applying ict in biodiversity surveys and evaluations of ......biodiversity. our society has been...

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FUJITSU. 62, 6, p. 745-752 11, 2011745 あらまし 私たちの暮らしはその多くが生物多様性を基盤とした生態系の恩恵によって成り立っ ている。従来までの化石燃料依存,資源の大量消費で支えられてきた社会は限界を迎え, 生物多様性を持続可能な方法で活用していくことが豊かな社会を実現するかぎと言える。 201010月,生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が名古屋で開催され,生物多 様性にかかわる企業の責任と具体的活動の重要性が改めて確認された。富士通グループ では,2008年に策定した中期環境ビジョン“Green Policy 2020”の目標の一つに「生物多様 性の保全」を掲げ,「生物多様性保全へのICTの活用」「生物多様性の社会への普及に貢献」 「グローバル規模での展開」の三つの重点テーマを指針に定めて,活動を推進している。 本稿では,富士通グループの生物多様性への取組みについて,ICTを活用した取組みと 生物多様性評価の事例を中心に紹介する。 Abstract Many aspects of our lives are only possible thanks to ecosystems that are based on biodiversity. Our society has been supported by the consumption of a huge amount of resources and a dependence on fossil fuels, but it is reaching the limit. It can be said that the key to achieving an affluent society is finding a way to sustainably use ecosystems (biodiversity). The 10th Conference of the Parties to the Convention on Biological Diversity (COP10) was held in Nagoya in October 2010. This conference reaffirmed the responsibility of enterprises related to biodiversity and the importance of them conducting specific activities to protect biodiversity. One of the targets in the Fujitsu Groups mid-term environmental vision Green Policy 2020, which it formulated in 2008, is the conservation of biodiversity. This vision laid down three policies: 1) use information and communications technology (ICT) to conserve biodiversity, 2) help promote a society that has abundant biodiversity, and 3) conduct global initiatives for biodiversity. Fujitsu is conducting activities in line with this vision. This paper introduces Fujitsus approach to biodiversity, focusing on its efforts for using ICT and examples of evaluating biodiversity. 川口 努   前沢夕夏   畠山義彦   小野貴之 ICT を活用した生物多様性保全と 生物多様性評価 Applying ICT in Biodiversity Surveys and Evaluations of Impact on Biodiversity

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Page 1: Applying ICT in Biodiversity Surveys and Evaluations of ......biodiversity. Our society has been supported by the consumption of a huge amount of resources and a dependence on fossil

FUJITSU. 62, 6, p. 745-752 (11, 2011) 745

あ ら ま し

私たちの暮らしはその多くが生物多様性を基盤とした生態系の恩恵によって成り立っ

ている。従来までの化石燃料依存,資源の大量消費で支えられてきた社会は限界を迎え,

生物多様性を持続可能な方法で活用していくことが豊かな社会を実現するかぎと言える。

2010年10月,生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が名古屋で開催され,生物多様性にかかわる企業の責任と具体的活動の重要性が改めて確認された。富士通グループ

では,2008年に策定した中期環境ビジョン“Green Policy 2020”の目標の一つに「生物多様性の保全」を掲げ,「生物多様性保全へのICTの活用」「生物多様性の社会への普及に貢献」「グローバル規模での展開」の三つの重点テーマを指針に定めて,活動を推進している。

本稿では,富士通グループの生物多様性への取組みについて,ICTを活用した取組みと生物多様性評価の事例を中心に紹介する。

Abstract

Many aspects of our lives are only possible thanks to ecosystems that are based on biodiversity. Our society has been supported by the consumption of a huge amount of resources and a dependence on fossil fuels, but it is reaching the limit. It can be said that the key to achieving an affluent society is finding a way to sustainably use ecosystems (biodiversity). The 10th Conference of the Parties to the Convention on Biological Diversity (COP10) was held in Nagoya in October 2010. This conference reaffirmed the responsibility of enterprises related to biodiversity and the importance of them conducting specific activities to protect biodiversity. One of the targets in the Fujitsu Group’s mid-term environmental vision Green Policy 2020, which it formulated in 2008, is the conservation of biodiversity. This vision laid down three policies: 1) use information and communications technology (ICT) to conserve biodiversity, 2) help promote a society that has abundant biodiversity, and 3) conduct global initiatives for biodiversity. Fujitsu is conducting activities in line with this vision. This paper introduces Fujitsu’s approach to biodiversity, focusing on its efforts for using ICT and examples of evaluating biodiversity.

