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AN-1386 アプリケーション・ノート サンプル・クロック・スペクトラムが ADC の測定信号スペクトラムに及ぼす 影響に関する簡単な数学的説明 著者: Benjamin Babjak Rev. 0 アナログ・デバイセズ社は、提供する情報が正確で信頼できるものであることを期していますが、その情報の利用に関して、あるいは利用によって 生じる第三者の特許やその他の権利の侵害に関して一切の責任を負いません。また、アナログ・デバイセズ社の特許または特許の権利の使用を明示 的または暗示的に許諾するものでもありません。仕様は、予告なく変更される場合があります。本紙記載の商標および登録商標は、それぞれの所有 者の財産です。※日本語版資料は REVISION が古い場合があります。最新の内容については、英語版をご参照ください。 ©2016 Analog Devices, Inc. All rights reserved. 社/〒105-6891東京都港区海岸 1-16-1 ニューピア竹芝サウスタワービル 電話 0354028200 大阪営業所/〒532-0003大阪府大阪市淀川区宮原 3-5-36 新大阪トラストタワー 電話 0663506868 はじめに 最近の高速 A/D コンバータ(ADC)の性能は、そのクロックに 直接依存しています。しかし、これらのクロックを生成するた めに使われている信号発生器の発振器は理想的なものではな く、クロックの振幅も位相も理想値から外れています。ADC サンプリング回路は小さいクロック振幅の変化に影響されない 傾向にありますが、位相オフセットの場合は、それが小さいも のであっても ADC の出力に大きく影響します。したがって、 高速 ADC で正確な値を得ようとする場合は、クロック発振器 の位相ノイズを慎重に分析する必要があります。 このアプリケーション・ノートでは、クロックおよびアナログ 入力の位相ノイズの影響を理解するために必要な、数学的背景 について概要を示します。このような数学的背景は十分に確立 されたものですが、実際に使われることは稀です。ここでは、 振幅ノイズと位相ノイズの相違点と類似点について述べるとと もに、側波帯電力を予測する式について提案を行い、さらにク ロックおよびアナログ入力のノイズが測定 ADC 信号に結合す るメカニズムを明らかにします。 最後に、AD9684 を例にとり、最近の高速 ADC の評価と性能予 測にこれらの手法を適用する方法も示します。 日本語参考資料 最新版英語アプリケーション・ノートはこちら

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Page 1: AN-1386: サンプル・クロック・スペクトラムが ADC の測定 …AN-1386 アプリケーション・ノート サンプル・クロック・スペクトラムが ADC の測定信号スペクトラムに及ぼす

AN-1386

アプリケーション・ノート

サンプル・クロック・スペクトラムが ADC の測定信号スペクトラムに及ぼす

影響に関する簡単な数学的説明

著者: Benjamin Babjak

Rev. 0

アナログ・デバイセズ社は、提供する情報が正確で信頼できるものであることを期していますが、その情報の利用に関して、あるいは利用によって

生じる第三者の特許やその他の権利の侵害に関して一切の責任を負いません。また、アナログ・デバイセズ社の特許または特許の権利の使用を明示

的または暗示的に許諾するものでもありません。仕様は、予告なく変更される場合があります。本紙記載の商標および登録商標は、それぞれの所有

者の財産です。※日本語版資料はREVISION が古い場合があります。最新の内容については、英語版をご参照ください。

©2016 Analog Devices, Inc. All rights reserved.

本 社/〒105-6891東京都港区海岸 1-16-1 ニューピア竹芝サウスタワービル

電話 03(5402)8200

大阪営業所/〒532-0003大阪府大阪市淀川区宮原 3-5-36 新大阪トラストタワー

電話 06(6350)6868

はじめに

最近の高速 A/D コンバータ(ADC)の性能は、そのクロックに

直接依存しています。しかし、これらのクロックを生成するた

めに使われている信号発生器の発振器は理想的なものではな

く、クロックの振幅も位相も理想値から外れています。ADC の

サンプリング回路は小さいクロック振幅の変化に影響されない

傾向にありますが、位相オフセットの場合は、それが小さいも

のであっても ADC の出力に大きく影響します。したがって、

高速 ADC で正確な値を得ようとする場合は、クロック発振器

の位相ノイズを慎重に分析する必要があります。

このアプリケーション・ノートでは、クロックおよびアナログ

入力の位相ノイズの影響を理解するために必要な、数学的背景

について概要を示します。このような数学的背景は十分に確立

されたものですが、実際に使われることは稀です。ここでは、

振幅ノイズと位相ノイズの相違点と類似点について述べるとと

もに、側波帯電力を予測する式について提案を行い、さらにク

ロックおよびアナログ入力のノイズが測定 ADC 信号に結合す

るメカニズムを明らかにします。

最後に、AD9684 を例にとり、最近の高速 ADC の評価と性能予

測にこれらの手法を適用する方法も示します。

日本語参考資料

最新版英語アプリケーション・ノートはこちら

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アプリケーション・ノート AN-1386

Rev. 0 - 2/12 -

目次 はじめに .............................................................................................. 1

