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エージェントベース国際貿易モデルの構築と

通貨の流通に関する研究

北海道大学大学院 工学研究科

システム情報工学専攻

複雑系工学講座 調和系工学分野

佐々木 雄一

背景

•国際的な商取引における決済は,取引の当事者同士が合意する通貨によって行われる.

•しかし,多くの経済学で用いられるモデルでは,ある特定の通貨による支払いが仮定されている.

•実際には,国際通貨の使用は国際的な取り決めによって規定されるものではなく,取引の過程においてボトムアップに現れる.

研究目的

•ボトムアップに国際通貨が流通するエージェントベース・モデルの構築.

•エージェントのミクロな振舞いと国際通貨の流通との関係の考察.

•実験結果と,現実との比較を行なう.

国(複数)

通貨

商品(Food) 労働者

(生産消費エージェント)

消費

生産

交換の媒体・価値の表示機能

全ての取引は実需の上に成り立つ

表裏の

関係

取引を行なうための手段を得るという目的では十分

消費によって欲求を満たす行為者

通貨と商品を交換する場が必要

支払手段の

選択基準

(通貨の信用度)

貿易商

(貿易エージェント) 国家間に価格差が生じ,そこから利益を得ようとする誘引が生じる

支払手段を選択する必要がある

国際市場

(国際Food市場)

国家間の商取引を行う場が必要

為替トレーダー

(通貨取引エージェント)

外為市場

(国際通貨市場)

国際取引における支払通貨を確保する必要がある

レートの変化から利益を得ようとする誘引が生じる

目的:国際通貨の流通の考察

国内市場

(国内Food市場)

消費財を得るために労働する必要がある

C国 国内Food市場 (Food⇔通貨C)

B国 国内Food市場 (Food⇔通貨B)

A国 国内Food市場 (Food⇔通貨A)

国際貿易モデルの概念図

財の種類

Food

各国通貨 •Foodの輸出入

•通貨の実需

•Foodの生産・消費

•通貨の生産

•Foodの実需

通貨の投機

国際Food市場

(Food⇔通貨)

国際通貨市場

(通貨⇔通貨)

生産消費エージェント

生産消費エージェント 生産消費エージェント

貿易エージェント 貿易エージェント

貿易エージェント

通貨取引

エージェント

:Food取引

:通貨取引

生産消費エージェント [96 K.Steiglitz]

...

•Foodと自国通貨を生産する

A国

生産消費エージェント

•毎期,一定量のFoodを消費することで欲求を満たす

•生産能力とFoodの価格をもとに価値の高い方を生産する

生産

消費

skill_ fi ・ PA(t-1) ≧ skill_ci → Foodを生産する

skill_ fi ・ PA(t-1) < skill_ci → 通貨を生産する

skill_ fi : 生産消費エージェント i のFood生産力

skill_ci : 生産消費エージェント i の通貨生産

PA(t-1) :前期のA国のFood価格

1 2 i

国内Food市場

...

国内Food市場 (Food⇔通貨A)

売買注文

生産消費エージェント

A国

•生産消費エージェントは理想的なFood

保有量を維持するために取引を行なう.

0

1

2

3

4

5

0 10 20 30 40 50 60

Food保有量

効用関数

通貨保有量=3

通貨保有量=30

通貨保有量=300

余り 不足

注文価格 = B( f , c)・PA(t-1)

c : 通貨保有量

f : Food保有量

B( f , c) : 効用関数

図 :財の保有量と効用関数の値

取引の目的

価格

PA(t)

供給 需要

PA(t-1) : A国の前期Food価格

売り/買い

価格

貿易エージェント

国内Food市場

...

...

国内Food市場

...

...

:生産消費エージェント

:貿易エージェント

A国 B国

安い市場でFoodを買い,高い市場で売る

国家間の価格差を利用して利益を得ようとする

注文価格

bid(t) : 注文価格

P(t-1) : 自国のFood価格marginj : 正の定数

•輸出の場合→bid(t)=P(t-1)・(1+marginj) •輸入の場合→bid(t)=P(t-1)・(1 -marginj)

取引の目的:

国際Food市場

国内Food市場

...

...

国内Food市場

...

...

国際

Food市場

:生産消費エージェント

:貿易エージェント

A国 B国

国際取引では,決済に用いる通貨を交渉で決定する

取引通貨の交渉:

相対取引:

相対取引による交渉

•1対1で取引

•取引相手はランダムに選択

•決済通貨は交渉によって決まる

(通貨の信用度の導入)

通貨の信用度

取引の当事者同士が合意する,信用度の高い通貨が支払通貨となる

・ Foodの売り手が支払いに要求する通貨の信用度を上げる

(過去に需要の高かった通貨の信用度を上げる) ・ 信用度の高い通貨を優先的に受け取る

・ 信用度が閾値以下の通貨は受け取らない

国際取引ではどの通貨で支払うかを規定できない

支払通貨の選択

支払通貨の選択

)()1()( tamounttCtC kk

の信用度通貨ktCk :)(•

• α: 正の定数

• amount : Foodの売り手が提示するFoodの量

[95 A.Yasutomi]

信用度の計算

外貨保有比率の決定

国際通貨市場

国内Food市場

...

...

国内Food市場

...

...

国際

Food市場

国際

通貨市場

A国 B国

:生産消費エージェント

:貿易エージェント

貿易エージェントは決済手段確保のため,通貨取引を行なう.

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

0 5 10 15 20

M

効用関数

M(通貨保有量)

U(M) : 効用関数

rate(t-1) : 前期の通貨レート

効用関数

U(M)=exp(logγ・(1-M))

注文価格=U(M)・rate(t-1)

貿易エージェントの通貨取引:

信用度の高い通貨を多く保有しようとする

通貨取引エージェント

国内Food市場

...