● 川口 努   ● 前沢夕夏   ● 畠山義彦   ● 小野貴之

ICTを活用した生物多様性保全と生物多様性評価

Applying ICT in Biodiversity Surveys and Evaluations of Impact onBiodiversity

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ICTを活用した生物多様性保全と生物多様性評価

ま え が き

私たちの暮らしはその多くが生物多様性を基盤とした生態系の恩恵によって成り立っている。従来までの化石燃料依存,資源の大量消費で支えられてきた社会は限界を迎え,これからは,生物多様性を持続可能な方法で活用していくことが豊かな社会を実現するかぎと言える。

2010年10月,生物多様性条約(CBD)第10回締約国会議(COP10)が名古屋で開催され,生物多様性にかかわる企業の責任と具体的活動の重要性が改めて確認された。富士通グループでは,2008年に策定した中期環境ビジョン“Green Policy 2020”の目標の一つに「生物多様性の保全」を掲げ,CBDの第9回締約国会議で署名した「ビジネスと生物多様性イニシアティブ」のリーダーシップ宣言に掲げられたすべての項目について,2020年までに具体的な取組みを推進することを目標とした。本稿では,富士通グループの生物多様性への取組みについて,ICTを活用した取組みと生物多様性評価の事例を中心に紹介する。

ビジネスと生物多様性

● 生物多様性の定義と目的CBDでは,生物多様性について三つのレベルで定義している。(1) 森林,湿原,河川,干潟など様々な環境を意味する「生態系の多様性」

(2) 生き物の種類の違いを意味する「種の多様性」(3) 同じ生物種類でも遺伝子的な違いがあることを意味する「遺伝子の多様性」また,生物多様性保全は単なる野生生物や自然環境の保護ととらえられがちであるが,CBDは,以下の三つを目的としている。(1) 生物多様性の保全(2) 生物多様性の構成要素の持続可能な利用(3) 遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分これらは目的であると同時に資源利用,利益配分といった正に経済活動(ビジネス)そのものの課題である。

ま え が き

ビジネスと生物多様性

● ビジネス上のリスクとチャンス例えば,食材,木材,水あるいは遺伝資源などを原材料に製品・サービスを提供している企業においては,その継続的な確保がビジネス上のリスクとなる。工場の操業などで大量の水資源を使用している場合も同様である。また,直接的に生物資源・遺伝資源を原材料としていない企業においても,鉱物資源やエネルギー資源の枯渇や供給量の減少というリスクに対処するために,生物資源のような再生可能な原材料の開発および移行が必要とされる可能性がある。さらに,廃棄物や化学物質を適正に処理せずに大気・水域・土壌へ排出した場合には,生態系を破壊する可能性があり,このような場合,企業イメージの著しい低下につながる。一方,生物の持つ優れた機能を活用・模倣した製品の提供や,生物多様性に配慮した付加価値の高い生産物の提供などはビジネス上のチャンスとなる。リスクを回避しチャンスを得るためには,健全な生態系の存在が不可欠であり,企業には生物多様性の保全に向けての具体的な活動が求められている(図-1)。● 富士通グループの取組みの考え方富士通グループでは,2009年10月に「富士通グループ生物多様性行動指針」を策定(図-2)し,(1) 自らの事業活動における生物多様性の保全と持続可能な利用の実践

(2) 生物多様性の保全と持続可能な利用を実現する社会づくりの貢献の二つの柱と,三つの重点テーマ(1) 生物多様性保全へのICTの活用(2) 生物多様性の社会への普及に貢献(3) グローバル規模での展開を枠組みに活動している。従来まで多くの企業が実施してきた自然環境(生態系/生物多様性)の保全を目的としたCSR活動(寄付や社員ボランティアによる自然保全活動など)の領域を越えて,製品製造による資源の利用,工場・事業所の操業とそれらの土地利用における直接的・間接的な影響を低減していくことと同時に,富士通の事業である製品サービス(ICT)を活用し,生物多様性保全に貢献していくことが重要と考えている。

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ICTを活用した生物多様性保全と生物多様性評価

(1) 情報収集生物や温湿度などのリモートセンシング,生物の画像分析による種の同定,携帯端末による生物情報・環境情報の収集(2) 分析・評価生物・生態系への影響度や生息環境の評価