改訂履歴 .............................................................................................. 2

振幅ノイズと位相ノイズの関係 ...................................................... 3

三角関数の近似 .............................................................................. 3

確定的アプローチ .......................................................................... 3

確率的アプローチ .......................................................................... 4

結果.................................................................................................. 5

低 PM 変調指数の基準 .................................................................. 6

側波帯電力 .......................................................................................... 7

ジッタと位相ノイズ .......................................................................... 8

クロック.......................................................................................... 8

アナログ入力 .................................................................................. 9

フルスケール基準の結果 ............................................................ 10

例 ....................................................................................................... 11

インターリーブ型 ADC のクロック・スキュー・ジッタ - 複

雑な ADC の動作を明確にするための理論を適用 .................. 11

SMA100A 信号発生器と AD9684 ADC — スペクトラムを予測

するための理論を適用 ................................................................ 11

改訂履歴

6/2016—Revision 0: Initial Version

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アプリケーション・ノート AN-1386

Rev. 0 - 3/12 -

振幅ノイズと位相ノイズの関係 高速 ADC のクロック波形には、ほとんど正弦波が使われてい

ます。これは、矩形波などの他の波形よりも、正弦波の方が、

生成、伝送、RF 周波数でのマッチングを容易に行えるためで

す。正弦波は、数学的には次のように記述できます。

c(t)= Ac sinωct

ここで、

c(t)はキャリア(クロック)、

Ac はキャリア振幅、

ωc は角周波数、

t は時間です。

通常、クロック信号は高電力であり(>13 dBm)、これが配線

やコネクタ、およびパターンによる損失を補います。クロック

電力はノイズ電力より高いと見なしても支障はありません。

三角関数の近似

このアプリケーション・ノートでは、全体を通じ、x << 1 の領

域では以下の近似が使われています。したがって、ここに示す

アプローチが成り立たなくなった場合には何が起こるのかを認

識しておくことが重要です。これらの単純な線形近似では、図

1 に示すように、x の値が大きくなると誤差も大きくなります。

x

xxxx

k

xx

k

kk

!7!5!3!21

1sin

753

0

21

1

!6!4!21

!2

1cos

642

0

2

xxx

k

xx

k

kk

図 1. 三角関数の近似誤差

確定的アプローチ

最初のテーマはクロック・ノイズですが、これは、以下の証明

では正弦関数で表せるものと仮定します。この単純化により、

キャリアとノイズの間の位相を分析することができます。振幅

ノイズは振幅変調(AM)の形で検討します。

tAtAtc ccnnAM sin)cos1(

ttAAtA cnnccc sincossin

ttAA

tA ncncnc

cc )sin()sin(2

sin

ここで、

cAM(t)は AM ノイズを含むキャリア(クロック)、

Ac はキャリア振幅、

An はノイズ振幅、

ωn はノイズの角周波数です。

AM は 2 つの周波数成分を生成することに注意してください。1

つはキャリア周波数より低い成分、もう 1 つは高い成分です。

したがって、この変調は一般に両側波帯(DSB)変調と呼ばれ

ます。これら 2 つの成分の位相も、キャリアの位相に揃えられ

ます。波形はすべて正弦波です。

図 2. AM-DSB 変調された信号のフェーザ図

図 2 に示す信号のフェーザ図は、位相結合をより直感的に示し

ています。sinωct のキャリアは 90 ° の位相に位置し、垂直方向

(上)を向いています。キャリアを基準として比較すると、2

つのノイズ成分は ωn の角速度で互いに反対方向に回った位置に

なります。したがってその合計は、常にキャリアと同方向のベ

クトルとなります。言葉を変えると、振幅ノイズは常にキャリ

アと同位相になります。これらの AM 変調された信号のスペク

トラムを図 3 に示します。

図 3. AM-DSB 変調された信号のスペクトラム

0.6

SINE

COSINE

0.5

0.4

0.3

RE

LA

TIV

E E

RR

OR

(%

)

0.2

0.1

0

0 2

ANGLE (Degrees)