...

国内Food市場

...

...

国際

Food市場

国際

通貨市場

...

A国 B国

:生産消費エージェント

:貿易エージェント

:通貨取引エージェント

F(t) marginh

注文レート= F(t)・(1+marginh)

: 予測レート

F(t)は過去のレートの平滑化によって求められる

: 正の定数

安いときに通貨を買い,高いときに売ることで利益を得ようとする

通貨取引エージェントの通貨取引:

各エージェントの取引目的

Foodの取引目的 通貨の取引目的

生産消費

エージェント

実需

Foodの保有量を一定に保つ

貿易

エージェント

投機(価格差)

安い市場で買い,高い市場で売ることで利益を得ようとする

実需

国際取引の決済に使用する通貨を得る(信用度の高い通貨を多く保有しようとする)

通貨取引

エージェント

投機(価格変動)

安いときに買い,高いときに売ることで利益を得ようとする

市場の取引方法

取引方法 決済通貨

国内Food市場 均衡 自国通貨

国際Food市場 相対取引 交渉によって決定

国際通貨市場 均衡

実験目的

国家数 : 3カ国

生産消費エージェント数 : 各国10

貿易エージェント数 : 各国10

通貨取引エージェント数 : 10

シミュレーション期間 : 10,000期

各国のFoodの初期価格 : 1000, 1001, 1002

初期の為替レート : 1.0

国際貿易モデルの実装にはX-Economy System [2001 川村 他]を使用

実験設定

実行画面

提案モデルと現実との比較を行なう

•エージェントの生産活動,価格,為替レートの特徴を観察

•各国の生産規模の違いによる国際通貨の流通の変化を観察

各国の生産力が等しいとき

国際市場における各通貨によるFood取引量

図:通貨AによるFoodの取引量

図:通貨BによるFoodの取引量

図:通貨CによるFoodの取引量

初期の段階では,複数の通貨が支

払通貨として使用される.

最終的には,通貨Aのみが国際取引における支払通貨として使用される.

取引量

取引量

取引量

国家数を2~8に変更した場合でも国際通貨は1種類に収束した

基軸通貨のような役割を果たす通貨が現れた.

以後,通貨Aを基軸通貨と呼ぶ

結果:

各国の貿易エージェントが持つ,通貨の信用度の変化

図:C国の貿易エージェントの信用度の平均の変化

信用度

(

%)

信用度

(

%)

信用度

(

%)

図:B国の貿易エージェントの信用度の平均の変化

図:A国の貿易エージェントの信用度の平均の変化

最終的に全ての貿易エージェントの通貨Aの信用度が100%になる.

通貨受け取りの閾値(10%)

一度,国際通貨として用いられ始めると,ますますその通貨が使用されるようになるため.

理由:

結果:

為替レートの変化と輸出入量の変化

基軸通貨(通貨A)の為替レートがその他の通貨に比べ高くなる

通貨Aの価値

基軸通貨は非基軸通貨国の貿易エージェントにも保有されるため,需要が増加する.

理由:

図:為替レートの変化 図:各国の総輸出量と総輸入量の差

•基軸通貨国 (A国) → Foodを輸入

•非基軸通貨国(B,C国)→ Foodを輸出

通貨Aの為替レートが高くなる

A国のFoodの価格が相対的に上昇

A国の輸入が増加する

輸出

輸入

生産の傾向

•基軸通貨国 (A国) → 通貨の生産傾向が強い

•非基軸通貨国(B国,C国) → Foodの生産傾向が強い

基軸通貨国(A国)はFoodの輸入傾向が強い

基軸通貨国のFoodの供給が増加し,価格が下落する

相対的に価値の高い通貨の生産にシフトする

理由:

図:Food生産量(1日当り)

899.586

1107.906 1107.462

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

A国 B国 C国

Food生

産量

3位 1位 2位

図:通貨生産量(1日当たり)

1884681 1746861 1746777

0.0E+00

5.0E+05

1.0E+06

1.5E+06

2.0E+06

2.5E+06

A国 B国 C国

通貨生産量

1位 3位 2位

生産力・消費量を変化させたとき

図:A国の生産力・消費量をx倍にしたときに通貨Aが基軸通貨となった割合(各点50試行の結果)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1 1.5 2 2.5 3

x

P(x)割合

生産と消費の規模が大きい国ほど基軸通貨国になる割合が高くなった

一般的に言われている,基軸通貨国になるための条件,「経済規模が大きい」が成り立っている

x

実験結果と現実の国際経済の比較

基軸通貨のレートが高くなった

基軸通貨国のFoodの輸入傾向が強まった

基軸通貨国は通貨の生産にシフトし,非基軸通貨国はFoodの生産にシフトした.

主要な国際通貨となることでレートが高くなる

製造業の流出など,産業構造の変化が起こる

国際的な価格競争力を失い,輸出による利益が減少する

提案モデル 現実の国際経済

生産・消費の規模が大きい国ほど基軸通貨になる割合が高かった

世界最大の経済大国アメリカの通貨ドルが基軸通貨として使用されている

対応関係

まとめ

•エージェントベース国際貿易モデルを構築した.

•国際通貨が1種類に収束し,基軸通貨のような役割を果たす通貨が現れた.

•中心的な国際通貨が現れたことによって,生産や輸出入の傾向が変化し,国家間に生産の役割が生じた.

•提案モデルによる実験結果と現実との比較を行い,提案モデルにおいても現実の国際経済と似た現象や傾向が観察された.

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