(3) 情報管理生物情報(種類,個体数,生息地など),遺伝子情報などのデータベース(4) モニタリング環境変化や生物行動の監視・観測

以下,ICTによる生物多様性保全の可能性,それを通じた取組み事例,事業活動による影響低減に向けた評価について紹介する。

ICTによる生物多様性保全の可能性

ICTは多くの情報を効率的に収集し,分析・評価すること,さらにそのデータを活用して作業プロセスや社会システムを最適化につなげることが可能である。生物多様性の分野においても,複雑かつ多岐にわたる情報を適切に収集,活用することで,生物多様性の損失の回避・低減,生物多様性の維持・拡大に貢献できる可能性がある(図-3)。

ICTによる生物多様性保全の可能性

地球環境(生態系)

依存

影響

製品・サービスによる貢献(ICT活用)

事業活動による影響の低減

生態系サービス

土地の開発・改変 大気・水域・土壌への 排出 など

自らの事業活動における 生物多様性の保全と 持続可能な利用の実践

生物多様性の保全と 持続可能な利用を実現する 社会づくりへの貢献

生物多様性の社会への普及に貢献 重点施策 グローバル規模での展開

生物多様性保全へのICTの活用

ソリューション テクノロジ

社会貢献活動

図-1 生物多様性と企業活動のかかわりFig.1-Relationship between biodiversity and business activities.

図-2 富士通グループ生物多様性行動指針Fig.2-Fujitsu Group’s Biodiversity Action Guidelines.

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ICTを活用した生物多様性保全と生物多様性評価

(5) 教育・普及・啓発ネットワークコミュニケーション技術,画像配信技術による社会全体の普及啓発などさらに,生態系サービス(生物多様性がもたらす様々な恩恵)(1)に直接的にかかわる農業・漁業・林業など一次産業において,経済活動と環境配慮,生産性向上の実現を支援することで,生物多様性保全に貢献することができる。

ICT活用事例

● 携帯フォトシステムによる生態系調査生物多様性の保全策を検討していく上で,対象となる地域に生息・生育する動植物を的確に把握することは重要である。そのためには,従来は,専門家が現地を調査し,メッシュ図として起こしていくというのが一般的であった。今回,富士通エフ・アイ・ピーが販売している携帯フォトシステムを用いて,GPS機能付きの携帯電話のカメラで動植物を撮影し,位置情報と時刻の情報を埋め込んだ画像データをメール添付で指定されたメールサーバに送信することにより,生物情報データベースに蓄積することが可能となった。収集したデータは専門家によって分類され,利用者はWeb上から期間や場所などの検索条件で絞り込んだデータの抽出や,地図上にマッピングして閲覧することができる。携帯フォトシステムを活用することで,いつ,どこにどんな動植物が生息・生育

ICT活用事例

していたということを収集,把握できる。また,生物多様性という言葉自体,まだまだ社会に浸透しておらず,生物多様性国家戦略2010においても,「生物多様性を社会に浸透させる」ことを戦略の一つに掲げている。富士通グループでは,この生物多様性を社内外に広める活動として,携帯フォトシステムを用いた全国タンポポ分布調査を実施している(図-4)。この活動は社員や市民が調査に参加することにより,身近なタンポポを通して生物多様性への関心を高めるのがねらいである。最初はシステムの検証を兼ねて2010年4月から6月まで富士通グループの社員と家族を対象に実施した結果,3箇月間で1328枚のデータを集め,在来種と外来種の分布を見ることができた。在来種は里山や農道など,日本人が昔から生活を営んでいた場所に多く,外来種は駐車場や都市公園など,近年,人間が土地改変を行った場所に多い傾向が出ている。さらに,2011年2月からタンポポの研究者である国立大学法人愛知教育大学の渡邊幹男教授と連携して全国市民に調査参加を呼び掛け,全国タンポポ前線調査を実施,この調査では全国から9700枚以上の写真が集まり,ニホンタンポポ,帰化タンポポ,シロバナタンポポを対象とした全国タンポポ前線マップを作成,公開している(図-5)。このように生物の生態系調査を毎年継続して実施することにより,保全生態学への貢献も期待できる。