4

13

79

9-0

01

6

+ωn –ωn

IMAGINARY

REAL

CARRIER

NOISE

SUM OFNOISE

NOISE

13

79

9-0

02

13

79

9-0

03

ωc + ωn ωc ωc – ωn

NOISE

CARRIER

NOISE

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アプリケーション・ノート AN-1386

Rev. 0 - 4/12 -

次のテーマは、位相変調(PM)の形を取る位相ノイズです。

cPM(t)= Ac sin(ωct + An cosωnt)

= Ac sinωct cos(An cosωnt)+ Ac cosωct sin(An cosωnt)

この場合は、An を位相変調指数と呼ぶことができます。An << 1

の場合は次式が成り立ちます。

cos(An cosωnt)≈ 1

sin(An cosωnt)≈ An cosωnt

これにより、PM の式を単純化することができます。

ttAAtAtc ncncccPM coscossin

ttAA

tA ncncnc

cc coscos2

sin

2 つのノイズ成分が、AM-DSB の場合と同じ周波数に現われま

す。唯一の違いはそれらの位相で、AM-DSB 信号と比べて 90 °

ずれています。したがって、その合計は常にキャリアに対して

直角です。フェーザ図と信号スペクトラムは、信号可視化の助

けとなります(図 4 と図 5 を参照)。

図 4. 低変調指数 PM 信号のフェーザ図

これらの図は、スペクトラム解析におけるひとつの根本的な問

題も示しています。それは、AM-DSB 信号と低変調指数 PM 信

号のスペクトラムを区別できないことです。多くの場合 AM ノ

イズと PM ノイズは同時に存在し、測定されたスペクトラム

は、それぞれのスペクトラムの組み合わせです。

図 5. 低変調指数 PM 信号のスペクトラム

確率的アプローチ

ノイズは確定的なものではなく、多くの場合は正弦波でもあり

ません。したがって、解析に関する次のトピックは、確率的ノ

イズのパワー・スペクトラム密度(PSD)です。スペクトラム

には負の周波数が含まれていますが、これは、電気通信におけ

る信号解析方法の慣習に関係する概念です。

ノイズ関数 n(t)の期待値はゼロ、つまり E[n(t)]= 0 であ

るものとし、その DSB PSD は ν(ω)、つまり ν(ω)= ν

(−ω)であるものとします。

まず、AM ノイズ信号から考えていきます。

cAM(t)=(1 + n(t))Ac sinωct

そのフーリエ変換を次のように定義したとします。

2

2

lim

T

T

tjAM

TAMAM dtetcCtcF

ここで、T は周期です。

この場合、その PSD の式は次のように表すことができます。

21lim CE

TtcPSD AM

TAMAM

2

2

2

2

11

lim

T

T2

tj2AM

T

T1

tj1AM

TdtetcdtetcE

T2

2

2

2

2

1lim

T

T2

T

T1

ttj2AM1AM

TdtdtetctcE

T21

重要な部分は積分内にある期待値の式で、これは個別に扱われ

ます。

E[cAM(t1)cAM(t2)]

= E[(1 + n(t1))Ac sinωct1(1 + n(t2))Ac

sinωct2]

= Ac2

sinωct1 sinωct2 E[(1 + n(t1))(1 + n(t2))]

= Ac2

sinωct1 sinωct2 E[1 + n(t1)+ n(t2)+ n(t1)n

(t2)]

= Ac2

sinωct1 sinωct2(1 + 0 + 0 + E[n(t1)n(t2)])

