。しかし、薬剤科内での患者情報の共有は非常に大切で、例えば、患者さんが救命救急から一般病棟へ移ったときも、病棟薬剤師に情報が途切れることなくつなぐことができます。そこで、当院では、月1回、病棟での疑義照会内容の紹介を含めた症例検討会(資料2)を開催しているほか、朝礼や科内会議で、医薬品情報担当者から添付文書改訂など必要な医薬品情報を提供するようにしています。

那須 当院もほぼ同じで、毎朝の朝礼時に添付文書の改訂などを含めた医薬品情報の共有化を図り、毎週木曜日の休憩終了後に症例報告をしています。

■薬剤師の資質向上への取り組み――薬剤師の教育やレベルアップについてはどのようにお考えですか。まず、6年制教育を受けた薬剤師についてお伺いします。

岡田 当院には2012年度に、初めてとなる6年制の薬剤師が3人入職してきましたが、彼らは、私たち4年制の薬剤師に比べると、卒業時の薬学的な知識や、長期の実務実習による調剤の技術など一通りは身につけているという印象を受けました。ただ、チーム医療を実践する上で最も重要となる、他職種とのコミュニケーションは大学での講義や実習だけでは不十分なところもあると感じました。逆にそれさえカバーすれば、即戦力になりえると思われます。新卒薬剤師を採用後3カ月で戦力に育成するため、最初は病棟薬剤業務として持参薬確認を中心に実務を覚えてもらいました。同時に、ベテランの薬剤師が患者さんや他職種とのコミュニケーション、記録の取り方などを実地で教えたところ成果が得られ、目標どおりに7月には病棟薬剤業務実施加算を算定することができました。

――県病薬では薬剤師のスキルアップとしてどのような取り組みをされていますか。

那須 県病薬では、前述した医療安全を兼ねた薬剤情報提供の講演会を年に1回開催しているほか、研修会をシリーズで展開しており、毎年2つのテーマを選定し、専門シリーズと教育シリーズを各5回、計10回実施しています。また、毎年3月の第1日曜日に県病薬の学術大会を開催したり、若手薬剤師を対象にした1泊2日の研修会(8月下旬~9月上旬)やスキルアップ研修会(12月初旬)を行っています。ただし、和歌山県は地形が細長く、し

かも、田辺より南側の交通の便はあまり良くないため、南紀、中紀、橋本などから和歌山市内に出てくることは難しいことから、今後は、地域ごとで勉強会をするなど、支部活動を充実させていかなければならないと考えています。

岡田 薬剤師間の情報共有も必要なことですので、県病薬が積極的に研修会を開催してくださっているのは非常にありがたく感じています。

■薬薬連携・地域医療連携への取り組み――薬薬連携・地域医療連携はどのような状況でしょうか。

那須 勉強会、研修会については、県病薬と県薬剤師会が相互乗り入れをして、情報交換をしています。また、和歌山地域糖尿病療養指導士の取得に関しては、病院薬剤師のみならず、薬局薬剤師にも門戸を開いています。

岡田 田辺地区では、病院薬剤師と田辺薬剤師会所属の薬局薬剤師との交流が古くからあり、合同勉強会のほか親睦会なども行い、情報交換を行っています。例えば、2012年度は在宅緩和ケアに必要な麻薬の服薬指導についての合同勉強会を当院で3回実施しています。現時点では、退院時に病院薬剤師から薬局薬剤師への患者さんの情報提供として、お薬手帳や情報提供書を渡しているものの、十分とはいえないので、今後、この点を改善していく必要があると思っています。つい最近、当院では薬薬連携の「吸入療法パス」を作成・稼働させたのですが、近い将来、その成果を示そうと考えているところです。

■新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージ――最後に、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお願いします。

岡田 病棟薬剤業務実施加算はこれまで薬剤師が地道にやってきたことがようやく診療報酬として評価されたという点で大きな意味を持ちます。これからの薬剤師はこの評価に甘えることなく、これまで以上にチーム医療の推進、医師や看護師との協働に邁進してほしいと考えています。6年制の薬剤師は、私たち4年制の薬剤師とはまったく違うカリキュラムで教育を受けて

きており、その臨床能力に対して周囲は大きな期待を持っています。今後、6年制の薬剤師は病棟薬剤業務の実践とともに、臨床研究も視野に入れていかなければならないと感じています。ただし、6年制の薬剤師が社会に出てきて、病棟薬剤業務実施加算が新設され、病院薬剤師の新しい時代を迎えたとしても、薬剤師はまずはジェネラリストであるべきだということを忘れないでほしいと思っています。若手薬剤師には専門性を求める傾向がみられますが、まずは広い知識をもってからでなければ、専門性を持つ意味がないことを強調しておきたいと思います。

那須 病棟薬剤業務を行う中で、大切なことは医師や看護師などの他職種とのコミュニケーションだと考えています。そのため、薬剤師は医師や看護師から「いろいろなことを聞きやすい人」「どんな質問でも真剣に聞いてくれる人」「この人に聞けば誠実に答えてくれる」と思われる一方、便利屋ではないという姿勢を貫く必要もあります。医師、看護師など他職種とともに、協働する仲間として、一緒に患者さんのためのチーム医療はどうあるべきかを考えていってほしいと思います。

 2012年度の診療報酬改定において、薬剤師の病棟業務に対する評価として「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。患者さんへの安全かつ適切な薬物療法の提供のために、薬剤師はその専門性を最大限発揮するとともに、チーム医療の一員として、これまで以上に積極的に医師や看護師など他職種との連携・協働を進めることが求められています。 「ファーマスコープ特別号・和歌山県版2013」では、社会保険紀南病院薬剤部長の那須明弘先生と、南和歌山医療センター薬剤科長の岡田博先生のお二人に、和歌山県における病棟薬剤業務の現状、とくに病棟でのチーム医療の推進と協働のほか、薬剤師の資質向上への取り組み、薬薬連携・地域連携などについてお話を伺う中から、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお届けします。

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