教育・普及・啓発

社会的施策(取引制度など)の支援

生物多様性の

損失の回避・低減

/維持・拡大

センシング技術(リモートサンサ)測定技術 携帯端末 など

センシング技術(リモートサンサ)測定技術 携帯端末 など

情報収集

生物多様性評価マネジメント評価 生態系評価事業活動のパフォーマンス評価経済性評価 など

生物多様性評価マネジメント評価 生態系評価事業活動のパフォーマンス評価経済性評価 など

分析・評価

センシング技術(リモートサンサ)トレーサビリティ( RFID) GPS赤外線カメラ / サーモグラフィー観測技術 など

センシング技術(リモートサンサ)トレーサビリティ( RFID) GPS赤外線カメラ / サーモグラフィー観測技術 など

モニタリング(観測・監視)生物多様性データベース生態系 / 生物種データベース遺伝子データベース各種測定データベース など

生物多様性データベース生態系 / 生物種データベース遺伝子データベース各種測定データベース など

情報管理

教育・普及・啓発

社会的施策(取引制度など)の支援

生物多様性の損失の回避・低減/維持・拡大

センシング技術(リモートサンサ)測定技術 携帯端末 など

センシング技術(リモートサンサ)測定技術 携帯端末 などセンシング技術(リモートサンサ)測定技術 携帯端末 など

センシング技術(リモートセンサ)測定技術 携帯端末 など

情報収集

生物多様性評価マネジメント評価 生態系評価事業活動のパフォーマンス評価経済性評価 など

生物多様性評価マネジメント評価 生態系評価事業活動のパフォーマンス評価経済性評価 など

分析・評価

生物多様性評価マネジメント評価 生態系評価事業活動のパフォーマンス評価経済性評価 など

生物多様性評価マネジメント評価 生態系評価事業活動のパフォーマンス評価経済性評価 など

生物多様性評価マネジメント評価 生態系評価事業活動のパフォーマンス評価経済性評価 など

生物多様性評価マネジメント評価 生態系評価事業活動のパフォーマンス評価経済性評価 など

分析・評価

センシング技術(リモートサンサ)トレーサビリティ( RFID) GPS赤外線カメラ / サーモグラフィー観測技術 など

センシング技術(リモートサンサ)トレーサビリティ( RFID) GPS赤外線カメラ / サーモグラフィー観測技術 など

モニタリング(観測・監視)

センシング技術(リモートサンサ)トレーサビリティ( RFID) GPS赤外線カメラ / サーモグラフィー観測技術 など

センシング技術(リモートサンサ)トレーサビリティ( RFID) GPS赤外線カメラ / サーモグラフィー観測技術 など

センシング技術(リモートサンサ)トレーサビリティ( RFID) GPS赤外線カメラ / サーモグラフィー観測技術 など

センシング技術(リモートセンサ)トレーサビリティ(RFID) GPS赤外線カメラ/サーモグラフィ観測技術 など

モニタリング(観測・監視)生物多様性データベース生態系 / 生物種データベース遺伝子データベース各種測定データベース など

生物多様性データベース生態系 / 生物種データベース遺伝子データベース各種測定データベース など

情報管理

生物多様性データベース生態系 / 生物種データベース遺伝子データベース各種測定データベース など

生物多様性データベース生態系 / 生物種データベース遺伝子データベース各種測定データベース など

生物多様性データベース生態系 / 生物種データベース遺伝子データベース各種測定データベース など

生物多様性データベース生態系/生物種データベース遺伝子データベース各種測定データベース など

情報管理

図-3 ICTによる生物多様性への貢献の可能性Fig.3-Potential of making contribution to biodiversity through ICT.

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ICTを活用した生物多様性保全と生物多様性評価

● 一次産業におけるICTの活用農業をはじめとする一次産業にICTを活用することで,生態系サービスの持続可能な利用に貢献できる可能性がある。例えば衛星リモートセンシングにより稲の生育状況を観測し,効率良く高品質の稲作を支援する。ベテラン農業者の暗黙知を見える化し,後継者育成と生産現場の改革につなげるなどである。富士通は,山梨県が推進する「やまなし企業の農園づくり」制度で協働協定を結んでいる夢郷葡萄研究所のブドウ畑において,温度センサを用いた農業支援の実証実験を2011年6月より開始した。この実証実験では,離れた2箇所のブドウ畑と圃