変数 t1 と t2 は、τ = t1 − t2 と υ = t1 + t2 に置き換えられます。E[n

(t1)n(t2)]は時間差だけに依存すると仮定します。したが

って、これは自己相関関数 R(τ)に置き換えることができま

す。

RA

tctcE ccc

AMAM 1coscos2

2

21

この結果は、PSD の計算式に代入することができます。多重積

分内の変数を変更する場合は、ヤコビ行列の行列値(この場合

は 1/2)を式に乗じる必要があります。変数の変更は、積分限界

にも影響を与えることに注意してください。

T

T

T

T

jcc

T

c

AM

ddeRT

A1coscos

1lim

4

)(

2

+ωn

–ωn

SUM OF NOISE

CARRIER

NOISE

NOISE

13

79

9-0

04

IMAGINARY

REAL

13

79

9-0

05

ωc + ωn ωc ωc – ωn

NOISE

CARRIER

NOISE 2122

2

1coscos2

tntnEttttA

1c1cc

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アプリケーション・ノート AN-1386

Rev. 0 - 5/12 -

変数 υ に依存するのは(cosωcτ − cosωcυ)だけです。したがっ

て、これは個別に積分することができます。

dddT

Tc

T

Tc

T

Tcc

cos1coscoscos

T

Tc

ccT

sincos2

TT c

c

cc cos

sin2cos2

c

cc

T

TT

sin1cos2

これにより、PSD の式はさらに簡単になります。

T

T

jc

c

c

T

cAM deR

T

TA1cos

sin1lim

2

2

deRA j

cc 1cos

2

2

deReeA jjjc cc 14

2

deA

deA jcjc cc

44

22

deRA

deRA jcjc cc

44

22

cc

cc

cc

cc AAAA

4444

2222

結果は、前の結論に対応します。信号スペクトラムは 2 つの主

要部分で構成されます。第 1 の部分は角周波数 ωc の純粋なキャ

リアで、これは 2 つの「ディラックのデルタ関数」で表されま

す。すなわち、正の周波数の場合は δ(ω − ωc)、負の周波数の

場合は δ(ω + ωc)です。

第 2 の部分はノイズ信号自体の DSB PSD で、やはり ωc にミッ

クスされます(ν(ω − ωc)と ν(ω + ωc)を参照)。これは

Ac2/4 によってスケーリングされ、スペクトラムのあらゆる絶対

測定値はこの係数を包含しています。しかし実際には、このよ

うな依存性を避けるために、測定ノイズは測定キャリアに基づ

いて電力にスケール・バックされて、DC にシフト・バックさ

れます。その結果がオリジナルのノイズ PSD ν(ω)で、ここで

はこれをキャリア基準ノイズ PSD と呼びます。

次に、位相変調について検討します。

cPM(t)= Ac sin(ωct + n(t))

= Ac sinωct cos n(t)+ Ac cosωct sin n(t)

n(t)<< 1 の場合は次式が成り立ちます。

cos(n(t))≈ 1

sin(n(t))≈ n(t)

これにより、式を単純化することができます。

cPM(t)≈ Ac sinωct + n(t)Ac cosωct

その PSD の式は次のように表すことができます。

2

2

2

2

2

1lim

T

T2

T

T1

ttjPM1PM

TPM dtdtetctcE

T21

重要な部分は期待値で、これについては個別に検討します。

E[cPM(t1)cPM(t2)]

≈ Ac2 E[(sinωc t1 + n(t1)cosωc t1)(sinωct2 + n(t2)

cosωc t2)]

= Ac2

E[sinωc t1 sinωc t2 + sinωc t1 n(t2)cosωc t2 +

n(t1)cosωc t1 sinωc t2 + n(t1)n(t2)cosωc t1 cosωc t2]

= Ac2

sinωc t1 sinωc t2 + Ac2 cosωc t1 cosωc t2 E[n(t1)n(t2)]