ほじょう

場管理事務所に温度センサと簡易カメラが一体となったセンサボックスを設置し,それぞれの畑の気温データとブドウの画像データを収集・分析し,ブドウの最適な収穫時期や色素の度合いの見極めに活用している(図-6)。ICTの活用により,これまで勘に頼りがちであった農作業を,データに基づき的確に実施できることが期待されている。

企業活動の生物多様性評価

生物多様性保全に向けて,継続的に改善しつつ具体的な取組みを推進するためには,生物多様性とのかかわりを認識した上で,取組みに応じた評価基準,評価方法が必要である。そこで,まず富士通グループの企業活動と生物

企業活動の生物多様性評価

● ハイパースペクトル画像解析による植生調査上空から撮影したハイパースペクトル画像を用いて樹木を判別する技術の向上に取り組んでいる。これにより外来種の分布状況の調査や混合林におけるスギ・ヒノキの判別などが可能となり,これまで人が目視で確認していた植生調査と比較して,低コスト・短期間で実施することが期待できる。詳細については本特集掲載の「ハイパースペクトルによる植生マッピング技術」を参照いただきたい。

①写真撮影

②位置情報の取得

③時刻の取得

④メール送信

生物情報の検索・閲覧

⑤検索結果表示

地図表示

生物情報データベース

GPS

メールサーバ

携帯フォトシステム

オンデマンド仮想システムサービス

生物情報の検索・閲覧

図-4 全国タンポポ分布調査の仕組みFig.4-Scheme of nationwide dandelion distribution survey.

図-5 帰化タンポポ前線Fig.5-Front line of naturalized dandelions.

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ICTを活用した生物多様性保全と生物多様性評価

えられる(図-7)。次章で,生物多様性に直接的に影響を与える土地利用において,事業所敷地の対策を推進するために開発した土地利用評価を紹介する。

多様性とのかかわりを分析した結果,主に「水資源・森林資源の利用」において生態系に依存していること,また,主に「鉱物資源・エネルギー資源の利用」「土地利用による土地の開発・改変」「大気・水域・土壌への廃棄物/化学物質などの排出による汚染」「温室効果ガスの排出による気候変動」を通じて生物多様性に影響を与える可能性があると考

富士通2020ワインファーム (品種:カベルネ・ソーヴィニオン)

桜沢ワインファーム (品種:シャルドネ)

圃場管理事務所

センサボックス(子機)※

特定小電力無線ネットワーク

富士通

稼働状況データ

センサボックスの監視

受信した温度データ の集計・加工

※ カメラ・温度センサ付で,24時間,10分間隔で測定

センサボックス(子機)※

センサボックス(親機)

1日の気温変化

0

5

10

15

20

25

30

0:0

0:0

0

1:3

0:0

0

3:0

0:0

0

4:3

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0

6:0

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0

7:3

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0

9:0

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0

10

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19

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:00

21

:00

:00

22

:30

:00

0:0

0:0

0

時刻

気温

インターネット

水域への排出

地球環境(生態系)

排出場所周辺生態系

廃棄物発生

排出・処分場所周辺生態系

生物資源利用

地球環境(生態系)

水資源利用エネルギー資源利用 鉱物資源利用

気候変動 汚染汚染・ 土地改変

土地改変 資源消費

[INPUT]

[OUTPUT]

企業活動

排出場所周辺生態系

汚染

大気への排出

事業所周辺生態系

土地改変

事業所土地利用

資源消費

図-6 ブドウ畑における温度センシングの仕組みFig.6-Temperature sensing mechanism in vineyard.

図-7 企業活動と生物多様性のかかわりFig.7-Relationship between business activities and biodiversity.

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ICTを活用した生物多様性保全と生物多様性評価

特徴としては以下の二つがある。(1) 土地利用状況の評価手法であるHEPをベースとし,生態系ピラミッドの頂点に近い種(評価種)が生存できる環境(棲

みやすさ)を確保することにより,生態系ピラミッドの底辺の種までも保全することができるという考え方を取り入れている。

(2) 工場・事業所の土地利用の評価だけでなく,事業所周辺の地域も含めた生態系ネットワークを考慮した評価により,地域の中における事業所の役割を明確化できる。評価の手順を図-8に示す。

● 富士通川崎工場における評価本手法を富士通川崎工場(神奈川県川崎市中原区)に適用し評価を実施した。約15ヘクタール(ha)

事業所敷地の評価

● 背景と評価手法概要生物多様性の観点では,企業が工場・事業所として所有する土地への配慮が重要なポイントとなる。例えば,工場・事業所内に樹木や緑地帯を適切に増やし,管理していくことで,その地域の生物多様性保全に貢献できる。富士通グループでは,所有する工場・事業所の生物多様性向上を目指す取組みを進めており,その土地利用レベルを評価する手法を東京都市大学の田中章教授および富士通エフ・アイ・ピーと共同で開発した。

事業所敷地の評価

① 土地計画・植生図などからの現状把握[計画系]緑の基本計画などの行政計画の把握[生物系]植生図,地形図などの把握

② 事業所敷地の目指すべき姿の設定

③ 目指すべき姿に保全すべき評価種を選定

④ 周辺地域との生態系ネットワーク評価

⑤ 事業所敷地の生息適性度評価

⑥ 総合評価

保全策の策定

図-8 富士通グループBD土地利用評価の手順Fig.8-Procedures in Fujitsu Group’s BD land use assessment.

巣材(コケ植物)の供給源

被食生物の生息状況

採食場所の安全性

落葉・常緑広葉樹林の分布

薬剤散布状況

水飲みや水浴びのための水場

水場の安全性行動圏のカバータイプ分布

繁殖空間の安全性

生息・休息場の安全性

樹洞や巣箱の有無

樹洞形成のポテンシャル

A

BC

D

A:採食条件 B:水条件 C:行動・休息条件 D:繁殖条件

A

BC

D

V2

V3

V4

V5

V6

V7

V8

V9

V10

V11

V12

V1

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

図-9 工場敷地内での生息地としての適性度合いFig.9-Suitable amount of area as wildlife habitat in plant site.

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ICTを活用した生物多様性保全と生物多様性評価

ウカラから見た川崎工場周辺地域での生息環境の連続性評価では多摩川や等々力緑地とは連続性が見られたが,河岸段丘・斜面林とは連続性が見られないことが分かった(図-10)。今後,本評価手法を事業所敷地内における生物多様性の保全活動に活用するとともに,行政や住民,NPO,ほかの企業などと協力し,地域の生態系ネットワーク構築と具体的な保全策の検討に役立てていく。

む  す  び

富士通グループは,「低炭素で豊かな社会」を目指す中期環境ビジョン“Green Policy 2020”のもと,生物多様性の保全を重要テーマと位置付けて活動を進めてきた。生物多様性の保全は長期的な観点で継続的に実施,モニタリングしていかなければならない。自らの活動を評価し,達成状況を確認しながら生物多様性への影響低減を図るとともに,富士通グループの事業であるICTを通じて,お客様・社会全体に貢献できる具体的な取組みを強化していく。

参 考 文 献

(1) Ecosystems and Human Well-being:Opportunities and Challenges for Business and Industry.

http://www.maweb.org/documents/ document.353.aspx.pdf

む  す  び

の広さを持つ川崎工場は,多摩川と多摩川の河岸段丘である斜面林の中間に位置し,この地域で生態系ネットワークを構成する際の1エリア(パッチ)と見なすことができる。今回,この地域で保全すべき野生生物の評価種としてシジュウカラ(樹林),オオカマキリ(草地),カワセミ(水辺)を選定し,これら3種の評価種について,工場周辺地域を含めた生息環境の連続性と,「採食条件」「水条件」「行動・休息条件」「繁殖条件」に基づく生息地としての適性度合いを評価した。例えばシジュウカラにおける評価では,採食,水場,生息・休息,繁殖空間の安全性が低いことが分かり(図-9),今後の保全策として人の立ち入り禁止エリアの設定を検討していく。またシジュ

川口 努(かわぐち つとむ)

環境本部環境企画統括部 所属現在,富士通グループの環境マネジメントシステム,環境社会貢献活動,生物多様性保全活動の推進業務に従事。

畠山義彦(はたけやま よしひこ)

環境本部環境企画統括部 所属現在,富士通グループの環境社会貢献活動,生物多様性保全活動の推進業務に従事。

小野貴之(おの たかゆき)

環境本部環境企画統括部 所属現在,生物多様性保全活動の推進業務に従事。

前沢夕夏(まえざわ ゆか)

環境本部環境企画統括部 所属現在,生物多様性保全,グリーンICTの企画・推進に従事。

著 者 紹 介

図-10 周辺地域での生息環境の連続性評価Fig.10-Continuous evaluation of habitat in

surrounding area.