第 1 の部分は純粋なキャリアで、これは前に示した証明と同じ

です。したがって、問題となるのは第 2 の部分だけです。変数

t1 と t2 は、τ = t1 − t2 と υ = t1 + t2、および E[n(t1)n(t2)]= R

(τ)に置き換えられます。第 2 の部分は次式で表されます。

RA

ccc coscos

2

2

変数 υ については個別に積分します。

c

cc

T

Tcc

T

TTd

sin1cos2coscos

この式を PSD の計算に代入します。

deA

deT

TA

jc

c

T

T

jc

c

c

T

c

cos2

cossin

1lim2

2

2

最後に、すべての部分をまとめます。

cc

cc

cc

cc

PM

AAAA

4444

2222

ここでも、信号スペクトラムが、角周波数 ωc の純粋なキャリア

と、ωc にミックスされたノイズ信号自体の DSB PSD から構成

されることが分かります。しかしこの場合、ミキシングは、

90 ° の位相シフトを追加して余弦により行われます。

結果

確定的フェーザ・アプローチでも確率的アプローチでも、同じ

ように広範な結果になることが分かります。第 1 に、低変調指

数の PM 信号では、側波帯は変調指数と直接的な関係がありま

す。側波帯の電力を調べれば、位相ノイズの電力が分かりま

す。

第 2 に、あらゆる追加ノイズ・ベクトルは、AM ノイズ(キャ

リアと同位相)と PM ノイズ(キャリアと直角)を合計したも

のと解釈することができます。PM ノイズを対象とする場合、

側波帯電力に基づいて位相ノイズ電力を予測できるようにする

には、あらかじめ AM 成分を除去する必要があります。

第 3 に、この証明が有効なのは変調指数が低い場合に限られま

す。それ以外の場合は、側波帯電力と位相ノイズ電力の間に直

接的な関係が無くなり、この結論に基づく予測は本質的に無効

になります。

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アプリケーション・ノート AN-1386

Rev. 0 - 6/12 -

低 PM 変調指数の基準

正弦関数と余弦関数をテイラー展開すると、変調指数が高くな

った場合にどうなるかが明らかになります。ノイズ関数は非直

線領域に入りますが、単純な確定的正弦波ノイズの場合、これ

は次のようになります。

!5

cos

!3

coscoscossin

5533 tAtAtAtA nnnn

nnnn

式内の 3 乗項、5 乗項、および以降の奇数乗項は、追加的な電

力を伴う高調波を側波帯内に発生させ、PSD の計算はベッセル

積分に変わります。関連する各式は、前述の証明に基づいて容

易に記述できますが、これらの式は長く、あまり参考になりま

せん。実際には、側波帯電力が PM ノイズ電力より大きくな

り、側波帯電力を使って PM ノイズ電力を予測することができ

なくなります。しかし、低変調指数と高変調指数の間に明確な

境界はなく、この単純な近似がうまく機能するかどうかの判断

は、ユーザーに委ねられます。

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アプリケーション・ノート AN-1386

Rev. 0 - 7/12 -

側波帯電力 スペクトラム・アナライザによって調査した非理想クロック

は、1 つの無限に狭いピークではなく、連続的な側波帯を伴っ

ています。この側波帯は、明確な境界なしで徐々にノイズ・フ

ロアまで低下していきます。ここで考えるべき問題には、以下

のようなものがあります。

1. どこまでの側波帯電力を積分すべきか?

2. ノイズ・フロアは側波帯電力の一部か?

2 番目の疑問への答えは簡単です。何らかの入力信号がある場

合とない場合のノイズ・フロアを、単純に比較すれば分かりま

す。スペクトラム・アナライザのノイズがクロック・ノイズに

影響することはないので、これは無視できます。

最初の疑問については、さらに検討を加える必要があります。

まず、ノイズの帯域幅を明らかにしなければなりません。低周

波数だけを考慮したくなりますが、信号の高電力 PSD 領域も考

慮が必要です。ただし、最終的には広い領域が積分対象になる

ので、非常に低電力の広帯域ノイズの寄与分が低周波ノイズの

寄与分より大きくなる可能性があります。

さらに、広帯域部分は熱ノイズから生じる可能性が高いので、

該当部分が白色ノイズで、そのために無限のエネルギーを有し

ていることもあり得ます。幸い、ほとんどの実用回路上では寄

生容量と等価抵抗の組み合わせがローパス・フィルタ(LPF)

を形成し、これがある点でロールオフをもたらすので、このエ

ネルギーは減少します。

この電力を定量化するために、信号 PSD σ(f)が、σ(f)= αf β

または σdB(f)= 10log10 α + β10log10 α という形式のセグメントで

構成されているものとします(ここでは、角周波数 ω ではな

く、通常周波数 f を使っていることに注意してください。正弦

波を扱う場合は ω の方が適していますが、通常測定されるのは

f です)。他の形式も考えられますが、この形式は、ディケード

対 dB のプロットにした場合に直線が得られるので便利です。

セグメント上の任意の 2 点を使用して、そのパラメータ α と β

を計算することができます。β は PSD の傾斜の急峻さを決定し

ます。したがって、β = −2 の場合、傾斜は −20 dB/dec になりま

す。

2

1

2dB1dB

f

f

ff

10log10

1

1

f

f

セグメントにおける電力は以下の積分で計算できます。

2

1

2

1

2

1

f

f

f

f

f

f

dffdfdffP

1lnln

111

111

,f

ff

,fff

1

2ff

12

f

f

2

1

2

1

無限の帯域幅を持つノイズ(つまり、単純な熱ノイズ・モデル

の場合同様に f2 = ∞)は、β ≥ −1 の場合、電力も無限になる可能

性があります。ただし、β < −1、f2β + 1 = 0 で電力が有限の場合

は、計算が可能です。

1

1

1fP

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アプリケーション・ノート AN-1386

Rev. 0 - 8/12 -

ジッタと位相ノイズ クロック

最初に、単純なミキシングによるクロック位相ノイズ・カップ

リングについて検討します(図 6 参照)。

図 6. 理想クロックによる信号の逓倍

この場合は、クロックによる逓倍を行うことで理想的な周波数

変換が実現されます。信号スペクトラムはクロック周波数にシ

フトされます。

図 7. 非理想クロックによる信号の逓倍

非理想クロックは出力スペクトラムに影響します(図 7 参

照)。時間領域での逓倍は、周波数領域での畳込みと同じで

す。この現象は相互ミキシングと呼ばれ、無線周波数(RF)ト

ランシーバの設計には特に重要です。RF トランシーバでは、位

相ノイズの大きい不適切なクロックを使用すると、ミックス

ド・シグナルが隣接無線チャンネルにリークするおそれがあり

ます。

図 8. 理想パルス列によるサンプリング

しかし、ADC のサンプリング・クロックの場合は、理想逓倍モ

デルも非理想逓倍モデルも、クロック・ノイズ・カップリング

のメカニズムとそれに伴うジッタを明確に説明することはでき

ません。最も単純なサンプリング・モデルでは、クロックのす

べての立上がりエッジが理想サンプリング・インパルスを生成

すると仮定します(図 8 参照、クロックおよびサンプリング・

パルス列が時間領域と周波数領域の両方で示されていることに

注意してください)。このパルス列は、サンプリングされた出

力を得るために、入力信号により時間領域で逓倍したもので

す。入力信号とクロックの間で直接的な逓倍操作はないことに

注意してください。したがって、それぞれのスペクトラム間で

の直接的な畳込みもありません。信号のスペクトラムに畳み込

まれるのは、サンプリング・パルス列のスペクトラムですま

た、パルス列のスペクトラムは周波数領域のパルス列でもあ

り、これにより、シャノン-ナイキストのサンプリング定理に示

されているような、周知の周期的な出力スペクトラムが得られ

ます。この理論は、サンプリング周波数が十分に高ければ、サ

ンプリングされた出力信号は連続入力信号を正確に表したもの

になることを証明しています。

sOUT(t)= sIN(t)= As sinωst

ここで、

sOUT(t)は出力信号、

sIN(t)は入力信号、

As は信号振幅、

ωs は信号の角周波数です。

厳密に言うと、この式はサンプリングの時点でのみ成り立ちま

す。したがって、連続的な時間を表す t ではなく、離散的な時

間を表す lTc を使う必要があります。しかし、ほとんどの場合

は、表記を簡潔にするために t が使われます。

このモデルを使うと、クロック位相ノイズの当然の結果とし

て、ジッタが発生します。

図 9. 非理想パルス列によるサンプリング

位相ノイズは、サンプリング・パルスを、時間領域でその理想

的な位置から移動させます(図 9 参照)。理想クロックからの

このずれは時間間隔誤差(Time Interval Error: TIE)と呼ばれ、tj

(t)で表されます。これは適切な数学的モデルを構成します

が、測定は困難です。代わりに、通常は隣接パルス間の時間を

測定して、周期ジッタまたはサイクル間ジッタを求めます。TIE

は、その後に周期ジッタから計算で求められます。ジッタは、

基本的に離散時間の概念であることに注意してください。ジッ

タは、サンプリング時間においてのみ意味を持ちます。

TIE と位相ノイズの関係は単純です。クロック周期 Tc は、完全

な円、つまり 2π の角度に相当します。

2c

c

cj T

lTn

lTt

CLOCK

SIGNAL IN SIGNAL OUT

ωc

ωc

ωs

ωs

13

79

9-0

06

CLOCK

SIGNAL IN SIGNAL OUT

ωc

ωc

ωs

ωs

13

79

9-0

07

... ... ... ...

... ...

SIGNAL IN SIGNAL OUT

Tc ωc

ωc

ωs

ωs

Tc ωc

13

79

9-0

08

SAMPLINGPULSETRAIN

PULSE GENERATOR

CLOCK

?

SAMPLINGPULSETRAIN

PULSE GENERATOR

... ...

SIGNAL IN SIGNAL OUT

Tc

?

tj (t)ωs

Tc

ωc 13

79

9-0

09CLOCK

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アプリケーション・ノート AN-1386

Rev. 0 - 9/12 -

図 10. ジッタによる時間領域の瞬時追加誤差

修正されたサンプリング・パルス列のスペクトラムは解析的に

表現するのが難しいため、出力スペクトラムを表現することも

できません。代わりに検討できるのが、ジッタにより発生する

瞬時追加誤差です。入力信号は正弦波と仮定します(図 10 参

照)。

sOUT(t)= As sinωs(t + tj(t))

= As cosωstj(t)sinωst + As sinωstj(t)cosωst

lTc の代わりに t が使われていますが、これは単に表記を簡潔に

するためであることに注意してください。

ωstj(t)<< 1 であるとすると、前述の近似を使うことができま

す。

sOUT(t)= As sinωst + As ωstj(t)cosωst

ωstj(t)は単純化できることに注意してください。

tntnT

ttc

scsjs

2

したがって、以下のような単純な関係が得られます。

)()(cos)(sin)( tetsttnAtAts cINsc

ssssOUT

ここで、ec(t)はクロック・ジッタによる追加誤差です。

この結果は、非常に大きな影響をもたらします。近似を行う

と、DSB クロックの位相ノイズ n(t)が、入力信号付近に直接

マップされます。クロック信号のスペクトラムは入力信号に直

接複製されますが、これは相互ミキシングの場合によく似てい

ます。しかしカップリングのメカニズムは異なり、As(ωs/ωc)

が定数のために電力も異なります。

この結果は比較も可能にします。次の関係がなり立つ場合は、2

つのサンプリング・ソリューションがジッタ・ノイズ電力に関

して等しくなります。

c2

2

1c

1 tntn

逆に、周波数非依存の固定位相ノイズ特性を備えた仮想的な信

号発生器をクロックに使用した場合は、その信号発生器を高周

波数で使用すると(つまり、より高いレートでサンプリングを

行うと)、ジッタ・ノイズ電力が減少します。

アナログ入力

このセクションに至るまで、このアプリケーション・ノートで

は、入力信号自体も生成する必要があり、そのプロセスも理想

的なものではないので、得られた結果は完全に正確なものでは

ない、という事実を無視してきました。しかし、このようなシ

ステムを説明するためのツールを使用できるようになりまし

た。最初のステップは、入力信号には位相ノイズ m(t)もある

という事実を認識することです。入力とクロックの位相ノイズ

の間に依存関係はありません。

sOUT(t)= As sin(ωs(t + tj(t))+ m(t + tj(t)))

m(t + tj(t))の部分は、いくつかの仮定によって単純化する

ことができます。信号位相ノイズの形状は周波数領域でピーク

を形成する可能性が高く、これは非常に広い自己相関関数と同

じです。言葉を変えると、任意の時点における信号位相ノイズ

は、その前の値およびその後の値にごく近い値を示します。さ

らに tj(t)<< 1 なので、m(t + tj(t))≈ m(t)と仮定するこ

とができます。

))())((sin()( tmtttAts jssOUT

ttmAttnA

ttmtnAtA

tmtttA

tmtttA

tmtttmtttA

tmtttmtttA

sssc

ss

sc

ssss

jsss

jsss

jsjsss

jsjsss

cos)(cos)(

sin)()(sin

))()((cos

))()(1(sin

))(sin)(cos)(cos)((sincos

))(sin)(sin)(cos)((cossin

ttmtnA sc

ss sin 部分はほぼ無視できます。

ttmAttnAtAts sssc

ssssOUT cos)(cos)(sin)(

)()()( tetets scIN

ここで、es(t)は信号位相ノイズによる追加誤差です。

この場合も、結果は驚くほど単純な関係を示しています。信号

位相ノイズを考慮に入れるには、この誤差を単純に追加しま

す。

最後に、この信号の PSD について検討します。各部分の間に相

関関係はないので、電力は加算することができます。

σOUT(ω)≈ σIN(ω)+ εc(ω)+ εs(ω)

ここで、

σOUT(ω)は出力信号の PSD、

σIN(ω)は入力信号の PSD、

εc(ω)はクロック・ジッタによる追加誤差の PSD、

εs(ω)は信号位相ノイズによる追加誤差の PSD です。

展開すると、PSD は次のようになります。

sss

s

sc

sss

c

ss

ss

ss

OUT

AA

AA

AA

44

44

44

22

2

22

2

22

22

Tc

e (lTc)

ERROR

SIGNAL IN

SAMPLINGPULSETRAIN

... ...

13

79

9-0

10

tj (lTc)

Ts

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アプリケーション・ノート AN-1386

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フルスケール基準の結果

前項に示した説明は数学的には正しいものですが、絶対信号電

力 PIN = As2/2 が得られない可能性があるので、実際の状況で使

用するのは少し厄介です。信号発生器は、一般的な値に設定す

ることができます。しかし、ADC 入力における実際の信号レベ

ルは、必ずしも分かっていません。損失、減衰、反射、その他

の変動要素が、信号が実際に ADC 入力に届くまでの間に、信

号に影響を与える可能性があります。したがって、mW で表す

絶対的な電力値ではなく、相対的な値が使われます。入力信号

電力は、入力におけるフルスケール(FS)信号となる正弦波の

電力を基準に表されます。

2

2

2

2

_

2

2

FS

s

FS

s

FSINA

A

A

A

P

この場合、PSD は次式のようになります。

sFSINs

FSIN

sc

sFSINs

c

sFSIN

sFSIN

sFSIN

FS

OUTFSOUT

PP

PP

PP

A

22

22

222

__

2

2_

2

2_

__2_

信号発生器の DSB 位相ノイズ PSD を示す ν(ω)と μ(ω)は、

絶対値ではなく、キャリアに対する相対値で測定されることを

思い出してください。すなわち、クロックの公称信号電力と、

アナログ入力の公称アナログ入力信号電力です。

最終的に、結果は、負の成分と正の成分の電力を加算するだけ

で、正の周波数にまとめることができます。

ssc

ssFSIN

POSITIVEFSOUT

P2

2

_

___

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アプリケーション・ノート AN-1386

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例 ジッタには、確定的なものと確率的なものがあります。このア

プリケーション・ノートに示す証明は、できるだけ制約を設け

ないようにしているので、得られた結果は広い範囲に適用可能

で、さまざまなケースにおけるスペクトラム予測に使用するこ

とができます。

インターリーブ型 ADC のクロック・スキュー・

ジッタ - 複雑な ADC の動作を明確にするため

の理論を適用

例えば、時間インターリーブ型コンバータでは、複数の同じ

ADC が、個々のコンバータの動作サンプル・レートより高いレ

ートでサンプルを処理します。その結果、配列内の各 ADC が

実際に低いレートでサンプリングを行っていても、全体的な正

味サンプル・レートは高くなります。したがって、例えば 4 個

の 100 MSPS ADC をインターリーブすることによって、原理上

は 400 MSPS ADC を実現することができます。

ただし、この概念は、個々の ADC のタイミングの精度が高

く、正確であることが前提となります。実際には、1 個の ADC

のクロックに他のクロックに対するオフセットが生じている、

という状況が発生し得ます。このオフセットは一般にクロッ

ク・スキューと呼ばれ、確定的ジッタ、または特有の tj(t)関

数を繰返し生成する TIE と見なすことができます。前に示した

理論により、最終的に得られるスペクトラムを明確にして予測

することができます。位相ノイズは、As(ωs/ωc)として出力信

号に直接マップされます。したがって、出力スペクトラムを検

討すれば、インターリーブされる ADC のタイミングにオフセ

ットが存在するかどうかを十分に判断することができます。

SMA100A 信号発生器と AD9684 ADC — スペク

トラムを予測するための理論を適用

以下の例では、AD9684 高速 ADC の入力クロックとして、ロー

デ・シュワルツの SMA100A 信号発生器(9 kHz ~ 3 GHz)を使

用しました。アナログ入力は、同じタイプの信号発生器によっ

て供給しました。500 MHz で測定した位相ノイズを図 11 に示し

ます。

図 11. ローデ・シュワルツ SMA100A の位相ノイズ

追加的な入力パラメータ(入力周波数 125 MHz、入力電力レベ

ル −2.0 dBFS、分解能 14 ビット、アパーチャ・ジッタ 80 fs、入

力白色ノイズ 1.9 LSB rms、FFT サイズ 131072)を使って、出力

スペクトラムを予測できます(図 12 参照)。

図 12. 予測出力スペクトラム

このセットアップでの実際の測定データを、図 13 に示します。

このケースでは、数学的予測値(薄いグレーのラインで表示)

が、実際の測定値と非常によく一致しています。この結果を視

野に入れて、AD9684 ADC は、複雑なアナログおよびデジタル

信号処理機能を備えたマルチステージのパイプライン・アーキ

テクチャを採用していますが、その動作は、図 9 に示す単純な

モデルと、フルスケール基準の結果のセクションの最後に示す

式を使用して、容易に予測することができます。

図 13. 測定出力スペクトラム

(コヒーレント・サンプリングによる)

–150

–140

–130

–120

–110

–100

–90

–80

–70

10 100 1k 10k 100k

FREQUENCY OFFSET FROM CARRIER (Hz)

MA

GN

ITU

DE

(d

Bc)

1M 10M 100M 1G

13

79

9-0

11

–150

–135

–120

–105

–90

–75

–60

–45

–30

–15

0

–1.0 –0.5 0

FREQUENCY (MHz)IN

PU

T P

OW

ER

(d

BF

S)

0.5 1.0

13

79

9-0

12

116 118 120 122 124 126 128 130 132 134

FREQUENCY (MHz)

INP

UT

PO

WE

R (

dB

FS

)

13

79

9-0

13

–150

–135

–120

–105

–90

–75

–60

–45

–30

–15

0

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アプリケーション・ノート AN-1386

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メモ